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  • 特開-反射防止フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033436
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】反射防止フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20240306BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20240306BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B1/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137008
(22)【出願日】2022-08-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀展
(72)【発明者】
【氏名】高山 侃也
(72)【発明者】
【氏名】木畑 充裕
(72)【発明者】
【氏名】國方 智
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA03
2K009AA15
2K009BB27
2K009CC03
2K009CC09
2K009CC24
2K009DD04
2K009DD17
(57)【要約】
【課題】製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができる反射防止フィルの製造方法を提供する。
【解決手段】反射防止フィルムの製造方法は、工程Saと、工程Sbとを備える。工程Saでは、フィルム基材13の一方の主面12aを、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理する。工程Sbでは、ボンバード処理された主面12a側に反射防止層19を成膜する。工程Sbで成膜される反射防止層19は、酸化ニオブ薄膜と、酸化ニオブ薄膜とは屈折率が異なる無機薄膜とを含む多層膜からなる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止フィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材の前記一方の主面を、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理する工程Saと、
前記ボンバード処理された前記主面側に前記反射防止層を成膜する工程Sbとを備え、
前記反射防止層は、酸化ニオブ薄膜と、前記酸化ニオブ薄膜とは屈折率が異なる無機薄膜とを含む多層膜からなる、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記希ガスは、アルゴンガスである、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程Saにおいて、前記希ガスの導入量及び前記酸素ガスの導入量の合計に対する、前記酸素ガスの導入量の比が、0.0009以上0.0500以下である、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程Sbにおいて、前記反射防止層をスパッタ法により成膜する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程Saにおいて、圧力0.1Pa以上1.0Pa以下の条件でボンバード処理する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記反射防止層の厚みが、100nm以上300nm以下である、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記フィルム基材は、透明フィルムと、前記透明フィルムの一方の主面側に設けられたハードコート層とを備え、
前記工程Saにおいて、前記ハードコート層の前記透明フィルム側とは反対側の主面をボンバード処理する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上の粒子を含む、請求項7に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記透明フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムである、請求項7に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記工程Saの後かつ前記工程Sbの前に、前記ボンバード処理された前記主面側にプライマー層を成膜する工程Scを更に備え、
前記工程Sbにおいて、前記プライマー層の前記フィルム基材側とは反対側の主面に前記反射防止層を成膜する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側には、外光の反射による画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが配置されている。反射防止フィルムは、フィルム基材上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
例えば、特許文献1には、フィルム基材(ハードコートフィルム)上にSiOプライマー層を備え、その上に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)層と低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)層との交互積層体からなる反射防止層を備える反射防止フィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、上記交互積層体からなる反射防止層と偏光子とを有する積層体の製造方法が記載されている。詳しくは、特許文献1では、グロープラズマ処理を施したフィルム基材上に、SiOプライマー層と反射防止層とを成膜することにより反射防止フィルムを得た後、この反射防止フィルムと偏光子等とを積層させて上記積層体を得ている。以下、反射防止層と偏光子とを少なくとも有する積層体を、「偏光子付き反射防止フィルム」と記載することがある。偏光子付き反射防止フィルムは、反射防止機能を備えた偏光板として使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-47876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、車載用の画像表示装置に用いられる偏光子付き反射防止フィルムは、屋外での使用を想定したモバイル機器に用いられる偏光子付き反射防止フィルムに比して、より高温(例えば、90℃以上)での変化(特に、色ムラの発生等の外観変化)が小さいことが求められる。つまり、車載用の画像表示装置に用いられる反射防止フィルムは、偏光子と貼り合わせた場合に、高温下におけるフィルムの変化(例えば、色ムラの発生等)を抑制できることが求められる。以下、偏光子と貼り合わせた場合に高温下におけるフィルムの変化を抑制できる性能を、「高温耐久性」と記載することがある。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることは難しい。なお、フィルム基材が変形すると、ロールトゥロール方式で反射防止フィルムを製造する際、フィルムの搬送性が低下する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができる反射防止フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0010】
[1]フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止フィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材の前記一方の主面を、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理する工程Saと、
前記ボンバード処理された前記主面側に前記反射防止層を成膜する工程Sbとを備え、
前記反射防止層は、酸化ニオブ薄膜と、前記酸化ニオブ薄膜とは屈折率が異なる無機薄膜とを含む多層膜からなる、反射防止フィルムの製造方法。
【0011】
[2]前記希ガスは、アルゴンガスである、前記[1]に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0012】
[3]前記工程Saにおいて、前記希ガスの導入量及び前記酸素ガスの導入量の合計に対する、前記酸素ガスの導入量の比が、0.0009以上0.0500以下である、前記[1]又は[2]に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0013】
[4]前記工程Sbにおいて、前記反射防止層をスパッタ法により成膜する、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0014】
[5]前記工程Saにおいて、圧力0.1Pa以上1.0Pa以下の条件でボンバード処理する、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0015】
[6]前記反射防止層の厚みが、100nm以上300nm以下である、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0016】
[7]前記フィルム基材は、透明フィルムと、前記透明フィルムの一方の主面側に設けられたハードコート層とを備え、
