IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーエムディ・ミリポア・コーポレイションの特許一覧

特開2024-32973CRISPRタンパク質をコードする合成自己複製RNAベクターおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032973
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】CRISPRタンパク質をコードする合成自己複製RNAベクターおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20240305BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240305BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/09 110
C12N15/31
C12N15/33
C12N15/55
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12N1/19
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014893
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2021567941の分割
【原出願日】2020-05-13
(31)【優先権主張番号】62/847,032
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520054932
【氏名又は名称】イーエムディ・ミリポア・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】EMD Millipore Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 直寿
(57)【要約】
【課題】CRISPRタンパク質の頑強な発現を与え、ゲノム組込みのリスクを回避するCRISPR遺伝子送達系を提供すること。
【解決手段】CRISPRタンパク質をコードする合成された非感染性自己複製RNAベクターを提供する。各自己複製RNAベクターは、アルファウイルス由来の複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列、およびCRISPRタンパク質をコードする配列を含む。合成自己複製RNAベクターを少なくとも1つの対応するガイドRNAとともに細胞に遺伝子導入するゲノム編集のための方法もまた、提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファウイルス由来の複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列およびCRISPRタンパク質をコードする配列を含む、自己複製RNAベクター。
【請求項2】
CRISPRタンパク質が、II型Cas9タンパク質、V型Cas12タンパク質、VI型Cas13タンパク質、CasXタンパク質、またはCasYタンパク質である、請求項1記載の自己複製RNAベクター。
【請求項3】
CRISPRタンパク質が、Streptococcus pyogenes Cas9、Francisella novicida Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、Streptococcus thermophilus Cas9、Streptococcus pasteurianus Cas9、Campylobacter jejuni Cas9、Neisseria meningitis Cas9、Neisseria cinerea Cas9、Francisella novicida Cas12、Acidaminococcus sp. Cas12、Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12、Leptotrichia wadei Cas13a、Leptotrichia shahii Cas13a、Prevotella sp. P5-125 Cas13、またはRuminococcus flavefaciens Cas13dである、請求項1または2に記載の自己複製RNAベクター。
【請求項4】
CRISPRタンパク質が、Streptococcus pyogenes Cas9またはStaphylococcus aureus Cas9である、請求項3記載の自己複製RNAベクター。
【請求項5】
CRISPRタンパク質をコードする配列が、CRISPRタンパク質が触媒活性の変化、標的部位特異性の改善および/またはオフターゲット効果の低下を有するように、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換を含む、請求項1~4のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項6】
CRISPRタンパク質がヌクレアーゼもしくはニッカーゼであるか、または切断活性を持たない、請求項1~5のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項7】
CRISPRタンパク質が少なくとも1つの核局在化シグナルに連結している、請求項1~6のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項8】
CRISPRタンパク質が、少なくとも1つの蛍光タンパク質、少なくとも1つのクロマチン調節モチーフ、少なくとも1つの機能性ドメイン、またはそれらの組合せに連結している、請求項1~7のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項9】
少なくとも1つの機能性ドメインが、エピジェネティック修飾ドメイン、転写活性化ドメイン、または転写抑制ドメインである、請求項8記載の自己複製RNAベクター。
【請求項10】
CRISPRタンパク質をコードする配列が、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1~9のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項11】
アルファウイルスが、アウラウイルス、Babankiウイルス、バーマフォレストウイルス、ベバルウイルス、バギークリークウイルス、チクングニアウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、エバーグレイズ(Everglades)ウイルス、フォートモーガン(Fort Morgan)ウイルス、ゲタウイルス、ハイランドJ(Highlands J)ウイルス、Kyzylagachウイルス、マヤロウイルス、Middelburgウイルス、ムカンボウイルス、Ndumuウイルス、ピクスナウイルス、オニョンニョンウイルス、ロスリバーウイルス、Sagiyamaウイルス、Semliki Forestウイルス、シンドビスウイルス、ウナウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、またはワタロアウイルスである、請求項1~10のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項12】
アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである、請求項11記載の自己複製RNAベクター。
【請求項13】
ベクターが、少なくとも1つの選択可能なマーカーをコードする配列をさらに含む、請求項1~12のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項14】
ベクターが、E3Lタンパク質をコードする配列をさらに含む、請求項1~13のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項15】
ベクターが、改変されたベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスに基づき、5’から3’までに、5’キャップ、5’UTR、VEEウイルス由来の4つの非構造複製複合体タンパク質をコードする複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列、プロモーター、CRISPRタンパク質をコードする配列、任意でIRES、任意でE3Lタンパク質をコードする配列、任意でIRES、任意で選択可能なマーカーをコードする配列、アルファウイルス3’UTR、およびポリAテールを含む、請求項1~14のいずれかに記載の自己複製RNAベクター。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の自己複製RNAベクター、および自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAを含む複合体。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載の自己複製RNAベクターを含む、真核細胞または細胞株。
【請求項18】
自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAをさらに含む、請求項17記載の真核細胞または細胞株。
【請求項19】
請求項1~14のいずれかに特定されている自己複製RNAベクターをコードするプラスミドベクター。
【請求項20】
インビトロでの転写のためのT7またはSP6プロモーターをさらに含む、請求項16記載のプラスミドベクター。
【請求項21】
請求項1~15のいずれかに記載の自己複製RNAベクター、および自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAを真核細胞に導入することを含む、標的ゲノム編集のための方法。
【請求項22】
少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを細胞に導入することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
真核細胞がヒト細胞である、請求項21または22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2019年5月13日が出願日である米国仮特許出願第62/847,032号の優先権の利益を主張し、その内容は全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含み、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。2020年5月13日に作成されたASCIIコピーはP19-084_WO-PCT_SL.txtという名前であり、サイズは77,524バイトである。
【0003】
分野
本開示は、CRISPRタンパク質をコードする合成自己複製RNAベクターに関し、合成自己複製RNAベクターは、ゲノム編集方法のために対応するガイドRNAとともに細胞に遺伝子導入され得る。
【背景技術】
【0004】
ゲノム編集ツールとしてのクラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)およびCRISPR関連(Cas)CRISPR/Casシステムの最近の発展により、真核生物のゲノム改変のための部位特異的エンドヌクレアーゼの設計がかつてないほどに容易かつ単純になった。CRISPRを真核細胞に送達するために、多くの送達系が開発されている。しかし、レンチウイルス、レトロウイルスおよびプラスミドの系は、CRISPRコード配列が宿主細胞ゲノムに組み込まれるリスクを有する。したがって、CRISPRタンパク質の頑強な発現を与え、ゲノム組込みのリスクを回避するCRISPR遺伝子送達系が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の様々な態様において、CRISPRタンパク質をコードする自己複製RNAベクターが提供される。
【0006】
本開示のある態様は、アルファウイルス由来の複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列、およびCRISPRタンパク質をコードする配列を含む自己複製RNAベクターを提供する。CRISPRタンパク質は、II型Cas9タンパク質、V型Cas12タンパク質、VI型Cas13タンパク質、CasXタンパク質またはCasYタンパク質であり得る。ある実施態様において、CRISPRタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9、Francisella novicida Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、Streptococcus thermophilus Cas9、Streptococcus pasteurianus Cas9、Campylobacter jejuni Cas9、Neisseria meningitis Cas9、Neisseria cinerea Cas9、Francisella novicida Cas12、Acidaminococcus sp. Cas12、Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12、Leptotrichia wadei Cas13a、Leptotrichia shahii Cas13a、Prevotella sp. P5-125 Cas13、またはRuminococcus flavefaciens Cas13dであり得る。特定の反復において、CRISPRタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9またはStaphylococcus aureus Cas9である。
