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特開2024-32920閉鎖型3Dフラクタル培養システムとその培養物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032920
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】閉鎖型3Dフラクタル培養システムとその培養物
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
C12M1/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013088
(22)【出願日】2024-01-31
(62)【分割の表示】P 2019117888の分割
【原出願日】2019-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】501176303
【氏名又は名称】日環科学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000141303
【氏名又は名称】株式会社丸菱バイオエンジ
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩邦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 浩明
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中里 壽高
(57)【要約】
【課題】任意のガス雰囲気下、あるいは任意の圧力下において微生物、並びに細胞を培養し、付着性微生物、バイオフィルム形成微生物、好気性と嫌気性の複合微生物群、並びに接触性を必要とする細胞を組織化し、大量に任意の用途利用が可能な装置を提供すること。
【解決手段】任意のガスの供給、あるいは任意の圧力の提供が可能な装置であるとともに、装置内に微生物、あるいは細胞を分離可能な緩衝領域、並びに支持体を備え、任意の微生物、細胞、あるいはそれらの代謝物を効率的に回収するラインを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意のガス雰囲気下、あるいは任意の圧力下、あるいは温度下において、それらを可変し、支持体の表面を介して生物を効率的に大量に連続培養する装置とともに、当該生物由来の培養物の回収を可能とする装置を含んだ培養システムであって、
前記生物を培養する2つの培養タンクと、
前記培養タンク内を攪拌する撹拌翼と、
前記培養タンクに接続され、前記培養タンク内に培地を供給する培地供給ラインと、
2つの前記培養タンク同士を接続し、2つの前記培養タンク間の送液の流速及び流量を制御する培養装置連結ラインと、
前記培養装置連結ラインに設けられた前記支持体と、
前記培養タンクに接続され、前記培養物を回収するための回収溶液の回収ライン及び回収液投入ラインと、
前記培養タンクに接続され、前記培養タンク内のガス交換を行う給気ライン及び排気ラインと、
累積した培養条件ビッグデータに基づいて制御系因子を包括的に制御する情報処理基部と、を有し、
前記情報処理基部は、前記培養タンク内において、前記培地の供給の制御を行う第1制御と、
前記培養タンク内において、ガス交換の制御を行う第2制御と、
前記培養タンク内において、前記回収溶液の投入と排出の制御を行う第3制御と、
前記第2制御及び前記第3制御の連動と前記培養装置連結ラインの制御とを行う第4制御と、
前記第1制御、前記第2制御、前記第3制御、及び前記第4制御の連動と前記培養タンクの攪拌条件の制御と前記培養タンクの温度の制御とを行う第5制御と、を有することを特徴とする培養システム。
【請求項2】
好気性生物と嫌気性生物の複合生物群を培養し、維持するために、液体状の培地において嫌気性生物を連続培養する装置をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
支持体として、培養目的となる生物の増殖を促進する生体を使用した請求項1または2に記載の培養システム。
【請求項4】
支持体として表面積の広い多孔質担体、あるいはチューブ型濾過膜を使用した請求項1から3のいずれか一項に記載の培養システム。
【請求項5】
