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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003280
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】SIRT産生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240105BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240105BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P43/00
A61P43/00 111
A61K31/353
A61P43/00 107
A61K8/49
A61Q19/08
A23F3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102301
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】榎本 有希子
(72)【発明者】
【氏名】桜井 哲人
(72)【発明者】
【氏名】石渡 潮路
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LE03
4B018MD08
4B018MD59
4B018ME02
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B027FB08
4B027FC06
4B027FE02
4B027FP72
4B027FP75
4C083AC841
4C083EE12
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB22
4C086ZC02
(57)【要約】
【課題】SIRT産生促進用組成物を提供すること。
【解決手段】テアフラビン及び/又はテアフラビンガレートを含有するSIRT産生促進用組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアフラビン及び/又はテアフラビンガレートを含有するSIRT産生促進用組成物。
【請求項2】
テアフラビン及び/又はテアフラビンガレートを含有する紅茶抽出物を含有するSIRT産生促進用組成物。
【請求項3】
紅茶抽出物が水不溶分を含む請求項2に記載のSIRT産生促進用組成物。
【請求項4】
テアフラビン、テアフラビンガレートのうち、2種以上を含有する請求項1又は2に記載のSIRT産生促進用組成物。
【請求項5】
SIRTがSIRT3である請求項1又は2に記載のSIRT産生促進用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SIRT産生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールが、サーチュイン遺伝子を活性化することが知られている(特許文献1)。サーチュインは、脂肪動員の増強、神経軸索変性の抑制、β細胞からのインスリン分泌、肝臓での糖新生等の制御に関わり、その制御を通じて健康寿命の延長を実現するので、効果の高いSIRT産生促進用組成物が求められている。
テアフラビンは、茶葉の発酵工程でカテキン類が酸化、重合したものである。テアフラビンを多く含有する紅茶抽出物について、メラニン生成抑制効果(特許文献2)、自律神経調節効果(特許文献3)、肌質改善効果(特許文献4)が知られているが、さらに、他の機能性用途への展開が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/042261号
【特許文献2】特開2001-158726号公報
【特許文献3】特開2017-109997号公報
【特許文献4】特開2017-197476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SIRT産生促進用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための主な構成は、次のとおりである。
1.テアフラビン及び/又はテアフラビンガレートを含有するSIRT産生促進用組成物。
2.テアフラビン及び/又はテアフラビンガレートを含有する紅茶抽出物を含有するSIRT産生促進用組成物。
3.紅茶抽出物が水不溶分を含む2.に記載のSIRT産生促進用組成物。
4.テアフラビン、テアフラビンガレートのうち、2種以上を含有する1.又は2.に記載のSIRT産生促進用組成物。
5.SIRTがSIRT3である1.又は2.に記載のSIRT産生促進用組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明のSIRT産生促進用組成物は、サーチュインの産生を促進することができた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例(1)におけるテアフラビン類を含む紅茶抽出物のサーチュイン3の相対的な発現量を示すグラフ。
