(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033236
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】組成物及びカンナビジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/03 20060101AFI20240306BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61K31/03
A61P25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136718
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】522345331
【氏名又は名称】株式会社meravi
(71)【出願人】
【識別番号】520229552
【氏名又は名称】エリジオンサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141427
【弁理士】
【氏名又は名称】飯村 重樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良和
(72)【発明者】
【氏名】広川 安孝
(72)【発明者】
【氏名】河原 清章
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA04
4C206CA19
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA05
(57)【要約】
【課題】人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷を低減することができる、カンナビジオールを含有した組成物及びカンナビジオールの製造方法を提供する。
【解決手段】メンタジエノールと微生物から抽出されたオリベトール酸とによって合成されたカンナビジオール酸が脱炭酸されたカンナビジオールを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンタジエノールと微生物から抽出されたオリベトール酸とによって合成されたカンナビジオール酸が脱炭酸されたカンナビジオールを含有する、組成物。
【請求項2】
前記微生物は、微細藻類の抽出残渣が用いられた培地で培養される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記メンタジエノールは、柑橘類に由来するリモネンによって合成される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
微細藻類の抽出残渣が用いられた培地で培養された微生物からオリベトール酸を抽出し、
抽出した前記オリベトール酸とリモネンによって合成されたメンタジエノールとを反応させてカンナビジオール酸を合成し、
合成した前記カンナビジオール酸を脱炭酸してカンナビジオールを生成する、
カンナビジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びカンナビジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンナビジオールは、大麻に含まれる有効成分の一つとして知られており、脳に対する鎮静化作用、ストレスを緩和させる神経的作用等が認められる一方で、向精神作用や中毒性がないことから、近年は、深いリラックス効果を得ることができる成分として着目されている。
【0003】
特許文献1には、カンナビジオールを含有する組成物を投与することによって、大麻依存症、ニコチン依存症、初期精神病、アルツハイマー病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)等に対処することが開示されている。
【0004】
ところで、大麻には、摂取した者に多幸感をもたらすといった中毒的な向精神作用を及ぼす有害なテトラヒドロカンナビノイドも含まれている。このテトラヒドロカンナビノイドが含まれる組成物は、我が国ではいわゆる違法薬物として規制されている。
【0005】
ここで、大麻からカンナビジオールのみを抽出する場合は、有害成分として規制されているテトラヒドロカンナビノイドを抽出しないように留意しながら抽出するといった非常に緻密な作業が要求されることから、抽出作業に多大な負担がかかることが想定される。
【0006】
このような場合の対策として、柑橘類から抽出されたリモネンから有機合成されたメンタジエノール及びビルディングブロックから有機合成されたオリベトールを有機合成して、カンナビジオールを生成する手法が知られている。
【0007】
これによれば、テトラヒドロカンナビノイドの混入に留意することなく、化学合成によってカンナビジオールを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような、メンタジエノール及びオリベトールの有機合成によってカンナビジオールを生成する手法によって、効率的にカンナビジオールを得ることができる一方で、複数の化合物を有機合成するという手法を用いることから、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷が懸念される。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷を低減することができる、カンナビジオールを含有した組成物及びカンナビジオールの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る組成物は、メンタジエノールと微生物から抽出されたオリベトール酸とによって合成されたカンナビジオール酸が脱炭酸されたカンナビジオールを含有するものである。
【0012】
