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特開2024-3316異種金属接合板、異種金属接合導体、および異種金属接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003316
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】異種金属接合板、異種金属接合導体、および異種金属接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20240105BHJP
   B23K 11/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B23K20/00 340
B23K11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102370
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000153720
【氏名又は名称】株式会社白山
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 博志
(72)【発明者】
【氏名】山下 英樹
(72)【発明者】
【氏名】稲川 康二
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167AA29
4E167BA09
4E167BA12
4E167CC03
(57)【要約】
【課題】機械的強度を有する異種金属接合板、異種金属接合導体、および異種金属接合方法を提供することである。
【解決手段】本発明の異種金属接合板100は、所定の厚みの銅板300と、所定の厚みと同等のアルミニウム板200とを接合した異種金属接合板100であって、銅板300とアルミニウム板200とを、2段アプセットによる加熱圧接で接合し、銅板300とアルミニウム板200との間に金属間化合物(合金層)の発生を抑制したものである。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の厚みの銅板と、前記所定の厚みと同等のアルミニウム板とを接合した異種金属接合板であって、
前記銅板と前記アルミニウム板とを、2段アプセットによる加熱圧接で接合し、前記銅板と前記アルミニウム板との間に金属間化合物(合金層)の発生を抑制した、異種金属接合板。
【請求項2】
前記2段アプセットによる加熱圧接で接合した前記銅板と前記アルミニウム板とを前記所定の厚みの60%以下の厚みになるまで、圧延された、請求項1記載の異種金属接合板。
【請求項3】
銅板とアルミニウム板とを、2段アプセットによる加熱圧接で接合し、前記銅板と前記アルミニウム板との間に金属間化合物の発生を抑制し、前記2段アプセットによる加熱圧接で接合した前記銅板と前記アルミニウム板とを厚みの60%以下の厚みになるまで、圧延した、異種金属接合導体。
【請求項4】
所定の厚みの銅板と、前記所定の厚みと同等のアルミニウム板とを接合するための異種金属接合方法であって、
前記銅板の端部と前記アルミニウム板の端部とを突き合わせて所定時間および第1の所定圧力で加圧するスクイズ工程と、
前記スクイズ工程後、所定時間で前記第1の所定圧力を、加圧しつつ、通電によるジュール熱を利用して接合面を溶融させる抵抗溶接工程と、
前記通電を継続した状態で所定時間、前記第1の所定圧力に加えて、前記第1の所定圧力よりも大きい第2の所定圧力を加える強加圧工程と、
前記通電を停止した後、所定時間、前記第1の所定圧力および前記第2の所定圧力を加えるホールド工程と、を含む異種金属接合方法。
【請求項5】
台形錐先端部を有する上下一対の治具で前記銅板を挟持する銅板挟持工程と、
前記台形錐先端部に対向し、突き合わせた他の台形錐先端部を有する上下一対の治具で前記アルミニウム板を挟持するアルミニウム板挟持工程と、をさらに含む、請求項4記載の異種金属接合方法。
【請求項6】
前記抵抗溶接工程の通電は、オンオフ制御および/または位相制御を用いた、請求項4記載の異種金属接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合板、異種金属接合導体、および異種金属接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開昭63-104790号公報)には、アルミニウム鋳物合金またはアルミダイカスト合金と鋼材の接合に於いて高い接合強度が得られる接合方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のアルミニウムと銅との接合方法は、アルミニウムと鋼との接合方法に於いて、アルミダイカスト又はアルミ鋳物よりなるアルミニウム材の内径を鋼材のパイプ丸棒の外径よりも小さくし、前記アルミニウム材を固定して前記鋼材のパイプ丸棒を回転させて接合面を接触させて圧力を加えて挿入後、鋼材の回転を停止後更に加圧して接合するものである。
