(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033303
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】廃電池の放電方法及びリチウムイオン二次電池のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136814
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】仲本 朝嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】林田 直樹
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE02
5H031HH00
5H031HH09
5H031RR01
(57)【要約】
【課題】安全性の高い廃電池の放電方法及びリチウムイオン二次電池のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この廃電池の放電方法は、導電性粉体を含み安息角20度以下の粉体に、廃電池を接触させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉体を含み安息角20度以下の粉体に、廃電池を接触させる、廃電池の放電方法。
【請求項2】
前記導電性粉体のメディアン径が、500μm以上である、請求項1に記載の廃電池の放電方法。
【請求項3】
前記導電性粉体が鱗片状黒鉛である、請求項1に記載の廃電池の放電方法。
【請求項4】
請求項1に記載の廃電池の放電方法を用いて廃電池を放電する放電工程を有する、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電池の放電方法及びリチウムイオン二次電池のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属が含まれ、これらの有価金属の回収が求められている。
【0004】
廃電池をリサイクルする際に、安全性の確保の観点から廃電池の残留電力を放電することが行われている。廃電池を塩化ナトリウム水溶液に浸漬することで、廃電池を放電することができる。しかしながら、この方法では、廃電池の正極端子が放電中に電気化学的に酸化溶解し、完全放電しない場合がある。また塩化ナトリウム水溶液は、廃電池を腐食させるため、後工程に悪影響を及し、有価金属の収率や品質の低下を及ぼす。
【0005】
例えば、特許文献1には、溶液に浸漬させずに、廃電池を放電できる方法が開示されている。特許文献1に開示の廃電池の処理方法は、導電性粉体に廃電池を埋め込み、圧力を加えることで放電を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放電が急速に生じると、放電を担う導電性粉体の導電率が急上昇し、廃電池が発熱、発火する場合がある。また廃電池が発火すると、導電性粉体が粉塵爆発を生じる場合もある。つまり、特許文献1に記載の廃電池の処理方法は、安全性の観点で懸念がある。
【0008】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、安全性の高い廃電池の放電方法及び電池のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる廃電池の放電方法は、導電性粉体を含み安息角20度以下の粉体に、廃電池を接触させる。
【0011】
(2)上記態様にかかる廃電池の放電方法において、前記導電性粉体のメディアン径が、500μm以上でもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかる廃電池の放電方法において、前記導電性粉体が鱗片状黒鉛でもよい。
【0013】
(4)第2の態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、上記態様にかかる廃電池の放電方法を用いて廃電池を放電する放電工程を有する。
【発明の効果】
【0014】
上記態様に係る廃電池の放電方法及びリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法のフロー図である。
【
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、回収対象となる廃電池の一例の模式図である。
【
図4】鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、球状化黒鉛の一例の電子顕微鏡像である。
【
図5】実施例1の廃電池を放電する際の処理画像である。
【
図6】実施例1~3及び比較例1~8における電池の放電結果を示す。
【
図7】比較例1の廃電池を放電する際の処理画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
図1は、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法の一例のフロー図である。本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、例えば、回収工程S1と放電工程S2と分解工程S3と熱処理工程S4と粉砕工程S5と粒径調整工程S6と精製工程S7と再生工程S8とを含む。
【0018】
回収工程S1では、使用済みの廃電池を回収する。廃電池は、例えば、リチウムイオン二次電池である。回収工程S1は、他の業者が行ってもよく、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法では、回収済みの廃電池をリサイクル処理してもよい。
【0019】
