(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032796
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ブレーク装置
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20240305BHJP
B28D 7/04 20060101ALI20240305BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20240305BHJP
C03B 33/033 20060101ALI20240305BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
B28D7/04
B26F3/00 A
C03B33/033
H01L21/78 T
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005070
(22)【出願日】2024-01-17
(62)【分割の表示】P 2020554771の分割
【原出願日】2019-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018204163
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】三谷 卓朗
(57)【要約】
【課題】ブレークを繰り返し行う場合であっても、実行の都度、ブレークを好適に行うことができるブレーク装置を提供する。
【解決手段】水平面内で回転するモータと、モータの回転動作をブレークバーの昇降動作に変換する動作変換機構と、モータの動作を制御するモータ制御部と、モータに作用するトルクを検知するトルク検知部と、ブレーク装置の各部の動作を制御することによりブレーク対象物に対するブレークを実行させるブレーク処理部と、を有してなり、一方主面を支持部に接触させる状態でブレーク対象物が支持部に載置固定されてなる状態においてモータ制御部にモータを回転させることにより、ブレークバーをブレーク対象物の他方主面であってスクライブラインの形成位置に対応する位置に向けて下降させ、ブレークバーが下降しているときにトルク検知部において検知されるトルクの変化に基づいて、ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ一方主面にスクライブラインが形成されてなるブレーク対象物を前記スクライブラインに沿って他方主面側からブレークすることで分断する装置であって、
前記ブレーク対象物が載置固定される支持部と、
前記支持部の上方に設けられてなり、下端に刃先を有するブレークバーと、
前記ブレークバーを昇降させる昇降機構と、
前記装置の各部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記昇降機構が、
水平面内で回転するモータと、
前記モータの回転動作を前記ブレークバーの昇降動作に変換する動作変換機構と、
を有してなり、
前記制御部が、
前記モータの動作を制御するモータ制御部と、
前記モータに作用するトルクを検知するトルク検知部と、
前記装置の各部の動作を制御することにより前記ブレーク対象物に対するブレークを実行させるブレーク処理部と、
を有してなり、
前記ブレーク処理部は、前記一方主面を前記支持部に接触させる状態で前記ブレーク対象物が前記支持部に載置固定されてなる状態において前記モータ制御部に前記モータを回転させることにより、前記動作変換機構を動作させて前記ブレークバーを前記ブレーク対象物の他方主面であって前記スクライブラインの形成位置に対応する位置に向けて下降させ、前記ブレークバーが下降しているときに前記トルク検知部において検知される前記トルクの変化に基づいて、前記ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断し、
前記ブレーク処理部は、所定の時間間隔で前記トルク検知部において検知される前記トルクの値を取得し、前記ブレークバーが下降しており、かつ、前記トルクの値が、前記ブレークバーが前記ブレーク対象物に確実に押し込まれているときの前記トルクの値に相当する所定の第1の閾値以上であるときに、最新の前記トルクの値を取得した都度、当該最新の前記トルクの値を従前に取得した前記トルクの最大値に基づいて定まる第2の閾値と比較し、前記最新の前記トルクの値が前記第2の閾値以下である場合に、前記ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断する、
ことを特徴とする、ブレーク装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーク装置であって、
前記第2の閾値が、前記トルクの最大値に係数α(0<α<1)を乗じた値である、
