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特開2024-33288カーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜
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  • 特開-カーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033288
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/158 20170101AFI20240306BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C01B32/158
D01F9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136790
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】野々口 斐之
(72)【発明者】
【氏名】土江 由高
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC03B
4G146AC16
4G146AC16A
4G146AD05
4G146BA04
4G146CB05
4G146CB17
4G146CB35
4L037CS03
4L037CS04
4L037FA02
4L037FA03
4L037FA04
4L037FA05
4L037FA14
4L037FA17
(57)【要約】
【課題】高い一軸配向性を有するとともに比較的面積が大きく且つ製造時間を短縮できるカーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ複合膜の製造方法は、カーボンナノチューブを、ポリビニルブチラールを含む有機溶媒中に分散させることによりカーボンナノチューブ分散液を作製する分散工程と、一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成された基材の一面側にカーボンナノチューブ分散液を用いてキャスト成形することにより基材の一面側にカーボンナノチューブ複合膜を得るキャスト成形工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを、ポリビニルブチラールを含む有機溶媒中に分散させることによりカーボンナノチューブ分散液を作製する分散工程と、
一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成された基材の前記一面側に前記カーボンナノチューブ分散液を用いてキャスト成形することにより前記基材の前記一面側にカーボンナノチューブ複合膜を得るキャスト成形工程と、を含む、
カーボンナノチューブ複合膜の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、ジメチルアセトアミド、1,4-ジオキサン、ベンジルアルコール、シクロヘキサンおよびエチレングリコールから選択される少なくとも1つを含む、
請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合膜の製造方法。
【請求項3】
前記溝の幅は、前記カーボンナノチューブの直径の1倍以上10000倍以下である、
請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ複合膜の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、ラマン散乱スペクトルにおけるDバンドの強度に対するGバンドの強度の比率であるG/D比が10以上であり、且つ、アスペクト比が50以上である、
請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ複合膜の製造方法。
【請求項5】
複数のカーボンナノチューブを含み、
前記複数のカーボンナノチューブそれぞれの長手方向において任意に選択した部分の延伸方向と予め設定した基準方向とのなす配向角度の標準偏差が30度以下である、
カーボンナノチューブ複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
CVD(Chemical Vapor Deposition)法により基板上に成長したカーボンナノチューブフォレストからウェブ状の多層カーボンナノチューブを引き出してこれらを重ね合わせることによりカーボンナノチューブが一軸配向したカーボンナノチューブシートを作製する方法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。また、アーク放電法により形成されたカーボンナノチューブと分散剤であるデオキシコール酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとを含む懸濁液を、一方向に沿って複数の溝が形成されたポリカーボネートフィルタ膜を用いて低速で濾過することにより一軸配向したカーボンナノチューブ膜を作製する方法も提案されている(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Yoku Inoue, et al., "Anisotropic carbon nanotube papers fabricated from multiwalled carbon nanotube webs", CARBON 49 (2011),p2437-2443
【非特許文献2】Xiaowei He, et al., "Wafer-scale monodomain films of spontaneously aligned single-walled carbon nanotubes", NATURE NANOTECHNOLOGY | VOL 11 JULY 2016,p633-638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載された方法では、作製されたカーボンナノチューブシートのサイズは合成される基板上カーボンナノチューブアレイのサイズに制限される。また、非特許文献2に記載された方法では、低速で濾過する必要があることからカーボンナノチューブ膜の作製に時間を要し、全面に亘ってカーボンナノチューブが一軸配向した面積の大きいカーボンナノチューブ膜を作製するのも困難である。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、高い一軸配向性を有するとともに比較的面積が大きく且つ製造時間を短縮できるカーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法は、