図2は、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、回収対象となる廃電池の一例の模式図である。リチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
図2では、外装体50内に発電素子40が一つの場合を例示したが、発電素子40が複数積層されていてもよい。またリチウムイオン二次電池100は、円筒型、角型、ラミネート型、ボタン型等のいずれでもよい。発電素子40は、セパレータ10と正極20と負極30とを備える。
【0020】
正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0021】
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。
【0022】
正極活物質層24は、例えば、正極活物質を含む。正極活物質層24は、必要に応じて、導電助剤、バインダーを含んでもよい。
【0023】
正極活物質は、イオンの吸蔵及び放出、イオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、イオンとイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6
-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。イオンとしては、リチウム、マグネシウム等を用いることができる。
【0024】
正極活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンなどが挙げられる。
【0025】
導電助剤は、正極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤は、例えば、カーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、導電性酸化物である。カーボン粉末は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等である。金属微粉は、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の粉である。正極活物質層24におけるバインダーは、正極活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。
【0026】
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に接する。
【0027】
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0028】
負極活物質層34は、負極活物質とバインダーとを含む。負極活物質層34は、必要に応じて導電助剤を含んでもよい。
【0029】
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム合金、炭素材料、リチウムと合金化できる物質である。炭素材料は、例えば、イオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等である。リチウムと合金化できる物質は、例えば、シリコン、スズ、亜鉛、鉛、アンチモンである。リチウムと合金化できる物質は、例えば、これらの単体金属でも、これらの元素を含む合金又は酸化物でもよい。またリチウムと合金化できる物質は、その表面の少なくとも一部が導電性材料(例えば、炭素材料)等で被覆された複合体でもよい。
【0030】
負極活物質層34に用いられる導電助剤及びバインダーは、正極活物質層24と同様のものを用いることができる。
【0031】
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0032】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリオレフィンフィルムの単層体又は積層体である。セパレータ10は、ポリエチレンやポリプロピレン等の混合物の延伸膜でもよい。セパレータ10は、セルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布でもよい。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。セパレータ10は、無機コートセパレータでもよい。
【0033】
電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解塩とを有する。電解塩は、非水溶媒に溶解している。電解液は、公知の電解液を用いることができる。電解液は、例えば、非水溶媒と電解質塩とを含む。
【0034】
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。外装体50は、例えば
図2に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、例えば、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。金属箔52は、例えばアルミ箔である。樹脂層54は、例えば、ポリプロピレン等の高分子膜である。
【0035】
端子60、62のそれぞれは、正極20又は負極30に接続されている。正極20に接続された端子62は正極端子であり、負極30に接続された端子60は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。
【0036】
次いで、放電工程S2を行う。放電工程S2は、リチウムイオン二次電池100の残留電荷を放電する。放電工程S2は、本実施形態にかかる廃電池の放電方法を用いて行う。
【0037】
