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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033393
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/18 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F16H63/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136939
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】柳田 祥之
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AA13
3J067AB02
3J067AC05
3J067BA14
3J067BA17
3J067BB04
3J067DA36
3J067DA72
3J067FB45
3J067FB61
3J067FB83
3J067GA05
(57)【要約】
【課題】コンパクトな構造でユーザの利便性を向上させるシフト装置を提供する。
【解決手段】シフト装置(40)は、シフトペダル(57)のシフト操作に応じて変速装置(30)にシフトチェンジさせる。シフト装置には、シフトペダルのシフト操作に応じて回転するシフトシャフト(51)と、変速装置の変速ギアの連結状態を変更可能に回転するシフトカム(43)と、シフトシャフトの回転を受けてシフトカムを動かすドライブプレート(52)と、シフトシャフトとドライブプレートの間に介在するロストモーション機構(61)と、が設けられている。ロストモーション機構は、シフトシャフトの一端部に取り付けられており、シフトシャフトの回転を吸収してドライブプレートへの動力伝達を遅らせている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトペダルのシフト操作に応じて変速装置にシフトチェンジさせるシフト装置であって、
前記シフトペダルのシフト操作に応じて回転するシフトシャフトと、
前記変速装置の変速ギアの連結状態を変更可能に回転するシフトカムと、
前記シフトシャフトの回転を受けて前記シフトカムを動かすドライブプレートと、
前記シフトシャフトと前記ドライブプレートの間に介在するロストモーション機構と、を備え、
前記ロストモーション機構は、前記シフトシャフトの一端部に取り付けられており、前記シフトシャフトの回転を吸収して前記ドライブプレートへの動力伝達を遅らせていることを特徴とするシフト装置。
【請求項2】
前記ロストモーション機構は、
前記シフトシャフトと一体的に回転するロストモーションプレートと、
ピンを保持して前記シフトシャフトと相対的に回転するピンホルダと、
前記ロストモーションプレートに取り付けられた捩じりコイルばねと、を有し、
前記ロストモーションプレートには回転方向に沿った長穴が形成され、
前記ピンの一端が前記長穴に挿し込まれ、前記ピンの他端が前記ドライブプレートに連結されており、
前記ピンの一端が前記捩じりコイルばねによって前記長穴の端面から離間した中立位置に保持されていることを特徴とする請求項1に記載のシフト装置。
【請求項3】
前記ロストモーション機構が前記変速装置のケースに収容されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシフト装置。
【請求項4】
前記変速装置の車幅方向の一方側にはクランクシャフトからの動力を伝達又は遮断するクラッチが設けられ、
前記クラッチの後方に前記ロストモーション機構が位置付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシフト装置。
【請求項5】
前記変速装置のケースには前記クラッチの収容室が後方に拡張するように形成され、
前記クラッチの収容室の拡張箇所に前記ロストモーション機構が収容されていることを特徴とする請求項4に記載のシフト装置。
【請求項6】
前記変速装置に入力されるエンジントルクが制御装置に制御されており、
