(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032693
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】浸液媒体としてのトリシクロデカンアルコールのアセタール
(51)【国際特許分類】
G02B 21/33 20060101AFI20240305BHJP
C07D 309/12 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G02B21/33
C07D309/12 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138676
(22)【出願日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】10 2022 121 826.0
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】513090138
【氏名又は名称】カール・ツァイス・イェナ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Jena GmbH
【住所又は居所原語表記】Carl-Zeiss-Promenade 10, 07745 Jena, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】マティアス クリーグ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ ベネディクト ヤーゲル
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AB03
(57)【要約】
【課題】浸液の主成分としてより簡単な方法で調製できる化合物であって、トリシクロデカンアルコールのアセタールを提供する。
【解決手段】主成分として、トリシクロデカンアルコールのアセタールを1つ以上含み、トリシクロデカンアルコールがトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの基本骨格と、少なくとも1つのOH基をと有して、トリシクロデカンアルコールの全てのOH基がアセタール化されていることを特徴とする浸液である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸液であって、
トリシクロデカンアルコールの1つ以上のアセタールを主成分として含み、該トリシクロデカンアルコールは化合物であって、その構造がトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの基本骨格と、少なくとも1つのOH基を有する化合物であり、前記トリシクロデカンアルコールの全てのOH基は、前記アセタールにおいてアセタール化されている、浸液。
【請求項2】
顕微鏡の浸液である、請求項1に記載の浸液。
【請求項3】
8-ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン又は3(4),8(9)-ビス(ヒドロキシメチル)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの1つ以上のアセタールをその主成分として含む、請求項1に記載の浸液。
【請求項4】
8-テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン及び/又は3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンをその主成分として含む、請求項3に記載の浸液。
【請求項5】
1つ以上の高沸点液体を二次成分として含む、請求項1に記載の浸液。
【請求項6】
前記高沸点液体は、パラフィン油、可塑剤、ポリプロピレングリコール、セバシン酸ジオクチル、ジイソプロピルナフタレン、ジ(プロピレングリコール-1,2)ベンゾアート及びそれらの混合物から選択される、請求項5に記載の浸液。
【請求項7】
前記トリシクロデカンアルコールの1つ以上のアセタールの割合は、50重量パーセント超、好ましくは少なくとも60重量パーセントである、請求項1~6の何れか一項に記載の浸液。
【請求項8】
3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン又は8-テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン。
【請求項9】
浸液の主成分としてのトリシクロデカンアルコールのアセタールの使用。
【請求項10】
トリシクロデカンアルコールのアセタールを調製するためのプロセスであって、酸の存在下でトリシクロデカンアルコールをアセタール化剤と反応させることを含むプロセス。
【請求項11】
前記反応は、20~30℃の範囲内の温度で行われる、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記アセタール化剤は、3,4-ジヒドロ-2H-ピランである、請求項10又は11に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に光学顕微鏡のための浸液及びそれに適切な構成成分を調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
