(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033207
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/26 20060101AFI20240306BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240306BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240306BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B01D71/26
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136660
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田口 万里奈
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】花川 正行
(72)【発明者】
【氏名】高田 皓一
(72)【発明者】
【氏名】栄村 弘希
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA32
4D006GA35
4D006HA01
4D006MA01
4D006MA21
4D006MA24
4D006MA31
4D006MA33
4D006MA40
4D006MB20
4D006MC21X
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA63
4D006NA64
4D006NA75
4D006PB63
4D006PB64
4D006PC01
4D006PC47
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】気体透過性に優れるポリ(4-メチル-1-ペンテン)を用いて、高い気体透過性能を維持しつつ、高い伸度と有機溶剤耐性を備える分離膜を提供すること。
【解決手段】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とし、偏光赤外分光法による外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上3.0以下であり、膜の径断面における、空隙の総面積に対する、仮想直径が200以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAが20以上50%以下であり、かつ、空隙の総面積に対する、仮想直径が1000以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBが10以上50%以下であり、少なくとも一つの表面において、緻密層を有すること、を特徴とする、分離膜を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とし、偏光赤外分光法による外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上3.0以下であり、膜の径断面における、空隙の総面積に対する、仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAが20%以上50%以下であり、かつ、空隙の総面積に対する、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBが10%以上50%以下であり、少なくとも一つの表面において、緻密層を有すること、を特徴とする、分離膜。
【請求項2】
前記緻密層が0.1μm以上2.0μm以下の範囲である、請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
膜の長手方向に平行かつ、膜厚方向に平行な断面における、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙のうち、膜厚の中心より外側における空隙の平均長さが、4000nm以上であり、かつ、膜厚の中心より内側における空隙の平均長さが、1000nm以上3000nm以下である、請求項1または2のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項4】
偏光赤外分光法による外表面の配向度Oが2.0以上3.5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項5】
前記分離膜が中空糸形状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項6】
CO2/N2選択性が1以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項7】
100kPaにおけるN2透過性能が5GPU以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項8】
ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とする分離膜であって、前記分離膜の差圧100kPaにおけるN2透過性能をX、前記分離膜をクロロホルムに5秒浸漬させた後の、差圧100kPaにおけるN2透過性能をYとしたとき、透過性能の変化率Y/Xの値が0.3以上1.2以下である、分離膜。
【請求項9】
長手方向の破断伸度が300%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項10】
緻密層が外表面にある、請求項1~9のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項11】
下記(1)~(2)の工程を含む分離膜の製造方法。
(1)10質量%以上50質量%以下のポリ(4-メチル-1-ペンテン)と、50質量%以上90質量%以下の可塑剤と、を含む混合物を溶融混練して、樹脂組成物を得る、調製工程。
(2)前記樹脂組成物を間隙0.05mm以上0.30mm以下の吐出口金から220℃以上260℃以下の口金温度で吐出して、5以上30以下のドラフト比で巻き取りを行う、成形工程。
【請求項12】
前記成形工程において、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)に対する溶解度パラメータ距離Raが5以上13以下の範囲であり、かつ、前記可塑剤に対する溶解度パラメータ距離Rbが4以上10以下の範囲である溶媒を冷却浴に用いることを特徴とする、請求項11に記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体から溶存気体を除去する脱気方法や、液体中の溶存気体と気相中の気体成分とを交換する気体交換方法として、分離膜を用いる方法がある。これらの用途に使用される分離膜には、高い気体透過性能が要求されるため、気体透過性に優れたポリ(4-メチル-1-ペンテン)が膜材料として使用されることがある。中でも、表面に緻密層を有する膜は、被処理液の漏出を抑制することができる点で望ましい。一方、このような緻密層を有する膜は、緻密層を有さない膜に比べてガス透過性が低いことが多く、透過性を高めるためには緻密層厚みを薄くする必要があり、その結果として薄い緻密層に貫通孔が形成し、その孔を起点に被処理液が漏出し易いという問題を抱えるものであった。また、支持層の高い空隙率を形成するため、高速巻取を行っており、支持層の高配向に起因して膜が低伸度であり、使用中に破断する恐れがあった。
【0003】
さらに、被処理液の多様化に伴い、有機溶媒を含む被処理液の処理に使用されることもあり、その実用性を高めるために、より優れた有機溶剤耐性を備えていることが求められている。
【0004】
これまでに、高透過性を備える気体透過膜を得るために、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1にはポリオレフィン系高分子を用いた乾湿式溶液法が開示されている。具体的には、特許文献1では、ポリオレフィン系高分子を良溶媒に溶解したポリマー溶液を、ポリオレフィン樹脂の融点より高い温度において口金から押し出して、このポリマー溶液を冷却溶媒に接触させることで熱誘起相分離により、一方の表面に薄い緻密層を有する非対称構造を形成する。
【0005】
しかしながらこの特許文献1の膜は、高速巻取を行っており、伸度が十分でないという問題がある。また、緻密層が薄く、さらにガス透過性を高めようとすると欠点が生じる恐れがある。
【0006】
特許文献2には、溶融法による分離膜が開示されている。具体的には、ポリオレフィン系樹脂を融点以上の温度で口金から押し出して冷却固化し、その後、延伸を施すことにより、部分的に開裂させることで内部を開孔させ、表層緻密、内部多孔の構造を形成する。この方法では、表面高配向のため有機溶剤耐性には優れるが、緻密層が厚く、空隙率の低い構造のため、気体透過性能および伸度が十分でないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005-515061号公報
