(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033162
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】車両の前部組付方法
(51)【国際特許分類】
B62D 65/16 20060101AFI20240306BHJP
B60R 19/24 20060101ALI20240306BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B62D65/16 A
B60R19/24 M
B62D25/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136590
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 敏之
(72)【発明者】
【氏名】西尾 信哉
【テーマコード(参考)】
3D114
3D203
【Fターム(参考)】
3D114AA15
3D114BA10
3D114CA07
3D203AA02
3D203BB33
3D203CB09
3D203CB13
3D203CB20
(57)【要約】
【課題】車体に取り付けられたままになる部材を用いずに、バンパーフェイスの組み付け時に、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を所望の隙間に調整可能にする。
【解決手段】バンパーフェイス3が、固定部材5を介して車体に固定される車両の前部構造1において、バンパーフェイスがボンネット2の前端に対して所定の隙間を有するように、バンパーフェイスを車体に組み付ける車両の前部組付方法であって、閉じたボンネットを下から支える支持部に設置された治具(第1治具7)を用いて、支持部の高さを基準に、固定部材の車体に対する取り付け高さを調整し、ボンネットの前端と接触する治具(第2治具8)を用いて、閉じられた状態のボンネットの前端を基準に、固定部材の車体に対する前後位置を調整し、固定部材を、車体に取り付け、そして、車体に取り付けられた固定部材に、バンパーフェイスを取り付ける。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュラウドアッパ前方のバンパーフェイスが、固定部材を介して車体に固定される車両の前部構造において、前記バンパーフェイスがボンネットの前端に対して所定の隙間を有するように、前記バンパーフェイスを前記車体に組み付ける車両の前部組付方法であって、
閉じた前記ボンネットを下から支える支持部に設置された治具を用いて、前記支持部の高さを基準に、前記固定部材の前記車体に対する取り付け高さを調整し、
前記ボンネットの前端と接触する治具を用いて、閉じられた状態の前記ボンネットの前端を基準に、前記固定部材の前記車体に対する前後位置を調整し、
前記固定部材を、前記車体に固定し、そして、
前記車体に固定された固定部材に、前記バンパーフェイスを取り付ける、車両の前部組付方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の前部組付方法において、
前記固定部材は、
前記バンパーフェイスが取り付けられる取付部を有しかつ、前記シュラウドアッパの前方において車幅方向に延びる第1部材と、
前記第1部材と前記車体との間に介在し、前記第1部材及び前記車体のそれぞれに固定される第2部材と、
を有している、車両の前部組付方法。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の前部組付方法において、
前記支持部の高さを基準に、前記第2部材の前記車体に対する取り付け高さを調整しかつ、前記第2部材を前記車体に固定し、
前記ボンネットの前端を基準に、前記第1部材の前後位置であって、前記車体に取り付けられた前記第2部材に対する前後位置を調整しかつ、前記第1部材を前記第2部材に固定する、車両の前部組付方法。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の前部組付方法において、
前記支持部は、前記シュラウドアッパにおける部位であって、前記ボンネットの下面に取り付けられたストップラバーが当たることによって、前記ボンネットを支持する部位を含む、車両の前部組付方法。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の前部組付方法において、
前記固定部材の取り付け高さの調整には、第1治具が用いられ、
前記固定部材の前後位置の調整には、第2治具が用いられる、車両の前部組付方法。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の前部組付方法において、
前記第2治具は、前記ボンネットの前端が最も前に位置する開閉角度に前記ボンネットの角度を規制する規制部を有し、
前記第2治具は、前記規制部によって開閉角度が規制されている前記ボンネットの前端を基準に、前記固定部材の前記車体に対する前後位置を調整する、車両の前部組付方法。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の前部組付方法において、
前記第2治具は、前記第1部材を保持すると共に、前記第1部材を前後に変位させるスライダーを有し、
前記スライダーは、前記規制部によって開閉角度が規制されている前記ボンネットの前端に当接するように付勢されている、車両の前部組付方法。
【請求項8】
請求項1に記載の車両の前部組付方法において、
バンパービームには、前記バンパーフェイスの下部を前記バンパービームに固定するためのサポートブラケットが取り付けられ、
前記固定部材が前記車体に固定された後、治具を用いて、前記固定部材の高さを基準に、前記サポートブラケットの高さ位置であって、前記バンパービームに対する高さ位置を調整し、
前記サポートブラケットを前記バンパービームに固定し、
前記固定部材及び前記サポートブラケットに、前記バンパーフェイスを取り付ける、車両の前部組付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の前部組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を、所定隙間に設定できる車両の前部組付方法が開示されている。この組付方法では、位置調整部材と治具とが用いられる。位置調整部材は、車体に取り付けられる。治具は、車体に取り付けられた位置調整部材に、脱着可能に保持される。閉じられたボンネットの前端に治具が当たるように、位置調整部材の前後位置が調整される。治具が取り外された後、位置調整部材の突起にバンパーフェイスの係合孔を嵌合させた状態で、バンパーフェイスが車体に取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を小さくすることは、パーティングラインの緻密感が得られるため、所望の車両デザインを実車において実現する上で肝要である。しかし、バンパーフェイスの車体への取り付けは、車体、ボンネット、及び、バンパーフェイスの加工精度、及び、これらの組み付け精度の積み重なりの影響を受けるため、前記の隙間を小さくすることは難しい。そのため、従来は、バンパーフェイスを組み付ける際に、作業者が、ボンネット前端とバンパーフェイスとの隙間が小さくなるように、現物合わせを行っていた。具体的に作業者は、バンパーフェイスを仮固定した状態で、ボンネットを閉じて隙間の大きさを確認し、隙間が大きい場合は、ボンネットを開けてバンパーフェイスの位置を調整する。現物合わせは、このような確認と調整とを繰り返す必要があるため、バンパーフェイスの組み付けには、多大な手間を要する。
