(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033054
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】内燃機関のバルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20240306BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F01L1/356 E
F01L1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136430
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】岡田 翔平
【テーマコード(参考)】
3G016
3G018
【Fターム(参考)】
3G016BA20
3G016CA05
3G016CA27
3G016CA51
3G016DA06
3G016EA09
3G016FA06
3G016FA11
3G016FA12
3G016FA39
3G018BA33
3G018DA20
3G018DA67
3G018DA71
3G018DA83
3G018DA85
3G018DA86
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA17
(57)【要約】
【課題】密閉性能検査によるシールリングの欠損などを検知しつつオイルによるシールリングの影響を回避することができる。
【解決手段】ハウジング6の内周に設けられ、内部軸方向にボルト孔12が貫通形成されたシュー11と、シューの軸方向の一端面11aにボルト孔の孔縁を囲むように形成され、内部にシールリング37を収容保持する第1シール溝35と、ハウジングの内部に相対回転可能に配置されたベーンロータ9と、シューの軸方向の一端面に形成され、第1シール溝とボルト孔を連通する第1通気溝39及び第1シール溝と遅角油圧室15を連通する第2通気溝40と、を備え、第2通気溝は、通路断面積が遅角油圧室内から第1シール溝内へのオイルの流入を抑制可能な大きさになっている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトからの回転力が伝達され、回転軸方向の一端開口部を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジングの内周に複数設けられ、内部軸方向にボルト孔が貫通形成されたシューと、
前記シューの軸方向の一端面に前記ボルト孔の孔縁の少なくとも一部を囲むように形成され、内部にシール部材を収容保持するシール溝と、
前記ハウジングの一端開口部を覆うプレート部材と、
前記ハウジングの内部に相対回転可能に配置され、前記ハウジングの内部に作動油室の一部を形成するベーンを有し、カムシャフトに固定されるベーンロータと、
前記ボルト孔を介して前記ハウジングに前記プレート部材を締結するボルトと、
前記シューの軸方向の一端面に形成され、前記シール溝と前記ボルト孔を連通する第1通気溝と、
前記シューの軸方向の一端面に形成され、前記シール溝と前記作動油室を連通する第2通気溝と、
を備え、
少なくとも前記第2通気溝は、通路断面積が前記作動油室内から前記シール溝内へのオイルの流入を抑制可能な大きさになっていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第2通気溝は、深さ寸法が幅長さよりも小さく形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1通気溝は、深さ寸法が幅長さよりも小さく形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記シューの軸方向の一端面に、前記第1通気溝と周方向で異なる部位に形成され、前記シール溝と前記ボルト孔とを連通する第3通気溝と、
前記シューを挟んだ前記作動油室と反対側の他の作動油室と前記シール溝とを連通する第4通気溝と、を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1、第2、第3、第4通気溝は、前記ベーンロータの回転軸の軸心と同心円上にあることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項6】
請求項4に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
複数の前記シューは、前記第1、第2、第3、第4通気溝をそれぞれ有し、
複数の前記シューの前記第1、第2、第3、第4通気溝の全てがベーンロータの回転軸の軸心と同心円上にあることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1通気溝と第2通気溝の内底面は、平面状に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1通気溝と第2通気溝の内底面の幅方向の両端部を、円弧面状に形成したことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項9】