ことを特徴とする、ブレーク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクライブラインに沿って対象物をブレークする装置に関し、特にその動作の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガラス基板、半導体基板、セラミックス基板などの脆性材料基板その他の板状の分断対象物を分断する手法として、当該分断対象物の一方主面にスクライブラインを形成し、該スクライブラインから垂直クラックを伸展させるスクライブ工程を行った後、外力の印加によって係るクラックを厚み方向にさらに伸展させることにより当該分断対象物をブレークするブレーク工程を行う、という手法がすでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレーク工程は、鉛直方向に昇降自在なブレークバーを備えるブレーク装置によって実行されるのが一般的である。係るブレーク工程は概略、あらかじめ一方主面側において分断予定位置にスクライブラインを形成してなる分断対象物の他方主面側において、ブレークバーの先端に備わる刃先を分断予定位置に沿って当接させ、該刃先をさらに押し込むことによって、行われる。係る場合においては、分断対象物の保護や支持を目的として、表面や裏面にフィルムやテープ(ダイシングテープ)といった部材が添付された状態で、ブレークが実行されることもある。
【0005】
同一種類の分断対象物に対し多数回のブレークを繰り返し行う場合、分断対象物の条件が同じであれば、具体的には、分断対象物の材質や厚み、さらには、スクライブラインの形成状態などが同じであれば、原理的にはあらかじめ適切に定めた一の押し込み条件(押し込み量)に従ってブレークを行うことが可能なはずである。
【0006】
しかしながら、実際には、分断対象物や保護部材に厚みバラツキが存在していたり、ブレークに際して分断対象物を支持する支持部に厚みバラツキ(表面起伏)が存在していたり、ブレーク位置を位置決めするための支持部の駆動機構の並進動作や回転動作などにバラツキがあるなどの理由により、適切に定めたはずの押し込み条件では刃先の押し込みが十分ではなく、ブレークが良好に行われないことがある。それゆえ、このような押し込み不足という不具合の発生を防ぐ目的で、ブレークに際し、本来の最適値よりも数十μm程度多めに刃先の押し込み量を規定した押し込み条件が設定されることがある。
【0007】
しかしながら、係る態様での押し込み条件の設定は逆に、押し込み過ぎの状況を生じさせることがある。ブレークバーの押し込み過ぎは、分断対象物におけるチッピング(欠け)を発生させる原因となる。チッピングの発生は、ブレーク品質の劣化に他ならない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ブレークを繰り返し行う場合であっても、実行の都度、ブレークを好適に行うことができるブレーク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、あらかじめ一方主面にスクライブラインが形成されてなるブレーク対象物を前記スクライブラインに沿って他方主面側からブレークすることで分断する装置が、前記ブレーク対象物が載置固定される支持部と、前記支持部の上方に設けられてなり、下端に刃先を有するブレークバーと、前記ブレークバーを昇降させる昇降機構と、前記装置の各部の動作を制御する制御部と、を備え、前記昇降機構が、水平面内で回転するモータと、前記モータの回転動作を前記ブレークバーの昇降動作に変換する動作変換機構と、を有してなり、前記制御部が、前記モータの動作を制御するモータ制御部と、前記モータに作用するトルクを検知するトルク検知部と、前記装置の各部の動作を制御することにより前記ブレーク対象物に対するブレークを実行させるブレーク処理部と、を有してなり、前記ブレーク処理部は、前記一方主面を前記支持部に接触させる状態で前記ブレーク対象物が前記支持部に載置固定されてなる状態において前記モータ制御部に前記モータを回転させることにより、前記動作変換機構を動作させて前記ブレークバーを前記ブレーク対象物の他方主面であって前記スクライブラインの形成位置に対応する位置に向けて下降させ、前記ブレークバーが下降しているときに前記トルク検知部において検知される前記トルクの変化に基づいて、前記ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断する、ようにした。
【0010】
さらに、本発明の第1の態様は、第1の態様に係るブレーク装置において、前記ブレーク処理部は、所定の時間間隔で前記トルク検知部において検知される前記トルクの値を取得し、前記ブレークバーが下降しており、かつ、前記トルクの値が、前記ブレークバーが前記ブレーク対象物に確実押し込まれているときの前記トルクの値に相当する所定の第1の閾値以上であるときに、最新の前記トルクの値を取得した都度、当該最新の前記トルクの値を従前に取得した前記トルクの最大値に基づいて定まる第2の閾値と比較し、前記最新の前記トルクの値が前記第2の閾値以下である場合に、前記ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断する、ようにした。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るブレーク装置において、前記第2の閾値が、前記トルクの最大値に係数α(0<α<1)を乗じた値である、ようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1ないし第2の態様によれば、ブレークを繰り返し行う場合であってもその都度、ブレークバーの押し込み不足や押し込み過ぎといった従来のブレーク処理において生じていた不具合を生じさせることなく、ワークを確実にブレークすることが出来る。
