(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003297
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ラックガイド
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20240105BHJP
F16H 19/04 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B62D3/12 501G
F16H19/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102333
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 糧二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 智貴
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA07
3J062AB05
3J062AC07
3J062BA27
3J062CA15
(57)【要約】
【課題】ラックバーがラックガイドに対して摺動する際に、ラックバーから潤滑剤保持溝への潤滑剤の安定的な補給と潤滑剤保持溝からラックバーへの潤滑剤の安定的な供給とを両立したラックガイドを提供すること。
【解決手段】ラックバーSD3と支持面120Aとの間に介在している潤滑剤Gを保持してラックガイド長手方向で対向する少なくとも一対の潤滑剤保持溝122が、ラックガイド長手方向と直交するラックガイド短手方向に延びてラックガイド長手方向に相互に遠ざかるように膨出した形状で支持面120Aに配設され、潤滑剤保持溝122のラックガイド長手方向の頂点122B1が、接触領域120A1に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに形成されたピニオンに噛合して前記ステアリングシャフトの回転運動を直線運動に変換するD字状断面のラックバーに形成された噛合面の背後に設けた摺動面を支持する支持面を備えて前記ラックバーを該ラックバーのバー長手方向に案内してタイヤの操舵角を変更するステアリング装置用のラックガイドであって、
前記ラックバーの摺動面が、単一の曲率半径で形成された曲面であり、
前記支持面が、前記ラックバーと摺動自在に接触する接触領域と前記ラックバーと離間対向する離間対向領域とを有する曲面であり、
前記接触領域が、前記ラックバーの摺動方向と平行なラックガイド長手方向に延びるラックガイド長手方向中心軸に近い内側の前記離間対向領域と前記ラックガイド長手方向中心軸から遠い外側の前記離間対向領域とに挟まれており、
前記ラックバーと前記支持面との間に介在している潤滑剤を保持して前記ラックガイド長手方向で対向する少なくとも一対の潤滑剤保持溝が、前記ラックガイド長手方向と直交するラックガイド短手方向に延びて前記ラックガイド長手方向に相互に遠ざかるように膨出した形状で前記支持面に配設され、前記潤滑剤保持溝の前記ラックガイド長手方向の頂点が、前記接触領域に配置されていることを特徴とするラックガイド。
【請求項2】
前記潤滑剤保持溝が、前記潤滑剤保持溝の膨出に伴って深く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のラックガイド。
【請求項3】
前記潤滑剤保持溝が、前記ラックガイド長手方向に延在する前記支持面の接触領域と直交する直線部と、該直線部の両端および前記頂点を通る膨出部とにより形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラックガイド。
【請求項4】
前記一対の潤滑剤保持溝が、線対称に形成され、
