(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033143
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】統計解析装置、統計解析方法、設備の制御方法、予測モデル生成装置、予測モデル生成方法、及び数値解析結果予測方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/30 20060101AFI20240306BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C21C5/30 Z
C21C7/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136559
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小関 新司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【テーマコード(参考)】
4K013
4K070
【Fターム(参考)】
4K013CE01
4K013FA01
4K013FA02
4K013FA11
4K070BD01
4K070BD07
4K070BD08
4K070BD12
4K070BD13
(57)【要約】
【課題】統計解析処理の精度を向上可能な統計解析装置及び統計解析方法を提供すること。
【解決手段】精錬用統計解析装置1は、数値解析によって得られた精錬設備20内の物理量分布画像を教師データとし、精錬設備20の操業条件が取り得る条件範囲に設定された複数の条件範囲に教師データを振り分けて生成された複数の教師データセットのうち、精錬設備20の操業実績に応じて選定された教師データセットに基づく機械学習によって生成された、操業中の精錬設備20内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを用いて、精錬設備20の操業条件により操業中の精錬設備20内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測部を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値解析によって得られた設備内の物理量分布画像を教師データとし、設備の操業条件が取り得る条件範囲に設定された複数の条件範囲に前記教師データを振り分けて生成された複数の教師データセットのうち、前記設備の操業実績に応じて選定された前記教師データセットに基づく機械学習によって生成された、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを用いて、前記設備の操業条件により操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測部と、
前記予測部により予測された物理量分布画像に基づいて、前記設備の操業影響因子を特定する際に用いる物理量の値を抽出する物理量抽出部と、
前記物理量抽出部が抽出した物理量の値と前記予測部が物理量分布画像を予測する際に用いた前記設備の操業条件に対応する前記設備の操業成績との相関関係を求めることにより、前記設備の操業成績に関係する物理量を操業影響因子として特定する操業影響因子特定部と、
を備えることを特徴とする統計解析装置。
【請求項2】
数値解析によって得られた設備内の物理量分布画像を教師データとし、設備の操業条件が取り得る条件範囲に設定された複数の条件範囲に前記教師データを振り分けて生成された複数の教師データセットのうち、前記設備の操業実績に応じて選定された前記教師データセットに基づく機械学習によって生成された、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを用いて、前記設備の操業条件により操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測ステップと、
前記予測ステップにより予測された物理量分布画像に基づいて、前記設備の操業影響因子を特定する際に用いる物理量の値を抽出する物理量抽出ステップと、
前記物理量抽出ステップが抽出した物理量の値と前記予測ステップが物理量分布画像を予測する際に用いた前記設備の操業条件に対応する前記設備の操業成績との相関関係を求めることにより、前記設備の操業成績に関係する物理量を操業影響因子として特定する操業影響因子特定ステップと、
を含むことを特徴とする統計解析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の統計解析方法によって特定された操業影響因子を制御することにより前記設備の操業を制御するステップを含むことを特徴とする設備の制御方法。
【請求項4】
設備が操業し得る複数の操業条件における前記設備内の物理量分布画像を数値解析により生成する数値解析部と、
前記設備の操業条件と前記数値解析部により生成された物理量分布画像との組を教師データとし、かつ前記設備の操業条件が取り得る条件範囲に応じて複数の条件範囲を設定し、前記教師データを前記複数の条件範囲に応じて場合分けして複数の教師データセットを生成する教師データセット作成部と、