【0007】
いくつかの状況において、CRISPRタンパク質をコードする配列は、CRISPRタンパク質が触媒活性の変化、標的部位特異性の改善および/またはオフターゲット効果の低下を有するように、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換を含み得る。CRISPRタンパク質は二本鎖切断活性を有し得、二本鎖配列の一方の鎖を切断し得、またはあらゆる切断活性を持たない場合がある。
【0008】
CRISPRタンパク質はまた、少なくとも1つの異種ドメインに連結してい得る。例えば、CRISPRタンパク質は、少なくとも1つの核局在化シグナルに連結してい得る。CRISPRタンパク質はまた、少なくとも1つの蛍光タンパク質、少なくとも1つのクロマチン調節モチーフ、少なくとも1つのエピジェネティック修飾ドメイン、少なくとも1つの転写制御ドメイン、少なくとも1つのRNAアプタマー結合ドメイン、またはそれらの組合せに連結してい得る。
【0009】
アルファウイルス由来の複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする自己複製RNAベクターの配列は、アウラウイルス、Babankiウイルス、バーマフォレストウイルス、ベバルウイルス、バギークリークウイルス、チクングニアウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、エバーグレイズ(Everglades)ウイルス、フォートモーガン(Fort Morgan)ウイルス、ゲタウイルス、ハイランドJ(Highlands J)ウイルス、Kyzylagachウイルス、マヤロウイルス、Middelburgウイルス、ムカンボウイルス、Ndumuウイルス、ピクスナウイルス、オニョンニョンウイルス、ロスリバーウイルス、Sagiyamaウイルス、Semliki Forestウイルス、シンドビスウイルス、ウナウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、またはワタロアウイルスに由来し得る。これらの様々な配列およびその誘導体は公知であり、科学文献において見出され得、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施態様において、複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列は、ベネズエラウマ脳炎ウイルスに由来する。例えば、Yoshioka et al. (Cell Stem Cell 13, 246-254, August 1, 2013)および/またはPetrakova et al. (J. Virology; vol. 72, no. 12, June 2005, p. 7597-7608)を参照、これらはそれぞれ参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。自己複製RNAベクターは、選択可能なマーカーをコードする配列および/またはインターフェロン応答阻害剤をコードする配列をさらに含み得る。
【0010】
本開示の別の態様は、上述の自己複製RNAベクター、および自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAを含む複合体を提供する。
【0011】
本開示はまた、本明細書に開示されている自己複製RNAベクターを含む真核細胞または細胞株を提供する。
【0012】
本開示のさらなる態様は、自己複製RNAベクターをコードするプラスミドベクターを包含する。
【0013】
本開示のさらなる別の態様は、標的ゲノム編集のための方法を提供する。本方法は、本明細書に開示されている自己複製RNAベクターのうち1つ、および自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAを真核細胞に導入することを含む。
【0014】
本開示の他の態様および反復は、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図を含む。カラーの図を含むこの特許または特許出願の公報の写しは、請求および必要な手数料の納付により官庁によって提供される。
【0016】
図1A図1Aは、Simplicon(商標)クローニングベクターおよび本明細書に記載の各VEE-Cas9 RNAの構造を示す模式図を示す。
【0017】
図1B図1Bは、VEE-Cas9 RNAのアガロースゲル電気泳動を示す。レーン1:RNAマーカー(200~6000塩基);レーン2:eSpCas9 RNA;レーン3:eSp-Cas9-GFP RNA;レーン4:Cas9-GFP RNA。
【0018】
図1C図1Cは、VEE-Cas9を遺伝子導入した細胞におけるGFP(TagGFP2)発現の画像を示す。1日目にVEE-Cas9 RNAおよびB18R-E3L RNAをHFFに共導入し、2日目にGFP発現を蛍光顕微鏡により撮影した。
【0019】
図1D図1Dは、Cas9タンパク質のウエスタンブロットを示す。レーン1:対照;レーン2:eSpCas9;レーン3および4:eSpCas9-GFP2;レーン5および6:Cas9-GFP2。
【0020】
図2A図2Aは、VEE-Cas9-TagGFP2、およびK-Rasを標的とした1種または2種の合成gRNAをHFFに同時または連続的に共導入した後の2日目のGFP発現の画像を示す。
【0021】
図2B図2Bは、VEE-Cas9 RNAおよびgRNAの共導入または連続的な遺伝子導入後のゲノム編集の効率を示す。共導入(同時)のために3日目、連続的な遺伝子導入のために4日目、および6日目(ピューロマイシン選択の完了後)に細胞を回収した。インデルをGuide-iT変異検出キットを用いて検出した。+/-はリゾルバーゼ処理を示す。切断効率(%)をゲルの画像の下に示す。
【0022】
図2C図2Cは、VEE-Cas9-TagGFP2および1種のK-Ras gRNA(25nM)の連続的な遺伝子導入後の2日目のヒトiPSC細胞株のGFP発現の画像を示す。
【0023】
図2D図2Dは、図2Cに示したヒトiPSCにおけるゲノム編集の効率を示す。細胞を5日目(gRNA遺伝子導入の3日後)および7日目(ピューロマイシン選択の完了後)に回収した。インデルをGuide-iT変異検出キットを用いて検出した。+/-はリゾルバーゼ処理を示す。切断効率(%)をゲルの画像の下に示す。
【0024】
図3A図3Aは、VEE-Cas9(S-Cas9)およびB18R-E3L RNAを遺伝子導入し、またはレンチウイルスCas9(LV-Cas9)を感染させ、次いでそれぞれピューロマイシン(0.8μg/mL)またはブラストサイジン(4μg/mL)で7日間選択したHFFにおけるゲノム編集の効率を示す。7日目に細胞を継代し、9日目に1種のK-RasまたはEMX-1 sgRNAを遺伝子導入した。11日目に細胞を回収し、ゲノム編集について解析した。+/-はリゾルバーゼ処理を示す。%は切断効率を示す。
【0025】
図3B図3Bは、Cas9プラスミドおよびK-Ras gRNAプラスミドを共導入したHEK293T細胞、またはVEE-Cas9-TagGFP2 RNA、B18R-E3L RNAおよび1種のK-Ras-gRNAを共導入したHEK293T細胞の4日目のGFP発現のGuavaフローサイトメトリー分析を示す。
【0026】
図3C図3Cは、図3Bに記載の細胞におけるゲノム編集の効率を示す。+/-はリゾルバーゼ処理を示す。%は切断効率を示す。
【0027】
図4A図4Aは、VEE-Cas9-TagGFP2を遺伝子導入した後の1ヶ月間のピューロマイシン選択、および1種のK-Ras sgRNAを共導入した後のゲノム編集によって作製したHFF細胞におけるGuavaフローサイトメトリーで分析したGFP発現を示す。
【0028】
図4B図4Bは、VEE-Cas9-TagGFP2を遺伝子導入した後の1ヶ月間のピューロマイシン選択、および1種のEMX-1 sgRNAを共導入した後のゲノム編集によって作製したHEK293T細胞におけるGuavaフローサイトメトリーで分析したGFP発現を示す。
【0029】
図4C図4Cは、VEE-eSpCas9、VEE-eSpCas9-TagGFP2、またはVEE-Cas9-TagGFP2、および1種のEMX-1 gRNAを連続的に遺伝子導入したHFFにおけるゲノム編集を比較している。5日目に細胞を回収し、ゲノム編集について解析した。
【0030】
図4D図4Dは、VEE-Cas9-TagGFP2またはVEE-eSpCas9-TagGFP2、B18R-E3L RNA、および1種のEMX-1 gRNAを連続的に遺伝子導入したHEK293T細胞におけるゲノム編集を比較している。4日目に細胞を回収し、ゲノム編集について解析した。
【0031】
図5A図5Aは、VEE-Cas9-D10A-TagGFP2およびVEE-Cas9-D10A-TagRFPを遺伝子導入したHEK293T細胞における、それぞれ1日目および3日目のGFPまたはRFP発現の画像を示す。
【0032】
図5B図5Bは、14日目のピューロマイシン選択後のGFPまたはRFP発現の画像を示す。また、GFP発現をGuavaフローサイトメトリーで解析した。
【0033】
図5C図5Cは、1日目にVEE-Cas9-D10A-TagGFP2、VEE-Cas9-D10A-TagRFPまたはVEE-Cas9-TagGFP2、2日目にEMX-1 sgRNA-1、9またはその両方を連続的に遺伝子導入したHEK 293T細胞におけるゲノム編集を比較している。5日目に細胞を回収し、ゲノム編集について解析した。
【0034】
図5D図5Dは、VEE-Cas9-D10A-TagGFP2、VEE-Cas9-D10A-TagRFPまたはVEE-Cas9-TagGFP2を発現するHEK 293T細胞株におけるゲノム編集を比較している。各細胞株に、1日目にEMX-1 sgRNA-1および/または-9を遺伝子導入した。4日目に細胞を回収し、ゲノム編集について解析した。
【0035】
図6A図6Aは、図に示されるプールされたU2OSまたはHEK293T細胞におけるCas9の切断によるRab11-BamHIオリゴの挿入を示す。U2OS細胞またはHEK 293T細胞に、1日目にVEE-Cas9-TagGFP2またはVEE-Cas9-D10A-GFP2、2日目にsgRNAおよびRab11-BamHIオリゴを連続的に遺伝子導入した。5日目に細胞を回収し、BamHIの挿入について解析した。ゲルの画像は、VEE-Cas9-TagGFP2(左)またはVEE-Cas9-D10A-GFP2(右)の切断部位におけるRab-11-BamHIオリゴの挿入によって生じたBamHIの消化を示す。
【0036】
図6B図6Bは、単離されたクローンにおけるCas9の切断部でのRab11-BamHIオリゴの挿入を示す。U2OSまたはヒトiPSCに、1日目にVEE-Cas9-GFP2、2日目にsgRNAおよびRab11-BamHIオリゴを連続的に遺伝子導入した。細胞をピューロマイシンによって選択し、クローンを解析のために単離した。ゲルの画像は、VEE-Cas9-TagGFP2の切断部位におけるRab-11-BamHIオリゴの挿入によって生じたBamHIの消化を示す。
【0037】
図6C図6Cは、Cas9の切断部位におけるGFP断片の挿入を示す。HEK293細胞に、1日目にVEE-Cas9-RFP、2日目にGAPDH位置のsgRNAおよびGFP断片を連続的に遺伝子導入した。5日目にGFP発現を撮影した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示は、ウイルス構造タンパク質をコードする配列が除去され、CRISPRタンパク質をコードする配列に置換されたアルファウイルスに基づく合成された非感染性自己複製RNAベクターを提供する。自己複製RNAベクターは、5’キャップおよびポリ(A)テールを有する細胞性mRNAを模倣した一本鎖RNAである。特定の実施態様において、自己複製RNAベクターはDNA中間体を利用せず、結果としてCRISPR配列のゲノム組込みのリスクがない。自己複製RNAベクターは、複数の細胞世代にわたるCRISPRタンパク質の頑強な発現を可能にする。対応するガイドRNAの細胞への共導入は、標的ゲノム編集を可能にする。CRISPR発現のレベルは、希釈および分解のために時間とともに低下する。本明細書において、自己複製RNAベクターを用いてゲノム編集のためにCRISPRタンパク質を対応するガイドRNAとともに細胞に導入する方法が提供される。
【0039】
(I)CRISPRタンパク質をコードするRNAベクター
本開示のある態様は、CRISPRタンパク質をコードする合成自己複製RNAベクターを提供する。自己複製RNAベクターは、複数の細胞世代にわたるRNAベクターの複製および異種タンパク質配列(例えば少なくとも1つのCRISPRタンパク質)の翻訳を確実にする配列を含む。自己複製RNAベクターは、複数の複製複合体タンパク質をコードするが、ウイルス構造遺伝子が除去され、少なくとも1つのCRISPRタンパク質をコードする配列に置換されている改変されたアルファウイルスに基づく。したがって、細胞への侵入により、RNAはウイルス複製複合体タンパク質およびCRISPRタンパク質の翻訳のための鋳型として機能する。ウイルス複製複合体タンパク質は複製複合体を形成し、細胞の細胞質中でのRNAベクターのさらなる複製を可能にする。複製されたRNAは細胞性DNAと再結合できないため、CRISPR配列が細胞のゲノムに組み込まれるリスクはない。
【0040】
(a)合成自己複製RNA
