(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033176
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】インダクタおよびインダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/29 20060101AFI20240306BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240306BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240306BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01F27/29 Q
H01F27/29 123
H01F41/04 B
H01F17/04 F
H01F27/28 152
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136611
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗内 敬太
(72)【発明者】
【氏名】八幡 岳宏
【テーマコード(参考)】
5E043
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB02
5E043EA01
5E043EB01
5E062FG11
5E070AA01
5E070AB01
5E070BB03
5E070EA01
5E070EA06
(57)【要約】
【課題】素体に埋設されたコイル導体の引出部が素体表面に露出されて外部電極が形成されるインダクタにおいて、製造工程中における素体からの引出部の剥がれを効果的に防止する。
【解決手段】インダクタは、帯状導線を巻き回したコイル導体と、コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、コイル導体の巻回部から引き出された引出部は、素体の表面から素体の内部側へ陥没した位置に凹部を形成するとともに、凹部において引出部の長さ方向の少なくとも一部の帯状導線の幅方向の全体が、素体から露出している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、
前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部は、前記素体の表面から前記素体の内部側へ陥没した位置に凹部を形成するとともに、前記凹部において前記引出部の長さ方向の少なくとも一部の前記帯状導線の幅方向の全体が、前記素体から露出している、
インダクタ。
【請求項2】
前記コイル導体は、前記帯状導線と、前記帯状導線の表面上に形成された被覆層を含み、
前記凹部において前記素体の表面から露出した前記引出部の表面は、前記被覆層が剥離されている、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記素体の表面から露出した前記引出部の表面は、前記素体の表面から前記素体の内部側へ向かって5.5μm以上11.5μm以下の陥没した位置にあって前記凹部を形成している、
請求項1または2に記載のインダクタ。
【請求項4】
絶縁膜を有する磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、帯状導線を巻き回したコイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを成形金型内で加圧して素体を成型する素体成型工程と、
前記素体の表面のうち、前記引出部が露出した部分を含む電極予定箇所にレーザ光を照射して、前記磁性粒子の前記絶縁膜を除去すると共に前記素体の表面の樹脂を除去する表面処理工程と、
前記引出部の、前記素体から露出した表面に、めっき層を形成して外部電極を形成するめっき工程と、
を有し、
前記素体成型工程では、前記コア内に埋設した前記引出部の表面と成形金型の表面との間に、前記表面処理工程における前記素体の体積収縮量に応じた隙間を設けて、前記素体を成型する、
インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタおよびインダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コイル導体を磁性粒子と樹脂とを含有するコアに埋設した素体(成型体)を備える表面実装インダクタが開示されている。この表面実装インダクタでは、上記コイル導体の端部である引出部の表面が素体の表面に露出する様に埋設される。そして、素体表面のうち上記引出部が露出した部分に、レーザ光の照射等がおこなわれた後、めっき層の形成により外部端子が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
素体表面のうち外部電極が形成される領域へ上記レーザ光の照射を行うことにより、素体表面において磁性粒子の絶縁膜が除去され、その後の外部電極形成におけるめっき層の成長が容易となる。一方で、このレーザ光の照射の際には、素体内の樹脂が除去されること等により照射部分における素体の体積が減少し、引出部の露出部分が素体から出っ張ってしまう場合があり得る。このような、引出部の素体からの出っ張りは、製造工程中における素体どうしのぶつかりや擦れにより素体からの引出部の剥がれを発生させて、製造歩留まりを低下させる要因となり得る。
【0005】
本発明は、素体に埋設されたコイル導体の引出部が素体表面に露出されて外部電極が形成されるインダクタにおいて、製造工程中における素体からの引出部の出っ張りに起因する引出部の剥がれを防止し得る構成を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部は、前記素体の表面から前記素体の内部側へ陥没した位置に凹部を形成するとともに、前記凹部において前記引出部の長さ方向の少なくとも一部の前記帯状導線の幅方向の全体が、前記素体から露出している、インダクタである。
