(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033178
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】水性顔料分散体の製造方法及び水性インクジェットインクの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20240306BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240306BHJP
B01J 13/22 20060101ALI20240306BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D11/322
B01J13/22
C08F20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136613
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】浜田 司
【テーマコード(参考)】
4G005
4J037
4J039
4J100
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005AB27
4G005BA14
4G005BB06
4G005BB08
4G005BB24
4G005DC02W
4G005DD04Z
4G005EA06
4J037AA02
4J037CB01
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4J037FF23
4J039BC09
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4J039BE28
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4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
4J100AJ02T
4J100AL03P
4J100AL08Q
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4J100BA15R
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4J100FA19
4J100FA28
4J100GC22
4J100GD02
4J100JA07
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性に優れた水性インクジェットインクの製造に使用することができる水性顔料分散体を提供する。
【解決手段】水、顔料、高分子化合物、及び脂肪族フッ素系溶剤を含む混合物Mを得る工程と、混合物Mから脂肪族フッ素系溶剤を留去してカプセル顔料の水性分散体を得る工程とを含む、水性顔料分散体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、顔料、高分子化合物、及び脂肪族フッ素系溶剤を含む混合物Mを得る工程と、
前記混合物Mから前記脂肪族フッ素系溶剤を留去してカプセル顔料の水性分散体を得る工程と
を含む、水性顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族フッ素系溶剤のハンセン溶解度パラメータが、15.0MPa1/2以上である、請求項1に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【請求項3】
前記高分子化合物が、
(A)β-ジカルボニル基、
(B)カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種、および
(C)アルコキシシリル基、
を含む、請求項1又は2に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水性顔料分散体の製造方法で水性顔料分散体を製造する工程と、
前記水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合する工程とを含む、水性インクジェットインクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水性顔料分散体の製造方法、及び水性インクジェットインクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を、高速かつ低騒音で印刷可能、という特徴を有し最近急速に普及している。
【0003】
インクジェット記録システムに用いられるインクの色材としては、高画質印刷に必要な耐光性、耐候性および耐水性に優れていることから、顔料を色材とするインクが増加する傾向にある。
【0004】
水性顔料インクの製造法としては、親水性有機溶剤と水とポリマーと顔料との混合液を分散処理し、次いで脱溶剤する方法や、ポリマーの有機溶剤溶液中に着色剤を分散させ、これを水性媒体と混合して転相乳化を行い、有機溶剤を除去する方法が知られている。
【0005】
特許文献1には、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させて得られた水不溶性ポリマー溶液に、顔料及び水等を混合して分散処理し、得られた顔料分散体から有機溶媒を除去することにより、顔料水分散体を製造することが記載されている。
特許文献2には、色素を溶解した有機溶剤を水中に分散させたエマルションから、有機溶剤を留去し、分散体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-171108号公報
【特許文献2】特開平11-131000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態は、貯蔵安定性に優れた水性インクジェットインクの製造に使用することができる水性顔料分散体を提供することを課題とする。
