(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032980
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】逆浸透膜の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240305BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20240305BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D61/12
B01D65/02 530
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015239
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2020005308の分割
【原出願日】2020-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】日根野谷 充
(72)【発明者】
【氏名】石橋 光
(72)【発明者】
【氏名】佐野 紗代
(57)【要約】
【課題】被処理水中の無機物の析出を抑制しながら、有機物の析出も抑制し、逆浸透膜の閉塞を防止できる、逆浸透膜の運転方法を提供する。
【解決手段】逆浸透膜によって、原水を透過水と濃縮水とに分離する、逆浸透膜の運転方法であって、逆浸透膜モジュール18、18、18に供給される被処理水のpHが5.8~7.8であり、逆浸透膜モジュール18、18、18の逆浸透膜で前記被処理水を処理した後、逆浸透膜モジュール18、18、18の逆浸透膜を定期的に圧力開放する、逆浸透膜の運転方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜によって、原水を透過水と濃縮水とに分離する、逆浸透膜の運転方法であって、
前記逆浸透膜に昇圧ポンプを経由して供給される被処理水のpHが6.0~7.8であり、
前記逆浸透膜で前記被処理水を処理した後、前記昇圧ポンプを停止して前記逆浸透膜を定期的に圧力開放し、
前記逆浸透膜を圧力開放した際に、フラッシングを実施することで前記逆浸透膜の表面を洗う、逆浸透膜の運転方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜を圧力開放した際に、前記逆浸透膜の二次側も圧力開放する、請求項1に記載の逆浸透膜の運転方法。
【請求項3】
フラッシングの際に、透過水又は純水を含む洗浄水を使用する、請求項2に記載の逆浸透膜の運転方法。
【請求項4】
前記原水を直接、前記逆浸透膜で処理する、請求項1~3のいずれか一項に記載の逆浸透膜の運転方法。
【請求項5】
前記原水が、シリカ、カルシウム、マグネシウム、鉄及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の無機物をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の逆浸透膜の運転方法。
【請求項6】
前記原水のMアルカリ度が、100mg/L以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の逆浸透膜の運転方法。
【請求項7】
前記被処理水の全有機炭素が、3.0mg/L以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の逆浸透膜の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜で原水を透過水と濃縮水とに分離する水処理方法が知られている。
図4は、従来の逆浸透膜を用いる水処理方法の一例を説明するための概略模式図である。
図4に示す処理システム101を用いる方法では、まず、井戸111から井戸水が原水として流路121を流れ、被処理水槽112に供給される。被処理水槽112内には、塩素添加手段130によって塩素が、硫酸添加手段131によって硫酸がそれぞれ添加され、原水と塩素と硫酸が混合されて被処理水となる。
次いで、被処理水は流路122を流れ、ポリ塩化アルミニウムが添加手段132によって添加され、ポンプ114によって砂ろ過塔141に送液される。砂ろ過塔141では、被処理水中の有機物、鉄、マンガンの凝集物が除去される。
その後、被処理水は活性炭142に通水され、塩素添加手段130で塩素が添加された後、限外ろ過膜を備える膜ろ過装置143に供給される。ろ過装置143では被処理水中のクリプトスポリジウム等の原虫、雑菌が限外ろ過膜によって除去される。
【0003】
次いで、ろ過装置143の透過水は流路127を流れ、中間処理槽144に貯留される。中間処理槽144内の透過水の一部は、ポンプ114によって送液されて流路127を流れ、処理水槽119にそのまま貯留される。一方、中間処理槽144内の透過水の残部はポンプ114によって送液されて流路128を流れ、昇圧ポンプ116で昇圧された後、逆浸透膜を備える逆浸透膜ろ過装置117に供給される。逆浸透膜ろ過装置117では、被処理水中のカルシウム、マグネシウムが逆浸透膜によって除去される。
