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特開2024-33350ステントグラフト、ステントグラフトの展開方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033350
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ステントグラフト、ステントグラフトの展開方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/07 20130101AFI20240306BHJP
【FI】
A61F2/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136877
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】永野 順也
(72)【発明者】
【氏名】豊田 悠暉
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC12
4C097CC16
4C097EE08
4C097MM10
(57)【要約】
【課題】展開中に体液が流入した場合でも高精度に配置できるステントグラフト等を提供する。
【解決手段】ステントグラフト1は、軸方向に延びる筒状のステント2と、ステント2の周囲の少なくとも一部を被覆する第1グラフト部31と、第1グラフト部31と少なくとも一部が径方向に重複し、ステント2の周囲の少なくとも一部を被覆する第2グラフト部32と、ステント2の展開中に第1グラフト部31と第2グラフト部32の重複部分312に形成されて、体液がステント2の内部と外部の間で流通可能な体液流通部と、を備える。重複部分312では、第1グラフト部31の基端部が、それと重複する第2グラフト部32の先端部より外側に設けられ、体液流通部は、ステント2の展開中に基端部と先端部の間に形成される隙間であって、第1グラフト部31の先端部から流入した体液がステント2の内部から外部に流出可能である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる筒状のステントと、
前記ステントの周囲の少なくとも一部を被覆する第1グラフト部と、
前記第1グラフト部と少なくとも一部が径方向に重複し、前記ステントの周囲の少なくとも一部を被覆する第2グラフト部と、
を備え、
前記ステントの展開中に前記第1グラフト部と前記第2グラフト部の重複部分において、体液がステントグラフトの内部と外部の間で流通可能である、
ステントグラフト。
【請求項2】
前記重複部分では、前記第1グラフト部の基端部が、それと重複する前記第2グラフト部の先端部より外側に設けられ、
前記ステントの展開中に前記基端部と前記先端部の間に形成される隙間を通じて、前記第1グラフト部の先端部から流入した体液が前記ステントグラフトの内部から外部に流出可能である、
請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項3】
前記第1グラフト部には、前記ステントの径方向に貫通する貫通孔が形成されており、
前記第2グラフト部は、前記貫通孔を外側から被覆し、
前記ステントの展開中に前記第2グラフト部によって閉塞されない前記貫通孔を通じて、前記第1グラフト部の先端部から流入した体液が前記ステントグラフトの内部から外部に流出可能である、
請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項4】
展開後の前記ステントが前記第1グラフト部または前記第2グラフト部を内側から外側に付勢することで、体液が前記ステントグラフトの内部と外部の間で流通不能となる、
請求項1から3のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項5】
前記第1グラフト部および前記第2グラフト部の前記軸方向の重複寸法は、前記ステントの周方向に沿って変化する、請求項1から3のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項6】
前記ステントは、屈曲のある生体部位に挿入され、
前記重複部分のうち前記重複寸法が比較的大きい部分が、前記生体部位の曲率の小さい外側に配置され、
前記重複部分のうち前記重複寸法が比較的小さい部分が、前記生体部位の曲率の大きい内側に配置される、
請求項5に記載のステントグラフト。
【請求項7】
前記ステントを前記軸方向に二分した場合の少なくとも先端側において、前記ステントの展開中に体液が前記ステントグラフトの内部と外部の間で流通可能である、請求項1から3のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項8】
