(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033070
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】異性体調製装置
(51)【国際特許分類】
C07B 57/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C07B57/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136453
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】723014807
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】金丸 国夫
(72)【発明者】
【氏名】小田 祐司
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA04
4H006AC83
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能であり、外部に照射光が漏れることを抑えることが可能な異性体調製装置を提供する。
【解決手段】異性体混合物の一方の異性体を選択的に調製する異性体調製装置であって、光照射部20は、他方の異性体が流通する流路24と、流路24に沿って配置される光源21と、流路24と光源21とを収容可能な筐体と、筐体に収容され、流路24と光源21とを取り囲むように配置された楕円ミラー25と、を含み、流路24は、光源21に対向する位置に配置され、楕円ミラー25の2つの焦点を結ぶ長軸上において、光源25に対する流路24の最遠部が一の焦点に位置するように配置され、光源21は、楕円ミラー25の2つの焦点を結ぶ長軸上において、他の焦点よりも流路に近い位置に配置される異性体調製装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異性体混合物の一方の異性体を選択的に調製する異性体調製装置であって、
前記異性体混合物を前記一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、
前記分割部により分割された他方の異性体に光異性化を誘起する光を照射可能に構成された光照射部と、を有し、
前記分割部は、前記光照射部により光異性化された異性体混合物を前記一方の異性体と前記他方の異性体とに分割し、
前記光照射部は、前記他方の異性体が流通する流路と、前記流路に沿って配置される光源と、前記流路と前記光源とを収容可能な筐体と、前記筐体に収容され、前記流路と前記光源とを取り囲むように配置された楕円ミラーと、を含み、
前記流路は、前記光源に対向する位置に配置され、前記楕円ミラーの2つの焦点を結ぶ長軸上において、前記光源に対する前記流路の最遠部が一の前記焦点に位置するように配置され、
前記光源は、前記楕円ミラーの2つの前記焦点を結ぶ長軸上において、他の前記焦点よりも前記流路に近い位置に配置される異性体調製装置。
【請求項2】
前記光源は、前記楕円ミラーの2つの前記焦点を結ぶ長軸上において、前記他の焦点から前記一の焦点の方へ4mm以上8mm以下の範囲内で、前記他の焦点よりも前記流路に近い位置に配置される請求項1に記載の異性体調製装置。
【請求項3】
前記筐体には、スリットが形成され、前記筐体の内部に設けられたヒートシンク及び前記楕円ミラーの内部と外部とを連通する冷却流路が形成される請求項1に記載の異性体調製装置。
【請求項4】
前記流路は円筒形状の管部材により構成され、
前記管部材の外径は、12mm以上20mm以下である請求項1に記載の異性体調製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異性体調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異性体同士は、それぞれ異なる性質を有することが知られている。例えば、スルホキシド基の硫黄原子を不斉中心としたスルホキシド化合物のエナンチオマーは、プロトンポンプ阻害薬として知られている。これらのスルホキシド化合物は、スルホキシド基の硫黄原子に不斉中心を有し、この不斉中心の立体配置に基づき、S体及びR体のエナンチオマーが存在する。
【0003】
上述したスルホキシド化合物は、エナンチオマー間で薬物動態等が異なることが知られている。例えば、オメプラゾールのS体であるエソメプラゾールは、ラセミ体であるオメプラゾールに比べて、薬物動態及び薬理作用の個体間変動が小さいことが知られている。また、ランソプラゾールのR体であるデクスランソプラゾールは、ラセミ体であるランソプラゾールに比べて、薬物代謝酵素に対する安定性や薬物動態に優れていることが知られている。