前記制御装置によってシフト操作後にエンジントルクが一時的に低下されるまで、前記ロストモーション機構は、前記シフトシャフトの回転を吸収して前記ドライブプレートへの動力伝達を遅らせていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両のシフト装置として、シフトペダルにロストモーション機構が設けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のシフト装置は、クランクケースの上部側面からシフトシャフトの一端が突出し、クランクケースの下部側面から後方にシフトペダルが延びており、シフトシャフトの一端とシフトペダルの中間部がシフトロッドを介して連結されている。シフト操作時には変速装置のドッグの負荷がシフトペダルに作用しているが、シフトペダルのロストモーション機構で負荷が吸収されることでシフト操作の操作フィーリングが改善されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/110537号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のロストモーション機構はエンジン外部のシフトペダルに設けられているため、シフトペダルが大型化してシフト装置のレイアウト自由度が低下するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、コンパクトな構造でユーザの利便性を向上させることができるシフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のシフト装置は、シフトペダルのシフト操作に応じて変速装置にシフトチェンジさせるシフト装置であって、前記シフトペダルのシフト操作に応じて回転するシフトシャフトと、前記変速装置の変速ギアの連結状態を変更可能に回転するシフトカムと、前記シフトシャフトの回転を受けて前記シフトカムを動かすドライブプレートと、前記シフトシャフトと前記ドライブプレートの間に介在するロストモーション機構と、を備え、前記ロストモーション機構は、前記シフトシャフトの一端部に取り付けられており、前記シフトシャフトの回転を吸収して前記ドライブプレートへの動力伝達を遅らせていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のシフト装置によれば、シフト操作に応じてシフトシャフトが回転するが、シフト操作直後にシフトカムの反力によってドライブプレートが動かず、ロストモーション機構によってシフトシャフトの回転が吸収される。更なるシフト操作によってシフトシャフトの回転がドライブプレートに遅れて伝達されてドライブプレートによってシフトカムが動かされる。よって、操作荷重が大きなシフト操作直後にはシフトペダルの踏み込みがシフトカムに伝わらず、シフト操作の操作フィーリングが改善されている。また、ロストモーション機構がシフトシャフトの一端部に取り付けられることで、コンパクトな構造になってシフト装置のレイアウト自由度が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例のエンジンの右側面図である。
図2】本実施例のエンジンの左側面図である。
図3】本実施例の変速装置及びシフト装置の模式図である。
図4】本実施例のシフト装置の斜視図である。
図5】本実施例のシフト装置の断面斜視図である。
図6】本実施例のシフト装置の動作説明図である。
図7】本実施例のクランクケースの右側面図である。
図8図7のクランクケースをA-A線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のシフト装置は、シフトペダルのシフト操作に応じて変速装置にシフトチェンジさせている。シフトペダルのシフト操作に応じてシフトシャフトが回転し、シフトシャフトの回転を受けてドライブプレートによってシフトカムが動かされ、シフトカムによって変速装置の変速ギアの連結状態が変更される。シフトシャフトとドライブプレートの間にロストモーション機構が介在しており、ロストモーション機構によってシフトシャフトの回転が吸収されてドライブプレートへの動力伝達が遅れている。これにより、シフト操作に応じてシフトシャフトが回転するが、シフト操作直後にシフトカムの反力によってドライブプレートが動かず、ロストモーション機構によってシフトシャフトの回転が吸収される。更なるシフト操作によってシフトシャフトの回転がドライブプレートに遅れて伝達されてドライブプレートによってシフトカムが動かされる。よって、操作荷重が大きなシフト操作直後にはシフトペダルの踏み込みがシフトカムに伝わらず、シフト操作の操作フィーリングが改善されている。また、ロストモーション機構がシフトシャフトの一端部に取り付けられることで、コンパクトな構造になってシフト装置のレイアウト自由度が向上される。
