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特開2024-33061腫瘍溶解ウイルスの治療効果を予測するバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033061
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】腫瘍溶解ウイルスの治療効果を予測するバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20240306BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240306BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240306BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20240306BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12M1/34 F
C12M1/34 Z
C07K16/08
C12N15/34
C12N15/13
C12Q1/70
G01N33/569 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136440
(22)【出願日】2022-08-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的がん医療実用化研究事業」「難治がんに対するp53がん抑制遺伝子搭載武装化アデノウイルス製剤の実用化のための非臨床試験」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】504366165
【氏名又は名称】オンコリスバイオファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊義
(72)【発明者】
【氏名】田澤 大
(72)【発明者】
【氏名】黒田 新士
(72)【発明者】
【氏名】垣内 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】八木 千晶
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA03
4B029GB06
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査方法の提供。
【解決手段】腫瘍溶解ウイルスの投与による腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査方法であって、当該ウイルスの投与を受けた患者から採取された試料中の腫瘍溶解ウイルス由来成分を測定する工程を含む、前記方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍溶解ウイルスの投与による腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査方法であって、当該ウイルスの投与を受けた患者から採取された試料中の腫瘍溶解ウイルス由来成分を測定する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
試料が血液由来のものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血液由来の試料が血液中に含まれる細胞外小胞である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
細胞外小胞がエクソソームである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測が、患者から試料を採取した日と同日又は1日後以降における予測である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測が、腫瘍の抑制に基づくものである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍溶解ウイルス由来成分が核酸又はタンパク質である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
腫瘍溶解ウイルスがアデノウイルスである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アデノウイルスがhTERTプロモーターを有するものである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
腫瘍溶解ウイルスの投与を受けた患者が有するエクソソームに含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分を含む、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測用バイオマーカー。
【請求項11】
腫瘍の抑制の予測のための、請求項10に記載のバイオマーカー。
【請求項12】
