(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003304
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】医療用の液体検知装置とタグ装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20240105BHJP
A61B 90/98 20160101ALI20240105BHJP
【FI】
A61M1/16 111
A61B90/98
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102345
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】石倉 弘三
(72)【発明者】
【氏名】山辺 康平
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077BB01
4C077EE01
4C077HH03
4C077KK17
(57)【要約】
【課題】漏液のより安定した検知が可能となる、新規な構造の医療用の液体検知装置を提供する。
【解決手段】通液回路8から漏出した医療検知対象液体6を検知する医療用の液体検知装置10であって、RFタグ18と、通液回路8に接続される患者4の腕部5の下方にRFタグ18を配置するタグ保持手段16と、RFタグ18との間で電波による通信を行うリーダーライター装置14と、RFタグ18とリーダーライター装置14との通信状態の変化に基づいて医療検知対象液体6の漏出を電気的に検知する検知部34とを、有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通液回路から漏出した医療検知対象液体を検知する医療用の液体検知装置であって、
RFタグと、
前記通液回路に接続される患者の腕部の下方に該RFタグを配置するタグ保持手段と、
該RFタグとの間で電波による通信を行うリーダーライター装置と、
該RFタグと該リーダーライター装置との通信状態の変化に基づいて該医療検知対象液体の漏出を電気的に検知する検知部と
を、有する医療用の液体検知装置。
【請求項2】
前記RFタグが配置された前記タグ保持手段に対して前記腕部が非固定で載置可能とされている請求項1に記載の医療用の液体検知装置。
【請求項3】
前記タグ保持手段が前記医療検知対象液体を吸収する吸収体を備えており、該吸収体が前記RFタグに近接して配されている請求項1又は2に記載の医療用の液体検知装置。
【請求項4】
前記腕部から前記RFタグまでの距離を設定するスペーサーが設けられている請求項1又は2に記載の医療用の液体検知装置。
【請求項5】
前記通液回路が血液回路を含んで構成されており、前記医療検知対象液体が血液とされている請求項1又は2に記載の医療用の液体検知装置。
【請求項6】
前記血液回路を構成する透析回路の血管への穿刺部分の下方に敷かれて前記医療検知対象液体の通過を阻止する平板状のシートの下面に前記RFタグが配されており、該RFタグの下方に前記リーダーライター装置が配されて、該RFタグと該リーダーライター装置とが上下方向で対向して配置されている請求項5に記載の医療用の液体検知装置。
【請求項7】
通液回路から漏出した医療検知対象液体を検知する医療用の液体検知装置を構成するタグ装置であって、
RFタグと、
前記通液回路に接続される患者の腕部の下方に該RFタグを配置するタグ保持手段と
を、有するタグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において血液の漏出などを検知する際に用いられる医療用の液体検知装置とタグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療の現場では、長時間に亘って治療を行う必要がある施術において、液漏れが問題となる場合があり、このため、血液等の液体の漏れが発生した際に早期に検知することが必要となる場合がある。例えば透析に際して、患者から針が抜ける等して穿刺部分から血液や薬液が漏れてしまう液漏れ(漏液)が発生する場合があり、大きな問題となる前に漏液を検知して対処する必要がある。ところが、多忙な医療関係者が透析の処置に際して開始から完了まで継続的に監視することは現実的ではないことから、漏液を自動的に検知する液体検知装置の採用が検討されている。
【0003】