【0004】
特許文献2(特開平1-133689号公報)には、小加圧圧延で異種金属材料、もしくは金属材料と非金属材料の強固な接合を容易にし得るクラッド材の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2に記載のクラッド材の製造方法は、重ね合せた異種金属板を、真空中もしくは調整雰囲気中で室温~1400℃の任意の温度に加熱した後、真空中もしくは調整雰囲気中の加圧ロールで連続的に押圧し接合するものである。
【0006】
特許文献3(特開平4-270078号公報)には、接合面積の大きいアルミニウム材と銅材との接合に際して、大きな設備を必要としないアルミニウム材と銅材との接合構造が開示されている。
【0007】
特許文献3に記載のアルミニウム材と銅材との接合構造は、接合面が複数の突片によって分割された銅材と、上記突片の端部に一端が圧接された複数のアルミニウム接続材と、これらのアルミニウム接続材の他端が接合されたアルミニウム材とからなるアルミニウム材と銅材との接合構造である。
【0008】
特許文献4(特開平4-288983号公報)には、アルミニウム材と銅材との接合部に生じる脆性合金層を、簡単な方法で生じないようにして、接合部の強度を向上させるアルミニウム材と銅材との圧接方法が開示されている。
【0009】
特許文献4に記載のアルミニウム材と銅材との圧接方法は、アルミニウム材と鋼材とを加熱圧接する工程と、この加熱圧接によって得られた接合部をこの加熱圧接直後に急冷して脆成合金層の発生を抑える工程と、を有する。
ものである。
【0010】
特許文献5(特開平5-69155号公報)には、アルミニウムの抵抗溶接において、小電流で健全な継手を得るアルミニウムの抵抗溶接方法が開示されている。
【0011】
特許文献5に記載のアルミニウムの抵抗溶接方法は、アルミニウムの2倍以上の比抵抗を有する抵抗体をアルミニウムで挟み、かつ、そのアルミニウムの厚みを抵抗体の厚みの1/4以上6倍以下としたクラッド材を、溶接すべきアルミニウム材の間に介在させて、該アルミニウム材を抵抗溶接する。
【0012】
特許文献6(特開平5-111778号公報)には、クラッド材3をインサート材として使用したアルミニウム1と非アルミ金属2との抵抗溶接において、少ない溶接電流で十分かつ安定な継手強度を得る異種金属の抵抗溶接方法が開示されている。
【0013】
特許文献6に記載の異種金属の抵抗溶接方法は、比抵抗がアルミニウムの2倍以上の非アルミ金属とアルミニウムとの間に、それぞれの異種金属を主成分とするクラッド材を同種金属が接するように挟んで、前記非アルミ金属とアルミニウムとを抵抗溶接するにあたり、下記条件(1)~(4)tA,tM,t≦2.0 ……(1)0.25≦Y/X≦7 ……(2)I≦18 ……(3)IO-2≦I≦IO+2 ……(4)ここで、tA:被接合材であるアルミニウムの厚み(mm)tM:アルミニウムに接合される非アルミ金属の厚み(mm)t:クラッド材の全厚(mm)X:クラッド材における非アルミ金属の厚み(mm)Y:クラッド材におけるアルミニウムの厚み(mm)RA:アルミニウムの比抵抗値(μΩ・cm)RM:非アルミ金属の比抵抗値(μΩ・cm)I:溶接電流(kA)を満足させるものである。
【0014】
特許文献7(特公昭60-39476号公報)には、2つ以上の母材の被接合面を多量のO2を含む雰囲気中で共晶温度以上に加熱して,母材の接触面に融液相及び酸化物相を生成させることにより,ボイドの発生のない接合部を得る共晶反応を利用した接合方法が開示されている。
【0015】
特許文献7記載の共晶反応を利用した接合方法は、アルミニウムと銅よりなる2つの母材の被接合面を大気よりも酸素量の多い雰囲気中において接触させる段階と、前記被接合面を共晶反応が生じる温度範囲に加熱して、接触面に共晶反応による融液相及び前記母材の成分と前記接触面の空隙に存在する酸素との反応による酸化物相を生成させる段階と、を有する。
【0016】
特許文献8(特公昭62-55477号公報)には、種類の異なつた金属を接合する方法に係り、具体的にはアルミニウムと銅とをアルミニウムの融点以下の低温度で接合する異種金属の接合法が開示されている。
【0017】
特許文献8に記載の異種金属の接合法は、アルミニウム部材と銅部材の接触面を共晶温度以上且つアルミニウム部材の融点以下の温度に高周波誘導加熱して該接触面に共晶反応による融液相を形成すること、上記接触面に圧力を加えて該融液相を接合面の外部へ排出することおよび上記融液相を排除後の接合部を直ちに急速冷却することを特徴とする。
【0018】
特許文献9(特開昭56-062685号公報)には、異種又は同種の金属母材を共晶反応を利用して圧接する方法に関し、特にアルミニウムと銅の母材を共晶反応を利用して圧接する方法について開示されている。