腫瘍溶解ウイルス由来成分とハイブリダイズするプローブ、当該成分を増幅させるためのプライマー、若しくは当該成分と結合する抗体、又はこれらの組み合わせを含む、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査用キット。
【請求項13】
エクソソーム単離用試薬をさらに含む、請求項12に記載のキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍溶解ウイルスの治療効果を予測するバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム(Exosome)は、細胞から分泌される直径50-150 nmの小胞体である。その表面は細胞膜由来の脂質やタンパク質で構成される脂質二重膜であり、内部には各種核酸及びタンパク質など細胞内物質を含む。エクソソームは細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一種とされており、細胞外小胞にはエクソソームのほかにマイクロベシクル、アポトーシス小体があり、それぞれ産生機構や大きさが異なる(非特許文献1:Yamamoto T, et al. Sci Technol Adv Mater. 2019)。
【0003】
エクソソームは臓器・細胞から分泌されるため、体液(血液、髄液、尿など)にも存在しており、体中を循環する。エクソソームの重要な機能として、細胞間の情報伝達を担っていることが注目されている(非特許文献2:Kikuchi S, et al. Int. J. Mol. Sci. 2019)。上記の通り、エクソソームは、その内部に核酸などを含むが、分泌した細胞の核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA)がエクソソームを介して受け取り側の細胞に伝達され、機能していることが知られている(非特許文献3:Zhang H, et al.Nat Commun. 2017)。このため、エクソソームは細胞間のコミュニケーションツールとして働いていると考えられている。
【0004】
他方、腫瘍溶解ウイルスであるテロメライシン(登録商標)(OBP-301)は、がん細胞で特異的に増殖し、がん細胞を破壊することができるように遺伝子改変された5型のアデノウイルスである(特許文献1:WO2004/005511)。OBP-301は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することでがん細胞を溶解させる強い抗腫瘍活性を示すことや、正常な細胞の中では増殖能力が極めて低いことから臨床的有用性が期待され、臨床試験も進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2004/005511号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yamamoto T, et al. Sci Technol Adv Mater. 2019
【非特許文献2】Kikuchi S, et al. Int. J. Mol. Sci. 2019
【非特許文献3】Zhang H, et al.Nat Commun. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
腫瘍溶解ウイルスに限らず、がんの非外科的治療においては、その治療効果を評価するのに数か月を要することがあり、評価を待つ間に、がんによっては、進行してしまう場合もある。そのため、治療の開始早期の段階で治療効果の有無を予測することができれば、早めに他の治療法に切り替えるなどの対処が可能となる。
特に、腫瘍溶解ウイルスにおいては、治療の開始早期の段階での治療効果の有無を予測する方法がなく、予測方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分と抗腫瘍効果との関係を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 腫瘍溶解ウイルスの投与による腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査方法であって、当該ウイルスの投与を受けた患者から採取された試料中の腫瘍溶解ウイルス由来成分を測定する工程を含む、前記方法。
[2] 試料が血液由来のものである[1]に記載の方法。
[3] 血液由来の試料が血液中に含まれる細胞外小胞である[2]に記載の方法。
[4] 細胞外小胞がエクソソームである[3]に記載の方法。
[5] 腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測が、患者から試料を採取した日と同日又は1日後以降における予測である[1]に記載の方法。
[6] 腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測が、腫瘍の抑制に基づくものである [1]に記載の方法。
[7] 腫瘍溶解ウイルス由来成分が核酸又はタンパク質である[1]に記載の方法。
[8] 腫瘍溶解ウイルスがアデノウイルスである[1]に記載の方法。
[9] アデノウイルスがhTERTプロモーターを有するものである[8]に記載の方法。
