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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033433
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】紡績糸及び織編物
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20240306BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20240306BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20240306BHJP
   D03D 15/225 20210101ALI20240306BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240306BHJP
   D03D 15/44 20210101ALI20240306BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20240306BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240306BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
D02G3/04
D01F1/10
D03D15/20 100
D03D15/225
D03D15/283
D03D15/44
D04B1/14
D04B21/00 B
D04B21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137004
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 耕二
(72)【発明者】
【氏名】福島 直也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞矢
(72)【発明者】
【氏名】折原 桂介
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA07
4L002AB01
4L002AB04
4L002AC00
4L002AC07
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002FA01
4L035DD19
4L035EE01
4L035JJ12
4L035KK04
4L035KK05
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA09
4L036MA35
4L036MA39
4L036PA21
4L036PA46
4L036RA24
4L036UA07
4L036UA25
4L048AA08
4L048AA13
4L048AA20
4L048AA56
4L048AB01
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB18
4L048AC09
4L048AC10
4L048CA00
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】相変化材料を含むことで温度調節機能に優れ、また強伸度や染色性にも優れた、各種衣料用途に好適に使用することができる紡績糸を提供する。
【解決手段】複数のマイクロカプセルが分散され、該マイクロカプセルが0℃~100℃の範囲内の転移温度を有する相変化材料を含有する再生セルロース系繊維と、前記再生セルロース系繊維以外のその他繊維とからなる紡績糸であり、紡績糸中における再生セルロース系繊維の含有量が50質量%以上であり、かつ強度が1.0~4.0cN/dtex、伸度が5~10%であることを特徴とする紡績糸。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマイクロカプセルが分散され、該マイクロカプセルが0℃~100℃の範囲内の転移温度を有する相変化材料を含有する再生セルロース系繊維と、前記再生セルロース系繊維以外のその他繊維とからなる紡績糸であり、
紡績糸中における再生セルロース系繊維の含有量が50質量%以上であり、
かつ強度が1.0~4.0cN/dtex、伸度が5~10%であることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
請求項1記載の紡績糸であって、糸条長手方向に対して垂直な断面が芯部と鞘部とを有する二層構造を呈し、芯部を構成する繊維は前記その他繊維であり、鞘部を構成する繊維は前記再生セルロース系繊維であり、
芯部を構成する前記その他繊維が天然繊維又は合成繊維である、請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
前記その他繊維がポリエステル繊維であって、ポリエステル繊維を構成するポリエステル樹脂が、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を0.5~5モル%、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含む共重合ポリエステル樹脂である、請求項1又は2のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項4】