前記設備の操業実績に応じて前記教師データセットを選定して機械学習を行い、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを生成する予測モデル生成部と、
を備えることを特徴とする予測モデル生成装置。
【請求項5】
設備が操業し得る複数の操業条件における前記設備内の物理量分布画像を数値解析により生成する数値解析ステップと、
前記設備の操業条件と前記数値解析ステップにより生成された物理量分布画像との組を教師データとし、かつ前記設備の操業条件が取り得る条件範囲に応じて複数の条件範囲を設定し、前記教師データを前記複数の条件範囲に応じて場合分けして複数の教師データセットを生成する教師データセット作成ステップと、
前記設備の操業実績に応じて前記教師データセットを選定して機械学習を行い、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを生成する予測モデル生成ステップと、
を含むことを特徴とする予測モデル生成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の予測モデル生成方法によって生成された予測モデルを用いて、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測するステップを含むことを特徴とする数値解析結果予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統計解析装置、統計解析方法、設備の制御方法、予測モデル生成装置、予測モデル生成方法、及び数値解析結果予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の精錬プロセスでは、転炉内の高温の溶鋼に対して酸素ガスを吹き付けることによって鋼の成分調整を行う。転炉内は溶鋼が飛散する高温で過酷な環境であることから、転炉内に計測機器を設置して転炉内のデータを直接計測することは難しい。このため、転炉内のデータは転炉外に設置した計測機器を用いて間接的に計測している。そして、転炉内の物理量を取得する際は、間接的に計測したデータを実験式や理論式等に使用して転炉内の物理量を予測する。
【0003】
精錬プロセスでは、操業実績がばらつく要因が多く、少ないチャージ数のデータだけでは操業の傾向を把握しにくいため、多数のチャージのデータを使用した統計解析が操業実績の改善のために行われている。具体的には、近年の情報処理装置の性能向上に伴いビッグデータを利用したデータサイエンス(DS)技術が操業実績の改善のために利用されている。例えば転炉を対象としたDS技術として、特許文献1には、二次精錬設備の過去操業情報を学習させることによってモデル中のパラメータを決定し、モデルを用いて溶鋼温度を推定する方法が記載されている。また、特許文献2には、炉外で採取したデータを用いてリアルタイムの統計解析により炉内推定モデル式中のパラメータを決定し、炉内推定モデル式を用いて溶鋼組成の時間変動を計算する技術が記載されている。また、特許文献3には、転炉の排ガスと途中サブランスのデータを用いて反応式により溶鋼組成を推定する技術が記載されている。
【0004】
一方、統計解析とは異なるツールとして、数値解析も操業実績の改善のために広く利用されている。数値解析は、物理モデルを用いた演算を行うことにより、物理現象を再現したり、物理量を算出したりするものである。数値解析によれば、実験装置を必要とせずに低コストで比較的迅速に解析結果を得ることができる。また、数値解析では、数値解析の対象となる設備の操業条件等を簡単に変更して解析を行うことができるため、解析の自由度が高い。さらに、数値解析では、実機で計測したり、可視化したりすることが難しい場所の状態を再現(推測)できたり、センサ等の計測機器を用いて計測することが困難な物理量をデータとして取得できたりする。一例として、製鉄プロセスにおいても数値解析が適用可能であることが知られている。
【0005】
例えば特許文献4には、鋼材の圧延プロセスにおいて、操業データを用いて数値解析を実行することにより、圧延中の鋼材の温度分布や応力等を算出、可視化する技術が記載されている。また、特許文献5には、有限要素法等の数値解析手法を用いて事前に数値計算を行うことにより数値解析結果のデータベースを構築し、操業条件毎にデータベースから適切な数値解析結果を抽出して最適な荷重を決定する方法が記載されている。また、特許文献6には、操業実績を用いた数値解析を事前に行い、加熱炉の操業に際して操業条件に最も近い条件で計算された数値解析結果をデータベースから抽出する方法が記載されている。また、特許文献7には、焼結機への希釈気体燃料吹込み操業に関し、事前に演算を行い、演算結果を予め統計的に処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-360044号公報
【特許文献2】特許第6583594号公報
【特許文献3】特開2018-178200号公報
【特許文献4】特開2001-25805号公報