前記工程Saにおいて、前記ハードコート層の前記透明フィルム側とは反対側の主面をボンバード処理する、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0017】
[8]前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上の粒子を含む、前記[7]に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0018】
[9]前記透明フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムである、前記[7]又は[8]に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【0019】
[10]前記工程Saの後かつ前記工程Sbの前に、前記ボンバード処理された前記主面側にプライマー層を成膜する工程Scを更に備え、
前記工程Sbにおいて、前記プライマー層の前記フィルム基材側とは反対側の主面に前記反射防止層を成膜する、前記[1]~[9]のいずれか一つに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができる反射防止フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】A、B、C及びDは、本発明に係る反射防止フィルムの製造方法の一例を示す工程別断面図である。
図2】本発明の製造方法で得られた反射防止フィルムを備える偏光子付き反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
図3】本発明の製造方法で得られた反射防止フィルムを備える偏光子付き反射防止フィルムの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「屈折率」は、温度23℃の雰囲気下における波長550nmの光に対する屈折率である。層状物(より具体的には、フィルム基材、透明フィルム、ハードコート層、プライマー層、粘着剤層、はく離ライナー、偏光子等)の「主面」とは、層状物の厚み方向に直交する面をさす。反射防止フィルムを構成する各層の厚み(膜厚)は、層を厚み方向に切断した断面の画像から無作為に測定箇所を10箇所選択し、選択した10箇所の測定箇所の厚みを測定して得られた10個の測定値の算術平均値である。
【0023】
「ボンバード処理」とは、所定の気体(希ガス、酸素ガス等)を導入しながらフィルム基材の表面をプラズマ処理する表面処理をさす。
【0024】
粒子の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトウェア(例えば、アメリカ国立衛生研究所製「ImageJ」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。
【0025】
「透湿度」は、温度40℃かつ90%の相対湿度差で、面積1mの試料を24時間で透過する水蒸気の重量であり、JIS K7129:2008の附属書Bに準じて測定される。
【0026】
流量の単位「sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)」は、標準状態(温度:0℃、圧力:101.3kPa)における流量の単位「mL/min」である。
【0027】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
以下の説明において参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、説明の都合上、後に説明する図面において、先に説明した図面と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0029】
<反射防止フィルムの製造方法>
本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法は、フィルム基材と、フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止フィルム(積層体)の製造方法であって、工程Saと、工程Sbとを備える。工程Saでは、フィルム基材の一方の主面を、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理する。工程Sbでは、ボンバード処理された主面側に反射防止層を成膜する。また、本実施形態では、工程Sbで成膜される反射防止層が、酸化ニオブ薄膜と、酸化ニオブ薄膜とは屈折率が異なる無機薄膜とを含む多層膜からなる。
【0030】
本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法によれば、上記構成を備えるため、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを製造できる。以下、工程Saを、「ボンバード処理工程」と記載することがある。また、工程Sbを、「反射防止層形成工程」と記載することがある。
【0031】
本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法は、ボンバード処理工程及び反射防止層形成工程以外の工程(他の工程)を備えていてもよい。他の工程としては、例えば、後述するハードコート層形成工程、プライマー層形成工程(工程Sc)等が挙げられる。
【0032】
以下、本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法の一例が備える各工程について、適宜図面を参照しながら説明する。参照する図1A図1B図1C及び図1Dは、本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法の一例を示す工程別断面図である。
【0033】
[ハードコート層形成工程]
ハードコート層形成工程は、透明フィルム11の一方の主面11a(図1A参照)側にハードコート層12(図1B参照)を形成する工程である。
【0034】
(透明フィルム11)
透明フィルム11は、例えば可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。透明フィルム11を構成する材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。これらの材料は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。透明フィルム11の材料としては、透明性及び強度の観点から、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びセルロース樹脂からなる群より選択される一種が好ましく、PET、COP及びTACからなる群より選択される一種がより好ましく、TACが更に好ましい。つまり、透明フィルム11としては、ポリエステル樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、及びセルロース樹脂フィルムからなる群より選択される一種のフィルムが好ましく、PETフィルム、COPフィルム及びTACフィルムからなる群より選択される一種のフィルムがより好ましく、TACフィルムが更に好ましい。
【0035】
偏光子付き反射防止フィルムを形成した場合に、透明フィルム11の透湿度が大きければ、偏光子付き反射防止フィルムが加熱環境に置かれても、偏光子中の水分が透明フィルム11を介して外部に放出されやすいため、水分に起因する偏光子の劣化を抑制できる。一方で、透明フィルム11の透湿度が過度に高いと、偏光子付き反射防止フィルムの加湿耐久性が低下する場合がある。そのため、透明フィルム11の透湿度は、2000g/m・24h以下が好ましく、1500g/m・24h以下がより好ましい。透明フィルム11の透湿度を上記範囲とするためには、透明フィルム11としては、セルロース樹脂フィルムが好ましく、TACフィルムがより好ましい。
【0036】
透明フィルム11の厚みは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。透明フィルム11の厚みは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0037】
透明フィルム11の一方の主面又は両主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。
【0038】
透明フィルム11の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、反射防止フィルムの透明性を向上させる観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上100%以下である。
【0039】
(ハードコート層12)
ハードコート層12は、反射防止フィルムの硬度や弾性率等の機械的特性を高める層である。ハードコート層12は、例えば、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)の硬化物からなる。硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びメラミン樹脂が挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層12の硬度を高める観点から、硬化性樹脂としては、アクリル樹脂及びウレタンアクリレート系樹脂からなる群より選択される一種以上が好ましく、ウレタンアクリレート系樹脂がより好ましい。
【0040】
