(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033363
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】業務用洗濯ラインにおけるロールラインの運転制御方法
(51)【国際特許分類】
D06F 67/04 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
D06F67/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136900
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】593232011
【氏名又は名称】ワタキューセイモア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517260700
【氏名又は名称】アイナックス稲本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】平野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭弘
(72)【発明者】
【氏名】中田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】南山 正俊
(57)【要約】
【課題】高速運転されるロールラインにおいて、供給遅れが生じたときにロールやフォルダの処理速度を下げて無駄なエネルギー消費を避ける。
【解決手段】ロールライン先頭の投入ステーションとロールとの間に設けたバッファ内の品物のストック数、投入ステーションに並列的に配置されている投入機器の稼働状況等を検出することによって判断されるストック数と予め制御器に設定した切替ストック数(閾値)とを対比して、通常運転モード(高速処理モード)と省エネ運転モード(低速処理モード)とを切り替える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗物を投入する投入ステーションと、高速運転と省エネ運転とにおける各種パラメータを設定する運転モード設定器とその運転モードの切替手段を含む制御器と、当該制御器の指令に基づいて運転されるチェストロール又はカレンダロールと、前記投入ステーションとロールとの間に前記投入された被洗物を貯留するバッファとを備えたロールラインの運転制御方法において、
バッファ内の被洗物の貯留状態を検出するセンサの検出信号の閾値を設定する設定器を備え、前記検出値が閾値に達したとき又は設定された待ち時間後に、前記運転モードを切り替える、業務用洗濯ラインにおけるロールラインの運転制御方法。
【請求項2】
前記センサの検出対象が前記バッファ内の被洗物のストック状態である、請求項1記載の運転制御方法。
【請求項3】
前記センサの検出対象が、前記投入ステーションの動作状態である、請求項1記載の運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、業務用洗濯ラインの後半に設置されるチェストロールやカレンダーロールなどのロール(アイロナー)への被洗物(以下、「品物」とも言う。)の供給からフォルダまでのライン(以下、「ロールライン」と言う。)の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
業務用洗濯ラインに設置される連続式洗濯機、脱水機及び乾燥機、又は洗濯脱水機、で処理された被洗物は、
図1に示すように、ロールライン先頭の投入ステーション5で人手により1枚ずつ投入され、バッファ1、フィーダ2、ロール3及びフォルダ4を通過して客先に納入する完成品となる。
【0003】
近年、洗濯ラインの処理量を高めるために、処理速度が50m/minを超える能力を持つロールやフィーダ及びフォルダが使用されるようになってきた。
【0004】
この高い処理速度を十分に活かすために、
図1に示したようにフィーダ2の前に一時的に品物を貯留するバッファ1を配置して効率的にフィーダに品物を送る例がある。バッファ1は、フィーダ2と一体化することもでき、投入ステーション5の投入速度とロール3の処理速度の偏差を吸収する役目をしている。すなわち、バッファ1を設置すると、その下流にあるフィーダ2の前に品物をストックしておくことが可能になるため、投入ステーション5での投入に一時的な遅速が生じても、フィーダ2及びロール3へ所定間隔で次々と品物を供給できるようになる。よって、実質的にロールラインを最高処理速度で運転させることが可能になる。
【0005】