合成自己複製RNA(またはレプリコン)は、コードされたタンパク質の翻訳およびRNAベクターの複製に必要なすべての配列要素を含む。特にレプリコンは、非構造レプリカーゼ遺伝子が維持され、(感染粒子の作成に必要な)構造遺伝子が除去されている改変されたアルファウイルスに基づく。様々な実施態様において、改変されたアルファウイルスは、アウラウイルス、Babankiウイルス、バーマフォレストウイルス、ベバルウイルス、バギークリークウイルス、チクングニアウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、エバーグレイズウイルス、フォートモーガンウイルス、ゲタウイルス、ハイランドJウイルス、Kyzylagachウイルス、マヤロウイルス、Middelburgウイルス、ムカンボウイルス、Ndumuウイルス、ピクスナウイルス、オニョンニョンウイルス、ロスリバーウイルス、Sagiyamaウイルス、Semliki Forestウイルス、シンドビスウイルス、ウナウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、またはワタロアウイルスに由来し得る。これらの様々な配列およびその誘導体は公知であり、科学文献において見出され得、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施態様において、合成自己複製RNAは、構造遺伝子が除去されている改変されたベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスに基づく。例えば、Yoshioka et al. (Cell Stem Cell 13, 246-254, August 1, 2013)および/またはPetrakova et al. (J. Virology; vol. 72, no. 12, June 2005, p. 7597-7608)を参照、これらはそれぞれ参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0041】
自己複製RNAは、複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列を含む。特定の実施態様において、合成自己複製RNAは、4つの非構造複製複合体タンパク質(すなわち、nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)をコードし得る。非構造複製複合体タンパク質は、単一のオープンリーディングフレーム(ORF)によってコードされ得る。
【0042】
自己複製RNAベクターは、少なくとも1つのCRISPRタンパク質をコードする配列をさらに含み、これは以下のセクション(I)(b)に詳述されている。
【0043】
一般に、自己複製RNAベクターは、5’キャップ、5’末端の5’非翻訳領域(UTR)、ならびに3’末端の3’UTRおよびポリAテールを含む。自己複製RNAベクターは一般に、CRISPRタンパク質をコードする配列の上流にプロモーターを含む。上流のプロモーターは、26Sサブゲノムプロモーターであり得る。
【0044】
いくつかの実施態様において、自己複製RNAベクターは、少なくとも1つの選択可能なマーカーをコードする配列および/またはインターフェロン応答の阻害剤をコードする配列をさらに含み得る。適切な選択可能なマーカーの限定されない例には、ピューロマイシン、ジェネティシン、ネオマイシン、ハイグロマイシンB(hydromycin B)、およびブラストサイジンS(blastidinin S)などが含まれる。適切なインターフェロン応答阻害剤の例には、限定されないが、ワクシニアウイルスタンパク質E3L、ワクシニアウイルスタンパク質B18R、インフルエンザウイルスタンパク質NS1、またはリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス核タンパク質が含まれる。
【0045】
様々なタンパク質コード配列は、内部リボソーム進入配列(IRES)または2Aペプチドをコードする配列によって分離され得る。適切な2Aペプチドの限定されない例には、thosea asignaウイルス2AペプチドまたはT2A、口蹄疫ウイルス2AペプチドまたはF2A、ウマ鼻炎Aウイルス2AペプチドまたはE2A、およびブタテッショウウイルス-1 2AペプチドまたはP2Aが含まれる。
【0046】
特定の実施態様において、自己複製RNAベクターは、改変されたベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスに基づき得、5’から3’までに、5’キャップ、5’UTR、VEE由来の4つの非構造レプリカーゼをコードする配列、プロモーター、CRISPRタンパク質をコードする配列、任意でIRES、任意でE3Lタンパク質をコードする配列、任意でIRES、任意で選択可能なマーカーをコードする配列、アルファウイルス3’UTR、およびポリAテールを含み得る(図1A参照)。
【0047】
(b)CRISPRタンパク質
自己複製RNAベクターはまた、少なくとも1つのCRISPRタンパク質をコードする配列を含む。侵入する核酸に対する適応免疫を与えるCRISPRタンパク質は、様々な細菌および古細菌中に存在する。様々な実施態様において、CRISPRタンパク質は、II型Cas9タンパク質、V型Cas12(以前はCpf1と呼ばれていた)タンパク質、VI型Cas13(以前はC2cdと呼ばれていた)タンパク質、CasXタンパク質またはCasYタンパク質であり得る。
【0048】
CRISPRタンパク質は、Acaryochloris spp.、Acetohalobium spp.、Acidaminococcus spp.、Acidithiobacillus spp.、Acidothermus spp.、Akkermansia spp.、Alicyclobacillus spp.、Allochromatium spp.、Ammonifex spp.、Anabaena spp.、Arthrospira spp.、Bacillus spp.、Bifidobacterium spp.、Burkholderiales spp.、Caldicelulosiruptor spp.、Campylobacter spp.、Candidatus spp.、Clostridium spp.、Corynebacterium spp.、Crocosphaera spp.、Cyanothece spp.、Deltaproteobacterium spp.、Exiguobacterium spp.、Finegoldia spp.、Francisella spp.、Ktedonobacter spp.、Lachnospiraceae spp.、Lactobacillus spp.、Leptotrichia spp.、Lyngbya spp.、Marinobacter spp.、Methanohalobium spp.、Microscilla spp.、Microcoleus spp.、Microcystis spp.、Mycoplasma spp.、Natranaerobius spp.、Neisseria spp.、Nitratifractor spp.、Nitrosococcus spp.、Nocardiopsis spp.、Nodularia spp.、Nostoc spp.、Oenococcus spp.、Oscillatoria spp.、Parasutterella spp.、Pelotomaculum spp.、Petrotoga spp.、Planctomyces spp.、Polaromonas spp.、Prevotella spp.、Pseudoalteromonas spp.、Ralstonia spp.、Ruminococcus spp.、Staphylococcus spp.、Streptococcus spp.、Streptomyces spp.、Streptosporangium spp.、Synechococcus spp.、Thermosipho spp.、Verrucomicrobia spp.、またはWolinella spp由来であり得る。これらの様々なCRISPRタンパク質配列およびその誘導体は公知であり、科学文献において見出され得、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
いくつかの実施態様において、CRISPRタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9、Francisella novicida Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、Streptococcus thermophilus Cas9、Streptococcus pasteurianus Cas9、Campylobacter jejuni Cas9、Neisseria meningitis Cas9、Neisseria cinerea Cas9、Francisella novicida Cas12、Acidaminococcus sp. Cas12、Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12a、Leptotrichia wadeii Cas13a、Leptotrichia shahii Cas13a、Prevotella sp. P5-125 Cas13、Ruminococcus flavefaciens Cas13d、Deltaproteobacterium CasX、Planctomyces CasX、またはCandidatus CasYであり得る。特定の実施態様において、CRISPRタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9またはStaphylococcus aureus Cas9である。
【0050】
CRISPRタンパク質は、野生型または天然に存在するタンパク質であり得る。野生型CRISPRタンパク質は一般に2つのヌクレアーゼドメインを含み(例えばCas9タンパク質はRuvCおよびHNHドメインを含む)、これらはそれぞれ二本鎖配列の一方の鎖を切断する。CRISPRタンパク質はまた、ガイドRNA(例えばREC1、REC2)またはRNA/DNAヘテロ二本鎖(例えばREC3)と相互作用するドメイン、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と相互作用するドメイン(すなわちPAM相互作用ドメイン)を含む。
【0051】
あるいは、CRISPRタンパク質は、活性、特異性および/または安定性が変化するように改変または設計され得る。例えば、CRISPRタンパク質は、1以上の改変/変異(すなわち、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または挿入)を含むように設計され得る。改変されたCRISPRタンパク質は、触媒(ヌクレアーゼ)活性の変化、標的部位特異性の改善、オフターゲット効果の低下、PAM特異性の変化、および安定性の上昇などを有し得る。
【0052】
様々な実施態様において、CRISPRタンパク質は、ヌクレアーゼ(すなわち、二本鎖ヌクレオチド配列の両方の鎖を切断するか、または一本鎖ヌクレオチド配列を切断する)であり得る。他の実施態様において、CRISPRタンパク質は、二本鎖配列の一方の鎖を切断するニッカーゼであり得る。ニッカーゼは、CRISPRタンパク質のヌクレアーゼドメインの1つの不活性化により設計され得る。例えば、Cas9ニッカーゼ(例えばnCas9)を生成するために、Cas9タンパク質のRuvCドメインがD10A、D8A、E762Aおよび/またはD986Aなどの変異によって不活性化され得、またはCas9タンパク質のHNHドメインがH840A、H559A、N854A、N856Aおよび/またはN863Aなどの変異によって不活性化され得る(Streptococcus pyogenes Cas9、SpyCas9のナンバリングシステムを参照)。他のCRISPRタンパク質における同等の変異は、ニッカーゼを生成し得る(例えばnCas12)。両方のヌクレアーゼドメインの不活性化は、切断活性を持たないCRISPRタンパク質(すなわち触媒能のないタンパク質またはヌクレアーゼ不活性型タンパク質、例えばdCas9およびdCas12など)を生成する。
【0053】
CRISPRタンパク質はまた、標的特異性の改善、忠実度の改善、PAM特異性の変化、オフターゲット効果の低下および/または安定性の上昇を有するように1以上のアミノ酸の置換、欠失および/または挿入によって設計され得る。標的特異性を改善し、忠実度を改善し、かつ/またはオフターゲット効果を低下させる1以上の変異の限定されない例には、N497A、R661A、Q695A、K810A、K848A、K855A、Q926A、K1003A、R1060Aおよび/またはD1135Eが含まれる(SpyCas9のナンバリングシステムを参照)。
【0054】
CRISPRタンパク質をコードするRNAベクター配列は、目的の真核細胞中でのタンパク質への効率的な翻訳のためにコドン最適化され得る。コドン最適化プログラムは、フリーウェアとして、または商業的供給源から利用できる。特定の実施態様において、CRISPRタンパク質をコードする配列は、ヒト細胞における効率的な発現のためにコドン最適化され得る。
【0055】
任意の異種ドメイン
いくつかの実施態様において、CRISPRタンパク質は、少なくとも1つの異種ドメインを含むように設計され得る(すなわち、CRISPRタンパク質は、1以上の異種ドメインに連結され得る)。異種ドメインは、核局在化シグナル(NLS)、細胞透過性ドメイン、マーカードメイン(例えば蛍光タンパク質)、クロマチン調節モチーフ、エピジェネティック修飾ドメイン(例えば、デアミナーゼドメインおよびヒストンアセチルトランスフェラーゼドメインなど)、転写制御ドメイン、RNAアプタマー結合ドメイン、または非CRISPRヌクレアーゼドメインであり得る。2以上の異種ドメインがCRISPRタンパク質と融合している場合、2以上の異種ドメインは同じであってもよく、または異なっていてもよい。1以上の異種ドメインは、CRISPRタンパク質にそのN末端、C末端、内部位置またはそれらの組合せにおいて連結され得る。連結は化学結合を介して直接的であり得、または1以上のリンカーを介して間接的であり得る。適切なリンカーは当分野で公知である。ある実施態様において、連結は2Aペプチド配列を介してなされ得る。
【0056】