従来では、例えば、特開2012-196293号公報(特許文献1)のように、複数の検知配線を有するシート上に患者の前腕を置き、検知配線に血液等の漏液が接触することによって電気的に短絡されて、電気抵抗の変化等に基づいて漏液が検知されるようにした、電気抵抗式の液体検知装置が提案されている。また、特開2017-042302号公報(特許文献2)のように、検知対象をカメラによって光学的に監視するカメラ式の液体検知装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-196293号公報
【特許文献2】特開2017-042302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような電気抵抗式の液体検知装置は、少量の液体であっても位置や広がり方によっては検知され得ることから、例えば患者の発汗等の検知が必要ない液体を誤検知するおそれがあった。また、特許文献2のようなカメラ式の液体検知装置は、例えば睡眠時に漏液の発生が想定される穿刺部分等が布団で覆われた場合に、検知対象液体が検知されない事態も考えられる。
【0006】
本発明の解決課題は、漏液のより安定した検知が可能となる、新規な構造の医療用の液体検知装置を提供することにある。また、本発明は、上記の如き医療用の液体検知装置を構成するタグ装置を提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第1の態様は、通液回路から漏出した医療検知対象液体を検知する医療用の液体検知装置であって、RFタグと、前記通液回路に接続される患者の腕部の下方に該RFタグを配置するタグ保持手段と、該RFタグとの間で電波による通信を行うリーダーライター装置と、該RFタグと該リーダーライター装置との通信状態の変化に基づいて該医療検知対象液体の漏出を電気的に検知する検知部とを、有するものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた医療用の液体検知装置によれば、RFタグとリーダーライター装置との通信状態の変化に基づいて、腕部の下方において医療検知対象液体を検知することができることから、漏液のより安定した検知が可能となる。特に、医療検知対象液体の検知が必要な部位が覆われて視認不能な状態であっても、医療検知対象液体の有無を把握することができる。
【0010】
第2の態様は、第1の態様に記載された医療用の液体検知装置において、前記RFタグが配置された前記タグ保持手段に対して前記腕部が非固定で載置可能とされているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた医療用の液体検知装置によれば、例えば、患者が姿勢を変える等して、腕部を移動させたり、腕部の周方向の向きを変えたとしても、RFタグが配置されたタグ保持手段は腕部に追従して移動しない。その結果、RFタグとリーダーライター装置とが対向状態に保持されて、RFタグとリーダーライター装置との通信が維持されることから、漏液検知が継続される。
【0012】
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された医療用の液体検知装置において、前記タグ保持手段が前記医療検知対象液体を吸収する吸収体を備えており、該吸収体が前記RFタグに近接して配されているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた医療用の液体検知装置によれば、医療検知対象液体が吸収体によって吸収されてRFタグの近くに保持されることから、医療検知対象液体の存在によるRFタグとリーダーライター装置との通信状態の変化が効率的に惹起されて、医療検知対象液体をより正確に検知することができる。
【0014】
第4の態様は、第1~第3の何れか1つの態様に記載された医療用の液体検知装置において、前記腕部から前記RFタグまでの距離を設定するスペーサーが設けられているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた医療用の液体検知装置によれば、人体とRFタグとの間にスペーサーが配されていることにより、医療検知対象液体の非検知状態において、人体の影響による誤検知を防ぐことができる。
【0016】
第5の態様は、第1~第4の何れか1つの態様に記載された医療用の液体検知装置において、前記通液回路が血液回路を含んで構成されており、前記医療検知対象液体が血液とされているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた医療用の液体検知装置によれば、例えば、患者の血管系と血管に接続される透析回路等の外部回路とを含む血液回路において、血液の漏れを検知することができる。
【0018】
