(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032972
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液及び電極ペースト
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240305BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014873
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2019214665の分割
【原出願日】2019-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】591064508
【氏名又は名称】御国色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 知弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】梶原 理恵
(57)【要約】
【課題】本開示は、粘度の貯蔵安定性に優れるリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液を提供することを目的とする。
【解決手段】導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒を含有する、リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒を含有する、リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【請求項2】
前記導電材は、アセチレンブラック、ファーネスブラック及びケッチェンブラックからなる群から選択される少なくとも1種のカーボンブラックであり、
前記分散液における前記カーボンブラックの含有量が5質量%以上30質量%以下であって、
B形粘度計で測定する前記分散液の粘度が50mPa・s以上2000mPa・s以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【請求項3】
前記導電材は、カーボンナノチューブであり、
前記分散液における前記カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%以上10質量%以下であって、
B形粘度計で測定する前記分散液の粘度が50mPa・s以上2000mPa・s以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【請求項4】
前記メチルオクチルセルロースは、メチル基置換度が0.1以上2.9未満、オクチル基置換度が0.01以上2.9未満、及びメチル基置換度とオクチル基置換度の和が3.0未満であり、
前記メチルオクチルセルロースの含有量は、前記カーボンブラック100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下である、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【請求項5】
前記メチルオクチルセルロースは、メチル基置換度が0.1以上2.9未満、オクチル基置換度が0.01以上2.9未満、及びメチル基置換度とオクチル基置換度の和が3.0未満であり、
前記メチルオクチルセルロースの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【請求項6】
前記分散媒は、N-メチル-2-ピロリドンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の導電材分散液、活物質及びバインダを含有する、リチウムイオン二次電池正極用の電極ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液及び電極ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の普及に伴って、リチウムイオン二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池は、通常、炭素材料からなる負極と、リチウムイオンを可逆的に出入りさせる活物質を含有する正極と、それらを浸漬する非水系電解質とを備えている。
【0003】
このうち、正極は、正極活物質、導電材及びバインダからなる電極ペーストを、集電板に塗工することより製造されている。正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物等が用いられる。このような正極活物質単独では電子伝導性、即ち導電性に乏しいことから、導電性を付与するために、高度にストラクチャーが発達した導電性カーボンブラック、及び結晶が著しい異方性を示すグラファイト等の炭素材料を導電材として添加し、バインダ(結着材)と共にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非水系溶媒に分散させて、スラリーを作製し、このスラリーを金属箔上に塗布し、乾燥して正極を形成する。
【0004】
しかしながら、導電材として用いられる炭素材料であるカーボンブラックやグラファイトは一次粒子径が小さい微粉体であり、ストラクチャーや比表面積が大きいため凝集力が強く、リチウムイオン二次電池の電極合材形成用スラリー中に均一に混合し分散することが困難である。そして、導電材である炭素材料の分散性や粒度の制御が不十分な場合、均一な導電ネットワークが形成さないために電極の内部抵抗の低減が図れず、その結果、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物や炭素材料であるグラファイト等の性能を十分に引き出せないという問題が生じている。また、電極合材中の導電材(導電助剤)の分散が不十分であると、部分的凝集に起因して電極板上に抵抗分布が生じ、電池として使用した際に電流が集中し、部分的な発熱及び劣化が促進される等の不具合が生ずることがある。
【0005】
