(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032827
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B41J2/335 101H
B41J2/335 101C
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007775
(22)【出願日】2024-01-23
(62)【分割の表示】P 2019124487の分割
【原出願日】2019-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 雅寿
(57)【要約】
【課題】発熱部の下位に設けられる蓄熱部を簡易に形成することができるサーマルプリントヘッドを提供する。
【解決手段】主面11を有する基板1と、基板1の主面11に形成された蓄熱層15と、蓄熱層15の上層に主走査方向に配列された複数の発熱部41と、を含み、基板1はSiウエハから成り、発熱部41のそれぞれは、抵抗体層4と、当該抵抗体層4の一部を露出させるようにして当該抵抗体層4上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層31および下流側電極層32を含んで形成されており、抵抗体層4は、TaNから成り、蓄熱層15は、板1の主面11に板状蓄熱部材150が貼着されて形成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する基板と、
上記基板の上記主面に形成された蓄熱層と、
上記蓄熱層の上層に主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、
上記基板はSiウエハから成り、
上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、
上記抵抗体層は、TaNから成り、
上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されていることを特徴とする、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
上記板状蓄熱部材は、30~50μmの厚さを有する、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
上記板状蓄熱部材は、上記基板の上記主面の全面もしくは略全面に貼着されている、請求項1ないし3のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
主面に主走査方向に延びる凹陥部を有する基板と、
上記基板の上記主面に上記凹陥部を覆うようにして形成された蓄熱層と、
上記蓄熱層の上層であって上記凹陥部の上方に位置させて、主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、
上記基板はSiウエハから成り、
上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、
上記抵抗体層は、TaNから成り、
上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されていることを特徴とする、サーマルプリントヘッド。
【請求項6】
上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
上記板状蓄熱部材は、30~50μmの厚さを有する、請求項6に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
上記凹陥部の深さは、10~100μmである、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
上記板状蓄熱部材は、上記基板の上記主面の全面もしくは略全面に貼着されている、請求項5ないし8に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
主面を有する基板と、上記基板の上記主面に形成された蓄熱層と、上記蓄熱層の上層に主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、上記基板はSiウエハから成り、上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、上記抵抗体層は、TaNから成り、上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されている、サーマルプリントヘッドの製造方法であって、
上記蓄熱層は、Siウエハから成る材料基板の主面に板状蓄熱部材を貼着することにより形成することを特徴とする、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項11】
上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる、請求項10に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項12】
上記板状蓄熱部材は、陽極接合により、上記基板材料の上記主面の全面もしくは略全面に貼着される、請求項11に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項13】
主面に主走査方向に延びる凹陥部を有する基板と、上記基板の上記主面に上記凹陥部を覆うようにして形成された蓄熱層と、上記蓄熱層の上層であって上記凹陥部の上方に位置させて、主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、上記基板はSiウエハから成り、上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、上記抵抗体層は、TaNから成り、上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されている、サーマルプリントヘッドの製造方法であって、