【実施例0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例のエンジンについて説明する。図1は本実施例のエンジンの右側面図である。図2は本実施例のエンジンの左側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、エンジン10は、アッパケース12及びロアケース13から成る上下割構造のクランクケース11を有している。アッパケース12はシリンダと一体化しており、アッパケース12の上部にはシリンダヘッド14及びシリンダヘッドカバー15が取り付けられている。シリンダヘッド14及びシリンダヘッドカバー15の内側には吸排気バルブを作動させる動弁装置(不図示)が収容されている。ロアケース13の下部には潤滑及び冷却用のオイルを貯留するオイルパン16が取り付けられている。クランクケース11の右側面にはクラッチ17を側方から覆うクラッチカバー19が取り付けられている。
【0012】
図2に示すように、クランクケース11の左側面にはマグネト(不図示)を側方から覆うマグネトカバー21が取り付けられている。マグネトカバー21の後方には、後輪駆動用のドライブチェーン(不図示)の一部及びドライブスプロケット22(図3参照)を側方から覆うスプロケットカバー23が取り付けられている。スプロケットカバー23の上方にはエンジン10の油圧を制御するオイルコントロールバルブ24が取り付けられている。エンジン10の内側には、クランクシャフト25(図1参照)からの動力を変速する変速装置30や、変速装置30にシフトチェンジさせるシフト装置40が収容されている。
【0013】
このようなエンジン10には、運転者によるシフト操作を検出して、クラッチ操作を行うことなくシフトチェンジ可能なクイックシフトが採用されている。一般的なクイックシフトでは、エンジン10外に設けられたストロークセンサによってシフトペダルの操作ストロークが検出される。この場合、エンジン10外の他の部品によってストロークセンサのレイアウトが制約を受けると共に、ストロークセンサが外部に露出されることで防錆等の耐候要求が高くなっている。このため、ギアポジションセンサを用いてエンジン10内でシフト操作を検出する方法も検討されている。
【0014】
ギアポジションセンサを用いたクイックシフトでは、変速ギアのドッグに負荷が掛かった状態で、ギアポジションセンサによってシフトカムの回転を検出し、エンジン出力を制御してドッグに掛かる負荷を低減している。しかしながら、シフトカムの回転を検出してからエンジン出力を制御するまでにタイムラグがあり、シフト操作直後から一定時間はドッグに負荷が掛かり続けるため操作フィーリングが硬くなる。そこで、本実施例では、シフト装置40にロストモーション機構61を設けて、シフト操作直後のシフトペダルからシフトカムへの動力伝達を遅らせるようにしている。
【0015】
図3から図5を参照して、変速装置及びシフト装置について説明する。図3は本実施例の変速装置及びシフト装置の模式図である。図4は本実施例のシフト装置の斜視図である。図5は本実施例のシフト装置の断面斜視図である。
【0016】
図3に示すように、変速装置30には、クランクシャフト25(図1参照)に平行にカウンタシャフト31及びドライブシャフト32が設けられている。カウンタシャフト31の一端部にはクラッチ17が設けられており、クラッチ17によってクランクシャフト25からカウンタシャフト31への動力が伝達及び遮断されている。カウンタシャフト31及びドライブシャフト32は複数の変速ギア33、34を介して連結されている。ドライブシャフト32の他端部にはドライブスプロケット22が設けられており、ドライブスプロケット22によって後輪(不図示)に動力が伝達されている。
【0017】
カウンタシャフト31及びドライブシャフト32の変速ギア33、34には、シャフトと一体に回転する固定ギアと、シャフトに対して空転する遊動ギアとが含まれている。固定ギア及び遊動ギアの側面にはドッグと呼ばれる爪が形成されており、固定ギアはシフトフォーク41、42によって軸方向に動かされて、軸方向に隣合う固定ギアと遊動ギアが連結又は分離される。変速装置30の下方には各シャフト31、32と平行にシフトカム43及びシフトシャフト51が設けられている。シフトカム43の外周面にはシフトフォーク41、42を軸方向にスライドさせるカム溝が形成されている。
【0018】