導電材を電極中に均一に分散するため、分散剤と共に有機溶剤等の分散媒に分散し、スラリー化させた分散液(導電材分散液)を予め調製し、これを活物質及びバインダと共に混練して電極を形成することが提案されている(特許文献1)。導電助剤の導電性を阻害せずに分散安定化を図り導電助剤の電解液に対する濡れ性を向上させた電池用分散剤が提案されている(特許文献2)。また、良好な分散性および導電性を確保することのできる導電材分散液が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-129305号公報
【特許文献2】特開2012-195243号公報
【特許文献3】特許第5628503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の導電材分散液は、貯蔵安定性が不十分であり、経時的に増粘する等粘度が変化しやすい。このような導電材分散液を活物質及びバインダと共に混練して電極を形成すると、その作業性に劣る。
【0008】
本開示は、粘度の貯蔵安定性に優れるリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第一は、導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒を含有する、リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液に関する。
【0010】
前記リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液において、前記導電材は、アセチレンブラック、ファーネスブラック及びケッチェンブラックからなる群から選択される少なくとも1種のカーボンブラックであり、前記分散液における前記カーボンブラックの含有量が5質量%以上30質量%以下であって、B形粘度計で測定する前記分散液の粘度が50mPa・s以上2000mPa・s以下であってよい。
【0011】
前記リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液において、前記導電材は、カーボンナノチューブであり、前記分散液における前記カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%以上10質量%以下であって、B形粘度計で測定する前記分散液の粘度が50mPa・s以上2000mPa・s以下であってよい。
【0012】
前記リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液において、前記メチルオクチルセルロースは、メチル基置換度が0.1以上2.9未満、オクチル基置換度が0.01以上2.9未満、及びメチル基置換度とオクチル基置換度の和が3.0未満であり、前記メチルオクチルセルロースの含有量は、前記カーボンブラック100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であってよい。
【0013】
前記リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液において、前記メチルオクチルセルロースは、メチル基置換度が0.1以上2.9未満、オクチル基置換度が0.01以上2.9未満、及びメチル基置換度とオクチル基置換度の和が3.0未満であり、前記メチルオクチルセルロースの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下であってよい。
【0014】
前記リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液において、前記分散媒は、N-メチル-2-ピロリドンであってよい。
【0015】
本開示の第二は、前記導電材分散液、活物質及びバインダを含有する、リチウムイオン二次電池正極用の電極ペーストに関する。
【発明の効果】
【0016】
本開示のリチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液は、粘度の貯蔵安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[導電材分散液]
本開示の導電材分散液は、導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒を含有する、リチウムイオン二次電池正極用の導電材分散液である。
【0018】
(分散液)
導電材分散液は、含有する成分のうち少なくとも導電材が分散媒中に分散された状態の液をいう。導電材及びメチルオクチルセルロースが分散状態であることが好ましい。また、その他の任意成分を含有するか、含有しないかにかかわらず、含有するすべての成分が分散媒中に分散された状態であることが好ましい。ここで、分散された状態とは、懸濁及び溶液の両方の状態を含む。
【0019】
(導電材)
導電材とは、導電性を有し、電極の導電性を高める物質である。導電材としては、従来公知の物質を用いることができ、例えば、カーボンブラック及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0020】
カーボンブラックは、微粒子状の炭素である。カーボンブラックは、製造方法により特徴が変わる粒子であるため、製造方法により品質(粒子径、ストラクチャー及び結晶性等)が制御され、製造方法によって分類される。例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、及びサーマルブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、1種を単独で又2種以上を併せて用いることができる。
【0021】
導電材は、電池の高容量化及びサイクル特性の向上の観点から、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらは、1種を単独で又2種以上を併せて用いることができる。
【0022】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、50nm以下であってよく、40nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。また、平均一次粒子径は、10nm以上であってよく、15nm以上であってよい。カーボンブラックの平均一次粒子径が大きすぎると、電極ペーストから得られる塗膜の導電性が低下する傾向がある。また、小さすぎると導電材分散液及び電極ペーストの粘度が高くなりすぎて、カーボンブラックの分散が困難になり、十分な導電性を発揮できなくなる場合がある。