前記重複部分を構成する前記第1グラフト部および前記第2グラフト部の少なくともいずれかは、体液によって膨潤する膨潤材を備える、請求項1から3のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項9】
ステントグラフトの一端から当該ステントグラフトを展開し、
体液が前記ステントグラフトの内部と外部の間で流通可能な流路を開き、
前記ステントグラフトを展開し続けることにより前記流路を閉じる、
ステントグラフトの展開方法。
【請求項10】
筒状のステントと、
前記ステントの周囲の少なくとも一部を被覆するグラフトと、
前記ステントの展開動作初期に開いてステントグラフトの内部と外部との間で体液を流通可能にし、前記ステントの展開動作の進行に伴って閉じる弁構造と、
を備えるステントグラフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステントグラフト等に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントグラフトは、金属等の線材によって筒状に編まれたステントと、当該ステントの周囲を被覆するグラフトによって構成される医療機器である(例えば、特許文献1)。ステントグラフトは、血管、気管、消化管、総胆管、膵管等の体内の管状器官やそれらの接続部(出入口)、診断や処置のために体内に形成される孔(例えば胃や十二指腸球部から総胆管に穿刺される孔)等に挿入されて、目的部位にグラフトによる体液の流路を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-350785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
収縮状態で体内に挿入されるステントグラフトは、大動脈等の目的部位に到達すると展開される。後述する図1Bに示される例では、デリバリシステムDSの先端から展開されるステントグラフト1は、基端部がデリバリシステムDSに収納された状態で先端部から展開する。この時、大動脈AOの先端側(以下では中枢側、奥、先ともいい、その反対側を基端側、末梢側、手前等という)から血液等の体液が、展開中のステントグラフト1の先端部に流入する。ステントグラフト1の基端部はデリバリシステムDSに収納されて実質的に閉塞状態にあるため、先端部に流入した血液等の体液は基端部で堰き止められる。この結果、ステントグラフト1は先端部に流入した血液等の体液によって押し戻される力を受けるため、ステントグラフト1の配置精度が悪化してしまう恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、展開中に体液が流入した場合でも高精度に配置できるステントグラフト等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のステントグラフトは、軸方向に延びる筒状のステントと、ステントの周囲の少なくとも一部を被覆する第1グラフト部と、第1グラフト部と少なくとも一部が径方向に重複し、ステントの周囲の少なくとも一部を被覆する第2グラフト部と、を備え、ステントの展開中に第1グラフト部と第2グラフト部の重複部分において、体液がステントグラフトの内部と外部の間で流通可能である。
【0007】
ステント(またはステントグラフト)の展開中とは、第1グラフト部と第2グラフト部の軸方向の重複区間において、ステント(またはステントグラフト)が収縮状態から展開状態または拡張状態に遷移している期間をいう。
【0008】
本開示の別の態様は、ステントグラフトの展開方法である。この方法は、ステントグラフトの一端から当該ステントグラフトを展開し、体液がステントグラフトの内部と外部の間で流通可能な流路を開き、ステントグラフトを展開し続けることにより流路を閉じる。
【0009】
本開示の更に別の態様は、ステントグラフトである。このステントグラフトは、筒状のステントと、ステントの周囲の少なくとも一部を被覆するグラフトと、ステントの展開動作初期に開いてステントグラフトの内部と外部との間で体液を流通可能にし、ステントの展開動作の進行に伴って閉じる弁構造と、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、体液が流入した場合でもステントグラフト等を高精度に配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】TEVARの概要を模式的に示す。
図2】第1実施形態に係るステントグラフトを模式的に示す。
図3】展開中の第1実施形態に係るステントグラフトを模式的に示す。
図4】第1実施形態の変形例を示す。
図5】第2実施形態に係るステントグラフトの軸を含む平面による模式的な断面図である。
図6】第2実施形態の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