カーボンナノチューブを、ポリビニルブチラールを含む有機溶媒中に分散させることによりカーボンナノチューブ分散液を作製する分散工程と、
一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成された基材の前記一面側に前記カーボンナノチューブ分散液を用いてキャスト成形することにより前記基材の前記一面側にカーボンナノチューブ複合膜を得るキャスト成形工程と、を含む。
【0007】
他の観点から見た本発明に係るカーボンナノチューブ複合膜は、
複数のカーボンナノチューブを含み、
前記複数のカーボンナノチューブそれぞれの長手方向において任意に選択した部分の延伸方向と予め設定した基準方向とのなす配向角度の標準偏差が30度以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法では、カーボンナノチューブとポリビニルブチラールとを含むカーボンナノチューブ分散液を、一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成された基材の一面側にキャストして成形することにより基材の一面側にカーボンナノチューブ複合膜を形成する。これにより、高い一軸配向性を有するとともに比較的面積が大きいカーボンナノチューブ複合膜を、比較的短時間且つ容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)は本発明の実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(B)は基材のSEM写真である。
図2】(A)は実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜の倍率1500倍のSEM写真であり、(B)は実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜の倍率50000倍のSEM写真であり、(C)は実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜についての画像解析結果を示す図である。
図3】(A)は比較例1に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(B)は比較例2に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(C)は比較例3に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真である。
図4】(A)は比較例4に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(B)は比較例5に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(C)は比較例6に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真である。
図5】(A)は比較例7に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(B)は比較例8に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(C)は比較例9に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真である。
図6】(A)は比較例10に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(B)は比較例11に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(C)は比較例12に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真である。
図7】(A)は実施例2に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(B)は実施例3に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真であり、(C)は実施例4に係るカーボンナノチューブ複合膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜について説明する。本実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法は、カーボンナノチューブとポリビニルブチラールとを有機溶媒中に分散させることによりカーボンナノチューブ分散液を作製する分散液作製工程と、カーボンナノチューブ分散液を、一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成された基材の一面側にカーボンナノチューブ分散液を用いてキャスト成形することにより基材の一面側にカーボンナノチューブ複合膜を得るキャスト成形工程と、を含む。以下、詳細に説明する。
【0011】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法では、まず、カーボンナノチューブ分散液を作製する分散液作製工程を行う。ここでは、カーボンナノチューブとポリビニルブチラールとを、有機溶媒に分散させることにより分散液を得る。ここで、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube、以下、「SWNT」と称する。)であってもよいし、多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube、以下、「MWNT」と称する。)であってもよい。ここで、MWNTは、筒状であり互いに直径の異なる複数種類のSWNTが同軸上に重なりあった構造を有するものである。また、SWNTは、カイラリティの違いにより結晶のバンド構造が異なり、金属的な性質を示す金属性カーボンナノチューブと、半導体的な性質を示す半導体性カーボンナノチューブと、に分類できる。このため、MWNTは、それに含まれるSWNTのカイラリティが互い異なる場合、半導体性の層と金属性の層とを併せ持つ場合がある。このため、カーボンナノチューブ複合膜を、金属性カーボンナノチューブまたは半導体性カーボンナノチューブのいずれかを高い純度で含有するものにするという観点からは、SWNTを採用することが好ましい。
【0012】