その後、逆浸透膜ろ過装置117の透過水は流路124を流れ、処理水槽119に供給される。一方、逆浸透膜ろ過装置117の濃縮水は流路123に集められ、処理システム101の外部に排出される。
このように、処理システム101を用いる従来の方法では、全有機炭素(TOC)、鉄及びマンガン、原虫及び雑菌、硬度の各項目の水質の改善のために処理をそれぞれ行っている。そのため、装置構成、処理フローが複雑となり、水質処理のコストが高くなる、という問題がある。
【0004】
そこで、
図5に示す一例のように、TOC、鉄及びマンガン、原虫及び雑菌、硬度の各項目の水質の改善のための処理を全て逆浸透膜ろ過装置117で一括して行う処理方法の利用が検討されている。
図5に示す処理システム102を用いる方法では、まず、井戸111から原水が流路121を流れ、被処理水槽112に供給される。被処理水槽112内には硫酸添加手段131によって硫酸が添加され、硫酸と原水が混合されて被処理水となる。
次いで、被処理水はポンプ114によって送液されて流路122を流れ、プレフィルター115、昇圧ポンプ116に通水された後、逆浸透膜ろ過装置117に供給される。処理システム102では逆浸透膜ろ過装置117によって、被処理水中の有機物、カルシウム、シリカ、鉄及びマンガン等の無機物、原虫及び雑菌、カルシウム及びマグネシウムが一括して除去される。
その後、逆浸透膜ろ過装置117の透過水は流路124を流れ、硫酸、塩素がそれぞれ添加され、ミネライザ135で硬度が調整される。その後、透過水は処理水槽119に貯留され、必要に応じて塩素添加手段130によって塩素が添加される。
【0005】
このように、処理システム102を用いる方法によれば、ほぼ全ての項目の水質を逆浸透膜ろ過装置117によって改善できるため、装置及び処理フローが簡素化し、低コスト化、さらには処理システムの省スペース化を図ることができる。
ところが一方で、処理システム102を用いる方法のように、複数の項目の水質の改善のための処理を逆浸透膜ろ過装置117で一括して行うと、逆浸透膜の閉塞が頻発するという問題が生じる。
そこで、逆浸透膜の被処理水のpHが7.0以下となるように水処理をすることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6は、逆浸透膜の被処理水のpHが7.0以下となるように水処理をする方法の一例を説明するための概略模式図である。
図6に示す処理システム103では、逆浸透膜ろ過装置117の濃縮水が流路123に集められ、流路123の濃縮水の一部が流路125を流れ、流路122に戻されて、被処理水として逆浸透膜ろ過装置117に再供給される。 処理システム103を用いる方法では、特許文献1に開示の方法と同様に、逆浸透膜ろ過装置117の逆浸透膜の一次側に供給される処理水のpHが7.0以下となるように、被処理水のpHが硫酸添加手段131によって被処理水槽112内で調整される。そのため、被処理水中の無機物の析出を抑制し、逆浸透膜の表面での堆積を低減できる。
しかし、逆浸透膜の被処理水のpHが7.0以下となるように水処理をすると、有機物が被処理水から析出しやすく、析出した有機物によって逆浸透膜の表面が閉塞してしまう、という問題がある。
本発明は、被処理水中の無機物の析出を抑制しながら、有機物の析出も抑制でき、逆浸透膜の閉塞を防止できる、逆浸透膜の運転方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 逆浸透膜によって、原水を透過水と濃縮水とに分離する、逆浸透膜の運転方法であって、前記逆浸透膜に供給される被処理水のpHが5.8~7.8であり、前記逆浸透膜で前記被処理水を処理した後、前記逆浸透膜を定期的に圧力開放する、逆浸透膜の運転方法。
[2] 前記逆浸透膜を圧力開放した際に、フラッシングを実施することで前記逆浸透膜の表面を洗う、[1]の逆浸透膜の運転方法。
[3] フラッシングの際に、透過水又は純水を含む洗浄水を使用する、[2]の逆浸透膜の運転方法。
[4] 前記原水を直接、前記逆浸透膜で処理する、[1]~[3]のいずれかの逆浸透膜の運転方法。
[5] 前記原水が、シリカ、カルシウム、マグネシウム、鉄及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の無機物をさらに含む、[1]~[4]のいずれかの逆浸透膜の運転方法。
[6] 前記原水のMアルカリ度が、100mg/L以上である、[1]~[5]のいずれかの逆浸透膜の運転方法。
[7] 前記被処理水の全有機炭素が、3.0mg/L以上である、[1]~[6]のいずれかの逆浸透膜の運転方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の逆浸透膜の運転方法によれば、被処理水中の無機物の析出を抑制しながら、有機物の析出も抑制でき、逆浸透膜の閉塞を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る逆浸透膜の運転方法に用いる処理システムの概略模式図である。
【
