(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003288
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】靴及び靴底並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A43B 13/38 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
A43B13/38 A
A43B13/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102314
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】592160607
【氏名又は名称】日進ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 喜朗
(72)【発明者】
【氏名】野崎 知裕
(72)【発明者】
【氏名】田窪 隆志
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BA02
4F050BA31
4F050CA05
4F050HA30
4F050HA53
4F050KA05
(57)【要約】
【課題】
アッパーに対して靴底を一体化させる工程を簡素化する。
【解決手段】
足裏状を為す底面部11a、及び、底面部11aの周縁から立ち上がる周面部11bを有する靴下状生地11を用意する靴下状生地準備工程と、未加硫状態のゴム系材料を靴底状に形成することにより未加硫状態の靴底本体12を得る靴底本体形成工程と、未加硫状態の靴底本体12の上面部に、靴下状生地11の底面部11bを接着する靴下状生地接着工程と、靴下状生地接着工程を終えた靴底本体12を加硫する靴底本体加硫工程と、靴底本体加硫工程を終えた靴底本体12の周縁付近から立ち上がる靴下状生地11の周面部11bを、アッパー20の下縁に沿って縫合するアッパー縫合工程とを経て靴を製造する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーと靴底とを有する靴の製造方法であって、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有する靴下状生地を用意する靴下状生地準備工程と、
未加硫状態のゴム系材料を靴底状に形成することにより未加硫状態の靴底本体を得る靴底本体形成工程と、
未加硫状態の靴底本体の上面部に、靴下状生地の底面部を接着する靴下状生地接着工程と、
靴下状生地接着工程を終えた靴底本体を加硫する靴底本体加硫工程と、
靴底本体加硫工程を終えた靴底本体の周縁付近から立ち上がる靴下状生地の周面部を、アッパーの下縁に沿って縫合するアッパー縫合工程と
を経ることを特徴とする靴の製造方法
【請求項2】
未加硫状態のゴム系材料を帯状に形成することにより未加硫状態の縁テープを得る縁テープ形成工程と、
縁テープ形成工程で形成された未加硫状態の縁テープを、靴下状生地接着工程を終えた靴底本体の外周面及び靴下状生地の周面部の外周面に跨る状態で、靴底本体の外周部に巻き付ける縁テープ巻付工程と、
を靴底本体加硫工程よりも前に設け、
靴底本体加硫工程において、縁テープも加硫することで縁テープを靴底本体に溶着させ、
アッパー縫合工程において、靴下状生地の周面部を縁テープとともにアッパーの下縁に沿って縫着する
請求項1記載の靴の製造方法。
【請求項3】
縁テープ巻付工程を終えた縁テープの上縁からはみ出た靴下状生地の周面部を折り返すことにより、当該周面部に、当該周面部を形成する生地が重なり合った生地重合部を形成する靴下状生地折り返し工程を、アッパー縫合工程よりも前に設け、
アッパー縫合工程において、靴下状生地の周面部における生地重合部を、アッパーの下縁に沿って縫合する
請求項2記載の靴の製造方法。
【請求項4】
靴底本体加硫工程を150°以下の温度で行う請求項1~3いずれか記載の靴の製造方法。
【請求項5】
靴底本体形成工程で使用するゴム系材料、又は、縁テープ形成工程で使用するゴム系材料として、竹粉を含有するものを用いる請求項4記載の靴の製造方法。
【請求項6】
靴底の製造方法であって、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有する靴下状生地を用意する靴下状生地準備工程と、
未加硫状態のゴム系材料を靴底状に形成することにより未加硫状態の靴底本体を得る靴底本体形成工程と、
未加硫状態の靴底本体の上面部に、靴下状生地の底面部を接着する靴下状生地接着工程と、
靴下状生地接着工程を終えた靴底本体を加硫する靴底加硫工程と
を経ることを特徴とする靴底の製造方法
【請求項7】
靴のアッパーの下縁に沿って縫合される靴底であって、
ゴム系材料からなる靴底本体と、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有し、底面部が靴底本体の上面部に接着された靴下状生地と
を備え、
靴底本体の周縁付近から立ち上がる靴下状生地の周面部を、アッパーの下縁に縫合する縫合しろとして利用できるようにした
ことを特徴とする靴底。
【請求項8】
請求項7記載の靴底における、靴底本体の周縁付近から立ち上がる靴下状生地の周面部を、アッパーの下縁に沿って縫合した靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴及び靴底と、それらの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