本発明の他の態様は、絶縁膜を有する磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、帯状導線を巻き回したコイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを成形金型内で加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体の表面のうち、前記引出部が露出した部分を含む電極予定箇所にレーザ光を照射して、前記磁性粒子の前記絶縁膜を除去すると共に前記素体の表面の樹脂を除去する表面処理工程と、前記引出部の、前記素体から露出した表面に、めっき層を形成して外部電極を形成するめっき工程と、を有し、前記素体成型工程では、前記コア内に埋設した前記引出部の表面と成形金型の表面との間に、前記表面処理工程における前記素体の体積収縮量に応じた隙間を設けて、前記素体を成型する、インダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、素体に埋設されたコイル導体の引出部が素体表面に露出されて外部電極が形成されるインダクタにおいて、製造工程中における素体からの引出部の出っ張りに起因する引出部の剥がれを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
【
図2】インダクタを底面の側から視た斜視図である。
【
図3】インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
【
図6】表面処理工程後おける、素体の表面から露出した引出部の表面の顕微鏡写真である。
【
図7】従来技術のインダクタにおける、製造工程中での素体表面からの引出部の出っ張りについて説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係るインダクタを上面12の側から視た斜視図であり、
図2はインダクタを底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタは、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
【0010】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面12と言い、底面10に直交する一対の第3の主面を端面14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の第4の主面を側面16と言う。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向DLと定義する。
インダクタの大きさは、例えば、長さL寸法が2.0mm、幅W寸法が1.6mm、厚みT寸法が1.1mmである。
【0011】
図3は、インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタとして構成されている。
【0012】
コア30は、磁性粒子と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。
【0013】
また、本実施形態の磁性粒子は、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含んでいる。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における磁性粒子の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
本実施形態において、第1磁性粒子および第2磁性粒子の金属粒子の平均粒径はそれぞれ24.4μmおよび1.7μmである。なお、第1磁性粒子の平均粒径は7μm以上60μm以下が好ましく、第2磁性粒子の平均粒径は1μm以上4μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0014】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う数nm以上数十nm以下の膜厚の絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
本実施形態の第1磁性粒子では、金属粒子には、Fe-Si-Bアモルファス合金粉が用いられ、絶縁膜には、厚み10nm以上50nm以下のリン酸亜鉛ガラスが用いられている。また、本実施形態の第2磁性粒子では、金属粒子には、カルボニル鉄粉が用いられ、絶縁膜には5nm以上15nm以下のシリカ膜が用いられている。
【0015】
また、本実施形態の混合粉において、樹脂の材料には、フェノールアルキル型エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ樹脂が用いられている。
本実施形態では、混合粉の組成は、第1磁性粒子が75±10wt%、第2磁性粒子が25±10wt%、樹脂が2.7wt%以上3.5wt%以下である。
【0016】
コイル導体20は、
図3に示すように、導線が巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部24とを備える。
コイル導体20は、導線と、導線の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導線(いわゆる、平角導線)であり、その厚みは、18μm以上90μm以下、幅は、240μm以上340μm以下である。被覆層は、帯状導線の表面上に形成された絶縁層と、絶縁層の表面に形成された、巻回部22において重なりあう帯状導線どうしを接着するための融着層と、で構成される。絶縁層は、ポリイミドアミド樹脂から成り、厚みは、6±2μmである。また、融着層は、ポリイミド樹脂から成り、厚みは、2.5±1.0μmである。なお、コイル導体の厚み面は、曲面であってもよく、導線の幅は、厚みの曲面部を含む。
【0017】
コイル導体20の巻回部22は、帯状導線(以下、単に導線ともいう)の両端が外周に引き出され、かつ内周で互いに繋がるように導線を渦巻き状に巻回して形成される。素体2の内部において、コイル導体20は、巻回部22の中心軸が素体2の厚み方向DTに沿う姿勢でコア30に埋設されており、また引出部24は、巻回部22から一対の端面14のそれぞれまで引き出され、外部電極4に電気的に接続されている。
【0018】
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の引出部24と接続され、また底面10に延出した部分4A(
図2)が半田などの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0019】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、素体保護層(図示せず)が形成されている。素体保護層は、例えば、フェノキシ樹脂およびノボラック樹脂であり、フィラーとしてナノシリカを含む。素体保護層は、素体2の表面上に、10μm以上30μm以下の厚みで形成されている。