上記蓄熱層は、Siウエハから成る材料基板の主面に板状蓄熱部材を貼着することにより形成することを特徴とする、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項14】
上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる、請求項13に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項15】
上記板状蓄熱部材は、陽極接合により、上記基板材料の上記主面の全面もしくは略全面に貼着される、請求項14に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サーマルプリントヘッドの一例が開示されている。サーマルプリントヘッドは一般に、ヘッド基板上に主走査方向に並ぶ多数の発熱部を備えている。各発熱部は、ヘッド基板に蓄熱部を介して形成した抵抗体層上に、その一部を露出させるようにして、上流側電極層と下流側電極層をそれらの端部を対向させて積層することにより形成されている。上流側電極層と下流側電極層間を通電することにより、上記抵抗体層の露出部(発熱部)がジュール熱により発熱する。蓄熱部は、発熱部が発する熱が無駄にヘッド基板等に漏出することを抑制して、高速印字を可能とする等のために設けられる。
【0003】
同文献に開示されたサーマルプリントヘッドはまた、基板としてSiを用い、半導体プロセスにより抵抗体層を含む各構成部を形成している。この場合、蓄熱部は、SiO2を
用いたスパッタリングやCVD法により形成されるが、十分な厚みの蓄熱部を形成するには相当時間を要し、サーマルプリントヘッドの製造効率が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、発熱部の下位に設けられる蓄熱部を簡易に形成することができるサーマルプリントヘッドを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される係るサーマルプリントヘッドは、主面を有する基板と、上記基板の上記主面に形成された蓄熱層と、上記蓄熱層の上層に主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、上記基板はSiウエハから成り、上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、上記抵抗体層は、TaNから成り、上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されていることを特徴とする。
【0008】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる。
【0009】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、30~50μmの厚さを有する。
【0010】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、上記基板の上記主面の全面もしくは略全面に貼着されている。
【0011】
本発明の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドはまた、主面に主走査方向に延びる凹陥部を有する基板と、上記基板の上記主面に上記凹陥部を覆うようにして形成された蓄熱層と、上記蓄熱層の上層であって上記凹陥部の上方に位置させて、主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、上記基板はSiウエハから成り、上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、上記抵抗体層は、TaNから成り、上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されていることを特徴とする。
【0012】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる。
【0013】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、30~50μmの厚さを有する。
【0014】
好ましい実施の形態では、上記凹陥部の深さは、10~100μmである。
【0015】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、上記基板の上記主面の全面もしくは略全面に貼着されている。
【0016】
本発明の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、主面を有する基板と、上記基板の上記主面に形成された蓄熱層と、上記蓄熱層の上層に主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、上記基板はSiウエハから成り、上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、上記抵抗体層は、TaNから成り、上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されている、サーマルプリントヘッドの製造方法であって、上記蓄熱層は、Siウエハから成る材料基板の主面に板状蓄熱部材を貼着することにより形成することを特徴とする。
【0017】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる。
【0018】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、陽極接合により、上記基板材料の上記主面の全面もしくは略全面に貼着される。
