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特開2024-33448ろう付け装置および組立体のろう付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033448
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ろう付け装置および組立体のろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/06 20060101AFI20240306BHJP
   B23K 1/008 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B23K1/06 B
B23K1/008 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137025
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 朋裕
(72)【発明者】
【氏名】植田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】末田 光輝
(57)【要約】
【課題】比較的大型、複雑な組立体においても適用可能な超音波振動を利用したろう付け装置を提供する。
【解決手段】このろう付け装置100は、複数の被接合部材110の接合面130間にろう材120を介在させた組立体ASを支持するステージ10と、ステージ10に支持された組立体ASをステージ10に向けて加圧する加圧治具20と、組立体ASを加熱することにより、組立体ASのろう材120を溶融させる所定温度に加熱する加熱部30と、ステージ10および加圧治具20の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する振動印加部40と、を備える。振動印加部40は、加圧状態の組立体ASを所定温度に加熱した状態で、ステージ10と加圧治具20とを相対振動させることにより、複数の被接合部材110の接合面130における酸化皮膜を除去するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被接合部材の接合面間にろう材を介在させた組立体を支持するステージと、
前記ステージに支持された前記組立体を前記ステージに向けて加圧する加圧治具と、
前記組立体を加熱することにより、前記組立体の前記ろう材を溶融させる所定温度に加熱する加熱部と、
前記ステージおよび前記加圧治具の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する振動印加部と、を備え、
前記振動印加部は、加圧状態の前記組立体を前記所定温度に加熱した状態で、前記ステージと前記加圧治具とを相対振動させることにより、前記複数の被接合部材の前記接合面における酸化皮膜を除去するように構成されている、ろう付け装置。
【請求項2】
前記振動印加部は、前記超音波振動の印加により、前記ステージおよび前記加圧治具の少なくとも一方である加振対象を共振振動させるように構成されている、請求項1に記載のろう付け装置。
【請求項3】
前記組立体は、前記組立体の内部に前記接合面が配置されるように、前記複数の被接合部材を積層した構造を有し、
前記振動印加部は、前記複数の被接合部材が積層された方向に沿った方向の前記超音波振動を印加するように構成されている、請求項2に記載のろう付け装置。
【請求項4】
前記加圧治具は、前記ステージ上に配置された前記組立体上に配置され、自重によって前記組立体を加圧するように構成されている、請求項3に記載のろう付け装置。
【請求項5】
前記加熱部は、前記ステージ、前記組立体および前記加圧治具を内部に収容する炉室を有し、前記炉室内を加熱するように構成され、かつ、前記炉室の一部に開口を有し、
前記振動印加部は、前記炉室の外部に配置された振動子と、前記振動子に接続され、前記開口を介して前記炉室の内部に挿入される振動伝達部材とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のろう付け装置。
【請求項6】
前記加熱部は、前記炉室の下面に前記開口を有し、
前記振動伝達部材は、前記炉室の下方から前記開口を介して前記炉室の内部に挿入され、前記ステージの下面と当接するように構成されている、請求項5に記載のろう付け装置。
【請求項7】
前記振動伝達部材は、前記組立体が配置された前記ステージを支持するように構成されている、請求項6に記載のろう付け装置。
【請求項8】
前記所定温度は、前記ろう材が半溶融して固液共存状態となる温度である、請求項1~3のいずれか1項に記載のろう付け装置。
【請求項9】
前記加熱部は、大気雰囲気、大気圧下で、加熱を行うように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のろう付け装置。
【請求項10】
複数部品からなる組立体のろう付け方法であって、
複数の被接合部材の接合面間にろう材を介在させた前記組立体を、ステージに配置する工程と、
前記ステージに配置された前記組立体を加圧治具により前記ステージに向けて加圧する工程と、
加圧状態の前記組立体を、前記ろう材を溶融させる所定温度に加熱する工程と、
加圧状態の前記組立体を前記所定温度に加熱した状態で、前記ステージおよび前記加圧治具の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する工程と、を備え、
前記超音波振動を印加する工程において、前記超音波振動によって前記ステージと前記加圧治具とを相対振動させることにより、前記組立体を構成する前記複数の被接合部材の前記接合面における酸化皮膜を除去する、組立体のろう付け方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ろう付け装置および組立体のろう付け方法に関し、特に、超音波振動を利用してろう付けを行うろう付け装置および組立体のろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波振動を利用してろう付けを行うろう付け方法が知られている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
上記特許文献1では、嵌合させた2つのパイプの嵌合部をろう付けする際に、一方のパイプに超音波振動発生器の振動子を接続し、嵌合部をガス炎の熱によってろう付け温度まで加熱し、超音波振動発生器を作動させて嵌合部を超音波振動させながら、フラックス成分を含有したワイヤー状のろう材を用いて嵌合部をろう付けする、ろう付け方法が開示されている。上記特許文献1では、超音波振動によって、フラックス含有ろう材をろう付け予定部に流れ込ませること、ろう材中のフラックスを排出すること、といった作用が得られることが記載されている。
【0004】
上記特許文献2では、2つのアルミニウム材の接合面間にろう材を介在させ、接合面同士を押し付ける方向に向けて両方のアルミニウム材を加圧し、一方のアルミニウム材に超音波振動を付与して接合面の酸化皮膜を除去しつつ、これと同時に各アルミニウム材とろう材との間に摩擦熱を発生させ、この摩擦熱によりろう材を溶融させて2つのアルミニウム材をろう付けする、ろう付け方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-86264号公報