前記一対の潤滑剤保持溝の溝深さが、互いに等しいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラックガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの操舵角を変更するステアリング装置用のラックガイドに関するものであり、特に、ラックバーをバー長手方向に案内するラックガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラックバーを長手方向に案内するラックガイドとして、相対向する一対の傾斜面部と、この傾斜面部の夫々に連続する一対の平坦面部と、この平坦面部の夫々に連続する底面部と、この底面部の中央に裏金側に伸びる中空突出部とを具備してラックバーを支持する複層摺動片を備えたラックガイドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-116994号公報(特に、
図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したラックガイドの複層摺動片における傾斜面部の凹所には潤滑油剤が充填されており、ラックバーがラックバーの長手方向に移動する際に凹所に充填されている潤滑油剤がラックバーに供給されるが、凹所への潤滑油剤の補給が十分ではないため、凹所から潤滑油剤が枯渇してしまう虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、ラックバーがラックガイドに対して摺動する際に、ラックバーから潤滑剤保持溝への潤滑剤の安定的な補給と潤滑剤保持溝からラックバーへの潤滑剤の安定的な供給とを両立したラックガイドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、ステアリングシャフトに形成されたピニオンに噛合して前記ステアリングシャフトの回転運動を直線運動に変換するD字状断面のラックバーに形成された噛合面の背後に設けた摺動面を支持する支持面を備えて前記ラックバーを該ラックバーのバー長手方向に案内してタイヤの操舵角を変更するステアリング装置用のラックガイドであって、前記ラックバーの摺動面が、単一の曲率半径で形成された曲面であり、前記支持面が、前記ラックバーと摺動自在に接触する接触領域と前記ラックバーと離間対向する離間対向領域とを有する曲面であり、前記接触領域が、前記ラックバーの摺動方向と平行なラックガイド長手方向に延びるラックガイド長手方向中心軸に近い内側の前記離間対向領域と前記ラックガイド長手方向中心軸から遠い外側の前記離間対向領域とに挟まれており、前記ラックバーと前記支持面との間に介在している潤滑剤を保持して前記ラックガイド長手方向で対向する少なくとも一対の潤滑剤保持溝が、前記ラックガイド長手方向と直交するラックガイド短手方向に延びて前記ラックガイド長手方向に相互に遠ざかるように膨出した形状で前記支持面に配設され、前記潤滑剤保持溝の前記ラックガイド長手方向の頂点が、前記接触領域に配置されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたラックガイドの構成に加えて、前記潤滑剤保持溝が、前記潤滑剤保持溝の膨出に伴って深く形成されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたラックガイドの構成に加えて、前記潤滑剤保持溝が、前記ラックガイド長手方向に延在する前記支持面の接触領域と直交する直線部と、該直線部の両端および前記頂点を通る膨出部とにより形成されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたラックガイドの構成に加えて、前記一対の潤滑剤保持溝が、線対称に形成され、前記一対の潤滑剤保持溝の溝深さが、互いに等しいことにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のラックガイドによれば、ラックバーと支持面との間に介在している潤滑剤を保持してラックガイド長手方向で対向する少なくとも一対の潤滑剤保持溝が、ラックガイド長手方向と直交するラックガイド短手方向に延びてラックガイド長手方向に相互に遠ざかるように膨出した形状で支持面に配設され、潤滑剤保持溝のラックガイド長手方向の頂点が、接触領域に配置されていることにより、ラックバーがバー長手方向へ摺動する際、潤滑剤保持溝の頂点近傍に保持されている潤滑剤がラックバーに付着している潤滑剤