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特開2024-32983ジオポリマー組成物およびジオポリマー硬化体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032983
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ジオポリマー組成物およびジオポリマー硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/36 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
C04B7/36
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015343
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2021159906の分割
【原出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】518208716
【氏名又は名称】ポゾリス ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 太洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 宣裕
(72)【発明者】
【氏名】シダート ロイ チョウドゥリー
(72)【発明者】
【氏名】ジン チェ
(57)【要約】
【課題】本発明は、産業副産物を効率的に有効利用しつつ、重金属の溶出を抑制することができる硬化体を製造可能であり、かつ、長時間における高流動性の確保と短期間での簡便な手法による高強度発現とを両立することができるジオポリマー組成物を提供する。
【解決手段】ジオポリマー組成物は、活性フィラーと、骨材と、水と、アクティベーターと、分散剤とを含むジオポリマー組成物であって、前記分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤であり、かつ、その配合量は、前記ジオポリマー組成物の全質量に対して0.1質量%~2.0質量%であり、前記活性フィラーは、JIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰および高炉スラグ微粉末を合計量で85質量%以上含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性フィラーと、骨材とを混合する粉体混合工程と、前記粉体混合工程の後に、混合物に、水と、アクティベーターと、分散剤とを加えて混合および混錬する混錬工程と、調製したジオポリマー組成物を養生することと、を含む、ジオポリマー硬化体の製造方法であって、
前記養生では、蒸気養生およびオートクレーブ養生は行わず、
前記分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤であり、かつ、その配合量は、前記ジオポリマー組成物の全質量に対して0.1質量%~2.0質量%であり、
前記活性フィラーは、JIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰および高炉スラグ微粉末を合計量で85質量%以上含む、ジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記活性フィラーは、シリカフュームをさらに含む、請求項1に記載のジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記骨材は、高炉スラグ細骨材、高炉スラグ粗骨材および天然の骨材のうちの少なくとも一つを含む、請求項1または2に記載のジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記ジオポリマー硬化体のJIS A 1108に準拠して測定される一軸圧縮強度が、材齢7日において10MPa以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項5】
前記ジオポリマー硬化体のJIS A 5371に準拠して測定される曲げひび割れ耐力が、材齢5日において3.5kN・m以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項6】
前記水の配合量は、前記ジオポリマー組成物の全質量に対して1.5質量%~6質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項7】
前記水、前記アクティベーターおよび前記分散剤の合計の配合量は、前記ジオポリマー組成物の全質量に対して11.1質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のジオポリマー硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオポリマー組成物およびその硬化物であるジオポリマー硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、モルタル、人造石、建築用硬化部材等の硬化体には、一般的に、セメントが含まれている。しかしながら、セメントを用いてこれらの硬化体を製造する場合、焼成時にCOを多く排出してしまうという問題がある。そのため、セメントを使用せず、環境面から好適であるこれらの硬化体を製造する方法が注目されており、特にジオポリマー法を用いる製造方法が盛んに研究されている。
【0003】
ジオポリマー法は、ケイ素やアルミニウムの縮重合体をバインダーとして利用し、粉末同士を接合して人工の岩石を製造する技術である。このジオポリマー法により形成されるジオポリマー硬化体は、アルミノシリケート源である活性フィラーとアクティベーターとしてのアルカリ水溶液(または「アルカリ刺激剤」とも言う)とを用い、ポゾラン反応を生じさせることによって製造される。活性フィラーとしては、カオリン、粘土等の天然物、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ、もみ殻灰等を利用することができる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水ガラス等の水溶液を用いることができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、フライアッシュ、高炉スラグ、下水焼却汚泥、カオリンの少なくとも1つを含む活性フィラーと、シリカまたはシリカ化合物と、アルカリ水溶液とからなるジオポリマー組成物であって、溶液中に含まれるシリカ量とアルカリ量のモル比が0.50未満であり、溶液中に含まれるアルカリ量と水量のモル比が0.075以上であり、活性フィラーは、カルシウム化合物の含有量xが0<x≦30(vol%)であることを特徴とする耐久性を向上させたジオポリマー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6284388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在までに研究および報告されているジオポリマー組成物の硬化体には、セメントを使用したコンクリート、モルタル等の硬化体の代替物として実用化するには多くの問題が存在する。
