(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032758
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】接着剤組成物、接合体および接着剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 4/02 20060101AFI20240305BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240305BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240305BHJP
C09J 109/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J11/08
C09J11/06
C09J109/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001671
(22)【出願日】2024-01-10
(62)【分割の表示】P 2023511059の分割
【原出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021059627
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 千亜紀
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性が良好で、高い接着強度が得られる接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤と、有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子と、を含む接着剤組成物であって、レーザ回折・散乱法により求められる、接着剤組成物中の、ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布において、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上である接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーと、
ラジカル重合開始剤と、
有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子と、を含む接着剤組成物であって、
レーザ回折・散乱法により求められる、当該接着剤組成物中の、前記ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布において、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上である接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤組成物であって、
前記二次粒子の粒径分布から求められる二次粒子のメジアン径D50が1μm以上200μm以下である接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着剤組成物であって、
前記二次粒子の粒径分布から求められる二次粒子の累積90%径D90が10μm以上500μm以下である接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記ポリマー粒子の一次粒子の体積平均粒子径が0.01μm以上1μm以下である接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記ポリマー粒子を構成するポリマーは、ジエン系ポリマーを含む接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記ポリマー粒子を構成するポリマーは、(メタ)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、および/または、メチル(メタ)アクリレート・(メタ)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体を含む接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記ポリマー粒子は、コアシェル型ポリマー粒子を含む接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
さらにエラストマーを含む接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
さらに、安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物を含む接着剤組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の接着剤組成物であって、
前記安定ラジカルがニトロキシドラジカルである接着剤組成物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の接着剤組成物であって、
前記安定ラジカル型化合物が、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルおよび4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルからなる群より選択される少なくとも一種を含む接着剤組成物。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記安定ラジカル型化合物の含有量が、前記重合性モノマー100質量部に対して、0.001質量部以上0.5質量部以下である接着剤組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
さらに還元剤を含む接着剤組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の接着剤組成物であって、