【特許文献5】特許第5929151号公報
【特許文献6】特許第3289822号公報
【特許文献7】特開2008-291362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した統計解析技術では、精錬設備内の局所的な値しか予測できず、分布情報がわからない。また、実機とラボのスケール影響を予測式に反映できていないために、予測値と実測値の乖離が大きいと予想される。さらに、上吹きランスによる噴流の影響等が考慮されていないため、動圧や火点面積といった炉内で直接的に計測しなければ得られない物理量は用いられていない。一方、上述した数値解析技術では、計算時間が長いため、精錬設備の1サイクルの操業中に1回の計算を終えることができず、サイクル毎に数値解析結果を提供することができない。また、数値解析結果は物理量分布を計算できるために情報が豊富であるが、情報量が多すぎるために特定の場所の一部のデータを使用する等の運用になり、数値解析結果を有効利用しきれていない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、統計解析処理の精度を向上可能な統計解析装置及び統計解析方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、設備の操業成績を改善可能な設備の制御方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、予測精度の向上と予測時間の短縮を同時に実現可能な予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、予測精度を向上可能な数値解析結果予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る統計解析装置は、数値解析によって得られた設備内の物理量分布画像を教師データとし、設備の操業条件が取り得る条件範囲に設定された複数の条件範囲に前記教師データを振り分けて生成された複数の教師データセットのうち、前記設備の操業実績に応じて選定された前記教師データセットに基づく機械学習によって生成された、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを用いて、前記設備の操業条件により操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測部と、前記予測部により予測された物理量分布画像に基づいて、前記設備の操業影響因子を特定する際に用いる物理量の値を抽出する物理量抽出部と、前記物理量抽出部が抽出した物理量の値と前記予測部が物理量分布画像を予測する際に用いた前記設備の操業条件に対応する前記設備の操業成績との相関関係を求めることにより、前記設備の操業成績に関係する物理量を操業影響因子として特定する操業影響因子特定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る統計解析方法は、数値解析によって得られた設備内の物理量分布画像を教師データとし、設備の操業条件が取り得る条件範囲に設定された複数の条件範囲に前記教師データを振り分けて生成された複数の教師データセットのうち、前記設備の操業実績に応じて選定された前記教師データセットに基づく機械学習によって生成された、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを用いて、前記設備の操業条件により操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測ステップと、前記予測ステップにより予測された物理量分布画像に基づいて、前記設備の操業影響因子を特定する際に用いる物理量の値を抽出する物理量抽出ステップと、前記物理量抽出ステップが抽出した物理量の値と前記予測ステップが物理量分布画像を予測する際に用いた前記設備の操業条件に対応する前記設備の操業成績との相関関係を求めることにより、前記設備の操業成績に関係する物理量を操業影響因子として特定する操業影響因子特定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る設備の制御方法は、上記統計解析方法によって特定された操業影響因子を制御することにより前記設備の操業を制御するステップを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る予測モデル生成装置は、設備が操業し得る複数の操業条件における前記設備内の物理量分布画像を数値解析により生成する数値解析部と、前記設備の操業条件と前記数値解析部により生成された物理量分布画像との組を教師データとし、かつ前記設備の操業条件が取り得る条件範囲に応じて複数の条件範囲を設定し、前記教師データを前記複数の条件範囲に応じて場合分けして複数の教師データセットを生成する教師データセット作成部と、前記設備の操業実績に応じて前記教師データセットを選定して機械学習を行い、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを生成する予測モデル生成部