請求項1記載の紡績糸を含む織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の再生セルロース繊維を用いた温度調節機能を有する紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、物質の相変化による熱の吸収や放出を利用して衣服内気候を改善する試みがある。
例えば、特許文献1には、増強した可逆的熱特性を持つセルロース系繊維として、パラフィン系炭化水素からなる相変化材料を使用して繊維に温度調節機能を付与する技術が開示されている。具体的には、0℃~50℃の範囲内の転移温度を有する相変化材料を含むセルロース系繊維であって、変化する環境条件下で望ましい快適性レベルを提供できる不織布を得ることが可能であることが示されている。
【0003】
特許文献2には、上記したような相変化材料を内包するマイクロカプセルを高吸湿繊維よりなる織編物に配した寝具が記載されており、織編物の表面に上記マイクロカプセルをコーティング或いはプリント等の手段で付着させたり、マイクロカプセルを練り込んだ糸を編成或いは製織したり、不織布の状態としたものが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載された発明では、相変化材料を含む繊維を用いて、不織布や寝具を得ることは記載されているが、衣料用に好適な繊維や織編物は提案されていない。つまり、十分な温度調節機能を発現することができる繊維で、衣料用に好適な強伸度等を有する各種の織編物に使用可能な繊維は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-145447号公報
【特許文献2】特開2004-154281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、相変化材料を含み、十分な温度調節機能を有しながら、優れた強伸度を有し、また、染色性にも優れ、各種衣料用途に好適に使用することができる紡績糸及び該紡績糸を用いた織編物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(4)を要旨とするものである。
(1)複数のマイクロカプセルが分散され、該マイクロカプセルが0℃~100℃の範囲内の転移温度を有する相変化材料を含有する再生セルロース系繊維と、前記再生セルロース系繊維以外のその他繊維とからなる紡績糸であり、紡績糸中における再生セルロース系繊維の含有量が50質量%以上であり、かつ強度が1.0~4.0cN/dtex、伸度が5~10%である紡績糸。
(2)(1)記載の紡績糸であって、糸条長手方向に対して垂直な断面が芯部と鞘部とを有する二層構造を呈し、芯部を構成する繊維は前記その他繊維であり、鞘部を構成する繊維は前記再生セルロース系繊維であり、芯部を構成する前記その他繊維が天然繊維又は合成繊維である、(1)の紡績糸。
(3)前記その他繊維がポリエステル繊維であって、ポリエステル繊維を構成するポリエステル樹脂が、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を0.5~5モル%、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含む共重合ポリエステル樹脂である、(1)又は(2)のいずれかの紡績糸。
(4)(1)の紡績糸を含む織編物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、温度調節機能を有する紡績糸が提供でき、織編物に快適な衣服内気候が付与できる。さらに、本発明の紡績糸は強伸度に優れ、再生セルロース繊維特有の優れた光沢感や染色性も併せ持つものであるため、衣料用途に好適に使用することができる。
中でも、本発明では、芯部に前記その他繊維を配し、鞘部に前記再生セルロース系繊維を配した二層構造とすることで、紡績糸の強度および温度調節機能がより向上し、また前記再生セルロース繊維特有の効果もより顕著なものとできる。
さらに、本発明では、前記その他繊維として特定の共重合ポリエステル樹脂からなるポリエステル繊維を使用して、前記その他繊維に常圧条件で染色が可能な常圧カチオン染料可染性を付与することで、染色時の熱が高すぎることが原因で生じるマイクロカプセルの崩壊を抑制することができ、優れた温度調節機能を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】粗紡機の一例を示す概略断面図である。
図2】粗紡機の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、繊維中に、0℃~100℃の範囲内の転移温度を有する相変化材料を含有する複数のマイクロカプセルが分散された再生セルロース系繊維(以下、「相変化再生セルロース系繊維」と称することがある。)を使用する。
本発明の紡績糸は相変化再生セルロース系繊維と、相変化再生セルロース系繊維以外のその他繊維とからなる。
【0011】