シフトカム43の一端部にはカムプレート45が設けられており、シフトシャフト51にはカムプレート45に連結するドライブプレート52が設けられている。シフトシャフト51の一端部にはロストモーション機構61が設けられており、ロストモーション機構61を介してシフトシャフト51とドライブプレート52が連結されている。シフトシャフト51の他端部にはリンク機構(不図示)等を介してシフトペダル57が連結されている。このように、エンジン10には、シフトペダル57からシフトカム43に向かう動力伝達経路にロストモーション機構61を介在させたシフト装置40が設けられている。
【0019】
運転者によってシフトペダル57が操作されると、シフトシャフト51が所定角度だけ回転されて、シフトシャフト51の回転がロストモーション機構61等を介してシフトカム43に伝達される。シフトカム43が所定角度だけ回転されることで、シフトフォーク41、42が軸方向にスライドされて、カウンタシャフト31とドライブシャフト32の変速ギア33、34の連結状態が変更される。カウンタシャフト31とドライブシャフト32の変速ギア33、34の連結状態によって変速段が切り替えられて、クランクシャフト25の駆動力が回転数及びトルクが変えられた状態で後輪に伝達される。
【0020】
シフト装置40にはシフトセンサ58が設けられており、シフトセンサ58によってシフト操作が検出される。例えば、シフトセンサ58によってシフトペダル57の操作、シフトシャフト51の回転、ロストモーション機構61の作動からシフト操作が検出される。シフトセンサ58の検出信号はエンジン10(図1参照)の制御装置70に入力され、制御装置70によって変速装置30に入力されるエンジントルクが制御されている。制御装置70によってシフト操作後にエンジントルクが一時的に低下されることで、変速ギア33、34のドッグに掛かる負荷が減少されている。
【0021】
上記したように、シフト操作が検出されてからエンジントルクが低下するまでにタイムラグがあり、シフト操作直後は変速ギア33、34のドッグに掛かる負荷が十分に減少していない。このため、制御装置70によってシフト操作後にエンジントルクが一時的に低下されるまで、ロストモーション機構61によってシフトシャフト51の回転が吸収されて、シフトシャフト51からドライブプレート52への動力伝達が遅らされている。そして、シフト操作の操作荷重が小さくなった後に、シフトペダル57からシフトカム43に動力が伝達されるため、シフト操作の操作フィーリングが改善されている。
【0022】
図4及び図5に示すように、シフト装置40のシフトシャフト51の一端側には、ドライブプレート52、シフトアーム55、ロストモーション機構61が取り付けられている。シフトシャフト51にはシフトペダル57(図3参照)から操作力が入力されて、シフトペダル57のシフト操作に応じてシフトシャフト51が回転する。シフトシャフト51にはドライブプレート52が相対回転可能に支持されている。ドライブプレート52にはロストモーション機構61を介してシフトシャフト51の回転が入力され、シフトシャフト51の回転を受けてドライブプレート52によってシフトカム43(図3参照)が動かされる。
【0023】
ドライブプレート52はシフトシャフト51からシフトカム43に向かって延びている。ドライブプレート52には開口53が形成されており、この開口53にシフトカム43のカムシャフト44が入り込んでいる。シフトカム43にはドライブプレート52に対向するようにカムプレート45が設けられている。ドライブプレート52の先端側には爪54が形成されており、カムプレート45には複数のシフトピン46が形成されている。ドライブプレート52の爪54がカムプレート45のシフトピン46に当たって、ドライブプレート52がシフトシャフト51を中心にして揺動することでシフトカム43が回転される。
【0024】
シフトカム43の回転によって変速装置30の変速ギア33、34(図3参照)の連結状態が変更される。また、シフトシャフト51にはドライブプレート52よりも車幅方向の他方側にシフトアーム55が設けられている。シフトアーム55はシフトシャフト51の回転時にカムプレート45のシフトピン46に当接してシフトカム43の回転角を規制している。シフトアーム55にはシャフト戻しばね56が取り付けられており、シフト操作後にはシャフト戻しばね56の復元力によってシフトシャフト51が初期位置に戻される。このように、シフト装置40では、シフトペダル57のシフト操作に応じて変速装置30にシフトチェンジさせている。
【0025】