【特許文献2】特開平7-155569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の分離膜では、実用的な有機溶剤耐性と伸度を維持しつつ、高い気体透過性能を実現することは困難である。また、特許文献2で得られる分離膜は、有機溶剤耐性を有するものの、空隙率が不十分であり、十分な気体透過性能および伸度を有していない。
【0009】
本発明者らは、上記従来技術の課題にかんがみ、気体透過性に優れるポリ(4-メチル-1-ペンテン)を用いて、高い気体透過性能を維持しつつ、高い伸度と有機溶剤耐性を備える分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とし、偏光赤外分光法による外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上3.0以下であり、膜の径断面における、空隙の総面積に対する、仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合aが20以上50%以下であり、かつ、空隙の総面積に対する、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合bが10%以上50%以下であることで、高い気体透過性能を維持しつつ、高い伸度と有機溶剤耐性をも備えることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とし、偏光赤外分光法による外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上3.0以下であり、膜の径断面における、空隙の総面積に対する、仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合aが20%以上50%以下であり、かつ、空隙の総面積に対する、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合bが10%以上50%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気体透過性に優れるポリ(4-メチル-1-ペンテン)を用いて、高い気体透過性能を維持しつつ、高い伸度と有機溶剤耐性を備える分離膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、径断面を倍率10,000倍のSEMで撮像した画像の一例である。
【
図2】
図2は、
図1の画像を二値化後、ノイズを除去したものである。
【
図3】
図3は、
図2の画像から、10nmより大きい空隙の輪郭を抽出し、緻密層厚みを示したものである。
【
図4】
図4は径断面に割断した断面を倍率5,000倍のSEMで撮像した画像の一例である。
【
図5】
図5は、縦断面および分離膜の内部構造を模式的に示す図面である。
【
図6】
図6は縦断面に割断した断面を倍率5,000倍のSEMで撮像した画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の分離膜は、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とし、偏光赤外分光法による外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上3.0以下であり、膜の径断面における、空隙の総面積に対する、仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAが20%以上50%以下であり、かつ、空隙の総面積に対する、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBが10%以上50%以下であり、少なくとも一つの表面において、緻密層を有すること、を特徴とする。本明細書において、質量基準の割合(百分率、部など)は、重量基準の割合(百分率、部など)と同じである。
【0015】
(分離膜を構成する樹脂組成物)
本発明の分離膜を構成する樹脂組成物は、以下の(1)に示すポリ(4-メチル-1-ペンテン)を主成分とする。また、(1)以外に、以下の(2)~(6)に示す成分を含有することができる。
【0016】
(1)ポリ(4-メチル-1-ペンテン)(以下、「PMP」と示す)
本発明の分離膜は、PMPを主成分とする必要がある。ここでいう主成分とは、分離膜の全成分の中で、質量的に最も多く含まれる成分をいう。
【0017】
PMPとは、4-メチル-1-ペンテンから導かれる繰り返し単位を有していればよい。PMPとは、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であっても、4-メチル-1-ペンテン以外の4-メチル-1-ペンテンと共重合可能なモノマーとの共重合体であってもよい。前記4-メチル-1-ペンテンと共重合可能なモノマーとは、具体的には、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2~20のオレフィン(以下「炭素原子数2~20のオレフィン」という)が挙げられる。
【0018】
4-メチル-1-ペンテンと共重合される炭素原子数2以上20以下のオレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセン等が含まれる。
【0019】
4-メチル-1-ペンテンと共重合される炭素原子数2以上20以下のオレフィンは、一種類であってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0020】
本発明のPMPの密度は、825(kg/m3)以上840(kg/m3)以下であることが好ましく、830(kg/m3)以上835(kg/m3)以下であることがさらに好ましい。密度が前記範囲よりも小さいと分離膜の機械的強度が低下し、欠点が発生しやすい等の問題が発生する恐れがある。一方、前記範囲よりも密度が大きいと、ガス透過性が低下する傾向がある。
【0021】
PMPの、260℃、5kg荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR)は、後述する可塑剤(B)混ざりやすく、共押出できる範囲であれば特に規定されないが、1g/10min以上200g/10min以下であることが好ましく、5g/10min以上30g/10min以下であることがより好ましい。MFRが上記範囲であれば、比較的均一な膜厚に押出成形しやすい。
【0022】
PMPは、オレフィン類を重合して直接製造してもよく、高分子量の4-メチル-1-ペンテン系重合体を、熱分解して製造してもよい。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体は、溶媒に対する溶解度の差で分別する溶媒分別、あるいは沸点の差で分取する分子蒸留などの方法で精製されていてもよい。
【0023】
PMPは、前述のように製造したもの以外にも、例えば三井化学株式会社製TPX等、市販の重合体であってもよい 。
【0024】
分離膜中のPMPの含有量は、分離膜の全成分を100質量%としたときに、70質量%以上100質量%以下が好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。分離膜中のPMPの含有量が70質量%以上であることで、ガス透過性が十分なものとなる。
【0025】
また分離膜を製造する原料中のPMPの含有量は、原料を構成する成分の全体を100質量%としたときに、10質量%以上50質量%以下が好ましい。含有量が10質量%以上であることで、分離膜の膜強度が良好なものとなる。一方で、含有量が50質量%以下であることで、分離膜の透過性能が良好なものとなる。含有量は15質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
【0026】
(2)PMPの可塑剤
本発明の分離膜を構成する樹脂組成物は、PMPの可塑剤を含有することができる。透過性を高める観点から、分離膜中の可塑剤の含有量は、1000ppm(質量基準)以下であることが好ましく、500ppm(質量基準)以下であることがより好ましく、100ppm(質量基準)以下であることが特に好ましい。
【0027】
PMPの可塑剤は、PMPを熱可塑化する化合物であれば特に限定されない。PMPの可塑剤は、1種類の可塑剤だけでなく、2種類以上の可塑剤が併用されても構わない。
【0028】
