(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033300
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】血管障害評価方法および血管障害評価システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0215 20060101AFI20240306BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61B5/0215 C
A61B5/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136810
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文哉
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA01
4C017AB04
4C017AC03
(57)【要約】
【課題】障害を生じている冠微小血管を特定できる血管障害評価方法および血管障害評価システムを提供する。
【解決手段】圧力検出センサ42と心筋障害マーカー量検出センサ43とを有する医療デバイス20を心外膜冠動脈Tの第1部位P1に進め、第1部位P1において、血圧と心筋障害マーカー量を測定して記憶部31に記憶し、医療デバイス20を第1部位P1から末梢側に移動させ、冠微小血管の第2部位P2に進め、第2部位P2において、血圧と心筋障害マーカー量を測定して記憶部31に記憶し、記憶部31に記憶された第1部位P1で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、第2部位P2における冠微小血管障害を評価する血管障害評価方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冠動脈に生じた冠微小血管障害を評価する方法であって、
圧力検出センサと心筋障害マーカー量検出センサとを有する医療デバイスを心外膜冠動脈の第1部位に進めるステップと、
前記第1部位において、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定するステップと、
前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップと、
前記医療デバイスを前記第1部位から末梢側に移動させ、冠微小血管の第2部位に進めるステップと、
前記第2部位において、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定するステップと、
前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップと、
前記記憶部に記憶された前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、前記第2部位における冠微小血管障害を評価するステップと、を有する血管障害評価方法。
【請求項2】
前記心筋障害マーカー量検出センサが検出する心筋障害マーカー量は、セロトニン量である請求項1に記載の冠微小血管障害を評価する血管障害評価方法。
【請求項3】
前記第2部位は、前細動脈内に位置する請求項1または2に記載の冠微小血管機能障害を評価する血管障害評価方法。
【請求項4】
前記第2部位で測定した前記血圧と前記心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップの後、前記第2部位より末梢側または中枢側の別の部位に前記医療デバイスを進めるステップと、
前記別の部位において、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定するステップと、
前記別の部位で測定した前記血圧と前記心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップと、をさらに有する請求項1または2に記載の血管障害評価方法。
【請求項5】
前記第2部位における冠微小血管障害を評価するステップで冠微小血管障害が生じている場合、前記第2部位に薬剤を適用するステップをさらに有する請求項1または2に記載の血管障害評価方法。
【請求項6】
冠動脈に生じた冠微小血管障害を評価するシステムであって、
圧力検出センサと心筋障害マーカー量検出センサとを有する医療デバイスと、
前記圧力検出センサおよび心筋障害マーカー量検出センサにそれぞれ血圧と心筋障害マーカー量を測定させる制御部と、
前記制御部が測定させた血圧と心筋障害マーカー量を記憶する記憶部と、を有し、
前記制御部は、
前記医療デバイスが心外膜冠動脈の第1部位に位置した状態で、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定し、前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを前記記憶部に記憶させ、
前記医療デバイスが冠微小血管の第2部位に位置した状態で、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定し、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを前記記憶部に記憶させ、