請求項1記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1通気溝と第2通気溝のそれぞれの内底面は、V字形状に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項10】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1通気溝と第2通気溝は、旋盤加工またはレーザー加工によって形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記ハウジング及び前記シューは、焼結成形によって一体に形成されていると共に、前記第1通気溝と第2通気溝も焼結成形によって形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項12】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記第1通気溝と第2通気溝は、深さ寸法が幅長さよりも小さく形成されて、内底面が平面状またはU字形状あるいはV字形状に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項13】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記第1通気溝と第2通気溝は、深さ寸法が幅長さよりも小さく形成されて、
前記深さ寸法をD,前記幅長さをWとしたときに、
W/D≧10
を満たすことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、以下の特許文献1に記載された従来のバルブタイミング制御装置は、クランクシャフトからの回転力が伝達される筒状のハウジングと、前記ハウジングの内周に複数設けられ、内部軸方向にボルト孔が貫通形成されたシューと、前記シューの軸方向の一端面に前記ボルト孔の周囲を囲むように形成されて、内部にシールリングを収容保持するシール溝と、前記ハウジングの回転軸方向の一端開口部を覆い、前記ボルト孔に挿通されたボルトによってハウジングに締結固定されたプレート部材と、前記ハウジングの内部に相対回転可能に配置され、前記ハウジングの内部に作動油室の一部を形成するベーンを有し、カムシャフトの回転軸方向の一端部に固定されるベーンロータと、を備えている。
【0003】
ところで、前記バルブタイミング制御装置は、前記ハウジングに対してプレート部材をボルトで締結するなど、各構成部品を組み付けた後に、密閉性能検査が行われるようになっている。これは、前記シール溝内へのシールリングの組付け忘れや、シールリングがシール溝内に適正に位置決めされて保持されているか否か、欠損がないかなどを検査するものである。この検査方法としては、検査用の圧縮エアーを、作動油室側からシール溝を経由してボルト孔の方向へ送って、圧縮エアーがボルト孔の方向へ流出するかしないかをみて、シールリングのシール溝内での状態を検査するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のバルブタイミング制御装置にあっては、ハウジングとプレート部材との間のボルトの締め付け力によって、プレート部材の内面と各シューの軸方向の一端面がいわゆるメタルタッチ状態になってしまう場合がある。このメタルタッチによって、作動油室からボルト孔方向への圧縮エアーが封止されてしまうことから、シールリングの状態を検知することができないおそれがある。
【0006】
本発明は、前記各従来の技術的課題に鑑みて案出されたもので、密閉性能検査によるシール部材の欠損などを検知しつつ油圧によるシール部材の影響を回避することが可能な内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい態様としては、とりわけ、ハウジングの内周に複数設けられ、内部軸方向にボルト孔が貫通形成されたシューと、前記シューの軸方向の一端面に前記ボルト孔の孔縁の少なくとも一部を囲むように形成され、内部にシール部材を収容保持するシール溝と、前記ハウジングの一端開口部を覆うプレート部材と、前記ハウジングの内部に相対回転可能に配置され、前記ハウジングの内部に作動油室の一部を形成するベーンを有し、カムシャフトに固定されるベーンロータと、前記ボルト孔を介して前記ハウジングに前記プレート部材を締結するボルトと、前記シューの軸方向の一端面に形成され、前記シール溝と前記ボルト孔を連通する第1通気溝と、前記シューの軸方向の一端面に形成され、前記シール溝と前記作動油室を連通する第2通気溝と、を備え、少なくとも前記第2通気溝は、通路断面積が前記作動油室内から前記シール溝内へのオイルの流入を抑制可能な大きさになっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、密閉性能検査によるシール部材の欠損などを検知しつつ、油圧によるシール部材の摺動摩擦などによる耐久性の影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るバルブタイミング制御装置の一実施形態の要部を示す分解斜視図である。