また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、及び熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。反射防止フィルムの生産性向上の観点から、硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化型の樹脂組成物が好ましい。紫外線硬化型の樹脂組成物には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー及び紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される一種以上が含まれる。紫外線硬化型の樹脂組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0041】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上の粒子(以下、「マイクロ粒子」と記載することがある)を含有してもよい。つまり、ハードコート層12は、マイクロ粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物にマイクロ粒子を配合することにより、ハードコート層12における、硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整及び防眩性の調整が可能となる。マイクロ粒子としては、例えば、金属(又は半金属)の酸化物粒子、ガラス粒子、及び有機粒子が挙げられる。金属(又は半金属)の酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、及び酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、及びポリカーボネートが挙げられる。
【0042】
ハードコート層12の防眩性を容易に調整するためには、マイクロ粒子の個数平均一次粒子径が、1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上4.0μm以下であることがより好ましい。
【0043】
ハードコート層12の防眩性を容易に調整するためには、ハードコート層12におけるマイクロ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ハードコート層12におけるマイクロ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0044】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm未満の粒子(以下、「ナノ粒子」と記載することがある)を含んでいてもよい。ハードコート層12がナノ粒子を含む硬化性樹脂組成物の硬化物からなる場合、ハードコート層12の表面に、微細な凹凸が形成され、ハードコート層12と、その上に形成される層との密着性が向上する傾向がある。
【0045】
密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の個数平均一次粒子径は、20nm以上80nm以下であることが好ましく、25nm以上70nm以下であることがより好ましく、30nm以上60nm以下であることが更に好ましい。
【0046】
ナノ粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化シリコン(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム等の金属(又は半金属)の酸化物が挙げられる。無機酸化物は、複数種の(半)金属の複合酸化物でもよい。例示の無機酸化物の中でも、密着性向上効果が高いことから、酸化シリコンが好ましい。つまり、ナノ粒子としては、酸化シリコンの粒子(シリカ粒子)が好ましい。ナノ粒子としての無機酸化物粒子の表面には、樹脂との密着性や親和性を高める目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0047】
ハードコート層12におけるナノ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ナノ粒子の量が5重量部以上であれば、ハードコート層12上に形成される層との密着性をより向上させることができる。ハードコート層12におけるナノ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0048】
硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、例えば、上述した硬化性樹脂、及び重合開始剤(例えば光重合開始剤)を含み、必要に応じてこれらの成分を溶解又は分散可能な溶媒を含む。また、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、上記成分の他に、マイクロ粒子、ナノ粒子、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
ハードコート層12の厚みは、ハードコート層12の硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。ハードコート層12の厚みは、反射防止フィルムの柔軟性確保の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、更により好ましくは30μm以下である。
【0050】
(ハードコート層12の形成方法)
ハードコート層12は、例えば、透明フィルム11の一方の主面11a(図1A参照)に、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)を塗布し、必要に応じて溶媒の除去及び樹脂の硬化を行うことにより、形成される。透明フィルム11の一方の主面11aにハードコート層12を設けることにより、図1Bに示すように、透明フィルム11とハードコート層12とを備えるフィルム基材13が得られる。
【0051】
ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、コンマコート法等の任意の適切な方法を採用し得る。塗布後の塗膜の乾燥温度は、ハードコート層形成用組成物の組成等に応じて、適切な温度に設定すればよく、例えば、50℃以上150℃以下である。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が熱硬化性樹脂である場合は、加熱によって塗膜を硬化させる。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が光硬化性樹脂である場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって塗膜を硬化させる。照射光の積算光量は、好ましくは100mJ/cm以上500mJ/cm以下である。
【0052】
[ボンバード処理工程]
ボンバード処理工程では、フィルム基材13の一方の主面(図1Bでは、ハードコート層12の透明フィルム11側とは反対側の主面12a)を、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理する。ボンバード処理により、フィルム基材13の一方の主面が凹凸形状となる。フィルム基材13の上記凹凸形状に起因して、例えば、フィルム基材13上に成膜するスパッタ膜の柱状成長が促進され、その結果、透湿度が大きい反射防止層19(図1D参照)を形成できると推測される。
【0053】
偏光子付き反射防止フィルムを形成した場合に、反射防止層19の透湿度が大きければ、偏光子付き反射防止フィルムが加熱環境に置かれても、偏光子中の水分が反射防止層19を介して外部に放出されやすいため、水分に起因する偏光子の劣化(例えば、色ムラの発生等)を抑制できる。よって、反射防止層19の透湿度を大きくすることにより、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができる。
【0054】
なお、一般に、偏光子付き反射防止フィルムが加熱環境に曝されると、透明フィルムや偏光子中の水分がフィルム外に蒸散する。反射防止層の透湿度が小さい場合は、水分が系外に拡散し難い。フィルム内部に水分が滞留すると、例えば透明フィルムを構成するトリアセチルセルロース等が加水分解されやすくなり、偏光子の保護性能が低下する傾向がある。また、トリアセチルセルロースが加水分解されると、遊離酸が発生する。酸の存在下では、偏光子を構成するポリビニルアルコールのポリエン化が生じやすく、偏光子の劣化の原因となる。これに対して、反射防止層の透湿度が大きい場合は、偏光子や透明フィルムから蒸散した水分が、反射防止層の表面から系外に拡散しやすいために、水分の滞留が抑制され、高温での偏光子付き反射防止フィルムの劣化が抑制されると考えられる。
【0055】
ボンバード処理工程で使用する希ガスとしては、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス等が挙げられる。透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、希ガスとしては、アルゴンガスが好ましい。
【0056】
透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、ボンバード処理工程における希ガスの導入量(流量)は、800sccm以上1200sccm以下であることが好ましく、900sccm以上1100sccm以下であることがより好ましい。また、透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、ボンバード処理工程における酸素ガスの導入量(流量)は、0.1sccm以上200sccm以下であることが好ましく、0.5sccm以上100sccm以下であることがより好ましい。
