(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033008
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240305BHJP
C08K 9/08 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K9/08
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015940
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2021159011の分割
【原出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100186185
【弁理士】
【氏名又は名称】高階 勝也
(72)【発明者】
【氏名】有留 憲文
(72)【発明者】
【氏名】木谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 豊一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 朗
(57)【要約】
【課題】ポリエステル系樹脂の結晶化速度が速く、成形サイクルに優れるポリエステル系樹脂組成物であって、耐熱性、剛性等の機械的特性に優れた成形体を形成し得るポリエステル系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、フィラーと、フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含む、ポリエステル系樹脂組成物であって、該ポリエステル系樹脂組成物中、該フィラーの含有割合が、20重量%~70重量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートと、フィラー造粒物とを溶融混練して得られるポリエステル系樹脂組成物であって、
該フィラー造粒物が、フィラーと、フィラー結着剤とを含み、
該フィラー結着剤が、ポリオレフィン系樹脂であり、
該ポリエステル系樹脂組成物中、該フィラーの含有割合が、20重量%~70重量%である、
ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記フィラー造粒物が、フィラー分散剤をさらに含む、請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記フィラー分散剤が、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂組成物中、フィラー分散剤およびフィラー結着剤の合計含有割合が、0.1重量%~10重量%である、請求項1から3のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記フィラーとして、タルクを含む、請求項1から4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
耐衝撃改良剤をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】
耐加水分解性向上剤をさらに含み、
該耐加水分解性向上剤が、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物である、
請求項1から6のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項8】
23℃における曲げ弾性率が、3,000MPa以上である、請求項1から7のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項9】
荷重たわみ温度が、150℃以上である、請求項1から8のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリエチレンテレフタレートと、フィラー造粒物とを溶融混練することを含む、ポリエステル系樹脂組成物の製造方法であって、
該フィラー造粒物が、前記フィラーと、前記フィラー分散剤およびフィラー結着剤とを含み、
該フィラー結着剤が、ポリオレフィン系樹脂であり、
上記フィラー造粒物中、該フィラーの含有割合が、該フィラー造粒物100重量部に対して、80重量部~99.9重量部である、
請求項1から9のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物から形成された、射出成形体。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物から形成された、押出成形体。
【請求項13】
請求項1から9のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物から形成された、シート状賦形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料のひとつとして、ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物(ポリエステル系樹脂組成物)が知られている。ポリエステル系樹脂では、結晶化速度が遅い場合があり、当該樹脂を含む樹脂組成物を溶融させた後の固化速度が遅く、ペレタイズが困難となり、さらには、ペレタイズ後、あるいはペレットの乾燥工程において、ペレット同士が融着して、ブロッキングが生じることもある。また、射出成形においては、成形サイクルが長くなるという問題もある。また、シート成形、押出成形等においては、非晶状態でしか成形できず、耐熱性が低下する等の問題もある。
【0003】