殆どの靴では、アッパー(足を覆う部分)と靴底(アッパーの底部に配される部分)とが別素材で形成されている。この種の靴は、アッパーと靴底とを別々の工場で製造した後、それらをアセンブリ工場に搬入し、そこでアッパーと靴底とを一体化することによって製造されることが多い。
【0003】
アッパーと靴底とを一体化する方法としては、接着が一般的である。しかし、接着だけだと、接着剤が劣化してアッパーから靴底が剥がれるおそれがある。このため、アッパーと靴底とを接着した後、靴底の周囲に沿った箇所でアッパーと靴底とを縫合することも行われている(例えば、特許文献1の段落0002,0015及び
図1,2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アッパーと靴底とを接着及び縫合する上記の製造方法では、アセンブリ工場に多くの人員を配置する必要がある。というのも、上記の製造方法では、アッパーや靴底に対して接着剤を塗布する必要があるところ、接着剤の塗布作業は、ロボット化することが難しく、人が行う必要があるからである。
【0006】
加えて、接着剤の塗布作業は、[1]接着剤を塗布する、[2]接着剤をある程度乾燥させる、[3]再び接着剤を塗布する、というように、複数回繰り返して行うことも多く、この場合には、より多くの人員が必要となる。このため、靴メーカーのなかには、人件費の安い外国にアセンブリ工場を設置しているところも多い。
【0007】
この点、アッパーと靴底とを、接着することなく、縫合のみにより一体化すれば、上記の接着剤の塗布作業に要する手間を省くことができる。しかし、靴底は、通常、ゴム等の柔軟な素材で形成されている。このため、この靴底を、アッパーに対して接着することなく縫合すると、靴底(ゴム等)が縫い目の部分で裂けるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、アッパーと一体化する際に接着剤を使用する必要が特になく、アッパーに対して靴底を一体化させる工程(アセンブリ工程)を簡素化することができる靴底を提供するものである。また、この靴底を用いた靴を提供することも本発明の目的である。さらに、これらの靴底や靴の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、
アッパーと靴底とを有する靴の製造方法であって、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有する靴下状生地を用意する靴下状生地準備工程と、
未加硫状態のゴム系材料を靴底状に形成することにより未加硫状態の靴底本体を得る靴底本体形成工程と、
未加硫状態の靴底本体の上面部に、靴下状生地の底面部を接着する靴下状生地接着工程と、
靴下状生地接着工程を終えた靴底本体を加硫する靴底本体加硫工程と、
靴底本体加硫工程を終えた靴底本体の周縁付近から立ち上がる靴下状生地の周面部を、アッパーの下縁に沿って縫合するアッパー縫合工程と
を経ることを特徴とする靴の製造方法
を提供することによって解決される。
【0010】
このように、靴底本体に対してアッパーを直接的に縫合するのではなく、靴底本体に接着された靴下状生地に対してアッパーを縫合することにより、靴底本体に縫い目が形成されないようにすることができる。また、その縫い目が形成されるのは、靴下状生地であるところ、靴下状生地は、天然繊維や合成繊維を織製又は編製等した生地である。このため、靴下状生地は、柔軟なゴム系材料と比較して、縫い目の部分で裂けにくい。したがって、特に接着剤を使用しなくても、縫合だけで、アッパーと靴底本体とを一体化することができる。よって、アッパーに対して靴底を一体化させるアセンブリ工程では、アッパーや靴底本体に対して接着剤を塗布する工程等を省略することができる。換言すると、アセンブリ工程を、上記のアッパー縫合工程を行うだけで済ませることができる。したがって、アセンブリ工程を行う工場(アセンブリ工場)には、ミシンと、それを扱う人員を配置すれば足りるようになる。
【0011】
本発明の靴の製造方法においては、
未加硫状態のゴム系材料を帯状に形成することにより未加硫状態の縁テープを得る縁テープ形成工程と、
縁テープ形成工程で形成された未加硫状態の縁テープを、靴下状生地接着工程を終えた靴底本体の外周面及び靴下状生地の周面部の外周面に跨る状態で、靴底本体の外周部に巻き付ける縁テープ巻付工程と、
を靴底本体加硫工程よりも前に設け、
靴底本体加硫工程において、縁テープも加硫することで縁テープを靴底本体に溶着させ、
アッパー縫合工程において、靴下状生地の周面部を縁テープとともにアッパーの下縁に沿って縫着する
ことが好ましい。
【0012】
これにより、アッパーに対して、靴下状生地の周面部だけでなく、靴底本体に溶着された縁テープも一緒に縫合することが可能になる。このため、アッパーと靴底本体との一体性をより高めることができる。縁テープは、靴底本体と同様、ゴム系材料で形成されているものの、靴下状生地の周面部が重ねられた状態でアッパーに縫合されるため、縫い目の部分で裂けにくい状態となる。
【0013】
本発明の靴の製造方法においては、
縁テープ巻付工程を終えた縁テープの上縁からはみ出た靴下状生地の周面部を折り返すことにより、当該周面部に、当該周面部を形成する生地が重なり合った生地重合部を形成する靴下状生地折り返し工程を、アッパー縫合工程よりも前に設け、
アッパー縫合工程において、靴下状生地の周面部における生地重合部を、アッパーの下縁に沿って縫合する
ことも好ましい。
【0014】
このように、靴下状生地の周面部を折り返して複数の生地が重なり合った状態とすることで、その周面部をさらに強靭にする(周面部を補強した状態とする)ことができる。このため、その生地が重なり合った部分(生地重合部)では、アッパーをより強固に縫合することができる。
