(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033083
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ステアバイワイヤ式操舵システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240306BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240306BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136472
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】有竹 恭大
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC34
3D232DA15
3D232DA64
3D232DA84
3D232DA88
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC37
3D232FF01
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB45
3D333CC28
3D333CC39
3D333CD04
3D333CD16
3D333CD19
3D333CE36
3D333CE55
(57)【要約】
【課題】転舵輪の向きがストロークエンドに到達した状況を運転者がステアリングホイールを通じて確実に感知することが可能であって、車両走行中にステアリングロック装置の機械的失陥が発生した場合には車両走行を自動制御可能なステアバイワイヤ式操舵システムにする。
【解決手段】ステアリングホイール1側と固定側間の機械的係合によってステアリングホイール1の回転を阻止可能なロック状態と、ステアリングホイール1の回転を許容するフリー状態とを切り替え可能なステアリングロック装置7と、フリー状態とロック状態の切り替えを制御し、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを監視し、このステアリングホイール1の回転阻止を検知したとき、転舵アクチュエータ2を自動制御する電子制御装置8を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと、前記ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられ、前記ステアリングホイールの操作量に応じて転舵輪の向きを変化させる転舵アクチュエータと、を備えるステアバイワイヤ式操舵システムにおいて、
前記ステアリングホイール側と固定側間の機械的係合によって前記ステアリングホイールの回転を阻止可能なロック状態と、前記ステアリングホイールの回転を許容するフリー状態とを切り替え可能なステアリングロック装置と、
前記フリー状態と前記ロック状態の切り替えを制御し、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合な前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを監視し、このステアリングホイールの回転阻止を検知したとき、前記転舵アクチュエータを自動制御する電子制御装置と、をさらに備えることを特徴とするステアバイワイヤ式操舵システム。
【請求項2】
前記ステアリングロック装置が、
前記ステアリングホイールと一体に回転するシャフトと、
回転しないように固定された固定部材と、
前記シャフトと前記固定部材のうちの一方に連結された内方部材と、
前記シャフトと前記固定部材のうちの他方に連結され前記内方部材を取り囲む外輪と、
前記内方部材と前記外輪の内周との間に配置された係合子と、
前記係合子を保持し、前記内方部材と前記外輪の内周の間に前記係合子を係合させる係合位置と、前記内方部材と前記外輪の内周の間への前記係合子の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された保持器と、
軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
通電により前記アーマチュアを吸引して軸方向に移動させる電磁石と、
前記アーマチュアの移動に応じて、前記保持器を前記係合位置と前記係合解除位置のうち一方から他方に周方向移動させる動作変換機構と、を有する請求項1に記載のステアバイワイヤ式操舵システム。
【請求項3】
前記電子制御装置が、前記電磁石に流れる電流を検知した結果に基づいて前記フリー状態か否かを監視し、前記フリー状態のときだけ前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを監視する請求項2に記載のステアバイワイヤ式操舵システム。
【請求項4】
前記ステアリングホイールと一体に回転する軸上のトルクを検知するトルクセンサをさらに備え、
前記電子制御装置が、前記トルクセンサで検知されるトルクに基づいて前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを検知する請求項1又は2に記載のステアバイワイヤ式操舵システム。
【請求項5】
前記ステアリングホイールに操舵反力を与える反力モータをさらに備え、
前記電子制御装置が、前記反力モータに流れる電流に基づいて前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを検知する請求項1又は2に記載のステアバイワイヤ式操舵システム。
【請求項6】
前記電子制御装置が、前記転舵アクチュエータを自動制御するときに路肩への自動停車制御を行う請求項1又は2に記載のステアバイワイヤ式操舵システム。
【請求項7】
通信装置をさらに備え、
前記電子制御装置が、前記自動停車制御を行った場合、前記通信装置に所定の連絡先への通報を指令する請求項5に記載のステアバイワイヤ式操舵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールと転舵輪との間が機械的に切り離された状態で転舵輪の転舵を行なうステアバイワイヤ式操舵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて車両の転舵輪の向きを変化させる操舵装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている(例えば、特許文献1)。ステアバイワイヤ式操舵システムは、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有し、その転舵アクチュエータが、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、転舵輪の向きを変化させるようになっている。
【0003】