この問題を改善するために、ポリエステル系樹脂に対し、結晶化核剤となり得るフィラーを配合し、ポリエステル系樹脂の結晶化度を高める方法が知られている。結晶化度が高められたポリエステル系樹脂では、成形サイクルの短縮、耐熱性の向上、弾性率(剛性)の向上等、様々な利点をもたらす。ポリエステル系樹脂の結晶化度を高めるには、結晶核の発生頻度を高くすることが有効である。ポリエステル系樹脂組成物の中でも、特に、ポリエチレンテレフタレートのような結晶成長速度が著しく遅いポリエステル系樹脂において結晶化度を高めるには、フィラーの配合量を増やす、および/または粒子サイズを小さくする等の手法により、フィラー粒子濃度を高め、フィラー間距離を短くする必要がある。しかしながら、粉体状のフィラーは、一般に嵩比重が小さく、粉体の流動性が悪いために、高濃度のフィラーを押出機等の溶融混練装置に、精度よく、且つ、高い供給速度でフィードすることが困難となり、フィラー粒子濃度が十分に高い樹脂組成物を安定した組成精度で、且つ、高吐出で生産することが困難となるという問題が生じることがある。
【0004】
また、ポリエステル系樹脂組成物に高濃度でフィラーを配合すると、フィラーに含まれる不純物(例えば、Fe2O3、CaO、Al2O3不純物)、および/または、フィラーに付着した水分の影響により、ポリエステル系樹脂の加水分解が促進され得るという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ポリエステル系樹脂の結晶化速度が速く、成形サイクルに優れるポリエステル系樹脂組成物であって、耐熱性、剛性等の機械的特性に優れた成形体を形成し得るポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、フィラーと、フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含む、ポリエステル系樹脂組成物であって、該ポリエステル系樹脂組成物中、該フィラーの含有割合が、20重量%~70重量%である。
1つの実施形態においては、上記フィラー分散剤が、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
1つの実施形態においては、上記フィラー結着剤が、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
1つの実施形態においては、上記フィラー結着剤が、ポリオレフィン系樹脂である。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物中、フィラー分散剤およびフィラー結着剤の合計含有割合が、0.1重量%~10重量%である。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、上記フィラーとして、タルクおよび/またはマイカを含む。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、耐衝撃改良剤をさらに含む。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、耐加水分解性向上剤をさらに含み、該耐加水分解性向上剤が、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物である。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、23℃における曲げ弾性率が、3,000MPa以上である。
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、荷重たわみ温度が、150℃以上である。
本発明の別の局面によれば、ポリエステル系樹脂組成物の製造方法が提供される。この製造方法は、上記ポリエステル系樹脂と、フィラー造粒物とを溶融混練することを含む、ポリエステル系樹脂組成物の製造方法であって、該フィラー造粒物が、前記フィラーと、前記フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含み、上記フィラー造粒物中、該フィラーの含有割合が、該フィラー造粒物100重量部に対して、80重量部~99.9重量部である。
本発明のさらに別の局面によれば、上記ポリエステル系樹脂組成物から形成された、射出成形体が提供される。
本発明のさらに別の局面によれば、上記ポリエステル系樹脂組成物から形成された、押出成形体が提供される。
本発明のさらに別の局面によれば、上記ポリエステル系樹脂組成物から形成された、シート状賦形物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリエステル系樹脂の結晶化速度が速く、成形サイクルに優れるポリエステル系樹脂組成物であって、耐熱性、剛性等の機械的特性に優れた成形体を形成し得るポリエステル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.ポリエステル系樹脂組成物
A-1.ポリエステル系樹脂組成物の概要
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、フィラーと、フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含む。ポリエステル系樹脂組成物中の上記フィラーの含有割合は、20重量%~70重量%である。「フィラーの含有割合」、ならびに、後述の「ポリエステル系樹脂の含有割合」、「フィラーの含有割合」、「フィラー分散剤の含有割合」および「フィラー結着剤の含有割合」等の各成分の含有割合はそれぞれ、ポリエステル系樹脂組成物中の全固形分を基準とした重量割合である。