[10] 腫瘍溶解ウイルスの投与を受けた患者が有するエクソソームに含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分を含む、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測用バイオマーカー。
[11] 腫瘍の抑制の予測のための、[10]に記載のバイオマーカー。
[12] 腫瘍溶解ウイルス由来成分とハイブリダイズするプローブ、当該成分を増幅させるためのプライマー、若しくは当該成分と結合する抗体、又はこれらの組み合わせを含む、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査用キット。
[13] エクソソーム単離用試薬をさらに含む、[12]に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、抗腫瘍効果を予測するためのバイオマーカーが提供される。本発明において、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分は、抗腫瘍効果を予測するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】細胞培養上清からエクソソームを回収する手法の概要図である。
図2】ウイルスがエクソソーム中に含まれていることを示す電子顕微鏡写真である。
図3】エクソソームの粒径を測定した結果を示す図である。
図4】エクソソーム内のE1Aタンパク質の検出結果を示す図である。
図5】エクソソーム内のE1A DNAの検出結果を示す図である。
図6】エクソソーム内のE1A DNAの検出結果を示す図である。
図7】皮下腫瘍モデルモデルマウスにおけるエクソソーム内のE1A DNAの検出結果を示す図である。
図8】エクソソーム内E1A量と最終腫瘍体積との相関を示す図である。
図9】野生型アデノウイルスによる免疫後の皮下腫瘍モデルにおけるエクソソーム内のE1A DNAの検出結果を示す図である。
図10】エクソソーム内E1A量と最終腫瘍体積との相関を示す図である。
図11】エクソソーム内E1A量と腫瘍E1A量との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
概要
本発明は、腫瘍溶解ウイルスの投与による腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査方法に関する。本発明の方法は、前記ウイルスの投与を受けた患者から採取された試料中の腫瘍溶解ウイルス由来成分を測定する工程を含む。
本発明者は、マウスの皮下腫瘍モデルを作製し、これに腫瘍溶解ウイルスを投与して腫瘍の治療を行った。その際、エクソソームなどの細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルスの存在と、腫瘍の治療との関係を調べた。その結果、腫瘍の治療効果と、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分の量との間に相関関係があることを見出した。腫瘍溶解ウイルスが腫瘍に感染し腫瘍を殺傷した結果として、腫瘍から分泌されるエクソソーム内に腫瘍溶解ウイルス由来成分が含有されるためと推測される。
【0012】
これにより、腫瘍溶解ウイルスを投与した後に、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分を指標として、腫瘍の治療の有効性を予測することが可能となった。
すなわち、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルスは腫瘍の疾患の診断及び治療や、予後の予測などに用いられるバイオマーカーとなり得るものであり、臨床試験においては真のエンドポイント(腫瘍の治療)との科学的な関係を証明できる生物学的指標、すなわち真のエンドポイントを代替する指標(サロゲートマーカー)として利用することができる。
【0013】
2.細胞外小胞
本発明において使用される細胞外小胞は、腫瘍の治療のために腫瘍溶解ウイルスの投与を受けた患者由来のものである。そして、細胞外小胞は、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体のいずれであってもよいが、治療効果予測の点からエクソソーム又マイクロベシクルが好ましく、エクソソームがより好ましい。エクソソームはエンドソーム由来の小胞、マイクロベシクルは細胞から直接分泌された小胞、アポトーシス小体は細胞死により生じた細胞断片である。
【0014】
本発明において、腫瘍溶解ウイルスを含有する生体由来の細胞外小胞の回収方法を説明する。
まず、エクソソームなどの細胞外小胞が由来する組織、細胞、血液等を生体から採取する。組織の採取は、生検、外科的切除、採血などにより行うことができる。また、採取した組織、細胞、血液等に含まれる癌細胞を培養し、その培養上清から、細胞外小胞を採取(回収)してもよい。このときの細胞外小胞は、腫瘍溶解ウイルスを投与開始直後~ウイルス投与開始から14日後に採取されたものが好ましく、ウイルス投与開始から1日~6日後に採取されたものがより好ましく、1日~3日後に採取されたものさらに好ましく、2日後に採取されたものが特に好ましい。
【0015】
細胞外小胞のうち、エクソソームの回収法は、超遠心分離法、PEG沈殿法、免疫沈降法、Tim4 (マクロファージに発現するエクソソームの受容体)を用いた磁気ビーズによるアフィニティ法、密度勾配遠心法などが挙げられる。市販のエクソソーム単離用試薬(キット)を採用して、エクソソームを単離、回収してもよい。
