(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033150
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】画像取得装置および画像取得方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20240306BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01T1/161 A
G01T1/161 C
G01T1/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136575
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】大田 良亮
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
(72)【発明者】
【氏名】橋本 二三生
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 知生
(72)【発明者】
【氏名】大西 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】磯部 卓志
【テーマコード(参考)】
2G188
4C188
【Fターム(参考)】
2G188AA02
2G188BB04
2G188BB07
2G188CC21
2G188CC26
2G188CC28
2G188DD05
2G188DD30
2G188EE01
2G188EE12
2G188EE16
2G188EE39
4C188EE02
4C188FF07
4C188GG19
4C188GG21
4C188JJ05
4C188KK02
4C188KK09
4C188KK15
4C188KK33
4C188KK35
4C188LL05
(57)【要約】
【課題】画像再構成処理を行うことなく被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得することができる画像取得装置および画像取得方法を提供する。
【解決手段】画像取得装置1Aは、測定部10および処理部20を備える。処理部20は、陽電子放出核種81における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器11および第2検出器12が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器11および第2検出器12のうちの一方に到来したガンマ線光子が被検体90内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体90内でコンプトン散乱した後に到来したものであるとして、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種81の位置に基づいて、ガンマ線光子が被検体90内でコンプトン散乱した位置を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々ガンマ線光子を検出する第1検出器および第2検出器を含み、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれがガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する測定部と、
前記第1検出器および前記第2検出器それぞれから出力される信号を処理する処理部と、
を備え、
前記測定部は、第1測定モードでは、前記第1検出器と前記第2検出器との間に被検体が置かれ、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力し、
前記処理部は、前記第1測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を前記第1検出器および前記第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、前記第1検出器および前記第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものであるとして、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成する、
画像取得装置。
【請求項2】
前記測定部は、第2測定モードでは、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された前記被検体が前記第1検出器と前記第2検出器との間に置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力し、
前記処理部は、
前記第2測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を前記第1検出器および前記第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、前記対消滅事象が発生した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成し、
前記第2断層画像を前記第1断層画像に基づいて補正する、
請求項1に記載の画像取得装置。
【請求項3】
各々ガンマ線光子を検出する第1検出器および第2検出器を含み、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれがガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する測定部と、
前記第1検出器および前記第2検出器それぞれから出力される信号を処理する処理部と、
を備え、
前記測定部は、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体が前記第1検出器と前記第2検出器との間に置かれるとともに、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力し、
前記処理部は、
陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を前記第1検出器および前記第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、
前記第1検出器および前記第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものである場合に、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻、ならびに、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に置かれた陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した位置を求め、
前記第1検出器および前記第2検出器の双方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものである場合に、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、前記対消滅事象が発生した位置を求め、
複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成し、複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成し、前記第2断層画像を前記第1断層画像に基づいて補正する、
画像取得装置。
【請求項4】
前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に置かれる陽電子放出核種と、前記被検体に投与される薬剤を標識する陽電子放出核種とは、互いに同種のものである、
請求項2または3に記載の画像取得装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記第1検出器または前記第2検出器に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱を経たものであるか否かを、陽電子放出核種の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定する、