【0015】
本発明の靴の製造方法においては、靴底本体形成工程で使用するゴム系材料、又は、縁テープ形成工程で使用するゴム系材料として、竹粉を含有するものを用いることも好ましい。というのも、一般的な靴底本体では、軽量化を図るためや、耐摩耗性の向上を図るために、それを形成するゴム系材料に、湿式シリカ等が添加されるところ、これを竹粉で置き換えることで、ケミカル原料の使用量を抑えることができるからである。ケミカル原料の使用量を抑えることで、近年、意識が高まっている「SDGs」(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に対応した靴を提供することもできる。
【0016】
本発明の靴の製造方法において、靴底本体加硫工程は、高温(150℃を超える温度)で行ってもよいが、低温(150℃以下)で行うことが好ましい。というのも、靴底本体を形成するゴム系材料や、縁テープを形成するゴム系材料に対して、上記の竹粉のように、加熱により炭化する材料を添加すると、それらを加硫した際に、焦げたような異臭が発生するおそれがある。この点、150℃以下の低温で加硫を行うことで、異臭の発生を抑えることができるからである。
【0017】
また、上記課題は、
靴底の製造方法であって、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有する靴下状生地を用意する靴下状生地準備工程と、
未加硫状態のゴム系材料を靴底状に形成することにより未加硫状態の靴底本体を得る靴底本体形成工程と、
未加硫状態の靴底本体の上面部に、靴下状生地の底面部を接着する靴下状生地接着工程と、
靴下状生地接着工程を終えた靴底本体を加硫する靴底加硫工程と
を経ることを特徴とする靴底の製造方法
を提供することによっても解決される。
【0018】
この靴底の製造方法は、上述した靴の製造方法のうち、靴底(靴底本体に靴下状生地を一体化させたもの)を製造するのに関する工程のみを抜き出したものである。この靴底の製造方法における各工程は、同じ工場(靴底製造工場)で行うことができる。この製造方法で製造された靴底(靴底本体に靴下状生地を一体化させたもの)を、アセンブリ工場(アッパーと靴底とを一体化する工場)に出荷することで、アセンブリ工場では、アッパーと靴底との縫合のみを行えばよくなる。
【0019】
さらに、上記課題は、
靴のアッパーの下縁に沿って縫合される靴底であって、
ゴム系材料からなる靴底本体と、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有し、底面部が靴底本体の上面部に接着された靴下状生地と
を備え、
靴底本体の周縁付近から立ち上がる靴下状生地の周面部を、アッパーの下縁に縫合する縫合しろとして利用できるようにした
ことを特徴とする靴底
を提供することによっても解決される。
【0020】
さらにまた、上記課題は、
靴のアッパーの下縁に沿って靴底を縫合した靴であって、
靴底が、
ゴム系材料からなる靴底本体と、
足裏状を為す底面部、及び、当該底面部の周縁から立ち上がる周面部を有し、底面部が靴底本体の上面部に接着された靴下状生地と
を備え、
靴底本体の周縁付近から立ち上がる靴下状生地の周面部が、アッパーの下縁に沿って縫合された
ことを特徴とする靴
を提供することによっても解決される。
【0021】
これらの靴や靴底は、上述した靴の製造方法や、靴底の製造方法によって、好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によって、アッパーと一体化する際に接着剤を使用する必要が特になく、アッパーに対して靴底を一体化させる工程(アセンブリ工程)を簡素化することができる靴底を提供することが可能になる。また、この靴底を用いた靴を提供することも可能になる。さらに、これらの靴底や靴の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の製造方法で製造された靴の一例を示した斜視図である。
【
図2】
図1の靴を前後方向に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
【
図4】靴下状生地を足型に嵌める様子を示した斜視図である。
【
図5】靴下状生地に靴底本体を接着する様子を示した斜視図である。
【
図6】靴底本体の外周部に縁テープを巻き付ける様子を示した斜視図である。
【
図7】縁テープの上縁からはみ出た靴下状生地の周面部を折り返している様子を示した斜視図である。
【
図8】アッパーと靴底とを一体化している様子を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の靴の製造方法について、図面を参照しながらより具体的に説明する。以下で述べる構成は、飽くまで好適な実施形態であり、本発明の靴底の技術的範囲は、以下で述べる構成に限定されない。本発明の靴の製造方法には、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0025】
0.本発明の靴の製造方法の概要
図1は、本発明の製造方法で製造された靴の一例を示した斜視図である。
図2は、
図1の靴を前後方向に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。本発明の製造方法は、
図1及び
図2に示すように、アッパー20と靴底10とを備えた靴を製造するためのものである。
【0026】
図3は、靴底10の構成部材を示した斜視図である。靴底10は、