超遠心分離法の場合、例えば、予め100g~10,000g程度の遠心力で数段階行い(例:100gを10分、2,000gを10分、10,000gを30分)、次に、100,000g程度の遠心力で70分を2回、超遠心分離を行うことによって、高純度のエクソソームを得ることができる。なお、工程については、2,000g から開始した後、800nm又は220nmのフィルターを通すことで、100gおよび10,000gの遠心分離を省略することも可能である。もっとも、当業者であれば遠心分離方法及び条件を適宜設定することができる。
【0016】
また、細胞外小胞は、上記組織や細胞のみならず、尿などからも回収することが可能である。
尿の場合は、回収した尿を20℃、17,000gで20分間遠心し、220nmのフィルターに通した後20℃、100,000gで2時間遠心する。その後PBSにて攪拌する。(Liu F, et al. J Cell Biochem, 2019)
【0017】
回収された細胞外小胞が目的のものであることの確認は、透過型電子顕微鏡による形態観察、PCRを利用した遺伝子解析、免疫学的手法(ELISA、FACS等)、ウエスタンブロット、粒径解析などにより行うことができる。
例えば、細胞外小胞には核酸が含まれる。そのような核酸には、mRNA、miRNA、並びに、タンパク質コード領域と重複するRNA転写物、反復配列のほか、tRNA、rRNA、siRNAなどの小型非コーディングRNA種、さらには、ミトコンドリアDNA、レトロトランスポゾンの短いDNA配列等が含まれる。従って、これらの核酸配列を標的としてPCRを行うことにより、目的の細胞外小胞であることが確認できる。
【0018】
なお、細胞外小胞には、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ガングリオシド(GM3)、ホスファチジルイノシトール、プロスタグランジン及びリゾビスホスファチジン酸等の膜脂質成分が含まれる。これらの脂質成分をクロマトグラフィー等に付すことで細胞外小胞であることを確認することができる。
さらには、いくつかのタンパク質はエクソソームマーカーとして認識されており、なかでも、4回膜貫通タンパク質であるテトラスパニン(例えばCD9、CD63、CD81)マーカーとして細胞外小胞であることを確認することができる。
【0019】
3.腫瘍溶解ウイルス
上記回収された細胞外小胞から、腫瘍溶解ウイルス由来成分を検出する。
本発明において検出の対象とされるウイルスは、腫瘍の治療のために投与された腫瘍溶解ウイルスであり、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解性ウイルスを標的とする。ウイルスには、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス、ピコルナウイルスなどが含まれる。これらのうち、アデノウイルス、ヘルペスウイルスが好ましく、安全性の観点からアデノウイルスが特に好ましい。アデノウイルスのなかでも、5型アデノウイルスは、取り扱いが容易などの理由から特に好ましい。本発明では、hTERTプロモーターを含むアデノウイルスが好ましい。
【0020】
さらに本発明においては、組換え型の腫瘍溶解ウイルスを検査対象とすることができる。本明細書において、「組換え型の腫瘍溶解ウイルス」は、ヒトテロメラーゼのプロモーター(hTERTプロモーター)、E1A遺伝子、IRES配列およびE1B遺伝子をこの順に含むポリヌクレオチドがそのゲノムに組み込まれているウイルスを意味する。このうち、組換え型の腫瘍溶解アデノウイルスは、WO 2004/5511に記載の方法により得ることができる。あるいは、組換え型の腫瘍溶解アデノウイルスOBP-301は、Oncolys BioPharma Inc.から「Telomelysin」(登録商標)として入手できる。
【0021】
さらに、本発明において検査対象とされる腫瘍溶解ウイルスとして、OBP-301に腫瘍抑制遺伝子p53を搭載させたOBP-702、fiberにRGD配列を搭載したOBP-502、fiberにRGD配列を搭載し、かつE3領域が欠損したOBP-405などが挙げられる。いずれも、hTERTプロモーターを有する腫瘍溶解ウイルスであることが好ましい。
OBP-702、OBP-405、OBP-502はOncolys BioPharma Inc.から入手することができる。
従って、本発明においては、これらのウイルス由来の生体成分、すなわちE1A遺伝子、IRES配列及びE1B遺伝子、並びにこれら遺伝子のRNA、並びにこれらの遺伝子がコードするE1Aタンパク質、IRESタンパク質、E1Bタンパク質などをバイオマーカーとして検査対象とすることができる。
【0022】
4.腫瘍の検査
本発明は、細胞外小胞に含まれる腫瘍溶解ウイルス由来成分を指標とする、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査方法(以下、「本発明の検査法」とも呼ぶ)を提供する。本発明の検査法は、腫瘍の治療効果や予後を簡便に検出する手段として有用である。
本発明の検査法によれば、腫瘍の治療効果、腫瘍の予後の予測を可能にする客観的情報が提供される。
【0023】