請求項1~3の何れか1項に記載の画像取得装置。
【請求項6】
前記測定部は、前記第1検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれるとともに、前記第2検出器と前記被検体との間にも陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する、
請求項1~3の何れか1項に記載の画像取得装置。
【請求項7】
前記測定部は、前記第1検出器の検出面が前記第2検出器の検出面と比べて狭く、前記第1検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する、
請求項1~3の何れか1項に記載の画像取得装置。
【請求項8】
前記測定部は、前記第1検出器および前記第2検出器のうちの何れか一方で後方散乱したガンマ線光子が他方へ入射することを防止する遮蔽体を更に含む、
請求項1~3の何れか1項に記載の画像取得装置。
【請求項9】
前記測定部は、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間において陽電子放出核種を移動させる移動部を更に含む、
請求項1~3の何れか1項に記載の画像取得装置。
【請求項10】
各々ガンマ線光子を検出する第1検出器および第2検出器を用い、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれがガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する測定ステップと、
前記第1検出器および前記第2検出器それぞれから出力される信号を処理する処理ステップと、
を備え、
前記測定ステップは、第1測定モードでは、前記第1検出器と前記第2検出器との間に被検体が置かれ、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力し、
前記処理ステップは、前記第1測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を前記第1検出器および前記第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、前記第1検出器および前記第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものであるとして、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成する、
画像取得方法。
【請求項11】
前記測定ステップは、第2測定モードでは、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された前記被検体が前記第1検出器と前記第2検出器との間に置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力し、
前記処理ステップは、
前記第2測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を前記第1検出器および前記第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、前記対消滅事象が発生した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成し、
前記第2断層画像を前記第1断層画像に基づいて補正する、
請求項10に記載の画像取得方法。
【請求項12】
各々ガンマ線光子を検出する第1検出器および第2検出器を用い、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれがガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する測定ステップと、
前記第1検出器および前記第2検出器それぞれから出力される信号を処理する処理ステップと、
を備え、
前記測定ステップは、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体が前記第1検出器と前記第2検出器との間に置かれるとともに、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力し、
前記処理ステップは、
陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を前記第1検出器および前記第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、
前記第1検出器および前記第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものである場合に、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻、ならびに、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に置かれた陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱した位置を求め、
前記第1検出器および前記第2検出器の双方に到来したガンマ線光子が前記被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものである場合に、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、前記対消滅事象が発生した位置を求め、
複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成し、複数の同時計数事象それぞれについて求めた前記被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成し、前記第2断層画像を前記第1断層画像に基づいて補正する、
画像取得方法。
【請求項13】
前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間に置かれる陽電子放出核種と、前記被検体に投与される薬剤を標識する陽電子放出核種とは、互いに同種のものである、
請求項11または12に記載の画像取得方法。
【請求項14】
前記処理ステップは、前記第1検出器または前記第2検出器に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱を経たものであるか否かを、陽電子放出核種の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定する、
請求項10~12の何れか1項に記載の画像取得方法。
【請求項15】
前記測定ステップは、前記第1検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれるとともに、前記第2検出器と前記被検体との間にも陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する、
請求項10~12の何れか1項に記載の画像取得方法。
【請求項16】
前記測定ステップは、前記第1検出器として前記第2検出器と比べて検出面が狭いものを用い、前記第1検出器と前記被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、前記第1検出器および前記第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する、
請求項10~12の何れか1項に記載の画像取得方法。
【請求項17】
前記測定ステップは、前記第1検出器および前記第2検出器のうちの何れか一方で後方散乱したガンマ線光子が他方へ入射することを遮蔽体により防止する、
請求項10~12の何れか1項に記載の画像取得方法。
【請求項18】
前記測定ステップは、前記第1検出器または前記第2検出器と前記被検体との間において陽電子放出核種を移動させる、