【特許文献2】特開平5-329626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および上記特許文献2のように、超音波振動を利用したろう付けの手法は、比較的小型、単純形状の部材間のろう付けに限られて用いられていた。比較的大型、複雑な組立体の場合、複雑構造の組立体の各接合面に、効果的に超音波振動を付与する手段がないことが一因として挙げられる。
【0007】
そのような比較的大型、複雑な組立体のろう付けにおいては、従来、大型の加熱、排気設備を用いた真空加熱ろう付け法か、酸化皮膜を化学的に除去するフラックスを用いたろう付け法が用いられている。これらのろう付け法は、大型設備が必要であったり、フラックスが必要で接合材料が制限されたりするため、超音波振動を利用したろう付け法を、比較的大型、複雑な組立体においても適用可能とすることが望まれている。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、比較的大型、複雑な組立体においても適用可能な超音波振動を利用したろう付け装置および組立体のろう付け方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、組立体自体に超音波振動を直接印加するのではなく、組立体を支持するステージと組立体を加圧する加圧治具との間で超音波振動による相対振動を生じさせることによって、組立体を構成する各部品の接触を誘発して接合面の酸化皮膜を効果的に除去できることを発見した。この知見に基づき、第1発明によるろう付け装置は、複数の被接合部材の接合面間にろう材を介在させた組立体を支持するステージと、ステージに支持された組立体をステージに向けて加圧する加圧治具と、組立体を加熱することにより、組立体のろう材を溶融させる所定温度に加熱する加熱部と、ステージおよび加圧治具の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する振動印加部と、を備え、振動印加部は、加圧状態の組立体を所定温度に加熱した状態で、ステージと加圧治具とを相対振動させることにより、複数の被接合部材の接合面における酸化皮膜を除去するように構成されている。
【0010】
なお、本発明における「超音波振動」とは、高い振動数(周波数)をもつ弾性振動波であり、一般に超音波振動子、超音波振動発生器といった装置によって生成可能な周波数帯域の振動を意味する広い概念である。超音波の定義の1つとして、人間の可聴領域外の振動数(約20kHz以上)という定義が知られているが、本発明では、超音波振動の周波数は、20kHz未満の周波数を含むものとする。たとえば、本発明の超音波振動は、10kHz以上500KHz以下の振動を含む概念である。
【0011】
第1発明によるろう付け装置では、上記のように、ステージおよび加圧治具の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する振動印加部を備え、振動印加部は、加圧状態の組立体を所定温度に加熱した状態で、ステージと加圧治具とを相対振動させることにより、複数の被接合部材の接合面における酸化皮膜を除去するように構成されている。これにより、ステージと加圧治具との間の相対振動によって組立体を構成する複数の被接合部材の間で衝突を生じさせることで、接合面の酸化皮膜を除去することができる。組立体の全体が振動するため、複数(多数)の接合箇所があるような比較的大型で複雑な組立体の場合でも、それらの接合面の酸化皮膜を効果的に除去することができる。ろう材による接合を妨げる酸化皮膜が除去されるので、加熱により溶融したろう材によって、複数の被接合部材の間の接合が実現できる。これにより、比較的大型、複雑な組立体においても適用可能な超音波振動を利用したろう付けが実現される。
【0012】
上記第1発明において、好ましくは、振動印加部は、超音波振動の印加により、ステージおよび加圧治具の少なくとも一方である加振対象を共振振動させるように構成されている。このように構成すれば、共振現象を利用することによって、より少ないエネルギーで、接合面の酸化皮膜を除去するのに有効な大きな振幅の相対振動を効率的に発生させることができる。
【0013】
この場合、好ましくは、組立体は、組立体の内部に接合面が配置されるように、複数の被接合部材を積層した構造を有し、振動印加部は、複数の被接合部材が積層された方向に沿った方向の超音波振動を印加するように構成されている。このように構成すれば、振動による変位の方向と、複数の被接合部材が積層された方向(つまり、接合面同士が向かい合う方向)とを、一致させることができる。これにより、ステージと加圧治具との相対振動に伴って、接合面を効果的に衝突させることができるので、接合面の酸化皮膜を効果的に除去することができる。
【0014】
上記複数の被接合部材が積層された方向に沿った方向の超音波振動を印加する構成において、好ましくは、加圧治具は、ステージ上に配置された組立体上に配置され、自重によって組立体を加圧するように構成されている。これにより、加圧治具をステージ以外の物体に取り付ける場合と比べて、振動の減衰を抑制できるので、ステージと加圧治具との相対振動を容易に発生させることができる。
【0015】
上記第1発明において、好ましくは、加熱部は、ステージ、組立体および加圧治具を内部に収容する炉室を有し、炉室内を加熱するように構成され、かつ、炉室の一部に開口を有し、振動印加部は、炉室の外部に配置された振動子と、振動子に接続され、開口を介して炉室の内部に挿入される振動伝達部材とを含む。このように構成すれば、ろう材を溶融させる所定温度に加熱される炉室の外部に振動子を配置しながら、振動伝達部材を介して、炉室内の加振対象に超音波振動を印加することができる。このため、振動子が許容されない高温に曝されることが回避できる。たとえば加熱部の加熱温度(所定温度)が数百℃に達する場合には、炉室内で振動子を使用することはできないが、上記構成によれば、そのような高温条件でも超音波振動を印加することが可能となる。
【0016】
この場合、好ましくは、加熱部は、炉室の下面に開口を有し、振動伝達部材は、炉室の下方から開口を介して炉室の内部に挿入され、ステージの下面と当接するように構成されている。このように構成すれば、ステージ、組立体および加圧治具が炉室内に配置される場合でも、簡素な構成で、ステージに対して超音波振動を印加することができる。
【0017】
上記振動伝達部材が炉室の下方からステージの下面と当接する構成において、好ましくは、振動伝達部材は、組立体が配置されたステージを支持するように構成されている。このように構成すれば、振動伝達部材が、振動子で発生した振動をステージへ伝達する機能だけでなく、炉室内でステージを支持する機能を果たすようになる。このため、炉室内にステージを支持する構造を別途設ける必要がなく、装置構成を簡素化できる。さらに、振動伝達部材のみでステージを支持する場合には、他の部材との接触によりステージの振動を減衰させることがないので、より効率的に、ステージを振動させることができる。
【0018】
上記第1発明において、好ましくは、所定温度は、ろう材が半溶融して固液共存状態となる温度である。つまり、ろう材が完全に液相となるよりも低い温度に所定温度が設定される。このように構成すれば、ステージと加圧治具との相対振動によって組立体内の各部材を衝突させる状況下では、ろう材を強制的に流動させることが可能であるため、ろう材が完全な液相となって過度な流動性を得る前の固液共存状態とすることで、相対振動を考慮した適度な流動状態を形成できる。