【0005】
前述した従来の前部組付方法は、位置調整部材を用いることによって、現物合わせを行わなくても、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を小さくすることを可能にする。ところが、位置調整部材は、バンパーフェイスの組み付け時のみに用いられるにもかかわらず、バンパーフェイスの組み付け後も、車体に取り付けられたままである。位置調整部材の使用は、車両重量の増加、及び/又は、車両の製造コストの増大の点で不利である。
【0006】
また、従来の前部組付方法では、バンパーフェイスが車体に直接組み付けられる。バンパーフェイスが車体に直接組み付けられる構造は、位置調整部材の前後位置の調整によって、バンパーフェイスの前後位置しか調整できないため、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの高さ方向における隙間を調整できず、高さ方向の隙間は車体組み付けによる公差の積み重ねによる成り行きで決まってしまう。従来の前部組付方法には、高さ方向の隙間を所定の隙間に調整するために、さらなる改善の余地がある。
【0007】
ここに開示する技術は、車体に取り付けられたままになる部材を用いずに、バンパーフェイスの組み付け時に、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を所望の隙間に調整可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する技術は、シュラウドアッパ前方のバンパーフェイスが、固定部材を介して車体に固定される車両の前部構造において、前記バンパーフェイスがボンネットの前端に対して所定の隙間を有するように、前記バンパーフェイスを前記車体に組み付ける車両の前部組付方法に係る。この車両の前部組付方法は、
閉じた前記ボンネットを下から支える支持部に設置された治具を用いて、前記支持部の高さを基準に、前記固定部材の前記車体に対する取り付け高さを調整し、
前記ボンネットの前端と接触する治具を用いて、閉じられた状態の前記ボンネットの前端を基準に、前記固定部材の前記車体に対する前後位置を調整し、
前記固定部材を、前記車体に固定し、そして、
前記車体に固定された固定部材に、前記バンパーフェイスを取り付ける。
【0009】
車両の前部構造では、バンパーフェイスが、固定部材を介して車体に固定される。車両の前部組付方法は、車体に、固定部材とバンパーフェイスとを組み付ける方法である。
【0010】
この組付方法では先ず、固定部材の、車体に対する高さと前後位置とが調整される。具体的に、固定部材の車体に対する取り付け高さが、治具を用いて調整される。治具は、閉じたボンネットを下から支える支持部に設置される。治具は、支持部の高さを基準に、固定部材の高さを調整する。支持部の高さは、閉じたボンネットの高さに関係する。固定部材の高さは、治具によって、閉じたボンネットの高さに対応する高さに調整される。
【0011】
また、固定部材の前後位置が、治具を用いて調整される。治具は、ボンネットの前端と接触し、ボンネットの前端を基準に、固定部材の前後位置を調整する。固定部材の前後位置は、治具によって、閉じたボンネットの前端に対応する位置に調整される。
【0012】
尚、固定部材の高さの調整と、前後位置の調整との順番は、高さの調整を先にして、前後位置の調整を後にしてもよいし、前後位置の調整を先にして、高さの調整を後にしてもよい。
【0013】
そうして、高さと前後位置とが調整された固定部材が、車体に固定される。治具は、固定部材の高さ及び位置の調整にのみ用いられ、車体に取り付けられない。この組付方法では、不要な部材が完成車両に取り付けられたままにならない。
【0014】
固定部材が車体に固定された後、バンパーフェイスが固定部材に取り付けられる。固定部材は、閉じたボンネットの高さと前端とに対応する位置に位置しているため、固定部材に取り付けられたバンパーフェイスの高さ及び位置と、ボンネットの高さ及び前端とが対応する。ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間が所望の隙間になる。
【0015】
この組付方法によると、閉じたボンネットの高さと前端とを基準に、固定部材の高さ及び前後位置を調整し、その固定部材にバンパーフェイスを取り付けるため、バンパーフェイスの取り付けに際して、車体、ボンネット、及び、バンパーフェイスの加工精度、及び、これらの組み付け精度の積み重なりの影響を受けずに、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を調整できる。
【0016】
また、治具を用いるため、作業者は、固定部材の高さ及び前後位置を、容易かつ速やかに調整できる。治具は、完成車両には取り付けられないため、完成車両の重量の増加、及び、車両の製造コストの増大が回避される。
【0017】
そして、この組付方法によれば、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を小さくでき、パーティングラインの緻密感を得て、所望の車両デザインを実車において実現することができる。
【0018】
前記固定部材は、
前記バンパーフェイスが取り付けられる取付部を有しかつ、前記シュラウドアッパの前方において車幅方向に延びる第1部材と、
前記第1部材と前記車体との間に介在し、前記第1部材及び前記車体のそれぞれに固定される第2部材と、
を有している、としてもよい。
【0019】
第2部材は車体に固定され、第1部材は第2部材に固定される。固定部材が、第1部材と第2部材とから構成されるため、作業者は、固定部材の高さの調整、及び、前後位置の調整を行いやすい。
【0020】
前記車両の前部組付方法では、
前記支持部の高さを基準に、前記第2部材の前記車体に対する取り付け高さを調整しかつ、前記第2部材を前記車体に固定し、
前記ボンネットの前端を基準に、前記第1部材の前後位置であって、前記車体に取り付けられた前記第2部材に対する前後位置を調整しかつ、前記第1部材を前記第2部材に固定する、としてもよい。
【0021】
作業者は先ず、ボンネットを開けた状態で、支持部に治具を設置し、第2部材の取り付け高さを調整しかつ、第2部材を車体に固定する。その後、作業者は、ボンネットを閉じる。そして、閉じたボンネットの前端と接触する治具を用いて、第1部材の前後位置を調整しかつ、第1部材を第2部材に固定する。作業者は、固定部材の高さ及び前後位置の調整と、固定部材の固定とを、スムースに行うことができる。
【0022】
前記支持部は、前記シュラウドアッパにおける部位であって、前記ボンネットの下面に取り付けられたストップラバーが当たることによって、前記ボンネットを支持する部位を含む、としてもよい。
【0023】
治具は、シュラウドアッパの支持部に安定的に設置できる。また、シュラウドアッパに安定的に設置された治具によって、固定部材の高さ及び前後位置が精度良く調整される。