【0007】
具体的には、現在までに報告されているジオポリマー組成物は、その硬化速度が速すぎて、練り上げから1時間程度経過後に流動性が顕著に低下し、凝結が始まるものが多い。ジオポリマー組成物の硬化速度が速すぎると、コンクリート、モルタル等の硬化体製品の製造現場における取り扱いが悪くなる。一方、硬化速度を遅くして良好な流動性をなるべく長く維持するために、ジオポリマー組成物に水を多く添加する場合がある。しかしながら、水を多く添加する場合、ジオポリマー硬化体が強度を得るために長期間の養生が必要となり、かつ、製造される硬化体の強度も十分とは言い切れない。あるいは、水中、湿潤、気中等の通常の養生を蒸気養生に代えることにより強度を得るための期間を短くすることができるが、蒸気養生は高価であるため製造コストが顕著に高くなる。
【0008】
このように、現在までに報告されているジオポリマー組成物を用いた硬化体の製造方法によると、より長時間において良好な流動性を維持し、かつ、簡易な手法により短期間で所望する高強度の硬化体を得ることは難しい。
【0009】
また、ジオポリマー組成物は、その原料の活性フィラーに、多くの産業副産物(例えば石炭灰等)(以下、単に「副産物」とも言う)を利用することができる。そのため、環境負荷低減の観点から有利である。しかしながら、未処理の石炭灰等の副産物は、個々の粉体等において、その組成、粒径、重金属の含有量等が一定ではなく、品質にバラツキがある。そのため、ジオポリマー組成物の製造に未処理の副産物をそのまま用いる場合、当該品質のバラツキから、ジオポリマー組成物およびその硬化体の物性等にも影響を及ぼしていることが想定される。一方、JIS A 6201:2015には、コンクリート用フライアッシュの品質等に合致するかを評価する手法や、その規格について規定されている。従って、一般的に、副産物である石炭灰を用いる場合、当該規格に適合させるための処理を石炭灰に施すことが好ましい。
【0010】
加えて、石炭灰等の副産物を利用してジオポリマー組成物の硬化体として製品化した際に、環境または人体に影響する量の重金属が溶出するか否かは重要な問題である。しかしながら、現在までのジオポリマー組成物のコンクリート等の硬化体では、このような課題について検討されたとの報告はなされていない。そのため、石炭灰等の副産物が含まれるジオポリマー硬化体における重金属溶出を抑制するための条件は明らかになっていない。具体的には、例えば、ジオポリマー組成物の硬化体は、その高い耐熱性や耐酸性から、温泉地の舗装・境界ブロック、鉄道の枕木等といったプレキャスト製品に適用されている。しかし、このような適用事例において、土壌、河川等に接するプレキャスト製品からの重金属等の溶出に関する詳細は明らかにされていない。
【0011】
このように、ジオポリマー硬化体の製造に副産物の石炭灰を前処理なくそのまま用いる場合には、品質のバラツキが与える影響の問題だけでなく、重金属溶出の問題にも対処する必要がある。なお、特許文献1には、このような石炭灰等の副産物の品質のバラツキや硬化体からの重金属溶出といった問題については、記載も示唆もされていない。
【0012】
従って、ジオポリマー組成物における高流動性および短期間での高強度発現の問題だけでなく、原料に副産物が利用される場合の品質のバラツキの問題および硬化体とした際における重金属溶出抑制という新たな課題についても対処することができる新規なジオポリマー組成物が求められる。
【0013】
そこで、本発明は、産業副産物を効率的に有効利用しつつ、重金属の溶出を抑制することができる硬化体を製造可能であり、かつ、長時間における高流動性の確保と短期間での簡便な手法による高強度発現とを両立することができるジオポリマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0015】
本発明の第一の局面に係るジオポリマー組成物は、活性フィラーと、骨材と、水と、アクティベーターと、分散剤とを含むジオポリマー組成物であって、
前記分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤であり、かつ、その配合量は、前記ジオポリマー組成物の全質量に対して0.1質量%~2.0質量%であり、
前記活性フィラーは、JIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰および高炉スラグ微粉末を合計量で85質量%以上含む。
【0016】
前述のジオポリマー組成物において、前記活性フィラーは、シリカフュームをさらに含むことが好ましい。
【0017】
前述のジオポリマー組成物において、前記骨材は、高炉スラグ細骨材、高炉スラグ粗骨材および天然の骨材のうちの少なくとも一つを含むことがより好ましい。
【0018】
前述のジオポリマー組成物において、前記ジオポリマー組成物の硬化物のJIS A 1108に準拠して測定される一軸圧縮強度が、材齢7日において10MPa以上であることがさらに好ましい。
【0019】
前述のジオポリマー組成物において、前記ジオポリマー組成物の硬化物のJIS A 5371に準拠して測定される曲げひび割れ耐力が、材齢5日において3.5kN・m以上であることが特に好ましい。
【0020】
本発明の第二の局面に係るジオポリマー硬化体は、前述の第一の局面に係るジオポリマー組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、産業副産物を効率的に有効利用しつつ、重金属の溶出を抑制することができる硬化体を製造可能であり、かつ、長時間における高流動性の確保と短期間での簡便な手法による高強度発現とを両立することができるジオポリマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、重金属の溶出を抑制することができる硬化体を製造可能であり、同時に、長時間における高流動性と短期間での高強度発現とを両立可能なジオポリマー組成物について、様々な研究を重ねた。そして、ジオポリマー組成物中に含ませる分散剤および活性フィラーの種類ならびにそれらの配合量に着目し、本発明を完成した。
【0023】
具体的には、本実施形態に係るジオポリマー組成物は、活性フィラーと、骨材と、水と、アクティベーターと、分散剤とを含み、該分散剤は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤であり、かつ、その配合量は、ジオポリマー組成物の全質量に対して0.1質量%~2.0質量%である。また、活性フィラーは、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰および高炉スラグ微粉末を合計量で(該活性フィラー全量に対して)85質量%以上含む。