支持体、あるいはその側面が粘性の高い液状であることによって、生物の培養のために気液界面を使用できることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気性微生物、極限環境微生物、腸内フローラを形成する有効微生物群からなる複合微生物、環境浄化用複合微生物などの培養、並びに特殊な細胞の効率的な培養などに応用可能な新規の培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自然界には多種多様な微生物が存在しており、1gの土壌当たり数十億個を超える微生物が、100万種を超えて生息していると言われており、その中で、その多く(99%以上)が培養することが困難な難培養性微生物であることが知られている。また、高温高圧の深海や逆に寒冷な地域には、その環境条件に適応した様々な極限環境微生物が生息している。このような中で、地球環境の保全や生命活動に貢献しうる様々な微生物群を探索する技術が求められている。
【0003】
一方、納豆、酵母、乳酸菌などの比較的培養が簡便な微生物については、食品産業を中心に様々な産業利用が進んでおり(非特許文献1参照)、これらの常温で増殖する微生物群の培養技術についてはほぼ確立していると言える(例えば、特許文献1-3参照)。
【0004】
しかしながら、動物では体重60kgでは、1-2kg程度の微生物が存在し、その数は体細胞数を上回ると言われている。例えば、ヒトでは、腸管には1000種類以上、総数40兆個以上の腸内細菌が生息していると言われており、ヒトの体細胞数37兆個を上回っている。このように生体の細胞よりも多くの腸内フローラを制御するためには、腸内における微生物の理解が必要であるが、従来技術では、単一の微生物の培養を目的とした技術が中心となっており、腸内を模倣した複合微生物の挙動解析は難しく、さらに、模倣された腸内フローラ自体を培養する技術も確立していない。
【0005】
非特許文献2-6に示されるように、腸内フローラの重要性は、近年、生態系のバランスが乱れると、いわゆるdysbiosisによって、さまざま疾患、例えば炎症性腸疾患やがん、あるいはアレルギーなどの発症につながることが知られている。疫学的知見としては、例えば、ヒトの糞便中の微生物構造では、居住地域や食事の内容によってグループ分けされるとともに、その他の要因として、疾患、栄養条件、炎症の指標分子、あるいは糞便中の代謝産物などの解析データとの相関といった知見が報告されている。宿主の遺伝的背景を考慮したタイプ別の腸内細菌叢の制御については加味されていない。近年、食餌と性差の双方が、腸内微生物叢の構成に影響を及ぼすことを世界的に示した研究データが報告されており、また、腸内細菌叢の多様性がヒトのメタボローム対策に重要であることが指摘されている。このような理由から、健康なヒトの便を移植する治療方法として、糞便移植が臨床応用されている。
【0006】
さらに、バクテリオファージが病原菌の死滅に関与することが知られており、腸内においても、腸内フローラの恒常性の維持に貢献しうる(非特許文献7参照)。そこで、特定の病原菌に寄生するバクテリオファージを活用したファージ医療の応用が期待されているが、ファージを大量に培養し、維持する技術は確立していない。
【0007】
生物学の進展に伴い、細胞の組織形成のスキームは明らかになりつつある。1つの受精卵から未分化な幹細胞を経て、内胚葉、中胚葉、外胚葉へと分化する段階を経て、機能分化が進んでいく。また、再生医学が進展している中で、これらの仕組みを活用し、さまざまな生命活動を理解していく必要がある。
【0008】
特に、細胞の機能分化の過程では、細胞間接着、酸素の濃度勾配などによる環境要因によって細胞集団の構造を規定する環境因子があり、従来の二次元培単相培養に比べて、三次元培養の方が生理的である考え方は受け入れられつつある。Spheroidと呼ばれる多細胞が集合した構造物の重要性、並びに異なる細胞群で形成されたオルガノイドにおけるモデル実験の重要性は理解されつつあるが、それらを大量に半自動的に獲得する方法、並びにそれら自体を利用する方法は確立していない。現状では目的とする細胞や組織を効率よく大量培養し、維持することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-120252号公報
【特許文献2】特開2002-85051号公報