本発明の他の実施形態は、貯蔵安定性に優れた水性インクジェットインクを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、水、顔料、高分子化合物、及び脂肪族フッ素系溶剤を含む混合物Mを得る工程と、前記混合物Mから前記脂肪族フッ素系溶剤を留去してカプセル顔料の水性分散体を得る工程とを含む、水性顔料分散体の製造方法に関する。
本発明の他の実施形態は、前記実施形態の水性顔料分散体の製造方法で水性顔料分散体を製造する工程と、前記水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合する工程とを含む、水性インクジェットインクの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、貯蔵安定性に優れた水性インクの製造に使用することができる水性顔料分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことはいうまでもない。
【0011】
<水性顔料分散体の製造方法>
一実施形態による水性顔料分散体の製造方法は、水、顔料、高分子化合物、及び脂肪族フッ素系溶剤を含む混合物Mを得る工程(以下、「工程1」という場合もある。)と、混合物Mから脂肪族フッ素系溶剤を留去してカプセル顔料の水性分散体を得る工程(以下、「工程2」という場合もある。)とを含む。
一実施形態による水性顔料分散体の製造方法を用いた場合、分散安定性に優れた顔料分散体を製造することが可能であり、これにより、貯蔵安定性に優れた水性インクジェットインク(以下、単に「インク」と記す場合もある。)を製造することができる。
ここで、「カプセル顔料」は、高分子化合物により顔料が被覆された複合体をいう。
【0012】
水、顔料、高分子化合物、及び脂肪族フッ素系溶剤を含む混合物Mを得る工程(「工程1」)について説明する。
【0013】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
混合物Mにおいて、顔料は、混合物M全量に対して1~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。
特に、水性顔料分散体やインクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いることができる。
【0016】
混合物Mにおいて、水は、混合物M全量に対して30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましく、50~60質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
混合物Mは、脂肪族フッ素系溶剤を含むことが好ましい。
【0018】
フッ素系溶剤のなかでも、芳香族フッ素系溶剤は、水に対する親和性が低い傾向がある。水との親和性が低い芳香族フッ素系溶剤を用いた場合には、例えば、フッ素系溶剤を留去する前の段階で、相分離が起り、そのような状態でフッ素系溶剤を留去すると、高分子化合物だけが凝集した複合体が形成されるなどにより、顔料のカプセル化が阻害され、顔料の分散状態が不安定になりやすい場合がある。一方、脂肪族フッ素系溶剤は、水に対する適度な親和性を有する傾向があり、良好な顔料の分散安定性を実現しやすい。
水との親和性が低い有機溶剤を用いる場合、混合物Mを例えば、あらかじめ顔料と有機溶剤を混合し、これを水中に分散させる等の煩雑な工程が必要になる場合がある。製造工程の短縮化の観点からも、水に対する親和性が良好な有機溶剤を用いることが好ましい。
【0019】
水との親和性の観点から、脂肪族フッ素系溶剤は、ハンセン溶解度パラメータが、水に近いことが好ましい。また、この観点から、脂肪族フッ素系溶剤のハンセン溶解度パラメータは、13.0MPa1/2以上が好ましく、14.0MPa1/2以上がより好ましく、15.0MPa1/2以上がさらに好ましい。
【0020】
ハンセン溶解度パラメータ(以下、HSP値とも呼ぶ。)は、1967年にHansenが提唱したものであり、Hildebrandによって導入された溶解度パラメータを分散項δD、極性項δP、水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間で表したものである。分散項は、分散力による効果、極性項は、双極子間力による効果、水素結合項は、水素結合力の効果を示す。より詳細には、POLYMER HANDBOOK.FOURTH EDITION.(Editors.J.BRANDRUP,E.H.IMMERGUT,andE.A.GRULKE.)等に説明されている。
本開示では、Charles.M.Hansenらによるハンセン溶解度パラメータ計算ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」ver.5.3を用いて計算した値を用いる。
【0021】
脂肪族フッ素系溶剤は、工程2において水を含む系から留去される観点から、沸点または水との共沸点が100℃未満であることが好ましく、85℃未満であることがより好ましい。
【0022】
安全性の観点から、脂肪族フッ素系溶剤は、引火点を有しないものが好ましい。また、混合物Mに複数の有機溶剤が含まれる場合には、溶剤混合物として引火点を有していないことが好ましい。引火点を有していない溶剤を用いる場合、防爆対応の構造設備や貯蔵設備を用いずに製造、保管することが可能となり得る。
【0023】
脂肪族フッ素系溶剤は、地球温暖化係数が低く、地球環境への負荷が少ないものが好ましい。脂肪族フッ素系溶剤の地球温暖化係数(100年値)は10以下が好ましく、より好ましくは1以下の溶剤である。
【0024】
安全性の観点から、脂肪族フッ素系溶剤は、その許容濃度(日本産業衛生学会)がより高い方が好ましい。脂肪族フッ素系溶剤は、許容濃度(日本産業衛生学会)が100ppm以上であることが好ましく、200ppm以上であることがより好ましい。
【0025】
