IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-深紫外線発光装置 図1
  • 特開-深紫外線発光装置 図2
  • 特開-深紫外線発光装置 図3
  • 特開-深紫外線発光装置 図4
  • 特開-深紫外線発光装置 図5
  • 特開-深紫外線発光装置 図6
  • 特開-深紫外線発光装置 図7
  • 特開-深紫外線発光装置 図8
  • 特開-深紫外線発光装置 図9A
  • 特開-深紫外線発光装置 図9B
  • 特開-深紫外線発光装置 図10
  • 特開-深紫外線発光装置 図11A
  • 特開-深紫外線発光装置 図11B
  • 特開-深紫外線発光装置 図12
  • 特開-深紫外線発光装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033210
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】深紫外線発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/60 20100101AFI20240306BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240306BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L33/60
G02B5/26
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136665
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恒輔
【テーマコード(参考)】
2H148
5F142
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA09
2H148FA18
2H148FA24
2H148GA04
2H148GA09
2H148GA32
5F142AA01
5F142AA86
5F142BA32
5F142DB02
5F142DB20
5F142GA31
(57)【要約】
【課題】 紫外線発光装置の使用を継続しても、所望の波長の光が外部へ放射されてしまうことを抑制する事が可能な深紫外線発光装置を提供する。
【解決手段】 深紫外線発光装置は、紫外線発光光源と、前記深紫外線発光光源から発せられる光の入射角度がθ1となる位置に配置され、所定の波長の光を反射する第一フィルタと、前記深紫外線発光光源から発せられる光の入射角度がθ2となり、かつ前記入射角度θ2が前記入射角度θ1よりも大きくなる位置に配置され、前記所定の波長の光を反射する第二フィルタと、を備えている。深紫外線発光光源から発せられる光の波長は、220nm以上240nm未満であることが好ましく、第一フィルタ及び第二フィルタの所定の波長の光に対する反射率は90%超であることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深紫外線発光光源と、
前記深紫外線発光光源から発せられる光の入射角度がθ1となる位置に配置され、所定の波長の光を反射する第一フィルタと、
前記深紫外線発光光源から発せられる光の入射角度がθ2となり、かつ前記入射角度θ2が前記入射角度θ1よりも大きくなる位置に配置され、前記所定の波長の光を反射する第二フィルタと、
を備える
深紫外線発光装置。
【請求項2】
前記深紫外線発光光源から発せられる光の波長は、220nm以上240nm未満である
請求項1に記載の深紫外線発光装置。
【請求項3】
前記深紫外線発光光源は、深紫外線LEDである
請求項2に記載の深紫外線発光装置。
【請求項4】
前記第一フィルタは、前記入射角度θ1で入射した波長240nm以上260nm以下の光の透過率が10%以下であり、
前記第二フィルタは、前記入射角度θ2で入射した波長240nm以上260nm以下の光の透過率が10%以下である
請求項3に記載の深紫外線発光装置。
【請求項5】
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタの前記所定の波長の光に対する反射率は、90%超である
請求項1に記載の深紫外線発光装置。
【請求項6】
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタは、前記入射角度θ1が前記入射角度θ2より0°以上60°未満の範囲で小さくなる位置に配置されている
請求項1に記載の深紫外線発光装置。
【請求項7】
前記第二フィルタは、前記入射角度θ2が30°以上90°未満となる位置に配置されている
請求項1に記載の深紫外線発光装置。
【請求項8】
第一フィルタ及び第二フィルタは、SiO、Al、HfO、AlN、AlON、Taの材料の中から複数種類を周期的に積層させた誘電体多層膜を有している
請求項1に記載の深紫外線発光装置。
【請求項9】
前記第二フィルタの前記誘電体多層膜の各層の膜厚は、前記第一フィルタの前記誘電体多層膜の各層の膜厚より小さい
請求項7に記載の深紫外線発光装置。
【請求項10】
前記深紫外線発光光源は、パッケージに収容されており、
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタの少なくとも一方は、前記パッケージの一部であり、前記深紫外線発光光源からの光を透過する窓材と接するように設けられている
請求項1に記載の深紫外線発光装置。
【請求項11】
前記第一フィルタは、前記窓材の一面上の中心付近の局所領域に形成されており、
前記第二フィルタは、前記窓材の同一面上の前記第一フィルタが形成されていない領域に形成されている
請求項9に記載の深紫外線発光装置。
【請求項12】
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタは、隙間を空けて形成されている
請求項10に記載の深紫外線発光装置。
【請求項13】
前記第一フィルタは、前記窓材の一面上の中心付近の局所領域に形成されており、
前記第二フィルタは、前記窓材の他方の面の前記第一フィルタが形成されていない領域に形成されている
請求項9に記載の深紫外線発光装置。
【請求項14】
前記深紫外線発光光源を収容する前記パッケージを収容する外装体を備え、
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタのいずれか一方は、前記パッケージの一部に設けられており、
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタの他方は、前記外装体の一部に設けられている
請求項9に記載の深紫外線発光装置。
【請求項15】
前記第一フィルタ及び前記第二フィルタは、同一の基材上に、前記第一フィルタの前記誘電体多層膜と前記第二フィルタの前記誘電体多層膜とが形成されて構成されている
