(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033341
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】四核化配位子、核酸切断剤、抗がん剤又は四核金属錯体
(51)【国際特許分類】
C07D 213/40 20060101AFI20240306BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240306BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20240306BHJP
A61K 31/30 20060101ALI20240306BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240306BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20240306BHJP
【FI】
C07D213/40
A61P35/00
A61K31/444
A61K31/30
C09K3/00 108D
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136865
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 政人
(72)【発明者】
【氏名】徳永 拓人
(72)【発明者】
【氏名】畑 真知
【テーマコード(参考)】
4B063
4C055
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA11
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR66
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX02
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA06
4C055BA28
4C055BB04
4C055BB11
4C055CA01
4C055DA01
4C055EA03
4C055GA02
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC17
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JB01
4C206KA13
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB26
(57)【要約】
【課題】簡易に合成でき的確な抗がん作用を有する四核金属錯体を提供する。
【解決手段】下記化学式(V)で示される四核金属錯体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)で示されることを特徴とする四核化配位子(下記式において、(i)XはH、OMe、Cl、Br、I、Me、NY
2、CO
2Y又はCOYY’であり、(ii)Y、Y’はH又はalkylであり、nは1~8である。)。
【化1】
【請求項2】
下記化学式(II)又は(III)で示されることを特徴とする請求項1に記載の四核化配位子。
【化2】
【化3】
【請求項3】
請求項1又は2項に記載の四核化配位子を有することを特徴とする核酸切断剤。
【請求項4】
請求項1又は2項に記載の四核化配位子を有することを特徴とする抗がん剤。
【請求項5】
下記化学式(IV)で示されることを特徴とする四核金属錯体(下記式において、(i)XはH、OMe、Cl、Br、I、Me、NY
2、CO
2Y又はCOYY’であり、(ii)Y、Y’はH又はalkylであり、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn又はCeであり、nは1~8である。)。
【化4】
【請求項6】
下記化学式(V)又は(VI)で示されることを特徴とする請求項5に記載の四核金属錯体。
【化5】
【化6】
【請求項7】
請求項5又は6項に記載の四核金属錯体を有することを特徴とする核酸切断剤。
【請求項8】
請求項5又は6項に記載の四核金属錯体を有することを特徴とする抗がん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四核化配位子又はその四核化配位子を有する四核金属錯体等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する化学療法剤として臨床に用いられている金属錯体にシスプラチンがある。シスプラチンは、直接がん細胞のDNAに結合してDNAの立体構造をゆがませることにより抗がん作用を示す。しかし、シスプラチンは、嘔吐、腎毒性といった副作用を示す場合があり、また近年ではシスプラチン耐性がんも報告されている(非特許文献1)。そこでシスプラチンに代わる化学療法薬が求められる。
【0003】
例えばブレオマイシンは、がん細胞の中で鉄と結びついて酸素を活性化させ、それによってDNA鎖を切断してがん細胞の増殖を抑制する(非特許文献2)。ブレオマイシンは、人の皮膚、頭頸部、子宮頸部等の扁平上皮がんや悪性リンパ腫に対する優れた化学療法剤として臨床医学で広く使用されている。しかしながら、ブレオマイシンは、放線菌Streptomyces verticillusから得られる水溶性の糖ペプチド抗生物質であり、微生物に依存しない簡易な合成法により得られる化学療法薬が求められる。
【0004】
また、例えばブレオマイシンの活性中心を模倣したN4Py配位子の鉄錯体は、過酸化水素(H2O2)と反応して活性種を形成し、それがDNAを酸化的に切断して抗がん活性を示すことが報告されている(非特許文献3)。しかし、この鉄錯体はH2O2が存在しない条件下においても高い切断活性を有するため、正常細胞とがん細胞の選択性を有さない。そこで、正常細胞とがん細胞の選択性を有する金属錯体の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Kadoya, M. Hata, Y. Tanaka, A. Hirohata, Y. Hitomi and M. Kodera, Inorg. Chem. 2021, 60, 5474-5482.