【0024】
本実施形態に係るジオポリマー組成物では、前述した分散剤の作用によって、当該ジオポリマー組成物の硬化速度を遅くすることができ、一方で当該硬化速度遅延作用は数時間で消えるため、長時間における高流動性と短期間での強度発現とを両立することができる。また、当該分散剤の添加によって流動性確保のための多量の水の添加は不要となり、同時に、特定の種類かつ特定配合量の活性フィラーを用いることによって、ジオポリマー組成物の硬化物の顕著な高強度化が可能となる。その結果、ジオポリマー組成物の硬化体の重金属の溶出を抑制することができる。さらに、活性フィラーとして含まれる石炭灰は、主に、その品質を均一にするための特別な前処理を施していない石炭灰(具体的にはJIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰(以下、単に「未処理の石炭灰」とも言う))であるが、このような本実施形態に係るジオポリマー組成物の効果を得ることができる。
【0025】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0026】
1.ジオポリマー組成物
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、活性フィラーと、骨材と、水と、アクティベーターと、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤とを含む。以下、各成分の機能およびその配合量、ジオポリマー組成物の製造または調製方法、ならびにその物性等について、詳細に説明する。
【0027】
<活性フィラー>
活性フィラーは、アルカリに対して活性を有するアルミノシリケートを主たる成分として含む粉末である。活性フィラーに、後述するアクティベーター、少量の水等を加えると、活性フィラー中のケイ素やアルミニウムが部分的に溶解またはイオン化する。溶解後、アルカリシリカ溶液中で単量体(モノマー)に近い状態で存在するシリカが、金属イオンを取り込み、脱水縮合反応が起こり、硬化した高分子化合物(ポリマー)が生成し、ジオポリマー組成物の硬化物となる。
【0028】
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、活性フィラーとして、JIS A 6201で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰および高炉スラグ微粉末を(該活性フィラー全量に対して)合計量で85質量%以上含む。当該石炭灰および高炉スラグ微粉末を合計量で85質量%以上含むことによって、副産物を効率的に有効利用することができる。一方、これらの合計量が85質量%に満たない場合は、副産物を効率的に有効利用できているとは言えないため、製造コストが嵩んでしまう可能性があり得る。未処理の石炭灰および高炉スラグ微粉末の合計量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。さらに、活性フィラーとしてシリカフュームを含むことが好ましい。
【0029】
以下、これらの各々の成分の機能およびその配合量について、詳細に説明する。
【0030】
(石炭灰)
活性フィラーとして含まれる、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰(未処理の石炭灰)は、例えば、石炭火力発電所等で石炭燃焼の際に生成する副産物として得ることができ、主成分として二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)等を含む。本明細書において、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰とは、換言すれば、粉砕処理および/または粒度調整、好ましくは粒度調整がなされていない石炭灰である。または、例えば、2900cm/g~3600cm/g程度のブレーン比表面積を有し、粉砕処理および/または粒度調整、好ましくは粒度調整がなされていない石炭灰である。あるいは、換言すれば、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰とは、好ましくは、火力発電所およびボイラーのうちの少なくとも一つから産業副産物として生産される(未処理の)石炭灰である。詳細には、例えば、集塵機で排ガスから捕捉されるフライアッシュ、ボイラー底部の灰の塊を粉砕したボトムアッシュ等が挙げられる。2種以上の石炭灰を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本実施形態に係るジオポリマー組成物によると、活性フィラーとしてJIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施していない石炭灰を用いた場合であっても、成型物である硬化体の重金属の溶出抑制、ジオポリマー組成物自体の高流動性、および、短期間での高強度発現の効果を得ることができる。換言すると、使用する石炭灰の大きさ、組成、重金属の含有範囲等が均一でなく、その品質にある程度バラツキがある場合であっても、特定の種類かつ特定配合量の分散剤および活性フィラーを用いることによって、前述した効果を得ることができる。
【0032】
活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量は、特に限定されない。例えば、未処理の石炭灰の配合量は、活性フィラーの全質量に対して、好ましくは3質量%~77質量%である。活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量を3質量%以上にすることによって、副産物として生成し得る石炭灰を資源として有効利用することができるため、環境によく、かつ、製造コストを下げることができる。活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量を77質量%以下にすることによって、ジオポリマー組成物の過剰な早期強度化を防ぐことができる。活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量は、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、活性フィラーの全質量に対する未処理の石炭灰の配合量は、より好ましくは73質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0033】
また、産業副産物を効率的に有効利用できるとの本実施形態における効果を大幅に損なわない範囲において、任意にて、活性フィラーとしてJIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施した石炭灰(以下、単に「処理後の石炭灰」とも言う)を少量含んでもよい。具体的には、活性フィラーの全質量に対する処理後の石炭灰の配合量は、例えば5質量%未満程度である。