いくつかの実施態様において、1以上の異種ドメインは、核局在化シグナル(NLS)であり得る。核局在化シグナルの限定されない例には、PKKKRKV(配列番号1)、PKKKRRV(配列番号2)、KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号3)、YGRKKRRQRRR(配列番号4)、RKKRRQRRR(配列番号5)、PAAKRVKLD(配列番号6)、RQRRNELKRSP(配列番号7)、VSRKRPRP(配列番号8)、PPKKARED(配列番号9)、PQPKKKPL(配列番号10)、SALIKKKKKMAP(配列番号11)、PKQKKRK(配列番号12)、RKLKKKIKKL(配列番号13)、REKKKFLKRR(配列番号14)、KRKGDEVDGVDEVAKKKSKK(配列番号15)、RKCLQAGMNLEARKTKK(配列番号16)、NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGY(配列番号17)、およびRMRIZFKNKGKDTAELRRRRVEVSVELRKAKKDEQILKRRNV(配列番号18)が含まれる。
【0057】
他の実施態様において、1以上の異種ドメインは、細胞透過性ドメインであり得る。適切な細胞透過性ドメインの例には、限定されないが、GRKKRRQRRRPPQPKKKRKV(配列番号19)、PLSSIFSRIGDPPKKKRKV(配列番号20)、GALFLGWLGAAGSTMGAPKKKRKV(配列番号21)、GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV(配列番号22)、KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号23)、YARAAARQARA(配列番号24)、THRLPRRRRRR(配列番号25)、GGRRARRRRRR(配列番号26)、RRQRRTSKLMKR(配列番号27)、GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号28)、KALAWEAKLAKALAKALAKHLAKALAKALKCEA(配列番号29)、およびRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号30)が含まれる。
【0058】
代替の実施態様において、1以上の異種ドメインはマーカードメインであり得る。マーカードメインは蛍光タンパク質および精製タグまたはエピトープタグを含む。適切な蛍光タンパク質には限定されないが、緑色蛍光タンパク質(例えばGFP、eGFP、GFP-2、tagGFP、turboGFP、Emerald、アザミグリーン、単量体アザミグリーン、CopGFP、AceGFP、ZsGreen1)、黄色蛍光タンパク質(例えばYFP、EYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFP、ZsYellow1)、青色蛍光タンパク質(例えばBFP、EBFP、EBFP2、Azurite、mKalama1、GFPuv、Sapphire、T-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、ECFP、Cerulean、CyPet、AmCyan1、Midoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(例えばmKate、mKate2、mPlum、DsRed monomer、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-Monomer、HcRed-Tandem、HcRed1、AsRed2、eqFP611、mRasberry、mStrawberry、Jred)およびオレンジ蛍光タンパク質(例えばmOrange、mKO、Kusabira-Orange、単量体Kusabira-Orange、mTangerine、tdTomato)またはこれらの組合せが含まれる。蛍光タンパク質は、1以上の蛍光タンパク質の縦列反復(例えばSuntag)を含み得る。適切な精製タグまたはエピトープタグの限定されない例には、6xHis(配列番号40)、FLAG(登録商標)、HA、GST、MycおよびSAMなどが含まれる。CRISPR複合体の検出または濃縮を容易にする異種融合物の限定されない例には、ストレプトアビジン(Kipriyanov et al., Human Antibodies, 1995, 6(3):93-101.)、アビジン(Airenne et al., Biomolecular Engineering, 1999, 16(1-4):87-92)、単量体型のアビジン(Laitinen et al., Journal of Biological Chemistry, 2003, 278(6):4010-4014)、組換え体産生時にビオチン化を促進するペプチドタグ(Cull et al., Methods in Enzymology, 2000, 326:430-440)が含まれる。
【0059】
さらなる他の実施態様において、1以上の異種ドメインは、クロマチン調節モチーフ(CMM)であり得る。CMMの限定されない例には、高移動度群(HMG)タンパク質(例えば、HMGB1、HMGB2、HMGB3、HMGN1、HMGN2、HMGN3a、HMGN3b、HMGN4およびHMGN5タンパク質)に由来するヌクレオソーム相互作用ペプチド、ヒストンH1バリアント(例えば、ヒストンH1.0、H1.1、H1.2、H1.3、H1.4、H1.5、H1.6、H1.7、H1.8、H1.9およびH.1.10)の中央球状ドメイン(central globular domain)、またはクロマチンリモデリング複合体(例えば、米国特許出願第16/031,819号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)に記載される、SWI/SNF(SWItch/Sucrose Non-Fermentable)、ISWI(Imitation SWItch)、CHD(Chromodomain-Helicase-DNA binding)、Mi-2/NuRD(Nucleosome Remodeling and Deacetylase)、INO80、SWR1、およびRSC複合体)のDNA結合ドメインが含まれる。適切なCMMはまた、トポイソメラーゼ、ヘリカーゼまたはウイルスタンパク質に由来し得る。CMMの供給源は様々であり得る。CMMは、ヒト、動物(すなわち脊椎動物および無脊椎動物)、植物、藻類または酵母由来であり得る。
【0060】
さらなる他の実施態様において、1以上の異種ドメインは、エピジェネティック修飾ドメインであり得る。適切なエピジェネティック修飾ドメインの限定されない例には、DNA脱アミノ化(例えば、シチジンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、グアニンデアミナーゼ)、DNAメチルトランスフェラーゼ活性(例えばシトシンメチルトランスフェラーゼ)、DNAデメチラーゼ活性、DNAアミノ化、DNA酸化活性、DNAヘリカーゼ活性、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性(例えば、E1A結合タンパク質p300由来のHATドメイン)、ヒストンデアセチラーゼ活性、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性、ヒストンデメチラーゼ活性、ヒストンキナーゼ活性、ヒストンホスファターゼ活性、ヒストンユビキチンリガーゼ活性、ヒストン脱ユビキチン化活性、ヒストンアデニル化活性、ヒストン脱アデニル化活性、ヒストンSUMO化活性、ヒストン脱SUMO化活性、ヒストンリボシル化活性、ヒストン脱リボシル化(deribosylation)活性、ヒストンミリストイル化活性、ヒストン脱ミリストイル化(demyristoylation)活性、ヒストンシトルリン化活性、ヒストンアルキル化活性、ヒストン脱アルキル化活性、またはヒストン酸化活性を有するエピジェネティック修飾ドメインが含まれる。特定の実施態様において、エピジェネティック修飾ドメインは、シチジンデアミナーゼ活性、アデノシンデアミナーゼ活性、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性、またはDNAメチルトランスフェラーゼ活性を含み得る。
【0061】
他の実施態様において、1以上の異種ドメインは、転写制御ドメイン(すなわち、転写活性化ドメインまたは転写抑制ドメイン)であり得る。適切な転写活性化ドメインには、限定されないが、単純ヘルペスウイルスVP16ドメイン、VP64(すなわち、VP16の4つのタンデムコピー)、VP160(すなわち、VP16の10個のタンデムコピー)、NFκB p65活性化ドメイン(p65)、エプスタイン・バーウイルスRトランス活性化因子(Rta)ドメイン、VPR(すなわち、VP64+p65+Rta)、p300依存性転写活性化ドメイン、p53活性化ドメイン1および2、熱ショック因子1(HSF1)活性化ドメイン、Smad4活性化ドメイン(SAD)、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)活性化ドメイン、E2A活性化ドメイン、活性化T細胞核内因子(NFAT)活性化ドメイン、またはこれらの組合せが含まれる。適切な転写抑制ドメインの限定されない例には、Kruppel関連ボックス(KRAB)抑制ドメイン、Mxi抑制ドメイン、誘導性cAMP初期抑制因子(inducible cAMP early repressor)(ICER)ドメイン、YY1グリシンリッチ抑制ドメイン、Sp1様抑制因子、E(spl)抑制因子、IκB抑制因子、Sin3抑制因子、メチル化CpG結合タンパク質2(MeCP2)抑制因子、またはこれらの組合せが含まれる。転写活性化ドメインまたは転写抑制ドメインは、Cas9タンパク質に遺伝的に融合され得るか、または非共有結合性のタンパク質-タンパク質、タンパク質-RNA、またはタンパク質-DNA相互作用を介して結合され得る。
【0062】
さらなる実施態様において、1以上の異種ドメインは、RNAアプタマー結合ドメインであり得る(Konermann et al., Nature, 2015, 517(7536):583-588; Zalatan et al., Cell, 2015, 160(1-2):339-50)。適切なRNAアプタマータンパク質ドメインの例には、MS2コートタンパク質(MCP)、PP7バクテリオファージコートタンパク質(PCP)、MuバクテリオファージComタンパク質、ラムダバクテリオファージN22タンパク質、ステムループ結合タンパク質(SLBP)、脆弱X精神遅滞症候群関連タンパク質1(FXR1)、バクテリオファージ(AP205、BZ13、f1、f2、fd、fr、ID2、JP34/GA、JP501、JP34、JP500、KU1、M11、M12、MX1、NL95、PP7、φCb5、φCb8r、φCb12r、φCb23r、Qβ、R17、SP-β、TW18、TW19、およびVKなど)に由来するタンパク質、それらの断片、またはそれらの誘導体が含まれる。
【0063】
さらなる他の実施態様において、1以上の異種ドメインは非CRISPRヌクレアーゼドメインであり得る。適切なヌクレアーゼドメインは、あらゆるエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから取得され得る。ヌクレアーゼドメインが由来し得るエンドヌクレアーゼの限定されない例は、限定されないが、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼを含む。いくつかの実施態様において、ヌクレアーゼドメインはII-S型制限エンドヌクレアーゼに由来し得る。II-S型エンドヌクレアーゼは通常、認識/結合部位から数塩基対離れた部位でDNAを切断し、そのようなものとして、分離可能な結合および切断ドメインを有する。これらの酵素は一般に、一時的に会合して二量体を形成し、DNAの各鎖をねじれた位置で切断する単量体である。適切なII-S型エンドヌクレアーゼの限定されない例には、BfiI、BpmI、BsaI、BsgI、BsmBI、BsmI、BspMI、FokI、MboIIおよびSapIが含まれる。いくつかの実施態様において、ヌクレアーゼドメインはFokIヌクレアーゼドメインまたはその誘導体であり得る。II-S型ヌクレアーゼドメインは2つの異なるヌクレアーゼドメインの二量体化を促進するように改変され得る。例えば、FokIの切断ドメインは特定のアミノ酸残基を変異させることによって改変され得る。限定されない例として、FokIヌクレアーゼドメインの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537および538位のアミノ酸残基が改変のための標的である。特定の実施態様において、FokIヌクレアーゼドメインは、Q486E、I499Lおよび/またはN496D変異を含む第1のFokIハーフドメイン、ならびにE490K、I538Kおよび/またはH537R変異を含む第2のFokIハーフドメインを含み得る。
【0064】
(II)自己複製RNAベクターおよびガイドRNAを含む複合体
本開示の別の態様は、セクション(I)に上述されている自己複製RNAベクターのいずれかおよび少なくとも1つのガイドRNAを含む複合体を包含し、ここでガイドRNAは自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計される。
【0065】
ガイドRNAはCRISPRタンパク質および目的の核酸における標的配列と相互作用し、CRISPRタンパク質を標的配列に誘導する。標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接していることを除いて配列の制限を有しない。CRISPRタンパク質は、種々のPAM配列を認識し得る。例えば、Cas9タンパク質のPAM配列には、5’-NGG、5’-NGGNG、5’-NNAGAAW、5’-NNNNGATT、および5-NNNNRYACが含まれ、Cas12タンパク質のPAM配列には、5’-TTNおよび5’-TTTVが含まれ、ここでNは任意のヌクレオチドとして定義され、RはGまたはAのいずれかとして定義され、WはAまたはTのいずれかとして定義され、YはCまたはTのいずれかとして定義され、VはA、CまたはGとして定義される。一般に、Cas9 PAMは標的配列の3’に位置し、Cas12 PAMは標的配列の5’に位置する。