浸液ないし液浸油は、特に現代の光学顕微鏡系において重要な構成要素である。このような液浸油は、特に屈折率、分散、光透過性(最大365nm)、残存蛍光、粘性、光学機器からの除去能、無毒性、環境適合性などに関して特定の要求を満たさなければならない。これらの要求は、特定の脂肪族環系を含有する合成化合物と合致する。
【0003】
特許文献1は、顕微鏡のための液浸油を記載している。これは、主成分としてのトリシクロデカン構造を伴うエステル又はエーテルと、二次成分としての1つ以上の高沸点液体とを含有する。特に、トリシクロデカンメタノール(TCD-M)及びトリシクロデカンジメタノール(TCD-DM)由来のエステル及びエーテルが記載されており、液浸油を得るために調製される。この液浸油は、ハロゲン不含であり、UV透過性が高く、使用される構成成分の真空蒸留可能性のために固有蛍光が低い。
【0004】
特許文献2は、ハロゲン含有及びハロゲン不含の両方の液浸油の例を明示している。ハロゲン不含の液浸油の2つの例は、二次構成成分としてトリシクロデカノールを含有する。しかし、400nmを下回る波長でのUV透過性に関して、この文献中では図面が与えられていない。さらに、1000及び2000mm2/sの値の動粘度は、殆どの適用に対して高過ぎる。これは、使用時に気泡の捕捉が極めて容易に起こり得ることを意味する。
【0005】
特許文献1に記載のトリシクロデカンメタノールエステルの調製は複雑であり、特に、反応温度が高く、反応時間が長く、一次反応生成物の精製が複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第19705978A1号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0209621A2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、浸液の主成分として、より簡単な方法で調製できる化合物を提供することが求められている。
【0008】
得られる浸液は、特性の中でも特に、40~50のアッベ数を有し、同時に固有蛍光(intrinsic fluorescence)が低く、UVA透過性が高いものであることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、トリシクロデカンアルコールのアセタール、及び、特に顕微鏡、また他の光学的適用、例えば液浸リソグラフィーのための、浸液の主成分としてのその使用によって達成される。
【0010】
従って、本発明は、請求項1に記載の浸液を提供する。すなわち、本発明は、トリシクロデカンアルコールの1つ以上のアセタールをその主成分として含み、トリシクロデカンアルコールは化合物であって、その構造がトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの基本骨格と少なくとも1つのOH基とを有し、前記トリシクロデカンアルコールの全てのOH基が、前記アセタールにおいてアセタール化されていることを特徴とする浸液である。
【0011】
また、好ましいその実施形態は、従属請求項において定義される。すなわち、本発明に係る浸液は、8-ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン又は3(4),8(9)-ビス(ヒドロキシメチル)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの1つ以上のアセタールをその主成分として含むのが好ましい。また、本発明に係る浸液は、8-テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン及び/又は3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンをその主成分として含むのが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る浸液は、1つ以上の高沸点液体を二次成分として含むのが好ましい。好適には、この高沸点液体は、パラフィン油、可塑剤、ポリプロピレングリコール、セバシン酸ジオクチル、ジイソプロピルナフタレン、ジ(プロピレングリコール-1,2)ベンゾアート及びそれらの混合物から選択される。
【0013】
本発明における浸液では、前記トリシクロデカンアルコールの1つ以上のアセタールの割合は50重量パーセント超であるのがよく、好ましくは60重量パーセント以上である。また、本発明における浸液は、顕微鏡に用いられるのが好適であり、特に光学顕微鏡のための浸液である。
【0014】
さらに、本発明は、新規化合物として言及される上記のアセタールである。詳しくは、3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン又は8-テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンである。更にまた、本発明は、浸液の主成分として上記トリシクロデカンアルコールのアセタールの使用を特徴とする。