【0004】
このような背景から、ラセミ体であるスルホキシド化合物から所望のエナンチオマーを効率的に得る方法が種々提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
しかし、ラセミ体であるスルホキシド化合物は、S体及びR体の等量混合物であるため、特許文献1~3に記載されている方法では、最大でも収率50%でしか所望のエナンチオマーを得ることができず、残りのエナンチオマーが無駄になっていた。
【0006】
一方、光学活性なスルホキシド化合物は、光照射によってラセミ化(光異性化)することが報告されている。しかし、ラセミ化に必要な光を照射する照射光の制御は困難であり、外部に照射光が漏れることによるエネルギーロスや安全上の課題があった。
【0007】
また、楕円形の反射面で取り囲み光を照射する構成が知られている(例えば、特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009-502906号公報
【特許文献2】特表2009-542624号公報
【特許文献3】特表平7-509499号公報
【特許文献4】特表2015-501271号公報
【特許文献5】特開2018-39684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能であり、外部に照射光が漏れることを抑えることが可能な異性体調製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0011】
<1> 異性体混合物の一方の異性体を選択的に調製する異性体調製装置であって、
前記異性体混合物を前記一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、
前記分割部により分割された他方の異性体に光異性化を誘起する光を照射可能に構成された光照射部と、を有し、
前記分割部は、前記光照射部により光異性化された異性体混合物を前記一方の異性体と前記他方の異性体とに分割し、
前記光照射部は、前記他方の異性体が流通する流路と、前記流路に沿って配置される光源と、前記流路と前記光源とを収容可能な筐体と、前記筐体に収容され、前記流路と前記光源とを取り囲むように配置された楕円ミラーと、を含み、
前記流路は、前記光源に対向する位置に配置され、前記楕円ミラーの2つの焦点を結ぶ長軸上において、前記光源に対する前記流路の最遠部が一の前記焦点に位置するように配置され、
前記光源は、前記楕円ミラーの2つの焦点を結ぶ長軸上において、他の前記焦点よりも前記流路に近い位置に配置される異性体調製装置。
【0012】
<2> 前記光源は、前記楕円ミラーの2つの焦点を結ぶ長軸上において、前記他の前記焦点から前記一の前記焦点の方へ4mm以上8mm以下の範囲内で、前記他の前記焦点よりも前記流路に近い位置に配置される<1>に記載の異性体調製装置。
【0013】
<3> 前記筐体には、スリットが形成され、前記筐体の内部に設けられたヒートシンク及び前記楕円ミラーの内部と外部とを連通する冷却流路が形成される<1>に記載の異性体調製装置。
【0014】
<4> 前記流路は円筒形状の管部材により構成され、
前記管部材の外径は、12mm以上20mm以下である<1>に記載の異性体調製装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能であり、外部に照射光が漏れることを抑えることが可能な異性体調製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る異性体調製装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る光照射部の蓋部を取り外した様子を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る光照射部を示す断面図である。
【
図4】本実施形態に係る光照射部を示す分解斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る光照射部の基板取付部材及びヒートシンクを示す斜視図である。
【
図6】光照射部の光源の位置を変えた場合の照度分布についてのシミュレーション解析結果を示す図である。
【