【特許文献3】特開平10-191965号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】堀内啓史、「ヨーグルト脱酸素発酵技術の開発」、生物工学会誌、日本生物工学会、2010年、第88巻、第11号、p.594-600
【非特許文献2】宮本浩邦、他、「好熱性微生物を活用した未利用バイオマス資源からの高機能性発酵製品の製造と学術的解明」、生物工学会誌、日本生物工学会、2018年、第96巻、第2号、p.56-63
【非特許文献3】福田真嗣、「メタボロゲノミクスによる腸内エコシステムの理解と制御」、生化学、公益社団法人日本生化学会、2016年、第88巻、第1号、p.61-70
【非特許文献4】Marcus J. Claesson, et al., “Gut microbiota composition correlates with diet and health in the elderly”, Nature, 2012, Vol.488, No.7410, p.178-184
【非特許文献5】Daniel I. Bolnick, et al., “Individual diet has sex-dependent effects on vertebrate gut microbiota”, Nature Communications, 2014, Vol.5, No.4500
【非特許文献6】Emmanuelle Le Chatelier, et al., “Richness of human gut microbiome correlates with metabolic markers”, Nature, 2013, Vol.500, No.7464, p.541-549
【非特許文献7】Jeremy J. Barr, et al., “Bacteriophage adhering to mucus provide a non-host-derived immunity”, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2013, Vol.110, No.26, 10771-10776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、微生物を大量に培養する場合、液体培地という条件で実施されていた。そのため、固形培地でのみ培養可能な微生物は、効率的に培養できない可能性があった。また、液体培地には微生物の細胞表面の接着分子が接着しうる支持体が存在しないため、微生物由来の接着分子を活用した特性を考慮した培養は難しい。また、嫌気性と好気性の双方の微生物が存在しうる腸内フローラ形成に貢献しうる微生物の培養においても必ずしも適していない。
【0012】
同様のことは、細胞培養においても言える。すなわち、フィーダー細胞を必要とする幹細胞、あるいは組織化の形成過程の未分化細胞、単一の細胞、あるいはオルガノイドの培養において、効率的な培養条件を検討する必要があるが、それらの条件を検討する方法が機械的に構築されていなかった。
【0013】
さらに、培養システムそのものを用いて、環境浄化や医療機器自体に応用を図ることもなかった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、任意のガス雰囲気下、あるいは任意の圧力下において微生物、並びに細胞を培養し、付着性微生物、バイオフィルム形成微生物、好気性と嫌気性の複合微生物群、並びに接触性を必要とする細胞を組織化し、大量に任意の用途利用が可能な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る任意のガスの供給、あるいは任意の圧力の提供が可能な装置であるとともに、装置内に微生物、あるいは細胞を分離可能な緩衝領域、並びに支持体を備え、任意の微生物、細胞、あるいはそれらの代謝物を効率的に回収するラインを備えるシステムであることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、液体培地の中に多孔質の担体、あるいは支持体を含むことを特徴とする。
【0017】
好ましくは、多孔質の担体として、熱可塑性、あるいは自然界において緩徐に分解できる特性を有する有機物、生分解性プラスチックを含むことを特徴とする。支持体として、好ましくは、寒天、アガー、ゼラチン、セルロース混合エステルなどを活用することを特徴とする。
【0018】