【0066】
ガイドRNAは、特定のCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計される。一般に、ガイドRNAは、(i)標的配列とハイブリダイズするガイド配列を5’末端に含むCRISPR RNA(crRNA)、および(ii)CRISPRタンパク質と相互作用するトランス作用crRNA(tracrRNA)配列を含む。各ガイドRNAのcrRNAガイド配列は異なっている(すなわち配列特異的である)。tracrRNA配列は、特定のCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計されたガイドRNAにおいて一般に同一である。
【0067】
crRNAガイド配列は、目的の配列における標的配列(すなわちプロトスペーサー)とハイブリダイズするように設計される。一般に、crRNAと標的配列との間の相補性は、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%である。特定の実施態様において、相補性は完全(すなわち100%)である。様々な実施態様において、crRNAガイド配列の長さは、約15ヌクレオチド~約25ヌクレオチドの範囲であり得る。例えば、crRNAガイド配列は、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25ヌクレオチド長であり得る。特定の実施態様において、crRNAは、約19、20または21ヌクレオチド長である。ある実施態様において、crRNAガイド配列は、20ヌクレオチドの長さを有する。
【0068】
ガイドRNAは、CRISPRタンパク質と相互作用する少なくとも1つのステムループ構造を形成する反復配列、および一般に一本鎖のままである3’配列を含む。各ループおよびステムの長さは様々であり得る。例えば、ループは約3~約10ヌクレオチド長の範囲であり得、ステムは約6~約20塩基対長の範囲であり得る。ステムは、1~約10ヌクレオチドの1以上のバルジを含み得る。一本鎖の3’領域の長さは様々であり得る。ガイドRNAにおけるtracrRNA配列は一般に、野生型CRISPRタンパク質と相互作用する野生型tracrRNAの配列に基づく。野生型配列は、二次構造の形成を促進すること、二次構造の安定性を上昇させること、および真核細胞における発現を促進することなどのために改変され得る。例えば、1以上のヌクレオチドの変更がガイドRNAコード配列に導入され得る。tracrRNA配列は、約50ヌクレオチド~約300ヌクレオチドの長さの範囲であり得る。様々な実施態様において、tracrRNAは、約50~約90ヌクレオチド、約90~約110ヌクレオチド、約110~約130ヌクレオチド、約130~約150ヌクレオチド、約150~約170ヌクレオチド、約170~約200ヌクレオチド、約200~約250ヌクレオチド、または約250~約300ヌクレオチドの長さの範囲であり得る。
【0069】
いくつかの実施態様において、ガイドRNAは単一分子(例えば、単一のガイドRNA(sgRNA)または1種のsgRNA)であり得、crRNA配列はtracrRNA配列に連結されている。いくつかの実施態様において、ガイドRNAは、2つの別個の分子(例えば2種のgRNA)であり得る。第1の分子は第2の分子の5’末端と塩基対形成できる3’配列(約6~約20ヌクレオチドを含む)を含むcrRNAを含み、第2の分子は第1の分子の3’末端と塩基対形成できる5’配列(約6~約20ヌクレオチドを含む)を含むtracrRNAを含む。
【0070】
いくつかの実施態様において、ガイドRNAのtracrRNA配列は、1以上のアプタマー配列を含むように改変され得る(Konermann et al., Nature, 2015, 517(7536):583-588; Zalatan et al., Cell, 2015, 160(1-2):339-50)。適切なアプタマー配列には、MCP、PCP、Com、SLBP、FXR1、AP205、BZ13、f1、f2、fd、fr、ID2、JP34/GA、JP501、JP34、JP500、KU1、M11、M12、MX1、NL95、PP7、φCb5、φCb8r、φCb12r、φCb23r、Qβ、R17、SP-β、TW18、TW19、VK、それらの断片、またはそれらの誘導体から選択されるアプタマータンパク質に結合するアプタマー配列が含まれる。当業者は、アプタマー配列の長さが様々であり得ることを認識している。
【0071】
他の実施態様において、ガイドRNAは、少なくとも1つの検出可能な標識をさらに含み得る。検出可能な標識は、フルオロフォア(例えばFAM、TMR、Cy3、Cy5、テキサスレッド、Oregon Green、Alexa Fluor、Halo tagまたは適切な蛍光色素)、検出タグ(例えばビオチンおよびジゴキシゲニンなど)、量子ドットまたは金粒子であり得る。
【0072】
ガイドRNAは、標準的なリボヌクレオチドおよび/または改変されたリボヌクレオチドを含み得る。いくつかの実施態様において、ガイドRNAは、標準的なデオキシリボヌクレオチドまたは改変されたデオキシリボヌクレオチドを含み得る。ガイドRNAが酵素的に(すなわちインビボまたはインビトロで)合成されるある実施態様において、ガイドRNAは一般に標準的なリボヌクレオチドを含む。ガイドRNAが化学的に合成されるある実施態様において、ガイドRNAは、標準的または改変されたリボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドを含み得る。改変されたリボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドは、塩基修飾(例えば、プソイドウリジン、2-チオウリジンおよびN6-メチルアデノシンなど)および/または糖修飾(例えば、2’-O-メチ、2’-フルオロ、2’-アミノ、およびロックド核酸(LNA)など)を含む。ガイドRNAの骨格はまた、ホスホロチオエート結合、ボラノリン酸結合、またはペプチド核酸を含むように改変され得る。
【0073】
(III)真核細胞
本開示の別の態様は、セクション(I)に上述されている自己複製RNAベクターのいずれか1つを含む真核細胞または細胞株を含む。すなわち、真核細胞または細胞株は、自己複製RNAベクターのうち1つを遺伝子導入されている。いくつかの実施態様において、真核細胞または細胞株は、RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAをさらに含み得る。
【0074】
真核細胞または細胞株は、ヒト細胞、非ヒト哺乳類細胞、非哺乳類脊椎動物細胞、無脊椎動物細胞、植物細胞、または単細胞真核生物であり得る。適切な真核細胞の例は、以下のセクション(V)(c)に詳述されている。真核細胞は、インビトロ、エクスビボまたはインビボであり得る。
【0075】
(IV)自己複製RNAをコードするプラスミドベクター
本開示のさらなる態様は、セクション(I)に上述されている自己複製RNAをコードするプラスミドベクターを提供する。特に、プラスミドベクターは、アルファウイルス由来の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列、CRISPRタンパク質をコードする配列、ならびに追加のウイルス配列(5’UTR、サブゲノムプロモーターおよび3’UTRなど)、任意で選択可能なマーカー配列、任意でインターフェロン阻害剤配列、任意でIRESなどを含む。
【0076】
一般に、自己複製RNAをコードするプラスミドベクターは、DNAベクターである。自己複製RNAをコードする配列は、インビトロでのRNA合成のためにファージRNAポリメラーゼによって認識されるプロモーター配列に動作可能に連結されてい得る。例えば、プロモーター配列は、T7、T3もしくはSP6プロモーター配列、またはT7、T3もしくはSP6プロモーター配列の変種であり得る。プロモーター配列は野生型であり得、またはより効率的もしくは効果的な発現のために改変されてい得る。プラスミドベクターは、少なくとも1つの転写終結配列、ならびに細菌細胞における増殖のための少なくとも1つの複製起点および/または選択可能なマーカー配列(例えば抗生物質耐性遺伝子)をさらに含み得る。プラスミドベクターは、pUC、pBR322、pET、pBluescript、またはそれらのバリアントに由来し得る。ベクターおよびその使用に関するさらなる情報が、"Current Protocols in Molecular Biology" Ausubel et al., John Wiley & Sons, New York, 2003または"Molecular Cloning: A Laboratory Manual" Sambrook & Russell, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 3rd edition, 2001に見出され得る。
【0077】
自己複製RNAのインビトロでの合成に際し、標準的な手順または市販のキットを用いてRNAが精製され得、5’キャッピングされ得、ポリアデニル化され得る。
【0078】
(V)ゲノム編集のための方法
本開示のさらなる態様は、真核細胞におけるゲノム編集のための方法を包含する。一般に、本方法は、セクション(I)に上述されている自己複製RNAベクターのいずれか1つ、およびRNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAを、目的の真核細胞に導入することを含む。本方法はまた、上記のセクション(II)において特定されている複合体を真核生物に導入することを含み得る。CRISPRシステムは、CRISPRタンパク質およびガイドRNAを含む。
【0079】
CRISPRタンパク質がヌクレアーゼ活性またはニッカーゼ活性を含むある実施態様において、ゲノム編集は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、および/または少なくとも1つのヌクレオチドの挿入を含み得る。いくつかの反復において、本方法は、CRISPRシステムが目的の配列の標的部位に二本鎖切断を導入し、細胞のDNA修復プロセスによる二本鎖切断の修復が少なくとも1つのヌクレオチド変化(すなわちインデル)を導入することによって配列を不活性化する(すなわち遺伝子ノックアウト)ように、ヌクレアーゼ活性を含む1つのCRISPRシステムまたはニッカーゼ活性を含む2つのCRISPRシステムを真核細胞に導入し、ドナーポリヌクレオチドを導入しないことを含む。他の反復において、本方法は、CRISPRシステムが目的の配列の標的部位に二本鎖切断を導入し、細胞のDNA修復プロセスによる二本鎖切断の修復によりドナーポリヌクレオチドにおける配列が目的の配列の標的部位において挿入または交換されるように(すなわち遺伝子修正または遺伝子ノックイン)、ヌクレアーゼ活性を含むCRISPRシステムまたはニッカーゼ活性を含む2つのCRISPRシステムならびにドナーポリヌクレオチドを真核細胞に導入することを含む。
【0080】
CRISPRタンパク質がエピジェネティック修飾活性または転写制御活性を含むある実施態様において、ゲノム編集は、標的部位またはその付近の少なくとも1つのヌクレオチドの変換(すなわち塩基編集)、標的部位またはその付近の少なくとも1つのヌクレオチドの修飾、標的部位またはその付近の少なくとも1つのヒストンタンパク質の修飾、および/または染色体配列における標的部位またはその付近の転写の変化を含み得る。
【0081】
(a)細胞への導入
上述のように、本方法は、セクション(I)において上述されている少なくとも1つの自己複製RNAベクター、RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNA、および任意でドナーポリヌクレオチドを真核細胞に導入することを含む。これらの分子は、多様な手段によって目的の細胞に導入され得る。
【0082】
例えば、自己複製RNAベクター、ガイドRNAおよび任意のドナーポリヌクレオチドは、目的の細胞に遺伝子導入され得る。適切な遺伝子導入方法には、ヌクレオフェクション(nucleofection)(またはエレクトロポレーション)、リン酸カルシウム介在性遺伝子導入、カチオン性ポリマー遺伝子導入(例えば、DEAE-デキストランまたはポリエチレンイミン)、ウイルス形質導入、ビロソーム遺伝子導入、ビリオン遺伝子導入、リポソーム遺伝子導入、カチオン性リポソーム遺伝子導入、免疫リポソーム遺伝子導入、非リポソーム脂質遺伝子導入、デンドリマー遺伝子導入、熱ショック遺伝子導入、マグネトフェクション、リポフェクション、遺伝子銃送達、インペールフェクション(impalefection)、ソノポレーション、光学遺伝子導入、および専売薬によって増強される核酸の取り込みが含まれる。遺伝子導入方法は当分野で周知である(例えば、"Current Protocols in Molecular Biology" Ausubel et al., John Wiley & Sons, New York, 2003または"Molecular Cloning: A Laboratory Manual" Sambrook & Russell, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 3rd edition, 2001参照)。他の実施態様において、分子はマイクロインジェクション法によって細胞に導入され得る。例えば、分子は目的の細胞の細胞質または核に注入され得る。細胞に導入された各分子の量は様々であり得るが、当業者は適切な量を決定する手段に精通している。
【0083】
