(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033177
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】インダクタおよびインダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/29 20060101AFI20240306BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240306BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240306BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F27/29 Q
H01F17/04 F
H01F41/04 B
H01F27/28 152
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136612
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗内 敬太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳春
【テーマコード(参考)】
5E043
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB02
5E043EA01
5E043EB01
5E062FG11
5E070AA01
5E070AB01
5E070BB03
5E070EA01
5E070EA06
(57)【要約】
【課題】コイル導体の引出部を含む素体表面において素体と引出部との境界おける深い隙間の発生を防止して、引出部と外部電極との接続不良の発生を抑制する。
【解決手段】インダクタは、被覆層を有する帯状導線を巻き回したコイル導体と、コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、コイル導体の巻回部から引き出された引出部の、素体の表面から露出した部分には、外部電極が形成されており、帯状導線の、対向する2つの主面と隣接して対向する2つの側面は、帯状導線の厚み方向の断面視において帯状導線の外部に向かって突出し、引出部の、素体の表面から露出した部分において、外部電極は、帯状導線の突出する側面の稜線より素体の表面側の少なくとも一部に形成され、被覆層は、稜線より素体の内部側に延在している。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆層を有する帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、
前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の、前記素体の表面から露出した部分には、外部電極が形成されており、
前記帯状導線の、対向する2つの主面と隣接して対向する2つの側面は、前記帯状導線の厚み方向の断面視において前記帯状導線の外部に向かって突出し、
前記引出部の、前記素体の表面から露出した部分において、前記外部電極は、前記帯状導線の前記突出する側面の稜線より前記素体の表面側の少なくとも一部に形成され、
前記被覆層は、前記稜線より前記素体の内部側に延在している、
インダクタ。
【請求項2】
前記外部電極は、金属層からなる、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記帯状導線の、前記主面と前記側面との境界点を通り前記主面に直交する面を基準面として測った、前記側面が形成する前記稜線の高さは、8μm以上である、
請求項1または2に記載のインダクタ。
【請求項4】
磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、帯状導線を巻き回したコイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、
前記素体の表面のうち、前記引出部が露出した部分を含む電極予定箇所にレーザ光を照射して、前記素体および前記引出部の表面に表面処理を施す表面処理工程と、
前記引出部の、前記素体から露出した表面に、めっき層を形成して外部電極を形成するめっき工程と、
を有し、
前記帯状導線は、その表面に形成された被覆層を有し、
前記帯状導線の、対向する2つの主面と隣接する2つの側面は、前記帯状導線の厚み方向の断面視において前記帯状導線の外部に向かって突出し、
前記表面処理工程では、前記引出部の表面のうち、前記帯状導線の前記突出する側面の稜線より前記素体の内部側にある表面以外の、前記側面の少なくとも一部を含む部分の前記被覆層を除去する、
インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタおよびインダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁性粒子と樹脂とを含む素体(磁性体部)と、素体に埋設されたコイル導体と、コイル導体の末端に電気的に接続された一対の外部電極とを有するコイル部品において、コイル導体のうち、その両端部に位置する引出部(露出部分)の間の被覆部分を、外部電極が存在する素体の面よりも内側に配置することが開示されている。また、特許文献1には、素体から露出した引出部の周辺をレーザ光の照射により処理したのち、めっき処理を行って外部電極を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