請求項7に記載の深紫外線発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、深紫外線発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深紫外線発光装置は、波長に応じて様々な用途に用いられる。例えば、硝酸イオンや亜硝酸イオン等を計測する光源として用いられたり(特許文献1)、ウイルスや細菌に作用して不活性化する光源として用いられたりしている。
深紫外線発光装置を用いた場合、照射光の波長が異なると深紫外線照射による効果も異なる。このため、最も高い深紫外線照射効果を得るためには、最適な波長あるいは波長域で対象へ照射することが要求される。深紫外線発光装置の発光波長を特定の波長に制御するためには、誘電体多層膜等の波長フィルタを用いる方法が知られている(特許文献2)。誘電体多層膜をフィルタとして用いた場合には、光源からの紫外線の放射角度に応じて、つまり、紫外線がフィルタに入射する角度に応じて透過する紫外線の波長域が変化する。このため、フィルタの出口に周壁部を設けて、周壁部に吸収材を塗布して好ましくない波長の光の放射を抑制する方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-121556号公報
【特許文献2】特開2019-115525号公報
【特許文献3】特開2018-114197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような好ましくない波長の光の放射を抑制する構成の深紫外線発光装置を用いたとしても、例えば波長230nm以上の波長域の紫外線光等の、好ましくない波長域の光を完全に除去することは出来ない場合がある。例えば、特許文献3で記載した紫外線発光装置の使用を継続すると、紫外線吸収部材の劣化により、外部への放射を抑制したい所望の波長の光(例えば、人体に対して有害な波長230nm以上の波長域の紫外線光)が外部へ放射されてしまう。
【0005】
上述した課題を解決するために、本開示は、紫外線発光装置の使用を継続しても、所望の波長の光が外部へ放射されてしまうことを抑制する事が可能な深紫外線発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の一態様に係る深紫外線発光装置は、紫外線発光光源と、前記深紫外線発光光源から発せられる光の入射角度がθ1となる位置に配置され、所定の波長の光を反射する第一フィルタと、前記深紫外線発光光源から発せられる光の入射角度がθ2となり、かつ前記入射角度θ2が前記入射角度θ1よりも大きくなる位置に配置され、前記所定の波長の光を反射する第二フィルタと、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、紫外線発光装置の使用を継続しても、所望の波長の光が外部へ放射されてしまうことを抑制する事が可能な深紫外線発光装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の一構成例を示す模式図である。
図2】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の一構成例を示す断面図である。
図3】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の深紫外線発光光源の一構成例を示す断面図である。
図4】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置において光をフィルタに垂直に入射(θ1=0°)させた際の透過率の波長依存性を示すグラフの一例である。
図5】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置において光をフィルタに入射させた際の波長230nmの光の透過率の入射角度依存性を示すグラフの一例である。
図6】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置において光をフィルタに垂直に入射(θ1=0°)させた際の透過率の波長依存性を示すグラフの他の例である。
図7】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置において光をフィルタに入射させた際の波長230nmの光の透過率の入射角度依存性を示すグラフの他の例である。
図8】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第一の構成例を示す断面図である。
図9A】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第一の構成の変形例を示す断面図である。
図9B】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第一の構成の変形例を示す断面図である。
図10】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第一の構成の変形例を示す断面図である。
図11A】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第二の構成の一例を示す断面図である。
図11B】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第二の構成の他の例を示す断面図である。
図12】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第三の構成の一例を示す断面図である。
図13】本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置の第三の構成の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を通じて本開示に係る深紫外線発光装置を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明に限定されない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
1.深紫外線発光装置
以下、本開示の実施形態に係る深紫外線発光装置1について、図1から図13を参照して説明する。
本実施形態の深紫外線発光装置1は、図1に示すように、深紫外線発光光源10と、第一フィルタ31と、第二フィルタ32とを備えている。図2に示すように、第一フィルタ31は、深紫外線発光光源10から発せられる光の入射角度がθ1となる位置に配置され、所定の波長λ[nm]の光を反射する。また、第二フィルタ32は、深紫外線発光光源10から発せられる光の入射角度がθ2となり、かつ入射角度θ2が入射角度θ1よりも大きくなる(θ2>θ1)位置に配置され、所定の波長λ[nm]の光を反射する。
【0011】