【0057】
透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、希ガスの導入量及び酸素ガスの導入量の合計に対する、酸素ガスの導入量の比(流量比)は、0.0009以上0.0500以下であることが好ましい。以下、上記導入量の比(流量比)、即ち「酸素ガスの導入量/(希ガスの導入量+酸素ガスの導入量)」を、「酸素ガス導入比」と記載することがある。
【0058】
透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、圧力0.1Pa以上1.0Pa以下の条件で、フィルム基材13の一方の主面をボンバード処理することが好ましく、圧力0.3Pa以上0.8Pa以下の条件で、フィルム基材13の一方の主面をボンバード処理することがより好ましい。
【0059】
透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、ボンバード処理工程における実効パワー密度は、0.01W・min/cm・m以上であることが好ましく、0.02W・min/cm・m以上であることがより好ましく、0.03W・min/cm・m以上であることが更に好ましい。製造時(ボンバード処理工程)のフィルム基材13の変形をより抑制するためには、ボンバード処理工程における実効パワー密度は、0.60W・min/cm・m以下であることが好ましく、0.55W・min/cm・m以下であることがより好ましく、0.50W・min/cm・m以下であることが更に好ましく、0.45W・min/cm・m以下であることが更により好ましく、0.40W・min/cm・m以下であることが特に好ましく、0.35W・min/cm・m以下であってもよい。なお、実効パワー密度とは、プラズマ出力のパワー密度(W/cm)をロールトゥロール方式によるフィルムの搬送速度(m/min)で割った値である。プラズマ出力が同一でも搬送速度が大きい場合は、実効的な処理パワーは低下する。
【0060】
本実施形態では、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理するため、実効パワー密度を小さくしても反射防止層19の透湿度を高めることができる。よって、本実施形態の製造方法によれば、製造時のフィルム基材13の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができる。
【0061】
透湿度がより大きい反射防止層19を得るためには、ボンバード処理されたフィルム基材13の一方の主面の算術平均粗さRaは、0.30nm以上0.70nm以下であることが好ましく、0.40nm以上0.60nm以下であることがより好ましい。フィルム基材13の一方の主面の算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて当該主面を観察し、その1μm四方の観察像から求めることができる。フィルム基材13の一方の主面の算術平均粗さRaは、ボンバード処理工程の条件(詳しくは、実効パワー密度、酸素ガス導入比等)を変更することにより調整できる。
【0062】
[プライマー層形成工程]
プライマー層形成工程は、ボンバード処理されたフィルム基材13の一方の主面側(図1Bでは、ハードコート層12の透明フィルム11側とは反対側の主面12a側)にプライマー層14(図1C参照)を形成(成膜)する工程である。
【0063】
プライマー層14を設けることにより、フィルム基材13と反射防止層19との密着性が高くなる。プライマー層14の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、インジウム、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属(又は半金属);これらの金属(又は半金属)の合金;これらの金属(又は半金属)の酸化物、フッ化物、硫化物又は窒化物等が挙げられる。プライマー層14を構成する酸化物は、酸化インジウムスズ(ITO)等の複合酸化物でもよい。中でも、プライマー層14の材料としては、無機酸化物が好ましく、酸化シリコン、酸化インジウム又はITOがより好ましく、SiOx(x<2)が更に好ましい。
【0064】
フィルム基材13と反射防止層19との密着性を高めつつ、プライマー層14の光透過性を確保するためには、プライマー層14の厚みは、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上10nm以下であることがより好ましく、1.0nm以上10nm以下であることが更に好ましい。
【0065】
プライマー層14の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましく、スパッタ法がより好ましい。生産性を高める観点から、プライマー層14の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。
【0066】
ロールトゥロール方式のスパッタ法では、長尺のフィルム基材13を長手方向(MD方向)に搬送しながら、例えば、プライマー層14及び反射防止層19を連続成膜できる。スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、及び必要に応じて酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。プライマー層14として酸化物膜を成膜する場合、スパッタ法による酸化物膜の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、及び金属(又は半金属)ターゲットを用いる反応性スパッタ法のいずれでも実施できる。
【0067】
酸化物ターゲットを用いて、酸化シリコン等の絶縁性の酸化物を成膜する場合、RF放電が必要であるため、成膜レートが小さく生産性が低くなる傾向がある。そのため、酸化物のスパッタ成膜は、金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法が好ましい。反応性スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス及び酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。反応性スパッタ法では、金属領域と酸化物領域との中間の遷移領域となるように酸素量を調整することが好ましい。酸素量が不足する金属領域で成膜を行うと、得られる酸化物膜の酸素量が化学量論的組成に比して大幅に小さくなり、酸化物膜が金属光沢を帯びて透明性が低下する傾向がある。また、酸素量が大きい酸化物領域では、成膜レートが極端に低下する傾向がある。スパッタ成膜が遷移領域となるように酸素量を調整することにより、高レートで酸化物膜を成膜できる。また、遷移領域で成膜を行うことにより、得られる膜の透湿度が上昇し、その結果、反射防止フィルムの高温耐久性が向上する傾向がある。反応性スパッタ法に用いるスパッタ電源としては、DC電源又はMFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が好ましい。
【0068】
反応性スパッタ法において、成膜モードが遷移領域となるように酸素導入量を制御する方法としては、放電のプラズマ発光強度を検知して、成膜室へのガス導入量を制御するプラズマエミッションモニタリング方式(PEM方式)が挙げられる。PEM方式では、プラズマ発光強度を検知し、酸素導入量にフィードバックすることにより制御が行われる。例えば、発光強度の制御値(セットポイント)を所定の範囲に設定してPEM制御を行い、酸素導入量を調整することにより、遷移領域での成膜を維持できる。また、プラズマインピーダンスが一定となるように、すなわち放電電圧が一定となるように酸素導入量を制御する方式(インピーダンス方式)により制御を行ってもよい。
【0069】
PEM方式やインピーダンス方式により酸素導入量を制御すれば、ロールトゥロール方式での薄膜の連続成膜における成膜レートを長手方向で一定に保つことができる。そのため、薄膜の膜厚が均一となり、反射防止特性に優れる反射防止フィルムが得られる。幅方向に複数の酸素導入配管を設け、各配管から導入する酸素流量を個別に制御することにより、幅方向の品質の均一性も向上できる。
【0070】
スパッタ法を実施する際のパワー密度は、例えば0.1W/cm以上20W/cm以下であり、好ましくは1W/cm以上15W/cm以下である。スパッタ法を実施する際の成膜ロールの表面温度は、例えば-25℃以上25℃以下であり、好ましくは-20℃以上0℃以下である。スパッタ法を実施する際の成膜室内の圧力は、例えば0.01Pa以上10Pa以下であり、好ましくは0.1Pa以上1.0Pa以下である。
【0071】
[反射防止層形成工程]
反射防止層形成工程は、ボンバード処理されたフィルム基材13の一方の主面側(図1Cでは、プライマー層14のフィルム基材13側とは反対側の主面14a)に反射防止層19を成膜する工程である。
【0072】
反射防止層19は、酸化ニオブ薄膜と、酸化ニオブ薄膜とは屈折率が異なる無機薄膜とを含む多層膜からなる。図1Dに示す反射防止層19は、プライマー層14側から、高屈折率層15、低屈折率層16、高屈折率層17及び低屈折率層18の4層をこの順に有する。このうち、高屈折率層15及び高屈折率層17のうちの少なくとも一方が酸化ニオブ薄膜であり、高屈折率層15及び高屈折率層17の両方が酸化ニオブ薄膜であることが好ましい。高屈折率層15及び高屈折率層17の両方が酸化ニオブ薄膜である場合、低屈折率層16及び低屈折率層18は、酸化ニオブ薄膜よりも屈折率が低い無機薄膜である。高屈折率層及び低屈折率層の詳細については、後述する。なお、反射防止フィルムの反射防止層は、反射防止層19のような4層構成に限定されず、2層構成、3層構成、5層構成、又は6層以上の積層構成であってもよい。空気界面での反射を低減するためには、反射防止フィルムの反射防止層は、最外層(フィルム基材から最も離れた層)が低屈折率層であることが好ましい。