【0019】
上記第1発明において、好ましくは、加熱部は、大気雰囲気、大気圧下で、加熱を行うように構成されている。上記の通り、超音波振動の印加によって接合面の酸化皮膜を除去できるので、真空ろう付け法を用いることなく大気雰囲気、大気圧下でろう付けを行うことができる。これにより、比較的大型で複雑な組立体のろう付けを行う場合でも、大型の加熱、排気設備を設ける必要がないため、装置構成を簡素化および小型化できる。
【0020】
第2発明による組立体のろう付け方法は、複数部品からなる組立体のろう付け方法であって、複数の被接合部材の接合面間にろう材を介在させた組立体を、ステージに配置する工程と、ステージに配置された組立体を加圧治具によりステージに向けて加圧する工程と、加圧状態の組立体を、ろう材を溶融させる所定温度に加熱する工程と、加圧状態の組立体を所定温度に加熱した状態で、ステージおよび加圧治具の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する工程と、を備え、超音波振動を印加する工程において、超音波振動によってステージと加圧治具とを相対振動させることにより、組立体を構成する複数の被接合部材の接合面における酸化皮膜を除去する。
【0021】
第2発明による組立体のろう付け方法では、上記のように、加圧状態の組立体を所定温度に加熱した状態で、ステージおよび加圧治具の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する工程を備え、超音波振動を印加する工程において、超音波振動によってステージと加圧治具とを相対振動させることにより、組立体を構成する複数の被接合部材の接合面における酸化皮膜を除去する。これにより、上記第1発明と同様に、ステージと加圧治具との間の相対振動によって、ステージ上の組立体を構成する複数の被接合部材の間で衝突を生じさせ、接合面の酸化皮膜を除去することができるので、加熱により溶融したろう材によって、複数の被接合部材の間の接合が実現できる。これにより、比較的大型、複雑な組立体においても適用可能な超音波振動を利用したろう付けが実現される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記のように、比較的大型、複雑な組立体においても適用可能な超音波振動を利用したろう付け装置および組立体のろう付け方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態のろう付け装置を示した模式的な縦断面図である。
図2】ステージおよび加圧治具の模式的な平面図である。
図3】組立体の一例を示した模式的な縦断面図である。
図4】振動印加部による加振入力とステージおよび加圧治具の相対振幅との関係を示したグラフである。
図5】ステージおよび加圧治具の相対振動を説明するための模式図である。
図6】本実施形態の組立体のろう付け方法を示したフロー図である。
図7】加熱部による組立体の温度変化と振動印加タイミングとを説明するためのグラフである。
図8】加振入力に対するステージおよび加圧治具の相対振幅の関係を調べた実験結果を示したグラフである。
図9】実施例における組立体の温度変化のグラフである。
図10】実施例における接合強度と加振エネルギーとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1図7を参照して、一実施形態によるろう付け装置100およびろう付け方法について説明する。ろう付け装置100は、複数の部材をろう付けにより接合する装置である。ろう付けは、ろう材を溶融させ、溶融したろう材を接着剤として用いることにより、複数の部材を接合させる接合方法である。ろう付けは、接合させる部材よりも融点の低い合金(ろう材)を用いることで、接合させる部材を積極的に溶融させることなく部材同士を接合する接合方法である。
【0026】
以下では、水平面内において、互いに略直交する2つの方向を、それぞれX方向およびY方向とする。水平面(X-Y平面)と略直交する上下方向を、Z方向とする。なお、Z方向は重力方向と平行で、下方向に重力が作用するものとする。
【0027】
(ろう付け装置)
本実施形態のろう付け装置100は、複数の部品からなる組立体ASのろう付けを行う。組立体ASは、別個独立した複数の被接合部材110を含む。組立体AS(図3参照)は、複数の被接合部材110の接合面130間にろう材120を介在させるように組み立てられた構造を有する。本実施形態では、組立体ASの構造、形状、および部品(被接合部材110)の構成材料は、特に限定されない。本実施形態のろう付け装置100は、比較的大型で、組立体ASの内部に接合部が複数、分散して存在する複雑構造の組立体ASのろう付けに特に適している。また、本実施形態のろう付け装置100は、強固な酸化皮膜を形成するアルミニウム材(アルミニウムまたはアルミニウム合金)のろう付けに特に適している。
【0028】
図1に示すように、ろう付け装置100は、ステージ10と、加圧治具20と、加熱部30と、振動印加部40と、を備える。
【0029】
ステージ10は、組立体ASの支持部材である。ステージ10は、複数の被接合部材110の接合面130(図3参照)間にろう材120を介在させた組立体ASを支持するように構成されている。ステージ10は、組立体ASが載置される上面11と、上面11とは反対側の下面12とを有する。上面11および下面12は、概ね水平面に沿った平坦面である。図1の例では、ステージ10は、平板状形状を有する。図2の例では、ステージ10は、平面視で矩形形状を有する。ステージ10は、予め設定された所定の固有振動数(共振周波数)を有する。以下、便宜的に、ステージ10の共振周波数を「共振周波数fc」と呼ぶ。ステージ10には、共振周波数fcを調整するためのリブ13が設けられ得る。
【0030】
ステージ10の上面11の中央に、組立体ASが配置される。本実施形態では、組立体ASは、組立体ASの内部に接合面130が配置されるように、複数の被接合部材110を積層した構造を有している。そのような構造を有する組立体ASの具体例として、図3に、プレートフィン型の熱交換器を示す。
【0031】
図3の例では、組立体ASは、凹状の第1部材111と平板状の第2部材112と、波板状のフィン部材113と、を被接合部材110として含む。第1部材111は底面および側面を有し、上方が開放されている。第2部材112は、第1部材111の各側面上に跨がるように配置され、第1部材111の凹部を覆う。第2部材112の外周部が、第1部材111の各側面の上端にそれぞれ設けられた段差部111aによって支持されている。第1部材111および第2部材112により区画された凹部内の空間が、流体を流通させる流路となる。フィン部材113は、第1部材111の凹部内に配置されている。第1部材111の内底面とフィン部材113の下面との間に、シート状のろう材120が設けられている。また、第2部材112の下面と、第1部材111の段差部111aおよびフィン部材113の上面との間に、別のろう材120が設けられている。
【0032】