脂肪族フッ素系溶剤としては、パーフルオロカーボン(PFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、環状フッ素化合物などが挙げられる。より具体的には、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチルー2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンとの異性体混合物、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロ-3-メトキシプロパン、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0026】
脂肪族フッ素系溶剤を含む有機溶剤の市販品の例としては、AGC株式会社製「アモレアAS-300」、「アモレアAT-1」、「アモレアAT-2」、「アサヒクリンAE-3000」、日本ゼオン株式会社製「ゼオローラH」、セントラル硝子株式会社製「CELEFIN 1233Z」、3M社製「Nоvec-7000」、「Nоvec-7100」、「Nоvec-7200」、「Nоvec-7300」等が挙げられる(いずれも、商品名)。
【0027】
混合物Mにおいて、脂肪族フッ素系溶剤は、混合物M全量に対して、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。混合物Mにおいて、脂肪族フッ素系溶剤は、混合物M全量に対して、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。例えば、混合物Mにおいて、脂肪族フッ素系溶剤は、混合物M全量に対して、1~60質量%であることが好ましく、5~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましく20~40質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
混合物Mは、脂肪族フッ素系溶剤以外の有機溶剤を含んでもよい。脂肪族フッ素系溶剤以外の有機溶剤としては、沸点または水との共沸点が100℃未満の有機溶剤が好ましく、より好ましくは、85℃未満である。その他の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤等が挙げられる。脂肪族フッ素系溶剤以外の有機溶剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0029】
混合物Mにおいて、脂肪族フッ素系溶剤は、有機溶剤全量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。混合物Mにおいて、脂肪族フッ素系溶剤は、有機溶剤全量に対して、例えば100質量%であってよい。混合物Mにおいて、脂肪族フッ素系溶剤は、有機溶剤全量に対して、10~100質量%であることが好ましく、20~100質量%であることがより好ましく、40~100質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
混合物Mは、高分子化合物を含むことが好ましい。高分子化合物は、顔料を被覆(カプセル化)する被覆樹脂であり、塩生成基を含むことなどにより顔料分散機能を付与することもできる。
【0031】
高分子化合物は、β-ジカルボニル基を含むことが好ましい。
β-ジカルボニル基としては、アセトアセチル基、プロピオンアセチル基等のβ-ジケトン基、アセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等のβ-ケト酸エステル基が挙げられる。高分子化合物は、β-ジカルボニル基を1種のみ又は複数種含んでよい。
【0032】
高分子化合物は、カルボキシ基、スルホ基等のアニオン性の塩生成基を含むことが好ましく、カルボキシ基、スルホ基、またはこれらの組合せを含むことがより好ましい。
【0033】
高分子化合物は、アルコキシシリル基を含むことが好ましい。アルコキシシリル基の例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルジプロポキシシリル基、フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基、フェニルジプロポキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基、フェニルメチルメトキシシリル基、フェニルメチルエトキシシリル基等が挙げられる。高分子化合物は、アルコキシシリル基を1種のみまたは複数種含んでよい。
アルコキシシリル基の少なくとも一部が、水によってシロキサン結合を形成することが好ましい。
【0034】
高分子化合物は、例えば、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種と、アルコキシシリル基とを含むことが好ましい。
高分子化合物は、例えば、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種と、シロキサン結合による架橋構造と、を含むことが好ましい。
【0035】
高分子化合物は、単独重合体又は共重合体のいずれでもよい。高分子化合物が共重合体であるとき、共重合形式はとくに限定されない。例えば、高分子化合物は、ランダムポリマー、ブロックポリマー等のいずれであってもよい。
高分子化合物は、2以上のモノマーの共重合体であることが好ましい。
【0036】
高分子化合物は、たとえば、(A)β-ジカルボニル基含有モノマー(以下、「モノマー(A)という場合もある。」)、(B)カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選択されるすくなくとも1つを含有するモノマー(以下、「モノマー(B)という場合もある。」)、および(C)アルコキシシリル基含有モノマー(以下、「モノマー(C)という場合もある。」)を含むモノマーの共重合体であることが好ましい。モノマー(C)のアルコキシシリル基の少なくとも一部は、水によってシロキサン結合を形成することが好ましい。
【0037】