例えば特許文献1には、布類を保持する保持チャックを備えた複数の走行体が循環走行する搬送ライン(バッファとして機能している。)に複数の供給位置と排出位置とを並列的に配置した布類搬送装置が提案されている。各供給位置は、搬送ラインで待機する走行体に布類を受け渡す投入機を備え、走行体と投入機とで並列処理ができるため、走行体と投入機の待機時間が短くなり処理効率が高くなる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロールラインにバッファを設けるのは、高速処理により生産性を高めることが目的であり、可能な限りロールが備える最高速度で処理を行うことができるように、処理速度が50m/min以上で設定されることが多く、また、ロールの高速処理に対応できるように、投入ステーションも並列に4個(投入作業者4人)以上を設ける場合もある。
【0008】
しかし、高速でロール3やフォルダ4が運転されているにも関わらず、例えば作業に慣れていない投入者がいる場合や投入者が一人欠けた場合などには、ロール3への品物の供給が追いつ
かず、無駄にロール及びフォルダを稼働させていることになり、不要なエネルギー(電気・蒸気)を消費していることとなる。
【0009】
例えばカレンダロールであれば、高速処理が可能なようにシリンダ数を多くし、品物を高速で搬送して品物が必要とするシリンダ温度及び接触時間でのアイロンがけができるようにしている。このとき、品物の供給が間に合わないと、シリンダから無駄な熱放散が起こって蒸気が無駄に消費され、必要以上の速度で機械を運転することによる電気の無駄も生ずることとなる。
【0010】
この発明は、高速運転されるロールラインにおいて、供給遅れが生じたときにその遅れ状態を検知してロール3やフォルダ4の処理速度を下げて省エネ運転を行わせることにより、無駄なエネルギー消費を避けることができるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、ロールライン先頭の投入ステーション5とロール3との間に設けたバッファ1内の品物のストック数、投入ステーション5に並列的に配置されている投入機器の稼働状況等を検出することによって判断されるバッファ1からフィーダ2への品物の移送状況に応じてロールラインの運転速度を制御することにより、上記課題を解決している。
【0012】
バッファ1内のストック数は、品物を把持している搬送チャック11の数やフィーダ側に移動する搬送チャックの数と戻る方向に移動する搬送チャックの数の差などを近接センサで検出することにより、検出できる。また、バッファ1の制御器がストック数をカウントしていれば、そのデータを受け取ればよい。
【0013】
取得したストック数と予め制御器8に設定した切替ストック数(閾値)とを対比して、通常運転モード(高速処理モード)と省エネ運転モード(低速処理モード)とを切り替えることで、供給量がロールラインの設定処理速度に追いつかないときの蒸気や電力の無駄を避けることができる。
【0014】
ロールラインに設置されるロール3の制御器8は、高速運転される通常運転モードと省エネ運転モードとにおける運転プログラムないし各種運転パラメータを設定する1個又は複数個の運転モード設定器22、23とその運転モードの切替手段24を備えている。
【0015】
ロール3の制御器8又はフィーダ2やライン全体を制御している制御器には、バッファ1内の被洗物の貯留状態を検出するセンサ(図示されていない)の検出信号の閾値を設定する設定器25を備えている。運転速度の切り替えを緩やかに行うのが望ましいときは、運転モード切替時の待ち時間を設定する待ち時間設定手段27を設ける。バッファ1内の被洗物のストック数が前記閾値に達したとき又は待ち時間設定手段27に設定された時間経過後に、ロール3の運転モードを切り替える。待ち時間設定手段27を備えない場合のロールラインの動作は、待ち時間設定手段27に0を設定した場合の動作と同じである。
【0016】
ロール3の運転状態を切り替えるトリガとしては、バッファ1内に被洗物のストック状態を検出する近接センサや光電センサを設けて当該センサの検出信号や、バッファ1やフィーダ2の被洗物投入ステーション5における搬送チャック11などの機器の動作状態等をトリガとすれば、この発明を実施する装置ないし制御器の構造を容易に実現でき、既存のロールラインに適用することも容易である。
【発明の効果】
【0017】