関連して、微生物としては、腸内フローラを形成する有用微生物群、単一で機能しない環境浄化微生物、排水処理などに貢献しうる複合微生物・バイオフィルム、あるいは特殊環境下のみで増殖しうる難培養性微生物、並びに極限環境微生物として、深海に生息する好熱菌、好冷菌、好塩菌、好アルカリ菌、好酸菌、高圧菌、有機溶媒耐性菌などの特殊な微生物群などが挙げられる。
【0019】
また、細胞、並びに組織としては、好ましくは、単一の細胞、オルガノイド、フィーダー細胞と未分化細胞の混合培養系が選択できることを特徴とする。また、中胚葉系の体性幹細胞である間葉系の幹細胞のみならず、内胚葉、外胚葉系の分化段階における刺激を複数回繰り返しために培養槽、あるいは支持体などが選択できることを特徴とする。
【0020】
これらによって、モデル系としてのデータ収集が可能である。さらに、それ自体をデータベースとして蓄積し、既存の生体における反応情報と照合し、モデル人工臓器の素養を有する医療機器として活用できることが期待される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る培養システムは、培養諸条件の設定によって、培養後の目的とする各生体が、それぞれの生体が本来、生息している環境に適合し、生理学的にも、自己相似的、すなわちフラクタル的に培養できることを目的としている。そのために、例えば、任意のガス雰囲気下で多孔質担体と共存した生体の培養できるとともに、支持体に接着した形、あるいは固形培養が可能であるとともに、支持体の気液界面において、代謝物、並びにホルモンなどの生理活性物質の物質交換を可能とすることによって、効率的な大量培養が可能であることを特徴としている。また、これらによって、温度、pH、圧力、ガス雰囲気下などについて、複数種の培養条件が設定できる培養槽を連結できることによって、異なる微生物、あるいは細胞を培養することが可能であり、連結部、あるいは支持体にポアサイズなどの特性の調整によって、異なる微生物、あるいは細胞を分離することが可能であることを特徴としている。さらに、細胞組織、オルガノイドについては、生理反応のモデル系としての運用のみならず、人工臓器などの医療機器としての活用の可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に関する概念図。
図2】連続式シャーレ培養装置を示す概念図。
図3】多孔質担体活用型の連続式培養装置を示す概念図。
図4】膜モジュール活用型の連続式培養装置を示す概念図。
図5】培養システムの支持体の役割を示す概念図。
図6】培養システムの連結様式を示す概念図。
図7】培養システムの培養槽外の連結様式を示す概念図。
図8】制御システムの情報処理階層構造を示す概念図。
図9】土壌改良用の用途を示す概念図。
図10】排水処理の用途を示す概念図。
図11】排水処理施設内の用途を示す概念図。
図12】移植用腸内フローラカクテルの用途を示す概念図。
図13】医療用バクテリオファージの用途を示す概念図。
図14】一般的な細胞分化と組織形成の概念図。
図15】一般的な内胚葉由来前駆細胞の消化管と肺の組織形成の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態について、以下、図面を参照しつつ説明する。ただし、以下はあくまで本発明の一実施形態を例示的に示すものであり、本発明の範囲は以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0024】
本実施形態に係る培養システムは、任意のガス雰囲気下、あるいは任意の圧力下、又は任意の温度下で、支持体の特性に依存した上で、目的とする生体を効率的に培養するとともに、安定的に維持することができる。本実施形態に係る培養システムでは、耐圧ガラスをはじめとした耐圧性の高い素材を培養装置に用いることによって、任意のガスの供給、あるいは任意の圧力の提供が可能な装置としていることから、通常気圧から、深海3000m~6000mの圧力と同等の30MPa~60MPa、最