相変化材料再生セルロース系繊維としては、例えば、ビスコースレーヨン、キュプラ、リヨセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテートなどがあげられる。これらは2種類以上併用されていてもよい。中でも、光沢感や染色性の点からビスコースレーヨンが好適である。
相変化再生セルロース系繊維中には、目的に応じて任意の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、艶消し剤、難燃剤、抗菌剤、防汚剤、吸水剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料などがあげられる。
【0012】
相変化再生セルロース系繊維中に含まれる相変化材料としては、炭化水素、水和塩、無水物、重合体、共重合体、多価アルコール、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、二塩基酸、二塩基エステル、1-ハロゲン化物、芳香族化合物、クラスレート、半クラスレート、ガスクラスレート、エチレンカルボネートなどがあげられる。相変化材料はこれらの物質を単独で使用してもよいし、複数種類を組み合わせた混合物であってもよい。
【0013】
具体的に、前記炭化水素としては、例えば、直鎖アルカン、パラフィン系炭化水素、分岐アルカン、不飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素、脂環式炭化水素などがあげられる。
前記水和塩としては、例えば、塩化カルシウム六水和物、臭化カルシウム六水和物、硝酸マグネシウム六水和物、硝酸リチウム三水和物、フッ化カリウム四水和物、アンモニウムミョウバン、塩化マグネシウム六水和物、炭酸ナトリウム十水和物、リン酸二ナトリウム十二水和物、硫酸ナトリウム十水和物、酢酸ナトリウム三水和物などがあげられる。
【0014】
前記無水物としては、例えば、ステアリン酸無水物などがあげられる。
前記重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、マロン酸ポリプロピレン、セバシン酸ポリネオペンチルグリコール、グルタル酸ポリペンタン、ミリスチン酸ポリビニル、ステアリン酸ポリビニル、ラウリン酸ポリビニル、ポリヘキサデシルメタクリレート、ポリオクタデシルメタクリレート、二塩基酸(又はそれらの誘導体)を用いたグリコールの重縮合により生成されるポリエステル(又はそれらの誘導体)などがあげられる。
【0015】
前記共重合体としては、アルキル炭化水素側鎖又はポリエチレングリコール側鎖を含むポリアクリレート、ポリ(メト)アクリレート、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを含む共重合体などがあげられる。
【0016】
前記多価アルコールとしては、例えば、2,2-ジメチル-l,3-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-l,3-プロパンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ペンタグリセリン、テトラメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、テトラメチロールプロパン、2-アミノ-2-メチル-l,3-プロパンジオール、モノアミノペンタエリスリトール、ジアミノペンタエリスリトール、トリス(ヒドロキシメチル)酢酸などがあげられる。
中でも、好ましい相変化材料としては、炭素数10~44個、より好ましくは炭素数13~28個のパラフィン系炭化水素が採用できる。具体的には、n-オクタコサン、n-へプタコサン、n-へキサコサン、n-ペンタコサン、n-テトラコサン、n-トリコサン、n-ドコサン、n-へネイコサン、n-エイコサン、n-ノナデカン、n-オクタデカン、n-ヘプタデカン、n-ヘキサデカン、n-ペンタデカン、n-テトラデカン、n-トリデカンなどがあげられる。特にn-オクタデカンが好適である。
【0017】
相変化材料の転移温度としては、0℃~100℃とする必要がある。好ましくは0℃~50℃、より好ましくは15℃~45℃、さらに好ましくは18℃~40℃、特に好ましくは18℃~30℃である。相変化とは、物質の状態が固体から液体へ、又は液体から固体へ変化する現象をいい、本発明では、繊維に含有する相変化材料の相変化が生じる際の熱の吸収や放出を利用して温度を安定させる温度調節機能を発現させる。通常、人が快適と感じる外気温度は、概ね夏季25℃~28℃、冬季18℃~22℃とされており、衣服内気候も前記好ましい外気温度の範囲に近い温度領域とすることが好ましいと考えられている。本発明においては、相変化材料の転移温度を前記特定範囲とすることで、本発明の紡績糸を用いて衣服とした場合に、衣服内気候を前記快適と感じられる温度領域近辺に近づけることができる。
【0018】
本発明では、相変化材料はマイクロカプセル中に含有された状態で使用する。本発明では、相変化材料を含有する再生セルロース系繊維を使用することが必要であるが、相変化材料がマイクロカプセル中に含有された状態であれば、後述するような方法で相変化再生セルロース系繊維を紡糸する際に、相変化材料が紡糸液や凝固液から化学的又は物理的作用を受け難くなり、優れた温度調節機能を発現するものとできる。また、マイクロカプセル化することにより、繊維中に相変化材料を均一分散させることも可能となるため、紡績糸の温度調節機能に斑が生じにくいものとなる。