図2】実施例で用いた平膜試験装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3の平膜試験装置が有する密閉容器、平膜セルの模式断面図である。
【
図4】従来の水処理方法に用いる処理システムの概略模式図である。
【
図5】従来の水処理方法に用いる処理システムの概略模式図である。
【
図6】従来の水処理方法に用いる処理システムの概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「全有機炭素」は、例えば、JIS K 0101 20.有機体炭素(TOC)に準拠して測定できる。
「Mアルカリ度」は、例えば、JIS K 0101 13.酸消費量に準拠して測定できる。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
以下、本発明の逆浸透膜の運転方法について、実施形態例を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
図1は、本発明の一実施形態に係る逆浸透膜の運転方法に用いる処理システム1の概略模式図である。処理システム1は、井戸11と被処理水槽12と酸添加手段31と逆浸透膜ろ過装置17と処理水槽19を備える。
【0013】
被処理水槽12は、被処理水を貯留する槽である。被処理水槽12には、原水流路21と被処理水流路22と循環用流路25とが接続されている。
原水流路21は、井戸11から原水(井戸水)を被処理水槽12に供給するための流路である。被処理水流路22は、被処理水を被処理水槽12から逆浸透膜ろ過装置17に供給するための流路である。循環用流路25は、逆浸透膜ろ過装置17の濃縮水を被処理水槽12に供給するための流路である。そのため、被処理水槽12内の被処理水は、逆浸透膜ろ過装置17の濃縮水と原水(井戸水)とを含む。
【0014】
酸添加手段31は、被処理水槽12内の被処理水に酸成分を添加する。酸成分は特に限定されない。例えば、塩酸、硫酸等が挙げられる。
酸添加手段31は、被処理水槽12内の液相部分の被処理水に直接酸成分を添加する形態でもよく、被処理水槽12内の気相部分を介して酸成分を添加する形態でもよい。
【0015】
被処理水流路22には、ポンプ14とプレフィルター15と昇圧ポンプ16が被処理水槽12側からこの順に設けられている。
ポンプ14は、被処理水を逆浸透膜ろ過装置17に送液して供給するためのものである。
プレフィルター15は、砂、シルト、粘土等のサイズの大きな不純物を除去し、逆浸透膜ろ過装置17の逆浸透膜の閉塞や擦過等から保護している。
昇圧ポンプ16は、被処理水を逆浸透膜ろ過装置17でろ過するために必要な圧力を付与している。
【0016】
逆浸透膜ろ過装置17は、逆浸透膜モジュール18、18、18を備える。逆浸透膜モジュール18、18、18は、逆浸透膜をそれぞれ内部に有する。逆浸透膜ろ過装置17は、逆浸透膜モジュール18、18、18内の逆浸透膜に被処理水を逆浸透させて、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する装置である。
各逆浸透膜モジュール18には、分岐した被処理水流路22のそれぞれの端部が接続されている。そのため、各逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜の一次側には被処理水流路22の被処理水が供給される。
【0017】
さらに、各逆浸透膜モジュール18には、濃縮水流路23と透過水流路24の分岐したそれぞれの端部がそれぞれ接続されている。
濃縮水流路23は、逆浸透膜モジュール18、18、18内の逆浸透膜で分離された濃縮水を集めるための流路である。濃縮水流路23は、接続点Dで循環用流路25及び排水用流路26と接続されている。循環用流路25は、濃縮水の一部を濃縮水流路23から被処理水槽12に供給するための流路である。排水用流路26は、濃縮水の残部を処理システム1の外部に排出するための流路である。
透過水流路24は、処理水槽19と接続されている。透過水流路24は、逆浸透膜ろ過装置17で分離された透過水を処理水槽19に供給するための流路である。
処理水槽19は、逆浸透膜ろ過装置17で分離された透過水を処理水として貯留する槽である。
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係る逆浸透膜の運転方法について説明する。
本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法は、原水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離して処理する方法である。
原水としては、例えば、井戸水、伏流水等の地下水;河川水;湖沼水が挙げられる。ただし、原水は、これらの例示に限定されない。
【0019】
本実施形態においては、原水は溶解性の有機物を含む。原水中の有機物は特に限定されないが、例えば、フミン質が挙げられる。原水中のフミン質としては、例えば、フミン酸、フルボ酸が挙げられる。