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る予測モデル生成方法は、設備が操業し得る複数の操業条件における前記設備内の物理量分布画像を数値解析により生成する数値解析ステップと、前記設備の操業条件と前記数値解析ステップにより生成された物理量分布画像との組を教師データとし、かつ前記設備の操業条件が取り得る条件範囲に応じて複数の条件範囲を設定し、前記教師データを前記複数の条件範囲に応じて場合分けして複数の教師データセットを生成する教師データセット作成ステップと、前記設備の操業実績に応じて前記教師データセットを選定して機械学習を行い、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを生成する予測モデル生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る数値解析結果予測方法は、上記予測モデル生成方法によって生成された予測モデルを用いて、操業中の設備内の物理量分布画像を統計解析により予測するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る統計解析装置及び統計解析方法によれば、統計解析処理の精度を向上させることができる。また、本発明に係る設備の制御方法によれば、設備の操業成績を改善することができる。また、本発明に係る予測モデル生成装置及び予測モデル生成方法によれば、予測精度の向上と予測時間の短縮を同時に実現することができる。また、本発明に係る数値解析結果予測方法によれば、予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である精錬用統計解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である精錬用統計解析処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例における転炉の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例における数値解析モデルを示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例における物理量分布画像の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例における教師データセットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である精錬用統計解析装置、精錬用統計解析方法、精錬設備の制御方法、精錬用予測モデル生成装置、精錬用予測モデル生成方法、及び数値解析結果予測方法について説明する。
【0018】
〔構成〕
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態である精錬用統計解析装置の構成について説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である精錬用統計解析装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である精錬用統計解析装置1は、統計解析処理によって精錬設備20の操業条件を最適化することにより精錬設備20の操業成績の改善を図る装置であり、精錬設備20とその制御装置21との間で情報通信が可能な情報処理装置によって構成されている。本発明が適用できる精錬設備20としては、転炉、RH(Ruhrstahl-Heraeus)炉、電気炉、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)炉等を例示できる。
【0020】
本発明の一実施形態である精錬用統計解析装置1は、数値解析部2、教師データセット作成部3、予測モデル生成部4、操業データ取得部5、予測部6、物理量抽出部7、操業影響因子特定部8、教師データデータベース(教師データDB)9、及び操業データデータベース(操業データDB)10を備えている。数値解析部2、教師データセット作成部3、予測モデル生成部4、操業データ取得部5、予測部6、物理量抽出部7、及び操業影響因子特定部8は、情報処理装置内部のCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置がコンピュータプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。
【0021】
このような構成を有する精錬用統計解析装置1は、精錬用統計解析処理を実行することにより、精錬プロセスの統計解析処理の精度を向上させると共に精錬設備20の操業成績の改善に寄与する。精錬用統計解析装置1は、数値解析の過去データを教師データとして、指定した数値解析結果を統計解析の手法で予測することにより、数値解析結果を迅速に予測及び提供できるように構成されている。
【0022】
〔精錬用統計解析処理〕
図2は、本発明の一実施形態である精錬用統計解析処理の流れを示すフローチャートである。
図2に示す処理は、精錬用統計解析装置1により実行される。この説明では、精錬用統計解析処理を単に解析処理を記載して説明する。