PMPの可塑剤としては、例えば、パーム核油、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、ジベンジルエーテル、ココヤシ油又はこれらの混合物が挙げられる。中でも相溶性および曳糸性の点から、フタル酸ジブチル、ジベンジルエーテルが好ましく用いられる。
【0029】
PMPの可塑剤は、分離膜を形成した後は、分離膜から溶出させることが好ましい。 また、分離膜を製造する原料中における、PMPの可塑剤の含有量は、原料を構成する成分の全体を100質量%としたときに、50質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0030】
含有量が90質量%以下であることで、分離膜の膜強度が良好なものとなる。また、含有量が50質量%以上であることで、分離膜の透過性が良好なものとなる。含有量は50質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、55質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以上75質量%以下であることが特に好ましい。
【0031】
(3)添加剤
本発明の分離膜を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(2)に記載した以外の添加剤を含有しても構わない。
【0032】
添加剤としては、例えば、セルロースエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリビニル化合物、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン若しくはポリエーテルスルホン等の樹脂、有機滑剤、結晶核剤、有機粒子、無機粒子、末端封鎖剤、鎖延長剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、制電剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、消泡剤、着色顔料、蛍光増白剤又は染料等が挙げられる。
【0033】
(分離膜の形状)
本発明の分離膜の形状は中空糸形状の分離膜(以下、「中空糸膜」と示す)、が好ましく採用される。中空糸膜は効率良くモジュールに充填することが可能であり、モジュールの単位体積当たりの有効膜面積を大きくとることができるため好ましい。
【0034】
本発明における分離膜の形状、すなわち、分離膜の厚み、中空糸膜の外径および内径、中空率は、例えば液体窒素中で十分に冷却した中空糸膜に応力を加え膜の厚み方向に割断した断面(以下、「径断面」と示す)を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することができる。具体的な方法については実施例で詳述する。
【0035】
分離膜の厚みは、透過性能と膜強度とを両立させる観点から、10μm以上500μm以下であることが好ましい。また、厚みは30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。厚みは200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0036】
モジュールに充填した際の有効膜面積と、膜強度とを両立させる観点から、中空糸膜の外径が50μm以上2500μm以下であることが好ましい。中空糸膜の外径は100μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましく、300μm以上が特に好ましい。また、外径は1000μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましく、450μm以下であることが特に好ましい。
【0037】
また、中空部を流れる流体の圧損と、座屈圧との関係から、中空糸膜の内径は20μm以上1000μm以下であることが好ましい。中空糸膜の内径は50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましく、150μm以上が特に好ましい。また、内径は、500以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、250μm以下が特に好ましい。
【0038】
また、中空部を流れる流体の圧損と、座屈圧との関係から、中空糸膜の中空率が15%以上70%以下であることが好ましい。中空率は20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。また、中空率は60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、40%以下が特に好ましい。
【0039】
中空糸膜における中空糸膜の外径、内径、および中空率を上記範囲とする方法は特に限定されないが、例えば、中空糸膜を製造する紡糸口金の吐出孔の形状、又は、巻取速度/吐出速度で算出できるドラフト比、又は、空走距離を適宜変更することで調整できる。ここでいう空走距離とは、後述する形成工程における吐出口金から冷却浴までの距離のことである。
【0040】
本発明の分離膜は、緻密層を有することが重要である。緻密層を有することで、被処理液の漏出を抑制することができる。緻密層とは、例えば、分離膜の径断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10,000倍の倍率で観察した場合(例えば、
図1)において、空隙を有さない層のことをいう。ここで、空隙とは、例えば、分離膜の径断面を、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」)を用いて5,000倍の倍率で観察した場合における、面積が3.57nm
2以上、すなわち仮想直径10nm以上の凹部をいう。なおここでいう「凹部」とは、SEMで観察した画像における暗部をいい、SEMで撮像した画像を、画像解析ソフトを用いて二値化(Huangの二値化)することによりその輪郭を抽出できる。ここで複数の空隙とは、径断面をSEMを用いて5,000倍の倍率で観察した場合において、1視野あたり10個以上の空隙、すなわち仮想直径10nm以上の凹部のことをいう。また、本発明の分離膜は、緻密層の厚みが0.10μm以上2.00μm以下であることが好ましい。緻密層厚みとは、空隙を有さない表面(例えば、
図1の膜表面1)の任意の点から、もう一方の表面に向けて、垂直に直線を引いた際に、直径10nmを超える孔、すなわち空隙に初めて到達するまでの長さをいう。緻密層厚みは、例えば液体窒素中で十分に冷却した分離膜に応力を加え(必要に応じてカミソリまたはミクロトームまたはブロードイオンビームを用いて)、径断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、得られた画像を、画像解析ソフト「ImageJ」において二値化後(例えば、
図2)、10nmより大きい孔のみを抽出することで得ることができる。緻密層厚み(例えば、
図3の緻密層厚み2)の測定方法は実施例にて詳述する。本発明の分離膜は緻密層厚みが0.10μm以上2.0μm以下であることが好ましい。緻密層の厚みが0.10μm以上であることで、耐漏出性が良好なものとなり、2.0μm以下であることで、透過性が良好なものとなる。緻密層の厚みは0.1μm以上1.5μm以下であることが好ましい。また、緻密層の厚みは0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明の分離膜は、運転時、緻密層に被処理液を接触させることが好ましい。緻密層に被処理液を接触させることで、分離膜の形状変化を抑制し、透過性能の大幅な低下を防ぐことができるため好ましい。また、本発明の分離膜は、緻密層が外表面にあることが好ましい。ここでいう外表面とは、分離膜の径断面において、膜厚方向に平行な2つの表面のうち、より長尺な表面のことをいう。例えば、中空糸膜においては外径側の表面のことである。一方、平膜の場合、2つの表面における長さは同等なため、本発明では便宜上、膜厚方向に平行な2つの表面のうち、配向度が高い表面を外表面とする。また、分離膜の径断面において、外表面に対して膜厚方向に平行なもう一方の表面を内表面という。緻密層が外表面にあることで、内表面に被処理液を接触させる場合に比べ、被処理液の接触面積を増加させることができ、透過性能がより向上しやすくなる。
また、本発明の分離膜は、仮想直径200nm以上700nm以下の空隙(以下、「小空隙」)の平均面積Aの値と、1000nm以上1600nm以下の空隙(以下、「大空隙」)の平均面積Bの値が特定範囲となる、複数の空隙を有することが好ましい。小空隙の平均面積S
Aおよび大空隙の平均面積S
Bとは、径断面において測定される値である。SEMで撮像した画像の一例を
図4に示す。
【0042】