本開示は人体の任意の生体部位に挿入されるステントグラフトに適用できるが、本実施形態では大動脈瘤や大動脈解離の処置のために屈曲のある大動脈内に挿入されるステントグラフトを例に説明する。具体的には、TEVAR(Thoracic Endovascular Aortic Repair)と呼ばれる胸部大動脈におけるステントグラフト内挿術に使用されるステントグラフトについて説明する。
【0015】
図1は、TEVARの概要を模式的に示す。図1に示されるように、大動脈瘤AN(aneurysm)が形成された大動脈AO(aorta)の末梢側からデリバリシステムDSが挿入される(図1A参照)。デリバリシステムDSは、ステントグラフト1と、ステントグラフト1を収縮状態で内部に収納するためのアウターシースを備える。
【0016】
図1Aに示す状態では、先に大動脈AO内に挿入されたガイドワイヤGWにガイドされるデリバリシステムDSの先端が、大動脈瘤ANの中枢側(心臓側)まで挿入されている。ステントグラフト1は、展開したときに大動脈瘤ANを跨げる位置に位置決めされている。
【0017】
この状態から、図1Bに示されるように、内部のステントグラフト1はそのままにアウターシースのみが基端側(図1における下側)に引き抜かれる。外側のアウターシースが取り除かれたステントグラフト1では、ステンレスやニッケルチタン合金等の金属製または非金属製の線材によって形成されたステント2が、それを被覆するPET(ポリエチレンテレフタラート)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂製のグラフト3と共に展開する。図1Cに示されるように、アウターシースが完全に引き抜かれて大動脈AO内に留置されたステントグラフト1は大動脈瘤ANを跨ぎ、その両側を直接的に繋ぐ人工血管がグラフト3によって形成される。この結果、大動脈AO内の血液が大動脈瘤ANに流れ込まずにグラフト3内を流れるため、大動脈瘤ANの拡大や破裂を防止できる。
【0018】
図1Bに示されるように、デリバリシステムDSの先端(図1Bにおける上端)から展開されるステントグラフト1は、基端部(図1Cにおける下端部)がデリバリシステムDSに収納された状態で先端部(図1Bにおける上端部)から展開する。この時、大動脈AOの中枢側から血液が展開中のステントグラフト1の先端部に流入する。ステントグラフト1の基端部はデリバリシステムDSに収納されて実質的に閉塞状態にあるため、先端部に流入した血液はデリバリシステムDSの先端の閉塞部で堰き止められる。この結果、ステントグラフト1ひいてはデリバリシステムDSが先端部に流入した血液によって基端側(図1Bにおける下側)に押し戻される力を受けるため、ステントグラフト1が末梢側に押されてステントグラフト1の配置精度が悪化してしまう恐れがある。
【0019】
以下で詳細に説明する本実施形態によれば、展開中に血液等の体液が流入した場合でも、高精度に配置できるステントグラフト1を提供できる。
【0020】
図2は、第1実施形態に係るステントグラフト1を模式的に示す。ステントグラフト1は、軸方向(図2における左右方向)に延びる筒状または管状のステント2と、ステント2の外周または内周を被覆する筒状または管状のグラフト3を備える。
【0021】
ステント2は、金属製または非金属製の線材(図2ではグラフト3に覆われているため便宜的に破線で示されている)が編まれることで筒状または管状に形成されている。第1実施形態に係るグラフト3は、軸方向に連結される複数(図2の例では4つ)の部分グラフト31~34によって形成されている。各部分グラフト31~34は、ステント2において軸方向に隣接し、かつ、後述するように少なくとも一部が径方向に重複する。互いに軸方向に隣接かつ径方向に重複する二つの部分グラフト(部分グラフト対)のうち、先端側の一の部分グラフトは本開示における第1グラフト部に対応し、基端側の他の部分グラフトは本開示における第2グラフト部に対応している。図3等に関して後述するように、ステント2は先端側から展開するため、各部分グラフト対において、先端側の第1グラフト部が、基端側の第2グラフト部より先に展開する。このような展開タイミングの違いによって、展開済の第1グラフト部と展開中の第2グラフト部の重複部分には後述する隙間が一時的に形成される。また、第1グラフト部および第2グラフト部は、ステント2の展開が進むにつれて先端側から基端側に順次移る(最初に部分グラフト31、32の重複部分に隙間が形成され、最後に部分グラフト33、34の重複部分に隙間が形成される)。
【0022】
PETやPTFE等の樹脂製の各部分グラフト31~34は、それぞれ筒状または管状に形成されている。軸方向に隣接する部分グラフト31~34の各対は、少なくとも一部が周方向において重複している。図示の例では、グラフト3全体の先端部(図2における左端部または中枢側の一部)を構成する部分グラフト31の基端部(図2における右端部または末梢側の一部)が、それと軸方向に隣接する部分グラフト32の先端部と重複している。同様に、部分グラフト32の基端部は部分グラフト33の先端部と重複し、部分グラフト33の基端部はグラフト3全体の基端部を構成する部分グラフト34の先端部と重複している。