に引きずられて潤滑剤保持溝から潤滑剤保持溝の外部に流出したとしても、この潤滑剤保持溝の頂点近傍の潤滑剤の流出に伴って内側の離間対向領域および外側の離間対向領域に存在する潤滑剤が潤滑剤保持溝の頂点近傍へ引き込まれると共に潤滑剤が支持面およびラックバーの少なくとも一方から潤滑剤保持溝に流入して補充されるため、ラックバーから潤滑剤保持溝への潤滑剤の安定的な補給と潤滑剤保持溝からラックバーへの潤滑剤の安定的な供給とを両立させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明のラックガイドによれば、請求項1に係る発明のラックガイドが奏する効果に加えて、潤滑剤保持溝が、潤滑剤保持溝の膨出に伴って深く形成されていることにより、潤滑剤保持溝の溝深さの深い外端側で潤滑剤が溜まりやすくなると共に潤滑剤保持溝の溝深さの浅い内端側で潤滑剤が流出しやすくなり、ラックバーが潤滑剤保持溝の外端側に摺動した際にはラックバーの摺動に伴う潤滑剤保持溝の外端側からの潤滑剤の流出に伴って内側の離間対向領域と外側の離間対向領域とに存在する潤滑剤が潤滑剤保持溝に流入して潤滑剤保持溝の外端側で保持され、その結果、ラックバーが潤滑剤保持溝の内端側に摺動する際にはラックバーの摺動に伴って潤滑剤保持溝の内端近傍に保持されている潤滑剤がラックバーに付着するように流動するため、ラックバーから潤滑剤保持溝への潤滑剤の安定的な補給と潤滑剤保持溝からラックバーへの潤滑剤の安定的な供給とを確実に両立させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明のラックガイドによれば、請求項1または請求項2に係る発明のラックガイドが奏する効果に加えて、潤滑剤保持溝が、ラックガイド長手方向に延在する支持面の接触領域と直交する直線部と、この直線部の両端および頂点を通る膨出部とにより形成されていることにより、ラックバーが潤滑剤保持溝の直線部側に摺動する際に、潤滑剤保持溝の直線部近傍に保持されている潤滑剤がラックガイド短手方向に流動するよりもラックバーに付着しやすくなるため、ラックバーがラックガイドに対して摺動する際に、潤滑剤保持溝からラックバーへ潤滑剤を安定的に供給することができ、結果として、ラックバーから潤滑剤保持溝への潤滑剤の安定的な補給と潤滑剤保持溝からラックバーへの潤滑剤の安定的な供給とを両立させやすくすることができる。
【0013】
請求項4に係る発明のラックガイドによれば、請求項1または請求項2に係る発明のラックガイドが奏する効果に加えて、一対の潤滑剤保持溝が、線対称に形成され、一対の潤滑剤保持溝の溝深さが、互いに等しいことにより、一対の潤滑剤保持溝に流入する潤滑剤の量と一対の潤滑剤保持溝から流入する潤滑剤の量とが釣り合うため、ラックガイドの保持する潤滑剤の総量を一定に保ちやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例であるラックガイドが組み込まれたラックアンドピニオン式ステアリング装置における断面図。
【
図3】
図1に示すラックガイドとラックバーとの配置関係を示す側面図。
【
図4】
図3のIV方向から見たラックガイドの平面図。
【
図5】
図4のV-V断面における潤滑剤保持溝の端面図。
【
図6A】
図1に示すラックガイドとラックバーと潤滑剤との配置関係を示す平面図。
【
図6B】
図6AのVIB-VIB断面における潤滑剤保持溝の端面図。
【
図7A】ラックバーを紙面右方向へ動かした際の潤滑剤の流動を説明する平面図。
【
図7B】
図7AのVIIB-VIIB断面における潤滑剤保持溝の端面図。
【
図8A】ラックバーを紙面左方向へ動かした際の潤滑剤の流動を説明する平面図。
【
図8B】
図8AのVIIIB-VIIIB断面における潤滑剤保持溝の端面図。
【
図9A】本発明の第1変形例であるラックガイドの平面図。
【
図9B】本発明の第2変形例であるラックガイドの平面図。
【
図9C】本発明の第3変形例であるラックガイドの平面図。
【