図2】実施例(2)におけるテアフラビン類のサーチュイン3の相対的な発現量を示すグラフ。
図3】実施例(3)におけるテアフラビン類を含まない緑茶抽出物のサーチュイン3の相対的な発現量を示すグラフ。
図4】実施例の(4)におけるポリフェノール化合物のサーチュイン3の相対的な発現量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
サーチュイン(以下、SIRTともいう。)は、老化や寿命の制御に関わり、活性化することで細胞を若返らせ、代謝を増進させる。サーチュインは、脂肪動員を増強し、神経軸索変性を抑制し、β細胞からのインスリン分泌を制御し、肝臓での糖新生を制御するので、サーチュインの産生を促進することで、健康寿命の延長を実現できる。サーチュインは、表皮細胞においてテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を誘導する。サーチュインは、脂肪酸動員、アディポカイン制御、インスリン抵抗性の抑制、インスリン分泌、神経保護、細胞周期の停止、酸化ストレス耐性の誘導、細胞死抑制の誘導、カロリー制限の効果媒介、サーカディアンリズムの維持・制御、炎症抑制、ミトコンドリアタンパク質脱アセチル化、酢酸代謝制御、脂肪酸酸化、ATP生産などの機能を有する。サーチュインは、2型糖尿病、代謝性疾患(例えば、メタボリックシンドローム)、がん(例えば、大腸がん、皮膚がん、又は乳がん)、神経疾患(例えば、アルツハイマー病又は筋萎縮性側索硬化症)、又は心血管疾患(例えば、動脈硬化)慢性閉塞性肺疾患、骨粗鬆症、免疫性疾患(例えば、アトピー皮膚炎、花粉症、又はリウマチ関節炎)、又は廃用性萎縮症などの改善効果を有する。
【0009】
テアフラビンとテアフラビンガレートは、紅茶にわずかに含まれる希少なポリフェノールである。テアフラビン、テアフラビンガレートは茶葉の発酵工程でカテキン(エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート)2分子が酸化、重合したものであり、緑茶が含むカテキン類とは異なる化合物であり、不発酵茶である緑茶には含まれない。
エピカテキンとエピガロカテキンから生成したものが、テアフラビンであり、以下TFとも表記する。エピカテキンとエピガロカテキンガレートから生成したものが、テアフラビン3-O-ガレートであり、以下TF3Gとも表記する。エピカテキンガレートとエピガロカテキンから生成したものが、テアフラビン3’-O-ガレートであり、以下TF3’Gとも表記する。エピカテキンガレートとエピガロカテキンガレートから生成したものが、テアフラビン3,3’-ジ-O-ガレートであり、以下TFDGとも表記する。テアフラビンガレートとは、TF3G、TF3’G、TFDGの総称である。
【0010】
テアフラビン、テアフラビンガレートとして、紅茶抽出物を用いることができる。紅茶抽出物としては、テアフラビン、テアフラビンガレートを濃縮したものが好ましく、水不溶分であることが好ましい。テアフラビン、テアフラビンガレートの濃縮方法として以下の方法が挙げられる。
【0011】
紅茶抽出物は、採取した紅茶葉をそのまま、あるいは砕片化して水(熱水や冷水など)やアルコール(例えばメタノール、エタノール)などの有機溶媒、これらの組合せ、あるいは超臨界炭酸ガスなど液体溶媒以外のもの、好ましくは使用上の安全性の面から水、エタノールまたは超臨界炭酸ガスによって抽出したものである。例えば、紅茶葉を熱水等の溶剤に投入し、通常攪拌しながら抽出した後、濾過処理または遠心分離処理により固液分離して紅茶抽出液とする。抽出液量および時間に関しては、特に限定はないが、例えば、熱水(通常60~100℃程度)で抽出する際には、茶葉1重量部に対して10~100重量部の水中で1分~10分間くらい抽出するのが普通である。この抽出液(通常、固形物含量0.1~2重量%程度:ポリフェノール含量として0.01~0.5重量%(タンニン量換算)程度)を、水で抽出した場合にはそのまま、あるいは水またはその他の溶媒で抽出した場合には乾燥(凍結乾燥など)して溶剤を除去して紅茶抽出物とすることができる。なお、上記抽出液の水あるいは溶剤を完全に除去した紅茶抽出物中のポリフェノール含量は、通常20~35重量%(タンニン量換算)程度になる。テアフラビン、テアフラビンガレートを濃縮するための試料としては紅茶抽出物の水溶液、すなわち、水中抽出した場合には紅茶抽出(濃縮)液をそのままか水で希釈した水溶液、あるいは抽出乾燥物を適当量の水に溶かした水溶液を用いること好ましい。
【0012】
テアフラビン、テアフラビンガレートは、上記のような紅茶抽出物の水溶液を極性有機溶媒を用いて抽出する方法、紅茶抽出物の水溶液からポリフェノール/カフェイン複合体の形で分離する方法、あるいは紅茶抽出物の水溶液を合成吸着剤を用いて分離精製する方法等により濃縮(粗精製、精製を包含する)することが可能である。これらの中で、テアフラビン/カフェイン複合体、テアフラビンガレート/カフェイン複合体の形で分離する方法を用いるのがより好ましい。これらの方法は、具体的には下記のようにして行うことができる。これらの方法により、ポリフェノール含量は固形分あたり40重量%(タンニン量換算)以上に濃縮される。