【0024】
前記固定部材の取り付け高さの調整には、第1治具が用いられ、
前記固定部材の前後位置の調整には、第2治具が用いられる、としてもよい。
【0025】
作業者は、第1治具と第2治具との2種類の治具を使い分けることによって、固定部材の取り付け高さ及び前後位置を精度良く調整できる。
【0026】
前記第2治具は、前記ボンネットの前端が最も前に位置する開閉角度に前記ボンネットの角度を規制する規制部を有し、
前記第2治具は、前記規制部によって開閉角度が規制されている前記ボンネットの前端を基準に、前記固定部材の前記車体に対する前後位置を調整する、としてもよい。
【0027】
後端部が回動可能に支持されるボンネットの前端は、ボンネットの開閉に伴い、当該回動軸を中心とする円弧上の軌跡をたどる。ボンネットの前端が最も前に位置する開閉角度は、ボンネットの前端が回動軸と同じ高さになる角度であるから、一般的に、当該開閉角度は、ボンネットが閉じる角度と一致しない。
【0028】
第2治具の規制部は、ボンネットの開閉角度を所定の角度に規制する。ボンネットの前端は、最も前に位置する。つまり、第2治具は、ボンネットの前端の位置であって、固定部材の位置調整の基準となる位置を、特定の位置に維持する。第2治具が用いられることによって、固定部材の前後位置が精度良く調整される。
【0029】
前記第2治具は、前記第1部材を保持すると共に、前記第1部材を前後に変位させるスライダーを有し、
前記スライダーは、前記規制部によって開閉角度が規制されている前記ボンネットの前端に当接するように付勢されている、としてもよい。
【0030】
第2治具の規制部がボンネットの開閉角度を所定の角度に規制すれば、スライダーがボンネットの前端に、強制的に当接する。第1部材の前後位置が自動的に調整される。第2治具は、第1部材の前後位置を精度良く調整できる。
【0031】
バンパービームには、前記バンパーフェイスの下部を前記バンパービームに固定するためのサポートブラケットが取り付けられ、
前記車両の前部組付方法では、
前記固定部材が前記車体に固定された後、治具を用いて、前記固定部材の高さを基準に、前記サポートブラケットの高さ位置であって、前記バンパービームに対する高さ位置を調整し、
前記サポートブラケットを前記バンパービームに固定し、
前記固定部材及び前記サポートブラケットに、前記バンパーフェイスを取り付ける、としてもよい。
【0032】
バンパーフェイスは、固定部材とバンパービームとの両方に取り付けられる。バンパーフェイスをバンパービームに固定するサポートブラケットは、車体に固定された固定部材の高さを基準に、その高さ位置が調整される。サポートブラケットの高さが適切な高さになるから、バンパーフェイスが、固定部材及びバンパービームに適切に取り付けられる。
【発明の効果】
【0033】
前述した車両の前部組付方法は、車体に取り付けられたままになる部材を用いずに、バンパーフェイスの組み付け時に、ボンネットの前端とバンパーフェイスとの隙間を所望の隙間に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】
図2は、ボンネット及びバンパーフェイスを取り外した車両の前部を示している。
【
図5】
図5は、車両の前部への第1治具の設置を示している。
【
図6】
図6は、第1治具を用いた、第2部材の車体への取り付けを示している。
【
図7】
図7は、第1治具の保持部を拡大して示している。
【
図8】
図8は、第2治具を用いた、第1部材の車体への取り付けを示している。
【
図9】
図9は、第2治具の保持部を拡大して示している。
【
図11】
図11は、第2治具による、第1部材の位置調整を示している。
【
図12】
図12は、第3治具を用いた、サポートブラケットのバンパービームへの取り付けを示している。
【
図15】
図15は、サポートブラケットを拡大して示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、車両の前部組付方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する前部組付方法は例示である。
【0036】
(車両の前部の全体構造)
図1は、車両の前部を左側方から見た図である。尚、各図において矢印FRは車両前方を示し、矢印RRは車両後方を示し、矢印RTは車幅方向右側を示し、矢印LTは車幅方向左側を示し、矢印UPは車両上方を示し、矢印LWは車両下方を示す。この車両は、セダンやハッチバックに比べて車高が高いSUV(Sport Utility Vehicle)又はミニバンである。また、車両の前部は、左右略対称に構成されている。
【0037】
車両の前部には、
図2に示すように、パワーユニットルーム10が設けられている。パワーユニットルーム10には、エンジン及び/又はモータを含むパワーユニットが位置する。パワーユニットルーム10の上方は、ボンネット2によって覆われている。ボンネット2は、その後端がヒンジを介して車体に軸支されている。ボンネット2は、
図1に黒矢印で示すように、パワーユニットルーム10を開閉する。ボンネット2の開閉時に、ボンネット2の前端は、ヒンジ軸を中心とした円弧上の軌跡をたどる。
【0038】
車両の前部構造1は、バンパーフェイス3を備えている。バンパーフェイス3は、車両の最前方に配置される。バンパーフェイス3は、合成樹脂製である。
【0039】
バンパーフェイス3には、走行風をパワーユニットルーム10内へ取り入れるための開口部31が形成されている。開口部31は、フロントグリル32によって覆われている。
【0040】
バンパーフェイス3は、開口部31の上側にバンパーフェイスアッパ33を有している。バンパーフェイスアッパ33は、ボンネット2の前端に連なる。バンパーフェイスアッパ33は、ボンネット2の上面の前下がりの傾きに略一致した傾きの上面を有している。
【0041】
パワーユニットルーム10には、
図2~4に示すように、車両前後方向に延びるフロントサイドフレーム41が設けられている。フロントサイドフレーム41は、パワーユニットルーム10における左右の両側に位置している。フロントサイドフレーム41の前端にはクラッシュカン42が取り付けられている。クラッシュカン42は、車両前方へ延びている。
【0042】
車幅方向に延びるバンパービーム43が、左右のクラッシュカン42の前端同士をつないでいる。バンパービーム43は、
図4に示すように、バンパーフェイス3の下部の後方に位置している。
【0043】
各フロントサイドフレーム41よりも車幅方向外側でかつ、車両上方には、エプロンレインフォースメント44が配設されている。エプロンレインフォースメント44は、車両前後方向に延びている。エプロンレインフォースメント44は、フェンダパネル45を支持している。
【0044】
車幅方向に直線状に延びるシュラウドアッパ46が、左右のエプロンレインフォースメント44の前端同士をつないでいる。また、支持フレーム47が、シュラウドアッパ46の左右の両端部それぞれと、左右のフロントサイドフレーム41それぞれの前部とを連結している。支持フレーム47は、シュラウドアッパ46とフロントサイドフレーム41との間で、上下方向に延びている。
【0045】
支持フレーム47は、