【0023】
平均一次粒子径とは、ASTM:D3849-14に準拠して、透過型電子顕微鏡を用いて測定された算術平均粒子径を示す。なお、平均一次粒子径は、一般に導電材の物性を評価するために用いられる。
【0024】
分散液中のカーボンブラックの分散粒子径は、最大粒子径として40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。一般的に、導電材等の分散体の粒子状態の管理には、平均粒子径が用いられている。しかしながら、平均粒子径を用いた場合には、粗大粒子の存在を考慮していないため、平均粒子径の値が小さい場合でも実際には最大粒子径として40μmを超える粗大粒子が存在している場合がある。この場合は、リチウムイオン二次電池の電極塗膜中での活物質と導電材の分布が不均一化し電池性能を損なう可能性が出てくる。
【0025】
最大粒子径は、JIS K5600-2-5に準拠し、グラインドゲージを用いて測定すればよい。
【0026】
カーボンブラックの純度は、99.90~100質量%であってよく、99.95~100質量%が好ましい。なお、カーボンブラックの純度は、JIS K1469またはJIS K6218に準拠して測定した灰分を不純物とし、その不純物量に基づき算出できる。
【0027】
カーボンナノチューブは、略円筒形状をなした炭素結晶である。カーボンナノチューブは、その平均外径が、90nm以下であってよく、30nm以下が好ましく、20nm以下が好ましく、15nm以下がさらに好ましい。また、その平均外径は、1nm以上、又は5nm以上であってよい。カーボンナノチューブの平均外径が大きすぎると、電極ペーストから得られる塗膜の導電性が低下する傾向がある。また、小さすぎると導電材分散液及び電極ペーストの粘度が高くなりすぎて、カーボンナノチューブの分散が困難になる場合がある。
【0028】
カーボンナノチューブの平均外径とは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率の画像を用いて測定した十分なn数の外径の算術平均値である。
【0029】
カーボンナノチューブとして、具体的には、昭和電工社製VGCF-X(平均外径30nm)、ARKEMA社製C100(平均外径10-15nm)、U100(平均外径10-15nm高純度品)、Nanocyl社製NC7000(平均外径10nm)、NC2150、NC3100、BAYER社製BaytubesC150(平均外径13-16nm)、BaytubesC150P(平均外径13-16nm)、及び保土ヶ谷化学社製MWNT(平均外径40-90nm)等が挙げられる。また、カーボンナノチューブは、1種を単独で又2種以上を併せて用いることもできる。
【0030】
本開示の導電材分散液が、カーボンナノチューブを含有する場合、凝集せずに、1本ずつ独立して分散するほど好ましい。電極ペーストから得られる塗膜の導電性に優れるためである。
【0031】
カーボンナノチューブの純度は、90~100質量%であってよく、95~100質量%が好ましい。なお、カーボンナノチューブの純度は、カーボンブラックの純度と同様に、JIS K1469またはJIS K6218に準拠して測定した灰分を不純物とし、その不純物量に基づき算出できる。
【0032】
導電材分散液における導電材の含有量は、特に限定されるものでない。導電材がカーボンブラックである場合、導電材分散液におけるカーボンブラックの含有量は、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましい。また、導電材分散液におけるカーボンブラックの含有量は、30質量%以下が好ましく、28質量%以下がより好ましい。
【0033】
導電材がカーボンナノチューブである場合、導電材分散液におけるカーボンナノチューブの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。また、導電材分散液におけるカーボンナノチューブの含有量は、10質量%以下が好ましい。
【0034】
導電材分散液における導電材の含有量が少なすぎると、電極ペースト調製時の総固形分が低下し、適正な粘度よりも低くなるため、ムラが生じ不均一な塗膜になる。不均一な塗膜とは、活物質と導電材が偏在化している状態の塗膜、又は目付量(集電体上の塗布量)が位置によってバラついている状態の塗膜を指す。活物質と導電材が偏在化している状態の塗膜を正極に有するリチウムイオン二次電池を構成した場合、導電性が低下したり、電荷が偏ったりして、高速充放電や耐久性をといった性能を損なう可能性がある。目付量が位置によってバラついている状態の塗膜を用いて複数のリチウムイオン二次電池を製造した場合、リチウムイオン二次電池の1つ1つの容量がばらつくため、歩留まりが悪くなる可能性がある。導電材分散液における導電材の含有量が多すぎると、導電材分散液の流動性が低下し、電極ペースト調製時のハンドリングが悪くなる場合がある。
【0035】
(メチルオクチルセルロース)
メチルオクチルセルロースは、水酸基の水素の一部又はすべてが、メチル基及びオクチル基に置換されたセルロースである。
【0036】
メチルオクチルセルロースのメチル基置換度は、0.1以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。また、メチル基置換度は、2.9未満が好ましく、2.5未満がより好ましく、2.0未満がさらに好ましい。メチル基置換度が小さすぎると、溶媒への溶解性が悪くなる。メチル基置換度が大きすぎると、メチルオクチルセルロース製造時のオクチル基導入が難しくなる。
【0037】
メチルオクチルセルロースのオクチル基置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.08以上がさらに好ましい。また、オクチル基置換度は、2.9未満が好ましく、1.8未満がより好ましく、0.8未満がさらに好ましく、0.7未満が特に好ましく、0.5未満が最も好ましい。より導電材分散液の粘度の経時安定性が得られるためである。オクチル基置換度が大きすぎると、導電材分散液を調製した場合、導電材分散液の粘度が上昇する傾向がある。
【0038】