【0013】
(1)紅茶抽出物の水溶液を極性有機溶媒を用いて抽出する方法
この方法は、紅茶抽出物の水溶液を極性有機溶媒で抽出することを基本とするが、通常1分~60分程攪拌して有機溶媒相を得ることにより有機溶媒相中に高回収率で紅茶ポリフェノールを抽出濃縮することができる。この方法の場合、紅茶抽出物の水溶液を、あらかじめクロロホルム等の非極性溶媒(通常水溶液と同容量で3回程度)で洗浄することにより、抽出物中に比較的多く含まれるカフェインを除去しておくことが、テアフラビン、テアフラビンガレートを濃縮する点で望ましい。抽出用の極性有機溶媒としては、選択性の点で好ましくは酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、もしくはジエチルエーテル等があげられ、酢酸エチルが最も好ましい。酢酸エチルで抽出した場合には、テアフラビン、テアフラビンガレートが効率的に濃縮できる。
【0014】
(2)紅茶抽出物の水溶液からテアフラビン/カフェイン複合体、テアフラビンガレート/カフェイン複合体の形で分離する方法
この方法は、テアフラビン、テアフラビンガレートを紅茶抽出物の水溶液からテアフラビン/カフェイン複合体、テアフラビンガレート/カフェイン複合体の形で沈殿もしくは混濁させて分離する方法である。紅茶の熱水抽出液は、冷却するとクリーミングと呼ばれる混濁現象を起こす。これは、紅茶ポリフェノールが、カフェインと水不溶性の複合体を形成して起こる現象である。クリーミングは、例えば抽出を熱水で行う場合には、使用する抽出水の性質(軟水、硬水など)によって生じ方が異なり、その他にも抽出温度や使用する茶葉の種類や量などの抽出条件の違いによっても生じ方が異なってくる。しかし、ポリフェノールとカフェインで複合体を形成すれば、その不溶物を遠心分離等の手段で分離してそのまま利用(化粧品など)することができる。また、上記(1)で記載したクロロホルム等の非極性溶媒での洗浄等することにより、複合体からカフェインを除くことも可能である。このような複合体からカフェインを除去する方法を使用することは、テアフラビン、テアフラビンガレートの濃度を高められる点で望ましい。さらに、上記の条件の他、酸性下でカフェインを添加することで強制的に混濁(クリーミング)を起こさせる方法も可能である。例えば、紅茶抽出物の水溶液を有機酸(例えばアスコルビン酸、乳酸、クエン酸)、無機酸(例えば塩酸、硝酸、硫酸)などでpH2~4程度の酸性にした後に、0.2重量%以上、好ましくは0.5重量%以上(抽出物水溶液中)のカフェインを添加することにより、水不溶性の複合体を生じさせることができる。この複合体は、本発明の目的にそのまま使用することも可能であるが、分離回収後、加温した水(通常40℃以上)に再溶解させた後に、クロロホルム等の非極性溶媒で洗浄する(通常同容量で3回程度)等してカフェインを除去しておくことが、テアフラビン、テアフラビンガレートを濃縮するという点から望ましい。しかし、カフェインが保湿剤(特開平8-291018号公報)や痩身用皮膚剤(特開平11-246425号公報など)に利用可能であるという報告もあることから、複合体のままで化粧品などに利用することも考えられる。
【0015】
(3)紅茶抽出物の水溶液を合成吸着材を用いて分離精製する方法
この方法は、紅茶抽出物の水溶液を合成吸着剤に供して、紅茶ポリフェノールを吸着させてからこれを回収することを基本とする。合成吸着剤としては、ゲル濾過充填剤(例えばトヨパールHW-40)やイオン交換樹脂(例えばアンバーライトIRC-76)等も利用可能であるが、大量に、また安価にテアフラビン、テアフラビンガレートを調製するためには、食品や医薬品の精製等に使用されているメタアクリル酸エステル系、親水性ビニルポリマー系もしくはスチレン-ジビニルベンゼン系などの合成吸着材を利用することが望ましい。このうち、分離能が優れているメタアクリル酸エステル系を使用することが最も望ましい。具体的には、ダイヤイオンHP1MGあるいはHP2MG(いずれも三菱化学社製)などが好適例としてあげられる。紅茶ポリフェノールを吸着した合成吸着剤をイオン交換水等で洗浄した後、エタノール、アセトンなどの溶媒を用いて、段階的に極性を変化させることにより、紅茶ポリフェノールを回収する方法が一般的である。テアフラビン、テアフラビンガレートを食品原料として使用したい場合にはエタノールを使用して回収することが望ましい。
【0016】
上記の方法に限らず、周知の種々の合目的的分離精製方法を用いてテアフラビン、テアフラビンガレートの分離、濃縮が可能である。その場合の分離方法は、テアフラビン、テアフラビンガレートをHPLCなどの分析手段を用いてモニターしながらテアフラビン、テアフラビンガレートが濃縮されるように適宜選択すればよい。
【0017】