当該接着剤組成物は、第1剤と第2剤とからなり、使用直前に混合して用いる2剤型の接着剤組成物であり、前記第1剤が前記ラジカル重合開始剤を含み、前記第2剤が前記還元剤を含む接着剤組成物。
【請求項15】
第1の構造部材と、
第2の構造部材と、
前記第1の構造部材と前記第2の構造部材とを接合する、請求項1~14のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化体とを含む接合体。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の接着剤組成物を製造する製造方法であって、
前記重合性モノマーが入った容器内に、前記ポリマー粒子を投入して攪拌し、前記重合性モノマーに前記ポリマー粒子を分散させる分散工程を含み、
前記投入の際の前記重合性モノマーの温度は、0℃以上40℃以下である、接着剤組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の製造方法であって、
前記攪拌は、攪拌羽根を用い、300mm/s以上の攪拌周速度で行われる、接着剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、接合体および接着剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤組成物としては、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤等が知られている。これらの中でも、アクリル系接着剤は、一般に、油面接着性や作業性の良さ等の点で優れる。
【0003】
アクリル系接着剤の一例として、特許文献1を挙げることができる。特許文献1には、(1)(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、(2)重合開始剤、(3)還元剤および(4)ジエン系コアシェル重合体を含有するアクリル系接着剤組成物が記載されている。この組成物において、ジエン系コアシェル重合体はMBS樹脂(メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)であって、(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに膨潤可能であり、且つ25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は検討の結果、特許文献1に記載の接着剤組成物よりも、貯蔵安定性の観点で改善が見られた接着剤組成物を完成させた。具体的には、本発明により、製造後に時間が経過しても、所望の接着強度が得られる接着剤組成物を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、
(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーと、
ラジカル重合開始剤と、
有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子と、を含む接着剤組成物であって、
レーザ回折・散乱法により求められる、当該接着剤組成物中の、前記ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布において、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上である接着剤組成物
が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
第1の構造部材と、
第2の構造部材と、
前記第1の構造部材と前記第2の構造部材とを接合する、上記の接着剤組成物の硬化体とを含む接合体
が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
上記の接着剤組成物を製造する製造方法であって、
前記重合性モノマーが入った容器内に、前記ポリマー粒子を投入して攪拌し、前記重合性モノマーに前記ポリマー粒子を分散させる分散工程を含み、
前記投入の際の前記重合性モノマーの温度は、0℃以上40℃以下である、接着剤組成物の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貯蔵安定性が良好で、高い接着強度が得られる接着剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書中、使用量は、第1剤と第2剤の合計に対する量を表すことが好ましい。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0014】
<接着剤組成物>
本実施形態の接着剤組成物は、(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤と、有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子と、を含む。
レーザ回折・散乱法により求められる、本実施形態の接着剤組成物中の、上記ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布において、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合は、30体積%以上、好ましくは40体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上である。この値は100体積%であってもよく、99.5体積%以下であってもよい。
【0015】
本発明者は、接着剤組成物の貯蔵安定性の改良のために様々な検討を行った。本発明者は、上記のように、ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布において、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上とした。これにより、貯蔵安定性が良好で、高い接着強度が得られる接着剤組成物を提供することができた。