【0009】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、フィラーを高濃度で含み得るため、ポリエステル系樹脂の結晶化速度が速く、成形サイクルに優れる。また、ポリエステル系樹脂由来の特性を好ましく有し、例えば、耐熱性、剛性等の機械的特性に優れた成形体を形成し得る。また、フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤と共にフィラーを含むことにより、当該フィラー添加の効果(例えば、結晶化核剤としての機能発揮)が、従来よりも効果的に付与され得る。
【0010】
また、本発明のポリエステル系樹脂組成物は、フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤を含むことにより、ポリエステル系樹脂の加水分解が抑制され得る。このようなポリエステル系樹脂組成物は、フィラー選択の自由度が高く、成形サイクル向上の観点からも有利である。
【0011】
1つの実施形態においては、上記フィラーとフィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とはフィラー造粒物の形態で添加される。この実施形態においては、上記フィラーとフィラー分散剤および/またはフィラー結着剤と含むフィラー造粒物を形成し、その後、当該フィラー造粒物と、ポリエステル系樹脂とを混合すること(例えば、溶融混練により混合すること)により、上記ポリエステル系樹脂を得ることができる。このような製造方法を採用することにより、フィラー添加の作業性(フィード特性(供給量と安定性))、およびフィラー分散性が著しく向上し、生産性よく高含有量でフィラーを含有させることが可能となる。
【0012】
上記ポリエステル系樹脂組成物の荷重たわみ温度は、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは160℃~250℃であり、さらに好ましくは170℃~240℃である。なお、ポリエステル系樹脂組成物の荷重たわみ温度は、ポリエステル系樹脂組成物を用いて形成された所定のサンプルを用いて測定される。荷重たわみ温度の測定方法は、後述する。
【0013】
上記ポリエステル系樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度は、好ましくは1.0kJ/m2以上であり、より好ましくは1.5kJ/m2以上であり、さらに好ましくは2.0kJ/m2以上である。当該シャルピー衝撃強度は高いほど好ましいが、その上限は、例えば、10.0kJ/m2である。なお、ポリエステル系樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度は、ポリエステル系樹脂組成物を用いて形成された所定のサンプルを用いて測定される。シャルピー衝撃強度の測定方法は、後述する。
【0014】
上記ポリエステル系樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率は、好ましくは3,000MPa以上であり、より好ましくは4,000MPa以上であり、さらに好ましくは5,000MPa以上である。当該曲げ弾性率は、高いほど好ましいが、その上限は、例えば、20,000MPaである。なお、ポリエステル系樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率は、ポリエステル系樹脂組成物を用いて形成された所定のサンプルを用いて測定される。曲げ弾性率の測定方法は、後述する。
【0015】
上記ポリエステル系樹脂組成物の23℃における曲げ強度は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは60MPa以上であり、さらに好ましくは70MPa以上である。当該曲げ強度は、高いほど好ましいが、その上限は、例えば、200MPaである。なお、ポリエステル系樹脂組成物の23℃における曲げ強度は、ポリエステル系樹脂組成物を用いて形成された所定のサンプルを用いて測定される。曲げ強度の測定方法は、後述する。
【0016】
A-2.ポリエステル系樹脂
ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とジオールの重縮合により得られる。生成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。
【0017】
ジカルボン酸としては、任意の適切なジカルボン酸が用いられ得る。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3-ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカジカルボン酸等が挙げられる。
【0018】
ジオールとしては、任意の適切なジオールが用いられ得る。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0019】
ポリエステル系樹脂を構成するジカルボン酸成分とジオール成分はそれぞれ1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記ポリエステル系樹脂は、トリメリット酸などのその他の酸成分、トリメチロールプロパンなどのその他の水酸基成分等を適宜含有していてもよい。ジカルボン酸としてイソフタル酸、および/または、ジオールとして1,4-シクロヘキサンジメタノールを用い、結晶性を有する範囲に共重合したポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂も使用できる。
【0020】
