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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003281
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】タッチパネル装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20240105BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G06F3/041 520
G06F3/041 512
G06F3/044 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102303
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】寺田 和則
(57)【要約】
【課題】構成を複雑化させることなく、静電容量のばらつきに起因する急激な温度変化時の誤検出を防止することができるタッチパネル装置を提供すること。
【解決手段】タッチパネル装置100は、互いに交差する向きに配置された複数の電極を有する静電容量方式のタッチパネル110と、各電極対毎の静電容量を測定する静電容量測定部120と、指示体が接触していない状態における各電極対の静電容量をベースライン値として設定するベースライン値設定部150と、静電容量測定部120によって測定した各電極対毎の静電容量をベースライン値とを比較することにより、指示体の接触位置を検出する位置検出部140と、各電極対毎の静電容量が時間経過とともに変動したときに、この変動に合わせてベースライン値を変動させるベースライン値補正部160とを備える。ベースライン値補正部160は、ベースライン値を変動させる時間Xやその上限値Yを、各電極対の静電容量に応じて、各電極対毎に設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差する向きに配置された複数の電極を有する静電容量方式のタッチパネルと、
交差する一対の前記電極間の静電容量を各電極対毎に測定する静電容量測定手段と、
指示体が接触していない状態において、前記静電容量測定手段によって測定した各電極対毎の静電容量を基準静電容量とし、指示体の接触の有無を検出するための静電容量の比較に用いるベースライン値として指示体の接触位置の検出に先立って設定するベースライン値設定手段と、
前記静電容量測定手段によって測定した各電極対毎の静電容量と、対応する前記ベースライン値とを比較することにより、指示体の接触位置を検出する位置検出手段と、
指示体の接触位置検出時に前記静電容量測定手段によって測定した各電極対毎の静電容量が時間経過とともに変動したときに、この変動に合わせて前記ベースライン値を変動させるベースライン値補正手段と、
を備え、前記ベースライン値補正手段は、前記ベースライン値を変動させる時間Xおよび/またはその上限値Yを、各電極対の前記基準静電容量に応じて、各電極対毎に設定することを特徴とするタッチパネル装置。
【請求項2】
前記ベースライン値補正手段は、各電極対の前記基準静電容量が大きいときに前記時間Xを小さい値および/または前記上限値Yを大きい値に設定し、各電極対の前記基準静電容量が小さいときに前記時間Xを大きい値および/または前記上限値Yを小さい値に設定することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル装置。
【請求項3】
前記ベースライン値補正手段は、前記タッチパネルへの指示体の接近に対応して前記各電極対の静電容量が上昇したときに、この静電容量の上昇に、前記各電極対に対応する前記ベースライン値の上昇が追い付かないように、前記時間Xおよび前記上限値Yを設定することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル装置。
【請求項4】
前記タッチパネルの周辺温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記ベースライン値補正手段は、前記温度検出手段によって検出される温度の一定時間における変化量が所定値を超えたときに、前記時間Xおよび/または前記上限値Yの変更を行うことを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル装置。
【請求項5】
前記ベースライン値補正手段は、前記各電極対の静電容量の平均値をA、前記各電極対の個別の静電容量をaとしたときに、前記ベースライン値を変動させる周期としての前記電極対毎の前記時間Xを(A/a)・Xに変更することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル装置。
【請求項6】