一般的に、カンナビジオールは、脳の鎮静化作用やストレスを緩和させる神経的作用等が認められること等に起因して、深いリラックス効果を得ることができる成分として、種々の分野で着目されている。
【0013】
このようなカンナビジオールを合成するに際して、本発明者らは、日々の鋭意研究や試行錯誤の結果、合成に用いる化合物を天然由来の成分に近いものにすることができれば、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷を低減することができるであろうとの仮定に基づいて、本発明を完成させるに至ったものである。
【0014】
この組成物によれば、組成物に含有されるカンナビジオールが、メンタジエノールと微生物から抽出したオリベトール酸とによって合成されるところ、微生物から抽出したオリベトール酸は、合成したオリベトール酸に対して天然に近いものであることが想定されることから、カンナビジオールも天然物由来のものに近似することが想定される。
【0015】
したがって、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷を低減することができるカンナビジオールを含有した組成物を得ることができる。
【0016】
この組成物に含有されるカンナビジオールを合成するオリベトール酸が抽出される微生物は、微細藻類の抽出残渣が用いられた培地で培養されるものである。
【0017】
この組成物に含有されるカンナビジオールを合成するメンタジエノールは、柑橘類に由来するリモネンによって合成されるものである。
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係るカンナビジオールの製造方法は、微細藻類の抽出残渣が用いられた培地で培養された微生物からオリベトール酸を抽出し、抽出したオリベトール酸とリモネンによって合成されたメンタジエノールとを反応させてカンナビジオール酸を合成し、合成したカンナビジオール酸を脱炭酸してカンナビジオールを生成するものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷を低減することができるカンナビジオールを含有した組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係る組成物について説明する。
【0021】
この組成物は、本実施の形態では、大麻に含まれる有効成分の一つとして知られるカンナビジオールを含有することを特徴としている。このカンナビジオールは、大麻から採取される大麻由来のものと、大麻に由来しないで得られる非大麻由来のものとが存在している。
【0022】
化学的な構造が同じであれば、大麻由来のカンナビジオールも非大麻由来のカンナビジオールもその効果は同様であるから、大麻由来の有害な成分(テトラヒドロカンナビノイド)の混入を避ける観点からは、本実施の形態に係る組成物に含有されるカンナビジオールとしては、非大麻由来のカンナビジオールが用いられることが好ましい。
【0023】
非大麻由来のカンナビジオールには、微生物による合成によって得られるものと、有機合成によって得られるものとが存在している。
【0024】
微生物による合成は、カンナビジオールをはじめとしたカンナビノイドの生成に要求されるいくつかの遺伝子を特定し、その遺伝子を酵母菌に移植するとともに、移植した遺伝子を操作して生起される酵素の化学反応に基づいてカンナビジオールを得る手法である。
【0025】
一方、有機合成は、メンタジエノールとオリベトールとのカップリング反応によってカンナビジオールを得る手法であって、本実施の形態では、メンタジエノールとオリベトール酸とを反応させてカンナビジオールを得る有機合成の手法を採用している。
【0026】
メンタジエノールは、立体構造の定まったテルペンである。テルペンは、一般的には、イソプレンを構成単位とする揮発性の炭化水素化合物であって、植物の精油、昆虫、菌類あるいは細菌等の天然源に由来する。このようなテルペンであるメンタジエノールは、以下の一般式(1)で表される。
【0027】
【0028】
このメンタジエノールは、本実施の形態では、例えばオレンジやレモン等の柑橘類、特にオレンジの果皮に由来する天然のリモネンから有機合成されるものである。
【0029】
リモネンは、単環式のモノテルペンであって、常温常圧の状態では、無色透明の液体として存在する。このリモネンは、以下の一般式(2)で表される。
【0030】
【0031】
オリベトール酸は、有機官能基を持った低分子のビルディングブロックから有機合成によって生成されるオリベトールを酸化したものである。このオリベトールとメンタジエノールとを反応させることによって、カンナビジオールを合成する手法も存在する。
【0032】
しかし、オリベトールとメンタジエノールとの反応の進行を促進する観点からは、酸を施与することが好ましいことから、本実施の形態では、オリベトール酸が好適に用いられる。これにより、メンタジエノールが活性化され、メンタジエノールとオリベトールとのカップリング反応が誘発される。
【0033】
オリベトールは、以下の一般式(3)で表される。
【0034】
【0035】
一方、オリベトール酸は、以下の一般式(4)で表される。
【0036】
【0037】
オリベトール酸は、ポリケタイドの一種である。このようなポリケタイド類の生合成に用いられる酵素としては、ポリケタイド合成酵素が挙げられるところ、過去の実験例において、ポリケタイド合成酵素は、オリベトール酸の異性体であるヘキサノイルトリ酢酸ラクトンを生成する一方で、オリベトール酸を直接的には合成しないことが判明している。
【0038】
このヘキサノイルトリ酢酸ラクトンは、オリベトール酸の前駆体であると想定されていることから、ポリケタイド合成酵素を出発物質としてオリベトール酸を合成することができると考えられる。
【0039】
しかし、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷といった影響を考慮するならば、天然由来の成分に基づいてオリベトール酸を抽出することができることが好ましいことから、定法に従って、オリベトール酸を微生物から抽出することが考えられる。具体的には、例えば任意の抽出溶媒を用いて微生物から抽出物を抽出し、その抽出した抽出物を濃縮することによってオリベトール酸が得られる。