【
図2】本実施形態のバルブタイミング制御装置の油圧回路を示す概略図である。
【
図3】同バルブタイミング制御装置のベーンロータが最遅角位置に相対回転した状態を示す作用説明図である。
【
図4】同じくベーンロータが最進角位置に相対回転した状態を示す作用説明図である。
【
図5】本実施形態に供される第1、第2通気溝を示す
図3の一部拡大図である。
【
図7】本実施形態での密閉性能検査でのテスト用の圧縮エアーを送出する方向を示している。
【
図8】本実施形態での密閉性能検査において、遅角油圧室側から第1、第2通気溝を介して圧縮エアーを送出した状態を示している。
【
図9】通気溝の深さに応じてエアーリーク量とオイルリーク量が相対的に異なることを実験によって示した特性図である。
【
図10】本発明の第2実施形態を示すシュー側の要部斜視図である。
【
図11】同第2実施形態を示すシュー側の要部正面図である。
【
図12】本実施形態に供される通気溝の変形例を示し、(a)は通気溝を横断面U字形状に形成したものを示し、(b)は通気溝を横断面V字形状に形成したもの示し、(c)は通気溝を横断面波形状に形成したものを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置を吸気弁側に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は本発明に係るバルブタイミング制御装置の実施形態の主要な構成部材を示す分解斜視図、
図2は本実施形態のバルブタイミング制御装置の油圧回路を示す概略図、
図3は同バルブタイミング制御装置のベーンロータが最遅角位置に相対回転した状態を示す作用説明図、
図4は同じくベーンロータが最進角位置に相対回転した状態を示す作用説明図である。
【0011】
バルブタイミング制御装置は、
図1及び
図2に示すように、機関のクランクシャフトによりタイミングベルトを介して回転駆動されるタイミングプーリ(以下、プーリという。)1と、機関前後方向に沿って配置されて、プーリ1に対して相対回転可能に設けられた吸気側のカムシャフト2と、プーリ1とカムシャフト2との間に配置されて、プーリ1とカムシャフト2の相対回転位相を変換する位相変更機構3と、該位相変更機構3を作動させる油圧回路4と、を備えている。
【0012】
プーリ1は、後述するハウジング6の外周に一体に形成され、外周にタイミングベルトが巻回される歯車1aを有している。
【0013】
カムシャフト2は、図外のシリンダヘッドにカム軸受を介して回転自在に支持され、外周には吸気弁を開閉作動させる複数の卵形カムが軸方向の所定位置に一体に固定されている。また、カムシャフト2は、
図2に示すように、一端部2aの内部軸心方向にボルト挿入孔2bが形成されており、このボルト挿入孔2bの先端側に雌ねじ孔2cが形成されている。
【0014】
位相変更機構3は、
図1~
図4にも示すように、プーリ1と一体に設けられて、内部に作動油室を有するハウジング6と、該ハウジング6の内部に相対回転自在に収容され、カムシャフト2の一端部2aにカムボルト8を介して回転軸方向から固定されたベーンロータ9と、ハウジング6の作動油室がベーンロータ9によって複数(本実施形態ではそれぞれ4つ)に仕切られた第1作動油室である遅角油圧室15及び第2作動油室である進角油圧室16とを備えている。
【0015】
ハウジング6は、焼結金属によって円筒状に形成されており、回転軸方向の一端開口部がプレス成形によって形成されたプレート部材であるフロントプレート7によって封止されている。また、ハウジング6の他端開口部は、同じくプレス成形によって形成されたリアプレート10によって封止されている。
【0016】
ハウジング6は、内周面に複数(本実施形態では4つ)のシュー11が円周方向のほぼ等間隔位置に一体に設けられている。この各シュー11は、正面から視てほぼ台形状に形成されて、円周方向の幅長さがほぼ同一に形成されて全体の重量バランスが図られている。この各シュー11の内部には、複数(本実施形態では4本)のボルト5が挿入されるボルト孔12がそれぞれ軸方向に貫通形成されている。
【0017】
また、各シュー11は、前記各ボルト孔12の前後の各孔縁部の周り、つまり軸方向の一端面11aと他端面11bのボルト孔12の各孔縁部の径方向外周側には、フロント側の第1シール溝35とリア側の第2シール溝36がそれぞれ形成されている。この第1、第2シール溝35,36は、各ボルト孔12の孔縁部の周囲を囲むように円環状に形成され、内部にはシール部材(Oリング)である第1、第2シールリング37,38がそれぞれ収容保持されている。
【0018】
この第1、第2シールリング37,38は、フロントプレート7とリアプレート10をハウジング6にボルト固定した際に、圧縮変形してシール機能を発揮するようになっている。
【0019】
図5は本実施形態に供される第1、第2通気溝を示す
図3の一部拡大図、
図6は
図5のA-A線断面図である。この
図6では第2通気溝40の横断面形状を示しているが、第1通気溝39も同じ形状であるから、以下では両通気溝39,40として説明する。
【0020】
また、各シュー11の一端面11aには、
図3~
