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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033297
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A61M25/00 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136807
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中山 萌絵香
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267BB02
4C267BB52
4C267CC19
(57)【要約】
【課題】対象部位を正確に穿刺でき、目的の位置へ薬剤を正確に注入できる医療デバイスを提供する。
【解決手段】対象部位を穿刺して薬剤を注入するための医療デバイス10であって、先端部および基端部を有する長尺なシャフト41と、シャフト41の先端部に連結されて互いに近接および離間可能であり、対象部位の表面に接触可能な接触面45が各々に形成された2つの挟持部42と、を備える挟持器具40と、長尺な管体であって先端に鋭利な針部33が形成された穿刺器具30と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象部位を穿刺して薬剤を注入するための医療デバイスであって、
先端部および基端部を有する長尺なシャフトと、前記シャフトの先端部に連結されて互いに近接および離間可能であり、対象部位の表面に接触可能な接触面が各々に形成された2つの挟持部と、を備える挟持器具と、
長尺な管体であって先端に鋭利な針部が形成された穿刺器具と、を有する医療デバイス。
【請求項2】
前記挟持部は、前記シャフト部の先端部と平行な方向へ長尺な部材であり、
各々の前記挟持部は、複数の中間リンクにより前記シャフトの先端部に連結され、
各々の前記挟持部、前記複数の中間リンクおよび前記シャフトの先端部は、平行リンク機構を形成する請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記接触面は、疎水性コーティングまたは粗面加工が施された請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記シャフトは、任意の角度に形状付け可能な、または所定の角度で形状付けられた湾曲部を有する請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記シャフトは、前記穿刺器具を移動可能に収容するシャフト内腔を有する請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記2つの挟持部は、近接することで前記シャフトの先端部の外周囲を囲むように配置される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を心臓へ直接的に注入する医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
冠動脈の狭窄の治療方法として、バルーンカテーテルやステントを利用した経皮的冠動脈インターベンション(PCI:Percutaneous coronary intervention)が一般的に行われている。しかしながら、狭心症状があるにもかかわらず冠動脈造影所見では正常と判断される病態として、冠微小血管機能障害(CMD:Coronary microvascular dysfunction)が問題となる場合がある。冠微小血管機能障害は、経皮的冠動脈インターベンションでは治療できない、冠動脈よりも末梢の前細動脈、細動脈または毛細血管などの微小な血管が障害を有し、これら微小血管以降の動脈に血流が十分に供給されず心筋虚血を起こしている状態である。冠微小血管機能障害は、末梢の血管の閉塞や血管周囲の炎症や線維化が原因と推測されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-117620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冠微小血管機能障害の治療には、薬剤を直接心膜腔に送達することが有効と考えられている。しかしながら、現在行われている心膜腔へのデバイスのアクセスは、侵襲性が高い。例えば心タンポナーデにおいて行われる心嚢ドレナージでは、心臓に損傷を与えることもある。