(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032784
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】増粘性スラグモルタル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240305BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20240305BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20240305BHJP
C09K 17/12 20060101ALI20240305BHJP
C09K 8/05 20060101ALI20240305BHJP
C04B 28/08 20060101ALI20240305BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240305BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20240305BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240305BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240305BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240305BHJP
C04B 103/44 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
E02D3/12
C09K17/06 P
C09K17/02 P
C09K17/12 P
C09K8/05
C04B28/08
C04B22/14 B
C04B14/28
C04B14/10 Z
C04B22/08 A
C04B18/14 A
C04B103:44
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004306
(22)【出願日】2024-01-16
(62)【分割の表示】P 2023002071の分割
【原出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022096958
(32)【優先日】2022-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(71)【出願人】
【識別番号】390028093
【氏名又は名称】東曹産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和成
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
(72)【発明者】
【氏名】三宅 真司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 満
(72)【発明者】
【氏名】小山 孝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宇
(72)【発明者】
【氏名】内川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】金高 鉄次
(72)【発明者】
【氏名】利田 靖治
(57)【要約】
【課題】瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できる増粘性スラグモルタルの製造方法を提供することを提供すること。
【解決手段】スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルの製造方法であって、スラグ粉末、石膏粉末及びフィラーに水を加えてスラグモルタルを生成するスラグモルタル生成工程と、前記スラグモルタル生成工程で生成したスラグモルタルに水ガラスを加えてフロック状の不均一ゲルを生成した後、撹拌して前記フロック状の不均一ゲルを砕いて微細化しながらゲル化を促進する水ガラス添加撹拌工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルであって、以下(1)~(3)の条件を満たす増粘性スラグモルタル。
(1)生成1時間後の増粘性スラグモルタルのブリーディング率が6%以内であること
(2)生成直後、1時間振とう後、3時間振とう後の増粘性スラグモルタルのテーブルフロー試験値が、250mm以上であること
(3)生成28日後の増粘性スラグモルタルの一軸圧縮試験値が、0.2MN/m2以上であること
【請求項2】
骨材、スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルであって、以下(1)~(3)の条件を満たす増粘性スラグモルタル。
(1)生成28日後の膨張収縮率が-3%よりも膨張側であること
(2)生成直後の増粘性スラグモルタルのテーブルフロー試験値が、静置で80~200mm、打撃で115mm以上であること
(3)生成28日後の増粘性スラグモルタルの一軸圧縮試験値が、0.2MN/m2以上であること
【請求項3】
前記骨材が、人工骨材、再生骨材、コンクリートスラッジ固形分破砕骨材から選ばれた1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項2に記載の増粘性スラグモルタル。