図7】光照射部の光源の位置を変えた場合の紫外線照度についてのシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図8】光照射部の光源の位置を変えた場合の照度の均斉度についてのシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図9】光照射部の流路を構成する管部材の位置を変えた場合の照度分布についてのシミュレーション解析結果を示す図である。
【
図10】光照射部の流路を構成する管部材の位置を変えた場合の紫外線照度についてのシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図11】光照射部の流路を構成する管部材の位置を変えた場合の照度の均斉度についてのシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図12】光照射部の流路を構成する管部材の径を変えた場合の照度分布についてのシミュレーション解析結果を示す図である。
【
図13】光照射部の流路を構成する管部材の径を変えた場合の紫外線照度についてのシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図14】光照射部の流路を構成する管部材の径を変えた場合の照度の均斉度についてのシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る異性体調製装置は、エナンチオマー等の異性体混合物を一方の異性体と他方の異性体とに分割する分割部と、分割部にて得られた他方の異性体に光を照射し、該異性体を光異性化する光照射部と、を備える。
【0018】
<異性体調製装置>
本実施形態に係る異性体調製装置の概略構成の一例を
図1に示す。
図1に示すとおり、異性体調製装置1は、分割部10と、光照射部20と、を備える。
【0019】
(光照射部)
光照射部20は、分割部10にて得られた他方の異性体に光を照射し、該異性体を光異性化する。光照射部20にて得られた異性体混合物は、再度分割部10に送られる。このように、異性体調製装置1によれば、分割部10及び光照射部20において分割及び光異性化を繰り返すことで、所望の異性体の収率を大幅に向上させることができる。
【0020】
本実施形態に係る光照射部20は、
図3、
図4等に示すように、光源21と、基板22と、筐体23と、他方の異性体が流通する流路である流路24と、楕円ミラー25と、センサSと、を有する。光照射部20は、流路24を構成する管部材241の両端部に、管部材241を支持する支持部材242を有している。
【0021】
[光源]
光源21は、流路24を流通する他方の異性体に対し、光異性化に必要な波長の光(例えば、波長200nm~450nmの光、好ましくは波長365nm~405nmの光)を照射する。光源21としては、特に制限されない。光源の具体例としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、LEDランプ光源、レーザ、有機EL等が挙げられる。本実施形態においては、例えば、LEDランプ光源が用いられ、LEDランプ光源としては、狭い空間への実装の利便性及び、広角に照射可能であることから、SMD(Surface Mount Device)が好ましく適用できる。なお、光源と他方の異性体との間に光源からの光を吸収、若しくは拡散する材料、又は光源からの光の波長を変化させる材料が介在している場合には、光の吸収、若しくは拡散、又は光の波長の変化を考慮した上で、光を照射することが好ましい。
【0022】
光源21は、
図4に示すように、長方形状の基板22に、流路24の中心軸C方向に沿って複数(本実施形態では、1つの基板22について6個で、2つの基板22に計12個)、均等間隔で一直線状に一列に並べられる。これにより、光源21から流路24に対して照射される光の光量を容易に制御できる。前記制御は、以下に示すように光源21に対する入力電流を変化させ、光源21から照射される光の放射照度を制御することにより行うことができる。
【0023】
[基板]
基板22は、一対設けられ、流路24の中心軸C方向に沿って複数並べられる光源21を支持する。基板22は例えばアルミニウム基板であり、筐体23に固定される基板取付部材26に支持される。光源21、基板22、基板取付部材26、及び筐体23は熱的に接続されており、光源21から発せられた熱は、基板22及び基板取付部材26を介して筐体23に伝熱される。
【0024】
[筐体]