本発明の検査法により提供される情報(検査結果)は、細胞内の変化を直接的に反映したバイオマーカーという客観的な指標に基づくものであり、それ自体で腫瘍の治療効果の判定を行うことができる。但し、この情報は判定の補助資料として利用することができ、必要に応じてその他の指標も考慮して最終的な判断(典型的には確定診断)を行うことも可能である。
【0024】
本発明の検査法では、被検者由来の検体(生体試料)におけるバイオマーカーのレベルが指標として用いられる。この「レベル」は、典型的には量又は濃度を意味する。
本発明の一態様では、本発明の検査法は以下のステップ(a)及び(b)を行う。
(a)当該ウイルスの投与を受けた患者から採取された試料中の腫瘍溶解ウイルス由来成分の量を測定する工程
(b)測定結果に基づき、腫瘍の治療効果を予測し、又は腫瘍の予後を予測する工程
【0025】
ステップ(a)
ステップ(a)において、測定の対象となるバイオマーカーである腫瘍溶解ウイルス由来成分は、前記腫瘍溶解ウイルスの核酸(DNA、RNA)又はタンパク質であり、これらのレベルを定量する。但し、必ずしも当該レベルを厳密に定量する必要はない。すなわち、本発明において目的とする判定が可能となる程度にバイオマーカーのレベルを検出すればよい。例えば、検体中のバイオマーカーレベルが所定の基準値を超えるか否かが判別可能なように検出を行うこともできる。
【0026】
バイオマーカーの検出方法は特に限定されない。例えば、DNAやRNAを測定対象とする場合は、PCR法、シークエンス法等の核酸増幅方法や、ハイブリダイゼーション法などを採用することができ、タンパク質を測定対象とする場合は、ウエスタンブロッティング、免疫学的手法、質量分析法などを採用することができる。
【0027】
DNAやRNAを測定対象とする場合は、腫瘍溶解ウイルスにおいて特異的に有する又は発現することが知られている遺伝子を標的とすることができる。本発明において、腫瘍溶解ウイルスが例えばアデノウイルスの場合は、E1A、E1B、E2A、E2B、E3、ファイバー、ヘキソンなどの遺伝子が標的となる。組換え型の腫瘍溶解ウイルスの場合は、例えばhTERTプロモーター-E1A遺伝子-IRES配列-E1B遺伝子のコンストラクトを標的とする。
【0028】
ステップ(b)
ステップ(b)では、ステップ(a)の検出結果に基づき、腫瘍の治療効果や予後を判定する。
高精度の判定結果を得るために、ステップ(a)で得られた検出値を対照検体(コントロール)の検出値と比較した上で判定を行うとよい。コントロールとしては、例えば、健常者のバイオマーカーレベルを用いることができる。
【0029】
本発明の一態様では、本発明のバイオマーカーのレベルと腫瘍の治療効果には所定の相関を示す。例えば、腫瘍溶解ウイルスのDNAのコピー数が多くなればなるほど、腫瘍の大きさが小さくなるという負の相関関係を示す。従って、本発明のバイオマーカーの検出値が高いことが、腫瘍の治療効果が高く、予後も良いことの指標となる。
【0030】
ステップ(b)における判定は定性的、半定量的、定量的のいずれであってもよい。
判定に用いる基準値やカットオフ値は、例えば、使用する検体、要求される精度(信頼度)などを考慮しつつ適宜設定することができる。基準値やカットオフ値の設定にあたっては、多数の検体を用いた統計的解析を利用することができる。なお、ここでの判定は、その判断基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断に基づいてもよく、自動的に又は機械的に行うことができる。
【0031】
ここで、本発明において、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測は、腫瘍の抑制効果、すなわち抗腫瘍効果に基づくことができる。「腫瘍の抑制」とは、腫瘍の体積(大きさ)や腫瘍マーカーの変化で表され、腫瘍の増大を抑制すること、及び腫瘍の体積を縮小(減少)させること、腫瘍マーカーの増加を抑制すること、腫瘍マーカーを減少させることのいずれをも意味する。例えば、腫瘍の体積の増大を抑える態様として、腫瘍溶解ウイルス投与時に患者が有していた腫瘍の大きさと比較して、腫瘍溶解ウイルスを投与しなければ増加していた体積よりも低く抑えることが挙げられる。腫瘍の体積を縮小させる態様として、腫瘍溶解ウイルス投与時に患者が有していた腫瘍の大きさと比較して、腫瘍の大きさを縮小させることが挙げられる。この腫瘍の増大の抑制又は縮小には、腫瘍径の大きさや腫瘍細胞数の絶対量の減少を指標としてもよく、腫瘍溶解ウイルス投与前の腫瘍の大きさと比較したときの比率(縮小率)を指標としてもよく、さらには腫瘍マーカーの量の変化を指標としてもよい。
【0032】
腫瘍溶解ウイルス由来成分の量と腫瘍の治療効果とは相関関係を有することから、例えば治療効果を予測する例として、相関係数を利用した予測が挙げられる。例えば、腫瘍溶解ウイルス由来成分の量(発現量等)をx、抗腫瘍効果(腫瘍の縮小、大きさの減少、腫瘍の増殖抑制、腫瘍マーカーの減少等)をyとして、2次元座標にプロットしする。このプロットを複数の被検者(患者集団)について行うと、xy間での相関関係は、xとyの関数として直線で表される。従って、xの増加に伴い、yが減少すれば、負の相関を示すことになるので、一定のxの値とyの値でプロットされる点を境界として、治療効果の有無を判定すればよい。相関関係が負の相関を示す場合は、解析に使用された患者のうち、境界点よりも右側に存在するプロットに寄与した患者は、治療効果が良い、又は予後が良いと判断することができる。
