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特開2024-32817D‐アルロースを有効成分とする褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032817
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】D‐アルロースを有効成分とする褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20240305BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240305BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240305BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240305BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240305BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240305BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20240305BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P43/00 107
A23L33/125
C12N5/077
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007170
(22)【出願日】2024-01-22
(62)【分割の表示】P 2020555590の分割
【原出願日】2019-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018210262
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】村尾 孝児
(72)【発明者】
【氏名】井町 仁美
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明秀
(57)【要約】
【課題】 D‐アルロースを有効成分として含む、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞活性化剤、及び褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞活性用食品を提供すること。
【解決手段】 D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより機能が活性化された、例えば活性化の指標の発現量が増加した、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1発現が促進され又は亢進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である。D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤からなるエネルギー消費促進剤。
【選択図】 図16



【特許請求の範囲】
【請求項1】
D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより機能が活性化された褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
【請求項2】
前記機能が活性化された褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、請求項1に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
【請求項3】
前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1発現が促進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、請求項2に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
【請求項4】
前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1発現が亢進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、請求項2に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
【請求項5】
D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤からなるエネルギー消費促進剤。
【請求項6】
前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、熱産生関与遺伝子発現によるエネルギーの消費が促進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、請求項5に記載のエネルギー消費促進剤。
【請求項7】
D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤からなるUCP‐1発現亢進剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の剤を含む褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
【請求項9】
D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
【請求項10】
前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、熱産生関与遺伝子発現によるエネルギーの消費が促進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、請求項9に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
【請求項11】
前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1の発現が亢進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、請求項9に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
【請求項12】
褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用食品組成物である、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤に関する。更に詳しくは、D‐アルロースを含有する褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の脂肪組織は、その機能と組織学的特性により、白色脂肪組織と、褐色脂肪組織の2つに大きく分類される。皮下や内臓の白色脂肪組織ではその中に存在する白色脂肪細胞が、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積する。一方、褐色脂肪細胞は脂肪を燃焼し熱を産生する働きを担っている。褐色脂肪組織の生理的役割は白色脂肪細胞と全く逆で、交感神経の刺激等により、エネルギーを熱として消費、散逸する部位である。褐色脂肪組織には、多房性の脂肪滴や豊富なミトコンドリアを有することを特徴とする褐色脂肪細胞が存在しており、褐色脂肪細胞のミトコンドリアに存在するUCP‐1〔脱共役蛋白質1(Uncoupling protein 1)〕がエネルギーを熱として散逸させる機能を担っている。褐色脂肪組織は、新生児や冬眠動物では特に豊富である。その主な機能は、動物や新生児が体を震わせないで体の熱を生成することである。単一の脂肪滴が含まれている白色脂肪細胞とは対照的に、褐色脂肪細胞は、鉄を含んでおり、それが茶色を呈し、多数の小さな液滴とはるかに多い数のミトコンドリアが含まれている。褐色脂肪組織はほとんどの組織よりも多くの酸素を必要とするため、白色脂肪組織よりも多くの毛細血管が集まっている。以前は、褐色脂肪細胞は幼児の頃は体に多くあるが、成人になると失われてしまうと考えられていた。しかし、最近の研究ではPET検査が行われるようになり、成人にも首や肩の周囲などに褐色脂肪細胞が残っていて機能していることが分かってきた。
【0003】
お茶等に含まれるカテキン類、トウガラシ等に含まれるカプサイシン類に褐色脂肪組織の活性化作用があることが知られており、褐色脂肪細胞を活性化させる効果の高い更なる物質が望まれているが、希少糖に褐色脂肪様細胞の活性化作用があることは一切報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/113785号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】応用糖質科学第5巻第1号44-49(2015)