図4、5及び7に示すように、内壁471と前壁472とを有している。内壁471は、車幅方向の内方を向く縦壁であり、前壁472は、車両前方を向く縦壁である。前壁472は、内壁471の前端につながっている。
【0046】
各エプロンレインフォースメント44の前端部の上面には、ストップラバーが当接する第1支持部441が設けられている。また、シュラウドアッパ46の車幅方向の中央部の上面にも、ストップラバーが当接する第2支持部461が設けられている。ストップラバーは、ボンネット2の下面に取り付けられている。ボンネット2が閉じている状態において、第1支持部441及び第2支持部461は、ストップラバーを通じてボンネット2を下から支える。
【0047】
尚、エプロンレインフォースメント44、シュラウドアッパ46、フロントサイドフレーム41、支持フレーム47、及び、バンパービーム43は、前部構造1における車体を構成している。
【0048】
(バンパーフェイスの支持構造)
バンパーフェイス3は、固定部材5とバンパービーム43とに支持されている。固定部材5は、バンパーフェイス3の上部を支持し、バンパービーム43は、バンパーフェイス3の下部を支持している。
【0049】
固定部材5は、第1部材51と第2部材52とから構成されている。第1部材51は、シュラウドアッパ46よりも車両前方に位置しかつ、車幅方向に延びている。第1部材51の長さは、バンパービーム43よりも若干短い。第1部材51は、車両前後方向についてバンパービーム43と略同じ位置において、高さ方向についてシュラウドアッパ46と略同じ高さに位置している。
【0050】
第1部材51は、
図3又は4に示すように、バンパーフェイスアッパ33の直下に位置している。第1部材51には、車幅方向に間隔を空けて複数の取付孔511が形成されている。バンパーフェイスアッパ33は、これらの取付孔511を通じて、第1部材51に固定されている。取付孔511は、取付部の一例である。第1部材51は、バンパーフェイス3の上部を支持している。
【0051】
第2部材52は、第1部材51と車体との間に介在している。より詳細に、第2部材52は、第1部材51の車幅方向の右端部及び左端部のそれぞれにおいて、第1部材51と支持フレーム47との間に介在している。第2部材52は、第1部材51及び支持フレーム47のそれぞれに固定されている。
【0052】
二つの第2部材52は、
図3に示すように、左右対称である。以下において、
図2~4、7を参照しながら、右側の第2部材52について説明する。
【0053】
図3に示すように、第2部材52は、前方に向かって車幅方向の外方へ傾斜している。また、
図4に示すように、第2部材52は、前方に向かって上方へ傾いている。
【0054】
第2部材52は、
図7に示すように、側壁521と、フランジ522とを有している。側壁521は、上下方向及び前後方向に広がっている。フランジ522は、側壁521の上端から車幅方向の内方へ突出するように形成されている。第2部材52は、金属板をプレス成形等により曲げ加工することで形成されている。
【0055】
側壁521は、その基端部に基端固定部523を有している。基端固定部523は、側壁521を車幅方向に貫通する二つの貫通孔を有している。二つの貫通孔は、上下に並んでいる。基端固定部523は、支持フレーム47の内壁471に対して、車幅方向に重なる。内壁471の上端部には、
図5に示すように、上下に並んだ二つのボルト孔473が形成されている。基端固定部523は、
図5及び7に示すように、内壁471に、ボルト524を用いて固定される。
【0056】
フランジ522の先端部には、
図7に示すように、先端取付部525が設けられている。先端取付部525は、フランジ522を上下方向に貫通する貫通孔を有している。先端取付部525は、第1部材51の下面に重なる。第1部材51は、ボルト526を用いて、第2部材52に取り付けられる(
図4及び14参照)。第1部材51には、ボルト526が貫通するボルト孔が、第1部材51の左右の両端部のそれぞれに形成されている。
【0057】
固定部材5はまた、
図2及び3に示すように、車幅方向の中央部が、中央ブラケット48によって車体に支持されていると共に、ステー49によってバンパービーム43に連結されている。
【0058】
中央ブラケット48は、シュラウドアッパ46とステー49の上端との間で、前後方向に延びている。中央ブラケット48には、セーフティロックのストライカ481が取り付けられている。セーフティロックは、ボンネット2が不用意に開かないよう、ボンネット2を保持するためのロックである。
【0059】
ステー49の上端は、中央ブラケット48の前端に接合されている。ステー49は、中央ブラケット48から下方に延びている。ステー49の下端は、バンパービーム43の車幅方向中央部において、バンパービーム43の上端部に固定されている。
【0060】
そして、固定部材5の第1部材51の車幅方向の中央部が、ステー49の上端部に対して、ボルト491を用いて取り付けられている(
図3参照)。
【0061】
図2に示すように、バンパービーム43の左右の両側部にはサポートブラケット6が取り付けられる。バンパーフェイス3の下部は、サポートブラケット6に支持される。サポートブラケット6は、
図4及び15に拡大して示すように、ビーム取付部61と、バンパーフェイス取付部62とを有している。ビーム取付部61は、バンパービーム43の前面に重なり、バンパービーム43の前面の上部にボルト63を用いて取り付けられる。バンパーフェイス取付部62は、ビーム取付部61の後方かつ上側に位置し、ビーム取付部61と一体化されている。バンパーフェイス取付部62は、
図13及び15に示すように、前後方向に延びる取付孔64を有している。取付孔64は、サポートブラケット6がバンパービーム43に固定された状態において、前方に向かって開口する。
【0062】
バンパーフェイス3の下部には、
図4に示すように、下部取付部34が設けられている。下部取付部34は、バンパーフェイス3の後面から後方に向かって突出している。下部取付部34は、サポートブラケット6の取付孔64に挿入される。こうして、サポートブラケット6は、バンパーフェイス3の下部を支持する。尚、取付孔64は、バンパーフェイス3を支持する機能だけでなく、後述するように、サポートブラケット6をバンパービーム43に取り付ける際に用いられる第3治具9のピン921が貫通する。
【0063】
このように、車両の前部構造1では、バンパーフェイス3が、固定部材5を介して車体に取り付けられている。この車両は車高が比較的高いため、ボンネット2の前端が歩行者の大腿部の高さに相当する。衝突時における歩行者への影響を緩和する観点で、ボンネット2の前端は、車両の最前部から後退している。また、ボンネット2の前端の後退に伴い、シュラウドアッパ46も後退している。
【0064】
そのため、バンパーフェイス3は、車体に直接取り付けられない。バンパーフェイス3は、シュラウドアッパ46の前方に位置する固定部材5を介して車体に取り付けられている。
【0065】
(バンパーフェイスの組み付け手順)
次に、図面を参照しながら、バンパーフェイス3を、車体に組み付ける手順を説明する。前述したように、バンパーフェイス3は、固定部材5を介して車体に取り付けられている。バンパーフェイス3の組み付け手順は、先ず、車体に固定部材5が固定され、その後、固定部材5及びバンパービーム43に、バンパーフェイス3が取り付けられる。
【0066】