第6の態様は、第5の態様に記載された医療用の液体検知装置において、前記血液回路を構成する透析回路の血管への穿刺部分の下方に敷かれて前記医療検知対象液体の通過を阻止する平板状のシートの下面に前記RFタグが配されており、該RFタグの下方に前記リーダーライター装置が配されて、該RFタグと該リーダーライター装置とが上下方向で対向して配置されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた医療用の液体検知装置によれば、血管への穿刺を要する人工透析において、穿刺部分の下方に敷かれたシート上に溜まる或いはシートの吸収体に吸収される血液を、RFタグとリーダーライター装置との通信状態の変化に基づいて検知することにより、穿刺部分からの血液の漏れを検知することができる。特に、長時間の人工透析に際して、穿刺部分が布団等で覆われて視認不能となったり、穿刺部分の多少の移動があったとしても、血液の漏れを安定して検知することができる。
【0020】
第7の態様は、通液回路から漏出した医療検知対象液体を検知する医療用の液体検知装置を構成するタグ装置であって、RFタグと、前記通液回路に接続される患者の腕部の下方に該RFタグを配置するタグ保持手段とを、有するものである。
【0021】
本態様に従う構造とされたタグ装置によれば、RFタグをタグ保持手段によって腕部の下方に配置することにより、漏れ出した医療検知対象液体をRFタグの近傍に位置させて、医療検知対象液体をRFタグの通信状態に有効に影響させることができる。なお、本態様に係るタグ装置では、例えば前記第3の態様に記載の吸収体や、第4の態様に記載のスペーサー、第6の態様に記載の液体不透過性シートなどが、適宜に組み合わされて採用され得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、医療用の液体検知装置において、漏液のより安定した検知が可能となる。また、上記の如き効果を奏する医療用の液体検知装置において有効に作動するタグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態としての医療用の液体検知装置の使用例を示す図であって、血液が検知されていない状態を示す図
【
図2】
図1の液体検知装置を構成するタグ装置を示す断面図
【
図4】
図1の液体検知装置の使用例を示す図であって、血液が検知された状態を示す図
【
図5】本発明の別の一実施形態としての医療用の液体検知装置を構成するタグ装置を示す断面図
【
図6】本発明のまた別の一実施形態としての医療用の液体検知装置を構成するタグ装置を示す断面図
【
図7】本発明の更に別の一実施形態としての医療用の液体検知装置を構成するタグ装置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1には、本発明の第1実施形態としての医療用の液体検知装置10が示されている。液体検知装置10は、例えば、人工透析装置1の採血口2及び返血口3の患者4の前腕5への穿刺部位において、針の抜け等に起因する医療検知対象液体としての血液6の漏出を監視する。以下の説明において、上下方向とは、原則として、液体検知装置10の使用状態における鉛直上下方向を言う。
【0026】
液体検知装置10は、タグ装置12と、リーダーライター装置14とを、備えている。タグ装置12は、
図2に示すように、タグ保持手段としてのシート16の下面にRFタグ18が貼り付けられた構造を有している。
【0027】
シート16は、略平板状とされており、吸収体20と不透過性フィルム22とクッション体24とが重ね合わされて相互に固定された積層構造とされている。吸収体20は、医療検知対象液体(血液6)を吸収して保持することが可能とされている。吸収体20の形成材料は、特に限定されないが、後述するように患者4の前腕5と接することから、好適には、例えば積層された不織布等で形成されることによって、良好な触感や張り付きの防止などが図られる。
【0028】
吸収体20の下側には、不透過性フィルム22が重ね合わされている。不透過性フィルム22は、血液6の通過を阻止する薄肉の部材であって、例えば、ポリエチレンテレフタレート等で形成されて、可撓性を有している。シート16は、不透過性フィルム22を備えていることにより、血液6の通過を阻止する機能を有しており、吸収体20に吸収された血液6が不透過性フィルム22上に保持される。
【0029】
また、不透過性フィルム22の下側には、クッション体24が重ね合わされている。クッション体24は、例えば、積層された不織布等によって形成されており、本実施形態では吸収体20と同じ材料で形成されている。
【0030】