また、カーボンナノチューブは、ラマン散乱スペクトルにおけるDバンドの強度に対するGバンドの強度の比率であるG/D比が10以上であり、カーボンナノチューブの直径に対するその長さの比であるアスペクト比が50以上であることが好ましい。なお、カーボンナノチューブの直径は、特に限定されないが、例えば0.5nm以上10.0nm以下であればよい。カーボンナノチューブを得る方法は、特に限定されず、eDIPS法(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis method)、アーク放電法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の公知の技術に基づいて作製されたものであってもよい。なお、市販のカーボンナノチューブは、一般的に金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとを約1:2の質量比にて含有する。
【0013】
カーボンナノチューブとポリビニルブチラールとを、有機溶媒中に分散させる方法としては、例えば、撹拌ホモジナイザ、超音波ホモジナイザ等を使用する方法が挙げられる。より均一に分散させる観点から、超音波ホモジナイザを使用する方法が好ましい。また、分散を行う時間は特に限定されないが、例えば5分間以上60分間以下、好ましくは10分間以上30分間以下である。分散を行う温度も特に限定されないが、例えば5℃である。
【0014】
有機溶媒としては、例えばエーテル、ケトン、アルコール、アミン、その他窒素原子を含む有機溶媒等が挙げられる。エーテルとしては、例えば、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ジベンジルエーテル、アニソール等が挙げられる。ケトンとしては、例えば、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、3-ペンタノン、アセトフェノン等が挙げられる。アルコールとしては、ベンジルアルコール、エチレングリコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-ブタノール、フェノール、2-エトキシエタノール等が挙げられる。窒素原子を含む有機溶媒としては、ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン、1-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、ベンゾニトリル、アセトニトリル等が挙げられる。
【0015】
次に、分散液作製工程で得られたカーボンナノチューブ分散液から、不純物を除去する不純物除去工程を行う。不純物を除去する方法は特に限定されないが、例えば遠心分離、濾過等が挙げられる。
【0016】
続いて、不純物が除去されたカーボンナノチューブ分散液を、板状またはシート上の基材の厚さ方向における一面側にキャストして成形することにより基材の一面側にカーボンナノチューブ複合膜を得るキャスト成形工程を行う。ここで、基材としては、カーボンナノチューブ分散液がキャストされる一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成されたものであれば特に限定されない。ここで、前述の溝の幅は、カーボンナノチューブの直径の1倍以上10000倍以下である。基材としては、アルミニウム泊のような金属箔、例えばポリエチレンテレフタレートのような樹脂から形成された樹脂シート等であってもよい。或いは、基材が、Si基板のような半導体基板、ガラス基板等であってもよい。この場合、エッチング技術、ナノインプリント技術を利用して基材の厚さ方向における一面側に溝を形成したものを採用することができる。このキャスト成形工程を行うことにより、基材の一面側にカーボンナノチューブ複合膜が形成される。
【0017】
その後、一面側にカーボンナノチューブ複合膜が形成された基材から基材を除去することによりカーボンナノチューブ複合膜のみを取り出す基材除去工程を行う。ここでは、例えば基材を選択的にエッチングできるエッチャントを用いて基材のみを除去することができる。基材が例えばアルミニウム泊である場合、水酸化ナトリウムを含む水溶液により基材を腐食させることにより除去することができる。このようにして、カーボンナノチューブ複合膜のみを取り出すことができる。
【0018】
このようにして作製されたカーボンナノチューブ複合膜は、複数のカーボンナノチューブと、ポリビニルブチラールと、を含み、複数のカーボンナノチューブそれぞれの長手方向において任意に選択した部分の延伸方向と予め設定した基準方向とのなす配向角度の標準偏差が30度以下である。
【0019】
以上説明したように、本実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法では、カーボンナノチューブとポリビニルブチラールとを含むカーボンナノチューブ分散液を、一面側に一方向に沿って延在する少なくとも1つの溝が形成された基材の一面側にキャストして成形することにより基材の一面側にカーボンナノチューブ複合膜を形成する。これにより、高い一軸配向性を有するとともに比較的面積が大きいカーボンナノチューブ複合膜を、比較的短時間且つ容易に作製することができる。
【0020】
本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施の形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0021】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合膜の製造方法およびカーボンナノチューブ複合膜について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1乃至4並びに比較例1乃至12に係るカーボンナノチューブ複合膜の作製方法について説明する。eDIPS法により作製された直径2.0nm±0.8nmのSWNTを含むカーボンナノチューブ粉末を準備した。次に、このカーボンナノチューブ粉末と分散剤とを溶媒に混合してから超音波ホモジナイザ(モデルQ125 QSonica社製)を用いてカーボンナノチューブを分散させることによりカーボンナノチューブ分散液を調製した。超音波ホモジナイザとしては、照射面直径が1/4インチのマイクロチップを使用し、超音波印加時におけるデューティ比を50%(5sec間隔)、出力を約15Wに設定した。また、実施例1乃至4並びに比較例1乃至12それぞれにおける分散剤、溶媒は、下記表1の通りである。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例1では、15mgのカーボンナノチューブ粉末を、ポリビニルブチラールが1wt%(200mg)だけ溶解した20mlのベンジルアルコール溶液中に分散させた。また、比較例1では、5mgのカーボンナノチューブ粉末を、デオキシコール酸ナトリウムが1wt%だけ溶解した20mlの水溶液中に分散させた。更に、比較例2、3では、5mgのカーボンナノチューブ粉末を、各分散剤が1wt%だけ溶解した20mlの溶液中に分散させた。また、更に、比較例4乃至12並びに実施例2乃至4では、5mgのカーボンナノチューブ粉末を、ポリビニルブチラールが1wt%だけ溶解した20mlの溶液中に分散させた。