(A)β-ジカルボニル基含有モノマーは、分子中に少なくとも一つのβ-ジカルボニル基を有するモノマーであれば特に限定されない。好ましくはビニルモノマーであり、例えば、β-ジカルボニル基を含有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド等を好ましく用いることができる。たとえば、エステル鎖にβ-ジケトン基またはβ-ケト酸エステル基を含む(メタ)アクリレート、アミド鎖にβ-ジケトン基またはβ-ケト酸エステル基を含む(メタ)アクリルアミド等が好ましい例として挙げられる。容易に入手可能なものとしては、たとえば、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドエチルアセトキシアセテート、ヘキサジオン(メタ)アクリレートが挙げられる。モノマー(A)は、1種を単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
なお、(メタ)アクリル酸はアクリル酸およびメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートはアクリレートおよびメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドはアクリルアミドおよびメタクリルアミドを意味する(以下同様)。
【0038】
(B)カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種を含有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸等が挙げられる。モノマー(B)は、1種を単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
【0039】
(C)アルコキシシリル基含有モノマーとしては、たとえば、γ-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルフェニルメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルフェニルメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシトリメトキシシラン、γ-グリシドキシトリエトキシシラン、グリシジルトリメトキシシラン、グリシジルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。モノマー(C)は、1種を単独で、または複数種を組み合わせて使用できる。
【0040】
高分子化合物は、モノマー(A)、(B)および(C)を含み、さらにこれら以外の重合性モノマーを含んでいてもよい。たとえば、他のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル、アリル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー:マレイン酸エステル、フマル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、α-オレフィン等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を含むモノマーを使用することは、顔料への吸着性が向上するため好ましい。
【0041】
モノマー(A)は、高分子化合物を構成する全モノマーの合計量に対して、5~40質量%が好ましく、5~35質量%がより好ましく、10~30質量%がより好ましい。
モノマー(B)は、全モノマーの合計量に対して、5~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
モノマー(C)は、全モノマーの合計量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、3~5質量%がさらに好ましい。
例えば、モノマー(A)、(B)および(C)は、全モノマー中、モノマー(A)が5~40質量%、モノマー(B)が5~30質量%、およびモノマー(C)が0.1~30質量%であることが好ましく、モノマー(A)が5~35質量%、モノマー(B)が5~20質量%、およびモノマー(C)が1~10質量%であることがより好ましく、モノマー(A)が10~30質量%、モノマー(B)が5~15質量%、およびモノマー(C)が3~5質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
高分子化合物は、例えば上記のようなモノマーの混合物等を用いて、公知のラジカル重合などにより重合させて、合成することができる。反応系は、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。共重合の場合の共重合形式は、通常のランダム重合でよく、一部ブロック単位が含まれていてもよく、特に規則性は必要とされない。
【0043】
高分子化合物の分子量(重量平均分子量)は、特に限定はされないが、10,000(1万)~300,000(30万)程度であることが好ましく、50,000~200,000程度であることがより好ましい。高分子化合物の重量平均分子量は、GPC法で標準ポリスチレン換算で求めた値である。
【0044】
重合後の高分子分散剤の分子量を調整するために、重合時に連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、たとえば、n-ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が用いられる。
【0045】
重合開始剤としては、例えば、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル(V-65、富士フイルム和光純薬株式会社製)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70、富士フイルム和光純薬株式会社製)等のアゾ化合物、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(パーブチルO、日油株式会社製)等の過酸化物など、熱重合開始剤を使用することができる。あるいは、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤を用いることもできる。