この例では、下側から上側に向けて、第1部材111、フィン部材113および第2部材112が、この順でZ方向に積層されている。第1部材111の内底面と、フィン部材113の下面とが、ろう材120によって互いに接合される接合面130である。第2部材112の下面と、第1部材111の段差部111aの底面およびフィン部材113の上面とが、ろう材120によって互いに接合される接合面130である。第1部材111、第2部材112およびフィン部材113は、たとえばアルミニウム合金により構成されている。ろう材120は、たとえばAl-Si系材料からなる。ろう材120の融点は、第1部材111、第2部材112およびフィン部材113の融点よりも低い。なお、ろう材120は、アルミニウム合金の心材の表裏両面にAl-Si系材料(ろう材)を形成したクラッド材である。また、ろう材120は、フラックスを含有しない、ノンフラックス材料である。
【0033】
図1に戻り、加圧治具20は、ステージ10に支持された組立体ASをステージ10に向けて加圧するように構成されている。加圧治具20は、ステージ10上に配置された組立体AS上に配置され、自重によって組立体ASを加圧するように構成されている。加圧治具20は、組立体ASと接触する加圧板21を含む。加圧板21は、組立体ASの上面上に設置され、下面において組立体ASと接触する。加圧板21は、組立体ASの上面よりも大きな平面形状を有する。加圧板21は、X方向の幅およびY方向の幅が、それぞれ組立体ASのX方向の幅およびY方向の幅よりも大きい。加圧板21は、組立体ASの最上面の略全体と実質的に面接触し、組立体ASの上面を均一に加圧する。
【0034】
加圧治具20の重量(すなわち、加圧力)は、組立体ASを接合するのに適した値となるように、設定されている。加圧治具20の重量は、組立体ASにおける接合面積などに応じて設定される。加圧治具20は、加圧力を調整するための重量調整部材22(つまり、錘)を含みうる。重量調整部材22は、平板形状を有し、加圧板21の上面側に設置されている。加圧治具20は、調整する重量に応じて、1つ以上の重量調整部材22を含み得る。重量調整部材22を設けずに、単一の加圧板21だけで所望の重量を有するように設計してもよい。加圧板21と重量調整部材22とを別個に設ける場合には、組立体ASの種類に応じて加圧治具20を専用設計することなく、様々な加圧力を容易に実現できる。
【0035】
加圧治具20は、位置決め部材23を介して、ステージ10に対して相対振動可能な状態で、ステージ10と連結されている。位置決め部材23は、加圧治具20とステージ10とを接続する軸部材であり、図1および図2の例ではボルトである。具体的には、ステージ10、加圧板21および重量調整部材22に、それぞれ、貫通孔10a、貫通孔21aおよび貫通孔22aが設けられている。これらの貫通孔10a、貫通孔21aおよび貫通孔22aは、水平面内(X-Y面内)の位置が互いに一致している。位置決め部材23は、加圧治具20(重量調整部材22)の上面側から貫通孔22a、貫通孔21aおよび貫通孔10aを通過して、ステージ10の下面12よりも下側まで延びている。位置決め部材23のうち、ステージ10の下面12側に位置するネジ部に、抜け止めとしてのナット24が装着されている。図2に示すように、貫通孔10a、貫通孔21aおよび貫通孔22aは、組立体ASに対してY方向の両側に、1組ずつ(一対)設けられている。位置決め部材23は、貫通孔10a、貫通孔21aおよび貫通孔22aの各組に対応して、一対(2つ)設けられている。
【0036】
この位置決め部材23により、加圧治具20とステージ10との水平方向の位置ずれが規制されている。なお、図1において、位置決め部材23の軸部の外径は、各貫通孔10a、貫通孔21aおよび貫通孔22aの内径よりも小さい。また、位置決め部材23のナット24は、ステージ10の下面12から下方に離隔しており、ステージ10の下面12とは非接触となる。言い換えると、ボルトである位置決め部材23の頭部23aとナット24との間隔が、加圧治具20の上面からステージ10の下面12までの距離よりも大きい。このため、加圧治具20とステージ10とが相対振動可能である。位置決め部材23は、加圧治具20およびステージ10の水平面内(X-Y面内)の位置が大きくずれないように、加圧治具20とステージ10とを相対振動可能な状態で連結する。
【0037】
図1に示すように、加熱部30は、組立体ASを加熱することにより、組立体ASのろう材120を溶融させる所定温度に加熱するように構成されている。本実施形態では、加熱部30は、加熱炉である。すなわち、加熱部30は、ステージ10、組立体ASおよび加圧治具20を内部に収容する炉室31を有し、炉室31内を加熱するように構成されている。具体的には、加熱部30は、発熱源としてのコイル32を有している。コイル32が、炉室31を構成する隔壁に設けられている。コイル32に通電することによって生じる熱により、炉室31内が、所定温度に加熱される。その結果、炉室31内に収容されたステージ10、ろう材120を含む組立体ASおよび加圧治具20の全てが所定温度まで加熱される。
【0038】
炉室31は、上面、下面、前後側面および左右側面を有する箱体であり、外部から区画された内部空間を構成する。炉室31のいずれかの側面の一部または全部が開閉可能であり、組立体ASを出し入れできる。本実施形態では、炉室31は、振動印加部40を炉室31の外部から炉室31の内部にアクセスさせることが可能に構成されている。すなわち、炉室31の一部に開口31aが設けられている。この開口31aに、振動印加部40の後述する振動伝達部材42が挿通されている。本実施形態では、加熱部30は、炉室31の下面に開口31aを有している。開口31aは、振動伝達部材42の水平断面形状よりも一回り大きい形状を有し、振動伝達部材42と炉室31(開口31aの内周面)とは非接触状態に維持されている。
【0039】
このように、本実施形態の加熱部30では、炉室31の内部と炉室31の外部とが、開口31aを介して部分的に連通している。本実施形態では、加熱部30は、大気雰囲気、大気圧下で、加熱を行うように構成されている。ここでいう大気雰囲気は、ろう付け装置100が設置されている環境の雰囲気であり、ガス供給源などにより特段のガス雰囲気となるように調整されないことを意味する。同様に、ここでいう大気圧は、ろう付け装置100が設置されている環境の大気圧であり、排気装置などにより特段の圧力となるように調整されないことを意味する。
【0040】
ろう付けを行う際、加熱部30は、炉室31内を上記の所定温度まで加熱する。所定温度は、ろう材120の溶融開始温度以上であり、組立体ASの構成材料の溶融開始温度未満の温度である。所定温度は、ろう材120の融点に応じて設定される。本実施形態では、所定温度は、ろう材120が半溶融して固液共存状態となる温度である。本実施形態では、高温条件でのろう付けに適しており、所定温度は、たとえば300℃以上でありうる。
【0041】
振動印加部40は、ステージ10および加圧治具20の少なくとも一方に対して超音波振動を印加するように構成されている。振動印加部40は、ステージ10および加圧治具20の一方のみを加振してもよいし、ステージ10および加圧治具20の両方を加振してもよいが、図1の例では、振動印加部40は、ステージ10に対して超音波振動を印加する(加振する)ように構成されている。
【0042】
振動印加部40は、振動を発生する振動子41と、振動子41により発生した振動を加振対象(ステージ10)に伝達する振動伝達部材42とを含む。
【0043】
振動子41は、圧電素子を含む。振動子41の構造は特に限定されないが、本実施形態では、振動子41は、ランジュバン型振動子である。ランジュバン型振動子は、厚さ方向に分極した圧電素子41aを、その両端から金属ブロック41bで挟み込んだ構造を有し、金属ブロック41bを含めた全長の調整により所定の周波数で共振するように構成されている。
【0044】
