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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033059
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】工作機械、及び、管理システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20240306BHJP
   B23C 3/00 20060101ALI20240306BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B23Q17/00 F
B23C3/00
B23B1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136437
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】賀来 則夫
【テーマコード(参考)】
3C022
3C029
3C045
【Fターム(参考)】
3C022AA10
3C029EE12
3C029EE14
3C029EE15
3C029EE16
3C045AA10
(57)【要約】
【課題】工作機械により形成された製品を管理する利便性を向上させることが可能な技術を提供する。
【解決手段】工作機械1は、ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させる駆動部U1、検出装置200に検出させるための情報IN1の入力を受け付ける受付部U2、及び、制御部U3を備える。制御部U3は、検出装置200で情報IN1を検出可能な埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成されるように、駆動部U1に相対的な位置関係を変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと工具との相対的な位置関係を変化させる駆動部と、
検出装置に検出させるための情報の入力を受け付ける受付部と、
前記検出装置で前記情報を検出可能な埋め込み情報を含む切削痕が前記工具による加工時に前記ワークに形成されるように、前記駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる制御部と、を備える、工作機械。
【請求項2】
前記駆動部は、
前記ワークと前記工具の一方である回転対象を該回転対象の中心線を中心として回転させる回転駆動部と、
前記相対的な位置関係を制御軸に沿って変化させる制御軸駆動部と、を含み、
前記制御部は、前記埋め込み情報を含む前記切削痕が前記工具による加工時に前記ワークに形成されるように、前記回転駆動部に前記回転対象を回転させ、前記制御軸駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記埋め込み情報は、第一状態、及び、該第一状態とは異なる第二状態になり得る単位情報を複数含み、
前記制御部は、前記単位情報を前記第一状態にする場合に該第一状態の前記単位情報が前記ワークに形成されるように前記駆動部に前記相対的な位置関係を第一速度で変化させ、前記単位情報を前記第二状態にする場合に該第二状態の前記単位情報が前記ワークに形成されるように前記駆動部に前記相対的な位置関係を前記第一速度とは異なる第二速度で変化させる、請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御部は、前記埋め込み情報を含む前記切削痕が形成されるように前記相対的な位置関係を変化させる指令に上限速度が含まれる場合、前記第一速度を前記上限速度に合わせて前記第一状態の前記単位情報が前記ワークに形成されるように前記駆動部に前記相対的な位置関係を変化させ、1よりも小さい所定比を前記上限速度に乗じた速度に前記第二速度を合わせて前記第二状態の前記単位情報が前記ワークに形成されるように前記駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記制御軸駆動部は、向きが異なる複数の前記制御軸に沿って前記相対的な位置関係を変化させ、
前記切削痕は、第一円弧、及び、該第一円弧に続く第二円弧であって前記第一円弧と交わる第二円弧を含み、
前記埋め込み情報は、前記第一円弧の中心座標を原点とした前記第一円弧と前記第二円弧との交点の座標を含み、
前記制御部は、前記情報に対応する前記座標に前記交点を有する前記第一円弧及び前記第二円弧が前記ワークに形成されるように前記制御軸駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる、請求項2に記載の工作機械。
【請求項6】
前記埋め込み情報は、第一の加工深さ、及び、該第一の加工深さとは異なる第二の加工深さになり得る単位情報を複数含み、
前記制御部は、前記駆動部に前記複数の単位情報が順に形成される向きに前記相対的な位置関係を変化させ、且つ、前記駆動部に各前記単位情報に対応する加工深さで前記ワークが切削されるように前記加工深さが変わる向きに前記相対的な位置関係を変化させる、請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項7】
工作機械、及び、情報の検出装置を含む管理システムであって、
前記工作機械は、
ワークと工具との相対的な位置関係を変化させる駆動部と、
前記情報の入力を受け付ける受付部と、
前記検出装置で前記情報を検出可能な埋め込み情報を含む切削痕が前記工具による加工時に前記ワークに形成されるように、前記駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる制御部と、を備え、
前記検出装置は、前記ワークに形成された前記埋め込み情報から前記情報を検出する、管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを工具で切削する工作機械、及び、該工作機械を含む管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
NC(数値制御)旋盤等のNC工作機械は、加工プログラムに従ってワークを工具で切削することにより、切削部品等の製品を形成する。ワークから形成された製品を管理するため、バーコード等の識別コードを印刷したシールを製品に貼ったり、製品に刻印を打ったりすることが行われている。
【0003】
特許文献1に開示された情報取得識別システムは、部品又は生産物に付されたn次元シンボル及び形成された梨地模様を撮影し、部品又は生産物に関する情報を取得し、部品、生産物、又は、部品を構成要素とする生産物を識別する。部品又は生産物には、部品、生産物、又は、部品を構成要素とする生産物に関する情報を示すn次元シンボルが付され、n次元シンボルによって位置が定まる個所に梨地模様が形成されている。情報取得識別システムには、部品又は生産物に形成された梨地模様の画像特徴を取得して記憶するための画像特徴記憶手段が設けられている。情報取得識別システムは、撮影画像から抽出されるn次元シンボルの画像から部品又は生産物に関する情報を取得し、撮影画像から抽出される梨地模様の画像の画像特徴と、記憶されている画像特徴とを照合し、部品、生産物、又は、部品を構成要素とする生産物を識別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/163015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作機械により形成される製品には油が付着していることが多いため、製品にシールを貼ると、製品を扱っている最中にシールが剥がれることがある。また、製品に打つ刻印を変えることは、容易でない。例えば、ロット毎、生産日毎、等のように日々変化するデータを製品に埋め込むためには、毎日、刻印を変える必要があり、大変煩わしい。
上述した情報取得識別システムにおいて、部品又は生産物に形成される梨地模様は、どのような模様が形成されるかは事前に分からない。このため、上記情報取得識別システムでは、形成された梨地模様を撮影する等して梨地模様の画像特徴を予め画像特徴記憶手段に記憶させる必要があり、梨地模様の画像特徴を記憶した画像特徴記憶手段を用意する手間がかかる。
【0006】
以上より、工作機械により形成された製品を管理する利便性を向上させることが望まれる。
本発明は、ワークから形成された製品を管理する利便性を向上させることが可能な工作機械、及び、管理システムを開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の工作機械は、
ワークと工具との相対的な位置関係を変化させる駆動部と、
検出装置に検出させるための情報の入力を受け付ける受付部と、
前記検出装置で前記情報を検出可能な埋め込み情報を含む切削痕が前記工具による加工時に前記ワークに形成されるように、前記駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる制御部と、を備える、態様を有する。
【0008】
また、本発明の管理システムは、工作機械、及び、情報の検出装置を含む管理システムであって、
前記工作機械は、
ワークと工具との相対的な位置関係を変化させる駆動部と、
前記情報の入力を受け付ける受付部と、
前記検出装置で前記情報を検出可能な埋め込み情報を含む切削痕が前記工具による加工時に前記ワークに形成されるように、前記駆動部に前記相対的な位置関係を変化させる制御部と、を備え、
前記検出装置は、前記ワークに形成された前記埋め込み情報から前記情報を検出する、態様を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工作機械により形成された製品を管理する利便性を向上させることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】工作機械と検出装置を含む管理システムの構成例を模式的に示す図である。
図2】工作機械の電気回路の構成例を模式的に示すブロック図である。
図3】エンドミルの刃先の動きによりワークの表面に形成される切削痕の例を模式的に示す図である。
図4】切削痕に含まれる埋め込み情報の例を模式的に示す図である。
図5】バーコード状の埋め込み情報を形成する例を模式的に示す図である。
図6】4値の単位情報を同じ長さで形成する例を模式的に示す図である。
図7】4値の単位情報を同じ回転回数で形成する例を模式的に示す図である。
図8】切削コマンドの入力を受け付けて切削コマンドを実行する切削制御処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図9】検出装置の構成例及び処理例を模式的に示す図である。
図10】回転するワークの側面にバイトの動きにより形成される切削痕の例を模式的に示す図である。
図11】回転するワークの端面にバイトの動きにより形成される切削痕の例を模式的に示す図である。
図12】円弧同士の交点の位置を埋め込み情報にするエンドミルの刃先の動きによりワークの表面に形成される切削痕の例を模式的に示す図である。
図13】円弧同士の交点の位置を入力情報に合わせて切削痕を形成する例を模式的に示す図である。