【0013】
特に、第1および第2の態様によれば、ブレークの完了を速やかにかつ確実に把握することが出来るので、ブレークバーの押し込み過ぎを回避することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ブレーク装置100の概略的な構成を示す図である。
【
図2】ブレーク装置100におけるブレークバー1の昇降動作の制御に係る構成を概略的に示す図である。
【
図3】ブレーク処理の開始から終了までの間におけるサーボモータ4のトルクTの変化を、サーボモータ4の回転の様子と、ワークWとブレークバー1との位置関係の変化とともに、示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ブレーク装置の概要>
図1は、本実施の形態に係るブレーク装置100の概略的な構成を示す図である。なお、
図1には、水平面をxy平面とし、鉛直方向上向きをz軸正方向とする、右手系のxyz座標を付している。
【0016】
ブレーク装置100は、ブレーク対象物(以下、ワークとも称する)Wを、分断予定位置に沿って分断するための装置である。ワークWにおいては、その一方主面側に、あらかじめ分断予定位置に沿ってスクライブラインSLが設けられてなる。
【0017】
ブレーク装置100は、長手方向に垂直な断面が三角形状をなしている刃先1eを下端に備え、鉛直方向(z軸方向)に昇降自在に設けられたブレークバー1と、ワークWが載置される支持部2とを主に備える。
図1においては、支持部2の上方に設けられたブレークバー1の刃先1eの延在方向(長手方向)がy軸方向に合致しており、支持部2が互いにx軸方向において離隔している一対の支持部2a、2bである場合を例示している。なお、支持部2は、少なくともその最上部が一の連続した弾性体からなる態様であってもよい。また、図示しない駆動機構により並進動作や回転動作が行えるようになっており、これらの動作によってワークWの位置決めを行える態様であってもよい。
【0018】
ブレーク装置100においてワークWをブレークするブレーク処理を行う際、ワークWは、スクライブラインSLが設けられてなる一方主面が支持部2との接触面となり、かつ、スクライブラインSLの延在方向がブレークバー1の刃先1eの延在方向(
図1においてはy軸方向)と一致する姿勢にて、図示しない適宜の固定手段にて支持部2に載置固定される。
【0019】
なお、
図1においては図示の簡単のために省略しているが、ワークWの種類やサイズなどによっては、その保護や支持を目的として、表面や裏面にフィルムやテープ(ダイシングテープ)といった部材が添付された状態で、支持部2に載置固定されることもある。
【0020】
そして、上述した態様にてワークWが載置固定されると、矢印AR1にて示すように、この時点でワークWの上面となっている、スクライブラインSLが形成されていない他方主面に向けて、ブレークバー1が下降させられる。ブレークバー1は、当該他方主面においてスクライブラインSLの形成位置に対応するブレーク位置Pに当接させられ、さらに押し下げられる(押し込まれる)。すると、3点曲げの原理によってワークWがスクライブラインSLからブレーク位置Pに向けてクラックが伸展し、結果として、ワークWが分断される。
【0021】
図2は、ブレーク装置100におけるブレークバー1の昇降動作の制御に係る構成を概略的に示す図である。ブレーク装置100は、ブレークバー1の実際の昇降を担う昇降機構10と、係る昇降機構10を含むブレーク装置100の各部の動作を制御するコントローラ20と、作業者がブレークの実行指示その他を入力する際に操作する操作部30とを主として備える。
【0022】
昇降機構10は、堅牢な支持体(昇降機構10のフレーム、天板等)3に付設されてなるとともに図示しない回転軸が水平面内(xy平面内)で正逆回転自在とされてなるサーボモータ4と、サーボモータ4の回転軸に直結され鉛直下方に延在するねじ軸5と、ブレークバー1を保持するホルダ6と、ホルダ6が着脱自在に固設される昇降部7と、昇降部7に付設されてなり、ねじ軸5と螺合してボールねじを構成するナット8とを備える。係る昇降機構10においては、サーボモータ4の所定範囲内の正逆回転動作が、ボールねじを介して、昇降部7の所定範囲内での昇降動作に変換されるようになっている。換言すれば、ねじ軸5とナット8と昇降部7とは、サーボモータ4の回転動作をブレークバー1の昇降動作に変換する動作変換機構を構成してなる。そして、ブレークバー1を保持するホルダ6が刃先1eを下端とする姿勢にて固設された状態で、サーボモータ4の回転に伴い昇降部7が下降させられることで、ブレークバー1によるワークWのブレークが可能となっている。