【0073】
一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0074】
反射防止層19を構成する薄膜の材料としては、金属(又は半金属)の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層19は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体であり、より好ましくは、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層との交互積層体である。
【0075】
高屈折率層は、屈折率が、例えば1.9以上であり、好ましくは2.0以上である。高屈折率層の材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、ITO、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタン及び酸化ニオブからなる群より選択される一種以上が好ましい。低屈折率層は、屈折率が、例えば1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。低屈折率層の材料としては、酸化シリコン、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)薄膜とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6超1.9未満の中屈折率層が設けられてもよい。
【0076】
高屈折率層及び低屈折率層の膜厚は、それぞれ、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚を設計すればよい。例えば、高屈折率層と低屈折率層の積層構成としては、フィルム基材13側から、光学膜厚20nm以上55nm以下の高屈折率層、光学膜厚35nm以上60nm以下の低屈折率層、光学膜厚65nm以上250nm以下の高屈折率層、及び光学膜厚100nm以上150nm以下の低屈折率層からなる4層構成が挙げられる。
【0077】
反射防止層19が、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)薄膜とを交互に積層させた、4層の交互積層体である場合、反射防止層19の構成としては、フィルム基材13側から、厚み5nm以上20nm以下の酸化ニオブ薄膜、厚み20nm以上60nm以下の酸化シリコン薄膜、厚み25nm以上120nm以下の酸化ニオブ薄膜、及び厚み50nm以上100nm以下の酸化シリコン薄膜をこの順に備える構成が挙げられる。
【0078】
高温耐久性により優れる反射防止フィルムを得るためには、反射防止層19の厚みは、100nm以上300nm以下であることが好ましく、120nm以上280nm以下であることがより好ましく、140nm以上260nm以下であることが更に好ましく、160nm以上240nm以下であることが更により好ましい。なお、本明細書において、「反射防止層の厚み」は、反射防止層を構成する各層の厚みの合計(合計厚み)である。
【0079】
反射防止層19の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましく、スパッタ法がより好ましい。生産性を高める観点から、反射防止層19の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。
【0080】
図1Dに示す反射防止層19をスパッタ法により成膜する場合、プライマー層14のフィルム基材13側とは反対側の主面14aに、高屈折率層15、低屈折率層16、高屈折率層17及び低屈折率層18の4層をこの順に成膜する。このうち、高屈折率層15及び高屈折率層17のうちの少なくとも一方が酸化ニオブ薄膜である。プライマー層14のフィルム基材13側とは反対側の主面14aに反射防止層19を成膜することにより、図1Dに示す反射防止フィルム10が得られる。反射防止層19をスパッタ法により成膜する際は、例えば、上述した[プライマー層形成工程]で説明した条件の中で成膜条件を適宜設定することができる。
【0081】
本発明者らの検討により、希ガスと酸素ガスを併用したボンバード処理により反射防止層19の透湿度を高める効果は、酸化ニオブ薄膜を含む反射防止層19を形成する場合に顕著に発現することが判明した。反射防止層19の透湿度は、上述したボンバード処理工程の条件(詳しくは、実効パワー密度、酸素ガス導入比等)を変更することにより調整できる。
【0082】
反射防止層19の透湿度は、15g/m・24h以上が好ましく、20g/m・24h以上がより好ましく、30g/m・24h以上が更に好ましい。反射防止層19の透湿度を高めることにより、水分の滞留が抑制され、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができる。反射防止層19の透湿度が過度に高いと、高湿での耐久性が低下する傾向があるため、反射防止層19の透湿度は、1000g/m・24h以下が好ましく、800g/m・24h以下がより好ましい。
【0083】
なお、反射防止層19は薄膜であり、単体で透湿度を求めることは困難である。しかし、多くの樹脂フィルムの透湿度は、無機酸化物膜の透湿度に比べて十分大きいため、反射防止層19が設けられた反射防止フィルムの透湿度は、反射防止層19の透湿度に等しいとみなせる。
【0084】
[偏光子付き反射防止フィルム]
次に、上述した製造方法で得られた反射防止フィルムを備える偏光子付き反射防止フィルムについて説明する。図2は、上記偏光子付き反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
【0085】
図2に示す偏光子付き反射防止フィルム100では、透明フィルム11の反射防止層19側とは反対側の主面11bに、偏光子50の一方の主面が貼り合わせられている。偏光子50の他方の主面には、透明保護フィルム51が貼り合わせられている。
【0086】
偏光子50としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。中でも、高い偏光度を有することから、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましい。偏光子50の厚みは、例えば5μm以上100μm以下である。
【0087】
透明保護フィルム51の材料としては、透明フィルム11の材料として上述したものと同様の材料が好ましく用いられる。また、透明保護フィルム51の好ましい厚み範囲についても、上述した透明フィルム11の好ましい厚み範囲と同様である。なお、透明保護フィルム51の材料と透明フィルム11の材料は、同一でもよく、異なっていてもよい。また、透明保護フィルム51の厚みと透明フィルム11の厚みは、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0088】
偏光子50と透明フィルム11との貼り合わせ、及び偏光子50と透明保護フィルム51との貼り合わせには、接着剤を用いることが好ましい。接着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。PVA系偏光子の接着には、ポリビニルアルコール系の接着剤が好ましく用いられる。
【0089】
なお、上述した製造方法で得られた反射防止フィルムを備える偏光子付き反射防止フィルムは、図2に示す偏光子付き反射防止フィルム100に限定されない。例えば、偏光子付き反射防止フィルムは、図3に示すように、透明保護フィルム51の偏光子50側とは反対側に配置された粘着剤層201を更に備える、偏光子付き反射防止フィルム200であってもよい。
【0090】
粘着剤層201を構成する粘着剤は、特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、変性ポリオレフィン、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、天然ゴム、合成ゴム等のポリマーをベースポリマーとする透明な粘着剤を、適宜に選択して用いることができる。粘着剤層201の厚みは、特に限定されないが、薄層性及び接着性を両立させる観点から、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0091】
粘着剤層201の透明保護フィルム51側とは反対側の主面には、はく離ライナー(不図示)が仮着されていてもよい。はく離ライナーは、例えば、偏光子付き反射防止フィルム200を画像表示セル(不図示)と貼り合わせるまでの間、粘着剤層201の表面を保護する。はく離ライナーの構成材料としては、アクリル、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル等から形成されたプラスチックフィルムが好適に用いられる。はく離ライナーの厚みは、例えば、5μm以上200μm以下である。はく離ライナーの表面には、離型処理が施されていることが好ましい。離型処理に使用される離型剤の材料としては、シリコーン系材料、フッ素系材料、長鎖アルキル系材料、脂肪酸アミド系材料等が挙げられる。
【0092】
本実施形態に係る製造方法で得られた反射防止フィルムは、例えば、液晶表示装置や有機EL表示装置等のディスプレイに用いられる。特に、ディスプレイの最表面層として用いた場合に、反射防止によるディスプレイの視認性が向上する。本実施形態に係る製造方法で得られた反射防止フィルム及びこれを用いた偏光子付き反射防止フィルムは、高温環境に長時間曝された場合でも劣化が生じ難く、高温耐久性に優れるため、車載ディスプレイ等に特に好適に用いられる。