このステアバイワイヤ式操舵システムは、運転者によるステアリングホイールの操作量をいったん電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータの動作を制御するので、例えば、ステアリングホイールを回転操作したときの転舵輪の向きの変化量を車両の走行速度に応じて調整するといったように、車両の走行状態に応じてステアリングホイールの操作量と転舵アクチュエータの動作量の対応関係を最適化することが可能であり、乗り物の走行安定性や運動性能の向上を可能とするものとして期待されている。
【0004】
一般に、車両のステアバイワイヤ式操舵システムにおいては、車速やステアリングホイールの操作量等に基づいて演算される操舵反力をステアリングホイールに与える反力モータと、反力モータを制御する反力コントローラとを有する。例えば、特許文献1では、反力コントローラは、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したときに、反力モータで発生する操舵反力の大きさを補正して増大させる制御を行なう。これにより、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したことを運転者はステアリングホイールを通じて感知することができる。
【0005】
また、近年では、車両に前方撮影カメラ、レーダ装置、各種のセンサを搭載し、これらによって運転状況を監視し、その検知された状況に応じて車両を電子制御する自動運転技術が発展している(例えば、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-168952号公報
【特許文献2】特開2021-172097号公報
【特許文献3】特開2019-43365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のステアバイワイヤ式操舵システムでは、反力モータで転舵の限界を運転者に知らせるので、反力モータが出力するトルク以上の操作力で運転者がステアリングホイールを回してしまうと、ステアリングホイールの回転が阻止されない問題がある。
【0008】
この問題を解決するため、本願発明者は、ステアリングホイール側と固定側間の機械的係合によってステアリングホイールの回転を阻止可能なロック状態と、ステアリングホイールの回転を許容するフリー状態とを切り替え可能なステアリングロック装置を採用し、その切り替えをステアバイワイヤ式操舵システムの電子制御装置で制御することを検討した。前述の機械的係合によれば、ステアリングホイールの回転を確実に阻止することが可能である。このため、転舵輪の向きがストロークエンドに到達する場合にロック状態に切り替えるように制御すれば、転舵輪の向きがストロークエンドに到達したことを運転者はステアリングホイールを通じて確実に感知することができる。
【0009】
しかしながら、機械的係合によるステアリングホイールの回転阻止を行うステアリングロック装置を採用した場合、車両走行中にステアリングロック装置の機械的失陥が発生すると、ステアバイワイヤ式操舵システムの制御から外れた意図しないステアリングホイールの回転阻止が発生し、運転者のステアリングホイール操作で車両走行を制御できなくなる懸念がある。
【0010】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、転舵輪の向きがストロークエンドに到達した状況を運転者がステアリングホイールを通じて確実に感知することが可能であって、車両走行中にステアリングロック装置の機械的失陥が発生した場合には車両走行を自動制御可能なステアバイワイヤ式操舵システムにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明は、ステアリングホイールと、前記ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられ、前記ステアリングホイールの操作量に応じて転舵輪の向きを変化させる転舵アクチュエータと、を備えるステアバイワイヤ式操舵システムにおいて、前記ステアリングホイール側と固定側間の機械的係合によって前記ステアリングホイールの回転を阻止可能なロック状態と、前記ステアリングホイールの回転を許容するフリー状態とを切り替え可能なステアリングロック装置と、前記フリー状態と前記ロック状態の切り替えを制御し、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合な前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを監視し、このステアリングホイールの回転阻止を検知したとき、前記転舵アクチュエータを自動制御する電子制御装置と、をさらに備える、という構成1を採用した。
【0012】
上記構成1によると、電子制御装置による制御下でステアリングロック装置を適宜にロック状態へ切り替え、ステアリングホイールの回転を機械的係合で阻止するため、転舵輪の向きがストロークエンドに到達した状況を運転者がステアリングホイールを通じて確実に感知することが可能になる。また、ステアリングロック装置の機械的失陥が発生した場合には、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイールの回転阻止が発生するが、これを検知した電子制御装置で転舵アクチュエータを自動制御するので、車両走行を自動制御することが可能になる。
【0013】
上記構成1において、前記ステアリングロック装置が、前記ステアリングホイールと一体に回転するシャフトと、回転しないように固定された固定部材と、前記シャフトと前記固定部材のうちの一方に連結された内方部材と、前記シャフトと前記固定部材のうちの他方に連結され前記内方部材を取り囲む外輪と、前記内方部材と前記外輪の内周との間に配置された係合子と、前記係合子を保持し、前記内方部材と前記外輪の内周の間に前記係合子を係合させる係合位置と、前記内方部材と前記外輪の内周の間への前記係合子の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された保持器と、軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、通電により前記アーマチュアを吸引して軸方向に移動させる電磁石と、前記アーマチュアの移動に応じて、前記保持器を前記係合位置と前記係合解除位置のうち一方から他方に周方向移動させる動作変換機構と、を有する、という構成2を採用するとよい。
【0014】
上記構成2によると、電磁石に対する通電制御に基づいて、ステアリングホイール側と固定側との間へ係合子を係合させて機械的係合を実現することができる。
【0015】
上記構成2において、前記電子制御装置が、前記電磁石に流れる電流を検知した結果に基づいて前記フリー状態か否かを監視し、前記フリー状態のときだけ前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを監視する、という構成3を採用するとよい。
【0016】
上記構成3によると、電磁石に電流が流れている状態(アーマチュアを吸引している状態)と電磁石に電流が流れていない状態(アーマチュアを非吸引していない状態)のいずれか一方の状態がステアリングロック装置のフリー状態に対応することを利用して、電磁石に流れる電流の検知結果でフリー状態か否かを電子制御装置で判定することができる。そして、電子制御装置がフリー状態と判定したときだけ、不整合なステアリングホイールの回転阻止の有無を監視するので、正常時の電子制御装置の処理負担を抑えることができる。