ポリエステル系樹脂としては、任意の適切なポリエステル系樹脂を用いることができる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタテート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0021】
ポリエステル系樹脂の固有粘度は、好ましくは0.3~1.5であり、より好ましくは0.4~1.2であり、さらに好ましくは0.5~1.0である。このような範囲であれば、好ましい特性を有し、かつ、成形性に優れるポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。固有粘度はJIS K7367で測定することができる。
【0022】
ポリエステル系樹脂組成物中、上記ポリエステル系樹脂の含有割合は、好ましくは30重量%~80重量%であり、より好ましくは40重量%~70重量%である。このような範囲であれば、フィラー添加の効果(例えば、結晶化核剤としての機能発揮)が好ましく発揮され、かつ、ポリエステル系樹脂由来の特性が好ましく発揮され得るポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
上記ポリエステル系樹脂として、フィラーを結着させるように作用し得るポリエステル系樹脂が含まれていてもよい。
【0024】
A-3.フィラー
上記フィラーとしては、ポリエステル系樹脂組成物および/または当該ポリエステル系樹脂組成物から得られる成形体に要求される特性に応じて、任意の適切なフィラーを用いることができる。フィラーは1種のみを用いもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
好ましくは、上記フィラーとして、タルクおよび/またはマイカが用いられる。これらのフィラーは、ポリエステル系樹脂組成物において樹脂の結晶化を促進する結晶化核剤として好ましく機能し得る。本発明においては、タルクおよび/またはマイカを高濃度に含み得、その結果、ポリエステル系樹脂の結晶化速度と結晶化度とが高まる点で有利である。
【0026】
タルクおよびマイカは、層状構造をなし層間結合力が弱いので剥離しやすい。微粒のものはプラスチック用配合剤として多く用いられ、配合により耐熱性、寸法安定性等が向上する。不純物含有量は産地によって異なるが不純物の少ない高品位の鉱石を原料としたものが好ましく、酸化アルミニウム、酸化鉄等の金属不純物は合計1%以下が好ましい。
【0027】
フィラーの数平均粒子径は、任意の適切な粒子径とされ得る。フィラーの数平均粒子径は、好ましくは0.1μm~40μmであり、より好ましくは0.5μm~10μmであり、さらに好ましくは1μm~8μmである。上記フィラーが、結晶化核剤として機能する場合、当該フィラーの粒子径は小さい方が好ましい。フィラーが、結晶化核剤として機能する場合(例えば、タルクおよび/またはマイカが用いられる場合)、フィラーの数平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。フィラーのサイズはレーザー回折法により求めることができる。
【0028】
ポリエステル系樹脂組成物中、上記フィラーの含有割合は、上記のとおり、20重量%~70重量%である。ポリエステル系樹脂組成物中、上記フィラーの含有割合は、好ましくは20重量%~60重量%であり、より好ましくは30重量%~55重量%である。このような範囲であれば、本発明の効果が顕著となる。
【0029】
A-4.フィラー分散剤
上記フィラー分散剤としては、界面活性剤が好ましく用いられる。フィラー分散剤(界面活性剤)における親水性/疎水性バランスは、フィラー分散剤となる化合物のエステル化度や脂肪酸の種類(水酸基の有無、飽和又は不飽和脂肪酸、アルキル鎖長)、重合度を調整することにより、制御することができる。フィラー分散剤はその界面活性剤的作用により、フィラーの分散性を高める作用を発揮する。
【0030】
上記フィラー分散剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸スルホン酸塩、脂肪酸アマイド、アクリルアミド、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。フィラー分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組みあわせて用いてもよい。
【0031】
1つの実施形態においては、フィラー分散剤は、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0032】
上記多価アルコール脂肪酸エステルとは、多価アルコールと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールと炭素数が8以上(好ましくは炭素数8~24、より好ましくは炭素数10~22)の脂肪酸のエステル類が用いられる。
【0033】
上記脂肪酸アマイドとは、脂肪酸とアンモニアあるいは1級、2級アミンとが脱水縮合した構造を持つ化合物である。上記脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類が挙げられる。
【0034】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0035】
ポリエステル系樹脂組成物中、フィラー分散剤の含有割合は、好ましくは0.1重量%~10重量%であり、より好ましくは1重量%~8重量%であり、さらに好ましくは1重量%~5重量%である。このような範囲であれば、フィラー添加の効果(例えば、結晶化核剤としての機能発揮)が好ましく発揮され、かつ、ポリエステル系樹脂由来の特性が好ましく発揮され得るポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