【0093】
[反射防止フィルムの製造方法の好ましい態様]
製造時のフィルム基材の変形を更に抑制しつつ、高温耐久性に更に優れる反射防止フィルムを得るためには、本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法は、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましい。
条件1:酸素ガス導入比を0.0009以上0.0500以下とし、かつ圧力0.1Pa以上1.0Pa以下の条件でフィルム基材の一方の主面をボンバード処理する。
条件2:上記条件1を満たし、かつ成膜される反射防止層の厚みが100nm以上300nm以下である。
条件3:上記条件2を満たし、かつボンバード処理工程における実効パワー密度が0.01W・min/cm・m以上0.60W・min/cm・m以下である。
【0094】
以上、本実施形態に係る反射防止フィルムの製造方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、本発明に係る反射防止フィルムの製造方法は、ハードコート層形成工程及びプライマー層形成工程を備えていなくてもよい。本発明においてハードコート層形成工程を実施しない場合、例えば、フィルム基材として透明フィルムを用いることができる。また、本発明に係る反射防止フィルムの製造方法は、反射防止層形成工程後に、防汚層を形成する工程を設けてもよい。防汚層の材料としては、フッ素含有化合物が好ましい。
【0095】
また、本発明では、図1Bに示す積層物に、偏光子と透明保護フィルムとを貼り合わせた後、反射防止層等をスパッタ成膜してもよい。また、本発明では、図1Bに示す積層物に偏光子と透明保護フィルムとを貼り合わせて、更に、貼り合わせた透明保護フィルムに粘着剤層を形成した後、反射防止層等をスパッタ成膜してもよい。つまり、本発明の反射防止フィルムの製造方法は、偏光子付き反射防止フィルムの製造方法であってもよい。
【実施例0096】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<偏光子付き反射防止フィルムの作製>
以下、実施例1~5の偏光子付き反射防止フィルムの作製方法について説明する。
【0098】
[実施例1]
(ハードコート層形成工程)
100重量部の紫外線硬化型ウレタンアクリレート系モノマー(屈折率:1.51)と、14重量部のポリスチレンビーズ(屈折率:1.59、個数平均一次粒子径:3.0μm)と、5重量部のアルキルフェノン系光重合開始剤と、135重量部のトルエンと、10重量部の酢酸エチルとを混合し、固形分濃度45重量%のハードコート層形成用組成物を調製した。次いで、透明フィルムとしてのTACフィルム(厚み:80μm、屈折率:1.49)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次いで、上記塗膜を、温度80℃で2分間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。これにより、TACフィルムの一方の主面に厚み5μmの防眩性ハードコート層(表面に凹凸構造を有するハードコート層)を形成し、ハードコート層付き透明フィルムを得た。
【0099】
(偏光板の作製工程)
別途用意した偏光子の一方の主面に、上記ハードコート層付き透明フィルムのTACフィルムを貼り合わせ、偏光子の他方の主面に、別途用意したTACフィルム(厚み:80μm、屈折率:1.49)を貼り合わせて、偏光板を作製した。偏光子としては、平均重合度2700かつ厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素染色しながら6倍に延伸したPVA系偏光子を用いた。また、PVA系偏光子とTACフィルムとの貼り合わせ(接着)には、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%、アセトアセチル化度:5モル%)とメチロールメラミンとを重量比3:1で含有する水溶液からなる接着剤を用い、ロール貼合機で貼り合わせた後、オーブン内で加熱乾燥させた。
【0100】
(粘着剤層付き偏光板の作製工程)
厚み38μmのはく離ライナー(シリコーン系離型剤で離型処理されたPETフィルム)を別途用意し、上記はく離ライナーの一方の主面にアクリル系粘着剤を塗布した後、温度120℃で2分間乾燥させて、はく離ライナーの一方の主面に粘着剤層を形成した。次いで、得られた粘着剤層と、上記偏光板のTACフィルム(詳しくは、ハードコート層に接していない方のTACフィルム)とを貼り合わせて、粘着剤層付き偏光板(フィルム基材)を得た。
【0101】
(ボンバード処理工程)
ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、圧力0.6Paかつ実効パワー密度0.34W・min/cm・mの条件で、上記粘着剤層付き偏光板を搬送しながら、上記粘着剤層付き偏光板のハードコート層の主面(詳しくは、ハードコート層のTACフィルム側とは反対側の主面)をボンバード処理した。ボンバード処理する際は、アルゴンガス(流量:1049sccm)及び酸素ガス(流量:1sccm)を装置内に導入しながら処理した。以下、ボンバード処理後の粘着剤層付き偏光板を「光学フィルムF1」と記載することがある。
【0102】
次に、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程について説明する。なお、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程において、酸化物膜を形成(成膜)する際は、アルゴンガスと酸素ガスとを成膜室内に導入しながら成膜した。また、酸化物膜を形成(成膜)する際は、アルゴンガスの導入量及び排気量を調整することにより圧力を一定に保ちつつ、プラズマエミッションモニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように酸素ガスの導入量を調整した。
【0103】
(プライマー層形成工程)
得られた光学フィルムF1を、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF1を搬送しながら、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、反応性スパッタ法により、ハードコート層の一方の主面に、プライマー層として厚み3.5nmのSiOx層(x<2)を形成(成膜)した。プライマー層の形成には、ターゲット材料として、Siターゲットを用いた。また、反応性スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とし、パワー密度を3W/cmとし、成膜室内の圧力を0.4Paとした。
【0104】
(反射防止層形成工程)
プライマー層の形成に続いて、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いてプライマー層形成後の光学フィルムF1を搬送しながら、反応性スパッタ法により、プライマー層の一方の主面に、第1層:厚み12nmのNb層(屈折率:2.33)、第2層:厚み28nmのSiO層(屈折率:1.46)、第3層:厚み100nmのNb層、及び第4層:厚み85nmのSiO層をこの順に成膜した。これにより、プライマー層の一方の主面に、4層構成(第1層、第2層、第3層及び第4層からなる4層構成)の反射防止層を形成し、実施例1の偏光子付き反射防止フィルムを得た。なお、第1層~第4層の各層の成膜では、いずれも、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とした。また、第1層及び第3層の成膜では、いずれも、Nbターゲットを用い、パワー密度を13W/cmとし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。また、第2層及び第4層の成膜では、いずれも、Siターゲットを用い、パワー密度を8W/cmとし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。
【0105】
[実施例2~5]
ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量を、後述する表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、実施例2~5の偏光子付き反射防止フィルムをそれぞれ得た。
【0106】
<偏光子付き反射防止フィルムの参考例の作製>
次に、実施例1~5の参考例に係るフィルムとして、参考例1~15のフィルムの作製方法について説明する。
【0107】
[参考例1]
プライマー層形成工程を実施しなかったこと、及び反射防止層形成工程において、反射防止層として単層のNb層(厚み:100nm)を形成したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、参考例1のフィルムを得た。なお、参考例1の反射防止層(Nb層)の成膜条件は、実施例1の第3層の成膜条件と同じであった。
【0108】
[参考例2~5及び11]
ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量を、後述する表1に示すとおりとしたこと以外は、参考例1と同じ作製方法により、参考例2~5及び11のフィルムをそれぞれ得た。
【0109】
[参考例6]