振動伝達部材42は、一端が振動子41に接続され、他端が加振対象(ステージ10)と当接するように設けられている。振動伝達部材42は、特に限定されないが、本実施形態では、振動伝達部材42は、いわゆる超音波ホーンである。超音波ホーンは、振動子41と同じ共振周波数を有するように設計されており、一端よりも他端の断面積が小さい。これにより、超音波ホーンは、一端における振動子41の振幅を、他端において増幅して出力する。図2に示したように、振動伝達部材42は、ステージ10の中央部(組立体ASの直下の位置)と当接している。
【0045】
図1に戻り、振動印加部40は、複数の被接合部材110が積層された方向に沿った方向の超音波振動を印加するように構成されている。すなわち、本実施形態では、組立体ASの被接合部材110(第1部材111、フィン部材113および第2部材112)がZ方向に沿って積層されており、印加される超音波振動はZ方向の振動である。つまり、振動伝達部材42の他端がZ方向に周期的に変位することにより、ステージ10にZ方向の超音波振動が印加される。
【0046】
ここで、圧電素子を含む振動子41は、ろう付け温度に耐えられる耐熱性能を有していないことがある。たとえば組立体ASが高温で使用される熱交換器の場合、ろう材120も高融点材料が用いられ、融点は数百℃となる。炉室31内の所定温度が振動子41の使用温度範囲の外部にある場合、振動子41を炉室31内に設置することは困難である。
【0047】
そこで、本実施形態では、振動子41は、炉室31の外部に配置されており、振動伝達部材42は、開口31aを介して炉室31の内部に挿入されている。なお、本実施形態のステージ10、加圧治具20(加圧治具20の各構成部材)および振動伝達部材42は、いずれもステンレス鋼材など、融点が炉内温度(所定温度)よりも十分に高い材料によって構成されている。
【0048】
図1の例では、振動伝達部材42は、炉室31の下方から開口31aを介して炉室31の内部に挿入され、ステージ10の下面12と当接するように構成されている。そして、振動伝達部材42は、組立体ASが配置されたステージ10を支持するように構成されている。このように、本実施形態の振動伝達部材42は、振動子41の振動を加振対象であるステージ10に伝達する機能を有するだけでなく、炉室31内のステージ10、組立体ASおよび加圧治具20の全重量を支持する支持部材としての機能を有する。振動伝達部材42の他端は、図示しないボルトなどによってステージ10に固定されている。そのため、振動伝達部材42の他端は、ステージ10と一体的に振動する。炉室31内において、ステージ10、組立体ASおよび加圧治具20は、振動伝達部材42以外の他の部材と非接触である。これにより、振動伝達部材42の振動が、減衰することなく効率的にステージ10へ伝達される。
【0049】
本実施形態では、振動印加部40は、加圧状態の組立体ASを所定温度に加熱した状態で、ステージ10と加圧治具20とを相対振動させることにより、複数の被接合部材110の接合面130における酸化皮膜を除去するように構成されている。相対振動とは、ステージ10と加圧治具20との一方を基準としたとき、他方が周期的な相対変位(つまり振動)を生じることである。
【0050】
本実施形態では、振動印加部40は、超音波振動の印加により、ステージ10および加圧治具20の少なくとも一方である加振対象を共振振動させるように構成されている。本実施形態では、超音波振動の印加により、ステージ10が共振振動する。ここで、振動印加部40は、振動子41および振動伝達部材42の共振によって、所定の共振周波数の超音波振動を発生する。この振動印加部40の共振周波数は、上記ステージ10の共振周波数fcと略一致するように設定されている。言い換えると、振動印加部40の共振周波数と略一致する共振周波数fcを有するようにステージ10が設計されている。なお、加圧治具20の共振周波数は、ステージ10の共振周波数fcとは異なる。
【0051】
図4は、振動印加部40(振動子41)への入力電力(横軸)と、ステージ10と加圧治具20との間の相対振幅(縦軸)との関係を示したグラフである。振動印加部40への入力電力は、ステージ10へ印加する加振力の大きさを示す。超音波振動の印加開始直後などの加振力が小さい状態では、ステージ10の振幅が小さく、ステージ10と加圧治具20(および組立体AS)とが一体で振動する。加振力を増大させると、ある値E以上では相対振幅が急激に増大する共振状態となる。つまり、ステージ10が、それまで一体的に振動していた加圧治具20を振り切って、加圧治具20とは別個に振動するようになる。そうすると、加振力の周波数がステージ10の共振周波数fcと略一致するので、共振によりステージ10の振幅が急激に増大する。その結果、ステージ10が共振状態にある状況では、図5の波点線で模式的に示したように、ステージ10の振動モードVm1と、加圧治具20の振動モードVm2とが異なる振動モードとなる。
【0052】
このようにして、振動印加部40からの超音波振動の印加により、ステージ10と加圧治具20とがそれぞれ別個に、Z方向に振動する。その結果、ステージ10と加圧治具20とに挟まれた組立体ASの各被接合部材110の接合面130に衝突が生じて、接合面130に形成されていた酸化皮膜が除去される。これにより、酸化皮膜が除去された接合面130に、溶融したろう材120が密着するよう(いわゆる濡れた状態)になる。
【0053】
なお、加圧状態の組立体ASを所定温度に加熱した状態で、振動印加部40による超音波振動の印加が開始された後、加熱部30は、加熱を停止して炉室31の温度を低下させる。炉室31内の温度が低下することに伴ってろう材120が硬化することにより、被接合部材110の接合が完了する。
【0054】
(組立体のろう付け方法)
次に、図6および図7を参照して、組立体ASのろう付け方法を説明する。組立体ASのろう付け方法は、複数部品からなる組立体ASのろう付け方法である。
【0055】
図6に示すように、組立体ASのろう付け方法は、少なくとも、以下のS1~S4の工程を備える。
S1:複数の被接合部材110の接合面130間にろう材120を介在させた組立体ASを、ステージ10に配置する工程。
S2:ステージ10に配置された組立体ASを加圧治具20によりステージ10に向けて加圧する工程。
S3:加圧状態の組立体ASを、ろう材120を溶融させる所定温度に加熱する工程。
S4:加圧状態の組立体ASを所定温度に加熱した状態で、ステージ10および加圧治具20の少なくとも一方に対して超音波振動を印加する工程。なお、本実施形態では、上記の通り、ステージ10のみに超音波振動を印加する例を示す。
【0056】
まず、組立体ASをステージ10に配置する工程S1において、組立体ASが、炉室31内のステージ10の上面11の所定位置に配置される。そして、加圧する工程S2において、ステージ10上に配置された組立体ASの上に加圧治具20が配置される。この結果、加圧治具20の自重により、組立体ASが所定の加圧力で加圧される。この際、図1に示したように、位置決め部材23が取り付けられることによって、加圧治具20とステージ10とが相対振動可能に連結される。工程S1および工程S2は、上記の通り、炉室31の側面の一部を開放して炉室31内にアクセス可能な状態にすることで実施される。工程S1および工程S2の後、炉室31の側面が閉じられ、炉室31内が加熱可能な状態とされる。
【0057】