この発明により、品物の供給速度に応じてロールライン(フィーダ2、ロール3、フォルダ4)の運転速度を低減して不要な高速運転を避けることができるから、ロール3からの無駄な熱放散が少なくなり、高速運転を継続することによるライン全体の電力消費も低減できることから、大きな省エネ効果を得ることができる。また、運転速度を下げる際にロールのシリンダに供給する蒸気圧を下げることによる省エネも可能である。更に、高速運転に伴う部品の損傷や劣化も低減でき、機械寿命を延ばすこともできる。
【0018】
洗濯ラインの省エネを図る手段として、従来は、例えばフィーダはフィーダ単体での省エネ化を、ロールはロール単体での省エネ化を意図した技術が提案されているのに対し、この発明は、フィーダ2とロール3とを組み合わせてライン全体としての省エネを図るものであり、比較的簡単な制御でロールライン全体の省エネを図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、この発明の実施形態を具体的に説明する。
図1は、シーツやタオルなどのリネン製品の洗濯ラインにおけるロールラインを模式的に示した図である。連続式洗濯機で洗濯されて脱水機、乾燥機を経て1ロット毎にロールラインに送り込まれる品物(以下、「シーツ」とする。)は、バッファ1の投入ステーション5で、人手によりシーツの上辺両角を搬送チャック11に把持させる。シーツを把持した搬送チャック11は、上昇してバッファ1内をフィーダ2側に向けて移動し、待機している複数の搬送チャックの末尾で停止して待機する。なお、投入ステーションに設けた昇降チャックからバッファ内を周回する搬送チャックに品物を受け渡す構造の機械もある。
【0021】
フィーダ2から受取許可信号を受けると、先頭の搬送チャック11はシーツwをフィーダ2に渡して投入ステーション5側に戻り、投入待ちをしている搬送チャックの末尾で待機する。搬送チャック11を検出するセンサを設け、フィーダ側へと移動する搬送チャックと投入ステーション側に戻る搬送チャックの数をカウントすることで、バッファ内で待機しているシーツの数(ストック数)を検出することができる。
【0022】
ストック数を検出する他の方法として、光電センサや近接センサで待機している搬送チャックやシーツの数を直接検出する方法、投入ステーションにおける搬送チャックの稼働状況とフィーダやロールの運転速度とを対比して演算する方法などがある。
【0023】
フィーダ2は、受け取ったシーツwの上辺を拡げ、ぶら下げられたシーツの下辺を外側へと負圧で吸引して拡げ、コンベア6でロール3に送る。
【0024】
ロール3では、搬送ベルト12で加熱したチェストや複数本のシリンダ13にシーツwを押し当てながら搬送していわゆるアイロンがけを行い、コンベア7でフォルダ4に送り、所定形状に折り畳んで完成品となる。
【0025】
ロール3の制御器8には、機械の運転を制御する運転プログラム21が登録されており、運転プログラム21には、各運転モードにおける搬送速度やシリンダ蒸気圧などの各種パラメータを設定する通常運転モード設定器22と省エネ運転モード設定器23が設けられている。省エネ運転モード設定器23の設定値は、通常運転モードの設定値に対する割合として設定することもできる。
【0026】
制御器8には更に、モード切替手段24と、バッファ内のシーツのストック数の閾値(以下、「切替ストック数」と言う。)を設定する閾値設定器25と、起動待ち時間を設定する起動待ち時間設定器26と、モード切替時の待ち時間を設定する切替待ち時間設定器27と、バッファ1側で検出されたストック数の受信手段28とを備えている。制御器8は、受信したストック数が設定された切替ストック数に達したあと切替待ち時間設定器27に設定された時間が経過したときに運転モードを切り替える。
【0027】
なお、モード設定器22、23は、例えば通常は4人で行う投入ステーション5の作業者が3人になったときの通常運転モードと省エネ運転モードのように、作業者の数に対応して複数設ければ、作業者が欠けたときの省エネを図ることもできる。
【0028】
また、ロールラインの運転速度をフィーダ側の制御器が制御しているラインでは、モード設定器22、23、モード切替手段24、閾値設定器25、切替待ち時間設定器27及びストック数の受信手段28は、フィーダ2側の制御器に設けられる。
【実施例0029】
図2は、通常運転モードから省エネ運転モードに切り替えるときと省エネ運転モードから通常運転モードに切り替えるときのストック数を同一とした場合の動作を示すフローチャート、
図3は、運転プログラムのパラメータを次のように設定して
図2の手順を実行した場合の動作線図である。
通常運転速度 45m/min
切替ストック数 15個
切替待ち時間 300秒
省エネ運転速度 35m/min
通常運転蒸気圧 0.8MPa
省エネ運転蒸気圧 0.65MPa
【0030】