【0023】
ステップS1の処理では、数値解析部2が、精錬設備20の操業パラメータ(説明変数)を所定範囲内で変更した数値解析を実行する。数値解析部2は、精錬設備20が操業し得る複数の操業条件における精錬設備20内の物理量分布画像を数値解析により求める。つまり、数値解析部2は、数値解析の結果として、精錬設備20内の物理量分布画像(目的変数の情報が含まれた画像)を生成する。そして、数値解析部2は、数値解析結果の物理量分布画像を教師データとして教師データDB9に蓄積する。
【0024】
例えば、数値解析部2は、精錬設備20の操業パラメータと数値解析によって得られた物理量分布画像との組を教師データとして教師データDB9に蓄積する。この教師データは、精錬設備20の操業パラメータを入力データとし、数値解析結果の画像を出力データとするものである。
【0025】
数値解析部2による数値解析処理で操業パラメータの値を変更する範囲は、操業データDB10内に格納されている精錬設備20の操業条件の実績値の範囲に応じて決定する。精錬設備20の操業パラメータとしては、溶鋼装入量、溶鋼温度、溶鋼組成、吹き込み酸素流量、ランス形状、ランス高さ、底吹き流量、及び副原料投入量等を例示できる。
【0026】
また、数値解析により求める物理量として、溶鋼流速、圧力、溶鋼温度、溶鋼密度、溶鋼組成、溶鋼相-スラグ相-気体相の質量分率(相が計算メッシュ内に存在しているもの)等を例示できる。なお、数値解析のモデル式が高度であるほど多くの物理量分布画像を求めることができるが、一方で計算コストが高くなるため、十分な数の教師データを蓄積するのに多くの時間を要する。蓄積すべき教師データの数は、精錬設備20の操業パラメータがどれだけ振れているかに依存するため、精錬設備20毎によって異なる。また、後述する画像解析に使用するモデルの種類によっても教師データDB9に蓄積すべき教師データの数は変わってくる。
【0027】
このように数値解析部2は、ステップS1の処理において、数値解析の過去データを教師データとして生成する。これにより、ステップS1の処理は完了し、解析処理はステップS2の処理に進む。
【0028】
ステップS2の処理では、教師データセット作成部3が、教師データを所定のグループに振り分けた教師データセットを生成する。教師データセットは、数値解析部2により求めた数値解析結果(教師データ)に基づいて作成されるデータであり、その教師データを予め設定された条件範囲にグループ分けしたデータである。
【0029】
教師データセット作成部3は、教師データのうちの入力データとなる精錬設備20の操業条件について、特定の操業パラメータを対象にし、所定の範囲に応じた複数のグループを設定する。データセット作成処理では、精錬設備20の操業パラメータの全部が対象とはならず、精錬設備20の操業パラメータのうち、精錬設備20の操業結果に大きな影響を及ぼす重要な変数を対象にしてグループ分けが行われる。グループ分けの対象となる変数は予め設定されている。
【0030】
例えば、転炉においては、酸素流量が操業結果に大きな影響を及ぼし、数値解析の結果も酸素流量によって大きく変わる。そこで、教師データセット作成部3は、操業パラメータうちの酸素流量を対象にし、予め酸素流量を所定の範囲に区切ってグループとして分類する。例えば、教師データセット作成部3は、酸素流量を20000~80000Nm3/Hrの範囲で10000Nm3/Hr間隔で6グループに分ける。そして、教師データセット作成部3は、数値解析部2により生成された教師データを、酸素流量に設定された6つのグループのうちのいずれかに振り分ける。このように教師データセット作成部3は、予め設定された変数に対して精錬設備20の操業条件が取り得る条件範囲に応じて複数の条件範囲を設定する設定処理と、数値解析部2により生成された教師データを設定処理により設定された複数の条件範囲(グループ)に応じて場合分けして格納する分類処理とを実行する。
【0031】
また、グループは、複数の変数について設定することができる。グループ分けの対象となる重要な変数は、複数の変数であってもよい。具体的には、酸素流量とは別の重要な変数として、ランス高さが挙げられる。例えば、ランス高さを1.5~4.0mの範囲で0.5m間隔の5グループに分ける。この場合、酸素流量の6グループ×ランス高さの5グループ=30グループの教師データセットが生成される。このようなグループ分けを適用することにより、後述する予測処理において予測したい条件に近い条件のみの教師データをまとめたデータセットを作成することができる。そのため、予測精度の向上と予測時間の短縮を同時に実現できる。これにより、ステップS2の処理は完了し、解析処理はステップS3の処理に進む。
【0032】
ステップS3の処理では、予測モデル生成部4が、教師データセットを用いて機械学習を行い、予測モデルを生成する。予測モデル生成部4は、精錬設備20の操業実績に応じて、操業条件の値に該当する教師データセットを選定し、その選定した教師データセットを基づいた機械学習を行う。
【0033】