固定部材5は、第1部材51及び第2部材52とからなる。固定部材5の固定は先ず、第2部材52が車体に固定され、その後、第1部材51が第2部材に固定される。サポートブラケット6は、固定部材5が車体に固定された後に、バンパービーム43に固定される。
【0067】
ここで、バンパーフェイス3の組み付けに際しては、ボンネット2の前端とバンパーフェイス3との隙間が小さくなるように、バンパーフェイス3が車体に組み付けられる。そのために、ここに開示する車両の前部組付方法では、車体に既に組み付けられているボンネット2の前端を基準に、固定部材5の高さの調整及び前後位置の調整を行う。より詳細には、
図1に示すように、第1支持部441及び第2支持部461の高さH1を基準に、後述する第1治具7を用いて、固定部材5の高さH2を調整する。第1支持部441及び第2支持部461は、ボンネット2を、ストップラバーを介して支えるため、第1支持部441及び第2支持部461はボンネット2の前端の高さと相関がある。
【0068】
また、閉じられた状態のボンネット2の前端F1の前後位置を基準に、後述する第2治具8を用いて、固定部材5の前後位置F2を調整する。そして、高さ及び位置を調整した固定部材5を車体に取り付け、その固定部材5に、バンパーフェイス3を取り付ける。
【0069】
この組付方法によると、車体に取り付けられているボンネット2そのものの高さ及び前端を基準に、固定部材5の高さ及び位置が調整され、その固定部材5に対して直接、バンパーフェイス3が固定される。この組付方法では、位置精度及び形状精度が積み重ならず、固定部材5の位置精度、ボンネット2の形状精度、及び、バンパーフェイス3の形状精度がそれぞれ確保されれば、ボンネット2の前端とバンパーフェイス3との隙間が小さくなるように、バンパーフェイス3を車体に組み付けることができる。この組付方法では、従来のような現物合わせが不要になるという利点がある。以下、バンパーフェイス3の組み付け手順を順に、詳細に説明する。
【0070】
(第1ステップ)
図5~7は、組み付け手順の第1ステップを示している。第1ステップは、固定部材5を構成する第2部材52の位置調整と、第2部材52の車体への固定とを行うステップである。第1ステップでは、第1治具7が用いられる。第1治具7は、前述した第1支持部441及び第2支持部461の高さを基準に、支持フレーム47に対する、第2部材52の取り付け高さを調整する治具である。第1治具7は、エプロンレインフォースメント44及びシュラウドアッパ46の上に設置される。
【0071】
第1治具7は、本体71と、係合部72と、第1設置部73及び第2設置部74と、延設部75と、支持クランプ76と、保持部77と、を有している。
【0072】
本体71は、車幅方向に延びると共に、車両前後方向にも広がる。本体71は、平面視で略台形状を有している。本体71は、複数の棒状部材を互いに接合させたフレーム構造を有している。棒状部材は、例えば中空の角材としてもよい。こうすることで、第1治具7の軽量化と、高剛性化とが両立する。高剛性の第1治具7は、第2部材52の取り付け高さの調整を精度良く行うことができる。
【0073】
係合部72は、第1治具7を設置する際の位置決めを行う。係合部72は、本体71の下面から、下向きに突出するピンである。係合部72は、本体71における車幅方向の右側の部位と左側の部位とのそれぞれに取り付けられている。
図3に示すように、シュラウドアッパ46の右側及び左側のそれぞれにおける所定位置には基準孔462が形成されている。基準孔462は、上向きに開口している。
図5に破線の矢印で示すように、第1治具7を設置する際に、二つの係合部72のそれぞれが、基準孔462に挿入される(
図7も参照)。これにより、第1治具7と車体との相対位置が定まる。
【0074】
第1設置部73は、本体71の下面において、左右の両側のそれぞれに取り付けられている。第1設置部73は、エプロンレインフォースメント44の第1支持部441に当接する。また、第2設置部74は、本体71の車幅方向の中央に取り付けられている。第2設置部74は、第1設置部73よりも前に位置している。第2設置部74は、シュラウドアッパ46の第2支持部461に当接する。
【0075】
第1設置部73及び第2設置部74が、第1支持部441及び第2支持部461にそれぞれ当接することにより、第1治具7の高さ方向の位置が定まる。また、第1設置部73及び第2設置部74は、第1治具7が車幅方向に傾くことを抑制する。
【0076】
延設部75は、本体71の車幅方向の中央において、本体71の前端から前方へ突出している。延設部75は、第1治具7が車体に設置された場合に、中央ブラケット48の上に載る。延設部75は、第1治具7が前後方向に傾くことを抑制する。第1治具7が、エプロンレインフォースメント44及びシュラウドアッパ46の上に安定的に設置されるから、第2部材52の取り付け高さの調整精度が高まる。
【0077】
支持クランプ76は、本体71の後部に取り付けられている。支持クランプ76は、図例では、車幅方向の左側と右側とのそれぞれに位置している。尚、支持クランプ76はさらに、車幅方向の中央にも設けてもよい。支持クランプ76は、トグルクランプであり、作業者のハンドル操作に応じて、クランプ状態とアンクランプ状態に切り替わる。第1治具7がエプロンレインフォースメント44及びシュラウドアッパ46の上に設置された後、作業者がハンドルを操作することにより、支持クランプ76はシュラウドアッパ46の後縁をクランプする。これにより、第1治具7が、所定の位置で車体に固定される。第1治具7の後部を固定することにより、後述するように第2部材52を保持した第1治具7が、第2部材52の重量によって前方へ傾いてしまうことが抑制される。
【0078】
保持部77は、第2部材52を保持する。保持部77が第2部材52を保持することは、当該第2部材52の高さ位置を定める。保持部77は、本体71の前端の左右両側それぞれに取り付けられている。保持部77は、本体71から車幅方向外方の斜め前方へ突出している。
【0079】
保持部77は、
図7に拡大して示すように、下向きの吸着面771を有している。吸着面771は、第1支持部441及び第2支持部461を基準として、第2部材52のフランジ522の高さを定める面である。吸着面771には、磁石772が埋め込まれている。磁石772は、第2部材52の上端に位置するフランジ522を吸着する。この磁石772の磁力によって、保持部77は、フランジ522が吸着面771に当たった状態で第2部材52を保持できる。磁力を利用することにおり、保持部77は、第2部材52のフランジ552を、吸着面771に隙間を空けることなく保持できる。第1治具7は、第2部材52の取り付け高さを、精度良く定めることができる。
【0080】
吸着面771には、下向きに突出するピン773が設けられている、このピン773は、フランジ522に形成された先端取付部525の貫通孔に挿入される。これにより第2部材52の、保持部77に対する相対的な、前後方向位置及び左右方向位置が定まる。そして、第2部材52の基端固定部523が支持フレーム47の内壁471に重なるように、第2部材52が位置づけられる。第2部材52は、支持フレーム47へ取り付けられる際の姿勢で、保持部77に保持される。
【0081】
保持部77はまた、保持クランプ774を有している。この保持クランプ774は、