【0016】
本実施形態の接着剤組成物の製造方法は限定されないが、ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布を適切に制御する観点では、適切な製造方法・製造条件を採用することが好ましい。製造方法・製造条件のポイントとしては、例えば、重合性モノマーとポリマー粒子とを混合する際の温度、混合の際の攪拌速度(攪拌周速度)等を適切に制御することが挙げられる。製造方法・製造条件の詳細は追って説明する。
【0017】
以下、本実施形態の接着剤組成物が含むことができる成分、本実施形態の接着剤組成物の物性、その他本実施形態の接着剤組成物に関係する事項の説明を続ける。
【0018】
(重合性モノマー)
本実施形態の接着剤組成物は、(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーを含む。本明細書では、(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーのことを、単に「重合性モノマー」とも表記する。
【0019】
重合性モノマーとして具体的には、以下のようなものが挙げられる。
(i)一般式
Z-O-R1
で示されるモノマー。
一般式中、Zは(メタ)アクリロイル基、CH2=CHCOOCH2CH2-基、CH2=C(CH3)COOCH2-CH2CH2-基、CH2=CHCOOCH2-CH(OH)-基、CH2=C(CH3)COOCH2-CH(OH)-、CH2=CHCOOCH2-CH(OH)CH2-基又はCH2=C(CH3)COOCH2-CH(OH)CH2-基を示し、R1は水素、炭素数1以上20以下のアルキル基、シクロアルキル基、ベンジル基、フェニル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基、ジシクロペンチル基、ジシクロペンテニル基、(メタ)アクリロイル基およびイソボルニル基を示す。
【0020】
このようなモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、グリセロール(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0021】
(ii)一般式
Z-O-(R2O)p-R1
で示されるモノマー。
一般式中、Z及びR1は前述の通りである。R2は-C2H4-、-C3H6-、-CH2CH(CH3)-、-C4H8-又は-C6H12-を示し、pは1以上25以下の整数を表す。
【0022】
このようなモノマーとしては例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
(iii)一般式
【化1】
で示されるモノマー。
一般式中、Z及びR
2は前述の通りである。R
3は水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、qは0以上8以下の整数を表す。Z、R
2、R
3、qはそれぞれ同一でも異なっても良い。
【0024】
このようなモノマーとしては、例えば、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン及び2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
(iv)上記(i)、(ii)または(iii)に含まれない多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル。
【0026】
このような単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
(v)(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタンプレポリマー。このような単量体は、例えば水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、有機ポリイソシアネート及び多価アルコールを反応することにより得られる。
【0028】
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0029】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、トルエンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0030】
(vi)一般式(I)で示される酸性リン酸化合物。
【0031】
【0032】
上記一般式中、Rは CH2=CR4CO(OR5)m-基(但し、R4は水素又はメチル基、R5は-C2H4-、-C3H6-、-CH2CH(CH3)-、-C4H8-、-C6H12-または-C2H4-OCO-C5H10-を示し、mは1以上10以下の整数を表す。)を示し、nは1又は2の整数を表す。
【0033】
一般式(I)で示される酸性リン酸化合物としては例えば、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、2-(メタ)アクロイロキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0034】
特に好ましい重合性モノマー(単官能および多官能)は、以下である。
・単官能
メチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸
・多官能
エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびエトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート
【0035】
本実施形態の接着剤組成物は、(i)~(vi)のモノマーのうち1のみを含んでもよいし、2以上を含んでもよい。これらの中では、接着性が大きく、接着後の被着体の接着歪みが小さい点で、(i)、(ii)および(vi)のうち1または2以上が好ましく、(i)、(ii)および(vi)を併用することがより好ましい。