素体表面のうち外部電極が形成される領域へ上記レーザ光の照射を行うことにより、素体表面において磁性粒子の絶縁膜が除去され、その後の外部電極形成におけるめっき層の成長が容易となる。一方で、レーザ光の照射により、コイル導体の被覆層も蒸発して除去されるため、素体表面における引出部と素体との境界部において引出部の厚み方向に被覆部が除去されると、素体内部に向かって深い隙間を生じ得る。この深い隙間は、その後の外部電極形成におけるめっき層の形成において、めっき層下部の空隙となって残る場合があり、引出部と外部電極とめっきを十分に厚く形成しなかった場合は接続不良の原因となり得る。
【0005】
本発明は、素体から露出したコイル導体の引出部を含む素体表面の領域をレーザ光の照射により処理して外部電極が形成されるインダクタにおいて、素体表面における引出部と素体との境界において発生し得る素体内部へ向かう深い隙間の発生を防止して、引出部と外部電極との接続不良の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、被覆層を有する帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の、前記素体の表面から露出した部分には、外部電極が形成されており、前記帯状導線の、対向する2つの主面と隣接して対向する2つの側面は、前記帯状導線の厚み方向の断面視において前記帯状導線の外部に向かって突出し、前記引出部の、前記素体の表面から露出した部分において、前記外部電極は、前記帯状導線の前記突出する側面の稜線より前記素体の表面側の少なくとも一部に形成され、前記被覆層は、前記稜線より前記素体の内部側に延在している、インダクタである。
本発明の他の態様は、磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、帯状導線を巻き回したコイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体の表面のうち、前記引出部が露出した部分を含む電極予定箇所にレーザ光を照射して、前記素体および前記引出部の表面に表面処理を施す表面処理工程と、前記引出部の、前記素体から露出した表面に、めっき層を形成して外部電極を形成するめっき工程と、を有し、前記帯状導線は、その表面に形成された被覆層を有し、前記帯状導線の、対向する2つの主面と隣接する2つの側面は、前記帯状導線の厚み方向の断面視において前記帯状導線の外部に向かって突出し、前記表面処理工程では、前記引出部の表面のうち、前記帯状導線の前記突出する側面の稜線より前記素体の内部側にある表面以外の、前記側面の少なくとも一部を含む部分の前記被覆層を除去する、インダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、素体から露出したコイル導体の引出部を含む素体表面の領域をレーザ光の照射により処理して外部電極が形成されるインダクタにおいて、素体表面における引出部と素体との境界において発生し得る素体内部へ向かう深い隙間の発生を防止して、引出部と外部電極との接続不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
【
図2】インダクタを底面の側から視た斜視図である。
【
図3】インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
【
図5】コイル導体の、厚み方向の平面に沿った断面図である。
【
図6】引出部近傍の構成の一例を示す、素体の断面図である。
【
図7】
図6に示す断面図のA部の部分詳細図である。
【
図8】引出部近傍の構成の他の一例を示す、素体の断面図である。
【
図9】
図8に示す断面図のB部の部分詳細図である。
【
図10】引出部近傍の構成の一例を示す素体断面の顕微鏡写真である。
【
図11】従来技術における、引出部の厚さ方向断面を含む素体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係るインダクタを上面12の側から視た斜視図であり、
図2はインダクタを底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタは、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
【0010】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面12と言い、底面10に直交する一対の第3の主面を端面14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の第4の主面を側面16と言う。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向DLと定義する。
インダクタの大きさは、例えば、長さL寸法が2.0mm、幅W寸法が1.6mm、厚みT寸法が1.1mmである。
【0011】
図3は、インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタとして構成されている。