【非特許文献2】H. Umezawa, K. Maeda, T. Takeuchi, Y. Okami, J. Antibiot., 19 A, 200 (1966).
【非特許文献3】Q. Li, M. G. P. Wijst, H. G. Kazemier, M. G. Rots, G. Roelfes, ACS Chem. Biol., 9, 1044-1051 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がん細胞はH2O2や還元性物質の濃度が正常細胞より高い。そこで、がん細胞毒性を示す金属錯体を合成できれば、これを用いて選択的にがん細胞を死滅させる副作用の少ない抗がん剤の開発を実現できる。我々はp-cresolの2,6位にアミド基でdpaを導入した二核化配位子の二核銅錯体が過酸化水素の活性化、又はアスコルビン酸ナトリウムAscNaを還元剤とする酸素分子活性化でDNAの酸化切断を大きく加速する事を見出した。しかし、この錯体は細胞毒性が低く、改善が必要であった。
【0007】
本発明は、正常細胞に影響が少なく、がん細胞のDNA切断作用を的確に有する四核化配位子又は四核金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
がん細胞に対する細胞毒性を向上させるため、(1)DNA酸化切断活性、(2)錯体の細胞導入の向上などが必要である。本発明では、様々なリンカーを用いて二量化し、さらにピリジル基に置換基を導入した配位子の四核銅錯体を開発し、問題点を解決した。本発明にかかる四核化配位子は下記化学式(I)で示される。
【0009】
【0010】
ここで、(i)XはH、OMe、Cl、Br、I、Me、NY2、CO2Y又はCOYY’であり、(ii)Y、Y’はH又はalkylである。
【0011】
また、本発明にかかる四核金属配錯体は下記化学式(IV)で示される。
【0012】
【0013】
ここで、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、Re、Ru、Rh、Pd、Pt又はCeである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、正常細胞に影響が少なく、がん細胞のDNA切断作用を的確に有する四核化配位子又は四核金属錯体を簡易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明にかかる四核化配位子の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】本発明にかかる四核化配位子の ESI-MSスペクトルを示す図である。
【
図3】本発明にかかる四核化配位子の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図4】本発明にかかる四核化配位子のESI-MSスペクトルを示す図である。
【
図5】本発明にかかる四核化配位子の
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図6】本発明にかかる四核化配位子のESI-MSスペクトルを示す図である。
【
図7】本発明にかかる四核錯体のESI-MSスペクトルを示す図である。
【
図8】本発明にかかる四核錯体のESI-MSスペクトルを示す図である。
【
図9】本発明にかかる四核錯体のESI-MSスペクトルを示す図である。
【
図10】本発明にかかる四核金属錯体の酸化的切断反応の錯体濃度依存を示す図である。
【
図11】本発明にかかる四核金属錯体の酸化的切断反応の錯体濃度依存を示す図である。
【
図12】本発明にかかる四核金属錯体の酸化的切断反応の錯体濃度依存を示す図である。
【
図13】本発明にかかる四核金属錯体の酸化的切断反応の錯体濃度依存を示す図である。
【
図14】本発明にかかる四核金属錯体の酸化的切断反応の錯体濃度依存を示す図である。
【
図15】本発明にかかる四核金属錯体の細胞毒性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
本発明者は、鋭意研究の結果、下記式にかかる四核化配位子の四核金属錯体が高い核酸切断作用を有することを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0018】
【0019】
ここで、(i)XはH、OMe、Cl、Br、I、Me、NY2、CO2Y又はCOYY’であり、(ii)Y、Y’はH又はalkylである。またnは1~8である。