メチルオクチルセルロースのメチル基置換度とオクチル基置換度の和は、3.0未満が好ましく、2.5未満がより好ましく、2.2未満がさらに好ましい。置換度の和を大きくするには反応時間を長くする必要があり、そのため生産性や物性の低下を及ぼすためである。
【0039】
メチルオクチルセルロースの各置換基の置換度の和を総置換度といい、メチルオクチルセルロースの総置換度は、0.3以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。また、総置換度は、3.0未満が好ましく、2.9未満がより好ましく、2.5未満がより好ましく、2.2未満がさらに好ましい。
【0040】
メチル基置換度及びオクチル基置換度を含むアルキル基置換度は、以下の方法により測定することができる。ASTM:D-817-91に準ずる方法や、13C-NMR、1H-NMRにより測定できる。
【0041】
メチルオクチルセルロースのメチル基置換度及びオクチル基置換度を1H-NMRにより定量する場合の条件の例を以下に記載する。
【0042】
装置:JEOL JNM ECA-500
温度:80℃
溶媒:DMSO
試料濃度:0.8wt%
計算:
メチル基置換度=35β/(15α-15β-2γ)
オクチル基置換度=7γ/(15α-15β-2γ)
α:5.40~2.70ppmの積分値
β:3.51~3.41、3.32~3.25ppmの積分値
γ:1.65~0.70ppmの積分値
【0043】
メチルオクチルセルロースの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、1.0×104以上が好ましく、2.0×104以上がより好ましく、3.0×104以上がさらに好ましい。また、当該重量平均分子量は、1.0×106以下が好ましく、5.0×105以下がより好ましく、2.0×105以下がさらに好ましい。当該範囲であることにより、導電材分散液におけるメチルオクチルセルロースの分散性、及び分散液製造時の作業性が良好なものとなる。
【0044】
重量平均分子量は、個々の分子の重量にその分子量を掛けて平均値を求める、いわゆる分子量の加重平均値であり、GPCで測定できる。
【0045】
導電材分散液におけるメチルオクチルセルロースの含有量は、特に限定されるものでないが、導電材分散液におけるメチルオクチルセルロースの含有量が少なすぎると、導電材の分散が不十分になり、この導電材分散液を用いた電極ペーストから得られる塗膜の導電性が低下する傾向がある。導電材分散液におけるメチルオクチルセルロースの含有量が多すぎると、この導電材分散液を用いた電極ペーストから得られる塗膜中の抵抗成分が増えるため導電性が低下し、このような塗膜からなる正極を有するリチウムイオン二次電池を構成した場合、高容量化が困難になる場合がある。
【0046】
例えば、導電材がカーボンブラックの場合、導電材分散液におけるメチルオクチルセルロースの含有量は、導電材(カーボンブラック)100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、6質量部以上がさらに好ましい。また、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。上記範囲であると、導電材分散液の分散性に優れる。
【0047】
また、例えば、導電材がカーボンナノチューブの場合、導電材分散液におけるメチルオクチルセルロースの含有量は、導電材(カーボンナノチューブ)100質量部に対して30質量部以上が好ましく、50質量部以上が好ましい。また、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。上記範囲であると、導電材分散液の分散性に優れる。
【0048】
メチルオクチルセルロースは、例えば、以下のようにして製造することができる。セルロース原料を塩基性条件下でアルカリセルロースにする工程(活性化工程);及び前記アルカリセルロースをハロゲン化アルキルと反応させる工程(エーテル化処理)を含む製造方法が挙げられる。より具体的には、例えば、セルロース原料をアルカリセルロースにし、前記アルカリセルロースをハロゲン化メチルと反応させて、メチルセルロースを製造する。その後、塩基性条件下、前記メチルセルロースとハロゲン化オクチルとを反応させてメチルオクチルセルロースを製造する方法が挙げられる。
【0049】
(分散媒)
分散媒は、上記のとおり、少なくとも導電材を分散して、分散液を調製可能にする成分である。分散媒としては、例えば、ペンタン、ノルマルヘキサン、オクタン、シクロペンタン、及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系分散媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びシメン等の芳香族炭化水素系分散媒;フルフラル等のアルデヒド系分散媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、及びシクロヘキサノン等のケトン系分散媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、ブチルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、及びエチレングリコールジアセテート等のエステル系分散媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系分散媒;メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、クレゾール、及びフルフリルアルコール等のアルコール系分散媒;グリセロール、エチレングリコール、及びジエチレングリコール等のポリオール系分散媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコールエーテル系分散媒;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性分散媒;並びに水等が挙げられる。これらの分散媒は、1種を単独で、又は2種以を併せて用いることができる。
【0050】
分散媒としては、メチルオクチルセルロースの溶解性が高い分散媒を用いることが好ましい。例えば、本開示の導電材分散液を含有するリチウムイオン二次電池正極用の電極ペーストを調製し、集電体(アルミニウム箔)に塗布し、その後、電極ペーストから分散媒を蒸発して、乾固させリチウムイオン二次電池正極を作製する際に、分散媒の濃度が低下し、その他の成分が高濃度になる場合においても、導電材を均一に分散させることができる。