(1.1)深紫外線発光装置の基本構成
以下、深紫外線発光装置1を構成する深紫外線発光光源10、第一フィルタ31及び第二フィルタ32のそれぞれについて詳細に説明する。
【0012】
[深紫外線発光光源]
本開示の深紫外線発光光源10は、深紫外線を放射する光源であればその形態は制限しない。深紫外線発光は波長100nm以上280nm未満の発光である。本技術は深紫外線の波長領域全域で適用が可能であるが、特に広い面積に照射する必要がある殺菌への応用において効果が高く、かつランプや発光ダイオードなどの既存の光源で発光例のある波長220nm以上240nm未満、あるいは波長250nm以上280nm未満の波長域では、本開示の効果が高い。
【0013】
深紫外線発光光源10としては特に制限はせず、例えば波長254nmあるいは185nmの水銀ランプ、波長222nmのKrClのエキシマランプ、波長172nmのXeエキシマランプ、波長146nmのKrランプ、深紫外線LED(Light-Emitting Diode:発光ダイオード)を用いることが出来る。本開示において、深紫外線発光光源10は、点光源であり第一フィルタ31、第二フィルタ32への光の入射角度を設計しやすい深紫外線LEDであることが好ましい。特に、殺菌効果の高い波長220nm以上240nm未満、あるいは波長250nm以上280nm未満の深紫外線LEDが好ましい。また、人体に有害な波長成分を除去する目的でフィルタを用いる波長220nm以上240nm未満の深紫外線LEDがより好ましい。ここで人体に有害な波長成分の波長には諸説あり、例えば220nm以上230nm以下の場合もあれば、220nm以上235nm以下の場合もある。本開示では諸説に対して広く適用できるように、波長220nm以上240nm未満の深紫外線光が好ましいと定義する。また、深紫外線LEDは波長が長いほど発光効率が高いため、波長225nm以上240nm未満の深紫外線LEDがさらに好ましい。
【0014】
深紫外線発光光源10である深紫外線LED10Aの構成について説明する。
図3に示すように、深紫外線LED10Aは、基板11と、基板の第一主面11Aの上方に設けられた発光層13と、発光層13を上下から挟む第一導電型半導体層12及び第二導電型半導体層14とを含む。基板11の第一主面11Aの反対側の面である第二主面11Bは、光の取り出し面となっている。深紫外線LED10Aは第一導電型半導体層12に接する第一電極16と、第二導電型半導体層14に接する第二電極17とを含む。深紫外線LED10Aは、樹脂等で封止された形態や、サブマウント基板に実装された形態なども含む。深紫外線LED10Aは配線された回路上に搭載されていても良い。深紫外線LED10Aはアレイとなっていても良い。深紫外線LED10Aは離散して複数配置されていても、接触して複数配置されていても良い。
以下、深紫外線LED10Aの各層について詳細に説明する。
【0015】
<基板>
基板11は、第一主面11A上に発光層13を含む積層薄膜15を配置可能であればよく、形状は特に制限されない。基板11は、発光層13から発せられる光を透過する材料で形成されており、基板11の発光層13と反対側の第二主面11Bの方向に光を放射させる。
紫外線域の発光材料であるAlGaNで構成される発光層13を含む積層薄膜15を配置する観点から、基板11はサファイア基板又は窒化アルミニウム基板であることが好ましい。窒化アルミニウム基板は単結晶の窒化アルミニウム基板であることが好ましい。
【0016】
また、基板11の第一主面11A以外の表面には、保護膜(不図示)を配置しても良い。保護膜の材料としては、二酸化ケイ素や窒化ケイ素を用いることができるが、これら材料に限られない。基板11の第一主面11A以外の表面に保護膜を配置することにより、所望の波長の光の発光効率や取り出し効率の低減を防止することができる。これは、以下の理由による。
【0017】
基板11の第一主面11A以外が外界に露出している場合、基板11がサファイア基板であると、深紫外線LED10Aの発熱により基板11が外界の水等と反応して基板11の露出面に水酸化膜が形成される場合がある。また、基板11が窒化アルミニウム基板であると、深紫外線LED10Aの発熱により基板11が外界の酸素と反応して酸化膜が形成される場合がある。これらの膜(水酸化膜又は酸化膜)は、発光スペクトルの中心波長を含む光を減衰させたり、反射させたりして、所望の波長の光の発光効率を低減、すなわち出力を低下させてしまう。これらの膜は、形成時に外界の二酸化炭素若しくは基板11中に不純物として混入している炭素、又は深紫外線LED10Aのパッケージで使用されている樹脂由来の炭素を含むことがある。これにより、各膜のバンドギャップエネルギーが発光エネルギーよりも大きいとしても、不純物由来の光の吸収が起こり、光の減衰が起こる。
【0018】
また、基板11の第一主面11Aに屈折率の異なる層が形成されると、光の入射時に基板11と屈折率の異なる層との界面で反射が起こる。特に、例えば基板11として窒化アルミニウム基板を用い、基板11の第一主面11Aに酸化アルミニウム層のような基板11よりも低屈折率の材料が形成されると、より強く入射光の反射が起こり、基板の第二主面11Bから外界に所望の波長範囲の光が取り出せなくなる。これらを防止する観点から、基板11の表面に保護膜を配置することが好ましい。
【0019】
基板11の転位密度は、10cm-2未満であることが好ましく、特に10cm-2未満であればより好ましい。基板11の第一主面11A上に積層される積層薄膜15の転位密度低減の観点から、基板11の第一主面11Aの二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)高さ(二乗平均平方根高さRq)は、10μm×10μmの面積に対して約1nm未満であることが好ましい。また、薄膜表面を平坦かつ均一に形成するために、基板11の第二主面11Bの二乗平均平方根(RMS)高さは、10μm×10μmの面積に対して約10nm未満であることが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る深紫外線LED10Aの基板11は、第二主面11Bに凸形状または凹形状の構造である凸部または凹部を有していても良い。
凸部は、円錐、角錐、半球形、錐台など多様な凸形状や・多様な密度で設けられてよい。基板11がAlNで構成されている際に、安定した結晶面により物理的耐性、化学的耐性の高い凸形状を実現する観点から、凸部は、側面が(10-1-1)面で構成された角錐形を含むことが好ましい。この観点から、凸部は、六方晶の結晶構造の安定面を反映した六角錐又は六角錐台形状であることがさらに好ましい。この凸部は、複数個形成されていてもよい。凸部が複数個形成されている場合、凸部は一つの形状で形成されていても良く、複数の形状が混在していても良い。
【0021】