図6に示すように、前記第1シール溝35と一つのボルト孔12とを連通する第1通気溝39が形成されている。また、同じく一端面11aには、第1シール溝35と遅角油圧室15とを連通する第2通気溝40が形成されている。この第1、第2通気溝39,40は、ハウジング6や各シュー11の焼結成形時に一緒に成形されていると共に、ハウジング6の回転軸の軸心と同軸上に形成されて、それぞれがほぼ直線に近い円弧状に形成されている。また、第1、第2通気溝39,40は、
図5及び
図6に示すように、横断面形状が同じ長方形状に形成されて、それぞれの内底面39a、40aが平面状に形成されている。
【0021】
なお、各通気溝39,40は、旋盤加工あるいはレーザー加工によって形成することも可能である。
【0022】
また、第1、第2通気溝39,40は、それぞれの通路断面積が遅角油圧室15から第1シール溝35及び第1シール溝35からボルト孔12内へのオイルの流入を抑制可能な大きさに形成されている。すなわち、第1、第2通気溝39,40は、
図6に示すように、開口縁から内底面39a、40aまでの深さDが幅長さWよりも十分に小さく形成されて、この通路断面積がオイルの粘性抵抗によって遅角油圧室15から第1シール溝35へ、さらに第1シール溝35からボルト孔12へのオイルの流入を抑制することが可能な大きさになっている。換言すれば、オイルは、エアーと異なり粘性を有していることから、少なくとも第2通気溝40の小さな通路断面積が絞り部として機能し、オイルの粘性による流路抵抗となって第1シール溝35への流入が抑制されるようになっている。
【0023】
なお、第1通気溝39や第2通気溝40は、シュー11の軸方向の一端面11a側だけでなく他端面11b側(リアプレート10側)も横断面形状が同じく長方形状であり、通路断面積の大きさもオイルが通流し難い大きさになっている。
【0024】
各ボルト5は、後述するフロントプレート7のボルト挿入孔7bの孔縁に着座する頭部5aと、該頭部5aから延びた軸部5bと、該軸部5bの先端部外周に形成された雄ねじ部5cと、を有している。
【0025】
また、ハウジング6は、
図1~
図4に示すように、回転軸方向の一端部と他端部の各シュー11の外周側には、2つの円環状の第1、第2大径シール溝6a、6bが形成されている。この第1、第2大径シール溝6a、6bには、フロントプレート7とリアプレート10との間をシールする大径シールリング41、42が収容保持されている。
【0026】
フロントプレート7は、例えば鉄系金属板をプレス成形によって円盤状に形成されている。このフロントプレート7は、中央に大径な挿通孔7aが貫通形成されていると共に、外周部の周方向ほぼ等間隔位置には4本のボルト5がそれぞれ挿通される4つのボルト挿入孔7bが貫通形成されている。
【0027】
また、フロントプレート7は、挿通孔7aの孔縁から軸方向の外側に突出した円筒部7cが一体に設けられている。この円筒部7cは、外周面の周方向の180°位置に一対のボス部7d、7dが一体に設けられ、この各ボス部7d、7dに雌ねじ孔7e、7eが形成されている。円筒部7cの前端には、蓋部材43が2本の小径ボルト37、37介して着脱可能に取り付けられている。
【0028】
この蓋部材43は、有蓋円筒状に形成され、軸方向の一端部に設けられた蓋部本体43aと、該蓋部本体43aの内端面に一体に設けられた筒部43bとを有している。蓋部本体43aは、外周面の周方向の180°位置に一体に設けられた環状ボス部43c、43cに前記各小径ボルト45,45が挿入されるボルト挿入孔43d、43dが貫通形成されている。筒部43bは、外周面に形成された小径なシール溝に収容された小径シールリング44を介して円筒部7cの内周面に液密的に軸方向から嵌入している。蓋部材43は、筒部43bが円筒部7cの内部に嵌入した状態で2本の小径ボルト45、45によって円筒部7cに固定されている。なお、この蓋部材43は、カムボルト8をカムシャフト2に螺着固定した後に、円筒部7cに固定されるようになっている。
【0029】
リアプレート10は、鉄系金属材によってプレス成形により円盤状に形成され、中央にカムシャフト2の一端部2aが摺動可能に挿入されるカムシャフト挿入孔10aが貫通形成されていると共に、このカムシャフト挿入孔10aの孔縁にはカムシャフト2の一端部2aの外周面と摺動可能な筒状部10bが設けられている。また、リアプレート10は、外周部の周方向の等間隔位置に4本のボルト5の雄ねじ部5cが螺着される4つの雌ねじ孔10cが形成されている。
【0030】
ハウジング6とフロントプレート7及びリアプレート10は、4本のボルト5によって回転軸方向から締結固定されている。
【0031】
カムボルト8は、
図2に示すように、フロントプレート7側の頭部8aと、該頭部8aからカムシャフト2側に延びた軸部8bと、該軸部8bの先端側に形成されて、カムシャフト2の雌ねじ孔2cに螺着する雄ねじ部8cと、を有している。また、カムボルト8の頭部8aは、軸部8bとの付け根部に着座用のフランジ部8dを一体に有している。このフランジ部8dは、カムボルト8の締め付け時において軸部8b側の着座面8eが、ベーンロータ9の後述するボルト挿入孔13aの孔縁部に着座するようになっている。
【0032】