【0023】
なお、
図2に示す昇降機構10の構成および各部の形態はあくまで概略的なものであって、同様の動作が実現される限りにおいて、実際の構成は図示したものと異なっていてもよい。
【0024】
コントローラ20は、モータ制御部21と、トルク検知部22と、ブレーク処理部23とを、主として備える。
【0025】
モータ制御部21は、ブレーク処理部23からの動作指示および停止指示に応答して、サーボモータ4に対し動作信号および停止信号を与え、サーボモータ4の動作を開始および停止させる。
【0026】
トルク検知部22は、サーボモータ4の回転時にサーボモータ4に作用するトルクを検知する。トルク検知部22によって検知されたトルクの値は、ブレーク処理部23により絶えずモニタされ、必要に応じて取得されて、ブレーク状態の判定に用いられる。
【0027】
ブレーク処理部23は、操作部30を通じた実行指示に応答してブレーク装置100の各部の動作を制御することにより、ブレーク装置100においてワークWに対するブレーク処理を実行させる。
【0028】
<ブレーク処理>
以下、ブレーク装置100において行われるブレーク処理について説明する。
図3は、ブレーク処理の開始から終了までの間におけるサーボモータ4のトルクTの変化を、サーボモータ4の回転の様子と、ワークWとブレークバー1との位置関係の変化とともに、示す図である。また、
図4は、ブレーク処理の手順を示す図である。
【0029】
まず、ワークWが上述のような姿勢にて支持部2に載置固定され、ブレークバー1が所定の初期位置に配置されてなる状態(t=t1)において、操作部30を通じてブレーク処理の実行指示が与えられると(ステップS1)、ブレーク処理部23はモータ制御部21にサーボモータ4を動作させる指示を与える。これに応答したモータ制御部21がサーボモータ4に動作信号を与えることで、サーボモータ4の回転が開始され、これによりブレークバー1の下降が開始される(ステップS2)。以降、ブレーク処理部23から停止指示が与えられるまで、サーボモータ4の回転によるブレークバー1の下降は継続される。また、ブレークバー1の下降開始に合わせて、トルク検知部22によるサーボモータ4のトルクTの検知と、ブレーク処理部23によるトルクTの値のモニタも開始される。
【0030】
より詳細には、
図3に示すように、t=t1における実行指示直後には、静止しているブレークバー1を移動させるために、サーボモータ4にはいったん大きな加速トルクTaがはたらき、ブレークバー1は加速されるが、程なくしてトルクTの値は低下し、t=t2以降、しばらくの間は、サーボモータ4におけるトルクTの値は加速トルクTaよりも小さい略一定の値(ほぼゼロ)となる。これによりブレークバー1の移動もほぼ等速となる。
【0031】
ブレークバー1が下降を開始した以降、所定の時間Δtaが経過すると(ステップS3)、ブレーク処理部23はモニタしているトルクTのその時点における値を取得し(ステップS4)、係るトルクTの値が所定の閾値Tb以上であるか否かを判定する(ステップS5)。係る判定は、ブレークバー1によるワークWの押し込みが確実に開始されている状態を把握するべく行う。
【0032】
ここで、閾値Tbは、ブレークバー1によるワークWの押し込みが確実になされている状態に相当するトルクTの値である。閾値Tbの値は、ワークWの材質や厚み、ブレークバー1のスペックなどを踏まえつつ、あらかじめ実験的に定められればよい。ただし、閾値Tbは、誤判定を防ぐべく、加速トルクTaよりも大きな値に設定される。また、ブレークバー1の下降速度にもよるが、Δtaの値は0.125msec~1msec程度に定められるのが好適である。
【0033】
図3に示す場合であれば、厳密にはt=t3の時点でブレークバー1がワークWに当接しており、以降、ブレークバー1はワークWに押し込まれており、それゆえトルクTの値も増大することになるが、本実施の形態においては、それよりも後の、トルクTの値がTbとなるt=t4の時点に到達して初めて、ブレークバー1のワークWに対する押し込みがなされているか否かを、判定していることになる。
【0034】
なお、
図3に示すように、ワークWに当接するまでに等速になっているブレークバー1は、ワークWと当接し、ワークWに押し込まれる状態となって移動する。
【0035】
ステップS4で取得されたトルクTの値が閾値Tb未満であった場合(ステップS5でNO)、ステップS3以降の処理が繰り返される。すなわち、ブレーク処理部23が所定の時間Δtaが経過した後に再び、トルクTの値を取得して閾値Tbと比較する。
【0036】
一方、ステップS4で取得されたトルクTの値が閾値Tb以上であった場合(ステップS5でTES)、ブレーク処理部23は、その時点でのトルクTの値を最大値Tmaxであると設定する(ステップS6)。
【0037】