図14】円弧同士の交点の位置を埋め込み情報にする場合に切削コマンドの入力を受け付けて切削コマンドを実行する切削制御処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図15】円弧同士の交点の位置を埋め込み情報にする場合における検出装置の構成例及び処理例を模式的に示す図である。
図16】加工深さの微小変化によりワークの表面に形成される切削痕に含まれる埋め込み情報の例を模式的に示す図である。
図17】加工深さを埋め込み情報にする場合に切削コマンドの入力を受け付けて切削コマンドを実行する切削制御処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図18】加工深さを埋め込み情報にする場合における検出装置の構成例及び処理例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0012】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~18に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0013】
[態様1]
図1,2に例示するように、本技術の一態様に係る工作機械1は、駆動部U1、受付部U2、及び、制御部U3を備える。前記駆動部U1は、ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させる。前記受付部U2は、検出装置200に検出させるための情報IN1の入力を受け付ける。前記制御部U3は、前記検出装置200で前記情報IN1を検出可能な埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が前記工具TO1による加工時に前記ワークW1に形成されるように、前記駆動部U1に前記相対的な位置関係を変化させる。
【0014】
検出装置200に検出させるための情報IN1が工作機械1に入力されると、検出装置200で情報IN1を検出可能な埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成される。ワークW1から形成される製品W2に情報IN1を付加するためにワークW1の加工が利用されるので、製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は不要である。管理者は、製品W2にシールを貼ったり刻印を打ったりする作業を行わなくても、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。従って、上記態様は、製品を管理する利便性を向上させることが可能な工作機械を提供することができる。
【0015】
ここで、ワークと工具との相対的な位置関係を変化させる駆動部は、ワークを移動させずに工具を移動させてもよいし、工具を移動させずにワークを移動させてもよいし、工具とワークの両方を移動させてもよい。
制御部は、後述するように、様々な手段により、工具による加工時において埋め込み情報を含む切削痕をワークに形成することができる。
検出装置には、表面粗さ計、画像処理装置、レーザー変位計、渦電流変位計、三次元測定機、等を用いることができる。
【0016】
例えば、入力を受け付ける情報が製造日、製作者、製造ロット、等といった製造に関する場合、製品が製造されたときの製造に関する情報を検出装置から得ることができる。得られた情報を用いることにより、在庫管理をしたり、製品に不良品が生じた場合に当該製品に関する情報に基づいて不良の原因を調査したりすることができる。
入力を受け付ける情報が部品ナンバー、ユニットナンバー、会社名、等といった商品に関する場合、商品に関する情報を検出装置から得ることができる。得られた情報を用いることにより、在庫管理等を行うことができる。
入力を受け付ける情報がサービス情報、取説情報、保守情報、等といった製品の扱いに関する情報に紐付けられる場合、製品の扱いに関する情報に紐付けられた情報を検出装置から得ることができる。得られた情報に紐付けられた、製品の扱いに関する情報を参照することにより、製品を使用したり、製品の保守を行ったりすることができる。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0017】
[態様2]
図1,2に例示するように、前記駆動部U1は、前記ワークW1と前記工具TO1の一方である回転対象R0を該回転対象R0の中心線AX0(例えば主軸中心線AX1と工具中心線AX2の一方)を中心として回転させる回転駆動部U11を含んでいてもよい。当該駆動部U1は、前記相対的な位置関係を制御軸(例えばX軸、Y軸、及び、Z軸のいずれか)に沿って変化させる制御軸駆動部U12を含んでいてもよい。図3,10等に例示するように、前記制御部U3は、前記埋め込み情報IN2を含む前記切削痕C1が前記工具TO1による加工時に前記ワークW1に形成されるように、前記回転駆動部U11に前記回転対象R0を回転させ、前記制御軸駆動部U12に前記相対的な位置関係を変化させてもよい。
以上の場合、工具TO1による加工時に、ワークW1と工具TO1の一方が中心線AX0を中心として回転し、ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係が制御軸に沿って変化することにより、埋め込み情報IN2を含む切削痕C1がワークW1に形成される。従って、上記態様は、埋め込み情報を含む切削痕を形成する好適な例を提供することができる。
【0018】
例えば、工作機械が旋盤等のようにモーター付き主軸を備える場合、主軸中心線を中心としてワーク(回転対象)を回転させるモーター付き主軸が回転駆動部としてワークを回転させる。工作機械は、ワークの回転、及び、ワークと工具との制御軸に沿った相対的な位置関係を制御することにより、埋め込み情報を含む切削痕をワークに容易に形成することができる。工作機械がフライス盤等のように回転工具(回転対象)が設けられたモーター付き工具主軸を備える場合、工具中心線を中心として回転工具を回転させるモーター付き工具主軸が回転駆動部として回転工具を回転させる。工作機械は、回転工具の回転、及び、ワークと回転工具との制御軸に沿った相対的な位置関係を制御することにより、埋め込み情報を含む切削痕をワークに容易に形成することができる。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0019】
[態様3]
図3,10等に例示するように、前記埋め込み情報IN2は、第一状態ST1、及び、該第一状態ST1とは異なる第二状態ST2になり得る単位情報IN3を複数含んでいてもよい。前記制御部U3は、前記単位情報IN3を前記第一状態ST1にする場合に該第一状態ST1の前記単位情報IN3が前記ワークW1に形成されるように前記駆動部U1に前記相対的な位置関係を第一速度F1で変化させてもよい。当該制御部U3は、前記単位情報IN3を前記第二状態ST2にする場合に該第二状態ST2の前記単位情報IN3が前記ワークW1に形成されるように前記駆動部U1に前記相対的な位置関係を前記第一速度F1とは異なる第二速度F2で変化させてもよい。
ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係が変化する速度である相対速度が変わると、切削痕C1の状態が変わる。相対速度が第一速度F1である場合における切削痕C1の状態を第一状態ST1とし、相対速度が第一速度F1とは異なる第二速度F2である場合における切削痕C1の状態を第二状態ST2とすると、第二状態ST2は第一状態ST1とは異なる。そこで、埋め込み情報IN2に含まれる各単位情報IN3に少なくとも第一状態ST1及び第二状態ST2を割り当てることができ、入力を受け付けた情報IN1に対応する埋め込み情報IN2を形成することができる。従って、上記態様は、埋め込み情報を含む切削痕を形成するさらに好適な例を提供することができる。
【0020】
ここで、単位情報は、第一状態及び第二状態とは異なる第三状態になり得る情報でもよいし、さらに異なる状態になり得る情報でもよい。
本願における「第一」、「第二」、「第三」、…は、類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。複数の構成要素のうちどの構成要素が「第一」、「第二」、「第三」、…に当てはまるのかは、相対的に決まる。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0021】
[態様4]
図8に例示するように、前記制御部U3は、前記埋め込み情報IN2を含む前記切削痕C1が形成されるように前記相対的な位置関係を変化させる指令(例えば切削コマンドCD1)に上限速度(例えばfff)が含まれる場合、前記第一速度F1を前記上限速度(fff)に合わせて前記第一状態ST1の前記単位情報IN3が前記ワークW1に形成されるように前記駆動部U1に前記相対的な位置関係を変化させてもよい。当該制御部U3は、1よりも小さい所定比kを前記上限速度(fff)に乗じた速度に前記第二速度F2を合わせて前記第二状態ST2の前記単位情報IN3が前記ワークW1に形成されるように前記駆動部U1に前記相対的な位置関係を変化させてもよい。
以上の場合、埋め込み情報IN2を形成する際の上限速度(fff)を指定するだけで複数の単位情報IN3を含む埋め込み情報IN2が形成される。従って、上記態様は、工作機械のオペレーターの利便性を向上させることができる。また、ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係の変化速度を指令(CD1)中の上限速度(fff)に制限した上で埋め込み情報IN2を含む切削痕C1をワークW1に形成することができるので、所望の面粗度の製品を得ることができる。
【0022】
[態様5]
前記制御軸駆動部U12は、向きが異なる複数の前記制御軸に沿って前記相対的な位置関係を変化させてもよい。図12,13に例示するように、前記切削痕C1は、第一円弧321、及び、該第一円弧321に続く第二円弧322であって前記第一円弧321と交わる第二円弧322を含んでいてもよい。前記埋め込み情報IN2は、前記第一円弧321の中心座標を原点330とした前記第一円弧321と前記第二円弧322との交点331の座標を含んでいてもよい。前記制御部U3は、前記情報IN1に対応する前記座標に前記交点331を有する前記第一円弧321及び前記第二円弧322が前記ワークW1に形成されるように前記制御軸駆動部U12に前記相対的な位置関係を変化させてもよい。
以上の場合、入力を受け付けた情報IN1が互いに連続する第一円弧321と第二円弧322との交点331の座標に対応する埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成される。従って、上記態様は、埋め込み情報を含む切削痕を形成するさらに好適な例を提供することができる。また、円弧(321,322)の交点331の座標に2値乃至4値を超える情報量を紐付けることができるので、単位面積当たりの埋め込み情報の情報量を増やすことができる。
【0023】
[態様6]
図16に例示するように、前記埋め込み情報IN2は、第一の加工深さDE1、及び、該第一の加工深さDE1とは異なる第二の加工深さDE2になり得る単位情報IN5を複数含んでいてもよい。前記制御部U3は、前記駆動部U1に前記複数の単位情報IN5が順に形成される向きに前記相対的な位置関係を変化させ、且つ、前記駆動部U1に各前記単位情報IN5に対応する加工深さDEで前記ワークW1が切削されるように前記加工深さDEが変わる向きに前記相対的な位置関係を変化させてもよい。