【0017】
上記構成1から3のいずれか1つにおいて、前記ステアリングホイールと一体に回転する軸上のトルクを検知するトルクセンサをさらに備え、前記電子制御装置が、前記トルクセンサで検知されるトルクに基づいて前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを検知する、という構成4を採用するとよい。
【0018】
上記構成4によると、ステアリングロック装置によってステアリングホイールの回転が阻止された状態のときに運転者がステアリングホイールを回そうとすると、ステアリングホイールと一体に回転する軸上のトルクが急上昇することを利用して、トルクセンサで検知されるトルクに基づいてステアリングホイールの回転阻止が発生したことを電子制御装置で検知することができる。
【0019】
上記構成1から4のいずれか1つにおいて、前記ステアリングホイールに操舵反力を与える反力モータをさらに備え、前記電子制御装置が、前記反力モータに流れる電流に基づいて前記ステアリングホイールの回転阻止が発生したか否かを検知する、という構成5を採用するとよい。
【0020】
上記構成5によると、ステアリングロック装置によってステアリングホイールの回転が阻止された状態のときに反力モータが操舵反力を与えようとしても反力モータが回転できず、反力モータに異常電流が流れることを利用して、その検知される電流に基づいてステアリングホイールの回転阻止が発生したことを電子制御装置で検知することができる。
【0021】
上記構成1から5のいずれか1つにおいて、前記電子制御装置が、前記転舵アクチュエータを自動制御するときに路肩への自動停車制御を行う、という構成6を採用するとよい。
【0022】
上記構成6によると、ステアリングロック装置の機械的失陥時、電子制御装置の制御下で車両を路肩に寄せて安全に停車させることができる。
【0023】
上記構成6において、通信装置をさらに備え、前記電子制御装置が、前記自動停車制御を行った場合、前記通信装置に所定の連絡先への通報を指令する、という構成7を採用するとよい。
【0024】
上記構成7によると、所定の連絡先に車両の異常事態を知らせることができる。
【発明の効果】
【0025】
上述のように、この発明は、上記構成1の採用により、転舵輪の向きがストロークエンドに到達した状況を運転者がステアリングホイールを通じて確実に感知することが可能であって、車両走行中にステアリングロック装置の機械的失陥が発生した場合には車両走行を自動制御可能なステアバイワイヤ式操舵システムにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】この発明の一例としての実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵システムを模式的に示す図
【
図2】
図1のステアバイワイヤ式操舵システムを搭載する車両の平面図
【
図7】
図6の保持器が係合位置まで移動した状態を示す図
【
図8】
図1の電子制御装置による車両のフェールセーフ制御の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に例示するこのステアバイワイヤ式操舵システムは、
図2に例示する車両100の運転者(図示省略)によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、車両の左右一対の転舵輪3の向きを変化させるものである。
【0028】
このステアバイワイヤ式操舵システムは、運転者により回転操作されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に直結されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検知する操舵センサ5と、ステアリングホイール1に操舵反力を与える反力モータ6と、反力モータ6に取り付けられたステアリングロック装置7と、ステアリングホイール1に対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータ2と、転舵アクチュエータ2等を制御する電子制御装置8と、を備える。
【0029】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を回転操作したときに、ステアリングホイール1と一体に回転するようにステアリングホイール1に接続されている。
【0030】
操舵センサ5は、ステアリングシャフト4に取り付けられている。操舵センサ5としては、例えば、ステアリングホイール1の回転位置に対応した回転角度位置を検知する回転センサである。
【0031】
反力モータ6は、通電により回転トルクを発生する電動モータである。反力モータ6は、ステアリングシャフト4の端部に連結されている。反力モータ6は、回転トルクをステアリングシャフト4に入力することで、そのステアリングシャフト4を介してステアリングホイール1に操舵反力を付与する。
【0032】
転舵アクチュエータ2は、転舵軸10と、転舵軸ハウジング11と、転舵軸10を車両の左右方向に移動させる転舵モータ12と、転舵軸10の位置を検知する転舵センサ13とを有する。転舵軸10は、車両の左右方向に移動可能に転舵軸ハウジング11で支持されている。転舵軸ハウジング11は、転舵軸10の左右両端が転舵軸ハウジング11から突出した状態となるように転舵軸10の中央部を収容している。
【0033】
転舵モータ12および転舵センサ13は、転舵軸ハウジング11に取り付けられている。転舵モータ12と転舵軸10の間には、転舵モータ12が出力する回転を転舵軸10の直線運動に変換する運動変換機構(図示せず)が組み込まれている。転舵軸10の左右両端は、タイロッド14を介して左右一対の転舵輪3に連結され、転舵軸10が軸方向に移動するとこれに連動して左右一対の転舵輪3の向きが変化するようになっている。
【0034】
図1、
図3に示すように、反力モータ6は、モータシャフト15と、モータシャフト15に回転トルクを付与するモータ本体16とを有する。モータ本体16は、筒状のケーシングと、このケーシングに収容された環状のステータ(図示せず)とで構成されている。モータ本体16は、そのケーシングにおいて車両のボディ側の静止部に固定されており、運転室に設置されたステアリングホイール1及びこれに直結されたステアリングシャフト4に対して常に一定の位置関係にある。
【0035】
図3に示すように、モータシャフト15は、モータ本体16からの軸方向の一方側(図では上側)への突出部分と、モータ本体16からの軸方向の他方側(図では下側)への突出部分とを有する。モータシャフト15の図中上側への突出部分にステアリングシャフト4の下端部が同軸に連結され、モータシャフト15の図中下側への突出部分にステアリングロック装置7が同軸に連結されている。ステアリングシャフト4とモータシャフト15は、ステアリングホイール1と一体的に回転可能な伝達系を構成している。
【0036】
ステアリングロック装置7は、ステアリングホイール1側と、