【0046】
重合に用いる溶媒は、脂肪族フッ素系溶剤を含むことが好ましく、混合物Mに含まれる脂肪族フッ素系溶剤を含むことがより好ましい。
重合条件は、使用するモノマーや重合開始剤の種類によって異なるが、たとえば、不活性ガス下において、重合温度30~120℃で2~20時間の重合を行うことが好ましい。
重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
【0047】
混合物Mは、上記した高分子化合物を1種単独で、または2種以上を組み合わせて含んでよい。
混合物Mにおいて、顔料と高分子化合物との割合は、質量比で顔料1に対し、高分子化合物が0.1~2程度であることが好ましく、0.2~1であることがより好ましい。
【0048】
混合物Mにおいて、高分子化合物は、混合物M全量に対して、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。混合物Mにおいて、高分子化合物は、混合物M全量に対して、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。混合物Mにおいて、高分子化合物は、混合物M全量に対して、0.1~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~5質量%がさらに好ましい。
【0049】
混合物Mは、高分子化合物の塩生成基を中和するために、中和剤をさらに含むことが好ましい。中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。
中和剤は、混合物M全量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。
【0050】
混合物Mを得る方法は特に限定されない。混合物Mは、水、顔料、高分子化合物、脂肪族フッ素系溶剤、及び必要に応じてその他の材料を混合して得ることができる。例えば、カプセル顔料の粒子径を適切な範囲にする観点から、水と顔料と高分子化合物と脂肪族フッ素系溶剤と、必要に応じてその他の材料とを混合し水中に分散させることにより、好ましく、混合物Mを得ることができる。分散には、ビーズミル、ディスパーミキサー、ホモミキサー、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル、高圧ホモジナイザー等の公知の分散機を用いることができる。
【0051】
混合物Mから脂肪族フッ素系溶剤を留去してカプセル顔料の水性分散体を得る工程(工程2)について説明する。
【0052】
工程2で脂肪族フッ素系溶剤を留去する方法は特に限定されない。例えば、加熱、減圧、空気等の気体を吹き込むバブリング、又はそれらの組み合わせを行うことで、脂肪族フッ素系溶剤の蒸発を促進して、脂肪族フッ素系溶剤を留去することができる。例えば、エバポレータ等を用いて、減圧及び加熱しながら、脂肪族フッ素系溶剤を留去することが好ましい。加熱温度は、100℃未満であることが好ましい。
【0053】
工程2では、混合物Mに含まれている脂肪族フッ素系溶剤の80質量%以上が留去されることが好ましく、90質量%以上が留去されることがより好ましく、95質量%以上が留去されることがさらに好ましく、99質量%以上が留去されることがさらに好ましく、実質的に全量が留去されることがさらに好ましい。
【0054】
混合物Mに、脂肪族フッ素系溶剤以外の有機溶剤が含まれる場合、その有機溶剤も、工程2において留去されることが好ましい。例えば、工程2において、混合物Mに含まれている全有機溶剤の80質量%以上が留去されることが好ましく、90質量%以上が留去されることがより好ましく、95質量%以上が留去されることがさらに好ましく、99質量%以上が留去されることがさらに好ましく、実質的に全量が留去されることがさらに好ましい。例えば、工程2において、混合物Mに含まれている、沸点または水との共沸点が100℃未満(または85℃未満)の全有機溶剤の80質量%以上が留去されることが好ましく、90質量%以上が留去されることがより好ましく、95質量%以上が留去されることがさらに好ましく、99質量%以上が留去されることがさらに好ましく、実質的に全量が留去されることがさらに好ましい。
【0055】
留去した、脂肪族フッ素系溶剤または脂肪族フッ素系溶剤を含む有機溶剤を、再利用してもよい。例えば、工程2で留去した脂肪族フッ素系溶剤または脂肪族フッ素系溶剤を含む有機溶剤を回収し、再び水性顔料分散体を製造する際に、工程1の混合物Mに用いてもよい。
【0056】
このようにして、混合物Mから脂肪族フッ素系溶剤が留去され、カプセル顔料を含む、水性顔料分散体を得ることができる。
【0057】
水性顔料分散体において、顔料は、水性顔料分散体全量に対して、5~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、15~25質量%であることがさらに好ましい。
【0058】
水性顔料分散体において、高分子化合物は、水性顔料分散体全量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。水性顔料分散体において、高分子化合物は、水性顔料分散体全量に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。混合物Mにおいて、高分子化合物は、混合物全量に対して、1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましい。
【0059】
水性顔料分散体において、顔料と高分子化合物との割合は、重量比で顔料1に対し、高分子化合物が0.1~2程度であることが好ましく、0.2~1であることがより好ましい。
【0060】