図7に示すように、保持部77に保持されている第2部材52のフランジ522をクランプする。この保持クランプ774も、トグルクランプである。保持部77に第2部材52を保持させた後、作業者はハンドルを操作することにより、第2部材52のフランジ522をクランプする。第2部材52の位置が仮固定される。
【0082】
次に、第1治具7を用いた第2部材52の取り付け手順を説明する。作業者は、
図5に黒矢印で示すように、第1治具7をエプロンレインフォースメント44及びシュラウドアッパ46の上に設置する。第1治具7の第1設置部73及び第2設置部74はそれぞれ、第1支持部441及び第2支持部461の上に載る。作業者は、支持クランプ76のハンドルを操作することにより、第1治具7をエプロンレインフォースメント44及びシュラウドアッパ46の上に固定する。
【0083】
次いで、作業者は、第2部材52を、保持部77に保持させる。前述の通り、第2部材52は、先端取付部525の貫通孔に保持部77のピン773が挿入されかつ、基端固定部523が支持フレーム47の内壁471に重なった状態で、保持部77に保持される。作業者は、保持部77の保持クランプ774のハンドルを操作することにより、第2部材52を仮固定する。第1治具7によって、第2部材52の取り付け高さが定まる(
図6の白抜き矢印参照)。
【0084】
そうして、作業者は、保持部77に保持されている第2部材52を、ボルト524を用いて支持フレーム47に固定する。
【0085】
右側の第2部材52及び左側の第2部材52の両方が、支持フレーム47に取り付けられれば、第1ステップが終了する。第1治具7は、車体から取り外される。
【0086】
(第2ステップ)
図8~11は、組み付け手順の第2ステップを示している。第2ステップは、固定部材5を構成する第1部材51の位置調整と、第2部材52に対する第1部材51の取り付けとを行うステップである。第2ステップでは、第2治具8が用いられる。第2治具8は、閉じられた状態のボンネット2の前端を基準に、第2部材52に対する、第1部材51の前後位置を調整する治具である。
図8に示すように、第2治具8は、シュラウドアッパ46の上に設置される。
【0087】
第2治具8は、本体81と、係合部82と、調整部83と、ストッパ84と、第2設置部87と、を有している。
【0088】
本体81は、車幅方向に延びると共に、車両前後方向にも広がる。本体81は、平面視で略長方形状を有している。本体81は、例えば複数の中空の角材を互いに接合させたフレーム構造を有している。第2治具8も、第1治具7と同様に、軽量でありかつ、高剛性である。
【0089】
ストッパ84は、本体81の左右の両側それぞれと、中央部の2箇所との合計4箇所に取り付けられている。ストッパ84は、第2治具8がシュラウドアッパ46の上に設置された状態でボンネット2が閉じられた場合に、ボンネット2の下面に当たってボンネット2の開閉角度を規制する。ストッパ84は、
図11の下図に示すように、ボンネット2の前端が最も前に位置する角度で、ボンネット2の開閉角度を規制する。ストッパ84は、規制部の一例である。第2治具8は、ボンネット2の前端を基準に、第1部材51の前後位置を調整する。
【0090】
係合部82は、第2治具8を設置する際の位置決めを行う。係合部82は、本体81の後部下面から、下向きに突出するピンを有している。係合部82は、本体81における車幅方向の右側の部位と左側の部位とのそれぞれに取り付けられている。係合部82のピンは、第1治具7の係合部72と同様に、シュラウドアッパ46の基準孔462に挿入される。第2治具8の係合部82はまた、ピンに隣接する第1設置部を有している。第1設置部は、シュラウドアッパ46の上面に当たって、本体81の後部を支持する。
【0091】
調整部83は、本体81の前端から前方へ突出している。調整部83は、第1部材51を保持すると共に、第1部材51の位置を調整する。調整部83は、
図9及び10に拡大して示すように、基部85と、スライダー86と、を有している。
【0092】
基部85は、本体81に固定されかつ、スライダー86を、前後方向に移動可能に支持する。基部85は、
図10に示すように、上下に延びる縦部851と前後に延びる横部852を有していて、側面視でL字状である。縦部851は、横部852の前端から上方へ延びている。
【0093】
横部852の上面には、前後方向に延びるレール853が取り付けられている。スライダー86は、レール853に係合し、レール853に沿って前後に移動する。
【0094】
スライダー86は、前述したように、基部85に対して相対的に、車両前後方向にスライドすることができる。尚、
図9に示すレバー854は、作業者が操作をするレバー854である。作業者は、
図9に一点鎖線の矢印で示すようにレバー854を操作することによって、スライダー86が前後に移動可能な状態と、スライダー86が前後に移動せずに固定された状態とに切り替えることができる。
【0095】
スライダー86は、保持部88を有している。保持部88は、吸着面881を有している。吸着面881は、
図9に示すように、下向きの平面であって、第1部材51の上面を吸着する磁石882が埋め込まれている。吸着面881にはまた、ピン883が下向きに突出している。ピン883は、第1部材51に形成された、所定の取付孔511に挿入される。ピン883によって、第1部材51の、第2治具8に対する前後方向及び車幅方向の相対位置が定まる。尚、取付孔511は、前述したように、第1部材51に対して、バンパーフェイス3を取り付けるための孔である。ピン833が挿入される所定の取付孔511は、第1部材51と第2部材52とを互いに固定するボルト526のボルト孔よりも、車幅方向の内方に位置する取付孔511である。
【0096】
スライダー86はまた、当接ローラー89を有している。当接ローラー89は、
図10及び11に示すように、スライダー86の上端に取り付けられている。当接ローラー89は、ローラーサポート891に支持され、車幅方向に延びる軸を中心に回転する。ローラーサポート891は、当接ローラー89の下側に位置している。ローラーサポート891は、当接ローラー89の径よりも小さい前後幅を有している。当接ローラー89及びローラーサポート891は、
図11に示すように、閉じられたボンネット2の前端に当たる。当接ローラー89及びローラーサポート891がボンネット2の前端に当たることによって、スライダー86の前後位置が、閉じられたボンネット2の前端に対応する位置に位置づけられる。当接ローラー89及びローラーサポート891は、ボンネット2の前端に傷を付けることがないよう、例えばシリコン樹脂製としてもよい。
【0097】
基部85は、
図10に拡大して示すように、付勢機構855を有している。付勢機構855は、スライダー86を車両の後方へ付勢している。付勢機構855は、基部85の縦部851とスライダー86との間に介在する圧縮コイルバネ856を有している。圧縮コイルバネ856は、縦部851に取り付けられた支持ロッド857に外挿されると共に、スライダー86に形成された受け孔858に内挿されている。圧縮コイルバネ856の軸が前後方向を向くように、支持ロッド857は、縦部851から後方へ延びていると共に、受け孔858は、スライダー86の前面に開口すると共に、後方へ延びている。縦部851とスライダー86との距離が近づくと圧縮コイルバネ856が縮む。圧縮コイルバネ856の弾性復元力によって、スライダー86に、車両後方へ向かう付勢力が付与される(