【0019】
特許文献9記載の方法は、圧接すべき2つの金属母材を該母材の塑性変形応力以下の所定の接触圧力Pで接触させ、該接触圧力Pがかけられた状態で接触部を母材の融点以下且つ共晶温度以上の温度に加熱して接合面に共晶反応による共晶融液を生成させる段階と、次に前記接合面に上記圧力Pより高いアプセット圧力Pを加えて前記共晶融液を接合面から排除する段階と、を包含する共晶反応を利用して金属母材を圧接するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開昭63-104790号公報
【特許文献2】特開平1-133689号公報
【特許文献3】特開平4-270078号公報
【特許文献4】特開平4-288983号公報
【特許文献5】特開平5-69155号公報
【特許文献6】特開平5-111778号公報
【特許文献7】特公昭60-39476号公報
【特許文献8】特公昭62-55477号公報
【特許文献9】特開昭56-062685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
異種金属接合については、特許文献1から特許文献9に示すように、種々の研究開発が行われている。特にインサート材またはロウ付け等も採用されている。また、共晶現象を利用したり、亜鉛を介在させたりと種々の開発が行われている。
【0022】
しかしながら、近年、機械的強度を有する異種金属接合部材が求められている。ただし、共晶現象等を利用すると、異種金属の結合部分に金属間化合物が多く生成されてしまい、硬度が高く機械的強度的に弱くなり問題となる。特に圧延工程等においては、結合部分の割れまたは破損が問題となる。
【0023】
本発明の目的は、機械的強度を有する異種金属接合板、異種金属接合導体、および異種金属接合方法を提供することである。
本発明の他の目的は、銅板とアルミニウム板との界面の電気抵抗を抑制することができ、機械的強度を有する異種金属接合板、異種金属接合導体、および異種金属接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
(1)
一局面に従う異種金属接合板は、所定の厚みの銅板と、所定の厚みと同等のアルミニウム板とを接合した異種金属接合板であって、銅板とアルミニウム板とを、2段アプセットによる加熱圧接で接合し、銅板とアルミニウム板との間に金属間化合物(合金層)の発生を抑制したものである。
【0025】
この場合、銅板とアルミニウム板とを2段アプセットによる加熱圧接で接合することにより金属化合物の発生を抑制できるため、銅板とアルミニウム板との結合強度を高めることができる。その結果、機械的強度を有する異種金属接合板を得ることができる。
また、本発明においては、金属間化合物(合金層ともいわれる)を3μm以下、より好ましくは1μm以下にまで発生を抑制したものである。
【0026】
(2)
第2の発明にかかる異種金属接合板は、一局面に従う異種金属接合板において、2段アプセットによる加熱圧接で接合した銅板とアルミニウム板とを所定の厚みの60%以下の厚みになるまで、圧延されてもよい。
【0027】
この場合、銅板とアルミニウム板との結合強度を高めることができるので、当初の厚みから60%以下まで圧延した場合でも、銅板とアルミニウム板との結合の破壊を防止することができる。
【0028】
(3)
他の局面にかかる異種金属接合導体は、銅板とアルミニウム板とを、2段アプセットによる加熱圧接で接合し、銅板とアルミニウム板との間に金属間化合物の発生を抑制し、2段アプセットによる加熱圧接で接合した銅板とアルミニウム板とを厚みの60%以下の厚みになるまで、圧延したものである。
【0029】
この場合、銅板とアルミニウム板とを2段アプセットによる加熱圧接で接合することにより金属化合物の発生を抑制できるため、銅板とアルミニウム板との結合強度を高めることができる。さらに、銅板とアルミニウム板との結合強度を高めることができるので、当初の厚みから圧延した場合でも、銅板とアルミニウム板との結合の破壊を防止することができる。
また、金属間化合物が3μm以下、より好ましくは1μm以下であるため、接合境界部に存在する反応層が少なく、銅板とアルミニウム板との界面の電気抵抗を無視することができ、さらに、金属間化合物の発生が抑制されているため、電蝕の進行を抑制することができる。その結果、アルミニウム板を利用でき、軽量化を実現することができる。この異種金属接合導体は、バスバー(ブスバーとも呼ばれる)等に利用することができる。
【0030】
(4)