様々な分子が細胞に同時または連続的に導入され得る。例えば、自己複製RNAベクターおよびガイドRNAは同時に導入され得る。あるいは、一方が最初に細胞に導入され得、他方がその後に導入され得る。
【0084】
一般に、細胞は細胞増殖および/または維持に適した条件下で維持される。適切な細胞培養条件は当分野で周知であり、例えば、Santiago et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2008, 105:5809-5814; Moehle et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2007, 104:3055-3060; Urnov et al., Nature, 2005, 435:646-651;およびLombardo et al., Nat. Biotechnol., 2007, 25:1298-1306に記載されている。当業者は、細胞を培養する方法が当分野で公知であり、細胞種に依存して様々であり得ることを認識している。あらゆる場合において、特定の細胞種のための最良の技術を決定するために通常の最適化が用いられ得る。
【0085】
(b)任意のドナーポリヌクレオチド
CRISPRタンパク質がヌクレアーゼ活性またはニッカーゼ活性を含むある実施態様において、本方法はさらに、少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを細胞に導入することを含み得る。ドナーポリヌクレオチドは一本鎖もしくは二本鎖であり得、直鎖状もしくは環状であり得、かつ/またはRNAもしくはDNAであり得る。いくつかの実施態様において、ドナーポリヌクレオチドはベクター(例えばプラスミドベクター)であり得る。
【0086】
ドナーポリヌクレオチドは少なくとも1つのドナー配列を含む。いくつかの態様において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、内在性または天然染色体配列の改変されたバージョンであり得る。例えば、ドナー配列は、CRISPRシステムによって標的とされた配列またはその付近における染色体配列の一部と本質的に同一であり得るが、少なくとも1つのヌクレオチド交換を含む。したがって、天然配列への組込みまたは天然配列との交換により、標的染色体位置における配列は少なくとも1つのヌクレオチド交換を含む。例えば、この交換は、1以上のヌクレオチドの挿入、1以上のヌクレオチドの欠失、1以上のヌクレオチドの置換、またはそれらの組合せであり得る。改変された配列の「遺伝子修正」の組込みの結果として、細胞は標的染色体配列から改変された遺伝子産物を産生し得る。
【0087】
他の態様において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は外来性配列であり得る。本明細書において、「外来性」配列は、細胞に対して天然でない配列、または細胞のゲノムにおけるその配列の天然の位置が異なった位置にある配列を指す。例えば、外来性配列はタンパク質をコードする配列を含み得、これはゲノムへの組込みにより細胞が組み込まれた配列によってコードされたタンパク質を発現できるように、外来性プロモーター制御配列に動作可能に連結され得る。あるいは、外来性配列は、その発現が内在性プロモーター制御配列によって調節されるように染色体配列に組み込まれ得る。他の反復において、外来性配列は、転写制御配列、別の発現制御配列およびRNAをコードする配列などであり得る。上述のように、外来性配列の染色体配列への組み込みは「ノックイン」と呼ばれる。
【0088】
当業者に認識され得るように、ドナー配列の長さは様々であり得る。例えば、ドナー配列は、数ヌクレオチドから数百ヌクレオチド、数百ヌクレオチドから数十万ヌクレオチドまでの長さにおいて様々であり得る。
【0089】
通常、ドナーポリヌクレオチドにおけるドナー配列は上流配列および下流配列に隣接しており、これらの配列はCRISPRシステムによって標的とされる配列のそれぞれ上流および下流に位置する配列と実質的な配列同一性を有する。これらの配列類似性のために、ドナーポリヌクレオチドの上流配列および下流配列は、ドナー配列が染色体配列に組み込まれ得る(または、染色体配列と交換され得る)ように、ドナーポリヌクレオチドと標的染色体配列との間の相同組換えを可能にする。
【0090】
本明細書において、上流配列は、CRISPRシステムによって標的とされる配列の上流の染色体配列と実質的な配列同一性を有する核酸配列を指す。同様に、下流配列は、CRISPRシステムによって標的とされる配列の下流の染色体配列と実質的な配列同一性を有する核酸配列を指す。本明細書において、語句「実質的な配列同一性」は、少なくとも約75%の配列同一性を有する配列を指す。したがって、ドナーポリヌクレオチドにおける上流配列および下流配列は、標的配列の上流の配列または下流の配列との約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。例示的な実施態様において、ドナーポリヌクレオチドにおける上流配列および下流配列は、CRISPRシステムによって標的とされる配列の上流または下流の染色体配列との約95%または100%の配列同一性を有し得る。
【0091】
いくつかの実施態様において、上流配列は、CRISPRシステムによって標的とされる配列のすぐ上流に位置する染色体配列との実質的な配列同一性を有する。他の実施態様において、上流配列は、標的配列から約百(100)ヌクレオチド以内の上流に位置する染色体配列との実質的な配列同一性を有する。したがって、例えば、上流配列は、標的配列から約1~約20、約21~約40、約41~約60、約61~約80、または約81~約100ヌクレオチド上流に位置する染色体配列との実質的な配列同一性を有し得る。いくつかの実施態様において、下流配列は、CRISPRシステムによって標的とされる配列のすぐ下流に位置する染色体配列との実質的な配列同一性を有する。他の実施態様において、下流配列は、標的配列から約百(100)ヌクレオチド以内の下流に位置する染色体配列との実質的な配列同一性を有する。したがって、例えば、下流配列は、標的配列から約1~約20、約21~約40、約41~約60、約61~約80、または約81~約100ヌクレオチド下流に位置する染色体配列との実質的な配列同一性を有し得る。
【0092】
各上流配列または下流配列は、約20ヌクレオチド~約5000ヌクレオチド長であり得る。いくつかの実施態様において、上流配列および下流配列は、約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、4000、4200、4400、4600、4800、または5000ヌクレオチドを含み得る。具体的な実施態様において、上流配列および下流配列は約50~約1500ヌクレオチド長であり得る。
【0093】
(c)細胞種
多様な真核細胞が本明細書で開示される方法における使用に適している。例えば、細胞は、ヒト細胞、非ヒト哺乳類細胞、非哺乳類脊椎動物細胞、無脊椎動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞または単細胞真核生物であり得る。いくつかの実施態様において、細胞は、特定の組織から直接単離された初代細胞であり得る。他の実施態様において、細胞は、細胞株細胞であり得る。さらなる他の実施態様において、細胞は1つの細胞胚であり得る。例えば、非ヒト哺乳類胚は、ラット、ハムスター、げっ歯類、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマおよび霊長類胚を含む。さらなる他の実施態様において、細胞は幹細胞(胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎生幹細胞、成体幹細胞、および人工多能性幹細胞など)であり得る。ある実施態様において、幹細胞はヒト胚性幹細胞ではない。さらに、幹細胞は、WO2003/046141(これはその全体が本明細書に組み込まれる)またはChung et al. (Cell Stem Cell, 2008, 2:113-117)に開示される技術によって作製された幹細胞を含み得る。様々な実施態様において、細胞はインビトロ(例えば培養物中)、エクスビボ(すなわち生体から単離された組織内)またはインビボ(すなわち生体内)であり得る。例示的な実施態様において、細胞は哺乳類細胞または哺乳類細胞株である。特定の実施態様において、細胞はヒト細胞またはヒト細胞株である。
【0094】
適切な哺乳類細胞または細胞株の限定されない例には、ヒト胚性腎細胞(HEK293、HEK293T);ヒト子宮頸がん細胞(HELA);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);ヒトU2-OS骨肉腫細胞、ヒトA549細胞、ヒトA-431細胞およびヒトK562細胞;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞;マウス骨髄腫NS0細胞、ヒト初代線維芽細胞、ヒト包皮線維芽細胞、マウス胚性線維芽3T3細胞(NIH3T3)、マウスBリンパ腫A20細胞;マウス黒色腫B16細胞;マウス筋芽C2C12細胞;マウス骨髄腫SP2/0細胞;マウス胚性間葉C3H-10T1/2細胞;マウスがんCT26細胞、マウス前立腺DuCuP細胞;マウス乳腺EMT6細胞;マウス肝がんHepa1c1c7細胞;マウス骨髄腫J5582細胞;マウス上皮MTD-1A細胞;マウス心筋MyEnd細胞;マウス腎臓RenCa細胞;マウス膵臓RIN-5F細胞;マウス黒色腫X64細胞;マウスリンパ腫YAC-1細胞;ラット膠芽腫9L細胞;ラットBリンパ腫RBL細胞;ラット神経芽腫B35細胞;ラット肝がん細胞(HTC);バッファローラット肝臓BRL 3A細胞;イヌ腎臓細胞(MDCK);イヌ乳腺(CMT)細胞;ラット骨肉腫D17細胞;ラット単球/マクロファージDH82細胞;サル腎臓SV-40形質転換線維芽(COS7)細胞;サル腎臓CVI-76細胞;アフリカミドリザル腎臓(VERO-76)細胞が含まれる。哺乳類細胞株の広範なリストが、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)のカタログに見出され得る。
【0095】
(VI)応用
本明細書において開示される組成物および方法は、多様な治療応用、診断応用、産業的応用および研究応用において使用され得る。いくつかの実施態様において、本開示は、遺伝子の機能をモデル化および/または研究し、目的の遺伝子状態もしくはエピジェネティック状態を研究し、または様々な疾患もしくは障害に関与する生化学的経路を研究するために、細胞、動物または植物中の目的の任意の染色体配列を改変するのに使用され得る。例えば、疾患または障害をモデル化するトランスジェニック生物が作製され得、ここで疾患または障害に関連する1以上の核酸配列の発現が変化している。疾患モデルは、生物に対する変異の効果を研究し、疾患の発生および/または進行を研究し、疾患に対する薬学的に活性な化合物の効果を研究し、かつ/または潜在的な遺伝子治療戦略の効力を評価するために使用され得る。
【0096】
他の実施態様において、組成物および方法は、効率的で費用効率の高い機能的なゲノムスクリーニング(これは特定の生物学的プロセスに関与する遺伝子の機能およびどのような遺伝子発現の変化が生物学的プロセスに影響を与え得るかを調べるために使用され得る)を実行するため、または細胞表現型と組み合わせたゲノム遺伝子座の飽和変異導入法もしくはディープスキャニング変異導入法(deep scanning mutagenesis)を実行するために使用され得る。例えば、飽和変異導入法またはディープスキャニング変異導入法は、遺伝子発現、薬剤耐性および疾患の回復に必要な機能的要素の重要な最小限の特徴および別々の脆弱性を決定するために使用され得る。
【0097】
さらなる実施態様において、本明細書で開示される組成物および方法は、疾患または障害の存在を立証し、かつ/または処置の選択肢を決定するために使用される診断テストのために使用され得る。適切な診断テストの例には、がん細胞における特定の変異(例えば、EGFRおよびHER2などにおける特定の変異)の検出、特定の疾患に関連する特定の変異(例えば、トリヌクレオチド反復、鎌状赤血球症に関連するβグロビン内の変異、特定のSNPなど)の検出、肝炎の検出、およびウイルス(例えばジカウイルス)の検出などが含まれる。
【0098】
さらなる実施態様において、本明細書で開示される組成物および方法は、特定の疾患または障害に関連する遺伝子変異を修正するため(例えば、鎌状赤血球症またはサラセミアに関連するグロビン遺伝子の変異を修正するため、重症複合免疫不全症(SCID)に関連するアデノシンデアミナーゼ遺伝子の変異を修正するため、ハンチントン病の疾患原因遺伝子であるHTTの発現を低下させるため、または網膜色素変性症の処置のためにロドプシン遺伝子の変異を修正するため)に使用され得る。このような改変は、エクスビボの細胞において行われ得る。
【0099】
さらなる他の実施態様において、本明細書で開示される組成物および方法は、形質が改善し、または環境ストレスに対する抵抗性が増大した作物を作製するために使用され得る。本開示はまた、形質が改善した家畜または生産動物(production animal)を作製するために使用され得る。例えば、ブタは、生物医学的モデルとして(特に再生医療または異種移植において)魅力的な多くの特徴を有する。
【0100】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用されるあらゆる技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd Ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991);およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書において、以下の用語は他に明記されない限り、これらに帰する意味を有する。
【0101】