【0040】
この点、オリベトール酸を微生物から抽出する手法については、種々の文献情報において開示されているところではあるものの、本発明者らは、より天然に近いオリベトール酸を抽出することを試みる観点から、微生物の培養環境を天然の環境に近似させることに着目した。
【0041】
具体的には、微生物を培養する培地に、微細藻類の抽出残渣を用いることとした。一般的には、例えば微細藻類バイオマスを加水分解して、糖やアミノ酸等の培地成分に用いること等が考えられるところ、本実施の形態における微生物を培養する培地については、後述する。
【0042】
オリベトール酸は、微細藻類と菌類との共生体である地衣類や、いわゆるカビである糸状菌の一部から抽出されることが確認されていることから、用いられる微生物としては糸状菌、特に、微生物農薬としても機能する昆虫病原性糸状菌が好ましい。
【0043】
昆虫病原性糸状菌としては、ボーベリア属の白きょう病菌及び黄きょう病菌、メタリジウム属の黒きょう病菌及び緑きょう病菌、ペシロマイセス属の赤きょう病菌及び紫赤きょう病菌等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0044】
なお、用いられる微生物は、昆虫病原性糸状菌に限られるものではなく、昆虫病原性糸状菌に代えて植物病原性糸状菌が用いられてもよい。
【0045】
微細藻類は、淡水、海水あるいは堆積物等の水分中に存在する肉眼では視認できない程度の微小な植物プランクトンであって、本実施の形態では、原核生物あるいは真核生物のいずれであってもよい。
【0046】
微細藻類としては、緑藻類、灰色藻類、紅色藻類、クロララクニオン藻類、ユーグレナ類、クリプト藻類、褐藻類、ハプト藻類、不等毛藻類、渦鞭毛藻類、クロメラ藻類、藍藻類等が挙げられるが、これらに限られるものではないし、これらのうち1種類のみを用いることもできるし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
微細藻類は、環境中から分離して採取してもよいし、市場で流通する汎用品を入手してもよいし、あるいは保管機関や寄託機関等から入手してもよい。
【0048】
本実施の形態では、この微細藻類を定法に従って抽出する。具体的には、例えばエタノール、メタノール、ブタノール等の抽出溶媒を用いて抽出する。微細藻類を抽出した抽出残渣は、本実施の形態では、微生物を培養する培地の原料に用いられる。
【0049】
なお、微細藻類を抽出した抽出残渣に限られるものではなく、微細藻類そのものを、微生物を培養する培地の原料に用いてもよい。
【0050】
ところで、微生物を培養する培地の原料としては、一般的には、例えば麹、小麦、小麦フスマ、米、米殼、大豆粉、木粉、タバコ粉、デンプン、セルロース、シクロデキストリン等が用いられるところ、本実施の形態では、微生物と共生可能な微細藻類の抽出残渣が培地の原料として用いられることから、微生物の培養環境が天然の環境に近似することが想定される。
【0051】
したがって、このような培地で培養された微生物から抽出されたオリベトール酸は、化学合成により製造されるオリベトール酸に対して、環境負荷の小さい製造方法によって得られるものと想定される。
【0052】
次に、本実施の形態の組成物に含有されるカンナビジオールの製造方法について説明する。
【0053】
まず、微細藻類の抽出残渣あるいは微細藻類そのものを原料とした培地で微生物を培養し、培養した微生物からオリベトール酸を抽出する。このような手法で抽出したオリベトール酸は、上記のように、化学合成により製造されるオリベトール酸に対して、環境負荷の小さい製造方法によって得られるものと想定される。
【0054】
一方、例えばオレンジの果皮に由来する天然のリモネンを有機合成してメンタジエノールを生成する。
【0055】
続いて、このように調製されたオリベトール酸とメンタジエノールとを反応(カップリング反応)させて、カンナビジオール酸を合成する。カンナビジオール酸は、以下の一般式(5)で表される。
【0056】
【0057】
カンナビジオール酸を合成した後、本実施の形態では、カルボキシ基(-COOH)を持つ合成したカンナビジオール酸から二酸化炭素(CO2)を除去する脱炭酸を実行して、カンナビジオールを生成する。脱炭酸は、合成したカンナビジオール酸を例えば加熱することによって実行する。
【0058】
このように生成したカンナビジオールは、以下の一般式(6)で表される。
【0059】
【0060】
このようにして得られたカンナビジオールは、メンタジエノールと微生物から抽出したオリベトール酸とによって合成されるところ、微生物から抽出したオリベトール酸は、化学合成により製造されるオリベトール酸に対して、環境負荷の小さい製造方法によって得られるものと想定される。カンナビジオールも、従来の方法で製造されたものに対して環境負荷の小さい製造方法により得られたものと想定される。
【0061】
したがって、人体に及ぼす負荷や環境に及ぼす負荷を低減することができるカンナビジオールが得られる。
【0062】
特に、本実施の形態では、オリベトール酸が抽出される微生物は、微細藻類の抽出残渣が用いられた培地で培養されることから、微生物の培養環境が天然の環境に近似することが想定される。
【0063】
したがって、このような培地で培養された微生物から抽出されたオリベトール酸は、合成したオリベトール酸に対して、より天然に近いものであることが想定される。
【0064】
このようなカンナビジオールを含有する組成物は、脳に対する鎮静化作用や、ストレスを緩和させる神経的作用等が認められることから、服用者は、深いリラックス効果を得ることができる。
【0065】
一方で、向精神作用や中毒性といった副作用が認められないし、乱用、心身依存あるいは耐性も認められないといった安定性があることから、特に、医療分野での応用が期待される。