水性顔料分散体において、水は、水性顔料分散体全量に対して50~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、70~80質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
水性顔料分散体において、脂肪族フッ素系溶剤は、水性顔料分散体全量に対して、1質量%以下が好ましく、1質量%未満がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
水性顔料分散体において、有機溶剤は、水性顔料分散体全量に対して、1質量%以下が好ましく、1質量%未満がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0062】
この水性顔料分散体を用いて、水性インクジェットインクを製造することができる。実施形態の水性顔料分散体の製造方法で得られた水性顔料分散体を用いると、分散安定性に優れた水性インクジェットインクを製造することができる。
【0063】
水性顔料分散体において、カプセル顔料の平均粒子径は、分散安定性の観点から、10μm以下程度が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、300nm以下がさらに好ましく、200nm以下がさらに好ましい。例えば、50~300nmであることが好ましく、80~200nmであることがより好ましい。水性インクジェットインクにおいて、カプセル顔料の平均粒子径は、分散安定性と吐出安定性の観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。例えば、50~300nmであることが好ましく、80~200nmであることがより好ましい。カプセル顔料の平均粒子径は、動的散乱方式による体積基準の平均粒子径であり、例えば、株式会社堀場製作所製の動的光散乱式粒子径分布測定装置「ナノ粒子解析装置nanoPartica SZ-100」等を用いて測定することができる。
【0064】
<水性インクジェットインクの製造方法>
一実施形態の水性インクジェットインクの製造方法は、水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合することを含む。水性顔料分散体としては、上記した一実施形態の水性顔料分散体の製造方法で製造された水性顔料分散体を用いることができる。一実施形態の水性インクジェットインクの製造方法は、上記した一実施形態の水性顔料分散体の製造方法で水性顔料分散体を製造する工程と、水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合する工程とを含む。
【0065】
水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0066】
これらの水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、5~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0067】
水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合する工程において、水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合することができるが、必要に応じて、さらに、界面活性剤、水等を加えて混合してもよい。
【0068】
水としては、例えば、上述した水性顔料分散体の製造方法の工程1で説明したものを用いることができる。
水性顔料分散体に含まれる水を含む、インク中の水の量は、インク全量に対して、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましく、50~60質量%がさらに好ましい。
【0069】
界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤またはこれらの組合せを好ましく用いることができ、非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0070】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0071】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
【0072】
アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、エボニックインダストリーズ社製サーフィノールシリーズ「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、「サーフィノール465」、「サーフィノール485」、日信化学工業株式会社製オルフィンシリーズ「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」、川研ファインケミカル株式会社製「アセチレノールE100」等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0073】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイスSAG002」、「シルフェイス503A」、「シルフェイスSAG008」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0074】
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましく、10~18であることがより好ましい。
【0075】
界面活性剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてよい。界面活性剤は、インク全量に対して、0.1~5.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましい。
【0076】
インクは、その他の成分を適宜含んでもよい。その他の成分としては、pH調整剤、防腐剤等が挙げられる。
【0077】