【0051】
前記の各種分散媒のうち、非プロトン性極性分散媒が好ましく、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いることがより好ましい。導電材分散液を含有する電極ペーストの調製が容易であり、当該電極ペーストの集電体への塗工性にも優れるためである。
【0052】
導電材分散液における分散媒の含有量は、特に限定されるものでないが、導電材がカーボンブラックの場合、導電材分散液における固形分濃度が5質量%以上になるように含有するのが好ましく、10質量%以上になるように含有するのがより好ましく、13質量%以上になるように含有するのがさらに好ましい。また、導電材がカーボンナノチューブの場合、導電材分散液における固形分濃度が0.2質量%以上になるように含有するのが好ましく、1質量%以上になるように含有するのがより好ましく、3質量%以上になるように含有するのがさらに好ましい。
【0053】
導電材分散液における固形分濃度は、導電材分散液サンプル約1gを170℃で2時間加熱した際の残分に基づいて算出できる。
【0054】
(粘度)
導電材分散液の粘度は、特に限定されるものではないが、大気圧下、25℃において、50mPa・s以上が好ましく、80mPa・s以上がより好ましく、100mPa・s以上がさらに好ましい。また、2000mPa・s以下が好ましく、1800mPa・s以下がより好ましく、1500mPa・s以下がさらに好ましい。導電材分散液を含有する電極ペーストの調製が容易であり、当該電極ペーストの集電体への塗工性にも優れるためである。導電材分散液の粘度が高すぎると、導電材分散液を含有する電極ペーストの集電体への塗工性に劣る場合がある。
【0055】
導電材分散液の粘度は、JIS K7117-1に準拠し、B形粘度計を使用して測定すればよい。
【0056】
(任意成分)
本開示の導電材分散液は、本開示の目的の範囲内で、導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒以外の任意成分を適宜含有してよい。このような任意成分としては、例えば、分散剤;リン化合物;硫黄化合物;有機酸;アミン化合物やアンモニウム化合物などの窒素化合物;有機エステル;並びに、各種シラン系、チタン系及びアルミニウム系のカップリング剤等従来公知の添加剤が挙げられる。任意成分は、1種を単独で又2種以上を併せて用いることができる。
【0057】
分散剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリビニルブチラール、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、各種ゴム、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂(メチルオクチルセルロースを除く)、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、キチン類、キトサン類、及びデンプン等の非イオン性分散剤が挙げられる。
【0058】
分散剤の配合量は、導電材100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましく、0.1~50質量部がより好ましい。
【0059】
リン化合物としては、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリエチル、及び亜リン酸トリフェニル等が挙げられる。
【0060】
硫黄化合物としては、ブタンチオール、n-ヘキサンチオール、硫化ジエチル、及びテトラヒドロチオペン等が挙げられる。
【0061】
有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、アクリル酸、クロトン酸、カプリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、しゅう酸、琥珀酸、アジピン酸、マレイン酸、グルタール酸、安息香酸、2-メチル安息香酸、4-メチル安息香酸及びそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0062】
アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ドコデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、イソオクチルアミン、イソアミルアミン、アリルアミン、シアノエチルアミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、ベンジルアミン、アニシジン、アミノベンゾニトリル、ピペリジン、ピラジン、ピリジン、ピロール、ピロリジン、メトキシアミン、メトキシエチルアミン、メトキシエトキシエチルアミン、メトキシエトキシエトキシエチルアミン、メトキシプロピルアミン、エトキシアミン、n-ブトキシアミン、2-ヘキシルオキシアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、ヒドロキシアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、2-ヒドロキシプロピルアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリトリエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、2-エチルジアミン、2,2-(エチレンジオキシ)ビスエチルアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリ-n-ブチルアミン、アンモニウムヒドロキシド、イミダゾル、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、タウリン、ヒドラジン、ヘキサメチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、及びアジピン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0063】