前記記憶部に記憶された前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、前記第2部位における冠微小血管障害を評価する血管障害評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠微小血管における血管障害を評価する血管障害評価方法および血管障害評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冠微小血管機能障害(CMD:Coronary Microvascular Dysfunction)においては、冠動脈より末梢側の冠微小血管以降の動脈に十分な血流が供給されず、心筋虚血を生じる。この場合、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)によっても治療を行うことが困難である。また、冠微小血管に障害を生じている場合、心外膜冠動脈には異常がないことが多く、冠微小血管機能障害を診断することも困難である。
【0003】
冠微小血管機能障害を診断するための装置として、例えば、塞栓バルーンによる血管の閉塞あるいは流体注入に伴う血管内の圧力変化を検出し、冠微小血管における機能障害の有無を判断するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冠微小血管機能障害においては、冠微小血管が傷ついたり、心筋組織が虚血状態になるなどして、心筋組織が繊維化、あるいは内皮細胞に障害を生じている。障害を生じている冠微小血管に細胞を移植することで、組織が修復され、心筋組織の正常化、あるいは血管の新生が期待される。このためには、障害を生じている冠微小血管を特定する必要があるが、障害を生じている血管を特定することは困難であった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、障害を生じている冠微小血管を特定できる血管障害評価方法および血管障害評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る(1)血管障害評価方法は、冠動脈に生じた冠微小血管障害を評価する方法であって、圧力検出センサと心筋障害マーカー量検出センサとを有する医療デバイスを心外膜冠動脈の第1部位に進めるステップと、前記第1部位において、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定するステップと、前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップと、前記医療デバイスを前記第1部位から末梢側に移動させ、冠微小血管の第2部位に進めるステップと、前記第2部位において、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定するステップと、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップと、前記記憶部に記憶された前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、前記第2部位における冠微小血管障害を評価するステップと、を有する。
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る(6)血管障害評価システムは、冠動脈に生じた冠微小血管障害を評価するシステムであって、圧力検出センサと心筋障害マーカー量検出センサとを有する医療デバイスと、前記圧力検出センサおよび心筋障害マーカー量検出センサにそれぞれ血圧と心筋障害マーカー量を測定させる制御部と、前記制御部が測定させた血圧と心筋障害マーカー量を記憶する記憶部と、を有し、前記制御部は、前記医療デバイスが心外膜冠動脈の第1部位に位置した状態で、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定し、前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを前記記憶部に記憶させ、前記医療デバイスが冠微小血管の第2部位に位置した状態で、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定し、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを前記記憶部に記憶させ、前記記憶部に記憶された前記第1部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、前記第2部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、前記第2部位における冠微小血管障害を評価する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した血管障害評価方法は、心外膜冠動脈における測定値と冠微小血管における測定値とを比較して冠微小血管障害を評価するので、どの冠微小血管で障害が生じているかを特定でき、適切な処置につなげることができる。また、本発明の血管障害評価方法は、血圧に加えて心筋障害マーカー量を測定するので、冠微小血管機能障害の発生状態を適切に評価できる。
