IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 冨士ベークライト株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-動物取扱用成形品及びその製造方法 図1
  • 特開-動物取扱用成形品及びその製造方法 図2
  • 特開-動物取扱用成形品及びその製造方法 図3
  • 特開-動物取扱用成形品及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032683
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】動物取扱用成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20240305BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240305BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20240305BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20240305BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240305BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240305BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240305BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240305BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08L45/00
C08L9/06
C08L23/02
C08L25/10
C08K3/013
C08L83/04
C08L27/12
C08F2/44 C
C08J5/00 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137220
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022136244
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】396019974
【氏名又は名称】冨士ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 竜次
(72)【発明者】
【氏名】西山 絵理
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康行
(72)【発明者】
【氏名】坂本 貴樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J011
【Fターム(参考)】
4F071AA19
4F071AA21
4F071AA26
4F071AA67
4F071AA69
4F071AA86
4F071AC02
4F071AC08
4F071AE02
4F071AF28Y
4F071AF30Y
4F071AG05
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC04
4F071BC07
4F071BC16
4J002AC08X
4J002BB15X
4J002BC05X
4J002BD15Y
4J002BK001
4J002CP03Y
4J002DA026
4J002DF016
4J002DG026
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002FD016
4J002FD01Y
4J002GG01
4J011PA13
4J011PA34
4J011PA64
4J011PA65
4J011PA66
4J011PA75
4J011PA99
4J011PB22
4J011QA11
4J011QA19
4J011XA02
(57)【要約】
【課題】成形品表面に付着した排泄物の除去が容易な動物取扱用成形品を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部、及びラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)0~1質量部を溶融混練して得られた変性環状オレフィン重合体(E)を含む動物取扱用成形品とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、
オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、
ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部、及び
ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)0~1質量部
を溶融混練して得られた変性環状オレフィン重合体(E)を含む動物取扱用成形品。
【請求項2】
前記変性環状オレフィン重合体(E)50~99.9質量%と充填材(F)0.1~50質量%を含有する樹脂組成物からなる請求項1に記載の動物取扱用成形品。
【請求項3】
充填材(F)が、シリコーン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子及び劈開性無機粒子から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の動物取扱用成形品。
【請求項4】
環状オレフィン重合体(A)が、
下記式[I]で示されるノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィンとの付加重合体(A1)、又は