【0034】
(高炉スラグ微粉末)
高炉スラグ微粉末は、例えば、高炉で鉄を精製する際に副産物として得られる高炉水砕スラグを微粉砕することにより得ることができ、主成分として、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)等を含む。具体的には、高炉スラグ微粉末は、公知の物であれば特に限定されず、市販品を用いても構わない。市販品の高炉スラグ微粉末としては、例えば、JIS A 6206の高炉スラグ微粉末4000の規格を満たす高炉スラグ微粉末を用いることができ、詳細には、神鋼スラグ製品株式会社が販売する「ケイメント」、日鉄高炉セメント社製の「エスメント」等を用いることができる。
【0035】
活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量は、特に限定されない。例えば、高炉スラグ微粉末の配合量は、活性フィラーの全質量に対して、好ましくは3質量%~77質量%である。活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量を3質量%以上にすることによって、副産物を資源として有効利用することができるため、環境によく、かつ、製造コストを下げることができる。活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量を77質量%以下にすることによって、ジオポリマー組成物の過剰な早期強度化を防ぐことができる。活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量は、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。また、活性フィラーの全質量に対する高炉スラグ微粉末の配合量は、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。
【0036】
(シリカフューム)
活性フィラーとして任意で含まれるシリカフュームは、例えば、フェロシリコン、金属シリコン、電解ジルコニア等を製造する際に発生する排ガス中のダストを集塵して得られる副産物であり、主成分として二酸化ケイ素(SiO)を含む。具体的には、シリカフュームは、高純度の二酸化ケイ素(SiO)の非晶質球状微粒子である。
【0037】
シリカフュームは、通常の活性フィラーとしての機能、すなわち脱水縮重合反応の起点となり硬化体の強度向上に繋がる機能だけでなく、球状であるために配合後のジオポリマー組成物の流動性を高める機能も有する。なお、シリカフュームは、市販品を用いても構わない。
【0038】
活性フィラーとしてシリカフュームを含む場合、シリカフュームの配合量は、特に限定されないが、活性フィラーの全質量に対して、好ましくは1質量%~20質量%である。活性フィラーの全質量に対するシリカフュームの配合量を1質量%以上にすることによって、前述したようなシリカフュームの作用を発揮させることができる。シリカフュームは高価であるため、活性フィラーの全質量に対するシリカフュームの配合量を20質量%以下にすることによって、ジオポリマー組成物の製造コストを抑えることができる。活性フィラーの全質量に対するシリカフュームの配合量は、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。また、活性フィラーの全質量に対するシリカフュームの配合量は、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下である。
【0039】
さらに、前述した石炭灰および高炉スラグ微粉末、ならびに、任意でのシリカフューム以外にも、アルカリに対して活性を有し、一般的に活性フィラーとして使用可能な他の成分も、本実施形態におけるジオポリマー組成物中に含まれていても構わない。例えば、赤泥、長石類、雲母類、沸石類、パーライト、粘土鉱物、カオリン、メタカオリン、下水道汚泥等が活性フィラーとして含まれていてもよい。
【0040】
活性フィラーの配合量は、ジオポリマー組成物中に配合されるアクティベーターとの比率で決めることができる。具体的には、例えばアクティベーターとして濃度8mol/L~10mol/L程度のアルカリ水溶液が使用される場合、活性フィラーの合計配合量に対するアクティベーターの配合量の割合(すなわち、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量))が、5%~30%となるように活性フィラーの配合量を調整することが好ましい。なお、アクティベーターの種類および濃度によって好ましい割合は多少変動するが、当該種類および濃度に応じて当該割合は適宜調整すればよい。例えば前述の濃度におけるアルカリ水溶液がアクティベーターとして使用される場合、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)を5%以上にすることによって、活性フィラーにおける脱水縮合反応を十分に生じさせることができ、最終的に十分な強度を有するジオポリマー硬化体を得ることができる。当該アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)を30%以下にすることによって、アクティベーターの量が過剰となることによる偽凝結を防ぐことができる。
【0041】
例えば前述の濃度におけるアルカリ水溶液がアクティベーターとして使用される場合、アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)は、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。また、当該アクティベーター(質量)/活性フィラー(合計質量)は、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0042】
前述したように、活性フィラーの合計配合量はアクティベーターとの比率で決められる。一方、ジオポリマー組成物の全質量に対する活性フィラーの具体的な合計配合量は、最終製造物であるジオポリマー硬化体の種類に応じて異なるため、適宜調整すればよい。ジオポリマー硬化体の種類とは、例えばコンクリート、モルタル等が挙げられる。
【0043】
<骨材>
骨材としては、特に制限されず、コンクリート、モルタル、人造石等の製造に用いられる公知の骨材を用いればよい。骨材は、85%以上において直径が5mm以上である粗骨材、および、85%以上において直径が5mm以下である細骨材のいずれの骨材も用いることができる。あるいは、これらを組み合わせて用いてもよい。骨材の種類は、最終製造物であるジオポリマー硬化体の用途に応じて適宜選択して用いることができる。また、2種以上の骨材を用いてもよい。
【0044】