【0010】
(2)上記(1)の血管障害評価方法において、前記心筋障害マーカー量検出センサが検出する心筋障害マーカー量は、セロトニン量であってもよい。これにより、血管障害評価方法は、冠微小血管機能障害の有無を精度よく評価できる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)の血管障害評価方法において、前記第2部位は、前細動脈内に位置してもよい。これにより、血管障害評価方法は、冠微小血管内に医療デバイスを配置して、冠微小血管における血圧および心筋障害マーカー量の測定を行うことができる。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つの血管障害評価方法において、前記第2部位で測定した前記血圧と前記心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップの後、前記第2部位より末梢側または中枢側の別の部位に前記医療デバイスを進めるステップと、前記別の部位において、前記圧力検出センサで血圧を測定し、前記心筋障害マーカー量検出センサで心筋障害マーカー量を測定するステップと、前記別の部位で測定した前記血圧と前記心筋障害マーカー量とを記憶部に記憶するステップと、をさらに有してもよい。これにより、血管障害評価方法は、複数の冠微小血管のうちどの冠微小血管に障害が発生しているかを評価できる。
【0013】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つの血管障害評価方法において、前記第2部位における冠微小血管障害を評価するステップで冠微小血管障害が生じている場合、前記第2部位に薬剤を適用するステップをさらに有してもよい。これにより、血管障害評価方法は、発見した冠微小血管障害の処置を併せて行うことができる。
【0014】
上記のように構成した血管障害評価システムは、心外膜冠動脈における測定値と冠微小血管における測定値とを比較して冠微小血管障害を評価するので、どの冠微小血管で障害が生じているかを特定でき、適切な処置につなげることができる。また、血管障害評価システムは、血圧に加えて心筋障害マーカー量を測定するので、冠微小血管機能障害の発生状態を適切に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態における血管障害評価システムの構成図である。
【
図4】冠動脈入口にガイディングカテーテルの先端部を係合させ、医療デバイスを冠動脈内に挿入した状態の説明図である。
【
図5】心外膜冠動脈の第1部位に医療デバイスの先端部を配置した状態の説明図である。
【
図6】前細動脈の第2部位に医療デバイスの先端部を配置した状態の説明図である。
【
図7】変形例に係る医療デバイスを冠動脈内に配置した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイス10の生体に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0017】
本実施形態の血管障害評価システム10は、冠微小血管機能障害の有無を、微小血管毎に評価する方法に用いられるシステムである。
【0018】
図1に示すように、血管障害評価システム10は、圧力検出センサ42と心筋障害マーカー量検出センサ43とを有する医療デバイス20と、圧力検出センサ42および心筋障害マーカー量検出センサ43にそれぞれ血圧と心筋障害マーカー量を測定させる制御部30と、制御部30が測定させた血圧と心筋障害マーカー量を記憶する記憶部31と、を有している。
【0019】
図2に示すように、医療デバイス20は、長尺な本体部40の先端部に先端チップ41を有している。本体部40の先端チップ41より基端側には、圧力検出センサ42が配置される。本体部40の圧力検出センサ42より基端側には、心筋障害マーカー量検出センサ43が配置される。
【0020】
本体部40と先端チップ41は、冠微小血管のうち内径が400μm以下の前細動脈に挿入可能な外径を有している。具体的には、本体部40と先端チップ41は、0.03mm以上1.0mm以下、好ましくは0.1mm以上0.5mm以下の外径を有する。
【0021】
本体部40は、Ni-Ti系合金などの超弾性合金、ステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金などの各種金属材料で形成できる。
【0022】
圧力検出センサ42は、当該圧力検出センサ42の位置における圧力を検出できる。圧力検出センサ42は、圧電素子等で構成することができる。
【0023】
心筋障害マーカー量検出センサ43は、心筋障害の程度を評価できる物理量である心筋障害マーカー量を検出する。本実施形態において、心筋障害マーカー量検出センサ43は、セロトニン量を検出する。セロトニンは、血管内皮細胞で産生されるタンパク質であって、平滑筋の収縮および弛緩に影響する。冠微小血管機能障害の患者は、セロトニン量が有意に高いことから、心筋障害マーカー量検出センサ43でセロトニン量を検出することで、冠微小血管機能障害の有無を評価できる。
【0024】
セロトニン量を検出する心筋障害マーカー量検出センサ43は、例えば、疎水性アニオンを含む可塑化ポリ塩化ビニルから調整されたアミン感受性膜を備えた電気化学イメージングセンサで構成できる。