さらに、心嚢液が心膜腔に貯留されていない場合は、壁側心膜が臓側心膜に密着する。このため、壁側に接する線維性心膜のみを穿刺しようとしても、同時に臓側心膜も穿刺してしまう可能性がより高い。例えば特許文献1には、皮膚を隆起させて、この隆起させた皮膚に穿刺針を穿刺できる穿刺器具が提案されているが、この穿刺器具は、皮膚を隆起させる際に、その下の組織も隆起させるため、対象とする部位のみを穿刺することは困難である。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、対象部位を正確に穿刺でき、目的の位置へ薬剤を正確に注入できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記(1)に記載の発明により達成される。
【0007】
(1) 本発明に係る医療デバイスは、対象部位に薬剤を注入するための医療デバイスであって、先端部および基端部を有する長尺なシャフトと、前記シャフトの先端部に連結されて互いに近接および離間可能であり、対象部位の表面に接触可能な接触面が各々に形成された2つの挟持部と、を備える挟持器具と、長尺な管体であって先端に鋭利な針部が形成された穿刺器具と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)に記載の医療デバイスは、対象部位の表面に接触した2つの挟持部を近接させて、対象部位を2つの挟持部の中心近傍へ向かって押圧し、対象部位を弛ませて対象部位に襞を形成できる。このため、医療デバイスは、弛んで形成された対象部位の襞に穿刺器具を穿刺できるため、対象部位の下部の組織への誤穿刺を抑制できる。したがって、本医療デバイスは、対象部位を正確に穿刺でき、目的の位置へ薬剤を正確に注入できる。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の医療デバイスにおいて、前記挟持部は、前記シャフト部の先端部と平行な方向へ長尺な部材であり、各々の前記挟持部は、複数の中間リンクにより前記シャフトの先端部に連結され、各々の前記挟持部、前記複数の中間リンクおよび前記シャフトの先端部は、平行リンク機構を形成してもよい。これにより、医療デバイスは、シャフトの先端側または基端側への移動により、対象部位の表面に接触した2つの挟持部を平行なまま近接または離間させることができる。このため、医療デバイスは、2つの挟持部により対象部位に効果的に力を作用させて、対象部位を容易に弛ませることができる。
【0010】
(3) 上記(1)または(2)に記載の医療デバイスにおいて、前記接触面は、疎水性コーティングまたは粗面加工が施されてもよい。これにより、接触面は、対象部位からずれにくくなり、対象部位に対して力を作用させることが容易となる。
【0011】
(4) 上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記シャフトは、任意の角度に形状付け可能な、または所定の角度で形状付けられた湾曲部を有してもよい。これにより、シャフトの先端部に連結された2つの挟持部を、対象部位の表面に適切な角度で接触させることができる。このため、医療デバイスは、2つの挟持部により対象部位に効果的に力を作用させて、対象部位を容易に弛ませることができる。
【0012】
(5) 上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記シャフトは、前記穿刺器具を移動可能に収容するシャフト内腔を有してもよい。これにより、医療デバイスは、シャフト内腔を移動する穿刺器具により、シャフトの先端近傍で弛んで形成された対象部位の襞に、穿刺器具を容易に穿刺できる。
【0013】
(6) 上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記2つの挟持部は、近接することで前記シャフトの先端部の外周囲を囲むように配置されてもよい。これにより、医療デバイスは、挟持部を有する挟持デバイスの先端部を、目的の位置の近傍まで搬送するための外筒に対して円滑に出し入れすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る医療デバイスを示す平面図である。
図2】医療デバイスの先端部付近を示す図であり、(A)は平面図、(B)は先端側から見た正面図である。
図3】医療デバイスの使用状態を示す概略図である。
図4】医療デバイスの先端を心臓の近くに配置した状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図4(A)のA-A線に沿う断面図である。
