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▶ 日本メナード化粧品株式会社の特許一覧

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  • 特開-皮膚弾力性のマーカー及びその利用 図1
  • 特開-皮膚弾力性のマーカー及びその利用 図2
  • 特開-皮膚弾力性のマーカー及びその利用 図3
  • 特開-皮膚弾力性のマーカー及びその利用 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033289
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】皮膚弾力性のマーカー及びその利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136791
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山羽 宏行
(72)【発明者】
【氏名】松末 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克
(72)【発明者】
【氏名】奥野 凌輔
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
2G045DA04
(57)【要約】
【課題】皮膚の弾力性及び老化の程度を客観的かつ正確に評価する指標を用いた新たな皮膚弾力性の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明は、皮膚角質における乳酸の含有量を指標とする皮膚の弾力性及び老化の程度の評価方法である。本発明の方法によって得られた皮膚角質の乳酸の含有量に基づき、被験者にカスタマイズした皮膚老化の改善や予防のための化粧品や外用剤の提供、お手入れ方法などの提案をすることができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚角質の乳酸の含有量を測定することを特徴とする皮膚弾力性を評価する方法。
【請求項2】
被験者の皮膚角質を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角質の乳酸の含有量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された乳酸の含有量から皮膚弾力性を求める工程を含む皮膚弾力性の評価方法。
【請求項3】
皮膚の角質を採取する工程がテープストリッピング法によるものである請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
皮膚角質の乳酸の含有量を測定することを特徴とする皮膚老化の程度を評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚角質における乳酸の含有量を測定することにより皮膚の弾力性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は紫外線の他、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つに弾力性の低下がある。皮膚の弾力性は、外部からの物理的な圧力に対して押し返して元に戻ろうとする力であり、皮膚の恒常性を保つために重要な機能の一つである。皮膚の弾力性は、年齢や外部からの物理・化学的刺激、ホルモンバランスなどの内因的な要因などにより低下し、外因・内因的な要素の程度により個人差が存在する。
【0003】
皮膚をひとつの弾性体とみなして、皮膚の弾力性を測定する機器が開発されている。代表的な測定機のひとつにCUTOMETER・キュートメーター(商品名)(Courage&Khazaka社製)がある。この装置は、皮膚表面を陰圧状態のプローブ開口部に引き込み、開口部に引き込まれた皮膚長をプリズムで測定し、次いで吸引を解除し、解除したときの変位長(戻り)を同様に測定し、この測定結果をパラメータとして弾力性を求めるものである(非特許文献1)。この装置を用いた弾力性を指標として、皮膚の老化度の評価や、化粧料の効果を評価することが化粧品業界や、美容関連医療分野において広く普及している。
【0004】
非特許文献2は、乳酸菌を使用したヨーグルトの皮膚弾力性に及ぼす影響を、キュートメーターを用いて評価したことが記載されている。このように皮膚弾力性は皮膚の健康状態を評価するための重要なパラメータであると認識されている。
【0005】
また、皮膚の弾力性を、化学的な分析手法で測定する方法も提案されている。特許文献1には、ヒト角質中のNeutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)発現量から皮膚の粘弾性を評価する方法が考案されている。
【0006】