前記ベースライン値補正手段は、前記各電極対の静電容量の平均値をA、前記各電極対の個別の静電容量をaとしたときに、前記ベースライン値を変動させる前記時間X毎の前記上限値Yを(a/A)・Yに変更することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指示体の接触位置を検出するタッチパネル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、静電容量センサの測定値であるRaw値とベースライン値との差分が閾値以上か否かで指等の対象物のタッチの有無を検出するようにしたタッチパネルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このタッチパネルには、静電容量センサの静電容量の温度変化による変動を補正するために静電容量のRaw値に追従するようにベースライン値を更新するベースライン値更新部が設けられており、温度変化に伴って静電容量センサの静電容量が変化しても、この変化に追従するようにベースライン値を変化させることによって、対象物がタッチしていない状態での誤検出を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-80076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に開示されたタッチパネルのように、温度変化に伴う静電容量の変化に追従するようにベースライン値を更新する場合であっても、対象物の接近に伴って静電容量が変化したことを検出する必要がある。すなわち、ベースライン値は、対象物の接近に対してはゆっくり変化し、温度変化に対しては素早く変化することが必要であり、上述した特許文献1のタッチパネルでは、近接検出部を用いて対象物の接近の有無を検出することにより、ベースライン値の変化の仕方を変えている。しかし、この方法では、別に近接検出部が必要になって、構成の複雑化を招くという問題がある。
【0005】
一般に、静電容量センサは、センサ導体とグランド層とを重ね、その間にOCA(Optical Clear Adhesive)や偏光層などを配置しており、さらにこれらに隣接するように配線が引き出されているため、対象物が接近していない場合であっても静電容量センサの静電容量が各場所で同じにはならない。このため、キャリブレーションを行って、これら不均一な静電容量に合わせてベースライン値を設定している。
【0006】
ところが、このように、静電容量センサが場所によって異なる静電容量を有する場合には、温度変化に伴って変化する静電容量の程度がばらつくことになる。具体的には、静電容量センサの静電容量が大きいほど、温度変化に伴う静電容量の変化量も大きくなる。このため、静電容量センサの部分的に静電容量が大きい場所においては、周囲の温度が急激に変化する場合に、実際には対象物が接近していないにも関わらずRaw値が大きくなってベースライン値を超えてしまい、誤検出が発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、構成を複雑化させることなく、静電容量のばらつきに起因する急激な温度変化時の誤検出を防止することができるタッチパネル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明のタッチパネル装置は、互いに交差する向きに配置された複数の電極を有する静電容量方式のタッチパネルと、交差する一対の電極間の静電容量を各電極対毎に測定する静電容量測定手段と、指示体が接触していない状態において、静電容量測定手段によって測定した各電極対毎の静電容量を基準静電容量とし、指示体の接触の有無を検出するための静電容量の比較に用いるベースライン値として指示体の接触位置の検出に先立って設定するベースライン値設定手段と、静電容量測定手段によって測定した各電極対毎の静電容量と、対応するベースライン値とを比較することにより、指示体の接触位置を検出する位置検出手段と、指示体の接触位置検出時に静電容量測定手段によって測定した各電極対毎の静電容量が時間経過とともに変動したときに、この変動に合わせてベースライン値を変動させるベースライン値補正手段とを備え、ベースライン値補正手段は、ベースライン値を変動させる時間Xおよび/またはその上限値Yを、各電極対の基準静電容量に応じて、各電極対毎に設定する。
【0009】
タッチパネル内の各電極対毎の静電容量にばらつきがある場合に、それぞれの静電容量毎にベースライン値を変更することができるため、このばらつきに起因する急激な温度変化時の誤検出を防止することが可能となる。また、ベースライン値を変更する際に、指示体(位置検出の対象物)の有無を判別する必要がないため、この判別を行うための構成が不要であり、構成を簡略化することが可能となる。
【0010】
また、上述したベースライン値補正手段は、各電極対の基準静電容量が大きいときに時間Xを小さい値および/または上限値Yを大きい値に設定し、各電極対の基準静電容量が小さいときに時間Xを大きい値および/または上限値Yを小さい値に設定することが望ましい。これにより、各電極対毎の静電容量に合わせて時間Xや上限値Yを個別に設定して、誤検出防止に適したベースライン値とすることが可能となる。
【0011】
また、上述したベースライン値補正手段は、タッチパネルへの指示体の接近に対応して各電極対の静電容量が上昇したときに、この静電容量の上昇に、各電極対に対応するベースライン値の上昇が追い付かないように、時間Xおよび上限値Yを設定することが望ましい。これにより、静電容量にばらつきのある各電極対毎に誤検出防止に適したベースライン値を設定し、指示体が接近した際の位置検出精度を向上させることが可能となる。
【0012】