【0019】
本発明の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法はまた、主面に主走査方向に延びる凹陥部を有する基板と、上記基板の上記主面に上記凹陥部を覆うようにして形成された蓄熱層と、上記蓄熱層の上層であって上記凹陥部の上方に位置させて、主走査方向に配列された複数の発熱部と、を含み、上記基板はSiウエハから成り、上記発熱部のそれぞれは、抵抗体層と、当該抵抗体層の一部を露出させるようにして当該抵抗体層上に積層され、相互間を通電可能な上流側電極層および下流側電極層を含んで形成されており、上記抵抗体層は、TaNから成り、上記蓄熱層は、上記基板の上記主面に板状蓄熱部材が貼着されて形成されている、サーマルプリントヘッドの製造方法であって、上記蓄熱層は、Siウエハから成る材料基板の主面に板状蓄熱部材を貼着することにより形成することを特徴とする。
【0020】
上記板状蓄熱部材は、SiO2からなる。
【0021】
好ましい実施の形態では、上記板状蓄熱部材は、陽極接合により、上記基板材料の上記主面の全面もしくは略全面に貼着される。
【0022】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す平面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大平面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である
【
図10】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図11】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図12】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図13】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図14】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部断面図である。
【
図15】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【
図16】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図17】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図18】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図19】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図20】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図21】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図22】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【
図23】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図1~
図6は、本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す。このサーマルプリントヘッドA1は、ヘッド基板1、接続基板5および放熱部材8を有する。ヘッド基板1および接続基板5は、放熱部材8上に副走査方向yに隣接させて搭載されている。ヘッド基板1には、後に詳説する構成により、主走査方向xに配列される複数の発熱部41が形成されている。この発熱部41は、接続基板5上に搭載されたドライバIC7により選択的に発熱駆動され、コネクタ59を介して外部から送信される印字信号にしたがって、プラテンローラ91により発熱部41に押圧される感熱紙等の印字媒体に印字を行う。
【0026】
ヘッド基板1は、主走査方向xを長手方向とし、副走査方向yを短手方向とする細長矩形状の平面形状を有する。ヘッド基板1の大きさは限定されないが、一例を挙げると、主走査方向xの寸法は、例えば50~150mm、副走査方向yの寸法は、例えば2.0~5.0mm、厚さ方向zの寸法は、例えば725μmである。なお、以下の説明において、ヘッド基板1における副走査方向yのドライバIC7に近い側を上流側といい、ドライバIC7から遠い側を下流側という。
【0027】
本実施形態のヘッド基板1は、例えば、単結晶半導体からなる。単結晶半導体としては、Siが好適である。
【0028】
図5および
図6に示すように、ヘッド基板1の主面11には、蓄熱層15が形成されている。この蓄熱層15は、例えばSiO
2からなる板状蓄熱部材150を上記主面11に貼着することによって形成されている。後記する製造方法によれば、この蓄熱層15は、SiO
2ウエハをSiウエハに例えば陽極接合により貼着し、研磨により必要な厚さを得
るようにしている。こうして形成される蓄熱層15の厚さは、例えば30~50μmという十分な厚さとすることができる。また、本実施形態では、蓄熱層15は、ヘッド基板1の主面11の全面にわたって形成されている。
【0029】
蓄熱層15の上層には、少なくとも、抵抗体層4、電極層3および保護層2がこの順で形成されている。
【0030】
抵抗体層4は、蓄熱層15の上層に形成されている。抵抗体層4は、後記する電極層3に覆われずに露出する部分が発熱部41を形成する。この発熱部41は、その多数が主走査方向xに配列されている。抵抗体層4は、たとえばTaNからなり、その厚さは特に限定されず、例えば0.02μm~0.1μmである。抵抗体層4は、副走査方向yに所定幅を有し、各発熱部41を主走査方向xについて独立させるため、主走査方向xについて分離形成されている。