組立体ASを加熱する工程S3では、加熱部30によって、組立体ASが加熱される。すなわち、通電により炉室31内のコイル32を発熱させ、炉室31内の温度を上昇させることによって、組立体ASが加熱される。炉室31内は、室温付近から、ろう材120を溶融させる所定温度まで加熱される。図7は、加熱開始からの経過時間(横軸)に伴う炉内温度(縦軸)の制御例を示したグラフである。加熱部30は、加熱開始から時間T1の間に、所定温度tbまで炉内温度を増加させる。加熱部30は、炉内温度が所定温度tbに近付く期間T1aでは、温度変化を小さくし、所定温度tbに対して漸近させてもよい。このため、炉内温度と組立体AS(ろう材120)の温度とは、実質的に等しくなる。加熱部30は、時間T1において、炉内温度を所定温度tbに到達させる。これにより、加熱部30は、組立体AS内のろう材120を半溶融の固液共存状態にする。
【0058】
図6に戻り、超音波振動を印加する工程S4では、振動印加部40によって、ステージ10に対して超音波振動が印加される。すなわち、振動子41に駆動電力を入力することにより、振動子41が振動を発生し、発生した振動が振動伝達部材42を介してステージ10に伝達される。本実施形態では、超音波振動を印加する工程S4において、超音波振動によってステージ10と加圧治具20とを相対振動させることにより、組立体ASを構成する複数の被接合部材110の接合面130における酸化皮膜を除去する。
【0059】
具体的には、振動印加部40は、図7に示したように、時間T1から、所定の時間T2の間に、振動子41に対する入力電力を値E(図4参照)以上となる所定値まで増大させることによって、ステージ10に伝達される加振力を増大させる。これにより、図4に示したように、ステージ10は共振状態となり、ステージ10と加圧治具20との相対振幅が急激に増大する。この結果、相対振動に起因して組立体ASの被接合部材110(被接合部材110同士または被接合部材110とろう材120の心材)が衝突し、接合面130に形成された酸化皮膜が除去される。
【0060】
時間T2は、共振状態が発生するのに要する時間よりも大きい値に設定される。時間T2は、時間T1よりも十分に短い時間である。時間T2は、たとえば数秒から数十秒の範囲である。時間T2は、後述するように、重量当たりの印加エネルギーの大きさなどを考慮して設定されうる。なお、超音波振動を印加する工程S4の間、加熱部30は、組立体AS(炉室31内)を所定温度tbに維持する。時間T2に達すると、振動印加部40は、超音波振動の印加を停止する。
【0061】
図6の例では、組立体ASのろう付け方法は、組立体ASに対する超音波振動の印加および加熱を停止して、組立体ASを非振動状態で冷却する工程S5を備える。図7の時間T2において、振動印加部40が超音波振動の印加を停止するとともに、加熱部30も炉室31内の加熱を停止する。これにより、炉室31内の温度が時間経過に伴って低下し、組立体ASは、非振動状態で冷却される。組立体ASの温度低下に伴って、組立体AS内の溶融していたろう材120が硬化する。これにより、組立体AS内の被接合部材110が硬化したろう材120によって相互に接合される。組立体ASの温度が十分に低下することで、本実施形態のろう付け方法が完了する。
【0062】
(実施例)
ろう付け装置100により本実施形態のろう付け方法を実際に実施した実施例(実験結果)について説明する。
【0063】
〈実験条件〉
図3に示した組立体ASに対するろう付けを行った。加圧治具20は、25[N]の押圧力となるように重量を調整した。ステージ10および加圧治具20の総重量は4.6[kg]である。ステージ10の共振周波数fcは約14.7[kHz]であり、振動印加部40が発生する超音波振動の周波数(すなわち、振動子41および振動伝達部材42の共振周波数)も同一である。
【0064】
〈実験結果1:共振振動〉
まず、非加熱状態で、振動印加部40に対する入力電力を0[W]から増大させ、非共振状態から共振状態への遷移を確認した。複数のレーザー変位計によりステージ10および加圧治具20の各変位を計測し、同一時点におけるステージ10および加圧治具20の変位の差分から、相対振幅を求めた。計測は複数回行った。
【0065】
図8は実験結果1のグラフを示す。グラフの縦軸が相対振動の振幅[μm]を示し、横軸が入力電力[%]を示す。入力電力は、最大値に対するパーセンテージで示している。
【0066】
図8に示すように、実験環境においては、約35[%]未満の入力電力では、ステージ10および加圧治具20の相対振動がごく僅か(5[μm]未満)であり、ステージ10および加圧治具20が概ね一体となって振動(同一周期、同一位相で振動)していることが分かる。入力電力が約35[%]以上になると相対振幅が急激に増大した。相対振動の周波数成分を確認すると、約35[%]以上の入力電力の範囲では、振幅が最大となる周波数成分が、ステージ10の共振周波数fcと一致していた。実験環境では、約35[%]は、約250[W]に相当する。このため、値E=約250[W]以上では、加振対象であるステージ10が、共振状態となり、加圧治具20の振動モードVm2とは異なる振動モードVm1で振動して、大きな相対振動が生じることが分かった。共振状態での相対振幅は、約5[μm]以上となった。
【0067】
これにより、振動印加部40に対する入力電力の制御により、ステージ10を共振させることが可能であり、ステージ10および加圧治具20を約5[μm]以上の振幅で相対振動させることが可能であることが分かった。
【0068】
〈実験結果2:ろう付け品質〉
振動印加部40に対する入力電力を250[W](約35[%])以上とする条件で、組立体ASに対するろう付けを行ったのち、ろう付け後の組立体ASに対する引張試験を行い、破断形態を確認した。ろう付けは、振動印加部40から印加する超音波振動の加振エネルギー(入力電力×印加時間)を異ならせた複数のろう付け条件で実施した。引張試験では、組立体ASの第1部材111と第2部材112とを互いに離れる方向(Z方向)に引っ張り、破断(分離)時点の引張力の大きさを接合強度として算出した。
【0069】
ろう付けにおける温度の時間変化を図9に示す。縦軸が炉内温度[℃]、横軸が加熱開始からの経過時間[sec]である。使用したろう材120が半溶融となる温度として、所定温度tb=580℃を設定し、時間T1=約4800[sec]、時間T2=15[sec]とした。
【0070】
図10は実験結果のグラフを示す。グラフの縦軸が接合強度[N]を示し、横軸が加振エネルギー[J]を示す。図10のグラフには、破断形態に応じて異なるマークでプロットをしている。第1の破断形態(フィン/ろう材)はフィン部材113とろう材120との間の接合箇所が破断した形態である。第2の破断形態(第2部材/ろう材)は、第2部材112とろう材120との間の接合箇所が破断した形態である。第3の破断形態(フィン)は、フィン部材113自体が破断した形態である。なお、第1部材111とろう材120との間の接合箇所が破断する形態も想定されるが、今回の実験においては確認されなかった。
【0071】
上記の破断形態のうち、第3の破断形態で破断に至ったものが、接合品質が高いと評価できる。接合部位での破断ではなく、組立体ASの構成部品(フィン部材113)自体の破断であるため、接合箇所に十分な接合強度が確保されていると評価できるためである。
【0072】
なお、実際には、組立体ASにおいて要求される接合強度が設計仕様として決まるため、ろう付けによる接合強度がその要求接合強度を超えていればよく、必ずしも接合強度が構成部品の破断強度を超える必要はない。
【0073】