原水中の全有機炭素は、酸成分の使用量の抑制、逆浸透膜の膜閉塞の抑制等の観点から、3.0mg/L以上が好ましく、4.0mg/L以上がより好ましく、5.0mg/L以上が特に好ましい。本実施形態では、後述のように被処理水のpHの下限値を所定の数値以上に調整するため、全有機炭素が前記下限値以上の原水でも、逆浸透膜の閉塞を防止できる。その結果、原水中の全有機炭素が高い場合であっても、逆浸透膜の目詰まりによる透過能の低下が起きにくく、処理効率を維持したまま透過水を得ることができる。
原水中の全有機炭素の上限値は特に制限されない。例えば、原水中の全有機炭素は、処理効率の観点から、100mg/L以下が好ましく、50mg/L以下がより好ましい。
【0020】
分子量が10000以上である有機化合物の原水中の含有量は、0.001~1mg/Lでもよく、0.005~0.5mg/Lでもよく、0.01~0.1mg/Lでもよい。分子量が10000以上である有機化合物の原水中の含有量が前記上限値以下であると、有機物の析出が起きにくく、析出した有機物による逆浸透膜の閉塞をさらに抑制できる。分子量が10000以上である有機化合物の原水中の含有量が前記下限値以上であっても、本実施形態では、後述のように被処理水のpHの下限値を所定の数値以上に調整するため、有機物が析出しにくく、逆浸透膜の閉塞を防止でき、処理効率を維持したまま透過水を得ることができると考えられる。
【0021】
原水は、有機物に加えて、シリカ、カルシウム、マグネシウム、鉄及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のイオン状の無機物をさらに含んでもよい。原水がこれらの無機物をさらに含む場合、本実施形態では、後述のように被処理水のpHの上限値を所定の数値以下に調整するため、無機物が析出しにくく、逆浸透膜の閉塞を防止でき、処理効率を維持したまま透過水を得ることができると考えられる。
【0022】
原水のMアルカリ度は、酸成分の使用量の抑制、逆浸透膜の膜閉塞の抑制等の観点から、100mg/L以上が好ましく、200mg/L以上がより好ましく、300mg/L以上が特に好ましい。原水のMアルカリ度が前記下限値以上であっても、本実施形態では被処理水のpHの下限値を所定の数値以上に調整するため、酸成分の使用量が増大しにくく、水処理の低コスト化を図ることができる。
原水のMアルカリ度の上限値は特に制限されない。例えば、処理効率の観点から、原水のMアルカリ度は、1000mg/L以下が好ましく、700mg/L以下がより好ましい。
【0023】
本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、原水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する。
図1に示すように、まず、原水は井戸11から原水流路21を流れ、被処理水槽12に供給される。被処理水槽12内では酸添加手段31によって酸成分が添加され、酸成分と原水とが混合される。その他、有機物を原水中に分散させる目的で原水に分散剤をさらに添加してもよい。分散剤の添加により、後述のフラッシングの際の逆浸透膜の表面の洗浄効果の向上を期待できる。
次いで、被処理水はポンプ14によって送液されて被処理水流路22を流れる。その後、被処理水は、プレフィルター15、昇圧ポンプ16をこの順に経由して逆浸透膜ろ過装置17における逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜に供給され、逆浸透膜で処理される。
【0024】
このように、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、原水(井戸水)を直接、逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜で処理することが好ましい。原水を「直接、逆浸透膜で処理する」とは、地下水、井戸水等の原水に対して前処理を施さずに、原水を逆浸透膜に供給することを意味する。ここで、前処理とは、例えば、全有機炭素の低減、鉄及びマンガンの除去、原虫及び雑菌の除去等を目的として行われる処理が挙げられる。
従来の逆浸透膜を用いる水処理方法では、逆浸透膜に供給する被処理水中の不純物等の総量を一定量以下とした後に、逆浸透膜に供給することが推奨されていた。逆浸透膜の目詰まりによる透過能の低下、透過能の維持のために圧力差を大きくすることに起因する逆浸透膜の破損を防止するためである。
これに対して、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、後述のように逆浸透膜の被処理水のpHを所定の範囲内に制御するため、被処理水からの析出物の発生が抑制される。したがって、井戸水等の地下水(原水)を被処理水として直接、逆浸透膜に供給しても、逆浸透膜で連続的に透過水を得ることができる。原水を直接、逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜で一括して処理することで、全有機炭素(TOC)、鉄及びマンガン、原虫及び雑菌、硬度の各項目の水質を逆浸透膜によって改善できる。そのため、装置及び処理フローが簡素化し、水処理の低コスト化を図ることができ、さらには処理システム1の省スペース化を図ることができる。