さらに他の局面にかかる異種金属接合方法は、所定の厚みの銅板と、所定の厚みと同等のアルミニウム板とを接合するための異種金属接合方法であって、銅板の端部とアルミニウム板の端部とを突き合わせて所定時間および第1の所定圧力で加圧するスクイズ工程と、スクイズ工程後、所定時間で第1の所定圧力を、加圧しつつ、通電によるジュール熱を利用して接合面を溶融させる抵抗溶接工程と、通電を継続した状態で所定時間、第1の所定圧力に加えて、第1の所定圧力よりも大きい第2の所定圧力を加える強加圧工程と、通電を停止した後、所定時間、第1の所定圧力および第2の所定圧力を加えるホールド工程と、を含むものである。
【0031】
この場合、抵抗溶接工程と、強加圧工程とを含むので、2段アプセットによる加熱圧接で、金属間化合物の発生を抑止することができる。その結果、強度の高い異種金属接合板を得ることができる。
さらに、本発明においては、当該異種金属接合方法の後に、冷間圧接(常温圧接とも呼ばれる)によりさらに金属間化合物の発生を抑止、すなわちアルミニウム板および銅板の結合面から金属間化合物を排出させるように工程を追加してもよい。
なお、強加圧工程において接合面の温度はアルミニウムが溶出する温度以上であると推定される。
【0032】
(5)
第5の発明にかかる異種金属接合方法は、さらに他の局面にかかる異種金属接合方法において、台形錐先端部を有する上下一対の治具で銅板を挟持する銅板挟持工程と、台形錐先端部に対向し、突き合わせた他の台形錐先端部を有する上下一対の治具でアルミニウム板を挟持するアルミニウム板挟持工程と、をさらに含んでもよい。
【0033】
この場合、銅板挟持工程と、アルミニウム板挟持工程とを有するので、数ミリから数十ミリまでの範囲内の厚みからなる異種金属接合板を接合することができる。
【0034】
(6)
第6の発明にかかる異種金属接合方法は、さらに他の局面にかかる異種金属接合方法において、抵抗溶接工程の通電は、オンオフ制御および/または位相制御を用いてもよい。
【0035】
この場合、抵抗溶接工程の通電が、オンオフ制御および/または位相制御を用いているので、消費電力を抑制しつつ、金属間化合物の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施の形態に係る異種金属接合板の一例を示す模式的外観図である。
図2】本実施の形態に係る異種金属接合板の接合部の光学顕微鏡の一例の模式図である。
図3】本実施の形態に係る異種金属接合方法の主な工程の一例を示すフロー図である。
図4】本実施の形態に係る異種金属接合のためのチップ治具一例を示す模式図である。
図5】異種金属接合板の製造装置の一例を示す模式図である。
図6】本実施の形態に係る異種金属接合方法の一例を示す模式的説明図である。
図7】本実施の形態に係る異種金属接合方法の通電の一例を示す制御図である。
図8】本実施の形態に係る異種金属接合導体の製造方法の一例を示す模式図である。
図9】本実施の形態に係る異種金属接合導体の製造方法の工程の一例を示すフロー図である。
図10】製造装置の条件の一例を示す図である。
図11】(a)は、最弱加熱を実施した接合部の拡大図であり、(b)は、過剰加熱を実施した接合部の模式的拡大図である。
図12】2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理を行った異種金属接合板の接合部の光学顕微鏡の一例の模式図である。
図13】2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理を行った異種金属接合板の接合部のSEM像(×1000)の一例を示す模式図である。
図14】2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理を行った異種金属接合板の接合部のEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)の一例を示す模式図である。
図15】本実施形態の2段アプセットによる加熱圧接で接合した銅板とアルミニウム板とに、冷間圧接工程をさらに実施したものを、JIS Z2371に準拠して240時間の塩水噴霧試験を行った場合の塩水噴霧前後の接合面の状態を観察した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明においては、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0038】
(異種金属接合板100)
図1は、本実施の形態に係る異種金属接合板100の一例を示す模式的外観図であり、図2は、本実施の形態に係る異種金属接合板100の接合部(界面)250の光学顕微鏡の一例の模式図である。
【0039】
図1に示すように、異種金属接合板100は、アルミニウム板200および銅板300が接合部250において異種金属接合されている。図1においては、後述するバリ加工を実施する前のものであるため、アルミニウム板200および銅板300の界面の接合部250においてバリが残存している。
図1に示す異種金属接合板100は、アルミニウム板200が厚みt=1mmで幅H=20mm、銅板が厚みt=1mmで幅H=20mmの両者を異種結合したものである。