凹部は、円錐、角錐、半球形、錐台など多様な形状でへこむ凹形状や多様な密度で設けられてよい。基板11がAlNで構成されている際に、安定した結晶面により物理的耐性、化学的耐性の高い凹形状を実現する観点から、凹部は、側面が(10-1-1)面で構成された角錐形に凹む形状を含むことが好ましい。この観点から、凹部は、六方晶の結晶構造の安定面を反映した六角錐又は六角錐台形状がさらに好ましい。この凹部は、複数個形成されていてもよい。凹部が複数個形成されている場合、凹部は一つの形状で形成されていてもよく、複数の形状が混在していても良い。
【0022】
凸部及び凹部の大きさは特に制限されないが、高さが0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。凸部及び凹部の大きさは、倍率20000倍の電子線走査顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で凸部又は凹部の表面を観察したときの画像から測定することが可能である。
【0023】
本実施形態において、基板11の第二主面11B上に凹凸構造を有することにより、本開示の深紫外線発光装置1の発光強度を高めることが出来る。さらに、第二主面11B上に凹凸構造を有することにより、深紫外線発光光源10からの光の放射角度が拡がり、第二フィルタ32へ入射する光の強度が高くなる。つまり、本開示の第一フィルタ31及び第二フィルタ32を用いる構造により、入射角度の異なる光線に対してどちらも所望の波長λ[nm]の光を反射する有効性がより高まる。
上述の実施形態で作製したピーク波長230nmの深紫外線LED10Aは、波長210nmから波長260nmの波長域での発光を示した。
【0024】
<積層薄膜>
積層薄膜15は、発光層13を含み、基板11の第一主面11A上に配置されていれば特に制限されない。
積層薄膜15は、発光効率向上の観点から、発光層13を挟むように第一導電型半導体層12と第二導電型半導体層14とを更に備えることが好ましい場合がある。ここで、「第一導電型」「第二導電型」は、互いに異なる導電性を示す半導体であることを意味し、一方がn型導電性の場合、他方はp型導電性となる。一般的には発光層13と基板11との間がn型半導体層であるが、本実施形態はこれに制限されない。
【0025】
第一導電型半導体層12、発光層13及び第二導電型半導体層14以外の層としては、例えば、発光層13と、第一導電型半導体層12及び第二導電型半導体層14の少なくとも一方との間に、電子又は正孔をブロックする層が備えられていてもよい。
また、積層薄膜15の結晶性向上の観点から、積層薄膜15の基板11と接する側の面にバッファ層(不図示)を更に備えることが好ましい場合がある。
また、発光層13に効率的に電力を供給する観点から、第一導電型半導体層12と接する第一電極16と、第二導電型半導体層14と接する第二電極17とを備えていても良い。
【0026】
また、積層薄膜15は、一部に発光層13を含んだ凸部形状のメサ構造20であってもよい。図3では、第一導電型半導体層12の一部と、発光層13と、第二導電型半導体層14とによりメサ構造20が構成されている。
積層薄膜15は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相成長)法やMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)法による装置、あるいはスパッタ装置で形成することが可能であるが、高品質な薄膜を成長させることが出来る観点からMOCVD装置で成長させることが好ましい。メサ構造20を有する積層薄膜15は、上述したMOCVD法等により積層薄膜15を構成する薄膜層を形成した後に、所望の領域をエッチングすることで形成することができる。
【0027】
(発光層)
発光層13は、発光層13に電力が印加された時に発光層13のバンドギャップに応じた光を発する。本実施形態の深紫外線LED10Aにおける発光層13は、発光スペクトルのピーク波長が深紫外線域であれば特に制限されない。ここで、発光スペクトルが複数のピークを有する場合、深紫外線の波長領域の中で発光強度が最も大きいピークの波長を深紫外線LED10Aの発光波長として定義する。
【0028】
発光層13の具体的構造の一例としては、量子井戸構造が挙げられる。例えば、組成比が異なる(バンドギャップが異なる)AlGaN層を積層した量子井戸構造が採用可能である。より好ましくは組成比が異なる(バンドギャップが異なる)AlGaN層を多層積層した多重量子井戸が採用可能である。より具体的な構造としては、組成がAl0.83Ga0.17Nの井戸層(厚さ1nm)3層と、組成がAl0.9Ga0.1Nの障壁層(厚さ5nm)2層を交互に積層した3重量子井戸構造が挙げられる。
【0029】
(第一導電型半導体層)
第一導電型半導体層12としては、AlN、GaN、InNの単結晶及び混晶が挙げられ、またこれらの組み合わせ(多層)であっても良い。基板11が窒化アルミニウム基板の場合、格子定数の差が小さいAl/(Al+Ga)比率が0.8以上のAlGaNが第一導電型半導体層12として好ましい。
図3に示すように、第一導電型半導体層12は、第一導電型半導体層12の一部が除去されることにより形成された第一積層領域12Aと、第一積層領域12A上に位置してメサ構造20を構成する第二積層領域12Bとを有している。
第一導電型半導体層12を構成する第一導電型半導体がn型半導体である場合、第一導電型半導体として例えばSiを1×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。また、第一導電型半導体として、極性を有する混晶半導体の混晶組成比率を連続的に変化させる分極ドーピング法によりn型化したAlGaNを用いても良い。
【0030】
第一導電型半導体層12を構成する第一導電型半導体がp型半導体である場合、第一導電型半導体として例えばMgが3×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。また、第一導電型半導体として、極性を有する混晶半導体の混晶組成比率を連続的に変化させる分極ドーピング法によりp型化したAlGaNを用いても良い。240nm未満のピーク波長を有する光を発光する発光層13に効率良くキャリアを輸送する観点から、第一導電型半導体としてAl/(Al+Ga)比率が0.8以上のAlGaNを用いることが好ましい。
【0031】
(第二導電型半導体層)
第二導電型半導体層14としては、AlN、GaN、InNの単結晶及び混晶が挙げられ、これらの組み合わせ(多層)であっても良い。
第二導電型半導体層14を構成する第二導電型半導体がn型半導体である場合、第二導電型半導体として例えばSiを1×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。また、第二導電型半導体として、極性を有する混晶半導体の混晶組成比率を連続的に変化させる分極ドーピング法によりn型化したAlGaNを用いても良い。
