(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003319
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】船舶の横移動制御方法、および、船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20240105BHJP
B63B 39/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63B39/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102374
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 曉
(72)【発明者】
【氏名】尾上 昭博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】末森 勝
(72)【発明者】
【氏名】門林 義幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 真奈未
(57)【要約】
【課題】船体の横移動時のロール角度を低減する。
【解決手段】船外機の動力に基づき船体を横移動させる際に、船体がロールすることにより、例えば操船者や乗船員に不快感を与えることがある。これに対して、船舶の横移動制御方法は、船体と船外機とを備える船舶の横移動制御方法である。船舶の横移動制御方法は、船外機の動力に基づき船体に対する横移動の推進力を発生させる横移動工程と、横移動の際に、船体のロール角度を低減するロール低減処理を実行するロール制御工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と船外機とを備える船舶の横移動制御方法であって、
前記船外機の動力に基づき前記船体に対する横移動の推進力を発生させる横移動工程と、
前記横移動の際に、前記船体のロール角度を低減するロール低減処理を実行するロール制御工程と、
を含む、船舶の横移動制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
さらに、前記横移動時の前記船体のロール角度を検知する検知工程を含み、
前記ロール低減処理は、前記検知工程での検知結果に応じて、前記船体のロール角度を低減する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
前記船舶は、さらに、前記船体の姿勢を制御する姿勢制御部を備えており、
前記ロール低減処理は、
前記横移動の際、前記姿勢制御部による前記船体の姿勢の制御に基づき、前記横移動に伴うロール角度の増大を低減する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の船舶の横移動制御方法であって、
さらに、前記横移動時の前記船体のロール角度を検知する検知工程を含み、
前記ロール低減処理は、前記検知工程での検知結果に応じて前記姿勢制御部による船体の姿勢の制御を制御し、前記船体のロール角度を低減する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
前記船舶は、さらに、前記船体の左右のそれぞれにトリムタブを備えており、
前記ロール低減処理は、
前記横移動が左方向への横移動である場合、右側の前記トリムタブを左側の前記トリムタブよりも下方の位置に配置する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
前記船舶は、さらに、前記船体の左右のそれぞれにトリムタブを備えており、
前記ロール低減処理は、
前記横移動が右方向への横移動である場合、左側の前記トリムタブを右側の前記トリムタブよりも下方の位置に配置する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項7】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
前記ロール低減処理は、
前記船体のロール角度が低減するように前記船外機の出力を調整する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の船舶の横移動制御方法であって、
さらに、前記横移動時の前記船体のロール角度を検知する検知工程を含み、
前記ロール低減処理は、前記検知工程での検知結果に応じて前記船外機の出力を調整し、前記船体のロール角度を低減する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項9】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
前記船舶は、操船者が操作する操作部を備え、前記操作部での操作量に応じて前記船外機の出力が制御される構成であり、
前記ロール低減処理は、
前記横移動の際に、前記船体のロール角度が低減するように、前記操作部における単位操作量に対する前記船外機の出力を調整する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の船舶の横移動制御方法であって、