【0020】
なお下記式にかかる四核化配位子も高い核酸切断作用を有する。nは1~8である。
【0021】
【0022】
ここで、(i)XはH、OMe、Cl、Br、I、Me、NY2、CO2Y又はCOYY’であり、(ii)Y、Y’はH又はalkylである。またnは1~8である。
【0023】
本発明においては、下記化学式(II)又は(III)で示される四核化配位子が好ましい。
【0024】
【0025】
【0026】
また、本発明者は、下記式にかかる四核金属錯体が高い核酸切断作用を有することを新知見として見出した。ここで、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、Re、Ru、Rh、Pd、Pt又はCeである。またnは1~8である。
【0027】
【0028】
なお下記式にかかる四核金属錯体も高い核酸切断作用を有する。nは1~8である。
【0029】
【0030】
本発明においては、下記化学式(V)又は(VI)で示される四核金属錯体が好ましい。
【0031】
【0032】
【0033】
上述において、切断される核酸は、DNA又はRNAである。
【0034】
また、本発明にかかる四核化配位子及び四核金属錯体は高い核酸切断作用を有するため、例えば遺伝子構造の解析ツールとして使用できる。また、本発明にかかる四核化配位子及び四核金属錯体は、がん細胞の核酸を切断できるため、抗がん剤として使用できる。正常細胞では例えばカタラーゼのような消去酵素を持っているため、過酸化水素を水と酸素に分解できるが、がん細胞ではカタラーゼ等の酵素をほとんど有しないため正常細胞のようにH2O2を分解できず、そのためがん細胞内では正常細胞と比較してH2O2濃度が高い。さらに、がん細胞では恒常性の為に、還元性物質の濃度も高い。本発明にかかる四核化配位子の四核金属錯体は、化合物とH2O2や還元性物質との反応だけで核酸の切断が可能で有り、がん細胞の核酸を特異的に切断可能である。そのため、本発明によれば、正常細胞に対する影響が少ない。また本発明にかかる四核金属錯体は、4つの金属イオン(例えば4つの銅イオン)のうち2つずつの2か所でH2O2を結合するので、H2O2の活性化能力が高い。そのため生体内で用いられた場合でも微量の過酸化水素と反応して高い核酸切断活性を示す。さらに本発明にかかる四核金属錯体還元性物質と反応して4つの金属イオン(例えば4つの銅イオン)が還元された後、酸素分子を活性化することで活性酸素種を生成する。4つの金属イオンを有する為、酸素分子の活性化に必要な3電子を細胞内でも容易に提供でき、ヒドロキシラジカルHO・を容易に生成し、これが高い核酸切断活性を示す。
【0035】
本発明にかかる四核化配位子及び四核金属錯体は、種々のがんに対して使用可能であり、特に限定されるものではないが、例えば、大腸がん、胃がん、食道がん、結腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、胆嚢がん、胆管がん、胆道がん、直腸がん、卵巣がん、子宮がん、腎がん、膀胱がん、前立腺がん、骨肉腫、脳腫瘍、白血病、筋肉腫、皮膚がん、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、舌がん、骨髄腫、甲状腺がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫等の治療に用いることができる。
【0036】
本発明にかかる四核化配位子及び四核金属錯体を有する抗がん剤の投与形態は、特に限定されるものではなく、経口又は非経口のいずれの投与形態でもよい。また、投与形態に応じて適当な剤形とすることができ、例えば注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤等の経口剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水性坐剤等の各種製剤に調製することができる。
【0037】
各種製剤は、薬理的に許容される添加剤、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、界面活性剤、流動性促進剤等を適宜添加して調製できる。賦形剤として、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット等、結合剤として、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等、滑沢剤として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール等、崩壊剤として、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム等、界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等、流動性促進剤として、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を使用可能である。