シフトシャフト51とドライブプレート52の間、すなわちシフトシャフト51からドライブプレート52への伝達経路の途中にロストモーション機構61が介在されている。ロストモーション機構61は、ロストモーションプレート62、捩じりコイルばね66、ピンホルダ67に保持されたピン68を介してシフトシャフト51からドライブプレート52に動力を伝えている。シフトシャフト51の回転がロストモーション機構61の捩じりコイルばね66に吸収されることで、シフト操作直後から一定時間が経過するまでシフトシャフト51からドライブプレート52への動力伝達が遅らされる。
【0026】
ロストモーションプレート62は、ドライブプレート52に対向するようにシフトシャフト51から延びている。ロストモーションプレート62の基端側には筒状部63が形成され、筒状部63がシフトシャフト51の一端部に固定されて、ロストモーションプレート62がシフトシャフト51と一体に回転される。ロストモーションプレート62にはシフトシャフト51の回転方向に沿った長穴64が形成されている。筒状部63の外周面には捩じりコイルばね66が取り付けられ、捩じりコイルばね66の両端がロストモーションプレート62の先端の掛止片65に掛け止めされている。
【0027】
シフトシャフト51にはロストモーションプレート62とドライブプレート52の間にピンホルダ67が取り付けられている。シフトシャフト51に対してピンホルダ67が相対的に回転するように、ニードルベアリング69を介してシフトシャフト51にピンホルダ67が支持されている。ピンホルダ67はロストモーションプレート62に沿って延びており、ピンホルダ67の先端にはピン68が圧入されている。ピン68はシフトシャフト51と平行に延びており、ピン68の一端はロストモーションプレート62の長穴64に挿し込まれ、ピン68の他端がドライブプレート52に連結されている。
【0028】
ピン68の一端側は捩じりコイルばね66の両端に挟み込まれており、捩じりコイルばね66によって長穴64の端面から離間した中立位置にピン68が保持されている。捩じりコイルばね66の弾性力に抗して中立位置のピン68が長穴64に対して相対的に動くことによって、ロストモーション機構61によってシフトシャフト51の回転が吸収される。さらに、捩じりコイルばね66の弾性力に抗してピン68が動いて長穴64の端面に接触することによって、ロストモーションプレート62とドライブプレート52がピン68を介して一体に回転して、シフトシャフト51の回転がドライブプレート52に伝達される。
【0029】
図6を参照して、シフト装置の動作について説明する。図6は本実施例のシフト装置の動作説明図である。
【0030】
図6(A)に示すように、シフトペダル57(図3参照)の操作が開始されると、シフトシャフト51が回転してロストモーションプレート62が揺動し始める。この時点では、カムプレート45上のシフトピン46とドライブプレート52の爪54が離れており、変速ギア33、34(図3参照)のドッグに掛かる負荷からドライブプレート52が遮断されている。このため、ピン68の抵抗力が小さいため、捩じりコイルばね66によってピン68が長穴64の中立位置に保持された状態で、ロストモーションプレート62とドライブプレート52がピン68を介して一体的にシフトシャフト51回りに揺動する。
【0031】
図6(B)に示すように、さらにシフトペダル57が操作されると、シフトシャフト51の回転がロストモーション機構61に吸収され始める。この時点では、カムプレート45上のシフトピン46とドライブプレート52の爪54が接触しており、変速ギア33、34のドッグに掛かる負荷がドライブプレート52にも作用している。このため、ピン68の抵抗力が大きくなって、捩じりコイルばね66の弾性力に抗して長穴64に対してピン68が相対的に移動される。ロストモーションプレート62は揺動するが、ドライブプレート52によってシフトカム43が動かされることがない。
【0032】
図6(C)に示すように、さらにシフトペダル57の操作量が増加すると、シフトシャフト51の回転がドライブプレート52に伝達され始める。この時点では、制御装置70(図3参照)によってエンジントルクが低下されており、ドライブプレート52に作用する負荷が小さくなっている。長穴64の端面にピン68が接触することで、ロストモーションプレート62とドライブプレート52がピン68を介して一体的にシフトシャフト51回りに揺動する。ドライブプレート52によってシフトカム43が動かされるが、エンジントルクの低下によってシフト操作の操作荷重が十分に小さくなっている。
【0033】