アンモニウム化合物としては、例えば、2-エチルヘキシルカルバミン酸2-エチルヘキシルアンモニウム、2-エチルヘキシル炭酸2-エチルヘキシルアンモニウム、2-シアノエチルカルバミン酸2-シアノエチルアンモニウム、2-シアノエチル炭酸2-シアノエチルアンモニウム、2-メトキシエチルカルバミン酸2-メトキシエチルアンモニウム、2-メトキシエチル炭酸2-メトキシエチルアンモニウム、n-ブチルカルバミン酸n-ブチルアンモニウム、n-ブチル炭酸n-ブチルアンモニウム、t-ブチルカルバミン酸t-ブチルアンモニウム、t-ブチル炭酸t-ブチルアンモニウム、イソブチルカルバミン酸イソブチルアンモニウム、イソブチル炭酸イソブチルアンモニウム、イソプロピルカルバミン酸イソプロピルアンモニウム、イソプロピルカルバミン酸トリエチレンジアミニウム、イソプロピル炭酸イソプロピルアンモニウム、イソプロピル炭酸トリエチレンジアミニウム、エチルカルバミン酸エチルアンモニウム、エチルヘキシルカルバミン酸ピリジニウム、エチル炭酸エチルアンモニウム、オクタデシルカルバミン酸オクタデシルアンモニウム、オクタデシル炭酸オクタデシルアンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、ジオクタデシルカルバミン酸ジオクタデシルアンモニウム、ジオクタデシル炭酸ジオクタデシルアンモニウム、ジブチルカルバミン酸ジブチルアンモニウム、ジブチル炭酸ジブチルアンモニウム、トリエトキシシリルプロピルカルバミン酸トリエトキシシリルプロピルアンモニウム、トリエトキシシリルプロピル炭酸トリエトキシシリルプロピルアンモニウム、ヘキサメチレンイミンカルバミン酸ヘキサメチレンイミニウム、ヘキサメチレンイミン炭酸ヘキサメチレンイミニウムアンモニウム、ベンジルカルバミン酸ベンジルアンモニウム、ベンジル炭酸ベンジルアンモニウム、メチルデシルカルバミン酸メチルデシルアンモニウム、メチルデシル炭酸メチルデシルアンモニウム、モルホリンカルバミン酸モルホリニウム、モルホリン炭酸モルホリウム、重炭酸2-エチルヘキシルアンモニウム、重炭酸2-シアノエチルアンモニウム、重炭酸2-メトキシエチルアンモニウム、重炭酸t-ブチルアンモニウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸イソプロピルアンモニウム、重炭酸ジオクタデシルアンモニウム、重炭酸トリエチレンジアミニウム、及び重炭酸ピリジニウム等、並びに、これらの誘導体又は混合物等が挙げられる。
【0064】
有機エステルとしては、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸-n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、アクリル酸メチル、しゅう酸ジメチル、琥珀酸ジメチル、クロトン酸メチル、安息香酸メチル、2-メチル安息香酸メチル、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0065】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(β-ヒドロキシエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-クロルプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシシラン)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びγ-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0066】
チタンカップリング剤としては、例えば、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンセンスルフォニルチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0067】
アルミニウム系カップリング剤としては、例えば、各種アルミニウムキレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム・ビスエチルアセテート・ジイソプロピレート、アセトアルコジシアルミニウムジイソプロビレート、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0068】
(導電材分散液の製造)
本開示の導電材分散液の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒を同時又は段階的に配合して、攪拌することにより、製造できる。
【0069】
例えば、導電材、メチルオクチルセルロース及び分散媒を配合した後、ビーズミルやボールミル等の公知の混合装置を用いて攪拌すればよい。このとき、導電材がカーボンブラックの場合には、導電材分散液の粘度が上述の粘度範囲となるまで分散することが好ましい。また、導電材がカーボンナノチューブの場合には、1本ずつ独立するまで分散することが好ましい。
【0070】
[電極ペースト]
本開示の電極ペーストは、本開示の導電材分散液、活物質及びバインダを含有する、リチウムイオン二次電池正極用の電極ペーストである。
【0071】
(導電材分散液)
電極ペーストにおける導電材分散液の含有量は、導電材の含有量が次の範囲になるように調整することが好ましい。導電材がカーボンブラックの場合、活物質100質量部に対して、0.5~15質量部が好ましく、1~9質量部がより好ましい。また、導電材がカーボンナノチューブの場合、活物質100質量部に対して、0.05~15質量部が好ましく、0.2~9質量部がより好ましい。
【0072】
活物質に対する導電材の割合が過度に少ないと、導電性が低くなるため電池特性が低下する場合があり、一方、活物質に対する導電材の割合が過度に多いと、活物質の表面に対する導電材の被覆が過剰となりリチウムイオンの移動を妨げる障壁となって電池特性が低下する場合がある。
【0073】
(活物質)
活物質は、リチウムイオン二次電池正極用の活物質である。活物質としては、従来公知の活物質を用いることができ、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケル酸化物、及びリチウム鉄酸化物等のリチウム遷移金属酸化物;リチウム鉄リン酸;ニッケルマンガンコバルト酸化物;並びに酸化マンガン等が挙げられる。これらの中でも、リチウム遷移金属酸化物が好ましい。また、活物質は、1種を単独で又2種以上を併せて用いることができる。