(i)と(ii)を併用した場合、その組成比は質量比で(i):(ii)=50~95:5~50が好ましく、60~80:20~40がより好ましい。(vi)を用いる場合、使用量は、(i)と(ii)の合計100質量部に対して0.05質量部以上10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0036】
(ラジカル重合開始剤)
本実施形態の接着剤組成物は、ラジカル重合開始剤を含む。ラジカル重合開始剤により重合性モノマーの重合性炭素-炭素二重結合が重合され、物品の接着が可能となる。
【0037】
ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤が好ましい。熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物を好ましく挙げることができる。有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。これらの中では、安定性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
ちなみに、ラジカル重合開始剤と、後述の還元剤とを併用することで、硬化性を一層高めたり、室温硬化を実現できたりする。
【0038】
ラジカル重合開始剤の量は、重合性モノマー100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下が好ましく、0.4質量部以上10質量部以下がより好ましい。適度に多い量のラジカル重合開始剤を用いることで、硬化速度を十分に早くすることができる。一方、ラジカル重合開始剤の量が多すぎないことにより、貯蔵安定性を一層高めることができる。
【0039】
(ポリマー粒子)
本実施形態の接着剤組成物は、有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子を含む。「有機溶剤により膨潤する」とは、ポリマー粒子を有機溶剤等の液体と接触させたとき、ポリマー粒子が液体を吸収して膨らむ性質を有することを意味する。具体的には、膨潤度は、好ましくは5倍以上、より好ましくは7倍以上、さらに好ましくは9.5倍以上、特に好ましくは10倍以上である。膨潤度の上限は、例えば15倍である。
【0040】
膨潤度は、前述の特許文献1の段落0049に記載のようにして測定することができる。つまり、25℃にて、試料1gをトルエン100mL中で24時間静置し、その後トルエン中に膨潤したゲルを100メッシュの金網(質量A)にて濾過する。1分後、膨潤したゲルと金網の質量Bを測定し、室温にて一昼夜風乾後、真空乾燥を行い、乾燥したゲルと金網の質量Cを測定する。そして、膨潤度(倍)=(B-A)/(C-A)の式により膨潤度を求めることができる。
【0041】
ポリマー粒子が膨潤性であることにより、ポリマー粒子中に重合性モノマーが入り込み、ポリマー粒子中で重合が起こり、結果として接着強度等が一層高まることが期待される。
本明細書では、有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子を、単に「ポリマー粒子」とも表記する。
【0042】
念のため述べておくと、本明細書中の、ポリマー粒子の各種粒子径や粒径分布に関する数値は、特に断りのない限り、接着剤組成物中におけるポリマー粒子の数値(ポリマー粒子が膨潤している場合には、膨潤した状態における粒径等)を表す。
【0043】
一観点として、ポリマー粒子は、好ましくは、コアシェル型ポリマー粒子を含む。コアシェル型ポリマー粒子は、国際公開第2005/028546号や特開2016-104834号公報等に記載の方法により得られる。
別観点として、ポリマー粒子は、好ましくは、ジエン系ポリマーを含み、より好ましくは、ポリマー粒子を構成するポリマーは、(メタ)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、および/または、メチル(メタ)アクリレート・(メタ)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体を含む。
【0044】
二次粒子の粒径分布から求められる二次粒子のメジアン径D50は、好ましくは1μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上180μm以下、さらに好ましくは10μm以上150μm以下である。
二次粒子の粒径分布から求められる二次粒子の累積90%径D90は、好ましくは10μm以上500μm以下、より好ましくは20μm以上400μm以下、さらに好ましくは30μm以上300μm以下である。
これら数値は、前述の直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合とは異なる観点から、粗大な二次粒子が比較的少ないことを規定したものである。これら数値を調整することで、接着剤組成物の性能を一層高めうる。
二次粒子のメジアン径D50と二次粒子の累積90%径D90の調整は、例えば、重合性モノマーとポリマー粒子とを混合する際の温度、混合の際の剪断力等を適切に制御することにより行う。剪断力は、例えば、攪拌羽根の回転数、攪拌羽根の直径、および、攪拌速度(攪拌周速度)等を適宜選択することにより調整する。
【0045】
ちなみに、ポリマー粒子の「一次粒子」の体積平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上1μm以下、より好ましくは0.02μm以上0.8μm以下、さらに好ましくは0.03μm以上0.6μm以下である。一次粒子の体積平均粒子径を適切に選択することによっても、接着剤組成物の性能を一層高めうる。
例えば、ポリマー粒子に対して、粉砕工程と、粉砕処理後の篩分級工程とを行うことにより、「一次粒子」の体積平均粒子径を調整することができる。適切な粒径分布を有するポリマー粒子を使用することにより、「一次粒子」の体積平均粒子径を調整することもできる。
【0046】
好ましく使用可能なポリマー粒子は、例えば、デンカ株式会社や株式会社カネカから入手可能である。