【0019】
マイクロカプセルの含有量は、再生セルロース系繊維中に5~60質量%含有されていることが好ましく、5~40質量%がより好ましく、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0020】
マイクロカプセルの形状は一般に球形又は楕円体であり、直径又は長径は0.1~100μmであること好ましく、0.1~20μmがより好ましく、さらに好ましくは0.3~5μmである。マイクロカプセル中には、本発明の効果を損なわない範囲で任意の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、シリカ粒子、ゼオライト粒子、炭素粒子などが例示できる。
マイクロカプセルの殻を構成する物質としては、ゼラチン、アラビアゴム、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、シリカ、カルシウムなどが例示できる。
【0021】
相変化再生セルロース系繊維の製造方法としては、例えば公知の湿式紡糸法に準じた方法が採用できる。具体的には、セルロース系ポリマーと、相変化材料を内包する複数のマイクロカプセルと、必要に応じて各種添加剤とを揮発性の低い溶媒に溶かして紡糸液とし、この紡糸液を凝固液中で固化した後、ローラーで引取ることにより製造できる。
【0022】
本発明では、相変化再生セルロース系繊維を使用するが、これのみで紡績糸を構成するのではなく、相変化再生セルロース系繊維以外のその他繊維(以下、「その他繊維」と称することがある。)も使用する必要がある。本発明では、相変化再生セルロース系繊維とその他繊維を併用することにより、衣料用途に必要な強伸度を有する紡績糸とすることができる。
【0023】
本発明では、紡績糸中における相変化再生セルロース系繊維の含有量を50質量%以上とする必要があり、65質量%以上とすることがより好ましい。前記含有量が50質量%未満になると、相変化再生セルロース系繊維の含有量が少なすぎるため温度調節機能に劣り、また、光沢性や染色性にも劣るものとなる。一方、前記含有量の上限としては、80質量%以下が好ましい。前記含有量が80質量%を超えると、紡績糸中のその他繊維の含有量が少なすぎるものとなるため紡績糸の強伸度、特に湿潤時の強伸度が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0024】
本発明の紡績糸に含まれる相変化再生セルロース系繊維以外のその他繊維としては、用途に応じて任意の繊維が選択できる。具体的には、天然繊維、合成繊維などがあげられ、天然繊維としては、綿、麻、絹、羊毛などが、合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維などがあげられる。
【0025】
なお、その他繊維としては、相変化再生セルロース系繊維以外のものであればよく、相変化材料を含有しない再生セルロース系繊維と相変化再生セルロース系繊維との組合せを排除するものではない。例えば、相変化再生セルロース系繊維としてビスコースレーヨンを選択した場合、本発明の効果を奏する限り、その他繊維として、例えば、ビスコースレーヨン、キュプラ、リヨセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテートなどを採用してもよい。
また、その他繊維は2種類以上の繊維から構成されていてもよく、またその他繊維中に任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0026】
特に、紡績糸の強度をより向上させたいときは、その他繊維としてポリエステル繊維を選択することが好ましい。また、紡績糸の強度および温調調節機能のどちらにも優れる紡績糸とする観点からは、その他繊維として中でも特定の共重合成分を含む共重合ポリエステル繊維を採用することが好ましい。
【0027】
前記共重合ポリエステル繊維としては、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を0.5~5モル%、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含む共重合ポリエステル樹脂からなる繊維が好ましい。このような特定の共重合ポリエステル繊維は常圧(100℃以下)でのカチオン染料による染色が可能なものである。本発明において、その他繊維として通常のポリエステル繊維を使用した場合には、紡績糸を強度により優れたものとできる点で優位である一方、一般的にポリエステル繊維は、130℃周辺の高温高圧条件下での染色加工を必要とするため、紡績糸を用いて染色加工をした際に、染色温度が高くなり過ぎることにより相変化材料を内包するマイクロカプセルが一部崩壊する可能性があり、温度調節機能が僅かに低下する場合がある。一方で、その他繊維として常圧条件下でのカチオン染料可染性を有するものを用いると、本発明の紡績糸全体を常圧条件下で染色することが可能となるため、染色時にマイクロカプセルの崩壊が生じることを抑制でき、好ましい。
【0028】