【非特許文献2】下村伊一郎ほか、日本内科学会雑誌、93(4),655-661,2004
【非特許文献3】Ikeda K. ほか、TEM、2018;29:191-200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
褐色脂肪細胞は、低温下でエネルギーを燃焼して体を温める働きをするのに加え、エネルギー消費量を高め、脂肪を燃えやすくする働きをすると考えられている。
つまり褐色脂肪細胞を活性化する方法が見つかれば、肥満や2型糖尿病をコントロールする新たな治療法となる可能性がある。
本発明は、褐色脂肪細胞に対し高い活性化効果を有する製剤を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、副作用の問題がなく、長期的かつ持続的な摂取が可能である、UCP‐1発現促進作用及び/又は褐色脂肪細胞分化促進作用を示す組成物を提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、D‐アルロースを有効成分として含む、褐色脂肪細胞活性化剤、及び褐色脂肪細胞活性用食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
褐色脂肪細胞は、低温下でエネルギーを燃焼して体を温める働きをするのに加え、エネルギー消費量を高め、脂肪を燃えやすくする働きをすると考えられており、本発明者等は、褐色脂肪細胞のその機能に着目し、つまり褐色脂肪細胞を活性化する方法が見つかれば、肥満や2型糖尿病をコントロールする新たな治療法となる可能性があると鋭意研究の結果、希少糖投与による褐色脂肪細胞活性化、それにともなう体重減少に関する知見を得て、D‐アルロースを有効成分として含有する褐色脂肪細胞活性化剤の発明に至った。
本発明において、「褐色脂肪細胞の活性化」とは、白色脂肪組織中に褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞)が分化誘導されることを促進する作用、及び/又はベージュ脂肪細胞や褐色脂肪細胞におけるエネルギー消費を促進する作用のことを言い、褐色脂肪・べージュ脂肪細胞の活性化ともいうことができる。
【0009】
褐色脂肪細胞は、低温下でエネルギーを燃焼して体を温める働きをするのに加え、エネルギー消費量を高め、脂肪を燃えやすくする働きをすると考えられており、本発明者等は、褐色脂肪細胞のその機能に着目し、つまり褐色脂肪細胞を活性化する方法が見つかれば、肥満や2型糖尿病をコントロールする新たな治療法となる可能性があると鋭意研究の結果、希少糖投与による褐色脂肪細胞活性化、それにともなう体重減少に関する知見を得て、D‐アルロースを有効成分として含有する褐色脂肪細胞活性化剤の発明に至った。
本発明において、「褐色脂肪細胞の活性化」とは、白色脂肪組織中に褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞)が分化誘導されることを促進する作用、及び/又はベージュ脂肪細胞や褐色脂肪細胞におけるエネルギー消費を促進する作用のことを言い、褐色脂肪・べージュ脂肪細胞の活性化ともいうことができる。
本発明は、以下の(1)ないし(4)の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤を要旨とする。
(1)D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより機能が活性化された褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
(2)前記機能が活性化された褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、上記(1)に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
(3)前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1発現が促進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞である、上記(2)に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
(4)前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1発現が亢進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞である、請求項2に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤。
【0010】
また、本発明は、以下の(5)又は(6)のエネルギー消費促進剤を要旨とする。
(5)D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤からなるエネルギー消費促進剤。
(6)前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、熱産生関与遺伝子発現によるエネルギーの消費が促進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、上記(5)に記載のエネルギー消費促進剤。
【0011】
また、本発明は、以下の(7)のUCP-1発現亢進剤を要旨とする。
(7)D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加剤からなるUCP‐1発現亢進剤。
【0012】
また、本発明は、以下の(8)ないし(12)の褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物を要旨とする。
(8)上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の剤を含む褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
(9)D‐アルロースを有効成分として含有する、D‐アルロースにより活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
(10)前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、熱産生関与遺伝子発現によるエネルギーの消費が促進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞である、上記(9)に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
(11)前記活性化の指標の発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞が、UCP‐1の発現が亢進され、当該発現量が増加した褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞である、上記(9)に記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
(12)褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用食品組成物である、上記(9)ないし(11)のいずれかに記載の褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の重量及び面積の形態的増加用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、D‐アルロースを有効成分として含有する褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤、エネルギー消費促進剤、UCP‐1発現亢進剤などの褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞に対し高い活性化効果を有する製剤を提供することができる。
【0014】
また、本発明により、D‐アルロースを有効成分として含有する褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤、エネルギー消費促進剤、及びUCP‐1発現亢進剤を含む組成物及び食品組成物を提供することができる。また、D‐アルロースを有効成分として含有する褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化用組成物、UCP‐1の発現を亢進させることにより褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞を活性化する組成物、食品組成物などの、副作用の問題がなく、長期的かつ持続的な摂取が可能である、UCP‐1発現促進作用及び/又は褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞分化促進作用を示す組成物、食品組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】6週齢のマウスを使用する実施例1の実験における体重の推移、血糖値の推移を示す図面である。D‐アルロースのマウス体重に及ぼす影響について、高脂肪食(HFD)は8週間の観察で体重を増加させた。HFD群に2%D‐アルロース含有水を飲水させると、体重の減少が認められた。また8週間において血糖値を経時的に測定した。HFD群においては、血糖値が通常群に比較して高値を示した。HFD+D‐アルロース群はHFDに比較して血糖値は、HFD群に比較して低下した。