放電工程S2では、回収した廃電池を所定の粉体と接触させる。廃電池は、所定の粉体に載置してもよいし、所定の粉体に押し当ててもよいし、所定の粉体内に埋めてもよいし、所定の粉体中で転がしてもよい。放電工程S2では、廃電池に荷重を加えてもよいし、加えなくてもよい。本実施形態にかかる廃電池の放電方法は、所定の粉体を用いるため、廃電池に荷重を加えても、過剰な発熱等は生じにくい。廃電池に荷重を加えると、廃電池の放電効率が高まる。
【0038】
廃電池を接触させる粉体の安息角は、20度以下である。安息角は、粉体が滑り出さない限界の角度である。
図3は、安息角を説明するための模式図である。
図3に示すように、安息角θは、粉体1を円錐状に積み上げた際に、水平面2と傾斜面3とのなす角である。安息角は、ホソカワミクロン製パウダテスタPT-X型を用いて求めることができる。当該装置の試料フォルダに粉体を載せ、振幅1mm、動作時間170秒の条件で測定する。安息角θが小さい粉体1は、流動性が高い。
【0039】
廃電池を接触させる粉体の崩壊角は、例えば、18度以下である。崩壊角は、安息角の状態の粉体に、一定の衝撃を与えて崩れた時の水平面2と傾斜面3とのなす角である。崩壊角は、上記のホソカワミクロン製パウダテスタPT-X型を用いて測定できる。一定の衝撃は、160mmの高さからの落下の衝撃に対応する衝撃を3回与える。
【0040】
粉体は、導電性粉体を含む。粉体は、導電性粉体からなってもよい。粉体は、導電性粉体と安息角の小さい他の粉体との混合物でもよい。安息角の小さい他の粉体は、例えば、シリコン粒子である。導電性粉体の安息角は、導電性粉体を含む粉体の安息角が20度以下となれば特に問わない。例えば、導電性粉体の安息角が大きい場合は、安息角の小さい他の粒子と混合することで、粉体全体の安息角は小さくなる。粉体全体の安息角を小さくするためには、導電性粉体の安息角も20度以下であることが好ましい。
【0041】
導電性粉体は、例えば、炭素材料の粉体、金属の粉体等である。炭素材料の粉体は、例えば、黒鉛である。黒鉛の形状は、鱗片状でも、薄片状でも、球状でもよい。鱗片状黒鉛は、薄片状の黒鉛粒が重なり合った構造をしており、層間が剥がれやすいため潤滑性が有り流動性に優れる。
図4は、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、球状化黒鉛の一例の電子顕微鏡像である。
図4(a)は、鱗片状黒鉛の画像であり、
図4(b)は薄片化黒鉛の画像であり、
図4(c)は球状化黒鉛の画像である。薄片化黒鉛は鱗片状黒鉛を剥がして薄片化したものであり、球状化黒鉛は薄片化黒鉛の角を削って球状にしたものである。
【0042】
粉体のメディアン径(D50)は問わないが、例えば500μm以上であることが好ましい。また導電性粉体のメディアン径(D50)は問わないが、例えば500μm以上であることが好ましい。粉体のメディアン径は、粉体の流動性に影響を及ぼす。粉体のディアン径を制御することで、粉体の流動性を制御できる。また粉体のメディアン径が大きいと、放電により導電性粉体が発熱しても、粉塵爆発等が生じにくい。一方、粉体の導電率をできるだけ抑えるという観点では、粉体のメディアン径は600μm以下であってもよい。
【0043】
粉体の密度は問わないが、例えば0.50g/cm3以上であることが好ましい。また導電性粉体の密度は問わないが、例えば0.50g/cm3以上であることが好ましい。粉体の密度は、粉体の流動性に影響を及ぼす。粉体の密度を制御することで、粉体の流動性を制御できる。また密度が高い導電性粉体は、導電性が高く、廃電池を効率的に放電できる。
【0044】
次いで、分解工程S3を行う。分解工程S3では、リチウムイオン二次電池100から有価金属を含む部材を取り出す。有価金属を含む部材は、例えば、正極20である。分解工程S3で有価金属を含む部材を他の部材と分離することで、ブラックマスに含まれる回収対象以外の不純物量を減らすことができる。ブラックマスは、熱処理工程S4及び粉砕工程S5後の選別対象となる試料である。分解工程S3は、行わなくてもよい。分解工程S3を省くことで、手間とコストを削減できる。
【0045】
次いで、熱処理工程S4を行う。熱処理工程S4では、少なくとも正極活物質層24を熱処理する。熱処理は、例えば、焼成処理である。分解工程S3を行った場合は、正極活物質層24又は正極20を焼成してもよい。分解工程S3を行わない場合は、リチウムイオン二次電池100全体を焼成してもよい。熱処理工程S4の温度は、例えば、600℃である。
【0046】
次いで、粉砕工程S5を行う。粉砕工程S5では、熱処理後の試料を粉砕する。熱処理後の試料を粉砕することで、ブラックマスが得られる。粉砕は、公知の方法で行うことができる。例えば、二軸破砕機、ハンマーミル等の破砕装置を用いて粉砕工程S5を行うことができる。正極集電体22、負極集電体32は、展性があり、粉砕工程S5を行うと1mm以上の粒子になりやすい。正極活物質、負極活物質は、粉砕工程S5を行うと1mm未満の粒子になりやすい。
【0047】
次いで、粒径調整工程S6を行う。粒径調整工程S6は、例えば、篩分けで行うことができる。粒径調整工程S6は、行わなくてもよい。粒径調整工程S6では、例えば、平均粒径を100μm以下の粒子を取得する。粒径調整工程S6を行うと、例えば、正極集電体22及び負極集電体32由来の1mm以上の粒子を除去できる。また粒径を揃えることで、精製工程S7における選別効率を高めることができる。
【0048】
ブラックマスをスラリー化する場合は、例えば、粉砕した微粉を水又は有機溶剤に加えることで行う。また微粉に水を加えた懸濁スラリーに界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を加えると、負極活物質由来のカーボンと正極活物質由来の微粉とを、液中に均一に分散させることができる。
【0049】