【0025】
次いで、各逆浸透膜モジュール18に供給された被処理水は、各逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜によって透過水と濃縮水とにそれぞれ分離される。その後、各逆浸透膜モジュール18の各透過水は、透過水流路24を流れ、処理水槽19に処理水として貯留される。
一方、各逆浸透膜モジュール18の各濃縮水は、濃縮水流路23に集められる。濃縮水流路23の濃縮水の一部は、その後循環用流路25を流れ、被処理水槽12に再度供給される。そのため、濃縮水の一部は被処理水槽12内で井戸11からの原水と混合され、被処理水として逆浸透膜ろ過装置17に再供給される。また、濃縮水流路23の濃縮水の残部は、排水用流路26を流れ、処理システム1の外部に排出される。
【0026】
本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、各逆浸透膜モジュール18が有する各逆浸透膜に供給される被処理水のpHが5.8~7.8となるよう調整する。
各逆浸透膜モジュール18の被処理水のpHは、5.8~7.8の範囲内であり、6.3~7.5の範囲内が好ましく、6.5~7.3の範囲内がより好ましく、6.7~7.2の範囲内が特に好ましい。
被処理水のpHが前記下限値以上であることにより、各逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜の一次側の表面で有機物が析出しにくくなり、逆浸透膜の閉塞を防止できる。加えて、被処理水のpHの下限値に特に制限を設けない従来の運転方法と比較して、pHを低下させるための酸成分の使用量が少なくなり、低コスト化を図ることができる。また、被処理水のpHが前記上限値以下であることにより、各逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜の一次側の表面で鉄、マンガン等の金属の酸化物が析出しにくくなり、逆浸透膜の閉塞を防止できる。
被処理水のpHの調整は、例えば、酸添加手段31による酸成分の添加によって行うことができる。
【0027】
各逆浸透膜モジュール18に供給される被処理水中の全有機炭素は、3.0mg/L以上でもよく、5.0mg/L以上でもよく、10.0mg/L以上でもよい。本実施形態では、被処理水のpHの下限値が所定の数値以上となるように調整するため、被処理水中の全有機炭素が前記下限値以上であっても、逆浸透膜の閉塞を防止でき、逆浸透膜の目詰まりによる透過能の低下が起きにくく、処理効率を維持したまま透過水を得ることができる。
被処理水中の全有機炭素の上限値は特に制限されない。例えば、被処理水中の全有機炭素は、100mg/L以下でもよく、500mg/L以下でもよい。
【0028】
本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、各逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜で所定の時間、被処理水をろ過して処理する。
逆浸透膜で被処理水をろ過する際には、各逆浸透膜モジュール18内が被処理水で満たされ、各逆浸透膜モジュール18内の水圧が高くなり、逆浸透膜に圧力が加えられていく。その後、各逆浸透膜に加わる水圧が浸透圧より高くなると、逆浸透膜において逆浸透現象が起き、被処理水中の溶質濃度が各逆浸透膜の一次側で局所的に高くなり、透過水が得られる。これにより、各逆浸透膜の一次側で濃縮水がそれぞれ生成し、各濃縮水は、各逆浸透膜の二次側の各透過水とそれぞれ分離される。このようにして、被処理水をろ過して処理できる。
【0029】
逆浸透膜による被処理水のろ過を行う時間は、特に限定されず、例えば、処理効率を考慮して適宜設定できる。逆浸透膜による被処理水のろ過を行う時間は、例えば、5~1500分としてもよく、15~180分としてもよい。被処理水のろ過を行う時間が前記下限値以上であると、得られる透過水の量が多くなり、処理効率を実用上充分に高く維持できる傾向がある。被処理水のろ過を行う時間が前記上限値以下であると、逆浸透膜の閉塞をさらに防止しやすくなる。
【0030】
本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、逆浸透膜で所定の時間、被処理水をろ過して処理した後に、逆浸透膜の閉塞のリスクが高くなる。
そこで、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、所定の時間、被処理水を処理した後、各逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜を定期的に圧力開放する。定期的に逆浸透膜を圧力開放することで、逆浸透膜の表面の溶質が拡散することにより濃度分極の状態が解消される。そのため、逆浸透膜の一次側の濃度分極を定期的に解消でき、逆浸透膜の一次側の表面での無機物、有機物の析出を未然に防ぐことができる。