【0032】
第二導電型半導体層14を構成する第二導電型半導体がp型半導体である場合、第二導電型半導体として例えばMgが3×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。第二導電型半導体がp型半導体である場合、第二電極17とのコンタクト抵抗を下げる観点から、第二導電型半導体層14はAl/(Al+Ga)比率が基板11から離れる方向に連続的又は段階的に小さくなるAlGaN傾斜組成を有していても良い。また、発光効率を低減させる電子やホールの動きを抑制する観点から、第二導電型半導体層14の発光層13側にバンドギャップの大きいバリア層(不図示)を有していても良い。また、第二電極17との接触抵抗を低減する観点から、第二導電型半導体層14の第二電極17側に不純物が多量にドーピングされたコンタクト層(不図示)を有していても良い。
【0033】
<電極>
第一電極16及び第二電極17は、接触する積層薄膜15等の半導体層とオーミック接続となる材料で形成されることが好ましい。
第一電極16及び第二電極17のうち、n型半導体層と接する電極を構成する材料としては、Ti、Al、Ni、Au、Cr、V、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W若しくはその合金、又はITO等が挙げられ、アルミニウムとニッケルとを含む材料がコンタクト抵抗低減の観点からより好ましい。
第一電極16及び第二電極17のうち、p型半導体層と接する電極を構成する材料としては、例えばNi、Au、Pt、Ag、Rh、Pd、Pt、Cu及びその合金、又はITO等が挙げられる。p型半導体層が窒化物半導体層の場合、窒化物半導体層と接する電極を構成する材料は、窒化物半導体層とのコンタクト抵抗が小さいNi、Au若しくはこれらの合金、又はITOが好ましい。
第一電極16及び第二電極17は、半導体層との接続のために、例えばAu、Al、Cu、Ag、W等の金属層が連続して形成された構成としても良い。第一電極16及び第二電極17は、導電性の高いAuが用いられることが望ましい場合がある。また、半導体層との密着性向上のため、半導体層との界面にTiで形成された金属層をさらに有していても良い。
【0034】
<第一フィルタ及び第二フィルタ>
第一フィルタ31は、第二フィルタ32よりも光源に近い位置に配置されている。第一フィルタ31と第二フィルタ32とは構造が異なっている。
図2に示すように、第一フィルタ31は、深紫外線発光光源10からの光の入射角度がθ1となるように配置されている。第一フィルタ31は、波長λ[nm]の光を反射する。また、図2に示すように、第二フィルタ32は、深紫外線発光光源10からの光の入射角度がθ2(>θ1)となるように配置されている。第二フィルタ32も第一フィルタ31と同様に、波長λnmの光を反射する。
【0035】
ここで、「波長λ[nm]の光を反射する」とは、波長λ[nm]の光に対する反射率が90%以上であることを意味する。すなわち、本実施形態の深紫外線発光装置1は、第一フィルタ31及び第二フィルタ32によって所定の波長λ[nm]の光を装置内部に反射し、所定の波長λ[nm]の光以外の光を装置外部に透過させる。このとき、所定の波長λ[nm]の光の一部が装置外部に透過してもよい。
第一フィルタ31及び第二フィルタ32によって反射される光の波長λ[nm]は、第一フィルタ31及び第二フィルタ32の構成を変化させることにより調整することができる。例えば、反射される光の波長λ[nm]は、第一フィルタ31及び第二フィルタ32を構成する誘電体多層膜(詳細は後述する)の材料、膜厚、誘電体多層膜の各層の積層構成等により調整することができる。
【0036】
第一フィルタ31、第二フィルタ32が深紫外線発光装置1から取り外しが可能な場合、第一フィルタ31、第二フィルタ32の反射率は反射率測定装置を用いて深紫外線発光光源10からの光の反射率を測定した値と定義する。第一フィルタ31、第二フィルタ32が深紫外線発光装置1から取り外しが不可能である場合、第一フィルタ31、第二フィルタ32が誘電体多層膜であるときには、反射率は、誘電体多層膜の吸収率が0%であると仮定して材料の屈折率と膜厚の値から計算した値と定義する。この場合、誘電体多層膜における材料特定及び組成は、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry:EDX)で実施する。具体的には、各層の積層方向と垂直な断面を、分割及び研磨あるいは集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)加工により露出させる。続いて、その断面を透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて観察することで各層の配置を明確化し、点分析が可能なエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry:EDX)で同定する。
【0037】
第一フィルタ31は、深紫外線発光光源10から発せられる光が第一フィルタ31に入射する角度θ1が、深紫外線発光光源10から発せられる光が第二フィルタ32に入射する角度θ2より小さくなるように配置される。角度θ1が角度θ2より0°以上90°未満の範囲で小さければ本開示の効果は得られるが、この中でも角度θ1が角度θ2より0°超60°未満の範囲で小さいことが好ましく、0°超45°未満であることがより好ましく、0°超30°未満の範囲で小さいことがさらに好ましい。
また、角度θ2の好ましい角度は30°以上90°未満であり、より好ましくは45°以上90°未満であり、さらに好ましくは60°以上90°未満である。角度θ1および角度θ2がこれらの範囲を満たすことにより、第一フィルタ31および第二フィルタ32を小型化することが出来、製造コストを低減できる。
【0038】
ここで、深紫外線発光光源10から発せられる光の一部が第一フィルタ31と第二フィルタ32との両方を通過する場合がある。第一フィルタ31と第二フィルタ32との両方を通過する光線の内の2本の組み合わせの中には、角度θ1が角度θ2より大きくなる組み合わせが存在する。本開示における角度θ1および角度θ2は、第一フィルタ31および第二フィルタ32の両方を通過する光線において定義してはならない。すなわち、角度θ1は、第一フィルタ31を通過して第二フィルタ32を通過しない光線において定義し、角度θ2は、第二フィルタ32を通過して第一フィルタ31を通過しない光線において定義することとする。
また、第一フィルタ31に入射する光の内の一つは、第一フィルタ31に垂直に近い角度で入射することが好ましく、第一フィルタ31に垂直に入射する(θ1=0°)ことが特に好ましい。発光強度が高いθ1=0°方向に放射される光を深紫外線発光装置1の外部へ放射して利用できるため、深紫外線発光装置1の発光出力を高めることが出来るからである。
【0039】