シート16は、RFタグ18と前腕5の離隔距離を設定するスペーサーとしての機能を有している。シート16において、吸収体20は血液6の吸収性能等によって厚さ寸法が制限されており、不透過性フィルム22は可撓性やコスト等によって厚さ寸法が制限されていることから、シート16の厚さ寸法は主としてクッション体24によって調節されており、RFタグ18と前腕5の離隔距離がクッション体24の厚さ寸法の調節によって設定されている。換言すれば、クッション体24を構成する不織布の厚さや積層数は、要求されるRFタグ18と前腕5の離隔距離に応じて設定される。尤も、吸収体20はRFタグ18に近接して配されており、不透過性フィルム22及びクッション体24の厚さ寸法は、吸収体20に吸収された血液6が不透過性フィルム22まで達した状態において、RFタグ18の電波通信状態に血液6による変化が生じる程度に小さくされている。
【0031】
RFタグ18は、薄肉のシート状であって、
図3に示すように、タグ側アンテナ26とタグ側制御チップ28とを備えている。そして、RFタグ18は、タグ側アンテナ26の作動制御、受信信号の処理、送信信号(応答信号)の生成等が、タグ側制御チップ28によって実行される。RFタグ18は、後述するリーダーライター装置14からの電波によって作動するパッシブタグとされていることが望ましいが、電源を内蔵したアクティブタグや、リーダーライター装置14からの電波によって起動して内蔵電源で作動するセミパッシブタグであってもよい。
【0032】
RFタグ18は、タグ側アンテナ26とタグ側制御チップ28からなるインレットを保護する図示しない保護体を備えていることが望ましい。保護体は、インレットの表面を被覆して、液体等の直接的な付着によるタグ側アンテナ26とタグ側制御チップ28の故障を防ぐものであって、例えば樹脂等で形成されている。
【0033】
RFタグ18は、漏れた血液6が吸収体20によって吸収保持される際に、血液6が至る領域内に配置されている。即ち、本実施形態では、シート16上に載置された前腕5から流れる血液6は、シート16の吸収体20へ流れ落ちた後、吸収体20内を下方へ流れて不透過性フィルム22に至る。血液6が漏れ出す採血口2及び返血口3は、シート16の中央部分に位置するように前腕5がシート16上に載置されることから、血液6はシート16の中央部分を下向きに流れ易く、主として中央部分において吸収体20に保持される。それ故、本実施形態において、RFタグ18は、シート16の中央部分の下面に貼り付けられている。
【0034】
リーダーライター装置14は、RFタグ18との間で電波による通信を行う装置であって、リーダーライター装置14とRFタグ18とによってRFID(Radio Frequency Identification)が構成される。リーダーライター装置14は、RFタグ18との間で信号を送受信するためのRW側アンテナ32と、RW側アンテナ32の作動制御、送信信号の生成、受信信号(応答信号)の処理等を行うRW側制御部34とを、備えている。そして、リーダーライター装置14は、送信信号の電波を所定の時間間隔でRFタグ18に向けて送信する。リーダーライター装置14は、タグ装置12の下方に離れて位置しており、好適にはタグ装置12と鉛直方向で対向して下方に配置されている。リーダーライター装置14は、持ち運び可能とされていてもよいし、例えば建物や他の医療機器、ベッド7等に固定的に設けられていてもよい。
【0035】
RFタグ18とリーダーライター装置14は、920MHz程度のUHF(Ultra Hi Frequency)帯の電波によって相互に通信する。即ち、リーダーライター装置14のRW側アンテナ32から送信されたUHF帯の電波がRFタグ18のタグ側アンテナ26によって受信されると、受信した電波を電源としてRFタグ18のタグ側制御チップ28が作動し、応答信号を生成する。タグ側アンテナ26から送信された応答信号は、リーダーライター装置14のRW側アンテナ32によって受信される。なお、RFタグ18は、リーダーライター装置14から送信された電波の受信時に直ちに応答するようにしてもよいし、リーダーライター装置14から応答指令の信号を受信した場合にのみ応答するようにしてもよい。
【0036】
かくの如き構造とされた液体検知装置10は、例えば、人工透析装置1と患者4の血管とによって構成される通液回路としての血液回路8における血液6の漏れを検知する。より具体的には、例えば、液体検知装置10は、
図1に示すように、人工透析装置1において患者4の血管への穿刺部分(採血口2及び返血口3)における血液6の漏れを検知するために用いられる。
図1では、患者4がベッド7上にあおむけに横たわっており、人工透析装置1の透析回路の患者4側の末端である採血口2と返血口3とが、患者4の腕部としての前腕5に穿刺されている。これにより、血液回路8を構成する透析回路が、前腕5に接続されている。また、タグ装置12がベッド7の上面に敷設されており、患者4の前腕5における採血口2及び返血口3の穿刺部分がタグ装置12に載せられている。前腕5はタグ装置12上に非固定で載置可能とされており、前腕5のタグ装置12上への載置によってRFタグ18が前腕5の下方に配置される。前腕5は、シート16の上部を構成する吸収体20に接した状態で重ね合わされている。一方、リーダーライター装置14は、ベッド7の下側の床上に設置されており、タグ装置12のRFタグ18に対して上下方向で対向して配されている。
