(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033359
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】PTC発熱体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/14 20060101AFI20240306BHJP
H05B 3/03 20060101ALI20240306BHJP
H05B 3/56 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H05B3/14 A
H05B3/14 F
H05B3/03
H05B3/56 A
H05B3/56 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136892
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】595042623
【氏名又は名称】タチバナテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 正博
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QA03
3K092QA06
3K092QB14
3K092QB21
3K092QB26
3K092QB30
3K092QB72
3K092QC27
3K092QC28
3K092QC30
3K092VV18
3K092VV40
(57)【要約】
【課題】優れたPTC発熱体を提供する。
【解決手段】PTC発熱体20は、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子とを含み、架橋剤による化学架橋により成形されたPTC抵抗体3と、前記ポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂を含む樹脂薄膜4であって、PTC抵抗体3の一方の面に熱融着された樹脂薄膜4と、PTC抵抗体3の表面に設けられた一対の電極構造体6とを備える。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子とを含み、架橋剤による化学架橋により成形されたPTC抵抗体と、
前記ポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂を含む樹脂薄膜であって、前記PTC抵抗体の一方の面に熱融着された樹脂薄膜と、
前記PTC抵抗体の表面に設けられた一対の電極構造体と
を備えるPTC発熱体。
【請求項2】
前記PTC抵抗体は、シート形状を有する、請求項1に記載のPTC発熱体。
【請求項3】
前記一対の電極構造体は、前記PTC抵抗体の前記樹脂薄膜が融着された面とは反対側の面に設けられている、請求項2に記載のPTC発熱体。
【請求項4】
前記電極構造体は、
カーボンを含む導電性成形物と、
前記導電性成形物の一方の面に設けられた高濃度カーボン層と、
前記導電性成形物の他方の面に設けられた電極金属と
を含み、
前記高濃度カーボン層と前記導電性成形物とを介して、前記PTC抵抗体と前記電極金属とは導通している、
請求項2に記載のPTC発熱体。
【請求項5】
前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜の表面と裏面とに設けられた一対の耐熱性及び電気絶縁性の被覆材と、
前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜の周囲で前記一対の被覆材を接着し、前記一対の被覆材と共に前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜を封止する接着剤と
をさらに備え、
前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜の表面のうち前記電極構造体が設けられていない部分の少なくとも一部は、前記被覆材に固定されていない、
請求項2又は4に記載のPTC発熱体。
【請求項6】
線束状の耐熱絶縁性基材と、
耐熱性及び電気絶縁性の被覆材と
をさらに備え、
前記一対の電極構造体は、線状の第1の電極金属と、線状の第2の電極金属とを含み、
前記第1の電極金属は、前記耐熱絶縁性基材の周囲に螺旋状に巻きつけられており、
前記PTC抵抗体は、前記耐熱絶縁性基材及び前記第1の電極金属の周囲に設けられており、
前記第2の電極金属は、前記PTC抵抗体の周囲に螺旋状に巻きつけられており、
前記樹脂薄膜は、前記PTC抵抗体及び前記第2の電極金属の周囲に熱融着されており、
前記被覆材は、前記樹脂薄膜の周囲を覆っている、
請求項1に記載のPTC発熱体。
【請求項7】
前記第1の電極金属と前記PTC抵抗体との間には、高濃度カーボン層が設けられており、
前記PTC抵抗体と前記第2の電極金属との間には、高濃度カーボン層が設けられている、
請求項6に記載のPTC発熱体。
【請求項8】
前記PTC抵抗体は、全重量に対し少なくとも、55wt%~75wt%のポリエチレン樹脂と、10wt%~35wt%のカーボン粒子と、1wt%~4wt%のアマイド系ワックスと、10~30wt%の加工助剤及び充填剤粉末と、0.1wt%~0.5wt%の架橋剤とを材料として含む、請求項1、2、3、4、6又は7に記載のPTC発熱体。
【請求項9】
前記PTC抵抗体の厚さは、0.1mm~0.7mmであり、
前記樹脂薄膜の厚さは、前記PTC抵抗体の厚さの1/4以下である、
請求項1、2、3、4、6又は7に記載のPTC発熱体。
【請求項10】
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とを含む無溶剤の材料を混練することと、
前記材料を所定形状とするように化学架橋を伴う成形を行い、PTC抵抗体を形成することと、
前記PTC抵抗体の一方の面に、前記ポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂を含む樹脂薄膜を熱融着させるとともに前記PTC抵抗体のアニール処理を行うことと、
前記PTC抵抗体の他方の面に、電極金属を含む一対の電極構造体を、前記電極金属と前記PTC抵抗体とが導通するように設けることと
を含むPTC発熱体の製造方法。
【請求項11】
前記電極構造体の各々は、カーボンを含む導電性成形物と、前記導電性成形物の一方の面に設けられた高濃度カーボン層と、前記導電性成形物の他方の面に設けられた前記電極金属とを含み、
前記電極構造体は、前記電極金属と前記PTC抵抗体とが、前記高濃度カーボン層と前記導電性成形物とを介して導通するように設けられる、
請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
一対の耐熱性及び電気絶縁性の被覆材を前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜の表面と裏面とに設け、接着剤で前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜の周囲で前記一対の被覆材を接着し、前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜の表面のうち前記電極構造体が設けられていない部分の少なくとも一部は前記被覆材に固定されないように、前記一対の被覆材と前記接着剤とで前記PTC抵抗体及び前記樹脂薄膜を封止すること
をさらに含む請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
線束状の耐熱絶縁性基材の周囲に線状の第1の電極金属をらせん状に巻きつけることと、
前記耐熱絶縁性基材及び前記第1の電極金属の周囲に第1の高濃度カーボン層を設けることと、
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とを含む無溶剤の材料を混練することと、
前記第1の高濃度カーボン層の周囲に前記材料を押出成形して化学架橋を伴う成形を行い、PTC抵抗体を形成することと、
前記PTC抵抗体の周囲に第2の高濃度カーボン層を設けることと、
前記第2の高濃度カーボン層の周囲に線状の第2の電極金属をらせん状に巻きつけることと、