ここで、第一フィルタ31への入射角度θ1は、図2に示すように、深紫外線発光光源10上の発光基準点P及び第一フィルタ31上の任意の点F1を結んだ直線PF1と、点F1を通り第一フィルタ31のフィルタ面と直交する線V1とが為す角度で示される。ここで、発光基準点Pは、深紫外線発光光源10の第一フィルタ31と対向する面のうちの任意の発光箇所である。また、点F1は、第一フィルタ31の深紫外線発光光源10と対向する面のうち、フィルタ特性を有する箇所の任意の点である。
【0040】
また、同様に、第二フィルタ32への入射角度θ2は、図2に示すように、深紫外線発光光源10上の発光基準点P及び第二フィルタ32上の任意の点F2を結んだ直線PF2と、点F2を通り第二フィルタ32のフィルタ面と直交する線V2とが為す角度で示される。ここで、点F2は、第二フィルタ32の深紫外線発光光源10と対向する面のうち、フィルタ特性を有する箇所の任意の点である。
【0041】
なお、深紫外線発光光源10と第一フィルタ31又は第二フィルタ32とを結ぶ直線PF1又は直線PF2上に光線を遮る障害物がある場合、直線PF1又は直線PF2は、第一フィルタ31への入射角度θ1又は第二フィルタへの入射角度θ2を定義するための直線には含めない。すなわち、直線PF1又は直線PF2は、直線PF1又は直線PF2が障害物と接しないように発光基準点P及び点F1又は点F2の位置が調整された直線である。すなわち、直線PF1又はPF2上に障害物がある場合、発光基準点Pを光源10の発光面上の他の位置に移動させるか、又は第一フィルタ31上の任意の点F1又は第二フィルタ32上の任意の点F2をフィルタ面の他の位置に移動させて直線PF1又はPF2上に障害物がない状態とする。
入射角度θ1およびθ2は発光基準点Pおよび点F1、F2の選び方により一意には定まらず幅を持つ。第一フィルタ31及び第二フィルタ32は、いずれかの入射角度θ1、θ2の組み合わせにおいてθ2>θ1を満たすように配置される。好ましくは、第一フィルタ31及び第二フィルタ32は、入射角度θ2の最小最大平均値(θ2avr:(θ2の最大値+θ2の最小値)/2)>入射角度θ1の最小最大平均値(θ1avr:(θ1の最大値+θ1の最小値)/2)を満たすように配置され、より好ましくは、入射角度θ2の最小値(θ2min)>θ1の最大値(θmax)を満たすように配置される。
【0042】
第一フィルタ31と第二フィルタ32とを深紫外線発光光源10からの光の光軸上に重ならないように配置することにより、第一フィルタ31を通過する深紫外線の一部又は全部が、第二フィルタ32を通過することなく外部へ放射される。同様に、上述した配置の場合、第二フィルタ32を通過する深紫外線の一部又は全部が、第一フィルタ31を通過することなく外部へ放射される。この構造により、深紫外線の一部又は全部が、第一フィルタ31と第二フィルタ32との両方を通過することを抑制することができる。このため、深紫外線が第一フィルタ31と第二フィルタ32との両方を通過する構造と比較して深紫外線発光装置1の発光出力の低下を防ぎ、高出力化することが可能となる。また、第一フィルタ31、第二フィルタ32には製造バラつきが生じる。第一フィルタ31、第二フィルタ32を通過する場合、この製造バラつきに起因して深紫外線の波長の減衰度合いにもバラつきが生じる。しかしながら、深紫外線の一部又は全部が第一フィルタ31と第二フィルタ32との両方を通過することを抑制することで、深紫外線の波長の減衰度合いのバラつきを抑制することが出来る。これは、例えば第一フィルタ31の製造バラつきにより例えば膜厚が変化することで本来第二フィルタ32が透過させなければならない波長を反射させてしまうことを抑制することが出来る。あるいは第二フィルタ32の製造バラつきにより例えば膜厚が変化することで本来第一フィルタ31が透過させなければならない波長を反射させてしまうことを抑制することが出来る。これにより、深紫外線発光装置1の歩留まりの高い安定した生産が可能となり、製造コストを低減することが出来る。
【0043】
第一フィルタ31、第二フィルタ32としては、石英ガラス上にSiO、Al、HfO、AlN、AlON、Taなどの材料の中から複数種類を周期的に積層させた誘電体多層膜を形成した構成であっても良い。なかでも、第一フィルタ31、第二フィルタ32は、屈折率差が大きく、広い波長域で発光を制御できるSiOとHfOとを石英基板上に周期的に積層させた誘電体多層膜を形成した構成とすることが好ましい。第一フィルタ31と第二フィルタ32とで石英ガラス上に積層される材料が異なっていても良い。例えば、第一フィルタ31は、石英ガラス上にSiO、Alの薄膜を積層した誘電体多層膜、第二フィルタ32はSiO、HfOの薄膜を積層した誘電体多層膜を有していても良い。各々のフィルタの誘電体多層膜を異なる材料で形成する場合には、各々のフィルタを別々の工程で並行して同じ作業時間内で作ることが出来るため、フィルタ製造装置を複数有している場合には作業効率が高い。
【0044】
第一フィルタ31の誘電体多層膜と第二フィルタ32の誘電体多層膜とが同じ材質の組み合わせで形成されている場合、第二フィルタ32の誘電体多層膜の各層の膜厚は、第一フィルタの誘電体多層膜の各層の膜厚より小さくても良い。本構造の場合はフィルタ成膜装置内の構造を工夫することにより、一度に第一フィルタ31の誘電体多層膜及び第二フィルタ32の誘電体多層膜の両方を成膜することが出来るため、製造コストを低減することが出来る。
【0045】
具体的には、例えばスパッタリング装置において、成膜材料と第一フィルタ31の基板(例えば石英基板)との距離が、成膜材料と第二フィルタ32の基板との距離よりも近くなるように各フィルタの基板を配置する。これにより、第二フィルタ32に成膜される誘電体多層膜の膜厚を第一フィルタ31に成膜される誘電体多層膜の膜厚より薄く(小さく)することが出来る。あるいは、スパッタリング装置に導入するガスの入り口を、第二フィルタ32を形成する領域の近くに配置してもよい。これにより、薄膜の成膜がガスに阻害されることで第二フィルタ32の誘電体多層膜の膜厚を第一フィルタ31の誘電体多層膜の膜厚より薄く(小さく)出来る。
【0046】
あるいは、第一フィルタ31及び第二フィルタ32の基板の内、誘電体多層膜を形成する面とは別の面からヒーター等により加熱を行い、その熱分布を第一フィルタ31が形成される領域と第二フィルタ32が形成される領域とで区分してもよい。成膜時の基板の温度を変えることで、第二フィルタ32に成膜される薄膜の膜厚を第一フィルタ31に成膜される膜厚より薄く(小さく)出来る。この技術を用いることで、第一フィルタ31と第二フィルタ32を同時に形成できる。なお、第一フィルタ31と第二フィルタ32とが繋がっている(一体に形成されている)場合でも、誘電体多層膜の膜厚が異なることによりそれぞれの領域で反射する光の波長が変わる。このため、本開示においては、誘電体多層膜の膜厚が異なる領域が存在すれば、第一フィルタ31と第二フィルタ32とが形成されていると見做す。