以上の場合、工具TO1による加工時に第一の加工深さDE1及び第二の加工深さDE2になり得る単位情報IN5を複数含む埋め込み情報IN2を含む切削痕C1がワークW1に形成されるので、入力を受け付けた情報IN1に対応する埋め込み情報IN2を形成することができる。従って、上記態様は、埋め込み情報を含む切削痕を形成する好適な例を提供することができる。また、シンプルでノイズが入り難い加工深さDEで単位情報IN5が表されるので、埋め込み情報からの情報の検出精度を高めることができる。さらに、安価なレーザー測定機等を用いて埋め込み情報IN2から情報IN1を検出することができるので、検出装置のコストを低減させることができ、高速のデコード処理も可能となる。
【0024】
ここで、単位情報は、第一の加工深さ及び第二の加工深さとは異なる第三の加工深さになり得る情報でもよいし、さらに異なる加工深さになり得る情報でもよい。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0025】
[態様7]
ところで、図1に例示するように、本技術の一態様に係る管理システムSY1は、前記駆動部U1と前記受付部U2と前記制御部U3を備える工作機械1、及び、前記情報IN1の検出装置200を含む。前記検出装置200は、前記ワークW1に形成された前記埋め込み情報IN2から前記情報IN1を検出する。
工作機械1に情報IN1が入力されると、検出装置200で情報IN1を検出可能な埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成される。製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は、不要である。製品W2に付加された埋め込み情報IN2からは、入力された情報IN1が検出装置200により検出される。管理者は、製品W2にシールを貼ったり刻印を打ったりする作業を行わなくても、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。従って、上記態様は、工作機械により形成された製品を管理する利便性を向上させることが可能な管理システムを提供することができる。
【0026】
(2)工作機械の構成の具体例:
図1は、工作機械1と検出装置200を含む管理システムSY1の構成を模式的に例示している。図2は、工作機械1の電気回路の構成を模式的に例示している。図1,2に示す工作機械1は、ワークW1の加工の数値制御を行うNC(数値制御)装置70を備えるNC自動旋盤である。工作機械1においてコンピューター100は必須の要素ではないため、機械本体2に外部のコンピューター100が接続されないことがある。本具体例において、NC装置70は、制御部U3の例である。尚、制御部U3は、コンピューター100に設けられてもよい。
【0027】
図1に示す工作機械1の制御軸は、「X」で示されるX軸、「Y」で示されるY軸、及び、「Z」で示されるZ軸を含んでいる。Z軸方向は、ワークW1の回転中心となる主軸中心線AX1に沿った水平方向である。X軸方向は、Z軸と直交する水平方向である。Y軸方向は、Z軸と直交する鉛直方向である。尚、Z軸とX軸とは交差していれば直交していなくてもよく、Z軸とY軸とは交差していれば直交していなくてもよく、X軸とY軸とは交差していれば直交していなくてもよい。また、本明細書において参照される図面は、本技術を説明するための例を示しているに過ぎず、本技術を限定するものではない。また、各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、左右を逆にしたり、回転方向を逆にしたり等することも、本技術に含まれる。また、方向や位置等の同一は、厳密な一致に限定されず、誤差により厳密な一致からずれることを含む。
【0028】
工作機械1は、コレットといった把持部12を有する主軸11が組み込まれている主軸台10、主軸台駆動部14、工具TO1が取り付けられている刃物台20、刃物台駆動部24、受付部U2、NC装置70、等を備えるNC工作機械である。工作機械1は、主軸台10と主軸台駆動部14の組合せを複数備えていてもよく、刃物台20と刃物台駆動部24の組合せを複数備えていてもよい。例えば、主軸台10は、正面主軸台でもよいし、対向主軸台とも呼ばれる背面主軸台でもよい。従って、主軸11は、正面主軸でもよいし、対向主軸とも呼ばれる背面主軸でもよい。工作機械1が主軸移動型旋盤である場合、正面主軸台駆動部が正面主軸台を少なくともZ軸方向へ移動させ、背面主軸台駆動部が背面主軸台を少なくともZ軸方向へ移動させる。この場合、正面主軸の制御軸には少なくともZ軸が含まれ、背面主軸の制御軸には少なくともZ軸が含まれる。むろん、工作機械1は正面主軸台が移動しない主軸固定型旋盤でもよいし、背面主軸台が移動せずに正面主軸台がZ軸方向へ移動してもよい。
主軸11には、主軸中心線AX1を中心として主軸11を回転させる主軸回転駆動部13が設けられている。主軸回転駆動部13は、主軸11に内蔵されたビルトインモーターでもよいし、主軸11の外に設置されたサーボモーターでもよい。主軸11は、把持部12によりワークW1を解放可能に把持し、ワークW1とともに主軸中心線AX1を中心として回転可能である。
【0029】
刃物台20には、ワークW1を加工するための1以上の工具TO1が取り付けられている。刃物台20は、くし形刃物台でもよいし、タレット刃物台等でもよい。刃物台駆動部24は、刃物台20をX軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向の少なくとも一方向へ移動させる。この場合、工具TO1の制御軸には、X軸、Y軸、及び、Z軸の少なくとも一つが含まれる。工具TO1は、図3に示すエンドミルTO2等のように回転工具でもよいし、図10に示すバイトTO3等のように回転しない工具でもよい。工具TO1が工具中心線AX2を中心として回転可能な回転工具である場合、刃物台20は、工具中心線AX2を中心として工具TO1を回転させる工具回転駆動部23を備える。工具回転駆動部23は、工具主軸に内蔵されたビルトインモーターでもよいし、工具主軸の外に設置されたサーボモーターでもよい。主軸11に把持されているワークW1は、工具TO1により加工されると、製品W2となる。工作機械1が正面主軸台と背面主軸台を備える場合、正面主軸に把持されたワークW1の正面加工が行われ、正面加工後のワークW1が正面主軸から背面主軸に引き渡され、背面主軸に把持されたワークW1の背面加工が行われると、製品W2が形成される。
【0030】
尚、回転対象R0はワークW1と工具TO1を総称し、回転対象R0の中心線AX0は主軸中心線AX1と工具中心線AX2を総称している。中心線AX0を中心として回転対象R0を回転させる回転駆動部U11は、主軸回転駆動部13と工具回転駆動部23を総称している。ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を制御軸に沿って変化させる制御軸駆動部U12は、主軸台駆動部14と刃物台駆動部24を総称している。図1,2に示す工作機械1において、回転駆動部U11と制御軸駆動部U12は、ワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させる駆動部U1を構成する。
【0031】
受付部U2は、検出装置200に検出させるための情報IN1の入力を受け付ける。受付部U2は、図2に示す操作部80でもよいし、図2に示すコンピューター100でもよい。NC装置70は、検出装置200で情報IN1を検出可能な埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成されるように、駆動部U1に相対的な位置関係を変化させる。埋め込み情報IN2は、ワークW1から製品W2を形成するための切削のついでに形成される。従って、ワークW1の表面に埋め込み情報IN2を形成する専用の処理は不要であり、埋め込み情報IN2を形成するための時間をほとんど要しない。ワークW1から形成される製品W2は、埋め込み情報IN2を含む切削痕C1を有している。検出装置200は、ワークW1に形成された埋め込み情報IN2から情報IN1を検出する。これにより、管理者は、埋め込み情報IN2に基づいて製品W2を管理することができる。
【0032】
図2に示す工作機械1において、NC装置70には、操作部80、主軸回転駆動部13、工具回転駆動部23、主軸台駆動部14、刃物台駆動部24、等が接続されている。主軸回転駆動部13は、主軸11を回転させるためにモーターとサーボアンプを備えている。工具回転駆動部23は、工具TO1を回転させるためにモーターとサーボアンプを備えている。主軸台駆動部14は、制御軸に沿って主軸台10を移動させるためにモーターとサーボアンプを備えている。刃物台駆動部24は、制御軸に沿って刃物台20を移動させるためにモーターとサーボアンプを備えている。NC装置70は、プロセッサーであるCPU71、半導体メモリーであるROM72、半導体メモリーであるRAM73、時計回路74、I/F(インターフェイス)75、等を備えている。従って、NC装置70は、コンピューターの一種である。図2では、操作部80、駆動部U1、外部のコンピューター100、等のI/FをまとめてI/F75と示している。
【0033】
ROM72には、加工プログラムPR2を解釈して実行するための制御プログラムPR1等が書き込まれている。ROM72は、データを書き換え可能な半導体メモリーでもよい。RAM73には、オペレーターにより作成された加工プログラムPR2が書き換え可能に記憶される。加工プログラムは、NCプログラムとも呼ばれる。CPU71は、RAM73をワークエリアとして使用し、ROM72に記録されている制御プログラムPR1を実行することにより、NC装置70の機能を実現させる。むろん、制御プログラムPR1により実現される機能の一部又は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)といった他の手段により実現させてもよい。操作部80は、入力部81及び表示部82を備え、NC装置70のユーザーインターフェイスとして機能する。入力部81は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けるためのボタンやタッチパネルから構成される。表示部82は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けた各種設定の内容や工作機械1に関する各種情報を表示するディスプレイで構成される。オペレーターは、操作部80やコンピューター100を用いて加工プログラムPR2をRAM73に記憶させることが可能である。
【0034】
NC装置70に接続された外部のコンピューター100は、プロセッサーであるCPU(Central Processing Unit)101、半導体メモリーであるROM(Read Only Memory)102、半導体メモリーであるRAM(Random Access Memory)103、記憶装置104、入力装置105、表示装置106、音声出力装置107、I/F(インターフェイス)108、時計回路109、等を備えている。コンピューター100の制御プログラムは、記憶装置104に記憶され、CPU101によりRAM103に読み出され、CPU101により実行される。記憶装置104には、フラッシュメモリーといった半導体メモリー、ハードディスクといった磁気記録媒体、等を用いることができる。入力装置105には、ポインティングデバイス、キーボード、表示装置106の表面に貼り付けられたタッチパネル、等を用いることができる。I/F108は、NC装置70に有線又は無線で接続され、NC装置70からデータを受信したりNC装置70にデータを送信したりする。コンピューター100と工作機械1との接続は、インターネットやイントラネット等のネットワーク接続でもよい。コンピューター100には、タブレット型端末を含むパーソナルコンピューター、スマートフォンといった携帯電話、等が含まれる。