【請求項4】
前記フィラーが、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ベントナイトから選ばれた1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の増粘性スラグモルタル。
【請求項5】
前記軽質炭酸カルシウムが、水酸化カルシウム水溶液と二酸化炭素とを原料に製造されたものからなり、増粘性スラグモルタル1m3当たりのCO2排出量が-350~100kgであることを特徴とする請求項4に記載の増粘性スラグモルタル。
【請求項6】
前記石膏粉末が、無水石膏と二水石膏の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の増粘性スラグモルタル。
【請求項7】
前記水ガラスが、酸化ナトリウムに対する無水珪酸のモル比が2.0~3.2、酸化ナトリウムの濃度が9~15重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の増粘性スラグモルタル。
【請求項8】
前記スラグ粉末の粉末度が、3500~5000cm2/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の増粘性スラグモルタル。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の増粘性スラグモルタルが、さらにポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有することを特徴とする増粘性スラグモルタル。
【請求項10】
スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルの製造方法であって、
スラグ粉末、石膏粉末及びフィラーに水を加えてスラグモルタルを生成するスラグモルタル生成工程と、
前記スラグモルタル生成工程で生成したスラグモルタルに水ガラスを加えてフロック状の不均一ゲルを生成した後、撹拌して前記フロック状の不均一ゲルを砕いて微細化しなが
らゲル化を促進する水ガラス添加撹拌工程と
を備えることを特徴とする増粘性スラグモルタルの製造方法。
【請求項11】
前記スラグモルタル生成工程において、さらに骨材を加えることを特徴とする請求項10に記載の増粘性スラグモルタルの製造方法。
【請求項12】
前記水ガラス添加撹拌工程で生成したスラグモルタルに骨材を加えて撹拌することを特徴とする請求項10に記載の増粘性スラグモルタルの製造方法。
【請求項13】
請求項10、11又は12に記載の増粘性スラグモルタルの製造方法において、さらにポンプ圧送性の改善のための混和剤を加えることを特徴とする増粘性スラグモルタルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘性スラグモルタル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤改良を目的として、打設時には十分な流動性を有し、脱水できる土壌又は脱水できない土壌中であっても、打設後、掘削や矢板の打込みなどに支障のない適度な強度を発現するために種々の材料が提案され、実用化されている(例えば、特許文献1~6参照。)。
【0003】
しかしながら、現在実用化されている材料には、以下の問題があった。
・セメントスラリー、水ガラスとセメントを主剤とするケミカルグラウト材(LW液:Labiles Wasserglas)は、ブリーディングや材料分離が大きいため、配管圧送時に配管が閉塞するリスクがあり、使用時には体積、密度などの物性が変化するため目的物の性能が確保しにくい。
・セメントベントナイト液は、高い材料分離抵抗性を得るために多量のベントナイトを添加する必要があり、費用がかさむ。
・ブリーディングや材料分離を抑制するために単位セメント量を多くすると、可使時間が短くなり、また、強度が必要以上に大きくなる。
・ブロック式改良、壁状改良、格子状改良を行う機械撹拌工法において、数日後にラップ施工を行う場合は、セメント系固化材に遅延剤を添加する。しかしながら、遅延剤添加量が過剰の場合は硬化不良が生じる。他方、遅延剤の添加量不足や、天候不順や施工トラブル等によってラップ施工の時期が大幅に遅れる場合は、先行改良部の強度増加により接合箇所が施工不良となる。
・セメントを使用する材料は、CO2排出量が多いため、環境負荷が大きい。
・スラグ粉末は潜在水硬性を有するため、セメントの一部又は全てをスラグ粉末に置き換えることによって、化学抵抗性や耐海水性を高めたり、CO2排出量の抑制を図ることができる。しかしながら、スラグ粉末の比率が多くなると、ブリーディングや材料分離の増加、硬化遅延、強度発現遅延が顕著になる。強度発現促進のためのアルカリ刺激剤として水ガラスが用いられているが、従来の使用方法では、フロック状の不均一ゲルが生成されないため、ブリーディングや材料分離を抑制することができない。また、セメントの全てをスラグ粉末に置き換えても、カーボンニュートラル達成への寄与度は小さい。
【0004】
ちなみに、上記特許文献1~6に開示された発明には、以下の問題があった。
特許文献1の粘着性グラウトは、セメントを使用するため、可使時間を長時間持続できない。
特許文献2の地盤改良用固化材は、添加順序や添加撹拌方法が明確でなく、粘度調整もできない。
特許文献3の流動化砂は、消石灰を多量に混合するため、CO2排出量が多い。また、砂は天然資源を使用するため、サステナビリティに課題がある。