細骨材としては、天然の骨材である一般的な珪砂等の細骨材を用いてもよいが、高炉スラグ細骨材を用いることが好ましい。高炉スラグ細骨材は、JIS A 5011-1:2018に規定されている。高炉スラグ細骨材を用いることによって、高炉スラグ細骨材が有する潜在水硬性、すなわち高炉スラグ細骨材中に含有される二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)等に起因して水和物が生成されて強度が上がる性質により、最終製造物であるジオポリマー硬化体の長期強度をより高くすることができる。高炉スラグ細骨材は、市販品を用いてもよい。市販品の高炉スラグ細骨材としては、例えば、神鋼スラグ製品株式会社が販売する「シンコーサンド」、JFEミネラル社製の高炉スラグ細骨材等が挙げられる。
【0045】
骨材として細骨材および粗骨材のいずれを用いる場合であっても、副産物を資源として有効利用することができ、環境適合性が高く、かつ、製造コストも低下させることができるという観点から、高炉スラグを原料とする骨材(すなわち、高炉スラグ細骨材および高炉スラグ粗骨材)を用いることが特に好ましい。
【0046】
骨材として細骨材を含ませる場合、ジオポリマー組成物の全質量に対する細骨材の配合量は、特に限定されず、所望する最終製造物であるジオポリマー硬化体の用途に合わせて調整すればよい。例えば、ジオポリマー組成物の全質量に対する細骨材の配合量は、好ましくは30質量%~70質量%である。ジオポリマー組成物の全質量に対する細骨材の配合量を30質量%以上にすることによって、最終製造物であるジオポリマー硬化体に十分な強度を与えることができる。ジオポリマー組成物の全質量に対する細骨材の配合量を70質量%以下にすることによって、組成物中における活性フィラーの割合が下がり、それによってジオポリマー組成物の硬化物の強度が低下することを避けることができる。
【0047】
さらに、骨材として細骨材を含ませる場合、ジオポリマー組成物の全質量に対する細骨材の配合量は、より好ましくは40質量%~60質量%である。
【0048】
<水(または「添加水」とも言う)>
水の種類は特に限定されず、水道水であってもよい。さらに、水のpH、温度等も任意であり、ジオポリマー組成物に含まれる各成分の種類やその配合量等に合わせて、適宜一般的な数値に調整すればよい。また、水には、本実施形態に係るジオポリマー組成物の流動性等の本実施形態における効果に影響を及ぼさない程度であれば、廃アルカリ水等を含んでいてもよい。
【0049】
水は、ジオポリマー組成物の流動性に寄与するが、本実施形態におけるジオポリマー組成物中には後述する分散剤が含まれており、当該分散剤は組成物の流動性を顕著に高めることができる。従って、水の配合量はごくわずかで構わない。具体的には、ジオポリマー組成物の全質量に対する水の配合量は、好ましくは1.5質量%~6質量%である。ジオポリマー組成物の全質量に対する水の配合量を1.5質量%以上にすることによって、配合後のジオポリマー組成物の流動性が顕著に低下することを防ぐことができる。ジオポリマー組成物の全質量に対する水の配合量を6質量%以下に抑えることによって、蒸気養生等の複雑な処理を行わなくてもより確実に短期間で硬化体の強度を発現させることができ、かつ、極めて高い強度の硬化体を得ることができる。
【0050】
また、ジオポリマー組成物の全質量に対する水の配合量は、より好ましくは2質量%~5質量%である。
【0051】
<アクティベーター>
アクティベーターは、活性フィラーの脱水縮合反応によるポリマー化の起点となる成分であり、活性フィラー中のアルミノシリケートと接触し、ケイ素やアルミニウムを溶解するアルカリ水溶液である。アクティベーターとしては、一般的に使用されているものであれば特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸カリウム等を用いることができる。
【0052】
アクティベーターであるアルカリ水溶液の濃度は、特に限定されず、例えば、6mol/L~12mol/Lであることが好ましい。当該好ましい濃度範囲は、アクティベーターの種類およびその含有量によって多少変動するが、適宜調整すればよい。アクティベーターの濃度を6mol/L以上にすることによって、活性フィラーにおける脱水縮合反応を十分に生じさせることができる。アクティベーターの濃度を12mol/L以下にすることによって、濃度が高することによる、過度な融解熱の発生を避けることができる。
【0053】
アクティベーターであるアルカリ水溶液の濃度は、その種類およびその含有量に応じて適宜調整する必要があるが、より好ましくは7mol/L以上、さらに好ましくは8mol/L以上である。また、アクティベーターであるアルカリ水溶液の濃度は、その種類およびその含有量に応じて適宜調整する必要があるが、より好ましくは11mol/L以下、さらに好ましくは10mol/L以下である。
【0054】
アクティベーターの配合量は、前述したように、ジオポリマー組成物中に配合される活性フィラーの合計配合量との比率から同様に決めることができる。
【0055】
<分散剤>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤(以下、単に「分散剤」とも言う)を含む。
【0056】
当該分散剤をジオポリマー組成物中に含むことによって、ジオポリマー組成物中における粒子を分散させ、ジオポリマー組成物の硬化反応を遅くすることができる。加えて、この分散剤による硬化反応の遅延作用は、数時間においてその効果が消える。そのため、本実施形態におけるジオポリマー組成物によると、製造現場における取り扱いを良好にすること等を目的として、より長い時間におけるジオポリマー組成物の流動性を確保するために、水を多く添加する必要がない。その結果、水を多く添加することによって生じていた、硬化体の強度発現までの長期化および養生後の硬化体の強度不足の問題も解消することができる。
【0057】
本明細書において、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテルを部分構造として含む重縮合物系分散剤とは、前述した作用を有し、かつ、規定された構造を有する高分子であれば、特に限定されない。このような分散剤としては、例えば、以下に述べる構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび構成単位Dを含む重縮合物を少なくとも1つ含む高分子が挙げられる。
【0058】
構成単位A:下記式(I)に示すポリエチレングリコールモノフェニルエーテル
【0059】
【化1】

[ただし、式(I)中、mは、3~280の整数である]
【0060】