【0035】
(3)加工のついでに埋め込み情報をワークに形成する第一の例:
次に、図3以降を参照して、工具TO1でワークW1を加工するついでに埋め込み情報IN2をワークW1に形成する例を説明する。図3は、回転する工具TO1としてのエンドミルTO2の刃先TO2tの動きによりワークW1の表面に形成される切削痕C1を模式的に例示している。図3中、「+Y」はY軸に沿った一方向を示し、「+Z」はZ軸に沿った一方向を示している。
図3の上段に示すように、工作機械1は、ワークW1を回転も移動もさせず、X軸方向に向いたエンドミルTO2の刃先TO2tをワークW1の側面に当て、該エンドミルTO2を送り速度Fで+Z方向へ移動させるエンドミル切削を行うものとする。エンドミルTO2の刃先TO2tの軌跡300は、図3の中段に示すようなトロコイド曲線状のパターンとなる。図3に示す軌跡300は、始点301から終点302までエンドミルTO2が3回転したときの刃先TO2tの動きを示している。軌跡300のパターンは、エンドミルTO2の回転数(Nrpmとする。)、エンドミルTO2の直径(Dmmとする。)、エンドミルTO2の刃数(Z枚とする。)、及び、送り速度F(単位をmm/minとする。)によって一意的に決定される。
【0036】
エンドミル切削では、ワークW1は主に、刃先TO2tがエンドミルTO2の送り側にあるときに切削される。そこで、図3の下段に示すように、+Z方向へ凸の半円状の挽き目がワークW1の表面に形成され、該挽き目が+Z方向へ繰り返された切削痕C1が生じる。送り速度Fが変わると、挽き目の間隔が変わり、切削痕C1の表面粗さが変わる。そこで、ワークW1の表面の内、+Z方向へ移動するエンドミルTO2の回転中心を含む情報領域AR1を設定することが考えられる。
尚、図3に示すような切削痕C1は、エンドミルTO2が+Z方向へ移動する代わりにワークW1が+Z方向とは反対の-Z方向へ移動するといった、同様の相対的な位置関係の変化により形成される。
【0037】
図4は、切削痕C1に含まれる埋め込み情報IN2を模式的に例示している。図4の上部には、製品W2の表面に存在する切削痕C1が模式的に例示されている。図4の下部には、製品W2の情報領域AR1において図3のA1-A1の位置に相当する表面の凹凸形状が模式的に例示されている。
一般に、エンドミル切削のように回転する工具TO1でワークW1を切削するフライス加工や、回転するワークW1を工具TO1で加工する旋削では、相対的な送り速度Fが速くなると切削痕C1が粗くなり、相対的な送り速度Fが遅くなると切削痕C1が比較的滑らかになる。切削痕C1が粗い場合、ワーク表面において山と谷の差が大きく、言い換えると山が高く、表面粗さ(Rとする。)が大きい。切削痕C1が比較的滑らかである場合、ワーク表面において山と谷の差が小さく、言い換えると山が低く、表面粗さRが小さい。
【0038】
表面粗さRには、最大高さ粗さRz、算術平均粗さRa、十点平均粗さRzJIZ、等が含まれる。これらの表面粗さRは、JIS(日本産業規格)B0601:2013(ISO(国際標準化機構)4287:1997、Amendment 1(2009))等に規定されている。
最大高さ粗さRzは、粗さ曲線から基準長さを抜き取った部分における山頂線と谷底線との間隔である。算術平均粗さRaは、粗さ曲線から基準長さ(Lとする。)を抜き取った部分において、平均線の方向の座標をxとし、粗さ曲線の凹凸の座標をf(x)として、f(x)の絶対値の積分値を基準長さLで除した値である。
【数1】

十点平均粗さRzJIZは、粗さ曲線から基準長さを抜き取った部分において、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和である。これらの表面粗さRの単位は、通常、マイクロメートル(μm)である。いずれの表面粗さRも、大きい場合には山と谷の差が大きく、小さい場合には山と谷の差が小さいといえる。
【0039】
図4に示すように、送り速度Fが互いに異なる第一速度F1及び第二速度F2になり得るとする。図4において、第二速度F2は、第一速度F1よりも遅い。送り速度Fが比較的速い第一速度F1である時、切削痕C1において山と谷の差が大きく、切削痕C1の表面粗さRが大きい。製品W2においてF=F1で切削された箇所の表面状態を第一状態ST1とし、製品表面の第一状態ST1を表面粗さ計で測定することにより得られる表面粗さRを第一表面粗さR1とする。送り速度Fが比較的遅い第二速度F2である時、切削痕C1において山と谷の差が小さく、切削痕C1の表面粗さRが小さい。製品W2においてF=F2で切削された箇所の表面状態を第一状態ST1とな異なる第二状態ST2とし、製品表面の第二状態ST2を表面粗さ計で測定することにより得られる表面粗さRを第二表面粗さR2とする。第二表面粗さR2は、第一表面粗さR1よりも小さい。
【0040】
以上より、切削痕C1の埋め込み情報IN2を複数の単位情報IN3に分け、各単位情報IN3が少なくとも第一状態ST1及び第二状態ST2になり得るようにNC装置70がワークW1の加工を制御することができる。図4に示す例では、元の情報IN1が2値で表され、元の情報IN1に含まれる単位情報”0”が第一表面粗さR1となる第一状態ST1に割り当てられ、元の情報IN1に含まれる単位情報”1”が第二表面粗さR2となる第二状態ST2に割り当てられている。NC装置70は、元の”0”に対応する第一状態ST1の単位情報IN3を切削痕C1に埋め込む場合、送り速度Fを第一速度F1に制御する。このようにして、NC装置70は、単位情報IN3を第一状態ST1にする場合に該第一状態ST1の単位情報IN3がワークW1に形成されるように制御軸駆動部U12にワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を第一速度F1で変化させる。NC装置70は、元の”1”に対応する第二状態ST2の単位情報IN3を切削痕C1に埋め込む場合、送り速度Fを第二速度F2に制御する。このようにして、NC装置70は、単位情報IN3を第二状態ST2にする場合に該第二状態ST2の単位情報IN3がワークW1に形成されるように制御軸駆動部U12に相対的な位置関係を第二速度F2で変化させる。
【0041】
検出装置200は、製品W2の表面の埋め込み情報IN2に含まれる各単位情報IN3の表面粗さRを測定し、表面粗さRと単位情報との対応関係に従って元の情報IN1を検出する。例えば、第一表面粗さR1と第二表面粗さR2との閾値をTHRとすると、検出装置200は、表面粗さRが閾値THRよりも大きい場合に単位情報に”0”を割り当て、表面粗さRが閾値THRよりも小さい場合に単位情報に”1”を割り当てることができる。R=THRである場合、検出装置200は、単位情報に”0”を割り当ててもよいし、単位情報に”1”を割り当ててもよい。
以上のようにして、検出装置200は、ワークW1に形成された埋め込み情報IN2から元の情報IN1を検出する。尚、検出装置200は、表面粗さ計を用いた検出装置に限定されず、埋め込み情報IN2を撮像して画像を解析する画像処理装置、レーザー変位計、渦電流変位計、三次元測定機、等を用いることができる。
【0042】
図5に例示するように、埋め込み情報IN2の挽き目パターンは、JAN(Japanese Article Number)コードのようにITF(Interleaved Two of Five)シンボル等で表現されるバーコードの規格に準拠してもよい。図5は、バーコード状の埋め込み情報IN2を形成する例を模式的に示している。
JANコードのようなITF系連続コードは、濃淡それぞれに2種類の幅を有するバーコードである。図5中、「NB」は狭い幅の濃い棒を意味するナローバーであり、「WB」は太い幅の濃い棒を意味するワイドバーであり、「NS」は狭い幅の隙間を意味するナロースペースであり、「WS」は広い幅の隙間を意味するワイドスペースである。一般に、NBとNSの幅は同じであり、WBとWSの幅は同じであり、WB/NBは2~3である。
【0043】
そこで、NC装置70は、複数の単位情報IN3がNB、WB、NS、及び、WSを含むように送り速度F及び長さを制御してもよい。図5において、NBとWBの形成時、送り速度Fは比較的速いF1=0.1mm/revであり、単位情報IN3の表面状態は第一状態ST1になる。NSとWSの形成時、送り速度Fは比較的遅いF2=0.05mm/revであり、単位情報IN3の表面状態は第二状態ST2になる。NBとNSの形成時、単位情報一つ分の長さ0.3mmとなるように、エンドミルTO2といった工具TO1の回転回数が設定されている。NBに対応する回転回数は3revであり、NSに対応する回転回数は6revである。WBとWSの形成時、単位情報二つ分の長さ0.6mmとなるように、工具TO1の回転回数が設定されている。WBに対応する回転回数は6revであり、WSに対応する回転回数は12revである。
以上の制御により、NB、WB、NS、及び、WSを含む埋め込み情報IN2を切削痕C1に有する製品W2が得られる。検出装置200には、表面粗さ計等の他、バーコードリーダーに類似する原理で情報を読み取る装置を用いることができる。
【0044】
図6,7に例示するように、単位情報IN3は、2値に限定されない。
図6は、4値の単位情報IN3を同じ長さで形成する例を模式的に示している。図6において、単位情報IN3の長さは、”0”、”1”、”2”、及び、”3”のいずれも0.6mmと同じである。”0”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは最も速い0.2mm/revであり、エンドミルTO2といった工具の回転回数は3revであり、単位情報IN3の表面状態は第一状態ST1になるものとする。”1”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは0.15mm/revであり、工具TO1の回転回数は4revであり、単位情報IN3の表面状態は第二状態ST2になるものとする。”2”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは0.1mm/revであり、工具TO1の回転回数は6revであり、単位情報IN3の表面状態は前述の状態とは異なる第三状態になるものとする。”3”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは最も遅い0.05mm/revであり、工具TO1の回転回数は12revであり、単位情報IN3の表面状態は前述の状態とは異なる第四状態になるものとする。図6に示す例は、単位情報IN3の長さが変わらないので、検出装置200は長さを基準として各単位情報IN3をデコードすることができる。
【0045】