【0023】
第1重複部分312は、部分グラフト31の基端部と部分グラフト32の先端部の重複部分であり、第2重複部分323は、部分グラフト32の基端部と部分グラフト33の先端部の重複部分であり、第3重複部分334は、部分グラフト33の基端部と部分グラフト34の先端部の重複部分である。各重複部分312、323、334は、ステント2の外周の軸方向の一部を囲む円環状または円帯状に形成される。なお、各重複部分312、323、334を構成する部分グラフト31~34の各対の接触面の少なくとも一部は、軸方向に沿って接着材等によって接着されておらず、かつ縫合等によって固定されてもいない。すなわち、部分グラフト31~33の基端部の少なくとも一部は、軸方向に沿って、隣接する部分グラフト32~34の先端部に接着または固定されていない。他方、部分グラフト31~34の先端部の少なくとも一部は、ステント2に接着または固定されている。
【0024】
後述するように、グラフト3における各重複部分312、323、334に一時的に形成される隙間は、ステント2の展開中にステントグラフト1の内部に入り込んだ血液等の体液をステントグラフト1の外部に逃がす役割を担う。図示の例では、大動脈AOの中枢側に対応する左側から流れてくる血液がステントグラフト1の先端(図2における左端)から流入する。このようにステントグラフト1の内部を左から右に流れる血液の少なくとも一部は、ステント2の展開中に各重複部分312、323、334に形成される隙間(後述)を通じてステントグラフト1の外部に流出する。
【0025】
このように展開中のステント2の内部に流入した血液を効果的に逃がすために、各重複部分312、323、334では、先端側の部分グラフト(本開示における第1グラフト部)の基端部が、それと重複する基端側の部分グラフト(本開示における第2グラフト部)の先端部より径方向の外側に設けられる。例えば、重複部分312では、先端側の部分グラフト31の基端部が、それと重複する基端側の部分グラフト32の先端部より径方向の外側に設けられる。このような構成によって、部分グラフト31の先端部から流入した血液の少なくとも一部が、重複部分312を通じてグラフト3の外部に逃がされる。同様に、重複部分323では、部分グラフト32の基端部が部分グラフト33の先端部より径方向の外側に設けられ、重複部分334では、部分グラフト33の基端部が部分グラフト34の先端部より径方向の外側に設けられる。
【0026】
図3は、展開中または展開動作初期の第1実施形態に係るステントグラフト1を模式的に示す。本図の例では、図1と同様のデリバリシステムDSの先端(図3における左端)からステントグラフト1が、末梢側(右側)から中枢側(左側)に展開される。図示の状態では、グラフト3を構成する部分グラフト31~34のうち、先端部を構成する部分グラフト31は全体がデリバリシステムDSの外部にあり、その内側から広がるステント2に付勢されて略完全に展開している。一方、部分グラフト32は一部のみがデリバリシステムDSから送り出され、その内側から広がるステント2に付勢されて展開中であるが、未だ完全には展開していない。この時、部分グラフト32の先端部(第1重複部分312において部分グラフト31の基端部と重複する部分)はデリバリシステムDSの外部にあり、部分グラフト32の基端部はデリバリシステムDSの内部に収納されている。また、部分グラフト33および部分グラフト34(図3では不図示)は、全体がデリバリシステムDSの内部に収納されて収縮状態にある。
【0027】
このようにステントの展開中に、例えば中枢側から血液等の体液がステントグラフトの内部に流入する。ここで、従来のステントグラフトと比較する。従来のステントグラフトを構成するグラフトは一体的に形成され、グラフトに一時的に形成される隙間がない。よって、中枢側から流れてくる血液(血流)が、略完全に展開したグラフトの先端からステントグラフトの内部に流入し、未だ完全に展開していない、または、デリバリシステムの内部に収納されて収縮状態にあるグラフトの末梢側で堰き止められてしまう。そうすると、ステントグラフトひいてはデリバリシステムは中枢側からの血流によって末梢側に押し戻される力を受けるため、ステントグラフトの配置精度が悪化してしまう恐れがある。
【0028】
そこで本実施形態では、グラフト3を構成する複数の部分グラフト31~34の間の重複部分312、323、334によって、血液がステントグラフト1の内部と外部の間で流通可能な体液流通部を一時的に形成し、展開中のステントグラフト1に流入した血液をステントグラフト1の外部に効果的に逃がす。図示の例では、ステント2の展開中に部分グラフト31の基端部と部分グラフト32の先端部の間に一時的に形成される隙間が体液流通部となって、部分グラフト31の先端部から流入した血液がステント2およびグラフト3の内部から外部に流出可能である(図3における「血液」の矢印によって模式的に示される)。この結果、ステント2の展開中に内部に流入した血液が完全に堰き止められてしまうことを防止でき、ステントグラフト1およびデリバリシステムDSが血流から受ける力を低減できるため、ステントグラフト1を高精度に配置できる。