筐体23は、光源21と流路24を収容可能に構成される。筐体23は、内部に流路24が挿通可能な空間が形成された中空の四角柱状の筒状部材であり、当該四角柱状の筒状部材の一つの側面を構成する蓋部232が、当該四角柱状の筒状部材の他の部分である箱状の本体部231に対して着脱可能に構成される。筐体23の内面側には、光源21及び基板22が固定されて配置される。流路24の中心軸C方向から視た、筐体23の断面形状は、特に制限されず、円、楕円、多角形等から適宜選択することができる。筐体23の素材は特に限定されず、筐体23から外部への光の漏洩を防止できるものであればよいが、筐体23は、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属材料により構成されることが好ましい。これにより、基板22を介して伝達される熱を外部に効率よく放熱できる。
【0025】
筐体23の長手方向における端面には、
図4に示すように、筐体23の内部と外部とを連通する貫通孔であるスリット233が形成されている。スリット233には、テープ状のシールに多数の毛が設けられた図示しない隙間ブラシシールが、スリット233に沿って設けられており、筐体23内で照射される光源21からの光の外部への漏洩が防止されるように構成されており、光が人体に有害な波長を有する場合であっても、安全に異性体調製装置1を使用できる。
【0026】
これにより、筐体23の内部と外部とを連通する冷却流路が形成され、後述の楕円ミラー25の内部とヒートシンク265からの熱等の筐体23の内部の熱を、スリット236を通して筐体23の外部へ放出することが可能となる。また、筐体23の長手方向における端面には、筐体23の内部へ筐体23の外部の空気を排気する空冷ファン234が設けられている。空冷ファン234が設けられている筐体23の長手方向における一方の端面に対向する他方の端面には、筐体23の内部へ外部の空気を流入する吸気口237が形成されている。
更に放熱の効率を上げるために、筐体23にヒートシンク、水冷機構を追加してもよい。
【0027】
筐体23の内部には、
図2に示すように、仕切り壁235が設けられている。仕切り壁235には、スリット233と平行の位置関係を有するスリット236が形成されている。スリット236には、支持部材242が固定され、これにより、管部材241が仕切り壁235に支持されて固定されている。
【0028】
[楕円ミラー]
楕円ミラー25は、
図3に示すように、長手方向に直交する断面形状が、長軸Xの長さが80mm、短軸の長さが60mmの楕円形状を有する筒形状に形成されたミラー部251を有しており、筐体23の内部に収納される。ミラー部251の長軸Xの一端側の部分は塞がれており、他端側の部分は、ミラー部251の長手方向における一端から他端に至るまで開口部が形成されている。開口部の両端には、板状の被固定部252が、それぞれ開口部の両端に沿って一体的に形成されて接続されている。被固定部252は、当該開口部から光源21及び基板22がミラー部251の内部へ挿入された状態で、基板取付部材26に固定される。基板取付部材26に固定されている被固定部252の一方の面に対する反対の面には、当該反対の面に直交して延びる支持柱状部253が設けられている。支持柱状部253の先端部は、四角柱状の筐体23において蓋部232に対向する位置関係を有する本体部231の側面部の内面に当接する。
【0029】
[基板取付部材]
基板取付部材26は、
図3~
図5に示すように、Z形状に折り曲げられた、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属材料により構成される板状の部材であり、基板固定部261と、中央部262と、本体部固定部263とを有している。本体部固定部263は、筐体23の本体部231に固定される。中央部262と直角の角度をなして折り曲げられている基板固定部261の一方側の面には、基板22と、楕円ミラー25の被固定部252とが固定されている。基板固定部261の一方側の面に対する裏側の面である他方側の面には、
図3、
図5に示すように、アルミニウム等の熱伝導率の高い金属材料により構成される複数枚の長方形の板状のヒートシンク265が設けられている。複数枚の長方形の板状のヒートシンク265の隙間は、スリット236により形成される、筐体23の内部と外部とを連通する冷却流路の一部を構成する。
【0030】
[流路]
流路24は、分割部10にて得られた他方の異性体が流通する流路である。流路24は光透過性を有していればよく、材質は特に制限されない。本実施形態では、流路24は円筒形状のガラス製の管部材241により構成される。管部材241の外径(直径)は、12mm以上20mm以下である。管部材241の外径を12mm以上としたのは、12mm未満では、十分な流路の断面積を確保できないためである。管部材241の外径を20mm以下としたのは、20mmを超えると、管部材241自体が光源21からの光を多く阻害することとなるためである。即ち、管部材241の外径(直径)は、12mm以上20mm以下であることで、管部材241の断面積及び表面積を確保して管部材241の流量を確保でき、且つ、管部材241自体が光源21からの光を阻害しないようにすることが可能となる。