本発明で用いられる乳酸は、生体内ではエネルギー産生を担う解糖系の生成物のひとつである。急激な運動を行うと筋肉の細胞内でエネルギー源として糖が分解されピルビン酸を経て乳酸が蓄積する。皮膚においては、新陳代謝により代謝物として角質層中に分泌される他、汗にも含まれる。癌や糖尿病の管理のため、汗などの体液中の乳酸量をモニタリングする方法が考案されている(特許文献2)。しかし、皮膚角質中の乳酸量が皮膚の弾力性の指標として有効であることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5866053号公報
【特許文献2】特表2014-528086号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】宮地良樹ほか、美容皮膚科学、p173-174(2009)
【非特許文献2】伊澤佳久平ほか、腸内細菌学雑誌、22、p1-5(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、皮膚の弾力性と老化の程度を予測し、評価が可能となる新しい指標を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、皮膚角質中の乳酸含有量が皮膚の弾力性及び年齢と相関すること、またその相関性に基づき角質中の乳酸含有量を指標とすれば、皮膚の弾力性及び老化の程度を客観的かつ正確に評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)皮膚角質の乳酸の含有量を測定することを特徴とする皮膚弾力性を評価する方法。
(2)被験者の皮膚角質を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角質の乳酸の含有量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された乳酸の含有量から皮膚弾力性を求める工程を含む皮膚弾力性の評価方法。
(3)皮膚の角質を採取する工程がテープストリッピング法によるものである(2)に記載の評価方法。
(4)皮膚角質の乳酸の含有量を測定することを特徴とする皮膚老化の程度を評価する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、皮膚の弾力性及び老化の程度に相関する新しいマーカーを指標とするため、皮膚の弾力性及び老化の程度を客観的かつ正確に評価することができる。本発明の方法は、検体として被験者から採取した皮膚の角質を用いるため、被験者の負担もなく、迅速かつ簡便である。キュートメーターなど専用の測定装置が不要となり、皮膚弾力性測定が簡便化できる。また皮膚角層はテープストリッピング法によって容易に採取可能であり、郵送等の簡易な手段で輸送できるため、一箇所で大量の被験者の皮膚弾力性の測定が可能となる。また、角質の乳酸の含有量を新たな老化指標とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】キュートメーターを操作したときに得られる皮膚の変形を測定したチャートである。
図2】皮膚角質中の乳酸の含有量と皮膚弾力性パラメーター(Ur/Uf)の相関分析を行った図である。
図3】皮膚角質中の乳酸の含有量と被験者の年齢の相関分析を行った図である。
図4】年齢の影響を除去した時の皮膚角質中の乳酸含有量と皮膚弾力性の偏相関解析を行った図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、皮膚角質の乳酸の含有量を測定することを特徴とする皮膚弾力性を評価する方法である。本発明における乳酸は、CHCH(OH)COOHで表される。光学異性体を有し、D体、L体、DL(ラセミ)体が存在するが、いずれでもよく、好ましくはL体がよい。また、Na、K、Caなどの塩を対象としてもよい。
【0015】
本発明における皮膚角質とは、皮膚の最外層である角質層を構成する細胞である。角層、角質細胞などと呼ばれる。角質は、通常新陳代謝とともに垢やフケとして自然に剥がれるため、皮膚表面から入手が可能である。好ましくは、粘着テープによる剥離(テープストリップ)、カミソリや紙やすりなどによる皮膚表面の削擦などによる入手が好ましく、さらに好ましくはテープストリップがよい。採取する場所は、解析したい皮膚であればどこでもよいが、化粧品などの外用剤や汗、皮脂の影響を取り除くため、採取前に石鹸や洗顔剤などによる洗浄、アルコールなどによるふき取りを行ってから角質を採取することが好ましい。
【0016】
本発明の乳酸を測定する方法は、検出可能な方法であれば特に限定されないが、液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィー(GC)などを用いて定量することが可能である。また、酵素反応を利用した比色又は蛍光による検出キットも市販されているので、利用ができる。測定した角質中の乳酸の含有量は、採取した角質の量により変動するため、角質の量、例えば角質の総タンパク量や角質の数、染色面積などで補正することが好ましい。
【0017】