図5】医療デバイスの挟持部を心臓の近くで展開させた状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図5(A)のB-B線に沿う断面図である。
図6】医療デバイスの挟持部により線維性心膜を引き延ばした状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図6(A)のC-C線に沿う断面図である。
図7】医療デバイスの挟持部により線維性心膜を弛ませた状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図7(A)のD-D線に沿う断面図である。
図8】医療デバイスの挟持部により弛ませた線維性心膜に穿刺器具を穿刺した状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図8(A)のE-E線に沿う断面図、(C)は図8(A)のF-F線に沿う断面図である。
図9】実施形態に係る医療デバイスの第1変形例を示す断面図である。
図10】実施形態に係る医療デバイスの第2変形例を示す断面図である。
図11】実施形態に係る医療デバイスの第3変形例を示す平面図である。
図12】実施形態に係る医療デバイスの第3変形例を示す図であり、(A)は挟持部を展開した状態の正面図、(B)は挟持部を収縮させた状態の正面図である。
図13】実施形態に係る医療デバイスの第4変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、デバイスの生体内に挿入される側を「先端側」、術者が操作する側を「基端側」と称することとする。
【0016】
本実施形態に係る医療デバイス10は、図3に示すように、胸部を切開して形成した切開創から胸腔(体腔)内に挿入されて、冠微小血管機能障害を改善するための薬剤を、心臓100の心膜腔103に直接的に注入するデバイスである。本実施形態において薬剤は、治療効果を有する薬の他、細胞、エクソソーム、核酸医薬などを含む。薬剤はゲルを含む液体、固体、気体のいずれであってもよい。
【0017】
医療デバイス10は、図1および2に示すように、長尺な外筒20と、外筒20に挿入可能であって組織を挟むことができる長尺な挟持器具40と、外筒20に挿入可能な長尺な穿刺器具30とを有している。
【0018】
外筒20は、挟持器具40および穿刺器具30が通る内腔21が形成された管体である。外筒20は、胸部に形成した切開創から心臓100の近くまで挿入されて、挟持器具40や穿刺器具30を線維性心膜101に到達させるアクセス通路として、内腔21を提供する。
【0019】
穿刺器具30は、薬剤を送達する針内腔31が形成された穿刺シャフト32と、穿刺シャフト32の基端部に固定されたハブ35とを有する。
【0020】
穿刺シャフト32は、先端に、鋭利な針部33を有する。ハブ35は、穿刺シャフト32の基端に固定されており、針内腔31と連通するポート34が形成されている。ポート34には、心膜腔103へ供給する薬剤を針内腔31に供給するシリンジ等が連結可能である。
【0021】
挟持器具40は、長尺なシャフト41と、シャフト41の先端に連結された2つの挟持部42と、2つの挟持部42をシャフト41に移動可能に連結する移動機構43と、挟持部42を付勢する付勢部44とを有する。シャフト41の断面形状は、本実施形態では矩形形状であるが、特に限定されず、円形や楕円形等であってもよい。
【0022】
2つの挟持部42は、シャフト41の先端部の延在方向に沿って所定な長さを有する長尺な部材であり、シャフト41の先端部と平行に配置される。2つの挟持部42は、接触対象である線維性心膜101の外表面に接触可能であり、かつ相対的に近接および離間するように移動可能である。2つの挟持部42は、移動機構43が連結される面と反対側の面に、接触対象である線維性心膜101の外表面に接触可能な接触面45が形成される。すなわち、2つの接触面45は、同じ方向を向いている。接触面45は、接触する線維性心膜101の外表面に対して滑りにくいように、疎水性コーティングや粗面加工が施されることが好ましい。したがって、接触面45は、挟持部42の他の面よりも疎水性が高く、または面が粗く形成されることが好ましい。
【0023】
移動機構43は、例えば2つの平行リンク機構を組み合わせた構造を備えており、2つの挟持部42の平行な状態を同一平面上で維持しつつ相対的に近接および離間させることができる。各々の平行リンク機構は、シャフト41の先端部、平行かつ同じ長さで形成された2つの中間リンク46、およびシャフト41の先端部と平行な1つの挟持部42により形成される。各々の平行リンク機構を形成する2つの中間リンク46の一端側は、シャフト41の先端部の軸方向に距離Lで離れた第1支点47および第2支点48に回転可能に連結され、他端側は、同じ挟持部42の距離Lで離れた位置に回転可能に連結される。そして、2つの挟持部42は、シャフト41を挟んで反対側に配置される。したがって、2つの挟持部42は、シャフト41を挟んで平行な状態を維持しつつ相対的に近接および離間可能である。