前記第2の高濃度カーボン層及び前記第2の電極金属の周囲に、前記ポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂を含む樹脂薄膜を設けることと、
前記樹脂薄膜の周囲に耐熱絶縁性被覆材を押出成形するとともに、前記樹脂薄膜を前記第2の高濃度カーボン層及び前記第2の電極金属が周囲に設けられた前記PTC抵抗体に熱融着させ、前記PTC抵抗体のアニール処理を行うことと
を含むPTC発熱体の製造方法。
【請求項14】
前記PTC抵抗体の厚さは、0.1mm~0.7mmであり、
前記樹脂薄膜の厚さは、前記PTC抵抗体の厚さの1/4以下である、
請求項10、11又は13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC発熱体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キュリー温度付近で抵抗値が急増して通電時に自己温度制御機能を有するPTC(正の温度係数)抵抗体は、セラミック材料や高分子材料を使ったものが古くから知られている。このうち高分子材料を使ったPTC発熱体として、例えば、ポリエチレンや各種エラストマー等からなるベースポリマーに、カーボンブラック、グラファイト、金属粉末、ワックス、各種添加剤などの材料を混練し、電極線とともにベルト状や同軸状に押出成形することで形成されたPTC発熱体が知られている。また、家電等安易で安価な用途向けの形態として、前記材料を有機溶剤に分散させたPTC塗料を調製し、このPTC塗料を高分子フィルム等に印刷することで形成されたPTC抵抗体が知られており、このようなPTC抵抗体を用いたPTC発熱体が作製されている。しかし、近年は環境保護の点から溶剤の使用は厳しく制限されてきており、溶剤を使わない押出成形タイプのPTC発熱体が再び注目されつつある。
【0003】
図6は、従来のポリオレフィン系樹脂とカーボンブラックによるPTC発熱体70の一様態を示し、PTC発熱体70の断面を示す。
図6に示すPTC発熱体70は、例えば、次のように作製される。ポリオレフィン系樹脂とカーボンブラックと各種添加剤が混練された組成物が、平行に配置された2本の電極75a、75bを覆い、断面形状がダンベル状となるように押出成形されて、PTC抵抗体73が形成される。さらに、その外側には形状安定用ジャケット74と絶縁性被覆材72とが押出成形されて、長尺のベルト状PTC発熱体70が形成される。このPTC発熱体70に対して、PTC抵抗体73の放射線架橋に関する処理が行われる。その後に、抵抗値安定化のために高温のアニール処理が行われる。高温アニール処理の温度と処理時間については、例えば、カーボンブラックの含有量が20wt%程度の場合、ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で24時間程度とされている。高温アニール処理の条件は、後掲の[先行技術文献]に記載の文献に開示されているように、種々の条件が存在する。なお、ジャケットと絶縁性被覆材の形成、放射線架橋及び高温アニールの順序や回数は任意である。
【0004】
図7は、同軸状のPTC発熱体80の断面を示す。中心導体85aが一方の電極とされ、その周囲にポリオレフィン系樹脂とカーボンブラックと各種添加剤が混練されたPTC組成物が同軸状に押出成形されてPTC抵抗体83が形成される。その周囲に金属テープ又は金属電極線85bが螺旋状に配置される。更に、その外側には形状安定用ジャケット84と絶縁性被覆材82とが押出成形されて、PTC発熱体80が形成される。放射線架橋された後に、抵抗値安定化のために、高温のアニール処理がなされる。
【0005】
上記に挙げた従来の押出成形による各種PTC発熱体の優れている点は、次の通りである。
(1)既存の汎用材料、混練、押出に関わる設備、及び工法を利用できるので、製造ラインを容易に構築できる。
(2)放射線架橋と長時間の高温アニール処理によって、PTC抵抗体の常温抵抗値を低下させた状態で安定化できる。
(3)放射線架橋と長時間の高温アニール処理によって、PTC発熱体に通電動作を繰り返した後でも、PTC諸特性(常温抵抗値、高温域での抵抗増加率)を安定化できる。
【0006】
以上のようなPTC発熱体に関して例えば特許文献1~16に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3243573号明細書
【特許文献2】米国特許第3793716号明細書
【特許文献3】米国特許第3861029号明細書
【特許文献4】米国特許第3914363号明細書
【特許文献5】米国特許第3823217号明細書
【特許文献6】特開昭55-25499号公報
【特許文献7】特開昭55-154003号公報
【特許文献8】特開昭56-8443号公報
【特許文献9】特開昭57-84585号公報
【特許文献10】特開昭59-226493号公報
【特許文献11】特開昭61-198590号公報
【特許文献12】特開平5-226113号公報
【特許文献13】特開平6-45105号公報
【特許文献14】特開平8-120182号公報
【特許文献15】特表平10-501290号公報
【特許文献16】特開2010-244971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたPTC発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、PTC発熱体は、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子とを含み、架橋剤による化学架橋により成形されたPTC抵抗体と、前記ポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂を含む樹脂薄膜であって、前記PTC抵抗体の一方の面に熱融着された樹脂薄膜と、前記PTC抵抗体の表面に設けられた一対の電極構造体とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたPTC発熱体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、一実施形態に係るPTC発熱体の構成例の概略を示す図であり、PTC発熱体を上面から透視した状態を示す模式図である。
【
図1B】
図1Bは、一実施形態に係るPTC発熱体の構成例の概略を示す図であり、
図1Aに示すI-I線に沿ったPTC発熱体の断面の概略を示す模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るPTC抵抗体の電極構造体の別の構成例の概略を示す図であり、
図1Aに示すI-I線に沿った電極構造体の断面の概略を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、変形例に係る同軸状のPTC発熱体の構成例の概略を示す図であり、軸に沿って部分展開した状態の概略を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1、2、3及び比較例1、2に関するPTC特性の測定結果を示す。
【
図5】
図5は、実施例1、2,3及び比較例1、2に関する測定日数ごとの常温抵抗値R25の変動率の測定結果を示す。
【
図6】
図6は、従来の高分子材料によるPTC発熱体の一例の構造を示す図である。
【
図7】
図7は、従来の高分子材料によるPTC発熱体の別の例の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、PTC発熱体に関する。PTC発熱体として、一般に、溶剤タイプのPTC塗料を印刷した厚膜タイプと、PTC抵抗体がダンベル状の断面形状となるように押出成形された厚手の長尺ベルトタイプとが知られている。本実施形態のPTC発熱体は、薄いシート形状のPTC抵抗体を有している。PTC抵抗体が薄いシート形状でありながら、本実施形態のPTC発熱体は、優れた特性を発揮する。
【0013】
従来から知られている押出成形による厚手のベルトタイプのPTC発熱体は、長時間のアニール処理により優れたPTC特性と安定性とを有し、その製造ラインの構築も容易である。このようなPTC抵抗体を薄いシート状に変更することには、次のような課題が存在する。