本発明のサーチュイン産生促進用組成物は、テアフラビン(TF)、テアフラビン3-O-ガレート(TF3G)、テアフラビン3’-O-ガレート(TF3’G)、テアフラビン3,3’-ジ-O-ガレート(TFDG)の1種以上を含む。本発明のサーチュイン産生促進用組成物は、これらの2種以上を含むことが好ましく、3種以上を含むことがより好ましい。また、本発明のサーチュイン産生促進用組成物は、TFを含むことが好ましく、TFを含む2種以上を含むことがより好ましく、TFを含む3種以上を含むことがさらに好ましく、TFとTF3GとTF3’Gを含むことがよりさらに好ましく、4種とも含むことが最も好ましい。
本発明のサーチュイン産生促進用組成物において、テアフラビン、テアフラビンガレートの総濃度は特に限定されないが、サーチュインの産生を促進する点から、0.00001質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明のサーチュイン産生促進用組成物は、食品、飲料、サプリメント等の健康食品、医薬品、化粧品等として使用することができる。
食品としては、通常の食品の他、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品等とすることができる。飲料としては、例えば、清涼飲料、果実飲料、乳清飲料、アルコール飲料等に配合することができる。サプリメントとする場合、形態としては、例えば、粉末、散剤、顆粒、錠剤、カプセル等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。
【0019】
医薬品用途において、投与に関しては、有効成分を、経口摂取、非経口摂取(直腸内投与、注射等)の投与方法に適した固体又は液体の医薬用担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。形態としては、例えば、粉末、散剤、顆粒、錠剤、カプセル等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤、外用剤等が挙げられ、外用剤とすることが好ましい。これらの製剤は、常法により調製することができる。上記の医薬用担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチレンデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤等の添加剤を適宜添加することも可能である。
【0020】
本発明のサーチュイン産生促進用組成物の投与量は、対象者の年齢、体重、症状、投与経路、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択決定される。経口投与の場合、1日あたり0.00001~100gが好ましい。外用の場合、0.00001質量%以上0.5質量%以下を含む組成物を1日あたり、1回、または複数回適用する。
【0021】
本発明のサーチュイン産生促進用組成物を化粧品に用いる場合、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧料に常用される、各種の成分を適宜配合することができる。このような配合可能なその他の成分としては、例えば、油分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、色材、アルコール類、紫外線防止剤、アミノ酸類、ビタミン類、美白剤、有機酸、無機塩類、酵素、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、殺菌剤、皮膚賦活剤、血行促進剤、抗脂漏剤、抗炎症剤等の薬剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、収斂剤、清涼剤、香料、色素、水等が挙げられる。
【0022】
本発明のサーチュイン産生促進用組成物を含む化粧料の形態は特に限定されず、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、ファンデーション等の形態でスキンケア化粧料やメーキャップ化粧料、マッサージ化粧料、パック化粧料に用いることができる。
【実施例0023】
(1)紅茶抽出物「澱」と紅茶抽出物「澱」以外の抽出物のSIRT3産生促進効果
[紅茶抽出物「澱」と紅茶抽出物「澱」以外の抽出物の調製]
紅茶から熱湯で紅茶抽出物を抽出した。紅茶抽出液を冷却、静置し、遠心分離し、水不溶物を紅茶抽出物「澱」を含む画分とした。その画分を乾固し、紅茶抽出物「澱」とした。
一方、紅茶抽出物「澱」を含む画分を遠心分離により除去した紅茶抽出液を、紅茶抽出物「澱」以外の抽出物を含む画分とし、その画分を乾固し、紅茶抽出物「澱」以外の抽出物とした。
【0024】
紅茶抽出物「澱」は、テアフラビン(TF)を0.35質量%、テアフラビン3-O-ガレート(TF3G)を0.50質量%、テアフラビン3’-O-ガレート(TF3’G)を0.86質量%含有する。