図9D】本発明の第4変形例であるラックガイドの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ステアリングシャフトに形成されたピニオンに噛合してステアリングシャフトの回転運動を直線運動に変換するD字状断面のラックバーに形成された噛合面の背後に設けた摺動面を支持する支持面を備えてラックバーをこのラックバーのバー長手方向に案内してタイヤの操舵角を変更するステアリング装置用のラックガイドであって、ラックバーの摺動面が、単一の曲率半径で形成された曲面であり、支持面が、ラックバーと摺動自在に接触する接触領域とラックバーと離間対向する離間対向領域とを有する曲面であり、接触領域が、ラックバーの摺動方向と平行なラックガイド長手方向に延びるラックガイド長手方向中心軸に近い内側の離間対向領域とラックガイド長手方向中心軸から遠い外側の離間対向領域とに挟まれており、ラックバーと支持面との間に介在している潤滑剤を保持してラックガイド長手方向で対向する少なくとも一対の潤滑剤保持溝が、ラックガイド長手方向と直交するラックガイド短手方向に延びてラックガイド長手方向に相互に遠ざかるように膨出した形状で支持面に配設され、潤滑剤保持溝のラックガイド長手方向の頂点が、接触領域に配置され、ラックバーがラックガイドに対して摺動する際に、ラックバーから潤滑剤保持溝への潤滑剤の安定的な補給と潤滑剤保持溝からラックバーへの潤滑剤の安定的な供給とを両立するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0016】
例えば、本発明におけるラックガイドは、自動四輪車のラックアンドピニオン式ステアリング装置に搭載されるものであるが、自動四輪車は、ガソリン車やディーゼル車だけでなく、電気自動車等であってもよい。
【実施例0017】
以下、
図1乃至
図8Bに基づいて、本発明の一実施例であるラックガイド100を説明する。
【0018】
<1.ラックガイドの設置環境>
まず、本発明の一実施例であるラックガイドが組み込まれたラックアンドピニオン式ステアリング装置における断面図である
図1に基づいて、ラックガイド100が搭載される環境について説明する。
【0019】
本実施例のラックガイド100は、
図1に示すように、自動四輪車のラックアンドピニオン式ステアリング装置SDに搭載されるものである。
【0020】
このラックアンドピニオン式ステアリング装置SDは、タイヤ(不図示)の操舵角を変更するものであり、装置ハウジングSD1と、ハンドルと一体になって回転するステアリングシャフトSD2と、このステアリングシャフトSD2と噛合してステアリングシャフトSD2の回転運動を直線運動に変換するラックバーSD3と、このラックバーSD3をラックバーSD3のバー長手方向に案内するラックガイド100と、このラックガイド100をラックバーSD3に押しつける付勢バネSD4とを備えている。
【0021】
ステアリングシャフトSD2の先端には、ラックバーSD3と噛合するピニオンSD2aが形成されており、ステアリングシャフトSD2と一体になって回転する。
【0022】
ラックバーSD3は、
図1に示すように、単一の曲率半径Rbで形成された曲面である摺動面SD3aと、この摺動面SD3aの背後に設けられてステアリングシャフトSD2と噛合するラック歯となる噛合面SD3bとを有し、D字状の断面となっている。
【0023】
付勢バネSD4は、装置ハウジングSD1とラックガイド100との間に介在している。
【0024】
<2.ラックガイドの構造>
次に、
図1乃至
図5に基づいて、ラックガイド100の構造を詳しく説明する。
図2は
図1に示すラックガイドの斜視図であり、
図3は
図1に示すラックガイドとラックバーとの配置関係を示す側面図であり、
図4は
図3のIV方向から見たラックガイドの平面図であり、
図5は
図4のV-V断面における潤滑剤保持溝の端面図である。
【0025】
ラックガイド100は、
図2等に示すように、ラックガイド本体110と、シート120とを備えている。
【0026】
<2.1.ラックガイド本体>
ラックガイド本体110は、
図2に示すように、円柱状の金属製部材である。
そして、このラックガイド本体110の一端側には、ラックガイド本体110の長手方向中心軸(ラックガイド中心軸GA)の延びる方向(
図2におけるz方向)と直交するシート載置溝長手方向(