後述する画像予測の際に、予測したい条件とかけ離れた教師データを用いて生成された予測モデルを使用すると、予測精度の悪化を招くため、予測モデルを生成する際に、多数用意した教師データを全てまとめて使用してことは好ましくない。多くの予測モデルでは、予測したい条件からかけ離れた教師データは重みを小さくして予測結果への反映しにくくするようになっているが、影響を完全にゼロにはならない。高い予測精度が求められる場合には、指定した条件とかけ離れたデータは予測において有害である。そこで、予測モデル生成部4が実行する予測モデルの生成処理では、所定の範囲に区切られたグループごとの教師データセットを用いて機械学習を行い、各グループに対応する予測モデルを生成する。
【0034】
予測モデル生成部4は、教師データDB9内に蓄積されている教師データセット(所定の条件範囲に対応する精錬設備20の操業パラメータと物理量分布画像との組)を用いて、機械学習を行う。すなわち、予測モデル生成部4は、操業データDB10内に格納されている精錬設備20の操業条件を用いて、機械学習を行う。その際、予測モデル生成部4は、教師データセットを構成するグループごとに予測モデルを生成する。生成された予測モデルは、精錬用統計解析装置1が備える記憶部に格納される。つまり、精錬用統計解析装置1は、数値解析部2、教師データセット作成部3、及び予測モデル生成部4を備え、予測モデルを生成する予測モデル生成装置として機能する。これにより、ステップS3の処理は完了し、解析処理はステップS4の処理に進む。
【0035】
ステップS4の処理では、操業データ取得部5が、精錬設備20の操業時にその操業条件及び操業成績の実績値に関する情報を精錬設備20から操業データとして取得し、取得した操業データを操業データDB10内に格納する。ステップS4の処理は、精錬設備20が操業する際に実行される。すなわち、ステップS4において、精錬設備20による操業を行い、操業時の条件や成績といった操業データを操業データ取得部5により取得して操業データDB10に格納する。
【0036】
精錬設備20の操業条件に関する情報としては、溶鋼装入量、溶鋼温度、溶鋼組成、吹き込み酸素流量、ランス形状、ランス高さ、底吹き流量、副原料投入量等のステップS1の処理における数値解析を行う上で必要になる情報を例示できる。また、精錬設備20の操業成績に関する情報としては、溶鋼の組成の低下速度である脱炭速度、脱リン速度、副原料の使用量、及び精錬時間等を例示することができる。これにより、ステップS4の処理は完了し、解析処理はステップS5の処理に進む。
【0037】
ステップS5の処理では、予測部6が、ステップS4の処理で取得した操業条件を要求点(物理量分布画像を予測したい条件)とし、その要求点に対する物理量分布画像(数値解析画像)を、ステップS3の処理で生成された予測モデルを用いた統計解析により予測する。予測部6は、精錬設備20が操業中にその操業条件に対する数値解析画像を予測モデルに基づいた統計解析により予測する。
【0038】
この場合、予測部6は、操業中の精錬設備20の操業条件に基づいて、この操業条件に近い条件を用いて生成された予測モデルを選定する。予測部6が実行する予測処理では、予測したい条件に近い条件で計算された教師データ(数値解析結果の画像)だけを用いて生成された予測モデルを選定する。
【0039】
例えば予測部6は、教師データセットにおけるグループ分けされた条件範囲のうち、予測したい条件(操業中の操業条件)に当てはまるグループを特定し、その特定されたグループの教師データのみを用いた機械学習により生成された予測モデルを選定する。このように予測部6は操業中の操業条件に該当するグループを特定し、そのグループに属する教師データセットを用いて生成された予測モデルを選定する。実際の転炉の操業が行われたら、操業条件の値に当てはまる教師データセットにより生成された予測モデルを選定して予測に使用する。このように構成された予測部6は、精錬設備20の操業実績に応じて選定された教師データセットに基づく機械学習によって生成された、操業中の精錬設備20内の物理量分布画像を統計解析により予測する予測モデルを用いて、精錬設備20の操業条件により操業中の精錬設備20内の物理量分布画像(数値解析結果)を統計解析により予測する。
【0040】
なお、この際、画像ファイルは画像の色の情報を有しているだけであるため、画像の色がどの物理量のいくらの値を示すか変換する必要がある。通常は、数値解析画像のコンター図作成の際に必要となる色と物理量の値の関係式で変換を行う。画像は多数のドットの集合であるため、画素数に応じて全てのドットの値を予測する必要がある。また、画素数が多いほど解析の負荷は当然上昇する。統計解析手法としては、回帰モデル(線形回帰、重回帰、局所回帰等)、主成分分析、ニューラルネットワーク等を例示できる。これにより、ステップS5の処理は完了し、解析処理はステップS6の処理に進む。
【0041】
ステップS6の処理では、物理量抽出部7が、ステップS5の処理において予測された物理量分布画像から後述する操業影響因子を特定する際に用いる物理量の値を画像解析技術により抽出する。
【0042】