【0047】
ポリマー粒子の量は、重合性モノマー100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下が好ましく、1質量部以上20質量部以下がより好ましい。適度に多いポリマー粒子を用いることで、硬化膜の靭性を一層高めることができる。一方、ポリマー粒子の量が多すぎないことにより、重合性モノマーおよび重合開始剤を十分な量用いることができ、硬化性が一層高まる傾向がある。
【0048】
(エラストマー)
本実施形態の接着剤組成物は、好ましくは、1または2以上のエラストマーを含む。エラストマーは、前述のポリマー粒子を除くことが好ましい。エラストマーを用いることにより、接着剤組成物の硬化体が適度な弾性を有することとなり、例えば靭性の一層の向上を図ることができる。
【0049】
エラストマー成分としては、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、並びに、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、スチレン-ポリブタジエン-スチレン系合成ゴムといったスチレン系熱可塑性エラストマー、並びに末端を(メタ)アクリル変性したポリブタジエンや、ウレタン系エラストマーが挙げられる。
【0050】
中でも、溶解性及び接着性の点で、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-(メタ)アクリル酸共重合体、および(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR等)からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0051】
エラストマーを用いる場合、その量は、重合性モノマー100質量部に対して、ポリマー粒子との総和で、5質量部以上40質量部以下が好ましく、10質量部以上30質量部以下がより好ましい。
【0052】
(還元剤)
本実施形態の接着剤組成物は、1または2以上の還元剤を含むことが好ましい。ラジカル重合開始剤と還元剤とを併用することで、硬化性を一層高めたり、室温硬化を実現できたりする。
還元剤は、重合開始剤と反応し、ラジカルを発生する公知の還元剤であればよい。還元剤としては、第3級アミン、チオ尿素誘導体、遷移金属塩からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、遷移金属塩がより好ましい。チオ尿素誘導体としては、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素等を挙げることができる。遷移金属塩としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸銅及びバナジルアセチルアセトナート等が挙げられる。遷移金属塩の中では、バナジルアセチルアセトナートが好ましい。
【0053】
還元剤を用いる場合、その使用量は、重合性モノマー100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましい。0.01質量部以上用いることで硬化速度が十分に速くなり、10質量部以下とすることで貯蔵安定性がより良好となる。
【0054】
(パラフィン)
本実施形態の接着剤組成物は、パラフィンを含んでもよい。具体的には、空気に接している部分の硬化を迅速にするために各種パラフィン類を使用することができる。パラフィンとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、蜜ろう、ラノリン、鯨ろう、セレシン及びカンデリラろう等が挙げられる。
【0055】
本実施形態の接着剤組成物がパラフィンを含む場合、1のみのパラフィンを含んでもよいし、2以上のパラフィンを含んでもよい。
本実施形態の接着剤組成物がパラフィンを含む場合、その量は、重合性モノマー100質量部に対して、0.01質量部以上3質量部以下が好ましく、0.5質量部以上2質量部以下がより好ましい。ある程度多くの量のパラフィンを用いることで、硬化迅速化の効果を十分に得ることができる。一方、パラフィンの量が多すぎないことにより、十分な接着性を得つつ、硬化迅速化の効果を得ることができる。
【0056】
(その他成分)
本実施形態の接着剤組成物は、上記以外の任意成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
一例として、本実施形態の接着剤組成物は、使用時の膜厚調整のため、スペーサー(粒子)等を含んでもよい。スペーサーは、典型的にはポリオレフィン等の樹脂製の球状粒子である。
【0057】
別の例として、本実施形態の接着剤組成物は、貯蔵安定性の向上(保管時の変質を抑制)するため、各種の安定剤を含んでもよい。安定剤の種類としては、(i)フェノール系酸化防止剤として知られている化合物、(ii)キノン系化合物、例えばp-ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等、(iii)重合禁止剤として知られている化合物、例えばフェノチアジン等のアミン系重合禁止剤、(iv)安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物等、を挙げることができる。中でも接着剤としての性能(引っ張りせん断接着強度や貯蔵弾性率)を損なわず貯蔵安定性を向上させるという点で安定ラジカル型化合物を用いることが望ましい。
【0058】
安定ラジカルとしてはニトロキシドラジカルが好ましい。ニトロキシドラジカルである安定ラジカル型化合物として具体的には、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル等を挙げることができる。安定型ラジカル化合物を用いる場合、これらから1種以上を用いることが好ましい。
【0059】