【0031】
電極層3は、ヘッド基板1の上流側に形成される複数の個別電極層31と、ヘッド基板1の下流側に形成される共通電極層32とを含む。各個別電極層31は、概ね副走査方向yに延びる帯状をしており、それらの下流側先端は、抵抗体層15の上流側端部に重なる位置まで延びている。各個別電極層31の上流側端部には、個別パッド部311が形成されている。個別パッド部311は、接続基板5に搭載される駆動IC7とワイヤ61により接続される部分である。共通電極層32は、複数の櫛歯部324と、これら複数の櫛歯部324を共通につなげる共通部323とを有する。共通部323はヘッド基板1の上流側の縁に沿って主走査方向xに形成され、各櫛歯部324は、共通部323から分かれて副走査方向yに延びる帯状をしており、各個別電極層31の先端に対して所定間隔を隔てて対向させられている。共通部323は、その主走査方向x両端から副走査方向yに折れ曲がってヘッド基板1の下流側に至る延長部325を有する。電極層3は、例えばCuからなり、その厚さは、例えば0.3~2.0μmである。上記したように、抵抗体層4のうち、個別電極層31と、これに先端部どうしが対向する共通電極層32の上記櫛歯部324とに覆われていない部分が各発熱部41を形成する。
【0032】
抵抗体層4および電極層3はさらに、保護層2で覆われている。保護層2は、絶縁性の材料からなり、例えばSiO2、SiN、SiC、AlN等からなる。保護層2の厚みは
、例えば1.0~10μmである。
【0033】
図2および
図5に示すように、保護層2は、パッド用開口21を有する。パッド用開口21は、複数の個別電極層31に設けた個別パッド部311を露出させている。
【0034】
接続基板5は、ヘッド基板1に対して副走査方向y上流側に隣接して配置されている。接続基板5は、例えばPCB基板であり、ドライバIC7やコネクタ59が搭載される。接続基板5は、主走査方向xを長手方向とする平面視長矩形状をしている。
【0035】
ドライバIC7は、接続基板5上に搭載されており、複数の発熱部41に個別に通電させるために設けられる。ドライバIC7と上記各個別電極層31の各個別パッド部311間は、複数のワイヤ61によって接続される。ドライバIC7はまた、接続基板5上に形成された配線パターンに対して、ワイヤ62によって接続されている。ドライバIC7には、コネクタ59を介して外部から送信される印字信号が入力される。複数の発熱部41は、印字信号に従って個別に通電されることにより、選択的に発熱させられる。
【0036】
ドライバIC7およびワイヤ61,62は、ヘッド基板1と接続基板5とに跨るようにして保護樹脂78で覆われている。保護樹脂78は、例えばエポキシ樹脂等の黒色の絶縁性樹脂が用いられる。
【0037】
放熱部材8は、ヘッド基板1および接続基板5を支持しており、発熱部41により生じた熱の一部を外部へと放熱するために設けられる。放熱部材8は、例えばアルミ等の金属製である。
【0038】
次に、サーマルプリントヘッドA1の製造方法の一例について、
図7~
図13を参照して説明する。
【0039】
まず、
図7に示すように、材料基板1Aを用意する。材料基板1Aは、単結晶半導体からなり、たとえばSiウエハである。材料基板1Aは、平坦な主面11Aを有し、当該主面11Aは(100)面とするのが好ましい。
【0040】
次いで、
図8に示すように、材料基板1Aの主面11Aの全面にわたり、板状蓄熱部材150としてのSiO
2ウエハ150Aを貼着する。この貼着の手法としては、陽極接合
が適当である。
【0041】
次いで、
図9に示すように、板状蓄熱部材150の表面を研磨することにより、その厚さを所望の厚さ、例えば30~50μmに設定する。
【0042】
次いで、
図10に示すように、抵抗体膜4Aを形成する。抵抗体膜4Aの形成は、例えばスパッタリングによりTaNの薄膜を形成することによって行う。
【0043】
次いで、
図11に示すように、抵抗体膜4Aにエッチングを施すことにより、副走査方向yに所定幅を有し、主走査方向xに延びる抵抗体層4を形成する。
【0044】
次いで、
図12に示すように、導電膜3Aを形成する。導電膜3Aの形成は、例えばめっきやスパッタリングによりCuからなる層を形成することによって行う。
【0045】
次いで、
図13に示すように、導電膜3Aおよび抵抗体膜4Aに選択的なエッチングを施すことにより、主走査方向xに分離された抵抗体層4、この抵抗体層4を発熱部41を残して覆う個別電極層31、および共通電極層32の櫛歯部324を形成する。
【0046】
次いで、保護層2を形成する、保護層2の形成は、例えばCVDを用いて電極層3および抵抗体層4上にSiNおよびSiCを堆積させることにより行われる。また、保護層2をエッチング等により部分的に除去することにより、パッド用開口21を形成する。この後は、放熱部材8上へのヘッド基板1および接続基板5の組付け、接続基板5へのドライバIC7接続の搭載、ワイヤ61,62のボンディング、保護樹脂78の形成等を行うことにより、
図1~
図6に示したサーマルプリントヘッドA1が得られる。
【0047】
次に、第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドA1の作用について説明する。
【0048】
ヘッド基板1の材料であるSiウエハは、比較的熱伝導性がよく、何らの手当も行わないと発熱部41が発する熱を無駄に放熱部材8に向けて漏出させ、高速印字に不向きとなるが、このサーマルプリントヘッドA1においては、発熱部41の下位に十分な厚さの蓄熱層15が形成されているため、発熱部41が発する熱の無駄な漏出が防がれ、高速印字にも適するようになる。
【0049】
しかも、蓄熱層15は、SiO2ウエハをSiウエハに対して貼着することによって形
成されているため、例えばSiO2をスパッタリングで付着させて形成することに比較し
、圧倒的な厚みで、かつ圧倒的に短時間で形成することができ、このことは、サーマルプリントヘッドA1の製造効率の向上およびコスト低減に大いに寄与する。