そして、その後さらに所定の時間Δtbが経過した地点で(ステップS7)、ブレーク処理部23はモニタしているトルクTのその時点における値を取得し(ステップS8)、係るトルクTの値が最大値Tmaxに所定の係数α(0<α<1)を乗じた値として定められる閾値αTmax以下であるか否かを判定する(ステップS9)。
【0038】
係る判定は、ワークWに対するブレークバー1の押し込みが開始されて以降、徐々に増大していくサーボモータ4のトルクTの値が、スクライブラインSLから伸展したクラックが他方主面に到達しまさにブレークが完了しようとする瞬間に最大値となり、ワークWのブレークの完了とともに、急激に低下することを踏まえてなされるものである。閾値αT
maxは、最大値に到達後、値が確実に低下していると判断される状態に相当するトルクTの値、つまりは、ブレークが確実に完了していると判断される、トルクTの値である。
図3に示す場合においては、t=t3以降増大しているトルクTの値が最大値Tcに到達しており、以降は乱高下しつつも低下しているt=t5の時点で、ワークWはブレークされていることになる。
【0039】
具体的には、時間Δtbごとに絶えず更新している最大値Tmaxに対する、最新のトルクTの値の比率が、あらかじめ定めた係数α以下となった場合、ワークWのブレークが完了したと判断できることを利用している。なお、係数αの値は、ワークWの材質や厚み、ブレークバー1のスペックなどを踏まえつつ、あらかじめ実験的に定められればよいが、例えばα=0.01とした場合、トルクTの値が最大値から1%以上低下していれば、ワークWのブレークが完了したと判断することができる。また、ブレークバー1の下降速度にもよるが、Δtbの値は0.125msec~1msec程度(例えば0.5msec)に定められるのが好適である。
【0040】
ステップS8で取得されたトルクTの値が閾値αT
maxを超えていると判定された場合(ステップS9でNO)、ステップS6以降の処理が繰り返される。すなわち、ブレーク処理部23は判定の対象としたトルクTの値を新たに最大値T
maxとして設定し、所定の時間Δtbが経過した後に再び、トルクTの値を取得して閾値αT
maxと比較する。当然ながら、
図3のt=t4からt=t5の間のように、トルクTの値が増大している間は、従前に設定したT
maxの値よりも直近に取得したトルクTの値の方が大きいため、ステップS9においてYESと誤判定されることはない。
【0041】
一方、ステップS8で取得された最新のトルクTの値が閾値αT
max以下であったと判定された場合(ステップS9でYES)、その時点までにワークWのブレークが完了していることになるので、ブレーク処理部23はモータ制御部21にサーボモータ4を停止させる指示を与える。これに応答したモータ制御部21がサーボモータ4に停止信号を与えることで、サーボモータ4の回転が停止され、これによりブレークバー1の下降が停止される(ステップS10)。
図3においては、t=t6でブレークバー1の下降が停止されたものとしている。そして、係るブレークバー1の下降の停止をもって、ブレーク処理が終了したことになる(ステップS11)。
【0042】
以上の手順にて行う、本実施の形態に係るブレーク処理においては、サーボモータ4におけるトルク値の変化に基づいて、ワークWのブレークが完了したことを確実に判断し、その後速やかにブレークバー1を減速させ、停止させることができる。それゆえ、たとえワークW等に厚みバラツキが存在していたり、ブレークに際して支持部2に厚みバラツキ(表面起伏)が存在していたり、支持部2の駆動機構の並進動作や回転動作などにバラツキがあるような場合であっても、ブレークバー1の押し込み不足や押し込み過ぎといった従来のブレーク処理において生じていた不具合を生じさせることなく、ワークWを確実にブレークすることが出来る。係る場合においてブレーク処理部23は、ワークWのブレークが完了したことを判断するブレーク完了判断部として機能しているといえる。
【0043】
そして、このことは、ブレークを繰り返し行う場合であっても、実行の都度、ブレークを好適に行うことができることを意味している。
【0044】
付言すれば、係る場合において、実際のブレークの完了時刻であるt=t5からブレークバー1の下降の停止時刻であるt=t6までの間にブレークバー1が進行する距離は、ブレークバー1の下降速度やコントローラ20の処理速度などにもよるために一概にはいえないものの、例えばワークWがガラス基板である場合であれば、最大でもせいぜい数μm程度に留めることが可能である。これは、従来のブレーク処理において行われていた、押し込み不足を避けるために本来の最適な押し込み量に加算する押し込み量(数十μm程度)に比して、小さい値である。
【0045】
また、本実施の形態に係るブレーク処理においては、ブレークの完了を速やかにかつ確実に把握することが出来るので、ブレークバーの押し込み過ぎを回避することが出来る。