【0037】
そして、リーダーライター装置14からRFタグ18に向けてUHF帯の電波が発信されており、液体検知装置10は、当該電波に対するRFタグ18の応答の有無に基づいて、血液6の漏れを検知する。
【0038】
すなわち、
図1に示すように血液6の漏れがない場合には、リーダーライター装置14から送信された電波がRFタグ18に受信されることによって、RFタグ18からリーダーライター装置14に向けて応答信号が発信されて、リーダーライター装置14が応答信号を受信する。このようにRFタグ18からの応答があることをもって、医療検知対象液体(血液6)がRFタグ18に近接して存在しないことが、検知部としてのリーダーライター装置14によって検知される。
【0039】
一方、
図4に示すように穿刺部分からの血液6の漏れがある場合には、リーダーライター装置14から送信された電波が、吸収体20によってRFタグ18の近傍に保持された血液6によって吸収されて、RFタグ18に供給される電波が弱くなる。その結果、RFタグ18からの応答信号が弱くなる或いはなくなることから、血液6の漏れがない場合とは通信状態が変化する。そして、リーダーライター装置14のRW側制御部34は、RFタグ18からの有効な応答がないという通信状態の変化に基づいて、RFタグ18の近くに血液6があることを検知する。
【0040】
なお、血液6の漏出を電気的に検知する処理を行う検知部は、本実施形態のようにリーダーライター装置14のRW側制御部34によって構成されていてもよいが、リーダーライター装置14に接続された他の装置によって構成されていてもよい。例えば、RFタグ18からの有効な応答がない場合に、リーダーライター装置14が液体検知信号を生成して、リーダーライター装置14に有線又は無線で接続された図示しない処理装置(パソコン等)に液体検知信号を送信するようにしてもよく、この場合には、液体検知信号を受信した処理装置が血液6の検知処理を行う。
【0041】
このように、液体検知装置10によれば、RFタグ18とリーダーライター装置14との通信状態の変化に基づいて、採血口2及び返血口3における意図しない針の抜け等による血液6の漏れを検知することができる。特に、電波による通信状態の変化に基づいて血液6を検知することにより、例えば、前腕5の採血口2及び返血口3が布団等で覆われて外部から視認不能となっていても、血液6の漏れを有効に検知することができる。
【0042】
本実施形態において、RFタグ18はシート16の下面に取り付けられており、シート16上に前腕5が載置されている。これにより、例えば、シート16上において、前腕5が水平方向へ移動したり、前腕5が周方向に捩られる等して回転したとしても、前腕5に対して非固定とされたシート16は前腕5に追従して移動することがなく、シート16に取り付けられたRFタグ18がリーダーライター装置14に対して上下方向で対向した状態に保持される。それゆえ、患者4がシート16上で前腕5を動かしたとしても、RFタグ18とリーダーライター装置14の通信状態に影響し難く、血液6の漏れの有効な検知を維持することができる。
【0043】
本実施形態では、吸収体20の下方に血液6の通過を阻止する不透過性フィルム22が配されていることから、吸収体20を通過する血液6がベッド7まで達することなく不透過性フィルム22上に留まるようになっている。これにより、血液6が吸収体20によって吸収された状態に保持されると共に、血液6の付着によってベッド7が汚れるのを防ぐことができる。
【0044】
また、不透過性フィルム22とRFタグ18との間にはクッション体24が配されており、前腕5とRFタグ18との距離を調節するスペーサーが、不透過性フィルム22とクッション体24とを含んで構成されている。このようなスペーサーが設けられていることにより、リーダーライター装置14から発信された電波が前腕5によって過度に吸収されるのを防ぐことができて、血液6が漏出していない状態においてRFタグ18に電波を有効に供給することができる。
【0045】