【0050】
図14~
図15は、本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す。このサーマルプリントヘッドA2は、ヘッド基板1の主面11における発熱部41の下位に位置する領域に副走査方向y所定幅で主走査方向xに延びる凹陥部115が形成されている点が第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドのA1と異なる。
図14~
図15においては、第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドA1と同一または同等の部材または部分には同一の参照符号を付して以下における詳細な説明を省略する。
【0051】
ヘッド基板1の主面11における、発熱部41の副走査方向y位置と対応する位置に、主走査方向xに延びる凹陥部115が形成されている。この凹陥部115の深さは、例えば10~100μmとされる。
【0052】
蓄熱層15は、凹陥115部を覆うようにして、主面11の全面にわたって貼着により形成されている。これにより、発熱部41の副走査方向y位置に対応して、蓄熱層15の直下に凹陥部115による空隙115Aが形成される。蓄熱層15の上層には、第1実施形態と同様に、少なくとも、抵抗体層4、電極層3および保護層2がこの順で形成されている。
【0053】
次に、サーマルプリントヘッドA2の製造方法の一例について、
図16~
図23を参照して説明する。
【0054】
まず、
図16に示すように、材料基板1Aを用意する。材料基板1Aは、単結晶半導体からなり、たとえばSiウエハである。材料基板1Aは、平坦な主面11Aを有し、当該主面11Aは(100)面とするのが好ましい。
【0055】
次いで、
図17に示すように、材料基板1Aの主面11Aに凹陥部115を形成する。凹陥部115の形成は、例えば、異方性エッチングにより行うことができる。上記したように、凹陥部115Aの深さは、例えば10~100μmである。
【0056】
次いで、
図18に示すように、材料基板1Aの主面11Aの全面にわたり、板状蓄熱部材150としてのSiO
2ウエハ150Aを貼着する。この貼着の手法としては、陽極接
合が適当である。
【0057】
次いで、
図19に示すように、板状蓄熱部材150の表面を研磨することにより、板状蓄熱部材150の厚さを所望の厚さ、例えば30~50μmに設定する。
【0058】
次いで、
図20に示すように、抵抗体膜4Aを形成する。抵抗体膜4Aの形成は、例えばスパッタリングによりTaNの薄膜を形成することによって行う。
【0059】
次いで、
図21に示すように、抵抗体膜4Aにエッチングを施すことにより、副走査方向に所定幅を有し、主走査方向xに延びる抵抗体層4を形成する。
【0060】
次いで、
図22に示すように、導電膜3Aを形成する。導電膜3Aの形成は、例えばめっきやスパッタリングによりCuからなる層を形成することによって行う。
【0061】
次いで、
図23に示すように、導電膜3Aおよび抵抗体膜4Aに選択的なエッチングを施すことにより、主走査方向xに分離された抵抗体層4、この抵抗体層4を発熱部41を残して覆う個別電極層31、および共通電極層32の櫛歯部324を形成する。
【0062】
次いで、保護層2を形成する、保護層2の形成は、例えばCVDを用いて電極層3および抵抗体層4上にSiNおよびSiCを堆積させることにより行われる。また、保護層2をエッチング等により部分的に除去することにより、パッド用開口21を形成する。この後は、放熱部材8上へのヘッド基板1および接続基板5の組付け、接続基板5へのドライバIC7接続の搭載、ワイヤ61,62のボンディング、保護樹脂78の形成等を行うことにより、
図14~
図15に示したサーマルプリントヘッドA2が得られる。
【0063】
第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドA2は、第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドA1について上述したのと基本的に同様の作用を奏する。
【0064】
加えて第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドA2は、蓄熱層15の下位に凹陥部115による空隙115Aを有するため、蓄熱性能さらに向上させることができる。
【0065】
また、第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドA2においては、蓄熱層15を板状蓄熱部材150をヘッド基板1の主面11に貼着することにより形成しているために、蓄熱層15の直下に凹陥部115による空隙115Aを形成することができ、これにより蓄熱性能を向上させることができる。
【0066】
もちろん、本発明の範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0067】
例えば、複数の発熱部41に関して、主走査方向xに独立配置した抵抗体層の露出部に選択的に通電して発熱させるあらゆる発熱部の形態を採用できることは、もちろんである。
【符号の説明】
【0068】
A1、A2 :サーマルプリントヘッド
1 :ヘッド基板
1A :材料基板
2 :保護層
3 :電極層
3A :導電膜
4 :抵抗体層
4A :抵抗体膜
5 :接続基板
7 :ドライバIC
8 :放熱部材
11 :主面
11A :主面
15 :蓄熱層
21 :パッド用開口
31 :個別電極層
32 :共通電極層
41 :発熱部
59 :コネクタ
61 :ワイヤ
62 :ワイヤ
78 :保護樹脂
91 :プラテンローラ
115 :凹陥部
115A :空隙
150 :板状蓄熱部材
150A ;SiO2ウエハ
151 :レジスト
311 ;電極パッド部
323 :共通部
324 :櫛歯部
325 :延長部
x :主走査方向
y :副走査方向