請求項10~12の何れか1項に記載の画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像取得装置および画像取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET装置(Positron Emission Tomography)装置およびSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置等の核医学診断装置は、陽電子放出核種または単一光子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体の断層画像を取得することができる。これらの核医学診断装置により取得される断層画像は、被検体における陽電子放出核種または単一光子放出核種の分布(薬剤の分布)を表すものであり、被検体の健康状態の診断に用いられ得るものである。
【0003】
X線CT装置も被検体の三次元断層画像を取得することができる。X線CT装置により取得される断層画像は、被検体の解剖学的情報を表すものである。以後、断層画像は三次元断層画像であるとする。
【0004】
PET装置とX線CT装置とを併用して、X線CT装置により取得された解剖学的情報を用いてPET画像を補正することにより、PET画像の画質向上を図ることが行われている。しかし、X線CT装置は高価であることから、被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得することができる安価な装置の研究開発が行われている。
【0005】
非特許文献1および特許文献1それぞれには、被検体における陽電子放出核種の分布を表す断層画像および解剖学的情報を表す断層画像の双方を取得することができる装置が記載されている。
【0006】
非特許文献1に記載された装置は、被検体が置かれる測定空間の周囲に多数の検出器が配置されたPET装置の構成を有する。この装置は、LSO(Lu2SiO5:Ce)シンチレータを有する検出器を用いて、各検出器のLSOシンチレータに含まれる176Luから放射されたエネルギ307keVまたは202keVのガンマ線のうち、被検体を透過したガンマ線を他の検出器により検出する。そして、この装置は、エネルギ307keVまたは202keVのガンマ線の検出結果に基づいて画像再構成処理を行うことにより、被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得する。
【0007】
特許文献1に記載された装置は、電子飛跡追跡型コンプトンカメラ(ETCC、Electron Tracking Compton Camera)を利用する。通常のコンプトンカメラは、散乱体および吸収体それぞれでのエネルギ情報に基づいて、コンプトンコーンと呼ばれる円錐面上の何れかの位置からガンマ線が飛来したと推定する。これに対して、ETCCは、ガス検出器を用いて反跳電子の飛跡を追跡することにより、ガンマ線飛来方向を一意に特定することができるとされている。この装置は、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体で発生したガンマ線のうち、被検体でコンプトン散乱してエネルギが低下したガンマ線の飛来方向をETCCにより検出する。そして、この装置は、ETCCによるガンマ線飛来方向の検出結果に基づいて解析的手法または統計的手法を用いて、すなわち、画像再構成処理を行うことにより、被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mohammadreza Teimoorisichani etal., Med. Phys., 2022, vol 49, page 309-323
【非特許文献2】Gerard Arino-Estrada, et al.,Phys. Med. Biol., 64 (2019) 175001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1および特許文献1の何れに記載された技術も、被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得するために、ガンマ線検出結果に基づいて画像再構成処理を行うことが必要である。画像再構成処理により取得される断層画像は、その画像再構成処理に起因して画質が低下し、解剖学的情報が劣化したものとなる。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、画像再構成処理を行うことなく被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得することができる画像取得装置および画像取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の画像取得装置は、(1) 各々ガンマ線光子を検出する第1検出器および第2検出器を含み、第1検出器および第2検出器それぞれがガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する測定部と、(2) 第1検出器および第2検出器それぞれから出力される信号を処理する処理部と、を備える。本発明の画像取得装置は、次のような態様が可能である。
【0013】
画像取得装置の第1態様では、測定部および処理部は次のようなものである。測定部は、第1測定モードでは、第1検出器と第2検出器との間に被検体が置かれ、第1検出器または第2検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理部は、第1測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器および第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器および第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものであるとして、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子がコンプトン散乱した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成する。
【0014】
画像取得装置の第2態様では、第1態様に加えて、測定部および処理部は次のようなものである。測定部は、第2測定モードでは、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体が第1検出器と第2検出器との間に置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理部は、第2測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器および第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、対消滅事象が発生した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成する。そして、処理部は、第2断層画像を第1断層画像に基づいて補正する。
【0015】
画像取得装置の第3態様では、測定部および処理部は次のようなものである。測定部は、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体が第1検出器と第2検出器との間に置かれるとともに、第1検出器または第2検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理部は、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器および第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、(a) 第1検出器および第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものである場合に、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻、ならびに、第1検出器または第2検出器と被検体との間に置かれた陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した位置を求め、(b) 第1検出器および第2検出器の双方に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱することなく到来したものである場合に、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、対消滅事象が発生した位置を求める。そして、処理部は、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成し、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成し、第2断層画像を第1断層画像に基づいて補正する。