【0038】
本発明にかかる四核化配位子及び四核金属錯体を有する抗がん剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別、症状の程度等を考慮して適宜決定されるが、例えば、成人1日当り10~800mg好ましくは100~200mgで、これを1日1回又は数回に分けて投与できる。
【実施例0039】
(1)1,3-bis(N-(N-(8-(2,6-bis(N,N-bis(2-pyridylmethyl)carbamoyl)-1-hydroxy)-4-benzamide)-3,6-dioxaoctyl))benzamide (H
2L1)の合成
isophthalic acid (10.9 mg, 65.6 μmol)をDMSO (1 mL)に溶かしたものを回転子入りの25 mL のナスフラスコに入れ、60°C下で攪拌しながらHATU (54.3 mg, 142 μmol)とDIPEA (42 μL)を加えた。そこにN-(8-amino-3,6-dioxaoctyl)-2,6-bis(N,N-bis(2-pyridylmethyl)carbamoyl)-1-hydroxy-4-benzamide (187.3 mg, 261 μmol)をDMSO (2 mL)に溶かして滴下し、一晩攪拌した。攪拌後、H
2O (30 mL)及びCH
2Cl
2(50 mL×3)で分液した。有機層を取り出しNa
2SO
4で脱水した後、ヌッチェでろ過した。ろ液を減圧留去及び真空乾燥した後、最小量のCHCl
3 に溶解させ,アルミナカラムクロマトグラフィー (gradient CHCl
3/MeOH from1/30 to 1/5)及びHPLCで精製を行い、無色の油状物質を得た(34.5 mg, Yield 34%)。NMRスペクトルとESI MSスペクトルを
図1、2に示す。
1H NMR (500 MHz, CDCl
3); δ/ppm: 8.44-8.54 (m, 8H, CH), 8.26 (s, 1H, CH), 7.96 (s, 4H, CH), 7.86 (d, J = 5.7 Hz, 2H, CH), 7.71 (t, J = 7.5 Hz, 4H, CH), 7.61 (t, J = 6.8 Hz, 4H, CH), 7.48 (d, J = 7.5 Hz, 4H, CH), 7.28 (s, 1H, CH), 7.19-7.26 (m, 8H, CH), 7.10-7.19 (m, 8H, CH, NH), 4.90 (s, 8H, CH
2), 4.59 (s, 8H, CH
2), 3.50-3.68 (m, 24H, CH
2)
【0040】
【0041】
(2) 1,4-bis(N-(N-(8-(2,6-bis(N,N-bis(2-pyridylmethyl)carbamoyl)-1-hydroxy)-4-benzamide)-3,6-dioxaoctyl))benzamide (H
2L2)の合成
N-(8-amino-3,6-dioxaoctyl)-2,6-bis(N,N-bis(2-pyridylmethyl)carbamoyl)-1-hydroxy-4-benzamide (90.8 mg, 126 μmol)の入った100 mL の2口ナスフラスコにHATU (88.0 mg, 231.5 μmol)とDIPEA (30 μL)を加え、DMSO (8 mL)を加えた。そこにterephthalic acid(10.0 mg, 60.1 μmol)をDMSO (7 mL)に溶かしたものをゆっくりと滴下した後、一晩攪拌した。ESI-MSで反応追跡した後、H
2O (30 mL)及びCH
2Cl
2 (50 mL×3)で分液した。有機層を取り出しNa
2SO
4で脱水した後、ヌッチェでろ過し、ロータリーエバポレーターで濃縮を行った。真空乾燥した後、最小量のCHCl
3 に溶解させ、アルミナカラムクロマトグラフィー(gradient CHCl
3/MeOH from1/30 to 1/5)及びHPLCで精製を行い、無色の油状物質を得た(47.0 mg, Yield 24%)。NMRスペクトルとESI MSスペクトルを