プライマー層形成工程を実施しなかったこと、及び反射防止層形成工程において、反射防止層として単層のSiO層(厚み:85nm)を形成したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、参考例6のフィルムを得た。なお、参考例6の反射防止層(SiO層)の成膜条件は、実施例1の第4層の成膜条件と同じであった。
【0110】
[参考例7~10及び12]
ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量を、後述する表1に示すとおりとしたこと以外は、参考例6と同じ作製方法により、参考例7~10及び12のフィルムをそれぞれ得た。
【0111】
[参考例13~15]
ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量を、後述する表1に示すとおりとしたこと、並びにプライマー層形成工程及び反射防止層形成工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、参考例13~15のフィルムをそれぞれ得た。
【0112】
<実施例1~5及び参考例1~15の評価方法>
以下、実施例1~5の偏光子付き反射防止フィルム及び参考例1~15のフィルム(以下、これらの各々を「評価対象フィルムS1」と記載することがある)の評価方法について説明する。
【0113】
[透湿度]
JIS K7129:2008の附属書Bに準じて、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気中で、PETフィルムをはく離した評価対象フィルムS1の透湿度を測定した。
【0114】
[高温耐久性の評価]
まず、評価対象フィルムS1の加熱試験を行った。詳しくは、評価対象フィルムS1を、温度95℃の熱風オーブン内に投入し、1000時間後に取り出した。次いで、バックライト上に市販の偏光板を載置し、その上に加熱試験後の評価対象フィルムS1をクロスニコルの状態で載置して、目視にて評価対象フィルムS1の外観の変化の有無を確認した。加熱試験前後で外観に変化がみられなかったものをA(高温耐久性に優れている)と評価し、加熱試験前後で外観に変化がみられたものをB(高温耐久性に優れていない)と評価した。
【0115】
[シワの有無]
評価対象フィルムS1を作製する際において、ボンバード処理工程後のフィルム基材を目視で観察し、フィルム基材のシワの有無を確認した。シワが無かった場合を「製造時のフィルム基材の変形を抑制できている」と評価し、シワが有った場合を「製造時のフィルム基材の変形を抑制できていない」と評価した。
【0116】
<実施例1~5及び参考例1~15の評価結果>
実施例1~5及び参考例1~15について、ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量、ボンバード処理工程における酸素ガス導入比、反射防止層の構成、透湿度、高温耐久性の評価結果、並びにフィルム基材のシワの有無を表1に示す。なお、表1において、「4層構成」は、反射防止層が、Nb層、SiO層、Nb層及びSiO層の4層からなることを意味する。また、表1において、「-」は、反射防止層を形成しなかったことを意味する。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、反射防止層を形成しなかった参考例13~15は、反射防止層を形成した実施例1~5及び参考例1~12に比べ、透湿度が大きい値を示した。よって、偏光子付き反射防止フィルム全体の透湿度が反射防止層の透湿度に等しいとみなした。
【0119】
また、表1に示すように、単層のNb層を反射防止層とする参考例1~5及び11では、酸素ガスの流量(酸素ガス導入比)が大きくなるに従い、透湿度が大きくなっていた。例えば、酸素ガスの流量が50sccmの参考例5の透湿度は、酸素ガスの流量が0sccmの参考例11の透湿度の4.5倍であった。これに対し、単層のSiO層を反射防止層とする参考例6~10及び12では、酸素ガスの流量(酸素ガス導入比)を大きくしても、透湿度の変化は比較的小さかった。例えば、酸素ガスの流量が50sccmの参考例10の透湿度は、酸素ガスの流量が0sccmの参考例12の透湿度の1.1倍であった。この結果から、希ガスと酸素ガスを併用したボンバード処理により反射防止層の透湿度を高める効果は、Nb層を採用した場合に顕著に発現すると考えられる。
【0120】
実施例1~5では、希ガス(アルゴンガス)及び酸素ガスを用いてボンバード処理した後、酸化ニオブ薄膜を含む反射防止層を形成した。また、実施例1~5では、高温耐久性の評価結果がAであり、かつボンバード処理工程後のフィルム基材にシワが無かった。よって、実施例1~5では、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルム(偏光子付き反射防止フィルム)を得ることができていた。
【0121】
<反射防止フィルムの作製>
次に、実施例6~15及び比較例1~3の反射防止フィルムの作製方法について説明する。
【0122】
[実施例6]
(ハードコート層形成工程)
100重量部の紫外線硬化型ウレタンアクリレート系モノマー(屈折率:1.51)と、14重量部のポリスチレンビーズ(屈折率:1.59、個数平均一次粒子径:3.5μm)と、5重量部のアルキルフェノン系光重合開始剤と、135重量部のトルエンと、10重量部の酢酸エチルとを混合し、固形分濃度45重量%のハードコート層形成用組成物を調製した。次いで、透明フィルムとしてのTACフィルム(厚み:40μm、屈折率:1.49)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次いで、上記塗膜を、温度80℃で2分間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。これにより、TACフィルムの一方の主面に厚み7μmの防眩性ハードコート層(表面に凹凸構造を有するハードコート層)を形成し、ハードコート層付き透明フィルム(フィルム基材)を得た。
【0123】
(ボンバード処理工程)
ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、圧力0.6Paかつ実効パワー密度0.34W・min/cm・mの条件で、上記ハードコート層付き透明フィルムを搬送しながら、上記ハードコート層付き透明フィルムのハードコート層の主面(詳しくは、ハードコート層のTACフィルム側とは反対側の主面)をボンバード処理した。ボンバード処理する際は、アルゴンガス(流量:1049sccm)及び酸素ガス(流量:1sccm)を装置内に導入しながら処理した。以下、ボンバード処理後のハードコート層付き透明フィルムを「光学フィルムF2」と記載することがある。
【0124】
次に、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程について説明する。なお、プライマー層形成工程及び反射防止層形成工程において、酸化物膜を形成(成膜)する際は、アルゴンガスと酸素ガスとを成膜室内に導入しながら成膜した。また、酸化物膜を形成(成膜)する際は、アルゴンガスの導入量及び排気量を調整することにより圧力を一定に保ちつつ、プラズマエミッションモニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように酸素ガスの導入量を調整した。
【0125】
(プライマー層形成工程)
得られた光学フィルムF2を、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF2を搬送しながら、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、反応性スパッタ法により、ハードコート層の一方の主面に、プライマー層として厚み3.5nmのSiOx層(x<2)を形成(成膜)した。プライマー層の形成には、ターゲット材料として、Siターゲットを用いた。また、反応性スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とし、パワー密度を3W/cmとし、成膜室内の圧力を0.4Paとした。
【0126】
(反射防止層形成工程)
プライマー層の形成に続いて、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いてプライマー層形成後の光学フィルムF2を搬送しながら、反応性スパッタ法により、プライマー層の一方の主面に、第1層:厚み12nmのNb層(屈折率:2.33)、第2層:厚み28nmのSiO層(屈折率:1.46)、第3層:厚み100nmのNb層、及び第4層:厚み85nmのSiO層をこの順に成膜した。これにより、プライマー層の一方の主面に、4層構成(第1層、第2層、第3層及び第4層からなる4層構成)の反射防止層を形成し、実施例6の反射防止フィルムを得た。なお、第1層~第4層の各層の成膜では、いずれも、成膜ロールの表面温度を-8℃とし、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とした。また、第1層及び第3層の成膜では、いずれも、Nbターゲットを用い、パワー密度を13W/cmとし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。また、第2層及び第4層の成膜では、いずれも、Siターゲットを用い、パワー密度を8W/cmとし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。
【0127】
[実施例7~15及び比較例1~3]
ボンバード処理工程における実効パワー密度、並びにボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量を、後述する表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例6と同じ作製方法により、実施例7~15及び比較例1~3の反射防止フィルムをそれぞれ得た。