なお、血液6を吸収していない吸収体20も、前腕5とRFタグ18とを離隔させるスペーサーとなる。しかしながら、吸収体20が過度に厚いと、血液6が漏れた場合に、血液6が不透過性フィルム22に達するまでの経路上で吸収体20により多く吸収されることから、検知可能な量の血液6がRFタグ18に近い不透過性フィルム22付近に達するまでにより多くの出血が必要となる。また、不透過性フィルム22を厚肉にすると、シート16の柔軟性が損なわれる等の不具合がある。そこで、本実施形態では、不透過性フィルム22とRFタグ18との間にクッション体24を設けることによって、前腕5を載せるシート16の柔軟性を確保しつつ、適切な出血量で血液6を精度よく検知可能とすることが可能とされている。
【0046】
液体検知装置10のタグ装置12は、使用後に洗浄や滅菌等の処理を行うことによって頻回使用することも可能であるが、好適には単回使用とされる。これにより、患者4と接触する吸収体20を備えたタグ装置12を清潔に保つことができて、患者4間の感染等を防ぐことができる。
【0047】
本実施形態の液体検知装置10では、血液6の漏れが検知されると、血液6の検知が報知装置36によって外部に報知される。報知装置36は、例えば、ライト38とスピーカー40によって構成されており、ライト38の発光及びスピーカー40の発音の有無や、発光及び発音の態様(例えば、発光及び発音パターン、発光色、音程)等が、RW側制御部34によって制御される。また、Bluetooth(登録商標)等の無線を介してタグ装置12及びリーダーライター装置14から離れた位置にあるライト38やスピーカー40を発光又は発音させることで、医師や家族等に報知することもできる。例えば、報知装置36は、看護師の待機室に設置されているライト38やスピーカー40、スマートフォンといった既存の報知装置の他、病室の入口付近にライト38やスピーカー40を設けて、異常を外部に知らせるようにしてもよい。
【0048】
図1に例示した本実施形態の液体検知装置10は、リーダーライター装置14と報知装置36が互いに分離しており、リーダーライター装置14と報知装置36が有線又は無線で相互に接続されている。報知装置36は、発光が目につきやすく且つ発光や発音を停止する操作が容易になるように、人工透析装置1のより低い位置にセットされている。
【0049】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、RFタグ18が貼り付けられたシート状(帯状)のタグ保持手段を患者4の前腕5に巻き付けて固定することにより、RFタグ18を前腕5に重ね合わせた状態に保持することもできる。この場合には、例えば、タグ保持手段に対して複数のRFタグ18を前腕5の周方向で相互に離隔して配置し、それらRFタグ18の何れかが前腕5の下方に位置するようにすれば、漏液検知可能な状態を維持することができる。
【0050】
1つのRFタグ18と1つのリーダーライター装置14を備えた液体検知装置10を例示したが、例えば、複数のRFタグ18と1つのリーダーライター装置14の間での通信状態の変化に基づいて、複数箇所において医療検知対象液体を検知可能とすることもできる。この場合には、複数のRFタグ18に対して相互識別可能となるコードを書き込んでおくことで、リーダーライター装置14がRFタグ18を識別可能となる。
【0051】
前記実施形態では、インレットが保護体で覆われて医療検知対象液体との接触に対する耐性を有するRFタグ18を例示したが、例えば、医療検知対象液体の接触によって分解されるRFタグを採用してもよい。これによれば、医療検知対象液体が漏れると、医療検知対象液体と接触したRFタグが分解することで、RFタグの応答機能がより確実に停止されることから、液体の漏れを精度よく検知することができる。なお、この場合に、吸収体20は必須ではなく、漏れた医療検知対象液体が吸収体20に収集保持されることなく、RFタグに接触するようにしてもよい。
【0052】
前記実施形態では、RFタグ18からの応答がない場合に、血液6の漏れを検知する例を示したが、漏れ出す血液6の量や吸収体20で保持された血液6とRFタグ18との距離等によっては、血液6が漏れ出していてもRFタグ18からの応答がある場合も想定される。従って、血液6の漏れは、必ずしもRFタグ18からの応答の消失によって検知される態様に限定されず、例えば、RFタグ18からの応答信号の強度が予め設定された閾値より低下したことをもって検知されるようにしてもよい。要するに、医療検知対象液体の漏出は、リーダーライター装置14とRFタグ18との通信状態の変化に基づいて検知されればよいのであって、この通信状態の変化には、通信の完全な途絶だけでなく、通信信号強度の低下やノイズの増大など、通信が維持された状態での変化も含まれる。
【0053】
シート16の構造は、前記実施形態に示した3層構造に限定されない。例えば、
図5~
図7に示すタグ装置50,60,70のように、吸収体20と不透過性フィルム22だけで構成されてクッション体(24)が省略されたタグ保持手段としてのシート52を採用することもできる。