【0015】
更にまた、本発明は、このアセタールを調製するためのプロセスを提供する。詳しくは、トリシクロデカンアルコールのアセタールを調製するためのプロセスであって、酸の存在下でトリシクロデカンアルコールをアセタール化剤と反応させることを含むプロセスである。その際の反応は、好ましくは20~30℃の範囲内の温度で行われるのがよい、また、アセタール化剤は、3,4-ジヒドロ-2H-ピランであるのが好ましい。
【0016】
本発明の有利な効果
本発明による浸液中の主成分として存在するトリシクロデカンアルコールのアセタールは、特に単純に調製され得る。
【0017】
本発明のトリシクロデカンアセタールは、触媒としての酸の存在下でのトリシクロデカンアルコールのアセタール化によって調製でき、特に必要な反応温度が低く、高い反応速度を有することを特徴とし、また、必要な反応時間が短くてすむ。
【0018】
特に好ましい反応は、対応するビスアセタールを形成するためのトリシクロデカンジメタノールと3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(DHP)との反応である。
【0019】
反応温度について、ここでは変換(conversion)及びバッチ時間(batch time)に対して好都合である(この反応は、室温、即ち20~25℃で行われ得る)、同時に反応時間が短く、高い選択性と高い収率を有する。
【0020】
反応温度を低下させることには、複数の利点がある。すなわち、反応装置加熱時間が不要であり、調製におけるエネルギー需要がより低くなり、溶媒を用いなくてもよく、同時に高温(爆発範囲/着火温度)で作業する必要がなく、従ってこの種の安全対策が不要となる。さらに、反応温度がより低いと、不要な副反応を進行可能とするために利用可能なエネルギーが少なくなるため選択性が向上する。所望の標的反応の反応障壁は、一般に副反応のものよりも低くなる。この効果は、より低い反応温度によってさらに最大化され得る。
【0021】
さらに、この反応は、工業的に処理可能な溶媒を用いて行なえる。これらの溶媒は安価であり、無害であり、リサイクル又は処分し易い。
【0022】
本発明における浸液の主成分として存在するアセタールの調製において、反応中に得られなければならない特定の沸騰温度がないため、溶媒の選択が非常に自由であり、即ち反応物の可能な最大溶解度を可能にする溶媒を使用することができる。従って、生死危険に労働者を曝す可能性を極力低減でき、蒸留性(従って反応混合物からの除去能)が良好であり、再利用可能であり、安価に処理し得る溶媒を使用することが可能となる。
【0023】
3,4-ジヒドロ-2H-ピラン又は他のアセタール化剤とのトリシクロデカンアルコールの反応において、できる限り完全に反応を進行させるために、僅か乃至大きいモル過剰量(10~100%)のジヒドロピランを用いて操作することが可能である。ここで、ジヒドロピランの沸点と溶媒の沸点とが互いに非常に近いものを選択できるため、同じ条件下において1つのステップで溶媒(例えば、酢酸エチル)及び過剰なジヒドロピランの両方を除去することが可能である。従って、特許文献1に記載のトリシクロデカンメタノールエステル及びエーテルと比較した場合、1つのステップで処理することができ(過剰なアルコールの別個の除去)及び約1週間の作製時間を得ることが可能である。
【0024】
従って、本発明による浸液は、主成分の調製が容易である。同時に、これらは、規格ISO 8036:2015-06の基準を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
トリシクロデカンアルコール及びそのアセタール
本発明による浸液は、その主成分としてトリシクロデカンアルコールのアセタールを含有する。これらのアセタールは、本明細書において単純化して「トリシクロデカンアセタール」(TCDアセタール)とも呼ばれる。
【0026】
トリシクロデカンアルコール(以下では単純化して「TCDアルコール」とも呼ばれる)は、化合物であって、その構造がトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの基本骨格と、少なくとも1つのOH基を有する化合物を意味する。トリシクロデカンアルコールの構造は、好ましくは、1、2又は3つのOH基を有する。
【0027】
適切なTCDアルコールの例は、以下に示される化合物1~14であり、その名称を以下の表で与える。この表は、化合物が一部の場合に市販製品としてみなされる識別子も示す。例えば、化合物1は「TCDアルコールA」とも呼ばれる。
【化1】
【0028】
【0029】
TCDアルコール3及び7(「TCDアルコールM」及び「TCDアルコールDM」)のアセタール、特に3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(8-テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンを含む)を用いて形成されるアセタールが好ましい。
【0030】
