(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033191
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】インダクタおよびインダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240306BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20240306BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F27/32 140
H01F41/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136630
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗内 敬太
(72)【発明者】
【氏名】八幡 岳宏
【テーマコード(参考)】
5E044
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E044CA03
5E044CA09
5E062FF10
5E070AA01
5E070AB08
5E070CA20
(57)【要約】
【課題】コイル導体と磁性粒子との絶縁性を高めることにより、インダクタの耐圧性能を高める。
【解決手段】インダクタは、帯状導線を巻き回したコイル導体と、コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、帯状導線は、平行な一対の主面と、主面間を接続する一対の端面とを含む断面形状を有し、コイル導体は、帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、絶縁層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた帯状導線を、巻回して形成され、帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面には、絶縁層により凹部が形成され、凹部の少なくとも一部には融着層の樹脂が充填されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、
前記帯状導線は、平行な一対の主面と、前記主面間を接続する一対の端面とを含む断面形状を有し、
前記コイル導体は、前記帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた前記帯状導線を、巻回して形成され、
前記帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面には、前記絶縁層により凹部が形成され、前記凹部の少なくとも一部には前記融着層の樹脂が充填されている、インダクタ。
【請求項2】
前記帯状導線の前記端面は、前記軸方向に凸となる曲面を形成する、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記帯状導線の、前記主面と前記端面との境界点を通り前記主面に直交する面を基準面として測った、前記端面を覆う前記絶縁層の頂点までの高さは、8μm以上である、
請求項2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記素体の断面において、前記凹部の断面積に占める前記融着層の樹脂の面積は、30%以上である、
請求項1から請求項3のいずれかに記載のインダクタ。
【請求項5】
帯状導線を巻き回してコイル導体を形成するコイル導体形成工程と、
磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、前記コイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、
前記素体および前記引出部の表面に表面処理を施す表面処理工程と、
前記引出部に外部電極を形成するめっき工程と、
を有し、
前記コイル導体形成工程では、前記帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた前記帯状導線をα巻きすることにより前記コイル導体を形成し、
前記コイル導体形成工程及び前記素体成型工程の少なくともいずれかにおいて、前記帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面に、前記絶縁層により覆われた凹部を形成させ、前記凹部の少なくとも一部に前記融着層の樹脂を充填させる、
インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタおよびインダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁性粒子と樹脂とを含む素体(磁性体部)と、素体に埋設されたコイル導体と、コイル導体の末端に電気的に接続された一対の外部電極とを有するコイル部品の製造過程において、絶縁被覆が施された導線を巻回して巻回部を形成し、導線の両端を巻回部の外周から引き出してコイル導体を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
素体に埋設されたコイル導体の巻回部では各周回の導体が巻き回しの軸方向に並び、各周回の導体どうしの境界に凹部が形成される。コイル導体に用いる平角導線は、四角周辺の絶縁被膜の厚みが他の場所より薄い部分がある。そのため、平角導線の角部が位置する凹部の深い位置では磁性粒子と導体との距離が近くなり、凹部以外の場所に比べて絶縁性が低くなる惧れがある。従って、インダクタの耐圧性能を高めるためには、上述した凹部における絶縁性を高めることが求められていた。
【0005】
本発明は、絶縁被覆を有する導体を巻回したコイル導体を、磁性粒子を含む素体に埋設して構成されるインダクタにおいて、コイル導体と磁性粒子との絶縁性を高めることにより、インダクタの耐圧性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記帯状導線は、平行な一対の主面と、前記主面間を接続する一対の端面とを含む断面形状を有し、前記コイル導体は、前記帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた前記帯状導線を、巻回して形成され、前記帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面には、前記絶縁層により凹部が形成され、前記凹部の少なくとも一部には前記融着層の樹脂が充填されている、インダクタである。