【0024】
付勢部44は、シャフト41に対して挟持部42を所定の位置に保持するために付勢する部材である。付勢部44は、例えば、弾性的に変形可能な屈曲した長尺な部材であり、両端が、第2支点48から別々の挟持部42へ延びる2つの中間リンク46に固定される。これにより、第2支点48から別々の挟持部42へ延びる2つの中間リンク46は、挟持部42に連結される側が、第2支点48よりも多少先端側へ傾いた状態で保持される。これにより、2つの挟持部42は、外力が作用しない自然状態において、シャフト41の先端部を挟んで相対的に離れた展開状態となる。なお、付勢部44の形態は、特に限定されない。例えば、付勢部44は、コイルバネや板バネ等であってもよい。また、付勢部44は、第1支点47に連結される2つの中間リンク46に固定されてもよい。また、付勢部44は、2つの挟持部42に固定されてもよい。また、付勢部44は、中間リンク46とシャフト41に固定されてもよい。また、付勢部44は、挟持部42とシャフト41に固定されてもよい。また、付勢部44は、設けられなくてもよい。
【0025】
次に、本実施形態に係る医療デバイス10の使用方法を説明する。
【0026】
始めに、術者は、図4に示すように、付勢部44を弾性的に変形させつつ2つの挟持部42をシャフト41に近接させて外筒20の内腔21に収容した挟持器具40および外筒20を準備する。次に、術者は、2つの挟持部42を内腔21に収容した外筒20を、胸部に形成した切開創から、胸腔内へ挿入する。術者は、別途胸部に形成した切開創から胸腔内へ挿入した内視鏡により胸腔内を観察しつつ、外筒20の先端を、心臓100の心膜の近くへ到達させる。なお、心膜は、線維性心膜と、線維性心膜の内側に配置される漿膜性心膜を有し、漿膜性心膜は、線維性心膜101と、線維性心膜101の内側に配置される臓側心膜102を有しており、線維性心膜101と臓側心膜102との間に、心膜腔103と呼ばれる腔が存在する。
【0027】
次に、術者は、体外に位置する挟持器具40の基端部および外筒20の基端部を把持して、外筒20を挟持器具40に対して基端側へ移動させる。これにより、図5に示すように、挟持部42を含む挟持器具40の先端部が、外筒20から先端側へ突出する。これにより、付勢部44が自己の復元力により元の形状へ戻り、各々の中間リンク46が第1支点47または第2支点48を中心に回動し、2つの挟持部42がシャフト41に対して基端方向へ移動しつつ、互いに離れた展開状態となる。
【0028】
次に、術者は、挟持器具40を操作して、挟持部42の接触面45を線維性心膜101に押し付ける。これにより、挟持部42は、線維性心膜101に対して固定された状態となる。この状態で、術者が、外筒20に対して挟持器具40のシャフト41を先端方向へ移動させる場合には、接触面45が線維性心膜101に接触することで先端方向への移動を制限される挟持部42に対し、シャフト41が先端方向へ移動する。これにより、図6に示すように、各々の中間リンク46が第1支点47または第2支点48を中心に回動し、付勢部44が弾性的に変形し、移動機構43を形成する中間リンク46によりシャフト41に連結された2つの挟持部42は、互いに離れる方向へ移動する。このため、2つの挟持部42は、展開状態よりも互いに離れた拡張状態となる。その結果、2つの挟持部42に固定された線維性心膜101は、2つの挟持部42により引き延ばされる。この動作は、例えば、線維性心膜101が湾曲している場合や、既に皺が寄っている場合に有効であるが、行われなくてもよい。
【0029】
挟持部42が線維性心膜101に対して固定された状態で、術者が、外筒20に対して挟持器具40のシャフト41を基端方向へ移動させる場合には、接触面45が線維性心膜101に接触することで基端方向への移動を制限される挟持部42に対し、シャフト41が基端方向へ移動する。これにより、図7に示すように、各々の中間リンク46が第1支点47または第2支点48を中心に回動し、付勢部44が弾性的に変形し、移動機構43によりシャフト41に連結された2つの挟持部42は、互いに近接する方向へ移動する。このため、2つの挟持部42は、展開状態よりも互いに近接した近接状態となる。