図3に示すように、靴下状生地11と、靴底本体12と、縁テープ13とで構成される。靴下状生地11は、
図3(a)に示すように、靴下状を為しており、足裏状を為す底面部11aと、底面部11aの周縁から立ち上がる周面部11bとを備えている。この靴下状生地11は、天然繊維や合成繊維を織製又は編製等した生地によって形成されている。靴底本体12は、
図3(b)に示すように、靴底状を為している。この靴底本体12は、ゴム系材料によって形成される。縁テープ13は、
図3(c)に示すように、帯状を為している。この縁テープ13は、ゴム系材料によって形成される。
【0027】
これら靴下状生地11と靴底本体12と縁テープ13とを一体化することによって、靴底10が形成される。具体的には、
図2に示すように、靴下状生地11の底面部11aを靴底本体12の上面部に接着する(同図における「接着部α
1」を参照。)ことによって、靴下状生地11と靴底本体12とが一体化され、縁テープ13を靴底本体12及び靴下状生地11の外周部に巻き付けることによって、縁テープ13が靴底本体12及び靴下状生地11に一体化される。この靴底10は、靴下状生地11の周縁部11bを、縁テープ13とともに、アッパー20の下縁に沿った箇所で縫合する(
図7における「縫合部α
4」を参照。)ことによって、アッパー20と一体化される。
【0028】
このように、靴底本体12に対してアッパー20を直接的に縫合するのではなく、靴底本体12に接着された靴下状生地11に対してアッパー20を縫合することにより、靴底本体12に縫い目が形成されなくなる。縫合部α4における縫い目が形成されるのは、靴下状生地12及び縁テープ13であるところ、靴下状生地12は、ゴム系材料からなる靴底本体12よりも裂けにくい。加えて、縁テープ13は、それに重なり合う靴下状生地12によって補強された状態となっている。このため、縁テープ13も、縫い目の部分で裂けにくくなっている。したがって、特に接着剤を使用しなくても、縫合だけで、アッパー20と靴底10とを一体化することができる。
【0029】
また、アッパー20と靴底10とを一体化する際に、アッパー20や靴底本体12に対して接着剤を塗布する工程等を省略することができる。換言すると、アッパー20と靴底10とを一体化する工程(アセンブリ工程)を、上記の縫合部α4における縫合だけで済ませることができる。したがって、アセンブリ工程を行う工場(アセンブリ工場)を小規模化することや、そこに配置する人員を削減することが可能になる。よって、アセンブリ工場を、人件費や土地の安い外国ではなく、日本国内に設置し、物流に要するコストやエネルギーを削減することも可能になる。
【0030】
この靴は、[1]靴下状生地準備工程と、[2]靴底本体形成工程と、[3]縁テープ形成工程と、[4]靴下状生地セット工程と、[5]靴下状生地接着工程と、[6]縁テープ巻付工程と、[7]靴底本体加硫工程と、[8]靴下状生地折り返し工程と、[9]アッパー縫合工程(アセンブリ工程)とを経ることによって、製造することができる。以下、これらの工程について、順に詳しく説明する。
【0031】
1.靴下状生地準備工程
靴下状生地準備工程は、
図3(a)に示す靴下状生地11を用意する工程である。素材となる生地を、裁断又は縫製により靴下状(足裏状を為す底面部11aと、底面部11aの周縁から立ち上がる周面部11bとを有する形状)とすることで、靴下状生地11が得られる。
【0032】
靴下状生地11の素材としては、天然繊維又は化学繊維からなる織物又は編物等が例示される。天然繊維としては、綿や、麻や、絹や、羊毛等が例示される。一方、化学繊維としては、アクリル繊維や、ナイロン繊維や、ポリエステル繊維や、ポリウレタン繊維や、レーヨン繊維や、キュプラ繊維や、アセテート繊維等が例示される。これらは、複数種類を組み合わせて使用することもできる。既に述べたように、靴下状生地11は、縫合部α
4(
図2)を補強するものであるため、伸縮性の低い素材(非伸縮性素材)を選択することが好ましい。
【0033】
靴下状生地11は、平らな生地の状態から製造してもよいが、本実施形態においては、市販の靴下における、足の甲よりも上側となる部分(
図3(a)において破線で示した部分)を切除したものを、靴下状生地11として使用している。市販の靴下は、安価なものも多いため、靴下を使用することで、靴下状生地11の入手コストを抑えることができる。靴下として、足首を覆う部分のないローソックスや、足の甲が露出するフットカバー等を使用すれば、切除する部分を減らすこともできる。靴下状生地11は、その底面部11aで靴底本体12の上面部の略全体を覆うことができる寸法のものが使用される。
【0034】
靴下状生地11の周縁部11bの高さH
1(
図1(a))は、特に限定されない。しかし、周縁部11bの高さH
1を低くしすぎると、周縁部11bをアッパー20に縫合しにくくなる。このため、周縁部11bの高さH
1は、1cm以上とすることが好ましい。周縁部11bの高さH
1は、2cm以上とすることがより好ましく、3cm以上とすることがさらに好ましい。ただし、周縁部11bの高さH
1を高くしすぎると、周縁部11bを縁テープ13で隠しにくくなり、靴の見た目が悪くなるおそれがある。このため、周縁部11bの高さH
1は、通常、10cm以下とされる。周縁部11bの高さH
1は、7cm以下とすることが好ましく、5cm以下とすることがより好ましい。
【0035】
靴下状生地11を形成する生地の厚さは、特に限定されない。しかし、靴下状生地11を薄くしすぎると、靴下状生地11が破れやすくなる。このため、靴下状生地11を形成する生地の厚さ(生地1枚分の厚さ。以下同じ。)は、0.3mm以上とすることが好ましい。靴下状生地11を形成する生地の厚さは、0.5mm以上とすることがより好ましく、0.7mm以上とすることがさらに好ましい。ただし、靴下状生地11は、その周面部11bをアッパー20に縫合される(