ここで、「逆浸透膜を定期的に圧力開放する」とは、所定の期間、被処理水をろ過した後、各逆浸透膜モジュール18内の被処理水の水圧から逆浸透膜を解放することを意味する。ここでいう「所定の期間」とは、原則として、一定の期間を意味する。ただし、「所定の期間」は、必ずしも常に厳密に一定の期間である必要はなく、本発明の効果が得られる範囲内であれば、多少の期間(例えば、1~10分程度の差)の長短が許容される。
【0031】
逆浸透膜の圧力開放に際しては、逆浸透膜の二次側(透過水側)を圧力開放してもよい。逆浸透膜の二次側(透過水側)を圧力開放することにより、逆浸透膜の二次側の水分が正浸透によって逆浸透膜の一次側(被処理水側)に移動する。その結果、逆浸透膜の一次側の溶質濃度も定期的に低減でき、逆浸透膜の一次側の表面での無機物、有機物の析出を確実かつ未然に防ぐことができる。
【0032】
逆浸透膜を圧力開放する時間は、特に限定されず、例えば、処理効率を考慮して適宜設定できる。逆浸透膜を圧力開放する時間は、例えば、10~600秒としてもよく、30~120秒としてもよい。逆浸透膜を圧力開放する時間が前記下限値以上であると、逆浸透膜の一次側の表面での無機物、有機物の析出を防ぎやすい。逆浸透膜を圧力開放する時間が前記上限値以下であると、透過水の処理効率を実用上充分に高く維持できる傾向がある。
【0033】
逆浸透膜を圧力開放するための具体的手法は、逆浸透膜を各逆浸透膜モジュール18内の被処理水の水圧から解放して、逆浸透膜の表面の濃度分極を解消できる方法であれば、特に限定されない。例えば、以下の手法が挙げられるが、圧力開放の具体的態様は以下の例示に限定されない。
例えば、逆浸透膜ろ過装置17が逆浸透膜モジュール18内に供給された被処理水を抜き出すための図示略の抜出管と、抜出管に設けられた図示略の抜出バルブとを有する場合には、抜出バルブを緩め、逆浸透膜の一次側の圧力を低下させることで、逆浸透膜を圧力開放できる。
他にも、昇圧ポンプ16を停止して、逆浸透膜の一次側の圧力を低下させることで、逆浸透膜を圧力開放してもよい。
【0034】
本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、仮に被処理水から有機物等の成分が析出したとしても、またはその析出物が逆浸透膜の一次側の表面で堆積したとしても、圧力開放した際に、フラッシングをさらに実施することで、逆浸透膜の表面の堆積物を洗い流すことができる。そのため、逆浸透膜の閉塞をさらに効果的に防止できる。
【0035】
フラッシングを実施するための具体的な手法は特に限定されない。例えば、以下の手法が挙げられるが、フラッシングの具体的態様は以下の例示に限定されない。
例えば、ポンプ14及び昇圧ポンプ16によって、被処理水流路22を介して各逆浸透膜モジュール18内に送液される被処理水の流量を、被処理水をろ過する際の流量より多くすることでフラッシングを実施できる。これにより、被処理水をろ過する際の流量より多くの被処理水が、洗浄水として逆浸透膜の表面を流れ、逆浸透膜の表面に堆積した析出物を洗い流すことができ、逆浸透膜の閉塞を防止する効果がさらに高くなる。
他にも、濃縮水流路23に背圧弁を設置し、その背圧弁の開度を大きくして、被処理水をろ過する際の流量より多くの被処理水を逆浸透膜の表面に流すことで、フラッシングを実施してもよい。
【0036】
フラッシングの際には、原水、濃縮水に加えて、被処理水中に透過水又は純水をさらに含む洗浄水を使用してもよい。透過水又は純水を含む洗浄水を使用すると、よりきれいな洗浄水で逆浸透膜を洗浄でき、逆浸透膜の表面の析出した有機物等を含む堆積物をさらに効果的に除去でき、逆浸透膜の閉塞を防止する効果がさらに高くなる。
【0037】
フラッシングの際の被処理水の流速は、0.05m/s以上が好ましく、0.2m/s以上がより好ましく、0.5m/s以上がさらに好ましい。フラッシングの際の被処理水の流速が前記下限値以上であると、フラッシングによる洗浄効果のさらなる向上を期待できる。ここで、フラッシングの際の被処理水の流速は、逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜の表面における被処理水の流速として測定される。
【0038】
フラッシングは逆浸透膜を定期的に圧力開放した際に行われるが、フラッシング自体は、逆浸透膜を圧力開放する度に一定の期間をおいて定期的に行ってもよく、一定の期間をおかずに、不規則的に行ってもよい。ただし、フラッシングによる逆浸透膜の洗浄効果、分離能の回復効果を考慮すると、フラッシングも圧力開放と同様に定期的に行うことが好ましいと考えられる。
【0039】
(作用効果)
以上説明した本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、逆浸透膜モジュール18に供給される被処理水のpHが5.8以上となるように調整するため、逆浸透膜の一次側の表面で有機物が析出しにくくなり、有機物による逆浸透膜の閉塞を抑制できる。
また、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、逆浸透膜モジュール18に供給される被処理水のpHが7.8以下となるよう調整するため、逆浸透膜モジュール18の逆浸透膜の一次側の表面で無機物が析出しにくくなり、金属酸化物による逆浸透膜の閉塞も抑制できる。