【0012】
コア30は、磁性粒子と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。
【0013】
また、本実施形態の磁性粒子は、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含んでいる。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における磁性粒子の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
本実施形態において、第1磁性粒子および第2磁性粒子の金属粒子の平均粒径はそれぞれ24.4μmおよび1.7μmである。なお、第1磁性粒子の平均粒径は7μm以上60μm以下が好ましく、第2磁性粒子の平均粒径は1μm以上4μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0014】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う数nm以上数十nm以下の膜厚の絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
本実施形態の第1磁性粒子では、金属粒子には、Fe-Si-Bアモルファス合金粉が用いられ、絶縁膜には、厚み10nm以上50nm以下のリン酸亜鉛ガラスが用いられている。また、本実施形態の第2磁性粒子では、金属粒子には、カルボニル鉄粉が用いられ、絶縁膜には5nm以上15nm以下のシリカ膜が用いられている。
【0015】
また、本実施形態の混合粉において、樹脂の材料には、フェノールアルキル型エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ樹脂が用いられている。
本実施形態では、混合粉の組成は、第1磁性粒子が75±10wt%、第2磁性粒子が25±10wt%、樹脂が2.7wt%以上3.5wt%以下である。
【0016】
コイル導体20は、
図3に示すように、導線が巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部24とを備える。
コイル導体20は、導線と、導線の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導線(いわゆる、平角導線)であり、その厚みは、18μm以上90μm以下、幅は、240μm以上340μm以下である。被覆層は、帯状導線の表面上に形成された絶縁層と、絶縁層の表面に形成された、巻回部22において重なりあう帯状導線どうしを接着するための融着層と、で構成される。絶縁層は、ポリイミドアミド樹脂から成り、厚みは、6±2μmである。また、融着層は、ポリイミド樹脂から成り、厚みは、2.5±1.0μmである。なお、コイル導体の厚み面は、曲面であってもよく、導線の幅は、厚みの曲面部を含む。
【0017】
コイル導体20の巻回部22は、帯状導線(以下、単に導線ともいう)の両端が外周に引き出され、かつ内周で互いに繋がるように導線を渦巻き状に巻回して形成される。素体2の内部において、コイル導体20は、巻回部22の中心軸が素体2の厚み方向DTに沿う姿勢でコア30に埋設されている。引出部24は、巻回部22から一対の端面14のそれぞれまで引き出され、その一方の主面が素体2から露出し、他方の主面が素体2に埋設されている。引出部24の、素体2から露出した上記一方の主面は、外部電極4に電気的に接続されている。
【0018】
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の引出部24と接続され、また底面10に延出した部分4A(
図2)がはんだなどの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0019】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、素体保護層(図示せず)が形成されている。素体保護層は、例えば、フェノキシ樹脂およびノボラック樹脂であり、フィラーとしてナノシリカを含む。素体保護層は、素体2の表面上に、10μm以上30μm以下の厚みで形成されている。
【0020】
かかる構成のインダクタは、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタの用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0021】
図4は、インダクタの製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタの製造工程は、コイル導体形成工程、予備成型体形成工程、熱成型・硬化工程、バレル研磨工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
【0022】
コイル導体形成工程は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、及び一対の引出部24を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部24が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0023】