図2に示す車両100のボディに対して静止する固定側間の機械的係合によって阻止可能なロック状態と、前記ステアリングホイールの回転を許容するフリー状態とを切り替え可能なものである。
【0037】
図1、
図3に示すステアリングロック装置7は、シャフトとしてのモータシャフト15と同軸上に設けられており、ステアリングロック装置7への通電によりステアリングホイール1の回転を阻止するロック状態となり、当該通電の遮断によりステアリングホイール1の回転を許容するフリー状態となり、その通電制御に基づいてステアリングホイール1の回転を任意の角度位置で阻止可能な構造になっている。
【0038】
具体的には、
図3~
図5に示すように、ステアリングロック装置7は、モータシャフト15の外周に装着された内方部材21と、内方部材21を取り囲む外輪22と、外輪22及びモータ本体16に対して相対回転しないように固定された固定部材としてのブレーキケース23と、内方部材21の外周に形成されたカム面24と外輪22の内周に形成された円筒面25との間に配置された係合子26と、これら係合子26を保持する保持器27と、軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア28と、通電によりアーマチュア28を吸引して軸方向に移動させる電磁石29と、アーマチュア28の移動に応じて保持器27を周方向移動させる動作変換機構30と、を有する。
【0039】
内方部材21は、モータシャフト15と一体回転することができるようにモータシャフト15の外周にスプライン嵌合している。
【0040】
外輪22は、ブレーキケース23に嵌め込まれている。ブレーキケース23は、ステアリングロック装置7の構成部材(内方部材21、係合子26、保持器27、アーマチュア28、電磁石29等)を一括して収容する筒状の部材である。ブレーキケース23の軸方向一端には、径方向外方に延びるフランジ部が形成され、そのフランジ部においてモータ本体16のケーシングの軸方向端面にボルト(図示省略)で固定されている。
【0041】
外輪22は、ブレーキケース23の内周に装着した止め輪31でブレーキケース23から抜け止めされている。
図5に示すように、ブレーキケース23の内周に形成されたキー溝32と、外輪22の外周に形成されたキー溝33に、共通のキー部材34が嵌め込まれ、このキー部材34によって、外輪22は回転しないように固定された状態となっている。
【0042】
図3に示すように、外輪22の内周と内方部材21との間には、内方部材21を外輪22に対して回転可能に支持する軸受35が配置されている。
【0043】
図4、
図5に示すように、内方部材21の外周に複数のカム面24が形成されている。カム面24は、外輪22の円筒面25と半径方向に対向している。各カム面24と円筒面25の間には、周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間が形成されている。
【0044】
保持器27には、径方向に貫通するポケット36が周方向に間隔をおいて複数形成されている。各ポケット36に係合子26が収容されている。係合子26としてローラが採用されている。保持器27は、係合子26をカム面24の周方向中央から周方向に移動させることでカム面24と円筒面25の間に係合子26を係合させる係合位置と、係合子26をカム面24の周方向中央に移動させることでカム面24と円筒面25の間への係合子26の係合を解除する係合解除位置との間で、内方部材21に対して周方向に移動可能に支持されている。
【0045】
図3、
図4に示すように、アーマチュア28は、内方部材21の外周で軸方向に移動可能に支持されている。アーマチュア28は、磁性材料(鉄、珪素鋼など)で形成された円盤状の部材である。
【0046】
電磁石29は、アーマチュア28と軸方向に対向して配置されている。電磁石29は、軸方向と周方向のいずれにも移動しないようにブレーキケース23に固定されている。アーマチュア28と電磁石29の間には、アーマチュア28を電磁石29から離反する方向に付勢する離反ばね37が配置されている。
【0047】
電磁石29は、アーマチュア28に向かって軸方向に開放するC形断面をもつ環状のフィールドコア38と、フィールドコア38に巻回されたソレノイドコイル39とを有する。ソレノイドコイル39に通電すると、フィールドコア38とアーマチュア28とを通る磁気回路が形成され、アーマチュア28はフィールドコア38に吸引される。ブレーキケース23には、ソレノイドコイル39に電力を供給するリード線40を通すための貫通孔が形成されている。この貫通孔にゴム製のグロメット41が装着されている。
【0048】
図4に示すように、動作変換機構30は、アーマチュア28に対して軸方向に相対移動可能な状態でアーマチュア28に回り止めされかつ保持器27に回り止めされたプレート42と、保持器27を係合解除位置に弾性的に保持するセンタリングばね43とを有する。
【0049】
プレート42の外周には、保持器27に形成された係合凹部44に係合する係合凸部45が形成されている。プレート42は、それら係合凸部45と係合凹部44の係合によって、保持器27と一体に周方向移動するように保持器27に回り止めされている。また、プレート42には、アーマチュア28に向かって軸方向に延びる突起46が形成されている。アーマチュア28には、プレート42の突起46が軸方向にスライド可能に挿入される孔47が形成されている。プレート42は、それら突起46と孔47の係合によって、アーマチュア28に対して軸方向移動可能な状態で、アーマチュア28と一体に周方向移動するようにアーマチュア28に回り止めされている。
【0050】
図5に示すように、センタリングばね43は、鋼線をC形に巻いたC形環状部48と、C形環状部48の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部49とからなる。C形環状部48は、内方部材21の軸方向の一端面に形成された円形のばね収容凹部50に嵌め込まれている。一対の延出部49は、ばね収容凹部50から径方向外方に貫通するように内方部材21の軸方向端面に形成された径方向溝51に挿入されている。
【0051】
センタリングばね43の延出部49は、内方部材21の径方向溝51の径方向外端から突出しており、この突出部分が、保持器27に形成された切欠き部52に挿入されている。径方向溝51と切欠き部52は同じ周方向幅をもつように形成されている。センタリングばね43の延出部49は、内方部材21の径方向溝51の内面と、保持器27の切欠き部52の内面にそれぞれ接触し、その接触部分に作用する周方向の力によって保持器27を係合解除位置に弾性保持する。
【0052】
図3~
図5に示すステアリングロック装置7において、内方部材21の回転を許容するフリー状態は、電磁石29に非通電の状態に相当する。すなわち、電磁石29を非通電にすると、アーマチュア28が離反ばね37の付勢力によって電磁石29から離反し、アーマチュア28は、電磁石29に対して自由に回転可能な状態となる。このとき、保持器27は、センタリングばね43の弾性復元力によって係合解除位置に保持されるので、内方部材21を正逆いずれの方向に回転させても、内方部材21のカム面24と外輪22の円筒面25との間に係合子26は噛み込まず、内方部材21およびモータシャフト15は外輪22に対して正逆両方向に自由に回転することが可能である。