特許文献4のジオポリマーは、アルカリ溶液を20~60体積%の水で予め希釈しており、フロック状の不均一ゲルが生成されないため、圧送時のブリーディングや材料分離が大きくなる。
特許文献5~6のスラリーは、セメントを混合するため、CO2排出量が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6034530号公報
【特許文献2】特許第6968132号公報
【特許文献3】特開2021-25289号公報
【特許文献4】特許第6005408号公報
【特許文献5】特許第5590702号公報
【特許文献6】特許第6955967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記地盤改良を目的とした材料が有する問題点に鑑み、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できる増粘性スラグモルタル及びその製造方法を提供することを第1の目的とする。
【0007】
また、本発明は、CO2排出量の抑制を図ることができる増粘性スラグモルタルを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記第1の目的を達成するため、本発明の増粘性スラグモルタルは、スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルであって、以下(1)~(3)の条件を満たす増粘性スラグモルタルである。
(1)生成1時間後の増粘性スラグモルタルのブリーディング率が6%以内であること
(2)生成直後、1時間振とう後、3時間振とう後の増粘性スラグモルタルのテーブルフロー試験値が、250mm以上であること
(3)生成28日後の増粘性スラグモルタルの一軸圧縮試験値が、0.2MN/m2以上であること
ここで、増粘性スラグモルタルが、必要に応じて、ポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有することができる。
【0009】
また、同じ第1の目的を達成するため、本発明の増粘性スラグモルタルは、骨材、スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルであって、以下(1)~(3)の条件を満たす増粘性スラグモルタルである。
(1)生成28日後の膨張収縮率が-3%よりも膨張側であること
(2)生成直後の増粘性スラグモルタルのテーブルフロー試験値が、静置で80~200mm、打撃で115mm以上であること
(3)生成28日後の増粘性スラグモルタルの一軸圧縮試験値が、0.2MN/m2以上であること
ここで、増粘性スラグモルタルが、必要に応じて、ポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有することができる。
【0010】
この場合において、前記骨材が、人工骨材、再生骨材、コンクリートスラッジ固形分破砕骨材から選ばれた1種又は2種以上からなることができる。
【0011】
また、前記フィラーが、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ベントナイトから選ばれた1種又は2種以上からなることができる。
【0012】
また、上記第2の目的を達成するため、前記軽質炭酸カルシウムが、水酸化カルシウム水溶液と二酸化炭素(CO2)とを原料に製造されたものからなり、増粘性スラグモルタル1m3当たりのCO2排出量が-350~100kgであることができる。
【0013】
また、前記石膏粉末が、無水石膏と二水石膏の混合物であることができる。
【0014】
また、前記水ガラスが、酸化ナトリウムに対する無水珪酸のモル比が2.0~3.2、酸化ナトリウムの濃度が9~15重量%であることができる。
【0015】
また、前記スラグ粉末の粉末度が、3500~5000cm2/gであることができる。
【0016】
また、上記第1の目的を達成するため、本発明の増粘性スラグモルタルの製造方法は、スラグ粉末、石膏粉末、フィラー、水ガラス及び水を少なくとも含有し、セメントを含有せず、ポンプ圧送して使用される増粘性スラグモルタルの製造方法であって、
スラグ粉末、石膏粉末及びフィラーに水を加えてスラグモルタルを生成するスラグモルタル生成工程と、
前記スラグモルタル生成工程で生成したスラグモルタルに水ガラスを加えてフロック状の不均一ゲルを生成した後、撹拌して前記フロック状の不均一ゲルを砕いて微細化しながらゲル化を促進する水ガラス添加撹拌工程と
を備えることを特徴とする。
ここで、増粘性スラグモルタルの製造方法において、必要に応じて、ポンプ圧送性の改善のための混和剤を加えることができる。
【0017】
この場合において、前記スラグモルタル生成工程において、さらに骨材を加えることができる。
【0018】
また、前記水ガラス添加撹拌工程で生成したスラグモルタルに骨材を加えて撹拌することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の増粘性スラグモルタル及びその製造方法によれば、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できる増粘性スラグモルタル及びその製造方法を提供することができる。
また、用途に合わせて、一軸圧縮強さを0.2~30MN/m2に調整することができることから、地盤改良等を目的とした各種工法に広く用いることができる。
また、用途に合わせて、必要に応じて、ポンプ圧送性の改善のための混和剤を含有するようにすることができ、これにより、ポンプ圧送性を改善することができる。