さらに、前記横移動時の前記船体のロール角度を検知する検知工程を含み、
前記ロール低減処理は、前記検知工程での検知結果に応じて前記操作部における単位操作量に対する前記船外機の出力を調整し、前記船体のロール角度を低減する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項11】
請求項1に記載の船舶の横移動制御方法であって、
前記船舶は、操船者が操作する操作部を備え、前記操作部での操作量に応じて前記船外機の出力変化率が制御される構成であり、
前記ロール低減処理は、
前記横移動の際に、前記船体のロール角度が低減するように、前記船外機の前記出力変化率を制限する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の船舶の横移動制御方法であって、
さらに、前記横移動時の前記船体のロール角度を検知する検知工程を含み、
前記ロール低減処理は、前記検知工程での検知結果に応じて前記船外機の前記出力変化率を制限し、前記船体のロール角度を低減する処理を含む、
船舶の横移動制御方法。
【請求項13】
船舶であって、
船体と、
船外機と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記船外機の動力に基づき前記船体に対する横移動の推進力を発生させ、
前記横移動の際に、前記船体のロール角度を低減するロール低減処理を実行する、
船舶。
【請求項14】
船体と船舶推進機とを備える船舶の横移動制御方法であって、
前記船舶推進機の動力に基づき前記船体に対する横移動の推進力を発生させる横移動工程と、
前記横移動の際に、前記船体のロール角度を低減するロール低減処理を実行するロール制御工程と、
を含む、船舶の横移動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、船舶の横移動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船体と船外機とを備え、船外機の動力に基づき船体を横移動させる機能を有する船舶が知られている(例えば下記特許文献1参照)。船体の横移動が可能であるため、例えば離着岸時、狭水路やマリーナ内など狭いスペースでの操船について、操作性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船外機の動力に基づき船体を横移動させる際に、船体がロールすることにより、例えば操船者や乗船員に不快感を与えることがある。船体のロールとは、船体が前後方向に沿った軸に対して回転(傾斜)することであり、横揺れ、ローリングともいう。このため、船舶の横移動制御について改善の余地がある。なお、このような課題は、船外機に限らず、例えばジェット推進機など、他の船舶推進機の動力に基づき船体を横移動させる際にも共通の課題である。
【0005】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示される船舶の横移動制御方法は、船体と船外機とを備える船舶の横移動制御方法であり、前記船外機の動力に基づき前記船体に対する横移動の推進力を発生させる横移動工程と、前記横移動の際に、前記船体のロール角度を低減するロール低減処理を実行するロール制御工程と、を含む。本船舶の横移動制御方法では、船外機の動力に基づき船体に対する横移動の推進力を発生させる横移動工程の際に、船体のロール角度を低減するロール低減処理が実行される。これにより、本船舶の横移動制御方法によれば、船体の横移動時のロール角度を低減することができる。
【0008】
(2)本明細書に開示される船舶の横移動制御方法は、船体と船舶推進機とを備える船舶の横移動制御方法であり前記船舶推進機の動力に基づき前記船体に対する横移動の推進力を発生させる横移動工程と、前記横移動の際に、前記船体のロール角度を低減するロール低減処理を実行するロール制御工程と、を含む。本船舶の横移動制御方法によれば、船体の横移動時のロール角度を低減することができる。
【0009】
本明細書によって開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、船舶、船舶に備えられる推進制御装置、船舶の横移動制御方法、それらの装置の機能または方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示された船舶の横移動制御方法によれば、船体の横移動時のロール角度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態における船舶10の構成を簡略的に示す上面図
【
図4】横移動時における各推進機の推進力を模式的に示す説明図
【
図5】姿勢制御部220によるロール低減処理を説明するための船舶10の模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.実施形態:
A-1.船舶10の構成:
図1は、本実施形態における船舶10の構成を簡略的に示す上面図であり、
図2は、船舶10の構成を簡略的に示す側面図である。