ポリエステル系樹脂組成物中、フィラー分散剤およびフィラー結着剤の合計含有割合は、好ましくは0.1重量%~10重量%であり、より好ましくは1重量%~8重量%であり、さらに好ましくは1重量%~5重量%である。このような範囲であれば、フィラー添加の効果(例えば、結晶化核剤としての機能発揮)が好ましく発揮され、かつ、ポリエステル系樹脂由来の特性が好ましく発揮され得るポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。なお、「フィラー分散剤およびフィラー結着剤の合計含有割合」とは、ポリエステル系樹脂組成物がフィラー分散剤を含まない場合は、フィラー結着剤の含有割合を意味し、ポリエステル系樹脂組成物がフィラー結着剤を含まない場合は、フィラー分散剤の含有割合を意味する。
【0037】
A-5.フィラー結着剤
上記フィラー結着剤は、フィラー同士を結着させる機能を有し得る。また、上記フィラー結着剤を用いれば、フィラーの分散性を高めることができる。また、フィラー結着剤は、ポリエステル系樹脂の加水分解抑制効果を発揮し得る。さらに、フィラーがフィラー造粒物の形態で添加される場合、フィラー結着剤は、適度な嵩密度、崩壊強度を有する造粒物を得ることを目的として使用される。また、好適なフィラー結着剤を選択することにより、フィラー造粒物の生産性が向上し得る。
【0038】
上記フィラー結着剤としては、樹脂が好ましく使用され、とりわけ、水溶性あるいは水分散系の樹脂を特に好ましく使用できるが、多糖類や粘土鉱物等も使用することができる。フィラー結着剤は、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。なかでも好ましくは、ポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂としては、好ましくは、ポリエチレン系樹脂および/またはポリプロピレン系樹脂が用いられ得る。
【0039】
フィラー結着剤としての上記ポリエチレン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリオレフィン系エラストマー(POE)、ポリオレフィンコポリマー(例えば、エチレン-ブテン、エチレン-オクテン等)、ポリオレフィン変性物(例えば、無水マレイン酸、アクリル酸、等の変性物)、ポリオレフィンベースのイオノマーを含む機能性ポリオレフィンコポリマー等が挙げられる。
【0040】
フィラー結着剤としての上記ポリプロピレン系樹脂の具体例としては、ホモポリプロピレン(h-PP)、ブロックポリプロピレン(b-PP)、ランダムポリプロピレン(r-PP)、ポリプロピレンコポリマー、ポリプロピレン変性物(例えば、無水マレイン酸、アクリル酸、等の変性物)等が挙げられる。
【0041】
フィラー結着剤としての上記ポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH;クラレ社製のエバール(登録商標))、ブテンジオール-ビニルアルコールコポリマー(BVOH;三菱ケミカル社製のニチゴーGポリマー(登録商標))等が挙げられる。
【0042】
上記フィラー結着剤として、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、三井化学社製のケミパール(登録商標)、ダウ・ケミカルカンパニーのHYPOD(登録商標)、ビックケミー・ジャパン社製のAQUACER(登録商標)、住友精化社製のザイクセン、セポルジョン、セポレックス(登録商標)、マイケルマン・ジャパン社製のMichem(登録商標)、DIC社のボンディック(登録商標)、サイデン化学社製のサイビノール、サイデングルー(登録商標)、等を挙げることができる。他の好ましい例として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH;クラレ社製のエバール(登録商標))、ブテンジオール-ビニルアルコールコポリマー(BVOH;三菱ケミカル社製のニチゴーGポリマー(登録商標))が挙げられる。他の好ましい例として、イーストマンケミカル社製のイーストマンAQ(登録商標)で販売されている水性スルホポリエステル分散液、Ascend Performanceから販売されている、水で希釈されて水性ポリマー分散液を形成する、ヘキサン-1、6-ジアミンおよびアジピン酸の塩(AH塩)が挙げられる。
【0043】
ポリステル系樹脂組成物中のフィラー結着剤の含有割合は、好ましくは0.1重量%~10重量%であり、より好ましくは1重量%~8重量%であり、さらに好ましくは1重量%~5重量%である。
【0044】
A-6.その他の成分
上記ポリステル系樹脂組成物は、必要に応じて、任意の適切なその他の成分(添加剤)をさらに含み得る。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、衝撃改質剤、抗菌剤、相溶化剤、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤、潤滑剤、カップリング剤、難燃剤、脱酸素剤、着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、流動性向上剤等が挙げられる。
【0045】
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、耐衝撃改良剤を含む。耐衝撃改良剤としては、任意の適切な樹脂が用いられ得る。耐衝撃改良剤としては、例えば、ブタジエン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーンアクリル系のコアシェルゴム、スチレン系エラストマー等が挙げられる。ポリステル系樹脂組成物中の耐衝撃改良剤の含有割合は、好ましくは5重量%~30重量%であり、より好ましくは10重量%~20重量%である。