本発明の他の態様は、帯状導線を巻き回してコイル導体を形成するコイル導体形成工程と、磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、前記コイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体および前記引出部の表面に表面処理を施す表面処理工程と、前記引出部に外部電極を形成するめっき工程と、を有し、前記コイル導体形成工程では、前記帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた前記帯状導線をα巻きすることにより前記コイル導体を形成し、前記コイル導体形成工程及び前記素体成型工程の少なくともいずれかにおいて、前記帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面に、前記絶縁層により覆われた凹部を形成させ、前記凹部の少なくとも一部に前記融着層の樹脂を充填させる、インダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コイル導体の巻回部に形成される凹部に、融着層の樹脂が充填されることにより、凹部への磁性粒子の嵌入を抑制できる。このため、コイル導体と磁性粒子との絶縁性を高めることにより、インダクタの耐圧性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
【
図2】インダクタを底面の側から視た斜視図である。
【
図3】インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
【
図5】コイル導体の、厚み方向の平面に沿った断面図である。
【
図7】
図6に示す断面図のP部の部分詳細図である。
【
図8】凹部の一例を示す素体断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係るインダクタを上面12の側から視た斜視図であり、
図2はインダクタを底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタは、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
【0010】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面12と言い、底面10に直交する一対の第3の主面を端面14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の第4の主面を側面16と言う。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向DLと定義する。
インダクタの大きさは、例えば、長さL寸法が2.0mm、幅W寸法が1.6mm、厚みT寸法が1.1mmである。
【0011】
図3は、インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタとして構成されている。
【0012】
コア30は、磁性粒子と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。
【0013】
また、本実施形態の磁性粒子は、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含んでいる。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における磁性粒子の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
本実施形態において、第1磁性粒子および第2磁性粒子の金属粒子の平均粒径はそれぞれ24.4μmおよび1.7μmである。なお、第1磁性粒子の平均粒径は7μm以上60μm以下が好ましく、第2磁性粒子の平均粒径は1μm以上4μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0014】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う数nm以上数十nm以下の膜厚の絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
本実施形態の第1磁性粒子では、金属粒子には、Fe-Si-Bアモルファス合金粉が用いられ、絶縁膜には、厚み10nm以上50nm以下のリン酸亜鉛ガラスが用いられている。また、本実施形態の第2磁性粒子では、金属粒子には、カルボニル鉄粉が用いられ、絶縁膜には5nm以上15nm以下のシリカ膜が用いられている。
【0015】
また、本実施形態の混合粉において、樹脂の材料には、フェノールアルキル型エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ樹脂が用いられている。
本実施形態では、混合粉の組成は、第1磁性粒子が75±10wt%、第2磁性粒子が25±10wt%、樹脂が2.7wt%以上3.5wt%以下である。
【0016】
コイル導体20は、
図3に示すように、導線が巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部24とを備える。
コイル導体20は、導線と、導線の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導線(いわゆる、平角導線)であり、その厚みは、18μm以上90μm以下、幅は、240μm以上340μm以下である。被覆層は、帯状導線の表面上に形成された絶縁層と、絶縁層の表面に形成された、巻回部22において重なりあう帯状導線どうしを接着するための融着層と、で構成される。絶縁層は、ポリイミドアミド樹脂から成り、厚みは、6±2μmである。また、融着層は、ポリイミド樹脂から成り、厚みは、2.5±1.0μmである。なお、コイル導体の厚み面は、曲面であってもよい。厚み面が曲面である場合、導線の幅は、厚みの曲面部を含む。