図1,2および後述する他の図面には、船舶10の位置を基準とした各方向を表す矢印を示している。より具体的には、各図には、前方(FRONT)、後方(REAR)、左方(LEFT)、右方(RIGHT)、上方(UPPER)および下方(LOWER)のそれぞれを表す矢印を示している。前後方向、左右方向および上下方向(鉛直方向)は、それぞれ互いに直交する方向である。
【0013】
図1に示すように、船舶10は、船体200と、船体200に搭載される船舶推進システム(以下、「推進システム」という)100とを備える。
【0014】
(船体200の構成)
船体200は、操縦装置210と、姿勢制御部220とを有する。操縦装置210は、舵取りのために操作されるステアリング操作部212と、後述する各船外機110の出力調整のために操作されるスロットル操作部214と、舵取りならびに各船外機110およびバウスラスタ120の出力調整のために操作されるジョイスティック216とを含む。ジョイスティック216は、特許請求の範囲における操作部の一例である。
【0015】
姿勢制御部220は、船体200の姿勢を制御するための装置である。姿勢制御部220は、船体200の船尾(トランサム)202に設けられ、複数のトリムタブ222と、複数の変位機構224とを有する。複数のトリムタブ222は、右トリムタブ222Rと左トリムタブ222Lとを含む(
図1参照)。右トリムタブ222Rと左トリムタブ222Lとは、複数の船外機110を挟んで、船体200の左右方向の中心を通る中心線Cに対して左右対称な位置に取り付けられている。トリムタブ222は、水面W(後述する
図5参照)に対向する面を有する板状部材であり(
図2参照)、フラップとも呼ばれる。トリムタブ222は、前端側を中心に後端側が上下方向に移動可能に船体200に取り付けられている。各変位機構224は、後述する操船制御装置130からの指示に基づき、トリムタブ222を上下動させる。なお、変位機構224は、例えば油圧シリンダとピストンロッドとを有する油圧装置である。
【0016】
(推進システム100の構成)
推進システム100は、複数の船外機110と、船外機110とは別に設けられたバウスラスタ120と、これらを制御する操船制御装置としての操船制御装置130とを備える。船外機110は、特許請求の範囲における船舶推進機の一例である。
【0017】
船外機110は、船舶10を推進させる推力を発生する装置である。複数の船外機110は、船体200の船尾202に設けられ、船体200の瞬間的な旋回中心P(後述する
図4を参照)よりも後方で推進力を船体200に作用させるように設計されている。本実施形態では、複数の船外機110は、左船外機110Lと右船外機110Rとを含む。左船外機110Lと右船外機110Rとは、船体200の中心線Cに対して、左右対称な位置に配置されている。
【0018】
各船外機110は、推進ユニット112と、プロペラ114とを含む。プロペラ114は、複数枚の羽を有する回転体であり、回転することによって推力を発生する。プロペラ114は、推進ユニット112の下部に位置し、水平方向のプロペラ回転軸Sを中心に回転可能に設けられている(
図2参照)。推進ユニット112は、駆動源としてエンジンと動力伝達機構とを有する。エンジンからの動力が動力伝達機構を介してプロペラ114に伝達され、プロペラ114が回転する。各船外機110は、垂直回動軸としての操舵軸Uまわりに回動自在に取り付けられている(
図1および後述する
図4参照)。
【0019】
バウスラスタ120は、船体200の船首204に設けられている。バウスラスタ120は、船体200に対して左右方向の推進力を与える推進機である。バウスラスタ120は、電動モータ122と、プロペラ114とを有する。船体200のうち、船首204の付近において水面Wよりも低い位置に船体200を左右方向に貫通する貫通孔206が形成されている。バウスラスタ120は、貫通孔206内に配置され、左右方向の回転軸を中心に回転可能に設けられている。プロペラ114は、電動モータ122が発生する動力によって回転する。具体的には、プロペラ114は、電動モータ122が正転することによって右方への推進力を発生し、逆転することによって左方への推進力を発生する。
【0020】
左船外機110Lと右船外機110Rとには、それぞれ、電子制御ユニット116L,116R(以下、「左ECU116L」、「右ECU116R」という。)が内蔵されている。バウスラスタ120には、電動モータ122の回転方向およびオンオフを制御する電子制御ユニット126(以下、「バウECU126」という。)が内蔵されている。ただし、
図1では、便宜上、バウスラスタ120とバウECU126とは分離して表してあり、左船外機110Lと左ECU116Lとは分離して表してあり、右船外機110Rと右ECU116Rとは分離して表してある。
【0021】