【0046】
1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、耐加水分解性向上剤を含む。耐加水分解性向上剤とは、酸・熱・水によりエステル樹脂が分解し発生する活性水素基と反応する事で加水分解を促進する物質を除去する作用により、ポリエステル系樹脂の加水分解を抑制する機能を有する添加剤を意味する。耐加水分解性向上剤は、例えば、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物であり得る。耐加水分解性向上剤として市販品を用いてよく、その例としては、日清紡ケミカル社製のカルボジライトLA-1、HMV-5CA-LC(登録商標)等が挙げられる。ポリステル系樹脂組成物中の耐加水分解性向上剤の含有割合は、好ましくは0.05重量%~5重量%であり、より好ましくは0.1重量%~2重量%である。
【0047】
B.ポリエステル系樹脂組成物の製造方法
上記ポリエステル系樹脂組成物は、任意の適切な方法により製造することができる。1つの実施形態においては、上記ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と、フィラーと、フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを溶融混練して得ることができる。好ましくは、上記ポリエステル系樹脂組成物は、上記ポリエステル系樹脂と、フィラー造粒物(上記フィラーと、上記フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含む造粒物)とを、溶融混練して得ることができる。溶融混練の方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、単軸もしくは2軸以上の多軸押出機を使用することができる。好ましくは、2軸スクリュー押出機が用いられる。溶融混練された組成物はペレット化され得る。
【0048】
1つの実施形態においては、上記フィラーとフィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含むフィラー造粒物を得た後、当該フィラー造粒物と、上記ポリエステル系樹脂とを溶融混練することにより、上記ポリエステル系樹脂組成物が得られる。このような製造方法を採用することにより、フィラー添加の作業性、およびフィラー分散性が著しく向上し、高含有量でフィラーを含有させることが可能となる。より詳細には、上記フィラー造粒物は、押出機等の装置への投入安定性に著しく優れて、フィードネックが解消されるため、当該フィラー造粒物を用いれば、ポリエステル系樹脂組成物の生産性(時間当たりのコンパウンド加工速度、吐出速度(単位;kg/Hr))を飛躍的に向上させることができる。さらに当該フィラー造粒物を使用した場合、フィラー分散性および成形加工性(流動性)が向上するため、フィラー造粒物を使用して得られたポリエステル系樹脂組成物は、高濃度かつ高分散でフィラーを含み得る。その結果、フィラー添加の効果(結晶化核剤としての機能発揮)が、効果的に付与され得るポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
(フィラー造粒物)
上記フィラー造粒物は、任意の適切な方法により製造することができる。上記フィラー造粒物は、例えば、上記フィラーと、上記フィラー分散剤および/またはフィラー結着剤とを含む混合物を半湿式造粒法に供することにより得ることができる。フィラー分散剤とフィラー結着剤を併用することがより好ましい。すなわち、好ましくは、上記フィラー造粒物は、上記フィラーと、上記フィラー分散剤と、フィラー結着剤とを含む混合物を半湿式造粒法に供することにより得ることができる。フィラー、フィラー分散剤、フィラー結着剤は、A項で説明したものが用いられ得る。フィラー結着剤は、バインダーとして機能し得る。
【0050】
上記フィラー造粒物中、上記フィラーの含有割合は、フィラー造粒物の全固形分量100重量部に対して、好ましくは80重量部~99.9重量部であり、より好ましくは82重量部~99重量部であり、さらに好ましくは85重量部~98重量部であり、特に好ましくは87重量部~97重量部であり、最も好ましくは90重量部~96重量部である。
【0051】
1つの実施形態においては、フィラー結着剤は、当該フィラー結着剤を含む水溶液または水系分散液の形態で、混合に供される。
【0052】
1つの実施形態においては、上記フィラー造粒物の製造方法は、上記フィラー結着剤と上記フィラー分散剤とを混合する混合工程と、混合工程を経て得られた混合物を造粒して造粒物前駆体を得る造粒工程と、造粒物前駆体を乾燥する乾燥工程とを含む。
【0053】
上記混合工程においては、水をさらに混合してもよい。添加される水は、特に限定されず、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、硬水、軟水等を用いることができる。
【0054】
上記水の混合量は、フィラー造粒物中のフィラー100重量部に対して、通常、1重量部~30重量部、好ましくは3重量部~25重量部、より好ましくは5重量部~20重量部である。
【0055】
混合工程においては、常温下で各成分を配合し、任意の適切な混合機を用いて、均一化することが好ましい。混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、粉体用ニーダー(KDH、KDA、CKD、CPM)(ダルトン社)、スパルタンミキサー(SPM)(ダルトン社)、SPグラニュレーター(SPG)(ダルトン社)、等を挙げることができる。