【0016】
画像取得装置の第4態様では、第2態様または第3態様に加えて、第1検出器または第2検出器と被検体との間に置かれる陽電子放出核種と、被検体に投与される薬剤を標識する陽電子放出核種とは、互いに同種のものである。
【0017】
画像取得装置の第5態様では、第1~第4の態様の何れかに加えて、処理部は、第1検出器または第2検出器に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱を経たものであるか否かを、陽電子放出核種の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定する。
【0018】
画像取得装置の第6態様では、第1~第5の態様の何れかに加えて、測定部は、第1検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれるとともに、第2検出器と被検体との間にも陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0019】
画像取得装置の第7態様では、第1~第6の態様の何れかに加えて、測定部は、第1検出器の検出面が第2検出器の検出面と比べて狭く、第1検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0020】
画像取得装置の第8態様では、第1~第7の態様の何れかに加えて、測定部は、第1検出器および第2検出器のうちの何れか一方で後方散乱したガンマ線光子が他方へ入射することを防止する遮蔽体を更に含む。
【0021】
画像取得装置の第9態様では、第1~第8の態様の何れかに加えて、測定部は、第1検出器または第2検出器と被検体との間において陽電子放出核種を移動させる移動部を更に含む。
【0022】
本発明の画像取得方法は、(1) 各々ガンマ線光子を検出する第1検出器および第2検出器を用い、第1検出器および第2検出器それぞれがガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する測定ステップと、(2) 第1検出器および第2検出器それぞれから出力される信号を処理する処理ステップと、を備える。本発明の画像取得方法は、次のような態様が可能である。
【0023】
画像取得方法の第1態様では、測定ステップおよび処理ステップは次のようなものである。測定ステップは、第1測定モードでは、第1検出器と第2検出器との間に被検体が置かれ、第1検出器または第2検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理ステップは、第1測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器および第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器および第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものであるとして、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種の位置に基づいて、被検体内でガンマ線光子がコンプトン散乱した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成する。
【0024】
画像取得方法の第2態様では、第1態様に加えて、測定ステップおよび処理ステップは次のようなものである。測定ステップは、第2測定モードでは、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体が第1検出器と第2検出器との間に置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理ステップは、第2測定モードでは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により被検体内で生成される一対のガンマ線光子を第1検出器および第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、対消滅事象が発生した位置を求め、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成する。そして、処理ステップは、第2断層画像を第1断層画像に基づいて補正する。
【0025】
画像取得方法の第3態様では、測定ステップおよび処理ステップは次のようなものである。測定ステップは、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被検体が第1検出器と第2検出器との間に置かれるとともに、第1検出器または第2検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理ステップは、陽電子放出核種における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器および第2検出器が同時計数した同時計数事象毎に、(a) 第1検出器および第2検出器のうちの一方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものである場合に、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻、ならびに、第1検出器または第2検出器と被検体との間に置かれた陽電子放出核種の位置に基づいて、ガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した位置を求め、(b) 第1検出器および第2検出器の双方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものである場合に、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、対消滅事象が発生した位置を求める。そして、処理ステップは、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成し、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成し、第2断層画像を第1断層画像に基づいて補正する。
【0026】
画像取得方法の第4態様では、第2態様または第3態様に加えて、第1検出器または第2検出器と被検体との間に置かれる陽電子放出核種と、被検体に投与される薬剤を標識する陽電子放出核種とは、互いに同種のものである。
【0027】
画像取得方法の第5態様では、第1~第4の態様の何れかに加えて、処理ステップは、第1検出器または第2検出器に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱を経たものであるか否かを、陽電子放出核種の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定する。
【0028】
画像取得方法の第6態様では、第1~第5の態様の何れかに加えて、測定ステップは、第1検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれるとともに、第2検出器と被検体との間にも陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0029】
画像取得方法の第7態様では、第1~第6の態様の何れかに加えて、測定ステップは、第1検出器として第2検出器と比べて検出面が狭いものを用い、第1検出器と被検体との間に陽電子放出核種が置かれた状態で、第1検出器および第2検出器それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0030】