下記式[I]で示されるノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体若しくはその水素添加物(A2)
である請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【化1】
(上記式[I]中、nは0又は1であり、mは0又は正の整数であり、qは0又は1であり、R1~R18並びにRa及びRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよく、かつ該単環又は多環が二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、又はR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。)
【請求項5】
軟質共重合体(B)が、エチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとを共重合してなる非晶性又は低結晶性の軟質共重合体である請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【請求項6】
成形品表面の動摩擦係数が0.3以下である、請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【請求項7】
成形品表面の表面粗さ(Ra)が0.06~1μmである、請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【請求項8】
前記樹脂組成物の3mm厚成形品のヘーズ値が80%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【請求項9】
変性環状オレフィン重合体(E)と環状オレフィン重合体(A)とが接着剤を用いずに接着されてなる複合成形品である、請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【請求項10】
実験動物又は愛玩動物の飼育用成形品である、請求項1~3のいずれかに記載の動物取扱用成形品。
【請求項11】
ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、
オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、及び
ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部
を溶融混練し、得られた変性環状オレフィン重合体(E)を溶融成形する、動物取扱用成形品の製造方法。
【請求項12】
ラジカル開始剤(C)とともに、ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)を添加する請求項11に記載の動物取扱用成形品の製造方法。
【請求項13】
前記変性環状オレフィン重合体(E)50~99.9質量%と充填材(F)0.1~50質量%を溶融混練し、得られた樹脂組成物を溶融成形する、請求項11又は12に記載の動物取扱用成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品表面に付着した排泄物の除去が容易な動物取扱用成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実験動物や愛玩動物を飼育する際には、ケージ、トレー、飼料容器など、様々なプラスチック成形品が用いられる。例えば、ポリプロピレン、スチレン系重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリスルホンなどのプラスチックが、用途に応じて使用されてきた。飼育中の動物は糞尿や体液を排泄するので、飼育中又は飼育後のプラスチック成形品においては、これらの排泄物が成形品表面に付着することが避けられない。飼育者は、これを除去する必要があるが、付着して乾燥した排泄物を除去するのは容易ではない。特に、長期間の飼育中に堆積して乾燥した糞尿を除去するのは容易ではない。
【0003】
特許文献1には、ノルボルネン系単量体の開環重合体またはその水素添加物からなる成形材料を成形してなる動物容器が記載されている。このような環状オレフィン重合体を用いることによって、透明で、耐薬品性、耐衝撃性に優れ、しかも動物の排泄物の易洗浄性に優れた動物容器を提供することができるとされている。しかしながら、環状オレフィン重合体を用いただけでは、付着乾燥した排泄物の除去は容易ではなかった。
【0004】
特許文献2には、ガラス転移温度が60~200℃の環状オレフィン重合体(A)100重量部、オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~150重量部、ラジカル開始剤(C)0.001~1重量部、及びラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)0~1重量部を溶融混練してなる樹脂組成物からなるクリーンルーム用成形品が記載されている。そして当該成形品は、耐薬品性、耐熱性、寸法精度に優れ、周辺への揮発成分の放出が抑制され、しかも耐摩耗性に優れていてパーティクルの発生も抑制されていることから、半導体ウェーハキャリアなど、高度な耐汚染性が要求される用途に好適であるとされている。しかしながら、ここでの耐汚染性は、半導体ウェーハなどの取扱い物を汚染しないことであり、成形品自体の汚染を除去することについては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-9126号公報
【特許文献2】WO2006/025294A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、成形品表面に付着した排泄物の除去が容易な動物取扱用成形品を提供することを目的とする。また、そのような動物取扱用成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、
オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、
ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部、及び
ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)0~1質量部
を溶融混練して得られた変性環状オレフィン重合体(E)を含む動物取扱用成形品を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、当該成形品が、前記変性環状オレフィン重合体(E)50~99.9質量%と充填材(F)0.1~50質量%を含有する樹脂組成物からなることが好ましい。そして、充填材(F)が、シリコーン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子及び劈開性無機粒子から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0009】
好適な実施態様では、環状オレフィン重合体(A)が、
下記式[I]で示されるノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィンとの付加重合体(A1)、又は
下記式[I]で示されるノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体若しくはその水素添加物(A2)である。
【0010】
【化1】
【0011】
(上記式[I]中、nは0又は1であり、mは0又は正の整数であり、qは0又は1であり、R1~R18並びにRa及びRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよく、かつ該単環又は多環が二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、又はR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。)
【0012】
また、上記動物取扱用成形品において、軟質共重合体(B)が、エチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとを共重合してなる非晶性又は低結晶性の軟質共重合体であることが好ましい。また、成形品表面の動摩擦係数が0.3以下であることも好ましい。成形品表面の表面粗さ(Ra)が0.06~1μmであることも好ましい。さらに、前記樹脂組成物の3mm厚成形品のヘーズ値が80%以上であることも好ましい。
【0013】
上記動物取扱用成形品の好適な実施態様は、変性環状オレフィン重合体(E)と環状オレフィン重合体(A)とが接着剤を用いずに接着されてなる複合成形品である。また、上記動物取扱用成形品の他の好適な実施態様は、実験動物又は愛玩動物の飼育用成形品である。
【0014】
前記課題は、ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、
オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、及び
ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部
を溶融混練し、得られた変性環状オレフィン重合体(E)を溶融成形する、動物取扱用成形品の製造方法を提供することによっても解決される。
【0015】
このとき、ラジカル開始剤(C)とともに、ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)を添加することが好ましい。また、前記変性環状オレフィン重合体(E)50~99.9質量%と充填材(F)0.1~50質量%を溶融混練し、得られた樹脂組成物を溶融成形することも好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の動物取扱用成形品は、成形品表面に付着した排泄物の除去が容易である。また、本発明の製造方法によれば、そのような実験動物飼育用ケージを簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実験動物飼育用ケージの一例の斜視図及び平面図である。
図2図1の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図である。
図3図1の例における不透明部の斜視図である。
図4図1の例において、超音波融着するための不透明部を表側から見た斜視図と、裏側から見た斜視図と、その一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、変性環状オレフィン重合体(E)を含む動物取扱用成形品に関する。ここで、変性環状オレフィン重合体(E)は、ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部、及びラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)0~1質量部
を溶融混練して得られたものである。
【0019】
本発明で用いられる環状オレフィン重合体(A)は、脂肪族環状骨格を有するオレフィン単量体のみを重合してなるものであっても構わないし、脂肪族環状骨格を有するオレフィン単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。他の単量体の共重合量は、通常、50質量%未満であり、好適には40質量%未満であり、より好適には30質量%未満である。環状オレフィン重合体(A)は、重合体の主鎖又は側鎖に飽和炭化水素環構造を有する重合体であり、非晶性の重合体である。非晶性であることから、寸法精度の良い成形品を得ることができる。また、ポリオレフィンであることから吸水性が低く、オートクレーブ処理などによって高温の水または水蒸気に接触しても変形したり劣化したりしにくく強度が維持される。しかも、揮発性の有機化合物を発生しにくく、動物愛護の観点からも好ましい。
