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特開2024-33192インダクタおよびインダクタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033192
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】インダクタおよびインダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20240306BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F41/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136631
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗内 敬太
(72)【発明者】
【氏名】大井 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳春
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062FG11
5E070AA01
5E070AB10
5E070BB03
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】
【課題】インダクタの外部電極の剥離強度を高める。
【解決手段】インダクタは、帯状導線を巻き回したコイル導体と、コイル導体を埋設した軟磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、素体は、直方体形状であって、対向する一対の主面と、主面に隣接して対向する一対の端面と、主面に隣接して対向する一対の側面と、を有し、素体の表面に素体保護層が形成され、コイル導体の巻回部から一対の引出部が引き出され、それぞれの引出部の表面が素体の表面から露出した露出部に、外部電極である金属層がめっきにより形成されており、外部電極の金属層は、素体保護層が形成されていない電極形成部、及び、電極形成部の外縁の素体保護層の上に延在して形成され、さらに、電極形成部と素体保護層との境界において素体中に入り込んで形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した軟磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、
前記素体は、直方体形状であって、対向する一対の主面と、前記主面に隣接して対向する一対の端面と、前記主面に隣接して対向する一対の側面と、を有し、
前記素体の表面に素体保護層が形成され、
前記コイル導体の巻回部から一対の引出部が引き出され、それぞれの前記引出部の表面が前記素体の表面から露出した露出部に、外部電極である金属層が形成されており、
前記外部電極の金属層は、前記素体保護層から露出して形成された電極形成部、及び、前記電極形成部の外縁の前記素体保護層の上に延在して形成され、さらに、前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成されている、
インダクタ。
【請求項2】
前記素体中に入り込んだ前記外部電極の深さは、前記素体側の表面から5μm以上のである、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記外部電極の前記金属層は、前記素体中に楔形状に入り込んで形成されている、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記それぞれの露出部は前記素体の前記端面にそれぞれ露出し、
前記外部電極の前記金属層は、前記端面と前記主面とに跨がって形成され、前記主面の前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成されている、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項5】
帯状導線を巻き回してコイル導体を形成するコイル導体形成工程と、
軟磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、前記コイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、
前記素体の表面全体に素体保護層を形成する素体保護層形成工程と、
前記引出部の表面が露出した露出部を含む範囲にレーザ光を照射して前記素体保護層を剥離することにより、電極形成部を形成する工程と、
外部電極である金属層を、前記露出部を含む前記電極形成部に形成する工程と、
を有し、
前記外部電極の金属層は、前記電極形成部、及び、前記電極形成部の外縁の前記素体保護層の上に延在して形成され、さらに、前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成される、
インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタおよびインダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁性粒子と樹脂とを含む素体と、素体に埋設されたコイル導体と、を備えるコイル部品において、コイル導体から引き出された引き出し部を素体から露出させ、露出部に、めっき処理により外部電極を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-85459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のコイル部品は、めっき処理を利用することによって、コイル導体の引き出し部と外部電極との接合強度を確保している。しかしながら、外部端子の剥離強度を、さらに高めることが求められていた。
【0005】