図2におけるx方向)に延びるシート載置溝111が形成されている。
このシート載置溝111の断面形状は、
図1および
図3に示すように、半円状になっている。
そして、ラックバーSD3の摺動面SD3aと対向するシート載置溝111の対向面111aには、
図1に示すように、シート120の凸部121と係合するシート係合穴111a1が形成されている。
【0027】
<2.2.シート>
シート120は、自己潤滑性に優れる樹脂(例えば、PTFEのようなフッ素樹脂やナイロン樹脂、POMのようなポリアセタール樹脂)製の部材であり、
図3に示すように、厚みがほぼ一様になっている。
そして、シート120は、
図1および
図4に示すように、平面視において中央にラックガイド本体110に向けて突出する凸部121が形成されている。
シート120は、凸部121をラックガイド本体110のシート係合穴111a1に挿入して係合させることにより、ラックガイド本体110と一体になっている。
したがって、シート120をラックガイド本体110に組み付けた状態において、ラックバーSD3の摺動面SD3aと対向するラックガイド本体110の対向面111aは、
図3に示すように、ラックバーSD3の摺動面SD3aを支持するシート120の支持面120AよりもラックバーSD3から遠ざかる位置に配置されている。
【0028】
シート120の支持面120Aは、
図4に示すように、凸部121の中心を通りシート長手方向(
図4におけるX方向)に延びるシート長手方向中心軸LAに対して対称であると共に凸部121の中心を通りシート短手方向(
図4におけるY方向)に延びるシート短手方向中心軸WAに対して対称となっている。
ここで、シート長手方向中心軸LAおよびシート短手方向中心軸WAは、ラックガイド中心軸GAと直交している。
【0029】
シート120のシート長手方向はラックガイド本体110のシート載置溝長手方向およびラックバーSD3の長手方向(摺動方向)と同じ方向となっており、シート長手方向中心軸LAはラックガイド長手方向中心軸と同軸になっている。
シート120のシート短手方向はシート120のシート長手方向と直交しており、シート短手方向中心軸WAは、ラックガイド短手方向中心軸と同軸になっている。
【0030】
また、支持面120Aは、
図3に示すように、シート120をラックガイド本体110に組み付けた状態において、2つの曲率中心Os1、Os2を有している。
この曲率中心Os1、Os2は、
図3に示すように、ラックガイド中心軸GAを挟んでY方向において配置されていると共にz方向の配置位置がほぼ等しくなっている。
そして、この曲率中心Os1における曲率半径と曲率中心Os2における曲率半径とは同じ曲率半径Rsになっている。
すなわち、支持面120Aは、ラックバーSD3の摺動面SD3aのように単一の曲面で形成されているのではなく、2つの曲面が合わさって形成されている。
なお、ラックガイド中心軸GA上には、ラックバーSD3の曲率中心Obが位置している。
【0031】
以上より、シート120をラックガイド本体110に組み付けた状態において、支持面120Aは、
図3および
図4に示すように、ラックバーSD3と摺動自在に接触する接触領域120A1と、ラックバーSD3と離間対向する離間対向領域120A2とを有している。
接触領域120A1は、
図3および
図4に示すように、シート長手方向中心軸LAを挟んで2箇所存在し、それぞれがラックガイド短手方向(Y方向)において内側(シート長手方向中心軸LAに近い側)の離間対向領域120A2iと外側(シート長手方向中心軸LAから遠い側)の離間対向領域120A2oとに挟まれている。
【0032】
<2.2.1.潤滑剤保持溝>
シート120の支持面120Aには、
図2および
図4等に示すように、ラックバーSD3の摺動面SD3aとシート120の支持面120Aとの間に介在してラックバーSD3をシート120に対して滑らかに摺動させる潤滑剤を保持する潤滑剤保持溝122が複数個形成されている。
【0033】
この潤滑剤保持溝122は、
図4に示すように、シート長手方向中心軸LAおよびシート短手方向中心軸WAに対して対称となるように支持面120Aに配設されている。