前記共重合ポリエステル樹脂には金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸は共重合成分として含まれていることが好ましく、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、0.5~5モル%共重合されていることが好ましく、中でも0.8~3.0モル%共重合されていることがより好ましい。金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸がカチオン染料に対する染着座席(カチオン染料と反応する反応基数)として機能することにより、前記共重合ポリエステル繊維はカチオン染料による染色が可能となる。含有量が0.5モル%未満になると、カチオン染料の染着座席が十分でないため、得られる共重合ポリエステル繊維はカチオン染料に対する十分な染色性を得られない傾向にある。一方、5モル%を超えると、共重合ポリエステル樹脂の重合工程において、樹脂の溶融粘度が高くなり過ぎる傾向にあり、重合度を十分に上げることが困難となり、繊維の強度が低下することがあるため、好ましくない。
【0029】
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸としては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、ナトリウムスルホフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホテレフタル酸などが例示でき、2種類以上の併用やこれらの誘導体も使用可能である。本発明では、カチオン染料による発色性、溶融紡糸時の操業性及びコストの点から、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が好適である。
【0030】
さらに、前記共重合ポリエステル樹脂を構成する酸成分中には、全酸成分の合計量を100モル%とするとき、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を共重合成分として含むことが好ましい。炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸2~18モル%共重合量されていることが好ましく、中でも5.0~12.0モル%共重合されていることが好ましい。炭素数5~10の脂肪族ジカルボンを適量共重合することにより、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)の結晶に乱れを生じさせ、非晶部の配向が低下し、染料の繊維内部への浸透が容易になるため、常圧下での染色が可能となる。
炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸の含有量(共重合量)が2モル%未満になると、織編物を常圧染色したとき十分な染色性が得られない傾向にあり、一方、18モル%を超えると、共重合ポリエステル樹脂の熱安定性が低下し、繊維の強度が低下する傾向にあり、何れも好ましくない。
【0031】
炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸などが例示でき、2種類以上の併用やこれらの誘導体も使用可能である。本発明では、溶融紡糸時の操業性やコストの点から、アジピン酸が好適である。
【0032】
共重合ポリエステル樹脂は全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上含有することが好ましい。テレフタル酸の含有量が80モル%未満になると、樹脂の結晶性が低下することで融点が低くなり、結果、紡糸延伸工程の操業性が低下する傾向にあるため、好ましくない。一方、テレフタル酸は97.5モル%を上限含有量とすることが好ましい。97.5モル%を超えると、上記した金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸や炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸の共重合量が少なくなるため、常圧条件下でのカチオン染料による可染性の効果が小さくなる。
【0033】
ポリエステル樹脂における、テレフタル酸と金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸以外の酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。これらを2種類以上併用してもよく、これらの誘導体も使用してもよい。
【0034】
一方、ポリエステル成分のうちグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体などが例示でき、2種類以上の併用やこれらの誘導体も使用可能である。中でも、エチレングリコールが好適であり、その含有量としては、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールを80モル%以上含有することが好ましく、90モル%以上がより好ましい。エチレングリコールの含有量が80モル%未満になると、樹脂の結晶性や耐熱性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0035】