図10の実験結果からは、加振エネルギーが約2500[J]以上の範囲で、良好な接合品質である第3の破断形態となる結果が得られた。以上からは、ステージ10と加圧治具20とを相対振動させた状態で、4.6[kg]の総質量に対して2500[J]以上の振動エネルギーを印加することによって、良好なろう付けが可能となる結果が得られた。今回の実験結果からは、組立体AS、ステージ10および加圧治具20の総質量に対して、約550[J/kg]の加振エネルギーが、良好な接合品質を得るために印加すべき加振エネルギー条件の目安となり得る可能性が示された。
【0074】
なお、図示していないが、振動印加部40による振動印加を行わない(加振エネルギーが0[J])条件で、ろう付けを行った場合、接合強度は0[N]となり、接合ができないことが確認された。加振を行わない場合には、溶融したろう材120の濡れが接合面130に形成されないことが確認でき、接合面130における酸化皮膜が破壊されないことに起因すると考えられる。
【0075】
また、以上の実験結果から、本実施形態のろう付け方法により、複数部品からなる複雑構造の組立体ASのろう付けを、大気雰囲気、大気圧下、ノンフラックスのろう材120を用いて実現可能であることが示された。
【0076】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0077】
本実施形態のろう付け装置100およびろう付け方法では、上記のように、加圧状態の組立体ASを所定温度に加熱した状態で、ステージ10と加圧治具20とを相対振動させることにより、複数の被接合部材110の接合面130における酸化皮膜を除去するので、ステージ10と加圧治具20との間の相対振動によって組立体ASを構成する複数の被接合部材110の間で衝突を生じさせることで、接合面130の酸化皮膜を除去することができる。組立体ASの全体が振動するため、複数(多数)の接合箇所があるような比較的大型で複雑な組立体ASの場合でも、それらの接合面130の酸化皮膜を効果的に除去することができる。ろう材120による接合を妨げる酸化皮膜が除去されるので、加熱により溶融したろう材120によって、複数の被接合部材110の間の接合が実現できる。これにより、比較的大型、複雑な組立体ASにおいても適用可能な超音波振動を利用したろう付けが実現される。この結果、超音波振動によって酸化皮膜の除去ができるので、フラックスなしで、比較的大型、複雑な組立体ASのろう付けを実現できる。フラックスは、残差除去が必要になったり、接合可能な材料が限定されたりすることがあるため、フラックスなしでのろう付けは、製造工程の簡略化や材料選定の自由度向上の観点で有用である。
【0078】
また、本実施形態では、上記のように、振動印加部40は、超音波振動の印加により、ステージ10および加圧治具20の少なくとも一方である加振対象を共振振動させるように構成されているので、共振現象を利用することによって、より少ないエネルギーで、接合面130の酸化皮膜を除去するのに有効な大きな振幅の相対振動を効率的に発生させることができる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、組立体ASは、組立体ASの内部に接合面130が配置されるように、複数の被接合部材110を積層した構造を有し、振動印加部40は、複数の被接合部材110が積層された方向に沿った方向の超音波振動を印加するように構成されているので、振動による変位の方向と、複数の被接合部材110が積層された方向(つまり、接合面130同士が向かい合う方向)とを、一致させることができる。これにより、ステージ10と加圧治具20との相対振動に伴って、接合面130を効果的に衝突させることができるので、接合面130の酸化皮膜を効果的に除去することができる。
【0080】
また、本実施形態では、上記のように、加圧治具20は、ステージ10上に配置された組立体AS上に配置され、自重によって組立体ASを加圧するように構成されているので、加圧治具20をステージ10以外の物体に取り付ける場合と比べて、振動の減衰を抑制できるので、ステージ10と加圧治具20との相対振動を容易に発生させることができる。
【0081】
また、本実施形態では、上記のように、加熱部30は、ステージ10、組立体ASおよび加圧治具20を内部に収容する炉室31を有し、炉室31内を加熱するように構成され、かつ、炉室31の一部に開口31aを有し、振動印加部40は、炉室31の外部に配置された振動子41と、振動子41に接続され、開口31aを介して炉室31の内部に挿入される振動伝達部材42とを含むので、ろう材120を溶融させる所定温度に加熱される炉室31の外部に振動子41を配置しながら、振動伝達部材42を介して、炉室31内の加振対象に超音波振動を印加することができる。このため、振動子41が許容されない高温に曝されることが回避できる。たとえば加熱部30の加熱温度(所定温度)が数百℃に達する場合には、炉室31内で振動子41を使用することはできないが、そのような高温条件でも超音波振動を印加することが可能となる。
【0082】
また、本実施形態では、上記のように、加熱部30は、炉室31の下面に開口31aを有し、振動伝達部材42は、炉室31の下方から開口31aを介して炉室31の内部に挿入され、ステージ10の下面12と当接するように構成されているので、ステージ10、組立体ASおよび加圧治具20が炉室31内に配置される場合でも、簡素な構成で、ステージ10に対して超音波振動を印加することができる。
【0083】
また、本実施形態では、上記のように、振動伝達部材42は、組立体ASが配置されたステージ10を支持するように構成されているので、振動伝達部材42が、振動子41で発生した振動をステージ10へ伝達する機能だけでなく、炉室31内でステージ10を支持する機能を果たすようになる。このため、炉室31内にステージ10を支持する構造を別途設ける必要がなく、装置構成を簡素化できる。さらに、振動伝達部材42のみでステージ10を支持する場合には、他の部材との接触によりステージ10の振動を減衰させることがないので、より効率的に、ステージ10を振動させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、上記のように、所定温度は、ろう材120が半溶融して固液共存状態となる温度であるので、相対振動を考慮した適度な流動状態を形成できる。すなわち、ステージ10と加圧治具20との相対振動によって組立体AS内の各部材を衝突させる状況下では、ろう材120を強制的に流動させることが可能であるため、ろう材120が完全な液相となって過度な流動性を得る前の固液共存状態とすることで、相対振動を考慮した適度な流動状態が形成できる。
【0085】
また、本実施形態では、上記のように、加熱部30は、大気雰囲気、大気圧下で、加熱を行うように構成されているので、真空ろう付け法を用いることなく大気雰囲気、大気圧下でろう付けを行うことができる。これにより、比較的大型で複雑な組立体ASのろう付けを行う場合でも、大型の加熱、排気設備を設ける必要がないため、装置構成を簡素化および小型化できる。
【0086】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0087】