また、薄膜の膜厚は、薄膜積層方向と垂直な断面を分割及び研磨あるいは集束イオンビーム加工し、その断面を透過電子顕微鏡観察することによって測長する。
【0047】
第一フィルタ31及び第二フィルタ32の形状は、平面形状であることが好ましいが、本開示の効果を得ることが可能であれば曲面形状でも良い。第一フィルタ31及び第二フィルタ32が平面形状である場合、製作の容易性から、第一フィルタ31及び第二フィルタ32の厚み方向から見た形状は裁断の容易性から四角形であることが好ましい。第一フィルタ31の深紫外線発光光源10側の面と第二フィルタ32の深紫外線発光光源10側の面とは同一平面上に存在しても良く、異なる平面上に存在しても良い。第一フィルタ31の深紫外線発光光源10側の面と第二フィルタ32の深紫外線発光光源10側の面とが同一平面上に存在している場合は、第一フィルタ31と第二フィルタ32とが同一基材上に異なる誘電体多層膜が形成されて構成されていると特に効果が高い。このような構成の場合、誘電体多層膜の成膜工程において、第一チャンバで第一フィルタ31を形成した後、外部へ取り出すこと無くそのまま第二チャンバへフィルタの基材(例えば石英基板)を平行移動させて第二フィルタ32を形成することが出来る。このため、第一フィルタ及び第二フィルタの製造コストを低減できる。
【0048】
また、搬送時にフィルタの基材の一面のみに搬送機構が接触し、フィルタ形成面には搬送機構が接触しない。このため、第一フィルタ31および第二フィルタ32のフィルタ形成面へのパーティクルの付着を低減することが出来るため歩留まりが向上し、製造コストを低減できる。さらに、深紫外線発光装置1において第一フィルタ31のフィルタ面、第二フィルタ32のフィルタ面を外界に向けない配置を取ることが出来る。このため、深紫外線発光装置1の使用時における外界からの大気やほこりの第一フィルタ31、第二フィルタ32への接触や、第一フィルタ31、第二フィルタ32へ手で触れることによる指紋や手垢の付着を抑制することができる。また、これら接触や付着により第一フィルタ31、第二フィルタ32が傷付くことを抑制できる。このため、これら接触、付着、傷付きにより第一フィルタ31、第二フィルタ32が反射する光の波長がずれ、反射率の低下、それによる深紫外線発光装置1の性能の低下を防ぐことが出来る。
【0049】
第一フィルタ31、第二フィルタ32には、例えば上述するピーク波長226nmの深紫外線LED10Aを用いた場合、波長210nm以上260nm以下の光が入射する。ここで、人体に対して有害な波長域である波長240nm以上300nm以下の波長帯の光を抑制する観点から、第一フィルタ31、第二フィルタ32は、ともに波長240nm以上波長260nm以下の光を反射して、外部へ放射させない構造であることが望ましい。人体に対して有害な波長240nm以上300nm以下の波長帯の光は、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が提唱している紫外線の肌に対しての照射上限照度(TLV)(J/m)が著しく低い光である。つまり、第一フィルタ31は、入射角度θ1で入射した波長240nm以上波長260nm以下の光の透過率が10%以下であり、第二フィルタ32は、入射角度θ2で入射した波長240nm以上波長260nm以下の光の透過率が10%以下であることが好ましい。
第一フィルタ31と第二フィルタ32とが別々のフィルタである(一体に形成されていない)場合、第一フィルタ31と第二フィルタ32とを、複数の装置で同じ作業時間内に並行して別々に作製できる。このため、フィルタ製造時間を短縮することにより製造コストを低減できる。また、第一フィルタ31及び第二フィルタ32の光源からの距離をそれぞれ自由に設計できるため、深紫外線発光装置の光学設計における自由度が高まる。
【0050】
より具体的に、第一フィルタ31としては、SiO(膜厚32nm)とHfO(膜厚34nm)とを10周期積層させた誘電体多層膜を使用することが出来る。図4は、光をフィルタに垂直に入射(θ1=0°)させた際の透過率の波長依存性を示すグラフである。ここで、図4のグラフは、光学薄膜設計シミュレーションソフト(Thin Film View verSiOn3.2.5、ナリー・ソフトウェア社製)を用いた際のシミュレーション結果である。上述したフィルタは、垂直入射(θ1=0°)において、波長225nmから273nmの波長帯域で透過率が10%以下、すなわち反射率が90%より大きい値となる。また、図5には、同ソフトで計算した波長240nmの光の透過率の入射角度依存性を示す。このフィルタは、波長240nmにおいて入射角度0°から83°の間で透過率が10%以下、すなわち反射率が90%より大きい値となる。
【0051】
第二フィルタ32としては、SiO(膜厚38nm)とHfO(膜厚34nm)を10周期積層させた誘電体多層膜を使用することが出来る。図6は、光をフィルタに垂直に入射(θ1=0度)させた際の透過率の波長依存性を示すグラフである。ここで、図6のグラフは、図4と同様に光学薄膜設計シミュレーションソフト(Thin Film View verSiOn3.2.5、ナリー・ソフトウェア社製)を用いた際のシミュレーション結果である。上述したフィルタは、垂直入射(θ1=0°)において波長240nmから296nmの波長帯域で透過率が10%以下、すなわち反射率が90%より大きい値となる。また、図7には、同ソフトで計算した波長240nmの光の透過率の入射角度依存性を示す。このフィルタは、波長240nmにおいて入射角度41°から90°の間で透過率が10%以下、すなわち反射率が90%より大きい値となる。
【0052】
つまり、深紫外線発光装置1は、深紫外線発光光源10と、深紫外線発光光源10から発せられる光が入射する角度θ1が0°以上83°未満となる位置に設けられた第一フィルタ31と、深紫外線発光光源10から発せられる光が入射する角度θ2が83°以上90°未満となる位置に設けられた第二フィルタ32とを備えていることが好ましい。また、第一フィルタ31は、SiO(膜厚32nm)とHfO(膜厚34nm)とを10周期積層させた誘電体多層膜であり、第二フィルタ32は、SiO(膜厚38nm)とHfO(膜厚34nm)を10周期積層させた誘電体多層膜であることが好ましい。このような深紫外線発光装置1は、波長240nmの人体に有害な波長の光に対して第一フィルタ31、第二フィルタ32のどちらも光を反射させて除去することが可能となる。
【0053】
なお、深紫外線発光装置1は、少なくとも第一フィルタ31及び第二フィルタ32を備えていれば良く、その他のフィルタが備えられていても良い。
【0054】
(1.2)深紫外線発光装置の構成例
以下、深紫外線発光装置1の具体的な構成について説明する。深紫外線発光装置1の深紫外線発光光源10が深紫外線LED10Aである場合、深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110の一部に第一フィルタ31および第二フィルタ32の少なくとも一方が設けられていても良い。以下、深紫外線発光装置1の構成例を説明する。