本発明では、相変化材料再生セルロース系繊維以外とその他繊維を併用することにより、紡績糸の強伸度を向上させることができる。本発明の紡績糸を広く衣料用途に好適なものとする観点から、強度が1.0~4.0cN/dtex、伸度が5~10%の範囲を満たす必要があり、強度が2.0~3.5cN/dtex、伸度が6.0~8.0%であることがより好ましい。
紡績糸の強伸度を所定範囲とすることは、各繊維の単糸繊度や繊維長、さらには紡績糸の撚係数や太さ(綿番手)を調整することにより可能となる。
【0036】
単糸繊度としては、相変化材料再生セルロース系繊維以外とその他繊維の何れも、0.8~3.0dtexが好ましく、1.0~2.0dtexがより好ましい。繊維長としては26.0~40.0mmが好ましく、30.0~38.0mmの範囲がより好ましい。
【0037】
紡績糸の撚係数としては、2.0~4.6が好ましく、3.0~4.0がより好ましい。なお、撚係数Kは、以下の式により算出する。
K=T/S1/2
T:撚数(回/2.54cm)
S:紡績糸の太さ(綿番手)
【0038】
紡績糸の太さは、10~200番手であることが好ましく、20~60番手がより好ましい。紡績糸の太さが太くなるほど、繊維の本数が増えて繊維同士の重なりが増えるため、強度が上がる傾向にある。
【0039】
紡績糸の強度を向上させる観点では、本発明の紡績糸に用いるその他繊維として、例えば、ポリエステル繊維のような強度に元々優れるものを選ぶことも有効である。
【0040】
本発明の紡績糸は相変化再生セルロース系繊維とその他繊維を含む紡績糸で、紡績糸中における相変化再生セルロース系繊維の含有量が50質量%以上であれば、態様は限定されない。例えば、相変化再生セルロース系繊維とその他繊維が実質的に均一にブレンドされた混紡糸であってもよいし、相変化再生セルロース系繊維とその他繊維がそれぞれ芯部又は鞘部を形成し、芯鞘構造を呈する二層構造の紡績糸であってもよい。
【0041】
二層構造を呈する紡績糸は、糸条長手方向に対して垂直な断面において芯部と鞘部とを有する紡績糸であって、芯部が相変化再生セルロース系繊維、鞘部がその他繊維である態様と、芯部がその他繊維、鞘部が相変化再生セルロース系繊維である態様が含まれる。
本発明においては、相変化再生セルロース系繊維が繊維表面に露出していると相変化材料が外気に晒され易くなり、相変化材料の相変化による熱の吸収や放出がより促進される。その結果、温度調節機能がより高まり、同時に光沢感や染色性といった再生セルロース繊維特有の効果もより顕著なものとできるため、鞘部が相変化再生セルロース系繊維、芯部がその他繊維からなる二層構造を呈する紡績糸とすることが好ましい。
【0042】
また、紡績糸の強度の向上の面からも、前記態様とすることが好ましい。強度が向上する理由については推定ではあるが、紡績糸の破断機構として、紡績糸全体に引張応力を付加すると、外層部分から次第に応力が抜け、その抜けた応力が内層部分に集中する。そして、内層部分の繊維束が次第に増える応力に耐えられなくなったとき紡績糸が破断する。そのため、紡績糸において、外層部分の鞘部に相変化再生セルロース系繊維を配置し、内層部分である芯部に相変化再生セルロース系繊維よりも強度の強いその他繊維を配置した二層構造を呈する紡績糸とすることで、紡績糸全体として前記混紡糸の態様の場合よりも強度に優れたものとできる。
【0043】
前記二層構造としては、紡績糸断面において、芯部と鞘部が同心円状の形態をなして存在していることが好ましいが、二層構造を呈する紡績糸を得る過程で、芯部を構成する短繊維が一部鞘部に混入したり、鞘部を構成する短繊維が一部芯部に混入する場合もある。本発明においてはこのように芯部の繊維が鞘部に、又は鞘部の繊維が芯部に一部混在している態様も含むものである。
【0044】
本発明の紡績糸の温度調節機能については、紡績糸中の相変化材料によって、外気温度が変化した際にも紡績糸の温度変化が緩やかであり、衣服内温度を安定させることができるという特徴を示す。すなわち、本発明で使用する相変化材料は、2つの状態の間(例えば液体及び固体状態、液体及び気体状態、固体及び気体状態又は2つの固体状態の間)で相変化する時に吸収又は放出する熱エネルギーの流れを調整することができる。そのため、低温環境から高温環境に変化した場合の紡績糸の温度上昇のスピード、また高温環境から低温環境に変化した場合の温度低下のスピードが緩やかなものとなり、衣服内気候を快適と感じられる温度領域近辺に、より長時間保持することが可能となる。
【0045】
本発明において紡績糸の温度調節機能を示す指標としては、温度10℃相対湿度65%の環境下から温度40℃相対湿度65%の環境下に移した時の、7分経過後の温度が30℃以下であることが好ましく、29.5℃以下であることがより好ましい。7分経過後の温度が30℃以下であれば温度上昇が緩やかであるため、例えば本発明の紡績糸を衣服として着用し、低温環境から高温環境に移動した際にも衣服の温度が素早く上昇しにくく、衣服内気候も快適な状態をより長時間保持することが可能となる。
さらに、本発明の紡績糸は上記温度40℃相対湿度65%の環境下で平衡状態に達した状態から、さらに温度10℃相対湿度65%の環境下に移した時の、7分経過後の温度が17℃以上であることが好ましく、17.5℃以上であることがより好ましい。7分経過後の温度が17℃以上であれば温度低下が緩やかであるため、例えば本発明の紡績糸を衣服として着用し、高温環境から低温環境に移動した際にも衣服の温度が素早く低下しにくく、衣服内気候も快適な状態をより長時間保持することが可能となる。