例えば物理量分布画像が噴流流速の分布画像である場合、物理量抽出部7は、湯面高さ座標における溶鋼流速最大値、溶鋼流速平均値、ランスからの酸素吐出直後の溶鋼流速、噴流が直進方向から逸れた角度、及び噴流形状(幅、広がり)等を抽出する。なお、画像解析技術は様々な技術分野で確立されており、これらの技術を利用することにより画像解析が容易になる。例えば鉄鋼材料分野では、ミクロな結晶組織画像から特定の結晶粒を認識して結晶粒の粒径や数等を抽出することが行われているが、手作業では時間がかかるため、コンピュータプログラムにより自動で抽出することが行われている。従って、この技術を応用することにより湯面位置圧力分布から所定の圧力以上の領域の火点面積を抽出するといった処理を行うことができる。
【0043】
またその他、混相流の数値解析を行った場合においては、転炉縦断面の溶鋼質量分布からキャビティ(上吹き酸素によって発生した溶鋼の凹み)の形状や深さといった情報を画像解析から抽出することができる。また、画像中のスプラッシュを認識して数を数える、スプラッシュのサイズの統計を取るといったことも可能である。画像解析を行うメリットとして、物理量分布画像の情報量が多くても必要な物理量を様々な形で抽出できることが挙げられる。統計解析の主な目的の一つは操業影響因子(操業結果を大きく左右する物理量)を特定することである。しかしながら、操業影響因子の候補となる物理量として何をどのように抽出すれば良いかは統計解析を行う前にはわからないため、可能な限り物理量の候補を増やしておきたい。候補となる物理量とその抽出法を画像解析でプログラム化することにより、物理量の抽出数を増やすことができる。これにより、ステップS6の処理は完了し、解析処理はステップS7の処理に進む。
【0044】
ステップS7の処理では、操業影響因子特定部8が、ステップS6の処理において物理用分布画像から抽出された物理量と物理量分布画像を予測する際に用いた精錬設備20の操業条件に対応する操業成績との相関関係を解析することにより、精錬設備20の操業成績に関係する物理量を操業影響因子として特定する。なお、物理量と操業成績の相関関係は単純な相関解析により評価しても構わないが、ニューラルネットワークのような手法を適用すれば、複数の物理量同士の相関関係が操業成績に与える影響も解析することができる。また、操業成績と相関のある物理量で回帰式を作成してもよい。例えば相関解析によって脱炭速度に対する操業影響因子が湯面流速、酸素流量、及びランス高さのであると特定された場合、脱炭速度=a×湯面流速+b×酸素流量+c×ランス高さといったような回帰式を作成することにより、操業条件を変更した場合の脱炭速度の改善代を見積ることができる。また、回帰式から最適な操業条件を特定し、以後の精錬設備20の操業条件の制御に利用することもできる。これにより、ステップS7の処理は完了し、一連の解析処理は終了する。
【0045】
以後、精錬設備20のオペレータは、ステップS7の処理において特定された操業影響因子に基づいて操業条件を変更して精錬設備20の操業成績の改善を図る。例えばステップS7の処理において上吹き酸素流量を現行の量より増やすことにより精錬設備20の操業成績が改善されるとの知見を得た場合、精錬設備20のオペレータは上吹き酸素流量を増加するように精錬設備20の操業条件を手動で変更する。なお、制御装置21が精錬設備20の操業条件を自動で変更するようにしてもよい。例えばステップS7の処理において溶鋼量が300トンである場合はランス高さを3mとするとよいとの知見を得た場合、溶鋼量が300トンの操業の際には制御装置21がランス高さを3mに自動で変更するようにしてもよい。また、ステップS4~ステップS7の処理を各チャージ終了後にオンラインで毎回実施し、最適化された操業条件で毎チャージ操業するようにしてもよい。この解析処理について、ステップS1~S3の処理を予測モデル生成方法とし、ステップS4~S7の処理を統計解析方法とすることができる。さらに、精錬用統計解析装置1は、この統計解析方法によって特定された操業影響因子を制御することにより精錬設備20の操業を制御するステップを含む精錬設備20の制御方法を行うことが可能である。
【実施例0046】
実施例では、対象となる精錬設備20は、
図3に示す転炉30である。数値解析モデルとして、
図4に示す気相の上吹き噴流解析モデルを使用した。なお、
図3には、溶鋼31、スラグ32、ランス33、噴流34が示されている。また、
図4には、ランス33、炉口36、溶鋼界面37が示されている。
【0047】
上吹き噴流解析モデルのパラメータは酸素流量、及びランス高さとして、各20水準、計400水準の解析を行い、教師データとなる
図5に示す解析結果画像(
図5に示す例は流速分布画像)を準備した。次に、転炉30の1000チャージ分の操業データを取得し、回帰モデルを使用した画像解析によって、各チャージの数値解析結果画像を予測した。その際、予測精度向上と予測時間短縮のために、操業への影響が大きい重要な変数である酸素流量とランス高さとを各々グループに分けて、全ての教師データをグループに振り分けた。
【0048】