図3、4に示す。
1H NMR (500 MHz, CDCl
3); δ/ppm:8.44-8.54 (m, 8H, CH), 7.92 (s, 4H, CH), 7.80 (t, J = 5.7 Hz, 2H, NH), 7.75 (t, J = 7.4 Hz, 4H, CH), 7.65 (s, 4H, CH), 7.61 (t, J = 7.4 Hz, 4H, CH), 7.50 (d, J = 7.4 Hz, 4H, CH), 7.23-7.26 (m, 4H, CH), 7.12-7.22 (m, 8H, CH), 7.03 (t, J = 5.7 Hz, 2H, NH), 4.92 (s, 8H, CH
2), 4.60 (s, 8H, CH
2), 3.51-3.68 (m, 24H, CH
2)
【0042】
【0043】
(3) 四核化配位子(H
2L3)の合成
DMSO中に溶解させたHATU (31.1 mg, 82.0 μmol)とisophthalic acid (6.20 mg, 37.0 μmol)を30分間反応させた後, そこにN-(8-Amino-3,6-dioxaoctyl)-2,6-di(N,N-bis(2-(4-methoxypyridyl)methyl)carbamoyl)-1-hydoroxy-4-benzamide (62.4 mg, 74.0 μmol)とDIPEA (78 μL)を加えた. 一晩攪拌した後, H
2O (30 mL)及びCH
2Cl
2 (50 mL×3)で分液した。有機層を取り出しNa
2SO
4で脱水した後、ヌッチェでろ過し、ロータリーエバポレーターで濃縮を行った。真空乾燥した後、最小量のCHCl
3 に溶解させ,アルミナカラムクロマトグラフィー(gradient CHCl
3/MeOH from1/30 to 1/5)及びHPLCを用いることで精製を行い、無色の油状物質を得た(21.0 mg, Yield 16%)。NMRスペクトルとESI MSスペクトルを
図5、6に示す。
1H NMR (500 MHz, CDCl
3); δ/ppm: 8.20-8.56 (m, 8H, CH), 7.90 (bs, 4H, CH), 7.86 (d, J = 7.5 Hz, 2H, CH), 7.75 (s, 1H, CH), 7.28 (s, 1H, CH), 7.01 (bs, 4H, CH), 6.72 (bs, 4H, CH), 6.51-6.69 (m, 8H, CH), 4.84 (s, 8H, CH
2), 4.52 (s, 8H, CH
2), 3.42-4.05 (m, 48H, CH
, CH
2)
【0044】
【0045】
(4) 四核銅錯体の合成
(4-1) 四核銅錯体[Cu
4(μ-OAc)
4(L1)](OAc)
2(1)の合成
100 mLナスフラスコに回転子を入れ, CH
3CN (1 mL)に溶かしたCu
II(CH
3COO)
2 (16.5 mg, 90.0 μmol)を加え、その後CH
3CN (0.3 mL)に溶かしたH
2L1 (34.5 mg, 22.0 μmol)をパスツールでゆっくりと加えると溶液の色は緑色に変化した。ESI-MSで反応追跡を行った後、ロータリーエバポレーターで濃縮し少量のEt
2Oを加えると緑色の固体が析出した。これを桐山漏斗で吸引濾過すると緑色の固体を得た。ESI-MSスペクトルを
図7に示す。
【0046】
(4-2) 四核銅錯体[Cu
4(μ-OAc)
4(L2)](OAc)
2(2)の合成
100 mLナスフラスコに回転子を入れ, CH
3CN (1 mL)に溶かしたCu
II(CH
3COO)
2 (11.6 mg, 63.5 μmol)を加え、その後CH
3CN (0.3 mL)に溶かしたH
2L2 (25.0 mg, 15.9 μmol)をパスツールでゆっくりと加えると溶液の色は緑色に変化した。ESI-MSで反応追跡を行った後、ロータリーエバポレーターで濃縮し少量のEt
2Oを加えると緑色の固体が析出した。これを桐山漏斗で吸引濾過すると緑色の固体を得た。ESI-MSスペクトルを
図8に示す。
【0047】
(4-3) 四核銅錯体[Cu
4(μ-OAc)
4(L3)](OAc)
2(3)の合成
100 mLナスフラスコに回転子を入れ, CH
3CN (1 mL)に溶かしたCu
II(CH
3COO)
2 (8.44 mg, 48.5 μmol)を加え、その後CH
3CN (0.3 mL)に溶かしたH