「小空隙の平均面積A」とは、径断面において、SEMを用いて5,000倍の倍率で径断面を観察した場合において、観察範囲における仮想直径が200nm以上700nm以下の凹部をすべて抽出し、その面積の算術平均値をとった値である。小空隙の平均面積Aは0.1μm2以上0.3μm2以下であることが好ましい。小空隙の平均面積Aが0.1μm2以上であることで大空隙の連通性を向上し、ガス透過性能を高めることができる。一方、小空隙の平均面積Aが0.3μm2以下であることで伸度を維持することができる。小空隙の平均面積Aは、0.15μm2以上0.28μm2以下であることがより好ましく、0.20μm2以上0.25μm2以下であることがさらに好ましい。
【0043】
「大空隙の平均面積B」とは、径断面において、SEMを用いて5,000倍の倍率で径断面を観察した場合において、観察範囲における仮想直径が1000nm以上1600nm以下の凹部をすべて抽出し、その面積の算術平均値をとった値である。空隙の仮想直径は、得られたSEM画像をImageJなどの画像解析ソフトを用いて二値化(Huangの二値化)することにより凹部の輪郭を抽出し、その面積から算出した。大空隙の平均面積Bは1.0μm2以上2.0μm2以下であることが好ましい。大空隙の平均面積Bが1.0μm2以上であることでガス透過性能を高めることができる。一方、大空隙の平均面積Bが2.0μm2以下であることで高い伸度を保つことができる。大空隙の平均面積Bは、1.2μm2以上1.9μm2以下であることがより好ましく、1.5μm2以上1.8μm2以下であることがさらに好ましい。
【0044】
さらに前記A、Bの変動係数の値は、それぞれ15%以下であることが好ましい。Aの変動係数とは、観察した任意の領域10点のAの標準偏差をAの算術平均で割り返し、100を掛けた値である。Bの変動係数に関しても同様の方法で算出する。AおよびBの変動係数は15%以下であることで、均質な構造を保つことから、高い透過性能と伸度を維持することができる。AおよびBの変動係数はそれぞれ10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の分離膜は、空隙の総面積に対する小空隙の合計面積の割合SB(以下、「SA」)と、空隙の総面積に対する大空隙の合計面積の割合SB(以下、「SB」)が特定範囲となることが重要である。SA、SBはそれぞれ下記の式(1)および式(2)で示される。
【0046】
SA=(小空隙の合計面積)/(空隙の総面積)・・・・・・式(1)
SB=(大空隙の合計面積)/(空隙の総面積)・・・・・・式(2)
空隙の総面積とは、SEMを用いて5,000倍の倍率で径断面を観察した場合において、観察範囲における全ての空隙の面積の和のことである。小空隙の合計面積とは、SEMを用いて5,000倍の倍率で径断面を観察した場合において、観察範囲における小空隙の面積の和のことであり、大空隙の合計面積とは、同様の条件で径断面を観察した場合において、観察範囲における大空隙の面積の和のことである。SAは20%以上50%以下であることが重要である。SAが20%以上であることでガス透過性能を高めることができる。一方SAが50%以下であることで高い伸度を保つことができる。SAは25%以上40%以下であることがより好ましく、30~40%であることがさらに好ましい。SBは10%以上50%以下であることが重要である。SBが10%以上であることで高いガス透過性能を保つことができる。一方、SBが50%以下であることで高い伸度を保つことができる。SBは20%以上50%以下であることがより好ましく、30%以上50%以下であることがさらに好ましい。仮想直径の測定方法については実施例にて詳述する。
【0047】
さらに前記SA、SBの変動係数の値は、それぞれ15%以下であることが好ましい。SAの変動係数とは、観察した任意の領域10点のAの標準偏差をAの算術平均で割り返し、100を掛けた値である。SBの変動係数に関しても同様の方法で算出する。SAおよびSBの変動係数は15%以下であることで、均質な構造を保つことから、高い透過性能と伸度を維持することができる。SAおよびSBの変動係数はそれぞれ10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
(大空隙の平均長さ)
本発明の分離膜は、膜の長手方向に平行かつ、膜厚方向に平行な断面(以下、「縦断面」と示す)における、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙のうち、膜厚の中心より外側における空隙の平均長さが、3500nm以上であり、かつ、膜厚の中心より内側における空隙の平均長さが、1000nm以上3000nm以下であることが好ましい。例として、縦断面および分離膜の内部構造を模式的に示す図面を
図5に示す。膜厚の中心とは、膜の一方の表面から膜厚方向に対し、(膜厚/2)μmの点であり、大空隙の平均長さとは、SEMを用いて5,000倍の倍率で縦断面を観察した場合(例えば、
図6)において、大空隙の外縁上の二点を直接結ぶことが可能な直線の内、最長となる直線の長さをいう。大空隙の平均長さは、無作為に選択した30個の大空隙の長さを求め、その算術平均値をとった値である。膜厚の中心より外側における大空隙の平均長さが、3500nm以上あることで、外表面の配向度Oを高めることができ、有機溶媒耐性を有することができる。膜厚の中心より外側における大空隙の平均長さは、4000nm以上がより好ましく、4500nm以上がさらに好ましい。一方、膜厚の中心より内側における大空隙の平均長さが、1000nm以上あることで膜強度が良好なものとなり、3000nm以下であることで運転時に十分な伸度を維持することができる。膜厚の中心より内側における大空隙の平均長さは、1000nm以上2500nm以下がより好ましく、1000nm以上2000nm以下がさらに好ましい。大空隙の平均長さの算出方法については、実施例にて詳述する。
【0049】
(空隙率)
本発明の分離膜は、空隙率が30%以上70%以下であることが好ましい。空隙率が30%以上であることで、透過性が良好なものとなり、70%以下であることで、膜強度が良好なものとなる。空隙率は40%以上65%以下が好ましく、45%以上60%以下がより好ましく、53%以上60%以下が特に好ましい。このような範囲の空隙率を得るためには、後述の熱誘起相分離を用いた構造形成が好ましく用いられる。なお、空隙率の測定方法については、実施例にて詳述する。
【0050】
(外表面の配向度O)
本発明の分離膜は、長手方向における外表面の配向度Oが2.0以上3.5以下であることが好ましい。ここでいう長手方向とは、製造時の機械方向のことをいう外表面の配向度Oが2.0以上であることで、有機溶剤耐性が良好なものとなる。分離膜の外表面の配向度Oが2.3以上、2.5以上であると、より高い効果を得ることができる。
【0051】
一方で、分離膜の外表面の配向度Oが3.5以下であることで、分離膜の柔軟性が良好なものとなる。
【0052】
配向度は、偏光赤外分光法(以下、「偏光IR」と示す)による配向解析により求めることができる。具体的な方法については、実施例で説明する。
【0053】
(外表面の配向度/内表面の配向度比)
本発明の分離膜は、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上3.0以下であることが重要である。外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが3.0以下であることで、表面の有機溶剤耐性を維持したまま、十分な伸度を維持することができる。一方、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iが1.8以上であることで、有機溶剤耐性が良好なものとなる。外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.0以上3.0以下であることが好ましく、2.5以上3.0以下であることがより好ましい。なお、配向度の測定方法については実施例にて後述する。
【0054】
(気体透過性能)
本発明の分離膜は、100kPa、37℃におけるN2透過性能が、5GPU以上であることが好ましい。N2透過性能は10GPU以上であることがより好ましく、50GPU以上あることがさらに好ましく、100GPU以上あることが特に好ましく、200GPU以上あることがより特にこのましい。その算出方法については、実施例にて詳細に説明する。
【0055】
(有機溶剤浸漬前後での気体透過性能変化率)
本発明の分離膜は、分離膜の差圧100kPaにおけるN2透過性能をX、上記分離膜をクロロホルムに5秒浸漬させた後の、差圧100kPaにおけるN2透過性能をYとしたとき、透過性能の変化率Y/Xの値が0.30以上1.20以下であることが重要である。脱気膜として使用される有機溶剤の種類としてはトリアセチン、N-メチルピロリドン、アセトンなどが挙げられるが、いずれも長時間での使用が想定されるため、本願では加速試験として、クロロホルムに5秒間浸漬させた後の100kPa、37℃におけるN2透過性能の変化率Y/Xを算出した。クロロホルムに5秒浸漬させた後の透過性能の変化率Y/Xの値が0.30以上1.20以下であることで、上述した有機溶剤を被処理液とした際に良好に使用することができる。クロロホルムに5秒浸漬させた後の透過性能の変化率Y/Xの値は、0.50以上1.20以下であることが好ましく、0.60以上1.20以下であることがより好ましい。