本発明は、磁性粒子と樹脂とを含む素体にコイル導体を埋設し、コイル導体に導通する外部電極を備えるコイル部品において、外部電極の剥離強度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した軟磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記素体は、直方体形状であって、対向する一対の主面と、前記主面に隣接して対向する一対の端面と、前記主面に隣接して対向する一対の側面と、を有し、前記素体の表面に素体保護層が形成され、前記コイル導体の巻回部から一対の引出部が引き出され、それぞれの前記引出部の表面が前記素体の表面から露出した露出部に、外部電極である金属層がめっきにより形成されており、前記外部電極の金属層は、前記素体保護層から露出して形成された電極形成部、及び、前記電極形成部の外縁の前記素体保護層の上に延在して形成され、さらに、前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成されている、インダクタである。
【0007】
本発明の別の一態様は、帯状導線を巻き回してコイル導体を形成するコイル導体形成工程と、軟磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、前記コイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体の表面全体に素体保護層を形成する素体保護層形成工程と、前記引出部の表面が露出した露出部を含む範囲にレーザ光を照射して前記素体保護層を剥離することにより、電極形成部を形成する工程と、外部電極である金属層を、前記露出部を含む前記電極形成部に形成する工程と、を有し、前記外部電極の金属層は、前記電極形成部、及び、前記電極形成部の外縁の前記素体保護層の上に延在して形成され、さらに、前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成される、インダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コイル導体の巻回部から引き出された露出部と、素体保護層の上とに外部電極が形成され、外部電極が素体中に入り込んでいる。このため、外部電極が素体に強く結合されるので、外部端子の剥離強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
図2】インダクタを底面の側から視た斜視図である。
図3】インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
図4】インダクタの製造工程の概要図である。
図5】表面処理工程後の素体を底面の側から見た斜視図である。
図6図2の位置Aにおける要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係るインダクタを上面12の側から視た斜視図であり、図2はインダクタを底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタは、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
【0011】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面12と言い、底面10に直交する一対の第3の主面を端面14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の第4の主面を側面16と言う。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向DLと定義する。
インダクタの大きさは、例えば、長さL寸法が2.0mm、幅W寸法が1.6mm、厚みT寸法が1.1mmである。
【0012】
図3は、インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタとして構成されている。
【0013】
コア30は、軟磁性粒子と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。
【0014】
本実施形態の軟磁性粒子は、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含んでいる。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における磁性粒子の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
本実施形態において、第1磁性粒子および第2磁性粒子の金属粒子の平均粒径はそれぞれ24.4μmおよび1.7μmである。なお、第1磁性粒子の平均粒径は7μm以上60μm以下が好ましく、第2磁性粒子の平均粒径は1μm以上4μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0015】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う数nm以上数十nm以下の膜厚の絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
本実施形態の第1磁性粒子では、金属粒子には、Fe-Si-Bアモルファス合金粉が用いられ、絶縁膜には、厚み10nm以上50nm以下のリン酸亜鉛ガラスが用いられている。また、本実施形態の第2磁性粒子では、金属粒子には、カルボニル鉄粉が用いられ、絶縁膜には5nm以上15nm以下のシリカ膜が用いられている。
【0016】
また、本実施形態の混合粉において、樹脂の材料には、フェノールアルキル型エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ樹脂が用いられている。
本実施形態では、混合粉の組成は、第1磁性粒子が75±10wt%、第2磁性粒子が25±10wt%、樹脂が2.7wt%以上3.5wt%以下である。
【0017】
コイル導体20は、図3に示すように、導線が巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部24とを備える。