【0056】
混合工程における混合時間は、成分の種類、混合機の種類、成分配合比等に応じて、任意の適切な混合時間とすることができる。混合工程では各成分が均一に分散されるように混合時間が設定される。ヘンシェルミキサーやスパルタンミキサー等の高速撹拌機では1~10分の処理時間で行うことができる。一方、粉体用ニーダーの場合は、数分~60分の処理時間が必要になる場合がある。
【0057】
造粒工程においては、圧縮造粒法が好ましく採用される。また、造粒工程においては、半湿式造粒法が好ましく採用され得る。圧縮造粒法/半湿式造粒法としては、例えば、ディスクペレッター方式、タブレッティング方式、ブリケッティング方式等が挙げられる。
生産性と得られるフィラー造粒物の品位のバランスの観点から、ディスクペレッター方式が好ましく採用される。
【0058】
ディスクペレッター方式の造粒機は、基本構造として、2mm~30mmの孔が多数あけられた1個または2個のディスクと、ディスクの孔に原料を圧送するためのローラーとを有する。ディスクとローラーの間、もしくは2個のディスクの間に供給された原料が、ローラーの回転に伴い、ディスクの孔に圧入され、円柱状の押出物が成形される。ここで、ディスク孔にはテーパーが設けられており、フィラー混合物が孔を通過する過程で、ダイス孔の外周から圧縮応力が与えられる仕組みになっている。このテーパーのついた孔の長さを有効長と呼ぶ。押し出された造粒物前駆体は、ディスクの裏面において、カッター等で切断されることで、ペレット状のフィラー造粒物を得ることができる。造粒物前駆体(結果としてフィラー造粒物)の長さは、ディスクの裏面とカッター間の距離、ローラーの回転数、によって調整が可能である。ディスクの裏面とカッター間の距離は、フィラーの種類等に応じて、任意の適切な数値とされ得、通常、1mm~30mmの範囲である。
【0059】
ディスクペレッター方式としては、より具体的には、ローラー・ディスクダイ方式、ローラー・リングダイ方式、ダブルダイス方式、フラットダイ方式等が挙げられる。市販のディスクペレッター方式の造粒機としては、例えば、ダルトン社製のディスクペレッターFシリーズを挙げることができる。
【0060】
乾燥工程における乾燥方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。乾燥工程後、振動ふるい等により、微粉を除去したフィラー造粒物が得られ得る。乾燥工程では、任意の適切な乾燥設備が用いられる。例えば、振動流動式乾燥機が短時間に効率的に乾燥を行うことができるので好ましく、例えば、ダルトン社製の振動流動乾燥機VDFシリーズを挙げることができる。
【0061】
上記ポリステル系樹脂組成物を用い、種々の成形体が提供される。例えば、射出成形体、押出成形体、シート等が提供され得る。また、上記シートからは賦形物(真空成形体、プレス成形体、シート状賦形物、等)が得られ得る。ポリエステル系樹脂組成物の成形体を成形する方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、異形押出成形法、発泡成形法、ラム押出成形法、固化押出法、パイプ成形法、チューブ成形法、異種成形体の被覆成形法、インジェクションブロー成形法、ダイレクトブロー成形法、Tダイシートまたはフィルム成形法、延伸成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、プレス成形法、回転成形法、真空成形法、圧空成形法、溶融紡糸等が挙げられる。
【実施例0062】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、部および%は特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0063】
[製造例1]フィラー造粒物の製造
粉体用ニーダー(ダルトン社製、商品名「KDHJ-10」;処理量:6L)に、フィラー(タルク、浅田製粉社製、商品名「JM300」;嵩比重:0.17、平均粒子径4.7μm;表中、「B-1」)100重量部と、フィラー結着剤(ポリオレフィン分散液(水性PEディスパージョン);三井化学社製、商品名「ケミパールA100」;ポリオレフィン固形分濃度:40重量%;ポリオレフィン粒子の密度:0.89g/cm3;ポリオレフィン粒子の平均粒子径4μm;表中、「D-1」)18 重量部(固形分:7.2重量部)と、フィラー分散剤(ポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル;太陽化学社製、商品名「チラバゾールH818」;表中、「C-1」)3.75重量部とを投入し、回転数30rpmで6分間の攪拌処理を行った後、混合物Aを得た。
この混合物Aを、ディスクペレッター(ダルトン社製、商品名「ディスクペレッターF-5/11-175)に投入し、ペレッド状のタルク造粒物前駆体を得た。
得られた造粒物前駆体を、熱風式循環型乾燥機を用いて、140℃で4時間乾燥させてフィラー造粒物MB-1を得た。
【0064】
[製造例2]フィラー造粒物の製造
フィラー結着剤「D-1」を、ブテンジオール-ビニルアルコールコポリマー(BVOH;三菱ケミカル社製、商品名「ニチゴーGポリマー AZF8035Q」;表中、「D-2」)の15重量%濃度水溶液21重量部(固形分:3.1重量部)に変更した以外は製造例1と同様にして、フィラー造粒物B-2を得た。
【0065】
<評価>
製造例1、2で得られたフィラー造粒物を下記評価に供した。結果を表1に示す。
表1において、フィラー、フィラー分散剤、フィラー結着剤の重量部数は、各成分の仕込み組成より算出されたものであり、これらの固形分の総量を100重量部としたときの部数を示す。
(1)水分量