予備成型体形成工程は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が入り込む溝を有した適宜形状(例えばE型など)の第1タブレットと、この第1タブレットの溝を覆う適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0024】
熱成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。熱成型・硬化工程は、本開示における素体成型工程に相当する。
【0025】
バレル研磨工程は、この成型体をバレル研磨する工程であり、当該工程により、素体2の角部へのR付けが行われる。
【0026】
外部電極形成工程は、外部電極4をコア30に形成する工程であり、素体保護層形成工程と、表面処理工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
【0027】
素体保護層形成工程は、この成型体の全表面を絶縁性の樹脂でコーティングする工程である。
【0028】
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、引出部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、コア30の表面の素体保護層およびコイル導体20の引出部24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂を除去し、且つ、コア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ光の照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
【0029】
めっき層形成工程では、コア30の表面に銅をバレルめっきすることにより、レーザ光が照射された電極予定箇所に銅めっき層を形成する。これに加えて、めっき層は、銅めっき層の上に、さらにNiめっき層およびSnめっき層を設けて形成されるものとしてもよい。
【0030】
上記の外部電極形成工程により、上記めっき層で構成される外部電極4が形成される。
なお、外部電極4は、L字電極に限らず、端面14の全面から、当該端面14に隣接する底面10、上面12、及び一対の側面16のそれぞれの一部に亘って設けられた、いわゆる5面電極でもよい。なお、5面電極を導電性樹脂に浸漬して付与する場合は、素体保護層形成工程は、必ずしも必要でない。
【0031】
背景技術に関連して上述したように、上記の表面処理工程においては、素体の表面の電極予定箇所にレーザ光の照射を行うことにより、コアの表面の素体保護層およびコイル導体の被覆層を除去すると共に、素体の表面にある磁性粒子の絶縁膜除去することで、その後の外部電極形成におけるめっき層の成長が容易となる。その一方で、磁性粒子の融点に比べて、一般に、引出部を構成するコイル導体の被覆層の沸点は低いことから、このレーザ光の照射により、素体表面における引出部と素体との境界部分に、素体内部へ向かって被覆層の蒸発除去に起因する深い隙間が生じ得る。
【0032】
図11は、従来技術におけるインダクタの、引出部74の厚さ方向断面を含む素体72の断面図である。
図11に示すように、引出部74の導線74aの表面上に形成された被覆層74bは、図示上方からのレーザ光の照射により引出部74の図示左右の側面において蒸発除去され、引出部74と素体72との間に、引出部74の厚みの全体にまで延在する深い隙間76を生じ得る。そして、このような深い隙間76は、その後の外部電極形成工程における外部電極75を構成するめっき層の形成において、隙間76の部分に空隙を生じさせやすく、引出部74の導線74aと外部電極75との接続不良の原因となり得る。
【0033】
このため、本実施形態では、特に、コイル導体20を構成する帯状導線は、当該帯状導線の対向する2つの主面と隣接して対向する2つの側面が、帯状導線の厚み方向の断面視において当該帯状導線の外部に向かって曲線状に突出する曲面を成すように構成されている。そして、外部電極4の金属層(本実施形態では、めっき層)は、引出部24の、素体2の表面から露出した部分において、帯状導線の突出する側面の稜線より素体2の表面側の少なくとも一部に形成され、帯状導線の被覆層は、上記稜線より素体2の内部側に延在するよう構成されている。
【0034】
図5は、本実施形態における、コイル導体20の厚み方向の平面(すなわち、長さ方向に直交する平面)に沿った、コイル導体20の断面図である。コイル導体20は、帯状導線20aと、帯状導線20aの表面上に形成された被覆層20bと、を有する。被覆層20bは、帯状導線20aの表面上に形成された絶縁層25aと、絶縁層25aの表面上に形成された融着層25bと、を含む。なお、
図5において、白丸や黒丸で示す各点は、紙面法線方向に延在して線を成すことに留意されたい。
【0035】
帯状導線20aは、特に、対向する2つの主面26と隣接して対向する2つの側面27が、
図5に示す帯状導線20aの厚み方向の断面視において、帯状導線20aの外部に向かって曲線状に突出して、稜線27a(図示黒丸で示す位置)を有する曲面を成すように構成されている。ここで、平坦な主面26と側面27との境界26a(図示白丸で示す位置)を通り主面26に直交する面を基準面RPとして測った、当該基準面RPから稜線27aまでの距離を、稜線27aの高さhと定義する。