図2】6週齢のマウスを使用する実施例1の実験における肩甲骨下の褐色脂肪細胞のサイズ及び重量、及び体重を示す図面である。
図3】さらに3群における褐色脂肪組織の病理的に検討の結果を示す図面(電子顕微鏡写真の画像)である。通常食群に比較してHFD群では、BAに脂肪沈着を認め、白色脂肪化していた。一方、HFD群+2%D‐アルロース群では、通常食群に比較して形態的に褐色脂肪組織は遜色がなく、白色脂肪化した褐色脂肪組織が通常の褐色脂肪組織へ回復したことが判明した。
図4】6週齢のマウスを使用する実施例1の実験における褐色脂肪細胞の活性化をUCP‐1の発現量を示す図面である。 本実施例では、HFD群でUCP‐1が増加していた。多量の脂肪摂取にともない生体の防御反応としてUCP‐1を誘導し、カロリー消費していることが予想された。D‐アルロースの投与は、さらにUCP‐1を誘導していた。病理組織と合わせて考えると、HFD群でのUCP‐1の誘導は、病的な状況への対応であり、HFD群+2%D‐アルロース群では、正常な形態であることより、褐色脂肪組織が活性化された結果のUCP‐1の活性化であると推定している。
図5】6週齢のマウスを使用する実施例1の実験における褐色脂肪細胞の活性化をPPAR-αの発現量を示す図面である。 PPAR-αは褐色脂肪細胞の活性化の指標である。本実施例では、HFD群で通常群に比較してPPAR-αが誘導されていたが、これは過剰な脂質の摂取による生体の反応と思われる。HFD群+2%D‐アルロース群では、D‐アルロースの摂取により、より強くPPAR-αが誘導されており、褐色脂肪細胞が活性化されていると思われる。
図6】6週齢のマウスを使用する実施例1の実験における褐色脂肪細胞の活性化をPGC-1αの発現量を示す図面である。 本実施例では、HFD群で通常群に比較して、PGC-1αが誘導されていたが、これは過剰な脂質の摂取による生体の反応と思われる。HFD+2%D‐アルロース群では、D‐アルロースの摂取により、より強くPGC-1αが誘導されており、PPAR-αの活性化補助因子であるPGC-1αの誘導は、下流域にあるUCP‐1の誘導をきたした一因と思われ、褐色脂肪細胞が活性化されていると思われる。
図7】実施例2のヒト臨床試験における体重の推移を示す図面である
図8】種々の脂肪組織由来生理活性物質(アディポサイトカイン)とその作用を説明する図面である(非特許文献2より抜粋)。 脂肪細胞はエネルギーの貯蔵源としてのみならず、数多くのサイトカイン(生理活性物質)を産生・放出する細胞であることが知られている。脂肪細胞から産生・放出されるサイトカインをアディポサイトカインと呼ぶ。アディポサイトカインは、metabolic syndromeにも深く関与している。TNF(tumor necrosis factor)-αはIRS-1のリン酸化をもたらし、インスリン抵抗性をもたらす。アディポネクチンは、肥満、糖尿病、動脈硬化の抑制作用が知られており善玉と解釈されている。肥満や糖尿病ではその値が低下していることが知られている。
図9】アディポネクチンの作用と治療応用の可能性を説明する図面である。 よく知られているようにTNF-αは、脂肪細胞から分泌され、インスリン抵抗性を惹起するサイトカインとして有名である。また善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンを抑制することも知られている。本実施例の、D‐アルロース(D‐プシコース)の投与により、TNF-αが低下することはインスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールを改善することが推測される。
【0016】
図10】実施例3の実験の手順(プロトコール)を説明する図面である。マウス5匹を1群として2群に分ける。両群8週齢マウスに高脂肪食(HFD)を負荷する。HFD負荷後4週後より、1群はそのままHFDを継続する。別の1群はHFDに加えてD‐アルロース(0.2mg/体重g/日)をゾンデにて胃へ投与する。10週目まで体重、摂食量、飲水量、血糖値をモニターする。
図11】実施例3のマウスにおける普通食(Nоrmal fооd)と高脂肪食(HFD)負荷時の体重(Bоdy Weight)の推移を示す図面である。
図12】実施例3の高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロース(D‐allulose)を投与した時の体重(BW)の推移を示す図面である。4週目以降にD‐アルロースを追加した群では体重は有意に低下した。
図13】実施例3の空腹時血糖値の推移を示す図面である。D‐アルロース追加群では空腹時血糖値の低下傾向を認めた。
図14】実施例3の10週経過後のブドウ糖負荷試験の血糖値の推移を示す図面である。糖負荷試験では、空腹時血糖値、負荷後90分、120分血糖値は有意に低かった。
図15】実施例3の研究期間中の摂食量(右側図)、飲水量(左側図)を示す図面である。摂食量、飲水量には両群に優位な変化はなく、明らかな差異はなかった。
図16】実施例3の高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロース(D‐allulose)を投与した時の褐色脂肪組織(BAT)の体重によって標準化された重量及び面積を示す図面である。D‐アルロースを追加した群では褐色脂肪組織(BAT)の重量が増加し、面積が拡大した。
図17】褐色脂肪組織の分布と機能(Distributiоn and functiоn оf brоwn adipоse tissue)-熱発生のための燃焼エネルギー(Burn energy fоr thermоgenesis)について説明する図面である(非特許文献3より抜粋)。
図18】高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロースを投与したマウスにけるベージュ脂肪細胞、褐色脂肪細胞のUCP‐1mRNAの発現量を示す図面である。 左側図面は、ベージュ脂肪細胞においてはD‐アルロースを投与することにより優位にUCP‐1の発現が増加している。 右側図面は、古典的な褐色脂肪組織においてもUCP‐1の発現が増加している。
図19】高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロースを投与したマウスにけるベージュ脂肪細胞、褐色脂肪細胞のUCP‐1タンパクの発現量を示す図面である。 ベージュ脂肪細胞においてはD‐アルロースを投与することにより優位にUCP‐1タンパクの発現が増加している。古典的な褐色脂肪組織においてもUCP‐1タンパクの発現が増加している。
図20】D‐アルロース投与によるベージュ脂肪細胞の誘導及び褐色脂肪細胞の活性化について、熱の産生に関与する遺伝子UCP‐1、Prdm16、熱産生に関与するオルガネラのミトコンドリアの機能を反映する遺伝子Pgcl-α、Tfam、脂肪の分化に関係する遺伝子PPARγの発現量を示す図面である。
図21】細胞を使った実験(成人の鎖骨上窩部のBATから単一クローンに由来する細胞株を樹立し、ベージュ脂肪細胞への分化誘導研究のモデルを使用する)について、BAT-プロトコール、WAT-プロトコールの二つがベージュ脂肪細胞を誘導するプロトコールについて説明する図面である。
図22】細胞を使った実験において、BAT-プロトコール、WAT-プロトコールの二つがベージュ脂肪細胞を誘導するプロトコールにD‐アルロースを追加するプロトコールついて説明する図面である。
図23】D‐アルロースを分化誘導プロトコールに追加することにより、ベージュ脂肪細胞への誘導が促進されることを脂肪染色で示す図面(電子顕微鏡写真の画像)である。
図24】分化誘導プロトコールによって誘導されたベージュ脂肪細胞の評価として様々なマーカー(UCP‐1、Prdm16、Pgc-1α、tfam、cоx8b、PPARγ)の発現を検討し、その結果を示す図面である。WAT-プロトコールは、褐変マーカー遺伝子(UCP‐1、Pgc-1α、cоx8b)の誘導により強い影響を及ぼす。WAT-プロトコールを使用すると、D‐アルロースはPrdm16、Pgc-1α、及びPPARγの発現を強化する。両方の分化プロトコールで、D‐アルロースはPPARγの発現を増強し、D‐アルロースが脂肪生成を促進することを示唆している。
図25】プロトコールによって誘導されたベージュ脂肪細胞の評価として、UCP‐1とPPARγをD‐アルロース存在、非存在かで発現を検討し、その結果を示す図面である。D‐アルロースの存在でUCP‐1とPPARγが増加し、ベージュ脂肪細胞の誘導が促進されていることが示された。 BAT-プロトコーと比較して、WAT-プロトコールはUCP-1タンパク質発現の誘導により強い影響を及ぼす。WAT-プロトコールを使用すると、D‐アルロースはUCP‐1タンパク質の発現をわずかに高める。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[褐色脂肪細胞]