図7は、4値の単位情報IN3を同じ回転回数で形成する例を模式的に示している。図7において、エンドミルTO2といった工具TO1の回転回数は、”0”、”1”、”2”、及び、”3”のいずれも3revと同じである。”0”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは最も速い0.2mm/revであり、単位情報IN3の長さは0.6mmであり、単位情報IN3の表面状態は第一状態ST1になるものとする。”1”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは0.15mm/revであり、単位情報IN3の長さは0.45mmであり、単位情報IN3の表面状態は第二状態ST2になるものとする。”2”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは0.1mm/revであり、単位情報IN3の長さは0.3mmであり、単位情報IN3の表面状態は前述の状態とは異なる第三状態になるものとする。”3”の単位情報IN3の形成時、送り速度Fは最も遅い0.05mm/revであり、単位情報IN3の長さは0.15mmであり、単位情報IN3の表面状態は前述の状態とは異なる第四状態になるものとする。図7に示す例は、単位情報IN3の長さが変わるものの、工具TO1の回転回数に対応する山の数で単位情報IN3の長さを検出することができるので、検出装置200は切削痕C1の山の数を基準として各単位情報IN3をデコードすることができる。
【0046】
以下、図8を参照して、加工のついでに埋め込み情報IN2をワークW1に形成する処理の具体例を説明する。図8は、ワークW1から製品W2を形成するための切削コマンドCD1の入力を受け付けて切削コマンドCD1を実行する切削制御処理を模式的に例示している。切削制御処理はNC装置70と操作部80で行われるものとするが、外部のコンピューター100が切削制御処理の一部を行ってもよい。図8に示す切削制御処理において、受付部U2がステップS102の処理を行い、制御部U3がステップS104~S106の処理を行う。
まず、NC装置70及び操作部80は、切削コマンドCD1の入力を受け付ける(ステップS102)。切削コマンドCD1は、ワークW1から製品W2を形成するためのコマンドであり、埋め込み情報IN2を形成する専用のコマンドではない。図8に示す切削コマンドCD1は、「M」から始まる切削コード番号mmm、「Z」から始まるZ軸の基準位置zzz、「F」から始まる上限速度fff、及び、「D」から始まる情報dddを含んでいる。基本的には、切削コマンドCD1は、製品W2を形成するために、Z軸方向において基準位置zzzから上限速度fffを超えない送り速度でワークW1と工具TO1とを相対的に移動させてワークW1を工具TO1で切削するコマンドである。この切削コマンドCD1に埋め込み対象の情報dddが含まれている。尚、ワークW1と工具TO1との相対的な移動方向がX軸に沿っている場合は「Zzzz」を「X」から始まるX軸の基準位置xxxに置き換えればよく、Y軸の場合は「Zzzz」を「Y」から始まるY軸の基準位置yyyに置き換えればよい。「Ffff」は省略可能であり、「Ffff」が省略されるとデフォルトの上限速度が適用される。情報dddは、検出装置200に検出させるための情報IN1に相当する。ステップS102の処理は、NC装置70の制御に従って操作部80が切削コマンドCD1の入力を受け付ける処理でもよいし、コンピューター100が切削コマンドCD1の入力を受け付ける処理でもよい。また、ステップS102の処理は、切削コマンドCD1を含む加工プログラムPR2の入力を受け付ける処理でもよい。
【0047】
ステップS102の後、NC装置70(又はコンピューター100)は、単位情報IN3の各状態の送り速度Fを設定する(ステップS104)。例えば、図4に示すように第一表面粗さR1となる第一状態ST1の単位情報IN3を第一速度F1で形成して第二表面粗さR2となる第二状態ST2の単位情報IN3を第二速度F2で形成すると想定する。F1>F2であるので、NC装置70は、第一速度F1を上限速度fffに設定し、0<k<1である所定比kを上限速度fffに乗じた速度k×fffに第二速度F2を設定する。ワークW1と工具TO1とを相対的に移動させる速度が上限速度fffに制限される状態でワークW1に埋め込み情報IN2を形成することができるので、製品を所望の面粗度に抑えることができる。
【0048】
送り速度Fの設定後、NC装置70は、入力を受け付けた情報dddを構成する複数の単位情報IN3の状態に応じた送り速度Fで回転状態の工具TO1をZ軸方向へ移動させながらワークW1を切削するように駆動部U1を制御する(ステップS106)。例えば、情報dddが10進数で「105」であって2進数で「01101001」と表される場合、NC装置70は、単位情報”0”の埋め込み箇所において刃物台駆動部24に工具TO1をZ軸方向へ第一速度F1で移動させ、単位情報”1”の埋め込み箇所において刃物台駆動部24に工具TO1をZ軸方向へ第二速度F2で移動させる。これにより、埋め込み情報IN2の表面状態は、単位情報IN3の単位で、第一表面粗さR1となる第一状態ST1、第二表面粗さR2となる第二状態ST2、第二状態ST2、第一状態ST1、第二状態ST2、第一状態ST1、第一状態ST1、及び、第二状態ST2と変化する。管理者は、製品に関する情報、商品に関する情報、製品の扱いに関する情報、等を情報dddに紐付けておくことにより、様々な管理を行うことができる。
【0049】
以上より、NC装置70は、第一速度F1を上限速度fffに合わせて第一状態ST1の単位情報IN3がワークW1に形成されるように刃物台駆動部24に工具TO1をZ軸方向へ移動させる。当該NC装置70は、第二速度F2を上限速度fffよりも遅い速度k×fffに合わせて第二状態ST2の単位情報IN3がワークW1に形成されるように刃物台駆動部24に工具TO1をZ軸方向へ移動させる。いずれの場合も、NC装置70は、埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成されるように、工具回転駆動部23に工具TO1を回転させ、制御軸駆動部U12にワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させることになる。
ステップS106の後、NC装置70は、切削制御処理を終了させる。
【0050】
図9は、検出装置200の構成例及び処理例を模式的に示している。
図9の上部に示す検出装置200は、表面粗さ計201、表示部202、及び、計測制御部203を含んでいる。計測制御部203は、CPU、ROM、RAM、等を備え、表面粗さ計201から表面粗さRを取得し、埋め込み情報IN2から情報IN1を検出して表示部202に表示させる。むろん、計測制御部203の一部又は全部は、ASICといった他の手段により実現されてもよい。図9の下部には、計測制御部203により行われるデコード処理が示されている。製品W2に存在する埋め込み情報IN2を読み取るための操作が表面粗さ計201に行われると、デコード処理が開始する。
【0051】
デコード処理が開始すると、計測制御部203は、表面粗さ計201から単位情報IN3の表面粗さRを順次、取得する(ステップS202)。上述したように、表面粗さRは、最大高さ粗さRzでもよいし、算術平均粗さRaでもよいし、十点平均粗さRzJIZ等でもよい。次に、計測制御部203は、表面粗さRを元の単位情報にデコードする(ステップS204)。例えば、図4に示すように第一表面粗さR1が単位情報”0”に対応して第二表面粗さR2が単位情報”1”に対応すると想定する。計測制御部203は、表面粗さRが閾値THRよりも大きい場合に単位情報に”0”を割り当てることができ、表面粗さRが閾値THRよりも小さい場合に単位情報に”1”を割り当てることができる。R=THRである場合、検出装置200は、単位情報に”0”と”1”のどちらを割り当ててもよい。
【0052】
計測制御部203は、埋め込み情報IN2に含まれる全ての単位情報IN3が元の単位情報にデコードされるまで、ステップS202~S204の処理を繰り返す(ステップS206)。埋め込み情報IN2に含まれる全ての単位情報IN3が元の単位情報にデコードされた場合、計測制御部203は、埋め込み情報IN2から検出された情報IN1を表示部202に表示させ(ステップS208)、デコード処理を終了させる。例えば、デコードされた情報IN1が2進数で「01101001」であって10進数で「105」である場合、計測制御部203は、「105」を表示部202に表示させてもよい。管理者は、表示情報「105」を視認することにより、様々な管理を行うことができる。
以上より、検出装置200は、ワークW1に形成された埋め込み情報IN2から情報IN1を検出する。
【0053】
例えば、情報dddが製造日である場合、管理者は、製造日毎に製品W2をまとめておけば、まとめられた製品W2のいずれかに存在する埋め込み情報IN2を検出装置200に読み取らせることにより、当該製品W2に紐付けられた元の情報IN1を確認することができる。これにより、管理者は、識別コードを印刷したシールを製品W2に貼ったり、製品W2に刻印を打ったりしなくても、まとめられた製品W2の単位で製造日を把握することができ、効率よく在庫管理を行うことができる。また、製品W2に不良品が生じた場合、管理者は、不良品が生じた製品W2の埋め込み情報IN2を検出装置200に読み取らせることにより、当該製品W2に紐付けられた元の情報IN1を確認することができる。これにより、管理者は、不良の原因を製造日に絞って効率よく調査することができる。
【0054】
情報dddが部品ナンバーである場合、管理者は、部品の種類毎に製品W2をまとめておけば、まとめられた製品W2のいずれかに存在する埋め込み情報IN2を検出装置200に読み取らせることにより、当該製品W2に紐付けられた元の情報IN1を確認することができる。これにより、管理者は、まとめられた製品W2の単位で部品の種類を把握することができ、効率よく在庫管理を行うことができる。
情報dddが取説情報に紐付けられている場合、管理者は、製品W2に存在する埋め込み情報IN2を検出装置200に読み取らせることにより、当該製品W2に紐付けられた元の情報IN1を確認することができる。これにより、管理者は、情報IN1に紐付けられた取説情報を参照することにより、製品W2を容易に使用することができる。
【0055】
以上説明したように、オペレーターが製品W2に紐付けたい情報IN1を工作機械1に入力すると、検出装置200で情報IN1を検出可能な埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成される。製品W2に情報IN1を付加するためにワークW1の加工が利用されるので、製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は不要である。管理者は、製品W2にシールを貼ったり刻印を打ったりする作業を行わなくても、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。
【0056】
(4)加工のついでに埋め込み情報をワークに形成する第二の例:
埋め込み情報IN2をワークW1に形成する加工は、フライス加工に限定されず、旋削でもよい。
図10は、回転するワークW1の側面にバイトTO3の動きにより形成される切削痕C1を模式的に例示している。
【0057】