【0025】
心筋障害マーカー量検出センサ43は、セロトニン量を検出するものに限られない。例えば、心筋障害マーカー量検出センサ43は、乳酸やビリルビンなど代謝に関連する量、または、酸素消費量などミトコンドリア機能に関連する量などを検出するバイオセンサであってもよい。また、心筋障害マーカー量検出センサ43は、血液の粘性を検出するセンサであってもよい。あるいは、心筋障害マーカー量検出センサ43は、これらを複数組み合わせたセンサであってもよい。
【0026】
制御部30は、医療デバイス20の圧力検出センサ42および心筋障害マーカー量検出センサ43と接続されている。また、記憶部31は、制御部30と接続されている。制御部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、およびGPU(Graphics Processing Unit)等の少なくともいずれかのプロセッサを含む。記憶部31は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶等を含む。記憶部31の補助記憶は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカードなどの少なくとも一つを含むように構成できる。
【0027】
次に、血管障害評価方法につき、制御部30の動作と共に説明する。まず、術者は、医療デバイス20を冠動脈に挿入可能となるように準備する(S1)。医療デバイス20を血管に挿入するには、術者は、予め、ガイディングカテーテル100を血管内に挿入し、冠動脈入口Tに係合させる。このために、まず、術者は、生体の所定位置において、血管内へ経皮的にイントロデューサー用シース(図示しない)を挿通させる。術者は、このイントロデューサー用シースを介して、ガイドワイヤ(図示しない)を血管内へ挿通させる。次に、術者は、ガイドワイヤを押し進め、冠動脈Sまで到達させる。この後、術者は、体外に位置するガイドワイヤの基端側端部をガイディングカテーテル100の先端開口に挿通させる。術者は、ガイドワイヤに沿ってガイディングカテーテル100を血管内に挿通させ、
図4に示すように、冠動脈入口Tまで到達させて係合させる。術者は、ガイディングカテーテル100を冠動脈入口Tに係合させたら、ガイドワイヤを抜去し、医療デバイス20をガイディングカテーテル100に挿入する。
【0028】
図5に示すように、医療デバイス20が冠動脈Sに到達したら、術者は、医療デバイス20を心外膜冠動脈Tの第1部位P1に進めて配置する(S2)。ここで、医療デバイス20が第1部位P1に位置しているとは、医療デバイス20の圧力検出センサ42と心筋障害マーカー量検出センサ43が、第1部位P1付近に位置していることを意味している。第1部位P1において、制御部30は、圧力検出センサ42により血圧を、心筋障害マーカー量検出センサ43によりセロトニン量を、それぞれ測定する(S3)。制御部30は、第1部位P1で測定した血圧とセロトニン量を、記憶部31に記憶する(S4)。
【0029】
次に、術者は、医療デバイス20を第1部位P1から末梢側に移動させ、心外膜冠動脈Tから複数分岐する冠微小血管である前細動脈Uのうち1つを選択し、医療デバイス20を前細動脈Uの第2部位P2に進めて配置する(S5)。
図6に示すように、医療デバイス20は、前細動脈Uに挿入できる外径を有している。第2部位P2において、制御部30は、圧力検出センサ42により血圧を、心筋障害マーカー量検出センサ43によりセロトニン量を、それぞれ測定する(S6)。制御部30は、第2部位P2で測定した血圧とセロトニン量を、記憶部31に記憶する(S7)。
【0030】
制御部30は、第1部位P1で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、第2部位P2における冠微小血管障害を評価する(S8)。
【0031】
制御部30は、第1部位P1の血圧と第2部位P2の血圧との差が一定の数値以内であれば、第2部位を正常とし、第1部位P1の血圧と第2部位P2の血圧との差が一定の数値より大きければ、第2部位を異常とする。血圧差が正常であるか異常であるかの閾値は、例えば、患者の複数の所定部位で予め血圧を測定しておき、その差を基に設定される。
【0032】
制御部30は、第1部位P1のセロトニン量と第2部位P2のセロトニン量との差が一定の数値以内であれば、第2部位を正常とし、第1部位P1のセロトニン量と第2部位P2のセロトニン量との差が一定の数値より大きければ、第2部位を異常とする。セロトニン量の差が正常であるか異常であるかの閾値は、例えば、患者の複数の所定部位で予めセロトニン量を測定しておき、その差を基に設定される。
【0033】
制御部30は、血圧差とセロトニン量の差のいずれか1つが異常の場合に、第2部位P2を有する前細動脈Uが冠微小血管機能障害を生じていると評価する。また、制御部30は、血圧差とセロトニン量の差の両方が異常の場合に、第2部位P2を有する前細動脈Uが冠微小血管機能障害を生じていると評価してもよい。
【0034】
