(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033030
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】マグネシア-アルミナ質キャスタブル及び耐火物ブロック
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20240306BHJP
C04B 35/043 20060101ALI20240306BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C04B35/66
C04B35/043 500
B22D41/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136386
(22)【出願日】2022-08-30
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】山田 省吾
(72)【発明者】
【氏名】柳 憲治
(57)【要約】
【課題】耐食性と耐熱スポーリング性をバランスよく両立させることができるマグネシア-アルミナ質キャスタブルを提供する。
【解決手段】本発明のマグネシア-アルミナ質キャスタブルは、マグネシアを60~90質量%、アルミナを10~35質量%、シリカを5質量%以下含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシアを60~90質量%、アルミナを10~35質量%、シリカを5質量%以下含有するマグネシア-アルミナ質キャスタブル。
【請求項2】
前記アルミナの少なくとも一部として、粒径3~8mmの粗粒アルミナを5~30質量%、粒径10μm以下の超微粉アルミナを10質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のマグネシア-アルミナ質キャスタブル。
【請求項3】
前記シリカの少なくとも一部として、粒径5μm以下の非晶質超微粉シリカを3質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシア-アルミナ質キャスタブル。
【請求項4】
前記マグネシアの量と前記アルミナの量の和の外掛けでセメントを10質量%以下含有することを特徴とする請求項3に記載のマグネシア-アルミナ質キャスタブル。
【請求項5】
マグネシアを60~90質量%、アルミナを10~35質量%、シリカを5質量%以下含有する耐火物ブロック。
【請求項6】
前記アルミナの少なくとも一部として、粒径3~8mmの粗粒アルミナを5~30質量%、粒径10μm以下の超微粉アルミナを10質量%以下含有することを特徴とする請求項5に記載の耐火物ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシア-アルミナ質キャスタブル及び耐火物ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋、浸漬管、ランスパイプ、タンディッシュ、樋、溶融炉・焼却炉のライニング等には、キャスタブル及び耐火物ブロックが使用される。キャスタブルは、流し込み施工、圧送施工、吹き付け施工等される耐火原料である。耐火物ブロックは、キャスタブルに水を加えて養生硬化し、乾燥したものである。
【0003】
現在のキャスタブルの主流は、アルミナリッチなアルミナ-マグネシア質キャスタブルである。特許文献1には、アルミナを65~85質量%、マグネシアを5~25質量%、シリカを30質量%以下含むアルミナ-マグネシア質キャスタブルが開示されている。アルミナとマグネシアを含有することで、焼成中にアルミナがマグネシアと反応し、スピネルが生成し、組織が緻密化する。このため、耐食性に優れた耐火物ブロックが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、鋼種の高級化が進んでおり、耐食性をより向上させことができるキャスタブルが望まれている。マグネシアは耐食性に優れているので、キャスタブルのマグネシア量を増大させることが考えられる。しかし、キャスタブルのマグネシア量を増大させると、耐火物ブロックの熱膨張率が高くなるので、耐火物ブロックに亀裂が入り易くなり、耐熱スポーリング性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するもので、耐食性と耐熱スポーリング性をバランスよく両立させることができるマグネシア-アルミナ質キャスタブル及び耐火物ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、マグネシアを60~90質量%、アルミナを10~35質量%、シリカを5質量%以下含有するマグネシア-アルミナ質キャスタブルである。