このようにして得られたインクにおいて、顔料は、インク全量に対して、0.1~25質量%程度であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることが一層好ましい。
また、高分子化合物は、インク全量に対して、0.1~15質量%であることが好ましく、1~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0078】
インク中の顔料と高分子化合物との割合は、質量比で顔料1に対し、高分子化合物が0.1~2程度であることが好ましく、0.2~1であることがより好ましい。
【0079】
インクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用として適している。
【0080】
得られた水性インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式などのいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクの液滴を吐出させ、吐出された液滴を基材に付着させるようにすることが好ましい。
【0081】
本実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0082】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。
【0083】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0084】
本開示は、下記の実施形態を含む。
<1> 水、顔料、高分子化合物、及び脂肪族フッ素系溶剤を含む混合物Mを得る工程と、
前記混合物Mから前記脂肪族フッ素系溶剤を留去してカプセル顔料の水性分散体を得る工程と
を含む、水性顔料分散体の製造方法。
<2> 前記脂肪族フッ素系溶剤のハンセン溶解度パラメータが、15.0MPa1/2以上である、<1>に記載の水性顔料分散体の製造方法。
<3> 前記高分子化合物が、
(A)β-ジカルボニル基、
(B)カルボキシ基及びスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種、および
(C)アルコキシシリル基、
を含む、<1>又は<2>に記載の水性顔料分散体の製造方法。
<4> <1>~<3>のいずれか一項に記載の水性顔料分散体の製造方法で水性顔料分散体を製造する工程と、
前記水性顔料分散体と水溶性有機溶剤とを混合する工程とを含む、水性インクジェットインクの製造方法。
【実施例0085】
以下に、本発明の実施形態を実施例により詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下、特に説明のない箇所は、「%」は「質量%」を示し、「部」は「質量部」を示す。
【0086】
<高分子化合物の合成>
表1に示したモノマー混合物を用いて、以下のように共重合を行い、高分子化合物AC-1~AC-5を製造した。表1に示す各材料(モノマー)は、下記のとおりである。
【0087】
BnMA:ベンジルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
AAEM:アセトアセトキシエチルメタクリレート(日本合成化学株式会社製)
KBM-503:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)
MAA:メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
MMA:メチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0088】
【0089】
(高分子化合物AC-1の合成)
4つ口フラスコに、有機溶剤1(アモレアAS-300(AGC株式会社製))100質量部、および重合開始剤(V-70:2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製)2質量部を入れた。室温で、30分間窒素をバブリングし、液中の溶存酸素を窒素に置換した。続いて、系を44℃に加熱し、表1に示された高分子化合物構成モノマー合計100質量部のモノマー混合液を2時間かけて滴下し、重合を行った。重合開始から6.5時間後に、未反応モノマーを減少させるため、重合開始剤(V-70)を0.5質量部、および有機溶剤1(アモレアAS-300)を10質量部添加した。重合開始から9時間後に冷却して有機溶剤1(アモレアAS-300)197.5質量部を添加し、重合反応を終了させて、高分子化合物AC-1の溶液AC-1S(固形分25質量%)を得た。高分子化合物AC-1の重量平均分子量は77000であった。
【0090】
(高分子化合物AC-2の合成)
4つ口フラスコに、有機溶剤2(アモレアAT-2(AGC株式会社製))100質量部、および重合開始剤(V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製)2質量部を入れた。室温で、30分間窒素をバブリングし、液中の溶存酸素を窒素に置換した。続いて、系を66℃に加熱し、表1に示された高分子化合物構成モノマー合計100質量部のモノマー混合液を2時間かけて滴下し、重合を行った。重合開始から6.5時間後に、未反応モノマーを減少させるため、重合開始剤(V-70)を0.5質量部、および有機溶剤2(アモレアAT-2)を10質量部添加した。重合開始から9時間後に冷却して有機溶剤2(アモレアAT-2)197.5質量部を添加し、重合反応を終了させて、高分子化合物AC-2の溶液AC-2S(固形分25質量%)を得た。高分子化合物AC-2の重量平均分子量は58000であった。
【0091】
(高分子化合物AC-3の合成)
有機溶剤2(アモレアAT-2)を、有機溶剤3(アサヒクリンAE-3000(AGC株式会社製))に変更する以外は、高分子化合物AC-2の合成と同様にして、高分子化合物AC-3の溶液AC-3S(固形分25質量%)を作製した。高分子化合物AC-3の重量平均分子量は、55000であった。
【0092】
(高分子化合物AC-4の合成)