本実施の形態における異種金属接合板100の引張試験(JIS Z2241)の機械的強度は、1.76kN以上1.77kN以下の範囲である。当該数値はN数が3個で計測したものである。
【0040】
この場合、図2に示すように、異種金属接合板100は、アルミニウム板200および銅板300が接合部250において金属間化合物が抑制されているのがわかる。図2に示す金属間化合物は、3μm以下の幅が好ましく、図2においては、約1μmである。図2に示した異種金属接合方法については、後述する。
なお、図2は、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で撮像したものである。
【0041】
(異種金属接合方法)
次いで、異種金属接合方法について説明を行う。
図3は、本実施の形態に係る異種金属接合方法の主な工程の一例を示すフロー図であり、図4は、本実施の形態に係る異種金属接合のためのチップ治具221、222、321、322の一例を示す模式図である。図4(a)は、平面視した場合の一例図であり、図4(b)は、上面視した場合の一例図である。また、図5は、異種金属接合板100の製造装置800の一例を示す模式図であり、図6は、本実施の形態に係る異種金属接合方法の一例を示す模式的説明図である。
【0042】
図3図4および図5に示すように、異種金属接合方法において、製造装置800のチップ治具221、222でアルミニウム板200を挟持する(治具固定工程:ステップS1)。同様に、製造装置800のチップ治具321、322で銅板300を挟持する(治具固定工程:ステップS1)。この場合、図4に示すように、下側のチップ治具222およびチップ治具322には、断面凹形状が形成されており、アルミニウム板200および銅板300を抱え込む形状で形成されている。
図4に示すように、チップ治具221、222およびチップ治具321、322とは、台形錐先端部DSを有する。そして、ステップS1の治具固定工程においては、台形錐先端部DSが互いに対向し、突き合うように配置される。
【0043】
次に、突き合わせ工程(ステップS2)において、アルミニウム板200および銅板300の端部が接触される。そして、図3および図6に示すように、製造装置800の加圧装置820により所定の圧力(P1)で所定の時間加圧が開始される(スクイズ工程:ステップS3)。例えば、この所定の圧力(P1)は、摩擦抵抗を考慮しない状態で、アルミニウム板200および銅板300との接合面の単位面積当たり、4.7N/mm以上11.0N/mm以下の範囲であることが望ましい。
【0044】
ステップS3の処理であるスクイズ工程は、本実施の形態において、チップ治具221、222、チップ治具321、322を加圧してから、隣接して配置された電極に溶接電流を流し始めるまでの時間を意味しており、具体的には、1sec以上2sec以下の範囲であることが望ましい。
【0045】
次いで、図3図5および図6に示すように、抵抗溶接工程を開始する(ステップS4)。ここで、製造装置800の加熱用電源840によりチップ治具221、222、321、322間に通電が開始され、溶接電流が流れ、ジュール熱で、アルミニウム板200および銅板300との接合面を加熱する。なお、当該通電の制御詳細については、後述する。
ステップS4の処理である抵抗溶接工程では、接合面において溶融したアルミニウムがバリとして生じる。抵抗溶接工程は、チップ間隔TD(製造装置800において、銅板300とアルミニウム板200とをそれぞれ固定する2つのチップ治具221、222、321、322間の距離)が溶接前より溶接距離L1まで短くなったら終了し、次の強加圧工程に移行する。
【0046】
続いて、抵抗溶接工程と重ねた状態で、強加圧工程を開始する(ステップS5)。
強加圧工程は、製造装置800の加熱用電源840により電流を流したままの状態で、強加圧装置830で一次圧力P1より強い二次圧力P2で所定の時間の間加圧する。この2次圧力(P2)は、摩擦抵抗を考慮しない状態で、アルミニウム板200および銅板300との接合面の単位面積当たり、93.5N/mm以上であることが望ましい。
本実施の形態における製造装置800の強加圧装置830は、リンク機構831を有しており、少ない力で大きな力を発生することができる。なお、加圧装置820および強加圧装置830は、空気による加圧装置であってもよく、油圧による加圧装置であってもよい。空気による加圧装置であれば、コストおよびメンテナンス面でメリットがある。
また、ステップS5の処理である強加圧工程は、抵抗溶接工程の終盤において実施され、抵抗溶接工程と重複する時間は、0.05sec以上1.00sec以下であることが望ましい。
【0047】