画像取得方法の第8態様では、第1~第7の態様の何れかに加えて、測定ステップは、第1検出器および第2検出器のうちの何れか一方で後方散乱したガンマ線光子が他方へ入射することを遮蔽体により防止する。
【0031】
画像取得方法の第9態様では、第1~第8の態様の何れかに加えて、測定ステップは、第1検出器または第2検出器と被検体との間において陽電子放出核種を移動させる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、画像再構成処理を行うことなく、被検体の解剖学的情報を表す断層画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、第1実施形態の画像取得装置1Aの構成を示す図(特に第1測定モードによる第1断層画像の取得を説明する図)である。
【
図2】
図2は、ガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した位置を求める方法を説明する図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の画像取得装置1Aの構成を示す図(特に第2測定モードによる第2断層画像の取得を説明する図)である。
【
図4】
図4は、第2実施形態の画像取得装置1Bの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態の画像取得装置1Cの構成を示す図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態の画像取得装置1Dの構成を示す図である。
【
図7】
図7は、第5実施形態の画像取得装置1Eの構成を示す図である。
【
図8】
図8は、第6実施形態の画像取得装置1Fの構成を示す図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、第6実施形態の画像取得装置1Fの測定部10Fにおいて陽電子放出核種81を第1検出器11の検出面に平行な方向に移動させた場合の装置の視野の変化を説明する図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、第6実施形態の画像取得装置1Fの測定部10Fにおいて陽電子放出核種81を第1検出器11の検出面に垂直な方向に移動させた場合の第1断層画像の画質を説明する図である。
【
図11】
図11は、シミュレーションで想定した測定部の構成および配置を示す図である。
【
図12】
図12は、シミュレーションで被検体90として想定したファントムの構成を示す図である。
【
図13】
図13は、シミュレーションで得られた第1断層画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0035】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の画像取得装置1Aの構成を示す図である。画像取得装置1Aは、測定部10、処理部20および表示部30を備える。測定部10は、被検体90を挟んで対向して配置される第1検出器11および第2検出器12を含む。第1検出器11および第2検出器12それぞれは、ガンマ線光子を検出するものであり、ガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。処理部20は、第1検出器11および第2検出器12それぞれから出力される信号を処理して、被検体90の断層画像を作成する。表示部30は、処理部20により作成された断層画像等を表示する。処理部20および表示部30は、例えばコンピュータにより構成され得る。
【0036】
第1検出器11および第2検出器12それぞれとして、例えば、チェレンコフ検出器が用いられる。チェレンコフ検出器は、チェレンコフ輻射体(例えば、鉛ガラス、フッ化鉛PbF2、酸化ハフニウムHfO2、等)およびマイクロチャネルプレート内蔵光電子増倍管(MCP-PMT)を含んで構成される。チェレンコフ検出器は、例えば、個々には位置検出能を有しない小型のものが2次元配列されたものであってもよいし、チェレンコフ輻射体とマルチアノードMCP-PMTとを組み合わせた構成であってもよい。
【0037】
また、チェレンコフ検出器は、BGO(Bi4Ge3O12)のような低速なシンチレータをチェレンコフ輻射体として利用したものであってもよい。低速なシンチレータは、ガンマ線と相互作用して、まずチェレンコフ光を放出し、その後にシンチレーション光を放出するので、チェレンコフ輻射体として用いることができ、高時間分解能を達成することができる。これにより、LSOシンチレータなどと比べて安価な検出器を構成することができる。
【0038】
また、第1検出器11および第2検出器12それぞれとして、例えば、高時間分解能な半導体検出器であってもよい。高時間分解能な半導体検出器は、例えば、臭化タリウム(TlBr)を用いたものであり、電荷収集用の電極および高時間分解能光検出器が備えられているものである。例えば、非特許文献2に記載されたものものであってもよい。半導体検出器を用いることで、エネルギ分解能が向上し、その結果、散乱成分の除去能が向上し、画質が向上することが期待される。
【0039】
PET装置のような核医学診断装置で取得される断層画像の空間分解能が3~5mm程度であることを考慮すると、第1検出器11および第2検出器12それぞれに求められる空間分解能も、それと同等か、それより良いことが望まれる。同様に、第1検出器11および第2検出器12それぞれに求められる時間分解能は、同時計数時間分解能で20~35ps、または、これ以下であることが望まれる。
【0040】
第1検出器11および第2検出器12それぞれは、チェレンコフ輻射体またはシンチレータを含む場合、チェレンコフ光またはシンチレーション光を検出した位置および時刻ではなく、チェレンコフ輻射体またはシンチレータにおいてガンマ線が相互作用した位置(検出位置)および時刻(検出時刻)を表す信号を出力するのが好ましい。この場合、検出位置は、検出器の検出面に平行な2方向の位置だけでなく垂直な方向の位置についても特定する3次元座標値で表される。
【0041】
第1検出器11および第2検出器12それぞれの検出面は、被検体90(または、被検体90のうちの関心領域)より大きいサイズを有するのが好適である。例えば、ヒトの脳の断層画像を取得する画像取得装置の場合には、第1検出器11および第2検出器12それぞれの検出面は、ヒトの脳の大きさと同程度、または、これより大きいサイズを有するのが好適である。
【0042】
画像取得装置1A、および、これを用いた画像取得方法は、第1測定モードにより被検体90の断層画像(第1断層画像)を取得する。また、画像取得装置1Aおよび画像取得方法は、第2測定モードにより被検体90の断層画像(第2断層画像)を取得することもできる。第1断層画像は、被検体90におけるコンプトン散乱位置の分布を表す画像であり、被検体90の解剖学的情報を表すものである。第2断層画像は、被検体90における陽電子放出核種の分布(薬剤の分布)を表すものであり、被検体90の健康状態の診断に用いられ得るものである。
【0043】
第1測定モードによる第1断層画像の取得は、次のように第1測定ステップおよび第1処理ステップにより行われる。
図1は、第1実施形態の画像取得装置1Aの構成を示す図であり、特に第1測定モードによる第1断層画像の取得を説明する図である。
【0044】
第1測定ステップでは、被検体90が第1検出器11と第2検出器12との間に置かれる。このとき、被検体90には陽電子放出核種が投与されていなくてよい。第1検出器11または第2検出器12と被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれる。陽電子放出核種81は可能な限り小さいものを用いるのが好適である。この図では、第1検出器11と被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれている。陽電子放出核種81から放出される陽電子は、近くにある電子とともに直ちに対消滅して、この電子・陽電子の対消滅事象により、互いに反対方向に飛行する一対のガンマ線光子が生成される。第1検出器11および第2検出器12それぞれは、ガンマ線を検出すると、そのガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0045】