【0020】
環状オレフィン重合体(A)として具体的には、ノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィンとの付加重合体が挙げられ、三井化学株式会社から商標名「アペル」の名称で、ポリプラスチックス株式会社から商標名「トパス」の名称で、それぞれ販売されている。また、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体及びその水素添加物も挙げられ、日本ゼオン株式会社から商標名「ゼオネックス」及び「ゼオノア」の名称で販売されている。前記いずれの環状オレフィン重合体も、市販品を容易に入手することが可能である。ここで用いられるノルボルネン環を有する環状オレフィンモノマーの化学構造は、下記式[I]で示されるとおりである。
【0021】
【化2】
【0022】
(上記式[I]中、nは0又は1であり、mは0又は正の整数であり、qは0又は1であり、R1~R18並びにRa及びRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよく、かつ該単環又は多環が二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、又はR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。)
【0023】
ノルボルネン環を有するモノマーとして好適なものとしては、ノルボルネン(n=0、m=0、R~R10、R15~R18がいずれも水素原子)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(n=0、m=1、R~R18がいずれも水素原子)などが例示される。
【0024】
ノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィンとの付加重合体としては、エチレン-環状オレフィンランダム共重合体が好ましい。そのエチレン含有率は5~50質量%であることが、耐熱性や剛性などの点から好ましい。エチレン含有率はより好適には10質量%以上であり、さらに好適には15質量%以上である。また、エチレン含有率はより好適には40質量%以下であり、さらに好適には30質量%以下である。
【0025】
環状オレフィン重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は120~230℃である。ガラス転移温度が120℃以上であることによって、オートクレーブや熱湯などでの滅菌操作や洗浄操作に耐えることができるし、ヒーターの近傍に配置しても変形しにくい。ガラス転移温度は、より好適には130℃以上であり、さらに好適には135℃以上である。一方、ガラス転移温度が230℃以下であることによって、成形時の流動性が良好になり、容易に溶融成形することができる。ガラス転移温度は、より好適には200℃以下であり、さらに好適には180℃以下である。ガラス転移温度は、DSC法(昇温速度10℃/分)によって測定される。
【0026】
軟質共重合体(B)は、オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなるものであり、そのガラス転移温度が0℃以下である。具体的には、エチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとを共重合してなる非晶性又は低結晶性の熱可塑性軟質共重合体が例示され、好適にはエチレン-プロピレン共重合体である。熱可塑性軟質共重合体のガラス転移温度は、好適には-10℃以下であり、より好適には-20℃以下である。また通常、ガラス転移温度は-100℃以上である。X線回析法により測定した結晶化度は、好適には0~30%であり、より好適には0~25%である。
【0027】
ラジカル開始剤(C)は、溶融混練時の加熱によって熱分解してラジカルを発生するものであればよく、その種類は特に限定されない。過酸化物、アゾ化合物、レドックス開始剤などが挙げられる。なかでも、有機過酸化物が好適に採用される。ラジカル開始剤(C)は、溶融混練時に適度な速度で分解することが好ましく、その1分間半減期温度は30~250℃であることが好適である。1分間半減期温度は、より好適には50℃以上であり、200℃以下である。
【0028】
多官能化合物(D)は、ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する化合物である。当該多官能化合物(D)としては、たとえばジビニルベンゼン、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、トリアリールイソシアヌレート、ジアリールフタレート、エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが例示される。
【0029】
これらの成分の配合比は、環状オレフィン重合体(A)100質量部に対し、軟質共重合体(B)1~50質量部、ラジカル開始剤(C)0.001~1質量部、及び多官能化合物(D)0~1質量部である。
【0030】
環状オレフィン重合体(A)、軟質共重合体(B)及びラジカル開始剤(C)を必須成分とし、多官能化合物(D)を任意成分として溶融混練することによって、環状オレフィン重合体(A)と軟質共重合体(B)とが反応し、反応生成物としての変性環状オレフィン重合体(E)を得ることができる。その際、多官能化合物(D)が存在すれば、より効果的に架橋点を形成することができる。このような変性環状オレフィン重合体(E)については、国際公開第2006/025294号に開示されている。またこのような変性環状オレフィン重合体(E)は、例えば、冨士ベークライト株式会社から商標名「e-mateX」の名称で販売されている。