続いて、図3図5および図6に示すように、強加圧工程のみを実施するホールド工程を開始する(ステップS6)。ステップS6の処理であるホールド工程においては、通電切L2まで短くなったら、圧力(P1+P2)で加圧したまま、加熱用電源840をオフした状態である。なお、本実施の形態においては、ホールド工程という工程を追加しているが、ホールド工程を強加圧工程に含めてもよい。すなわち、強加圧工程において通電切後をホールド工程と称しているのみで、圧力P1+P2で加圧した状態であるからである。ホールド工程の時間T2は、1sec以上5sec以下であることが望ましい。
最後に、チップ治具221、222およびチップ治具321、322を取り外し、異種金属接合板100の接合部250のバリを除去する(ステップS7)。当該バリ除去工程においては、やすり、グラインダー、スチールワイヤブラシ、ステンレスワイヤーブラシ、バレル研磨、磁気研磨、ショットブラスト等、任意の手法においてバリを除去することが望ましい。
【0048】
(通電における抵抗溶接電流の制御方法)
次に、通電処理について説明を行う。図7は、本実施の形態に係る異種金属接合方法の通電の一例を示す制御図である。
【0049】
本実施の形態において、異種金属接合方法の通電は、図7に示すように、位相制御を採用した。なお、位相制御のみならず、スロープ制御、オンオフ制御、位相制御の1つまたは複数を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
(異種金属接合導体110)
次に、異種金属接合導体110の製造方法について説明を行う。図8は、本実施の形態に係る異種金属接合導体110の製造方法の一例を示す模式図であり、図9は、本実施の形態に係る異種金属接合導体110の製造方法の工程の一例を示すフロー図である。
【0051】
図8および図9に示すように、異種金属接合導体110は、異種金属接合板100の製造方法に、圧延工程を追加したものである(ステップS8)。
図8に示すように、圧延工程は、一対の圧延ロール910、920に異種金属接合板100を複数回圧延することにより実施される。本実施の形態においては、異種金属接合板100の厚みtに対して、異種金属接合導体110の厚みが、0.6t以下にする。
なお、異種金属接合導体110の好ましい厚みは、0.05mm以上0.6mm以下であることが好ましい。それにより、電気的メリットを得た薄型の導体を得ることができるため、バスバー(ブスバーとも呼ばれる)、または蓄電池等の電極導体等に利用することができる。
【0052】
(実施例:異種金属接合板100)
図3で示したように、異種金属接合板100の製造を行った。
異種金属接合板100は、アルミニウム板200が厚みt=1mmで幅H=20mm、銅板300が厚みt=1mmで幅H=20mmの両者を異種結合させた。
【0053】
異種金属の接合のための製造装置800として株式会社白山製のBS-13を用いた。図10は、製造装置800の条件の一例を示す図である。
図10に示すように、圧接ストロークL=13.5mmとし、アルミニウム板200および銅板300の両者ともチップ間隔TD=3.0(アルミニウム板200突き出し量1.5mm、銅板300突き出し量1.5mm)とした。ここで、圧接ストロークLは、アルミニウム板200と銅板300とを接合する場合に圧接して互いの距離を移動させる、すなわち押し付け合う距離であり、チップ間隔TDは、向かい合った台形錐先端部DS同士の距離を意味する。
【0054】
溶接距離L1は、1.0mmとし、通電切L2=1.5mmとした。溶接距離L1とは、チップ間隔TD=3mmとした状態を原点として、二次圧力P2が入るまでの距離(約1mm移動)のことを示し、通電切L2とは、原点から1.5mm移動した位置を示す。
【0055】
抵抗溶接工程である加圧装置820の一次圧力P1は、0.05MPa(156N)とし、強加圧工程である強加圧装置830の二次圧力P2は、0.20MPa(1875N)とした。一次圧力P1によりアルミニウム板200および銅板300の端部に加わる力は、7.8N/mmであり、二次圧力P2によりアルミニウム板200および銅板300の端部に加わる力は、93.8N/mmであった。
【0056】
また、クランプ圧力P3=0.6MPa(59.8kN)とし、タップ位置T=37%とし、二次電圧V2=2.96Vに設定した。クランプ圧力P3とは、チップ治具221,222,チップ治具321、322の挟持圧力を示し、タップ位置Tとは、株式会社白山製のBS-13の持つ出力(二次電圧V2)の最大を100%とした場合の表示であり、二次電圧V2とは、株式会社白山製のBS-13の出力を示す。なお、一次電圧は商用電源であるAC200Vである。
【0057】
この実施例において複数製造した異種金属接合板100の抵抗率を測定した結果、2.80E-0.8(Ω・m)以上2.85E-0.8(Ω・m)以下の範囲内であった。
異種金属接合前のアルミニウム板200単体では、2.65E-0.8(Ω・m)であり、銅板300単体では、1.68E-0.8(Ω・m)である。