また、上述したタッチパネルの周辺温度を検出する温度検出手段をさらに備え、ベースライン値補正手段は、温度検出手段によって検出される温度の一定時間における変化量が所定値を超えたときに、時間Xおよび/または上限値Yの変更を行うことが望ましい。これにより、温度変化が激しい環境において確実に誤検出を防止することができる。
【0013】
また、上述したベースライン値補正手段は、各電極対の静電容量の平均値をA、各電極対の個別の静電容量をaとしたときに、ベースライン値を変動させる周期としての電極対毎の時間Xを(A/a)・Xに変更することが望ましい。あるいは、上述したベースライン値補正手段は、各電極対の静電容量の平均値をA、各電極対の個別の静電容量をaとしたときに、ベースライン値を変動させる時間X毎の上限値Yを(a/A)・Yに変更することが望ましい。このようにして具体的に時間Xや上限値Yを各電極対毎に変更することにより、全ての電極対における誤検出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態のタッチパネル装置の構成を示す図である。
図2】タッチパネルに含まれる第1および第2の透明電極の具体例を示す図である。
図3】温度変化とRaw値およびベースライン値の関係を示す図である。
図4】通常補正モードにおいてベースライン値を補正する動作の説明図である。
図5】異なる静電容量に対応する温度変化とRaw値の関係を示す図である。
図6】ベースライン値の更新頻度Xを可変設定する場合の説明図である。
図7】ベースライン値の更新時の上限値Yを可変設定する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態のタッチパネル装置について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、一実施形態のタッチパネル装置の構成を示す図である。このタッチパネル装置100は、例えば表示装置の表示画面に重ねて配置されて、指等の指示体で指し示す画面上の位置を検出するためのものであり、タッチパネル110を含んでいる。
【0017】
タッチパネル110は、表示装置の表示画面の全体を覆う位置検出領域を有しており、この位置検出領域のX軸方向(水平方向)に沿って延在する複数の第1の透明電極110Aと、Y軸方向(垂直方向)に沿って延在する複数の第2の透明電極110Bとを有する。
【0018】
図2は、タッチパネル110に含まれる第1および第2の透明電極110A、110Bの具体例を示す図である。図2に示す例では、X軸方向に延在する第1の透明電極110Aは、一方の対角線がX軸と平行になるように配置された正方形電極をX軸に沿って複数個並べて相互に接続した形状を有する。同様に、Y軸方向に延在する第2の透明電極110Bは、一方の対角線がY軸と平行になるように配置された正方形電極をY軸に沿って複数個並べて相互に接続した形状を有する。図2に示すように、隣接する正方形電極を接続する連結部が互いに交差するように配置することで、表示画面の全体が第1および第2の透明電極110A、110Bの正方形電極で覆われる。これら第1および第2の透明電極110A、110Bは、例えばITO(Indium Tin Oxide)膜を用いて形成される。
【0019】
また、図1に示すタッチパネル装置100は、静電容量測定部120、スイッチ(SW)130、132、位置検出部140、ベースライン値設定部150、ベースライン値格納部152、ベースライン値補正部160、温度センサ(T)162を備えている。
【0020】
静電容量測定部120は、タッチパネル110に設けられた第1の透明電極110Aと第2の透明電極110Bとの間の静電容量をこれらの組み合わせを変えながら測定する。この組み合わせの変更は、複数の第1の透明電極110Aを選択的に接続するスイッチ130と、複数の第2の透明電極110Bを選択的に接続するスイッチ132とを切り替えることにより行われる。
【0021】
位置検出部140は、静電容量測定部120によって測定された第1の透明電極110Aと第2の透明電極110Bとの間の静電容量の検出値(Raw値)の変化に基づいて、利用者の指等の指示体が指し示す位置を検出する。概略的には、第1の透明電極110Aと第2の透明電極110Bの組み合わせを変えながら測定されたRaw値の中でその値が大きく増加している場合に、この組み合わせの第1の透明電極110Aと第2の透明電極110Bが交差する位置が指示体によって指示された位置として特定される。
【0022】
ベースライン値設定部150は、位置検出部140による位置検出動作に先立ってキャリブレーション動作を行うものであり、タッチパネル110に指示体が接触していない状態で、静電容量測定部120によって測定されたタッチパネル110の基準静電容量(第1の透明電極110Aと第2の透明電極110Bの各組合せ毎の静電容量)を、位置検出時の基準であるベースライン値として取得する。位置検出部140は、このベースライン値とRaw値とを比較することで、Raw値を変化の有無や程度を知ることができる。ベースライン値設定部150によって取得されたベースライン値は、ベースライン値格納部152に格納される。
【0023】
ベースライン値補正部160は、ベースライン値格納部152に格納されているベースライン値を適宜補正する。例えば、温度センサ162を用いて検出されるタッチパネル装置100周辺の温度を監視しており、この温度変化量が所定値以下の場合には通常補正モードで、所定温度を超えた場合には温度急変時補正モードで、ベースライン値の補正が行われる。