操船制御装置130は、コントローラ132と記憶装置134とを備えている。コントローラ132は、例えば、船外機110やバウスラスタ120等の制御を行う。コントローラ132は、例えば、CPU、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(Field Programmable Gate Array(FPGA)、Programmable Logic Device(PLD)等)を用いて構成されている。記憶装置134は、例えばROMやRAM、ハードディスクドライブ(HDD)等により構成されている。記憶装置134は、各種のプログラムやデータを記憶したり、各種の処理を実行する際の作業領域やデータの記憶領域として利用されたりする。例えば、記憶装置134には、後述の横移動制御処理等を実行するためのコンピュータプログラムが格納されている。該コンピュータプログラムは、例えば、CD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体(不図示)に格納された状態で提供され、操船制御装置130にインストールすることにより記憶装置134に格納される。
【0022】
操船制御装置130は、操船者によるジョイスティック216の操作量に応じて、各船外機110およびバウスラスタ120の推進力の目標値を設定し、各推進機(具体的には各推進機のECU)を、個別の目標推進力を発生するように制御する。具体的には、操船制御装置130は、船体200内に配置された通信回線150を介して、バウECU126、左ECU116Lおよび右ECU116Rのそれぞれとの間で通信を行う。また、コントローラ132は、ジャイロセンサ136とGPS(Global Positioning System)センサ138とに接続されている。コントローラ132は、ジャイロセンサ136とGPSセンサ138とのそれぞれの検知信号に基づき、船舶10の姿勢と現在位置とを取得する。
【0023】
A-2.横移動制御処理:
図3は、横移動制御処理を示すフローチャートである。横移動制御処理は、船舶10を横移動させるための制御処理である。横移動とは、船体200を、船体200の旋回を伴わずに長手方向の向きを維持しつつ左右方向成分を含む方向(例えば右方向や右斜め後ろ方向など)に移動させる並進移動である。横移動では、船体200は、例えば0.1G以下の横加速度で移動することが好ましい。操船制御装置130が起動されると、コントローラ132は、横移動制御処理を実行する。
【0024】
図3に示すように、コントローラ132は、横移動の実行指示があったか否かを判断する(S110)。本実施形態では、操船者がジョイスティック216を任意の方向に操作する(傾倒させる)と、操船制御装置130は、ジョイスティック216の操作方向と操作量(傾倒量)とを示す操作信号を受信する。コントローラ132は、操作方向が左方向または右方向であることを示す操作信号を受信したことを条件に、横移動の実行指示があったと判断し(S110:Yes)、横移動処理を開始する(S120)。S120の処理は、特許請求の範囲における横移動工程の一例である。なお、コントローラ132は、横移動の実行指示がないと判断し(S110:No)、横移動処理を開始せずに待機状態となる。
【0025】
(横移動処理)
横移動処理は、船外機110の推進力に基づき船体200に対する横移動の推進力を発生させる処理である。なお、本実施形態では、船外機110に加えてバウスラスタ120の推進力を利用して船舶10を横移動させる。
【0026】
図4は、横移動時における各推進機の推進力を模式的に示す説明図である。
図4では、右方向に横移動する船舶10が例示されている。
図4に示すように、左船外機110Lによる左推進力FLと右船外機110Rによる右推進力FRとによって右方向への推進力F1を発生させる。このために、左推進力FLの左作用線DLと右推進力FRの右作用線DRとが、船外機110の前方側で互いに交差するように各船外機110の向きを変更する。すなわち、各作用線DL,DRを、船体200の中心線Cに対して傾斜させる。また、左船外機110Lと右船外機110Rとでプロペラ114を互いに逆方向に回転させる。これにより、左推進力FLと右推進力FRとの合力が、右方向の推進力F1として、左作用線DLと右作用線DRとの交差位置Xに発生する。さらに、本実施形態では、バウスラスタ120によって右方向の推進力F2が発生する。このため、右方向の推進力F1と右方向の推進力F2との合力である推進力F3が船体200に発生し、船体200が横移動する。
【0027】
なお、推進力F1による旋回中心Pまわりのヨーイングモーメント(以下、「モーメント」という。)と、推進力F2による旋回中心Pまわりのモーメントとが打ち消し合うように、推進力F1および推進力F2の大きさが設定される。ジョイスティック216の操作量に応じて船外機110およびバウスラスタ120の出力が制御される。具体的には、コントローラ132は、推進力F3の目標値である船体目標値を、ジョイスティック216の傾倒量に応じて設定する。
【0028】
(船体200のロール)
図5は、姿勢制御部220によるロール低減処理を説明するための船舶10の模式図である。
図5(A)には、左方向に横移動する船舶10が例示されており、
図5(B)には、右方向に横移動する船舶10が例示されている。
【0029】
船舶10の横移動の際、船舶10がロールすることがある。本実施形態の船舶10では、特に、船舶10がロールしやすい。すなわち、船外機110のプロペラ回転軸Sが船体200の重心高さGよりも下方に位置している(
図2および
図5参照)。このため、船外機110による推進力F1(F1L,F1R)の発生位置は、船体200の重心高さGよりも下方になる。従って、