【0017】
コイル導体20の巻回部22は、帯状導線(以下、単に導線ともいう)の両端が外周に引き出され、かつ内周で互いに繋がるように導線を渦巻き状に巻回して形成される。素体2の内部において、コイル導体20は、巻回部22の中心軸が素体2の厚み方向DTに沿う姿勢でコア30に埋設されている。引出部24は、巻回部22から一対の端面14のそれぞれまで引き出され、帯状導線の一方の主面が素体2から露出し、他方の主面が素体2に埋設されている。引出部24の、素体2から露出した帯状導線の一方の主面は、外部電極4に電気的に接続されている。
図3には、巻回部22の軸を符号AXで示す。軸AXは、例えば、インダクタ1の厚み方向DTに一致する。巻回部22において、コイル導体20は軸AXを中心として周回しており、コイル導体20の周回数はインダクタ1の巻き数に対応して定められる。
【0018】
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の引出部24と接続され、また底面10に延出した部分4A(
図2)が、はんだなどの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0019】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、素体保護層(図示せず)が形成されている。素体保護層は、例えば、フェノキシ樹脂およびノボラック樹脂であり、フィラーとしてナノシリカを含む。素体保護層は、素体2の表面上に、10μm以上30μm以下の厚みで形成されている。
【0020】
かかる構成のインダクタは、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタの用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0021】
図4は、インダクタの製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタの製造工程は、コイル導体形成工程、予備成型体形成工程、熱成型・硬化工程、バレル研磨工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
【0022】
コイル導体形成工程は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」(α巻き)と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、及び一対の引出部24を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部24が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0023】
予備成型体形成工程は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が入り込む溝を有した適宜形状(例えばE型など)の第1タブレットと、この第1タブレットの溝を覆う適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0024】
熱成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体20、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体20、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。熱成型・硬化工程は、本開示における素体成型工程に相当する。
【0025】
バレル研磨工程は、この成型体をバレル研磨する工程であり、当該工程により、素体2の角部へのR付けが行われる。
【0026】
外部電極形成工程は、外部電極4をコア30に形成する工程であり、素体保護層形成工程と、表面処理工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
【0027】
素体保護層形成工程は、この成型体の表面を絶縁性の樹脂でコーティングする工程である。この工程により、絶縁性の樹脂で構成される素体保護層が、例えば成型体の全表面に形成される。
【0028】
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、引出部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、コア30の表面の素体保護層およびコイル導体20の引出部24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂を除去し、且つ、コア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ光を照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
【0029】
めっき層形成工程では、コア30の表面に銅をバレルめっきすることにより、レーザ光が照射された電極予定箇所に銅めっき層を形成する。これに加えて、めっき層は、銅めっき層の上に、さらにNiめっき層およびSnめっき層を設けて形成されるものとしてもよい。
【0030】
上記の外部電極形成工程により、上記めっき層で構成される外部電極4が形成される。
なお、外部電極4は、L字電極に限らず、端面14の全面から、当該端面14に隣接する底面10、上面12、及び一対の側面16のそれぞれの一部に亘って設けられた、いわゆる5面電極でもよい。なお、5面電極を、コア30を導電性樹脂に浸漬することによって付与する場合は、素体保護層形成工程は、必ずしも必要でない。
【0031】
図5は、本実施形態に用いる巻回する前のコイル導体20の、厚み方向の平面(すなわち、長さ方向に直交する平面)に沿った断面図である。コイル導体20は、帯状導線20aと、帯状導線20aの表面上に形成された被覆層20bと、を有する。被覆層20bは、帯状導線20aの表面上に形成された絶縁層25aと、絶縁層25aの表面上に形成された融着層25bと、を含む。なお、