図10の黒矢印参照)。尚、付勢機構855は、圧縮コイルバネ856に代わるバネ、又は、その他の付勢手段を有してもよい。
【0098】
第2設置部87は、調整部83の後側に位置している。第2設置部87の位置は、本体81の前端における左右の両側に対応する。二つの第2設置部87はそれぞれ、
図10及び11に示すように、左及び右の第2部材52のフランジ522の上面に当たる。第2設置部87は、本体81の前端を支持している。第2設置部87は、第2治具8が前後方向及び車幅方向に傾くことを抑制する。第2設置部87はまた、第2部材52に当たるため、シュラウドアッパ46よりも前方に位置している。係合部82の第1設置部と、第2設置部87とは、前後方向に離れているから、第2治具8は、安定的に、シュラウドアッパ46の上に設置される。
【0099】
次に、第2治具8を用いた第1部材51の取り付け手順を説明する。作業者は、保持部88に第1部材51を保持させた状態で、第2治具8をシュラウドアッパ46の上に設置する(
図8の黒矢印参照)。この設置に伴い第1部材51は、第2部材52のフランジ522の上に置かれる。
【0100】
次いで、作業者は、開状態のボンネット2を閉じる。ボンネット2の下面がストッパ84に当たって、ボンネット2の開閉角度が規制される。ボンネット2は、その自重によって、ストッパ84の上に安定的に載置される。
【0101】
ボンネット2がストッパ84の上に載置される際に、ボンネット2の前端は先ず、
図11の上図に示すように、当接ローラー89に当たる。前述したように、スライダー86が車両後方へ付勢されているため、当接ローラー89は、ボンネット2の前端に押し当てられる。そして、
図11の上図に黒矢印で示すように、ボンネット2の前端が下に移動するに伴い、当接ローラー89が回転する。当接ローラー89がボンネット2に傷を付けることが抑制される。
【0102】
図11の下図に示すように、ボンネット2の下面がストッパ84に当たると、ボンネット2の前端が、ローラーサポート891の後部に当たる。このときも、ローラーサポート891は、ボンネット2の前端に押し当てられる。ローラーサポート891の前後幅が、当接ローラー89の径よりも小さいため、
図11の上図から下図へ移行するに伴い、スライダー86は、僅かに後方へ移動する。こうして、スライダー86の前後位置が、ボンネット2の前端を基準に定まり、スライダー86の保持部88に保持されている第1部材51の前後位置が定まる(
図8の白抜き矢印参照)。付勢機構855によってローラーサポート891が強制的にボンネット2の前端に当接するため、第1部材51の前後位置が精度良く定まる。特に、ボンネット2の前端が下方へ移動する際に、その前端が当接ローラー89及びローラーサポート891に接触しながら移動する。ローラーサポート891は、スライダー86が後方へ移動することに伴ってボンネット2の前端に適切に当接できる。第1部材51の前後位置の調整精度が高まる。
【0103】
作業者はレバー854を操作して、スライダー86を固定する。この状態で、作業者は、保持部88に保持されている第1部材51を、ボルト526を用いて第2部材52に取り付ける。また、作業者は、第1部材51の中央部を、ステー49の上端に、ボルト491を用いて取り付ける。こうして、第1部材51が第2部材52を介して車体に固定され、第2ステップが終了する。第2治具8は、車体から取り外される。
【0104】
(第3ステップ)
図12~15は、組み付け手順の第3ステップを示している。第3ステップは、バンパービーム43にサポートブラケット6を取り付けるステップである。第3ステップでは、第3治具9が用いられる。第3治具9は、高さ及び前後位置が調整された固定部材5を基準に、バンパービーム43に対する、サポートブラケット6の上下位置を調整する治具である。第3治具9は、
図12に示すように、固定部材5の第1部材51の上に設置される。第3治具9は、固定部材5の車幅方向の左と右とのそれぞれに設置される。
【0105】
第3治具9は、設置部91と、保持部92と、連結部93と、を有している。連結部93は、設置部91と保持部92とを連結する。連結部93は、固定部材5からバンパービーム43の近くまで上下方向に延びている。
【0106】
設置部91は、連結部93の上端に取り付けられている。設置部91は、固定部材5の第1部材51の上に設置される。設置部91は、
図14に拡大して示すように、第1部材51と第2部材52とを結合するボルト526を挟んだ車幅方向の両側に、係合部94を有している。各係合部94は、
図13に示すように、取付孔511に挿入されるピン941を有している。取付孔511は、前述したように、第1部材51に形成されたバンパーフェイス3の取付用の孔である。車幅方向に離れた二つの係合部94のそれぞれが取付孔511に挿入されるため、第3治具9は、左右に傾くことなく、安定して固定部材5の上に設置できる。
【0107】
保持部92は、連結部93の下端に取り付けられている。保持部92は、前後方向に延びるピン921を有している。ピン921の前端及び後端は、側面視で逆U字状のピンサポート922によって支持されている。ピン921は、前述したサポートブラケット6の取付孔64に挿入される。サポートブラケット6は、ピン921の中央部に保持される。保持部92は、サポートブラケット6を吊り下げ状態で保持する。
【0108】
次に、第3治具9を用いたサポートブラケット6の取り付け手順を説明する。作業者は、
図12に示すように、サポートブラケット6を保持している第3治具9を、固定部材5に設置する。詳細には、設置部91のピン941を第1部材51の取付孔511に挿入する。第3治具9は、固定部材5に吊り下げられる。
【0109】
この状態で、第3治具9に保持されているサポートブラケット6は、バンパービーム43の上端部に位置する。第3治具9により、サポートブラケット6の、バンパービーム43に対する高さが、固定部材5の高さを基準にして調整される(
図12の白抜き矢印参照)。作業者は、
図15に示すように、サポートブラケット6のビーム取付部61を、ボルト63を用いてバンパービーム43に固定する。バンパービーム43が固定されれば、作業者は、第3治具9のピン921を取付孔64から抜いて、第3治具9をサポートブラケット6及び固定部材5から取り外す。バンパービーム43の左右それぞれに、サポートブラケット6が取り付けられれば、第3ステップが終了する。
【0110】
(第4ステップ)
第4ステップは、バンパーフェイス3を、固定部材5及びサポートブラケット6に取り付けるステップである。具体的に作業者は、バンパーフェイス3のバンパーフェイスアッパ33を、取付孔511を通じて、第1部材51に取り付けると共に、下部取付部34を、サポートブラケット6に取り付ける。こうして、バンパーフェイス3が、固定部材5を介して車体に取り付けられ、第4ステップが終了する。
【0111】
(まとめ)
ここに開示する車両の前部組付方法は、シュラウドアッパ46前方のバンパーフェイス3が、固定部材5を介して車体に固定される車両の前部構造1において、前記バンパーフェイス3がボンネット2の前端に対して所定の隙間を有するように、前記バンパーフェイス3を前記車体に組み付ける車両の前部組付方法である。車両の前部組付方法は、