【0031】
流路24には、光増感剤が存在することが好ましい。光増感剤の存在下で他方の異性体に光を照射することにより、光異性化の効率をより高めることが可能となる。光増感剤を流路24に存在させる方法としては、例えば、シリカゲル等の担体に光増感剤を固定化させた固相光増感剤を作成し、流路24に充填する方法が挙げられる。光増感剤を担体に固定化させる方法としては、特に限定されず、担体にイオン結合させる方法や共有結合させる方法等が挙げられる。固相光増感剤は、本実施形態において、流路24の中心軸C方向に沿った長さ40mmの光源21の設置範囲内に充填される。担体に光増感剤が固定されることにより、光照射部20により得られる異性体混合物と光増感剤とを分離することが容易となる。担体に光増感剤を固定化する固定化方法は特に制限されず、共有結合であってもイオン結合であってもよい。
【0032】
[センサ]
センサSは、流路24の表面の温度及び放射照度のうち、少なくとも何れかを検出可能である。センサSにより検出された温度及び放射照度に基づき、流路24内の温度及び放射照度を、流路24を構成する材質や壁厚さ等から推定できる。センサSにより検出された温度及び放射照度のうち、少なくとも何れかを元に、光源21から照射される光の光量がフィードバック制御されることが好ましい。これにより、異性体等の流路24内に存在する化合物が熱分解すること、及び他方の異性体が溶解される溶媒が沸点を超過することを防止できる。また、必要最低限のエネルギーで異性体調製装置1を稼働させることができる。センサSとしては、特に制限されず、公知の温度センサ及び照度センサを用いることができる。温度センサとしては、例えば、熱電対温度計、サーミスタ、放射温度計等を用いることができる。照度センサとしては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトコンダクタ等を用いた照度センサを用いることができる。センサSの配置される箇所は、基板22の長手方向における端部であるが、流路24の表面の温度又は放射照度を検出可能であれば特に制限されない。例えば、流路24の表面にセンサSを配置し、直接流路24の表面の温度又は放射照度を測定してもよいし、流路24の表面以外の箇所に遠隔で温度を測定可能なセンサSを配置し、流路24の温度を遠隔で測定してもよい。上記以外に、流路24の表面以外の箇所にセンサSを設置し、事前に測定値と流路24の表面の温度又は放射照度との相関性を求めておき、測定値から流路24の表面の温度又は放射照度を算出してもよい。
【0033】
センサSとして温度センサを用いる場合、センサSにより検出される流路24の表面温度が所定の閾値を超えないよう、光源21から照射される光の光量をフィードバック制御することができる。上記温度センサを用いたフィードバック制御以外に、流路24の表面の温度が所定の閾値を超えないようにするため、光源21に対する入力電流及び照射時間を制御することも考えられる。
【0034】
センサSとして照度センサを用いる場合、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光が照射されるよう、光源21から照射される光の放射照度をフィードバック制御することができる。なお、上記光異性化に必要な最低限の放射照度は、流路24の光が照射される箇所の容積と、流路24を流通する他方の異性体の流速(ml/s)から、光が照射される箇所を他方の異性体が通過するのに要する時間(s)を求め、事前に求めておいた照射時間と所望の異性化度を得るために必要な放射照度との相関性から算出することができる。実際に他方の異性体に照射される光の放射照度である、流路24内に対して照射される光の放射照度は、光源21から照射される光の、流路24の材質及び壁厚さに対する透過率から算出することができる。また、センサSとして照度センサを用いない場合であっても、光源21に対する入力電流を制御することで、光源21から照射される光の放射照度を制御し、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光が照射されるような制御を行ってもよい。
【0035】
上記流路24の表面の温度が所定の閾値を超えないようにする制御及び、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光を照射する制御を共に行うことも考えられる。例えば、上記流路24の表面の温度が所定の閾値を超えない範囲内で、他方の異性体の光異性化に必要な最低限の放射照度の光を照射するような制御を行うことができる。これにより、光源21から照射される光の光量を最適化することができる。