すなわち、潤滑剤保持溝122はシート長手方向で(シート短手方向中心軸WAを中心に)対になっており、一対の潤滑剤保持溝122はシート短手方向中心軸WAに線対称に形成されている。
【0034】
そして、各潤滑剤保持溝122は、
図4に示すように、シート短手方向(ラックガイド短手方向)に延びると共にシート長手方向(ラックガイド長手方向)かつシート短手方向中心軸WAから遠ざかる方向に膨出している。
すなわち、シート短手方向中心軸WAに線対称に配置された一対の潤滑剤保持溝122は、相互に遠ざかる方向に膨出し、各潤滑剤保持溝122は、シート長手方向に延在する接触領域120A1と直交する方向(すなわち、シート短手方向)に延びる直線部122Aと、この直線部122Aからの両端から膨出する膨出部122Bとにより形成されている。
そして、この膨出部122Bのシート長手方向の頂点122B1は、
図4に示すように、接触領域120A1に配置されている。
【0035】
この潤滑剤保持溝122の断面形状は
図5に示すとおりであり、潤滑剤保持溝122は膨出部122Bを形成する立壁面122aと、この立壁面122aと支持面120Aとを繋ぐ傾斜面122bとから形成されている。
すなわち、直線部122Aは、傾斜面122bと支持面120Aとの境界である。
【0036】
立壁面122aは、シート120の厚み方向に延びており、
図2に示すように、頂点付近が最も高さが大きく、直線部122Aの両端近傍が最も高さが小さくなっている。
すなわち、潤滑剤保持溝122は、潤滑剤保持溝122の膨出に伴って深く形成されており、換言すると、シート長手方向において、シート短手方向中心軸WAから遠い潤滑剤保持溝122の外端側(膨出部122B)が、シート短手方向中心軸WAに近い潤滑剤保持溝の内端側(直線部122A)に比べて深く形成されていることになる。
したがって、シート短手方向中心軸WAに線対称に配置された一対の潤滑剤保持溝122の溝深さは、互いに等しくなっている。
【0037】
<3.潤滑剤の流動>
次に、
図6A乃至
図8Bに基づき、ラックバーSD3とラックガイド100との間に介在している潤滑剤Gの流動について説明する。
図6Aは
図1に示すラックガイドとラックバーと潤滑剤との配置関係を示す平面図であり、
図6Bは
図6AのVIB-VIB断面における潤滑剤保持溝の端面図であり、
図7Aはラックバーを紙面右方向へ動かした際の潤滑剤の流動を説明する平面図であり、
図7Bは
図7AのVIIB-VIIB断面における潤滑剤保持溝の端面図であり、
図8Aはラックバーを紙面左方向へ動かした際の潤滑剤の流動を説明する平面図であり、
図8Bは
図8AのVIIIB-VIIIB断面における潤滑剤保持溝の端面図である。
【0038】
以上の説明したラックアンドピニオン式ステアリング装置SDにおいて、ラックバーSD3には潤滑剤Gが塗布されていることから、ラックバーSD3がラックガイド100を摺動すると、ラックバーSD3とラックガイド100との間には、
図6Aおよび
図6Bに示すように潤滑剤Gが介在することになる。
【0039】
<3.1.ラックバーが紙面右方向に動いた場合>
そして、
図7Aおよび
図7Bに示すように、ラックバーSD3が紙面右方向に動いた場合、ラックバーSD3の移動に伴ってラックバーSD3に付着した潤滑剤Gも灰色の矢印で示すように紙面右方向に動く。
この潤滑剤Gの移動に伴い、潤滑剤Gの粘性によりシート120側の潤滑剤Gも流動し始める。
【0040】
<3.1.1.シート短手方向中心軸より紙面右側の潤滑剤の流動>
まず、シート短手方向中心軸WAより紙面右側に配設されている潤滑剤保持溝122周辺の潤滑剤Gの流動について説明する。
シート120の潤滑剤保持溝122が形成されていない領域のシート120側の潤滑剤Gは、
図7Aおよび
図7Bにおいて白色の矢印で示すように、ラックバーSD3側の潤滑剤Gの移動に伴って、紙面右側、すなわち、潤滑剤保持溝122に向かって流動し、潤滑剤保持溝122の直線部122Aから潤滑剤保持溝122の内部へ流入する。
この潤滑剤Gの潤滑剤保持溝122への流入に伴い、ラックバーSD3に付着した潤滑剤Gも潤滑剤保持溝122に向かって引き込まれる。
【0041】