【0020】
また、本発明の増粘性スラグモルタルによれば、水酸化カルシウム水溶液と二酸化炭素(CO2)とを原料に製造された軽質炭酸カルシウムを使用することにより、増粘性スラグモルタル1m3当たりのCO2排出量を-350~100kgとし、CO2排出量の抑制を図ることができ、環境負荷低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の増粘性スラグモルタルに、使用する骨材の粒径分布図である。
【
図2】増粘性スラグモルタルの製造方法Aの工程説明図である。
【
図3】増粘性スラグモルタルの製造方法Bの工程説明図である。
【
図4】増粘性スラグモルタルの製造方法Cの工程説明図である。
【
図5】増粘性スラグモルタルの製造方法Dの工程説明図である。
【
図6-1】テーブルフロー試験の結果を示す写真である。
【
図6-2】テーブルフロー試験の結果を示す写真である。
【
図7】プロペラ型の撹拌羽根及びパドル型の撹拌羽根をそれぞれ使用した場合の撹拌回転数とブリーディング率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の増粘性スラグモルタル及びその製造方法の実施の形態を説明する。
【0023】
まず、本発明の増粘性スラグモルタルの構成材料である、骨材、スラグ粉末、石膏粉末、フィラー及び水ガラスについて説明する。
【0024】
[骨材]
表1及び
図1に、本発明の増粘性スラグモルタルに使用する骨材を示す。
【0025】
【0026】
骨材を添加(増粘性スラグモルタルに対する骨材の好ましい添加量:0~1720kg/m3)することにより、経済性向上、コンクリートポンプによる圧送時の流動性の向上を図ることができる。
骨材には、人工骨材、再生骨材、コンクリートスラッジ固形分破砕骨材から選ばれた1種又は2種以上を使用することができ、天然資源不使用により、サステナビリティに貢献することができる。
骨材A及び骨材Bは、潜在水硬性を有しており、長期的な強度増加を図ることができる。
一方、骨材Cは潜在水硬性を有していないため、強度抑制を図りたい場合や材料の軽量化を図りたい場合に選択する。
【0027】
[スラグ粉末]
表2に、使用するスラグ粉末を示す。
【0028】
【0029】
スラグ粉末を添加(増粘性スラグモルタルに対するスラグ粉末の好ましい添加量:20~1020kg/m3)することにより強度発現を図ることができる。
比表面積3500~5000cm2/gが経済性に優れ調達が容易であるため、スラグ粉末A、スラグ粉末Bを使用したが、これに限定されず、5000~12000cm2/gのスラグ粉末も水ガラスとの反応性は同等以上であるため、これを使用しても同等以上の性能が得られることを確認した。
【0030】
[石膏粉末]
石膏粉末は、無水石膏(Anhydrite)と二水石膏(Gypsum)を予めスラグ粉末Aにプレミックスしたものを使用することができる。
プレミックス量は、
・無水石膏(Anhydrite):スラグ粉末当たりSO3=1.02wt%
・二水石膏(Gypsum):スラグ粉末当たりSO3=1.02wt%
・無水石膏(Anhydrite):二水石膏(Gypsum)=1:1
とした。
上記以外の添加量については、スラグ粉末Aに、
・無水石膏(Anhydrite):スラグ粉末当たりSO3=1.02wt%
・二水石膏(Gypsum):スラグ粉末当たりSO3=1.02wt%
をプレミックスした後、さらにそれに二水石膏(Gypsum)の試薬を添加したものを準備した。
【0031】
無水石膏(Anhydrite)及び二水石膏(Gypsum)と水ガラスのNa2Oとの反応により、ゲル化が生じる。
強度発現は、ゲル化に消費されたNa2Oの残りとスラグ粉末との反応により生じる。
ここでは、
・無水石膏(Anhydrite)+二水石膏(Gypsum)=スラグ粉末当たりSO3=2~23wt%
・無水石膏(Anhydrite)+二水石膏(Gypsum)=水ガラス当たりSO3=6~72wt%
・無水石膏(Anhydrite):二水石膏(Gypsum)=1:1~1:21
としたが、ゲル化を生じさせるために必要な量が確保されていればその比率は変動させてもよい。
【0032】
[フィラー]
フィラーには、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ベントナイトから選ばれた1種又は2種以上を使用したが、潜在水硬性を有しない材料であればこれに限定されず、カオリナイト、モンモリロナイト、イライト、ゼオライト、フライアッシュ、廃ガラス微粉末、消石灰等の無機粉末を使用することができる。
これらのフィラーを添加(増粘性スラグモルタルに対するフィラーの好ましい添加量:0~840kg/m3)することにより強度抑制を図ることができる。
フィラーに軽質炭酸カルシウムを使用することによって、増粘性スラグモルタル1m3当たりのCO2排出量を100kg以下、好ましくは、マイナス(具体的には、-350~100kg)を達成することができる。
薬液注入の一次注入として使用する場合は、二次注入を阻害しないために、一軸圧縮強さが1MN/m2程度以下であることが望ましい。
地盤改良後の地盤を将来的に掘削する可能性がある場合、土留構造物を設置する際の支障とならないように、一軸圧縮強さが0.5MN/m2程度以下であることが望ましい。
地下埋設杭を引き抜いた後に残る孔の埋戻し材料は、周辺地盤の強度と同程度となるように、一軸圧縮強さが0.2~0.5MN/m2程度であることが望ましい。
【0033】
[軽質炭酸カルシウム(フィラーA)]