【0036】
図6は、インダクタ1における引出部24近傍の構成の一例を示す図であり、インダクタ1の幅Wの中心を通り幅方向DWと直交する平面に沿った、引出部24を含む素体2の断面を示す図である。また、
図7は、
図6におけるA部の部分詳細図である。
【0037】
ここで、一般に、表面処理工程において素体2の電極予定箇所にレーザ光を照射すると、素体2に含まれる樹脂が除去されること等により、電極予定箇所における素体2の体積が縮小し、素体2の表面がその内部に向かって落ち込む。
【0038】
図6および
図7に示す例では、表面処理工程において図示上方から照射されるレーザ光の強度及び又は照射時間が調整されることにより、素体2の表面は、引出部24を構成する帯状導線20aの稜線27aの深さまで落ち込んでいる。このレーザ光の照射により、引出部24の被覆層20bは蒸発して除去されるが、引出部24の表面のうち稜線27aより下側、すなわち、稜線27aより素体2の内部側は、図示上方から照射されるレーザ光の影になるため、当該影になる部分の被覆層20bは除去されない(以下、この現象を、「稜線27aによる日陰効果」ともいう)。その結果、引出部24と素体2の境界部分に生ずる隙間28は、素体2の内部に向かって先細った楔状となる。
【0039】
すなわち、上述した日陰効果により引出部24の表面のうち稜線27aより素体2の内部側の被覆層20bは除去されないため、この隙間28は、
図11に示す従来技術における隙間76とは異なり、引出部24の下側の面(素体2の内部側の面)の深さにまで延在するような(すなわち、引出部24の厚みの全体にまで延在するような)深い隙間とはならない。すなわち、インダクタ1では、素体2の表面の引出部24と素体2との境界部における、素体2の内部に向かって引出部24の厚み全体にまで延在するような深い隙間の形成が防止される。
【0040】
そして、引出部24のうち被覆層20bが除去された部分の帯状導線20aの表面に外部電極4のめっき層5が形成されることにより、
図6および
図7に示すように、外部電極4のめっき層5は、引出部24のうち、帯状導線20aの側面27を構成する曲面の稜線27aより素体2の内部側にある表面以外の、上記曲面の全体に延在して形成される。これにより、インダクタ1では、インダクタ1における直流抵抗値を小さくすることができる。
【0041】
なお、外部電極4のめっき層5は、必ずしも、
図6、
図7に示すように帯状導線20aの表面のうち稜線27aより図示上側の全体に形成されている必要はない。外部電極4の金属層であるめっき層5は、引出部24において、帯状導線20aの表面のうち、側面27を構成する曲面の稜線より素体2の内部側にある部分以外の、上記曲面の少なくとも一部にまで延在して形成されていればよい。このような構成においても、素体2と引出部24との間の深い隙間の発生を防止して、引出部24と外部電極4との接続不良の発生を効果的に抑制しつつ、インダクタ1における直流抵抗値を小さくすることができる。
【0042】
図8は、そのような、インダクタ1における引出部24近傍の構成の他の一例(変形例)を示す図である。
図8は、
図7と同様に、インダクタ1の幅Wの中心を通り幅方向DWと直交する平面に沿った、引出部24およびその周囲の素体2の断面を示している。また、
図9は、
図8におけるB部の部分詳細図である。
【0043】
図8および
図9に示す例では、素体2の表面は、
図6および
図7の例よりも落ち込みが浅く、引出部24の図示上面と稜線27aとの間の深さに止まっている。このような構成は、
図6および
図7の例に比べて、表面処理工程において図示上方から照射するレーザ光の照射量を少なく調整する(例えば、レーザ光の強度をより小さく及び又はその照射時間をより短く調整する)ことで実現され得る。
【0044】
図6及び
図7の例と同様にこのレーザ光の照射により、引出部24の被覆層20bは蒸発して除去されるが、レーザ光の照射量が少なく調整されていることから、引出部24の帯状導線20aの側面27の被覆層20bは、
図8及び
図9に示すように、稜線27aの深さまで除去されることなく、その途中まで除去されて小さなV字型の窪み29を形成し得る。
【0045】
そして、引出部24のうち被覆層20bが除去された部分の帯状導線20aの表面に外部電極4のめっき層5が形成されることにより、
図8および
図9に示すように、外部電極4のめっき層5は、帯状導線20aの表面のうち、稜線27aより素体2の内部にある部分以外の、側面27を構成する曲面の一部に延在して形成されることとなる。
【0046】
上記のようにレーザ光の照射量を少なく調整する場合には、被覆層20bは稜線27aの深さまで除去されないため、上記調整された照射量が一定に維持される理想状態においては、
図6及び
図7について示したような、稜線27aによる日陰効果は生じない。しかしながら、製造工程に用いられ得る実際のレーザ装置では、当該レーザ装置の性能や動作環境条件に依存して、出力されるレーザ光の強度が揺らぎ得る。
【0047】
そのような場合でも、本実施形態に係るインダクタ1の構成によれば、例えば、表面処理工程においてレーザ光の強度のゆらぎ等により、素体2へのレーザ光の照射量が設計値に対して過照射となり、被覆層20bが稜線27aの深さまで除去されることとなっても、上記日陰効果により、素体2と引出部24との間の深い隙間の発生を防止して、引出部24と外部電極4との接続不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0048】