【0024】
上述した静電容量測定部120が静電容量測定手段に、ベースライン値設定部150がベースライン値設定手段に、位置検出部140が位置検出手段に、ベースライン値補正部160がベースライン値補正手段に、温度センサ162が温度検出手段にそれぞれ対応する。
【0025】
本実施形態のタッチパネル装置100はこのような構成を有しており、次にその動作、特にベースライン値の補正動作について説明する。
【0026】
(通常補正モード)
最初に、通常補正モードにおけるベースライン値の補正動作について説明する。
【0027】
図3は、温度変化とRaw値およびベースライン値の関係を示す図である。図3に示す例では、タッチパネル装置100の周囲温度Taが85℃から-40℃に徐々に低下する場合が示されている。このような場合には、タッチパネル110に指示体が接触していない状態であっても、温度変化に追従するようにRaw値が上昇する。ベースライン値補正部160は、Raw値の上昇に合わせてベースライン値Bを変化させる補正動作を行う。
【0028】
図4は、通常補正モードにおいてベースライン値を補正する動作の説明図である。図4において、Xはベースライン値を変化させる更新時間間隔である更新頻度(固定値)である。Yはベースライン値Bを変化させる上限値(固定値)としての変動量である。このように、Raw値が上昇していったときに、位置検出の基準となるベースライン値Bも上昇するが、その上昇間隔がXであり、時間Xが経過するごとに階段状にベースライン値Bが変更される。しかも、その変更される変動量の上限値がYであり、時間X経過後にRaw値の上昇がYを超えていればその時点でベースライン値BをYだけ増加させる補正動作が行われる。また、時間X経過後にRaw値の上昇がY以下であれば、このRaw値の上昇分だけベースライン値Bを増加させる補正動作が行われる。
【0029】
温度変化がなだらかな場合には、このような補正動作によってベースライン値Bが変更される。この状態で、タッチパネル110に指示体が接触すると、その接触位置に対応するRaw値が急激に上昇するが、ベースライン値Bは次の更新時点まで値が固定されるため、Raw値からこのベースライン値Bを差し引いた差分としての静電容量の変化量が大きくなり、所定のしきい値を超えたときに、このRaw値に対応する位置が接触位置として検出される。
【0030】
(温度急変時補正モード)
タッチパネル110は、センサ導体(第1および第2の透明電極110A、110B)とグランド層とを重ね、その間にOCA(Optical Clear Adhesive)や偏光層などを配置しており、さらにこれらに隣接するように配線が引き出されているため、指示体が接近していない場合であってもタッチパネル110の静電容量が各場所で同じにはならない。このため、ベースライン値設定部150は、キャリブレーションを行って、これら不均一な静電容量に合わせてベースライン値を設定している。
【0031】
ところが、温度変化に対応するRaw値の変化の程度は、タッチパネル110の各位置における静電容量の大小に応じて決まるものであり、一定ではない。図5は、異なる静電容量に対応する温度変化とRaw値の関係を示す図である。図5に示す例では、図3に示した例と同様に温度が変化する場合に、タッチパネル装置100の周囲温度Taが85℃から-40℃に低下する場合が示されている。Raw1、Raw2、Raw3のそれぞれは、静電容量が小、中、大の場合の静電容量の検出値を示している。図5に示すように、検出箇所の静電容量が大きいと、Raw値も大きくなり、しかも温度変化に追従して変化するRaw値の変化量も大きくなる。上述したように、温度変化前のRaw値のばらつき自体は、キャリブレーションによってベースライン値を適切に設定することで対処することができる。
【0032】
これに対し、急激な温度変化が生じた場合、静電容量の大小に応じてRaw値の変化の程度が異なるため、固定値による更新頻度Xとベースライン値の変化の上限値Y(図4)の設定が難しくなる。
【0033】
例えば、最も静電容量が大きい場合のRaw3に合わせて更新頻度Xと上限値Yを設定すると、これより静電容量が小さい場合のRaw2、Raw1についても追従するようにベースライン値を補正することが可能になるが、タッチパネル110に指示体が接触して最も小さい静電容量に対応するRaw3が上昇したときに同時にベースライン値も上昇してしまい、指示体の接触を検出できないおそれがある。
【0034】
一方、最も静電容量が小さい場合のRaw1に合わせて更新頻度Xと上限値Yを設定すると、温度急変時に、指示体が接触していないにもかかわらず、最も静電容量が大きい場合のRaw3がベースライン値と乖離した状態で上昇してしまい、指示体の誤検出が発生する。
【0035】
本実施形態のタッチパネル装置100では、更新頻度Xと上限値Yを固定値とするのではなく、キャリブレーション時に測定した静電容量の大小に応じて可変設定している。
【0036】
(更新頻度Xを変更する場合の具体例)
キャリブレーション時に測定されたタッチパネル110の各位置における静電容量をa、それらの平均値をAとする。この平均値Aと同じ静電容量を有する位置におけるベースライン値の更新頻度をX0としたときに、それ以外の静電容量aを有する位置におけるベースライン値の更新頻度XをX0(A/a)に設定する。
【0037】