【0055】
(1.2.1)第一の構成例
図8を参照して、深紫外線発光装置1の第一の構成例を説明する。図8に示すように、第一フィルタ31及び第二フィルタ32は、深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110の一部に設けられていても良い。図8は、第一フィルタ31及び第二フィルタ32が深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110の一部であり、深紫外線LED10Aからの光を透過する窓材111と接するように設けられた深紫外線発光装置1の構成例である。
【0056】
上述したように、第一フィルタ31及び第二フィルタ32は、第一フィルタ31を通過する深紫外線が第二フィルタ32を通過しないように配置される。これは、例えば図8に示すように、四角形の窓材111の一面上の中心付近の局所領域に第一フィルタ31が形成され、同一面上の第一フィルタ31が形成されていない領域に第二フィルタ32が形成されることで実現できる。
【0057】
この際、図9A及び図9Bに示すように、深紫外線LED10Aから発せられる光の光軸を基準として第一フィルタ31と第二フィルタ32とが一部重なる領域があっても良い。第一フィルタ31と第二フィルタ32とが一部重なる領域がある場合、各フィルタの形成時の製造バラつきにより第一フィルタ31と第二フィルタ32との間に隙間33が出来ることを抑制することができる。これにより、深紫外線LED10Aからの光が第一フィルタ31及び第二フィルタ32のどちらも通過しない領域が生じることを防ぐことが出来る。これは、特に好ましく無い波長の光が深紫外線発光装置1の外部へ放射されることを防ぐ必要のある、計測器用途の光源として利用する場合や、人体への有害性の低い殺菌光源として利用する場合に効果が高い。
【0058】
また、図10に示すように、第一フィルタ31及び第二フィルタ32は、互いに隙間33を空けて形成されていても良い。
第一フィルタ31及び第二フィルタ32が隙間33を空けて形成されている場合、第一フィルタ31及び第二フィルタ32の平面方向の位置に関する製造バラつきの許容量を大きくすることが出来る。これにより、深紫外線発光装置1の製造工程および検査工程を簡素化でき、また歩留まりも向上するため製造コストを低減することが出来る。さらに、第一フィルタ31と第二フィルタ32の重複領域において光が第一フィルタ31と第二フィルタ32との両方を通過することによる発光出力の低下を防ぎ、高出力の深紫外線発光装置を実現できる。
なお、第一フィルタ31、第二フィルタ32は窓材111の内部に配置されて、窓材111から露出しない構成とされていても良い。
【0059】
(1.2.2)第二の構成例
図11A及び図11Bを参照して、深紫外線発光装置1の第二の構成例を説明する。図11A及び図11Bに示すように、第二の構成例の深紫外線発光装置1では、第一フィルタ31及び第二フィルタ32が深紫外線LED10Aのパッケージの一部に設けられている。また、第一フィルタ31は、四角形の窓材111の一方の面の中心付近の局所領域に形成され、第二フィルタ32は、窓材111の他方の面の第一フィルタ31が形成されていない領域に形成されている。この際、深紫外線LED10Aから発せられる光の光軸を基準として、第一フィルタ31と第二フィルタ32とが一部重なる領域があっても良く、重なる領域が無くても良い。また、深紫外線LED10Aから発せられる光の光軸が、第一フィルタ31と第二フィルタ32とのいずれも通過しない領域があっても良い。
【0060】
(1.2.3)第三の構成例
図12及び図13を参照して、深紫外線発光装置1の第三の構成例を説明する。図12及び図13に示すように、第二の構成例の深紫外線発光装置1では、深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110の一部に第一フィルタ31と第二フィルタ32のいずれか一方が設けられている。
【0061】
図12は、第一フィルタ31が深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110の一部である窓材111と接するように設けられた深紫外線発光装置1の構成例である。図12に示す構成例では、深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110が、深紫外線発光装置1の外装体120に収容されている。そして、もう一方のフィルタである第二フィルタ32が、深紫外線LED10Aの外部、すなわち深紫外線LED10Aを収容する深紫外線発光装置1の外装体120の一部である窓材121と接するように設けられている。
【0062】
図13は、第二フィルタ32が深紫外線LED10Aを収容するパッケージ110の一部である窓材111と接するように設けられた深紫外線発光装置1の構成例である。図13に示す構成例では、もう一方のフィルタである第一フィルタ31が、深紫外線LED10Aの外部、すなわち深紫外線LED10Aを収容する深紫外線発光装置1の外装体120の一部である窓材121と接するように設けられている。
図12及び図13のいずれかの構成の場合も、深紫外線LED10Aから発される光の光軸を基準として、第一フィルタ31と第二フィルタ32とが一部重なる領域があっても良く、重なる領域が無くても良く、第一フィルタ31と第二フィルタ32とのどちらも通過しない領域があっても良い。
【0063】
図12及び図13のいずれかの構成の場合、例えば深紫外線LED10Aの深紫外線を放射する窓材111及び深紫外線発光装置1の窓材121が、石英ガラス上に誘電体多層膜を積層した構造であっても良い。また、窓材111及び窓材121として石英ガラスの両面上に別々の誘電体多層膜を積層しても良い。さらに、窓材111及び窓材121の内部に第一フィルタ31、第二フィルタ32のいずれかが配置されて、第一フィルタ31、第二フィルタ32が窓材111及び窓材121から露出しない構成とされていても良い。
【0064】
以上、本開示を実施の形態を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0065】
1 深紫外線発光装置
10 深紫外線発光光源
11 基板
11A 第一主面
11B 第二主面
12 第一導電型半導体層
12A 第一積層領域
12B 第二積層領域
13 発光層
14 第二導電型半導体層
15 積層薄膜
16 第一電極
17 第二電極
20 メサ構造
31 第一フィルタ
32 第二フィルタ
33 隙間
110 パッケージ
111,121 窓材
120 外装体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
図13