【0008】
本発明の他の態様は、マグネシアを60~90質量%、アルミナを10~35質量%、シリカを5質量%以下含有する耐火物ブロックである。
【0009】
本発明の好ましい態様は、前記アルミナの少なくとも一部として、粒径3~8mmの粗粒アルミナを5~30質量%、粒径10μm以下の超微粉アルミナを10質量%以下含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マグネシアリッチなマグネシア-アルミナ質キャスタブルであるので、耐食性を大幅に向上させることができる。また、焼成中にシリカがガラス溶融し、軟化し、膨張を吸収するので、耐熱スポーリング性が低下するのを抑制できる。したがって、耐食性と耐熱スポーリング性をバランスよく両立させることができる。
【0011】
スピネル生成量が過剰になると、膨張して組織劣化が生じ、耐溶損性(耐食性の指標の一つ)が低下する。本発明の好ましい態様によれば、スピネル化し易い粒径10μm以下の超微粉アルミナを10質量%以下含有し、スピネル化しにくく、コランダム(アルミナ)として残り易い粒径3~8mmの粗粒アルミナを5~30質量%以下含有するので、スピネル生成量を最適値にコントロールすることができ、耐溶損性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態のマグネシア-アルミナ質キャスタブル及び耐火物ブロックを説明する。ただし、本発明のマグネシア-アルミナ質キャスタブル及び耐火物ブロックは種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0014】
本実施形態のマグネシア-アルミナ質キャスタブルは、マグネシアリッチなマグネシア-アルミナ質キャスタブルである。すなわち、本実施形態のマグネシア-アルミナ質キャスタブルは、マグネシアを60~90質量%、アルミナを10~35質量%、シリカを5質量%以下含有する。
【0015】
マグネシアは、耐火原料である。マグネシアは、キャスタブル100質量%に対して60~90質量%配合される。本実施形態において、マグネシア量を上記のように定めたのは、耐食性を大幅に向上させるためである。マグネシア量が60質量%未満であると、溶鋼やスラグに対する耐溶損性(耐食性の指標の一つ)が低下する。マグネシア量が90質量%を超えると、相対的にアルミナ量が小さくなり、スピネルが生成しにくくなるので、耐スラグ浸透性(耐食性の指標の一つ)が低下する。最適なマグネシア量は、60~90質量%、望ましくは70~80質量%である。
【0016】
マグネシアの粒度は、特に限定されるものではなく、例えば粗粒、中粒、微粉で構成されるのが望ましい。微粉の使用により、マグネシアの表面積が大きくなり、スピネルが生成し易くなる。
【0017】
アルミナは、耐火原料である。アルミナは、キャスタブル100質量%に対して10~35質量%配合される。本実施形態において、アルミナ量を上記のように定めたのは、相対的にマグネシア量を増やし、耐食性を大幅に向上させるためであり、耐熱スポーリング性を向上させるためである。アルミナ量が10質量%未満であると、スピネル生成量が低下し、耐スラグ浸透性が低下してしまう。アルミナ量が35質量%を超えると、相対的にマグネシア量が低下し、耐溶損性が低下してしまう。最適なアルミナ量は、10~35質量%、望ましくは20~30質量%である。
【0018】
アルミナの粒度に関しては、粒径3~8mmの粗粒アルミナ、望ましくは粒径3~5mmの粗粒アルミナをキャスタブル100質量%に対して5~30質量%配合し、粒径10μm以下の超微粉アルミナをキャスタブル100質量%に対して10質量%以下配合するのが望ましい。スピネル生成量が過剰になると、膨張して組織劣化が生じ、耐溶損性が低下する。本実施形態において、粗粒アルミナと超微粉アルミナを上記のように定めたのは、スピネル生成量を最適値にコントロールし、耐溶損性をより向上させるためである。スピネル化し易い粒径10μm以下の超微粉アルミナと、スピネル化しにくく、コランダム(アルミナ)として残り易い粒径3~8mmの粗粒アルミナを使用することで、スピネル生成量を最適値にコントロールすることができる。