潤滑剤保持溝122の離間対向領域120A2に保持されている潤滑剤Gは、白色の矢印で示すように、流動抵抗の少ない方向、すなわち、立壁面122aを乗り越えようとするのではなく接触領域120A1に向かって引き込まれることにより、潤滑剤Gは潤滑剤保持溝122において頂点122B1付近で最も多く保持される。
したがって、潤滑剤保持溝122に保持されている潤滑剤Gは、ラックバーSD3の移動に伴い接触領域120A1、すなわち、潤滑剤保持溝122の頂点122B1付近で最も多くラックバーSD3に付着する。
【0042】
<3.1.2.シート短手方向中心軸より紙面左側の潤滑剤の流動>
次に、シート短手方向中心軸WAより紙面左側に配設されている潤滑剤保持溝122周辺の潤滑剤Gの流動について説明する。
潤滑剤保持溝122に保持されている潤滑剤Gは、白色の矢印で示すように、ラックバーSD3側の潤滑剤Gの移動に伴って、紙面右側、すなわち、潤滑剤保持溝122の直線部122Aから潤滑剤保持溝122の外部へと流出する。
【0043】
<3.2.ラックバーSD3が紙面左方向に動いた場合>
そして、
図8Aおよび
図8Bに示すように、ラックバーSD3が紙面左方向に動いた場合、ラックバーSD3の移動に伴ってラックバーSD3に付着した潤滑剤Gも紙面左方向に動く。
この潤滑剤Gの移動に伴い、潤滑剤Gの粘性によりシート120側の潤滑剤Gも流動し始めるが、ラックバーSD3側の潤滑剤Gおよびシート120側の潤滑剤Gの挙動は、シート120がシート短手方向中心軸WAに対して対称であるため、ラックバーSD3の移動方向が異なるだけで、
図7Aおよび
図7Bで示したラックバーSD3が紙面右方向に動く場合と全く同じ挙動となる。
すなわち、ラックバーSD3が紙面右方向に動いた場合とラックバーSD3が紙面左方向に動いた場合との間で、ラックバーSD3の摺動量が等しければ、各潤滑剤保持溝122における潤滑剤Gの流入量と流出量とが概ね釣り合うため、シート120内の潤滑剤Gの増減は殆ど生じない。
【0044】
<4.効果>
以上説明した本実施例のラックガイド100によれば、ラックバーSD3と支持面120Aとの間に介在している潤滑剤Gを保持してシート長手方向で対向する一対の潤滑剤保持溝122が、シート長手方向(ラックガイド長手方向)と直交するシート短手方向(ラックガイド短手方向)に延びてシート長手方向に相互に遠ざかるように膨出した形状で支持面120Aに配設され、潤滑剤保持溝122のシート長手方向の頂点122B1が、接触領域120A1に配置されていることにより、ラックバーSD3の摺動面SD3aがバー長手方向へ摺動する際、潤滑剤保持溝122の頂点122B1近傍に保持されている潤滑剤GがラックバーSD3に付着している潤滑剤Gに引きずられて潤滑剤保持溝122から潤滑剤保持溝122の外部に流出したとしても、この潤滑剤保持溝122の頂点122B1近傍の潤滑剤Gの流出に伴って内側の離間対向領域120A2iおよび外側の離間対向領域120A2oに存在する潤滑剤Gが潤滑剤保持溝122の頂点122B1近傍へ引き込まれると共に潤滑剤Gが支持面120AおよびラックバーSD3の少なくとも一方から潤滑剤保持溝122に流入して補充されるため、ラックバーSD3から潤滑剤保持溝122への潤滑剤Gの安定的な補給と潤滑剤保持溝122からラックバーSD3への潤滑剤Gの安定的な供給とを両立させることができる。
よって、ラックバーSD3の摺動面SD3aに付着した潤滑剤Gが偏り無く使用されることになり、ラックガイド100の寿命を延ばすことができる。
【0045】
また、潤滑剤保持溝122が、支持面120Aにおける全ての接触領域120A1に配設されていることで、ラックバーSD3に対して偏り無く潤滑剤を供給することができる。
【0046】