紅茶抽出物「澱」以外の抽出物は、テアフラビン(TF)を0質量%、テアフラビン3-O-ガレート(TF3G)を0.04質量%、テアフラビン3’-O-ガレート(TF3’G)を0.06質量%含有する。
なお、いずれもテアフラビン3,3’-ジ-O-ガレート(TFDG)を含有するはずであるが、成分分析でTFDGのみを分離することができなかったため、含有量は不明である。
【0025】
[サーチュイン産生促進効果の測定]
サーチュイン産生促進効果は、以下の方法により、ヒト正常メラノサイト内のサーチュイン3の発現量によって比較を行った。
ヒト正常メラノサイト(HEMn-DP,Lot#1898559,Thermo Fisher Scientific)をHuman Melanocyte Growth Supplement(Thermo Fisher Scientific)を添加したMedium254(Thermo Fisher Scientific)にて37℃,5%COの条件下で培養した。サブコンフルエントまで培養した細胞を0.025%Trypsin/0.01%EDTA4Na(0.05%Trypsin/0.02%EDTA4Na(Sigma-Aldrich)をPBS(-)(富士フイルム和光純薬)で2倍希釈)で剥離し、細胞継代を実施した。Passage5の細胞を実験に用いた。
【0026】
HEMn-DPを18,000cells/cm/2mL Medium254となるよう12well plateに播種し、37℃,5%COインキュベータ内で培養した。播種から24hr後、培養上清を全て除去し、評価原料(紅茶抽出物「澱」の凍結乾燥品、紅茶抽出物「澱」以外の抽出物)を2mL/well添加した。紅茶抽出物「澱」は、25ppm、100ppmとなるようにMedium254で、紅茶抽出物「澱」以外の抽出物は、100ppmとなるように3000ppmEtOH入りMedium254で調製した。紅茶抽出物「澱」25ppmの評価原料に含まれるテアフラビン総量は424.8ppb、紅茶抽出物「澱」100ppmに含まれるテアフラビン総量は1699.1ppb、紅茶抽出物「澱」以外の抽出物100ppmの評価原料に含まれるテアフラビン総量は96.7ppbである。
【0027】
以下、全てのサンプルは、評価原料添加から24hr後に回収した。細胞は、1mL/well PBS(-)での洗浄後、500μL/well PBS(-)を加え、セルスクレイパーによって剥がして回収した。再度500μL/well PBS(-)を加え、セルスクレイパーによる回収を行った後、回収サンプル全量(1mL)を4℃,3,500rpm,5minの条件で遠心分離した。上清を除去し、Laemmli Bufferを60μL/tube加えてピペッティングした後、4℃で30min振盪させ、4℃,10,000rpm,10minの条件で遠心分離し、細胞溶解液上清を回収し、Western Blottingに供した。
【0028】
BCA assay法(BCA protein assay,Thermo Fisher Scientific)により細胞溶解液中のタンパク質濃度を測定し、91.5μg/mLとなるようにLaemmli Buffer,4×Sample Bufferにて調製後、95℃,5min加熱し、評価サンプルとした。ゲル(XV PANTERA GEL(5-20%),DRC)に7.5μL/wellでサンプルをアプライし、200V,20minの条件で電気泳動(高速SDS-PAGE 泳動バッファー,DRC)をした。ゲルをメンブレン(Trans-Blot TurboTM PVDF Membrane,BIO RAD)に転写後、Starting BlockTM T20(PBS)Blocking buffer(Thermo Fisher Scientific)にメンブレンを浸漬し、RT,15min,shakingでBlockingした。
【0029】
0.05%PBST(Phosphate Buffered Saline with Tween20(PBS-T)Tablets,pH7.4,Takara bio)で希釈した1stAb.(β-actin(β-Actin antibody(C4),Santa Cruz Biotechnology):3,000倍,SIRT3(Anti-SIRT3 antibody[EPR19755],abcam):1,000倍)を4℃,shakingで反応させた(β-actin:O/N,SIRT3:2O/N)。メンブレンを0.05%PBST,RT,5min,shakingで3回洗浄し、0.05%PBSTで10,000倍希釈した2ndAb.(β-actin:Goat Anti-Mouse IgG,Santa Cruz Biotechnology,SIRT3:Goat Anti-Rabbit IgG,Invitrogen novex Life tech.)をRT,1hr,shakingで反応させた。0.05%PBST,RT,5min,shakingで3回洗浄し、Amersham ECL start(cytiva)へ3min浸漬後、LAS4000で撮影した(β-actin:1min,SIRT3:3min)。
【0030】