【0019】
粒径は、超微粉以外はJISZ8801-1:2019の公称目開きに基づく。超微粉の粒径は、平均粒径(D50)である。10μm以下の超微粉アルミナには、例えばアルマティス社のCL370C、A300FLの仮焼アルミナを使用することができる。その平均粒径(D50)は2.5μmである。
【0020】
シリカは、キャスタブル100質量%に対して5質量%以下配合される。本実施形態において、シリカ量を5質量%以下に定めたのは、耐熱スポーリング性が低下するのを抑制するためである。マグネシア量を増大させると、耐火物ブロックの熱膨張率が高くなる。このため、耐火物ブロックに亀裂が入り易くなり、耐熱スポーリング性が低下してしまう。シリカを配合することで、焼成中にシリカがガラス溶融し、軟化し、膨張を吸収するので、耐熱スポーリング性が低下するのを抑制できる。シリカ量が5質量%を超えると、ガラス溶融量が大きくなりすぎ、耐食性が低下する。
【0021】
シリカには、粒径5μm以下の非晶質超微粉シリカを3質量%以下使用するのが望ましい。非晶質超微粉シリカを使用することで、原料の流動性が向上し、低水分施工が可能になる。超微粉の粒径は、平均粒径(D50)である。粒径5μm以下の非晶質超微粉シリカは、シリカフラワまたはマイクロシリカ(登録商標)等で市販されている。その平均粒径(D50)は5μm以下である。
【0022】
セメントは、マグネシアの量とアルミナの量の和の外掛けで10質量%以下配合されるのが望ましい。本実施形態において、セメントの配合量を上述のように定めたのは、耐火物ブロックの強度を向上させるためである。セメント量が10質量%を超えると、低融物が生成し、耐食性が低下する。セメントの種類は特に限定されるものではなく、例えばアルミナセメントを使用することができる。
【0023】
キャスタブルから均質な耐火物ブロックを得るために、必要に応じて分散剤を添加することができる。分散剤としては、例えば、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、酸性ヘキサメタリン酸ソーダ、スルホン酸ソーダ、ナフタレンスルホン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、ウルトラポリリン酸ソーダ、ポリアクリル酸塩、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩などから選ばれる1種または2種以上を使用することができる。
【0024】
また、キャスタブルに適切な可使時間を付与するために、必要に応じて硬化調整剤を添加することができる。硬化調整剤としては、例えば、ホウ酸、シュウ酸、クエン酸、グルコン酸、ホウ酸アンモニウム、ウルトラポリリン酸ソーダ、炭酸リチウム、炭酸ソーダ、ホウ酸ソーダ、クエン酸ソーダ、酒石酸塩などから選ばれる1種または2種以上を使用することができる。
【0025】
キャスタブルの施工方法としては、流し込み施工、圧送施工、吹き付け施工等の従来周知の施工方法を用いることができる。流し込み施工の一例を説明すれば、マグネシア-アルミナ質キャスタブルにフロー値が一定になるまで水を添加し混錬する。次いで振動台上で所定の型に流し込む。例えば室温で24時間養生後、脱枠し、110℃で24時間乾燥する。
【実施例0026】
表1は、比較例1、実施例1~7、比較例2のキャスタブルの配合、キャスタブルを用いて製造した耐火物ブロックの110℃で24時間乾燥後の物性、耐火物ブロックの1500℃で3時間焼成後の物性を示す。
【0027】
【0028】
比較例1は、アルミナリッチなアルミナ-マグネシア質キャスタブルである。実施例1~7は、マグネシアリッチなマグネシア-アルミナ質キャスタブルである。実施例1~7では、マグネシア量とアルミナ量を変化させている。比較例2は、耐火原料がマグネシアオンリーでアルミナを含まないキャスタブルである。
【0029】
まず、110℃で24時間乾燥後の耐火物ブロックの化学成分を、蛍光X線分析方法を用いて測定した。耐火物成分の蛍光X線分析方法は、JIS R 2216:2005に規定されている。表1に示すように、耐火物ブロックの化学成分は、キャスタブルの配合成分と略同一であった。