【0056】
(CO2/N2選択性)
本願の緻密層は非孔質であることで、非常に長い漏出時間を有し、なおかつ、非孔質であることに起因して、ガスの透過は溶解-拡散機構によって行われる。一方、多孔性構造中では、貫通孔を有することから、短い漏出時間を有し、なおかつ、クヌーセン拡散によってガスは透過する。すなわち、緻密層の緻密性はガスの分離係数によって評価することができ、緻密性が高い膜では、漏出時間が長くなる傾向にある。
【0057】
一般に、ポリマー膜中の透過は、膜中の孔寸法に依存する。緻密層の最大孔径が3nm以下である膜では、気体は溶解-拡散機構によって透過する。この場合、2つの気体の透過係数又は気体流量Qの割合を示す分離係数αは、ポリマー材料のみに依存し、緻密層の厚さには依存しない。従って、例えば、CO2及びN2に関する気体分離係数α0(CO2/N2)は、P0(CO2)/P0(N2)と表すことができる。一般に使用されるポリマーでは、少なくとも1のα0(CO2/N2)値が生じる。
【0058】
一方、3nm以上10μm以下の大きさの孔を有する多孔性膜中では、主として「クヌーセン拡散」によってガスは透過する。この場合、ガス分離係数α1は、ガスの分子量の比の2乗根によって得られる。従って、α1(CO2/N2)は、√28/44=0.80となる。クヌーセン拡散であると漏出の恐れがあり、α1(CO2/N2)が1以上であると、漏出の恐れが低くなり、好ましい。特に、前述のような緻密層厚みが0.1μm以上3.0μm以下と薄い膜の場合、CO2/N2選択性が1.0以上で低漏出性が良好なものとなる。
【0059】
気体が微孔質支持構造及び欠点を有する緻密層を有する膜を透過する場合には、一方で見かけ上の透過係数が増加するが、他方ではガス分離係数が低下する。ここでいう欠点とは、緻密層表面における3nm以上の大きさの孔のことである。従って、本発明の膜の緻密層中の孔や欠点の有無は、CO2及びN2について測定されるガス分離係数α(CO2/N2) によって読みとることができる。ガス分離係数α(CO2/N2) が1よりも小さい場合には、この膜は緻密層中に多数の孔または欠点を有する。緻密層中に多数の孔または欠点が存在する場合には、早すぎる液体漏出又は血漿漏出が生じてしまい、この膜は長時間使用のために好適ではない。同様にこのような膜は気体分離の領域での用途に使用することができない。これに対し、ガス分離係数α(CO2/N2) が1.0以上の場合、この膜は低漏出性を備える。従って、本発明による膜のガス分離係数α(CO2/N2)は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。
【0060】
(破断伸度)
本発明の分離膜は、長手方向への破断伸度が300%以上であることが好ましい。破断伸度が300%以上あることで使用時の破断を抑制することができる。破断伸度は、350%以上がより好ましく、400%以上がさらに好ましく、450%以上が特に好ましい。分離膜の引張弾性率の測定方法については、実施例にて詳細に説明する。
【0061】
(分離膜の製造方法)
下記(1)~(2)の工程を含む分離膜の製造方法。
(1)10質量%以上50質量%以下のポリ(4-メチル-1-ペンテン)と、50質量%以上90質量%以下の可塑剤と、を含む混合物を溶融混練して、樹脂組成物を得る、調製工程。
(2)前記樹脂組成物を間隙0.05mm以上0.30mm以下の吐出口金から220℃以上260℃以下の口金温度で吐出して、5以上30以下のドラフト比で巻き取りを行う、成形工程。
【0062】
次に、本発明の分離膜の製造方法を、分離膜が中空糸膜の場合を例に、具体的に説明する。
【0063】
(調製工程)
本発明の分離膜を製造するための樹脂組成物を得る調製工程では、10質量%以上50質量%以下のPMPと、50質量%以上90質量%以下の可塑剤とを含む混合物が溶融混練される。混合物は、15質量%以上50質量%以下のPMPと、50質量%以上85質量%以下の可塑剤とを含むことが好ましく、20質量%以上45質量%以下のPMPと、55質量%以上80質量%以下の可塑剤とを含むことがより好ましく、25質量%以上40質量%以下のPMPと、60質量%以上75質量%以下の可塑剤とを含むことが特に好ましい。
【0064】
混合物の溶融混練に使用する装置については、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、又は、単軸若しくは二軸押出機等の混合機等を用いることができる。中でも、可塑剤の均一分散性を良好とする観点から、二軸押出機の使用が好ましく、水分や低分子量物等の揮発物を除去できる観点から、ベント孔付きの二軸押出機の使用がより好ましい。また、混連強度を高め、可塑剤の均一分散性を良好とする観点から、ニーディングディスク部を有するスクリューを備える二軸押出機を用いることが好ましい。
【0065】
調製工程で得られた樹脂組成物は、一旦ペレット化し、再度溶融させて溶融製膜に用いても構わないし、直接口金に導いて溶融製膜に用いても構わない。一旦ペレット化する際には、ペレットを乾燥して、水分量を200ppm(質量基準)以下とした樹脂組成物を用いることが好ましい。水分量を200ppm(質量基準)以下とすることで、樹脂の劣化を抑制することができる。
【0066】
(形成工程)
中空糸膜の形成工程においては、相分離を利用して、PMPおよび可塑剤の溶融混合物、すなわち樹脂組成物から、中空糸膜を得る。具体的には、調製工程で得られた樹脂組成物を、例えば、中央部に気体の流路を配した二重環状ノズルを有する吐出口金から気体雰囲気中に吐出して、冷却浴に導入して樹脂組成物を相分離させ、樹脂成形物を得る工程である。
【0067】
具体的な方法としては、溶融状態にある、上述の樹脂組成物を紡糸用の二重環状ノズルの外側の管から吐出しつつ、中空部形成気体を二重管式口金の内側の環から吐出する。こうして吐出された樹脂組成物を冷却浴中で冷却固化することで、樹脂成形物を得る。その際、吐出口金の間隙は0.05mm以上0.30mm以下であることが重要である。吐出口金の間隙を0.30mm以下にすることにより、溶融状態にある上述の樹脂組成物が口金から吐出される際に高い剪断がかかることで、特に外表面における樹脂の配向度が高くなり、有機溶剤耐性を有することができる。また、吐出口金の間隙を0.05mm以上にすることにより、樹脂を安定して吐出することができる。吐出口金の間隙は0.05mm以上0.18mm以下がより好ましく、0.05mm以上0.13mm以下がさらに好ましい。また、口金温度は220℃以上260℃以下であることが重要である。口金温度を220℃以上260℃以下にすることにより、溶融状態にある樹脂組成物を口金内で先行して相分離を開始させるため、上述した大空隙を形成し、ガス透過性能を向上させることができる。口金温度は220℃以上250℃以下がより好ましく、220℃以上240℃以下がさらに好ましく、220℃以上230℃以下が特に好ましい。
【0068】
ここで、吐出口金から吐出された樹脂組成物を冷却する冷却浴について説明する。冷却浴の溶媒は、PMPおよび、可塑剤との親和性から選定することが好ましい。冷却浴の溶媒としては、PMPに対する溶解度パラメータ距離Raが5以上13以下の範囲であり、かつ、前記可塑剤に対する溶解度パラメータ距離Rbが4以上10以下の範囲である溶媒を冷却浴に用いることが好ましく、Raが10以上12以下の範囲であり、かつ、Rbが4以上6以下の範囲である溶媒を冷却浴に用いることがより好ましい。RaおよびRbが前記範囲にあることで、緻密層を薄層化でき、透過性が良好なものとなる。このようになる理由としては、Raが10以上12以下の範囲にあることでPMPの結晶化よりも先に固化が生じ、なおかつ、Rbが4以上6以下の範囲にあることで溶媒と可塑剤の交換が速やかに行われ、これらの結果、過度の結晶化を抑制しつつ、薄層化されることに起因すると推定している。これにより、透過性が良好になると考えられる。
【0069】
PMPと溶媒との親和性は、文献(Ind.Eng.Chem.Res.2011,50,3798-3817.)に記載があるように、3次元ハンセン溶解度パラメータによって見積もることができる。具体的には、下記式(1)の溶解度パラメータ距離(Ra)が小さいほど、PMPに対する溶媒の親和性が高いことを示す。
【0070】
【0071】
ここで、δAd、δAp及びδAhは、PMPの溶解度パラメータの分散項、極性項及び水素結合項であり、δCd、δCp及びδChは、溶媒の溶解度パラメータの分散項、極性項及び水素結合項である。
【0072】
可塑剤と冷却溶媒の親和性も、同様にして見積もることができる。具体的には、下記式(2)の溶解度パラメータ距離(Rb)が小さいほど、可塑剤に対する溶媒の親和性が高いことを示す。