図2における縫合部α
4を参照。)ところ、これを厚くしすぎると、その縫合が難しくなるおそれがある。このため、靴下状生地11を形成する生地の厚さは、通常、3mm以下とされる。靴下状生地11を形成する生地の厚さは、2mm以下とすることが好ましく、1.5mm以下とすることがより好ましい。本実施形態においては、靴下状生地11を形成する生地の厚さを約1mmとしている。
【0036】
2.靴底本体形成工程
靴底本体形成工程は、ゴム系材料を使用して、
図3(b)に示すような靴底本体12を形成する工程である。靴底本体12の底面(接地面)に意匠12a(滑り止め用凸部や滑り止め用凹部等の構造)を形成する場合には、その意匠12aもこの靴底本体形成工程において形成する。ただし、この靴底本体形成工程では、靴底本体12の加硫までは行わず、靴底本体12を形成するゴム系材料は、未加硫状態(加硫剤である硫黄を添加していてもも加硫温度まで過熱していない状態)のままとされる。このため、靴底本体成形工程を終えた直後の靴底本体12は、柔らかい餅のような状態であり、容易に変形してしまうため、その取り扱いには十分する。
【0037】
靴底本体12を形成するゴム系材料としては、加硫により弾性を発現する各種材料を用いることができ、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(イソブチエン・イソプレンゴム(IIR))、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)又はフッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムのほか、天然ゴム(NR)を使用することもできる。これらの材料のうち複数種類をブレンドしたものを使用することもできる。本実施形態においては、上記の「SDGs」への対応を意識し、ゴム系材料として天然ゴムを用いて靴底本体12を成形している。
【0038】
また、靴底本体12を形成するゴム系材料には、加硫剤である硫黄のほか、老化防止剤や、耐摩耗剤等の機能剤等を添加することもできる。一般的な靴底では、靴底の耐摩耗性を高めるため等に、湿式シリカ等の耐摩耗剤が添加されることが多い。しかし、湿式シリカ等の耐摩耗剤は、ケミカル原料に該当するため、これを靴底本体12の素材に用いると、靴底本体12の素材に含まれる天然原料の割合が増大し、「SDGs」の要求を満たしにくくなる。このため、本実施形態においては、湿式シリカを使用することなく、これを天然原料系の耐摩耗剤で完全に置き換えている。
【0039】
天然原料系の耐摩耗剤としては、竹粉を好適に用いることができる。というのも、近年の日本では、放置竹林の問題が顕在化してきており、その問題を解消するために、竹材を有効に活用する方法が検討されている。この点、靴底本体12の素材として竹粉を使用すれば、その問題解決の一助となるからである。本実施形態においても、天然原料系の耐摩耗剤として竹粉を採用している。これにより、靴底本体12の耐摩耗性を高めることや、天然原料の使用割合を高めるだけでなく、ゴム系材料の使用量を減らして靴底本体12を軽量化できるというメリットもある。
【0040】
靴底本体12を形成するゴム系材料(天然ゴム)に対して、天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)をどの程度の割合で添加するかは、特に限定されない。しかし、天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)の添加割合が小さいと、上述したメリットが得られにくくなる。このため、天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)は、ゴム系材料(天然ゴム)100重量部に対して、5重量部以上添加することが好ましい。天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)は、ゴム系材料(天然ゴム)100重量部に対して、10重量部以上添加することがより好ましく、15重量部以上添加することがさらに好ましい。
【0041】
ただし、天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)の添加割合を大きくしすぎると、ゴム系材料(靴底本体12)が所望のゴム弾性を発揮しにくくなるおそれがある。このため、天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)の添加量は、ゴム系材料(天然ゴム)100重量部に対して、50重量部以下とすることが好ましい。天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)の添加量は、ゴム系材料(天然ゴム)100重量部に対して、40重量部以下とすることがより好ましく、30重量部以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、天然原料系の耐摩耗剤(竹粉)の添加量は、ゴム系材料(天然ゴム)100重量部に対して、20重量部としている。また、加硫剤(硫黄)や老化防止剤の添加量は、ゴム系材料(天然ゴム)100重量部に対して10重量部以下(加硫剤(硫黄)と老化防止剤の合計の値)に抑えている。
【0042】