2L3 (20.0 mg, 11.1 μmol)をパスツールでゆっくりと加えると溶液の色は緑色に変化した。ESI-MSで反応追跡を行った後、ロータリーエバポレーターで濃縮し少量のEt
2Oを加えると緑色の固体が析出した。これを桐山漏斗で吸引濾過すると緑色の固体を得た。ESI-MSスペクトルを
図9に示す。
【0048】
(5) H2O2存在下での四核金属錯体1, 2の酸化的切断反応の錯体濃度依存
錯体1, 2について、次に示す条件でのDNAの酸化切断を行った。本測定のために[NaCl] = 10 mM, [buffer] = 10 mM (pH 6.0 (MES)), [complex] = 0-30μM, [pUC19 DNA] = 50 μM bp, [H2O2] = 50 μMとなるように溶液を調製して、37°Cで測定を行った。
【0049】
この結果を
図10、11に示す。H
2O
2のみのblank実験においてDNAは全く切断されないことは当研究室が見出しており、錯体1, 2は錯体の濃度に依存して切断活性が大きく向上することが見出された。錯体1, 2は2つの二核構造を持つため、それぞれで2つの銅イオンがH
2O
2の酸素原子と結合し、容易に二核銅ハイドロパーオキソ錯体を2つ形成する。その為、錯体が低濃度でも容易にDNAを二本鎖切断すると考えられる。
【0050】
(6) AscNa存在下での四核銅錯体1-3の酸化的切断反応の錯体濃度依存
錯体1-3について、次に示す条件でのDNAの酸化切断を行った。本測定のために[NaCl] = 10 mM, [buffer] = 10 mM (pH 6.0 (MES)), [complex] = 0-10μM, [pUC19 DNA] = 50 μM bp, [AscNa] = 150 μMとなるように溶液を調製して、37°Cで測定を行った。
【0051】
この結果を
図12、13、14に示す。錯体1-3の不在下でAscNaのみのblank実験ではDNAは全く切断されない。一方、錯体1-3は濃度増加に伴いDNA切断を大きく加速することを見出した。錯体1-3の2つの二核銅はAscNaにより還元された後、酸素分子を活性化して活性酸素種としてヒドロキシラジカルHO・を生成する。錯体1-3は分子内に2つの二核銅を持つため、がん細胞内に存在する還元物質を利用して低濃度の錯体でも容易に酸素分子を3電子還元してヒドロキシラジカルHO・を生成することができ、DNAの二本鎖切断又は小胞体のストレス応答を通してがん細胞を選択的にアポトーシスへと誘導すると考えられる。
【0052】
(7) 四核錯体1, 3の細胞毒性
従来の二核錯体4と四核錯体1, 3による細胞毒性をMTT assayによって評価した。従来の二核錯体4は[Cu2(μ-OAc)2(bdpamide)](OAc)であり、Hbdpamideは下記式で表される。
【0053】
【0054】
細胞内に取り込まれたMTT〔3-(4, 5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2, 5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド〕は、ミトコンドリアにある脱水素酵素により還元され、ホルマザン色素が生じる。色素量は代謝活性のある細胞数と相関するため、これを比色法(吸光度570 nm)で定量することにより、生細胞数を測定した。MTT/培養液(0.25 mg/0.5 mL)を加えて37℃で180分間処理したHeLa細胞をマイクロチューブに入れ、生成したホルマリン色素の抽出を行った。抽出終了後、分光光度計を用いて570nmの吸光度を測定してデータを得た。この結果を
図15に示す。HeLa細胞を各錯体に暴露後24時間後の細胞毒性は、3 > 1 >> 4の順であった。錯体1, 3は四核構造を持つため、還元性物質との反応で還元された後に酸素分子を3電子還元する反応が細胞内でもスムーズに進行し、活性酸素種であるヒドロキシラジカルHO・の生成が、二核錯体4よりも容易になったと考えられる。これが錯体1の細胞毒性が錯体4よりも向上した理由である。さらに、3は1よりも高い細胞毒性を示した。これは、3は配位子に含まれるピリジル基の4位にMeO基を持つために疎水性が高く、細胞への取り込み量が増加したことが考えられる。また、4位MeO基の電子効果で酸素分子活性化の速度が大きくなったことが高い細胞毒性を実現したと考えられる。がん細胞選択的毒性については、四核錯体1は二核錯体4同程度であったが、ピリジル基にMeO基を持つ四核錯体3では大きく向上し、四核錯体3は、肺および膵臓のがん細胞に対して、それぞれの正常細胞に比べて6倍及び9倍細胞毒性が高いことがわかった。