構成単位B:少なくとも1つの水酸基を持つ環式化合物およびその誘導体であって、例えば、ベンゼン-1,2-ジオール、ベンゼン-1,2,3-トリオール、2-ヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシフタル酸、2,3-ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、3,4-ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,2-ジヒドロキシナフタレン-5-スルホン酸、1,2-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸、2,3-ジヒドロキシナフタレン-5-スルホン酸、2,3-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族化合物を含む構成単位が挙げられる。
【0061】
構成単位C:フェノール、エチレンオキサイドの繰り返し数が1もしくは2のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、または、フォスフェートもしくはフォスホネートを含むフェノキシエチル誘導体であって、例えば、フェノール、2-フェノキシエタノール、2-フェノキシエチルホスフェート、2-フェノキシエチルホスホネート、2-フェノキシ酢酸、2-(2-フェノキシエトキシ)エタノール、2-(2-フェノキシエトキシ)エチルホスフェート、2-(2-フェノキシエトキシ)エチルホスホネート、2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスフェート、2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスホネート、2-[4-(2-ホスホナトオキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスフェート、2-[4-(2-ホスホナトオキシエトキシ)フェノキシ]エチルホスホネート、メトキシフェノール、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の他の芳香族化合物を含む構成単位が挙げられる。
【0062】
構成単位D:アルデヒド類であって、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキシル酸、ベンズアルデヒド、ベンズアルデヒドスルホン酸、ベンズアルデヒドジスルホン酸、バニリン、イソバニリン、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のアルデヒドを含む構成単位が挙げられる。
【0063】
ジオポリマー組成物の全質量に対する分散剤の配合量は、0.1質量%~2.0質量%である。ジオポリマー組成物の全質量に対する分散剤の配合量を0.1質量%以上にすることによって、前述した分散剤の作用を発揮することができる。ジオポリマー組成物の全質量に対する分散剤の配合量を2.0質量%以下にすることによって、過剰な分散剤の添加によるジオポリマー組成物の分離やブリーディングの発生を抑制することができる。
【0064】
ジオポリマー組成物の全質量に対する分散剤の配合量は、好ましくは0.5質量%以上である。
【0065】
<その他の材料>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、本実施形態における効果を損なわない限り、モルタル、コンクリート等の原料として一般的に添加されるような任意の材料を含んでもよい。例えば、上記に詳細に述べた活性フィラーとは異なりアルカリに対して活性を持たない粉末である不活性フィラー、各種添加剤等を含んでもよい。アルカリに対して活性を持たない粉末である不活性フィラーとしては、セメントや炭酸カルシウム等を例示することができる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、流動化剤、収縮低減材、防錆剤、防水材、消泡剤、粉塵低減剤、顔料等の従来公知の成分が挙げられる。
【0066】
<ジオポリマー組成物の製造または調製方法>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、従来公知の方法によって製造または調製することができる。例えば、ジオポリマー組成物の製造または調製方法は、主たる粉体原料である、未処理の石炭灰および高炉スラグ微粉末(ならびに任意でのシリカフューム)を含む活性フィラーと、骨材とを所定の配合量で混合する粉体混合工程と、当該粉体混合工程の後に、水と、アクティベーターと、分散剤とを所定の配合量で加えて混合および混錬する混錬工程と、を含む。混合方法および混錬方法としては、特に限定されず、ミキサー等を用いた公知の方法が用いればよい。
【0067】
また、上述したジオポリマー組成物の製造または調製方法において、予め、主たる粉体原料である、石炭灰、高炉スラグ微粉末およびシリカフュームを含む活性フィラーと、骨材とを所定の配合量で混合して粉体混合物を得て、プレミックスジオポリマー組成物として用いてもよい。プレミックスジオポリマー組成物を予め調製しておき、施工、作業等の前に当該プレミックスジオポリマー組成物にさらに水とアクティベーターと分散剤とを所定の配合量で加えて混合および混錬する。これによって、任意の所望量におけるジオポリマー組成物を、現場で容易に製造または調製することができる。
【0068】
<ジオポリマー組成物の物性>
本実施形態におけるジオポリマー組成物は、当該ジオポリマー組成物の硬化物のJIS A 1108:2018に準拠して測定される一軸圧縮強度が、材齢7日において10MPa以上であることが好ましい。本明細書において、ジオポリマー組成物の一軸圧縮強度の物性に関して用いられる「ジオポリマー組成物の硬化物」とは、後の実施例で述べる通り、直径5cmかつ高さ10cmの円柱型モールドにジオポリマー組成物を装入して、所定の期間、封緘養生した後に脱型して得られる硬化した成型体を指す。
【0069】
ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度が材齢7日において10MPa以上であることによって、原料の石炭灰等に含有されている重金属の溶出をより確実に抑制することができる。本明細書において、重金属とは、例えば土壌や河川への排出基準で対象となる重金属を意図し、具体的には、財団法人石炭フロンティア機構発行の石炭灰混合材料有効利用ガイドラインに記載されている、As、B、Se、Pb、Cd、F、Hg、Cr等を指す。
【0070】
ジオポリマー組成物の硬化物の材齢7日におけるJIS A 1108:2018に準拠して測定される一軸圧縮強度は、より好ましくは27MPa以上、さらに好ましくは30MPa以上、特に好ましくは32.5MPa以上である。当該ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度の上限値は、特に限定されないが、現実的に製造可能なジオポリマー組成物の硬化物の強度を考慮すると、材齢28において65MPa以下程度であると考えられる。本明細書において、ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度は、より詳細には、後の実施例で述べる方法によって測定される強度とする。