本発明において褐色脂肪細胞とは、胎児期に形成される古典的褐色脂肪細胞及び白色脂肪組織中に分化誘導される褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞又はブライト細胞と呼ぶこともある)の両方を指す。つまり、本発明では、狭義の古典的褐色脂肪細胞のみならず、白色脂肪組織中に誘導された褐色様の脂肪細胞も褐色脂肪細胞と呼ぶ。また、白色脂肪組織中に誘導される褐色様の脂肪細胞を特にベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪様細胞と呼ぶこともある。
【0018】
[白色脂肪細胞]
白色脂肪細胞は、単房性の大型な脂肪滴を有し細胞質が少ない。一方、褐色脂肪細胞は、小型の多房性脂肪滴を有し、この多房性脂肪滴の周りに多数のミトコンドリアが存在して、そのため特有の褐色を帯び、交感神経や血管が豊富であるという形態学的・組織学的な特徴を持つ。従って、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞は、形態学的・組織学的に細胞を観察することにより区別できる。また、白色脂肪はエネルギーを貯蔵するが褐色脂肪細胞はエネルギーを熱として消費・散逸するという違いがある。また、褐色脂肪細胞は白色脂肪細胞よりもエネルギーの代謝が高く、エネルギーを熱として放出するためにグルコースの取込みが増加する。したがって、褐色脂肪細胞の存在は、例えば、18Fで標識したグルコースの集積をPET(陽電子放射断層撮影)で測定することにより評価できる。さらに、褐色脂肪細胞では、脱共役蛋白質1(UCP‐1)と呼ばれる33kDaの蛋白質が細胞中のミトコンドリア内膜に特異的に発現しているので、UCP‐1mRNAの発現やUCP‐1タンパク質を測定することにより褐色脂肪細胞の存在を確認できる。
【0019】
[ベージュ脂肪細胞]
形態学的特徴としては、ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞に類似しており、細胞内に多房性脂肪滴を持ち、特異的タンパク質UCP‐1を発現したミトコンドリアに富んでいる。単房性脂肪滴を持ち細胞質に乏しい白色脂肪細胞とは対照的である。機能的特徴をみると、余剰エネルギーを中性脂肪として貯蔵する白色脂肪細胞とは異なり、褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞はUCP‐1が酸化的リン酸化を脱共役させることにより、熱産生を行う。これらの点では、ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞と似ているといえるが、以下の点ではむしろ白色脂肪細胞に近い。まず存在部位として,マウスでは褐色脂肪細胞は肩甲間や腎周囲に細胞塊を形成して局在するのに対し、ベージュ脂肪細胞は鼠径部などの白色脂肪組織中に誘導的かつ散在的に出現する。この現象は、白色脂肪の褐色化(brоwning оf white fat)と呼ばれる。次に発生起源として、褐色脂肪細胞は骨格筋と共通するМyоgenic factоr 5(Мyf5)を発現する筋前駆細胞に由来するのに対し、ベージュ脂肪細胞は白色脂肪細胞同様、Мyf5陰性で、plate‐derived grоwth factоr receptоr α(PDGFRα)やsmооth muscle actin(SMA)を発現する前駆脂肪細胞に由来する。このように、ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞や白色脂肪細胞と類似の特徴と相反する特徴を併せ持っているため、単に白色脂肪細胞が性質を変化させたものではなく、第三の脂肪細胞と考えられる。
褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は、寒冷曝露に応じて熱を産生する特殊な脂肪細胞として、寒冷環境での体温維持に寄与している。これらの脂肪細胞が持つ熱産生・エネルギー消費活性は、体温調節能のみならず、肥満や代謝性疾患の予防にも役立つことが期待されている。褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞は、脱共役タンパク質(Uncoupling rotein:UCP‐1)を発現し、熱産生能を有する点は共通しているが、細胞の起源や機能制御機構は異なることがわかってきている。特に、ヒト成人の褐色脂肪組織(Brown adipose tissue:BAT)が主にベージュ脂肪細胞により構成されている事実は、BATを標的とした肥満予防法を探索する上で重要と考えられる。
【0020】
本発明において、褐色脂肪細胞の活性化とは、白色脂肪組織中に褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞)が分化誘導されることを促進する作用、及び/又はベージュ脂肪細胞や褐色脂肪細胞におけるエネルギー消費を促進する作用のことを言う。褐色脂肪細胞の活性化は、特に、ベージュ脂肪細胞や褐色脂肪細胞における代謝を上げること、エネルギー消費を促進すること、脂肪酸を熱エネルギーに変換することもある。脂肪酸から熱エネルギーへの変換はUCP‐1により行われることもある。なお、前述のとおり、褐色脂肪細胞の活性化は、褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞の活性化と表現することもある。
【0021】
褐色脂肪細胞活性化剤とは、上述のような褐色脂肪細胞の活性化作用を有する物質を指す。上述のように、褐色脂肪細胞の存在及び/又は褐色脂肪細胞のエネルギー代謝量の上昇は、UCP‐1 mRNA発現やUCP‐1タンパク質を測定すること、組織学的に細胞を観察すること、18F標識グルコースの集積をPETで測定すること、寒冷誘導熱産生を測定すること等で評価できる。また、白色脂肪組織中に褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞)が分化誘導されることを特に褐色脂肪細胞の再活性化と呼ぶこともある。
【0022】
本発明の褐色脂肪細胞活性化剤は、熱産生によるエネルギーの代謝を促進し得る。エネルギーの代謝には、基礎代謝によるもの、運動によるもの、日常の生活活動によるもの、そして熱産生によるものがある。一日のエネルギー消費量の約60%は基礎代謝、約5%は運動、約24%は日常の生活活動、そして約10%が熱産生によるものである。筋肉を増やすことにより基礎代謝量を上げる、運動や日常の生活活動を活発に行うことによりエネルギー代謝を上げるといった試みは多くされている。一方、熱産生によるエネルギー消費は、身体が急激な温度変化に対応し得るためのもので、例えば寒冷刺激により上昇する。また、食事摂取により熱産生を増やすことや、感染や炎症などに対抗すべく発熱するために熱産生することも知られている。従って、本願において、熱産生によるエネルギー消費とは、基礎代謝や筋肉運動等によらない、寒冷刺激や食事摂取等に対応する熱産生のために消費される代謝性のエネルギー消費のことをいう。本願の褐色脂肪細胞活性化剤は、特に、交感神経を刺激することによりベージュ脂肪細胞や褐色脂肪細胞における熱産生を上昇させてエネルギーの代謝を促進することもある。このような熱産生は、脂肪酸を熱エネルギーに変換することにより起こることもあり、脂肪酸から熱エネルギーへの変換はUCP‐1により行われることもある。
本発明の褐色脂肪細胞活性化剤、エネルギー消費剤等、及びそれらを含む組成物は肝臓や筋肉内ではなく、褐色脂肪組織におけるエネルギー代謝を高めることもあり、UCP‐1の発現を亢進させることもある。
【0023】
本発明の褐色脂肪細胞活性化剤又はUCP‐1発現亢進剤等におけるD‐アルロースの含有量は特に限定されないが、重量換算で1日あたり好ましくは0.3~50g、摂取される量で配合され、場合により0.3~5g、0.5~3g、1.5~4.5g、0.5~5g、0.5~50g、又は0.5~20g等の量で配合されることもある。また、本発明の効果を高めるために、他の褐色脂肪細胞活性化剤、体温低下抑制剤、エネルギー消費促進剤、UCP‐1発現亢進剤、代謝促進剤等を併用してもよい。
【0024】
D‐アルロースの摂取量は特に限定されないが、体重60kgのヒトでは、1日あたり、重量換算で0.3~50g、摂取される量で配合され、場合により0.3~5g、0.5~3g、1.5~4.5g、0.5~5g、0.5~50g、又は0.5~20g等の量を摂取するのが好ましい場合もある。
【0025】
本発明の褐色脂肪細胞活性化剤の製造方法は、D‐アルロースを製造する工程を含んでもよい。本発明で用いるD‐アルロースの形態は上記と同様に本発明の効果を損なわない限り、任意である。希少糖、D‐アルロースを得る方法は、現在のところ、フラクトースを酵素(エピメラーゼ)処理して得られる製法が一般的である。また、希少糖シロップ、異性化糖を原料として塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、及びカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理する手法(特許文献1)により得られる。主にD‐アルロース及びD-アロースが含まれるように製造されるが、D‐アルロース0.5~17質量%、D-アロース0.2~10質量%及び未同定の他の希少糖も含まれる。こうして製造された希少糖シロップ(商品名:レアシュガースウィート)は、ぶどう糖や果糖を主成分としD‐プシコース5.4g/100g、ソルボース5.3g/100g、タガトース2.0g/100g、アロース1.4g/100g、マンノース4.3が含まれている(非特許文献1)。現在、D‐プシコースなどの希少糖は、酵素法、アルカリ法などを利用して製造することができるが、ズイナの葉などの植物体内にも含有されていることが判明している。