TCDアルコール7のビスアセタール、特に3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン)を用いて形成されるビスアセタールが特に好ましい。
【0031】
好ましい例において、浸液の主成分は、8-ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(トリシクロデカンメタノール若しくは「TCDアルコールM」とも呼ばれる)、又は、3(4),8(9)-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(トリシクロデカンジメタノール若しくは「TCDアルコールDM」とも呼ばれる)のアセタールからなり、これは、これらの化合物が、その分子構造のために真空蒸留可能であり、従って高純度で調製可能であるためである。従って、TCDアルコールM及びTCDアルコールDMのアセタールから、固有蛍光(intrinsic fluorescence)が最小の浸液を調製することが可能である。
【0032】
TCDアセタールの調製のために、工業規模で利用可能である以下のTCDアルコールを使用することが可能である。
すなわち、市販されている8(9)-ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン(TCDアルコールM)、及び3(4),8(9)-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン(TCDアルコールDM)である。これらは、それぞれ以下の構造式に従う(位置及び立体)異性体混合物である。
【化2】
【0033】
従来の方法により、3,4-ジヒドロ-2H-ピランなどのアセタール化剤を用いてTCDアルコールをアセタール化することによってTCDアセタールを合成することが可能である。
【0034】
アセタール化は、適切な溶媒中でアセタール化剤、好ましくは3,4-ジヒドロ-2H-ピランとTCDアルコールとを混合し、触媒として酸を添加することによって行われる。
【0035】
適切な溶媒は、原則として、出発物質を溶解させ、所望の反応を妨害しない全ての溶媒である。適切な溶媒の例は、酢酸エチル、ジクロロメタン、酢酸イソアミル及びTHFである。酢酸エチルが特に好ましい。
【0036】
この反応は、室温(20~25℃)において、即ち反応混合物の特定の加熱なしに行うことができる。反応時間は、好ましくは、30分~10時間、より好ましくは1~3時間である。反応速度を上昇させる必要がある場合、反応混合物は、30~60℃、好ましくは40~50℃の温度まで加熱するようにしてもよい。しかし、これらは、望ましくは不要である。
【0037】
この反応は、好ましくは、標準圧において空気雰囲気下で進行する。適切な反応容器は、例えばガラス又は鋼鉄からなるものなどを用いることができる。
【0038】
トリシクロデカンアセタールの割合は、浸液が2つの物質の混合物である例では、浸液全体の少なくとも50重量パーセントであり、浸液が3つの物質又は複数物質の混合物である例では、少なくとも40重量パーセントである。浸液は、2つ以上のトリシクロデカンアセタールも含有し得る。この場合、全てのトリシクロデカンアセタールの合計は、浸液の少なくとも40重量パーセントである。
【0039】
トリシクロデカン(TCD)の環構造のため、トリシクロデカンアセタールは、比較的高い屈折率を有し、同時にアッベ数が高く、従って浸液に対する主な構成成分として優れた適合性がある。従って、主成分としてTCDアセタールを含有する浸液は、ハロゲン不含であり得る。
【0040】
浸液に対する特に適切な主成分は、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン)を用いて形成されるトリシクロデカンジメタノールのビスアセタールである。浸液中のこのビスアセタールの重量による割合は、好ましくは、少なくとも60重量パーセント、より好ましくは少なくとも70重量パーセント、特に好ましくは少なくとも80重量パーセントである。
【0041】
酸
TCDアルコールのアセタール化に対する適切な酸触媒は、原則として、十分に強い酸であればよく、具体的には鉱酸(濃塩酸水、無水濃硫酸など)及び溶解度がより良好な有機酸(例えば、スルホン酸(パラ-トルエンスルホン酸、PTSA))の両方である。特に、pKaが≦1、好ましくは≦0である酸が適切である。より弱い酸、例えば酢酸は、触媒添加物として効果を示さない。
【0042】
浸液/他の成分
本発明による浸液は、屈折率の調整のためのさらなる構成成分としての1つ以上の高沸点液体を含有するのがよい。
【0043】
高沸点液体は、パラフィン油、可塑剤、ポリプロピレングリコール、セバシン酸ジオクチル、ジイソプロピルナフタレン、ジ(プロピレングリコール-1,2)ベンゾアート及びそれらの混合物から選択され得る。
【0044】
原則として、浸液は、主成分として、2つ以上のTCDアセタールと、二次成分として、屈折率を調整するための2つ以上の高沸点液体とから構成することができる。しかし、出発物質は、残存蛍光を低くするために高純度で提供されなければならず、使用される量が比較的小さいため、低生産コストの観点から2つの物質の混合物が特に優先される。
【0045】