大では略100MPaまで圧力が可変となっている。また、本実施形態に係る培養システムの装置内には、中空糸膜、人工細胞膜、カーボンナノチューブなどを活用するとともに、水圏においてガス成分を溶解し、濃度差を作ることによって、微生物、あるいは細胞を分離可能な緩衝領域、並びに支持体を備えている。本実施形態に係る培養システムは、さらに任意の微生物、細胞、あるいはそれらの代謝物を効率的に回収するラインを備えており、支持体によって分離された回収側の領域について、培地溶液、回収用の滅菌水、あるいは滅菌生理食塩水など活用し、それらをラインを通じて装置内に流し込み、それらを回収する。そのため、図1に示すように、本実施形態に係る培養装置は、微生物培養においては、従来装置では培養、並びに組織維持が困難であったプロバイオティクス、プレバイオティクス、移植用に活用可能な、腸内の有効微生物の複合カクテル、病原菌の死滅に関わるバクテリオファージ、環境浄化に貢献しうるバイオフィルム、高温・高圧下、あるいは低温下などで生息しうる極限環境微生物を生産、あるいは維持することができうる。又、当該装置自体が、環境浄化システムとして活用することが期待されうる。細胞培養においては、従来の古典的な培養装置と異なり、ガス交換や支持体の特性を個別の細胞、並びに組織において適切な生理的条件を模倣することができうるので、オルガノイドなどの組織培養を安定的に、かつ大量に実施すること、並びにそれらを用いて、モデル系としての評価系の構築、あるいはそれらのデータに基づいて、移植組織の生産などに活用できることが期待される。又、当該装置自体が、生体反応の一部を模倣した医療機器として用いることが期待できる。
【0025】
本実施形態に係る培養装置の素材としては、耐熱性・耐圧性ガラス、ステンレス、及び耐熱性のポリカーボネートのいずれかが好適である。
【0026】
次に、設計例を示して、本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1) 図2には本実施例で用いる培養装置10を示している。培養装置10は、ステンレス製の培養タンク11と、支持体12と、培養物を回収するための回収溶液の送液管13と、培養タンク11内を攪拌する撹拌翼14とを備える。培養タンク11に、支持体12としてオートクレーブにおいて滅菌した多孔質体であるコーヒー粕の入った微生物発酵溶液とを封入し、1mlあたり10に調整された芽胞菌である有胞子性バシラス菌Bacillus coagulansを添加し、液体培養において酸素雰囲気下において2日間培養し、面状ヒーターによって加熱温度として60℃下で維持した上で、滅菌酵母エキスを原料として、1mlあたり10以上の多孔質体に付着、混合したBacillus coagulansの菌体培養物を回収することが可能となった。なお、滅菌した微生物発酵溶液としては、ATCCに国際寄託された寄託番号PTA-1773を用いた。また、Bacillus coagulansとしては、2015年6月17日に本発明者の一人である宮本が寄託した製品評価技術基盤機構における寄託番号BP-02066を用いた。滅菌したPTA-1773という菌が死んだ状態の溶液自体を用いて、クオラムセンシング機能を活用して、他の微生物の培養を制御しながら、目的とする複合微生物を複合微生物として培養することができた。
【0028】
(実施例2) 図3には本実施例で用いる培養装置20を示している。培養装置20は、培養タンク21と、固形培地用のステンレス皿22と、培養物を回収するための回収溶液の送液管23と、培地溶液などを攪拌する攪拌翼24とを備える。ステンレス皿22のみを有し、撹拌翼24を底部に1つだけ有し、送液管23を有しないタンクを用いて、ステンレス皿22の表面に、支持体としてオートクレーブにおいて加熱滅菌したアガー溶液を投入した。ステンレス皿22の表面において、支持体であるアガーを常温下で固形化し、その上で、1mlあたり10に調整された芽胞菌であるバシラス菌を冷水に混合した上で、固形化したアガー上に添加し、菌体入り冷水を回収し、加熱温度を50℃以上に設定して、さらに、滅菌フィルターを介した空気を入れて好気培養することによって、1mlあたり10以上の当該菌体を24時間で培養することが可能となった。菌体の回収のためには、冷水を投入し、菌体入り冷水を遠心することによって、濃縮菌体を入手することが可能である。又、アガーを除去するためには、70℃以上の滅菌水を循環させることによって、回収することが可能である。なお、ステンレス皿22上における条件を均一化するために、各ステンレス皿22に撹拌翼24を設置するとともに、菌体の投入量を調整し均一化するために、送液管23を有する構造を有することも可能である。
【0029】