【0036】
[楕円ミラーに対する光源及び流路の配置]
楕円ミラー25のミラー部251は、
図3に示すように、流路24を構成する管部材241と、光源21、及び、光源21が設けられている基板22と、を取り囲むように配置される。具体的には、管部材241と光源21とは、ミラー部251の鏡面により構成される楕円形状の内周面により取り囲まれる空間において、楕円形状の長軸X上において互いに対向し合う位置に配置されている。
【0037】
このような構成とすることにより、鏡面により構成される楕円形状の内周面によって、様々な方向へ向かって照射される光源21からの光を、管部材241に対して集中させることが可能となる。このため、管部材241の全周面から管部材241の中心軸Cへ向かって光を照射するために、例えば、管部材を取り囲む複数の光源から、管部材に向かって光を照射するような構成とする必要がなくなり、1列に配置された光源21により光照射部20を構成して、異性体混合物から所望の異性体を高収率に得ることが可能となる。この結果、基板22に1列に配置された光源21を、基板22ごと交換することで、異なる波長の光を照射する光源21が設けられた基板22に容易に交換することが可能となる。また、光源21による発熱に対する冷却の構成を簡単な構成とすることが可能となる。また、光照射部20全体の構成を簡単にして小型化することが可能となる。
【0038】
ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部、即ち、管部材241の周面において、光源21から最も離れた位置にある部分は、楕円形状のミラー部251の内周面の2つの焦点を結ぶ長軸X上であって、当該2つの焦点のうちの一の焦点F1に位置するように配置される。従って、管部材241の中心軸Cは、楕円形状のミラー部251の焦点F1に一致していない位置に配置される。
【0039】
光源21は、楕円形状のミラー部251の内周面の2つの焦点を結ぶ長軸X上であって、当該2つの焦点のうちの他の焦点F2よりも管部材241に近い位置に配置される。従って、光源21は、当該2つの焦点のうちの他の焦点F2に一致していない位置に配置される。このように管部材241及び光源21を配置させることにより、管部材241表面に照射される紫外線照度について、十分に高い値を得ることが可能となり、また、管部材241表面に照射される照度の均斉度について、十分に高い値を得ることが可能となる。
【0040】
より具体的には、光源21は、長軸X上において他の焦点F2よりも、4mm以上8mm以下の範囲内で、管部材241に近い位置に配置される。4mm以上としたのは、4mm未満では、管部材241表面に照射される紫外線照度について、十分に高い値を得ることができないためである。8mm以下としたのは、8mmを超えると、管部材241表面に照射される照度の均斉度について、十分に高い値を得ることができないためである。即ち、光源21が、他の焦点F2よりも、4mm以上8mm以下の範囲内で、管部材241に近い位置に配置されることで、管部材241表面に照射される紫外線照度について、十分に高い値を得ることが可能となり、且つ、管部材241表面に照射される照度の均斉度について、十分に高い値を得ることが可能となる。即ち、管部材241表面に対して、光源21から均等で効率的な照射を行うことが可能となる。
【0041】
<光源の位置についてのシミュレーション解析>
上記異性体調製装置1の効果を確認するために、楕円ミラー25における光源21の位置を変えた場合のシミュレーション解析を行った。シミュレーション解析においては、照明設計解析ソフトウェア「LightTools」を用いて、光源21の位置を様々に変えて、光源21から光を照射した。また、実際に管部材241の周面の全面に、光に感応(光量に応じて色の濃さが変化)するフィルムである長方形状のUVスケール(富士フィルム製)を張り付けて、各条件での色の濃さの変化を調べ、シミュレーション解析の結果が正しい事を確認している。
【0042】
シミュレーション解析においては、楕円ミラー25のミラー部251の一の焦点F1に、外形が12mmの管部材241の中心軸Cが一致するように管部材241を配置し、他の焦点F2に光源21が一致するように、光源21を配置したものを
図6におけるA-1とした。また、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように管部材241を配置し、他の焦点F2に光源21が一致するように光源21を配置したものを、