加えて、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、逆浸透膜で被処理水を処理した後、逆浸透膜を定期的に圧力開放する。そのため被処理水をろ過した後の逆浸透膜の表面の濃度分極の状態を定期的に解消できる。その結果、逆浸透膜の一次側の表面での無機物、有機物の析出を抑制し、無機物、有機物による逆浸透膜の閉塞を未然に防止できる。
したがって、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法によれば、被処理水中の無機物の析出を抑制しながら、有機物の析出も抑制でき、逆浸透膜の閉塞を防止できる。
さらに、逆浸透膜の二次側を圧力開放する場合には、二次側(透過水側)から一次側(被処理水側)に透過水が正浸透によって定期的に移動することも可能である。よって、この場合には、逆浸透膜の一次側の有機物の溶質濃度を定期的に低減できる。その結果、逆浸透膜の一次側の表面での無機物、有機物による逆浸透膜の閉塞を確実に防止できる。
【0040】
さらに本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、逆浸透膜モジュール18に供給される被処理水のpHが5.8以上となるように調整する。そのため、pHを5.8未満に低下させる場合と比較して酸成分の使用量が少なくなり、水処理の低コスト化を図ることができるという効果も得られる。
【0041】
フラッシングのみによって逆浸透膜の洗浄を行うような従来の運転方法では、フラッシング後の洗浄水に多量の堆積物が含まれていることがある。このように多量の堆積物を含むフラッシング後の洗浄水は、被処理水として逆浸透膜のろ過に再利用できず、そのまま廃棄せざるを得ない場合がある。このように、フラッシングに被処理水を使用してその後廃棄すると、被処理水から処理水を回収する水処理システム全体の回収効率の低下の原因となり得る。
これに対して、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法では、逆浸透膜の定期的な圧力開放により逆浸透膜の閉塞を未然に防ぐことができるため、フラッシングを実施する回数及び頻度を低減できる。加えて、逆浸透膜の表面の堆積物の量が少なくなり、フラッシングを実施したとしても、フラッシング後の洗浄水に混入する堆積物の量も相対的に少なくなると考えられる。そのためフラッシング後の洗浄水を被処理水として逆浸透膜のろ過に再利用することが充分に可能となり、フラッシングの際に被処理水を使用した場合でも、処理水の回収効率が低下せず、水処理システムの処理効率がよくなる。
このように本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法によれば、同一量の被処理水から回収可能な処理水の量、回収効率の向上を期待でき、水処理の低コスト化を図ることができる。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
本実施例及び比較例では共通して井戸水を原水として使用した。濃縮前の井戸水の各水質項目の測定値を以下に記載する。
pH:8.3
全有機炭素:2.0mg/L
鉄:0.03mg/L
マンガン:0.005mg/L未満
カルシウム:16mg/L
マグネシウム:5mg/L
シリカ:52mg/L
Mアルカリ度:233mg/L
【0044】
本実施例及び比較例では
図2に示す平膜試験装置40を使用した。平膜試験装置40は、容器41と平膜セル42と供給配管43と透過水配管44と濃縮水配管45とポンプ46と圧力計47と背圧弁48とスターラー49と攪拌子50を有する。
図3は、
図2の平膜試験装置40の容器41と平膜セル42を示す断面模式図である。容器41には平膜セル42が固定されており、容器41は、平膜セル42の下側の第1のケース41aと、平膜セル42の上側の第2のケース41bとを有する。第1のケース41aと第2のケース41bとの間には、平膜セル42がOリング51を介して固定されている。平膜セル42の下側にある第1のケース41aで囲まれた空間は、原水室Aとなる。また、平膜セル42の上側にある第2のケース41bで囲まれた空間は、透過水室Bとなる。平膜セル42は、逆浸透膜52と、逆浸透膜52の透過水室B側(透過水側)の面を支持する多孔質支持板53を有する。
【0045】
平膜試験装置40においては、
図2、3に示すように、被処理水は供給配管43を流れ、ポンプ46で昇圧され、密閉容器41内の下側の原水室Aに供給される。原水室A内に供給された被処理水は、スターラー49で回転させた攪拌子50により攪拌され、原水室A内に充満されて加圧され、逆浸透膜52によって処理される。逆浸透膜52の透過水は、平膜セル42の上側の透過水室Bを経て透過水配管44を流れる。逆浸透膜52の濃縮水は、濃縮水配管43を流れる。逆浸透膜52による被処理水の処理に際して、原水室A内の圧力は、濃縮水配管45に設けられた背圧弁48により調整可能であり、圧力計47によって測定する。実施例及び比較例において逆浸透膜52としては、日東電工製「ESPA2(膜面積:8cm