本発明における皮膚の弾力性は、皮膚外部から物理的な圧力をかけたときに元に戻ろうとする力のことを指し、肌のハリや弾力、復元力などとも呼ばれる。従来技術のキュートメーターによる皮膚弾力性の測定は次のようにして行われている。標準的には、吸引径6ミリで300mbの吸引圧にて5秒間吸引し、その後開放したときの変形する皮膚の変位を解析する。キュートメーターで得ることのできる皮膚弾力性の測定パラメータとして、前記したとおり一定の吸引圧及び時間で変形する皮膚の変位を解析して求められる戻り弾性比率(Ur/Uf)が主として評価に用いられる。キュートメーターによる皮膚の変位量の経時的測定の代表的なチャートを図1に示す。図1において、Uf:吸引時の皮膚の伸び(図1のUf1に対応)、Ur: 即時的収縮(図1のUr1に対応)である。皮膚の弾力性指標として用いられるパラメータは、吸引時の皮膚の伸びた長さに対する即時的(瞬間的)な収縮率=収縮時の弾性率(Ur/Uf)である。皮膚の弾力性は、1に近いほど弾力があり、ヒト皮膚は0.2~0.5付近である。
【0018】
本発明における皮膚弾力性を評価する方法は、皮膚角質における乳酸の含有量が、弾力性の低下が進むと増加するという知見に基づき、角質を採取した被験者の皮膚弾力性の程度を評価するものである。評価にあたっては、評価に供する皮膚角質を用意し、該角質における乳酸の含有量を測定し、その含有量に基づいて弾力性を評価する。皮膚角質における乳酸の含有量は、絶対値又は相対値(比較対象又は基準含有量との比率や差など)として算出される。ここでいう「評価」とは、医師による診断を包含せず、老化により発症する特定の疾患に対して医師による診断が介入する場合であっても、診断の補助を意味し、具体的には、診断のためのデータを取得することをいう。
【0019】
本発明における皮膚弾力性の評価は、皮膚角質における乳酸の含有量と、予め定めた基準含有量とを比較することにより行うことができる。基準含有量としては、例えば、高弾力群、中弾力群、低弾力群、あるいは年齢群別に平均値をとって定めた乳酸の含有量を用いることができる。又は、皮膚角質中の乳酸の含有量と皮膚の弾力性や年齢との相関図を予め作成しておき、被験者の乳酸含有量をその相関図と比較してもよい。
【0020】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0021】
実施例1 皮膚角質中の乳酸量と皮膚弾力性の関連
被験者102名(36~55歳、女性)を対象とした。洗顔後、空調の整った室内で15分間馴化後、頬部皮膚の弾力性をキュートメーター(Courage&Khazaka社製)にて測定した。その後、測定した皮膚に1×3cmのセロハンテープを貼り付け、角質を剥がし取った。テープを細切し、水/メタノール混合液に10分間浸漬させて乳酸を抽出した。抽出液中の乳酸含有量をHPLCにて定量した。その後、テープを取り出し、テープに付着した角質に含まれるタンパク質をBCAタンパクアッセイキット(ThermoFisher製)を用いて測定した。角質タンパク量あたりの乳酸量を算出し、角質に含まれる乳酸量とした。
【0022】
これらの測定結果を図2に示した。その結果、被験者の皮膚弾力性と角質の乳酸量は有意な負の相関性が認められた(ピアソンの積率相関係数:-0.2457、p=0.0152)。したがって、角質の乳酸量が低いほど皮膚弾力性が高く、角質の乳酸量が高いほど皮膚弾力性が低く、角質に含まれる乳酸量は、皮膚弾力性の指標となることが示された。
【0023】
実施例2 皮膚角質中の乳酸量と年齢の関連
被験者178名(20代41名、30代55名、40代54名、50代21名、60代7名、女性)を対象とした。洗顔後、空調の整った室内で15分間馴化後、実施例1と同様の方法で、頬部皮膚の弾力性及び角質の乳酸含有量を測定した。
【0024】
測定した角質中の乳酸量と被験者の年齢の分布を図3に示した。その結果、被験者の年齢と角質の乳酸量は有意な正の相関性が認められた(ピアソンの積率相関係数:0.2741、p=0.0003)。したがって、若齢ほど角質の乳酸量が低く、老齢ほど角質の乳酸量が高く、角質に含まれる乳酸量は老化の指標となることが示された。
【0025】
年齢の影響を除去した時の皮膚弾力性の残差と角質中の乳酸量の残差との分布を図4に示す。その結果、皮膚弾力性と角質中の乳酸量の残差間には、有意な負の相関が認められた(偏相関係数:-0.1535、p=0.0476)。したがって、年齢の影響を除去しても、角質の乳酸量が低いほど皮膚弾力性が高く、角質の乳酸量が高いほど皮膚弾力性が低く、角質に含まれる乳酸量は皮膚弾力性の指標となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法によれば、皮膚の弾力性及び老化の程度を客観的かつ正確に評価することができる。本発明の方法によって得られた皮膚角質の乳酸の含有量に基づき、被験者にカスタマイズした皮膚老化の改善や予防のための化粧品や外用剤の提供、お手入れ方法などの提案をすることができる。

図1
図2
図3
図4