次いで、精製工程S7を行う。精製工程S7の方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、ブラックマスを酸溶解後に抽出剤を用いて溶媒抽出を行うことで、有価金属を選別できる。この他、比重の違いを利用した比重分離、風力選別等も、精製工程S7に適用できる。
【0050】
精製後のサンプルは、例えば、水洗する。懸濁スラリーを用いた場合は、界面活性剤が付着している場合があり、水洗することで、界面活性剤を除去できる。
【0051】
次いで、再生工程S8を行う。再生工程S8では、回収された試料を、再度リチウムイオン二次電池に再利用する。
【0052】
本実施形態にかかる廃電池の放電方法は、流動性の高い粉体を用いて廃電池を放電することで、急速な放電による廃電池の発熱を抑制できる。廃電池の発熱は、廃電池の発火、粉体の粉塵爆発の原因となりえる。廃電池の発熱を抑制することで、安全に廃電池を放電できる。また本実施形態にかかる廃電池の放電方法は、廃電池と粉体とを接触させるだけでよく、過剰な設備投資が不要であり、安価である。さらに、流動性の高い粉体は、処理後の廃電池に付着しにくく、粉体が後工程に悪影響を及ぼすことを避けることができる。
【0053】
また本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、上述の廃電池の放電方法を用いるため安全性が高い。またリチウムイオン二次電池をリサイクルすることで、エネルギーの安定供給に寄与し、持続可能な開発目標に貢献する。
【0054】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0055】
「実施例1」
図5は、実施例1の処理を説明するための画像である。まず廃電池を準備した。廃電池は、サイズ規格18650のリチウムイオン電池であり、電極端子は鉄及びニッケル等の金属で構成されている。
図5の左図が、準備した廃電池の画像である。
【0056】
次いで、粉体を準備した。粉体として鱗片状黒鉛を用いた。粉体のメディアン径は583μmであり、密度は0.55g/cm3であった。粉体の安息角は、ホソカワミクロン株式会社製パウダテスタPT-X型を用いて測定した。粉体の安息角は20.0°であった。また堆積した円錐状の粉体に、上記パウダテスタを用いて高さ160mmからの落下による衝撃を3回与えた後の粉体の崩壊角は、17.2°であった。
【0057】
次いで、粉体と廃電池とを接触させた。
図5の中央図は、粉体と廃電池とを接触させている際の画像である。粉体を廃電池に押し当てた。
図5の右図は、廃電池を粉体から取り出した後の画像である。
図5の右図に示すように、粉体は廃電池があった部分に向かって流動し、堆積物に凹みが生じた。
【0058】
そして、廃電池の残留電圧の時間変化を求めた。廃電池の残留電圧は、回路計で測定した。廃電池の残留電圧は、廃電池と粉体とを接触させてから、1時間経過、2時間経過、3時間経過、5時間経過、7時間経過、23時間経過のそれぞれで測定した。測定した結果を
図6に示す。
【0059】
「実施例2」
実施例2は、粉体のメディアン径、密度を変更した点が実施例1と異なる。実施例2の粉体のメディアン径、密度等は表1にまとめた。そして、実施例1と同様の方法で、粉体の安息角及び崩壊角を測定し、廃電池の残留電圧の時間変化を求めた。測定した結果を
図6に示す。
【0060】
「実施例3」
実施例3は、粉体のメディアン径を変更した点が実施例1と異なる。実施例3の粉体のメディアン径は表1にまとめた。そして、実施例1と同様の方法で、粉体の安息角及び崩壊角を測定し、廃電池の残留電圧の時間変化を求めた。測定した結果を
図6に示す。
【0061】
「比較例1,2」
比較例1,2は、粉体のメディアン径、密度を変更した点が実施例1と異なる。比較例1、2の粉体のメディアン径、密度等は表1にまとめた。そして、実施例1と同様の方法で、粉体の安息角及び崩壊角を測定し、廃電池の残留電圧の時間変化を求めた。測定した結果を
図6に示す。
【0062】
「比較例3~5」
比較例3~5は、粉体を球状化黒鉛とした点が実施例1と異なる。比較例3~5の粉体のメディアン径、密度等は表1にまとめた。比較例3~5のそれぞれは、粉体のメディアン径及び密度が異なる。比較例3~5の粉体の安息角及び崩壊角、比較例3~5の廃電池の残留電圧の時間変化は、実施例1と同様の方法で求めた。測定した結果を
図6に示す。
【0063】
「比較例6~8」
比較例6~8は、粉体を薄片化黒鉛とした点が実施例1と異なる。比較例6~8の粉体のメディアン径、密度等は表1にまとめた。比較例6~8のそれぞれは、粉体のメディアン径及び密度が異なる。比較例6~8の粉体の安息角及び崩壊角、比較例6~8の廃電池の残留電圧の時間変化は、実施例1と同様の方法で求めた。測定した結果を
図6に示す。
【0064】
【0065】
図6に示すように、実施例1~実施例3は、比較例1~8と比較して放電が緩やかに進行した。これは、粉体の流動性が高いことで、廃電池と接触した場合にも粉体が流動し、粉体に荷重が加わりにくいためと考えられる。粉体の流動性が低いと、廃電池と粉体とが接触する部分の近傍の粉体の密度が局所的に高くなる。粉体の密度が高まると、粉体間の導電性が局所的に高まり、発熱しやすくなる。これに対し、実施例1~実施例3の粉体は、流動性が高く、密度の局所的な高まりに伴う急激な放電を避けることができる。そのため、
図6に示すように実施例1~実施例3は、放電曲線が緩やかであると考えられる。
【0066】
また
図7は、比較例5の処理を説明するための画像である。
図7の左図は、準備した廃電池の画像である。
図7の中央図は、粉体と廃電池とを接触させている際の画像である。粉体を廃電池に押し当てた。
図7の右図は、廃電池を粉体から取り出した後の画像である。比較例5に示す粉体は、安息角が45.1°であり、流動性が低い。そのため、粉体から廃電池を取り除いても、流体は崩壊せず、廃電池の跡がそのまま残った。