(1)PTC抵抗体を、薄いシート状にし、ベースポリマーの融点以上の温度でアニール処理した場合、加熱冷却の熱ストレスによりシートの大きな湾曲変形が生じるが、このような変形によるPTC抵抗体内部の分子レベルの構造変化とそれに伴うPTC諸特性の変化に関する事例情報がなく、量産化が見通せない。
(2)薄くしたシートが湾曲変形した場合の電極取出しに関する事例情報がなく、量産化が見通せない。
(3)長時間のアニール処理を必要とする場合、生産性を向上させることができない。
【0014】
例えば、近年、車載用等のPTC発熱体において、PTCの定格動作温度は80℃とされ、このためその温度に対応した特定の熱特性を有する材料を用いる必要がある一方で、瞬時耐熱は120℃とアニール処理温度に近い要求がある。また、重量低減のため、PTC発熱体の厚さを極力薄くする要求が強まっている。この耐熱要求に対しては、上述の[背景技術]に記載のように、ポリオレフィン系ベースポリマーの融点以上の温度でアニール処理を施すことで、抵抗値の制御と安定化が可能である。一方で、重量低減の要求に対しては、PTC抵抗体の厚さを薄くする必要があるが、PTC抵抗体を薄くすると、前記のアニール処理による熱変形の問題が生じる。
【0015】
[PTC発熱体の構造の概要]
PTC発熱体20の構造の概要について説明する。
図1Aは、本実施形態に係るPTC発熱体20の構成例の概略を示す図であり、PTC発熱体20を上面から透視した状態を模式的に示す図である。
図1Bは、
図1Aに示すI-I線に沿ったPTC発熱体20の断面の概略を模式的に示す図である。
【0016】
PTC発熱体20は、発熱素子としてのシート状のPTC抵抗体3を備える。PTC抵抗体3の一方の面には、樹脂薄膜4が熱融着されている。PTC抵抗体3と樹脂薄膜4とが熱融着されて、PTC抵抗組体13が形成されている。PTC抵抗体3の他方の面には、PTC抵抗体3に電力を供給するための一対の電極構造体6が設けられている。
【0017】
電極構造体6のそれぞれは、電極金属7と、カーボンを含む導電性成形物8と、高濃度カーボン層9とを有する。すなわち、一対の電極構造体6のうち一方の電極構造体6aは、第1の電極金属7aと、第1の導電性成形物8aと、第1の高濃度カーボン層9aとが積層された構造を有する。同様に、一対の電極構造体6のうち他方の電極構造体6bは、第2の電極金属7bと、第2の導電性成形物8bと、第2の高濃度カーボン層9bとが積層された構造を有する。電極構造体6は、高濃度カーボン層9がPTC抵抗体3に接するように配置されている。すなわち、高濃度カーボン層9と導電性成形物8とを介して、PTC抵抗体3と電極金属7とは導通している。
【0018】
樹脂薄膜4、PTC抵抗体3及び電極構造体6は、耐熱絶縁性かつ難燃性の第1の被覆材1と第2の被覆材2との間に配置されている。第1の被覆材1と第2の被覆材2との周辺部は、接着剤5によって封止固定されている。PTC抵抗体3の電極構造体6が配置された側の面において、PTC抵抗体3の生地部分は、第1の被覆材1に固定されていない。このように、PTC抵抗体3及び樹脂薄膜4の表面と裏面とに設けられた耐熱性及び電気絶縁性の第1の被覆材1と第2の被覆材2とは、PTC抵抗体3及び樹脂薄膜4の周囲で接着剤5によって接着され、PTC抵抗体3及び樹脂薄膜4は、第1の被覆材1と第2の被覆材2と接着剤5によって封止されている。
【0019】
図1Aに示すように、第2の被覆材2からはみ出す部分においては、電極構造体6は、導電性成形物8及び高濃度カーボン層9が除去されて、第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bのみが露出している。
【0020】
[各部の詳細]
PTC発熱体20の各部の詳細について説明する。
【0021】
〈PTC抵抗体〉
本実施形態のPTC抵抗体3は、無溶剤混練タイプのものであり、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とが混練され、化学架橋により成形されたものである。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂又はオレフィン系共重合体が単独で、又は2種以上を組み合わされて用いられ得る。ポリオレフィン系樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が用いられ得る。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む。オレフィン系共重合体としては、エチレンと、プロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸、エチルアクリレート、塩化ビニルなどの何れかとの共重合体や、プロピレンと塩化ビニルとの共重合体などや、これらの変性体などが用いられ得る。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂としては、これらの中でも特に、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などが好適である。
【0024】
カーボン粒子としては、各種のものが用いられ得る。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック粒子(オイルファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック)、グラファイト粒子などが単独で又は組み合わされて混合物として用いられ得る。
【0025】
カーボン粒子の平均粒径について特に制限はない。通常、平均粒径が10~150nm、好ましくは20~100nmのカーボン粒子が用いられる。平均粒径が10nm未満のものであると、高温域での抵抗増加率が充分でなくなるため好ましくない。一方、平均粒径が150nmを超えたものであると、室温での電気抵抗値が大きくなるため好ましくない。カーボン粒子としては、平均粒径を異にする2種以上のカーボン粒子を混合したものであってもよい。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子との配合割合は、PTC抵抗体の全重量に対し、前者は40~90wt%、後者は40~10wt%の割合であり、好ましくは、前者が55~75wt%、後者が35~10wt%の割合である。ここで、カーボン粒子の配合量が10wt%より少ないと、PTC発熱体の常温抵抗値が大きくなり発熱体が充分に発熱しないので好ましくない。一方、カーボン粒子の配合量が40wt%を超えると、PTC特性の高温域での抵抗増加率が小さくなり、自己温度制御機能が充分に発現しないので好ましくない。
【0027】
本実施形態のPTC抵抗体3には、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とが配合される他に、アマイド系ワックスと加工助剤・充填剤粉末とが配合される。
【0028】
本実施形態のPTC抵抗体3の架橋は、普及技術で安価な化学架橋による。本実施形態の架橋では、大規模で高価な上に安全保守基準の厳しい放射線装置は使用しない。架橋剤の配合は、ポリオレフィン系樹脂にマトリクスを形成しPTC発熱体を硬化させ、高温になってもポリオレフィン系樹脂の急激な流動化を抑止し、カーボン粒子のストラクチャーの崩壊を防ぐ。
【0029】
架橋剤としては、有機過酸化物、硫黄化合物、オキシム類、ニトロソ化合物、アミン化合物、ポリアミン化合物などが用いられる。架橋剤は、ポリオレフィン系樹脂の種類に応じてこれらの中から適宜選択して用いられる。
【0030】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等が用いられ得る。これらの中でも一般的なジクミルパーオキサイドが好ましい。
【0031】
本実施形態のPTC抵抗体3には、有機揺変剤が配合される。有機揺変剤の中でワックスとしては、酸化ポリエチレン系、水素添加ひまし油系、アマイド系等のワックスが知られている。これらの中で、PTC抵抗体3にはアマイド系ワックスが好適である。アマイド系ワックスは、融点が比較的高く、シーディング性も小さく、PTC抵抗体中で繊維状に分散するので、PTC抵抗体に柔軟性及び加熱・冷却過程における滑らかな伸縮性を与える。また、アマイド系ワックスは、融点を持つが結晶性ではないので、溶融・凝固に伴いベースポリマーの架橋マトリクスを不可逆的に破壊することがない。