以上のように、本実施形態においては、上記のゴム系材料(天然ゴム)に、加硫剤(硫黄)や、老化防止剤や、耐摩耗剤(竹粉)等の各種機能剤を添加し、これらの材料を混練したものを靴底状に成形することで、靴底本体12を形成している。これらの材料を混練する温度(混練温度)は、ゴム系材料(天然ゴム)の加硫温度以下に設定され、本実施形態においては、100℃以下(最高100℃)に設定している。
【0043】
上記のゴム系材料等を靴底状に成形する方法は、特に限定されない。靴底状のキャビティを有する金型に流動状態(未加硫状態)のゴム系材料を流し込んで型をとる方法や、未加硫状態のゴム板(ゴム系材料を板状に成形したもの)を一対のローラで挟み込む方法等が例示される。本実施形態においては、後者の方法(ゴム板を一対のローラで挟み込む方法)を採用している。これにより、ローラ(彫刻ローラ)の外面に施された凹凸をゴム板の表面に転写することで、靴底本体12の底面(接地面)に滑り止め用凸部等の意匠12aを形成することができる。ローラの温度は、ゴム系材料の加硫温度以下とされ、本実施形態においては、60℃に設定している。ローラによって意匠12aが施されたゴム板を足裏状に裁断すると、
図3(b)に示す靴底本体12が得られる。
【0044】
3.縁テープ形成工程
縁テープ形成工程は、ゴム系材料を使用して、
図3(c)に示すような帯状の縁テープ13を形成する工程である。ただし、この縁テープ形成工程においては、上記の靴底本体形成工程と同様、縁テープ13の加硫までは行わず、縁テープ13を形成するゴム系材料は、未加硫状態(加硫剤である硫黄を添加していても加硫温度まで過熱していない状態)のままとされる。このため、縁テープ成形工程を終えた直後の縁テープ13も、柔らかい餅のような状態であり、容易に変形してしまうため、その取り扱いには十分する。
【0045】
この縁テープ13は、後述する縁テープ巻付工程において、靴底本体12の外周部に巻き付ける(後掲の
図6を参照。)ためのものである。このため、縁テープ13の長さは、靴底本体12の外周部の長さ(外周長)と同程度か、やや長く設定される。縁テープ13は、長さ方向で複数本に分断し、それらを長さ方向に継ぎ合わせることで、靴底本体12の外周部の長さと同程度となるようにすることもできる。しかし、この場合には、縁テープ13の強度を維持しにくくなることに加えて、縁テープ13の継ぎ目の処理が必要となる等、縁テープ巻付工程が複雑になる。このため、1本の縁テープ13で靴底本体12の外周部の長さに足るようにすることが好ましい。
【0046】
縁テープ13の幅W
1(
図3(c))は、特に限定されない。しかし、縁テープ13は、
図2に示すように、靴底本体12の外周面と、アッパー20の下縁に沿った箇所(靴下状生地11の周縁部11bの外周面)とに跨った状態で配される。この点、縁テープ13の幅W
1を狭くしすぎると、縁テープ13を、靴底本体12とアッパー20とに跨った状態で配しにくくなる。このため、縁テープ13の幅W
1は、5mm以上とすることが好ましい。縁テープ13の幅W
1は、10mm以上とすることがより好ましく、15mm以上とすることがさらに好ましい。
【0047】
ただし、縁テープ13の幅W1を広くしすぎると、靴の見た目が悪くなるばかりか、靴が重くなるおそれもある。このため、縁テープ13の幅W1は、50mm以下とすることが好ましい。縁テープ13の幅W1は、40mm以下とすることがより好ましく、30mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、縁テープ13の幅W1を20~25mm程度に設定している。
【0048】
縁テープ13を形成するゴム系材料としては、加硫により弾性を発現する各種材料を用いることができ、上記の「2.靴底本体形成工程」において、靴底本体12を形成するゴム系材料として挙げたものと同様のものを使用することができる。これらの材料のうち複数種類をブレンドすることができる点も、靴底本体12と同様である。また、加硫剤(硫黄)や、老化防止剤や、耐摩耗剤等の機能剤を添加することができる点も、靴底本体12と同様である。さらに、材料の混練温度等も、靴底本体12と同様である。
【0049】
縁テープ13を形成する材料の配合(使用するゴム系材料や機能剤等の種類や、その配合比等)は、靴底本体12を形成する材料(ゴム系材料等)の配合から変えてもよい。しかし、後述する靴底本体加硫工程で靴底本体12を加硫する際には、この縁テープ13も加硫され、縁テープ13が靴底本体12に溶着した状態で接着される。この点、縁テープ13を形成する材料の配合と、靴底本体12を形成する材料の配合とが異なっていると、縁テープ13と靴底本体12との接着強度が低下するおそれがある。このため、縁テープ13を形成する材料の配合は、靴底本体12を形成する材料の配合と同じにすることが好ましい。本実施形態においても、靴底本体12と同様、縁テープ13を形成するゴム系材料として天然ゴムを用いており、これに、加硫剤(硫黄)や、老化防止剤や、耐摩耗剤(竹粉)等の各種機能剤を添加したもので縁テープ13を形成している。また、それらの配合比も、靴底本体12と同じとしている。
【0050】
4.靴下状生地セット工程
図4は、靴下状生地セット工程を行っている様子を示した斜視図である。
図4では、靴底(靴底本体12や靴下状生地11)の上下が、
図1~3とは逆になっている。靴下状生地セット工程は、
図4に示すように、足型30に対して、靴下状生地11をセットする工程である。足型30は、「ラスト」と呼ばれることもある。本実施形態では、後の靴下状生地接着工程において、靴下状生地11を靴底本体12に接着したり、さらに後の縁テープ巻付工程において、靴底本体12の外周部に縁テープ13を巻き付けたりするところ、それに先立って、靴下状生地11を足型30に嵌めておくことによって、靴下状生地接着工程や縁テープ巻付工程を行いやすくなる。