図10の上部に示すように、工作機械1は、主軸中心線AX1を中心としてワークW1を回転させ、Y軸方向に向いたバイトTO3の刃先TO3tをワークW1の側面に当て、該バイトTO3を送り速度Fで+Z方向へ移動させる旋削を行うものとする。バイトTO3の刃先TO3tの軌跡は、主軸中心線AX1を中心とする螺旋状のパターンとなる。軌跡のパターンは、主軸11の回転数、ワークW1の直径、及び、送り速度Fによって一意的に決定される。ワークW1の側面には、螺旋状の挽き目が+Z方向へ続く切削痕C1が生じる。送り速度Fが変わると、挽き目の間隔が変わり、切削痕C1の表面粗さが変わる。そこで、ワークW1の側面の内、Z軸に沿った情報領域AR1を設定することが考えられる。
むろん、図10に示すような切削痕C1は、バイトTO3が+Z方向へ移動する代わりにワークW1が-Z方向へ移動するといった、同様の相対的な位置関係の変化により形成される。
【0058】
上述したように、相対的な送り速度Fが速くなると切削痕C1が粗くなり、相対的な送り速度Fが遅くなると切削痕C1が比較的滑らかになる。図10の下部に示すように、送り速度Fが比較的速い第一速度F1である時、切削痕C1は山と谷の差が大きい第一状態ST1であり、切削痕C1の表面粗さRが大きい。送り速度Fが比較的遅い第二速度F2である時、切削痕C1において山と谷の差が小さい第二状態ST2であり、切削痕C1の表面粗さRが小さい。そこで、切削痕C1の埋め込み情報IN2を複数の単位情報IN3に分け、各単位情報IN3が少なくとも第一状態ST1及び第二状態ST2になり得るようにNC装置70がワークW1の加工を制御することができる。図10に示す例でも、元の情報IN1が2値で表され、元の情報IN1に含まれる単位情報”0”が第一表面粗さR1となる第一状態ST1に割り当てられ、元の情報IN1に含まれる単位情報”1”が第二表面粗さR2となる第二状態ST2に割り当てられている。NC装置70は、元の”0”に対応する第一状態ST1の単位情報IN3を切削痕C1に埋め込む場合、送り速度Fを第一速度F1に制御する。このようにして、NC装置70は、単位情報IN3を第一状態ST1にする場合に該第一状態ST1の単位情報IN3がワークW1に形成されるように制御軸駆動部U12にワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を第一速度F1で変化させる。NC装置70は、元の”1”に対応する第二状態ST2の単位情報IN3を切削痕C1に埋め込む場合、送り速度Fを第二速度F2に制御する。このようにして、NC装置70は、単位情報IN3を第二状態ST2にする場合に該第二状態ST2の単位情報IN3がワークW1に形成されるように制御軸駆動部U12に相対的な位置関係を第二速度F2で変化させる。
【0059】
むろん、埋め込み情報IN2の挽き目パターンは、図5に示すようにバーコードの規格に準拠してもよい。単位情報IN3は、図6,7に例示するように、2値に限定されない。
いずれの場合も、検出装置200は、製品W2の表面の埋め込み情報IN2に含まれる各単位情報IN3の表面粗さRを測定し、表面粗さRと単位情報との対応関係に従って元の情報IN1を検出することができる。ここでも、検出装置200は、表面粗さ計を用いた検出装置に限定されず、画像処理装置、レーザー変位計、渦電流変位計、三次元測定機、等を用いることができる。
【0060】
旋削のついでに埋め込み情報IN2をワークW1に形成する処理は、例えば、図8に示す切削制御処理に従って行うことができる。図8を参照して説明すると、まず、NC装置70及び操作部80(又はコンピューター100)は、切削コマンドCD1の入力を受け付ける(ステップS102)。ステップS102の後、NC装置70(又はコンピューター100)は、単位情報IN3の各状態の送り速度Fを設定する(ステップS104)。送り速度Fの設定後、NC装置70は、入力を受け付けた情報dddを構成する複数の単位情報IN3の状態に応じた送り速度Fで工具TO1をZ軸方向へ移動させながら回転状態のワークW1を切削するように駆動部U1を制御する(ステップS106)。ステップS106の後、NC装置70は、切削制御処理を終了させる。
以上より、NC装置70は、第一速度F1を上限速度fffに合わせて第一状態ST1の単位情報IN3がワークW1に形成されるように刃物台駆動部24に工具TO1をZ軸方向へ移動させる。当該NC装置70は、第二速度F2を上限速度fffよりも遅い速度k×fffに合わせて第二状態ST2の単位情報IN3がワークW1に形成されるように刃物台駆動部24に工具TO1をZ軸方向へ移動させる。いずれの場合も、埋め込み情報IN2を含む切削痕C1が工具TO1による加工時にワークW1に形成されるように、主軸回転駆動部13にワークW1を回転させ、制御軸駆動部U12にワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させる。
【0061】
製品W2からの情報IN1の検出は、図9に示す検出装置200を用いて行うことができる。
図10に示す例も、製品W2に情報IN1を付加するためにワークW1の加工が利用されるので、製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は不要である。管理者は、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。
【0062】
また、図11に例示するように、回転するワークW1の端面に埋め込み情報IN2を含む切削痕C1を形成してもよい。図11は、回転するワークW1の端面にバイトTO3の動きにより形成される切削痕C1を模式的に例示している。図11中、「+X」はX軸に沿った一方向を示し、「+Y」はY軸に沿った一方向を示している。
図11の上部に示すように、工作機械1は、主軸中心線AX1を中心としてワークW1を回転させ、バイトTO3の刃先TO3tをワークW1の端面に当て、該バイトTO3を送り速度Fで+Y方向へ移動させる旋削を行うものとする。バイトTO3の移動方向は、Z軸と交差する方向であればよく、+X方向等でもよい。バイトTO3の刃先TO3tの軌跡は、主軸中心線AX1を中心とする渦巻状のパターンとなる。軌跡のパターンは、主軸11の回転数、ワークW1の直径、及び、送り速度Fによって一意的に決定される。ワークW1の端面には、主軸中心線AX1を中心とする渦巻状の挽き目が径方向へ続く切削痕C1が生じる。送り速度Fが変わると、挽き目の間隔が変わり、切削痕C1の表面粗さが変わる。むろん、図11に示すような切削痕C1は、バイトTO3が+Y方向へ移動する代わりにワークW1が+Y方向とは反対の-Y方向へ移動するといった、同様の相対的な位置関係の変化により形成される。
【0063】
図11の下部に示すように、送り速度Fが比較的速い第一速度F1である時、切削痕C1は山と谷の差が大きい第一状態ST1であり、切削痕C1の表面粗さRが大きい。送り速度Fが比較的遅い第二速度F2である時、切削痕C1において山と谷の差が小さい第二状態ST2であり、切削痕C1の表面粗さRが小さい。NC装置70は、元の”0”に対応する第一状態ST1の単位情報IN3を切削痕C1に埋め込む場合、送り速度Fを第一速度F1に制御する。NC装置70は、元の”1”に対応する第二状態ST2の単位情報IN3を切削痕C1に埋め込む場合、送り速度Fを第二速度F2に制御する。むろん、埋め込み情報IN2の挽き目パターンは、図5に示すようにバーコードの規格に準拠してもよい。単位情報IN3は、図6,7に例示するように、2値に限定されない。
【0064】
旋削のついでに埋め込み情報IN2をワークW1に形成する処理は、例えば、図8に示す切削制御処理に従って行うことができる。製品W2からの情報IN1の検出は、図9に示す検出装置200を用いて行うことができる。
図11に示す例も、製品W2に情報IN1を付加するためにワークW1の加工が利用されるので、製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は不要である。管理者は、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。
【0065】
(5)加工のついでに埋め込み情報をワークに形成する第三の例:
制御軸駆動部U12による駆動軸の数がY軸とZ軸の2軸等、2軸以上である場合、切削痕C1に含まれる谷同士又は山同士の交点の座標等を制御することにより、埋め込み情報IN2を形成することができる。例えば、エンドミル切削では、多数の円弧状の谷及び山を含む切削痕C1がワークW1の表面に形成される。そこで、切削痕C1から円弧の中心座標と円弧同士の交点の座標とを例えば画像解析により抽出することにより、埋め込み情報IN2から情報IN1をデコードすることができる。
【0066】
図12は、円弧同士の交点331の位置を埋め込み情報IN2にするエンドミルTO2の刃先TO2tの動きによりワークW1の表面に形成される切削痕C1を模式的に例示している。図12の下部には、エンドミルTO2の刃先TO2tの軌跡320により生じる切削痕C1の拡大図が示されている。例えば、刃物台駆動部24は、互いに向きが異なるY軸及びZ軸に沿ってエンドミルTO2を移動させることが可能であるとする。
図12に示す指令範囲において、回転するエンドミルTO2がY軸及びZ軸に沿って移動するエンドミル切削がワークW1に行われるものとする。指令範囲に対するエンドミル切削の開始位置は、中心座標と直径とで定まる基準円310の位置とする。ワークW1の表面には、エンドミルTO2の刃先TO2tにより基準円310の位置に谷が形成される。NC装置70は、基準円310をエンドミル1回転分の最初の円弧として連続するエンドミル1回転分の円弧との交点の座標が情報IN1に応じた座標となるように、Y軸及びZ軸に沿ったエンドミルTO2の移動を制御する。尚、各円弧は、円弧同士に交点が生じる限り、エンドミル0.5回転分等、エンドミル1回転分でなくてもよい。
【0067】
図13は、円弧同士の交点331の位置を入力情報に合わせて切削痕C1を形成する例を模式的に示している。図13の上段には、交点331の座標と情報IN1に含まれる単位情報IN4との対応関係を表す情報テーブルTA1が示されている。
ここで、図13の中段に示すように、エンドミルTO2の刃先TO2tの軌跡320は、第一円弧321、及び、該第一円弧321に続く第二円弧322であって前記第一円弧321と交わる第二円弧322を含んでいる。軌跡320は、切削痕C1における谷となる。従って、切削痕C1は、第一円弧321と第二円弧322を含むことになる。また、第一円弧321の中心座標を原点330とし、第一円弧321と第二円弧322との交点331の座標は原点330を基準とした座標とする。原点330は、ワークW1の表面においてエンドミルTO2が1回転する間の工具中心線AX2の平均位置とする。埋め込み情報IN2は、第一円弧321の中心座標を原点330とした第一円弧321と第二円弧322との交点331の座標を含むことになる。尚、第三の例において、埋め込み情報IN2に含まれるのは交点331の座標であり、単位情報IN4は元の情報IN1の構成要素である。
【0068】