第1処理ステップでは、処理部20は、陽電子放出核種81における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器11および第2検出器12が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器11および第2検出器12のうちの一方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものであるとして、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種81の位置に基づいて、ガンマ線光子がコンプトン散乱した位置を求める。
【0046】
そして、処理部20は、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体90におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成する。この第1断層画像は、被検体90の解剖学的情報を表すものである。
【0047】
処理部20は、第1検出器11または第2検出器12に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱を経たものであるか否かを、陽電子放出核種81の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定することができる。
図1に示されるように、第1検出器11と被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれるのであれば、第1検出器11に到来するガンマ線は被検体内でコンプトン散乱を経ていないと判定することができる。電子・陽電子の対消滅により発生する一対のガンマ線光子のエネルギは511keVであるが、コンプトン散乱によりガンマ線のエネルギが低くなるので、ガンマ線のエネルギの大きさに基づいて、コンプトン散乱を経たものであるか否かを判定することができる。第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出時刻の前後関係に基づいて、被検体内でのコンプトン散乱を経たものであるか否かを判定することができる。
【0048】
図2は、ガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した位置を求める方法を説明する図である。陽電子放出核種81の位置をPとし、第1検出器11によるガンマ線の検出位置をR
1とし、第2検出器12によるガンマ線の検出位置をR
2とし、ガンマ線がコンプトン散乱した位置をCとする。第1検出器11によるガンマ線の検出時刻をt
1とし、第2検出器12によるガンマ線の検出時刻をt
2とする。陽電子放出核種81における電子・陽電子の対消滅事象により生成された一対のガンマ線光子のうち、一方のガンマ線の飛行距離は、位置Pから位置R
1までの距離d
1である。他方のガンマ線の飛行距離は、位置Pから位置Cまでの距離d
21と、位置Cから位置R
2までの距離d
22との和(d
21+d
22)である。
【0049】
一対のガンマ線光子の飛行距離の差(d21+d22-d1)は、これらのガンマ線光子の検出時刻の差(t2―t1)に光速cを乗じた値に等しい。また、位置Pと位置R1とを結ぶ線分と、位置Pと位置Cとを結ぶ線分とは、互いに平行である。以上のことから、第1検出器11によるガンマ線光子の検出位置R1および検出時刻t1、第2検出器12によるガンマ線光子の検出位置R2および検出時刻t2、ならびに、陽電子放出核種81の位置Pに基づいて、ガンマ線光子がコンプトン散乱した位置Cを求めることができる。
【0050】
一対のガンマ線光子の双方ともコンプトン散乱しなかった場合に、
図2で説明した方法により求められるコンプトン散乱位置は陽電子放出核種81の位置Pと一致する。この位置は、被検体90の外部であるから、容易に除外することができる。
【0051】
第2測定モードによる第2断層画像の取得は、次のように第2測定ステップおよび第2処理ステップにより行われる。
図3は、第1実施形態の画像取得装置1Aの構成を示す図であり、特に第2測定モードによる第2断層画像の取得を説明する図である。
【0052】
第2測定ステップでは、陽電子放出核種83で標識された薬剤を投与された被検体90が第1検出器11と第2検出器12との間に置かれる。このとき、被検体90の外部には陽電子放出核種は置かれなくてよい。被検体90に投与された薬剤を標識する陽電子放出核種83における電子・陽電子の対消滅事象により、互いに反対方向に飛行する一対のガンマ線光子が生成される。第1検出器11および第2検出器12それぞれは、ガンマ線を検出すると、そのガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0053】
第2測定ステップにおいて被検体90に投与される薬剤を標識する陽電子放出核種83は、第1測定ステップにおいて第1検出器11と被検体90との間に置かれる陽電子放出核種81と同種のものであるのが好適である。陽電子放出核種83と陽電子放出核種81とを互いに同種のものすることで、用意する陽電子放出核種が1種類でよいので、測定準備が容易となる。なお、陽電子放出核種81は68Ge/68Gaといった校正用陽電子放出核種でもよい。
【0054】
第2処理ステップでは、処理部20は、陽電子放出核種83における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器11および第2検出器12が同時計数した同時計数事象毎に、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、対消滅事象が発生した位置を求める。同時計数事象毎の対消滅事象発生位置は、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出位置を互いに結ぶ線分上において、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出時刻の差に基づいて求めることができる。
【0055】
そして、処理部20は、複数の同時計数事象それぞれについて求めた被検体90における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成する。第1検出器11および第2検出器12の時間分解能が良いため、画像再構成処理をすることなく三次元断層画像である第2断層画像を取得することができる。この第2断層画像は、被検体90における陽電子放出核種83の分布(薬剤の分布)を表すものであり、被検体90の健康状態の診断に用いられ得るものである。処理部20は、さらに、第2断層画像を第1断層画像に基づいて補正することで、被検体90におけるガンマ線吸収分布について補正した後の第2断層画像を取得することができる。
【0056】
第1測定モードによる第1断層画像の取得および第2測定モードによる第2断層画像の取得のうち何れを先に行ってもよい。ただし、第2測定モードによる第2断層画像の取得を先に行うと、その際に被検体90に投与された陽電子放出核種83における対消滅事象が後の第1測定モードによる第1断層画像の取得に影響を与える場合があるので、第1測定モードによる第1断層画像の取得を先に行うのが好ましい。
【0057】
本実施形態では、画像再構成処理を行うことなく、被検体90の解剖学的情報を表す断層画像(第1断層画像)を取得することができるので、画像再構成処理に起因する画質の低下を回避することができ、解剖学的情報の劣化を回避することができる。また、画像再構成処理を行うことなく、被検体における陽電子放出核種の分布(薬剤の分布)を表す断層画像(第2断層画像)を取得することができる。
【0058】
本実施形態では、X線CT装置のような大掛かりな回転機構が不要であるので、小型化で安価な装置とすることができる。また、X線CT装置を利用する場合と比較して、本実施形態では、被検体の被ばく量を低減することができる。
【0059】