【0020】
かかる構成のインダクタは、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタの用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0021】
図4は、インダクタの製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタの製造工程は、コイル導体形成工程、予備成型体形成工程、熱成型・硬化工程、バレル研磨工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
【0022】
コイル導体形成工程は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、及び一対の引出部24を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部24が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0023】
予備成型体形成工程は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が入り込む溝を有した適宜形状(例えばE型など)の第1タブレットと、この第1タブレットの溝を覆う適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0024】
熱成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。熱成型・硬化工程は、本開示における素体成型工程に相当する。
【0025】
バレル研磨工程は、この成型体をバレル研磨する工程であり、当該工程により、素体2の角部へのR付けが行われる。
【0026】
外部電極形成工程は、外部電極4をコア30に形成する工程であり、素体保護層形成工程と、表面処理工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
【0027】
素体保護層形成工程は、この成型体の全表面を絶縁性の樹脂でコーティングする工程である。
【0028】
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、引出部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、コア30の表面の素体保護層およびコイル導体20の引出部24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂を除去し、且つ、コア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ光の照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
【0029】
めっき層形成工程では、コア30の表面に銅をバレルめっきすることにより、レーザ光が照射された電極予定箇所に銅めっき層を形成する。これに加えて、めっき層は、銅めっき層の上に、さらにNiめっき層およびSnめっき層を設けて形成されるものとしてもよい。
【0030】
上記の外部電極形成工程により、上記めっき層で構成される外部電極4が形成される。
なお、外部電極4は、L字電極に限らず、端面14の全面から、当該端面14に隣接する底面10、上面12、及び一対の側面16のそれぞれの一部に亘って設けられた、いわゆる5面電極でもよい。なお、5面電極を導電性樹脂に浸漬して付与する場合は、素体保護層形成工程は、必ずしも必要でない。
【0031】
従来、上記の熱成型・硬化工程においては、コイル導体の引出部は、通常、素体の一対の端面のそれぞれにおいて露出するように配される。このとき、
図7の(a)に示すように、引出部74の表面が素体72の表面と同一面となる位置に配された場合には、その後の表面処理工程におけるレーザ光71の照射の際に、電極予定箇所において、素体72の表面が素体72の内部に向かって落ち込み、
図7の(b)に示すように引出部74が素体72から出っ張ってしまう場合があり得る。このような素体72の表面の落ち込みは、電極予定箇所における素体72に含まれる樹脂がレーザ光の照射により除去されること等により、素体72の体積が部分的に減少すること(すなわち、部分的な体積収縮)により発生し得ると考えられる。
【0032】
そして、このような引出部74の素体72からの出っ張りは、従来技術について上述したように、製造工程中における素体72どうしのぶつかりや擦れにより、素体72からの引出部74の剥がれを発生させて、製造歩留まりを低下させる要因となり得る。
【0033】
このため、本実施形態のインダクタ1では、特に、コイル導体20の巻回部22から引き出された引出部24は、素体2の表面から露出した引出部24の表面が、素体2の表面から素体2の内部側へ陥没した位置に凹部を形成し、かつ、引出部24を構成する帯状導線の長さ方向の少なくとも一部の帯状導線の幅方向の全体が素体から露出している。
【0034】
図5は、インダクタ1の幅Wの中心を通り幅方向DWと直交する平面に沿った、引出部24を含む部分の素体2の断面を示す図である。上述したように、インダクタ1では、コイル導体20の巻回部22から引き出された引出部24は、素体2の表面から露出した表面が、素体2の表面から素体2の内部側へ向かって陥没した位置に凹部25を形成している。これにより、インダクタ1では、素体2の表面からの引出部24の出っ張りがないため、製造工程中における製品同士の擦れやぶつかりにより引出部24が素体2から剥がれてしまうのを効果的に防止することができる。
【0035】
また、
図5に示すように、素体2から露出した引出部24の表面は、帯状導線20aの上に形成された被覆層20bが除去(剥離)されており、帯状導線20aの幅方向(
図6では、DT方向)の全体が素体から露出している。そして、露出した帯状導線20aの上に外部電極4のめっき層5が形成されている。
これにより、インダクタ1では、引出部24と外部電極4との接触面積を減少させないので、インダクタ1の直流抵抗値を低くすることができる。
【0036】
上記した陥没量および被覆層の厚みは、幅方向DWと直交する平面に沿った、引出部24を含む部分の素体2の断面を顕微鏡で観察して測定する。陥没量は5.5μm以上11.5μm以下が望ましい。また、引出部24は、素体の幅方向DWから傾いていてもよい。これにより、引出部24と外部電極4との接触面積を大きくすることができる。