表3に、使用する軽質炭酸カルシウムを示す。
【0034】
【0035】
軽質炭酸カルシウムには、コンクリート二次製品工場内で発生する高アルカリの廃水とボイラー排ガス中の二酸化炭素を反応させることにより、二酸化炭素を固定化したもの(例えば、商品名:エコタンカル。)を好適に用いることができる。
なお、軽質炭酸カルシウムには、コンクリートスラッジ由来の以外の軽質炭酸カルシウム、例えば、アセチレンガス製造時の副産物、製鉄時の副産物、廃コンクリート等をカルシウム源に用いることもできる。
軽質炭酸カルシウム1tを製造した際のCO2固定量は、軽質炭酸カルシウムに取り込まれたCO2量から軽質炭酸カルシウム1tの製造時に発生するCO2量を差し引くことで求められる。
まず、軽質炭酸カルシウムに取り込まれたCO2量は組成式と分子量から求めることができる。軽質炭酸カルシウムの組成式はCaCO3であり、その分子量は100g/molであり、そのうちCO2の分子量は44g/molである。これから、CaCO3の中でCO2が占める割合は、44%と計算できる。すなわち、軽質炭酸カルシウム1tを製造することにより、440kgのCO2固定が可能である。
一方、軽質炭酸カルシウム1t製造に発生するCO2量は約50kgと試算される。これには軽質炭酸カルシウムを製造する装置の消費電力から算出される。
これから、軽質炭酸カルシウム1t製造した際の正味のCO2固定量は、440kg-50kg=390kgと計算できる。
軽質炭酸カルシウム使用量は、各材料の製造時のCO2排出量を合計して、増粘性スラグモルタル1m3当たりのCO2排出量を100kg以下、好ましくは、マイナス(具体的には、-350~100kg)になる添加量を基本とする。
【0036】
[重質炭酸カルシウム(フィラーB)]
表4に、使用する重質炭酸カルシウムを示す。
【0037】
【0038】
[ベントナイト(フィラーC)]
表5に、使用するベントナイトを示す。
【0039】
【0040】
[水ガラス]
珪酸ソーダは、一般式Na2O・nSiO2・xH2Oで表され、以下の種類がある。
・無水珪酸ソーダ(カレット)・・・固体
・和水珪酸ソーダ(粉末珪酸ソーダ)・・・固体
・結晶性珪酸ソーダ(メタ珪酸ソーダ等)・・・固体
・液状珪酸ソーダ(水ガラス)・・・液体(水溶液)
本発明である使用する液状珪酸ソーダ(水ガラス)(本明細書において、「水ガラス」という。)は、珪砂とアルカリ源(ソーダ灰又は苛性ソーダ等)を溶融して製造される無水珪酸ソーダ(カレット)を原料とし、これを溶解して製造される。
表6に、水ガラスの種類を示す。
【0041】
【0042】
水ガラスの反応は、以下のとおりである。
酸との反応:
水ガラスに酸を加えると、珪酸イオン同士の重合が進み、ゲル状に固化する。
Na2O・nSiO2+H2SO4→nSiO2・H2O(珪酸ゲル)+NaSO4
多価金属イオンとの反応:
水ガラスは、Ca、Mg、Al、Baなどの多価金属と反応して、不溶性の珪酸塩ゲルを生成する。
Na2O・nSiO2+Ca(OH)2→CaO・nSiO2+2NaOH
Na2O・nSiO2+CaSO4→CaO・nSiO2+2Na2SO4
石膏とスラグの混合物に水ガラスを加えた場合、水ガラスが石膏と反応して、石膏とスラグの混合物がゲル化する。
この場合、反応量は石膏の量と水ガラスに含まれるNa2O濃度によって決まる。
同じSiO2濃度の水ガラスを使用した場合、表7に示す水ガラスDは水ガラスAと比較してNa2O濃度が低いため、ゲル化させるために多くの量を必要とする。使用量を増やした場合、SiO2量も増えるため、ゲルの強度が増大し可塑性が失われる。また、可塑性を維持できる配合を得ても、スラグの硬化を促進するためのアルカリが不足するため、必要強度を得るために時間を要することになる。
このため、水ガラスDより水ガラスCが好ましく、水ガラスCより水ガラスAの方が好ましいということができる。
一方、水ガラスAよりもNa2O濃度を上げた場合、水ガラスが不安定領域に入るため、低温時に結晶化しやすくなり好ましくない。
【0043】
【0044】
本発明の増粘性スラグモルタルの構成材料の各々の好ましい添加割合は、以下のとおりである。
(水ガラスWG+水W)/(スラグ粉末P+フィラーF)=63~250wt%
水ガラスWG/(スラグ粉末P+フィラーF)=3~25wt%
水W/(水ガラスWG+水W)=70~100wt%
骨材S/(骨材S+スラグ粉末P+フィラーF)=75~83wt%
【0045】
次に、本発明の増粘性スラグモルタルの製造及び室内試験に使用する装置について説明する。
【0046】
本発明の増粘性スラグモルタルの製造方法は、
スラグ粉末、石膏粉末及びフィラーに水を加えてスラグモルタルを生成するスラグモルタル生成工程と、
スラグモルタル生成工程で生成したスラグモルタルに水ガラスを加えてフロック状の不均一ゲルを瞬時に生成した後、撹拌して前記フロック状の不均一ゲルを砕いて微細化しながらゲル化を促進する水ガラス添加撹拌工程と
を備える。
このスラグモルタル生成工程及び水ガラス添加撹拌工程は、スラリーミキサーを使用(必要に応じて、モルタルミキサーを併用。)して実施する。
スラリーミキサーには、供試体(室内試験用)作成のために、東京硝子器機社製スラリーミキサー(製品名:Fineエコモーター)を使用した。ここで、スラリーミキサーの撹拌羽根には、高粘度材料の撹拌に適したパドル型の撹拌羽根を使用し、比較例47(表10-1)及び比較例66(表10-3)のみ、プロペラ型の撹拌羽根を使用した。
モルタルミキサーには、供試体(室内試験用)作成のために、マルイ社製モルタルミキサー(製品番号:MIC-362-1-01)を使用した。