2つの構成成分の混合物の場合、浸液中のTCDアセタールの重量による割合は、好ましくは、60~99重量パーセントであり、3つの構成成分の混合物の場合、好ましくは50~70重量パーセントである。
【0046】
浸液は、屈折率に対するオンスペック値(the on-spec values)を与えるために、TCDアセタールを適切な高沸点液体、例えば可塑剤、パラフィン油、ポリプロピレングリコールなどと単純に混合することによって作製される。
【0047】
一般的に使用されるTCDアセタールは、<1・10-4hPaで120℃~160℃の沸点を有する。
【0048】
本発明による浸液は、一般的に、以下の物理学的特性を有する。
・屈折率:1.5165~1.5195、好ましくは1.5175~1.5185
・分散(アッベ数):39~50、好ましくは42~46
・動粘度(mm2/s):50~6000、好ましくは800~1200
・UV吸収(d=10mmで透過率50%):<400nm、好ましくは<350nm
・残存蛍光(ex.365nm、em.450nm):1N硫酸中の<0.06mg/lキニーネ硫酸塩と同等、好ましくは<0.05mg/l
・残存蛍光(ex.405nm、em.485nm):1N硫酸中の<1.20mg/lキニーネ硫酸塩と同等、好ましくは<1.00mg/l
【0049】
浸液は、好ましくは、規格ISO8036:2015-06の仕様を満たす。
【0050】
浸液の主成分としてのTCDアセタールの優れた適合性のための必須の特性は、屈折率ne>1.5であり、同時に高いアッベ数νe≧46、好ましくはνe≧47、より好ましくはνe≧50である。
【0051】
TCDアセタールの良好なUV透過性も重要である。すなわち、膜厚10mmの場合、320nmを下回る波長でのみ透過率が10%を下回るようなTCDアセタールの良好なUV透過性も重要である。
【実施例0052】
実施例1:トリシクロデカンジメタノールのアセタール化
以下に、トリシクロデカンジメタノールのアセタール化について、すなわち、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(DHP)によるトリシクロデカンジメタノール(3(4),8(9)-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン(以下では「TCD-DM」)のアセタール化について説明する。各事例は室温でのものであり、対応するビスアセタール3(4),8(9)-ビス(テトラヒドロピラン-2-イルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン(以下では「ビスアセタールP」)の調製のため、触媒として様々な酸を用いて、以下のスキームに従って進めた。
【化3】
【0053】
実施例1a:濃塩酸を用いたビスアセタールPの調製
300mlの酢酸エチル中に20gのTCD-DM(0.1mol;1.00eq.)と28mlのDHP(25.96g;0.31mol;3.08eq.)とを配合して初期装入を形成した。続いて、0.25mlの濃HCl(3mmol;0.03eq.)を添加した。2時間後、100mlの1M NaOH及び100mlの蒸留水で2回、反応混合物を洗浄した。硫酸ナトリウム上で有機相を乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。無色透明の油性液体を得た。
【0054】
実施例1b:濃硫酸を用いたビスアセタールPの調製
300mlの酢酸エチル中に20gのTCD-DM(0.1mol;1.00eq.)及び36.30mlのDHP(33.65g;0.40mol;4.00eq.)とを配合して初期装入を形成した。続いて、0.21mlの濃H2SO4(4mmol;0.04eq.)を添加した。2時間後、100mlの1M NaOH及び400mlの蒸留水で2回、反応混合物を洗浄した。硫酸ナトリウム上で有機相を乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。透明で薄黄色の油性液体を得た。
【0055】
実施例1c:パラ-トルエンスルホン酸を用いたビスアセタールPの調製
500mlの酢酸エチル中に300gのTCD-DM(1.5mol;1.00eq.)を溶解させた。続いて、2.55gのパラ-トルエンスルホン酸(0.015mol;0.01eq.)を添加し、306.76mlのDHP(284.37g;3.38mol;2.25eq.)を迅速に滴下して添加した。滴下添加開始から2時間後、反応を終了し、溶液を分液漏斗に移した。その中で、150mlの水中の2gのNaOHの溶液で1回、及び約300mlの蒸留水で2回、反応混合物を洗浄した。硫酸ナトリウム上で有機相を乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。さらに蒸留によって生成物を精製した。
【0056】
実施例2:浸液の作製
実施例1により調製された82.4重量パーセントのビスアセタールPを17.6重量パーセントのジイソプロピルナフタレンと混合し、配合して浸液を完成させた。
【0057】
このようにして得られた浸液は、以下の表で指定される特性を有し、規格ISO 8036:2015-06に合致した(特に44±3のアッベ数に関して)。
【0058】