【0053】
一方、ステアリングロック装置7において、内方部材21の回転を阻止可能なロック状態は、電磁石29に通電してアーマチュア28を吸引した状態に相当する。すなわち、電磁石29に通電したとき、アーマチュア28は電磁石29に吸着され、アーマチュア28が電磁石29に摩擦接触した状態となる。このとき、内方部材21を回転させると、電磁石29に摩擦接触するアーマチュア28が、プレート42を介して保持器27に回り止めされているので、保持器27は回転が制限され、その保持器27に対して内方部材21が相対回転する。その結果、保持器27が、センタリングばね43の弾性力に抗し係合解除位置から係合位置に移動し、内方部材21のカム面24と外輪22の円筒面25との間に係合子26が噛み込むように係合するので、内方部材21の回転が阻止され、従い、この内方部材21と一体化されたモータシャフト15、ステアリングシャフト4及びステアリングホイール1の回転が阻止される。
【0054】
このように、このステアリングロック装置7においては、
図6に示すように、保持器27のポケット36と係合子26間に設定された隙間、カム面24と円筒面25で形成されるくさび空間と係合子26間にフリー状態の実現に要する隙間等の遊びが設けられているため、前述のロック状態に切り替わってからの内方部材21(モータシャフト、ステアリングシャフト、ステアリングホイール)の更なる回転により、
図6に示す係合解除位置の保持器27、係合子26が
図7に示す係合位置へ前述の遊び分αだけ周方向へ移動して係合子26がカム面24と円筒面25間に噛み込む係合状態になるまでの間、すなわち内方部材21の回転が阻止されるまでの間、内方部材21が外輪22に対して空転する。この空転によって
図1に示すステアリングシャフト4及びステアリングホイール1が回転することになる。なお、
図6、
図7では、ロック状態で内方部材21が図中左側へ回転した場合を例示したが、右側回転時も逆方向になるだけで同様に遊び分の空転が起こる。
【0055】
図1に示す電子制御装置8は、
図1、
図2に示す車両100に搭載された配下の各制御対象と電気的に接続されており、電子的に制御内容を決定して配下の制御対象を制御する。
【0056】
電子制御装置8は、車両100の転舵系に指令する転舵制御部8aと、車両100の駆動系、制動系、転舵制御部8a及びその他の機器に指令する車両制御部8bとを有する。
【0057】
転舵制御部8aは、操舵センサ5、反力モータ6、ステアリングロック装置7、転舵アクチュエータ2、転舵センサ13、及びトルクセンサ61及び車両制御部8bの夫々と電気的に接続されている。車両制御部8bは、ブレーキ力発生装置62、駆動装置63、走行監視装置64、ブレーキ65及び通信装置66の夫々と電気的に接続されている。
【0058】
トルクセンサ61は、ステアリングホイール1と一体に回転する軸(内方部材21)上のトルクを検知する。トルクセンサ61は、検知したトルク値を転舵制御部8aへ出力する。なお、トルクセンサ61は、モータシャフト15やステアリングシャフト4上のトルクを検知するものであてもよい。
【0059】
ブレーキ力発生装置62は、ブレーキ65にブレーキ力を供給する。ブレーキ65は、供給されたブレーキ力で転舵輪3側と摩擦接触することにより、転舵輪3を制動する。ブレーキ力発生装置62は、車両制御部8bからの指令に従ってブレーキ力を調整したり、ブレーキ力の供給を停止したりする。
【0060】
駆動装置63は、車両100の転舵輪3を駆動する。駆動装置63は、エンジン、電動モータ等の駆動源と、駆動源の出力回転を変速して転舵輪3に出力する伝達系とを有する。駆動装置63は、車両制御部8bからの指令に従って駆動力を調整したり、駆動源の停止、駆動力の遮断等によって転舵輪3の駆動を停止したりする。
【0061】
走行監視装置64は、車両100の走行状況(車両走行状況)を監視し、その走行状況の検知結果を車両制御部8bへ出力する。走行監視装置64は、カメラ64a、加速度センサ64b、レーダ64c、車速センサ64d等のセンサを有し、一つ又は複数のセンサによる検知結果に基づいて車両走行状況を検知する。
【0062】
カメラ64aは、車両100の前方を撮像する。カメラ64aは、例えば、固体撮像素子を有するデジタルカメラからなる。カメラ64aは、車両100のフロントウインドシールド上部、ルームミラー等の任意の箇所に一つまたは複数が取り付けられる。カメラ64aは、例えば、周期的に繰り返し車両100の前方側周辺を撮像する。カメラ64aは、ステレオカメラであってもよい。
【0063】
加速度センサ64bは、車両100の前後方向、左右方向、上下方向の加速度を検知する。車速センサ64dは、車両100の走行速度を検知する。
【0064】
レーダ64cは、車両100の前方にミリ波等の電波を放射すると共に、物体によって反射された電波を検出して物体の位置(距離及び方位)等を検知する。レーダ64cは、車両100のフロントバンパーの内側等の任意の箇所に一つまたは複数が取り付けられる。また、レーダ64cとして、レーザーレーダを採用することも可能であり、複数のレーダを取り付ける場合、電波レーダ、レーザーレーダ等の検知原理の異なるレーダを併用してもよい。
【0065】
走行監視装置64は、カメラ64aにより撮像された画像に基づいて、車両100の前方や前方側周辺に存在する物体の位置、種類、速度等を認識する。また、走行監視装置64は、カメラ64aで撮像した画像の認識結果及びレーダ64cの検知結果のうちの少なくとも一つに基づいて、車両100の前方に存在する物体と、車両100の前方へ移動してくる物体とを検知し、その物体の種類、位置及び速度を検知する。また、走行監視装置64は、カメラ64aで撮像した画像の認識結果及びレーダ64cの検知結果のうちの少なくとも一つを用いて、道路の路肩、道路標識、走行ラインを示す白線等のレーンマーカの位置を検知する。
【0066】
また、走行監視装置64は、カメラ64aで撮像した画像の認識結果及び加速度センサ64bの検知結果うちの少なくとも一つを用いて、車両100の姿勢(車両姿勢)を検知する。また、走行監視装置64は、カメラ64aで撮像した画像の認識結果、加速度センサ64bの検知結果及び車速センサ64dの検知結果のうちの少なくとも一つを用いて、車両100への衝撃を検知する。走行監視装置64は、それら検知結果を車両制御部8bに出力する。また、走行監視装置64は、衝撃の検知を含む所定の検知結果を履歴情報として記憶する。
【0067】
通信装置66は、車外との交信が可能な通信機からなる。通信装置66は、車両制御部8bと有線接続してもよいし、近距離無線通信によって車両制御部8bと無線接続してもよい。通信装置66は、移動体通信網に属する携帯電話端末でもよいし、車両100に取り付けられた車載無線機でもよい。
【0068】