赤外線水分計FD-660(ケット科学研究所製)を用いて、フィラー造粒物に残存する水分量を測定した。(単位;重量%)
(2)崩壊強度測定
木屋式硬度計WFP1600-B(シロ産業社製)を用いて、乾燥後のフィラー造粒物の崩壊応力を測定した。測定値はフィラー造粒物25粒の平均値とした。(単位;kg)
(3)嵩密度
乾燥後のフィラー造粒物を1リットルの升に自然落下させ、すり切り一杯にして、正確に1リットルの容積ではかり取り、その重量を測定することで、フィラー造粒物の嵩密度を算出した。(単位;kg/L)
【0066】
【0067】
[実施例1]
ポリエステル系樹脂(新光合成繊維社製、商品名「SHINPET 5522W」、IV値:0.79;表中、「A-1」)70重量部と、製造例1で得られたフィラー造粒物(MB-1)30重量部とを、2軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37SS」、シリンダー設定温度:260℃)に投入して、連続的に溶融混練を行い、ポリエステル系樹脂組成物のペレットを製造した。
【0068】
[実施例2~8]
表2に示す配合量で、ポリエステル系樹脂およびフィラー造粒物を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂組成物のペレットを得た。
なお、用いた成分の詳細は、表3に示すとおりである。
【0069】
[比較例1]
ポリエステル系樹脂(A-1)のペレットを準備した。
【0070】
[比較例2]
ポリエステル系樹脂(A-1)70重量部と、フィラー(JM300;B-1)30重量部とを、実施例1と同様に2軸押出機に投入して、溶融混練し、ポリエステル系樹脂組成物のペレットを得た。
【0071】
[比較例3]
ポリエステル系樹脂(A-1)45重量部と、フィラー(JM300;B-1)55重量部とを、実施例1と同様に2軸押出機に投入して、溶融混練し、ポリエステル系樹脂組成物のペレットを得た。
【0072】
[比較例4]
表2に示す配合量で、ポリエステル系樹脂およびフィラー造粒物を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂組成物のペレットを得た。
【0073】
【0074】
【0075】
<評価>
実施例1~8、および比較例1~4で得られたポリエステル系樹脂組成物を下記評価に供した。結果を表4に示す。
なお、荷重たわみ測定、曲げ測定、シャルピー衝撃強度測定で使用する試験片は、ポリエステル系樹脂組成物を、射出成形機(東洋機械金属社製、商品名「SI-80IV-D150B」200t)で成形温度270℃にて成形し、JIS K 7141準拠の試験片を得た。得られた試験片を恒温恒湿室で24時間状態調整し、評価サンプルAを得た。
【0076】
(1)MFR
メルトインデクサー(宝工業社製)を用いてJIS K7210(270℃、2.16kg荷重の条件下)に基づき測定した。(単位:g/10min)
(2)荷重たわみ温度
上記評価サンプルAについて、HDT Tester6M-2(東洋精機製作所社製)を用いてJIS K7191(荷重0.45MPa、昇温速度2℃/min)で開始温度30℃から昇温し測定した。(単位:℃)
(3)曲げ強度
上記評価サンプルAについて、STROGRAPH VG20-E(東洋精機製作所社製)を使用しJIS K7171に準拠し測定した。測定温度は23℃とした。(単位:MPa)
(4)曲げ弾性率
上記評価サンプルAについて、STROGRAPH VG20-E(東洋精機製作所社製)を使用しJIS K7171に準拠し測定した。測定温度は23℃とした。(単位:MPa)
(5)シャルピー衝撃強度
上記評価サンプルAについて、DIGITAL IMPACT TESTER DG-CB(東洋精機製作所社製)を用いてJIS K7111に基づき測定した。測定温度は23℃とした。シャルピー衝撃試験用の試験片の作製において、ノッチ先端半径(R)は0.25mmとした。また、ハンマー容量は2Jとした。(単位:kJ/m2)
(6)DSC
ポリエステル系樹脂組成物のペレット5~10mgを測定サンプルとし、測定機DSC6220(セイコーインスツル社製)を使用し、昇温速度10℃/min、で開始温度30℃から300℃まで昇温し、再結晶化ピークの有無を測定した。昇温過程で再結晶化の発熱ピークが観測されることは、ポリエステル系樹脂組成物の結晶化が不十分であり、非晶性領域を多く含むことを表す。
(7)射出成形
射出成形機(東洋機械金属社製、商品名「SI-80IV-D150B」200t)により、成形温度270℃、金型温度90℃、冷却時間60秒の条件で、JIS K 7141準拠の試験片を取り出せるか否かを評価した。表中、当該試験片を取り出せる場合を〇、取り出し不能の場合を×で表記する。
【0077】
【0078】
表4の実施例1~4および8に示すDSC評価結果から明らかなように、フィラー濃度が高い本発明のポリエステル系樹脂組成物は、結晶化速度に優れる。また、剛性(曲げ弾性率)にも優れる。また、荷重たわみ温度の評価結果から明らかなように、フィラー濃度が高い本発明のポリエステル系樹脂組成物は、耐熱性に優れる。実施例5~7は耐加水分解性向上剤を配合した例であるが、MFRの低下が認められ、ポリエステル系樹脂組成物の加水分解が抑えられる。実施例8のシャルピー衝撃強度評価結果から明らかなように、耐衝撃改良剤の添加によりシャルピー衝撃強度が向上する。比較例1においては、結晶化速度が著しく遅いために試験用評価用の成形サンプルを取り出せなかった。比較例2および3では、ポリエステル系樹脂が加水分解し、試験用評価用の成形サンプルを取り出せなかった。比較例4では、フィラー濃度が本発明の範囲外の例であるが、再結晶化ピークが観察され、ポリエステル系樹脂の結晶化が不十分であり、耐熱性(DTUL)が劣る。