コイル導体20は、導線と、導線の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導線(いわゆる、平角導線)であり、その厚みは、18μm以上90μm以下、幅は、240μm以上340μm以下である。被覆層は、帯状導線の表面上に形成された絶縁層と、絶縁層の表面に形成された、巻回部22において重なりあう帯状導線どうしを接着するための融着層と、で構成される。絶縁層は、ポリイミドアミド樹脂から成り、厚みは、6±2μmである。また、融着層は、ポリイミド樹脂から成り、厚みは、2.5±1.0μmである。なお、コイル導体の厚み面は、曲面であってもよい。厚み面が曲面である場合、導線の幅は、厚みの曲面部を含む。
【0018】
コイル導体20の巻回部22は、帯状導線(以下、単に導線ともいう)の両端が外周に引き出され、かつ内周で互いに繋がるように導線を渦巻き状に巻回して形成される。素体2の内部において、コイル導体20は、巻回部22の中心軸が素体2の厚み方向DTに沿う姿勢でコア30に埋設されている。引出部24は、巻回部22から一対の端面14のそれぞれまで引き出され、帯状導線の一方の主面が素体2から露出し、他方の主面が素体2に埋設されている。引出部24の、素体2から露出した帯状導線の一方の主面は、外部電極4に電気的に接続されている。
【0019】
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の引出部24と接続され、また底面10に延出した部分4A(図2)が、はんだなどの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0020】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、素体保護層(図示せず)が形成されている。素体保護層は、例えば、フェノキシ樹脂およびノボラック樹脂であり、フィラーとしてナノシリカを含む。素体保護層は、素体2の表面上に、10μm以上30μm以下の厚みで形成されている。
【0021】
かかる構成のインダクタは、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタの用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0022】
図4は、インダクタの製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタの製造工程は、コイル導体形成工程、予備成型体形成工程、熱成型・硬化工程、バレル研磨工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
【0023】
コイル導体形成工程は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」(α巻き)と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、及び一対の引出部24を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部24が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0024】
予備成型体形成工程は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が入り込む溝を有した適宜形状(例えばE型など)の第1タブレットと、この第1タブレットの溝を覆う適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0025】
熱成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体20、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体20、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。熱成型・硬化工程は、本開示における素体成型工程に相当する。
【0026】
バレル研磨工程は、この成型体をバレル研磨する工程であり、当該工程により、素体2の角部へのR付けが行われる。
【0027】
外部電極形成工程は、外部電極4をコア30に形成する工程であり、素体保護層形成工程と、表面処理工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
【0028】
素体保護層形成工程は、この成型体の全表面を絶縁性の樹脂でコーティングする工程である。この工程により、絶縁性の樹脂で構成される素体保護層が、例えば成型体の全表面に形成される。
【0029】
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所に光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、引出部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、コア30の表面の素体保護層およびコイル導体20の引出部24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂を除去し、且つ、コア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ光の照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
【0030】
めっき層形成工程では、コア30の表面に銅をバレルめっきすることにより、レーザ光が照射された電極予定箇所に銅めっき層を形成する。これに加えて、めっき層は、銅めっき層の上に、さらにニッケル(Ni)から形成されるNiめっき層、および、スズ(Sn)から形成されるSnめっき層を設けて形成されるものとしてもよい。また、銅(Cu)の層に代えて、アルミニウム(Al)や、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)の層を用いてもよい。
【0031】
上記の外部電極形成工程により、上記めっき層で構成される外部電極4が形成される。