【0032】
これに対して、酸化ポリエチレン系ワックスは、結晶系なのでPTC発熱体に柔軟性、及び加熱・冷却過程における滑らかな伸縮性を与え難い。また、酸化ポリエチレン系ワックスは、明確な融点を持ち、溶融・凝固に伴いベースポリマーの架橋マトリクスを不可逆的に破壊してしまうおそれがある。ひまし油系ワックスは、融点が低い。
【0033】
本実施形態のPTC抵抗体3における、架橋剤とアマイド系ワックスの作用は相反的である。架橋剤を増やすと、PTC抵抗体の常温抵抗値も高温域での抵抗増加率も両方とも小さくなり、PTC発熱体として繰返し動作後の常温抵抗値の変動も小さくなる。アマイド系ワックスを増やすと、PTC抵抗体の常温抵抗値も高温域での抵抗増加率も両方とも大きくなり、PTC発熱体として繰返し動作後の常温抵抗値の変動も大きくなる。したがって、本実施形態のPTC抵抗体3における架橋剤とアマイド系ワックスとの配合量は、微妙なバランスが必要とされる。PTC抵抗体の全重量に対し、架橋剤は、0.05wt%~1.0wt%、好ましくは0.1wt%~0.5wt%がよく、アマイド系ワックスは、0.5wt%~5wt%、好ましくは1wt%~4wt%がよい。
【0034】
上記より、加工助剤・充填剤粉末の全重量に対する割合は、10~30wt%などとなる。
【0035】
上記のポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子との混合は、例えば、混練用オープンロール、バンバリーミキサー、二軸混練押出機、ラボプラストミル、その他の高温混練機により行うことができる。混練温度は、ポリオレフィン系樹脂の融点以上、好ましくは融点より20~30℃高い温度が好ましい。このような温度で混練することにより、組成物の常温抵抗値を小さくすることができる。また、上記混練温度に達してからの混練時間は、10分間以内が好ましい。混練温度と混練時間との条件は、カーボン粒子のストラクチャーの発達とカーボン粒子の凝集成長のバランスとを左右する。また、混練温度と混練時間とに関する熱処理履歴は、後工程のアニール処理条件を左右する場合がある。
【0036】
混練した組成物は、単軸押出成形機、カレンダーロール・プレス機などの各種の成形機により、薄いシート状に成形され、PTC抵抗体が得られる。なお、二軸混練押出機にTダイを取り付け、混練とシート成形とを1台の装置で行なうこともできる。シート状のPTC抵抗体の厚さは、例えば、0.1mm~0.7mm、好ましくは、0.2mm~0.35mmである。
【0037】
(アニール処理)
先行技術文献によれば、PTC抵抗体のアニール処理は必須と説明されている。しかし、ポリオレフィン系樹脂を用いた薄いシート状PTC抵抗体を上述の先行技術に倣い樹脂の融点以上の温度で長時間アニール処理を行ったところ、PTC抵抗体は鞍型状に大きく湾曲し、PTC発熱体の組立ができなかった。そこで、軽い圧力を掛けながらアニール処理を行ったところ、PTC抵抗体は大きく湾曲はしないが、PTC抵抗体の面内に凹凸形状が発現した。
【0038】
このPTC抵抗体の面内に生じた凹凸をそのまま維持してPTC抵抗体の特性を測定すると、アニール処理により以下の結果が得られた。
(1)アニール処理温度が樹脂の融点以上でも低め(例えば145℃以下)の場合
常温抵抗値及び高温域での抵抗増加率といったPTC諸特性は、大きいままであり、あまり低下しなかった。また、PTC発熱体に加工して通電動作を繰り返した後でも、PTC諸特性は大きく変動しなかった。高温域での抵抗増加率が大きいこと、及び、通電動作を繰り返した後でもPTC諸特性が大きく変動しないことは、好ましい。一方、常温抵抗値が大きい点は、加熱性能の面で実用的でない。
(2)アニール処理温度が樹脂の融点以上でも高め(例えば150℃以上)の場合
常温抵抗値及び高温域での抵抗増加率といったPTC諸特性は、大幅に低下した。常温抵抗値の低下は好ましいが、高温域での抵抗増加率の低下は実用的でない。また、PTC発熱体に加工して通電動作を繰り返した後では、PTC諸特性のうち、高温域での抵抗増加率はあまり変化しなかったが、常温抵抗値はアニール処理前の抵抗値に戻る方向でかなり大きな変化率を持って増加した。通電動作を繰り返した後に常温抵抗値が上昇する点も実用的でない。
【0039】
以上のように、従来のアニール処理では、薄いシート状PTC抵抗体の常温抵抗値を下げて、高温域での抵抗増加率をあまり下げず、かつ通電動作を繰り返した後での常温抵抗値の変動を安定化させることは困難であることが判明した。
【0040】
一方、形状面についても、PTC抵抗体の面内に生じた凹凸を維持したまま電極取出しを行うことは、容易ではない。そこで、このような凹凸を生じさせないアニール処理の条件を検討した。その結果、アニール処理を熱プレスで行うと、PTC抵抗体の両面を平坦化できた。また、アニール処理により発生した凹凸を、アニール処理より低い温度で再加熱プレスすると、PTC抵抗体の面を平坦化できた。しかしながら、いずれの場合も、PTCの諸特性が著しく低下することが判明した。したがって、これらの方法は実用的ではない。
【0041】
上述の各種試験の結果から、アニール処理の加熱によりPTC抵抗体内でカーボン粒子のストラクチャーの形成とカーボン粒子の凝集成長とがブロック状に混在する一種の粒界的な配置を形成するようになり、アニール処理の諸条件や、加熱・冷却によるストレスにより、前記の粒界的な配置が再配置されると考えられた。その結果、PTC抵抗体の面内の凹凸が発生したり、PTC諸特性のバランスが取れない結果となったりすると考えられた。
【0042】
(熱融着樹脂薄膜に関する構成)
前記のようにアニール処理のみによりPTC諸特性のバランスを取ることが難しいので、本実施形態では、PTC抵抗体3の電極構造体6が配置される面とは反対側の面に、樹脂薄膜4を設けている。樹脂薄膜4は、PTC抵抗体3のポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂で形成されている。樹脂薄膜4は、添加物を含んでいてもよい。また、樹脂薄膜4は、PTC抵抗体3に熱融着されている。樹脂薄膜4の厚さは、PTC抵抗体3の厚さの1/4以下が好ましい。熱融着は、ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で、1分~10分間熱プレスすることで行われ、アニール処理を兼ねることが好ましい。
【0043】
なお、このアニール兼用処理の熱プレス時間は、例えば1分ごとに常温抵抗値R25の値を評価しながら、複数回の熱プレス処理を繰返し、適切な時間を決定することも可能である。また、同一条件で一括で熱プレス処理し、不足のものを選別してそのものだけに追加の熱プレス処理を施すことも可能である。
【0044】
樹脂薄膜4の原料形態は、フィルム状ばかりでなく、微粉末状のものでも効果を得ることは可能である。しかしながら、粉末状のものは100%熱融着できない場合、微粉末が飛散するおそれがある。したがって、フィルム状のものが好ましい。
【0045】
PTC抵抗体3の片面へのポリオレフィン系の樹脂薄膜4の熱融着とアニール兼用処理によれば、次のような効果が得られると考えられる。すなわち、樹脂薄膜4が融着されたPTC抵抗体3の面では、ポリオレフィン濃度が増加するので、この樹脂薄膜融着面の表面抵抗は増加する。しかし、シート状PTC発熱体としての加熱・冷却に際し、前記樹脂薄膜融着面の伸縮が増大し、その伸縮力が融着面とは反対の電極構造体6が配置された面の伸縮をも増大させる。その結果、常温抵抗値の変動率は小さく抑えられたまま、高温域での抵抗増加率が増幅する作用が発揮されると考えられる。
【0046】
このように、PTC抵抗体3のポリオレフィン系樹脂と同じ種類の薄膜をPTC抵抗体3へ熱プレスによって融着する加熱処理は、短時間のアニール処理を兼ねており、PTC抵抗体3の面内に殆ど凹凸を発生させず、またPTC諸特性も低下させず、特に高温域での抵抗増加率を増加させる。したがって、シート状PTC発熱体としての要求事項が満たされ、製品化が容易になるとともに、アニール処理時間が大幅に短縮され、量産性が高められ、安価な製品の提供が可能になる。
【0047】
〈電気的接続に関する構成〉