ベーンロータ9は、例えば金属粉末を圧縮、焼結する焼結成形によって一体に形成され、
図1~
図4に示すように、カムシャフト2の一端部2aにカムボルト8によって直接的に固定されたロータ13と、該ロータ13の外周面に一体に設けられ、円周方向のほぼ90°等間隔位置に放射状に延びた複数(本実施形態では4枚)の第1~第4ベーン14a~14dと、から構成されている。
【0033】
ロータ13は、回転軸方向に長いほぼ円筒状に形成されていると共に、中央にはカムボルト8の軸部8bが挿入されるボルト挿入孔13aが軸方向に沿って貫通形成されている。ロータ13は、カムシャフト2側の後端部の内部に該カムシャフト2の一端部2aが嵌入される円柱状の嵌合溝13bが形成されている。
【0034】
ロータ13は、嵌合溝13bの底面所定位置に、カムシャフト2の一端部2aの先端面に設けられた位置決め用の第2ピン2dが挿入される位置決め用の穴13cが設けられている。ロータ13の前端面には、カムボルト8のフランジ部8dの着座面8eが内底面に着座する円環溝13dが形成されている。
【0035】
第1~第4ベーン14a~14dは、ロータ13の外周に一体に設けられていると共に、それぞれが各シュー11の間に配置されている。この各ベーン14a~14dは、各シュー11との相対関係によって、それぞれ4つの遅角油圧室15と進角油圧室16に仕切っている。
【0036】
また、各ベーン14a~14dは、1つの第1ベーン14aが周方向へ幅広く形成されているが、他の3つの第2~第4ベーン14b~14dは薄肉なほぼ同一の周方向幅に形成されて、全体の重量バランスを確保している。
【0037】
また、各ベーン14a~14dの各先端部の外面に形成されたシール溝内には、ハウジング6の内周面に摺動しつつシールするシール部材17aがそれぞれ嵌着固定されている。一方、前記各シュー11の先端内周面に形成されたシール溝には、ロータ13の外周面に摺動しつつシールするシール部材17bがそれぞれ嵌着固定されている。
【0038】
ベーンロータ9は、
図3に示すように、左方向へ相対回転すると、第1ベーン14aの一側面14eが対向する一つのシュー11の対向側面に当接して最大遅角側の回転位置が規制されるようになっている。また、
図4に示すように、ベーンロータ9が右方向へ相対回転すると、第1ベーン14aの他側面14fが対向する他の一つのシュー11の対向側面に当接して最大遅角側の回転位置が規制されるようになっている。これら第1ベーン14aと2つのシュー11、11が、ベーンロータ9の最遅角位置と最進角位置を規制する機械的なストッパとして機能するようになっている。
【0039】
このとき、他の3つの第2~第4ベーン14b~14dは、両側面が円周方向から対向する各シュー11の対向側面に当接せずに離間状態にある。したがって、第1ベーン14aと2つのシュー11、11との当接精度が向上すると共に、各遅角油圧室15と各進角油圧室16への油圧の供給速度が速くなってベーンロータ9の正逆回転応答性が高くなる。
【0040】
各遅角油圧室15は、ロータ13の内部に形成された図外の複数の遅角通路孔を介して油圧回路4にそれぞれに連通し、各進角油圧室16は、リアプレート10の内側面に形成された複数(本実施形態では4本)の進角通路孔16aを介して油圧回路4にそれぞれ連通している。
【0041】
各遅角通路孔は、カムシャフト2の一端部2aからロータ13の内部を径方向外側に向かって形成されており、それぞれの内側の各一端開口が後述する遅角油通路21に臨んでいる一方、他端開口が各遅角油圧室15にそれぞれ臨んでいる。
【0042】
各進角通路孔16aは、リアプレート10のカムシャフト2の一端部2a側から径方向外側に向かって放射状に形成されており、それぞれの一端開口が後述する進角油通路22に連通していると共に他端開口が各進角油圧室16にそれぞれ臨んでいる。
【0043】
油圧回路4は、各遅角通路孔及び各進角通路孔16aを介して各遅角、進角油圧室15,16に作動油圧を選択的に供給あるいは排出するものであって、
図2に示すように、各遅角通路孔に接続された遅角油通路21と各進角通路孔16aに接続された進角油通路22と、を有している。
【0044】
遅角油通路21は、カムシャフト2の一端部2aの内部軸方向に沿って形成された遅角油孔21aを有し、また、進角油通路22は、カムシャフト2内に遅角油孔21aに並行に形成された進角油孔22aを有している。
また、油圧回路4は、遅角、進角油通路21,22に作動油を選択的に供給する流体圧供給源であるオイルポンプ23と、機関の作動状態に応じて遅角油通路21と進角油通路22の流路を切り換える電磁切換弁24と、を備えている。
【0045】
オイルポンプ23は、機関のクランクシャフトによって回転駆動するトロコイドポンプなどの一般的なものであって、オイルパン27内から吸入通路23aに吸入した潤滑油を、吐出通路23bからメインオイルギャラリー(M/G)と電磁切換弁24に濾過フィルタ25を介して供給するようになっている。なお、吐出通路23bの下流側には、吐出圧が過剰に高くなるのを抑制するリリーフ弁26が設けられている。
【0046】