本実施形態に係る支持体としては、微生物の大きさよりも小さく、0.22μmから10μmの間の直径と深さである窪みを多数有する皿、あるいは、実施例2に示したように、温度依存的に形状を変化しうる熱可塑性の素材として、固体化と液体化が可変であるアガー、寒天、ゼラチンは、次の用途において適している。すなわち、固形化した条件下において表面に目的とする生物を付着させて、任意のガス雰囲気下で培養が可能であり、かつ培地を混合することができるため、都合が良い。また、支持体の両面を使用して培養する場合には、図4に示したように、支持体としてポアサイズによる選別が可能な素材として、中空糸膜、カーボンナノチューブ、フィルターポアを有するセルロース混合エステルなどが適当である。これによって、培養系Xと培養系Yのポアサイズの異なる有用微生物や代謝物の交換などが可能となる。また、生体膜、人工生体膜、あるいはその特性を有する素材を支持体に含めば、浸透圧、ガス分圧等によって、任意のガス交換が可能である。
【0030】
(実施例3) 前述の考え方を応用し、図5で示した培養装置30を構築することによって、液体状の培養系と任意のガス雰囲気下において任意のガス雰囲気下で培養可能な菌体と液体内でのみ培養可能な菌体の複合微生物を培養することも可能である。培養装置30は、培養タンク31と、支持体としてチューブ32とを備える。具体的には、pHの調整、あるいはチューブ32の先端36を密閉し、微細なポアサイズ(直径として0.22μm以下)でポア間1mm以上の間隔で数少ないポア数のポアがチューブ32に設けられており、チューブ32内部に任意のガス条件で培養可能な菌体を満たし、チューブ32に当該ガスを強制的に投入し、チューブ32の外部37は粘性の高い液体培地で満たし、微量の当該ガス成分が、粘性の高い液体培地に混入する条件下に適合する菌体を培養するとともに、複数種の菌体を同時に維持管理することが期待される。培養装置30を用いて、Bacillus subtilisの近縁種であるNP-1株とBacillus coagulans BP-02066との培養物が、前者の菌株が優先の形で培養することができた。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
このような微生物群として、腸内フローラを形成する有用微生物群、単一で機能しない環境浄化微生物、排水処理などに貢献しうる複合微生物・バイオフィルム、あるいは特殊環境下のみで増殖しうる難培養性微生物、並びに極限環境微生物として、好熱菌、好冷菌、好塩菌、好アルカリ菌、好酸菌、高圧菌、有機溶媒耐性菌などが期待される。また、多孔質体として、生分解性プラスチックを用いた場合、当該原料であるL型乳酸、あるいはコハク酸を分解しうる微生物を培養することによって、生分解性プラスチック、あるいは温度依存的に形状変化が可能なアガー、寒天、ゼラチンなどと微生物の共培養体を効率的に生産できることが可能であり、農業、畜産、あるいは環境浄化などにおける多分野で利用できる資材を構築することが期待される。
【0033】
また、チューブ32のポアサイズを調節し、バクテリアが通過しないポアサイズ(直径として0.22μm以下)に設定すれば、チューブ32の内部、あるいは外部37の区域のうち、一方にバクテリア、一方に細胞、あるいはオルガノイドを培養することによって、バクテリアと細胞・オルガノイドの共生系において、チューブ32のポアの物質循環を伴い、生体内の反応に類似した系において、バクテリア、あるいは細胞・オルガノイドの培養が可能となる。当該培養系は、モデル系としても活用可能であり、かつ生体内でのみ培養可能なバクテリア、あるいは組織・オルガノイドの形成を理解することに有効である。また、これらのデータが蓄積された上であれば、人工臓器などへの応用も可能であることが期待される。
【0034】
さらに、任意の病原菌のみに感染しうるバクテリオファージの分離を目的として、それらを増殖させるために、一方の区域に、当該病原菌を投入し、それらが増殖しうる培地を投入し培養しながら、ポアサイズによる篩効果によって、病原菌を回収しない形で、バクテリオファージのみを効率的に分離・回収することが可能である。
【0035】
任意の細胞・組織の培養と維持のために応用するのであれば、チューブ32の内部、あるいは外部37の区域において、フィーダー細胞と幹細胞を物理的に分離した形で共培養し、効率的なフィーダー細胞の培養とそれらの代謝物を活用して、幹細胞の培養、並びに幹細胞の組織化、あるいは目的とする組織のオルガノイドを培養することが可能である。
【0036】
これらのフィーダー細胞と幹細胞のいわば分離型共培養系、並びにフィーダー細胞とオルガノイドなどとの共培養系は、動物実験に変わる実験系モデルとして活用できる。また、培養の維持をすることによって、その代謝物を効率的に入手できるとともに、実験データの集積によって、人工臓器の代替のモデル系、あるいは医療機器の一環として活用されることが期待できる。