【0128】
<反射防止フィルムの参考例の作製>
次に、実施例6~15の参考例に係るフィルムとして、参考例16及び17のフィルムの作製方法について説明する。
【0129】
[参考例16及び17]
ボンバード処理工程における実効パワー密度、ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量、及びボンバード処理工程における酸素ガスの流量を、後述する表2に示すとおりとしたこと、並びにプライマー層形成工程及び反射防止層形成工程を実施しなかったこと以外は、実施例6と同じ作製方法により、参考例16及び17のフィルムをそれぞれ得た。
【0130】
<実施例6~15、比較例1~3、参考例16及び参考例17の評価方法>
以下、実施例6~15及び比較例1~3の反射防止フィルム並びに参考例16及び17のフィルム(以下、これらの各々を「評価対象フィルムS2」と記載することがある)の評価方法について説明する。
【0131】
[透湿度]
JIS K7129:2008の附属書Bに準じて、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気中で、評価対象フィルムS2の透湿度を測定した。
【0132】
[高温耐久性の評価]
別途用意した偏光子の一方の主面に、評価対象フィルムS2のTACフィルムを貼り合わせ、偏光子の他方の主面に、別途用意したTACフィルム(厚み:40μm、屈折率:1.49)を貼り合わせて、偏光子付き反射防止フィルムを作製した。偏光子としては、平均重合度2700かつ厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素染色しながら6倍に延伸したPVA系偏光子を用いた。また、PVA系偏光子とTACフィルムとの貼り合わせ(接着)には、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%、アセトアセチル化度:5モル%)とメチロールメラミンとを重量比3:1で含有する水溶液からなる接着剤を用い、ロール貼合機で貼り合わせた後、オーブン内で加熱乾燥させた。次いで、得られた偏光子付き反射防止フィルムの加熱試験を行った。詳しくは、偏光子付き反射防止フィルムを、温度95℃の熱風オーブン内に投入し、1000時間後に取り出した。次いで、バックライト上に市販の偏光板を載置し、その上に加熱試験後の偏光子付き反射防止フィルムをクロスニコルの状態で載置して、目視にて偏光子付き反射防止フィルムの外観の変化の有無を確認した。加熱試験前後で外観に変化がみられなかったものをA(高温耐久性に優れている)と評価し、加熱試験前後で外観に変化がみられたものをB(高温耐久性に優れていない)と評価した。
【0133】
[シワの有無]
評価対象フィルムS2を作製する際において、ボンバード処理工程後のフィルム基材を目視で観察し、フィルム基材のシワの有無を確認した。シワが無かった場合を「製造時のフィルム基材の変形を抑制できている」と評価し、シワが有った場合を「製造時のフィルム基材の変形を抑制できていない」と評価した。
【0134】
[算術平均粗さRa]
原子間力顕微鏡(ブルカー社製「Dimension Edge」)を用いて、参考例16及び17のフィルムのハードコート層の表面を観察し、その1μm四方の観察像から、それぞれのハードコート層表面の算術平均粗さRaを求めた。参考例16(酸素ガスの流量:0sccm)のハードコート層表面の算術平均粗さRaは、0.51nmであった。また、参考例17(酸素ガスの流量:50sccm)のハードコート層表面の算術平均粗さRaは、0.55nmであった。よって、ボンバード処理工程における酸素ガスの流量(酸素ガス導入比)が大きくなるに従い、ハードコート層表面の算術平均粗さRaが大きくなった。この結果から、ボンバード処理工程における酸素ガスの流量(酸素ガス導入比)を大きくすることにより、フィルム基材表面の凹凸が大きくなり、その結果、フィルム基材上に成膜するスパッタ膜の柱状成長が促進され、透湿度が高い反射防止層を形成できると推測される。
【0135】
<実施例6~15、比較例1~3、参考例16及び参考例17の評価結果>
実施例6~15、比較例1~3、参考例16及び参考例17について、ボンバード処理工程における実効パワー密度、ボンバード処理工程におけるアルゴンガスの流量及び酸素ガスの流量、ボンバード処理工程における酸素ガス導入比、反射防止層の有無、透湿度、高温耐久性の評価結果、並びにフィルム基材のシワの有無を表2に示す。
【0136】
【表2】
【0137】
表2に示すように、反射防止層を形成しなかった参考例16及び17は、反射防止層を形成した実施例6~15及び比較例1~3に比べ、透湿度が大きい値を示した。よって、反射防止フィルム全体の透湿度が反射防止層の透湿度に等しいとみなした。
【0138】
実施例6~15では、希ガス(アルゴンガス)及び酸素ガスを用いてボンバード処理した後、酸化ニオブ薄膜を含む反射防止層を形成した。また、実施例6~15では、高温耐久性の評価結果がAであり、かつボンバード処理工程後のフィルム基材にシワが無かった。よって、実施例6~15では、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができていた。
【0139】
比較例1~3では、ボンバード処理に使用するガスとして、酸素ガスを用いずに、アルゴンガスのみを用いた。また、比較例1及び2では、透湿度が実施例6~15に比べて小さい値を示し、その結果、高温耐久性の評価結果がBとなった。よって、比較例1及び2では、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを得ることができなかった。また、比較例3では、ボンバード処理工程後のフィルム基材にシワが有った。よって、比較例3では、製造時のフィルム基材の変形を抑制できていなかった。
【0140】
表2に示すように、ボンバード処理工程における実効パワー密度を上げれば、反射防止層の透湿度を高めることができる。しかし、比較例3のように実効パワー密度を上げすぎると、フィルム基材が変形しやすくなる。これに対し、実施例6~15では、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理することにより、実効パワー密度を小さくしても反射防止層の透湿度を高めることができた。以上の結果から、本発明の製造方法によれば、製造時のフィルム基材の変形を抑制しつつ、高温耐久性に優れる反射防止フィルムを製造できることが示された。
【符号の説明】
【0141】
10 :反射防止フィルム
11 :透明フィルム
12 :ハードコート層
13 :フィルム基材
14 :プライマー層
19 :反射防止層

図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止フィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材の前記一方の主面を、希ガス及び酸素ガスを用いてボンバード処理する工程Saと、
前記ボンバード処理された前記主面側に前記反射防止層を成膜する工程Sbとを備え、
前記反射防止層は、酸化ニオブ薄膜と、前記酸化ニオブ薄膜とは屈折率が異なる無機薄膜とを含む多層膜からなり、
前記工程Saにおいて、前記希ガスの導入量及び前記酸素ガスの導入量の合計に対する、前記酸素ガスの導入量の比が、0.0009以上0.0500以下であり、
前記工程Saにおいて、圧力0.1Pa以上1.0Pa以下の条件でボンバード処理する、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記希ガスは、アルゴンガスである、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程Sbにおいて、前記反射防止層をスパッタ法により成膜する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記反射防止層の厚みが、100nm以上300nm以下である、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記フィルム基材は、透明フィルムと、前記透明フィルムの一方の主面側に設けられたハードコート層とを備え、
前記工程Saにおいて、前記ハードコート層の前記透明フィルム側とは反対側の主面をボンバード処理する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ハードコート層は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上5.0μm以下の粒子を含む、請求項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記透明フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムである、請求項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記工程Saの後かつ前記工程Sbの前に、前記ボンバード処理された前記主面側にプライマー層を成膜する工程Scを更に備え、
前記工程Sbにおいて、前記プライマー層の前記フィルム基材側とは反対側の主面に前記反射防止層を成膜する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記工程Saにおいて、実効パワー密度0.01W・min/cm ・m以上0.60W・min/cm ・m以下の条件でボンバード処理する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。