【0071】
あるいは、本実施形態におけるジオポリマー組成物は、当該ジオポリマー組成物の硬化物のJIS A 5371:2016に準拠して測定される曲げひび割れ耐力が、材齢5日において3.5kN・m以上であることが好ましく、4.0kN・m以上であることがより好ましい。ジオポリマー組成物の硬化物の曲げひび割れ耐力が材齢5日において3.5kN・m以上であることによって、原料の石炭灰等に含有されている重金属の溶出をより確実に抑制することができる。本明細書において、ジオポリマー組成物の硬化物の曲げひび割れ耐力は、より詳細には、後の実施例で述べる方法によって測定される耐力とする。
【0072】
本実施形態におけるジオポリマー組成物によると、重金属の溶出を抑制することができる硬化体を製造することができる。さらに、本実施形態におけるジオポリマー組成物は、長時間における高流動性の確保と短期間での簡便な手法による高強度発現とを両立することができる。加えて、本実施形態では、活性フィラーとして、ある程度品質のバラツキを有するJIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合するための処理を施さない石炭灰を使用するが、このような本実施形態における効果を得ることができる。
【0073】
2.ジオポリマー硬化体
本実施形態におけるジオポリマー硬化体は、前述の実施形態におけるジオポリマー組成物の硬化物、具体的には任意の成型方法、施工方法等によって形成される任意の形状等を有する硬化物である。詳細には、前述したように製造または調製したジオポリマー組成物を、例えば、型枠を用いた成型、左官工事におけるコテ塗り、吹付け、はりつけ等の公知の方法を用いて成型または施工した後、蒸気養生またはオートクレーブ養生を行わなくても、例えば気中または封緘といった通常の養生をすることによって、ジオポリマー硬化体を製造することができる。
【0074】
また、前述の実施形態におけるジオポリマー組成物を、型枠を用いて本実施形態におけるジオポリマー硬化体にする場合、適宜型枠に剥離剤等を予め塗布しておくことが好ましい。剥離剤は硬化後のジオポリマー組成物に剥離性を付与するものであれば特に限定されない。
【0075】
このような本実施形態におけるジオポリマー硬化体としては、特に限定されないが、例えば、道路用または護岸用ブロック、雨水路または用水路等のブロック、タイル、煉瓦、下水管、パイル、ポール、枕木等のプレキャスト製品、場所打ちコンクリート、吹き付けコンクリート、コンクリート補修、ダムコンクリート等の現場打ち製品等が挙げられる。
【0076】
本実施形態におけるジオポリマー硬化体によると、重金属の溶出を抑制することができるため、環境または人体への影響が考慮される様々な製品であっても好適に用いることができる。従って、例えば、土壌、河川等に接して適用される、床版、架台、各種排水管、側溝ブロック、歩道境界ブロック、護岸ブロック、土留め壁、地中または水中に埋設される函体、ポールまたはパイル等に好適に用いることができる。
【実施例0077】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0078】
本実施例では、原料の配合量を変更した各種ジオポリマー組成物を実際に調製し、ジオポリマー組成物の流動性評価、ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度試験、ジオポリマー組成物の硬化物の曲げ強度試験およびジオポリマー組成物の硬化物の重金属溶出試験を行った。
【0079】
[ジオポリマー組成物の調製]
以下の表1に示す各々の原料を、(組成物の全質量に対する)各質量%において配合し、実施例1~実施例4および比較例1におけるジオポリマー組成物を調製した。具体的には、まず、以下の各配合量における、石炭灰(未処理の石炭灰)、高炉スラグ微粉末およびシリカフュームを混合し、当該混合粉末にさらに骨材としての高炉スラグ細骨材(ならびに高炉徐冷スラグおよび/または珪砂)を加えて混合した。最後に、各配合量における、アクティベーターの水溶液、分散剤および添加水を加えて混合した。なお、実施例1、実施例2、実施例4および比較例1についてはホバート式ミキサーを用いて、実施例3については二軸式のパドルミキサーを用いて練り上げることによって、ジオポリマー組成物を調製した。
【0080】
【表1】
【0081】
石炭灰としては、火力発電所で採取される石炭灰、具体的には電気集塵機で捕捉されるフライアッシュと、ボイラー内に付着および成長し、それを粉砕機で解砕したボトムアッシュとをそのまま使用した。すなわち、産業副産物の石炭灰に対して、品質を均一にするための厳密な前処理(換言すれば、JIS A 6201:2015で規定されているコンクリート用フライアッシュの規格に適合させるための処理)を施さずにそのまま未処理の石炭灰として使用した。なお、実施例1および実施例2は、フライアッシュのみを使用した。実施例3、実施例4および比較例1は、フライアッシュとボトムアッシュとの混合物を使用した。高炉スラグ微粉末としては、神鋼スラグ製品株式会社製の「ケイメント」を用いた。ケイメントの物理性状は、例えば、その比表面積が4700cm/g程度である。シリカフュームとしては、ポゾリス ソリューションズ社製の「マスタークリート SF 5000」を用いた。骨材としては、主として高炉スラグ細骨材、具体的には神鋼スラグ製品株式会社製の「シンコーサンド」を用いた。シンコーサンドの性状は、例えば、最大粒径が2.5mmであり、ふるいの呼び寸法が0.6mmのふるい通過質量分率が55%である。このように、本実施例1~実施例4および比較例1では、活性フィラーとして未処理の石炭灰、高炉スラグ微粉末およびシリカフュームを合計量で100質量%含ませた。
【0082】
実施例1のジオポリマー組成物では、上記表1に示す通り、骨材として、高炉スラグ細骨材だけでなく、11.2質量%の配合量で同等程度の粒径である珪砂も含ませた。また、実施例3のジオポリマー組成物では、より粒子径の大きい骨材である5mm~32mmに粒度調整された高炉徐冷スラグも骨材として含有させた。
【0083】
アクティベーターとしては、ポゾリス ソリューションズ社製の「マスタークリート AC 5025」を用いた。分散剤としては、特許6290176号公報の実施例5に記載の化合物を用いた。
【0084】
[ジオポリマー組成物の流動性評価]
上記のように調製した各ジオポリマー組成物の流動性を、JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)に規定されるフロー試験に準拠して計測することによって評価した。ただし、タンピングを行わない状態でフロー試験を行った。なお、実施例3のジオポリマー組成物は、原料の骨材に粗大な粒子を含むため、JIS A 1101:2005(コンクリートのスランプ試験方法)に準拠して計測した。計測結果を以下の表2に示す。なお、表2中における「‐」は未測定であることを示す。
【0085】
【表2】
【0086】