図6におけるA-2とした。また、管部材241をA-2と同一の位置に配置し、光源21をA-2よりも長軸X上において4mm管部材241に近づけたものを、
図6におけるA-3とした。また、管部材241をA-2と同一の位置に配置し、光源21をA-2よりも長軸X上において8mm管部材241に近づけたものを、
図6におけるA-4とした。また、管部材241をA-2と同一の位置に配置し、光源21をA-2よりも長軸X上において12mm管部材241に近づけたものを、
図6におけるA-5とした。また、管部材241をA-2と同一の位置に配置し、光源21をA-2よりも長軸X上において16mm管部材241に近づけたものを、
図6におけるA-6とした。A-3~A-4は本発明品であり、A-1~A-2、A-5~A6は比較品である。シミュレーション解析結果は、
図6、
図7、
図8に示すとおりである。
【0043】
図7、
図8に示すように、A-3(
図7における破線で囲まれたもの)、A-4(
図8における破線で囲まれたもの)では、管部材241表面に照射される紫外線照度について、十分に高い値を得ることができていることが分かり、また、管部材241表面に照射される照度の均斉度について、十分に高い値を得ることができていることが分かる。これに対して、他のものは、紫外線照度の値、照度の均斉度の値のいずれかにおいて、十分に高い値を得ることができていないことが分かる。
【0044】
また、
図6における「カラム表面の照度分布」に示すように、A-3、A-4では、光源21に対向する位置である中央部では、黒に近い色の部分が広がっており照度が高いが、それ以外の位置では、ほぼ均一の照度であることが分かる。これに対して、他のものは、照度分布にばらつきが生じている。例えば、A-1、A-2では、照度が低い部分を示す白に近い色の部分が広がっており、部分的に照度が極端に低い部分が生じていることが分かる。また、A-5、A-6では、部分的に照度が極端に高い部分が増えていることが分かる。
【0045】
以上より、管部材241の中心軸Cが焦点F1に一致しているA-1よりも、焦点F1に一致していないA-2~A-6のうちの、光源21の位置が、焦点F2から、4mm以上8mm以下の範囲内でF1に近付いた位置にある本発明品であるA-3、A-4では、良好な結果を得ることができていることが分かる。
【0046】
<管部材の位置についてのシミュレーション解析>
また、楕円ミラー25における管部材241の位置を変えた場合に、照度がどのように変化するかについてシミュレーション解析を行った。シミュレーション解析においては、照明設計解析ソフトウェア「LightTools」を用いて、管部材241の位置を様々に変えて、光源21から光を照射した。
【0047】
シミュレーション解析においては、楕円ミラー25のミラー部251の一の焦点F1に、外形が12mmの管部材241の中心軸Cが一致するように管部材241を配置し、他の焦点F2に光源21が一致するように、光源21を配置したものを
図9におけるB-1とした。また、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように、管部材241を配置し、他の焦点F2に光源21が一致するように、光源21を配置したものを、
図9におけるB-2とした。また、光源21をB-1、B-2と同一の位置に配置し、管部材241をB-1よりも長軸X上において10mm光源21に近づけたものを、
図9におけるB-3とした。また、光源21をB-1、B-2と同一の位置に配置し、管部材241をB-1よりも長軸X上において14mm光源21に近づけたものを、
図9におけるB-4とした。また、光源21をB-1、B-2と同一の位置に配置し、管部材241をB-1よりも長軸X上において18mm光源21に近づけたものを、
図9におけるB-5とした。また、光源21をB-1、B-2と同一の位置に配置し、管部材241をB-1よりも長軸X上において22mm光源21に近づけたものを、
図9におけるB-6とした。また、光源21をB-1、B-2と同一の位置に配置し、管部材241をB-1よりも長軸X上において26mm光源21に近づけたものを、
図9におけるB-7とした。シミュレーション解析結果は、
図9、
図10、
図11に示すとおりである。
【0048】
図10、
図11に示すように、管部材241をB-1よりも長軸X上において6mm光源21に近づけたもの(B-2)では、管部材241表面に照射される紫外線照度について、十分に高い値を得ることができていることが分かり、また、管部材241表面に照射される照度の均斉度について、十分に高い値を得ることができていることが分かる。これに対して、他のものは、紫外線照度の値、照度の均斉度の値のいずれかにおいて、極端に低い値が得られており、十分に高い値を得ることができていないことが分かる。