安定ラジカル型化合物等の安定剤を用いる場合、その含有量としては、接着剤としての性能を損なわず貯蔵安定性を向上させるという点で、重合性モノマー100質量部に対して、例えば0.001質量部以上1質量部以下、好ましくは0.001質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上0.3質量部以下、さらに好ましくは0.02質量部以上0.1質量部以下である。
【0060】
(一剤型/二剤型)
本実施形態の接着剤組成物は、いわゆる一剤型であってもよいし、二剤型(別々の容器に充填された2の剤を、使用直前に混合して用いる接着剤組成物)であってもよい。
二剤型の場合、好ましくは、ラジカル重合開始剤が第一剤に、還元剤が第二剤に、それぞれ含まれる。ただし、第3級アミンは、第一剤に含まれることが好ましく、チオ尿素誘導体や遷移金属塩は第二剤に含まれることが好ましい。他の成分は適宜二剤に混合することができる。使用直前に第一剤と第二剤とを混合して用いればよい。
ちなみに、本実施形態の接着剤組成物が二剤型である場合、第一剤と第二剤を混合した後の接着剤組成物が、上述の各成分の好適含有量の範囲で各成分を含むように、第一剤および第二剤中の各成分の量を調整することが好ましい。
【0061】
<接着剤組成物の製造方法>
本実施形態の接着剤組成物の製造方法は限定されない。しかしながら、ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布を適切に制御する観点では、適切な製造方法・製造条件を採用することが好ましい。製造方法・製造条件のポイントとしては、例えば、重合性モノマーとポリマー粒子とを混合する際の温度、混合の際の攪拌速度等を適切に制御することが挙げられる。
【0062】
本実施形態の接着剤組成物の製造方法は、好ましくは、重合性モノマーが入った容器内に、ポリマー粒子を投入して攪拌し、重合性モノマーに前記ポリマー粒子を分散させる分散工程を含む。この分散工程において、ポリマー粒子の投入の際の容器内の重合性モノマーの温度は、好ましくは0℃以上40℃以下、より好ましくは15℃以上35℃以下である。
ポリマー粒子投入の際の重合性モノマーの温度が0℃以上であることにより、より短い時間でポリマー粒子が重合性モノマー中に分散しやすくなる。
また、投入の際の重合性モノマーの温度が40℃以下であることにより、ポリマー粒子の塊(凝集体、継粉)が生じづらくなるため、良好なポリマー分散状態を得やすい。
【0063】
分散工程は、好ましくは、攪拌羽根を用いて、重合性モノマーとポリマー粒子とを混合する。重合性モノマー中にポリマー粒子を十分均一に分散させるため、攪拌羽根の攪拌周速度は、好ましくは300mm/s以上、より好ましくは500mm/s以上である。攪拌周速度の上限は特に無いが、設備装置の制約から、例えば300000mm/s以下である。
【0064】
<接着剤組成物の用途/接合体>
本実施形態の接着剤組成物を物品に塗布して硬化させる等することで、接着剤組成物の硬化体を含む接合体が得られる。具体的には、本実施形態の接着剤組成物を用いることで、第1の構造部材と、第2の構造部材と、第1の構造部材と第2の構造部材とを接合する接着剤組成物の硬化体と、を含む接合体を得ることができる。
本実施形態の接着剤組成物は、特に還元剤を含む場合、好ましくは加熱をせずとも(室温で)硬化して、物品を接着することができる。もちろん、接合体を得るに際して加熱を行うことは排除されない。
【0065】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0066】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0067】
<接着剤組成物の製造>
各実施例および比較例のA剤(第1剤)およびB剤(第2剤)を、それぞれ、以下のようにして製造した。
(1)温度調節が可能な調合用の容器内に、後掲の表の「重合性モノマー」に記載のモノマー(単位:質量部、他成分も同様)および「エラストマー」に記載のNBRを入れ、攪拌羽根(アンカー翼)を用いて60℃で1時間攪拌混合した。
(2)容器内に、後掲の表の「ポリマー粒子」に記載のポリマー粒子を投入した。ポリマー粒子の投入の際の温度は後掲の表に示した。そして、攪拌羽根を用いて1時間混合した。攪拌羽根の回転数、攪拌羽根の直径、および、攪拌周速度は表に記載の通りとした。
(3)残りの成分を容器内に投入し、さらに室温で24時間攪拌して十分に混合した。
【0068】
後掲の表において、重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、還元剤および4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルについては、市場で流通している物を適宜用いた。
ポリマー粒子およびエラストマーの詳細は以下の通りである。
製品1:コアシェル型粒子、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、特許文献1の段落0049に記載のようにして測定した膨潤度:14.0
製品2:コアシェル型粒子、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、特許文献1の段落0049に記載のようにして測定した膨潤度:10.1
NBR:JSR株式会社製「230S」(結合アクリロニトリル量:35%、ムーニー粘度:56)
エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの構造は以下の通りである。
【0069】
【0070】
<接着剤組成物中のポリマー粒子の粒径分布測定>
以下手順で測定した。
(1)接着剤組成物1gを、10mLガラスバイアルに取り、ここに4gのメチルメタクリレート(東京化成工業製、>99.8%)を加えた(組成物を希釈して粒径分布を測定しやすくするために、メチルメタクリレートを用いた)。
(2)ガラスバイアルのフタを閉め、振らずに23℃で24時間静置した。静置後のガラスバイアルから上澄みをスポイトで取り、この上澄み中に含まれるポリマー粒子の粒径分布を測定した。粒径分布の測定は、JIS Z 8825:2013に従い、島津製作所製レーザ回折式粒径分布測定装置「SALD-2200」を用いて、測定温度:23℃、測定溶媒:メチルメタクリレート(東京化成工業製、>99.8%)にて実施した。