本開示またはその好ましい実施態様の要素を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」および「前記」は1以上の要素が存在することを意味することが意図されている。用語「含む」、「包含する」および「有する」は包含的であり、記載された要素以外のさらなる要素が存在し得ることを意味することが意図されている。
【0102】
用語「約」は、数値xに関して使用される場合、例えばx±5%を意味する。
【0103】
本明細書において、用語「相補的」または「相補性」は、特定の水素結合を介した塩基対形成による二本鎖核酸の関連性を指す。塩基対形成は、標準的なワトソン・クリック塩基対形成であり得る(例えば、5’-AGTC-3’は相補的配列3’-TCAG-5’と対形成する)。塩基対形成はまた、フーグスティーン水素結合または逆フーグスティーン水素結合であり得る。相補性は通常、二本鎖領域に関して測定されるため、例えばオーバーハングは除外される。二本鎖領域の2つの鎖の間の相補性は部分的であり得、いくつか(例えば70%)の塩基のみが相補的である場合、割合(例えば70%)として表現され得る。相補的でない塩基は「ミスマッチ」している。二本鎖領域の全ての塩基が相補的である場合、相補性は完全(すなわち100%)であり得る。
【0104】
本明細書において、用語「CRISPR/Casシステム」または「Cas9システム」は、Cas9タンパク質(すなわち、ヌクレアーゼ、ニッカーゼまたは触媒不活性型タンパク質)およびガイドRNAを含む複合体を指す。
【0105】
本明細書における用語「内在性配列」は、細胞に対して天然である染色体配列を指す。
【0106】
本明細書における用語「外来性」は細胞に対して天然でない配列、または細胞のゲノムにおけるその配列の天然の位置が異なる染色体位置にある染色体配列を指す。
【0107】
遺伝子またはポリヌクレオチドに関する用語「発現」は、遺伝子またはポリヌクレオチドの転写、および必要に応じてmRNA転写物のタンパク質またはポリペプチドへの翻訳を指す。したがって、文脈から明らかであるように、タンパク質またはポリペプチドの発現は、オープンリーディングフレームの転写および/または翻訳に起因する。
【0108】
本明細書において、「遺伝子」は、遺伝子産物をコードするDNA領域(エクソンおよびイントロンを含む)および遺伝子産物の生成を制御するあらゆるDNA領域を指し、これはそのような制御配列がコード配列および/または転写される配列に隣接しているか否かによらない。したがって、遺伝子には、必ずしも限定されないが、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳制御配列(リボソーム結合部位および内部リボソーム進入部位など)、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、境界要素、複製起点、マトリックス結合部位、および遺伝子座調節領域が含まれる。
【0109】
用語「異種」は、目的の細胞に対して内在性または天然でない実体を指す。例えば、異種タンパク質は外来性の供給源に由来している、または元々由来していたタンパク質(外因的に導入された核酸配列など)を指す。いくつかの例において、異種タンパク質は目的の細胞によって正常に生成されない。
【0110】
用語「ニッカーゼ」は、二本鎖核酸配列の一方の鎖を切断する(すなわち、二本鎖配列に切れ目を入れる)酵素を指す。例えば、二本鎖切断活性を有するヌクレアーゼは、ニッカーゼとして機能して二本鎖配列の一方の鎖のみを切断するように変異および/または欠失によって改変され得る。
【0111】
本明細書において、用語「ヌクレアーゼ」は、二本鎖核酸配列の両方の鎖を切断するか、または一本鎖核酸配列を切断する酵素を指す。
【0112】
用語「核酸」および「ポリヌクレオチド」は、一本鎖型または二本鎖型のいずれかにおける、直鎖状構造または環状構造のデオキシリボヌクレオチドポリマーまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示の目的において、これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定するものとして解釈されるべきではない。これらの用語は、天然のヌクレオチドの公知の類似体、ならびに塩基、糖および/またはリン酸部分(例えばホスホロチオエート骨格)において修飾されたヌクレオチドを包含し得る。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は同一の塩基対形成の特異性を有する(すなわち、Aの類似体はTと塩基対形成する)。
【0113】
用語「ヌクレオチド」は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを指す。ヌクレオチドは標準的なヌクレオチド(すなわち、アデノシン、グアノシン、シチジン、チミジンおよびウリジン)、ヌクレオチド異性体、またはヌクレオチド類似体であり得る。ヌクレオチド類似体は、修飾されたプリン塩基もしくはピリミジン塩基または修飾されたリボース部分を有するヌクレオチドを指す。ヌクレオチド類似体は天然に存在するヌクレオチド(たとえば、イノシン、プソイドウリジンなど)または天然に存在しないヌクレオチドであり得る。ヌクレオチドの糖部分または塩基部分における修飾の限定されない例には、アセチル基、アミノ基、カルボキシ基、カルボキシメチル基、ヒドロキシ基、メチル基、ホスホリル基およびチオール基の付加(または除去)、ならびに塩基の炭素原子および窒素原子の他の原子への置換(たとえば、7-デアザプリン)が含まれる。また、ヌクレオチド類似体には、ジデオキシヌクレオチド、2’-O-メチルヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)およびモルフォリノが含まれる。
【0114】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。
【0115】
用語「標的配列」および「標的部位」は互換的に使用され、CRISPRシステムが標的とする目的の核酸(例えば、染色体DNAまたは細胞RNA)中の特定の配列、およびCRISPRシステムが核酸または核酸に関連するタンパク質を改変する部位を指す。
【0116】
核酸およびアミノ酸の配列同一性を決定する技術は当分野で公知である。通常、このような技術には、遺伝子のためのmRNAのヌクレオチド配列を決定すること、および/またはそれによってコードされているアミノ酸配列を決定すること、ならびにこれらの配列を第2のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と比較することが含まれる。ゲノム配列もまた、この様式で決定および比較され得る。一般に、同一性は、2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の、それぞれヌクレオチドとヌクレオチドとの正確な一致またはアミノ酸とアミノ酸との正確な一致を指す。2以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、その割合同一性を決定することによって比較され得る。2つの配列の割合同一性は、核酸配列であるかアミノ酸配列であるかによらず、2つのアラインされた配列間の正確な一致の数をより短い配列の長さで割り、100を乗じたものである。核酸配列のための近似アライメントは、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981)の局所的相同性アルゴリズムによって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff, Atlas of Protein Sequences and Structure, M. O. Dayhoff ed., 5 suppl. 3:353-358, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USAによって開発され、Gribskov, Nucl. Acids Res. 14(6):6745-6763 (1986)によって標準化されたスコア化マトリックスを用いることによって、アミノ酸配列に適用され得る。配列の割合同一性を決定するためのこのアルゴリズムの例示的な実施は、「BestFit」の実用的用途におけるGenetics Computer Group (Madison, Wis.)によって提供されている。配列間の割合同一性または類似性を計算するのに適した他のプログラムは当分野で一般的に知られており、例えば、別のアライメントプログラムは初期設定パラメータで使用されるBLASTである。例えば、BLASTNおよびBLASTPは、以下の初期設定パラメータを用いて使用され得る:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;マトリックス=BLOSUM62;記載=50配列;ソーティング方法=HIGH SCORE;データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+Swissタンパク質+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細はGenBankのウェブサイト上に見出され得る。
【0117】
本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更が上述の細胞および方法において行われ得るため、上記の記載および以下で与えられる実施例に含まれるあらゆる事項は、限定的な意味ではなく説明として解釈されるべきであることが意図される。
【実施例0118】
以下の実施例は、本開示の特定の態様を説明する。
【0119】
実施例1.自己複製Cas9 RNAベクターの作製
Cas9をコードするポリシストロニックな合成自己複製RNAを、構造遺伝子が除去された改変されたベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルス(すなわち、Simplicon(商標)クローニングベクターE3L;MilliporeSigma)に基づいて作製した。Cas9-T2A-TagGFP2、eSpCas9-T2A-GFP2およびeSpCas9のcDNAを、それぞれpVAV-Cas9-2A-GFPプラスミド(野生型SpCas9をコードしている)、CMV-eSpCas9-2A-GFPプラスミドおよびSpCas9-ブラストサイジンLentiプラスミドを鋳型として用いてPCRにより増幅した。eSpCas9は、切断効率を低下させることなくオンターゲットの忠実度を増強するように改変された野生型SpCas9の改変されたバージョンである(Slaymaker et al., Science. 2016, 351(6268):84-8)。次いで、各cDNAをSimplicon(商標)ベクターのNdeI/NotI部位にクローニングし、それぞれT7-VEE-Cas9-TagGFP2(配列番号31)、T7-VEE-eSpCas9-TagGFP2(配列番号32)およびT7-VEE-eSpCas9(配列番号33)と名付けた。各VEE-Cas9 RNAの模式図を図1Aに示す。
【0120】
RNA合成のために、各VEE-Cas9プラスミドおよびB18R-E3LプラスミドをそれぞれMluI消化およびBamHI消化によって直線化し、RNA合成のための鋳型を作成した。RNA合成および5’キャッピングを、CleanCap(登録商標)Reagent AG(Trilink)の存在下でRiboMAX Large Scale RNA Production System-T7(Promega)キットを用いて37℃で2時間行った。B18R-E3L RNA合成のために、約150塩基の追加のポリ(A)テールをポリ(A)ポリメラーゼ(CELLSCRIPT)によって37℃で30分間付加した。精製および2.5M酢酸アンモニウムでの沈殿後、RNAを1μg/μlの濃度でRNA保存溶液(Ambion)に再懸濁し、-80℃で保存した。VEE-Cas9 RNAをアガロースゲル電気泳動によって分析した(図1B)。VEE-Cas9 RNAのバンドは、最小限の分解されたバンドを伴って予測されたサイズ(約15kb)において最も強い強度を示した。
【0121】
実施例2.自己複製Cas9 RNAの遺伝子導入
これらのVEE-Cas9 RNAを、RNAの遺伝子導入および複製によって生じるインターフェロン(IFN)応答を阻害するB18R-E3L RNAとともに細胞に共導入した。
【0122】
ヒト包皮線維芽細胞(HFF)およびHEK293T細胞を、10%FBS、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むDMEM中で培養した。細胞を、遺伝子導入の日に30~60%の培養密度となるように遺伝子導入の1日前に継代した。各VEE-Cas9 RNAを、リポフェクタミンMessengerMax遺伝子導入試薬(Thermofisher)を用いてB18R-E3L RNAとともに1:1の比率(6ウェルプレートの1ウェルについて各1マイクログラム)で細胞に共導入した。
【0123】
図1Cに示されるように、Cas9-TagGFP2およびeSpCas9-TagGFP2を遺伝子導入した細胞においてTagGFP2(GFP)発現が観察され、各Cas9タンパク質の発現をウエスタンブロッティングによって確認した(図1D)。これらのデータは、自己複製RNA技術がヒト細胞においてCas9の発現を可能にすることを示している。
【0124】
実施例3.非組み込みのCas9ゲノム編集
次に、VEE-Cas9 RNAを化学合成されたgRNAと組み合わせて用いて標的ゲノム編集を調べた。K-RasおよびEMX-1を標的とする市販の2種の合成RNA(crRNA:tracrRNA複合体)および1種の単一の合成gRNA(sgRNA)を、Thermofisher Scientificから購入した。K-RasおよびEMX-1標的のためのPAM配列(下線)を含むcrRNAの配列は、それぞれ5’-TAGTTGGAGCTGGTGGCGTAGG(配列番号34)および5’-GAGTCCGAGCAGAAGAAGAAGGG(配列番号35)である。