図5において、白丸や黒丸で示す各点は、紙面法線方向に延在して線を成すことに留意されたい。
【0032】
帯状導線20aは、特に、対向する2つの主面26と隣接して対向する2つの側面27が、
図5に示す帯状導線20aの厚み方向の断面視において、帯状導線20aの外部に向かって曲線状に突出して、稜線27a(図示黒丸で示す位置)を有する曲面を成すように構成されている。ここで、平坦な主面26と側面27との境界26a(図示白丸で示す位置)を通り主面26に直交する面を基準面RPとして測った、当該基準面RPから帯状導体の稜線27a上の絶縁層25aまでの距離(絶縁層25aの頂点までの高さ)を、稜線の高さhと定義する。高さhは、例えば8μm以上である。
【0033】
コイル導体20は、上述したコイル導体形成工程において巻回部22及び引出部24を有する形状に巻回する際に加熱される。この加熱されながら巻回されることによって、巻回部22の各周回を構成するコイル導体20の融着層25bどうしが圧着されることにより、隣接する2つのコイル導体20が融着層25bによって接着され、巻回部22が一体化される。
【0034】
図6は、
図3のA-A断面図である。
図6に示すように、巻回部22では、巻回部22の各周回を構成する複数のコイル導体20が、軸AXと交差する方向に並ぶ。また、巻回部22の軸AX方向の端面には、各周回のコイル導体20の側面27が並び、側面27は素体2の磁性粒子と樹脂との混合物に接する。
【0035】
図7は、
図6におけるP部を拡大して示す図である。
図7においてコイル導体20の幅方向の中心線を符号Cで示す。符号Cは主面26に平行な面内を通る直線である。中心線Cは、軸AXに対して角度θの傾きを有する。この傾きは、コイル導体形成工程及び/または熱成型・硬化工程で巻回部22に圧力が加わることによって生じる。角度θは、例えば、-15°~+15°である。
【0036】
コイル導体20は、帯状導線20aが絶縁層25aにより被覆された状態を維持したまま、絶縁層25aが融着層25bによって隣接する周回のコイル導体20と接着されている。コイル導体形成工程において、融着層25bの一部は、隣接するコイル導体20とコイル導体20との間から軸AX方向に侵出し、側面27に達する。この融着層25bの変形はコイル導体形成工程だけでなく熱成型・硬化工程においても生じ得る。
【0037】
巻回部22の軸AX方向の端面において、1つの周回を構成するコイル導体20の側面27と、隣接する周回を構成するコイル導体20の側面27との間には、凹部27cが形成される。上述のように、帯状導線20aの側面27は帯状導線20aの外部に向かって凸となる曲面である。凹部27cは、側面27が曲面であることに起因して形成される、断面略三角形の凹部である。例えば、巻回部22において隣接する2つのコイル導体20の間に形成される凹部27cは、2つのコイル導体20の側面27の上の絶縁層25aの頂点を結ぶ面と、これら2つのコイル導体20の絶縁層25aの表面とで囲まれる空間である。図には示していないが、凹部27cは、紙面に直交する方向、すなわち、コイル導体20の長手方向において側面27に沿って延在する。なお、コイル導体20の側面は、曲面でなくてもよい。例えば、コイル導体20の側面が直線状または平面状であっても、幅方向の中心線Cを傾けるだけで、凹部27cのような凹凸を形成することができる。
【0038】
素体2に含まれる磁性粒子40は、上述のように、大粒子である第1磁性粒子40a、小粒子である第2磁性粒子40b、40cを含む。ここで、第2磁性粒子40cは、小粒子の中で特に粒径の小さいものを指す。これは一例であり、磁性粒子40が第2磁性粒子40b、40cに相当するような粒径の異なる粒子を含むことは必須ではない。これらの磁性粒子40は粒度調整された上で樹脂と混合されて、コア30を形成する。凹部27cは、例えば、第2磁性粒子40b、40cよりも大きな空間であるため、熱成型・硬化工程において第2磁性粒子40b、40cが凹部27cに入り込む。
【0039】
コイル導体20は絶縁層25aにより覆われているため、凹部27cに第2磁性粒子40b、40cが入りこんでも、コイル導体20の絶縁性は保たれる。しかしながら、凹部27cにおいては絶縁層25aの厚みが他の場所より薄く、凹部27c以外の箇所に比べて磁性粒子40と帯状導線20aとの間の絶縁性が低くなりやすい。
【0040】
一方、
図7に示した構成では、巻回部22において隣接するコイル導体20とコイル導体20との間から侵出した融着層25bが、凹部27cに入り込み、凹部27cの少なくとも一部に融着層25bが充填される。融着層25bが凹部27cを埋める分だけ、凹部27cへの磁性粒子40の入り込みが阻害される。従って、凹部27cにおける絶縁性が十分に高く保たれるので、インダクタ1の耐圧性能を高めることができる。
【0041】
図8は、
図7に示す断面図に相当する領域の顕微鏡写真である。
図8に示す顕微鏡写真は、絶縁層25aと融着層25bとの境界線が薄いため、
図8には、凹部27cの輪郭を図示点線の枠で示している。
図8に現れているように、巻回部22の外周部に生じる複数の凹部27cのそれぞれにおいて、凹部27cの少なくとも一部が融着層25bにより埋められている。このため、磁性粒子40が凹部27cの深い位置に入り込むことが抑制されている。
【0042】
本実施形態では、凹部27cへの磁性粒子40の入り込みを阻害するための樹脂として融着層25bが充填される。融着層25bは、コイル導体形成工程及び/または熱成型・硬化工程において、隣接する2つの帯状導線20aの間から凹部27cに侵出する。侵出する融着層25bが占める断面積の量あるいは割合は、融着層25bおよび絶縁層25aの厚さ、巻回時の圧力、稜線の高さhなどによって調整可能である。従って、凹部27cに絶縁性を有する材料を充填する工程が不要であり、コイル導体20とは別に絶縁材料を用意する必要がない。従って、インダクタ1の製造工程の増加を伴わない方法によって、インダクタ1の耐圧性能の向上を図ることができる。
【0043】
凹部27cに充填される融着層25bの量は、凹部27cの全体を満たす量でなくてもよく、少なくとも凹部27cの一部が融着層25bにより占められていればよい。例えば、
図7及び
図8に示した素体2の断面において、凹部27cの断面積の30%以上が融着層25bにより占められることが好ましく、より好ましくは断面積の50%以上が融着層25bにより占められる。