図6は、ベースライン値の更新頻度Xを可変設定する場合の説明図である。図6(A)には、平均値Aよりも大きい静電容量a1を有する位置におけるベースライン値の更新頻度X1に対応するベースライン値の補正動作が示されている。また、図6(B)には、平均値Aよりも小さい静電容量a2を有する位置におけるベースライン値の更新頻度X2に対応するベースライン値の補正動作が示されている。
【0038】
大きい静電容量a1を有する場合には急激な温度変化に応じた静電容量の変化量も大きくなるため、この大きな変化に追従するためにベースライン値の更新頻度X1(=X0(A/a1))が、図6(A)に示すように小さくなる(短くなる)。
【0039】
一方、小さい静電容量a2を有する場合には急激な温度変化に応じた静電容量の変化量が小さくなるため、この小さな変化に追従するためにベースライン値の更新頻度X2(=X0(A/a2))が、図6(B)に示すように大きくなる(長くなる)。
【0040】
(上限値Yを変更する場合の具体例)
キャリブレーション時に測定されたタッチパネル110の各位置における静電容量をa、それらの平均値をAとする。この平均値Aと同じ静電容量を有する位置におけるベースライン値の更新時の上限値をY0としたときに、それ以外の静電容量aを有する位置におけるベースライン値の更新時の上限値YをY0(a/A)に設定する。
【0041】
図7は、ベースライン値の更新時の上限値Yを可変設定する場合の説明図である。図7(A)には、平均値Aよりも大きい静電容量a1を有する位置におけるベースライン値の更新時の上限値Y1に対応するベースライン値の補正動作が示されている。また、図7(B)には、平均値Aよりも小さい静電容量a2を有する位置におけるベースライン値の更新時の上限値Y2に対応するベースライン値の補正動作が示されている。
【0042】
大きい静電容量a1を有する場合には急激な温度変化に応じた静電容量の変化量も大きくなるため、この大きな変化に追従するためにベースライン値の更新時の上限値Y1(=Y0(a1/A))が、図7(A)に示すように大きくなる。
【0043】
一方、小さい静電容量a2を有する場合には急激な温度変化に応じた静電容量の変化量が小さくなるため、この小さな変化に追従するためにベースライン値の更新時の上限値Y2(=Y0(a2/A))が、図7(B)に示すように小さくなる。
【0044】
このように、本実施形態のタッチパネル装置100では、タッチパネル110内の各電極対毎の静電容量にばらつきがある場合に、それぞれの静電容量毎にベースライン値を変更することができるため、このばらつきに起因する急激な温度変化時の誤検出を防止することが可能となる。また、ベースライン値を変更する際に、指示体の有無を判別する必要がないため、この判別を行うための構成が不要であり、構成を簡略化することが可能となる。
【0045】
また、タッチパネル110の各電極対の基準静電容量(キャリブレーション時の静電容量)が大きいときに時間(更新頻度)Xを小さい値または更新時のベースライン値の上限値Yを大きい値に設定し、反対に、各電極対の基準静電容量が小さいときに時間Xを大きい値または上限値Yを小さい値に設定している。これにより、各電極対毎の静電容量に合わせて更新頻度Xや上限値Yを個別に設定して、誤検出防止に適したベースライン値とすることが可能となる。また、静電容量にばらつきのある各電極対毎に誤検出防止に適したベースライン値を設定し、指示体が接近した際の位置検出精度を向上させることが可能となる。
【0046】
また、周囲温度Taの一定時間における変化量が所定値を超えたときに、更新頻度Xまたは上限値Yの変更を行うことにより、温度変化が激しい環境において確実に誤検出を防止することができる。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、ベースライン値の更新頻度Xと更新時の上限値Yのいずれかを可変設定したが、これらの値を同時に可変設定するようにしてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、ディスプレイ装置の画面に重ねて実装される透明のタッチパネル装置を想定していたため、タッチパネル110に透明電極が形成されている場合を考えたが、机上で使用されるタブレットのように非透明のタッチパネル装置に本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
上述したように、本発明によれば、タッチパネル内の各電極対毎の静電容量にばらつきがある場合に、それぞれの静電容量毎にベースライン値を変更することができるため、このばらつきに起因する急激な温度変化時の誤検出を防止することが可能となる。また、ベースライン値を変更する際に、指示体の有無を判別する必要がないため、この判別を行うための構成が不要であり、構成を簡略化することが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
100 タッチパネル装置
110 タッチパネル
110A 第1の透明電極
110B 第2の透明電極
120 静電容量測定部
130、132 スイッチ(SW)
140 位置検出部
150 ベースライン値設定部
152 ベースライン値格納部
160 ベースライン値補正部
162 温度センサ(T)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7