上記表2に示すように、実施例1、実施例2および実施例4のジオポリマー組成物は、分散剤が添加されているため、添加水の量が少なくても、120分経過後において200mm以上のフロー値を有しており、高い流動性を維持していた。他の実施例と同様に分散剤が添加され添加水の量が少ない実施例3のジオポリマー組成物は、10分後の時点しか計測しなかったが、その時点の組成物の状態から、たとえ120分経過した場合であっても十分高い流動性を有することが想定される様子が観察された。一方、分散剤が添加されず添加水の量が多い比較例1のジオポリマー組成物は、全ての計測で100mmであり流動性が低かった。
【0087】
[ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度試験]
上記のように調製した各ジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度を測定した。一軸圧縮強度は、直径5cmかつ高さ10cmの円柱型モールドに各ジオポリマー組成物を装入して、所定の期間封緘養生した後に脱型し、成型物の一軸圧縮強度をJIS A 1108:2018に規定される方法によって、測定した。
【0088】
なお、実施例4のジオポリマー組成物の一軸圧縮強度試験では、以下の表3に示す各原料の配合量が極めて近い代用配合例KT1におけるジオポリマー組成物を代わりとして用いた。当該代用配合例KT1のジオポリマー組成物の成型物を用いて試験した場合であっても、実施例4のジオポリマー組成物の配合と対比して、一軸圧縮強度にほぼ差は無いことが想定される。各材齢日(強度測定日)における一軸圧縮強度試験の測定結果を以下の表4に示す。なお、表4中における「‐」は未測定を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
上記表4に示すように、分散剤が添加され添加水の量が少ない実施例1、実施例2および実施例4のジオポリマー組成物は、わずか7日間封緘養生した後、その硬化物の一軸圧縮強度は27MPa以上の高強度となっていた。換言すれば、JIS A 5371:2016の附属書Bに規定されている、舗装・境界ブロック類の圧縮強度の基準値である24N/mmを超える強度を発現していた。一方、分散剤が添加されず添加水の量が多い比較例1のジオポリマー組成物は、2日間封緘養生させて一軸圧縮強度を測定してみたが、極めて低強度であったため、測定中に崩壊してしまった。
【0092】
[ジオポリマー組成物の硬化物の曲げひび割れ耐力試験]
上記のように調製した実施例3のジオポリマー組成物について、その硬化物の曲げひび割れ耐力を測定した。具体的には、JIS A 5371:2016に規定されるコンクリートの曲げひび割れ耐力試験に準拠して、硬化物の曲げひび割れ耐力を測定した。その結果、5日間封緘養生した後の実施例3のジオポリマー組成物の硬化物の曲げひび割れ耐力は、4.67kN・mであり、一般的なジオポリマー硬化体よりも顕著に大きい値を示した。換言すれば、JIS A 5371:2016の附属書Bにおける境界ブロックの推奨仕様B-2に規定されている、ブロックの曲げひび割れ耐力の呼びAの基準値を大きく超えていた。この結果から、分散剤が添加され添加水の量が少ない実施例3のジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度も、上述した実施例1、実施例2および実施例4のジオポリマー組成物の硬化物の一軸圧縮強度と同様に、数日間封緘養生した後(例えば7日間封緘養生した後)に、類似する数値となり高強度を発現することが推定される。
【0093】
[ジオポリマー組成物の硬化物の重金属溶出試験]
各ジオポリマー組成物について、その硬化物における重金属溶出量を測定した。具体的には、一軸圧縮強度試験と同様に、直径5cmかつ高さ10cmの各ジオポリマー組成物の硬化物の成型体について、JIS K 0058-1:2005の5.に規定された試験条件において、重金属溶出試験を実施し、重金属溶出量を測定した。なお、実施例3のジオポリマー組成物に関しては、モルタル部分をふるい分けし、重金属溶出試験を行った。
【0094】
なお、重金属溶出試験では、上述した実施例1および実施例2のジオポリマー組成物については、以下の表5に示す各原料の配合量が極めて近い代用配合例KTT1-2におけるジオポリマー組成物を代わりとして用いた。当該代用配合例のジオポリマー組成物の硬化物を用いて評価した場合であっても、実施例1および実施例2の配合と対比して、重金属溶出に影響する因子の差はほぼ無いことが想定される。さらに、重金属溶出試験の結果を以下の表6に示す。なお、以下の表6に、財団法人石炭フロンティア機構発行の石炭灰混合材料有効利用ガイドラインに記載されている溶出基準(一般用途)も併せて示す。なお、表6中における「‐」は、未測定であることを示す。
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
上記表6から分かる通り、分散剤が添加され添加水の量が少なく、高い一軸圧縮強度または高い曲げひび割れ耐力を示した実施例1~実施例4のジオポリマー組成物の硬化物は、重金属の溶出量を抑制することができていた。一方、分散剤が添加されず添加水の量が多く、一軸圧縮強度が低すぎるため計測できなかった比較例1のジオポリマー組成物の硬化物は、溶出基準(一般用途)は満たしているが、実施例1~実施例4と比べると重金属溶出量は増加していた。
【0098】
(考察)
まとめると、実施例1~実施例4のジオポリマー組成物は、特定配合量における特定の種類の分散剤が添加されたため、硬化反応の遅延作用が働き、添加水の量を減らした状態でもより長い時間で高い流動性を確保することができていた(上記表2参照)。さらに、実施例1~実施例4のジオポリマー組成物中において、分散剤の作用は数時間で消えるため、短期間で強度を発現することができており、かつ、添加水の量が少なく、特定範囲の配合量における特定の種類の活性フィラーを用いたために、いずれも高い強度(一軸圧縮強度または曲げひび割れ耐力)を発現していた(上記表4参照)。加えて、実施例1~実施例4のジオポリマー組成物の硬化物は高い強度(一軸圧縮強度または曲げひび割れ耐力)を発現したために、硬化体の金属溶出量を抑制することができたと想定される(上記表6参照)。加えて、これらの実施例では活性フィラーとして産業副産物である未処理の石炭灰を厳密な前処理なくそのまま使用している。そのことから、粒度等に関して品質にバラツキを有する産業副産物の未処理の石炭灰をそのまま原料として使用した場合であっても、ジオポリマー硬化体の金属溶出量の抑制効果を発揮できるため、環境負荷低減および製造コスト低減の観点からも有益である。
【0099】
一方、比較例1のジオポリマー組成物は、分散剤を含有させずにある程度の流動性を確保させるため、添加水を多く配合した。そのため、比較例1のジオポリマー組成物の硬化物は、高い強度(一軸圧縮強度)を発現することができず、最終的に、より多い重金属の溶出に繋がったと考えられる。