【0037】
また、図6に示したように、完全に培養タンクを分割し、フィルターあるいは支持体による半分離することによって、培養タンクの温度、ガス、圧力などの諸条件をドラスティックに変えた上で、共培養系を構築し、それぞれの培養物の回収はコンタミを避けた上で実施することも可能である。
【0038】
これらの培養系をシステムとして構築するためには、図7で示した培養タンク外部の装備が必要であり、制御系としては、図8で示した制御系の構築されることが好ましい。
【0039】
図7及び図8では、本実施形態に係る培養システムで用いられる制御系について説明している。図7に示すように、第1制御110において、液体の培地を供給することができる。培地において、アガーを入れることによって、供給する時には60℃以上の温度下にて、液状にて供給し、タンク内において、60℃以下に温度を下げた上で、固形化し、その固形化下培地に、必要な微生物などの生体を供給することができる。当該ラインをガス共有と併用することも可能である。ガス交換については、主に第2制御120を活用し、空気以外に任意のガス、酸素、二酸化炭素、窒素、硫化水素などの濃度勾配を変えることによって供給、あるいは排出することが可能である。第3制御130は、回収ラインであり、回収液の投入と排出を可能とする。回収液については、アガーを溶かす場合は、60℃以上の温度下の滅菌水、滅菌生理食塩水などを投入し、溶かすことなく回収する場合には、30℃以下、好ましくは、4-10℃程度の温度範囲の滅菌水、滅菌生理食塩水を投入する。培養装置連結ラインでは、複合培養をする微生物、あるいは細胞などとの関係性を考えて、送液ラインの流速などをコントロールする。第4制御140は、また、第5制御150では、対象とする培養タンクの温度、あるいは培養タンク内の攪拌条件などをコントロールし、合わせて、第1制御110、第2制御120、第3制御130及び第4制御140と連動する形態をとる。
【0040】
上記で示したような制御系は、図8に示すように、情報処理基部100としてまとめられている。情報処理基部100は、累積した培養条件ビッグデータに基づいて、第1制御110から第5制御150までの記載した制御系因子を包括的に制御できる。特に、情報処理基部100のビッグデータ処理は、機械学習、人工知能によって最適化を図ることが可能な条件にすることが好ましい。そのため、情報処理基部100は、インターネットにおける交信が可能なLANケーブル端子あるいはWifi、USB端子などの外部からの端子入力を備え、微生物、細胞などの最新の培養諸条件を入力できる機能を付与することによって、より効率的な培養が可能であることが好ましい。
【0041】
情報処理基部100内の制御フローについては、図8に示すように、第1制御110が、培地投入信号のスイッチを受けて(S11)、培地の安定度合いなどのチェックをし(S12)、投入信号を発し、合わせて第3制御130と連動する(S13)。次に、第2制御120では、ガスの供給のスイッチを受けて(S21)、ガスの供給濃度と頻度をチェックし(S22)、停止信号を受けるように調整可能とする(S23)。第3制御130では、培養の度合いをチェックできる指標としてOD、あるいはpHを指標として検討できるように設定され、その培養完了を受けて(S31)、回収液を投入できるようにする(S32)。また、培養物の脆弱性を考慮し、回収するスピードを調整し(S33)、回収が終了した際に停止できるようにする(S34)。第4制御140は、第2制御120と連動するとともに(S41)、第3制御130とも連動し(S42)、連結しているもう一つの培養装置と連動し(S43)、送液流量と流速を調整する。さらに、第5制御150では、第1制御110-第4制御140と連動し(S51-S54)、培養装置内の培養と回収をスムーズ実施できるようにする(S55)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
図9に示したように、多孔質化した生分解性プラスチックと微生物との混合培養体を農地に施用した場合、生分解性プラスチックの組成として乳酸、あるいはコハク酸を活用している場合、微生物の分解によって、土壌中において緩徐に酸を放出できるため、土壌の局所的なpHの酸性化によってミネラル吸収が可能となる作物によって有益となる。