このように、本実施例のシフト装置40ではピン68が長穴64の端面に接触するまでに、制御装置70によってエンジントルクが制御されている。このため、シフト操作の操作荷重が大きくならずに、変速装置30(図3参照)の変速が完了して操作フィーリングが改善されている。そして、シフトペダル57の操作後には、シャフト戻しばね56(図4参照)の復元力によってシフトシャフト51が初期位置まで戻され、ピン68が捩じりコイルばね66の復元力によって長穴64の中立位置まで戻される。ドライブプレート52とロストモーションプレート62の位置関係が初期状態に戻される。
【0034】
図7及び図8を参照して、ロストモーション機構のレイアウトについて説明する。図7は本実施例のクランクケースの右側面図である。図8図7のクランクケースをA-A線に沿って切断した断面図である。
【0035】
図7に示すように、クランクケース(ケース)11の車幅方向の一方側(右側)にはクラッチ17の収容室が形成されている。このクラッチ17の収容室が後方に拡張されており、当該収容室の拡張箇所にはロストモーション機構61が収容されている。クランクケース11にロストモーション機構61が収容されることで、車体外側のレイアウトに影響を与えることがなく防錆等の耐候要求を低くできる。また、クラッチ17の収容室にロストモーション機構61が収容されることで、運転中はエンジンオイルの飛散や浸漬によってからロストモーション機構61への注油が不要になっている。
【0036】
図8に示すように、クラッチ17は変速装置30の車幅方向の一方側に設けられており、クラッチ17の後方にロストモーション機構61が位置付けられている。クラッチ17にはクランクシャフト25(図1参照)から動力が入力されるドリブンギア18が設けられている。このドリブンギア18を含めたクラッチ17の全長に収まるように、ロストモーション機構61のピン68を除いたピンホルダ67、ロストモーションプレート62、捩じりコイルばね66が設置されている。クラッチ17の後方スペースを有効利用してロストモーション機構61が設置され、クランクケース11の車幅方向の寸法増加が抑えられている。
【0037】
以上、本実施例のシフト装置40によれば、シフト操作に応じてシフトシャフト51が回転するが、シフト操作直後にシフトカム43の反力によってドライブプレート52が動かず、ロストモーション機構61によってシフトシャフト51の回転が吸収される。更なるシフト操作によってシフトシャフト51の回転がドライブプレート52に遅れて伝達されてドライブプレート52によってシフトカム43が動かされる。よって、操作荷重が大きなシフト操作直後にはシフトペダル57の踏み込みがシフトカム43に伝わらず、シフト操作の操作フィーリングが改善されている。また、ロストモーション機構61がシフトシャフト51の一端部に取り付けられることで、コンパクトな構造になってシフト装置40のレイアウト自由度が向上される。
【0038】
なお、上記の実施例では、捩じりコイルばねを用いたロストモーション機構について説明したが、ロストモーション機構はシフトシャフトの回転を吸収してドライブプレートへの動力伝達を遅らせる構成であればよい。例えば、国際公開第2018/110537号に記載されているような、周方向に設置した押しばね及び平面カムの組み合わせを利用したロストモーション機構でもよい。
【0039】
また、上記の実施例では、シフトペダルにリンク機構等を介してシフトシャフトが連結されたが、シフトペダルにダイレクトにシフトシャフトが連結されていてもよい。
【0040】
また、上記の実施例では、クラッチの後方にロストモーション機構が設置されたが、クラッチとロストモーション機構の位置関係は特に限定されない。変速装置のケースにロストモーション機構が収容されていればよい。
【0041】
また、エンジンは、上記の鞍乗型車両のエンジンに限らず、他の鞍乗型車両のエンジンに適用されてもよい。なお、鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車する小型のスクータタイプの車両も含んでいる。
【0042】
以上の通り、第1態様は、シフトペダル(57)のシフト操作に応じて変速装置(30)にシフトチェンジさせるシフト装置(40)であって、シフトペダルのシフト操作に応じて回転するシフトシャフト(51)と、変速装置の変速ギアの連結状態を変更可能に回転するシフトカム(43)と、シフトシャフトの回転を受けてシフトカムを動かすドライブプレート(52)と、シフトシャフトとドライブプレートの間に介在するロストモーション機構(61)と、を備え、ロストモーション機構は、シフトシャフトの一端部に取り付けられており、シフトシャフトの回転を吸収してドライブプレートへの動力伝達を遅らせている。この構成によれば、シフト操作に応じてシフトシャフトが回転するが、シフト操作直後にシフトカムの反力によってドライブプレートが動かず、ロストモーション機構によってシフトシャフトの回転が吸収される。更なるシフト操作によってシフトシャフトの回転がドライブプレートに遅れて伝達されてドライブプレートによってシフトカムが動かされる。よって、操作荷重が大きなシフト操作直後にはシフトペダルの踏み込みがシフトカムに伝わらず、シフト操作の操作フィーリングが改善されている。また、ロストモーション機構がシフトシャフトの一端部に取り付けられることで、コンパクトな構造になってシフト装置のレイアウト自由度が向上される。