【0030】
次に、110℃で24時間乾燥後の耐火物ブロックの気孔率、かさ比重、圧縮強度を測定した。耐火物の気孔率、かさ比重の測定方法は、JIS R 2205:1992に規定されている。耐火物の圧縮強さの試験方法は、JIS R 2206:2007に規定されている。110℃で24時間乾燥後の耐火物ブロックでは、マグネシア量が増大しても、気孔率、かさ比重、圧縮強度は殆ど変化しなかった。
【0031】
次に、1500℃で3時間焼成後の耐火物ブロックの気孔率、かさ比重、圧縮強度を測定した。1500℃で3時間焼成後の耐火物ブロックでは、マグネシア量の増大につれて、気孔率が増加し、かさ比重が低下し、圧縮強度が低下する傾向が見られた。マグネシア量の増大につれて、耐火物ブロックの熱膨張率が高くなることが原因であると推察される。
【0032】
次に、回転ドラム試験により、耐火ブロックの耐食性(すなわち耐溶損性と耐スラグ浸透性)の評価を行った。
図1に示すように、耐火物ブロックの試料1を筒状に組み合わせ、合成スラグ2(C/S=2.0)を投入し、酸素-プロパンバーナ3にて内部温度を1600~1650℃に保持するように加熱した。試験時間を10時間とし、回転方向は一定方向とし、回転速度は8rpmとした。
【0033】
回転ドラム試験後に耐火物ブロックの試料1の溶損量を測定した。表1中の◎は溶損量が10mm以下、〇は溶損量が10~30mm、×は溶損量が30mm以上を表す。
【0034】
表1に示すように、比較例1のアルミナリッチなキャスタブルでは、溶損量が大きかった。しかし、実施例1~7のマグネシアリッチなキャスタブル、比較例2のマグネシアオンリーのキャスタブルでは、マグネシア量の増大につれて、溶損量が小さくなった(すなわち耐溶損性が向上した)。
【0035】
次に、耐火物ブロックの試料1のスラグ浸透量を測定した。表1中の◎はスラグ浸透量が2mm以下、〇はスラグ浸透量が2~10mm、×はスラグ浸透量が10mm以上を表す。
【0036】
比較例2では、スラグ浸透量が大きかった。実施例1~7では、比較例1と同様に耐スラグ浸透量が小さかった(すなわち耐スラグ浸透性が向上した)。なお、実施例1~3、実施例6,7のように、マグネシアを70~80質量%、アルミナを20~30質量%にすることで、耐溶損性と耐スラグ浸透性がより向上した。特に実施例6と実施例7では、耐溶損性と耐スラグ浸透性の両方が◎であった。
【0037】
次に、耐熱スポーリングテストを行った。40mm×40mm×230mmの耐火物ブロックの試料を作成し、110℃で24時間乾燥した。
図2に示すように、1500~1550℃に加熱した溶銑4に15分間、耐火物ブロックの試料5を浸漬した。試料5を溶銑4から引き上げた後、60分間空冷した。これを1サイクルとし、試料4が脱落するまで加熱・冷却を繰り返した。表1中の〇は脱落回数が5回以上を表す。
【0038】
実施例1~7では、比較例1に比較して耐熱スポーリング性が低下したが、その低下量はわずかであった(すなわち耐熱スポーリングが低下するのを抑制できた)。このため、実施例1~7のマグネシア-アルミナ質キャスタブルを耐火物として使用できることがわかった。
【0039】
次に。耐火物ブロックの結晶構造を分析するため、耐火物ブロックを粉末にし、粉末X線回折を測定し、リートベルト解析により、スピネル生成量、コランダム(アルミナ)生成量を測定した。表1中の+は量が小さいこと、++は+よりも量が大きいこと、+++は++よりも量が大きいことを表す。
【0040】
スピネル生成量は、実施例6→実施例5→実施例7→実施例4→実施例3→実施例2→実施例1の順番で大きくなった。スピネルの生成により組織の緻密化を行なえるが、スピネル生成量が過剰になると、膨張して組織劣化がおきる。実施例6が耐溶損性に優れているのは、このスピネル生成量が関係していると考えられる。実施例6のスピネル生成量は最適値に近いと考えられる。実施例2と実施例6を比較してみると、違いは主にアルミナ粒度の違いであり、実施例2では、アルミナ中粒が1500℃においてスピネル化しているのに対し、実施例6では、アルミナ粗粒がスピネル化せずにコランダム(アルミナ)として残っている。粒径3~8mmの粗粒アルミナを使用することで、最適なスピネル生成量を作れたことから、耐溶損性が向上したと推察される。