車両制御部8bは、車両100の走行中、転舵制御部8aから入力された検知結果に基づいて車両100の走行中に異常なステアリングホイール1の回転阻止が発生したことを知ったとき、走行監視装置64から入力された検知結果に基づいて車両走行状況に応じた自動運転制御の内容を決定し、その制御内容を実現するための指令を対応の制御対象に出力する。その自動運転制御の内容として、路肩に停車する自動停車制御が設定されている。自動停車制御では、走行状況に応じた転舵の実行を転舵制御部8aに指令することが含まれる。なお、自動停車制御において車両100のウィンカー、ハザードランプの点灯、パーキングブレーキ作動を適宜に行ってもよい。
【0069】
また、車両制御部8bは、路肩停車後、通信装置66に所定の連絡先への通報を指令する。所定の連絡先としては、例えば、車両製造者の顧客サービスセンター、運転者によって任意に設定されたコールセンター等が挙げられる。連絡手段としては、携帯電話網を利用した電話、電子メール等が挙げられる。通報内容としては、例えば、車両100が非常事態であること、車両100の位置を示す情報や、車両100の所有者や運転者に関する情報等が挙げられる。
【0070】
転舵制御部8aは、車両制御部8bからの指令を実現するようにステアリングロック装置7のロック状態とフリー状態の切り替え、転舵アクチュエータ2の転舵モータ12、反力モータ6を適宜に制御する。
【0071】
また、車両制御部8bが車両100の自動転舵を行わず、運転者のステアリングホイール1の操作による転舵を許容する場合、転舵制御部8aは、操舵センサ5で検知される前述のステアリングホイール1の操舵量(回転角度位置等)に応じて転舵モータ12を作動させ、左右一対の転舵輪3の向きを変化させる制御を行い、また、ステアリングホイール1の操作量と車両走行状況とに応じた大きさの操舵反力が発生するように反力モータ6を作動させる制御を行う。
【0072】
また、車両制御部8bが車両100の自動転舵を行わず、運転者のステアリングホイール1の操作による転舵を許容する場合、転舵制御部8aは、転舵センサ13で検知される転舵軸10の位置に基づいて、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したか否かを判定する。そして、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達していないと判定したとき、転舵制御部8aは、ステアリングロック装置7をフリー状態に保持する。一方、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したと判定したとき、転舵制御部8aは、ステアリングロック装置7をロック状態に切り替える。なお、ステアリングホイール1と転舵アクチュエータの位相が合っている状態を維持可能な場合、転舵制御部8aが、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の回転位置を監視し、その回転位置に応じてステアリングロック装置7をロック状態又はフリー状態に切り替える制御を行うようにすることも可能である。
【0073】
転舵制御部8aは、電磁石29(
図3、
図4も参照。以下、同じ。)に流れる電流を検知した結果に基づいてフリー状態か否かを監視する。例えば、図示のステアリングロック装置7は励磁作動形であるので、電磁石29に流れる電流を検知し、その検知結果を閾値で判定し、閾値以上のときにロック状態、閾値未満又は電流が流れていないときにフリー状態と判定することができる。なお、非励磁作動形のステアリングロック装置を採用する場合、閾値以上のときにフリー状態、閾値未満又は電流が流れていないときにロック状態と判定することができる。
【0074】
転舵制御部8aは、電気的にステアリングロック装置7をフリー状態にしている制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを監視し、その発生を検知したとき、その検知結果を車両制御部8bに出力する。
【0075】
転舵制御部8aは、トルクセンサ61で検知されるトルクに基づいてステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを検知する。転舵制御部8aがステアリングロック装置7をロック状態に保持する通電制御を行っている場合、運転者がステアリングホイール1を回そうとすると、係合子26が円筒面25とカム面24間に噛み込む機械的係合により、内方部材21、モータシャフト15、ステアリングシャフト4及びステアリングホイール1の一体的回転が阻止されるので、トルクセンサ61で検知される内方部材21上のトルクが急激に立ち上がる。また、転舵制御部8aがステアリングロック装置7をフリー状態に保持する通電制御を行っている場合、ステアリングロック装置7の機械的失陥によって前述の機械的係合が発生したときも、内方部材21、モータシャフト15、ステアリングシャフト4及びステアリングホイール1の一体的回転が阻止されるので、この阻止の際にトルクセンサ61で検知されるトルクが急激に立ち上がる。この急激なトルク変化の有無を判定することにより、ステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを検知することができる。
【0076】
また、転舵制御部8aは、反力モータ6に流れる電流に基づいてステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを検知する。ロック状態又は機械的失陥状態のステアリングロック装置7によってステアリングホイール1の回転が阻止された状態のとき、反力モータ6が操舵反力をステアリングシャフト4に与えようとしても反力モータ6が回転できず、反力モータ6に異常電流が流れることになる。この異常電流の有無を判定することにより、ステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを検知することができる。
【0077】
ステアリングロック装置7の機械的失陥は、例えば、保持器27、係合子26,カム面24、円筒面25、センタリングばね43等の破損、異物噛み込み等によって、不正な保持器27の係合位置への固定や、係合子26のカム面24と円筒面25への噛み込みが発生する可能性がある。電磁石29がフリー状態に対応の電磁的状態であるにもかかわらず、ステアリングロック装置7の機械的失陥によってステアリングホイール1の回転阻止が発生した場合、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したことになる。
【0078】
上述のような電子制御装置8は、車両100に搭載された情報演算処理装置、情報記憶装置、通信装置等のハードウェア資源と、ハードウェア資源で実行されるソフトウェア資源とからなり、情報演算処理装置で車両姿勢の制御内容を演算したり、決定したりするために必要なソフトウェア資源及び所定の初期情報を情報記憶装置に記憶する。
【0079】
また、走行監視装置64は、車両100に搭載された情報演算処理装置、情報記憶装置等のハードウェア資源と、ハードウェア資源で実行されるソフトウェア資源とを有し、情報演算処理装置で画像認識、レーダ探知等の走行状況の検知を行うために必要なソフトウェア資源及び所定の初期情報を情報記憶装置に記憶する。
【0080】