電磁切換弁24は、4ポート3位置の比例型弁であって、図外のバルブボディに形成された2つの給排ポートに、遅角油通路21と進角油通路22のそれぞれの端部が接続されている。また、電磁切換弁24は、図外のコントロールユニットから出力されたパルス電流によって、バルブボディ内に軸方向へ摺動自在に設けられたスプール弁体を前後方向に移動させる。これによって、オイルポンプ23の吐出通路23bが、遅角油通路21と進角油通路22のいずれか一方と連通する。と同時に、ドレン通路28が、遅角油通路21と進角油通路22のいずれか他方と連通するようになっている。
【0047】
コントロールユニットは、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出する。また、このコントロールユニットは、電磁切換弁24の各コイルに制御電流を出力してスプール弁体の移動位置を制御して各油通路21,22を切換制御させるようになっている。
【0048】
また、ハウジング6に対してベーンロータ9を最遅角側の回転位置(
図3の位置)にロックするロック機構が設けられている。
【0049】
このロック機構は、
図1及び
図4などに示すように、リアプレート10の内側面に設けられた固定用孔内に固定されたロック穴構成部32aに形成されたロック穴32と、第1ベーン14aの内部軸方向に設けられたピン収容孔33と、該ピン収容孔33内に摺動可能に設けられ、ロック穴32に挿入あるいは抜け出すロックピン34と、該ロックピン34をロック穴32から退出させてロックを解除する図外の第1、第2解除用通路と、ロックピン34をロック穴32方向へ付勢するスプリング50と、から主として構成されている。
【0050】
ピン収容孔33は、第1ベーン14aの内部にロータ13の軸方向に沿って貫通形成されている。
【0051】
ロックピン34は、ピン収容孔33の内部に摺動自在に配置されたピン本体と、該ピン本体の先端側に円環状の段差面を介して一体に有する小径な先端部34aとから構成されている。
【0052】
第1解除用通路は、第1ベーン14aの一側部に形成されて遅角油圧室15から受圧面に油圧を供給するようになっている。第2解除用通路は、リアプレート10の内側面に形成されて、進角油圧室16からロック穴32に油圧を供給するようになっている。したがって、ロックピン34は、遅角油圧室15または進角油圧室16に供給された作動油圧を各解除用通路から受けて、ロック穴32から抜け出てベーンロータ9に対するロックを解除するようになっている。
〔本実施形態に係るバルブタイミング制御装置の作用〕
以下、本実施形態におけるバルブタイミング制御装置の作用について簡単に説明する。
【0053】
イグニッションスイッチをオフ操作すると、オイルポンプ23は、駆動が停止されることから、各遅角油圧室15や各進角油圧室16への油圧の供給が停止される。そして、機関が完全に停止されるまでの間に発生する交番トルクの負のトルクによって、ベーンロータ9がハウジング6に対して遅角側へ相対回転する。したがって、ベーンロータ9は、
図3に示すように、第1ベーン14aの一側面が特定のシュー11の対向面に当接して最大遅角側の相対回転位置に規制される。
【0054】
この時点で、ロックピン34は、スプリング50のばね力でロック穴32内に入り込んで、ベーンロータ9をハウジング6に対してロックして自由な相対回転を規制している。
【0055】
その後、イグニッションスイッチをオン操作して機関を再始動させた場合には、クランキング時の吸気弁の開閉タイミングが遅角側になっていることから、始動の安定化と始動性の向上が図れる。また、この時点では、コントロールユニットから出力された制御電流によって電磁切換弁24が、吐出通路23bと遅角油通路21を連通させると共に、進角油通路22とドレン通路28を連通させる。このため、オイルポンプ23から吐出通路23bに吐出された油圧は、遅角油通路21から各遅角通路孔を通って各遅角油圧室15に流入する。
【0056】
さらにこの油圧は、第1解除用通路を通ってロックピン34に作用することから、ロックピン34はスプリング50のばね力に抗して後退して、先端部34aがロック穴32から抜け出してロックが解除される。これによって、ベーンロータ9は、自由な回転が確保される。
【0057】
また、各進角油圧室16内の作動油は、進角通路孔16aから進角油通路22へ流入し、ここからドレン通路28に流入してオイルパン27に排出される。
【0058】
したがって、各遅角油圧室15内が高圧になる一方、各進角油圧室16内が低圧になる。このため、ベーンロータ9は、
図3に示すように、図中左側(遅角側)へ相対回転して第1ベーン14aの一側面が一方シュー11の対向面に当接して、最遅角側の回転位置に維持される。これによって、吸気弁と排気弁のバルブオーバーラップが無くなって燃焼ガスの吹き返しが抑制されて、良好な燃焼状態が得られると共に、燃費の向上と機関回転の安定化が図れる。
【0059】
機関の運転状態がさらに変化すると、コントロールユニットから出力された制御電流によって電磁切換弁24が、吐出通路23bと進角油通路22を連通させると共に、遅角油通路21とドレン通路28を連通させる。このため、オイルポンプ23から吐出通路23bに吐出された作動油は、進角油通路22から各進角通路孔16aを通って各進角油圧室16に流入する。
【0060】