2)」を使用した。
【0046】
<実施例1>
まず、硫酸を添加して井戸水のpHを7.0に調整した。次いで、pHを7.0に調整した井戸水:5Lを平膜試験装置40で3.3倍に濃縮した。濃縮に際しては、背圧弁48の開度を調整して、井戸水の供給圧力を0.5MPaとし、逆浸透膜52の濃縮水を供給配管43に再度供給して循環させる一方で、逆浸透膜52の透過水を系外に排出することで、井戸水を濃縮した。その後、濃縮後の井戸水に硫酸を添加して再度pHを7.0に調整して被処理水とした。
次いで、被処理水を59分間、逆浸透膜で処理して透過水と濃縮水とに分離した。被処理水の処理に際しては、水圧が0.5MPaになるように背圧弁48の開度を調整し、透過水及び濃縮水のそれぞれを供給配管44に再度供給して、透過水及び濃縮水を混合しながら循環させ、逆浸透膜52の透過流量の経時変化を観察した。
その後、1分間、背圧弁48を開放して逆浸透膜を圧力開放した。この被処理水の分離を59分間行い、その後、逆浸透膜の圧力開放を1分間行う合計60分間の工程を1サイクルとし、この工程を合計100サイクル行った。
被処理水の分離開始後0分のときの透過水の流量に対する、100サイクル経過後の透過水の流量の比を相対フラックスとして算出した。その結果を表1に示す。また、pHを7.0に調整した被処理水のランゲリア指数(LSI)、被処理水のpHを調整するために使用した硫酸の使用量を表1にあわせて示す。
【0047】
<実施例2>
まず、硫酸を添加して井戸水のpHを6.0に調整した。次いで、pHを6.0に調整した井戸水:5Lを平膜試験装置40で、実施例1と同様にして3.3倍に濃縮した。その後、濃縮後の井戸水に硫酸を添加して再度pHを6.0に調整して被処理水とした。
次いで、被処理水を60分間、逆浸透膜で処理して透過水と濃縮水とに分離した。被処理水の処理に際しては、水圧が0.5MPaになるように背圧弁48の開度を調整し、透過水及び濃縮水のそれぞれを供給配管44に再度供給して、透過水及び濃縮水を混合しながら循環させ、逆浸透膜52の透過流量の経時変化を観察した。
その後、0.5分(30秒)間、背圧弁48を開放して逆浸透膜を圧力開放した。この被処理水の分離を60分間行い、その後、逆浸透膜の圧力開放を0.5分(30秒)間行う合計60.5分間の工程を1サイクルとし、この工程を合計100サイクル行った。
被処理水の分離開始後0分のときの透過水の流量に対する100サイクル経過後の透過水の流量の比を相対フラックスとして算出した。その結果を表1に示す。また、pHを6.0に調整した被処理水のランゲリア指数(LSI)、被処理水のpHを調整するために使用した硫酸の使用量を表1にあわせて示す。
【0048】
<比較例1>
被処理水のpHを6.0に調整し、逆浸透膜で被処理水を処理し、かつ、定期的な圧力開放及びフラッシングを実施せずに100時間、被処理水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離した以外は、実施例1と同様にして処理水を得た。
【0049】
<比較例2>
被処理水槽12内の被処理水に酸成分として硫酸を添加せずに被処理水のpHを8.3のまま、逆浸透膜で原水を処理した以外は、実施例1と同様にして処理水を得た。
【0050】
<比較例3>
被処理水のpHを5.5に調整し、逆浸透膜で被処理水を処理した以外は、実施例1と同様にして処理水を得た。
【0051】
【0052】
表1に示すように実施例1、2でpHの調整に要した硫酸の使用量は、それぞれ57mg/L、171mg/Lであった。また、100時間後の相対フラックスは、それぞれ0.92、0.97であった。
【0053】
これに対し、定期的な圧力開放及びフラッシングを実施しなかった比較例1では、100時間後の相対フラックスが0.87に低下していた。比較例1で相対フラックスが低下した原因としては、逆浸透膜の表面に析出した有機物が堆積していたことであると考えられた。
【0054】
被処理水に酸成分として硫酸を添加せずに被処理水のpHを8.3のまま、逆浸透膜で被処理水を処理した比較例2では、100時間後の相対フラックスが0.49に低下していた。比較例2で相対フラックスが低下した原因としては、被処理水のpHが本発明で規定する上限値超であることから、被処理水中の鉄、マンガン等の金属の酸化物が析出し、析出した無機物によって逆浸透膜の表面で堆積したためであると考えられた。
【0055】
以上説明した実施例及び比較例の結果から、本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法によれば、被処理水中の無機物の析出を抑制しながら、有機物の析出も抑制でき、逆浸透膜の閉塞を防止できると考えられた。
加えて、比較例3では、被処理水のpHを5.5に調整するための硫酸の使用量が220mg/Lとなり、実施例1、2の硫酸の使用量と比較して増加した。このように、実施例1、2では、より少ない酸成分の使用量で逆浸透膜の閉塞を抑制できる範囲内に被処理水のpHを調整できた。そのため本実施形態に係る逆浸透膜の運転方法によれば、水処理の低コスト化を図ることができると考えられた。