【0026】
また、本発明は、上記の褐色脂肪細胞活性化剤(褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤)、体温低下抑制剤、エネルギー消費促進剤、又はUCP‐1発現亢進剤を含む組成物も提供する。本発明の組成物は、粉末状、液状、固形状、顆粒状、錠剤状、ペースト状、ゲル状、乳液状、クリーム状、シート状、スプレー状、泡状等の様々な形態であり得る。
【0027】
本発明の食品組成物は、粉末、飲料、又は錠剤であってもよい。また、本発明の食品組成物は、乾燥粉末、お茶や清涼飲料水などの飲料、サプリメントなどの錠剤及びカプセル剤、レトルト食品等の加工食品、デザート等の嗜好品、調味料、乳製品、油脂加工品等であってもよく、粉末状、液状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状等の様々な形態であり得る。更に、本発明の食品組成物は、ヒト用の食品等のみならず、家畜等他の動物用の餌も含む。
【0028】
本発明の組成物における褐色脂肪細胞活性化剤(褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤)の含有量は特に限定されないが、投与量は、経口投与の場合、成人に対しD‐アルロース(D‐プシコース)として、1日量0.3~50gを内服するのが好ましいが、年令、症状により適宜増減することも可能である。前記1日量の本発明の褐色脂肪細胞活性化剤、エネルギー消費促進剤、又はUCP‐1発現亢進剤は、1日に1回、又は適当な間隔をおいて1日2もしくは3回に分けて、あるいは食前、食後あるいは食事とともに投与することが好ましい。本発明のD‐アルロース(D‐プシコース)を配合した組成物において、D‐アルロース(D‐プシコース)は、組成物中に0.1~50重量%含まれるように配合されている。好ましくは0.5~30重量%、より好ましくは1~10重量%である。組成物中において、D‐アルロース(D‐プシコース)が0.1重量%未満だと、褐色脂肪細胞活性化作用が充分ではない。また、組成物中において、D‐アルロース(D‐プシコース)が50重量%を越えると、経済的な意味で好ましくない。
また、本発明の組成物は、褐色脂肪細胞活性化作用、体温低下抑制作用やエネルギー消費促進作用等を一層高めるために、褐色脂肪細胞活性化作用、体温低下抑制作用やエネルギー消費促進作用等がある他の物質を添加してもよい。
【0029】
更に、本発明の組成物は、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤等を含ませることができる。
【0030】
賦形剤としては、所望の形態としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
また、本発明の組成物は、必要に応じて、その他の成分、例えば、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤、油分、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、pH調整剤、中和剤等、公知のものを適宜選択して使用できる。
【0032】
本発明の褐色脂肪細胞活性化剤(褐色脂肪・ベージュ脂肪細胞活性化剤)は、白色脂肪組織中に褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞)を分化誘導すること、及び/又はベージュ脂肪細胞や褐色脂肪細胞を活性化し、特に熱産生による全身のエネルギー消費を促進するというアプローチにより代謝を促進することで、肥満を予防及び/又は抑制することができる。従って、肥満に起因する疾患の治療及び/又は予防にも有効である。また、褐色脂肪細胞を活性化させ、寒冷誘導熱産生を増やすことで身体が冷えるのを防いだり、食事誘導熱産生を増やすことで、食事によるエネルギー代謝を亢進させることもできる。さらに、本発明の有効成分であるD‐アルロース(D‐プシコース)の安全性について、われわれが口にするいろいろな食品(コーラやカステラ、メープルシロップなど)に含まれており、われわれのカラダが初めて摂取する物質ではなく、こういった理由から、希少糖D‐アルロース(D‐プシコース)を摂取することに大きなリスクはないと考えられる。
【実施例0033】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0034】
[褐色脂肪細胞の確認方法]
褐色脂肪細胞の存在は、公知の手法で確認をすることができる。例えば、細胞中の脂肪滴を検出できる蛍光色素での染色、褐色脂肪細胞において発現する遺伝子産物(mRNA又はタンパク質)の検出が挙げられる。細胞中の脂肪滴を検出できる蛍光色素としては、Oil Red O、BODIPYなどが挙げられる。褐色脂肪細胞において発現する遺伝子産物としては、UCP‐1、CIDEA、PGC-1α、PPAR-αなどが挙げられる。中でも、UCP‐1は、褐色脂肪細胞に特異的に発現する遺伝子であり、酸化的リン酸化を脱共役させるミトコンドリア内膜タンパク質をコードし、褐色脂肪細胞の機能の根幹を担うと考えられるため、褐色脂肪細胞の指標として特に好ましいものの1つである。
【0035】
本発明の実施例では、褐色脂肪細胞の活性化をUCP‐1、PPAR-α、PGC-1αの発現量の評価で行った。
【0036】
本発明の実施例で使用する用語を簡単に説明する。図8の種々の脂肪組織由来生理活性物質(アディポサイトカイン)とその作用(非特許文献2より抜粋)及び図9のアディポネクチンの作用と治療応用を参照のこと。
[BAT]
褐色脂肪組織(Brown adipose tissue、BAT)又は褐色脂肪細胞は哺乳類で見つかった2つのタイプの脂肪又は脂肪組織の1つである。もう1つのタイプは白色脂肪組織である。褐色脂肪組織は、新生児や冬眠動物では特に豊富である。その主な機能は、動物や新生児が体を震わせないで体の熱を生成することである。単一の脂肪滴が含まれている白色脂肪細胞とは対照的に、褐色脂肪細胞は、鉄を含んでおり、それが茶色を呈し、多数の小さな液滴とはるかに多い数のミトコンドリアが含まれている。褐色脂肪組織はほとんどの組織よりも多くの酸素を必要とするため、褐色脂肪組織はまた、白色脂肪組織よりも多くの毛細血管が集まっている。
ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のβ3受容体に結合すると、UCP‐1(脱共役タンパク質)が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり熱が産生される。動物の冬眠時に良く見られる運動に伴わない熱産生の手段である。
褐色脂肪細胞は、赤ちゃんに最も多くある。その理由は、体温を維持するため。命を守るためなのである。成人は、厳しい寒さの中に置かれると、ぶるぶる震えます。そうして筋肉を動かして熱を作っているのであるが、赤ちゃんは筋肉が少なく、自分で体温を調節できない。赤ちゃんは生命維持のため褐色脂肪細胞が多くあるが、その後必要がなくなり、次第に減っていく。加齢とともに増加していくBMI。それとは逆に褐色脂肪細胞は減少していき、肥満が引き起こされる。“脂肪を燃やす脂肪”とも言える褐色脂肪細胞がなくなると、太りやすくなるということである。褐色脂肪組織の数や働きを高めることが2型糖尿病や肥満症の新しい治療法につながると期待されている。
[UCP‐1]
脱共役タンパク質は、Uncoupling proteinの頭文字を取ってUCPと略されることが多い。脱共役タンパク質(UCP)は、酸化的リン酸化のエネルギーを生成する前に、膜間のプロトン勾配を浪費することができるミトコンドリアの内膜のタンパク質である。哺乳動物ではUCP‐1~UCP-5の5つのタイプが知られている。ATPを生産する替わりに、エネルギーが熱を生成するために使用されるため、脱共役タンパク質は冬眠時の運動を伴わない熱産生のような正常な生理機能を果たしている。UCP‐1は褐色脂肪細胞にのみ存在し、UCP‐2は白色脂肪細胞、免疫系細胞、神経細胞などに認められ、UCP‐3は主に骨格筋、心臓などの筋組織において多く存在する。糖尿病患者の骨格筋においてUCP‐3タンパクの合成が著明に低下していることから、熱産生あるいは脂肪代謝に関連していると考えられている。ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のβ3受容体に結合すると、UCP‐1が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり熱が産生される。日本人を含めた黄色人種ではβ3受容体の遺伝子に遺伝変異が起こっていることが多く、熱を産生することが少ない反面、カロリーを節約し消費しにくいことから、この変異した遺伝子を節約遺伝子と呼ぶことがある。