上述の(アニール処理)の項で説明したように、アニール処理の加熱によりPTC抵抗体3内でカーボン粒子のストラクチャーの形成とカーボン粒子の凝集成長とがブロック状に混在する粒界形成の状態が強く窺われており、PTC抵抗体3の表面も同様な構造状態を有していると考えられる。
【0048】
PTC抵抗体3の電極取出しについて検討すると、以下の知見が得られた。PTC抵抗体3の表面に小さな突起を有する金属箔を強く押圧してこの金属箔を電極とした場合、接触抵抗の増加が顕著であった。PTC抵抗体3両側端の電極構造体の当接部の表面を軽くヤスリで削った後に金属箔を当接すると、電極間の抵抗値は100MΩを超える程に増加し、オーミック接触が完全に崩れた状態を示した。これらのことから、PTC抵抗体3の前述の粒界的な表面状態を崩さない電極取出し構造が必須であることが明らかになった。
【0049】
本実施形態では、表面に高濃度カーボン層9を有するカーボン含有の導電性成形物8と電極金属7とを含む電極構造体6が用いられている。PTC抵抗体3は、導電性成形物8及び高濃度カーボン層9を介して電極金属7と導通するように構成されている。電極構造体6について、詳しく説明する。
【0050】
電極金属7の材料は、環境問題を考慮して金属ペースト等を使わない無溶剤タイプが好ましい。電極金属7には、例えば、銀,銅,ニッケル,アルミニウム,金等の金属が用いられ得る。本実施形態のPTC発熱体20では、電極金属7の形態としては、例えば、汎用で安価で入手が容易な銅箔テープが用いられ得る。
【0051】
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態のPTC発熱体20の電極構造体6は、第1の被覆材1のPTC抵抗体3に対向する面であって、PTC抵抗体3の両端に相当する位置に、銅箔テープである第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bが、非溶剤系の耐熱性の接着剤10で貼付け固定されている。なお、本実施形態で要求され得る重要な条件である120℃瞬時耐熱を考慮すると、第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bを含む電極金属7の銅箔テープは、錫メッキされたものであることが好ましい。また、電極金属7の固定に用いられる耐熱性の接着剤10は、予め錫メッキ銅箔テープの片面に付着したものを用いることが好ましい。
【0052】
電極金属7の形態としては、金属箔以外に、金属平編み線、金属メッシュ、金属不織布、及び被覆材にラミネートされた金属箔をエッチングにより電極を形成するもの等があり得る。しかしながら、PTC抵抗体に金属電極を直接接触させると、製造工程や通電動作の加熱によって軟化したPTC抵抗体と電極金属とが部分的に容易に接着し、PTC抵抗体の粒界的な表面構造を崩して接触抵抗を増加させてしまう。また、金属平編み線や金属メッシュ、金属不織布では、表面が硬い突起状なので、PTC発熱体の製造工程や通電動作中に前記の硬い金属突起が、軟化した薄いPTC抵抗体に食い込み、粒界的な表面構造を崩すとともに、PTC抵抗体3を局部的に切断するという重大な欠陥を発生させる場合がある。また、第1の被覆材にラミネートされた金属箔をエッチングするタイプの電極金属は高価である。
【0053】
本実施形態のPTC発熱体20では、前記錫メッキされた銅箔テープである電極金属7とPTC抵抗体3との間には、表面に高濃度カーボン層9を有する柔軟な導電性成形物8が配置され、電極金属7とPTC抵抗体3との間に柔接触構造が形成されている。本実施形態では、柔軟な導電性成形物8として導電性短繊維のシート状成形物が適切に切断されて用いられている。導電性短繊維のシート状成形物は、冷熱動作によるPTC抵抗体3の伸縮運動を妨げない柔接触構造となる。この構造は、PTC発熱体20の動きを拘束することによって生じ得るPTC発熱体20の諸特性の低下を発生させない。
【0054】
導電性成形物8としての導電性短繊維のシート状成形物は、カーボン不織布が好適である。カーボン不織布の細く柔らかい繊維は、加熱時に軟化したPTC抵抗体3の表面に食い込んでも、PTC抵抗体3を切断することがない。また、カーボン不織布は、PTC抵抗体3と同種の材質なのでPTC抵抗体3の粒界的な表面構造を崩さずに表面層に馴染み、良好なオーミック接触が得られる。またカーボン長繊維を含む樹脂成形物のリサイクルから生まれるカーボン不織布は、安価であり好適である。
【0055】
導電性短繊維のシート状成形物としては、銅細線又はステンレス細線による不織布等もあり得る。しかしながら、金属製の不織布は、繊維であっても表面に硬いバリが出ており、軟化した薄いPTC抵抗体3に食い込み粒界的な表面構造を崩し、接触抵抗を顕著に増加させる。また、金属製の不織布は、加熱時に軟化したPTC抵抗体3に食い込み、PTC抵抗体3を局部的に切断する可能性がある。
【0056】
導電性成形物8のPTC抵抗体3に接する側の表面には、高濃度カーボン層9が形成されている。高濃度カーボン層9は、カーボンブラックやカーボン・ナノチューブ(CNT)を含む塗料を塗布し、乾燥させて形成されるのが好適である。表面に高濃度カーボン層9が形成された導電性成形物8がPTC抵抗体3に当接されると、PTC発熱体20の製造工程や通電動作中の加熱により、高濃度カーボン層9とPTC抵抗体3とが一層馴染み易くなり、PTC抵抗体3の粒界的な表面構造を崩さない形で更なる良好なオーミック接触が得られる。
【0057】
本実施形態のPTC発熱体20では、例えば、第1の被覆材1に貼り付けられた第1の電極金属7a及び第2の電極金属7b上に、それぞれの電極金属の大きさに合うよう切断された第1の高濃度カーボン層9aを有する第1の導電性成形物8a及び第2の高濃度カーボン層9bを有する第2の導電性成形物8bが配置される。その上にPTC抵抗体3の樹脂薄膜4とは反対の面が第1の高濃度カーボン層9a及び第2の高濃度カーボン層9bと接触するように、樹脂薄膜4が融着されたPTC抵抗体3が配置される。この中間組体の上に耐熱絶縁性被覆材である第2の被覆材2が被せられるとともに、第1の被覆材1及び第2の被覆材2の周辺部が接着剤5により封止固定される。このようにして、
図1A及び
図1Bに示すような構成のPTC発熱体20が形成される。
【0058】
本実施形態のPTC発熱体20で用いられ得る電極構造体の変形例を
図2に示す。電極構造体16は、
図2に示すように被覆電線様の構造を有していてもよい。同図において、電極金属17は、電線の芯線束と同じく金属撚り線である。この金属撚り線の周囲にはPTC抵抗体3と同種類の材料を使い、カーボン粒子の配合量を大幅に増やし、導電性を上げた混合物が押出成形され、電線様の導電性成形物18とされる。導電性成形物18の周囲には、高濃度カーボン層19が形成される。高濃度カーボン層19は、カーボンブラックやカーボン・ナノチューブ(CNT)からなる塗料を塗布し、乾燥させて形成するのが好適である。このようにして形成された2本の電極構造体16が、
図1A及び
図1Bの電極構造体6の代わりに、PTC抵抗体3の両側辺近傍に当接される。
【0059】
本変形例の電極構造体16も、カーボンを含む導電性成形物18と、導電性成形物18の一方の面に設けられた高濃度カーボン層19と、導電性成形物18の他方の面に設けられた電極金属17とを有する構造となっている。本変形例の電極構造体16を用いても、PTC発熱体20の製造工程や通電動作中の加熱により、2本の電極構造体16の高濃度カーボン層19とPTC抵抗体3とが馴染み易くなり、PTC抵抗体3の粒界的な表面構造を崩さずに、良好なオーミック接触が得られる。
【0060】
また、変形例の電極構造体16では、電極金属17と導電性成形物18との間が、完全な密着構成にはなっていない。これは、例えば被覆電線において、芯線束と被覆が完全な密着状態ではなく、被覆剥きにおいて被覆が芯線束上を滑り簡単に剥けることと同様である。このような熱可塑性の柔らかい被覆と構造的に緩い構造を有する電極構造体16は、120℃の瞬時加熱が繰り返されても、PTC抵抗体3の粒界的な表面構造を崩さず良好なオーミック接触を維持し、PTC抵抗体3の加熱冷却による伸縮を緩衝させる柔接触構造によって、PTC諸特性の低下を防ぎながら、その電極金属17の引き出しを可能としている。
【0061】
〈被覆体の構成〉