さらにこの油圧は、第2解除用通路を通ってロック穴32に流入してロックピン34の先端部34aに作用する。したがって、ロックピン34は、スプリング50のばね力に抗して後退して、先端部34aがロック穴32から抜け出してロックが解除された状態が維持される。
【0061】
また、各遅角油圧室15の作動油は、遅角通路孔から遅角油通路21を通ってドレン通路28に入り、ここからオイルパン27に排出される。
【0062】
したがって、各進角油圧室16内が高圧になる一方、各遅角油圧室15内が低圧になる。このため、ベーンロータ9は、
図4に示すように、図中右方向(進角側)へ相対回転して第1ベーン14aの他側面14fが他のシュー11の対向側面に当接して、最進角側の回転位置に規制保持される。これによって、吸気弁と吸気弁のバルブオーバーラップが大きくなって、機関の高出力化などが図れる。
[本実施形態における密閉性能検査]
本実施形態では、前述したように、ハウジング6の各シュー11の一端面11aに第1シール溝35とボルト孔12を連通する第1通気溝39と、第1シール溝35と各遅角油圧室15とをそれぞれ連通する第2通気溝40が形成されている。
【0063】
したがって、各第1シール溝35にシールリング37を収容保持した状態で、ハウジング6に対してフロントプレート7を各ボルト5によって締結した後に、シールリング37の欠損などを密閉して性能検査を行う場合には、
図7に示すように、図中矢印で示す方向から圧縮エアーEを送り込んでチェックするようになっている。具体的には、
図8に示すように、図中の実線矢印で示すように、遅角油圧室15側から第2通気溝40を介して第1シール溝35内に検査用の圧縮エアーEを送り込む。そうすると、この圧縮エアーEが、一点鎖線矢印で示すように、第1シール溝35内から第1通気溝39を通ってそのままボルト孔12(大気解放)内に流入した場合は、シールリング37が適正に第1シール溝35内に収容されていないとか欠損していると検知することができる。
【0064】
また、遅角油圧室15側から第2通気溝40を介して第1シール溝35内に圧縮エアーEを送り込んだ際に、この圧縮エアーEが第1シール溝35内に留まっている場合、つまり、第1シール溝35内で封止された状態になっている場合には、シールリング37のシール機能が発揮されており、シールリング37に捻じれなどがなく適正に収容されている、あるいは欠損していないと検知することができる。
【0065】
さらには、バルブタイミング制御装置の作動時や停止時などに、交番トルクに起因して遅角油圧室15には脈圧などの油圧が発生して、この作動油であるオイルが第2通気溝40を介して第1シール溝35内に流入しようとする。しかし、第2通気溝40は、オイルが通流し難い通路断面積になっており、つまり、第2通気溝40が絞り効果を発揮することから、遅角油圧室15内のオイルの第1シール溝35への流入が抑制される。したがって、シールリング37は、第1シール溝35内での径方向の無用な摺動による摩耗の発生がなくなり、この結果、耐久性が向上する。
【0066】
また、第1通気溝39も第2通気溝40と同じく、その通路断面積が、第1シール溝35からボルト孔12へのオイルの流入を抑制可能な大きさになっており、絞り効果を発揮することから、遅角油圧室15内の脈圧がシールリング37にさらに作用しにくくなる。これにより、シールリング37は、第1シール溝35内での無用な径方向の摺動・摩耗がなくなるので、耐久性の向上が図れる。
【0067】
特に、第1通気溝39と第2通気溝40は、前述したように、横断面ほぼ長方形状に形成されて、深さDが幅長さWよりも小さく形成されていると共に、それぞれの内底面39a、40aが平面状に形成されていることから、全体の通路断面積を十分に小さくすることが可能になる。したがって、各通気溝39,40の絞り効果により粘性オイルの流動抵抗が大きくなることから、オイルの通流を抑制できる。
【0068】
第1、第2通気溝39,40は、ハウジング6などと一緒に焼結成形によって成形されることから、その成形作業が容易になる。
【0069】
第1、第2通気溝39、40は、ベーンロータ9の回転軸の軸心と同心円上に形成されていることから、これらを例えば旋盤加工で成形する場合などでは、容易に加工することが可能である。
【0070】
図9は本願発明者が、特に第2通気溝40の通路断面積の大小変化、具体的には前述した溝の幅長さWと深さDの大小変化に応じて、エアーリーク量とオイルリーク量の相対的な量の変化特性を実験によって得た特性図である。この
図9に示す実験結果からすると、第2通気溝40の深さDに対する幅長さWの比、つまりW/Dが大きくなるほどエアーリーク量に対してオイルリーク量が少なくなることが明らかとなった。これは、第2通気溝40の通路断面積が小さくなるほど、絞り効果が大きくなってオイルの粘性による流動抵抗が大きくなることから、オイルリーク量がエアーリーク量に比較して十分に抑制されるからである。さらに、W/Dが10未満であると、急激にエアーリーク量に対するオイルリーク量が増えることから、W/Dを10以下に設定することが望ましい。換言すれば、W/Dが10までで特に改善効果が大きいため、W/Dを10以上に設定することでオイルリーク量をエアーリーク量に比較して十分に抑制することができる。