具体的には、酸素流量を20000~30000Nm3/Hr、30000~40000Nm3/Hr、40000~50000Nm3/Hr、50000~60000Nm3/Hr、60000~70000Nm3/Hr、70000~80000Nm3/Hrのように6つの範囲グループに設定した。例えば、酸素流量が22000Nm3/Hrで計算した教師データであれば、20000~30000Nm3/Hrのグループに振り分ける。実際の転炉30で25000Nm3/Hrの条件で操業された場合は20000~30000Nm3/Hrに属している全ての教師データを使用して生成された予測モデルを用いて予測を行う。
【0049】
次に、酸素流量で分けた6グループ各々について、ランス高さを1.5~2.0m、2.0~2.5m、2.5~3.0m、3.0~3.5m、3.5~4.0mのグループに分けた。酸素流量のグループが6グループ、ランス高さのグループが5グループであるため、全部で6×5=30グループに分けられる。酸素流量が35000Nm3/Hr、ランス高さが2.7mで転炉30が操業する場合、40000~50000Nm3/Hrかつランス高さ2.5~3.0mのグループに属する教師データのみを使用して生成された予測モデルを使用して予測する。
【0050】
同時に予測精度のチェックを行った。やり方としては、教師データとして用意した多数のデータのうち、一つだけ除外して予測に使用せず、さらに、予測を実施する際の入力条件として、除外した教師データの解析条件(説明変数)を使用すると方法である。除外した教師データが予測した結果の正解となるため、予測結果と正解の乖離の程度から精度チェックができる。その結果、全ての教師データを使用した場合の予測では、湯面の最大流速の予測値に±5m/secの乖離が発生していたが、操業条件に近い条件のみの教師データのグループを使用した場合は、湯面の最大流速の予測値が±1m/secに低減され、予測精度を向上できた。また、1チャージ当りの数値解析画像予測時間を1/30に短縮することができた。これにより、教師データの場合分けが予測の精度向上と時間短縮に有効であることが示された。
【0051】
物理量の分布画像は、流速分布、圧力分布、温度分布、密度分布、組成分布を使用し、それらの画像から、高さ毎の最大流速、吐出流速、噴流の直進度(合体)、湯面最大動圧、火点面積、火点平均動圧、火点最大温度、炉内雰囲気温度、排ガス濃度、排ガス流量、排ガス温度等の多数の物理量の値を抽出した。
【0052】
1000チャージ分の予測データに対し、回帰木を使用して重要度を算出したところ、湯面の平均動圧と脱炭速度の重要度が高いことがわかった。そこで、さらにランス形状を変更した数値計算を多数実施し、湯面平均動圧を向上させるようなランスを探索・特定した。特定した形状のランスを使用することで、脱炭速度が向上したため、操業改善につなげることができた。
【0053】
以上の説明から明らかなように、精錬用統計解析装置1によれば、予測したい条件と近い条件で計算された数値解析結果を教師データとして生成された予測モデルを用いて統計解析による予測を行うため、精錬プロセスの統計解析処理の精度を向上させることができる。また、特定された操業影響因子を制御することにより精錬設備20の操業を制御することにより、精錬設備20の操業成績を改善することができる。
【0054】
詳しくは、精錬設備20における統計解析の課題である精錬設備20内のデータ取得に関しては、数値解析で計算した精錬設備20内の物理量分布データを使用することで補うことができる。しかしながら、数値解析は計算時間が長いため、計算時間を短縮しなければ十分なデータ数を得ることができない。そこで、本実施形態では、数値解析の過去データを教師データとして、指定した数値解析結果を統計解析の手法で予測することにより、数値解析結果を迅速に提供できるようにした。また、その際、数値解析の入力と出力を情報量の多い画像にして、画像解析を組み合わせることにより多くの数値解析データを有効活用できるようにした。これにより、精錬プロセスの統計解析処理の精度を向上させることができる。
【0055】
なお、グループ分けの対象となる変数は、酸素流量とランス高さとのうちの少なくとも一方を含んでいればよい。すなわち、酸素流量とランス高さとの両方を対象にグループ分けした教師データセットを生成する構成であってもよく、酸素流量のみを対象にグループ分けした教師データセットを生成する構成であってもよく、ランス高さのみを対象にグループ分けした教師データセットを生成する構成であってもよい。
【0056】
また、教師データセットのグループ数は、任意の数に設定できる。つまり、酸素流量に対するグループ数は6個に限定されない。ランス高さに対するグループ数は5個に限定されない。酸素流量とランス高さとをグループ分けする場合、そのグループ数は30個に限定されない。すなわち、教師データセットを作成する際の条件範囲は、上述した条件範囲に限定されない。操業条件が取り得る範囲内において予測精度の向上に寄与する条件範囲で設定することができる。
【0057】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本実施形態は本発明を精錬設備に適用したものであるが、本発明の適用範囲は精錬設備に限定されることはなく、数値解析を実行可能な設備全般に適用することができる。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。