被覆体を構成する第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、耐熱絶縁性の高分子フィルムにより形成され得る。
図1Aに示すように、第1の被覆材1は、第2の被覆材2の長辺より長い長方形の薄板である。第1の被覆材1に貼り付けられた第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの端部が見えるように第2の被覆材2が重ねられている。第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの端部の露出部分が、リード線接続部を形成している。
【0062】
絶縁性被覆材として機能する第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、強度と耐熱性と絶縁性と難燃性との条件を満たす必要がある。第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロン、塩化ビニル等といった高分子を素材にした高分子フィルムであり得る。第1の被覆材1及び第2の被覆材2としては、前記の条件を確保し、さらに接着性を確保する点で、ポリエステル・フィルムが好適である。また、第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、内包するPTC抵抗体3が伸縮しても、外被としての機械的強度、耐熱性及び難燃性が確保され、また寸法安定性が確保される必要がある。このため、第1の被覆材1及び第2の被覆材2には、難燃グレードのポリエステル・フィルムを結晶化処理して硬くし、機械的強度と耐熱強度とを上げた材料が用いられることが好適である。ここで、結晶化処理は、一般的に知られているポリエステル樹脂の結晶化温度である約130℃以上、好ましくは140℃以上に加熱後、徐冷することによって達成される。
【0063】
また、
図1A及び
図1Bには、第1の被覆材1と第2の被覆材2との封止に、接着剤5のみが用いられる例が示されているが、これに限らない。PTC抵抗体3の厚さが厚い場合や、電極金属7及び導電性成形物8の厚さが厚い場合等には、第1の被覆材1と第2の被覆材2の間にスペーサーが挟まれて接着されてもよい。なお、第1の被覆材1と第2の被覆材2の間に空隙が生じる場合、PTC抵抗体3からの熱伝達の低下をもたらす。この熱伝達の低下の問題は、この空隙に、例えばシリコーン系のゴムや充填剤を充填して平坦化することで解決され得る。
【0064】
なお、ポリオレフィン系の樹脂薄膜4が融着されたPTC抵抗体3の面と第2の被覆材2との間は、前記ポリオレフィン系の樹脂薄膜4によって同時熱融着させることも可能である。これによってPTC発熱体の高温域での抵抗増加率を大きく増加させることができる場合もある。しかし、このことは、細かい構造に依存するので、実施の形態に応じた選択によるのが好ましい。
【0065】
[変形例]
一般に、PTC発熱体の形態として同軸状のものが知られている。上述の実施形態に係る薄いシート状のPTC抵抗体は、同軸状のPTC発熱体にも適用され得る。この場合も、上述のシート状PTC発熱体と類似の構成で高いPTC特性と安定性とを実現できる。
【0066】
図3は、同軸状のPTC発熱体30の構成例の概略を示す図であり、軸に沿って部分展開した状態の概略を模式的に示す図である。同軸状のPTC発熱体30は、高分子繊維束等からなる巻き芯である線束状の耐熱絶縁性基材31と、第1の電極金属37aとを備える。耐熱絶縁性基材31には、上述の実施形態の第1の被覆材1及び第2の被覆材2と同様の材料を用いることができ、例えば、ポリエステルが用いられ得る。第1の電極金属37aには、上述の実施形態の電極金属7と同様の材料を用いることができ、例えば、錫メッキ銅線等が用いられ得る。第1の電極金属37aは、耐熱絶縁性基材31の周囲に螺旋状に強く巻き付けられている。第1の電極金属37aの断面形状は、円形状でも平板状でもよい。
【0067】
第1の電極金属37aが巻き付けられた耐熱絶縁性基材31の上層部には、カーボンブラックやカーボン・ナノチューブ(CNT)からなる塗料が塗布・乾燥されて第1の高濃度カーボン層39aが薄く形成される。この第1の高濃度カーボン層39aの上には、前述の実施形態のPTC抵抗体3の場合と同様のPTC抵抗体33の組成物が押出成形される。このとき、押出成形の加熱と加圧により第1の高濃度カーボン層39aとPTC抵抗体33とがよく馴染み、PTC抵抗体33の粒界的な表面構造が崩されずに良好なオーミック接触が得られる。
【0068】
また、耐熱絶縁性基材31の材質とPTC抵抗体33の主な材質との組合せは、難接着性であることが好ましい。例えば、耐熱絶縁性基材31の材質がポリエステル樹脂であり、PTC抵抗体33の主な材質がポリエチレン樹脂であることは、ポリエステル樹脂とポリエチレン樹脂とが難接着性であるので、好ましい。さらに、両樹脂の間に介在する第1の高濃度カーボン層39aは滑性が高い。このような構成によれば、第1の電極金属37aが巻かれた耐熱絶縁性基材31とPTC抵抗体33とは、同軸状のPTC発熱体30が通電加熱されてPTC抵抗体33が伸縮した場合、軸方向に滑り易く可動性をもって柔接触が与えられる。したがって、前述の実施形態のシート状のPTC抵抗体3の場合には、柔接触を担うために導電性成形物8が配置されたが、本構造では導電性成形物8に相当する構成物は柔らかな耐熱絶縁性基材31が代替して担い、独立した構造体は不要である。
【0069】
PTC抵抗体33の周囲には、第2の高濃度カーボン層39bが薄く形成され、更にその上に第2の電極金属37bが螺旋状に巻かれている。第2の電極金属37bの上には、樹脂薄膜34と耐熱絶縁性被覆材32とが設けられている。第2の高濃度カーボン層39bには、上述の第1の高濃度カーボン層39aと同様に、カーボンブラックやカーボン・ナノチューブ(CNT)からなる塗料が用いられ得る。第2の電極金属37bには、第1の電極金属37aと同様の材料を用いることができ、例えば、錫メッキ銅線等が用いられ得る。同軸状のPTC発熱体30の製造時には、第2の電極金属37bの上には、PTC抵抗体33のポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂の薄膜が配置される。例えば、PTC抵抗体33にポリエチレン樹脂が用いられている場合、この樹脂薄膜は、厚さ8μm~35μm程度のポリエチレン・テープを横巻したものが好ましい。耐熱絶縁性被覆材32には、耐熱絶縁性基材31と同様の材料を用いることができ、例えば、塩化ビニルが用いられ得る。樹脂薄膜の上には、塩化ビニル樹脂等の耐熱絶縁性被覆材32が押出成形され得る。このとき、押出成形の加熱により、上述のポリエチレン等の樹脂薄膜は、ポリオレフィン系樹脂からなるPTC抵抗体33及び第2の電極金属37bと熱融着されて樹脂薄膜34が形成されるとともに、短時間のアニール兼用処理がなされる。
【0070】
樹脂薄膜34の材質と耐熱絶縁性被覆材32の材質との組合せは、難接着性であることが好ましい。例えば、樹脂薄膜34の材質がポリエチレン等のポリオレフィン系の樹脂であり、耐熱絶縁性被覆材32の材質が塩化ビニル樹脂であることは、ポリオレフィン系樹脂と塩化ビニル樹脂とが難接着性であるので、好ましい。このような構成によれば、同軸状のPTC発熱体30が通電加熱されてPTC抵抗体33が伸縮した場合、軸方向に滑り易く可動性をもって柔接触が与えられる。したがって、前述の実施形態のシート状のPTC抵抗体3の場合に配置された導電性成形物8に相当する構成物は樹脂薄膜34と耐熱絶縁性被覆材32とが代替して担い、対応する独立した構造体は不要である。
【実施例0071】
以下、PTC発熱体の具体的な実施例を
図1A乃至
図3に示した符号を用いて説明する。実施例1では、
図1A及び
図1Bを参照して説明した上述の実施形態の構造を有するシート状のPTC発熱体20を作製した。PTC抵抗体の配合は、予備的実験において比較的良好なPTC特性を示した配合とした。実施例2では、電極構造体を、
図2を参照して説明した被覆電線様の構造とし、その他の構成は実施例1と同様としたシート状のPTC発熱体を作製した。実施例3では、