【0074】
電極ペーストにおける活物質の含有量は、50質量%以上が好ましく、54質量%以上がより好ましい。また、80質量%以下が好ましく、78質量%以下がより好ましい。50質量%未満では、溶媒乾燥時にムラが生じ、塗膜が不均一化する場合があり、一方、80質量%を超過すると、電極スラリーの流動性が著しく低下し、塗工が困難になる場合がある。
【0075】
(バインダ)
バインダとしては、従来公知の活物質を用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF);ポリテトラフルオロエチレン;ポリヘキサフルオロプロピレン;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリメタクリル酸メチル;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;ポリアクリル酸;ポリビニルブチラール;ポリアクリルアミド;ポリウレタン;ポリジメチルシロキサン;エポキシ樹脂;アクリル樹脂;ポリエステル樹脂;メラミン樹脂;フェノール樹脂;スチレンブタジエンゴム等の各種ゴム;リグニン;ペクチン;ゼラチン;キサンタンガム;ウェランガム;サクシノグリカン;ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;セルロース系樹脂;ポリアルキレンオキサイド;ポリビニルエーテル;ポリビニルピロリドン;キチン類;キトサン類;及びデンプン等が挙げられる。バインダは、1種を単独で、又は2種以を併せて用いることができる。
【0076】
電極ペーストにおけるバインダの含有量は、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、また、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。0.3質量%未満では、塗工性が不十分となる場合があり、一方、25質量%を超過すると、電池特性が低下する場合がある。
【0077】
また、バインダの形態は制限されず、例えば、粉末状及び粒状等の固体;溶液及び分散液(ディスパージョン、エマルジョン等)の液体であってよい。
【0078】
(任意成分)
本開示の電極ペーストは、本開示の目的の範囲内で、本開示の導電材分散液、活物質及びバインダ以外の任意成分を必要に応じて適宜含有してよい。このような任意成分としては難燃助剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、及び密着性付与剤等従来公知の添加剤が挙げられる。任意成分は、1種を単独で又2種以上を併せて用いることができる。
【0079】
(電極ペーストの製造)
電極ペーストの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、前記導電材分散液、活物質及びバインダ、並びに必要に応じて分散媒及び各種添加剤を同時又は段階的に配合し、プラネタリーミキサー、ディスパ―、ボールミル、ブレンダーミル等の各種混合機を用いて混合することにより製造することができる。
【0080】
[用途]
本開示の導電材分散液及び電極ペーストは、リチウムイオン二次電池正極用として好適に用いられる。
【実施例0081】
以下、実施例に基づいて本開示を詳述するが、これらの実施例によってその技術的範囲が限定されるものではない。
【0082】
実施例及び比較例における各種の測定は、以下の方法により行った。
<置換度>
アルキル基置換度は、以下の条件にて、1H-NMRにより定量した。
装置:JEOL JNM ECA-500
温度:80℃
溶媒:DMSO
試料濃度:0.8wt%
計算:
・メチルオクチルセルロースの場合
メチル基置換度=35β/(15α-15β-2γ)
オクチル基置換度=7γ/(15α-15β-2γ)
α:5.40~2.70ppmの積分値
β:3.51~3.41、3.32~3.25ppmの積分値
γ:1.65~0.70ppmの積分値
・メチルブチルセルロースの場合
メチル基置換度=49β/3(7α-7β-2γ)
ブチル基置換度=7γ/(7α-7β-2γ)
α:5.40~2.70ppmの積分値
β:3.51~3.41、3.32~3.25ppmの積分値
γ:1.65~0.70ppmの積分値
・メチルヘキシルセルロースの場合
メチル基置換度=77β/3(11α-11β-2γ)
ヘキシル基置換度=7γ/(11α-11β-2γ)
α:5.40~2.70ppmの積分値
β:3.51~3.41、3.32~3.25ppmの積分値
γ:1.65~0.70ppmの積分値
【0083】
<N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶解性>
試料2.5質量部及びNMP47.5質量部を室温(20~25℃)で混合した後の状態、及び100℃で混合した後の状態を目視で観察して以下の基準にて評価した。
◎:室温で容易に完全溶解
〇:100℃に温調することで完全に溶解。
△:100℃に温調しても一部未溶解ゲルが残る。
×:100℃に温調しても膨潤または不溶。
【0084】
<耐溶剤性>
約10ml容スクリュー瓶に試料0.3質量部、及び溶剤としてエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1混合溶剤5.7質量部を添加し、85℃で6時間保持した後の状態を目視で観察して以下の基準にて評価した。
〇:不溶。
△:膨潤またはゲル化。
×:一部溶解または完全に溶解。
【0085】
<分散液粘度、及び分散液貯蔵安定性>
プラスチック製の瓶に、1質量部の試料、13.5質量部の導電材であるデンカブラックLi Li-435、及び85.5質量部のNMPを仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーで上述の粘度(50~2000mPa・s)となるまで分散して分散液を調製した。分散液粘度は、JIS K7117-1に準拠し、大気圧下、25℃において、B形粘度計を用いて測定した。
【0086】
調製直後の分散液粘度は、下記比較例1のメチルセルロースを含有する分散液の粘度の値を100とした時の相対値として算出した。なお、分散液粘度は、数値がより低い方が優れる。
【0087】