なお、実施工用としては、例えば、北川鉄工所社製モルタルミキサー(製品名:WAシリーズ 強制二軸ミキサー)を使用することができる。
また、アジテータには、実施工用として、例えば、大都機械社製アジテータ(製品名:振動式大型アジテータ DAM-2000、DM-700A、SHA-1000)を使用することができる。
また、室内試験に使用する振とう機として、イワキ産業社製振とう機(製品番号:V-SX)を使用した。
【0047】
本発明の増粘性スラグモルタルは、地盤改良等を目的とした各種工法、例えば、
・地下構造物と地山との間に生じた空隙、あるいは軟弱地盤の止水や地盤強化を目的とした薬液注入の一次注入として削孔と地山との空隙に、増粘性スラグモルタルを注入するグラウト注入工法。
・軟弱地盤の地盤改良を目的とした中層混合処理工法、深層混合処理工法及び高圧噴射撹拌工法の硬化材として増粘性スラグモルタルを用いる地盤改良工法。
・建設発生土と混合して流動化処理土を得るための添加材として増粘性スラグモルタルを用いる流動化処理土製造方法。
・流動材を地盤中に圧入して周辺地盤の密度増加を図る液状化対策工法の流動材として増粘性スラグモルタルを用いる流動材圧入締固め工法。
・地下埋設杭を引き抜いた後に残る孔の埋戻し材料として増粘性スラグモルタルを用いる杭抜き跡充填工法。
等に広く用いることができる。
【0048】
実施工に際しては、以下の装置を使用することができる。
増粘性スラグモルタルの圧送には、汎用のコンクリートポンプやスラリーポンプ、例えば、シンテック社製コンクリートポンプ(製品番号:160-40-8)、ワイビーエム社製スラリーポンプ(製品番号:SG-40VII)を使用することができる。
【0049】
次に、本発明の増粘性スラグモルタルの製造方法について具体的に説明する。
本発明の増粘性スラグモルタルは、以下の方法によって、製造することができる。
・増粘性スラグモルタルの製造方法A(骨材無添加)(
図2)
・増粘性スラグモルタルの製造方法B(骨材添加)(
図3)
水ガラス添加撹拌工程で生成したスラグモルタルに骨材を加えて撹拌することで、増粘性スラグモルタルを製造するようにしている。
・増粘性スラグモルタルの製造方法C(骨材添加)(
図4)
スラグモルタル生成工程において、さらに骨材を加えることで、増粘性スラグモルタルを製造するようにしている。
・増粘性スラグモルタルの製造方法D(骨材無添加)(
図5)
【実施例0050】
表8-1~表8-2に供試体(室内試験用)として製造した増粘性スラグモルタルを、表9に表8-1~表8-2のCO2排出量の算出に用いた各材料生産時のCO2排出係数(各材料1tを製造する際に排出されるCO2の重量)を、それぞれ示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
表8-1~表8-2において、増粘性スラグモルタル単位量当たりのCO2排出量は、表9に示す各材料生産時のCO2排出係数を乗じて算出した。
実施例の増粘性スラグモルタルは、セメントを使用しないため、増粘性スラグモルタル1m3当たりのCO2排出量を100kg以下(最大で実施例2の82kg-CO2/m3。)であり、コンクリートの1/3以下であるため、環境負荷低減に寄与できる。特に、フィラーAの添加量が多くなると、CO2排出量がマイナスに転じて最大で-313kg-CO2/m3となり、環境負荷低減に寄与度が大きくなる。
【0055】
表10-1~表10-3に実施例と比較例を挙げ、製造方法A~Dで製造した増粘性スラグモルタルに対してブリーディング測定、振とう試験、テーブルフロー試験、膨張収縮率測定、一軸圧縮試験などの各試験により物性評価を行い、本発明の増粘性スラグモルタル効果を検証した。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
[ブリーディング試験]
増粘性スラグモルタルのポンプ圧送時においては、次の使用箇所への移動、段取り替え、トラブル等によって一時的にポンプを停止することがある。ポンプ停止中に配管内でブリーディングが多く発生すると、再圧送時にブリーディング水のみが先行して材料の品質が悪化する。
ブリーディング率は、円筒形の透明容器に増粘性スラグモルタルを入れ、増粘性スラグモルタルの沈降を測定することにより算出した。
本試験では、ブリーディングの許容値を1時間後に6%以内とした。
【0060】
[振とう試験]
増粘性スラグモルタルを製造後、ポンプ圧送までの間に、アジテータに一時的に貯留する。アジテータでゆっくり撹拌することによって材料分離を防ぐ。増粘性スラグモルタルの材料分離抵抗性が高ければ、可使時間を長時間持続できる。
本試験では、振とう機を用いてアジテータの撹拌を模擬した。70spmで3時間振とう後に容器を取り出して傾け、下部に材料の沈降の有無を目視確認した。
【0061】
[テーブルフロー試験]
(製造方法A及び製造方法B)
製造方法A及び製造方法B(骨材添加前)は、スラグモルタル生成工程、水ガラス添加撹拌工程においてスラリーミキサーを用いるため、各工程において、スラリーミキサーで撹拌可能な程度に適度な粘性である必要がある。
また、製造方法Aの増粘性スラグモルタルは、スラリーポンプで圧送するため、ポンプ圧送可能な程度に適度な粘性である必要がある。
本試験では、テーブルフロー試験Aで評価を行った。JHS 313コンシステンシー試験方法のシリンダー法に準じた。直後、1時間後、3時間後に試験を実施した。シリンダー寸法は、φ80mm×高さ80mmとした。直後は増粘性スラグモルタルを製造直後に測定し、その後、振とう機で撹拌し続け、1時間後、3時間後に、それぞれ容器から材料を取り出して測定した。