図5(A)に示すように、船舶10が左方向に横移動する際、船外機110による左方向の推進力F1Lによって、船体200を右側に傾斜させる力F4Rが働く。また、
図5(B)に示すように、船舶10が右方向に横移動する際、船外機110による右方向の推進力F1Rによって、船体200を左側に傾斜させる力F4Lが働く。
【0030】
次に、コントローラ132は、横移動中の船舶10のロール角度を検知する(S130)。コントローラ132は、ジャイロセンサ136からの検知信号に基づき、船体200のロール角度を検知することができる。S130の処理は、特許請求の範囲における検知工程の一例である。
【0031】
コントローラ132は、S130でのロール角度の検知結果に応じて、船体200のロール角度を低減するロール角度低減処理を実行する。具体的には、コントローラ132は、検知したロール角度が基準角度(例えば5deg.以上)以上であるか否かを判断し(S140)、ロール角度が基準角度以上であると判断した場合(S140:Yes)、ロール角度低減処理を実行する(S150)。一方、コントローラ132は、ロール角度が基準角度未満であると判断した場合(S140:No)、ロール角度低減処理を実行せずにS160に進む。
【0032】
(ロール角度低減処理)
ロール角度低減処理には、例えば次の3つの処理が含まれる。コントローラ132は、これら3つの処理を全て実行してもよいし、これらの処理のうちの2つまたは1つの処理を実行してもよい。
【0033】
(1)姿勢制御処理
姿勢制御処理は、姿勢制御部220による船体200の姿勢の制御に基づき、横移動に伴うロール角度(鉛直方向に対する船体200の傾き角度)の増大を低減するための処理である。
【0034】
図5(A)に示すように、船舶10が左方向に横移動し、かつ、ロール角度が基準角度以上である場合、右トリムタブ222Rを、左トリムタブ222Lよりも下方であって、水面Wに接触して浮力F5Rが発生する位置に配置する。これにより、右トリムタブ222Rに生じる浮力F5Rによって、船体200を右側に傾斜させる力F4Rが打ち消され、船体200の右回転のロール角度が低減される。
図5(B)に示すように、船舶10が右方向に横移動し、かつ、ロール角度が基準角度以上である場合、左トリムタブ222Lを、右トリムタブ222Rよりも下方であって、水面Wに接触して浮力F5Lが発生する位置に配置する。これにより、左トリムタブ222Lに生じる浮力F5Rによって、船体200を左側に傾斜させる力F4Lが打ち消され、船体200の左回転のロール角度が低減される。
【0035】
コントローラ132は、検出したロール角度(または基準角度に対するロール角度の角度差)が大きいほど、左トリムタブ222Lを下方の位置に配置することにより、船体200のロールの発生が抑制される。このように、姿勢制御処理によれば、横移動の際に左右のトリムタブ222を制御することにより、横移動時の船体200のロール角度を低減することができる。
【0036】
(2)出力調整処理
出力調整処理は、船外機110およびバウスラスタ120の出力の調整に基づき、横移動に伴うロール角度の増大を低減するための処理である。
【0037】
例えば、
図5(A)に示すように、船舶10が左方向に横移動し、かつ、ロール角度が基準角度以上である場合、左方向の推進力F3Lが小さくなるように、船外機110およびバウスラスタ120の出力(推進力F1,F2)を低下させる。これにより、船体200を右側に傾斜させる力F4Rが低下し、船体200の右回転のロール角度が低減される。
図5(B)に示すように、船舶10が右方向に横移動し、かつ、ロール角度が基準角度以上である場合、右方向の推進力F3Rが小さくなるように、船外機110およびバウスラスタ120の出力(推進力F1,F2)を低下させる。これにより、船体200を左側に傾斜させる力F4Lが低下し、船体200の左回転のロール角度が低減される。コントローラ132は、検出したロール角度(または基準角度に対するロール角度の角度差)が大きいほど、船外機110およびバウスラスタ120の出力を低下させることにより、船体200の横移動の加速度が低下し、船体200のロールの発生が抑制される。このように、出力調整処理によれば、横移動の際に船外機110等の出力を調整することにより、横移動時の船体200のロール角度を低減することができる。
【0038】
(3)操作制限処理
操作制限処理は、ジョイスティック216による操作の制限に基づき、横移動に伴うロール角度の増大を低減するための処理である。
【0039】
図5(A)に示すように、船舶10が左方向に横移動し、かつ、ロール角度が基準角度以上である場合、ジョイスティック216における単位操作量に対する船外機110およびバウスラスタ120の出力である出力変化率を低下させる。これにより、ジョイスティック216の操作に対して、船外機110およびバウスラスタ120の出力変化率が低下し、船体200の右回転のロール角度が低減される。