【0029】
図3のようなステント2の展開中または展開動作初期に一時的に形成される体液流通部(重複部分312、323、334に一時的に形成される隙間)は、図3の状態から展開動作を進行させて図2に示される展開後のステント2が各部分グラフト31~34(本開示における第1グラフト部および第2グラフト部)を、ステント2の径方向の内側から外側に付勢することで閉塞される。換言すれば、弾性部材であるステント2が、弾性によって収縮状態から筒状または管状の展開状態に戻ろうとするため、各重複部分312、323、334において径方向の内側に位置する各部分グラフト32、33、34の先端部が、径方向の外側に位置する各部分グラフト31、32、33の基端部に押しつけられて隙間が効果的に閉塞される。この結果、体液がステントグラフト1の内部と外部の間で流通不能となる。従って、図1C図2に示される展開後のステントグラフト1では、中枢側から流入した血液が、各重複部分312、323、334からステントグラフト1の外部(図1Cでは大動脈瘤ANの内部)に流出することなく、末梢側まで正常に流通できる。このように、本実施形態に係るステントグラフト1によれば、動脈瘤ANの内部への血液の流入(いわゆるエンドリーク)を効果的に防止できる。
【0030】
以上のように、本実施形態に係るステントグラフト1の展開方法は、ステントグラフト1の先端(一端)から当該ステントグラフト1を展開し、体液がステントグラフト1の内部と外部の間で流通可能な流路(重複部分312、323、334に一時的に形成される隙間)を開き(図3)、ステントグラフト1を展開し続けることにより当該流路を閉じる(図2)。このように、体液がステントグラフト1の内部と外部の間で流通可能な流路(重複部分312、323、334に一時的に形成される隙間)は、ステント2の展開動作初期に開いてステントグラフト1の内部と外部との間で体液を流通可能にし(図3)、かつステント2の展開動作の進行に伴って閉じる(図2)弁構造を構成する。
【0031】
展開後のステントグラフト1からのエンドリークを更に効果的に防止するために、重複部分(312、323、334)を構成する第1グラフト部(部分グラフト31、32、33の基端部)および第2グラフト部(部分グラフト32、33、34の先端部)の少なくともいずれかに、血液等の体液によって膨潤する膨潤材を設けてもよい。ステントグラフト1の展開中または展開動作初期(例えば図3)に体液流通部を構成する各重複部分312、323、334を流通する体液を、膨潤材が吸収して膨らむことで展開後(例えば図2)のステントグラフト1において各重複部分312、323、334の隙間を効果的に閉塞する。なお、膨潤材は、第1グラフト部と第2グラフト部の間に塗布されるものでもよいし、第1グラフト部および/または第2グラフト部を構成する糸や繊維の構成材料でもよい。
【0032】
また、図1に示される大動脈AOのように屈曲のある生体部位にステントグラフト1を挿入する場合、図4に示されるように、グラフト3の重複部分(312、323、334)を構成する第1グラフト部(部分グラフト31、32、33の基端部)および第2グラフト部(部分グラフト32、33、34の先端部)の軸方向の重複寸法を、ステント2の周方向に沿って変化させることで、展開後のステントグラフト1からのエンドリークを効果的に防止できる。図示の例では、グラフト3の重複部分(312、323、334)のうち、重複寸法が比較的大きい上部(312L、323L、334L)が、大動脈AO等の生体部位の曲率の小さい外側(図1における右側)に配置される。また、グラフト3の重複部分(312、323、334)のうち、重複寸法が比較的小さい下部(312S、323S、334S)が、大動脈AO等の生体部位の曲率の大きい内側(図1における左側)に配置される。
【0033】
大動脈AO等の屈曲のある生体部位に挿入されたステントグラフト1が湾曲すると、曲率の小さい外側(図4における上側)において、互いに重複する第1グラフト部(部分グラフト31、32、33の基端部)および第2グラフト部(部分グラフト32、33、34の先端部)が、軸方向に沿って離れるように大きくずれる。しかし、図4に示されるグラフト3では、曲率の小さい外側における重複寸法(312L、323L、334L)が、曲率の大きい内側における重複寸法(312S、323S、334S)より大きいため、湾曲時に多少ずれたとしても十分な重複寸法が確保される。このため、図1Cのように湾曲した状態で展開したステントグラフト1からのエンドリークが効果的に防止される。
【0034】