スラリーミキサーで製造可能、及びスラリーポンプで圧送可能となるフロー値は、250mm以上とした。250mm未満は不可と判定した。
水ガラス添加前のスラグモルタル生成工程の段階で、ダマが多く生じて粉末が水に分散しない場合も混練り不可と判定した。
【0062】
(製造方法B及び製造方法C)
製造方法B(骨材添加後)及び製造方法Cの増粘性スラグモルタルは、コンクリートポンプで圧送するため、ポンプ圧送可能な程度に適度な粘性が必要である。
本試験では、テーブルフロー試験Bで評価を行った。静置は、JHS 313コンシステンシー試験方法のシリンダー法に準じた。シリンダー寸法は、φ80mm×高さ80mmとした。打撃は、JIS R 5201フロー試験に準じた。ただし、フローコーンに代わりJHS 313コンシステンシー試験方法のシリンダーを使用した。
コンクリートポンプで圧送可能となるテーブルフロー値は、静置:80~200mm、打撃:115mm以上とした。
ここで、流動化処理土、杭抜き跡充填での使用は、静置120~200mmを想定、流動材圧入締固め工法での使用は、打撃115mm以上を想定。
【0063】
[膨張収縮率]
製造方法B及び製造方法Cによる増粘性スラグモルタルを、流動化処理土、杭抜き跡充填、流動材圧入締固め工法で使用する場合、硬化後に収縮が少ないことが望ましい。収縮が大きい場合、近接構造物や地山との間に隙間が生じて性能低下が懸念される。
本試験では、増粘性スラグモルタルが硬化後(28日後)の膨張収縮率が-3%よりも膨張側であることを確認した。
【0064】
[試験1]
材料組成(石膏添加有無、水ガラス添加有無)の評価、製造方法Aと製造方法Dの比較のため、ブリーディング試験を実施した。
判定基準:
・ブリーディング率:6%以内(1時間後)
試験結果を表11に示す。
【0065】
【0066】
表11に示す試験結果から以下のことが分かった。
・石膏無添加は判定基準値を超過した(比較例1、2、5)。
・水ガラス無添加は判定基準値を超過した(比較例6)。
・石膏及び水ガラス無添加は判定基準値を超過した(比較例7)。
・配合比が同じで撹拌回転数を変化させた場合、撹拌回転数が100rpm未満はフロック状の不均一ゲルの微細化が十分に行われず判定基準値を超過したが、撹拌回転数が400~700rpmと大きくなると、ブリーディングが小さくなり判定基準値内であった(実施例15、18、19、比較例9、10)。
・水ガラスを先に希釈してSiO2濃度が28%未満になると、フロック状の不均一ゲルが瞬時に生成されず判定基準値を超過した(比較例11、62、63)。
【0067】
[試験2]
28日後に一軸圧縮強さが200kN/m2以上となる、水ガラス当たりSO3添加率の範囲を確認するための試験を行った。
判定基準:
・28日後にサミットモールドを脱型する際、形が崩れた場合、未固結と判定。
・脱型して形が崩れない供試体のみ一軸圧縮試験に供した。
・一軸圧縮強さが200kN/m2以上となる、水ガラス当たりSO3添加率の範囲を確認した。
試験結果を表12に示す。
【0068】
【0069】
表12に示す試験結果から以下のことが分かった。
・フィラー添加配合はフィラー無添加と比べて、水ガラス当たりSO3が一定量を超えると硬化しにくくなる。
・フィラーBはフィラーAと比べて、水ガラス当たりSO3が多くなると硬化しにくくなる。
・モル比が大きい水ガラスはNa2Oが少ないため、水ガラス当たりSO3が多くなるとゲル化にNa2Oが消費されて、硬化に必要なNa2Oが不足する。
【0070】
[試験3]
製造方法Aにおける材料組成の好ましい範囲、可使時間の確認のため、ブリーディング試験、テーブルフロー試験A、3時間振とう試験、一軸圧縮試験を行った。
判定基準:
・ブリーディング率:6%以内(1時間後)
・テーブルフロー試験A:直後、1時間振とう後、3時間振とう後において、250mm
以上
・3時間振とう:容器を取り出して傾け、下部に材料の沈降がないこと
・一軸圧縮試験:0.2MN/m2以上(28日後)
・28日後にサミットモールドを脱型する際、形が崩れた場合、未固結と判定。
試験結果を表13に示す。
【0071】
【0072】
表13に示す試験結果から以下のことが分かった。
・比較例60は、直後~1時間振とう後の間に流動性を失ったためフロー試験が実施でき
なかった。
・比較例61は、直後以降流動性を失った。
・比較例51、52、57、58は28日後において固結しなかった。
【0073】
[試験4]
骨材を添加する場合の好ましい範囲を確認するための試験を行った。
判定基準:
・テーブルフロー試験B:静置において、80~200mm
コンクリートポンプで圧送可能となるテーブルフロー値
シリンダー引き上げ後、材料分離しないこと
流動化処理土、杭抜き跡充填での使用は、静置120~200mmを想定
・テーブルフロー試験B:打撃において、115mm以上
コンクリートポンプで圧送可能となるテーブルフロー値
打撃により材料分離しないこと
・膨張収縮率:-3%よりも膨張側(28日後)
・一軸圧縮試験:0.2MN/m
2以上(28日後)
試験結果を表14及び
図6-1~
図6-2に示す。
【0074】
【0075】
表14及び
図6-1~
図6-2に示す試験結果から以下のことが分かった。
・比較例67は、塑性状であり、ポンプ圧送が不可。
・比較例68は、シリンダーを引き上げ後に骨材の隙間からスラリーが分離した。打撃後にさらにスラリーが分離。分離が大きいため、ポンプ圧送不可。