有機溶剤2(アモレアAT-2)を、有機溶剤4(ゼオローラH(日本ゼオン株式会社製))に変更する以外は、高分子化合物AC-2の合成と同様にして、高分子化合物AC-4の溶液AC-4S(固形分25質量%)を作製した。高分子化合物AC-4の重量平均分子量は、52000であった。
【0093】
(高分子化合物AC-5の合成)
有機溶剤2(アモレアAT-2)を、有機溶剤5(ヘキサフルオロベンゼン(富士フイルム和光純薬株式会社製))に変更する以外はAC-2の合成と同様にして、高分子化合物AC-5の溶液AC-5S(固形分25質量%)作製した。高分子化合物AC-5の重量平均分子量は57000であった。
【0094】
得られた高分子化合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により次のように測定を行って得られた値である。標準物質:ポリスチレン、溶媒:10mMのリチウムブロマイド及び50mMリン酸含有N-メチルピロリドン、流速:0.7ml/分の条件で、検出器RIDを用い、GPCにより高分子化合物の重量平均分子量を測定した。測定器は株式会社島津製作所製を用い、カラムはショウデックス(shodex、昭和電工株式会社)GPC KF-804を使用した。
【0095】
有機溶剤1~5は下記のとおりである。
【0096】
有機溶剤1:アモレアAS-300
(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンと(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンとの異性体混合物、HSP値16.6MPa1/2、沸点54℃、引火点なし、AGC株式会社製
【0097】
有機溶剤2:アモレアAT-2
下記の組成を有する混合物、沸点44℃、引火点なし、AGC株式会社製
・1,1,2,2-テトラフルオロエチルー2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、HSP値15.5MPa1/2、引火点なし、混合物中14.5~15.5質量%
・フッ素系溶剤:混合物中14.5~15.5質量%
・トランス-1,2-ジクロロエチレン:混合物中69.5~70.5質量%、引火点2~6℃
【0098】
有機溶剤3:アサヒクリンAE-300
1,1,2,2-テトラフルオロエチルー2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、HSP値15.5MPa1/2、沸点56℃、引火点なし、AGC株式会社製
【0099】
有機溶剤4:ゼオローラH
1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、HSP値14.9MPa1/2、沸点82.5℃、引火点なし、日本ゼオン株式会社製
【0100】
有機溶剤5:ヘキサフルオロベンゼン
芳香族フッ素系溶剤、HSP値16.8、沸点48℃、引火点10℃、富士フイルム和光純薬株式会社製
【0101】
上記した溶剤のHSP値(ハンセン溶解度パラメータ)は、Charles.M.Hansenらによるハンセン溶解度パラメータ計算ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」ver.5.3を用いて計算した値である。
【0102】
<水性顔料分散体の作製>
上記で得られた高分子化合物の溶液を使用して、表2に記載の処方で、水性顔料分散体として、分散体1~分散体5を次のように調製した。
ビーズミル(DYNO-MILL Typ KDL A、株式会社シンマルエンタープライゼス製)に、表2に示す処方で、上記で得られた高分子化合物の溶液、顔料(カーボンブラック「S-160」、オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製)、有機溶剤(上記の有機溶剤1、2、3、4又は5)、水(イオン交換水)、中和剤の水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム10質量%)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、ジルコニアビーズ(直径0.5mm、充填率85%)を用いて、50Hzで滞留時間15分になるように分散させた。
次いで、エバポレータを用いて、加熱および減圧をしながら分散体の有機溶剤の脱溶剤(留去)を行い、水性顔料分散体(顔料分約20質量%)を得た。
【0103】
【0104】
<インクの作製>
得られた水性顔料分散体を用いて、表3に記載の組成でインクを調製した。表3に示す各材料は、下記のとおりである。
グリセリン:富士フイルム和光純薬株式会社製
トリエチレングリコールモノブチルエーテル:富士フイルム和光純薬株式会社製
アセチレノールE100:アセチレングリコール系界面活性剤、川研ファインケミカル株式会社製
水:イオン交換水
上記の組成で各材料を混合し、続いて、冷却高速遠心機(H-2000B、株式会社コクサン製)を用いて2万Gで6分間遠心を行い、メンブレンフィルターで粗大粒子を除去し、インクを得た。
【0105】
<実施例および比較例>
表3に示す実施例および比較例のインクを調製し、以下のように、インクの貯蔵安定性を評価した。
【0106】
(インクの貯蔵安定性)
まず、インク作製直後のインクの粘度V0を測定した。次に、インクを密閉容器に入れて、70℃で1か月間放置し、1か月放置後のインクの粘度V1を測定した。インク粘度は、23℃における粘度であり、レオメーターMCR302(アントンパール社製)を用いて測定した。作製直後のインク粘度V0及び1か月放置前後のインク粘度V1から、次式により粘度変化率を求め、以下の基準で貯蔵安定性を評価した。
粘度変化率(%)=[(V1-V0)/V0]×100(%)
【0107】
評価基準
A:粘度変化率の絶対値が5%以下
B:粘度変化率の絶対値が5%超10%未満
C:粘度変化率が絶対値が10%以上
【0108】
得られた結果を、表3に示す。
【0109】
【0110】
表3に示されるように、実施例1~4のインクは、貯蔵安定性に優れていた。