【0051】
5.靴下状生地接着工程
図5は、靴下状生地接着工程を行っている様子を示した斜視図である。靴下状生地接着工程は、
図5に示すように、靴下状生地11の底面部11aに、靴底本体12(未加硫状態の靴底本体12)の上面部(同図においては下向きとなった面)を接着する工程である。これにより、靴下状生地11と靴底本体12とが一体化した状態となる。本実施形態においては、
図5(a)で網掛けハッチングで示した部分(靴下状生地11の底面部11aの外面α
1と、靴下状生地11の周面部11bの下側外周面α
2)に接着剤を塗布し、
図5(b)に示すように、靴下状生地11の底面部11aの外面α
1に、靴底本体12の上面部を重ねることで、靴下状生地11と靴底本体12とを一体化している。
【0052】
靴下状生地11と靴底本体12との接着に用いる接着剤の種類は、特に限定されない。しかし、後述するように、この靴下状生地接着工程よりも後には、靴底本体加硫工程が行われ、その靴底本体加硫工程では、靴下状生地11は、靴底本体12等とともに加熱される。このため、高温で接着強度が低下する接着剤は使用しない方が好ましく、加熱すると硬化する熱硬化型接着剤を用いた方が好ましい。また、この靴下状生地接着工程で使用する接着剤は、靴下状生地11と靴底本体12とを接着するものであるため、靴底本体12を形成するゴム系材料等とできるだけ相性の良い接着剤を用いることが好ましい。
【0053】
この点、本実施形態においては、上記の靴底本体形成工程で靴底本体12を成形する際に使用した材料(天然ゴムに、加硫剤や、老化防止剤や、耐摩耗剤等を添加した材料。以下において、「混練りゴム」と呼ぶことがある。)を溶剤(トルエンやシンナー等)に浸漬して液状に溶かしたものを、上記の接着剤として使用している。これにより、靴底本体12と相性の良い熱硬化型接着剤を手軽に入手することができる。混練りゴムと溶剤の比率は、混練りゴムや溶剤の種類等によっても異なり、特に限定されないが、溶剤100重量部に対して、通常、混練りゴムが10~50重量部とされ、好ましくは、20~40重量部とされる。本実施形態においては、溶剤100重量部に対して混練りゴム30重量部を溶かし込んでいる。
【0054】
6.縁テープ巻付工程
図6は、縁テープ巻付工程を行っている様子を示した斜視図である。縁テープ巻付工程は、
図6に示すように、靴底本体12(未加硫状態の靴底本体12)の外周部に縁テープ13(未加硫状態の縁テープ13)を巻き付ける工程である。本実施形態においては、縁テープ13の下側約半分(
図6においては上側約半分)が靴底本体12の外周面に重なり、縁テープ13の上側約半分(
図6においては下側約半分)が靴下状生地11の周面部11bの外周面に重なるように、縁テープ13を巻き付ける。上記の靴下状生地接着工程では、靴下状生地11の底面部11aの外面α
1だけでなく、周面部11bの下側外周面α
2にも接着剤を塗布していたところ、周面部11bの下側外周面α
2に塗布していた接着剤によって縁テープ13が靴下状生地11に接着される。
【0055】
7.靴底本体加硫工程
上記の縁テープ巻付工程を終えると、靴底本体加硫工程を行う。靴底本体加硫工程は、靴底本体12を加熱し、靴底本体12を形成するゴム系材料を加硫する工程である。本実施形態では、上記の縁テープ巻付工程において、靴底本体12の外周部に縁テープ13を巻き付けているところ、この靴底本体加硫工程では、縁テープ13も加熱されて、縁テープ13を形成するゴム系材料も加硫される。また、上記の靴下状生地接着工程において、靴下状生地11に接着剤(靴底本体12や縁テープ13に用いたものと同じゴム系材料を溶剤で液体状に溶かした接着剤)を塗布したところ、この靴底本体加硫工程では、この接着剤も加熱されて加硫される。このため、靴底本体12と縁テープ13だけでなく、靴底本体12と靴下状生地11や、縁テープ13と靴下状生地11も、溶着により一体化した状態となる。加えて、靴底本体12や縁テープ13は、ゴム弾性を発現できる状態となる。この靴底本体加硫工程を経ることにより、靴底本体12に対して靴下状生地11及び縁テープ13が一体化された靴底が得られる。
【0056】
靴底本体加硫工程は、靴底を足型30から取り外して行ってもよいが、本実施形態では、靴底を足型30に嵌めたままの状態で行っている。具体的には、
図6(b)に示す靴底(靴底本体12、靴下状生地11及び縁テープ13)を足型30に嵌めた状態のまま、加硫缶(図示省略)の中に入れて加熱する。このように、加硫缶で加硫(缶加硫)することによって、靴底本体12や縁テープ13に型崩れを生じさせることなく、靴底本体12や縁テープ13の加硫を行うことができる。また、一度に多数の靴底を加硫することもできる。また、靴底本体12や縁テープ13を形成するゴム系材料を、金型等、高温になった金属部品に接触させることなく加硫することができるので、それに含まれる竹粉等の炭化を抑え、後述する異臭の発生を抑えることもできる。
【0057】
靴底本体加硫工程を行う温度(加硫温度)は、靴底本体12や縁テープ13に用いたゴム系材料の種類等に応じて適宜決定されるが、通常、低くても110℃以上には設定する必要がある。加硫温度は、さらに高くすることもできる。しかし、本実施形態においては、上述したように、靴底本体12や縁テープ13を成形するゴム系材料に竹粉を添加したところ、加硫温度を高くしすぎると、その竹粉が炭化して焦げたような異臭が発生するおそれがある。このため、加硫温度は、150℃以下とすることが好ましい。加硫温度は、140℃以下とすることがより好ましく、130℃以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、121℃で加硫を行うようにしている。