図13の中段に示すように、第二円弧322が最初に第一円弧321と交わる点の座標を(z1,z1)とし、次に第二円弧322が第一円弧321と交わる点の座標を(z2,z2)とする。Z軸及びY軸に沿ったエンドミルTO2の移動を制御することにより、交点331の座標(z1,z1)及び(z2,z2)を所望の位置にすることができる。そこで、図13の上段に示す情報テーブルTA1のように、z座標の絶対値とy座標の絶対値との組合せに単位情報IN4が何であるかを紐付けておくことにより、単位情報IN4に応じた座標(z,y)の交点を有する軌跡320を実現させることができる。図13の上段に示す情報テーブルTA1では、例えば、座標(|z|,|y|)が(1,1)である場合に単位情報”a”が紐付けられ、座標(|z|,|y|)が(1,2)である場合に単位情報”b”が紐付けられている。交点331の座標(z,y)が二次元の座標であるので、座標(z,y)に紐付けられる単位情報IN4を2値(0又は1)や4値(0、1、2、又は、3)を超える情報量とすることができる。これにより、単位面積当たりの埋め込み情報IN2の情報量を増やすことができ、多くの情報量の埋め込み情報IN2をワークW1の少ない領域に形成することができる。
さらに、図13の下段に示すように、前回の第二円弧322を新たな第一円弧321とし、該第一円弧321に続くエンドミル1回転分の円弧を新たな第二円弧322とし、新たな第一円弧321の中心座標を原点330として交点331の座標を定めることにする。この場合において、第二円弧322が最初に第一円弧321と交わる点の座標を(z3,z3)とし、次に第二円弧322が第一円弧321と交わる点の座標を(z4,z4)とする。Z軸及びY軸に沿ったエンドミルTO2の移動を制御することにより、交点331の座標(z3,z3)及び(z4,z4)を所望の位置にすることができる。各円弧は、エンドミル1回転分に限定されない。
【0069】
図14は、円弧同士の交点331の位置を埋め込み情報IN2にする場合に切削コマンドCD2の入力を受け付けて切削コマンドCD2を実行する切削制御処理を模式的に例示している。切削制御処理はNC装置70と操作部80で行われるものとするが、外部のコンピューター100が切削制御処理の一部を行ってもよい。図14に示す切削制御処理において、受付部U2がステップS302の処理を行い、制御部U3がステップS304~S306の処理を行う。
まず、NC装置70及び操作部80は、切削コマンドCD2の入力を受け付ける(ステップS302)。切削コマンドCD2は、ワークW1から製品W2を形成するためのコマンドであり、埋め込み情報IN2を形成する専用のコマンドではない。図14に示す切削コマンドCD2は、「M」から始まる切削コード番号mmm、「Z」から始まるZ軸の基準位置zzz、「Y」から始まるY軸の基準位置yyy、「F」から始まる上限速度fff、及び、「D」から始まる情報dddを含んでいる。基準位置zzz,yyyは、基準円310の中心座標である。基本的には、切削コマンドCD2は、製品W2を形成するために、Z軸及びY軸に沿って基準位置zzz,yyyから上限速度fffを超えない送り速度でワークW1と工具TO1とを相対的に移動させてワークW1を工具TO1で切削するコマンドである。この切削コマンドCD1に埋め込み対象の情報dddが含まれている。尚、ワークW1と工具TO1との相対的な移動方向がZ軸及びX軸に沿っている場合は「Yyyy」を「X」から始まるX軸の基準位置xxxに置き換えればよい。「Ffff」は省略可能であり、「Ffff」が省略されるとデフォルトの上限速度が適用される。情報dddは、検出装置200に検出させるための情報IN1に相当し、単位情報IN4の組合せに相当する。ステップS302の処理は、NC装置70の制御に従って操作部80が切削コマンドCD2の入力を受け付ける処理でもよいし、コンピューター100が切削コマンドCD2の入力を受け付ける処理でもよい。また、ステップS302の処理は、切削コマンドCD2を含む加工プログラムPR2の入力を受け付ける処理でもよい。
【0070】
ステップS302の後、NC装置70(又はコンピューター100)は、入力を受け付けた情報dddの単位情報IN4に対応する座標に交点331を有する第一円弧321及び第二円弧322を含む切削痕C1がワークW1に形成されるように各制御軸の送り速度Fを設定する(ステップS304)。図13に示す例では、最初の単位情報IN4に対応させた座標(z1,y1)、2番目の単位情報IN4に対応させた座標(z2,y2)、3番目の単位情報IN4に対応させた座標(z3,y3)、…に交点331が生じるように、Z軸の送り速度、及び、Y軸の送り速度が設定される。
尚、次の単位情報IN4が情報IN1に存在しない場合、NC装置70は、例えば、前回の第二円弧322に続く円弧と前回の第二円弧322とに交点が生じないようにZ軸の送り速度、及び、Y軸の送り速度を設定すればよい。
【0071】
送り速度Fの設定後、NC装置70は、設定された送り速度Fで基準円310から回転状態の工具TO1をZ軸方向及びY軸方向へ移動させながらワークW1を切削するように駆動部U1を制御する(ステップS306)。ステップS306の後、NC装置70は、切削制御処理を終了させる。
以上のようにして、NC装置70は、入力を受け付けた情報IN1に対応する座標に交点331を有する第一円弧321及び第二円弧322がワークW1に形成されるように制御軸駆動部U12に相対的な位置関係を変化させる。
【0072】
図15は、円弧同士の交点331の位置を埋め込み情報IN2にする場合における検出装置200の構成例及び処理例を模式的に示している。
図15の上部に示す検出装置200は、撮像装置211、表示部212、及び、計測制御部213を含んでいる。撮像装置211は、製品W2の表面に光を当てる光源を備え、製品W2の表面に存在する円弧を識別可能に製品W2の表面を撮影する。尚、製品W2の表面に当てる光の向き(光源の向き)を調節することにより切削痕C1に存在する山と谷の明るさの差を調整することができるので、光の向きの調節により切削痕C1中の円弧を識別可能に製品W2の表面を撮影することができる。計測制御部213は、CPU、ROM、RAM、等を備え、撮像装置211から埋め込み情報IN2の撮影画像を取得し、撮影画像に含まれる埋め込み情報IN2から情報IN1を検出して表示部212に表示させる。むろん、計測制御部213の一部又は全部は、ASICといった他の手段により実現されてもよい。図15の下部には、計測制御部213により行われるデコード処理が示されている。製品W2に存在する埋め込み情報IN2を撮像するための操作が撮像装置211に行われると、デコード処理が開始する。
【0073】
デコード処理が開始すると、計測制御部213は、撮像装置211から埋め込み情報IN2の撮影画像を取得する(ステップS402)。撮影画像には、図12に示すように、各単位情報IN4に対応する座標に交点331を有する円弧(321,322)を含む切削痕C1が表されている。次に、計測制御部213は、撮影画像から基準円310の中心位置及び直径を抽出する(ステップS404)。例えば、図14に示す切削コマンドCD2から基準円310の中心位置zzz,yyyが設定されるので、計測制御部213は、撮影画像において位置zzz,yyyに対応する円を基準円310として画像解析により抽出し、該基準円310の中心位置及び直径を特定すればよい。
【0074】
基準円310の抽出後、計測制御部213は、撮影画像から第一円弧321及び第二円弧322を抽出し、第一円弧321の中心座標を原点330とした第一円弧321と第二円弧322との交点331の座標を割り出す(ステップS406)。上述したように、最初の第一円弧321は、基準円310である。この場合、図13の中段に示す切削痕C1からは、交点331の座標(z1,y1)及び(z2,y2)が割り出される。その後、計測制御部213は、図13に示すような情報テーブルTA1に従って、交点の座標を元の単位情報IN4にデコードする(ステップS408)。
【0075】
計測制御部203は、第二円弧322に続く円弧が撮像画像に存在する間、ステップS402~S408の処理を繰り返す(ステップS410)。次のステップS406において、計測制御部213は、図13の下段に示すように、前回の第二円弧322を新たな第一円弧321とし、該第一円弧321に続く円弧を新たな第二円弧322とし、新たな第一円弧321の中心座標を原点330として交点331の座標を割り出す。第二円弧322に続く円弧が撮像画像に存在しない場合、計測制御部203は、埋め込み情報IN2に含まれる交点331の座標群に紐付けられた単位情報IN4で表された情報IN1を表示部202に表示させ(ステップS412)、デコード処理を終了させる。基準円310の抽出を起点としてステップS410の判断処理が行われることにより、埋め込み情報IN2を構成しない交点の座標がデコードされることを防ぐことができる。
以上より、検出装置200は、ワークW1に形成された埋め込み情報IN2から情報IN1を検出する。
【0076】
上述したデコード処理は、撮影画像から交点331を直接抽出する訳ではなく、基準円310から連続する円弧(321,322)を撮影画像から抽出してから交点331の座標を割り出している。製品W2に打痕や圧痕等が生じても、円弧(321,322)の全体が消えてしまう場合は少ないと考えられ、製品W2から打痕や圧痕等により交点331が消えても、円弧(321,322)から交点331の座標を割り出すことが可能である。また、基準円310から連続していない円弧同士の交点が除外されることにより、埋め込み情報IN2に関係しない交点の座標がデコードされない。
【0077】
第三の例でも、製品W2に情報IN1を付加するためにワークW1の加工が利用されるので、製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は不要である。管理者は、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。
【0078】
円弧同士の交点331の座標で表される埋め込み情報IN2をワークW1に形成する加工は、フライス加工に限定されず、旋削でもよい。工作機械1は、主軸回転駆動部13においてワークW1の回転速度を制御することができ、制御軸駆動部U12においてX軸及びY軸に沿ってワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させることができる。工作機械1は、例えば、ワークW1の端面切削において、図12,13に示すような円弧(321,322)を含む切削痕C1をワークW1の端面に形成することができる。従って、工作機械1は、図14に示すような切削制御処理を行うことにより情報IN1に対応する円弧(321,322)を含む切削痕C1をワークW1の端面に形成することができる。検出装置200は、図15に示すようなデコード処理を行うことにより、切削痕C1に含まれる埋め込み情報IN2から元の情報IN1を検出することができる。
【0079】
(6)加工のついでに埋め込み情報をワークに形成する第四の例:
埋め込み情報IN2をワークW1に形成する加工は、フライス加工や旋削に限定されない。
図16は、加工深さDEの微小変化によりワークW1の表面に形成される切削痕C1に含まれる埋め込み情報IN2を模式的に例示している。
【0080】
図16の上段に示すように、工作機械1は、ワークW1を回転も移動もさせず、Y軸方向に向いたバイトTO3の刃先TO3tをワークW1の側面に当て、該バイトTO3を送り速度Fで+Z方向へ移動させる形削り(シェーパー加工)を行うものとする。ここで、切削痕C1に埋め込み情報IN2を含めるため、形削り中にバイトTO3をY軸に沿って微小量変化させることにより加工深さDEを微小量変化させ、埋め込み情報IN2の単位情報IN5を加工深さDEで表すことにする。加工深さDEの変化を「微小量」と表現したのは、加工深さDEの変化を形削りの誤差程度に収める意図による。例えば、表面粗さ計では0.1μm程度の段差を読み取ることが可能であるため、加工深さDEの変化が0.2~1μm程度の微小量であっても加工深さDEの違いを表面粗さ計で読み取ることが可能である。表面粗さ計の代わりに、レーザー変位計、渦電流変位計、三次元測定機、画像処理装置、等を用いることも可能である。