【0033】
一旦、この相関関係が出された後は、これを母集団データとし、検査の対象となる個人又は集団のデータを母集団データに当てはめることができる。すなわち、予め規定された数の被験者集団(1次母標本)において統計解析処理を行い、腫瘍溶解ウイルス由来成分の量と腫瘍の抑制度との間の相関関係を調べ、その結果をデータベースに記憶させておく。そして、被験者である患者個人(一人)の検査又は判定を行う場合、上記複数の被験者由来のデータを母標本として、当該患者個人のデータが、データベースに記憶させておいた母標本のデータのどこに位置するか又は当てはまるかを調べることによって、当該患者個人に対する治療効果及び/又は予後を判定することができる。なお、上記患者個人のデータを母標本の値に組み込み、再度統計解析処理した後、当該患者個人が母標本のどこに位置するかを調べるようにしてもよい。
【0034】
また、腫瘍溶解ウイルス由来成分の任意の量を基準値として設定し、この基準値を指標として判定する。
例えば、基準値よりも検出値(バイオマーカーレベル)が高いときに「腫瘍の治療効果がある」「腫瘍の予後が良い」と判定し、基準値よりも測定値が低いときに「腫瘍の治療効果が少ない」、「予後が良くない」と判定する。
【0035】
また別の判定の例として、以下に示すように基準値a及びbを設けて検出値の範囲毎に治療効果や予後の良否の可能性(%)を予め設定しておき、検出値からその可能性(%)を判定することができる。
検出値>a:腫瘍の治療効果が得られる可能性は80%より大きい
a≧検出値>b:腫瘍の治療効果の可能性は20%~80%
b>検出値:腫瘍の治療効果の可能性は20%未満
この例では基準値a及びbを用いて3段階に区分したが、区分数は任意に設定できる。例えば区分数の例は2~10に設定できる。
【0036】
本発明の一態様では、同一の患者について、ある時点での検出値と、過去の検出値とを比較し、バイオマーカーのレベルの増減の有無及び/又は増減の程度を調べることも可能である。時期を異にして得られるバイオマーカーのレベル変化に関するデータは、治療効果又は予後を把握するために有用な情報となる。
【0037】
腫瘍溶解ウイルス由来成分から、腫瘍の治療効果又は腫瘍の抑制の予測可能な時期としては、腫瘍溶解ウイルス由来成分を採取した日と同日又1日後以降であれば特に制限はない。腫瘍の抑制の予測は、腫瘍溶解ウイルスを投与した後の転帰を予測するものであり、腫瘍溶解ウイルスによる治療効果又は腫瘍抑制効果が、2週後にどうなっているか、1か月後にどうなっているか、3か月後にどうなっているか、6か月後にどうなっているか、あるいは1年後や2年後にどうなっているかを予測するものである。
【0038】
腫瘍溶解ウイルス由来成分を測定した結果、治療効果があると予測された場合、その予測は、所定期間経過後(例えば2週後や1か月後)に効果を確認すればよい。そして、腫瘍溶解ウイルス由来成分の測定から所定期間経過後に効果を確認し、その後の治療方針を選択することができる。
本発明の一態様では、治療効果等を予測する時期は、腫瘍溶解ウイルス由来成分を採取した日と同日~20週後が好ましく、1日後~10週後がより好ましく、3日後~5週後がさらに好ましく、1週後~4週後がさらに好ましく、予測結果を早期に治療方針に反映させる点から1週後~3週後が特に好ましい。
【0039】
5.キット
本発明の別の態様では、腫瘍溶解ウイルス由来成分(例えば腫瘍溶解ウイルス由来DNA又はRNA)とハイブリダイズする核酸、腫瘍溶解ウイルス由来成分(例えば腫瘍溶解ウイルス由来DNA又はRNA)を増幅させるためのプライマー、若しくは腫瘍溶解ウイルス由来成分(例えばタンパク質)と結合する抗体、又はこれらの組み合わせを含む、腫瘍の治療効果予測及び/又は予後予測の検査用キットを提供する。
腫瘍溶解ウイルス由来成分を検出するために、腫瘍溶解ウイルスにおいて特異的に有する又は発現することが知られている遺伝子を標的とすることができる。本発明において、腫瘍溶解ウイルスが例えばアデノウイルスの場合は、E1A、E1B、E2A、E2B、E3、ファイバー、ヘキソンなどの遺伝子が標的となる。組換え型の腫瘍溶解ウイルスの場合は、例えばhTERTプロモーター-E1A遺伝子-IRES配列-E1B遺伝子のコンストラクトを標的とする。
【0040】
本発明においては、上記遺伝子(核酸配列)を鋳型として、それぞれの遺伝子に特異的なプライマーを設計し、PCR装置を用いてその遺伝子配列を増幅するPCR法を用いた遺伝子増幅法を用いることができる。これらの遺伝子の塩基配列は公知であるから、その塩基配列をもとにプライマー配列を設計及び合成する。プライマー配列の長さは、例えば15~30塩基程度である。また、上記遺伝子にハイブリダイズする核酸(プローブ)を設計することもできる。標的配列は、例えばhTERTプロモーター、E1A遺伝子、IRES配列、E1B遺伝子などである。これらの遺伝子の塩基配列をもとに、プローブ配列を設計及び合成する。プローブ配列の長さは、例えば15~50塩基程度である。
従って、本発明のキットには、上記プライマー配列、プローブ配列、標識物質(GFP、EGFP等)などを含めることができる。
【0041】