図3を参照して説明した同軸状のPTC発熱体30を作製した。PTC抵抗体の配合は、実施例1と同様である。比較例1では、実施例1と同様の構成において、樹脂薄膜4が設けられていないPTC発熱体を作製した。比較例2では、実施例1と同様の構成において、PTC抵抗体の配合を変更したPTC発熱体を作製した。各例の構成の概要を表1に示す。
【0072】
【0073】
[実施例1のPTC発熱体の作製]
本実施例に係るPTC発熱体20において、第1の被覆材1と第2の被覆材2には、難燃性ポリエステル・フィルムである、ルミラー(登録商標)#500-H10(東レ社製)を使用した。ここで、第1の被覆材1と第2の被覆材2とに対しては、予め結晶化処理を施した。結晶化処理では、対象物をアルミ板等で挟んで軽く荷重を掛けた状態で恒温槽中において145℃で30分間加熱し、その後、恒温槽の電源を切り室温まで徐冷した。
【0074】
第1の被覆材1の大きさは、140×90mm、厚さ0.5mmとした。第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの材質は錫メッキ銅箔とし、各々の大きさは、130×10mm、厚さ0.08mmとした。第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの各々の片面には、変性シリコーン系の接着剤10が塗布され、これにより第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bと第1の被覆材1とを貼り付けた。第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの貼り付け位置は、次のようにした。各長辺に沿って10mmの糊代を設けて、すなわち、各長辺から10mm内側に長手方向を長辺と平行にして、第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bを設けた。第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの一端は、第1の被覆材1の一方の短辺に揃え、他端は、第1の被覆材1の他方の短辺から10mm内側とし、当該短辺に沿って10mmの糊代を設けた。
【0075】
第2の被覆材2の大きさは、130×90mm、厚さ0.5mmとし、第1の被覆材1よりも長辺の長さを10mm短くした。これにより、後工程で第1の被覆材1の糊代を設けた短辺と第2の被覆材2の短辺とを合わせるように配置すれば、第1の電極金属7a及び第2の電極金属7bの各一端部が被覆されず露出するようになり、これらの露出する部分が外部リード線との接続部となる。
【0076】
PTC抵抗体3について説明する。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)M6520(旭化成社製)と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)DGDN-3364(ENEOS-NUC社製)を1対1で混合したものを使用した。カーボン粒子としては、グラファイトのうち平均粒径が80μmである鱗片状黒鉛CB-100(日本黒鉛社製)を使用した。
【0077】
架橋剤としては、ジアルキルパーオキサイドであるパークミルD(日油社製)を使用した。アマイド系ワックスとしては、ステアリン酸アミドであるアーモスリップHT(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を使用した。加工助剤と充填剤としては、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、アクリル系樹脂改質剤、炭カル、クレーを適宜配合した。
【0078】
これらの材料を表1の各事例のように配合し、よく撹拌・混合してから、Tダイを備えた混練押出機で、厚さ0.3mmのシート状PTC抵抗体に成形した。ここで、表1には、事例ごとの成分合計に対する各成分の比率が示されている。
【0079】
【0080】
厚さ0.3mmに成形されたPTC抵抗体を、110×70mmに切断しPTC抵抗体3とした。PTC抵抗体3の一面には、PTC抵抗体3のポリオレフィン系樹脂と同じ種類の樹脂の樹脂薄膜4として、厚さ15μmのポリエチレン・フィルムを配置し、150℃に加熱して9kgの荷重(0.98N/cm2)を掛けたホットプレスで2分間押圧加熱し、PTC抵抗体3とポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4とを熱融着するとともに、アニール処理を行った。このようにして、樹脂薄膜4が熱融着されてアニール処理されたPTC抵抗体3であるPTC抵抗組体13を用意した。
【0081】
また、高濃度カーボン層9を有する導電性成形物8を用意した。導電性成形物8としてのカーボン不織布のPTC抵抗体3に当接する面に、カーボンナノチューブ10wt%を含む塗料を塗布し、風乾の後に100℃、1時間の乾燥処理を行った。この片面に高濃度カーボン層9が形成されたカーボン不織布の導電性成形物8の大きさは、幅は錫メッキ銅箔の電極金属7と同じく10mmとし、長さはPTC抵抗体3に当接するように110mmとし、厚さは約0.5mmとした。
【0082】
上述のようにして作製したPTC抵抗組体13を、上述のようにして作製した高濃度カーボン層9を有する導電性成形物8を介して、第1の電極金属7aと第2の電極金属7bとに重なる位置に、
図1A及び
図1Bに示すように配置した。高濃度カーボン層9を有する導電性成形物8の配置は、高濃度カーボン層9の全面がPTC抵抗体3に接し、導電性成形物8の全面が第1の電極金属7a又は第2の電極金属7bに接するようにした。
【0083】
この中間組体の上に、
図1Aに示すように、第2の被覆材2を重ねた。第2の被覆材2は、その一端を第1の被覆材1の糊代のある一端に合わせるようにし、その他端を電極金属7の端部が見えるようにして、第1の被覆材1に重ねた。重ねる前に第2の被覆材2の全周辺部には予め変性シリコーン系接着剤を塗布しておき、第2の被覆材2を第1の被覆材1に重ねると同時にこれらを接着した。
以上のようにして、実施例1に係るPTC発熱体20を作製した。
【0084】
[実施例2のPTC発熱体の作製]
実施例2では、実施例1における電極構造体6を、
図2にその構造を示した被覆電線様の電極構造体16に置き換えた。電極構造体16は、次のように作製した。電極金属17は、金属撚り線とし、UL1015-AWG22電線と同様に、径0.18mmの錫メッキ銅線の17本撚りとした。電極金属17の周囲には、導電性混合物を押出成形して導電性成形物18を形成した。導電性成形物18を形成する導電性混合物は、表2に示した実施例1のPTC抵抗体3の配合において、カーボン粒子の量を2倍にして導電性を上げた混合物とした。導電性成形物18の周囲には、高濃度カーボン層19を形成した。高濃度カーボン層19は、実施例1の高濃度カーボン層9と同じ成分の塗料を、塗布して乾燥させて形成した。
【0085】
以上のようにして形成された2本の電極構造体16を、実施例1の電極構造体6の代わりに用いた。実施例2のPTC発熱体20の組立方法は、実施例1のPTC発熱体20の組立方法と同様である。実施例1の場合に電極構造体6を配置した第1の被覆材1の位置に上述のようにして作製した被覆電線様の電極構造体16を配置し、その上に、ポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4を熱融着したPTC抵抗体3を、電極構造体16がPTC抵抗体3の2辺の電極配置部に接触するように重ねた。ここに、接着剤を塗布した第2の被覆材2を重ねて封止した。
以上のようにして、実施例2に係るPTC発熱体20を作製した。
【0086】
[実施例3のPTC発熱体の作製]
実施例3では、
図3に示した構造を有する同軸状のPTC発熱体30を作製した。耐熱絶縁性基材31には、1500デニールのポリエステル繊維束を用いた。この耐熱絶縁性基材31の上に、直径0.18mmの錫メッキ銅合金線を0.9mmのピッチで螺旋状に巻き、第1の電極金属37aとした。この上に、カーボンナノチューブ10wt%を含む塗料を塗布し、風乾の後に100℃、1時間の乾燥を行い、第1の高濃度カーボン層39aを形成した。
【0087】