ミトコンドリア脱共役蛋白質(UCP)はミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させ、エネルギーを熱として散逸する機能を持っている。最も代表的な褐色脂肪組織のUCP(UCP‐1)については、(1)肥満動物ではUCP‐1の機能が低下している、(2)多食しても肥満しない動物はUCP‐1が増加している。人為的にUCP‐1の発現を低下させたマウスは肥満し、高発現マウスはやせるなどの事実が知られている。したがって、UCP‐1を活性化すれば、抗満効果が期待できるので、そのための薬物や食品が探索されているが、その代表例が脂肪細胞特異的なアドレナリン受容体のアゴニストである。事実、βアゴニストは白色脂肪細胞での脂肪分解を促すと同時にUCP‐1を活性化して遊離した脂肪酸を熱に変え、最終的に体脂肪を減少させる。マウス等と異なり成人では、褐色脂肪組織はごく少量しか存在しない。しかしβアゴニストの投与を続けると、通常の脂肪細胞が褐色化しUCP‐1が増加する。さらにUCP‐1と相同な蛋白質UCP-2,UCP-3がヒトの骨格筋や白色脂肪組織などに広く存在しているので、これらを含めてUCPは抗肥満のターゲット分子の一つと考えられている。
[PGC-1α]
運動による糖代謝促進へのPGC-1αの関与:運動をある程度継続して行った骨格筋では、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内の小器官の数が増加して脂肪の燃焼が盛んになり、血液中のブドウ糖(血糖)を骨格筋に取り込む糖輸送体GLUT4が増加することにより糖の代謝が活発になる。PGC-1αという遺伝子の転写を制御する物質は、ミトコンドリアの合成を促進する働きを有し、骨格筋培養細胞での実験ではGLUT4を増加させる。PGC-1αは骨格筋にも存在し、運動を行うとその量が増えることから、運動によってPGC-1α量が増加することが骨格筋の性質の変化に結びつくものと考えられる。PGC-1αはPPAR-α、PPAR-γ、及び他の転写調節因子の活性化補助因子である。筋肉をはじめ肝臓や褐色脂肪組織で発現しており、肝臓では絶食時に発現増加して糖新生を促進し、褐色脂肪組織では熱発生適応に関する転写プログラムを調節している。白色脂肪細胞にPGC-1αを導入 するとミトコンドリア生合成の増強やUCP‐1の発現増加などの褐色脂肪細胞様変化が生じる。完全長のPGC-1αは113kDaで、寒冷暴露により褐色脂肪細胞組織に、絶食により肝臓と腎臓に、運動により骨格筋に誘発される。
【0037】
[PPAR-α]
PPAR-αは核内レセプタースーパーファミリーのメンバーである。現在までにα,γ,δ(β)の三つのサブタイプが報告されている。最初に発見されたαサブタイプ(PPAR-α)がペルオキシソーム増殖剤であるフィブラート系薬剤により活性化されたことからその名が付いた。炭化水素,脂質,タンパク質等の細胞内代謝と細胞の分化に密接に関与している転写因子群であるとされている。いずれのサブタイプもレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ2量体を形成してPPAR応答配列(PPRE)に結合する。
PPAR-αは肝臓や褐色脂肪組織、心臓、腎臓で強く発現しており、遊離脂肪酸などを生理的なリガンドとして活性化され、血中トリグリセリド濃度の低下などを導く。外因性リガンドとしてはベザフィブラート、クロフィブラートなどのいわゆるフィブラート系の薬物がある。標的遺伝子のほとんどは脂質代謝関連の遺伝子であり、高トリグリセリド血症改善薬の主要な標的となっている。
[Prdm16]
Prdm16は、褐色脂肪細胞及びベージュ脂肪細胞への分化誘導スイッチとして重要な役割を担う転写因子である。Prdm16はC/EBPβと複合体を形成し、メチル基転移活性を持つことにより,Myf5陽性細胞から褐色脂肪細胞への分化を誘導する。Prdm16転写複合体のメチル基転移活性を担う唯一のヒストンメチル化酵素として、リシンメチルトランスフェラーゼEHMT1を同定された。Prdm16・EHMT複合体は、マウスのBATにおいて骨格筋関連遺伝子発現を抑制し、前駆褐色脂肪細胞から褐色脂肪細胞に分化するための遺伝子プログラムを起動する役割を担っている。さらに、Prdm16はresitinなどの白色脂肪関連遺伝子の発現を抑制し、ベージュ脂肪関連遺伝子プログラムを誘導する働きも持っており、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞の分化スイッチとしても非常に重要な役割を担っている。
[Tfam]
ミトコンドリア転写因子A(Mitоchоndrial tran-
scriptiоn factоr A:TFAM)はミトコンドリアDNAの転写因子としてClaytоnらによって精製、クローニングされた。TFAMは、hight mоbility grоup(HMG)ファミリータンパク質に属するタンパク質で、HMGファミリータンパク質の多くがそうであるように、DNA配列に非特異的にDNAに結合できる。TFAMの変化量とミトコンドリアDNAの量には相関性があり、ミトコンドリアDNAの複製は転写に依存しているため、TFAMの発現量はミトコンドリアの機能評価として代用されている。ミトコンドリアは酸化的リン酸化を通じて大半のATP産生を担い、生体におけるエネルギー代謝の中心である。
[アディポサイトカイン]
脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称である。
[レプチン]
脂肪細胞から分泌されるホルモン。食欲を抑制し、エネルギー代謝を活性化させる機能をもつ。
[HbA1c]
赤血球に存在するヘモグロビン(Hb)に、ブドウ糖が結合したものである。赤血球の寿命は約4か月であり、この間に赤血球が体内をめぐり、ヘモグロビンにブドウ糖が結合する。血液中のブドウ糖が多いほどHbA1cの値(ヘモグロビンエーワンシー)は高くなり、HbA1c値は過去1~2か月の血糖コントロールの状態を反映する。
[GA]
グリコアルブミンは血糖の状態を反映する糖化蛋白質である。過去1~2週間の血糖コントロールの指標として用いられている。
[アディポネクチン]
脂肪細胞から分泌される分泌蛋白である。血中濃度は一般的なホルモンに比べて桁違いに多く、μg/mlオーダーに達する。作用としては、インスリン受容体を介さない糖取り込み促進作用、脂肪酸の燃焼、細胞内の脂肪酸を減少してインスリン受容体の感受性を上げる作用、肝臓のAMPキナーゼを活性化させることによるインスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など、多彩である。善玉アディポサイトカインである。
[TNF-α]
脂肪組織は炎症性サイトカインを分泌しており、TNF-αにより細胞内へのグルコースの取り込み阻害やインスリンに対する感受性低下が生じる。また、TNF-αは脂肪細胞や肝細胞における脂肪酸の産生を促進し、主にTNFR1を介して抗グリセリン血症を引き起こすことが報告されている。脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(生理活性物質)の1つで、筋肉、脂肪組織や肝臓での糖の働きを抑制する作用がある。肥満時には増加し、糖尿病や動脈硬化などのリスクを高める。脂肪細胞から分泌され、インスリン抵抗性を惹起するサイトカインとして有名である。
[MCP-1]
炎症層(血管内皮細胞、脂肪細胞)から分泌され、単球の游走、マクロファージへの分化、酸化LDL受容体の発現を誘導し、動脈硬化を形成する重要な因子である。D‐プシコースを3ヶ月間投与することで、MCP-1濃度が有意に低下しており、D‐プシコースに抗動脈硬化作用があることが示唆される。
[酸化LDL受容体]
LDL(低比重リポタンパク質)受容体ファミリーはLDLをはじめとする種々のリガンドの細胞内取り込み、あるいはシグナル伝達を司る多機能タンパク質である。フリーラジカルなどの酸化物質によりLDLが酸化を受け酸化LDLとなると、通常のLDL受容体で認識されず、マクロファージのスカベンジャー受容体で認識されて、際限なく取り込まれることでマクロファージの泡沫化を招くことが明らかとなった。
【0038】
(実施例1)
希少糖の一種であるD‐アルロース(D‐allulose)投与による褐色脂肪細胞(褐色脂肪組織Brown adipose tissueの略 BAT)への影響について検討した。実験は6週齢のマウスを使用し、3群、各5匹に分け、下記のように処理を8週間おこなった。
1.プロトコール:
(1)普通食及び水の飲水をおこなう群(Normal Food)
(2)高脂肪食及び水の飲水をおこなう群(HFD)
(3)高脂肪食及びD‐アルロース(D‐allulose)を2%含有した水を飲水する群(HFD+2%D‐allulose)
【0039】
2.評価項目:
(1)体重(Body Weight)の推移、
血糖値(Blood Glucose)の推移
(2)肩甲骨下の褐色脂肪細胞又はのサイズ及び重量
(3)褐色脂肪細胞の形態的な変化を病理的に評価
(4)褐色脂肪細胞の活性化をUCP‐1、PPAR-α、PGC-1αの発現量の評価
【0040】
3.結果:
1)体重の推移、血糖値の推移の結果を図1に示す。
高脂肪食を負荷した群では体重が増加した。高脂肪食及びD‐アルロース群(HFD+2%D‐allulose)では、高脂肪食群と比較して体重の減少が認められた。また血糖値の推移も、高脂肪食群では、血糖値が高値を示したが、高脂肪食及びD‐アルロース群では、血糖値の低下を認めた。