【0046】
次に、本発明の紡績糸を製造する方法について説明する。
【0047】
本発明の紡績糸を製造するには、公知の方法を用いればよく、混打綿、梳綿、練条、粗紡、精紡及び仕上げの順に行うことで、目的の紡績糸を得ることができる。
本発明の紡績糸は、相変化材料を含有する再生セルロース系繊維と前記再生セルロース系繊維以外のその他繊維とから構成されるが、混紡糸とするときは、紡績工程に付す前に重さの割合で行う原綿混紡、梳綿工程の前に行うラップ混紡、練条工程で行うスライバー混紡などの方法を用いればよい。
【0048】
例えば、原綿混紡の場合は、相変化再生セルロース系繊維とその他繊維、また必要に応じてその他の繊維を混用し、混打綿機へ投入してシート状のラップを得る。このラップをカード機に投入し、カード機内で梳綿工程を経た後、ウェブを紡出、集束し、カレンダーロールで押圧してカードスライバーを得る。
次に、カードスライバーを練条工程において、複数本合わせて延伸を行い、スライバーSを得る。スライバーSを粗紡機に供給し、粗紡機において、供給されたスライバーSを延伸し、粗糸を得る。この粗糸を精紡機のトランペット(ガイド)に通し、バックローラ、エプロン、フロントローラの順を経て、延伸を行った後、撚りをかけて紡績糸を得る。
【0049】
また、芯鞘構造の二層構造を呈する紡績糸とするときの製造方法を、鞘部に再生セルロース系繊維を、芯部にその他繊維を用いた場合を例にして説明する。
再生セルロース系繊維からなる粗糸(粗糸R1)と、その他繊維からなる粗糸(粗糸R2)とを用意し、粗糸R1を鞘部に、粗糸R2を芯部に、各々配しながら上記と同様に精紡することにより得ることができる。また、再生セルロース系繊維からなるスライバー(スライバーS1)と、その他繊維からなるスライバー(スライバーS2)とを用意し、スライバーS1を芯部に、スライバーS2を鞘部に、各々配しながら粗紡することで複合粗糸を得て、しかる後に複合粗糸を上記と同様に精紡することによっても得ることができる。なお、本発明では、カバリング性向上の観点から後者の方法が好適である。
【0050】
本発明の織編物は、本発明の紡績糸を少なくとも一部に含有するものである。織編物中に含まれる前記紡績糸の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%すなわち、本発明の紡績糸のみを用いた織編物であることが特に好ましい。
【0051】
本発明の織編物は、特に組織など限定されない。織物としては、平織、綾織、朱子織、二重織、梨地織などがあげられる。編物においても、組織は特に限定されず、天竺、スムース、フライス、ピケなどの緯編、シングルトリコット、ハーフトリコットなどの経編があげられる。織編物ともに目的に応じてこれらの変化組織も採用できる。
【0052】
本発明の織編物の用途としては、インナー衣料、ユニフォーム衣料、シャツ地衣料、ビジネス着衣料、フォーマル衣料、スポーツ衣料、レジャー向け衣料、ファッション衣料など各種の衣料用途があげられる。中でも、本発明の紡績糸は強伸度に優れるだけでなく、織編物としたときに快適な衣服内気候を付与できるため、肌に直接触れるか若しくは肌に近いところで着用するようなインナー衣料、シャツ地衣料、スポーツ衣料などに好適である。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
1.紡績糸における相変化材料を含有する再生セルロース系繊維の含有量
得られた紡績糸を用い、JIS L1030-2の混用率試験方法(溶解法)に従い測定した。
2.紡績糸の強度、伸度
得られた紡績糸を用い、引張試験機:敷島紡績株式会社製ST-2000を使用して、引張速度30cm/分、つかみ間隔50cmの条件にて、JIS L1095 9.5.1に従い強力及び伸度を測定した。なお、測定は、任意のチーズ5本について各10回の合計50回とし、50回の平均値を強力、伸度とした。次に、前記強力と、JIS L1095 9.4.1に従って測定した紡績糸の太さ(綿番手)を用いて、下記式より強度を算出した。
D=5905.4/S
D:紡績糸の総繊度(dtex)
S:紡績糸の太さ(綿番手)
F=P/D
F:強度(cN/dtex)
P:強力(cN)
【0055】
3.温度調節機能の評価
実施例又は比較例で得られた加工上がり編物を温度20℃相対湿度65%の環境下に24時間晒した後、幅7cm、質量10gになるように切り出したものを試料用編物とした。前記試料用編物を、市販のデジタル式ペン型温度計の温度感知部にロール状に巻き付けた。次に、巻き付けた上から試料用編物が完全に塞がるまで市販のポリ塩化ビニリデン製食品用ラップを巻き付け、測定用試料とした。
3-1.寒い環境下から暑い環境下への移動を想定したときの温度調節機能の評価
上記測定用試料を温度10℃相対湿度65%の環境下に24時間晒した後、温度40℃相対湿度65%の環境下に素早く移動させ、7分後の温度を読み取ることにより温度調節機能を評価した。
3-2.暑い環境下から寒い環境下への移動を想定したときの温度調節機能の評価
上記測定用試料を温度40℃相対湿度65%の環境下に24時間晒した後、温度10℃相対湿度65%の環境下に素早く移動させ、7分後の温度を読み取ることにより温度調節機能を評価した。