この第1の高濃度カーボン層39aの上に、実施例1と同じ配合のPTC抵抗体材料を、電線製造に使われるのと同様の混練押出成形機で、厚さ0.33mmの円筒状に押し出し、PTC抵抗体33を形成した。PTC抵抗体33の上には、前記と同様に第2の高濃度カーボン層39bを形成した。第2の高濃度カーボン層39bの上には、直径0.12mmの錫メッキ銅合金線を0.9mmのピッチで螺旋状に巻き、第2の電極金属37bとした。
【0088】
第2の電極金属37bの上には、幅10mmで厚さ15μmのポリエチレン・フィルムをオーバーラップしないピッチで螺旋状に巻き、樹脂薄膜34の材料とした。最外層には、塩化ビニル樹脂からなる耐熱絶縁性の耐熱絶縁性被覆材32を押出成形した。この押出成形工程において掛かる熱と圧力はホットプレス加工に相当し、前記ポリエチレン・フィルムがPTC抵抗体33に熱融着して樹脂薄膜34の形成とともに、PTC抵抗体33のアニール処理を行った。
以上にようにして、実施例3のPTC発熱体30を作製し、それを10mの長さに切断し、測定試料とした。
【0089】
[比較例1のPTC発熱体の作製]
比較例1では、実施例1ではPTC抵抗体3上に樹脂薄膜4を熱融着していたところ、樹脂薄膜4を設けないPTC発熱体を作製した。比較例1のPTC発熱体は、樹脂薄膜4がない以外は、実施例1のPTC発熱体20と同様である。
【0090】
[比較例2のPTC発熱体の作製]
比較例2では、実施例1とはPTC抵抗体3の配合が異なるPTC発熱体を作製した。比較例2では、表2に示すように、実施例1の場合と比較して、LDPEとLLDPEの混合物を多めに、カーボン粒子を少なめにした。比較例2のPTC発熱体は、PTC抵抗体の配合以外は、実施例1のPTC発熱体20と同様である。
【0091】
[PTC特性の測定結果]
実施例1、2、3及び比較例1、2に関する試料について、毎日1回、PTC特性の測定を行い、これを10日間繰り返した。測定方法は以下のとおりである。試料を恒温槽に設置し、25℃から120℃まで10℃又は15℃ステップで昇温させた。試料の大きさから十分な安定時間を10分として試料の抵抗値を抵抗計により測定した。120℃での測定は、この10分間を瞬時耐熱の試験と見做した。
【0092】
図4は、実施例1、2、3及び比較例1、2に関するPTC特性の繰返し測定3日目の測定結果を示す。
図4では、横軸が温度を示し、縦軸が抵抗増加率Rrを示す。ここで、抵抗増加率Rrは、各温度における抵抗値を、常温25℃における抵抗値R25で除した値である。同図中に、常温抵抗値R25と、120℃における抵抗増加率Rr120を記載する。
【0093】
また、
図5は、測定日数に対する実施例1、2、3及び比較例1、2の常温抵抗値R25の変動率を示す。ここで、R25変動率は、1日目の常温抵抗値R25で各測定日における常温抵抗値R25を除した値である。
【0094】
[配合に関する評価]
PTC抵抗体の配合は、実施例1、2、3及び比較例1ではいずれも同じく標準的な配合であり、比較例2ではポリエチレン樹脂成分が多く、カーボン粒子成分が少ない配合である。
図4に示すように、比較例2の抵抗増加率Rr120は、最も大きくなっている。しかし、
図5に示すように、比較例2の常温抵抗値R25の抵抗値変動率は、他の配合より圧倒的に大きくなっている。このような結果は、これまでの複数の予備的配合実験の結果から得られた経験則に合致しており、また配合則とも矛盾しない。このような結果は、PTC抵抗体の配合の自由度の高さを示しており、経済的な効果を得るために利用できる。
【0095】
[構造に関する評価]
(樹脂薄膜について)
シート状のPTC発熱体20における、PTC抵抗体3に熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4の有無について考察する。このため、ポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4を有する実施例1及び実施例2と、樹脂薄膜4を有しない比較例1とを比較する。
【0096】
図4内に示す常温抵抗値R25と
図5に示す常温抵抗値R25の変動率は、何れの場合も同程度の値であり、これらの値は、熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4の有無に影響されないことが分かった。一方で、
図4に示すように、抵抗増加率Rrについては、熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4を有する実施例1及び実施例2の抵抗増加率Rr120が、樹脂薄膜4を有しない比較例1の抵抗増加率Rr120の2倍程度あり、かなり大きい。このように、熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜4は抵抗増加率Rr、特に抵抗増加率Rr120の増幅に対して大きな効果を有していることが示された。
【0097】
(電極構造体について)
電極構造体の構成について考察する。このため、層状の電極構造体6を有する実施例1と、被覆電線様の電極構造体16を有する実施例2とを比較する。
【0098】
図4内に示す常温抵抗値R25と
図5に示す常温抵抗値R25の変動率は、何れの場合も同程度の値であり、これらの値は、電極構造体の構成に影響されないことが分かった。また、
図4に示すように、抵抗増加率Rr120は、何れの場合も同程度の値であり、これらの値は、電極構造体の構成に影響されないことが分かった。このように、PTC抵抗体に熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜を有する場合に、比較的単純な構成を有する被覆電線様の電極構造体16を用いても、比較的やや複雑な構成を有する層状の電極構造体6と同様の常温抵抗値R25、その変動率、及び抵抗増加率Rr120が得られることが明らかになった。
【0099】
(同軸状の形態について)
PTC発熱体の構造について考察する。このため、シート状の構造を有する実施例1と、同軸状の構造を有する実施例3とを比較する。
【0100】
図4内に示す常温抵抗値R25と
図5に示す常温抵抗値R25の変動率は、何れの場合も同程度の値であった。
図4に示すように、抵抗増加率Rr120は、何れの場合も同程度の値であった。このように、PTC抵抗体に熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜を有する場合に、シート状と同軸状という構造上の形態が異なっていても、同様の常温抵抗値R25、その変動率、及び抵抗増加率Rr120が得られることが明らかになった。また、比較的単純な電極部の構成を有する同軸状のPTC発熱体30であっても、比較的やや複雑な電極構造体6の構成を有するシート状のPTC発熱体20と同様の常温抵抗値R25、その変動率、及び抵抗増加率Rr120が得られることが明らかになった。
【0101】
なお、同軸状のPTC発熱体30では、PTC抵抗体33の内側にらせん状に巻かれ配置された第1の電極金属37aと、PTC抵抗体33の外側にらせん状に巻かれ配置された第2の電極金属37bとの巻き数を変更することにより、PTC抵抗体33の配合成分やその他の構造を変更しなくても、常温抵抗値R25をかなり広範囲に調整することが可能であった。
【0102】
[安定性に関する評価]
図5に示すように、10日間にわたる10回の25℃~120℃の繰返し加熱測定において、常温抵抗値R25及びその変動は、熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜の有無とは独立しており、PTC抵抗体におけるポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子との配合量に依存することが明確になった。したがって、熱融着させたポリエチレン・フィルムの樹脂薄膜の有無に関わらず、常温抵抗値R25及びその変動を制御するようにPTC抵抗体の配合成分を適切に選択でき、PTC発熱体の設計の自由度は高いことが明らかになった。
【0103】
以上説明したように、上述の各実施形態よれば、良好なPTC特性と小さな常温抵抗値とその安定性とが確保されたPTC発熱体が得られる。このPTC発熱体の製造では、アニール時間が大幅に短縮され、量産性がよい。本実施形態によれば、安価なPTC発熱体が提供される。
【0104】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。