・ポンプ圧送可能な流動性を得るには、(水ガラスWG+水W)/(スラグ粉末P+フィラーF)≧63wt%(63.7wt%)以上であることが好ましい。
・(水ガラスWG+水W)/(スラグ粉末P+フィラーF)が63~250wt%(63.7~243.6wt%)の範囲で、かつ、スラグ粉末A添加量22.3kg/m
3以上であれば、一軸圧縮強さ0.2MN/m
2以上を確保できる。
・骨材はゲル化に影響しない材料で、流動性が損なわれない範囲の添加量であればよく、スラグ骨材、コンクリートスラッジ固形分破砕骨材のほかに、天然骨材、人工軽量骨材、コンクリートから製造した再生骨材なども使用できる。
【0076】
ところで、比較例47、50、66は、スラリーミキサーの撹拌羽根に、高粘度材料の撹拌に適したパドル型の撹拌羽根ではなく、プロペラ型の撹拌羽根を使用して撹拌を行ったため、スラグモルタル生成工程及び水ガラス添加撹拌工程において、十分な撹拌が行われなかったことが考えられる。
そこで、比較例47に示す配合比で、プロペラ型の撹拌羽根及びパドル型の撹拌羽根をそれぞれ使用した場合の撹拌回転数とブリーディング率との関係を確認するための試験を行った。
試験結果を
図7に示す。
【0077】
図7に示す試験結果から以下のことが分かった。
・高粘度材料の撹拌に適したパドル型の撹拌羽根の場合、撹拌回転数が100rpm未満はフロック状の不均一ゲルの微細化が十分に行われず判定基準値を超過するが、撹拌回転数がそれより大きくなると、ブリーディングが小さくなり判定基準値内(6%以内)となる。
・プロペラ型の撹拌羽根の場合、撹拌回転数が600rpm未満はフロック状の不均一ゲルの微細化が十分に行われず判定基準値を超過するが、撹拌回転数がそれより大きくなると、ブリーディングが小さくなり判定基準値内(6%以内)となる。
・スラリーミキサーの撹拌羽根には、高粘度材料の撹拌に適したパドル型の撹拌羽根を用いることが好ましく、プロペラ型の撹拌羽根を用いる場合は、撹拌回転数を大きくする等、十分な撹拌が行われるようにする必要がある。
【0078】
また、コンクリートポンプとして、スクイズポンプやピストンポンプを用いた増粘性スラグモルタルのポンプ圧送時において、特殊な条件、例えば、圧送距離が長いとき、吐出量を増やす必要があるとき、地盤に圧入して締め固めるとき等の場合に、脱水等によって材料分離が生じて圧送圧力が上昇し、配管が閉塞して圧送不可となることがある。
ポンプ圧送性の改善のため、以下の混和剤の添加試験を行った。
[試験5]
表15に、使用する混和剤を示す。
【0079】
【0080】
[混和剤添加試験1]
配管が閉塞しない条件を調べるため、実施例41と同じ配合比で混和剤Aの添加量を変化させたときのポンプ圧送の可否を確認し、併せて、加圧ブリーディング試験(土木学会コンクリート標準示方書JSCE-F 502)を実施して60秒脱水率及び最終脱水率を調べた。コンクリートポンプとして、スクイズポンプには、岡三機工社製、型番:OPK-07Mを、ピストンポンプには、シンテック社製、型番:SP-7Eを用いた。混和剤Aは、水ガラス添加撹拌工程において水ガラスを添加後に30秒以上撹拌した後に添加し、混和剤Aを添加後に90秒以上撹拌した。
試験結果を表16に示す。
【0081】
【0082】
表16に示す試験結果から以下のことが分かった。
・スクイズポンプ
圧力0.5MPaで圧送可能となる条件:60秒脱水率が4%程度以下かつ最終脱水率
が17%程度以下。
・ピストンポンプ
圧力2MPaで圧送可能となる条件:60秒脱水率が15%程度以下かつ最終脱水率が30%程度以下。
圧力3MPaで圧送可能となる条件:60秒脱水率が4%程度以下かつ最終脱水率が17%程度以下。
圧力5MPaで圧送可能となる条件:60秒脱水率が4%程度以下かつ最終脱水率が10%程度以下。
【0083】
[混和剤添加試験2]
増粘性スラグモルタルに最適な混和剤の種類、添加量の決定方法の検討のため、実施例41と同じ配合比で混和剤A~Dの添加量を変化させて混練し、加圧ブリーディング試験(土木学会コンクリート標準示方書JSCE-F 502)を実施して60秒脱水率及び最終脱水率を調べた。混和剤A~Dは、水ガラス添加撹拌工程において水ガラスを添加後に30秒以上撹拌した後に添加し、混和剤A~Dを添加後に90秒以上撹拌した。
試験結果を表17に示す。
【0084】
【0085】
表17に示す試験結果から以下のことが分かった。
・スクイズポンプ0.5MPaかつピストンポンプ圧力5MPaで圧送可能となる最低添加量は以下のとおりとなった。ただし、混和剤Cは添加量を増やしても60秒脱水率が低下せず、圧力5MPaで圧送不可となった。
混和剤A:水に対して0.2%
混和剤B:水に対して0.1%
混和剤C:圧送不可
混和剤D:水に対して0.1%
スクイズポンプ0.5MPa、ピストンポンプ圧力5MPaのしきい値は、例えば、空洞充填注入工や地盤に圧入して締め固める締固め工における施工管理値の例として設定したが、これ以外の圧力をしきい値とする条件において上記試験1、2を行えば、圧送可能となる混和剤の添加量の最低値を得ることができる。
【0086】
以上、本発明の増粘性スラグモルタル及びその製造方法について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
本発明の増粘性スラグモルタル及びその製造方法は、瞬時に増粘させて圧送時のブリーディングや材料分離を低減しつつ、可使時間を長時間持続できる増粘性スラグモルタル及びその製造方法を提供することができ、特に、CO2排出量の抑制を図ることができる増粘性スラグモルタルを提供することから、地盤改良等を目的とした各種工法に広く用いることができる。