【0043】
図10に示したように、多孔質化した生分解性プラスチック、あるいは他の分解可能な担体と排水浄化バイオフィルムとの混合培養体を排水の川上に施用した場合、排水浄化に寄与する微生物が存在する比表面積が増えるため、分解効率が高まり、川下の浄化が進むことが期待される。同様に、図11に示したように、排水処理施設における曝気槽において用いれば同様に分解効率が高まり、汚泥の減容化が想定される。
【0044】
図12に示したように、腸内フローラの有効微生物で形成される複合微生物をカクテル化し利用すれば、現在の糞便移植などの代替技術として、ヒトの医療用素材として、あるいは動物の腸内フローラを改善するために、出生後間もない未熟な腸内に移植する腸内フローラカクテルとして活用できる。
【0045】
図13に示したように、腸内の病原菌に対して選択的に死滅効果を有するバクテリオファージを培養することによって、抗生物質の代替となる安全な治療に活用できる。人工抗生物質の削減は世界的な喫緊の課題であることから安全な処方箋として期待できる。
【0046】
再生医学の進展に伴い、多くの技術開発が進んでいるが、細胞の組織化を自動化するシステムの構築はまだ改善の余地がある。図14は、一般的な細胞分化について示しているが、これらの細胞分化は、図15に示すように、各細胞に与える環境刺激要因によって、最終分化の形態が変わってくる。本装置を活用することによって、これらの環境刺激を改変し、目的とする組織、オルガノイドを構築し、オルガノイドモデル系、移植組織の生産、医療機器としての活用を進める。
【0047】
以上より、本発明に係る培養システムを活用することによって、微生物の培養、土壌改良、作物生産、動物生産、環境浄化、医療分野の幅広い視点で用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
10、20、30 培養装置
11、21、31 培養タンク
12 支持体(多孔質体)
13 送液管
14 撹拌翼
22 ステンレス皿
23 送液管
24 撹拌翼
32 チューブ(支持体)
36 (チューブの)先端
37 (チューブの)外部
100 情報処理基部
110 第1制御(培地供給ラインに関わる制御)
120 第2制御(ガス交換ラインに関わる制御)
130 第3制御(回収ラインに関わる制御)
140 第4制御(培養装置連結ラインに関わる制御)
150 第5制御(培養タンク制御ラインに関わる制御)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の表面を介して生物連続培養、当該生物由来の培養物の回収を可能とする共培養系の培養装置であって、
前記生物を培養する2つの培養タンクと、
前記培養タンク内を攪拌する撹拌翼と、
前記培養タンクに接続され、前記培養タンク内に培地を供給する培地供給ラインと、
2つの前記培養タンク同士の間に接続され、2つの前記培養タンク間の双方向間の送液の流速及び流量を制御する培養装置連結ラインと、
前記培養装置連結ラインに設けられた前記支持体と、
系外から各前記培養タンクに接続され、前記培養物を回収するための回収溶液の回収ライン及び回収液投入ラインと、
系外から各前記培養タンクに接続され、前記培養タンク内のガス交換を行う給気ライン及び排気ラインとを有することを特徴とする培養装置
【請求項2】
支持体の表面を介して生物を連続培養し、当該生物由来の培養物の回収を可能とする共培養系の培養装置であって、
培養タンクと、
前記培養タンク内に設けられ、表面にポアを有するチューブと、を有し、
前記チューブ内には、前記生物と、前記生物において培養可能な任意のガスと、で満たされており、
前記培養タンク内であって前記チューブの外部には、液体培地で満たされていることを特徴とする培養装置。
【請求項3】
支持体の表面を介して生物を連続培養し、当該生物由来の培養物の回収を可能とする培養装置であって、
培養タンクと、
前記培養タンク内に、前記培養物が載置された皿と、
前記培養物を回収するための回収溶液の送液管と、
前記培養物を攪拌する攪拌翼と、を有し、
前記培養タンク内には、任意のガスで満たされており、
前記培養物は、温度条件により固定又は液体に状態変化する前記支持体及び前記生物であることを特徴とする培養装置。
【請求項4】
前記生物は、極限環境微生物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の培養装置