図5(B)に示すように、船舶10が右方向に横移動し、かつ、ロール角度が基準角度以上である場合、上記出力変化率を低下させる。これにより、ジョイスティック216の操作に対して、船外機110およびバウスラスタ120の出力変化が低下し、船体200の左回転のロール角度が低減される。このため、例えば操船者が急激にジョイスティック216を倒して横移動方向の出力を急激に上げようとした場合でも、出力変化率が制限されることにより、ロール角度が低減される。
【0040】
コントローラ132は、検出したロール角度(または基準角度に対するロール角度の角度差)が大きいほど、船外機110およびバウスラスタ120の出力変化率を低下させることにより、ジョイスティック216の操作に対する船体200の横移動の加速度が低下し、船体200のロールの発生が抑制される。このように、操作制限処理によれば、横移動の際にジョイスティック216における単位操作量に対する船外機の出力を調整することにより、横移動時の船体200のロール角度を低減することができる。
【0041】
コントローラ132は、S150のロール角度低減処理の実行中あるいは実行後、横移動の停止指示があったか否かを判断する(S160)。コントローラ132は、ジョイスティック216が初期のポジションにあること(操作量がゼロ)を示す操作信号を受信したことを条件に、横移動の停止指示があったと判断し(S160:Yes)、S110に戻る。一方、コントローラ132は、横移動の停止指示がないと判断し(S160:No)、S130に戻り、ロール角度が基準角度以上であることを条件に(S140:Yes)、ロール角度低減処理(S150)を継続する。
【0042】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の船舶10は、船体200と、船外機110と、コントローラ132とを備える。コントローラ132は、船外機110の動力に基づき船体200に対する横移動の推進力を発生させ(S120)、横移動の際に、船体200のロール角度を低減するロール低減処理を実行する(S130~S150 ロール制御工程の一例)。これにより、本実施形態によれば、船体200の横移動時のロール角度を低減することができる。
【0043】
本実施形態では、コントローラ132は、S130でのロール角度の検知結果に応じて、船体200のロール角度を低減するロール角度低減処理を実行する(S140,S150)。このため、例えばロール角度の検知結果を利用しない構成に比べて、横移動時の船体200のロール角度を、より精度よく低減することができる。
【0044】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0045】
上記実施形態における船舶10、船体200および推進システム100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、船体200は、姿勢制御部220を備える構成であったが、姿勢制御部220を備えない構成でもよい。上記実施形態において、推進システム100は、船外機110とバウスラスタ120との少なくとも一方を備えない構成でもよい。また、推進システム100は、船外機110を1つ、または、3つ以上備える構成でもよい。
【0046】
上記実施形態では、船舶推進機は、船外機110であったが、例えばジェット推進機でもよい。
【0047】
上記実施形態では、操作部は、ジョイスティック216であったが、レバー式など、他の形式の操作部でもよい。上記実施形態において、複数のトリムタブ222は、4つ以上でもよい。
【0048】
上記実施形態における横移動制御処理の内容は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、
図3に示す横移動制御処理のS110の処理では、コントローラ132は、ジョイスティック216の操作による横移動の実行指示の有無に基づき、船体200(船舶10)の横移動を検知したが、例えばGPSセンサ138による船舶10の位置変位に基づき、船体200の横移動を検知してもよい。また、S160の処理では、コントローラ132は、ジョイスティック216の操作による横移動の停止指示の有無に基づき、船体200(船舶10)の横移動の停止を検知したが、例えばGPSセンサ138による船舶10の位置変位に基づき、船体200の横移動の停止を検知してもよい。
【0049】
上記実施形態では、
図3に示す横移動制御処理において、S130およびS140の処理を実行せずに、船体200の横移動が検知された場合に、ロール角度低減処理を実行してもよい。また、S120の横移動処理において、バウスラスタ120の推進力F2を利用せずに、船外機110の推進力F1だけを利用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
10:船舶 100:推進システム 110:船外機 112:推進ユニット 114:プロペラ 116L:左ECU 116R:右ECU 120:バウスラスタ 122:電動モータ 126:バウECU 130:操船制御装置 132:コントローラ 134:記憶装置 136:ジャイロセンサ 138:GPSセンサ 150:通信回線 200:船体 202:船尾 204:船首 206:貫通孔 210:操縦装置 212:ステアリング操作部 214:スロットル操作部 216:ジョイスティック 220:姿勢制御部 222:トリムタブ 224:変位機構