なお、走行監視装置64と電子制御装置8は、一つのプロセッサにより実現されてもよいし、分散化されたプロセッサにより実現されてもよい。後者の場合、走行監視装置64と電子制御装置8は、それぞれ一つ又は複数のECU(Electronic Control Unit)として構成されたシステムであってもよい。前述の初期情報を電子制御装置8や走行監視装置64に記憶させる書き込み工程は、このステアバイワイヤ式操舵システムの組み立て時や、システム構成時等の適宜の時期に行えばよい。
【0081】
電子制御装置8が、ステアリングロック装置7における機械的失陥の発生を監視し、その発生時に車両100を自動運転するフェールセーフ制御の一例を
図8に示す。
【0082】
電子制御装置8は、ステアリングホイール1の回転及び転舵輪3の向き変更が起こり得る状況又は起こった状況になったとき、
図8に示すフェールセーフ制御をスタートする。このスタートの契機となる状況は、車両100の起動(運転キーのON操作)、このステアバイワイヤ式操舵システムの起動等の適宜のスイッチ操作、状況検知等に基づいて行えばよい。
【0083】
スタート時、電子制御装置8は、運転者によるステアリングホイール1の操作、アクセル操作、ブレーキ操作等に応じた車両100の走行を許容する人力運転モードの状態にある。すなわち、転舵制御部8aは、ステアリングロック装置7をフリー状態に制御し、車両制御部8bは、走行監視装置64で検知される車両走行状況の監視を開始する。
【0084】
転舵制御部8aは、スタート後、電磁石29に流れる電流の検知結果に基づいてステアリングロック装置7がフリー状態か否かを監視する(ステップS1)。
【0085】
転舵制御部8aは、ステップS1においてフリー状態と判定した場合、トルクセンサ61で軸(内方部材21)上のトルクを検知し(ステップS2)、また、反力モータに流れる電流を検知する(ステップS3)。
【0086】
転舵制御部8aは、ステップS2のトルク検知結果に基づいて急上昇の異常トルクが発生したか否かを判定し(ステップS4)、異常トルクが発生したと判定したとき、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したことを示す検知結果を車両制御部8bに出力し、異常トルクが発生していないと判定したとき、ステップS2に戻る。
【0087】
また、転舵制御部8aは、ステップS3の電流検知結果に基づいて異常電流が発生したか否かを判定し(ステップS5)、異常電流が発生したと判定したとき、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したことを示す検知結果を車両制御部8bに出力し、異常トルクが発生していないと判定したとき、ステップS3に戻る。
【0088】
車両制御部8bは、ステップS4とステップS5の少なくとも一方において電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したことを知ったとき、人力運転モードを解除し、所定の自動運転制御を行う。その所定の自動運転制御の内容として、車両制御部8bは、走行監視装置64で検知される車両姿勢、車速等の車両走行状況に基づいて、車両姿勢の安定を保つ自動姿勢制御と、車両100を路肩に停止させる自動停車制御とを行う(ステップS6)。
【0089】
ステップS6において、車両制御部8bは、車両姿勢が安定するように車両走行状況に応じて転舵角、ブレーキ力等の制御内容を決定し、その制御内容に応じて転舵制御部8aに転舵角を指令したり、ブレーキ力発生装置62にブレーキ力を指令したり、駆動装置63に出力値を指令したりする。また、車両制御部8bは、走行監視装置64で検知される路肩の位置、車速等を参照して車両100を停車させる位置を設定し、その位置に停車させるように転舵角、ブレーキ力等の制御内容を決定し、その制御内容に応じて転舵制御部8aに転舵角を指令したり、ブレーキ力発生装置62にブレーキ力を指令したり、駆動装置63に出力値を指令したりする。それら車両制御部8bからの指令を受けた制御対象は指令された内容を実行する。例えば、車両制御部8bからの転舵指令を受けた転舵制御部8aは、転舵輪3の転舵角が指令された角度となるように転舵モータ12を駆動する。このように、ステアリングロック装置7の機械的失陥によってステアリングホイール1の回転が阻止された状態であっても、電子制御装置8によって転舵アクチュエータ2を自動制御することができる。
【0090】
車両制御部8bは、ステップS6後に車両100が路肩に停車したか否かを判定する(ステップS7)。ここで、車両制御部8bは、車両100が路肩に停車したと判定するまでステップS6、S7を繰り返す。一方、車両100が路肩に停車したと判定したとき、車両制御部8bは、車両100に搭載された通信装置66にコールセンターへの連絡を指令し(ステップS8)、フェールセーフ制御を終了する。
【0091】
このステアバイワイヤ式操舵システム(以下、適宜、
図1~
図8参照。)は、上述のように、ステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に対して機械的に切り離して設けられ、ステアリングホイール1の操作量に応じて転舵輪3の向きを変化させる転舵アクチュエータ2と、を備え、ステアリングホイール1側と固定側(固定部材としてのブレーキケース23側)間の機械的係合によってステアリングホイール1の回転を阻止可能なロック状態と、ステアリングホイール1の回転を許容するフリー状態とを切り替え可能なステアリングロック装置7と、前記フリー状態と前記ロック状態の切り替えを制御し、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを監視し、このステアリングホイール1の回転阻止を検知したとき、転舵アクチュエータ2を自動制御する電子制御装置8と、をさらに備えるものである。これにより、電子制御装置8による制御下でステアリングロック装置7を適宜にロック状態へ切り替え、ステアリングホイール1の回転を機械的係合で阻止することができるので、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達した状況を運転者がステアリングホイール1を通じて確実に感知することが可能になる。また、ステアリングロック装置7の機械的失陥が発生した場合には、電気的にフリー状態にある制御状況とは不整合なステアリングホイール1の回転阻止が発生するが、これを検知した電子制御装置8で転舵アクチュエータ2を自動制御することができるので、車両走行を自動制御することが可能になる。
【0092】
このように、このステアバイワイヤ式操舵システムは、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達した状況を運転者がステアリングホイール1を通じて確実に感知することが可能であって、車両走行中にステアリングロック装置7の機械的失陥が発生した場合には車両走行を自動制御可能なものにすることができる。
【0093】