【0031】
軟質共重合体(B)の配合量は、環状オレフィン重合体(A)100質量部に対して1~50質量部である。軟質共重合体(B)の配合量が1質量部未満の場合には、表面粗さが小さくなりすぎて、動摩擦係数が大きくなり、成形品表面に付着した排泄物の除去が困難になる。軟質共重合体(B)の配合量は、好適には5質量部以上である。一方、軟質共重合体(B)の配合量が50質量部を超える場合には、成形品の剛性が低下する。軟質共重合体(B)の配合量は、好適には30質量部以下である。
【0032】
ラジカル開始剤(C)の配合量は、環状オレフィン重合体(A)100質量部に対して0.001~1質量部である。ラジカル開始剤(C)の配合量が0.001質量部未満の場合には、架橋反応が十分に進行せず耐衝撃性などの機械特性が低下する。ラジカル開始剤(C)の配合量は、好適には0.01質量部以上である。一方、ラジカル開始剤(C)の配合量が1質量部を超える場合には、分解生成物の発生量が増加し、動物にとって好ましくない。ラジカル開始剤(C)の配合量は、好適には0.5質量部以下である。
【0033】
多官能化合物(D)の配合量は、環状オレフィン重合体(A)100質量部に対して0~1質量部である。多官能化合物(D)の配合は任意であり、配合しなくても良いが、効率的に架橋反応を進行させるためには配合させるほうが好ましい。その場合の好適な配合量は0.001質量部以上であり、より好適には0.01質量部以上である。一方、多官能化合物(D)の配合量が1質量部を超える場合には、分解生成物の発生量が増加し、動物にとって好ましくない。多官能化合物(D)の配合量は、好適には0.5質量部以下である。
【0034】
本発明の成形品を構成する樹脂組成物が、変性環状オレフィン重合体(E)に加えて、充填材(F)を含有することが好適である。充填材(F)を含むことによって、変性環状オレフィン重合体(E)のマトリックス中に充填材(F)の粒子が分散し、成形品表面の摩擦係数が小さくなり、その結果、成形品表面に付着した糞尿などの排泄物の除去がより容易になる。当該樹脂組成物が、50~99.9質量%の変性環状オレフィン重合体(E)と、0.1~50質量%の充填材(F)を含有することが好ましい。充填材(F)の含有量が0.1質量%以上であることによって、成形品表面の動摩擦係数を効果的に低減させることができる。充填材(F)の含有量は、より好適には1質量%以上であり、さらに好適には2質量%以上である。このとき、変性環状オレフィン重合体(E)の含有量は、より好適には99質量%以下であり、さらに好適には98質量%以下である。また、充填材(F)の含有量が50質量%以下であることによって、溶融成形性が良好になる。充填材(F)の含有量はより好適には40質量%以下である。このとき、変性環状オレフィン重合体(E)の含有量は、より好適には60質量%以上である。
【0035】
変性環状オレフィン重合体(E)に配合される充填材(F)は特に限定されるものではないが、シリコーン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子又は劈開性無機粒子が好適なものとして例示される。
【0036】
シリコーン樹脂粒子としては、ポリジメチルシロキサンを主成分とする樹脂の粒子が好ましく用いられる。具体的には50質量%以上のポリジメチルシロキサンを含む粒子が好適である。マトリックスを構成する変性環状オレフィン重合体(E)との親和性の観点からは、当該粒子がケイ素原子を含まない他の重合体成分を含むことが好ましい。例えば、アクリレート重合体とポリジメチルシロキサンとが複合化された共重合体の粒子などが好適である。当該粒子における他の重合体成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。このとき、ポリジメチルシロキサンの含有量は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、他の重合体成分の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。このとき、ポリジメチルシロキサンの含有量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
フッ素樹脂粒子としては、ポリテトラフルオロエチレンの粒子が好適に用いられる。当該ポリテトラフルオロエチレンは、50質量%未満の他の共重合可能な単量体を含んでいても構わない。
【0038】
劈開性無機粒子は、小さい力によって結晶面に沿って容易に層状に剥離することの可能な結晶性の無機粒子である。結晶構造の中に原子同士の結合力の小さい面(劈開面)を含んでおり、小さいせん断力によって、当該劈開面に沿って容易に剥離して滑って薄片を生じる。このような結晶性の無機粒子は、その滑りやすさによって固体潤滑剤として広く用いられている。劈開性無機粒子として具体的には、層状ケイ酸塩粒子、二硫化モリブデン粒子、窒化ホウ素粒子、グラファイト粒子などが例示される。このうち、層状ケイ酸塩粒子は、ケイ酸塩化合物を主成分とする多層構造の粒子であり、タルク、マイカなどを例示することができる。
【0039】
変性環状オレフィン重合体(E)に配合される充填材(F)の平均粒径は、0.5~100μmであることが好ましい。平均粒径が小さすぎると、成形品表面の凹凸が小さくなりすぎ、摩擦係数が大きくなって、成形品表面に付着した糞尿などの排泄物を除去しにくくなる場合がある。平均粒径は、より好適には1μm以上であり、さらに好適には1.5μm以上である。一方、平均粒径が大きすぎると、成形品表面の凹凸が大きくなりすぎ、やはり成形品表面に付着した糞尿などの排泄物を除去しにくくなる場合がある。平均粒径は、より好適には70μm以下であり、さらに好適には50μm以下である。
【0040】