また本発明においては、上記遺伝子発現により得られるタンパク質を標的とすることができる。その場合に本発明のキットには、例えばE1Aタンパク質やE1Bタンパク質に対する抗体を含めることができる。
これらの抗体は遺伝子工学的発現により、容易に入手することができる(Moleculer cloning 4th Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))。
腫瘍溶解ウイルス由来成分の検出には、腫瘍溶解ウイルス由来成分のDNAやmRNAを、in situ ハイブリダイゼーション、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応、核酸ハイブリダイゼーション、電気泳動、ノーザンブロッティング等により検出する。
【0042】
腫瘍溶解ウイルス由来成分の検出のために抗体を使用する場合は、ウェスタンブロットや、ELISAにより検出する。
さらに、本発明のキットには、エクソソーム単離用試薬を含めることができ、さらに緩衝液、酵素液、二次抗体、希釈用溶液、使用説明書などを含めることもできる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0044】
[実施例1] エクソソームの回収
エクソソームの回収方法の例(概要)を図1に示す。
腫瘍溶解ウイルスに感染した細胞から放出されるエクソソーム(sEVという)の性質を調べるために、感染細胞から放出されるsEVを回収し、電子顕微鏡での観察、ゼータサイザー、ウエスタンブロッティング(WB)、及びPCRを行った。対照として非感染細胞を用いた。
【0045】
(1) 細胞へのウイルス感染
先ず、1,000万個の各種癌細胞を、FBSが添加された培地とともに175T培養皿に散布した。HCT116細胞(ヒト大腸癌細胞株)はMcCoy‘s培地(Thermo Fisher社)で培養した。SW480(ヒト結腸癌細胞株)はDMEM培地(FUJIFILM社)で培養した。HT29(ヒト結腸癌細胞株)はMcCoy‘s培地(Thermo Fisher社)で培養した。RKO(ヒト結腸癌細胞株)はMEM培地(FUJIFILM社)で培養した。Pan02細胞(マウス膵がん培養細胞株)はRPMI培地(FUJIFILM社)で培養した。
癌細胞をまいてから24時間後にOBP-301又はOBP-502で感染させた。ウイルスは、HCT116細胞、SW480、HT29、RKOに対してOBP-301(50MOI)を感染させ、Pan02細胞に対してOBP-502(500MOI)を感染させた。ウイルス添加後に細胞内に取り込まれていないウイルスを除去するため、24時間後にFBS不含の培地に交換して、その48時間後に上清を回収した。
ウイルス非感染細胞は、各種癌細胞(1000×104細胞/皿)をまいてから24時間後にFBS不含の培地に交換して、その48時間後に上清を回収した。
【0046】
(2) sEVの回収
sEVの回収は超遠心法で行った。すなわち、回収した上清を4℃、2000g、10分で遠心後、上清を回収し、0.22μmフィルターを通した後に、4℃、100,000g、70分で超遠心し、上清を破棄した。回収したペレットにPBSを加え、4℃、100,000g、70分で再度超遠心し、上清を破棄し、沈殿したペレットをPBSで溶解し、これをエクソソームとした。
【0047】
回収したsEVの顕微鏡写真を図2に示す。図2は、HCT細胞にOBP-301を、Pan02細胞にOBP-502を感染させたときのsEVの写真である。どちらの細胞も、ウイルスがsEVの中に含まれていることが確認できた。
(3) ゼータサイザー測定
得られたエクソソームの大きさを、ゼータサイザー(Malvern Panalytical社製)にて測定した結果を図3に示す。
図3より、いずれも50-150nm前後のエクソソームを回収できたことが示された。
【0048】
(4) ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティング(WB)では、sEV中のE1Aタンパク質の検出を目的として、以下の通り実験を行った。
各感染細胞から回収したsEVについて同量のタンパクをSDS-PAGEに供した。
続いて、抗E1a抗体(BD Pharmingen)を用いタンパク質を検出した。
その結果、感染細胞から回収したsEVにおいてE1Aの発現が確認された(図4)。また、発明者らの予備実験により、OBP-301による治療効果(細胞殺傷効果)は、HCT116 > SW480,HT29 > RKOの順に高いことが確認されており、ヒトのセルラインではOBP-301の治療効果が強い細胞ほど、sEV中のE1Aが多いことが確認できた。
【0049】
(5) PCR
PCR実験は、sEV中のE1A遺伝子の検出を目的として、以下の通り実験を行った。
各感染細胞から回収したsEVについてDNAを抽出し、同量のDNAをPCRに供した。
PCR試薬:カスタムTaqMan MGBプローブ(Applied Biosystems 社より入手)
テンプレート配列:5’ - FAM - CTGTGTCTAGAGAATGC - MGB - 3’(配列番号1)
フォワードプライマー配列:5’ - CCTGAGACGCCCGACATC - 3’(配列番号2)
リバースプライマー配列:5’ - GGACCGGAGTCACAGCTATCC - 3’(配列番号3)
サイクル条件:95℃を20分、60℃を20秒サイクルを1サイクルとしてこれを40サイクル