たとえば、上記実施形態では、振動印加部40が、ステージ10および加圧治具20のうちステージ10のみに超音波振動を印加する例を示したが、本発明はこれに限られない。本名発明では、振動印加部40が、加圧治具20のみに超音波振動を印加してもよい。振動印加部40は、ステージ10および加圧治具20の両方に振動印加を行ってもよい。この場合、ステージ10に超音波振動を印加する第1の振動印加部と、加圧治具20に超音波振動を印加する第2の振動印加部と、を別々に設けてもよい。ステージ10および加圧治具20の両方に超音波振動を印加する場合、両者に相対振動が生じるように、印加する振動の周波数を互いに異ならせたり、同じ周波数でも位相を異ならせたりしてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、振動印加部40が加振対象(ステージ10)を共振振動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、振動印加部40が加振対象を共振振動させなくてもよい。本発明では、組立体AS内の被接合部材110が衝突することで酸化皮膜を除去できる程度の相対振動がステージ10および加圧治具20の間で発生すればよく、非共振状態で相対振動させてもよい。ただし、図4図8にも示した通り、非共振状態では、共振状態と比べて、同等の相対振幅を得るために必要なエネルギ-(入力電力)が非常に大きくなるので、エネルギー効率や振動印加部40の小型化の観点では、共振振動を利用することが好ましいと言える。
【0089】
また、上記実施形態では、振動印加部40が加振対象(ステージ10)の共振周波数fcと同じ振動数で加振を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。印加する超音波振動の周波数は、加振対象の共振周波数と異なっていてもよい。共振振動を誘発する観点では、超音波振動の周波数は、加振対象の共振周波数の近傍にすることが好ましく、加振対象の共振周波数の整数倍の周波数としてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、組立体ASは、組立体ASの内部に接合面130が配置されるように、複数の被接合部材110を積層した構造を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。上記の構造の組立体ASは、超音波振動を用いた従来手法によるろう付けでは接合困難であり本発明によるろう付け方法が好適なだけであって、本発明によるろう付けは、どのような構造の組立体ASに対しても適用できる。
【0091】
また、上記実施形態では、振動印加部40が、複数の被接合部材110が積層された方向に沿った方向の超音波振動を印加する例を示したが、本発明はこれに限られない。超音波振動の振動方向は、積層された方向以外のどの方向でもよい。ただし、接合面130の衝突を誘発する観点では、積層方向に沿った振動を印加することが効果的である。
【0092】
また、上記実施形態では、加圧治具20が、ステージ10上に配置された組立体AS上に配置され、自重によって組立体ASを加圧するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、加圧治具20が自重以外の手段で組立体ASを加圧してもよい。たとえば、加圧治具20が、ばねなどの弾性部材を利用して組立体ASを加圧してもよい。ただし、弾性部材はステージ10と加圧治具20との相対振動を減衰させる可能性があるので、減衰を低減し、より少ないエネルギーで相対振動を発生させる観点では、加圧治具20の自重を利用することが有用である。
【0093】
また、上記実施形態では、加熱部30は、ステージ10、組立体ASおよび加圧治具20を内部に収容する炉室31を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、加熱部30の構造は特に限定されず、加熱部30が炉室31を有していなくてもよい。加熱部30は、ガス炎により加熱を行うガストーチでもよい。炉室31を有する加熱部30は、燃焼炉、熱風発生器を備えた熱風炉、などでもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、炉室31の一部に開口31aを設け、炉室31の外部に配置された振動子41から、開口31aを介して炉室31の内部に挿入される振動伝達部材42によって、炉室31内の加振対象に超音波振動を印加する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、炉室31内の温度で振動子41が動作可能であれば、振動子41を炉室31内に配置してもよい。また、炉室31内に断熱処理をした振動子41の収容室を設け、収容室に形成した開口を介して振動伝達部材42を加振対象と接触させるようにしてもよい。振動伝達部材42は、振動子41の振動を伝達できればよく、超音波ホーンでなくてもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、振動伝達部材42が、組立体ASが配置されたステージ10を支持する例を示したが、本発明はこれに限られない。振動伝達部材42はステージ10を支持しなくてもよい。たとえばステージ10の下面側に脚部を設けて炉室31の内底面上に載置するか、炉室31の内底面に支持部材を設けてステージ10を支持してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、所定温度は、ろう材120が半溶融して固液共存状態となる温度である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、所定温度は、ろう材120が溶融する温度であればよく、ろう材120が完全な液相になる温度でもよい。所定温度は、たとえば相対振動の振幅と組立体ASの構造(接合面間の隙間へのろう材120の回り込みやすさ)とに応じて、ろう材120が適切な流動性となる温度に設定することができる。
【0097】
また、上記実施形態では、加熱部30が、大気雰囲気、大気圧下で、加熱を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、大気雰囲気以外のガス雰囲気下(たとえば、不活性ガス雰囲気など)で加熱を行ってもよいし、大気圧以外の圧力下で加熱を行ってもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、組立体ASが熱交換器である例を示したが、本発明はこれに限られない。組立体ASはどのような物品であってもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、振動印加部40がランジュバン型振動子を備える例を示したが、本発明はこれに限られない。振動印加部40はどのような構造により超音波振動を発生してもよい。振動子41は、ランジュバン型振動子以外であってもよい。
【0100】
また、上記実施形態において、所定温度、時間(加熱時間、振動印加時間)、入力電力、加振エネルギーなどの具体的な数値は、あくまでも例示であって、本発明はこれらの数値に限定されるものではない。各数値は、組立体ASおよびろう材120の材質(融点)、ステージ10および加圧治具20の総重量などに応じて適宜設定されればよい。
【符号の説明】
【0101】
10 ステージ
12 下面
20 加圧治具
30 加熱部
31 炉室
31a 開口
40 振動印加部
41 振動子
42 振動伝達部材
100 ろう付け装置
110 被接合部材
120 ろう材
130 接合面
AS 組立体
tb 所定温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10