【0046】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ブレークバーを下降させるサーボモータのトルク変化に基づいて、ワークに対するブレークの完了を確実に判断し、その後速やかに停止させるようにすることで、ブレークを繰り返し行う場合であってもその都度、ブレークバーの押し込み不足や押し込み過ぎといった従来のブレーク処理において生じていた不具合を生じさせることなく、ワークを確実にブレークすることが出来る。
【符号の説明】
【0047】
1 ブレークバー
1e (ブレークバーの)刃先
2(2a、2b) 支持部
4 サーボモータ
5 (ボールねじの)ねじ軸
6 ホルダ
7 昇降部
8 (ボールねじの)ナット
10 昇降機構
100 ブレーク装置
SL スクライブライン
W ブレーク対象物(ワーク)
【手続補正書】
【提出日】2024-02-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
あらかじめ一方主面にスクライブラインが形成されてなるブレーク対象物を前記スクライブラインに沿って他方主面側からブレークすることで分断する装置であって、
前記ブレーク対象物が載置固定される支持部と、
前記支持部の上方に設けられてなり、下端に刃先を有するブレークバーと、
前記ブレークバーを昇降させる昇降機構と、
前記装置の各部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記昇降機構が、
水平面内で回転するモータと、
前記モータの回転動作を前記ブレークバーの昇降動作に変換する動作変換機構と、
を有してなり、
前記制御部が、
前記モータの動作を制御するモータ制御部と、
前記モータに作用するトルクを検知するトルク検知部と、
前記装置の各部の動作を制御することにより前記ブレーク対象物に対するブレークを実行させるブレーク処理部と、
を有してなり、
前記ブレーク処理部は、
前記一方主面を前記支持部に接触させる状態で前記ブレーク対象物が前記支持部に載置固定されてなる状態において前記モータ制御部に前記モータを回転させることにより、前記動作変換機構を動作させて前記ブレークバーを前記ブレーク対象物の上方から前記ブレーク対象物の他方主面であって前記スクライブラインの形成位置に対応する位置に向けて下降させ、
前記ブレークバーの下降の開始後、前記ブレーク対象物に当接する前から所定の時間間隔で前記トルク検知部において検知される前記トルクの値を繰り返し取得し、
前記トルクの値を取得した都度、前記トルクの値と、前記ブレークバーが前記ブレーク対象物に確実に押し込まれているときの前記トルクの値に相当する所定の第1の閾値とを比較し、
前記トルクの値が前記第1の閾値以上であると判断された以降、前記トルクの値を取得した都度、最新の前記トルクの値を従前に取得した前記トルクの最大値に基づいて定まる第2の閾値と比較し、前記最新の前記トルクの値が前記第2の閾値以下である場合に、前記ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断する、
ことを特徴とする、ブレーク装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、あらかじめ一方主面にスクライブラインが形成されてなるブレーク対象物を前記スクライブラインに沿って他方主面側からブレークすることで分断する装置が、前記ブレーク対象物が載置固定される支持部と、前記支持部の上方に設けられてなり、下端に刃先を有するブレークバーと、前記ブレークバーを昇降させる昇降機構と、前記装置の各部の動作を制御する制御部と、を備え、前記昇降機構が、水平面内で回転するモータと、前記モータの回転動作を前記ブレークバーの昇降動作に変換する動作変換機構と、を有してなり、前記制御部が、前記モータの動作を制御するモータ制御部と、前記モータに作用するトルクを検知するトルク検知部と、前記装置の各部の動作を制御することにより前記ブレーク対象物に対するブレークを実行させるブレーク処理部と、を有してなり、前記ブレーク処理部は、前記一方主面を前記支持部に接触させる状態で前記ブレーク対象物が前記支持部に載置固定されてなる状態において前記モータ制御部に前記モータを回転させることにより、前記動作変換機構を動作させて前記ブレークバーを前記ブレーク対象物の上方から前記ブレーク対象物の他方主面であって前記スクライブラインの形成位置に対応する位置に向けて下降させ、前記ブレークバーの下降の開始後、前記ブレーク対象物に当接する前から所定の時間間隔で前記トルク検知部において検知される前記トルクの値を繰り返し取得し、前記トルクの値を取得した都度、前記トルクの値と、前記ブレークバーが前記ブレーク対象物に確実に押し込まれているときの前記トルクの値に相当する所定の第1の閾値とを比較し、前記トルクの値が前記第1の閾値以上であると判断された以降、前記トルクの値を取得した都度、最新の前記トルクの値を従前に取得した前記トルクの最大値に基づいて定まる第2の閾値と比較し、前記最新の前記トルクの値が前記第2の閾値以下である場合に、前記ブレーク対象物に対するブレークが完了したと判断する、ようにした。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】削除
【補正の内容】