【0050】
(6)細胞障害活性
細胞障害活性は、XTT (2,3-bis [2- Methoxy- 4-nitro- 5-sulfophenyl ]- 2H- tetrazolium- 5-carboxy anilide inner salt)アッセイにより測定した。XTTアッセイは生細胞中のミトコンドリアの脱水素酵素により生存細胞の活性を測定することを基本原理としており、in vitroにおける細胞毒性をモニターするのに適した方法である。XTTアッセイは当分野で公知である。
【0051】
結果を図5図6に示す。細胞障害活性、及び上清sEV中のE1A DNA量は経時的に上昇しており、細胞障害活性が高い細胞において、より上清sEV中のE1A DNAが高値となっていた。従って、細胞障害活性と上清sEV中のE1A DNA量との間で相関を有することが確認できた。なお、図5及び図6において、ECは、ExoCap(JSR社、登録商標)を使用して回収したエクソソームを示している。
【0052】
[実施例2] 皮下腫瘍マウスモデルを用いた実験
本実施例では、皮下腫瘍マウスモデルを用いて、ウイルス投与後0~7日後の血清から単離したエクソソームのE1A量を測定した。
実験手法の概要を図7に示す。
1.0×106個のHCT116及び5.0×106個のRKOをそれぞれBALB/c-nu/nuマウスに皮下投与した後、5~7日飼育して皮下腫瘍モデルマウスを作製した。これらの腫瘍モデルマウスにOBP-301を1.0×108 PFUの量で投与した。0~7日後に血清を採取し、エクソソームを単離後、エクソソームに含有されるウイルスゲノム中のE1A量を測定するためにPCRを行った。エクソソームの単離は、実施例1においてエクソソームを単離する前の試料を培地から血清に変更した以外は同じ条件で実験を行った。PCRは、実施例1に記載の条件と同じ条件で行った。回収したsEVについてDNAを抽出し、同量のDNAをPCRに供した。
【0053】
その結果、HCT116を投与した腫瘍モデルマウスにおいて、治療効果が得られた。また、治療効果の低いRKOと比較しても明らかにE1A DNA量が高く、E1A DNA量は細胞の治療効果に依存することが示された(図7)。
【0054】
本発明者は、同じ細胞株でも個体間で治療効果の違いがある可能性があると考え、HCTの皮下腫瘍モデルマウスをOBP-301(1回投与)で治療しライブモニタリングを行った(図8)。治療後2,7,14日目のタイミングで採血をし、血清sEVを回収し、E1A DNAを測定した。治療後28日目の腫瘍体積を、最終腫瘍体積として評価を行った。腫瘍体積は、腫瘍の長径をa、短径をbとし、腫瘍体積(mm3)=a×b2×0.5として計算した。
その結果、最終腫瘍体積とday2のE1A DNAとの間に負の相関を有することが示された(図8)。
【0055】
次に、野生型5型アデノウイルス(Ad-WT)で免疫後の皮下腫瘍モデルをウイルスで治療したときのE1Aの発現を検討した。
先ず、C57BL/6Jマウスに野生型5型アデノウイルス(Ad-WT)を1.0×108PFU i.s.で投与し、ワクチネーションを行った。Ad-WTの投与は週1回行い、これを2回繰り返した。
その後、Pan02を皮下投与して皮下腫瘍モデルを作製し、OBP-502を腫瘍内投与した(1.0×10PFU)。
OBP-502投与後1、2、3、5、及び7日目に血液を回収し、血清と血清から回収したsEV中のE1A DNA量を測定しDNAの検出感度を比較した。また、治療後2,7,14日目のタイミングで採血をし、sEVのE1Aと最終腫瘍体積との相関を検討した 。
【0056】
その結果、腫瘍溶解ウイルスの中和抗体を有するマウスにおいても、血清sEV中のE1A DNAが検出されることが確認された。
また、血清においては検出困難であったE1A DNAがsEVでは感度が上昇し、2、3日目ではE1A DNAが有意に上昇していることが示された(図9)。
また、個体間で治療効果の違いと血清sEV中のE1A DNAを比較する実験を行ったところ、HCT116と同様に、Pan02の最終腫瘍体積とday2のE1A DNAとの間に負の相関を有することが示された(図10)。
上記のことから、エクソソームに含まれるウイルスの量が、腫瘍の治療効果と相関し、ウイルス量は腫瘍の治療効果の予測に有効であると言える。
【0057】
次に、同じタイミングで採取した腫瘍内のE1A DNAと、血清sEV中のE1A DNAに相関があると予想し、以下の実験を行った。
すなわち、血清野生型5型アデノウイルス(Ad-WT)で免疫後の皮下腫瘍モデルをOBP-502で治療し、治療後2日目の腫瘍内のE1A DNAと2日目の血清sEV中のE1A DNAについてそれぞれPCR実験を行った。腫瘍内のE1A DNAは、腫瘍からDNAを抽出後、同量のDNAをPCRに供した。血清sEV中のE1A DNAは、血清から回収したsEVについてDNAを抽出し、同量のDNAをPCRに供した。
その結果、血清sEVと腫瘍内のE1A-DNAに相関があることが確認された(図11)。
【配列表フリーテキスト】
【0058】
配列番号1~3:合成DNA
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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