その結果、2つの挟持部42に固定された線維性心膜101の一部が、挟持部42が接触する外表面と反対の内表面にて接触する臓側心膜102から大きく離れて弛み、襞を形成するため、線維性心膜101と臓側心膜102との間の心膜腔103が広がる。なお、挟持器具40で線維性心膜101を2つの挟持部42できつく挟み、かつ下の臓側心膜102に押し当てるような場合には、心膜腔103に十分な空間が形成されない。このため、術者は、線維性心膜101を挟む際に、2つの挟持部42が閉じ切らないようにする(図7(B)を参照)、もしくは2つの挟持部42で挟んだ線維性心膜101を臓側心膜102から離れる方向に持ち上げるようにして、心膜腔103に空間を確保する必要がある。2つの挟持部42で挟んだ線維性心膜101は、上部から見ると直線状で挟持部42と同程度の大きさ、横から見ると中心が最も盛り上がって挟持部42の端部に行くほど低いような山型の形状となる。
【0030】
次に、術者は、外筒20の基端から穿刺器具30を外筒20の内腔21へ挿入し、図8に示すように、穿刺器具30の先端の針部33を外筒20の先端開口から突出させ、線維性心膜101に穿刺する。術者が穿刺する際には、下部の臓側心膜102と上部の線維性心膜101の間の空間である心膜腔103を狙うので、2つの挟持部42が閉じ切っていない場合には、図8(B)に示すように、挟持部42同士の間で摘まんでいる線維性心膜101の盛り上がっている部分を穿刺する。また、術者は、2つの挟持部42で挟んだ線維性心膜101を臓側心膜102から離れる方向に持ち上げている場合には、挟持部42の基端部側で、臓側心膜102から離れている線維性心膜101の部分を穿刺する。このとき、2つの挟持部42によって、線維性心膜101と臓側心膜102との間の心膜腔103が広げられているため、術者は、針部33を臓側心膜102に突き刺すことなく、線維性心膜101のみへ穿刺できる。このため、術者は、臓側心膜102を傷つけることなく、針部33の薬剤を放出する先端開口を、心膜腔103に正確に到達させることができる。
【0031】
次に、術者は、穿刺器具30のハブ35のポート34(図1を参照)に、薬剤を供給するためのシリンジ等を接続し、針内腔31を介して心膜腔103へ薬剤を注入する。これにより、組織に薬剤を効果的に作用させて、冠微小血管機能障害の改善を図ることができる。
【0032】
次に、術者は、穿刺器具30を線維性心膜101から抜去する。続いて、術者は、挟持部42の接触面45を線維性心膜101から離し、外筒20を挟持器具40に対して先端側へ移動させる、または挟持器具40を外筒20に対して基端側へ移動させる。これにより、移動機構43が外筒20の先端開口の縁に接触して力を受けて、移動機構43の屈曲が大きくなり折り畳まれる。このため、各々の中間リンク46が第1支点47または第2支点48を中心に回動し、付勢部44が弾性的に変形し、移動機構43によりシャフト41に連結された2つの挟持部42は、互いに近接する方向へ移動する。これにより、2つの挟持部42を含む挟持器具40の先端部が、外筒20の内部に収容される。この後、術者は、挟持器具40および外筒20を体外へ抜去し、医療デバイス10を用いた手技を完了する。
【0033】
以上のように本実施形態に係る医療デバイス10は、対象部位(線維性心膜101)を穿刺して薬剤を注入するための医療デバイス10であって、先端部および基端部を有する長尺なシャフト41と、シャフト41の先端部に連結されて互いに近接および離間可能であり、対象部位の表面に同時に接触可能な接触面45が各々に形成された2つの挟持部42と、を備える挟持器具40と、長尺な管体であって先端に鋭利な針部33が形成された穿刺器具30と、を有する。これにより、医療デバイス10は、対象部位の表面に接触した2つの挟持部42を近接させて、対象部位を2つの挟持部42の中心近傍へ向かって押圧し、対象部位を弛ませて対象部位に襞を形成できる。このため、医療デバイス10は、弛んで形成された対象部位の襞に穿刺器具30を穿刺できるため、対象部位の下部の組織への誤穿刺を抑制できる。したがって、本医療デバイス10は、対象部位を正確に穿刺でき、対象部位(線維性心膜101)を超えた目的の位置(心膜腔103)へ薬剤を正確に注入できる。さらに、本医療デバイス10は、薬剤を正確に注入できる、という効果に加えて、薬剤を心膜腔103に供給するために使用する薬剤送達デバイス(例えば、薬剤を注入するカテーテルやカテーテルをガイドするデバイス等)を心膜腔103内に導入できる、という効果をも発揮する。
【0034】
挟持部42は、シャフト41部の先端部と平行な方向へ長尺な部材であり、各々の挟持部42は、複数の中間リンク46によりシャフト41の先端部に連結され、各々の挟持部42、複数の中間リンク46およびシャフト41の先端部は、平行リンク機構を形成する。これにより、医療デバイス10は、シャフト41の先端側または基端側への移動により、対象部位の表面に接触した2つの挟持部42を平行なまま近接または離間させることができる。