本発明に必要な物性を阻害しない範囲内であれば、本発明の成形品を構成する樹脂組成物が、変性環状オレフィン重合体(E)及び充填材(F)以外の添加剤を含んでいてもよい。例えば、他の樹脂、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、抗菌剤などの各種の添加剤を少量含んでいても構わない。その含有量は樹脂組成物全体の質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明の動物取扱用成形品の好適な製造方法は、ガラス転移温度が120~230℃の環状オレフィン重合体(A)100質量部、オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなり、ガラス転移温度が0℃以下である軟質共重合体(B)1~50質量部、及びラジカル開始剤(C)0.001~1質量部を溶融混練し、得られた変性環状オレフィン重合体(E)を溶融成形する、動物取扱用成形品の製造方法である。このとき、ラジカル開始剤(C)とともに、ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する多官能化合物(D)を添加することが好ましい。
【0042】
環状オレフィン重合体(A)、軟質共重合体(B)及びラジカル開始剤(C)を溶融混練する際の温度は、環状オレフィン重合体(A)及び軟質共重合体(B)が溶融し、ラジカル開始剤(C)が分解することの可能な温度であればよい。具体的には、150~350℃であることが好適である。効率的に架橋反応を進行させるためには、混練温度が200℃以上であることがより好ましい。また、樹脂の過剰な熱分解を抑制するためには混練温度が300℃以下であることがより好ましい。そして、このような混練温度において、半減期が1分以下であるようなラジカル開始剤(C)を使用することが好ましい。また、前記変性環状オレフィン重合体(E)50~99.9質量%と充填材(F)0.1~50質量%を溶融混練し、得られた樹脂組成物を溶融成形することも好ましい。
【0043】
本発明の成形品の表面において、充填材(F)が露出していることが好ましく、それによって糞尿などの排泄物を除去しやすくなる。当該表面の表面粗さ(Ra)は、0.08~1μmであることが好ましい。Raがこの範囲に含まれることによって、成形品表面に付着した排泄物を除去しやすくなる。Raはより好適には0.1μm以上である。一方Raは、より好適には0.5μm以下であり、さらに好適には0.3μm以下である。なお、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、当該二次粒子の粒径が上記範囲を満足すればよい。
【0044】
本発明の成形品の表面の動摩擦係数は、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.16以下であることがさらに好ましい。成形品の表面の動摩擦係数が小さいことによって、成形品表面に付着した糞尿などの排泄物を容易に除去することができる。
【0045】
本発明の成形品を構成する樹脂組成物の3mm厚成形品のヘーズ値は、通常80%以上であり、85%以上であってもよく、90%以上であってもよい。内部を観察したいケージなどの場合には、透明樹脂と複合させることが好ましい場合がある。この場合の透明樹脂としては、環状オレフィン重合体(A)を用いることが好ましい。すなわち、本発明の動物取扱用成形品の好適な実施態様は、変性環状オレフィン重合体(E)と環状オレフィン重合体(A)とが接着剤を用いずに接着されてなる複合成形品である。これにより、糞尿などの排泄物が付着しやすい位置に、本発明の不透明な樹脂組成物を用い、観察したい部分には透明樹脂を用いることができる。この場合に、不透明部と透明部に含まれる熱可塑性樹脂が同じ種類であるので、接着剤を用いることなく両者を強固に接着することができる。接着剤を用いて透明部と不透明部を接着するのであれば、透明部に含まれる熱可塑性樹脂と不透明部に含まれる熱可塑性樹脂とが異なる種類のものであっても構わないが、オートクレーブ滅菌の際の熱膨張などを考慮すれば、接着剤を用いずに融着させることが好ましい。接着方法としては、二色成形、インサート成形、超音波融着などが好適な方法として例示される。
【0046】
本発明の成形品で取り扱われる動物は特に限定されない。実験動物であっても愛玩動物であっても構わない。マウス、ラット、モルモット、犬、猫、ウサギ、サル、ブタのような哺乳類であってもよいし、爬虫類、鳥類、昆虫などであってもよく、排泄物を発生させる動物であれば特に限定されない。なかでも、マウスやラットなどの実験動物やイヌ、ネコなどの愛玩動物を飼育する際に用いられる成形品が好適である。飼育ケージ、排泄用トレー、飼料容器、飲料容器などとして用いることができる。
【0047】
以下、動物取扱用成形品の一例として、実験動物飼育用ケージの具体的な実施態様について、図面を用いて説明する。図1は、実験動物飼育用ケージ1の斜視図及び平面図である。そして、図1の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図を図2に示す。
【0048】
実験動物飼育用ケージ1は、底部2と側壁部3を有し、平面視長方形で上方に開口したものである。開口端4における長辺が353mmで、短辺が235mmで、ケージ1の高さが160mmである。開口端4に接触するようにプラスチック製または金属メッシュ製の蓋(図示せず)が被せられて、ケージ1内で実験動物が飼育される。図1では、側壁部3の大部分と底部の下面2bの全てが透明部5で構成されていて、底部の上面2aの全てが、本発明の成形品である不透明部6で構成されている。側壁部3の大部分が透明部5で構成されることによって、外部から容易に実験動物の様子を観察することができる。また、底部の上面2aの全てが不透明部6で構成されていることによって、上面2aに付着した糞尿などの排泄物を容易に除去することができる。
【0049】