術者は、直近で測定した血圧差とセロトニン量の差のいずれか1つが異常か否か判別し(S9)、直近で測定した血圧差とセロトニン量の差の一方のみ異常である場合は、医療デバイス20を第2部位P2から移動させて前細動脈Uの別部位に配置する(S10)。制御部30は、別部位において、血圧およびセロトニン量を測定し(S11)、その値を記憶部31に記憶する(S12)。制御部30は、第1部位P1で測定した血圧およびセロトニン量と、別部位で測定した血圧およびセロトニン量とを比較し、別部位における冠微小血管障害を評価する(S13)。その後、S9に戻ってフローを繰り返す。S9において直近で測定した血圧差とセロトニン量の差の両方が正常、あるいは異常である場合は、測定を終了する(S14)。
【0035】
制御部30は、前述のように医療デバイス20で測定する心筋障害マーカー量がセロトニン量以外の場合も、測定した心筋障害マーカー量の差が正常であるか異常であるかを判別し、冠微小血管機能障害の有無を評価する。
【0036】
血管障害評価システム10は、薬剤を適用できる構成を有していてもよい。本実施形態において薬剤は、治療効果を有する薬の他、細胞、エクソソーム、核酸医薬などを含む。薬剤はゲルを含む液体、固体、気体のいずれであってもよい。薬剤は、例えばガイディングカテーテル100から投与することができる。また、血管障害評価システム10は、医療デバイス20とは別に、ガイディングカテーテル100内に挿入されて冠動脈内に送達される薬剤投与デバイスを有していてもよい。
【0037】
術者は、制御部30が特定の前細動脈Uで冠微小血管機能障害が生じていると評価した場合に、薬剤を適用することができる。ガイディングカテーテル100から薬剤を適用する場合、薬剤は、ガイディングカテーテル100の先端開口から冠動脈内に投与される。薬剤投与デバイスを用いる場合、薬剤は、冠微小血管機能障害が生じている前細動脈U内あるいはその近傍に投与される。また、薬剤を適用している間、血管障害評価システム10は、第2部位P2における血圧およびセロトニン量の測定を継続してもよい。この場合に、術者は、第2部位P2におけるこれらの値の第1部位P1における値との差が小さくなったら、薬剤の適用を停止するようにしてもよい。
【0038】
血管障害評価方法では、術者は、第2部位P2で血圧およびセロトニン量を測定した後、第2部位P2より中枢側または末梢側の別の部位に医療デバイス10を順次移動させ、各部位で血圧およびセロトニン量を測定し、制御部30が冠微小血管機能障害を評価するようにしてもよい。これにより、複数の前細動脈Uのうちどの部位で冠微小血管機能障害が生じているかを把握できる。
【0039】
血管障害評価システム10は、変形例に係る医療デバイス50を有していてもよい。変形例に係る医療デバイス50は、
図7に示すように、先端部を前細動脈U内に配置した状態で、心外膜冠動脈T内に位置する基端側圧力検出センサ51と、前細動脈U内に位置する先端側圧力検出センサ52と、前細動脈U内に位置する温度センサ53と、を有している。医療デバイス50は、心外膜冠動脈T内の圧力と前細動脈U内の圧力とを同時に測定できる。これらにより、医療デバイス50は、血流予備量比(FFR:Fractional Flow Reserve)と、冠血流予備能(CFR:Coronary Flow Reserve)と、微小血管抵抗指数(IMR:Index of Microvascular Resistance)とを算出できる。
【0040】
医療デバイス50を用いる場合、術者は、医療デバイス50を冠動脈内に挿入し、基端側圧力検出センサ51が心外膜冠動脈T内に、先端側圧力検出センサ52が前細動脈Uに、それぞれ位置するように配置する。次に、制御部30は基端側圧力検出センサ51で測定した圧力と先端側圧力検出センサ52で測定した圧力から、血流予備量比を算出する。冠血流予備能や微小血管抵抗指数を測定するため、術者は、測定箇所である心臓を加温し、前細動脈Uの血流を増加させる。その状態で制御部30は、基端側圧力検出センサ51と先端側圧力検出センサ52で圧力を測定し、温度センサ53で温度を測定する。ここで測定した圧力および温度から、制御部30は、冠血流予備能と微小血管抵抗指数を算出する。
【0041】
血流予備量比は、0.80より大きい場合に正常と判断できる。冠血流予備能は、25以上の場合に正常と判断できる。微小血管抵抗指数は、25より小さい場合に正常と判断できる。制御部30は、血流予備量比が正常で、かつ、冠血流予備能と微小血管抵抗指数が異常の場合に、冠微小血管機能障害が生じていると評価する。
【0042】
術者は、制御部30が冠微小血管機能障害を生じていると評価した場合に、薬剤を適用できる。薬剤の適用は、前述の場合と同様に行うことができる。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る(1)血管障害評価方法は、冠動脈に生じた冠微小血管障害を評価する方法であって、圧力検出センサ42と心筋障害マーカー量検出センサ43とを有する医療デバイス20を心外膜冠動脈Tの第1部位P1に進めるステップと、第1部位P1において、圧力検出センサ42で血圧を測定し、心筋障害マーカー量検出センサ43で心筋障害マーカー量を測定するステップと、第1部位P1で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部31に記憶するステップと、医療デバイス20を第1部位P1から末梢側に移動させ、冠微小血管の第2部位P2に進めるステップと、第2部位P2において、圧力検出センサ42で血圧を測定し、心筋障害マーカー量検出センサ43で心筋障害マーカー量を測定するステップと、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部31に記憶するステップと、記憶部31に記憶された第1部位P1で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、第2部位P2における冠微小血管障害を評価するステップと、を有する。