【0073】
【0074】
ここで、δBd、δBp及びδBhは、PMPの溶解度パラメータの分散項、極性項及び水素結合項であり、δCd、δCp及びδChは、溶媒の溶解度パラメータの分散項、極性項及び水素結合項である。
【0075】
溶媒が、混合溶媒である場合、混合溶媒の溶解度パラメータ(δMixture)については、下記式(3)により求めることができる。
【0076】
【0077】
ここで、φi、δiは成分iの体積分率と溶解度パラメータであり、分散項、極性項及び水素結合項それぞれに成り立つ。ここで「成分iの体積分率」とは、混合前の全成分の体積の和に対する混合前の成分iの体積の比率をいう。溶媒の3次元ハンセン溶解度パラメータは、文献(Ind.Eng.Chem.Res.2011,50,3798-3817.)中に記載がある場合はこの値を用いた。記載のない溶媒パラメータについては、チャールズハンセンらによって開発されたソフト「Hansen Solubility Parameter in Practice」に収められている値を用いた。上記のソフト中にも記載がない溶媒やポリマーの3次元ハンセン溶解度パラメータは、上記のソフトを用いたハンセン球法により算出することができる。
【0078】
本願の分離膜の製造方法において、形成工程の冷却浴に用いる溶媒としては、可塑剤にフタル酸ジブチルを用いる場合、トリアセチン、N-メチルピロリドンが好ましく、中でも、N-メチルピロリドンはRaおよびRbが、前述のより好ましい範囲内であるため、より好ましい。
【0079】
また、吐出口金から吐出された樹脂組成物は、その表面の少なくとも1つ、好ましくは緻密層がそこに形成されるべき表面による冷却前に可塑剤の蒸発を促進するガス状雰囲気、すなわち可塑剤の蒸発がその中で起こりうる雰囲気に暴露されることが好ましい。ガス状雰囲気の形成のために使用する気体は特に限定されないが、好ましくは空気または窒素を使用する。ガス状雰囲気は一般には吐出口金温度よりも低い温度を有する。この場合、可塑剤の十分な分量を蒸発させるためには、成形体の表面の少なくとも1つを少なくとも0.5ミリ秒(ms)の間ガス状雰囲気に暴露することが好ましい。
【0080】
本発明の分離膜を製造するための形成工程において、吐出口金から吐出した樹脂組成物は巻取装置により巻き取られる。この場合、巻取装置による(巻取速度)/(吐出口金からの吐出速度)で算出されるドラフト比の値は、5以上30以下であることが重要である。ドラフト比の値は、10以上25以下であることがより好ましく、15以上20以下であることがさらに好ましい。ドラフト比が5以上であることで、吐出後、急冷固化される外表面における樹脂の配向度Oが高くなり、有機溶剤耐性を有することができる。具体的には、ドラフトによる分子鎖の配向は、吐出速度よりも巻き取り速度が早いことにより、樹脂組成物が引き延ばされることで生じるが、引き延ばされる際に、樹脂組成物が冷却浴内にあると、冷却浴に直接触れる外表面側が先に凝固するため、外表面側は固化しながら引き延ばされることになり、分子鎖が強く配向されることになる。一方で、冷却浴に触れない分離膜内表面側においては、固化が進む前に引き延ばされるため、配向がかかりにくい。このように、ドラフト比が大きいと、分離膜の外表面側と内表面側の配向に差をつけることができる。これにより、配向度の低い内表面側の効果により高い伸度を維持したまま、配向度の高い外表面側の効果により有機溶剤耐性を有することができる。ドラフト比を30以下とすることで、口金から吐出された樹脂組成物の過度の引き延ばしを抑制することができ、緻密層の欠点発生による漏出を抑制することができる。
【0081】
(洗浄工程)
このようにして得られた樹脂組成物を、ポリマーを溶解させないが、可塑剤と混和可能な溶媒に浸漬させることにより、可塑剤を溶出させる工程を経ることで、空隙率を高めることができる。この際、可塑剤と適度な親和性を有する溶媒又は混合溶媒を用いることで、良好な溶媒交換が行われ、洗浄効率が高くなる。ポリマーを溶解させないが、可塑剤と混和可能な溶媒であれば特に限定されないが、具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンが好ましく用いられる。
【0082】
(乾燥工程)
洗浄工程後の樹脂組成物は、洗浄工程で付着した溶媒を除去することを目的に乾燥工程を施すことが好ましい。上述の、ポリマーを溶解させないが、可塑剤と混和可能な溶媒が気化し、除去できる温度で乾燥することが好ましく、具体的には室温以上150℃以下で実施することが好ましい。
【0083】
(熱処理工程)
続いて、100℃以上200℃以下で加熱することにより分離膜に熱処理を施すことができる。この熱処理工程を経ることにより、PMPの結晶化度を高めることができ、より強度に優れた分離膜を得ることができる。熱処理は、加熱ロール上で搬送する方法でもよいし、乾熱オーブン中を搬送する方法でもよいし、ボビンや紙管などに巻き取ったロールの状態で、乾熱オーブン中に投入する方法でもよい。
【0084】
熱処理温度は100℃以上200℃以下が好ましく、110℃以上180℃以下がより好ましく、120℃以上160℃以下がさらに好ましい。熱処理時間は1秒以上600秒以下が好ましく、5秒以上300秒以下がより好ましく、10秒以上60秒以下がさらに好ましい。
【0085】
こうして、PMPを主成分とする、本発明の分離膜を製造することができる。
【実施例0086】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定をされるものではない。
[測定及び評価方法]
実施例中の各特性値は次の方法で求めたものである。
(1)中空糸膜の外径および内径(μm)
中空糸膜を液体窒素で凍結した後、応力を加えて(必要に応じてカミソリ又はミクロトームを用いて)、露出させた径断面を光学顕微鏡により観察して、無作為に選択した10箇所の外径および内径の平均値を、それぞれ中空糸膜の外径および内径とした。
(2)中空糸膜の中空率(%)
上記(1)により求めた外径および内径から、中空糸膜の中空率を下記式により算出した。
【0087】
中空率(%)=100×[内径(μm2)]2/[外径(μm2)]2
(3)ガス透過性能(GPU)
分離膜1本からなる有効長さ100mmの小型モジュールを作製した。中空糸膜は小型モジュール作製前に3時間真空乾燥させたものを使用した。この小型モジュールを用い、ガス透過速度を測定した。測定ガスとして、二酸化炭素または窒素をそれぞれ単独で評価に用い、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して測定温度37℃で外圧式にて二酸化炭素または窒素の単位時間あたりの透過側の圧力変化を測定した。ここで、供給側と透過側の圧力差を100kPaに設定した。
【0088】
続いて、ガス透過速度Qを下記式により算出した。また、各成分のガス透過速度の比を分離係数αとした。ここで、膜面積はガスの透過に寄与する領域における外径および長さから算出した。
【0089】
透過速度Q(GPU)=10-6[透過ガス量(cm3)]/[膜面積(cm2)×時間(s)×圧力差(cmHg)]
上述の方法で測定したもののうち、窒素の透過性能をXとした。
【0090】
分離膜をクロロホルムに5秒浸漬させた後の、差圧100kPaにおけるN2透過性能Yは、分離膜を外表面にのみ接触させるように両端を上げた状態で、クロロホルムに浸漬させたものを使用して同様に有効長さ100mmの小型モジュールを作製した。クロロホルムには5秒間浸漬させ、その後すぐにイソプロパノールに浸漬させてクロロホルムを取り除き、最後に水に浸漬させてイソプロパノールを取り除いた。その後3時間真空乾燥を行ったものを用いて小型モジュールを作製した。この小型モジュールを用い、上述した測定と同様の方法で窒素の透過性能を測定し、その結果をクロロホルムに5秒浸漬させた後の、差圧100kPaにおけるN2透過性能Yとして採用した。
(4)緻密層厚み(μm)
上記(1)と同様にして分離膜を液体窒素で凍結した後、応力を加えて(必要に応じてカミソリまたはミクロトームまたはブロードイオンビームを用いて)、径断面もしくは縦断面が露出するように割断した。続いて、下記の条件で、白金でスパッタリングを行い径断面もくしは縦断面に前処理を実施した後、SEMを用いて10,000倍の倍率で観察した場合において、分離膜の外表面の任意の点から、内表面側に向けて、外表面に対して垂直に直線を引いた際に、10nmを超える孔に初めて到達するまでの長さを、緻密層厚みとした。孔の抽出は、画像解析ソフト「ImageJ」において、解析画像を二値化した後に行う。二値化は横軸に解析画像における輝度、縦軸に該当する輝度におけるピクセル個数を示す、ピクセル個数の分布とった場合において、ピクセル個数の最も高い輝度におけるピクセル個数をAとした際に、1/2Aとなるピクセル個数の輝度2点のうち、輝度の小さい点に合わせて実施した。さらに、得られた二値化した画像に対し、全ピクセルをそのピクセルの近傍3×3ピクセルの中央値に置き換えるノイズ除去(ImageJにおけるDespeckleに相当)を1回行った画像を解析画像として用いる。孔の抽出は、ImageJのAnalyze Particlesコマンドにより行い、得られた画像から緻密層厚みを測定した。なお、測定は任意の10箇所について行い、その平均値を緻密層厚みとして採用した。