閉じた前記ボンネット2を下から支える第1支持部441及び第2支持部461に設置された第1治具7を用いて、前記第1支持部441及び第2支持部461の高さを基準に、前記固定部材5の前記車体に対する取り付け高さを調整し、
前記ボンネット2の前端と接触する第2治具8を用いて、閉じられた状態の前記ボンネット2の前端を基準に、前記固定部材5の前記車体に対する前後位置を調整し、
前記固定部材5を、前記車体に固定し、そして、
前記車体に固定された固定部材5に、前記バンパーフェイス3を取り付ける。
【0112】
この組付方法では先ず、固定部材5の、車体に対する高さと前後位置が調整される。より詳細には、固定部材5の車体に対する取り付け高さが、第1治具7を用いて調整される。第1治具7は、閉じたボンネット2を下から支える第1支持部441及び第2支持部461に設置されるため、第1治具7は、第1支持部441及び第2支持部461の高さを基準に、固定部材5の高さを調整できる。
【0113】
また、固定部材5の前後位置が、第2治具8を用いて調整される。第2治具8は、ボンネット2の前端と接触するから、第2治具8は、閉じられた状態のボンネット2の前端を基準に、固定部材5の前後位置を調整できる。
【0114】
そうして、高さと前後位置とが調整された固定部材5が、車体に固定される。尚、第1治具7及び第2治具8は、固定部材5の高さ及び位置の調整にのみ用いられ、車体に取り付けられない。そのため、完成車両に不要な部材が残らない。車両重量の増加、及び、車両の製造コストの増大が回避される。
【0115】
固定部材5が車体に取り付けられた後、バンパーフェイス3が固定部材5に取り付けられる。固定部材5は、閉じたボンネット2の高さと前端とに対応する位置に位置しているため、バンパーフェイス3の高さ及び位置と、ボンネット2の高さ及び前端とが対応する。ボンネット2の前端とバンパーフェイス3との隙間が所望の隙間になる。
【0116】
この組付方法によると、バンパーフェイス3の取り付けに際して、車体、ボンネット2、及び、バンパーフェイス3の加工精度、及び、これらの組み付け精度の積み重なりの影響を受けずに、ボンネット2の前端とバンパーフェイス3との隙間を調整できる。
【0117】
また、第1治具7及び第2治具8を用いるため、作業者は、固定部材5の高さ及び前後位置を、容易かつ速やかに調整できる。
【0118】
そして、この組付方法によれば、ボンネット2の前端とバンパーフェイス3との隙間を小さくでき、パーティングラインの緻密感を得て、所望の車両デザインを実車において実現することができる。
【0119】
前記固定部材5は、
前記バンパーフェイス3が取り付けられる取付孔511を有しかつ、前記シュラウドアッパ46の前方において車幅方向に延びる第1部材51と、
前記第1部材51と前記車体との間に介在し、前記第1部材51及び前記車体のそれぞれに固定される第2部材52と、
を有している。
【0120】
固定部材5が、第1部材51と第2部材52とから構成されるため、作業者は、固定部材5の高さの調整、及び、前後位置の調整を行いやすい。
【0121】
前記車両の前部組付方法では、
前記第1支持部441及び前記第2支持部461の高さを基準に、前記第2部材52の前記車体に対する取り付け高さを調整しかつ、前記第2部材52を前記車体に固定し、
前記ボンネット2の前端を基準に、前記第1部材51の前後位置であって、前記車体に取り付けられた前記第2部材52に対する前後位置を調整しかつ、前記第1部材51を前記第2部材52に固定する。
【0122】
作業者は、高さ及び前後位置の調整と、固定部材5の固定とを、スムースに行うことができる。
【0123】
前記第2支持部461は、前記シュラウドアッパ46における部位であって、前記ボンネット2の下面に取り付けられたストップラバーが当たることによって、前記ボンネット2を支持する部位である。
【0124】
シュラウドアッパ46に第1治具7が安定的に設置できる。また、第2支持部461は、閉じたボンネット2の高さの基準であるから、固定部材5の高さが精度良く調整される。
【0125】
前記固定部材5の取り付け高さの調整には、第1治具7が用いられ、
前記固定部材5の前後位置の調整には、第2治具8が用いられる。
【0126】
作業者は、第1治具7と第2治具8との2種類の治具を使い分けることによって、取り付け高さ及び前後位置を精度良く調整できる。
【0127】
前記第2治具8は、前記ボンネット2の前端が最も前に位置する開閉角度に前記ボンネット2の角度を規制するストッパ84を有し、
前記第2治具8は、前記ストッパ84によって角度が規制されている前記ボンネット2の前端を基準に、前記固定部材5の前記車体に対する前後位置を調整する。
【0128】
第2治具8のストッパ84は、位置調整の基準となるボンネット2の前端の位置を、特定の位置に維持できる。第2治具8は、固定部材5の前後位置を精度良く調整できる。
【0129】
前記第2治具8は、前記第1部材51を保持すると共に、前記第1部材51を前後に変位させるスライダー86を有し、
前記スライダー86は、前記ストッパ84によって開閉角度が規制されている前記ボンネット2の前端に当接するように付勢されている。
【0130】
ストッパ84がボンネット2の開閉角度を所定の角度に規制すれば、スライダー86がボンネット2の前端に、強制的に当接することによって、第1部材51の前後位置を調整する。第1部材51の前後位置が、精度良く調整できる。
【0131】
前記車両の前部組付方法では、
バンパービーム43には、前記バンパーフェイス3の下部を前記バンパービーム43に固定するサポートブラケット6が取り付けられ、
前記固定部材5が前記車体に固定された後、第3治具9を用いて、前記固定部材5の高さを基準に、前記サポートブラケット6の高さ位置であって、前記バンパービーム43に対する高さ位置を調整し、
前記サポートブラケット6を前記バンパービーム43に固定し、
前記固定部材5及び前記サポートブラケット6に、前記バンパーフェイス3を取り付ける。
【0132】
バンパーフェイス3をバンパービーム43に固定するサポートブラケット6は、車体に固定された固定部材5の高さを基準に、その取り付け高さが調整される。サポートブラケット6の高さが適切な高さになるから、バンパーフェイス3が、固定部材5及びバンパービーム43に適切に取り付けられる。
【0133】
(他の実施形態)
尚、前述した車両の前部組付方法では、固定部材5の固定のために、第1治具7と第2治具8との2種類の治具が用いられているが、第1治具7の機能と第2治具8の機能とを有する1種類の治具を用いて、固定部材5が車体に固定されてもよい。
【0134】
また、固定部材5は、第1部材51と第2部材52とからなる構造に限らない。固定部材5は、前述した第1部材51と第2部材52とが予め固定された一つの部材であってもよい。
【0135】
さらに、前述した車両の前部組付方法では、固定部材5の取り付け高さを調整した後で、固定部材5の前後位置を調整しているが、順番を入れ替えて、固定部材5の前後位置を調整した後で、固定部材5の取り付け高さを調整してもよい。
【符号の説明】
【0136】
1 車両の前部構造
2 ボンネット
3 バンパーフェイス
441 第1支持部
46 シュラウドアッパ
461 第2支持部
5 固定部材
51 第1部材
511 取付孔(取付部)
52 第2部材
6 サポートブラケット
7 第1治具
8 第2治具
84 ストッパ(規制部)