【0037】
なお、引出部24の表面は、引出部24を構成する帯状導線20aの長さ方向(本実施形態では、素体2の幅方向DW)の全体において、帯状導線20aの幅方向(本実施形態では、素体2の厚み方向DT)の全体が素体2から露出していることが理想であるが、実用上は、帯状導線20aの長さ方向の少なくとも一部の帯状導線20aの幅方向の全体が素体2から露出していればよい。この場合にも、インダクタ1の直流抵抗値を低くすることができる。
【0038】
図6は、表面処理工程後における、素体2の表面から露出した引出部24の表面の顕微鏡写真の一例である。
図7の例では、露出した引出部24の表面は、領域Aにおいて図示下側のエッジ近傍が素体2により僅かに覆われているが、引出部24の長さ方向の一部分である領域Bにおいては、図示上下のエッジまで素体2から露出している。
【0039】
図5に示すような凹部25は、例えば、上述した熱成型・硬化工程において、コイル導体20の引出部24を、コア30を構成する第1タブレット及び第2タブレットと共に成形金型にセットする際に、引出部24の表面と成形金型の表面との間に、表面処理工程における素体2の体積収縮量に応じた隙間を設けることで実現することができる。ここで、熱成型・硬化工程において成形金型内でコア30の材料である混合粉を加熱し及び加圧する際には、コア30の一部が上記隙間に入り込む場合があり得る。このような上記隙間へのコア30の部分的な入り込みは、上記隙間の間隔に応じて、加熱及び加圧した際の混合粉の粘性の調整および加圧時の圧力を調整することにより、防止することができる。例えば、上記粘性の調整は、加熱時の温度の調整や、コア30が含む樹脂の組成や含有量等を調整することで行い得る。また、隙間にコア30の一部が入り込んだ場合であっても、サンドブラスや、レーザ光の照射によって除去してもよい。
【0040】
図5に示す素体2の表面に対する引出部24の表面の陥没量D(すなわち凹部25の深さ)は、例えば、コイル導体20の被覆層20bの厚み以上であることが好ましい。すなわち、素体2の表面から露出した引出部24の表面は、素体2の表面から素体2の内部側へ向かって被覆層20bの厚み以上陥没した位置に凹部25を形成していることが好ましい。
【0041】
例えば、熱成型・硬化工程において引出部24の表面と成形金型の表面との間に設ける隙間の間隔を、表面処理工程におけるレーザ光の照射により電極予定箇所において発生する素体2の体積収縮量に応じた、素体2の表面の落ち込み量に相当する間隔に設定すると、レーザ光の照射後における引出部24の表面の上記陥没量Dを、コイル導体20の被覆層20bの厚みと同等とすることができる。表面処理工程におけるレーザ光の照射により、素体2の表面が落ち込んで引出部24の被覆層20bの表面と略同一の位置になることに加えて、上記レーザ光の照射により引出部24の表面の被覆層20bが除去されるためである。
【0042】
陥没量Dをコイル導体20の被覆層20bの厚み以上とする構成は、表面処理工程におけるレーザ光の照射により電極予定箇所において発生する素体2の表面の落ち込み量を目安として、熱成型・硬化工程において引出部24の表面と成形金型の表面との間に設ける隙間の間隔を設定し得るので、設計や製造時における作業が容易となる。
【0043】
また、製造工程中における引出部24の剥離の発生をより効果的に防止する観点からは、陥没量Dは、5.5μm以上11.5μm以下であることがより好ましい。
【0044】
上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0045】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0046】
(構成1)帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部は、前記素体の表面から前記素体の内部側へ陥没した位置に凹部を形成するとともに、前記凹部において前記引出部の長さ方向の少なくとも一部の前記帯状導線の幅方向の全体が、前記素体から露出している、インダクタ。
構成1のインダクタによれば、製造工程中における素体からの引出部の剥がれを効果的に防止しつつ、インダクタとしての直流抵抗を低くすることができる。
【0047】
(構成2)前記コイル導体は、前記帯状導線と、前記帯状導線の表面上に形成された被覆層を含み、前記凹部において前記素体の表面から露出した前記引出部の表面は、前記被覆層が剥離されている、構成1に記載のインダクタ。
構成2のインダクタによれば、例えば、レーザ光の照射により発生する素体の表面の落ち込み量を目安として、素体形成時における引出部の表面と成形金型の表面との間に設ける隙間の間隔を設定し得るので、設計や製造時における作業が容易となる。
【0048】
(構成3)前記素体の表面から露出した前記引出部の表面は、前記素体の表面から前記素体の内部側へ向かって5.5μm以上11.5μm以下の陥没した位置にあって前記凹部を形成している、構成1または2に記載のインダクタ。
構成3のインダクタによれば、製造工程中における引出部の剥離の発生をより効果的に防止することができる。
【0049】
(構成4)絶縁膜を有する磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、帯状導線を巻き回したコイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを成形金型内で加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体の表面のうち、前記引出部が露出した部分を含む電極予定箇所にレーザ光を照射して、前記磁性粒子の前記絶縁膜を除去すると共に前記素体の表面の樹脂を除去する表面処理工程と、前記引出部の、前記素体から露出した表面に、めっき層を形成して外部電極を形成するめっき工程と、を有し、前記素体成型工程では、前記コア内に埋設した前記引出部の表面と成形金型の表面との間に、前記表面処理工程における前記素体の体積収縮量に応じた隙間を設けて、前記素体を成型する、インダクタの製造方法。
構成4のインダクタによれば、製造工程中における素体からの引出部の剥がれを効果的に防止することのできるインダクタを、容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…インダクタ、2、72…素体、4…外部電極、5…めっき層、10…底面、12…上面、14…端面、16…側面、20…コイル導体、20a…帯状導線、20b…被覆層、22…巻回部、24、74…引出部、25…凹部、30…コア、71…レーザ光。