評価は、全てβ-actinの発現量によって補正し、n=2で行った。また、全ての発現量はコントロール_1(Medium254のみ添加)のSIRT3/β-actin発現量を1として比較を行った。結果を図1に示す。
【0031】
[結果]
コントロール_1とコントロール_2を比較すると、評価原料に3,000ppmのエタノールを添加しても、SIRT3産生促進効果に影響がないことがわかる。
紅茶抽出物「澱」、紅茶抽出物「澱」以外の抽出物の結果、テアフラビン総量が多いほどSIRT3産生促進効果が高くなっており、テアフラビン類によってSIRT3の産生が促進されていることが推測される。
【0032】
(2)テアフラビン類と紅茶抽出物「澱」のSIRT3産生促進効果
評価原料として、TF、TF3G、TF3’G(いずれも富士フィルム和光純薬製)を用いた以外は、上記(1)と同様にして、ヒト正常メラノサイト内のSIRT3の発現量によって、SIRT3産生促進効果の比較を行った。テアフラビン類は、TFが1.8ppm、7.1ppm、28.2ppm、TF3Gが35.8ppm、TF3’Gが35.8ppmとなるように1000ppmEtOH入りのMedium254で調製した。図1より、コントロール_2(3000ppm EtOH入りMedium254)でSIRT3促進が認められなかったことから、コントロール_1を基準とし、コントロール_1の発現量を1として比較を行った。上記(1)の紅茶抽出物「澱」の結果とともに、結果を図2に示す。
【0033】
[結果]
TF類試薬と、紅茶抽出物「澱」中のTF類の総濃度は、同程度であり、SIRT3産生促進効果が同程度であることから、紅茶抽出物「澱」のSIRT3産生促進効果の主な有効成分は、TF類であると考えられる。このことから、紅茶抽出物「澱」は、ポリフェノール重合物が主成分であるが、その中に僅か1.7%含まれるTF類のSIRT3産生促進効果が顕著であり、TF類のSIRT3産生促進効果は、紅茶抽出物「澱」に含まれる他のポリフェノール重合物と比べて、顕著に効果が高いと考えられる。紅茶抽出物「澱」は、TF類としてTF、TF3G、TF3’Gを含有するが、これらを単独で添加した試薬での結果と比較して、低濃度で同等以上のSIRT3産生促進効果を有しており、TF類を2種以上含むことにより、SIRT3産生促進効果が相乗的に高められた。
【0034】
(3)緑茶抽出物のSIRT3産生促進効果
評価原料として、緑茶抽出液BG(丸善製薬株式会社製)を、緑茶抽出物の濃度が40、80、160ppmとなるように5000ppmBG(1,3-ブチレングリコール)入りMedium254で調製したものを用いた以外は、上記(1)と同様にして、ヒト正常メラノサイト内のSIRT3の発現量によって、SIRT3産生促進効果の比較を行った。緑茶抽出液は、カテキン類を含むが、テアフラビン類は含まない。また、全ての発現量はコントロール_3(5000ppmBG入りMedium254のみ添加)のSIRT3/β-actin発現量を1として比較を行った。結果を図3に示す。
【0035】
[結果]
カテキン類を含む緑茶抽出物は、SIRT3産生促進効果が認められなかった。
(1)~(3)の結果より、カテキン類はSIRT3産生促進効果を奏さないが、このカテキン2分子が酸化、重合した化合物であるテアフラビン類は、SIRT3産生促進効果を有すことが確かめられた。
【0036】
(4)ポリフェノールのSIRT3産生促進効果
評価原料として、各種ポリフェノール試薬(アピゲニン(Apigenin)、エラグ酸2水和物(Ellagic Acid Dihydarte):富士フイルム和光純薬製、ヘスペレチン(Hesperetin)、ケルセチン2水和物(Quercetin diHydrate)、ブテイン(Butein):Sigma Aldrich、ミリセチン(Myricetin)、カルコン(Chalcone):東京化成工業)を3.125、12.5、50μMとなるように1000ppmエタノール入りMedium254で調製したものを用いた以外は、上記(1)と同様にして、ヒト正常メラノサイト内のSIRT3の発現量によって、SIRT3産生促進効果の比較を行った。また、全ての発現量はコントロール_4(1000ppmエタノール入りMedium254のみ添加)のSIRT3/β-actin発現量を1として比較を行った。結果を図4に示す。
【0037】
[結果]
試験を行ったポリフェノールであるアピゲニン(Apigenin)、ヘスペレチン(Hesperetin)、ミリセチン(Myricetin)、ケルセチン2水和物(Quercetin diHydrate)、ブテイン(Butein)、カルコン(Chalcone)、エラグ酸2水和物(Ellagic Acid Dihydrate)は、いずれもSIRT3産生促進効果が認められなかった。また、特許文献1でも16種のポリフェノールのうち5種のポリフェノールしかSIRT1産生促進効果は認められていない。
このことから、ポリフェノールのうちサーチュイン促進効果を有するのはその一部のみであることが確かめられた。
図1
図2
図3
図4