図5のタグ装置50では、RFタグ18が不透過性フィルム22の上面に固着されており、RFタグ18が吸収体20に直接的に接して配されている。
図6のタグ装置60では、RFタグ18が不透過性フィルム22に埋め込まれており、RFタグ18は、不透過性フィルム22から露出して吸収体20に直接的に接していてもよいし、不透過性フィルム22で覆われていてもよい。
図7のタグ装置70では、RFタグ18が不透過性フィルム22の下面に固着されており、RFタグ18と吸収体20との間に不透過性フィルム22が介在している。
図5~
図7の何れの態様においても、RFタグ18と吸収体20は相互に近接して配されており、RFタグ18と吸収体20の間にクッション体(24)が介在していない。特に、
図5,
図6のタグ装置50,60では、RFタグ18が吸収体20に対して隣接して接した状態で配され得る。このようなクッション体(24)を持たない
図5~
図7のタグ装置50,60,70によれば、吸収体20によって吸収された医療検知対象液体(血液6)がRFタグ18により近い位置に保持されることから、医療検知対象液体がRFタグ18とリーダーライター装置14との通信により影響し易くなって、漏液の検出精度の向上が図られ得る。なお、腕部(前腕5)からRFタグ18までの距離を設定するスペーサーは、
図5,
図6のタグ装置50,60では医療検知対象液体を吸収していない吸収体20によって構成され、
図7のタグ装置70では医療検知対象液体を吸収していない吸収体20と不透過性フィルム22とによって構成される。
【0054】
前記実施形態では前腕5とRFタグ18との距離を調節するスペーサーがシート16によって構成されていたが、例えばRFタグ18に対して血液などの検出対象液を直接に接触させてもよい場合には、不透過性フィルム22を無くしたりRFタグ18の下方(前腕5とは反対側)に配したりすることも可能である。また、含水率の高い人体(前腕5)の存在による検出精度の低下を軽減するために、人体(前腕5)と吸収体20との間に、吸収体20よりも保液性が低く且つ透液性の高いスペーサーとして例えば連続気孔を有する親水性の多孔体等を配することで、吸収体20で保液される漏液部分と人体(前腕5)との間の離隔距離を大きく確保するようにしてもよい。また、不透過性フィルム22とRFタグ18との間のクッション体24には保液性などは要求されないことから材質は任意であり、漏液の検出対象部分である吸収体20とRFタグ18とが検出に有利な離隔距離に安定して保持され得るように適宜の厚さや特性を設定することができる。
【0055】
前記実施形態では、可撓性を有するシート16を例示したが、例えば、可撓性の不透過性フィルム22に代えて平板状の不透過性プレートを配することにより、平板状に形状保持されたシートとすることもできる。このような平板状のシートによれば、シートの変形によるRFタグ18の移動が防止されることから、RFタグ18がリーダーライター装置14に対する対向状態により安定して保持される。なお、平板状のシートにおいても多少の変形は許容されていてもよく、例えば、シートの変形によるRFタグ18の移動がリーダーライター装置14との通信に支障がない程度であれば、シートの変形が許容され得る。
【0056】
また、1つのシート16に複数のRFタグ18を取り付けてもよく、それによって、シート16上で液体を検知可能な領域を拡大したり、複数のRFタグによる検出結果を相対比較等して考慮すること又は相加等して検知出力値の向上を図ることによって検出精度の向上を図ったり、RFタグに不具合が発生した場合のサポート用に別のRFタグを利用したり等することもできる。
【0057】
前記実施形態では、人工透析時の血液6の漏出を検知する場合について例示したが、例えば、輸液において、輸液回路の針が患者4の前腕5等から抜ける等して薬液等が漏出した場合に、薬液等を医療検知対象液体として検知することもできる。好適には、人体内に存在する体液、又は、外部から人体に供給される薬液や輸血等の液体などが、医療検知対象液体とされる。
【符号の説明】
【0058】
10 医療用の液体検知装置(第1実施形態)
12 タグ装置
14 リーダーライター装置
16 シート(タグ保持手段、スペーサー)
18 RFタグ
20 吸収体
22 不透過性フィルム
24 クッション体
26 タグ側アンテナ
28 タグ側制御チップ
32 RW側アンテナ
34 RW側制御部(検知部)
36 報知装置
38 ライト
40 スピーカー
50 タグ装置(別実施形態)
52 シート(タグ保持手段)
60 タグ装置(別実施形態)
70 タグ装置(別実施形態)
1 人工透析装置
2 採血口
3 返血口
4 患者
5 前腕(腕部)
6 血液(医療検知対象液体)
7 ベッド
8 血液回路(通液回路)