また、分散液貯蔵安定性は、1週間、25℃に静置した後の各分散液の粘度を測定し、調製直後の各分散液粘度の値を100とした時の相対値として算出した。なお、分散液貯蔵安定性は、数値が100により近い方が優れる。
【0088】
(実施例1)
スリーワンモーター、還流冷却器、温度計、及び滴下ロートを付した5000mLセパラブルフラスコに、メチルセルロース(富士フイルム和光純薬株式会社製:メチル基置換度1.8)100g、及びイソプロピルアルコール2000mLを添加し、室温で攪拌した。その後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液250gを添加し、さらに1時間攪拌した。ヨウ化オクチル120mLを滴下し、室温でさらに30分攪拌した。その後、70℃で5時間攪拌した後、室温に戻した。白色固体を吸引ろ過によりろ別した後、水で2回洗浄を行った。80℃で12時間加熱乾燥を行い、メチルオクチルセルロース95gを得た。
【0089】
得られたメチルオクチルセルロースの「置換度」、「NMP溶解性」、及び「耐溶剤性」;並びに、当該メチルオクチルセルロースを含有する分散液の「分散液粘度」及び「分散液貯蔵安定性」は、それぞれ上記方法により求めた。結果は表1に示す。
【0090】
(実施例2)
ヨウ化オクチルの添加量を270mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルオクチルセルロース101gを得た。得られたメチルオクチルセルロース、並びに当該メチルオクチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0091】
(実施例3)
ヨウ化オクチルの添加量を510mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルオクチルセルロース111gを得た。得られたメチルオクチルセルロース、並びに当該メチルオクチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0092】
(実施例4)
ヨウ化オクチルの添加量を1160mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルオクチルセルロース150gを得た。得られたメチルオクチルセルロース、並びに当該メチルオクチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0093】
(実施例5)
メチルセルロースとして、下記の調製方法1により得られたメチルセルロース(DS1.0)を用い、ヨウ化オクチルの添加量を440mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルオクチルセルロース92gを得た。得られたメチルオクチルセルロース、並びに当該メチルオクチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0094】
(調製方法1)
3Lの撹拌機付きオートクレーブに解砕パルプ100g、48質量%水酸化ナトリウム水溶液390mlを加え、窒素雰囲気下、45℃で1時間撹拌した(第一工程)。放冷後、ドライアイス/メタノールバスで-40℃に冷却し、さらにトルエン150ml、クロロメタン310g、60℃で1時間、さらに100℃で3時間撹拌した(第二工程)。室温に戻した後、系内の残存ガスを排気し、メタノール12L中へ激しく撹拌しながら投入し、白色固体を得た(第三工程)。白色固体を吸引濾過により濾別し、大量のイソプロピルアルコールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を80℃で15時間真空乾燥することによりメチルセルロース(DS1.0)を白色粉末として得た。
【0095】
(実施例6)
メチルセルロースとして、下記の調製方法2により得られたメチルセルロース(DS0.48)を用い、ヨウ化オクチルの添加量を760mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルオクチルセルロース101gを得た。得られたメチルオクチルセルロース、並びに当該メチルオクチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0096】
(調製方法2)
48%水酸化ナトリウム水溶液を200ml、及びクロロメタンを170gに変更した以外は、調製方法1と同様にして、メチルセルロースを得た。
【0097】
(比較例1)
メチルセルロースとして、メチルセルロース(富士フイルム和光純薬株式会社製:メチル基置換度1.8)を用いた。このメチルセルロース、並びに当該メチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0098】
(比較例2)
ヨウ化オクチルを、ヨウ化ブチル190mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルブチルセルロース95gを得た。得られたメチルブチルセルロース、並びに当該メチルブチルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0099】
(比較例3)
ヨウ化オクチルを、ヨウ化ヘキシル238mlに変更した以外は、実施例1と同様にして、メチルヘキシルセルロース98gを得た。得られたメチルヘキシルセルロース、並びに当該メチルヘキシルセルロースを含有する分散液の各種測定も同様に行った。結果は表1に示す。
【0100】
【0101】
表1に示すように、比較例1、2及び3の「分散液貯蔵安定性」の値は、それぞれ145、247及び267であり、いずれも調製直後の各分散液粘度の値(100)から大きく増加した。これに対し、実施例の「分散液貯蔵安定性」の値は、いずれも比較例1の145よりも5以上低い値であり、粘度の貯蔵安定性に優れる(比較例1の145よりも5以上低い値が有意差となる)。このように、実施例の導電材分散液は、その調製から1週間経過しても、粘度の貯蔵安定性に優れる。
【0102】
実施例の中でも、メチルオクチルセルロースのオクチル基置換度が好適である実施例1、2、3、5は、「分散液貯蔵安定性」の値は、それぞれ93、85、96、及び103と、いずれも調製直後の各分散液粘度の値(100)からほとんど変化がなく、特に粘度の貯蔵安定性に優れる。