2)肩甲骨下の褐色脂肪細胞のサイズ及び重量、及び体重の結果を図2に示す。
高脂肪食を負荷した群では褐色脂肪細胞が減少した。高脂肪食及びD‐アルロース群では、高脂肪食群と比較して褐色脂肪細胞の増加が認められた。
【0041】
3)褐色脂肪細胞の形態的な変化を病理的に評価の結果を図3に示す。
組織染色でも、高脂肪食群では脂肪化を認めたが、高脂肪食及びD‐アルロース群(HFD+2%D-allulose)では正常を変わらない状態に改善していた。
4)褐色脂肪細胞の活性化をUCP‐1、PPAR-α、PGC-1αの発現量の評価の結果をそれぞれ図4図5図6に示す。
高脂肪食及びD‐アルロース群(HFD+2%D‐allulose)では、高脂肪食群と比較して褐色脂肪細胞のマーカー遺伝子発現増強が認められた。
【0042】
まとめ:
図1に示すように、D‐アルロースのマウス体重に及ぼす影響について、高脂肪食(HFD)は8週間の観察で体重を増加させた。HFD群に2%D‐アルロース含有水を飲水させると、体重の減少が認められた。また8週間において血糖値を経時的に測定した。HFD群においては、血糖値が通常群に比較して高値を示した。HFD+D‐アルロース群はHFDに比較して血糖値は、HFD群に比較して低下した。
6週齢のマウスを使用する本実施例の実験における肩甲骨下の褐色脂肪細胞のサイズ及び重量、及び体重を示す図2、さらに3群における褐色脂肪組織の病理的に検討の結果を示す図3が示すように、通常食群に比較してHFD群では、BATに脂肪沈着を認め、白色脂肪化していた。一方、HFD群+2%D‐アルロース群では、通常食群に比較して形態的に褐色脂肪組織は遜色がなく、白色脂肪化した褐色脂肪組織が通常の褐色脂肪組織へ回復したことが判明した。
褐色脂肪細胞の活性化をUCP‐1の発現量で示す図4が示すように、HFD群でUCP‐1が増加していた。多量の脂肪摂取にともない生体の防御反応としてUCP‐1を誘導し、カロリー消費していることが予想された。D‐アルロースの投与は、さらにUCP‐1を誘導していた。病理組織と合わせて考えると、HFD群でのUCP‐1の誘導は、病的な状況への対応であり、HFD群+2%D‐アルロース群では、正常な形態であることより、褐色脂肪組織が分化増殖した結果のUCP‐1の活性化であると推定している。
褐色脂肪細胞の活性化をPPAR-αの発現量を示す図5が示すように、PPAR-αは褐色脂肪細胞の活性化の指標であるところ、HFD群で通常群に比較してPPAR-αが誘導されていたが、これは過剰な脂質の摂取による生体の反応と思われる。HFD群+2%D‐アルロース群では、D‐アルロースの摂取により、より強くPPAR-αが誘導されており、褐色脂肪細胞が活性化されていると思われる。
褐色脂肪細胞の活性化をPGC-1αの発現量で示す図6が示すように、HFD群で通常群に比較して、PGC-1αが誘導されていたが、これは過剰な脂質の摂取による生体の反応と思われる。HFD+2%D‐アルロース群では、D‐アルロースの摂取により、より強くPGC-1αが誘導されており、PPAR-αの活性化補助因子であるPGC-1αの誘導は、下流域にあるUCP‐1の誘導をきたした一因と思われ、褐色脂肪細胞が活性化されていると思われる。
D‐アルロースの投与により褐色脂肪細胞の活性化が刺激され、熱産生亢進、脂肪燃焼、代謝亢進を増強することにより、体重減少に寄与したと考えられる。今後の展望として、D‐アルロースを摂取することで、『やせやすい』体質を獲得できる可能性を示している。
【0043】
(実施例2)
2型糖尿病患者に対する希少糖D‐プシコース(D‐アルロース)の効果について検討した。
[方法]
〈選択基準〉
下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない2型糖尿病患者
(HbA1c:6.5%以上)(境界型糖尿病)
1)食事療法・運動療法のみ
2)食事療法・運動療法に加えて薬物療法
〈除外基準〉
1)D‐アルロース(D‐プシコース)投与禁忌に該当する患者
2)他の臨床治験に参加中の患者
3)妊婦、産婦、授乳婦又は妊娠の可能性がある女性
4)HbA1cが8%以上の血糖コントロール不良である患者
5)重度の腎機能障害(血清クレアチニン値1.5mg/dl以上)を認める患者
6)他の重篤な合併症を有する患者
〈実験実施方法〉
D‐アルロース(D‐プシコース)散剤:スティック形状1本5g/包(レアースイート社製造)
1回5gを1日3回経口投与した。
3ヶ月間観察が可能であった2型糖尿病患者12名(男4例、女8例)を対象に、投与前と投与後12週後の一般所見、血液検査を比較した。(ウィルコクソン符号付順位和検定)
実施に当たってはヘルシンキ宣言、臨床研究に関する倫理指針に準拠している香川大学医学部倫理委員会承認
【0044】
〈考察〉
今回の試験においてD‐アルロース(D‐プシコース)を3ヶ月間投与することにより、3ヶ月後には有意に体重の減少を認めている。
種々の脂肪組織由来生理活性物質、(アディポサイトカイン)とその作用について、レプチン、アディポネクチンは、D‐プシコース投与中3ヶ月間は特に有意な変化を認めなかった。
よく知られているようにTNF-αは、脂肪細胞から分泌され、インスリン抵抗性を惹起するサイトカインとして有名である。また善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンを抑制することも知られている。本実施例のD‐プシコースの投与により、TNF-αが低下することはインスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールを改善することが推測される。
またMCP-1は炎症層(血管内皮細胞、脂肪細胞)から分泌され、単球の游走、マクロファージへの分化、酸化LDL受容体の発現を誘導し、動脈硬化を形成する重要なサイトカインである。D‐アルロース(D‐プシコース)スを3ヶ月間投与することで、MCP-1濃度が有意に低下しており、D‐アルロース(D‐プシコース)に抗動脈硬化作用があることが示唆される。
【0045】
〈まとめ〉
(1)2型糖尿病患者12名(男4例,女8例)を対象に,D‐アルロース(D‐プシコース)を1回5gを1日3回経口投与し、投与前後12週の一般所見、血液検査を比較した。
(2)HbA1c、GA、レプチン、アディポネクチンに有意差は認められなかった。
(3)TNF-α、MCP-1は投与前後で有意に低下していた。特にTNF-αは投与後 二ヶ月で有意に低下していた。
(4)体重は投与後三ヶ月で平均1kg低下していた。
(5)D‐アルロース(D‐プシコース)は2型糖尿病患者投与で有用な可能性がある。
【0046】
(実施例3)
実施例1と同様に、D‐アルロース(D‐allulose)投与による褐色脂肪細胞(褐色脂肪組織Brown adipose tissueの略 BAT)への影響について、ベージュ脂肪細胞の分化誘導による体重減少、体脂肪減少への効果について検討した。
(目的)マウスにおいてD‐allulosを投与することが褐色脂肪組織へ及ぼす影響を確認する。またベージュ脂肪細胞の分化について、UCP‐1などの発現の変化などをマーカーにして検討を行う。
1.プロトコール:
マウス5匹を1群として2群に分ける。両群8週齢マウスに高脂肪食(HFD)を負荷する。HFD負荷後4週後より、1群はそのままHFDを継続する。別の1群はHfdに加えてD‐allulos(0.2mg/体重g/日)をゾンデにて胃へ投与する。10週目まで体重、摂食量、飲水量、血糖値をモニターする。
2.結果
1)高脂肪食(HFD)負荷時の体重増加について、結果を図10に示す。
マウス各5匹における普通食と高脂肪食(HFD)時の体重増加について観察している。高脂肪食(HFD)負荷時には、普通食に比較して明らかな体重増加を認められる。
2)図11に高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロースを投与した時の体重の変化を示している。
D‐アルロース投与前の高脂肪食(HFD)負荷4週間では両群に体重増加に差を認めない。
D‐アルロース投与開始後2週間目(高脂肪食開始後6週目)より両群の体重に優位な差を認めた。
D‐アルロース投与群においては、投与開始2週間目より優位に体重の増加が減少した。
3)空腹時血糖値の推移について、結果を図12に示す。
高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐allulosを投与した時の体重の変化を示している。D-allulos投与開始後3週間目(高脂肪食開始後6週目)より空腹時の血糖値の低下を認めた。
4)10週経過後のブドウ糖負荷試験の血糖値の推移について、結果を図13に示す。
腹腔内にブドウ糖を投与し、0、15、30、60、90、120分後の血糖値を測定した。D‐アルロース投与群では、90、120分後の血糖値が対象群に比較して優位に低下していた。
5)図14に示すとおり、研究期間中の摂食量(右側図)、飲水量(左側図)には両群に優位な変化はなかった。
6)高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐allulosを投与した時の褐色脂肪細胞(BAT)の重量及び面積に関する検討について、結果を図15に示す。