また、ステアリングロック装置7が、ステアリングホイール1と一体に回転するシャフト(モータシャフト15)と、回転しないように固定された固定部材(ブレーキケース23)と、シャフト(モータシャフト15)と固定部材(ブレーキケース23)のうちの一方に連結された内方部材21と、シャフト(モータシャフト15)と固定部材(ブレーキケース23)のうちの他方に連結され内方部材21を取り囲む外輪22と、内方部材21と外輪22の内周との間に配置された係合子26と、係合子26を保持し、内方部材21と外輪22の内周の間に係合子26を係合させる係合位置と、内方部材21と外輪22の内周の間への係合子26の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された保持器27と、軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア28と、通電によりアーマチュア28を吸引して軸方向に移動させる電磁石29と、アーマチュア28の移動に応じて、保持器27を係合位置と係合解除位置のうち一方から他方に周方向移動させる動作変換機構30と、を有することにより、電磁石29に対する通電制御に基づいて、ステアリングホイール1側(内方部材21のカム面24)と、固定側(外輪22の円筒面25)との間へ係合子26を係合させて機械的係合を実現することができる。
【0094】
また、電子制御装置8が、電磁石29に流れる電流を検知した結果に基づいてフリー状態か否かを監視し、フリー状態のときだけステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを監視することにより、電磁石29に電流が流れている状態(アーマチュア28を吸引している状態)と電磁石29に電流が流れていない状態(アーマチュア28を非吸引していない状態)のいずれか一方の状態がステアリングロック装置7のフリー状態に対応することを利用して、電磁石29に流れる電流の検知結果でフリー状態か否かを電子制御装置8で判定することができる。また、電子制御装置8がフリー状態と判定したときだけ、不整合なステアリングホイール1の回転阻止の有無を監視するので、正常時の電子制御装置8の処理負担を抑えることができる。
【0095】
また、このステアバイワイヤ式操舵システムは、ステアリングホイール1と一体に回転する軸(内方部材21)上のトルクを検知するトルクセンサ61をさらに備え、電子制御装置8がトルクセンサ61で検知されるトルクに基づいてステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを検知することにより、ステアリングロック装置7によってステアリングホイール1の回転が阻止された状態のときに運転者がステアリングホイール1を回そうとすると、ステアリングホイール1と一体に回転する軸(内方部材21)上のトルクが急上昇することを利用して、トルクセンサ61で検知されるトルクに基づいてステアリングホイール1の回転阻止が発生したことを電子制御装置8で検知することができる。
【0096】
また、このステアバイワイヤ式操舵システムは、ステアリングホイール1に操舵反力を与える反力モータ6をさらに備え、電子制御装置8が反力モータ6に流れる電流に基づいてステアリングホイール1の回転阻止が発生したか否かを検知することにより、ステアリングロック装置7によってステアリングホイール1の回転が阻止された状態のときに反力モータ6が操舵反力を与えようとしても反力モータ6が回転できず、反力モータ6に異常電流が流れることを利用して、その検知される電流に基づいてステアリングホイール1の回転阻止が発生したことを電子制御装置8で検知することができる。
【0097】
また、このステアバイワイヤ式操舵システムは、電子制御装置8が転舵アクチュエータ2を自動制御するときに路肩への自動停車制御を行うことにより、ステアリングロック装置7の機械的失陥時、電子制御装置8の制御下で車両100を路肩に寄せて安全に停車させることができる。
【0098】
また、このステアバイワイヤ式操舵システムは、通信装置66をさらに備え、電子制御装置8が自動停車制御を行った場合、通信装置66に所定の連絡先への通報を指令することにより、所定の連絡先に車両100の異常事態を知らせることができ、ひいては連絡先から運転者の早期救援を図ることが可能になる。
【0099】
上述のように、この実施形態では、左右一対の転舵輪3を有する車両100を例に挙げて説明したが、この発明は、建設機械、農業機械、全地形対応車、多用途四輪車などの車両のステアバイワイヤ式操舵システムに適用することが可能である。
【0100】
また、この実施形態では、ステアリングロック装置7を反力モータ6に対して反ステアリングホイール1側に配置した例を示したが、この発明は、ステアリングロック装置を反力モータとステアリングホイールとの間に配置する場合にも適用することが可能である。
【0101】
また、この実施形態では、反力モータ6のモータシャフト15にステアリングロック装置7を連結した場合を例示したが、この発明は、反力モータを備えないステアバイワイヤ式操舵システムに適用することが可能である。この場合、常にステアリングホイール1と一体に回転する軸系に属する任意のシャフトにステアリングロック装置を連結すればよい。
【0102】
また、この実施形態では、ステアリングロック装置7の固定部材としてブレーキケース23を採用したが、この発明においては、外輪とブレーキケースを繋ぎ目のない一体のケース部材で構成し、そのケース部材とは別体の固定部材を車両等のボディ側の静止部材で構成することも可能である。
【0103】
また、この発明において、ステアリングホイール1の回転位置、回転速度の検知は、ステアリングホイール1の回転位置に対応した回転位置、ステアリングホイール1の回転速度に対応した回転速度について検知し、必要に応じて適宜に変換すればよい。この実施形態のように回転角度位置、角速度を検知する場合、常にステアリングホイール1と一体に回転する軸系の任意の位置における回転角度位置、角速度と、ステアリングホイール1の回転角度位置、角速度とが一致するので、その軸系の任意のシャフト(ステアリングシャフト4やモータシャフト15)の回転角度位置、角速度をそのままステアリングホイール1の回転位置、回転速度を示す情報として電子制御装置8の制御で使用することが可能である。
【0104】
また、この実施形態では、励磁作動形のステアリングロック装置7を採用したが、この発明では、非励磁作動形のステアリングロック装置を採用することも可能である。
【0105】
また、この実施形態では、電子制御装置8が、トルクセンサ61によるトルクの検知と、反力モータ6に流れる電流の検知とを採用したが、これらを両方採用する必要はなく、いずれか一方だけを採用することも可能である。この実施形態のように両方を採用し、異常トルクと異常電流の少なくとも一方が発生したときに電子制御装置で自動運転を行うようにすれば、ステアリングロック装置の機械的失陥と、トルクセンサ又は電流検知手段の失陥とが同時に発生しても電子制御装置の自動運転でフェールセーフを実現することができる。
【0106】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
1 ステアリングホイール
2 転舵アクチュエータ
3 転舵輪
6 反力モータ
7 ステアリングロック装置
8 電子制御装置
15 モータシャフト(シャフト)
21 内方部材
22 外輪
23 ブレーキケース(固定部材)
26 係合子
27 保持器
28 アーマチュア
29 電磁石
30 動作変換機構
61 トルクセンサ
66 通信装置