このように構成した血管障害評価方法は、心外膜冠動脈Tにおける測定値と冠微小血管における測定値とを比較して冠微小血管障害を評価するので、どの冠微小血管で障害が生じているかを特定でき、適切な処置につなげることができる。また、本発明の血管障害評価方法は、血圧に加えて心筋障害マーカー量を測定するので、冠微小血管機能障害の発生状態を適切に評価できる。
【0044】
(2)上記(1)の血管障害評価方法において、心筋障害マーカー量検出センサ43が検出する心筋障害マーカー量は、セロトニン量であってもよい。これにより、血管障害評価方法は、冠微小血管機能障害の有無を精度よく評価できる。
【0045】
(3)上記(1)または(2)の血管障害評価方法において、第2部位P2は、前細動脈U内に位置してもよい。これにより、血管障害評価方法は、冠微小血管内に医療デバイス20を配置して、冠微小血管における血圧および心筋障害マーカー量の測定を行うことができる。
【0046】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つの血管障害評価方法において、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部31に記憶するステップの後、第2部位P2より末梢側または中枢側の別の部位に医療デバイス20を進めるステップと、別の部位において、圧力検出センサ42で血圧を測定し、心筋障害マーカー量検出センサ43で心筋障害マーカー量を測定するステップと、別の部位で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部31に記憶するステップと、をさらに有してもよい。これにより、血管障害評価方法は、複数の冠微小血管のうちどの冠微小血管に障害が発生しているかを評価できる。
【0047】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つの血管障害評価方法において、第2部位P2における冠微小血管障害を評価するステップで冠微小血管障害が生じている場合、第2部位P2に薬剤を適用するステップをさらに有してもよい。これにより、血管障害評価方法は、発見した冠微小血管障害の処置を併せて行うことができる。
【0048】
本実施形態に係る(6)血管障害評価システムは、冠動脈に生じた冠微小血管障害を評価するシステムであって、圧力検出センサ42と心筋障害マーカー量検出センサ43とを有する医療デバイス20と、圧力検出センサ42および心筋障害マーカー量検出センサ43にそれぞれ血圧と心筋障害マーカー量を測定させる制御部30と、制御部30が測定させた血圧と心筋障害マーカー量を記憶する記憶部31と、を有し、制御部30は、医療デバイス20が心外膜冠動脈Tの第1部位P1に位置した状態で、圧力検出センサ42で血圧を測定し、心筋障害マーカー量検出センサ43で心筋障害マーカー量を測定し、第1部位P1で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部31に記憶させ、医療デバイス20が冠微小血管の第2部位P2に位置した状態で、圧力検出センサ42で血圧を測定し、心筋障害マーカー量検出センサ43で心筋障害マーカー量を測定し、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを記憶部31に記憶させ、記憶部31に記憶された第1部位P1で測定した血圧と心筋障害マーカー量と、第2部位P2で測定した血圧と心筋障害マーカー量とを比較し、第2部位P2における冠微小血管障害を評価する。このように構成した血管障害評価システムは、心外膜冠動脈Tにおける測定値と冠微小血管における測定値とを比較して冠微小血管障害を評価するので、どの冠微小血管で障害が生じているかを特定でき、適切な処置につなげることができる。また、本発明の血管障害評価システムは、血圧に加えて心筋障害マーカー量を測定するので、冠微小血管機能障害の発生状態を適切に評価できる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。本実施形態では、ガイディングカテーテル100を左冠動脈の入口に係合させて、左冠動脈につき血管障害を評価しているが、ガイディングカテーテル100を右冠動脈の入口に係合させて、右冠動脈につき血管障害を評価してもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 血管障害評価システム
20 医療デバイス
30 制御部
31 記憶部
40 本体部
41 先端チップ
42 圧力検出センサ
43 心筋障害マーカー量検出センサ
50 医療デバイス
51 基端側圧力検出センサ
52 先端側圧力検出センサ
53 温度センサ
100 ガイディングカテーテル
R 冠動脈入口
S 冠動脈
T 心外膜冠動脈
U 前細動脈
Y 細動脈
P1 第1部位
P2 第2部位