なお、図4のようにグラフト3における重複寸法が周方向に沿って変化する場合に限らず、図2のようにグラフト3における重複寸法が周方向に沿って略一定の場合でも、互いに重複する第1グラフト部(部分グラフト31、32、33の基端部)および第2グラフト部(部分グラフト32、33、34の先端部)が軸方向に沿ってずれることで、グラフト3ひいてはステントグラフト1の湾曲性が向上するという効果も期待できる。
【0035】
図2図4の構成例では、複数の重複部分312、323、334が、グラフト3の略全体に亘って、軸方向に沿って略等間隔で設けられたが、体液流通部を構成するグラフト3の重複部分は、先端側および基端側のいずれかに設けられてもよい。但し、体液流通部を構成するグラフト3の重複部分は、ステント2および/またはグラフト3を軸方向に二分した場合の少なくとも先端側に設けられるのが好ましい。
【0036】
具体的には、図2図4の例では、先端側に設けられる重複部分312のみを設け、その他の重複部分323、334を設けなくてもよい。この場合、三つに分かれた部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34の代わりに、一つの長尺の部分グラフト(本開示における第2グラフト部)が設けられる。この一つの長尺の部分グラフトの先端部は、本開示における第1グラフト部を構成する部分グラフト31の基端部と重複して重複部分312を形成し、図3に示されるようにステントグラフト1の展開中には血液を逃がす体液流通部(隙間)を形成する。展開中のステントグラフト1およびデリバリシステムDSが血流から押し戻される力がステントグラフト1の配置精度に及ぼす影響は、図3に示されるようなステントグラフト1の展開動作初期において最も大きいと考えられるため、その際の血流を効果的に逃がす重複部分312を設けることが肝要である。
【0037】
図5は、第2実施形態に係るステントグラフト1の軸を含む平面による模式的な断面図である。第1実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。第2実施形態に係るグラフト3は、その先端(図5における左端)から基端(図5における右端)まで延在する長尺の筒状または管状の部分グラフト31(主グラフト)と、図2における第1実施形態と同様の重複部分312、323、334において部分グラフト31の周囲を被覆する円環状または円帯状の部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34(副グラフト)を備える。
【0038】
本開示における第1グラフト部を構成する部分グラフト31は、各重複部分312、323、334において、ステント2の径方向に貫通する各貫通孔3A、3B、3Cを有する。各貫通孔3A、3B、3Cは、各重複部分312、323、334の周方向に沿って一または複数形成されている。本開示における第2グラフト部を構成する部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34は、各重複部分312、323、334において、部分グラフト31に形成された各貫通孔3A、3B、3Cを外側から被覆する。
【0039】
グラフト3の各重複部分312、323、334における各貫通孔3A、3B、3Cは、ステント2の展開中にステントグラフト1の内部に入り込んだ血液等の体液をステントグラフト1の外部に逃がす。従来のステントグラフトは、ステントの先端部がデリバリシステムの外部に出て展開している一方で、ステントの基端部がデリバリシステムの内部に収納されて収縮状態にある場合、中枢側からステントグラフトの内部に流入した血液が堰き止められる。
【0040】
しかし、本実施形態では主グラフトとしての部分グラフト31が、展開状態にある先端側から収縮状態にある基端側に向かって先細り形状(テーパ状)になるため、それを外側から被覆する部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34の少なくともいずれかとの間に隙間が生じる。このため、図5に示されるような展開後であれば部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34によって閉塞される貫通孔3A、3B、3Cが、展開中のステントグラフト1の外部に対して一時的に露出する(部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34によって閉塞されない)。このように一時的にステントグラフト1の内部と外部の間を連通する貫通孔3A、3B、3Cを通じて、展開中のステントグラフト1の内部に流入した血液がステントグラフト1の外部に効果的に逃がされる。従って、本実施形態によれば、ステント2の展開中に内部に流入した血液が完全に堰き止められてしまうことを防止でき、ステントグラフト1およびデリバリシステムDSが血流から受ける力を低減できるため、ステントグラフト1を高精度に配置できる。
【0041】