図2のステップs3のYESからステップs5を繰り返すループAは、通常運転モードで運転されているときのループで、
図3の区間Aにおける動作である。
図2のステップs3のNOからステップs6のNOを経てステップs8を繰り返すループCは、省エネ運転モードで運転されているときのループで、
図3の区間Cにおける動作である。
【0031】
図2のステップs3のNOからステップs6のNO及びステップs7のNOを繰り返すループBは、通常運転モードから省エネ運転モードに移行する際の切替待ち時の動作で、
図3の区間Bにおける動作である。
図2のステップs3のYESからステップs4のNOを繰り返すループDは、省エネ運転モードから通常運転モードに移行する際の切替待ち時の動作で、
図3の区間Dにおける動作である。
【0032】
図2において、シリンダの加熱などの各機械の準備運転を行ってロールラインを起動すると、ロールの制御器8は、蒸気圧を通常運転蒸気圧、運転速度を通常運転速度に設定(ステップs1)して運転を開始し、必要な場合に設定される待ち時間が経過(ステップs2)したあと、ステップs3で検出されたストック数と設定された切替ストック数との比較を行う。
【0033】
ストックがある程度たまった状態で運転が開始される場合は、ステップs3でYESとなり、ループAでストック数が切替ストック数以下になるまでループAを繰り返して通常運転モードを維持する。品物の投入が通常運転モードの処理速度に追いつかないときは、
図3の区間Aの線図aに示すように、ストック数が減少して行く。
【0034】
ループAの通常運転モードでストック数が切替ストック数以下になると、ステップs3がNOとなり、ステップs6及びステップs7のNOからステップs3に戻る切替待ち状態となる。そして、切替待ち時間が経過してもステップs3のNOが維持されていれば、ステップs8で運転モードが省エネ運転モードに切り替えられて、ループCの省エネ運転モードに入る。省エネ運転モードでは、
図3の区間Cの線図cで示すように、ストック数が徐々に増加してゆく。そして、ストック数が切替ストック数を超えると、ステップs3がYESとなり、ループDで切替待ち時間が経過した後、ステップs5で通常運転モードに戻る。
【0035】
このようにして通常運転モードと省エネ運転モードとを交互に繰り返しながら運転を継続し(
図3の区間E)、停止信号を受けると、
図2のステップs6及びステップs9のYESでストック数が0になった時点でロール3が停止する。
【0036】
なお、
図3では蒸気圧p及び運転速度vの切替が瞬時に行われ、ストック数の減少状態と増加状態の切り替わりが瞬時に行われるように記載しているが、実際には蒸気圧や運転速度の切替には時間がかかるので、ストック数の変化を示す線図のV形や逆V形の部分は、実際にはU形ないしJ形や逆U形ないし逆J形の変化になる。
なお、上記の実施例では、制御器に設定した切替ストック数を基準にして運転モードの切替を行っているが、ストックの有無を基準にして、ストックが無ければ省エネ運転モードとし、ストックが1つでも有れば通常運転モードにするという制御も可能である。
また、上記実施例では、バッファ1内の品物のストック数を運転モード切替のトリガとしているが、ロールラインに品物を投入する作業者の数を基準にして運転状態を変更することも可能である。例えば、投入ステーションの規定人数が4人の場合、人感センサなどで検出された人数がこれより少ない場合は稼働状況が低い、規定人数いる場合は稼働状況が通常と判断して運転モードの切替を行うこともできる。
また、バッファ1への品物の投入チャックの稼働状況を用いて投入稼働状況を判断することもできる。例えば一定期間内に品物をチャックした回数が、現状の処理速度に対して想定している回数より少ない場合は稼働状況が低い、多い場合は稼働状況が通常、と判断する。
いずれの場合においても、稼働状況が低い場合にはロールラインの処理速度を落とし、かつロールの蒸気圧設定も下げることで、省エネを図る。その後、稼働状況が上がったときに、ロールラインの処理速度及びロールの蒸気圧を設定値に戻す。
また、上記の実施例では、省エネ運転モードは1モードであるが、複数の省エネ運転モードとして段階的に変化させることもできる。すなわち、処理速度・蒸気圧の下げ方(上げ方)は段階的に下げて(上げて)もよい。ストック数を例にとると、省エネ運転モードに切り替えるストック数NとM(N>M)とを設定し、Nを切ると1段階下げ、Mを切ると更に1段階(結果として2段階)下げるというようにしてもよい。上げるときも同様に段階的に上げても良いし、下げるときと上げるときで段階の数を変えても良い。要は、ロールラインと処理される品物の特性に合わせて最適と考えられる方法で運転モードの切替を行えば良い。