【0058】
また、靴底本体加硫工程を行う時間長(加硫時間)も、靴底本体12や縁テープ13に用いたゴム系材料の種類等に応じて適宜決定される。ただし、加硫時間を短くしすぎると、靴底本体12や縁テープ13を形成するゴム系材料が十分に加硫されないおそれがある。このため、加硫時間は、30分以上とすることが好ましく、40分以上とすることがより好ましく、50分以上とすることがさらに好ましい。その一方で、加硫時間を長くしすぎても、製造のサイクルタイムが長くなるだけであまり意味はない。このため、加硫時間は、通常、120分以下とされる。加硫時間は、100分以下とすることが好ましく、80分以下とすることがより好ましい。
【0059】
本実施形態においては、加硫缶の内部温度を10~15分間で121℃まで上昇させた後、その温度で約50分間、靴底を加熱することで靴底本体加硫工程を行っている。靴底本体加硫工程を終えると、加硫缶の中から、靴底が嵌められた足型30を取り出し、足型30から靴底を取り外す。
【0060】
8.靴下状生地折り返し工程
図7は、靴下状生地折り返し工程を行っている様子を示した斜視図である。
図7では、靴底の上下が、
図6とは逆になっている。靴下状生地折り返し工程は、
図7(a)の矢印A
2に示すように、靴下状生地11の周面部11bにおける、縁テープ13の上縁からはみ出た部分11b
1を内側に折り返す工程である。靴下状生地11の周面部11bを折り返すと、靴下状生地11の周面部11bの上側外周面α
3は、
図7(b)に示すように、靴底本体12の内方を向いた状態となる。これにより、
図2に示すように、靴下状生地11の周面部11bを形成する生地が縁テープ13の内側で多重に重なった状態となり、周面部11bを補強した状態とすることができる。
【0061】
本実施形態においては、靴下状生地11の周面部11bを1回のみ折り返しており、靴下状生地11の周面部11bを形成する生地が2重になるようにしている。しかし、靴下状生地11の周面部11bを折り返す回数は、2回以上とすることもできる。これにより、靴下状生地11の周面部11bを形成する生地をより多重に重ねることができる。しかし、この生地が重なり合った部分(生地重合部)は、後のアッパー縫合工程において、アッパー20に縫合する部分(
図2における縫合部α
4を参照。)となるところ、生地を多重に重ねすぎると、その縫合を行いにくくなる。また、綺麗な折り返しが難しくなり、靴の見た目が悪くなるおそれもある。このため、周面部11bの折り返し回数は、通常、2~3回までとされる。
【0062】
9.アッパー縫合工程(アセンブリ工程)
図8は、アッパー縫合工程を行っている様子を示した斜視図である。アッパー縫合工程は、
図8に示すように、靴底10にアッパー20を縫合して一体化する工程である。靴底10とアッパー20との縫合は、
図2及び
図8(b)における縫合部α
4に示すように、靴底本体12の周縁付近から立ち上がる靴下状生地11の周面部11b(上記の生地重合部)を、縁テープ13とともに、アッパー20の下縁に沿って縫合することによって行われる。縫合部α
4は、靴底10の外周部における一部の区間にのみ設けてもよいが、通常、靴底10の外周部における全区間にわたって環状に設けられる。これにより、靴底本体10にアッパー20を強固に一体化することができる。
【0063】
靴底10とアッパー20とを縫合する縫合部α
4は、1段のみ設けてもよいが、本実施形態においては、
図2及び
図8(b)に示すように、縫合部α
4を上下2段に設けている。このように、縫合部α
4を多段に設けることによって、靴底10とアッパー20とをより強固に一体化することができる。
【0064】
このように、互いに縫合される縁テープ13とアッパー20との間に、靴下状生地11の周面部を介在させることにより、縁テープ13が縫合部α4の縫い目の箇所で裂けにくくすることができる。したがって、特に接着剤を使用しなくても、縫合部α4における縫合だけで、靴底10とアッパー20とを一体化することができる。このため、靴底10とアッパー20とを一体化させるアッパー縫合工程(アセンブリ工程)では、靴底10やアッパー20に対して接着剤を塗布する工程を省略することができる。したがって、アセンブリ工程を行う工場(アセンブリ工場)には、ミシンと、それを扱う人員を配置すれば足りるようになる。
【0065】
10.その他
アッパー縫合工程を終えると、
図8(b)に示すように、靴紐21を取り付ける等、必要な工程を行って、靴が完成する。本発明の製造方法で製造される靴では、アッパー20が加熱されない(上記の靴底本体加硫工程では、靴底10のみが加硫缶に入れられ、アッパー20は加硫缶に入れられない)ため、アッパー20の素材として耐熱性の低いものを採用することもできる。例えば、アッパー20の素材として、PET由来の樹脂系素材や、皮革等を選択することができる。また、本発明の製造方法で製造される靴では、縁テープ13とアッパー20との隙間から、靴下状生地11がライン状に見えるようにし、そのラインをデザインのアクセントとすることもできる。さらに、上記のように、天然ゴムや竹粉を使用したことによって、靴を形成する素材の95%以上を植物由来のものとすることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 靴底
11 靴下状生地
11a 底面部
11b 周面部
11b1 折り返し部分(生地重合部)
12 靴底本体
12a 意匠
13 縁テープ
20 アッパー
21 靴紐
30 足型
α1 靴下状生地の底面部の外面
α2 靴下状生地の周面部の下側外面
α3 靴下状生地の周面部の上側外面
α4 縫合部