【0125】
最初に、HFF細胞にVEE-Cas9-TagGFP2、B18R-E3L RNA(上述)を1種のgRNAまたは2種のgRNAのいずれかとともに共導入した。遺伝子導入の2~6日後に細胞を回収し、Guide-iT変異検出キット(Clontech)を用いてインデルを検出した。ChemiDoc(商標)イメージングシステムを用いて、DNAの切断効率を算出した。KRas遺伝子(340bp)およびEMX-1遺伝子(410bp)の標的領域を、それぞれ5’-GATACACGTCTGCAGTCAACTG(配列番号36)/5’-GCATATTACTGGTGCAGGACC(配列番号37)および5’-GCCTGAGTGTTGAGGCCCCA(配列番号:38)/5’-GTCCCTCTGTCAATGGCGGC(配列番号39)のプライマーセットを用いてPCRで増幅した。
【0126】
図2Aに示されるように、1種または2種のgRNAを用いてGFP発現が観察されたが、2種のgRNAを遺伝子導入した細胞ではGFP発現が低下していた。3日目(遺伝子導入の2日後)には、1種のsgRNAを遺伝子導入した細胞では15%を超える切断が観察されたが、2種のgRNAを遺伝子導入した細胞では切断は検出されなかった(図2B)。Cas9陰性細胞を除去するためにピューロマイシン選択を行い、1種のsgRNAを遺伝子導入した細胞では切断の効率が上昇したが、2種のgRNAを遺伝子導入した細胞では切断は未だ検出されなかった(図2B、6日目)。
【0127】
編集の効率を上昇させるために、細胞にVEE-Cas9 RNAおよびgRNAを連続的に遺伝子導入した。この実験では、1日目にVEE-Cas9およびB18R-E3L RNAを共導入し、2日目にリポフェクタミンRNAiMax遺伝子導入試薬(Thermofisher)を用いてgRNAを遺伝子導入した。図2Bに示されるように、1種または2種のいずれかのgRNAを用いた連続的な遺伝子導入により、4日目(gRNA遺伝子導入の2日後)により高いゲノム編集の効率が得られ、ピューロマイシン選択後(6日目)にさらなる効率の上昇が得られた。2つの異なる量のgRNA(25nMおよび50nM)を試験したが、有意な差は観察されなかった(図2B)。
【0128】
次に、VEE-Cas9ゲノム編集を、1種のsgRNAを用いた連続的な遺伝子導入法によりヒトiPSC細胞株において試験した。Epitherial-1 iPSCまたはPBMC-iPSC(CD34+臍帯血iPSC)を、ラミニンでコーティングされたウェル上でmTeSRTM-1培養液(Stemcell Technologies)の存在下において培養した。iPSC細胞を上述のように遺伝子導入した。両方のヒトiPSC細胞株においてGFP発現が得られ(図2C)、ゲノム編集の効率は両方の細胞株において16~32%の範囲であった(図2D)。
【0129】
実施例4.自己複製Cas9 RNAと他の発現系との比較
ゲノム編集の効率を、VEE-Cas9 RNAとレンチウイルスCas9との間で比較した。レンチウイルスベクターはブラストサイジン選択マーカーを有する。したがって、レンチウイルスCas9(LV-Cas9)(MOI=3)またはVEE-Cas9-TagGFP2(S-Cas9)をHFFに導入し、次いで細胞をそれぞれブラストサイジン(4μg/mL)またはピューロマイシン(0.8μg/mL)で1週間選択した。選択後、両細胞を、翌日の1種のsgRNAの遺伝子導入のために継代した。両方のCas9発現法により、K-Ras標的(それぞれ35%および36%)およびEMX-1標的(それぞれ47%および40%)において類似のゲノム編集効率が観察された(図3A)。
【0130】
次に、VEE-Cas9 RNAを、Cas9-TagGFP2をコードするプラスミドCas9と比較した。HEK293T細胞にプラスミドCas9、およびK-Ras-gRNAをコードするプラスミド(すべてDNA成分)を共導入し、またはHEK293T細胞にVEE-Cas9-TagGFP2、B18R-E3L RNAおよび1種のK-Ras sgRNA(すべてRNA成分)を共導入した。図3Bに示されるように、すべてDNAの成分またはすべてRNAの成分の遺伝子導入は、類似の割合のGFP陽性細胞(65~74%)をもたらした。ゲノム編集の効率もまた、2つの方法で類似(20~29%)していた(図3C)。これらのデータは、VEE-Cas9 RNAによるゲノム編集が、レンチウイルスおよびプラスミドCas9発現ツールによって与えられるゲノム編集と同等であることを示している。
【0131】
実施例5.自己複製Cass9 RNAの長期的な発現
VEE-Cas9-TagGFP2 RNAおよびB18R-E3L RNAをHFF細胞またはHEK293T細胞のいずれかに共導入し、細胞をB18Rタンパク質の存在下においてピューロマイシン選択下で維持した。1ヶ月および4回の細胞継代後、HFF細胞に1種のK-Ras sgRNAを共導入した。図4Aに示されるように、約40%のHFF細胞がGFP陽性であり、約10%のゲノム編集効率が得られた。1ヶ月および8回の細胞継代後、HEK293Tに1種のEMX-1 sgRNAを共導入した。約81%のHEK293T細胞がGFP陽性であり、ゲノム編集効率は約26%であったことが見出された(図4B)。これらのデータは、VEE-Cas9 RNAが、宿主細胞ゲノムを操作することなくCas9を発現する細胞株を作製することを可能にし、前記細胞株が標的ゲノム編集に利用可能であることを示唆している。
【0132】
実施例1で調製した3つのVEE-Cas9 RNAベクターについて、ゲノム編集の効率を比較した。図4Cおよび図4Dに示されるように、HFFおよびHEK293T細胞において、eSpCas9、eSpCas9-TagGFP2およびCas9-TagGFP2によって類似のゲノム編集効率が得られた(例えば、HFFでは5~12%、HEK293T細胞では20~26%)。
【0133】
実施例6.自己複製D10A-Cas9 RNAによるゲノム編集
Cas9タンパク質のD10A変異は、二本鎖切断の代わりに一本鎖切断をもたらす。したがって、より少ないオフターゲット切断を伴うゲノム編集を行うと考えられ、正確なゲノム編集のために有用であると考えられる。自己複製RNAを有するD10A-Cas9の利用可能性を調べるために、D10A点変異を有するCas9の新規のコンストラクトを作成した。図5Aは、293T細胞におけるD10A-Cas9-TagGFP2およびD10A-Cas9-TagRFPの1日目および3日目の発現を示しており、Cas9を発現する細胞株(293T)が作製された(図5B)。D10A-Cas9の利用可能性を試験するために、EMX1遺伝子座における2種類のsgRNA(sgRNA-1および9)を遺伝子導入し、二本鎖切断を作成した。図5Cに示されるように、Cas9-D10A変異体を発現する細胞に2種類のsgRNAを遺伝子導入した場合にはゲノム編集が観察されたが、1種類のsgRNAを遺伝子導入した場合にはゲノム編集は観察されなかった。D10A-Cas9細胞株において同じ結果が観察された(図5D)。これらのデータは、自己複製D10A-Cas9が正確なゲノム編集のために利用可能であることを示している。
【0134】
実施例7.自己複製Cas9 RNAによるDNAオリゴおよびGFP DNA断片の挿入
次に、Cas9切断部位におけるDNA挿入について試験した。最初に、BamHI制限酵素部位を有するDNAオリゴ(BamHIオリゴ)をRab11遺伝子座に挿入した。1日目に自己複製Cas9またはD10A-Cas9を遺伝子導入し、次いでBamHIオリゴをsgRNAとともに共導入した。細胞をsgRNAの遺伝子導入の3日後に解析のために回収し、またはクローンをピューロマイシン選択後に単離した。図6Aに示されるように、Rab11A遺伝子座におけるPCR産物のBamHI消化により、Cas9およびD10A-Cas9で切断した試料の両方においてBamHIオリゴの挿入が観察された。細胞クローンを単離し、BamHIオリゴの挿入を確認した。図6Bに示されるように、iPSCの6クローン中4クローンおよびU2OS細胞の11クローン中8クローンにおいてBamHIオリゴが検出された。次に、GAPDH遺伝子座にTagGFP2断片を挿入した。1日目にHEK293細胞に自己複製Cas9-TagRFPを遺伝子導入し、次いで2日目にPCRで増幅したGFP断片およびsgRNAを共導入した。sgRNAの遺伝子導入の3日後にGFP陽性細胞が観察された(図6C)。これらのデータは、自己複製Cas9がゲノム編集のDNA挿入のために機能することを示唆している。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
【配列表】
2024032973000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ゲノム編集のための方法であって、
アルファウイルス由来の複数の非構造複製複合体タンパク質をコードする配列およびCRISPRタンパク質をコードする配列を含む自己複製RNAベクター、ここに、該ベクターは、改変されたベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスに基づき、5’から3’までに、5’キャップ、5’UTR、VEEウイルス由来の4つの非構造複製複合体タンパク質をコードする配列、プロモーター、CRISPRタンパク質をコードする配列、任意でIRES、任意で選択可能なマーカーをコードする配列、アルファウイルス3’UTR、およびポリAテールを含む、および
該自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAを真核細胞に導入し、
次いで、該真核細胞に、インターフェロン応答阻害剤をコードするプラスミドを導入することを含む、方法。
【請求項2】
CRISPRタンパク質が、II型Cas9タンパク質、V型Cas12タンパク質、VI型Cas13タンパク質、CasXタンパク質、またはCasYタンパク質であり、CRISPRタンパク質が、Streptococcus pyogenes Cas9、Francisella novicida Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、Streptococcus thermophilus Cas9、Streptococcus pasteurianus Cas9、Campylobacter jejuni Cas9、Neisseria meningitis Cas9、Neisseria cinerea Cas9、Francisella novicida Cas12、Acidaminococcus sp. Cas12、Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12、Leptotrichia wadei Cas13a、Leptotrichia shahii Cas13a、Prevotella sp. P5-125 Cas13、またはRuminococcus flavefaciens Cas13dである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
CRISPRタンパク質が、Streptococcus pyogenes Cas9またはStaphylococcus aureus Cas9である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
CRISPRタンパク質をコードする配列が、CRISPRタンパク質が触媒活性の変化、標的部位特異性の改善および/またはオフターゲット効果の低下を有するように、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
CRISPRタンパク質がヌクレアーゼもしくはニッカーゼであるか、または切断活性を持たない、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
CRISPRタンパク質が少なくとも1つの核局在化シグナルに連結している、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
CRISPRタンパク質が、少なくとも1つの蛍光タンパク質、少なくとも1つのクロマチン調節モチーフ、少なくとも1つの機能性ドメイン、またはそれらの組合せに連結している、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの機能性ドメインが、エピジェネティック修飾ドメイン、転写活性化ドメイン、または転写抑制ドメインである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
CRISPRタンパク質をコードする配列が、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の方法によって製造された、自己複製RNAベクターを含む真核細胞または細胞株。
【請求項11】
自己複製RNAベクターによってコードされるCRISPRタンパク質と複合体を形成するように設計された少なくとも1つのガイドRNAをさらに含む、請求項10記載の真核細胞または細胞株。
【請求項12】
自己複製RNAベクターが、インビトロでの転写のためのT7またはSP6プロモーターをさらに含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを細胞に導入することをさらに含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
真核細胞がヒト細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
インターフェロン応答阻害剤がE3Lである、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
インターフェロン応答阻害剤をコードするプラスミドがB18R-E3L RNAをコードする、請求項15に記載の方法。