以上のようなステント2の展開中に一時的に形成される体液流通部(ステントグラフト1の外部に対して一時的に露出する貫通孔3A、3B、3C)は、展開後のステント2が各部分グラフト31~34を、ステント2の径方向の内側から外側に付勢することで閉塞される。換言すれば、弾性部材であるステント2が、弾性によって収縮状態から筒状または管状の展開状態に戻ろうとするため、各重複部分312、323、334において径方向の内側に位置する部分グラフト31(主グラフト)が、径方向の外側に位置する部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34(副グラフト)に押しつけられて貫通孔3A、3B、3Cが効果的に閉塞される。このため、図1C図5に示される展開後のステントグラフト1では、中枢側から流入した血液が、各重複部分312、323、334(各貫通孔3A、3B、3C)からステントグラフト1の外部(図1Cでは大動脈瘤ANの内部)に流出することなく、末梢側まで正常に流通できる。このように、本実施形態に係るステントグラフト1によれば、動脈瘤ANの内部への血液の流入(エンドリーク)を効果的に防止できる。
【0042】
以上のように、本実施形態に係るステントグラフト1の展開方法は、ステントグラフト1の先端(一端)から当該ステントグラフト1を展開し、体液がステントグラフト1の内部と外部の間で流通可能な流路(重複部分312、323、334に一時的に形成される隙間)を開き、ステントグラフト1を展開し続けることにより当該流路を閉じる。このように、体液がステントグラフト1の内部と外部の間で流通可能な流路(重複部分312、323、334に一時的に形成される隙間)は、ステント2の展開動作初期に開いてステントグラフト1の内部と外部との間で体液を流通可能にし、かつステント2の展開動作の進行に伴って閉じる弁構造を構成する。
【0043】
図1に示される大動脈AOのように屈曲のある生体部位にステントグラフト1を挿入する場合、第1実施形態における図4と同様に、グラフト3の重複部分312、323、334の軸方向の重複寸法を、ステント2の周方向に沿って変化させることで、展開後のステントグラフト1からのエンドリークを効果的に防止してもよい。本実施形態では、副グラフトとしての部分グラフト32、部分グラフト33、部分グラフト34の軸方向の寸法が、そのまま主グラフトとしての部分グラフト31との重複部分312、323、334の軸方向の重複寸法となるため、当該各部分グラフト32~34の軸方向の寸法をステント2の周方向に沿って変化させればよい。具体的には、生体部位の曲率の小さい外側に配置される各部分グラフト32~34の軸方向の寸法を比較的大きくし、生体部位の曲率の大きい内側に配置される各部分グラフト32~34の軸方向の寸法を比較的小さくする。
【0044】
このように、曲率の小さい外側における各部分グラフト32~34の軸方向の寸法が、曲率の大きい内側における各部分グラフト32~34の軸方向の寸法より大きいため、湾曲時に外側において各部分グラフト32~34が部分グラフト31に対して多少ずれたとしても十分な重複寸法が確保される。このため、図1Cのように湾曲した状態で展開したステントグラフト1からのエンドリークが効果的に防止される。
【0045】
図5では、副グラフトとしての部分グラフト32~34が主グラフトとしての部分グラフト31(貫通孔3A、3B、3C)を径方向の外側から被覆していたが、図6に示されるように、副グラフトとしての部分グラフト32~34が主グラフトとしての部分グラフト31(貫通孔3A、3B、3C)を径方向の内側から被覆してもよい。なお、図6ではステント2の図示を省略した。
【0046】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0047】
本開示を別の観点から捉えると、ステントの展開動作初期に開いてステントグラフトの内部と外部との間で体液を流通可能にし、ステントの展開動作の進行に伴って閉じる弁構造を備えるステントグラフト、ともいえる。
【0048】
前述の第1実施形態および第2実施形態では、グラフト3が複数の部分グラフト31~34によって構成されていたが、部分グラフトに分かれていない一つのグラフト3が利用されてもよい。この場合、例えば、当該一つのグラフト3を軸方向に複数回折り返すことで、重複部分312、323、334と同様の重複部分を形成できる。これらのグラフト3の重複部分における外側(または内側)の部分が本開示における第1グラフト部となり、内側(または外側)の部分が本開示における第2グラフト部となる。第1実施形態または第2実施形態と同様に、各重複部分にはステントグラフト1の展開中に体液を逃がす弁構造として機能する隙間が設けられる。
【0049】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 ステントグラフト、2 ステント、3 グラフト、3A~3C 貫通孔、31~34 部分グラフト、312 第1重複部分、323 第2重複部分、334 第3重複部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6