【0091】
(スパッタリング)
装置:日立ハイテクノロジー社製(E-1010)
蒸着時間:40秒
電流値:20mA
(SEM)
装置:日立ハイテクノロジー社製(SU1510)
加速電圧:5kV
ブローブ電流:30
(5)小空隙および大空隙の測定
分離膜を液体窒素で凍結した後、応力を加えて(必要に応じてカミソリ又はミクロトームを用いて)、径断面が露出するように割断した。続いて、下記の条件で、白金でスパッタリングを行い径断面に前処理を実施した後、SEMを用いて5,000倍の倍率で観察した場合において、任意の領域10点を観察した。各視野における空隙を全て抽出した後、小空隙の平均面積Aと大空隙の平均面積Bを算出した。さらに、空隙の総面積に対する小空隙の合計面積の割合SA、空隙の総面積に対する大空隙の合計面積の割合SBを算出した。空隙の仮想直径は、得られたSEM画像をImageJの画像解析ソフトを用いて二値化(Huangの二値化)することにより凹部の輪郭を抽出し、その面積から算出した。A、B、SA、SBの変動係数は、それぞれの標準偏差を算術平均で割り返し、100を掛けることで算出した。
【0092】
(スパッタリング)
装置:日立ハイテクノロジー社製(E-1010)
蒸着時間:40秒
電流値:20mA
(SEM)
装置:日立ハイテクノロジー社製(SU1510)
加速電圧:5kV
ブローブ電流:30
(6)大空隙の平均長さ
分離膜を液体窒素で凍結した後、応力を加えて(必要に応じてカミソリ又はミクロトームを用いて)、分離膜の長手方向および膜厚方向に平行な断面である縦断面が露出するように割断した。続いて、白金でスパッタリングを行い縦断面に前処理を実施した後、SEMを用いて、5,000倍の倍率で観察した場合における、空隙の平均長さを測定した。観察は、膜厚の中心より外側および膜厚の中心より内側の2領域について行い、分離膜の外表面から膜厚方向に対し、(膜厚/2)μmの点までの領域を膜厚の中心より外側とし、分離膜の内表面から膜厚方向に対し、(膜厚/2)μmの点までの領域を膜厚の中心より内側の領域とした。孔の抽出は、画像解析ソフト「ImageJ」において、解析画像を二値化(Huangの二値化)した後に行う。得られた二値化画像に対し、全ピクセルをそのピクセルの近傍3×3ピクセルの中央値に置き換えるノイズ除去(ImageJにおけるDespeckleに相当)を1回行った画像を解析画像として用いる。孔の抽出は、ImageJのAnalyze Particlesコマンドにより、面積が0.785μm2以上2.10μm2以下の孔、すなわち仮想直径1000nm以上1600nm以下の孔をすべて抽出し、上述の2領域についてそれぞれ無作為に選択した30個の空隙の長さを求め、その算術平均値を空隙の平均長さとして採用した。
【0093】
(スパッタリング)
装置:日立ハイテクノロジー社製(E-1010)
蒸着時間:40秒
電流値:20mA
(SEM)
装置:日立ハイテクノロジー社製(SU1510)
加速電圧:5kV
ブローブ電流:30
(7)破断伸度(%)
分離膜の破断伸度は温度20℃、湿度65%の環境下において、引張試験機(オリエンテック社製テンシロン UCT-100)を用い、試料長100mm、引張速度100mm/minの条件にて、その他は、「JIS L 1013:2010化学繊維フィラメント糸試験方法・8.11伸縮性」に規定された方法に従って測定を行い、破断時の試料長と初期試料長の比から破断伸度(%)を算出した。なお測定回数は5回とし、その平均値を採用した。
(8)空隙率(%)
25℃で8時間、真空乾燥させた中空糸膜の糸長L(mm)、および、質量M(g)を測定した。中空糸膜の密度ρ1は、上記(1)で測定した外径(mm)および内径(mm)の値を用いて下記式より算出した。
【0094】
ρ1=M/[π×{(外径/2)2―(内径/2)2}×L]
また、空隙率ε(%)は、下記式より算出した。
【0095】
ε=1-ρ1/ρ2
ここでρ2は、ポリマーの密度である。
(9)外表面の配向度O
1回反射ATR付属装置を付けたBioRad DIGILAB社製FTIR(FTS-55A)を用い、25℃、8時間真空乾燥を行った分離膜の長手方向(MD)と、長手方向と垂直な方向(径方向)(TD)の外表面について、S偏光ATRスペクトル測定を行った。なお、ATR結晶にはダイヤモンドプリズムを用い、入射角45°、積算回数64回、偏光子にはワイヤーグリッドを用い、S偏光にて実施した。得られたATRスペクトルからMDと、TDで、バンド強度が変化する1つのバンドを用いて、そのバンド強度比を配向パラメータとして算出した。例えば、PMPの分離膜の場合は、918cm-1付近のバンド(-CH3基横揺れ振動))の強度を、分離膜のMDおよびTDでそれぞれ測定した。バンド強度は分子鎖の振動方向と入射光の偏光方向が一致する場合に強く得られることから、バンド強度の比は配向度と相関して変化するため、以下の式から配向度を求めた。
外表面の配向度O=[MD方向の918cm-1付近のバンド強度]/[TD方向の918cm-1付近のバンド強度]
なお、配向度は1465cm-1付近のバンド(-CH変角振動)強度が同じとなるように規格化して測定した。
(10)内表面の配向度I
上記(1)と同様にして分離膜を液体窒素で凍結した後、カミソリまたはミクロトームを用いて膜の中空部、すなわち内表面が露出するように長手方向に平行に割断し、上記(12)と同様にして1回反射ATR付属装置を付けたBioRad DIGILAB社製FTIR(FTS-55A)を用い中空部、すなわち内表面の配向パラメータを測定した。分離膜試料は25℃、8時間真空乾燥を行い、分離膜試料の長手方向(MD)と、長手方向と垂直な方向(径方向)(TD)の内表面について、S偏光ATRスペクトル測定を行った。なお、ATR結晶にはダイヤモンドプリズムを用い、入射角45°、積算回数64回、偏光子にはワイヤーグリッドを用い、S偏光にて実施した。得られたATRスペクトルからMDと、TDで、バンド強度が変化する1つのバンドを用いて、そのバンド強度比を配向パラメータとして算出した。例えば、PMPの分離膜の場合は、918cm-1付近のバンド(-CH3基横揺れ振動))の強度を、分離膜のMDおよびTDでそれぞれ測定した。バンド強度は分子鎖の振動方向と入射光の偏光方向が一致する場合に強く得られることから、バンド強度の比は配向度と相関して変化するため、以下の式から配向度を求めた。
内部の配向度I=[MD方向の918cm-1付近のバンド強度]/[TD方向の918cm-1付近のバンド強度]
なお、配向度は1465cm-1付近のバンド(-CH変角振動)強度が同じとなるように規格化して測定した。
[PMP]
PMPとして、以下のものを用意した。
【0096】
PMP:TPX DX845(密度:833kg/m3、MFR:9.0g/10min)
[その他原料]
可塑剤:フタル酸ジブチル
(実施例1)
PMP35質量%と、フタル酸ジブチル65質量%を二軸押出機に供給し、290℃で溶融混練した後に、口金温度225℃とした溶融紡糸パックへ導入して、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径2.0mm、吐出間隙0.10mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に紡出した。紡出した分離膜を冷却浴に導入し、ドラフト比が18となるようにワインダーで巻き取った。その際、空走距離は20mmとなるように設定した。ここで、溶融紡糸パック内のフィルターとしては、径が200μmの金属フィルターを使用した。巻き取った分離膜をイソプロパノールに24時間浸漬し、さらに、室温で真空乾燥してイソプロパノールを除去し、分離膜を得た。得られた分離膜の物性を、表1に示す。得られた分離膜の仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは36%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは41%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.8であり、N2透過性能は220GPU、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.72、破断伸度は462%、CO2/N2分離係数αは2.2であり、高い透過性能と伸度に優れ、かつ有機溶剤耐性を兼ね備えていた。
【0097】
(実施例2)