通常の実験動物の飼育環境では、ケージ1の底には、紙、パルプ、木材などを細断した床敷が敷かれているので、側壁部3の下部や底部2からのケージ1内部の視認性は問題とならないことが多い。したがって、ケージ1の構成では底部2の視認性を喪失させて不透明とする代わりに、糞尿などの排泄物を除去しやすい素材を用いた。一方で、側壁部3の大部分は透明部5で構成されていて、実験動物の状況を外部から視認するのに問題はない。本発明の実験動物飼育用ケージ1では、糞尿などの排泄物の除去の容易な素材と、透明性の良好な素材を、それぞれ適切な場所に配置した構成として、外部からの視認性と排泄物除去性の両立が可能となった。
【0050】
ケージ1では、底部2を2層構造にしてあり、その上面2aの全てが不透明部6で構成され、その下面2bの全てが透明部5で構成される。不透明部6は側壁部3において底部の上面2aから高さ20mmの位置まで形成されている。マウスやラットなどの実験動物が排泄する場所は、主として底部の上面2aであるが、コーナー部7など決まった場所で排泄することが多いために、結果として排泄物が堆積しやすく、側壁部3であってもその下の方には糞尿などの排泄物が付着するので、その部分の排泄物を容易に除去できることが重要である。ケージ1において、透明部5と不透明部6の境界8が、ケージ1の底部の上面2aから5mm以上上の位置かつ上面2aと開口端4との中間点よりも下の位置にあることが好ましい。境界8が上面2aから5mm以上上の位置にあることによって、側壁部3に付着した排泄物を容易に除去することができる。より好適には、境界8が上面2aから10mm以上上の位置にある。一方、境界8が上面2aと開口端4との中間点よりも下の位置にあることによって、内部の視認性が良好となる。境界8から上面2aまでの距離は、より好適には50mm以下であり、さらに好適には30mm以下である。ここで、境界8は、側壁部3における、不透明部6の上端のことをいう。
【0051】
ケージ1を製造する方法は特に限定されないが、好適な方法はインサート成形、二色成形及び超音波融着である。以下、それぞれの製造方法について説明する。
【0052】
図3に示されているのは、ケージ1における不透明部6の斜視図であり、底部の上面2aを構成する。厚さ1mm程度の不透明部6は、射出成形によって成形することもできるし、熱成形によって成形することもできる。射出成形によって成形する場合には、二色成形またはインサート成形によってケージ1を成形することができる。
【0053】
まず、二色成形について説明する。この場合、共通型と第1交換型の間に形成されたキャビティーに変性環状オレフィン重合体(E)と充填材(F)を含有する樹脂組成物を射出して図3に示された不透明部6を成形する。当該不透明部6を共通型に保持したままで第1交換型を第2交換型に交換し、共通型と第2交換型と不透明部6の間に形成されたキャビティーに環状オレフィン重合体(A)を射出して透明部5を成形して不透明部6と一体化させてケージ1を製造する。この場合、底部の下面2b側の中央付近に溶融透明樹脂の流入ゲートを設けることによってウェルドラインの形成されない高強度の成形品を得ることができる。
【0054】
次にインサート成形について説明する。この場合、図3に示された不透明部6を予め成形しておき、それを射出成形機の金型の中に配置してから射出成形してケージ1を製造する。不透明部6の成形は熱成形でも射出成形でも構わないが、金型の製造コストを考慮すれば熱成形が好ましい。熱成形によって得られた不透明部6を金型に導入し、引き続き当該金型内に透明な環状オレフィン重合体(A)を射出成形して、透明部5と不透明部6とをインサート成形によって接着する方法が好ましく採用される。熱成形に際しては、予めシートを押出成形しておき、それを加熱して真空成形や真空圧空成形をすることによって熱成形することができる。インサート成形する際の透明樹脂の流入ゲートの配置は二色成形のときと同様である。
【0055】
図4に示されているのも、ケージ1における不透明部6であり、底部の上面2aを構成する。図4では、不透明部6を表側から見た斜視図と、裏側から見た斜視図と、その一部の拡大図を示す。図4の不透明部6においては、透明部5との接着部分に所定間隔で複数のリブ9が設けられている。別途射出成形によって成形された透明部5を準備し、それと図4の不透明部6とを重ねて、超音波融着によって両者を接着することができる。このとき、超音波振動によって不透明部6に形成されたリブ9を溶かし透明部5と融着させる。
【実施例0056】
以下、実施例を用いて本発明で用いられる材料について具体的に評価した。
【0057】
実施例1
下記の環状オレフィン重合体(a)100質量部、エチレン-プロピレンランダム共重合体(b)11質量部、ラジカル開始剤(c)0.022質量部及び多官能化合物(d)0.022質量部を押出機で溶融混練して反応させた後、ペレット化して、変性COCペレットを得た。
【0058】
・環状オレフィン重合体(a)
三井化学株式会社製環状オレフィン共重合体(COC)「アペル APL6015T」。当該COCは、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンの付加共重合体であり、非晶性である。DSC法によるガラス転移温度(昇温速度10℃/分)が145℃であり、MFR(260℃、2.16kg荷重)が10g/10分である。
【0059】
・軟質共重合体(b)
三井化学株式会社製エチレン-プロピレンランダム共重合体「P-0880」。エチレン含有量が80mol%、極限粘度[η]が2.5dl/g、DSC法(昇温速度10℃/分)によるガラス転移温度が-54℃である。MFR(230℃、2.16kg荷重)が0.4g/10分、密度が0.867g/cm、X線回折法により測定した結晶化度が約10%である。
【0060】
・ラジカル開始剤(c)
日本油脂株式会社製「パーヘキシン25B」。2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3を主成分(90%以上)とする。1分間半減期温度は194.3℃である。
【0061】
・多官能化合物(d)
ジビニルベンゼン
【0062】