【0056】
4.織編物の光沢感
得られた編物について目視により下記3段階で評価した。
○:光沢に曇りやくすみが認められない。
△:光沢に曇りやくすみがやや認められる。
×:光沢に曇りやくすみが認められる。
【0057】
(実施例1)
相変化材料を含有する再生セルロース系繊維として、単糸繊度1.7dtex、繊維長38mmのビスコースレーヨン繊維(Betterttex社製:TEMPSENSE)を準備した。この繊維には、殻がアクリル樹脂からなり、相変化材料として転移温度が28.2℃であるn-オクタデカンを内包するマイクロカプセル(チバ・ジャパン社製)が15質量%含まれていた。
前記再生セルロース系繊維のみを用いて、混打綿機へ投入してシート状のラップを得た。このラップをカード機に投入し、カード機内で梳綿工程を経た後、ウェブを紡出、集束し、カレンダーロールで押圧してカードスライバー(カードスライバーB)を得た。スライバーBの太さは、300gr/6ydであった。
次に、単糸繊度1.7dtex、繊維長38mmの綿繊維のみを用いて、前記と同様に混打綿、梳綿の各工程に供し、カードスライバー(カードスライバーC)を得た。スライバーCの太さは、380gr/6ydであった。 練条工程でカードスライバーBを6本とカードスライバーCを2本でダブリングすることで再生セルロース繊維70%、綿30%の含有量となる練条スライバーを得た。
得られたスライバーを粗紡した後、撚係数が3.8になるように精紡し、再生セルロース系繊維70%・綿30%の含有量からなる40番手の紡績糸を得た。
次に、得られた紡績糸を、丸編機(釜径19インチ、針密度19G)に供給し、フライス組織の生機を得た。得られた生機を精練、プレセットし、蛍光染料を使用して常圧下で染色した後、乾燥、ファイナルセットし、加工上り編物を得た。
【0058】
(実施例2)
実施例1で得られたカードスライバーBとカードスライバーCを各々練条に供することで、スライバーB1とスライバーC1を得た。
芯部用のスライバーとしてスライバーC1を、鞘部用のスライバーとしてスライバーB1を用意した。
図1(概略断面図)及び図2(概略断面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯部用のスライバーC1と鞘部用のスライバーB1を供給し、延伸後の各スライバーの質量比をC1:B1=30:70となるようにし、複合粗糸を得た。
この複合粗糸を精紡機のトランペット(ガイド)に通し、バックローラ、エプロン、フロントローラの順を経て、延伸を行った後、撚係数3.8(撚数20.8回/2.54cm)となる様、Z方向に撚りをかけ、40番手(英式綿番手)の紡績糸を得た。得られた紡績糸は二層構造を呈していた。
次に、得られた紡績糸を用いて実施例1と同様にして、加工上り編物を得た。
【0059】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレート樹脂からなり、単糸繊度1.7dtex、繊維長34mmのポリエステル短繊維(日本エステル社製)を準備し、実施例2と同様にしてポリエステル短繊維のみを用いたスライバー(スライバーP1)を得た。
次いで、スライバーC1(綿繊維)に代えてスライバーP1(ポリエステル短繊維)を使用したこと以外は実施例2と同様に行い、芯部がポリエステル短繊維、鞘部が再生セルロース系繊維である40番手の紡績糸を得た。得られた紡績糸は、二層構造を呈していた。
次に、得られた紡績糸を実施例1と同様の方法で編成して生機を得た後、得られた生機に精練、プレセットを行い、加工上り編物を得た。
【0060】
(実施例4)
ポリエステル成分中の酸成分としてテレフタル酸を92.9モル%、共重合成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸を2.0モル%、アジピン酸を5.1モル%含有する共重合ポリエステル樹脂からなり、単糸繊度1.7dtex、繊維長38mmの共重合ポリエステル短繊維(日本エステル株式会社製)を準備し、実施例2と同様にして共重合ポリエステル短繊維のみを用いたスライバー(スライバーP2)を得た。
次いで、スライバーC1(綿繊維)に代えてスライバーP2(共重合ポリエステル短繊維)を使用したこと以外は実施例2と同様に行い、芯部が共重合ポリエステル短繊維、鞘部が再生セルロース系繊維である40番手の紡績糸を得た。得られた紡績糸は、二層構造を呈していた。
次に、得られた紡績糸を実施例1と同様の方法で編成して生機を得た後、得られた生機に精練、プレセットを行い、加工上り編物を得た。
【0061】
(比較例1)
再生セルロース系繊維及び綿繊維の含有量をそれぞれ31質量%、69質量%に変更した以外は、実施例1と同様に行って紡績糸を得た。
次いで、実施例1と同様に行い、加工上がり編物を得た。
【0062】
実施例1~4および比較例1の紡績糸と織織物の構成および特性値を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、実施例1~4で得られた紡績糸は、本発明で規定する構成及び特性値を満足するものであったため、得られた編物は温度調節機能や光沢感に優れるものであった。
一方、比較例1で得られた紡績糸は相変化材料を含有するビスコースレーヨン繊維の含有量が少ないものであったため、温度調節機能に劣るものであった。
図1
図2