【0025】
次に、実施例1乃至4並びに比較例1乃至12に係るカーボンナノチューブ分散液を遠心分離用の容器に入れて、温度24℃で維持しながら30分間、遠心分離を行った後、容器中のカーボンナノチューブ分散液の約80%に相当する上澄み部分を採取した。
【0026】
続いて、実施例1乃至4並びに比較例2乃至12については、採取したカーボンナノチューブ分散液0.5mgを、アルミニウム泊上にキャストしてから、アルミニウム泊をヒータにより100℃に加熱した状態で90分間維持した。また、比較例1については、採取したカーボンナノチューブ分散液0.5mgを、アルミニウム泊上にキャストしてから、アルミニウム泊をヒータにより50℃に加熱した状態で60分間維持した。
【0027】
次に、前述の実施例1乃至4並びに比較例1乃至12に係るカーボンナノチューブ複合膜についてカーボンナノチューブの配向性を評価した結果について説明する。実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜では、図1(A)に示すように、一軸方向への長周期のカーボンナノチューブの配向が観察された。また、基材となるアルミニウム泊におけるカーボンナノチューブ分散液がキャストされる一面側は、図1(B)に示すように、アルミニウム泊の製造工程に由来する複数の溝が観察された。そして、このアルミニウム泊の溝の延伸方向とカーボンナノチューブの配向方向とが一致していることが確認できた。このことから、カーボンナノチューブ複合膜中のカーボンナノチューブの配向方向が、基材の溝の延伸方向により決定されていることが判った。
【0028】
また、実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜について、例えば図2(A)、(B)に示すような複数種類の倍率で撮像したSEM画像それぞれについて画像解析を行うことにより、SEM画像に写り込んでいるカーボンナノチューブを特定した上で、それらの延伸方向の予め設定された基準方向に対する角度の分布を評価した。画像解析方法としては、二次元FFT(Fast Fourie Transform)を利用した画像解析方法(非特許文献 Enomae, T., Han, Y. H. & Isogai, A. Nondestructive determination of fiber orientation distribution of paper surface by image analysis. Nord. Pulp Pap. Res. J. 21, p253-259 (2006).)を用いた。この画像解析方法では、まず、SEM画像それぞれについて予め設定された画素ブロック毎に動的閾値による2値化処理を行った後、2値化されたSEM画像について二次元FFT処理を行うことにより、パワースペクトル画像を生成する。そして、生成したパワースペクトル画像について、基準方向に対する角度0度乃至180度を予め設定された数の角度範囲に等分し、各角度範囲についてパワースペクトル画像の中心からの任意の距離に位置するフーリエ係数の振幅の平均値を算出する。例えば、任意の距離をrとし、基準方向に対する角度をθとすると、フーリエ係数の振幅A(rcosθ、rsinθ)の距離rにおける平均値Aave(θ)は、下記式(1)の関係式で表される。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、Nは、パワースペクトル画像の縦および横それぞれの画素数を示す。そして、倍率を1.3k、10k、50kに設定して撮像したSEM画像それぞれについて、前述の方法により算出したフーリエ係数の振幅の平均値を、極座標表現で表したものが図2(C)である。図2(C)に示すように、各倍率で撮像したSEM画像について、支配的な配向角の成分が略一致する結果が得られた。このことからカーボンナノチューブ複合膜の広い範囲に亘ってカーボンナノチューブが一軸方向へ配向していることが判った。また、図2(C)に示す結果から、実施例1に係るカーボンナノチューブ複合膜では、複数のカーボンナノチューブの多くが、それらの長手方向において任意に選択した部分の延伸方向と予め設定した基準方向とのなす配向角度が90度以上120度以下の範囲内であることが判る。また、カーボンナノチューブ複合膜に含まれる複数のカーボンナノチューブそれぞれの配向角度の標準偏差が30度以下であることが判る。
【0031】
次に、分散剤の違いがカーボンナノチューブ複合膜中のカーボンナノチューブの配向方向に与える影響を評価した結果について説明する。比較例1乃至3に係るカーボンナノチューブ複合膜では、図3(A)乃至(C)それぞれに示すように、カーボンナノチューブが一軸方向へ配向している様子は観測されなかった。このことから、少なくとも分散剤として、デオキシコール酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、エチルセルロースを採用した場合には、一軸方向へ配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ複合膜が得られないことが判った。
【0032】
続いて、カーボンナノチューブおよび分散剤を分散させる有機溶媒の違いがカーボンナノチューブ複合膜中のカーボンナノチューブの配向方向に与える影響を評価した結果について説明する。比較例4乃至12に係るカーボンナノチューブ複合膜では、図4(A)乃至図6(C)それぞれに示すように、カーボンナノチューブが一軸方向へ配向している様子は観測されなかった。このことから、少なくとも分散剤として、ポリビニルブチノールを採用したとしても、有機溶媒として、イソブチルアミン、1,2-ジメトキシエタン、乳酸エチル、テトラヒドロフラン、アニゾール、ベンズアルデヒド、エチレングリコールモノアリエーテル、安息香酸メチルを採用した場合には、一軸方向へ配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ複合膜が得られないことが判った。一方、実施例2乃至4に係るカーボンナノチューブ複合膜では、図7(A)乃至(C)それぞれに示すように、一軸方向に配向した比較的大きなカーボンナノチューブの集合体が観測された。このことから、分散剤として、1,4-ジオキサン、シクロヘキサン、ジメチルアセトアミドを採用した場合には、少なくとも部分的に一軸方向へ配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ複合膜が得られることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、熱電変換素子、電界効果トランジスタ、センサー、集積回路、整流素子、太陽電池、触媒、またはエレクトロルミネッセンス等の分野に適用されるカーボンナノチューブ複合膜として好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7