こうして得られた変性COCペレット95質量部と、日信化学工業株式会社製シリコーン樹脂粉末「シャリーヌ R-170S」5質量部を押出機に投入し、溶融混錬して組成物ペレットを得た。ここで、「シャリーヌ R-170S」は、シリコーンとアクリレートを共重合した樹脂の粉末であり、シリコーンの含有率が70質量%でアクリレートの含有率が30質量%である。平均粒子径30μm(一次粒子径は0.2~0.3μm)の球状粒子を含む粉体である。こうして得られた組成物ペレットを射出成形機に投入して、直径15cm、厚さ3mmの円盤状の試験片を得た。
【0063】
[表面状態の観察]
得られた試験片の表面を、オリンパス株式会社製レーザー顕微鏡「LEXT OLS4100型」で観察して、充填材(F)の露出状況を以下のように評価した。本試験片では、微細に分散した粒子が試験片表面に露出していて、評価Aであった。
・A:微細に分散した粒子が試験片表面に露出していた。
・B:充填材(F)粒子が試験片表面に露出していたが、粗大粒子が含まれていた。
【0064】
[表面粗さ]
試験片の表面粗さ(Ra)を、JIS B0633に基づいて、オリンパス株式会社製レーザー顕微鏡「LEXT OLS4100型」を用いて測定したところ、0.13μmであった。
【0065】
[動摩擦係数]
試験片表面の動摩擦係数を、JIS K7125に基づいて、株式会社エー・アンド・デイ製万能試験機「RCT-1325 TENSILON」を用いて測定したところRaは0.107であった。
【0066】
[ヘーズ]
試験片のヘーズを、JIS K7136にしたがって測定した。具体的には、スガ試験機株式会社製ヘーズメーター「HV-V3」を用い、ダブルビーム方式でD65光源を用いて測定した。5サンプルの測定を行い、その平均値を求めたところ、ヘーズは95.1%であった。
【0067】
[糞尿除去試験]
マウスを飼育しているケージから採取した糞尿の乾燥物に対し、水を加えて粘土状にした。粘土状の糞尿を、前記試験片(n=4)の片面上に15~20g塗りつけ、室外に放置して乾燥させた。その後下記の3段階の方法によって糞尿の除去しやすさを評価した。その結果、振り落とし試験がA評価であり、機械的除去試験は行わず、水洗試験がA評価であった。各試験の操作と評価基準は、それぞれ以下に示すとおりである。以上の結果を表1にまとめて示す。
【0068】
(振り落とし試験)
乾燥糞尿の付着した試験片を、手に持って振った。その際の除去しやすさを以下の基準にしたがって評価した。
・A:4サンプルともに剥離した。
・B:3サンプルにおいて剥離した。
・C:2サンプルにおいて剥離した。
・D:剥離したのが1サンプル以下であった。
【0069】
(機械的除去試験)
前記振り落とし試験において、振り落とすことができなかったサンプル(評価B~Dのサンプル)に対して、ゴムヘラを用いて手動で乾燥糞尿を除去した。その際の除去しやすさを以下の基準にしたがって評価した。
・A:小さい力で容易に剥離した。
・B:少し擦ることによって剥離した。
・C:少し擦っても剥離しないサンプルがあった。
【0070】
(水洗試験)
前記振り落とし試験及び機械的除去試験を経たサンプルを試験に供した。試験片の糞尿が付着していた面に水を掛けながらゴム手袋を装着した指先で軽く擦って洗浄を実施した。洗浄後のサンプル表面の糞尿の残存状況について、以下の基準にしたがって評価した。
・A:きれいに除去された。
・B:糞尿の付着が残った。
【0071】
実施例2
実施例1において、シリコーン樹脂粉末の代わりにAGC株式会社製ポリテトラフルオロエチレン粉末「Fluon PTFE G190」を用いた以外は実施例1と同様にして、射出成形して試験片を作成した。ここで、「Fluon PTFE G190」に含まれる粒子の平均粒子径(レーザー回折法)は25μmである。得られた試験片の評価結果を表1にまとめて示す。
【0072】
実施例3
実施例1において、シリコーン樹脂粉末5質量部の代わりに日本タルク株式会社製タルク粉末「ミクロエース SG-95」30質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、射出成形して試験片を作成した。ここで、「ミクロエース SG-95」に含まれる粒子の粒子径(D50:レーザー回折法)は2.1μmである。得られた試験片の評価結果を表1にまとめて示す。
【0073】
実施例4
実施例1において、シリコーン樹脂粉末を配合せず、変性COCペレットのみを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0074】
比較例1
環状オレフィン共重合体(COC)「アペル APL6015T」のペレットを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0075】
比較例2
三井化学株式会社製ポリメチルペンテン(TPX)「TPX MX004」70質量部と、日本タルク株式会社製タルク粉末「ミクロエース SG-95」30質量部を押出機に投入し、溶融混錬して組成物ペレットを得た。ここで、「TPX MX004」は、DSC法(昇温速度10℃/分)による融点が228℃であり、MFR(260℃、5kg荷重)が25g/10分である。こうして得られた組成物ペレットを射出成形機に投入して、実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0076】
比較例3
ポリメチルペンテン「TPX MX004」のペレットを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0077】
比較例4
ポリカーボネート「ユーピロン S-3000R」のペレットを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0078】
【表1】
【符号の説明】
【0079】
1 実験動物飼育用ケージ
2 底部
2a 底部の上面
2b 底部の下面
3 側壁部
4 開口端
5 透明部
6 不透明部
7 コーナー部
8 境界
8a 上側の境界
8b 下側の境界
9 リブ

図1
図2
図3
図4