非特許文献1に記載された装置は、被検体が置かれる測定空間の周囲に多数の検出器が配置されたPET装置の構成を有することから小型化が困難であり、また、レアマテリアルであるルテチウムLuを含むLSOシンチレータを利用することから低価格化が困難である。これに対して、本実施形態では、これらの問題がなく、小型化および低価格化が可能である。
【0060】
特許文献1に記載された装置は、ガス検出器を用いることから検出効率の向上が困難である。これに対して、本実施形態では、この問題がなく、検出効率の向上が可能である。
【0061】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態の画像取得装置1Bの構成を示す図である。画像取得装置1Bは、測定部10、処理部20および表示部30を備える。第1実施形態と比較すると、第2実施形態では、被検体90におけるコンプトン散乱位置および被検体90における対消滅事象発生位置を共通の期間に求める点で相違する。
【0062】
測定ステップでは、陽電子放出核種83で標識された薬剤を投与された被検体90が第1検出器11と第2検出器12との間に置かれる。また、第1検出器11または第2検出器12と被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれる。この図では、第1検出器11と被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれている。被検体90に投与される薬剤を標識する陽電子放出核種83と、第1検出器11と被検体90との間に置かれる陽電子放出核種81とを互いに同種のものすることで、用意する陽電子放出核種が1種類でよいので、測定準備が容易となる。なお、陽電子放出核種81は68Ge/68Gaといった校正用陽電子放出核種でもよい。陽電子放出核種81および陽電子放出核種83それぞれにおける電子・陽電子の対消滅事象により、互いに反対方向に飛行する一対のガンマ線光子が生成される。第1検出器11および第2検出器12それぞれは、ガンマ線を検出すると、そのガンマ線光子の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0063】
処理ステップでは、処理部20は、陽電子放出核種81または陽電子放出核種83における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子を第1検出器11および第2検出器12が同時計数した同時計数事象毎に、次のような処理を行う。
【0064】
処理部20は、第1検出器11または第2検出器12に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱を経たものであるか否かを、陽電子放出核種81の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定する。
【0065】
処理部20は、上記判定の結果、第1検出器11および第2検出器12のうちの一方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものであり、他方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱した後に到来したものである場合に、その一対のガンマ線光子が被検体90外の陽電子放出核種81から到来したものであるとして、
図2を用いて説明した計算により、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻ならびに陽電子放出核種81の位置に基づいて、被検体90においてガンマ線光子がコンプトン散乱した位置を求める。
【0066】
一方、処理部20は、上記判定の結果、第1検出器11および第2検出器12の双方に到来したガンマ線光子が被検体内でコンプトン散乱することなく到来したものである場合に、その一対のガンマ線光子が被検体90内の陽電子放出核種83から到来したものであるとして、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出位置および検出時刻に基づいて、被検体90において対消滅事象が発生した位置を求める。
【0067】
そして、処理部20は、複数の同時計数事象について上記の処理をした後に、被検体90におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像を作成するとともに、被検体90における対消滅事象発生位置の分布を表す第2断層画像を作成する。第1断層画像は、被検体90の解剖学的情報を表すものである。第2断層画像は、被検体90における陽電子放出核種83の分布(薬剤の分布)を表すものであり、被検体90の健康状態の診断に用いられ得るものである。処理部20は、さらに、第2断層画像を第1断層画像に基づいて補正することにより、被検体90におけるガンマ線吸収分布について補正した後の第2断層画像を取得することができる。
【0068】
第2実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する他、被検体90におけるコンプトン散乱位置および被検体90における対消滅事象発生位置を共通の期間に求めることができるので、被検体90を拘束する時間を短縮することができる。
【0069】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態の画像取得装置1Cの構成を示す図である。画像取得装置1Cは、測定部10、処理部20および表示部30を備える。これまでの実施形態と比較すると、第3実施形態では、第1検出器11と被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれるとともに、第2検出器12と被検体90との間にも陽電子放出核種82が置かれる点で相違する。陽電子放出核種81と陽電子放出核種82とは互いに同種のものであるのが好適である。
【0070】
処理部20は、第1検出器11または第2検出器12に到来したガンマ線光子がコンプトン散乱を経たものであるか否か、ならびに、そのガンマ線光子が陽電子放出核種81および陽電子放出核種82のうちの何れにおいて発生したものであるかを、陽電子放出核種81,82の位置、ガンマ線光子のエネルギの大きさ、ならびに、第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線光子の検出時刻、のうちの何れか1以上に基づいて判定する。処理部20は、その判定結果に基づいて、被検体90においてガンマ線光子がコンプトン散乱した位置を求める。
【0071】
本実施形態では、被検体90に対して陽電子放出核種81,82を対称性よく配置することができるので、より品質のよい第1断層画像を取得することができる。また、被検体90における単位時間当たりのコンプトン散乱事象の数が増えるので、測定時間を短縮することができる。
【0072】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態の画像取得装置1Dの構成を示す図である。画像取得装置1Dは、測定部10D、処理部20および表示部30を備える。これまでの実施形態と比較すると、第4実施形態の画像取得装置1Dは、測定部10に替えて測定部10Dを備える点で相違する。
【0073】
測定部10Dは、第1検出器11Dおよび第2検出器12を含む。第1検出器11Dの検出面は第2検出器12の検出面と比べて狭い。第1検出器11Dと被検体90との間に陽電子放出核種81が置かれる。第1検出器11Dおよび第2検出器12それぞれは、ガンマ線光子を検出したときに検出位置および検出時刻を表す信号を出力する。
【0074】
第1断層画像を取得する為には、陽電子放出核種81における電子・陽電子の対消滅事象により生成される一対のガンマ線光子のうちの一方が第1検出器11Dに入射し他方が被検体90(または、被検体90のうちの関心領域)に入射すればよいから、この条件が満たされる限りで第1検出器11Dの検出面を狭くすることができる。陽電子放出核種81が置かれる位置が第1検出器11Dに近いほど、第1検出器11Dの検出面を狭くすることができる。このように第1検出器11Dを小型のものにすることができるので、画像取得装置1Dを安価に構成することができる。
【0075】
(第5実施形態)