図10は、インダクタ1の、
図6に示す断面図に相当する素体2の断面の顕微鏡写真である。
図10に示す顕微鏡写真は、帯状導線20aと外部電極4のめっき層5との境界線が薄いため、
図10には、帯状導線20aの輪郭を図示点線の枠で示している。
図10の例では、
図6に示す例よりもレーザ光の照射量が若干弱められており、帯状導線20aの稜線27a近傍の被覆層20bは未だ残存した状態となっている。
【0049】
ここで、上述した稜線27aによる日陰効果を良好に発揮させる観点からは、帯状導線20aの稜線27aの高さh(
図5)は、8μm以上であることが好ましい。稜線27aの高さhが8μm未満の場合には、稜線27aの深さまで被覆層20bが除去されるようなレーザ光の照射が行われた際に、素体2を伝わる熱の回り込みにより、稜線27aより素体2の内部側にある被覆層20bまで除去されてしまう場合があり、引出部24と素体との間に、より深い隙間を生ずる可能性が高まるためである。
【0050】
上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0051】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0052】
(構成1)被覆層を有する帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の、前記素体の表面から露出した部分には、外部電極が形成されており、前記帯状導線の、対向する2つの主面と隣接して対向する2つの側面は、前記帯状導線の厚み方向の断面視において前記帯状導線の外部に向かって突出し、前記引出部の、前記素体の表面から露出した部分において、前記外部電極は、前記帯状導線の前記突出する側面の稜線より前記素体の表面側の少なくとも一部に形成され、前記被覆層は、前記稜線より前記素体の内部側に延在している、インダクタ。
構成1のインダクタによれば、製造工程において表面処理のためのレーザ光が素体に照射される際に、引出部の表面のうち、稜線から素体の内部側にある面は、レーザ光が当たらず表面処理されない。このため、構成1のインダクタでは、素体表面の引出部と素体との境界部における、引出部の厚み全体にまで延在するような深い隙間の発生を防止して、引出部と外部電極との接続不良の発生を抑制することができる。
【0053】
(構成2) 前記外部電極は、金属層からなる、構成1に記載のインダクタ。
構成2のインダクタによれば、引出部を構成する帯状導線の表面に被覆層が形成されていて、製造工程中におけるレーザ光の照射により帯状導線の側面の被覆層が除去されて素体内に隙間が残され得るような構成においても、引出部の厚み全体にまで延在するような深い隙間の発生を防止して、引出部と外部電極との接続不良の発生を抑制することができる。
【0054】
(構成3)前記帯状導線の、前記主面と前記側面との境界点を通り前記主面に直交する面を基準面として測った、前記側面が形成する前記稜線の高さは、8μm以上である、構成1または2に記載のインダクタ。
構成3のインダクタによれば、製造工程において、素体表面処理のためのレーザ光の照射により素体に生じた熱が素体内を伝わって、引出部の表面のうち、稜線より素体内部の側の部分にまで表面処理を施してしまうのを防止することができる。これにより、構成3のインダクタによれば、素体表面の引出部と素体との境界部における、素体内部に向かう深い隙間の発生を効果的に防止して、引出部と外部電極との接続不良の発生をより効果的に抑制することができる。
【0055】
(構成4)磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、帯状導線を巻き回したコイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体の表面のうち、前記引出部が露出した部分を含む電極予定箇所にレーザ光を照射して、前記素体および前記引出部の表面に表面処理を施す表面処理工程と、前記引出部の、前記素体から露出した表面に、めっき層を形成して外部電極を形成するめっき工程と、を有し、前記帯状導線は、その表面に形成された被覆層を有し、前記帯状導線の、対向する2つの主面と隣接する2つの側面は、前記帯状導線の厚み方向の断面視において前記帯状導線の外部に向かって突出し、前記表面処理工程では、前記引出部の表面のうち、前記帯状導線の前記突出する側面の稜線より前記素体の内部側にある表面以外の、前記側面の少なくとも一部を含む部分の前記被覆層を除去する、インダクタの製造方法。
構成4のインダクタの製造方法によれば、素体表面の引出部と素体との境界部における、素体内部に向かう深い隙間の発生を防止して、引出部と外部電極との接続不良のないインダクタを、安定に製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…インダクタ、2、72…素体、4…外部電極、5…めっき層、10…底面、12…上面、14…端面、16…側面、20…コイル導体、20a…帯状導線、20b、74b…被覆層、22…巻回部、24、74…引出部、25a…絶縁層、25b…融着層、26…主面、26a…境界、27…側面、27a…稜線、28、76…隙間、29…窪み、30…コア、74a…導線。