【0049】
また、
図9における「カラム表面の照度分布」に示すように、B-2では、光源21に対向する位置である中央部では、黒に近い色の部分が広がっており照度が高いが、その周囲の位置では、ほぼ均一の照度であることが分かる。但し、更にその周囲では、照度が低い部分を示す白に近い色の部分が広がっており、部分的に照度が極端に低い部分が生じていることが分かる。これに対して、他のものは、照度分布にばらつきが生じており、いずれも照度が低い部分を示す白に近い色の部分が広がっており、部分的に照度が極端に低い部分が生じていることが分かる。
【0050】
以上より、管部材241の最遠部が焦点F1に一致しているB-2と比較して、管部材241が長軸X上で光源21に近付いた他のものにおいては、良好な結果を得ることができないことが分かる。
【0051】
<管部材の径についてのシミュレーション解析>
管部材241の径が異なる場合に、照度がどのように変化するかについてシミュレーション解析を行った。シミュレーション解析においては、照明設計解析ソフトウェア「LightTools」を用いて、異なる径の管部材241を用いて、光源21から光を照射した。
【0052】
シミュレーション解析においては、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように、外径が12mmの管部材241を配置し、光源21を長軸X上において焦点F2から8mm管部材241に近づけたものを、
図12におけるC-1とした。また、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように、外径が16mmの管部材241を配置し、光源21を長軸X上において焦点F2から8mm管部材241に近づけたものを、
図12におけるC-2とした。また、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように、外径が20mmの管部材241を配置し、光源21を長軸X上において焦点F2から8mm管部材241に近づけたものを、
図12におけるC-3とした。また、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように、外径が22mmの管部材241を配置し、光源21を長軸X上において焦点F2から8mm管部材241に近づけたものを、
図12におけるC-4とした。また、ミラー部251の長手方向に直交する断面において、光源21に対する管部材241の最遠部が、一の焦点F1に位置するように、外径が24mmの管部材241を配置し、光源21を長軸X上において焦点F2から8mm管部材241に近づけたものを、
図12におけるC-5とした。C-1~C-3は本発明品であり、C-4~C-5は比較品である。シミュレーション解析結果は、
図12、
図13、
図14に示すとおりである。
【0053】
図13、
図14に示すように、本発明品であるC-1~C-3(
図13におけるカラム外径が12mm、16mm、20mmのもの)では、外径が大きくなるにつれて管部材241表面に照射される紫外線照度は小さくなるものの、十分に高い値を得ることができていることが分かる。また、これらは、管部材241表面に照射される照度の均斉度について、十分に高い値を得ることができていることが分かる。これに対して、他のものは、紫外線照度の値、照度の均斉度の値のいずれかにおいて、十分に高い値を得ることができていないことが分かる。特に、照度の均斉度の値は、極端に低い値が得られており、十分に高い値を得ることができていないことが分かる。
【0054】
また、
図12における「カラム表面の照度分布」に示すように、本発明品であるC-1~C3では、照度が低い部分を示す白に近い色の部分がほとんどなく、照度が高いことが分かる。これに対して、他のものは、照度分布にばらつきが生じており、いずれも照度が低い部分を示す白に近い色の部分が広がっており、部分的に照度が極端に低い部分が生じていることが分かる。
【0055】
以上より、管部材241の外径が12mm以上20mm以下である本発明品であるC-1~C3では、良好な結果を得ることができているが、これよりも外径が大きくなると、良好な結果を得ることができなくなることが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1 異性体調製装置、10 分割部、20 光照射部、21 光源、24 流路、25 楕円ミラー、233 スリット、241 管部材、F1、F2 焦点、S センサ、X 長軸