D‐アルロース投与群においては、褐色脂肪細胞(BAT)の重量及び面積の拡大が認められ、実施例1と同様の結果を得た。
褐色脂肪細胞(BAT)の形態学的な検討において、実施例1の図3と同様に、普通食を摂取した時に褐色脂肪細胞(BAT)の組織像に比べて、高脂肪食(HFD)を負荷したマウスの褐色脂肪細胞(BAT)の組織像は全体的に脂肪が沈着し、脂肪化が進んでおり、一方、高脂肪食(HFD)を負荷に2%のD‐allulosを飲水させた群の褐色脂肪細胞(BAT)の組織像は、普通食摂取群とほぼ同様な形態であり、高脂肪食(HFD)負荷群に認められた脂肪の沈着は認められなかった。
【0047】
(脂肪組織について)
ここで、現在の脂肪組織の考えかた(非特許文献3)を図16で説明する。
ベージュ脂肪細胞、あるいはベージュ脂肪細胞は、2012年、第3の脂肪細胞としてハーバード大学医学部ダナ・ファーバー癌研究所のブルース・スピーゲルマン博士の研究チームによって単離された。
脂肪細胞には、脂肪を蓄積する白色脂肪細胞と、脂肪を燃焼し熱を産生する働きを持つ褐色脂肪細胞が存在している。褐色脂肪細胞には脱共役タンパク質(uncоupling prоtein 1:UCP‐1)というタンパク質が多く発現しており、UCP-1が熱を生み出し、脂肪を燃やし、エネルギーに変える働きをする。ベージュ脂肪細胞は白色脂肪細胞のようにUCP-1の発現が非常に低い細胞が、寒さなどの刺激によりUCP-1が高発現する。その際にこの脂肪細胞は褐色脂肪細胞のように熱産生を行うようになり、白色脂肪細胞が褐色様の形質を持つようになる。褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は、寒冷曝露に応じて熱を産生する特殊な脂肪細胞として、寒冷環境での体温維持に寄与している。これらの脂肪細胞が持つ熱産生・エネルギー消費活性は、体温調節能のみならず、肥満や代謝性疾患の予防にも役立つことが期待されている。褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞は、UCP‐1を発現し、熱産生能を有する点は共通しているが、細胞の起源や機能制御機構は異なることがわかってきている。古典的な褐色脂肪細胞は、小型げっ歯類、特に冬眠動物で発達しており、肩甲骨間や腋窩、腎周囲に褐色脂肪細胞塊として存在している。褐色脂肪細胞の分化と組織形成は胎仔期に完成するのに対し、ベージュ脂肪細胞の分化は寒冷環境への曝露などの刺激に応じて誘導され、刺激がなくなると消失していく。この誘導性・可塑性は、発生時より存在し続ける“既存型”の褐色脂肪細胞や白色脂肪細胞と比して最大の特徴といえる。
機能的特徴をみると、余剰エネルギーを中性脂肪として貯蔵する白色脂肪細胞とは異なり、褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞はUCP‐1が酸化的リン酸化を脱共役させることにより、熱産生を行う。これらの点では、ベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞と似ているといえる。
近年,陽電子画像診断法(fluоrоdeоxyglucоse‐pоsitrоn missiоn tоmоgraphy:FDG‐PET)を用いた研究により、ヒトでも一定量、褐色脂肪細胞(BAT)が存在することは明らかになった。ヒトにおけるBATの存在部位は、肩甲骨間、腎周囲、鎖骨上窩部、腋下部,傍脊椎部などである。近年の研究より成人が持つBATは主にベージュ脂肪細胞により構成されていることが示唆された。このことは,成人のBAT活性が夏に最小になり、冬に最大になる、すなわち誘導性及び可塑性を持つという事実によっても支持される。BAT活性変化量と体脂肪変化量の間には負の相関が認められる。この結果により、ヒトBAT(ベージュ脂肪細胞)が肥満を軽減するための有効な刺激標的になることが明らかになった。
【0048】
7)高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロースを投与したマウスにけるベージュ脂肪細胞、褐色脂肪細胞のUCP‐1mRNAの発現の検討について、結果を図17に示す。
左側図面は、ベージュ脂肪細胞においてはD‐アルロースを投与することにより優位にUCP‐1の発現が増加している。つまりD‐アルロースによりベージュ脂肪細胞が分化誘導されていることを示している。
右側図面は、古典的な褐色脂肪組織においてもUCP‐1の発現が増加している。
D‐allulosの投与は、ベージュ脂肪細胞の誘導及び褐色脂肪細胞の活性化を介して体重減少に寄与している可能性がある。
8)高脂肪食(HFD)負荷したマウスにD‐アルロースを投与したマウスにけるベージュ脂肪細胞、褐色脂肪細胞のUCP‐1タンパクの発現の検討について、結果を図18に示す。
左側図面は、ベージュ脂肪細胞においてはD‐アルロースを投与することにより優位にUCP‐1タンパクの発現が増加している。つまりD‐アルロースによりベージュ脂肪細胞が分化誘導されていることを示している。
右側図面は、古典的な褐色脂肪組織においてもUCP‐1タンパクの発現が増加している。
D‐allulosの投与は、ベージュ脂肪細胞の誘導及び褐色脂肪細胞の活性化を介して体重減少に寄与している可能性がある。
9)D‐allulos投与によるベージュ脂肪細胞の誘導及び褐色脂肪細胞の活性化の詳細について、熱の産生に関与する遺伝子UCP‐1,Prdm16,熱産生に関与するオルガネラのミトコンドリアの機能を反映する遺伝子、Pgcl-α、Tfam、脂肪の分化に関係する遺伝子PPARγの発現について検討し結果を図19に示す。
左側図面は、ベージュ脂肪細胞での検討では、UCP‐1、Prdm16、Pgcl-α、Tfam、PPARγともの発現が増加しており、ベージュ脂肪細胞が強く誘導されていることを示している。
右側図面は、褐色脂肪細胞では、UCP‐1、Prdm16、Tfamの発現が増加していた。これらが褐色脂肪細胞の活性化に関与していることが推定される。
【0049】
10)図20は、細胞を使った実験(成人の鎖骨上窩部のBATから単一クローンに由来する細胞株を樹立し、ベージュ脂肪細胞への分化誘導研究のモデルを使用する)について、BAT-プロトコール, WAT-プロトコールの二つがベージュ脂肪細胞を誘導するプロトコールについて説明する図面である。
図21は、細胞を使った実験において、BAT-プロトコール、WAT-プロトコールの二つがベージュ脂肪細胞を誘導するプロトコールにD‐アルロースを追加するプロトコールついて説明する図面である。
図22は、D‐アルロースを分化誘導プロトコールに追加することにより、ベージュ脂肪細胞への誘導が促進されることを脂肪染色で示している。
D‐アルロースの追加(右)によりоil-red-O(脂肪染色)が促進されている。
図23は、分化誘導プロトコールによって誘導されたベージュ脂肪細胞の評価として様々なマーカーの発現を検討している。WAT-プロトコールは、褐変マーカー遺伝子(UCP‐1、Pgc-1α、cоx8b)の誘導により強い影響を及ぼす。WAT-プロトコールを使用すると、D‐アルロースはPrdm16、Pgc-1α、及びPPARγの発現を強化する。
両方の分化プロトコールで、D‐アルロースはPPARγの発現を増強し、D‐アルロースが脂肪生成を促進することを示唆している。
すなわち、D‐アルロース投与群においては、全てのマーカーが優位に増加し、ベージュ脂肪細胞誘導のプロセスを優位に促進していた。
図24において、プロトコールによって誘導されたベージュ脂肪細胞の評価として様々なマーカーの発現を検討している。UCP‐1とPPARγをD‐アルロース存在、非存在かで検討している。D‐アルロースの存在でUCP‐1とPPARγが増加し、ベージュ脂肪細胞の誘導が促進されていることが示された。
BAT-プロトコーと比較して、WAT-プロトコールはUCP-1タンパク質発現の誘導により強い影響を及ぼす。WAT-プロトコールを使用すると、D‐アルロースはUCP‐1タンパク質の発現をわずかに高める。
3.結論的考察
D‐アルロースの投与により体重減少が認められる。この体重減少効果は、ベージュ脂肪細胞が分化誘導されたこと、褐色脂肪細胞が活性化されたことによると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
D‐アルロースを含有する本願の褐色脂肪細胞活性化剤を摂取することにより、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞を活性化して、全身のエネルギー消費を促進することにより、脂肪量を減少させひいては肥満を解消することが期待される。実際、人におけるD‐アルロース(1日15gの摂取は、3ヶ月後に有意差を持って体重減少をもたらした。人においても、褐色脂肪組織の増殖及び『やせやすい体』の獲得に寄与していると考えられる。また、一般に加齢により代謝が低下し身体の冷えが感じられるようになるが、D‐アルロースの摂取によりエネルギー代謝(熱産生)を上げることで身体の冷えを予防・改善することも期待される。更に、D‐アルロースの褐色脂肪細胞活性化作用により、白色脂肪組織中に褐色様脂肪細胞(ベージュ脂肪細胞)を分化誘導することも期待される。

図1
図2
図3
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