図7は、第5実施形態の画像取得装置1Eの構成を示す図である。画像取得装置1Eは、測定部10E、処理部20および表示部30を備える。これまでの実施形態と比較すると、第5実施形態の画像取得装置1Eは、測定部10に替えて測定部10Eを備える点で相違する。
【0076】
測定部10Eは、第1検出器11および第2検出器12に加えて遮蔽体13を含む。遮蔽体13は、第1検出器11および第2検出器12のうちの何れか一方で後方散乱したガンマ線光子が他方へ入射することを防止するものである。遮蔽体13は、第1検出器11と第2検出器12との間であって、被検体90におけるコンプトン散乱位置の測定および被検体90における対消滅事象発生位置の測定を阻害しない位置に配置される。遮蔽体13は、ガンマ線を遮断することができる高密度物質(例えば鉛)からなる板状のものであるのが好適である。
【0077】
(第6実施形態)
図8は、第6実施形態の画像取得装置1Fの構成を示す図である。画像取得装置1Fは、測定部10F、処理部20および表示部30を備える。これまでの実施形態と比較すると、第6実施形態の画像取得装置1Fは、測定部10に替えて測定部10Fを備える点で相違する。
【0078】
測定部10Fは、第1検出器11および第2検出器12に加えて移動部14を含む。移動部14は、第1検出器11または第2検出器12と被検体90との間において陽電子放出核種81を移動させる。移動部14は、時間経過ととも連続的に陽電子放出核種81を移動させてもよいし、離間的な位置に順次に陽電子放出核種81を配置させるよう移動させてもよい。処理部20は、被検体90においてガンマ線光子がコンプトン散乱した位置を求める為に、陽電子放出核種81の位置を常に把握しておく。
【0079】
陽電子放出核種81の移動方向は、第1検出器11または第2検出器12の検出面に平行な1方向または2方向であってもよいし、検出面に垂直な方向であってもよいし、検出面に平行な方向および垂直な方向を含む3方向であってもよい。検出面に平行な方向に陽電子放出核種81を移動させることにより、装置の視野を拡大または均一化することができる。検出面に垂直な方向に陽電子放出核種81を移動させることにより、取得される第1断層画像の画質の向上が可能となる。
【0080】
図9は、第6実施形態の画像取得装置1Fの測定部10Fにおいて陽電子放出核種81を第1検出器11の検出面に平行な方向に移動させた場合の装置の視野の変化を説明する図である。この図において、装置の視野がハッチング領域で示されている。
図9(a)に示されるように、陽電子放出核種81が第1検出器11の検出面の中央付近にある場合、被検体90の両端部は視野から外れる場合がある。これに対して、
図9(b)に示されるように、陽電子放出核種81が第1検出器11の検出面の第1端側(図において中央に対して左よりの側)にある場合、被検体90の第1端側は視野に入るものの、被検体90の第2端側(図において中央に対して右よりの側)は視野から大きく外れる場合がある。逆に、陽電子放出核種81が第1検出器11の検出面の第2端側にある場合、被検体90の第2端側は視野に入るものの、被検体90の第1端側は視野から大きく外れる場合がある。このように、陽電子放出核種81を第1検出器11の検出面に平行な方向に移動させることにより、装置の視野を拡大または均一化することができる。
【0081】
図10は、第6実施形態の画像取得装置1Fの測定部10Fにおいて陽電子放出核種81を第1検出器11の検出面に垂直な方向に移動させた場合の第1断層画像の画質を説明する図である。この図において、陽電子放出核種81の位置をPとし、第1検出器11によるガンマ線の検出位置をR
1とし、第2検出器12によるガンマ線の検出位置をR
2とし、ガンマ線がコンプトン散乱した位置をCとする。位置Pと位置R
1とを結ぶ線分の誤差範囲、および、位置Pと位置Cとを結ぶ線分の誤差範囲が、ハッチング領域で示されている。
【0082】
現実の第1検出器11によるガンマ線の検出位置R
1には空間分解能による誤差が存在するので、これによって、位置Pと位置R
1とを結ぶ線分の推定に誤差が生じ、さらに、位置Pと位置Cとを結ぶ線分の推定にも誤差が生じて、最終的には、位置Cの推定に誤差が生じることになる。
図10(a)に示されるように位置Pと位置Cとの間の距離が長いほど位置Cの推定誤差は大きくなり、
図10(b)に示されるように位置Pと位置Cとの間の距離が短いほど位置Cの推定誤差は小さくなる。したがって、取得される第1断層画像の画質を向上させるには、陽電子放出核種81を被検体90に近い位置に置くことが好ましい。
【0083】
被検体90の大きさや形状は様々であるので、被検体90の大きさや形状に応じて、装置の視野の拡大または均一化を図るとともに、取得される第1断層画像の画質の向上を図ることができるように、陽電子放出核種81を3方向に移動させることが好ましい。
【0084】
(シミュレーション例)
次に、
図1および
図2を用いて説明した被検体の第1断層画像(被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す画像)の取得について行ったシミュレーションの条件および結果について説明する。ここでは、モンテカルロ法を用いて物質中における粒子の飛跡をシミュレーションすることができるGeant4を用いた。
【0085】
図11は、シミュレーションで想定した測定部の構成および配置を示す図である。第1検出器11および第2検出器12それぞれは、100×100×5mm
3のサイズを有するチェレンコフ輻射体を含むチェレンコフ検出器であるとした。第1検出器11および第2検出器12それぞれによるガンマ線検出の時間分解能および空間分解能は何れも理想的な0であるとした。第1検出器11および第2検出器12は、距離90mmを隔てて互いに平行に対向配置された。直径30mmで高さ30mmの円柱形状を有するファントムを想定して、これを被検体90とした。この被検体90の円柱の中心軸が第1検出器11と第2検出器12それぞれの検出面に垂直になるようにして、第1検出器11と第2検出器12との間の中央の位置に被検体90が置かれた。第1検出器11と被検体90との間の中央の位置に陽電子放出核種81が置かれた。陽電子放出核種81の大きさは無視した。
【0086】
図12は、シミュレーションで被検体90として想定したファントムの構成を示す図である。この図は、円柱形状を有する被検体90としてのファントムを中心軸方向に見た図である。被検体90は、円柱形状の中心軸に平行な方向に、直径3mmの円柱形状の領域91、領域92、領域93および領域94が延在して存在し、これらを直径30mmの円柱形状の領域95が覆っているものとした。領域91、領域92、領域93および領域94それぞれは、3つずつ設けられた。領域91は、ヨウ素(原子番号53)からなる領域であるとした。領域92は、空気からなる領域であるとした。領域93は、ガドリニウム(原子番号64)からなる領域であるとした。領域94は、重い物質の例としてBGOからなる領域であるとした。領域95は、水からなる領域であるとした。
【0087】
図13は、シミュレーションで得られた第1断層画像を示す図である。この図は、円柱形状を有する被検体90としてのファントムの中心軸に垂直な断面の画像である。この図は、コンプトン散乱発生頻度を濃淡で表しており、コンプトン散乱発生頻度が大きいほど淡色となっている。この図に示されるように、シミュレーションで得られた第1断層画像は、領域94(BGO)、領域93(ガドリニウム)、領域91(ヨウ素)、領域95(水)、領域92(空気)の順にコンプトン散乱発生頻度が高いことを示している。
【0088】
このように、被検体におけるコンプトン散乱位置の分布を表す第1断層画像(
図13)を取得できることが確認された。物質中のコンプトン散乱発生確率は、その物質の原子番号に比例する。したがって、第1断層画像は、コンプトン散乱の吸収係数μ
Comptonの分布を表していると言える。
【0089】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態のうちの何れか2以上の実施形態の構成を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1A~1F…画像取得装置、10,10D,10E,10F…測定部、11,11D…第1検出器、12…第2検出器、13…遮蔽体、14…移動部、20…処理部、30…表示部、81,82,83…陽電子放出核種、90…被検体。