[第2実施形態]
図10及び
図11は本発明の第2実施形態を示し、第1実施形態の構成を前提として、各シュー11の一端面11aと他端面11bに、前記第1、第2通気溝39,40の他に第3、第4通気溝46、47を形成したものである。
なお、他端面11b側の第1~第4通気溝39、40、46、47については、一端面11aと同じ構成であるから説明を省略する。
【0071】
第3通気溝46は、一端面11aに第1通気溝39と周方向で180°の反対側の位置に形成され、第1シール溝35とボルト孔12とを連通している。第4通気溝47は、一端面11aに第2通気溝40と周方向で180°の反対側の位置に形成されて、進角油圧室16と第1シール溝35とを連通している。また、この第3、第4通気溝46,47は、横断面形状が第1、第2通気溝39,40と同じく
図6に示すような長方形状に形成されていると共に、通路断面積はエアーが容易に通流可能になっているが、オイルの通流を抑制できる大きさになっている。つまり、進角油圧室16内のオイルが、第4通気溝47によって第1シール溝35内への流入が抑制されていると共に、第3通気溝46によって第1シール溝35からボルト孔12への流入が抑制されるようになっている。
【0072】
したがって、前述した密閉性能検査時には、第1~第4通気溝39、40、46、47を圧縮エアーは自由な通流可能になることから、第1シール溝35内でのシールリング37の欠損などの有無を検知できることは第1実施形態と同じである。
【0073】
また、バルブタイミング制御装置の駆動中などにおいて、各遅角油圧室15の他に各進角油圧室16内の油圧が高くなっても、各通気溝39,40、46,47の小さな通路断面積の絞り効果によって、各遅角、進角油圧室15、16から第1シール溝35、さらにはボルト孔12へのオイルの流入を抑えることが可能になる。
【0074】
また、第3,第4通気溝46,47は、第1、第2通気溝39、40と同じくベーンロータ9の回転軸の軸心と同心円上に形成されている。このため、これら4つの通気溝39,40、46,47を、例えば、旋盤加工によって同時に成形加工することができるので、加工作業能率の向上と加工コストの低減化が図れる。
【0075】
さらには、全ての各シュー11の一端面11aと他端面11bに4つの通気溝39,40,46、47が形成され、それらが全てベーンロータ9の回転軸の軸心と同心円上に形成されていることから、旋盤加工によって同時に成形加工することができるので、加工作業能率の向上と加工コストの低減化が図れる。
[通気溝の変形例]
図12(a)~(c)は第1~第4通気溝の変形例を示している。以下では説明の便宜上、第1通気溝39の変形例について説明する。
【0076】
図12(a)に示す第1通気溝39は、内底面39aの横断面形状がほぼU字形状に形成されて、内底面39aの幅方向の両端部39b、39cが円弧面状に形成されている。したがって、第1通気溝39の通路断面積がさらに小さくなることから、オイルの流動抵抗が大きくなって通流性をさらに抑制することができる。
【0077】
図12(b)に示す第1通気溝39は、内底面39aの横断面形状がV字形状に形成されて、通路断面積がさらに小さく形成されている。したがって、第1通気溝39の通路断面積がさらに小さくなるので、オイルの通流をさらに抑制できる。
【0078】
図12(c)に示す第1通気溝39は、横断面形状が波形状に形成されて、細長い複数(本実施形態では6本)の通気溝39´によって形成されている。したがって、この変形例も、第1通気溝39全体の通路断面積が小さくなるので、オイルの通流を抑制することができる。
【0079】
なお、変形例は第1通気溝39のみを説明したが、他の第2通気溝40や第3、第4通気溝46,47も同じ変形例が適用されている。
【0080】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、各通気溝の通路断面積を小さくする構造としては、通気溝の流路途中に絞り部を設けることも可能である。さらに、通気溝を、ラビリンス溝状に形成してオイルの流動抵抗を増加させることも可能である。
【0081】
本発明は、バルブタイミング制御装置の吸気弁側ばかりか排気弁側に適用することも可能である。さらに、クランクシャフトからハウジングに対する回転力の伝達手段としては、タイミングプーリばかりかタイミングスプロケットとすることも可能である。この場合、スプロケットは、ハウジングではなく、リアプレートの外周に形成することもできる。
【符号の説明】
【0082】
1…タイミングスプロケット、2…カムシャフト、2a…一端部、3…位相変更機構、4…油圧回路、5…ボルト、6…ハウジング、7…フロントプレート(プレート部材)、9…ベーンロータ、10…リアプレート、11…シュー、11a…軸方向の一端面、11b…他端面、12…ボルト孔、15…遅角油圧室(作動油室)、16…進角油圧室(作動油室)、13…ロータ、14a~14d…ベーン、21…遅角油通路、22…進角油通路、35…第1シール溝、36…第2シール溝、37…第1シールリング(シール部材)、39…第1通気溝、39a…内底面、40…第2通気溝、40a…内底面、46…第3通気溝、47…第4通気溝。