さらに、一対の潤滑剤保持溝122のそれぞれにおける溝深さが、一対の潤滑剤保持溝122のそれぞれの膨出する方向に向けて深くなっていることにより、潤滑剤保持溝122の溝深さの深い外端側で潤滑剤Gが溜まりやすくなると共に潤滑剤保持溝122の溝深さの浅い内端側で潤滑剤Gが流出しやすくなり、ラックバーSD3が潤滑剤保持溝122の外端側に摺動した際にはラックバーSD3の摺動に伴う潤滑剤保持溝122の外端側からの潤滑剤Gの流出に伴って内側の離間対向領域120A2iと外側の離間対向領域120A2oとに存在する潤滑剤Gが潤滑剤保持溝122に流入して潤滑剤保持溝122の外端側で保持され、その結果、ラックバーSD3が潤滑剤保持溝122の内端側に摺動する際にはラックバーSD3の摺動に伴って潤滑剤保持溝122の内端近傍に保持されている潤滑剤GがラックバーSD3に付着するように流動するため、ラックバーSD3から潤滑剤保持溝122への潤滑剤Gの安定的な補給と潤滑剤保持溝122からラックバーSD3への潤滑剤Gの安定的な供給とを確実に両立させることができる。
【0047】
また、潤滑剤保持溝122が、シート長手方向に延在する支持面120Aの接触領域120A1と直交する直線部122Aと、この直線部122Aの両端および頂点122B1を通る膨出部122Bとにより形成されていることにより、ラックバーSD3が潤滑剤保持溝122の直線部122A側に摺動する際に、潤滑剤保持溝122の直線部122A近傍に保持されている潤滑剤Gがシート短手方向に流動するよりもラックバーSD3に付着しやすくなるため、ラックバーSD3がラックガイド100に対して摺動する際に、潤滑剤保持溝122からラックバーSD3へ潤滑剤Gを安定的に供給することができ、結果として、ラックバーSD3から潤滑剤保持溝122への潤滑剤Gの安定的な補給と潤滑剤保持溝122からラックバーSD3への潤滑剤Gの安定的な供給とを両立させやすくすることができる。
【0048】
<変形例>
以上、本発明の実施例であるラックガイドについてそれぞれ説明したが、本発明のラックガイドは、上述した実施例のラックガイドに限定されるものではない。
【0049】
例えば、上述した実施例において、ラックガイド本体110は金属製であったが、ラックガイド本体の材質は金属に限定されるものではなく、例えば樹脂製でもよい。
【0050】
例えば、上述した実施例において、シート120の厚みは一様であったが、シートの厚みは一様でなくてもよい。
【0051】
例えば、上述した実施例において、シート120における潤滑剤保持溝122の個数は8個であったが、シートに配設される潤滑剤保持溝の個数は、シート長手方向中心軸LAおよびシート短手方向中心軸WAに対して対称に配設されれば、8個に限定されるものではない。
【0052】
例えば、上述した実施例において、ラックガイド100は、ラックガイド本体110とシート120との2部材で構成されていたが、ラックガイド本体とシートとを一体に形成してもよい。
【0053】
例えば、上述した実施例において、一対の潤滑剤保持溝122はシート短手方向の位置が揃っていたが、一対の潤滑剤保持溝はラックガイド長手方向で対になっていればこれに限定されるものではなく、例えば、シート短手方向にずれていてもよい。
【0054】
例えば、上述した実施例において、シート120に形成された潤滑剤保持溝122は
図4に示すような直線部122Aと円弧状の膨出部122Bとから形成されていたが、潤滑剤保持溝の形状は、ラックガイド長手方向に膨出しつつ頂点が接触領域に配置されていれば、上述した実施例に限定されるものではなく、例えば、
図9A乃至
図9Cに示すような形状であってもよい。
すなわち、本発明の第1変形例であるラックガイドの平面図である
図9Aに示すラックガイド200のように潤滑剤保持溝222が直線部222Aと折れ線状の膨出部222Bとから形成されていたり、本発明の第2変形例であるラックガイドの平面図である
図9Bに示すラックガイド300のように潤滑剤保持溝322が2つの円弧状の膨張部から形成されていたり、本発明の第3変形例であるラックガイドの平面図である
図9Cに示すラックガイド400のように潤滑剤保持溝422が菱形状に形成されていたりしてもよい。
【0055】
例えば、上述した実施例において、シート120に形成された一対の潤滑剤保持溝122はシート短手方向中心軸WAを中心に配置されていたが、本発明における一対の潤滑剤保持溝はラックガイド長手方向で対になっていればこれに限定されるものではなく、例えば、本発明の第5変形例であるラックガイドの平面図である
図9Dに示すラックガイド500のように、一対の潤滑剤保持溝522がシート短手方向中心軸WAに平行な対称軸Aを中心に形成されていてもよい。