【0035】
接触面45は、疎水性コーティングまたは粗面加工が施されてもよい。これにより、接触面45は、対象部位からずれにくくなり、対象部位に対して力を作用させることが容易となる。したがって、医療デバイス10は、2つの挟持部42により対象部位に効果的に力を作用させて、対象部位を容易に弛ませることができる。
【0036】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、挟持部42が接触する対象部位は、膜状の組織であって、表面の2か所から近づく方向へ力を受けることで、力を受ける表面と反対側で隣接する組織から離れるように弛んで襞を形成できる組織であれば、特に限定されず、心臓100の組織でなくてもよい。
【0037】
また、図9に示す第1変形例のように、シャフト41は、任意の角度に形状付け可能な湾曲部49を有してもよい。湾曲部49は、例えば塑性変形可能な材料により形成される。術者は、必要に応じて、湾曲部49を変形させて、任意の角度に湾曲させることができる。これにより、シャフト41の先端部に連結された2つの挟持部42を、対象部位の表面に適切な角度で接触させることができる。このため、医療デバイス10は、2つの挟持部42により対象部位に効果的に力を作用させて、対象部位を容易に弛ませることができる。なお、湾曲部49は、予め所定の角度で湾曲して形状付けられていてもよい。この場合、湾曲部49は、塑性変形可能な材料で形成されなくてよい。
【0038】
また、図10に示す第2変形例のように、シャフト41は、穿刺器具30を移動可能に収容するシャフト内腔50を有してもよい。シャフト内腔50は、シャフト41の先端および基端で外部に開放されている。シャフト41は、移動機構43よりも先端側で、2つの挟持部42の間に向かって折り返すように湾曲している。したがって、術者は、シャフト41の基端からシャフト内腔50に挿入した穿刺器具30を、シャフト41の先端から突出させることができる。そして、医療デバイス10は、シャフト内腔50を移動する穿刺器具30により、挟持部42によってシャフト41の先端近傍で弛むように形成された対象部位の襞に、穿刺器具30の針部33を容易に穿刺できる。
【0039】
また、図11および12に示す第3変形例のように、2つの挟持部42は、近接することでシャフト41の先端部の外周囲を囲むように配置されてもよい。2つの挟持部42は、図12(B)に示すように、近接することで1つの円筒を形成する。これにより、医療デバイス10は、挟持部42を有する挟持デバイスの先端部を、目的の位置の近傍まで搬送するための外筒20に対して、円滑に出し入れすることができる。そして、シャフト41は、穿刺器具30を移動可能に収容するシャフト内腔50を有しており、シャフト内腔50は、シャフト41の基端で外部に開放されるとともに、シャフト41の先端よりも基端側の側面に位置する側面開口部51で、2つの挟持部42の間に向かって外部に開放されている。このため、したがって、術者は、シャフト41の基端からシャフト内腔50に挿入した穿刺器具30を、シャフト41の側面の側面開口部51から突出させることができる。そして、医療デバイス10は、シャフト内腔50を移動する穿刺器具30により、挟持部42によってシャフト41の先端近傍で弛むように形成された対象部位の襞に、穿刺器具30の針部33を容易に穿刺できる。
【0040】
また、図13に示す第4変形例のように、移動機構43は、平行リンク機構でなくてもよい。挟持部42は、軸方向に複数に分割して設けられてもよい。また、各々の挟持部42は、複数の中間リンク46によりシャフト41に連結されるのではなく、1つの中間リンク46によりシャフト41に連結されてもよい。
【0041】
また、本明細書に記載された各々の構成は、適宜組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 医療デバイス
20 外筒
21 内腔
30 穿刺器具
31 針内腔
32 穿刺シャフト
33 針部
34 ポート
35 ハブ
40 挟持器具
41 シャフト
42 挟持部
43 移動機構
44 付勢部
45 接触面
46 中間リンク
47 第1支点
48 第2支点
49 湾曲部
50 シャフト内腔
51 側面開口部
100 心臓
101 線維性心膜(対象部位)
102 臓側心膜
103 心膜腔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13