【0044】
また、巻回部22が有する全ての凹部27cが、融着層25bが充填された状態でなくてもよい。巻回部22において側面27が磁性粒子40に面する位置には凹部27cが形成されるが、特に、素体2の表面に近い位置では、絶縁性を高める効果が見込まれる。具体的には、
図6に示す領域E1、E4は上面12に近い位置にあり、領域E2、E3は底面10に近い位置にあり、これらの領域E1~E4で凹部27cに融着層25bを充填することが効果的である。
【0045】
例えば、領域E1~E4に存在する複数の凹部27cの中から無作為に抽出した4つ以上の凹部27cにおいて、融着層25bが充填されていると、インダクタ1におけるコイル導体20と磁性粒子40との絶縁性を高める効果が期待できる。また、抽出した4つ以上の凹部27cの断面において、融着層25bが占める断面積が、平均値で30%以上であることが好ましく、より好ましくは、融着層25bが平均値で断面積の50%以上を占める。
【0046】
さらに、領域E1、E2、E3、E4の全てにおいて、少なくとも1つの凹部27cに、融着層25bが充填されている場合も、インダクタ1におけるコイル導体20と磁性粒子40との絶縁性を高める効果が期待できる。この場合、融着層25bが充填された凹部27cにおいて、融着層25bが占める断面積が30%以上であることが好ましく、より好ましくは、融着層25bが断面積の50%以上を占める。
なお、凹部27cにおいて融着層25bが占める断面積は、例えば、
図7に示したようなインダクタ1の断面の顕微鏡写真から算出することができる。
【0047】
上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。例えば、上記実施形態では、コイル導体形成工程で、α巻きと称される巻き方で導線を巻回することによりコイル導体20を構成する例を説明した。これは一例であり、コイル導体20は、導体を他の巻き方で巻回することにより、巻回部22を有する形状に成型されたものであればよい。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0048】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0049】
(構成1)帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記帯状導線は、平行な一対の主面と、前記主面間を接続する一対の端面とを含む断面形状を有し、前記コイル導体は、前記帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁覆層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた前記帯状導線を、α巻きして形成され、前記帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面には、前記絶縁層により覆われた凹部が形成され、前記凹部の少なくとも一部には前記融着層の樹脂が充填されている、インダクタ。
構成1のインダクタによれば、帯状導線を巻き回すことによって形成される凹部に、帯状導線の被覆層の一部である融着層が充填されることにより、凹部における帯状導線と磁性粒子との絶縁性を高めることができる。このため、インダクタの耐圧性能を高めることができる。
【0050】
(構成2)前記帯状導線の前記端面は、前記軸方向に凸となる曲面を形成する、構成1に記載のインダクタ。
構成2のインダクタによれば、帯状導線の端面が凸であることにより形成される凹部に融着層が充填されることにより、凹部における帯状導線と磁性粒子との絶縁性を高めることができる。
【0051】
(構成3)前記帯状導線の、前記主面と前記端面との境界点を通り前記主面に直交する面を基準面として測った、前記端面を覆う前記絶縁層の頂点までの高さは、8μm以上である、構成2に記載のインダクタ。
構成3のインダクタによれば、帯状導線の端面が曲面であることに起因して、隣接する2つの帯状導線の絶縁層が凹部を形成する構成において、凹部における帯状導線と磁性粒子との絶縁性を高めることができる。
【0052】
(構成4)前記前記素体の断面において、前記凹部の断面積に占めるおける前記融着層の樹脂の面積は、30%以上である、構成1から構成3のいずれかに記載のインダクタ。
構成4のインダクタによれば、凹部の断面積において30%以上を融着層が占めることにより凹部における帯状導線と磁性粒子との絶縁性を、より確実に高めることができる。
【0053】
(構成5)帯状導線を巻き回してコイル導体を形成するコイル導体形成工程と、磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、前記コイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体および前記引出部の表面に表面処理を施す表面処理工程と、前記引出部に外部電極を形成するめっき工程と、を有し、前記コイル導体形成工程では、前記帯状導線の表面を被覆する絶縁層、及び、前記絶縁層を被覆する融着層を有する被覆層が設けられた前記帯状導線をα巻きすることにより前記コイル導体を形成し、前記コイル導体形成工程及び前記素体成型工程の少なくともいずれかにおいて、前記帯状導線が巻回された巻回部の軸方向の端面に、前記絶縁層により覆われた凹部を形成させ、前記凹部の少なくとも一部に前記融着層の樹脂を充填させる、インダクタの製造方法。
構成5のインダクタの製造方法によれば、帯状導線を巻き回すことによって形成される凹部に、帯状導線の被覆層の一部である融着層を充填することにより、凹部における帯状導線と磁性粒子との絶縁性を高めることができ、インダクタの耐圧性能を高めることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…インダクタ、2…素体、4…外部電極、10…底面、12…上面、14…端面、16…側面、20…コイル導体、20a…帯状導線、20b…被覆層、22…巻回部、24…引出部、25a…絶縁層、25b…融着層、26…主面、26a…境界、27…側面、27a…稜線、27c…凹部、30…コア、40…磁性粒子、40a…第1磁性粒子、40b、40c…第2磁性粒子。