なお、外部電極4は、L字電極に限らず、端面14の全面から、当該端面14に隣接する底面10、上面12、及び一対の側面16のそれぞれの一部に亘って設けられた、いわゆる5面電極でもよい。
【0032】
図5は、表面処理工程後の素体2を底面10の側から見た斜視図である。
素体2の端面14には、引出部24の露出部24aが露出する。図5には素体2が有する一対の端面14のうち一方のみを図示しているが、他方の端面14も同様に構成される。露出部24aは、バレル研磨工程後において引出部24の表面が素体2の表面から露出している部分である。
【0033】
表面処理工程では、端面14と底面10とに跨がる範囲にレーザ光が照射される。上述のように、底面10、上面12、一対の端面14、及び、一対の側面16は素体保護層31によって被覆されている。表面処理工程では、外部電極4が形成される領域の素体保護層31、及び、露出部24aの表面が、レーザ光の照射によって剥離される。このレーザ光の照射によって、底面10と端面14とに跨がる断面L字形状の電極形成部35が形成される。電極形成部35では、コア30を構成する樹脂および軟磁性粒子と、露出部24aとが露出する。電極形成部35は、上述の電極予定箇所に相当する。ここで、電極形成部35と、素体保護層31が除去されていない領域との境界の内側近傍(たとえば10μm以内)を、電極形成部35の外縁36とする。
【0034】
表面処理工程では、レーザ光の焦点を素体2の表面で走査させることにより、露出部24aの被服装と、素体2の表面の素体保護層31とが除去される。このとき、レーザ光のエネルギーと照射時間により、素体2の表面では、素体保護層31だけでなく、コア30の樹脂及び一部の軟磁性粒子が除去される。素体2においてレーザ光により除去される部分の深さを加工量とすると、加工量が素体保護層31の厚みを超えてコア30に達する。この場合、電極形成部35は、コア30が掘削された状態となる。
【0035】
レーザ光の走査は、例えば、幅方向DWに沿う方向の第1走査SC1、及び、第1走査SC1とは逆方向の第2走査SC2とを交互に繰り返して行われる。
【0036】
例えば、底面10に形成される外縁36において、長さ方向DLに沿って延びる部分を外縁36aとし、幅方向DWに沿って延びる部分を外縁36bとする。外縁36aは、第1走査SC1と第2走査SC2との転換点で加工量を大きくすることで、コア30が掘り込まれる。
【0037】
また、表面処理工程において、外縁36bはレーザ光の走査方向の転換点ではない。しかしながら、外縁36bに照射されるレーザ光の出力またはレーザ光の照射時間を、外縁36bを除く電極形成部35よりも大きくすることにより、外縁36bにおける加工量を大きくすることができる。この場合、外縁36bでは、外縁36aと同様に、レーザ光によりコア30の樹脂および軟磁性粒子が堀り込まれる。
【0038】
端面14に形成される電極形成部35の外縁36についても同様である。端面14において、外縁36のうち厚み方向DTに沿って延びる部分を外縁36cとし、幅方向DWに沿って延びる部分を外縁36dとする。外縁36cは、第1走査SC1と第2走査SC2との転換点であるため、加工量が大きいので、コア30が掘り込まれる。また、外縁36dはレーザ光の転換点でないため、加工量は外縁36cよりも小さいが、レーザ光の出力またはレーザ光の照射時間を大きくすることにより、外縁36dにおける加工量を大きくすることができる。
【0039】
図6は、図2の位置Aにおける要部断面図である。図6に現れた部分は、めっき層形成工程で外部電極4が形成された後の底面10における電極形成部35と素体保護層31との境界である外縁36aを含む。
【0040】
コア30には、軟磁性粒子40として、大径の第1磁性粒子40a、及び、第1磁性粒子40aよりも小径の第2磁性粒子40b、40cを含む。めっき層形成工程では、コア30の表面に外部電極4が形成される。外部電極4は、電極形成部35の上に形成され、さらに、素体保護層31の上にも形成される。
【0041】
ここで、素体保護層31の一対の表面のうち、素体2の表面側の面を符号31aで示し、コア30側の面を符号31bで示す。図6に符号4Pで示すように、素体保護層31の面31aには外部電極4が乗り上げた状態となる。この部分を乗上部4Pとする。乗上部4Pは外部電極4の一部であり、面31aに接合している。乗上部4Pの長さEは、例えば5μm以上10μm以下である。
【0042】
また、外部電極4は、電極形成部35の表層だけでなく、コア30の内部に入り込んで形成される。この部分を嵌入部4Qとする。嵌入部4Qは、素体保護層31の面31b側に延びてコア30の内部に、楔形状で嵌入している。つまり、嵌入部4Qにおいて、外部電極4の金属層が素体2中に入り込んでいる。
【0043】
めっき層形成工程で嵌入部4Qが形成される要因としては、例えば、表面処理工程で外縁36aに照射されるレーザ光により、コア30が深く掘り込まれることが挙げられる。つまり、めっきにより電極形成部35に金属層が形成される間、外縁36aに掘り込まれた部分を埋めるように金属層が成長することにより、嵌入部4Qが形成される。
【0044】
嵌入部4Qの大きさは、例えば、面31bよりもコア30の内側に入り込む深さDにより評価できる。深さDは、図6に示すように、面31bと、嵌入部4Qのうち最もコア30の深い位置に入り込んだ先端との距離であり、深さDは、例えば5μm以上12.2μ以下である。なお、深さDや、乗上部4Pの長さEは、素体2の中心を通り幅方向DWを法線とする面に平行な切断面を、顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0045】
外部電極4は、電極形成部35と外部電極4との接合、及び、乗上部4Pと61との接合により、素体2に強く接合されている。さらに、嵌入部4Qがコア30に楔状に入り込んでいるため、嵌入部4Qとコア30とのアンカー効果によって、外部電極4を素体2から剥離させる力に抗することができる。従って、インダクタ1における外部電極4の剥離強度が高められている。その結果、外部電極4は、コイル導体20の露出部24aから剥がれ難く、高い接合強度を有する。嵌入部4Qが外部電極4の剥離強度を高める効果は、深さDが5μm以上である場合に、顕著であり、大粒子の平均粒径の半分である12.2μより大きいと電極予定箇所の表面が粗くなり外部電極の形成に問題が生じる。