ドラフト比を23とした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表1の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは37%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは35%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.0であり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.68となった。
【0098】
(実施例3)
ドラフト比を28とした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表1の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは34%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは32%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.0であり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.66となった。
【0099】
(実施例4)
吐出間隙を0.15mmとした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表1の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは27%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは26%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは1.9であり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.46となった。
【0100】
(実施例5)
吐出間隙を0.20mmとした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表1の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは29%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは23%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは1.8であり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.39となった。
【0101】
(実施例6)
口金温度を235℃とした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表1の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは43%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは18%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.3であり、N2のガス透過性能は15GPUとなった。
【0102】
(実施例7)
口金温度を245℃とした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表2の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは46%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは11%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.2であり、N2のガス透過性能は9GPUとなった。
【0103】
(実施例8)
PMPを30質量%、フタル酸ジブチルを70質量%とし、凝固浴をN-メチルピロリドンとした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表2の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは36%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは42%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは2.8であり、N2のガス透過性能は232GPU、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.85となった。
【0104】
(比較例1)
ドラフト比を231とし、口金温度を270℃とし、吐出間隙を0.35mmとした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表2の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは80%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは0%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは1.5となり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.00と低い値を示した。
【0105】
(比較例2)
ドラフト比を30とし、口金温度を255℃とし、吐出間隙を0.35mmとした以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表2の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは62%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは3%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは1.4となり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.00と低い値を示した。
【0106】
(比較例2)
PMPを100質量%、口金温度を270℃とし、吐出間隙を0.35mmとし、ドラフト比を700として紡糸し、空冷した以外は実施例1と同様にして、分離膜を得た。その結果、表2の通り仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SAは85%、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SBは0%、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iは1.6となり、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xは0.19と低い値を示した。
【0107】
(比較例3)
PMPを8質量%、フタル酸ジブチル92質量%とした以外は実施例1と同様にしたところ、糸切れにより紡糸できなかった。
【0108】
【0109】
【0110】
実施例1~8で得られた分離膜は、仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SA、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SB、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iの全ての項目において本発明の要件を満たし、いずれもN2透過性能が5GPU以上、クロロホルム浸漬前後のN2透過性能変化率Y/Xが0.5以上2.0以下、破断伸度が500%以上、と高い透過性能と伸度に優れ、かつ高有機溶媒耐性を兼ね備えていた。一方で、仮想直径が200nm以上700nm以下の空隙の合計面積の割合SA、仮想直径が1000nm以上1600nm以下の空隙の合計面積の割合SB、外表面の配向度Oと内表面の配向度Iの比O/Iのうち、少なくとも一つが本発明の要件を満たさない比較例1~3の分離膜は、透過性能、伸度および、有機溶媒耐性のうち、少なくとも一つが低い値を示した。
本発明の分離膜は、液体から気体を分離する、もしくは液体に気体を付与する用途に好適に用いることができる。例えば、半導体の製造ライン、液晶のカラーフィルター製造ラインおよびインクジェットプリンタのインク製造等において、水、水系溶液、有機溶剤、レジスト液中の溶存気体量を低減する脱気膜や、医療用途として、人工肺におけるガス交換膜等に、好適に用いることができる。特に脱気膜としては、半導体の製造ラインにおけるリソグラフィーに用いるフォトレジスト液や現像液の脱気用途に非常に有用である。