【0043】
第2態様は、第1態様において、ロストモーション機構は、シフトシャフトと一体的に回転するロストモーションプレート(62)と、ピン(68)を保持してシフトシャフトと相対的に回転するピンホルダ(67)と、ロストモーションプレートに取り付けられた捩じりコイルばね(66)と、を有し、ロストモーションプレートには回転方向に沿った長穴(64)が形成され、ピンの一端が長穴に挿し込まれ、ピンの他端がドライブプレートに連結されており、ピンの一端が捩じりコイルばねによって長穴の端面から離間した中立位置に保持されている。この構成によれば、シフト操作に応じてシフトシャフトと一体的にロストモーションプレートが回転するが、操作荷重が大きなシフト操作直後にはドライブプレートが動かない。このため、捩じりコイルばねの反力に抗して、ドライブプレートに連結したピンとロストモーションプレートの長穴が相対的に移動して、ロストモーション機構によってシフトシャフトの回転が吸収される。更なるシフト操作によってドライブプレートに連結したピンとロストモーションプレートの長穴の端面が接することで、シフトシャフトの回転がドライブプレートに遅れて伝達され、ドライブプレートによってシフトカムが動かされる。
【0044】
第3態様は、第1態様又は第2態様において、ロストモーション機構が変速装置のケース(クランクケース11)に収容されている。この構成によれば、変速装置のケースにロストモーション機構が収容されることで、車体外側のレイアウトに影響を与えることがなく防錆等の耐候要求を低くできる。
【0045】
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれか1態様において、変速装置の車幅方向の一方側にはクランクシャフト(25)からの動力を伝達又は遮断するクラッチ(17)が設けられ、クラッチの後方にロストモーション機構が位置付けられている。この構成によれば、クラッチの後方スペースを有効利用してロストモーション機構が設置され、変速装置のケースの車幅方向の寸法増加が抑えられている。
【0046】
第5態様は、第4態様において、変速装置のケースにはクラッチの収容室が後方に拡張するように形成され、クラッチの収容室の拡張箇所にロストモーション機構が収容されている。この構成によれば、クラッチの収容室にロストモーション機構が収容されることで、運転中はエンジンオイルの飛散や浸漬によってからロストモーション機構への注油が不要になる。
【0047】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれか1態様において、変速装置に入力されるエンジントルクが制御装置(70)に制御されており、制御装置によってシフト操作後にエンジントルクが一時的に低下されるまで、ロストモーション機構は、シフトシャフトの回転を吸収してドライブプレートへの動力伝達を遅らせている。この構成によれば、エンジントルクが低下してシフト操作の操作荷重が小さくなった後に、シフトペダルからシフトカムに動力が伝達されるため、シフト操作の操作フィーリングを向上させることができる。
【0048】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0049】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0050】
10 :エンジン
11 :クランクケース(ケース)
17 :クラッチ
25 :クランクシャフト
30 :変速装置
33、34:変速ギア
34 :変速ギア
40 :シフト装置
43 :シフトカム
51 :シフトシャフト
52 :ドライブプレート
57 :シフトペダル
61 :ロストモーション機構
62 :ロストモーションプレート
64 :長穴
66 :捩じりコイルばね
67 :ピンホルダ
68 :ピン
70 :制御装置
図1
図2
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図8