【0046】
インダクタ1において、嵌入部4Qは、外縁36aの全体に形成されてもよいし、外縁36aの少なくとも一部に形成されていてもよい。また、嵌入部4Qは、外縁36aに限らず、外縁36bに形成されてもよい。この構成は、例えば、上述のように表面処理工程で外縁36aにレーザ光が照射される時間やレーザ光の出力を大きくして、外縁36bにおいてコア30を掘り込むことで実現可能である。
【0047】
また、端面14に形成される外部電極4が嵌入部4Qを有する構成としてもよい。具体的には、外縁36cに嵌入部4Qが形成される構成であってもよい。また、外縁36dに嵌入部4Qが形成されてもよく、この構成は、外縁36bと同様の手法により実現できる。この構成は、インダクタ1が有する一対の端面14のいずれか一方、或いは両方において実現可能である。
【0048】
本実施形態において図5に示した第1走査SC1及び第2走査SC2は、表面処理工程におけるレーザ光の照射の一例である。表面処理工程において、レーザ光を長さ方向DLに沿う方向に往復走査する処理がなされても問題はない。この場合、外縁36b及び外縁36dにおいて、レーザ光の走査方向の転換に伴ってコア30が掘り込まれるので、外縁36b、36dにおいて嵌入部4Qが形成される。また、この場合に、外縁36a、36cに嵌入部4Qを形成させるためには、レーザ光の出力やレーザ光の照射時間を調整することにより外縁36a、36cでコア30を掘ればよい。
【0049】
上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0050】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0051】
(構成1)帯状導線を巻き回したコイル導体と、前記コイル導体を埋設した軟磁性粒子と樹脂とを含むコアと、を含む素体を備え、前記素体は、直方体形状であって、対向する一対の主面と、前記主面に隣接して対向する一対の端面と、前記主面に隣接して対向する一対の側面と、を有し、前記素体の表面に素体保護層が形成され、前記コイル導体の巻回部から一対の引出部が引き出され、それぞれの前記引出部の表面が前記素体の表面から露出した露出部に、外部電極である金属層がめっきにより形成されており、前記外部電極の金属層は、前記素体保護層から露出して形成された電極形成部、及び、前記電極形成部の外縁の前記素体保護層の上に形成され、さらに、前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成されている、インダクタ。
構成1のインダクタによれば、素体に埋設されたコイル導体から引き出された露出部、及び、素体において素体保護層から露出して形成された電極形成部に外部電極が形成され、この外部電極が、素体保護層の上に延在するとともに、素体中に入り込んでいる。このため、外部電極が素体中に入り込むことで、外部電極が素体に強く接合される。これにより、外部電極が素体保護層を剥離した素体表面と露出部に接合されていることと合わせて、外部電極が、より強固に素体に接合されるので、外部電極の剥離強度を高めることができる。
【0052】
(構成2)前記素体中に入り込んだ前記外部電極の深さは、前記素体の表面から5μm以上である、構成1に記載のインダクタ。
構成2のインダクタによれば、外部電極が素体中に入り込むことによって外部電極と素体との接合強度が高められる効果を、より確実に得ることができる。
【0053】
(構成3)前記外部電極の前記金属層は、前記素体中に楔形状に入り込んで形成されている、構成1または構成2に記載のインダクタ。
構成3のインダクタによれば、外部電極が楔形状に素体中に入り込むことによって、外部電極と素体との接合強度を、より効果的に高めることができる。
【0054】
(構成4)前記それぞれの露出部は前記素体の前記端面にそれぞれ露出し、前記外部電極の前記金属層は、前記端面と前記主面とに跨がって形成され、前記主面の前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成されている、構成1から構成3のいずれかに記載のインダクタ。
構成4のインダクタによれば、外部電極が、素体の端面においては露出部と接合され、素体の主面においては楔形状に素体中に入り込むことによって素体と強く接合される。これにより、外部電極が、より強固に素体に接合されるので、外部電極の剥離強度を高めることができる。
【0055】
(構成5)帯状導線を巻き回してコイル導体を形成するコイル導体形成工程と、軟磁性粒子と樹脂とを含むコア内に、前記コイル導体を、前記コイル導体の巻回部から引き出された引出部の表面が前記コアの表面から露出するように埋設し、前記コアを加圧して素体を成型する素体成型工程と、前記素体の表面全体に素体保護層を形成する素体保護層形成工程と、前記引出部の表面が露出した露出部を含む範囲にレーザ光を照射して前記素体保護層を剥離することにより、電極形成部を形成する工程と、外部電極である金属層を、前記露出部を含む前記電極形成部に形成する工程と、を有し、前記外部電極の金属層は、前記電極形成部、及び、前記電極形成部の外縁の前記素体保護層の上に延在して形成され、さらに、前記電極形成部と前記素体保護層との境界において前記素体中に入り込んで形成される、インダクタの製造方法。
構成5のインダクタの製造方法によれば、外部電極が、素体の表面全体を覆う素体保護層と、電極形成部と、素体の内部とに接合されるので、インダクタにおける外部電極の剥離強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…インダクタ、2…素体、4…外部電極、4P…乗上部、4Q…嵌入部、10…底面、12…上面、14…端面、16…側面、20…コイル導体、22…巻回部、24…引出部、24a…露出部、30…コア、31…素体保護層、31a、31b…面、35…電極形成部、36、36a、36b、36c、36d…外縁、40…軟磁性粒子、40a…第1磁性粒子、40b、40c…第2磁性粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6