【0081】
以上より、切削痕C1の埋め込み情報IN2を複数の単位情報IN5に分け、各単位情報IN5が少なくとも第一の加工深さDE1、及び、該第一の加工深さDE1とは異なる第二の加工深さDE2になり得るようにNC装置70がワークW1の加工を制御してもよい。図16に示す例では、元の情報IN1が2値で表され、元の情報IN1に含まれる単位情報”0”が第一の加工深さDE1に割り当てられ、元の情報IN1に含まれる単位情報”1”が第二の加工深さDE2に割り当てられている。NC装置70は、主軸台駆動部14に複数の単位情報IN5が順に形成される向きにワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させる。ここで、NC装置70は、元の”0”に対応する第一の加工深さDE1を切削痕C1に埋め込む場合、加工深さDEが第一の加工深さDE1になるように主軸台駆動部14を制御する。NC装置70は、元の”1”に対応する第二の加工深さDE2を切削痕C1に埋め込む場合、加工深さDEが第二の加工深さDE2になるように主軸台駆動部14を制御する。このようにして、NC装置70は、制御軸駆動部U12に各単位情報IN5に対応する加工深さDEでワークW1が切削されるように加工深さDEが変わる向きにワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させる。
むろん、図16に示すような切削痕C1は、バイトTO3が+Z方向へ移動する代わりにワークW1が-Z方向へ移動する平削り(プレーナー加工)といった、同様の相対的な位置関係の変化により形成される。また、ワークW1を回転も移動もさせず、バイトTO3を送り速度Fで鉛直方向へ移動させる立削り(スロッター加工)が行われる場合等も、同様にして、埋め込み情報IN2を含む切削痕C1を形成することができる。
【0082】
むろん、埋め込み情報IN2の挽き目パターンは、図5に示すようにバーコードの規格に準拠してもよい。単位情報IN3は、図6,7に例示するように、2値に限定されない。
いずれの場合も、検出装置200は、製品W2の表面の埋め込み情報IN2に含まれる各単位情報IN5の加工深さDEを測定し、加工深さDEと単位情報との対応関係に従って元の情報IN1を検出することができる。シンプルでノイズが乗り難い加工深さDEで各単位情報IN5が表されるので、S/N比が高い埋め込み情報IN2がワークW1に形成され、単位情報IN5の読み取り精度を高めることができる。検出装置200には、表面粗さ計、レーザー変位計、渦電流変位計、三次元測定機、画像処理装置、等を用いることができる。安価なレーザー測定機等でも単位情報IN5を読み取ることができるので、検出装置のコストを低く抑えることができ、デコード処理を高速化させることも可能となる。
【0083】
以下、図17を参照して、形削り、平削り、立削り、等といった削りのついでに埋め込み情報IN2をワークW1に形成する処理の具体例を説明する。図17は、加工深さDEを埋め込み情報IN2にする場合に切削コマンドCD1の入力を受け付けて切削コマンドCD1を実行する切削制御処理を模式的に例示している。図17に示す切削制御処理において、受付部U2がステップS502の処理を行い、制御部U3がステップS504~S506の処理を行う。
まず、NC装置70及び操作部80(又はコンピューター100)は、切削コマンドCD1の入力を受け付ける(ステップS502)。図17に示す切削コマンドCD1は、「M」から始まる切削コード番号mmm、「Z」から始まるZ軸の基準位置zzz、「F」から始まる上限速度fff、及び、「D」から始まる情報dddを含んでいる。基本的には、切削コマンドCD1は、製品W2を形成するために、Z軸方向において基準位置zzzから上限速度fffを超えない送り速度でワークW1と工具TO1とを相対的に移動させてワークW1を工具TO1で切削するコマンドである。この切削コマンドCD1に埋め込み対象の情報dddが含まれている。ワークW1と工具TO1との相対的な移動方向がX軸又はY軸に沿っている場合は「Zzzz」を「X」又は「Y」から始まるX軸の基準位置xxx又はY軸の基準位置yyyに置き換えればよい。
【0084】
ステップS502の後、NC装置70(又はコンピューター100)は、単位情報IN5の各加工深さDEを設定する(ステップS504)。例えば、図16に示すように、単位情報”0”を第一の加工深さDE1に設定し、単位情報”1”を第二の加工深さDE2に設定する。加工深さDEの設定後、NC装置70は、入力を受け付けた情報dddを構成する複数の単位情報IN5の状態に応じた加工深さDEでワークW1を切削するように駆動部U1を制御する(ステップS506)。例えば、情報dddが2進数で「01101001」と表される場合、NC装置70は、刃物台駆動部24にバイトTO3を+Z方向へ送り速度Fで移動させ、加工深さDEが単位情報”0”の埋め込み箇所において第一の加工深さDE1となって単位情報”1”の埋め込み箇所において第二の加工深さDE1となるようにY軸方向におけるバイトTO3の位置を制御する。これにより、埋め込み情報IN2の表面状態は、単位情報IN5の単位で、第一の加工深さDE1、第二の加工深さDE2、第二の加工深さDE2、第一の加工深さDE1、第二の加工深さDE2、第一の加工深さDE1、第一の加工深さDE1、及び、第二の加工深さDE2と変化する。
【0085】
以上より、NC装置70は、駆動部U1に複数の単位情報IN5が順に形成される向きにワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させ、且つ、駆動部U1に各単位情報IN5に対応する加工深さDEでワークW1が切削されるように加工深さDEが変わる向きにワークW1と工具TO1との相対的な位置関係を変化させることになる。
ステップS506の後、NC装置70は、切削制御処理を終了させる。
【0086】
図18は、検出装置200の構成例及び処理例を模式的に示している。
図18の上部に示す検出装置200は、レーザー変位計221、表示部222、及び、計測制御部223を含んでいる。レーザー変位計221は、製品W2の表面の高さを測定する。製品W2の表面の高さは、加工深さDEに対応している。計測制御部223は、CPU、ROM、RAM、等を備え、レーザー変位計221から高さの測定値を取得し、埋め込み情報IN2から情報IN1を検出して表示部202に表示させる。むろん、計測制御部203の一部又は全部は、ASICといった他の手段により実現されてもよい。図18の下部には、計測制御部203により行われるデコード処理が示されている。製品W2に存在する埋め込み情報IN2を読み取るための操作がレーザー変位計221に行われると、デコード処理が開始する。
【0087】
デコード処理が開始すると、計測制御部223は、単位情報IN5の加工深さDEを順次、取得する(ステップS602)。ステップS602の処理は、例えば、単位情報IN5の加工深さDEに対応する高さの測定値を順次、取得する処理でもよい。次に、計測制御部223は、加工深さDEを元の単位情報にデコードする(ステップS604)。例えば、図4に示すように第一の加工深さDE1が単位情報”0”に対応して第二の加工深さDE2が単位情報”1”に対応すると想定し、第一の加工深さDE1と第二の加工深さDE2とを識別するための閾値をTHDEとする。計測制御部223は、加工深さDEが閾値THDEよりも大きい場合に単位情報に”0”を割り当てることができ、加工深さDEが閾値THDEよりも小さい場合に単位情報に”1”を割り当てることができる。DE=THDEである場合、検出装置200は、単位情報に”0”と”1”のどちらを割り当ててもよい。尚、計測制御部223は、レーザー変位計221から高さの測定値を取得して加工深さDEに換算してから閾値THDEを用いて単位情報のデコードを行ってもよいし、高さの測定値自体と高さの閾値とを用いて単位情報のデコードを行ってもよい。
【0088】
計測制御部223は、埋め込み情報IN2に含まれる全ての単位情報IN5が元の単位情報にデコードされるまで、ステップS602~S604の処理を繰り返す(ステップS606)。埋め込み情報IN2に含まれる全ての単位情報IN5が元の単位情報にデコードされた場合、計測制御部223は、埋め込み情報IN2から検出された情報IN1を表示部202に表示させ(ステップS608)、デコード処理を終了させる。
以上より、検出装置200は、ワークW1に形成された埋め込み情報IN2から情報IN1を検出する。
【0089】
図16~18に示す例も、製品W2に情報IN1を付加するためにワークW1の加工が利用されるので、製品W2に情報IN1を付加する専用の加工処理は不要である。管理者は、検出装置200で埋め込み情報IN2から検出される情報IN1に基づいて製品W2を管理することができる。
また、図16~18に示す例において、工作機械1は、フライス盤や旋盤でなくてもよく、フライス加工や旋削の機能を有していない削り盤、例えば、形削り盤、平削り盤、立削り盤、等でもよい。
【0090】
(7)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、工作機械1は、フライス加工を行う場合、旋盤に限定されず、旋削機能を有していないフライス盤等でもよい。むろん、工作機械1は、旋削を行う場合、フライス加工機能を有していない旋盤等でもよい。
制御部U3は、機械本体2ではなく、コンピューター100(図1参照)に設けられてもよい。また、機械本体2とコンピューター100の両方が制御部U3を構成することも可能である。
【0091】
(8)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、工作機械により形成された製品を管理する利便性を向上させることが可能な技術等を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1…工作機械、2…機械本体、
10…主軸台、11…主軸、13…主軸回転駆動部、14…主軸台駆動部、
20…刃物台、23…工具回転駆動部、24…刃物台駆動部、
70…NC装置、
80…操作部、81…入力部、82…表示部、
100…コンピューター、
200…検出装置、
300…軌跡、301…始点、302…終点、
310…基準円、320…軌跡、321…第一円弧、322…第二円弧、
330…原点、331…交点、
AX0…中心線、AX1…主軸中心線、AX2…工具中心線、
C1…切削痕、
CD1,CD2…切削コマンド、
DE…加工深さ、DE1…第一の加工深さ、DE2…第二の加工深さ、
F1…第一速度、F2…第二速度、
IN1…情報、IN2…埋め込み情報、IN3…単位情報、
IN4…単位情報、IN5…単位情報、
k…所定比、
R0…回転対象、
ST1…第一状態、ST2…第二状態、
SY1…管理システム、
TO1…工具、
TO2…エンドミル、TO2t…刃先、TO3…バイト、TO3t…刃先、
U1…駆動部、U2…受付部、U3…制御部、
U11…回転駆動部、U12…制御軸駆動部、
W1…ワーク、W2…製品。
図1
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