この結果、電気的抵抗が大きく低減されるため、電化製品等の部品として利用できることが判明した。
【0058】
(タップ位置Tおよび二次電圧V2の範囲)
図11(a)は、最弱加熱を実施した接合部250の拡大図であり、図11(b)は、過剰加熱を実施した接合部250の模式的拡大図である。
【0059】
図11(a)に示すように、タップ位置Tが31%であり、二次電圧V2が2.71Vの場合においても、機械的強度が高く電気的抵抗が低減された異種金属接合板100を得ることができた。
また、図11(b)に示すように、タップ位置Tが43%であり、二次電圧V2が3.2Vの場合においても、機械的強度が高く電気的抵抗が低減された異種金属接合板100を得ることができた。
以上のことから、タップ位置Tは、(二次電圧V2)は、31%(2.7V)以上43%(3.2V)以下の範囲であることが好ましい。
【0060】
(実施例:異種金属接合導体110)
続いて、上記の実施例において製造した異種金属接合板100を用いて圧延工程を実施し、異種金属接合導体110を作成した。
アルミニウム板200の厚みが0.96mm、幅20mmであり、銅板300の厚みが0.99mm、幅20mmである異種金属接合板100を用いた。圧延工程前の異種金属接合板100は、全長147mmのものを使用した。
【0061】
圧延条件は、ローラー径φ220のものを使用した。圧延回数は、複数回、具体的には、7回にわたり少しずつ圧延処理を実施した。この場合の圧延結果として、アルミニウム板200の厚みが0.49mm、幅20.2mmであり、銅板300の厚みが0.53mm、幅20.2mmである異種金属接合導体110を得ることができた。また、異種金属接合導体110の全長は、564mmとなった。
【0062】
(2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理)
図12は、2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理を行った異種金属接合板の接合部の光学顕微鏡の一例の模式図であり、図13は、2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理を行った異種金属接合板の接合部のSEM像(×1000)の一例を示す模式図であり、図14は、2段アプセットによる加熱圧接後の冷間(常温)圧接処理を行った異種金属接合板の接合部のEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)の一例を示す模式図である。
【0063】
図12から図14に示すように、1,000倍のSEM像でも銅板300とアルミニウム板200との接合部250の金属間化合物の層は観察できなかった。また、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)結果では、酸素のピークが現れておらず、溶接前の銅板300とアルミニウム板200との表面に存在していた金属間化合物が接合部250から除去されていることが分かった。
【0064】
図15は、本実施形態の2段アプセットによる加熱圧接で接合した銅板300とアルミニウム板200とに冷間圧接工程をさらに実施したものを、JIS Z2371に準拠して240時間の塩水噴霧試験を行った場合の塩水噴霧前後の接合面の状態を観察した模式図である。
【0065】
塩水噴霧試験では接合された銅板300とアルミニウム板200との間にケーブルを付け、ループを作った状態で塩水を噴霧した。試験後の写真からわかるように240時間の塩水噴霧によっても接合界面内部には、腐食は進んでおらず、本実施形態の異種金属接合板100は、電気的にもメリットがあることが分かった。
【0066】
以上のように、本発明に係る異種金属接合板100、異種金属接合導体110、それらの製造方法においては、圧延工程を実施しても破断しないという機械的強度を得ることができた。
また、銅板300とアルミニウム板200との接合部250に金属間化合物の生成が抑制されているので、界面の電気抵抗を抑制することができ、腐食等に対する電気的メリットを得ることができる。
【0067】
本発明においては、異種金属接合板100が「異種金属接合板」に相当し、異種金属接合導体110が「異種金属接合導体」に相当し、アルミニウム板200が「アルミニウム板」に相当し、銅板300が「銅板」に相当し、2段アプセットによる加熱圧接が「抵抗溶接工程および強加圧工程」に相当する。
【0068】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0069】
100 異種金属接合板
110 異種金属接合導体
200 アルミニウム板
300 銅板

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15