(3)測定結果から、以下を求めた。
・二次粒子の粒径分布における、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合
・二次粒子のメジアン径D50
・二次粒子の累積90%径D90
【0071】
補足しておくと、一般には、粒径分布の測定においては、二次粒子をできるだけ少なくするために超音波分散等を行うことが多い。しかし、今回は、接着剤組成物中でのポリマー粒子の凝集状態を反映した粒径分布の情報を得るため、超音波分散等の分散処理は行わず、メチルメタクリレートでの希釈処理のみを行った。
【0072】
<ポリマー粒子そのもの(一次粒子)の粒径分布測定>
以下の手順で測定した。
(1)ポリマー粒子(製品1または製品2)0.1gを10mLガラスバイアルに取り、濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を4.9g添加し、超音波(130W)にて10分間分散処理を行った。
(2)この分散液に含まれるポリマー粒子の粒径分布を測定した。粒径分布の測定は、JIS Z 8825:2013に従い、島津製作所製レーザ回折式粒径分布測定装置「SALD-2200」を用いて、測定温度:23℃、測定溶媒:純水にて実施した。
(3)測定結果のうち、ポリマー粒子の一次粒子の体積平均粒子径とした。
【0073】
<粘性に関する測定・評価>
JIS K 6838に従い、各接着剤組成物(A剤、B剤)の粘度を、B型粘度計を用いて、ローター回転数20rpm、測定時間2分、測定雰囲気温度25℃にて粘度(単位:mPa・s)を測定した。この粘度測定値をA1とした。なお、各接着剤組成物(A剤、B剤)は測定前に25℃雰囲気に24時間以上静置しておき、液温が25℃となるように調整した。
さらに、各接着剤組成物(A剤、B剤)を、それぞれ500mLポリエチレンボトルに500g充填し、これを23℃で一週間静置した。そして、静置後のA剤、B剤の粘度を同様の方法で測定した。この粘度測定値をA2とした。そして、粘度保持率A(%)を次式で算出した
A(%)=(A2/A1)×100
【0074】
また、粘性については、チキソトロピックインデックス(TI)も測定した。具体的には、上記A1の値と回転数を、20rpmから2rpmに変えた以外はA1の測定と同様にして測定した粘度A1'から、A1'/A1の計算によりTIを求めた。
【0075】
<接着靭性の評価>
JIS K 6854に準じて以下のようにして評価した。評価は温度23℃、相対湿度50%の環境下にて実施した。
まず、各実施例および各比較例の接着剤組成物の、A剤とB剤とを等量混合した混合物を準備した。この混合物を、素早く、一枚の試験片(200mm×25mm×1.6mm、SECC鋼板)の片方に塗布した。その後直ちに、もう片方の試験片(200mm×25mm×0.5mm:SECC鋼板)を重ね合わせて張り合わせ、クリップで固定した。そして、室温で24時間養生した。このようにして評価用サンプルを得た。
得られた評価用サンプルを用いて、剥離接着強さ(剥離強度、単位:kN/m)を測定した。剥離接着強さ(単位:kN/m)は、温度23℃、相対湿度50%の環境下において、引張速度50mm/分で測定した。測定は3回行い、平均値を剥離強度として表に記載した。また、3回の標準偏差も表に記載した。さらに、破壊状態を観察した結果も表に記載した。破壊状態においては、破壊の種類の面積率を求めた。一般に強い接着強さが得られるのは凝集破壊が起きる場合なので、破壊状態においては凝集破壊が好ましい。
【0076】
上記の種々の情報をまとめて下表に示す。重合性モノマー、ポリマー粒子、エラストマー、ラジカル重合開始剤、還元剤、その他の成分の量の単位は質量部である。
【0077】
【0078】
上表に示されるとおり、ポリマー粒子の直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上である接着剤組成物の粘度保持率Aは、ほぼ100%であった。つまり、貯蔵安定性は良好であった。
また、ポリマー粒子の直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上である接着剤組成物を用いることで、SECC鋼板同士を強く接着することができた。つまり、高い接着強度を得ることができた。
【0079】
本発明者は、接着剤組成物の貯蔵安定性の改良のために様々な検討を行った。検討を通じ、特許文献1に記載のような従来の接着剤組成物においては、組成物中でポリマー粒子(ジエン系コアシェル重合体等)が過度に凝集して粗大な二次粒子を形成してしまい、このことが経時による接着強度の低下につながっていたと推定された。具体的には、特許文献1に記載の接着剤組成物は、製造後の時間の経過により、所望の接着強度が得られなくなるおそれがあり、製造後は速やかに使用することが好ましいという課題があった。
この推定に基づき、本発明者は、上記のように、ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布において、直径1μm以上200μm以下の二次粒子の割合が30体積%以上とした。これにより、貯蔵安定性が良好で、高い接着強度が得られる接着剤組成物を提供することができた。
【0080】
本明細書では、主として、(メタ)アクリロイル基を有する重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤と、有機溶剤により膨潤する性質を有するポリマー粒子と、を含み、ポリマー粒子の凝集体である二次粒子の粒径分布が特徴的な「接着剤組成物」について説明した。しかし、本明細書で説明した接着剤組成物は、接着以外の分野、例えば被覆材や注入剤としても使用可能である。換言すると、本明細書で説明した接着剤組成物は、用途が限定されない組成物、硬化性組成物、樹脂組成物として使用することもできる。
【0081】
この出願は、2021年3月31日に出願された日本出願特願2021-059627号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。